(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149455
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】分離膜の運転方法、分離膜装置および分離膜の運転条件決定プログラム
(51)【国際特許分類】
B01D 65/06 20060101AFI20231005BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20231005BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20231005BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01D65/06
B01D61/14 500
C02F1/44 A
B01D65/02 520
B01D65/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058041
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】羽川 和希
(72)【発明者】
【氏名】濱田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小林 巧
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA01
4D006HA77
4D006HA93
4D006KA31
4D006KA44
4D006KB22
4D006KC02
4D006KC13
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4D006KD15
4D006KD16
4D006KD24
4D006KE02P
4D006KE03P
4D006KE03Q
4D006KE06Q
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB20
4D006PC62
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薬液洗浄と物理洗浄により分離膜のファウリングを抑制しつつ、省エネルギーな運転方法を提供する。
【解決手段】分離膜の運転方法であって、被ろ過液のろ過操作とろ過操作中またはろ過操作を停止した状態で実施する物理洗浄操作とろ過操作を停止した状態で実施する薬液洗浄操作で構成され、分離膜に蓄積する被ろ過液成分量または膜ろ過抵抗の初期値と、初期以降の被処理液成分の経時変化、ろ過条件と物理洗浄条件の経時変化から、初期以降の分離膜に蓄積する被ろ過液成分量または膜ろ過抵抗を算出する被ろ過液の蓄積量算出工程と、蓄積量算出結果に基づき、薬液洗浄における構成成分蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を算出する薬液洗浄回復算出工程と、蓄積量算出結果と薬液洗浄回復結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件決定工程と物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件決定工程を備え、決定された条件に基づき分離膜の運転条件を制御する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被ろ過液をろ過して処理水を得る分離膜の運転方法であって、
運転操作がろ過操作とろ過操作中またはろ過操作を停止した状態で実施する物理洗浄操作とろ過操作を停止した状態で実施する薬液洗浄操作で構成され、
分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗の初期値と、前記初期値の測定時以降の被処理液の構成成分の経時変化および構成成分量の経時変化、分離膜のろ過条件と物理洗浄条件の経時変化から、前記初期値の測定時以降の分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗を算出する被ろ過液の蓄積量算出工程と、
前記蓄積量算出結果に基づき、薬液洗浄における構成成分蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を算出する薬液洗浄回復算出工程と、
前記蓄積量算出結果と薬液洗浄回復結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件決定工程と物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件決定工程を備え、
前記薬液洗浄条件決定工程と前記物理洗浄条件決定工程で決定された条件に基づき分離膜の運転条件を制御する運転条件制御工程を備える
ことを特徴とする分離膜の運転方法。
【請求項2】
前記蓄積量算出結果から、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測する予測工程を備え、
予測工程の算出結果に基づいて到達時期が目標時期となるように前記薬液洗浄条件決定工程において決定された薬液洗浄条件、前記物理洗浄条件決定工程において決定された物理洗浄条件の少なくともいずれかを変更することを特徴とする請求項1に記載の分離膜の運転方法。
【請求項3】
前記予測工程の算出結果から、薬液洗浄条件が規定値内となるよう前記薬液洗浄条件決定工程により薬液洗浄条件を決定し、
次いで薬液洗浄条件変更後の条件に基づき前記被ろ過液の蓄積量算出工程、薬液洗浄回復算出工程により、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測し、到達時期が目標時期となるように前記物理洗浄条件決定工程において決定された物理洗浄条件に運転条件を変更することを特徴とする請求項2に記載の分離膜の運転方法。
【請求項4】
前記予測工程の算出結果において、予測した蓄積量または膜ろ過抵抗の値の上昇が大きく、到達時期が目標時期より短い場合、
到達時期が目標時期となるように前記薬液洗浄条件決定工程において薬液洗浄条件を決定し、前記薬液洗浄条件決定工程で決定された薬液洗浄条件が設定上限値かつ到達時期が目標時期と一致しない場合、
次いで薬液洗浄条件変更後の条件に基づき前記被ろ過液の蓄積量算出工程、薬液洗浄回復算出工程により、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測し、到達時期が目標時期となるように前記物理洗浄条件決定工程において決定された物理洗浄条件に運転条件を変更することを特徴とする請求項2または3記載の分離膜の運転方法。
【請求項5】
前記予測工程の算出結果において、予測した蓄積量または膜ろ過抵抗の値の上昇が大きく、到達時期が目標時期より長い場合、
到達時期が目標時期となるように前記物理洗浄条件決定工程において、前記物理洗浄条件を決定し、前記物理洗浄条件決定工程で決定された物理洗浄条件が設定下限値かつ到達時期が目標時期と一致しない場合、
次いで物理洗浄条件変更後の条件に基づき前記被ろ過液の蓄積量算出工程、薬液洗浄回復算出工程により、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測し、到達時期が目標時期となるように前記薬液洗浄条件決定工程において決定された薬液洗浄条件に運転条件を変更することを特徴とする請求項2または3記載の分離膜の運転方法。
【請求項6】
前記薬液洗浄条件決定工程で決定された薬液洗浄条件に基づき、前記分離膜の薬液洗浄に関わる薬液洗浄コストを計算する薬液洗浄コスト計算部と、前記物理洗浄決定工程で決定された物理洗浄条件に基づき、前記分離膜の運転に関わる動力コストを計算する動力コスト計算部と、前記薬品コスト計算部と前記動力コスト計算部から前記分離膜の運転に関わる運転コストを計算する運転コスト計算部とを備え、
前記運転コスト計算部で計算される運転コストに基づいて、前記分離膜の運転条件決定工程で決定された運転条件のうち、低コストで洗浄可能な運転条件を選択する最適運転条件決定工程を備える事を特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項7】
前記薬液洗浄条件決定工程において、決定する条件が薬液洗浄における洗浄流量、洗浄時間、浸漬時間、薬液濃度、洗浄間隔、薬液温度、薬液の種類の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項8】
前記物理洗浄条件決定工程において、決定する前記物理洗浄条件がエア流量、逆液洗浄流量、洗浄時間の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項9】
前記分離膜が精密ろ過膜または限外ろ過膜である請求項1~8のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項10】
前記被ろ過液が活性汚泥または微生物培養液である請求項1~9のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項11】
被ろ過水をろ過してろ過水を得る分離膜装置であって、分離膜に蓄積した前記被ろ過液の構成成分量の初期値を取得する初期値取得手段と、
前記被ろ過液の構成成分の性状の時系列的変化データおよび前記構成成分量の時系列的変化データ、および前記分離膜の運転条件の時系列的変化を表すデータを取得するデータ取得手段と、
前記初期値の測定時以降の前記分離膜に蓄積する前記被ろ過液の蓄積量を算出する算出手段と、前記算出手段で得られた結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件決定手段と、
前記算出手段で得られた結果に基づいて物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件決定手段とを有し、前記薬液洗浄条件決定手段および/または前記物理洗浄条件決定手段で決定した洗浄条件に基づいて自動で洗浄を実施することを特徴とする分離膜装置。
【請求項12】
被ろ過水をろ過して処理水を得る分離膜の薬液洗浄条件を決定するためにコンピュータに、分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量の初期値を取得するステップと、
前記初期値の測定時以降の被ろ過液の構成成分の性状および構成成分量の時系列的変化を表すデータ、および分離膜の運転条件の時系列的変化を表すデータを取得するステップと、
前記初期値の測定時以降の分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の蓄積量または膜ろ過抵抗をそれぞれ積算して算出するステップと、
前記蓄積量算出結果に基づき、薬液洗浄における構成成分蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を算出するステップと、
前記算出結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件を決定するステップと、
前記算出結果に基づいて物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件を決定するステップを実行させることを特徴とする分離膜の運転条件決定プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の運転条件決定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いて河川水・湖水・海水などの自然水や下廃水・工業排水を処理する分離膜の運転方法、分離膜装置および分離膜の運転条件決定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜分離法は、省エネルギー・スペース、およびろ過水質向上等の特長を有するため、様々な分野での使用が拡大している。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜の河川水や地下水や下水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへの適用や、食品工業分野での製造プロセスへの適用、逆浸透膜やナノろ過膜の海水淡水化プロセスへの適用があげられる。
例えば、下水や産業廃水を処理する際に用いられる膜分離活性汚泥法は、生物反応槽内で、生物処理を行い、反応槽内に浸漬させたろ過膜等を用いて活性汚泥を固液分離し、清澄な処理水を得る処理方法である。このような膜分離活性汚泥法では、活性汚泥自体や反応槽に流入する被処理液中の夾雑物などの固形分が分離膜表面に付着し、付着した物質により膜間差圧が上昇(ファウリング)するため、分離膜のろ過方法とは逆方向にろ過水あるいは清澄水を圧力で押し込み、分離膜表面や膜細孔内に付着していた汚染物質を排除する逆圧洗浄(逆洗)やろ過膜の下部に、設置した散気装置によって空気等を散気し、気泡および上昇流により分離膜表面の付着物の付着を抑制する空気洗浄などの物理洗浄を行う。このように膜面を物理的に洗浄しながらろ過を行うものの、連続運転下では、膜の目詰まりの進行を長期間、十分に抑えることは難しい。そのため、膜間差圧または膜ろ過抵抗が上昇したタイミング、あるいは一定期間膜モジュールを運転した後のタイミングなどに、薬液を用いて化学的に膜を洗浄し、膜の透水性能を回復させる操作、即ち薬液洗浄が行われる。よって膜分離活性汚泥法の安定運転のためには、適切な薬液洗浄で膜間差圧を回復させることが重要となる。一方、膜分離活性汚泥法では散気による動力コストが運転コストの約半分を占めており、分離膜への付着物の付着を抑制しながら散気量を削減することが重要な課題となっている。
【0003】
上記課題を解決するために、特許文献1では、分離膜の膜間差圧または膜ろ過抵抗の測定値と測定時以降の膜間差圧または膜ろ過抵抗の目標値と水温、MLSS濃度、循環ポンプ流量、汚泥溶存酸素濃度などをパラメータとして算出される測定時以降の膜間差圧または膜ろ過抵抗の予測値に基づき、散気装置から供給される空気の量を制御することにより散気に要する動力コストを抑制する方法が開示されている。
また、特許文献2には膜分離装置の膜間差圧に基づき散気装置から供給される空気量を目標値となるよう制御し、空気量を増加する場合の目標値の保持時間または空気量の変化量が、空気量を減少する場合の保持時間または空気量の変化量よりも大きく設定することで洗浄効果の急激な低下を回避しながら動力コストを抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-018940号公報
【特許文献2】特開2013-202472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載されたような膜間差圧や膜ろ過抵抗に基づく散気装置からの空気量の制御方法は動力コストが削減できるケースがある一方で、特に運転継続に伴い散気装置からの空気の供給による洗浄では除去しきれない膜細孔内の目詰まりや膜表面への付着物の蓄積が進行した場合には膜間差圧や膜ろ過抵抗は指数関数的に上昇し、その際に空気量を増加させる方向に制御がおこなわれるため動力コストは抑制できない。
【0006】
そこで本発明では薬液による薬液洗浄と物理洗浄により分離膜のファウリングを抑制しつつ、散気装置からの空気量を抑制することにより安定運転かつ省エネルギー化を図りながら運転する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)被ろ過液をろ過して処理水を得る分離膜の運転方法であって、運転操作がろ過操作とろ過操作中またはろ過操作を停止した状態で実施する物理洗浄操作とろ過操作を停止した状態で実施する薬液洗浄操作で構成され、分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗の初期値と、前記初期値の測定時以降の被処理液の構成成分の経時変化および構成成分量の経時変化、分離膜のろ過条件と物理洗浄条件の経時変化から、前記初期値の測定時以降の分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗を算出する被ろ過液の蓄積量算出工程と、前記蓄積量算出結果に基づき、薬液洗浄における構成成分蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を算出する薬液洗浄回復算出工程と、前記蓄積量算出結果と薬液洗浄回復結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件決定工程と物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件決定工程を備え、前記薬液洗浄条件決定工程と前記物理洗浄条件決定工程で決定された条件に基づき分離膜の運転条件を制御する運転条件制御工程を備えることを特徴とする分離膜の運転方法。
(2)前記蓄積量算出結果から、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測する予測工程を備え、予測工程の算出結果に基づいて到達時期が目標時期となるように前記薬液洗浄条件決定工程において決定された薬液洗浄条件、前記物理洗浄条件決定工程において決定された物理洗浄条件の少なくともいずれかを変更することを特徴とする(1)に記載の分離膜の運転方法。
(3)前記予測工程の算出結果から、薬液洗浄条件が規定値内となるよう前記薬液洗浄条件決定工程により薬液洗浄条件を決定し、次いで薬液洗浄条件変更後の条件に基づき前記被ろ過液の蓄積量算出工程、薬液洗浄回復算出工程により、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測し、到達時期が目標時期となるように前記物理洗浄条件決定工程において決定された物理洗浄条件に運転条件を変更することを特徴とする(2)に記載の分離膜の運転方法。
(4)前記予測工程の算出結果において、予測した蓄積量または膜ろ過抵抗の値の上昇が大きく、到達時期が目標時期より短い場合、到達時期が目標時期となるように前記薬液洗浄条件決定工程において薬液洗浄条件を決定し、前記薬液洗浄条件決定工程で決定された薬液洗浄条件が設定上限値かつ到達時期が目標時期と一致しない場合、次いで薬液洗浄条件変更後の条件に基づき前記被ろ過液の蓄積量算出工程、薬液洗浄回復算出工程により、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測し、到達時期が目標時期となるように前記物理洗浄条件決定工程において決定された物理洗浄条件に運転条件を変更することを特徴とする(2)または(3)記載の分離膜の運転方法。
(5)前記予測工程の算出結果において、予測した蓄積量または膜ろ過抵抗の値の上昇が大きく、到達時期が目標時期より長い場合、到達時期が目標時期となるように前記物理洗浄条件決定工程において、前記物理洗浄条件を決定し、前記物理洗浄条件決定工程で決定された物理洗浄条件が設定下限値かつ到達時期が目標時期と一致しない場合、次いで物理洗浄条件変更後の条件に基づき前記被ろ過液の蓄積量算出工程、薬液洗浄回復算出工程により、蓄積量または膜ろ過抵抗の値が設定値に到達する時期を予測し、到達時期が目標時期となるように前記薬液洗浄条件決定工程において決定された薬液洗浄条件に運転条件を変更することを特徴とする(2)または(3)記載の分離膜の運転方法。
(6)前記薬液洗浄条件決定工程で決定された薬液洗浄条件に基づき、前記分離膜の薬液洗浄に関わる薬液洗浄コストを計算する薬液洗浄コスト計算部と、前記物理洗浄決定工程で決定された物理洗浄条件に基づき、前記分離膜の運転に関わる動力コストを計算する動力コスト計算部と、前記薬品コスト計算部と前記動力コスト計算部から前記分離膜の運転に関わる運転コストを計算する運転コスト計算部とを備え、前記運転コスト計算部で計算される運転コストに基づいて、前記分離膜の運転条件決定工程で決定された運転条件のうち、低コストで洗浄可能な運転条件を選択する最適運転条件決定工程を備える事を特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
(7)前記薬液洗浄条件決定工程において、決定する条件が薬液洗浄における洗浄流量、洗浄時間、浸漬時間、薬液濃度、洗浄間隔、薬液温度、薬液の種類の少なくともいずれかであることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
(8)前記物理洗浄条件決定工程において、決定する前記物理洗浄条件がエア流量、逆液洗浄流量、洗浄時間の少なくともいずれかであることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
(9)前記分離膜が精密ろ過膜または限外ろ過膜である(1)~(8)のいずれかに記載の分離膜の薬液洗浄方法。
(10)前記被ろ過液が活性汚泥または微生物培養液である(1)~(9)のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
(11)被ろ過水をろ過してろ過水を得る分離膜装置であって、分離膜に蓄積した前記被ろ過液の構成成分量の初期値を取得する初期値取得手段と、前記被ろ過液の構成成分の性状の時系列的変化データおよび前記構成成分量の時系列的変化データ、および前記分離膜の運転条件の時系列的変化を表すデータを取得するデータ取得手段と、前記初期値の測定時以降の前記分離膜に蓄積する前記被ろ過液の蓄積量を算出する算出手段と、前記算出手段で得られた結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件決定手段と、前記算出手段で得られた結果に基づいて物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件決定手段とを有し、前記薬液洗浄条件決定手段および/または前記物理洗浄条件決定手段で決定した洗浄条件に基づいて自動で洗浄を実施することを特徴とする分離膜装置。
(12)被ろ過水をろ過して処理水を得る分離膜の薬液洗浄条件を決定するためにコンピュータに、分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量の初期値を取得するステップと、前記初期値の測定時以降の被ろ過液の構成成分の性状および構成成分量の時系列的変化を表すデータ、および分離膜の運転条件の時系列的変化を表すデータを取得するステップと、前記初期値の測定時以降の分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の蓄積量または膜ろ過抵抗をそれぞれ積算して算出するステップと、前記蓄積量算出結果に基づき、薬液洗浄における構成成分蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を算出するステップと、前記算出結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件を決定するステップと前記算出結果に基づいて物理洗浄条件を決定する物理洗浄条件を決定するステップを実行させることを特徴とする分離膜の運転条件決定プログラム。
(13)(12)に記載の運転条件決定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の膜分離装置の運転方法および膜分離装置によれば、分離膜への被処理蓄積量または膜ろ過抵抗に基づき薬液洗浄および物理洗浄を実施することで効率的に分離膜表面の蓄積物の除去を行うことで、低コストで処理水を長期にわたり安定に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明が適用される膜分離装置の一例を示す装置概略フロー図である。
【
図2】本発明が適用される膜分離装置の別の一例を示す装置概略フロー図である。
【
図3】本発明が適用される分離膜のファウリングの概念図である。
【
図4】本発明の予測方法のフローチャートの一例である。
【
図5】本発明の予測方法のフローチャートの他の一例である。
【
図6】本発明によって算出したファウリング抵抗の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第1実施形態の洗浄条件決定方法のフローチャートの一例である。
【
図8】本発明の第2実施形態の洗浄条件決定方法のフローチャートの一例である。
【
図9】本発明の第3実施形態の洗浄条件決定方法のフローチャートの一例である。
【
図10】本発明の第4実施形態の洗浄条件決定方法のフローチャートの一例である。
【
図11】本発明の第5実施形態の洗浄条件決定方法のフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に示す実施態様に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
本発明の分離膜の運転方法は、分離膜の被ろ過液側と透過液側の圧力差(以下、膜間差圧という)を駆動力として、被ろ過液を分離膜によってろ過した際のファウリング量を算出し、その算出結果に基づいて物理洗浄条件および薬液洗浄条件を決定する方法に関するものである。このような本発明が適用される膜分離装置には、例えば、
図1に示すように、浸漬型膜分離ユニット2が設けられる。本形態では、被ろ過液を浸漬型膜分離ユニット2でろ過するために、浸漬型膜分離ユニット2とろ過液貯留槽5との間にポンプ等を設けていてもかまわないし、水頭圧力差を駆動力としてろ過をするため、ろ過液貯留槽5内のろ過液面が、被ろ過液槽3内の液面よりも低くなるようにしていてもよい。なお、
図1においては、吸引ポンプ11によるろ過操作を実施している。ろ過操作のろ過時間は原液の性質や膜ろ過流束に応じて適宜設定するのが好ましいが、所定の膜ろ過差圧に到達するまでろ過時間を継続させてもよい。ろ過操作中またはろ過操作完了後にエアブロワー7により空気等を散気し、気泡および上昇流により分離膜表面の付着物の付着を抑制する空気洗浄を実施する。
また、本発明の膜分離装置の運転方法が適用される膜分離装置として、別の例では、例えば、
図2に示すように、被ろ過水を供給する被ろ過液供給ポンプ1と、被ろ過液をろ過する分離膜モジュール12と、ろ過液を貯留するろ過液貯留槽5と、ろ過液を分離膜モジュール12に供給して逆液洗浄する逆液洗浄ポンプ14と、被ろ過水あるいは分離膜モジュールに薬液を供給する薬液供給ポンプ13と、薬液を貯留する薬液貯留槽6と、分離膜モジュール12の空気洗浄の空気供給源であるエアブロワー7と、被ろ過液流量計8とろ過液流量計9と空気流量計10が設けられている。
被ろ過液は、懸濁物質を含有する液体であって膜ろ過に供されるものであり、特に限定しないが、例えば、微生物を含む液体の場合には、一般的に被ろ過液の中には物質としての微生物と微生物の代謝産物が比較的高濃度で存在するため、被ろ過液を膜ろ過した際のファウリングを算出することが困難である。しかし、本発明では、このような場合でもファウリング量を精度良く算出することができるため、微生物培養液や活性汚泥などの微生物を含む液体を被ろ過液とする場合に本発明は特に有効である。また、本発明は、懸濁物質の濃度が100mg/L以上の被ろ過液の場合への適用が好ましい。膜ろ過方式に関しては、被ろ過液を濃縮しながら膜ろ過を行う全量ろ過方式でも、膜表面において被ろ過液の流れを発生させながら膜ろ過を行うクロスフロー式でも構わない。また、他の方法ではファウリング量を算出することが困難であるろ過と同時または間欠的に分離膜の表面の洗浄を行いながらろ過する場合も、本発明では精度良く算出することができ、好適である。
【0011】
また、分離膜とは、被ろ過液に圧力を加えて、もしくは透過側から吸引することによって、被ろ過液中に含まれる一定粒子径以上の物質を捕捉する機能を有するものであり、その捕捉粒子径の違いにより、ダイナミックろ過膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがある。本発明で用いられる分離膜としては、好ましくは、精密ろ過膜、限外ろ過膜である。また、分離膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜、モノリス膜等があるが、形状は特に限定しない。なお、
図1においては、平膜を用いた分離膜装置、
図2は中空糸膜を用いた分離膜装置を示している。
【0012】
本発明の運転方法では、分離膜に蓄積する被ろ過液の構成成分量の初期値と、初期値の設定時以降の被処理液の構成成分の経時変化および構成成分量の経時変化、分離膜の運転条件の経時変化から、初期値の設定時以降の分離膜に蓄積する構成成分量または膜ろ過抵抗を算出し、算出結果に基づいて物理洗浄条件および薬液洗浄条件を決定することを特徴とする。
被ろ過液の構成成分による分離膜のファウリングは、
図3に示すように、膜の細孔内に入り込んだ細孔径よりも小さい被ろ過液中の構成成分による細孔閉塞16と、分離膜の表面に付着した被ろ過液中の構成成分によるケークに分けることが可能である。また、規定した物理洗浄条件で除去可能な被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗量と規定した物理洗浄条件で除去不可能な被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗量とに細分化して区別すると、よりファウリング状態を把握できるため好ましい。すなわち、ケーク量およびケーク抵抗を剥離可能ケーク17と非剥離ケーク18に区別して算出するのが好ましい。分離膜の表面に付着している剥離可能ケーク17は加えられる圧力によって圧密化し、非剥離ケーク18に変換する。ここで、規定した物理洗浄条件とは、限定はしないが、非剥離ケーク形成時の物理洗浄条件であることが好ましく、物理洗浄条件が変動した場合はその平均値を用いることが好ましい。
本発明では、任意の時刻において分離膜表面に付着しているケーク量を算出する計算ステップ1a、および細孔閉塞量の所定時間内における変化量を算出する計算ステップ1bと、分離膜表面に付着しているケークの圧密度および非剥離ケークの所定時間内における変化量を算出する計算ステップ1cのうち少なくともいずれかのステップと、任意の時刻における膜ろ過抵抗値を算出する計算ステップ2、および/または分離膜が膜ろ過流量(流束)を設定値に制御しつつ膜ろ過を継続する場合は、任意の時刻における膜間差圧値を算出する計算ステップ3、分離膜が膜間差圧値を設定値に制御しつつ膜ろ過を継続する場合は、任意の時刻における膜ろ過流量(流束)値を算出する計算ステップ4とを行うことで被ろ過液の蓄積量を算出する。それぞれのステップにおける算出方法は後述するが、上記計算ステップにより、任意の時刻におけるケークおよび細孔閉塞の量または膜ろ過抵抗をそれぞれ算出する。算出した結果に基づき物理洗浄条件および/または薬液洗浄条件を決定することで、ファウリング状況に応じた適切な物理洗浄条件および/または薬液洗浄条件を決定することが可能である。
評価条件は特に限定しないが、膜ろ過流量を設定値として制御しつつ膜ろ過を継続した際のファウリング量、または膜間差圧を設定値として制御しつつ膜ろ過を継続した際のファウリング量を算出するのに用いるのが好ましい。
【0013】
ここにおいて、膜間差圧とは、分離膜の被ろ過液側と透過液側との圧力差であり、これを発生させる手段として、例えば、ポンプにより被ろ過液側を加圧させる方法、ポンプにより透過液側から吸引する方法、被ろ過液側と透過液側の水頭差を利用する方法が挙げられる。また膜間差圧は、分離膜の被ろ過液側における圧力測定値と透過液側における圧力測定値との差として実測するのが一般的であり、このときには、水理的な流れによって発生する圧力損失を測定もしくは算出し、前記分離膜の被ろ過液側における圧力測定値と透過液側における圧力測定値との差から、圧力損失分を減じて算出することが好ましい。また、膜分離活性汚泥法において、ポンプにより透過液側から吸引する方法では、一般的に透過液側におけるろ過時の圧力測定値と停止時の圧力測定値との差として実測するのが一般的である。
【0014】
また、膜ろ過流量とは、膜ろ過液の流量のことであり、膜ろ過流束とは、分離膜の単位面積あたりの膜ろ過流量のことである。
また、膜ろ過抵抗とは、被ろ過液を膜によってろ過する際に発生する抵抗のことであり、一般的に、(1)式によって定義される。
【0015】
【0016】
ここで、ΔPは膜間差圧[Pa]、μは膜ろ過液の粘度[Pa・s]、Rは膜ろ過抵抗
[1/m]、Jは膜ろ過流束[m/s]である。
【0017】
ここで、μは膜ろ過液の粘度を直接測定してもよいが、膜ろ過液が水、あるいは若干の溶質等を含む水性液の場合には、(2)式に従い、温度から換算してもよい。
【0018】
【0019】
ここで、F=0.01257187、B=-0.005806436、C=0.001130911、D=-0.000005723952であり、Tは絶対温度[K]である。すなわち、摂氏温度をσ[℃]とすると、T=σ+273.15として表される。
膜ろ過抵抗の初期値とは、本発明によって分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗をそれぞれ積算して算出を開始する際の膜ろ過抵抗値であり、薬液洗浄直後における膜ろ過抵抗値であることが好ましい。また、純水を分離膜へ透過させたときの膜ろ過抵抗値や分離膜洗浄後における膜ろ過抵抗値などを実測した値でもよいし、分離膜の種類に基づく仮想値でもよい。
また、被ろ過液の構成成分量とは、被ろ過液の構成成分中に含まれる溶解物質や懸濁物質などの物質量のことであり、例えば、全有機炭素量(TOC)、化学的酸素要求量(COD)、生物化学的酸素要求量(BOD)、浮遊固形物濃度(SS)、乾燥重量、浮遊固形物強熱減量(VSS)などによって測定することができる。被ろ過液の構成成分量値は実測値でも仮想値でもよい。また、被ろ過液の構成成分量値もしくは被ろ過液の構成成分量値の時間変化をIWA活性汚泥モデルなど、既存のシミュレーションモデルを用いて予測してもよい。
また、膜ろ過流量(流束)の設定値とは、膜ろ過流量あるいは膜ろ過流束の設定値であり、実測値でも規定値でもよく、一定値でも、連続的あるいは断続的に変化する値としてもよい。 また、膜間差圧の設定値とは、膜間差圧の設定値であり、実測値でも仮想値でもよく、一定値でも、連続的あるいは断続的に変化する値としてもよい。
【0020】
ここで被ろ過液の性状は、例えば、粘度や濁度、pH、活性汚泥沈殿率(SV)などによって表されるが、本発明においては、被ろ過液の膜ろ過性を表す膜ろ過性パラメータを用いることが好ましい。
【0021】
本発明の分離膜表面および分離膜細孔内に蓄積する被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗をそれぞれ積算して算出する算出方法を具体的に以下に説明するが、本発明はこの算出方法のみに限定されるものではない。
膜ろ過流量を設定値に制御しつつ膜ろ過を継続する際には、少なくとも後述の計算ステップ1a、および計算ステップ1bと計算ステップ1cのうち少なくともいずれかのステップと計算ステップ2および/または計算ステップ3とを行うことにより、任意の時刻における膜ろ過抵抗値および/または膜間差圧値を求める。
即ち、膜ろ過流量を設定値に制御しつつ膜ろ過を継続する際における膜ろ過予測の計算ステップの構成として、下記の9通りがあるということを意味する。
(a1)後述する計算ステップ1a、計算ステップ1b、計算ステップ2および計算ステップ3
(a2)後述の計算ステップ1a、計算ステップ1c、計算ステップ2および計算ステップ3
(a3)後述の計算ステップ1a、計算ステップ1b、計算ステップ1c、計算ステップ2および計算ステップ3
(b1)後述する計算ステップ1a、計算ステップ1bおよび計算ステップ2
(b2)後述の計算ステップ1a、計算ステップ1cおよび計算ステップ2
(b3)後述の計算ステップ1a、計算ステップ1b、計算ステップ1cおよび計算ステップ2
(c1)後述する計算ステップ1a、計算ステップ1bおよび計算ステップ3
(c2)後述の計算ステップ1aおよび計算ステップ1cおよび計算ステップ3
(c3)後述の計算ステップ1a、計算ステップ1b、計算ステップ1cおよび計算ステップ3
ここにおいて、(a3)の場合(
図4参照)には、任意の時刻における膜ろ過抵抗値および膜間差圧値を求めることができる。(b3)の場合には、任意の時刻における膜ろ過抵抗値を求めることができる。また、(c3)の場合には、任意の時刻における膜間差圧値を、求めることができる。
ここで、計算ステップ1aでは、任意の時刻において分離膜表面に付着している構成成分量(ケーク)量を算出する。
ここにおいて、計算ステップ1aは、分離膜表面に付着しているケーク量の、所定時間内における変化量を算出する計算ステップであって、計算ステップ1aにおける計算式が、ケークが分離膜表面に付着する速度の項と、分離膜表面に付着しているケークが分離膜表面から剥離する速度の項とを含み、前記分離膜表面に付着する速度は、膜間差圧値もしくは膜ろ過流量(流束)値と、ケーク量および/または膜洗浄力値とを用いて算出され、かつ、前記分離膜表面から剥離する速度は、膜間差圧値若しくは膜ろ過流量(流束)値と、分離膜表面に付着しているケーク量、および/または、ケークの圧密度とを用いて算出されることが好ましい。これによって、任意の時刻における分離膜表面に付着しているケーク量を、精度良く予測することができる。
ここで、「分離膜表面に付着しているケークの圧密度」とは、分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力によって圧密する度合のことである。この圧密度を用いて、分離膜表面に付着しているケーク量を計算することにより、より精度良く分離膜表面に付着しているケーク量を予測することができる。
また、十分にケークが圧密化されている場合、分離膜表面に付着しているケークは曝気による洗浄によって分離膜表面から剥離されない。この十分に圧密化されたケークを非剥離ケークと定義し、圧密度の代わりに、ケークと非剥離ケークを用いても精度よく分離膜表面に付着しているケーク量を算出することができる。
また、分離膜表面に付着しているケークが膜表面から剥離する速度を求める式が、膜洗浄力値に基づく項を含むことがさらに好ましい。ここで、膜洗浄力とは、分離膜表面に付着している物質を剥離させるための応力であり、当該膜洗浄力の値は、膜表面に発生する剪断力の値、膜表面の被ろ過液の流速の値、前記剪断力や前記流速に基づいて算出された値、あるいは、洗浄手段の動力値(洗浄手段の動力値とは、例えば、分離膜の洗浄を分離膜の下部から曝気することによって行うときには、曝気風量やエアブロアの出力値などである。)などに基づいて算出された値とすることが好ましく、また、膜洗浄力の値を、実際に膜ろ過テストを行った結果から算出・推定してもよい。このことにより、分離膜表面に付着しているケークが分離膜表面から剥離する速度を決定する要素として、曝気などの分離膜の性能に依存しない要素を加えることができ、これにより膜ろ過装置の運転条件を反映しやすくなる。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(3)~(5)式があり、本発明においては、(3)~(5)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(3)~(5)式に限定されるものではない。
【0022】
【0023】
ただし、(1-Kτ1・τ)≧0、(τ-Kτ2・ΔP)≧0である。
ここで、Xcは単位膜面積あたりの分離膜表面に付着したケーク量[gC/m2]、tは時間[s]、Xは膜分離槽のSS[gC/m3]、Jは膜ろ過流束[m/d]、Kτ1は膜洗浄力阻害係数[-]、γはケーク剥離係数[1/m/s]、τは膜洗浄力値[-]、Kτ2はケーク摩擦係数[1/Pa]、ΔPは膜間差圧[Pa]、ηは被ろ過液の構成成分の密度の逆数[m3/gC]、Dmaxは最大圧密度[-](通常は1となる)、Dは圧密度[-]、Xc、resは被剥離ケーク量[gC/m2]である。また「gC」は炭素重量を表す。ここで、(3)~(5)式の右辺の第1項は、ケークが分離膜表面に付着する速度、および、第2項は、ケークが分離膜表面から剥離する速度を示している。また、膜洗浄力値τを、曝気風量やエアブロアの出力値の関数として表現した場合には、その関数をτに代入することによって、(3)~(5)式を膜洗浄力値ではなく曝気風量やエアブロアの出力値に関する計算式に変換することが可能である。
また、前記のように、分離膜表面に付着しているケークの変化量を、前記ケークが分離膜に付着する速度と剥離する速度との差として表現される計算式に基づく場合、分離膜に付着したケーク量に関する微分方程式として表現することができるが、そのとき、この微分方程式を解く積分方法として、Euler法や、Runge-Kutta法や、Runge-Kutta-Gill(RKG)法などがある。
また、計算ステップ1bでは、任意の時刻において分離膜細孔内に存在している被ろ過液の構成成分由来の物質量(細孔閉塞量)を算出する。
ここにおいて、計算ステップ1bは、細孔閉塞量の所定時間内における変化量を算出する計算ステップであって、前記変化量の値が、膜間差圧値および/または膜ろ過流量(流束)および/または分離膜表面に付着しているケーク量値および/または細孔閉塞量の値に基づいて算出されることが好ましい。これによって、任意の時刻における細孔閉塞量を、精度良く予測することができる。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(6)~(9)式があり、本発明においては、(6)~(9)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(6)~(9)式に限定されるものではない。
【0024】
【0025】
ここで、Xfは細孔閉塞量[gC/m2]、ψは分離膜細孔内への物質移動速度係数[gC/m2/Pa/s]、εは分離膜細孔内への物質移動阻害係数[m4/gC2]、Kfも分離膜細孔内への物質移動阻害係数[gC2/3/m4/3]、λは細孔閉塞速度係数[sm-1・gC1-b/m2+m-2b]、mは細孔閉塞流束依存係数[-]、bは細孔閉塞ケーク依存係数[-]である。
また、計算ステップ1cでは、任意の時刻において分離膜表面に付着しているケークの圧密度を算出する。
ここにおいて、計算ステップ1cにおける計算式は、分離膜表面に付着しているケークの圧密度の所定時間内における変化量を算出する計算ステップであって、前記変化量の値が、分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力、および/または分離膜に付着しているケークの圧密度の値に基づいて算出されることが好ましい。これによって、任意の時刻における分離膜表面に付着しているケークの圧密度を、精度良く予測することができる。ここにおいて、分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力には、ケーク由来の圧力値を用いてもよいし、膜間差圧値を用いてもよい。また、ケークの圧密度の代わりに、非剥離ケークを用いて圧密化を表現してもよい。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(9)式または(10)式があり、本発明においては、(9)または(10)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(9)式または(10)式に限定されるものではない。
【0026】
【0027】
ここで、Dは圧密度[-]、k1は圧密化速度係数[1/(Pa/s)]、Dmaxは最大圧密度[-](通常は1となる)、ΔPcはケークの圧力値[Pa]、kは非剥離ケーク形成速度係数[1/Pan/s]、lは非剥離ケーク圧力依存係数[-]である。
また、計算ステップ2では、計算ステップ1aで求めた分離膜に付着しているケーク量および/または計算ステップ1bで求めた細孔閉塞量および/または計算ステップ1cで求めた分離膜に付着しているケークの圧密度または非剥離ケーク量を用いて、任意の時刻における膜ろ過抵抗値を算出する。
ここにおいて、計算ステップ2では、任意の時刻における膜ろ過抵抗値が分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力の値に基づいて算出されること、および/または、細孔閉塞量の1~2次式の高次式を含むことが好ましい。これにより、任意の時刻における膜ろ過抵抗値をより精度良く予測できる。ここにおいて、分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力には、分離膜表面に付着しているケーク由来の圧力値を用いてもよいし、膜間差圧値を用いてもよい。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(11)~(13)式があり、本発明においては、(11)~(13)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(11)~(13)式に限定されるものではない。
【0028】
【0029】
ここで、Rcは分離膜表面に付着しているケーク由来の膜ろ過抵抗[1/m]、αはケーク抵抗係数[m/gC]、aはケーク圧力依存係数[m/gC/Pa]、Rfは細孔閉塞由来の膜ろ過抵抗[1/m]、βは細孔閉塞ろ過抵抗係数[m2/gC1.5]、Rは膜ろ過抵抗[1/m]、Rmは膜ろ過抵抗の初期値[1/m]である。
また、分離膜表面に付着しているケークが階層構造を形成していると定義し、前記計算ステップ1cが下記の計算ステップ1c-1、計算ステップ1c-2を含むことが好ましい。
(計算ステップ1c-1) 計算ステップ1aにより求めた分離膜に付着しているケーク量に基づいて、任意の時刻における分離膜表面に付着しているケークの層数nを算出する。
(計算ステップ1c-2) 任意の時刻において、分離膜表面に付着している第i層(ここで、iは1~nの任意の自然数であり、第1層が分離膜に最も近く、第n層が分離膜から最も遠いとする。)のケークの圧密度を算出する。
これにより分離膜表面に付着しているケーク量、膜ろ過抵抗値がより精度良く予測することができる。
ここにおいて、計算ステップ1aは、分離膜表面に付着しているケーク量の、所定時間内における変化量を算出する計算ステップであって、計算ステップ1aにおける計算式が、ケークが分離膜表面に付着する速度の項と、分離膜表面に付着しているケークが分離膜表面から剥離する速度の項とを含み、前記分離膜表面に付着する速度は、膜間差圧値若しくは膜ろ過流量(流束)値と、ケーク量および/または膜洗浄力値とを用いて算出され、かつ、前記分離膜表面から剥離する速度は、膜間差圧値若しくは膜ろ過流量(流束)値と、分離膜表面に付着している第1層~第n層のケーク量、および/または第1層~第n層のケークの圧密度とを用いて算出されることが好ましい。これによって、任意の時刻における分離膜表面に付着しているケーク量を、精度良く予測することができる。
また、計算ステップ1aにおいて、分離膜表面に付着しているケークが分離膜表面から剥離する速度を求める式が、分離膜表面に付着している第1層~第n層のケーク量の2次以上の高次関数の項を含むことがさらに好ましい。これによって、任意の時刻における分離膜表面に付着しているケーク量を、さらに精度良く予測することができる。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(14)~(16)式があり、本発明においては、(14)~(16)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(14)~(16)式に限定されるものではない。
【0030】
【0031】
ここで、nは分離膜表面に付着しているケークの階層数[-]、Diは分離膜表面に付着している第i層のケークの圧密度[-]、Xc,iは分離膜表面に付着しているケーク1階層あたりのケーク量[gC/m2]である。
また、計算ステップ1c-2では、任意の時刻において分離膜表面に付着している第i層のケークの圧密度を算出する。
ここにおいて、計算ステップ1cにおける計算式は、分離膜表面に付着している第i層のケークの圧密度の所定時間内における変化量を算出する計算ステップを含み、前記変化量の値が、分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力、および/または分離膜に付着している第i層のケークの圧密度の値に基づいて算出されることが好ましい。これにより、分離膜表面に付着している第i層のケークの圧密度をより精度よく予測できる。ここにおいて、分離膜表面に付着しているケークに加えられる圧力には、分離膜表面に付着しているケーク由来の圧力値を用いてもよいし、膜間差圧値を用いてもよい。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(17)式があり、本発明においては、(17)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(17)式に限定されるものではない。
【0032】
【0033】
また、前記計算ステップ2が、下記計算ステップ2’に代わることが好ましい。これにより、任意の時刻における膜ろ過抵抗値をより精度良く予測できる。
(計算ステップ2’) 計算ステップ1bで求めた細孔閉塞量、および、分離膜表面に付着している第i層のケーク量、および/または計算ステップ1cで求めた分離膜表面に付着している第i層のケークの圧密度に基づいて、時刻t+Δtにおける膜ろ過抵抗値を算出する。
このような条件を満たす数式として、例えば、次の(18)~(20)式があり、本発明においては、(18)~(20)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(18)~(20)式に限定されるものではない。
【0034】
【0035】
ここで、k2は圧密効果定数[-]である。
また、計算ステップ3では、計算ステップ1aで求めた分離膜に付着しているケーク量および/または計算ステップ1bで求めた細孔閉塞量および/または計算ステップ1cで求めた分離膜に付着しているケークの圧密度を用いて、または、計算ステップ2もしくは計算ステップ2’で求めた膜ろ過抵抗値を用いて、任意の時刻における膜間差圧値を算出する。
ここにおいて、膜ろ過予測が前記(c)(即ち、計算ステップ1aおよび/または計算ステップ1bおよび/または計算ステップ1cおよび計算ステップ3)で構成される場合、計算ステップ1aで求めた分離膜に付着しているケーク量および/または計算ステップ1bで求めた細孔閉塞量および/または計算ステップ1cで求めた分離膜に付着しているケークの圧密度を用いて、任意の時刻における膜間差圧値を算出する。その方法として、例えば、前記(18)、(19)式を前記(20)式に代入し、さらに前記(1)式に代入した数式を用いることなどがある。また、膜ろ過予測が前記(a)(即ち、計算ステップ1aおよび/または計算ステップ1bおよび/または計算ステップ1cおよび計算ステップ2および計算ステップ3)で構成される場合、計算ステップ2で求めた膜ろ過抵抗値を用いて、任意の時刻における膜間差圧値を算出する。その方法として、前記(1)式、または、それに基づいた数式を用いて計算することが好ましい。
また、膜間差圧を設定値として制御しつつ膜ろ過を継続した際には、
図5に示すように、計算ステップ3の代わりに計算ステップ4を用いる。計算ステップ4では、計算ステップ1aで求めた分離膜に付着しているケーク量および/または計算ステップ1bで求めた分離膜細孔内に存在する、ケーク量値および/または計算ステップ1cで求めた分離膜に付着しているケーク量の圧密度を用いて、または、計算ステップ2もしくは計算ステップ2’で求めた膜ろ過抵抗値を用いて、任意の時刻における膜ろ過流量(流束)値を算出する。
ここにおいて、膜ろ過予測が前記(f)(即ち、計算ステップ1aおよび/または、計算ステップ1bおよび/または計算ステップ1cおよび計算ステップ4)で構成される場合、計算ステップ1aで求めた分離膜に付着しているケーク量および/または計算ステップ1bで求めた細孔閉塞量値および/または計算ステップ1cで求めた分離膜に付着しているケークの圧密度を用いて、任意の時刻における膜ろ過流量(流束)値を算出する。その方法として、例えば、前記(16)、(17)式を前記(18)式に代入し、さらに前記(1)式に代入した数式を用いることなどがある。また、膜ろ過予測が前記(d)(即ち、計算ステップ1aおよび/または計算ステップ1bおよび/または計算ステップ1cおよび計算ステップ2および計算ステップ4)で構成される場合、計算ステップ2で求めた膜ろ過抵抗値を用いて、任意の時刻における膜ろ過流量(流束)値を算出する。その方法として、前記(1)式、または、それに基づいた数式を用いて計算することが好ましい。
また、本発明では分離膜の表面および細孔内に蓄積する無機物由来の被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗も算出することが好ましい。算出方法は限定しないが、被ろ過液に含まれる無機物量にろ過量と係数を乗じて算出することや、被ろ過液の無機物量と有機物量の比を、ケーク量や細孔閉塞量、またはケーク抵抗や細孔閉塞抵抗に乗じて求めるのが好適である。
本発明の算出に用いる、ろ過流束や被ろ過液のSS、膜ろ過性パラメータ等の被ろ過液の構成成分の性状や量、運転条件の値にはそれぞれの時系列的データを用いる。時系列的データは実測値でも仮想値でもよく、一定値でも、連続的あるいは断続的に変化する値としてもよいが、過去のファウリング量を算出する場合には実測値を用いる事でより精度良く算出することができる。
【0036】
将来的なファウリング量または膜ろ過抵抗を算出する場合には、算出に用いる被ろ過液の構成成分の性状の時系列的変化データおよび構成成分量の時系列的変化データ、および分離膜の運転条件の時系列的変化データについて、それぞれ過去の実測値から時系列変動パターンを予測し、予測した時系列変動パターンを用いることで、精度を向上させることができ好適である。本発明の時系列変動パターンの予測方法に限定はしないが、機械学習/人工知能を用いてもよい。
また、前記計算ステップ1a、前記計算ステップ1b、前記計算ステップ1c、前記計算ステップ2、前記計算ステップ3、及び、前記計算ステップ4では、予め決められた計算式に従って計算するが、それら計算式の中に各計算ステップの説明において記述された値やデータや物質量以外のパラメータが含まれる場合がある。そのような場合、前記各計算ステップにおける計算を行う上でパラメータの値を決定する必要がある。本発明においては、パラメータの値の決定方法は特に限定しないが、膜ろ過装置の分離膜と同じ素材・形状の分離膜を用いて、被ろ過液を実際にろ過し、そのときの膜間差圧の値、膜ろ過流束あるいは膜ろ過流量の値、膜ろ過抵抗の値の変化を実測または算出し、その結果に基づいてパラメータを推定または決定することが好ましい。これは、前記のようなパラメータの中には、利用する被ろ過液と分離膜の性質によって決定される膜ろ過性パラメータが多く含まれており、前記パラメータの推定・決定方法に従うことによって、前記予測を精度良く行うことが可能となるためである。
膜ろ過性パラメータには、ケーク付着速度、ケーク剥離速度、ケーク抵抗、非剥離ケーク形成速度、非剥離ケーク抵抗、分離膜細孔の閉塞の進行速度、分離膜細孔の閉塞による抵抗、の何れかを算出するのに関わるパラメータなどがあげられるが、特に限定されるものではない。
【0037】
膜ろ過性パラメータは、インラインで自動取得可能な方法であれば簡便かつ高頻度で膜ろ過性パラメータを取得でき、膜ろ過性パラメータの時系列的変化データをより詳細に取得できるため好ましい。インラインで自動取得可能な方法として、例えば、光学的手段(光学顕微鏡等)および撮像手段(カメラ等)によって被ろ過液を撮像し、撮像画像を処理して得た画像情報に基づき算出する方法があげられる。
【0038】
本発明では、上記ファウリング量を算出する頻度については限定しないが、被ろ過液の構成成分の性状が安定している時には算出結果に大きな変化は無く、被ろ過液の膜ろ過性が変化した時には算出結果も変化することから、被ろ過液の構成成分の性状が変化したタイミングで上記経時変化を求めることが好ましい。すなわち、前記膜ろ過性パラメータがあらかじめ決めた基準範囲またはあらかじめ決めた変化率の範囲を逸脱した場合に前記ファウリング量を算出することが構成成分の性状の変化に早急に対応でき好ましい。
図6に上記のように予測されたファウリング抵抗算出結果の一例を示す。本発明では、上記算出結果に基づいて物理洗浄条件および/または薬液洗浄条件を決定および制御する。
本発明で決定する物理洗浄とは分離膜の一次側側面において液体と気体の片方もしくは両方を強制的に流すフラッシング操作、分離膜の二次側から一次側に液体を供給する逆液洗浄操作のうち少なくとも一つの分離膜の膜面の洗浄操作であり、決定する物理洗浄条件とはフラッシング操作における気体もしくは液体の流量、時間、洗浄間隔、逆液洗浄操作における液体の流量、時間、洗浄間隔、逆液洗浄操作における供給流量、時間、洗浄間隔の少なくともいずれかである。フラッシング操作に用いる気体は、空気の他、蒸気を用いることも好ましい。また気体は油分やミストを除去したものを用いた方が、油分等が分離膜に付着するリスクが低減するので好適である。フラッシング操作に用いる気体流量は膜モジュール形態によって適宜設定可能であるが、小さすぎると十分な洗浄効果が得られず膜ろ過抵抗の上昇を引き起こし、また大きすぎると膜モジュールの破損や劣化の原因、動力コストも増大することから膜モジュール当たり10~400Nm
3/h程度とすることが好ましい。
逆液洗浄操作は、例えば、逆液洗浄ポンプ4によって分離膜の二次側から分離膜の一次側に処理水を供給する洗浄操作であり、膜表面や膜細孔内に付着していた懸濁物を除去する。供給する液体は処理液および/または清澄液からなり、ろ過流量に応じて、逆液洗浄の送液流量や時間を制御すると効果的である。
フラッシング操作における気体もしくは液体の流量、時間、逆液洗浄操作における液体の流量、時間を大きく、各操作の洗浄間隔を短くする操作の少なくともいずれかを行うことにより物理洗浄強度を上昇し、フラッシング操作における気体もしくは液体の流量、時間、逆液洗浄操作における液体の流量、時間を大きく、各操作の洗浄間隔を短くする操作の少なくともいずれかを行うことにより物理洗浄強度を下降させることができる。
本発明における物理洗浄条件は、ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、到達時期が目標時期となるように条件を決定する。
【0039】
また、本発明で決定する薬液洗浄とは分離膜に薬液を供給し分離膜を洗浄する操作であり、特に、膜分離活性汚泥法など、被ろ過液中に微生物が多く含まれる場合には、膜面で微生物が繁殖、または微生物代謝物が蓄積し、バイオフィルムを形成することで膜間差圧が急上昇する現象が発生することが知られており、膜間差圧が急上昇する前に薬液洗浄を定期的に行うことが効果的である。
【0040】
本発明での薬液の注入方法は限定しないが、
図1に示す浸漬型膜分離ユニットを用いた膜分離装置においては、ろ過運転を停止した後、膜モジュールを被ろ過液に浸漬させた状態で、分離膜の透過側(二次側)から被ろ過液側(一次側)に注入することにより行われることが好ましい。分離膜への薬液接触の方法としては、膜分離槽から膜モジュール全体を取り出して薬液洗浄槽に浸漬する方法や、膜分離槽を空にした後、槽内に薬液を溜めて膜を接触させる方法もあるが、必要な付帯装置が大がかりとなり、経済的ではないためである。
【0041】
薬液は、薬液タンク6に貯蔵され、膜モジュールの透過側に水頭差またはポンプを用いて供給される(地上に薬液貯留タンクを設けて、薬液タンクに薬液を供給する方法でも良い)。ここで洗浄に使用する薬液に関しては、膜のファウリング状況に応じたものを使用すれば良いが、有機物によるファウリングに対しては、次亜塩素酸ナトリウムが、無機物によるファウリングに対しては、シュウ酸、クエン酸などのキレート効果のある有機酸が膜性能の回復に効果的であり、好ましく用いられる。
【0042】
本発明で決定する薬液洗浄条件とは、薬液洗浄における薬液濃度、洗浄時間、薬液温度、薬液量、薬液供給流速、洗浄回数、薬液の種類、洗浄間隔の少なくともいずれかである。薬液濃度、洗浄時間、薬液温度、薬液量、薬液供給流束、洗浄回数を大きく、または洗浄間隔を短くする操作の少なくともいずれかを行うことにより薬液洗浄強度を上昇し、薬液濃度、洗浄時間、薬液温度、薬液量、薬液供給流束、洗浄回数を小さく、または洗浄間隔を長くする操作のすることにより薬液洗浄強度を低下させることができる。薬液洗浄条件は、ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、到達時期が目標時期となるように条件を決定する。薬液洗浄条件は、ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗の算出結果に基づいて、薬液洗浄によるファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を計算し、回復具合の計算結果に基づいて決定することが好ましい。ここで、回復具合にはファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗の減少量または減少率のどちらを用いてもよい。薬液濃度が高いと、薬液とファウリング物質との反応が促進されるため、ファウリング除去率は増加する。ただし、薬液濃度を高くすることで膜の劣化、膜分離槽内の被処理液の性状への影響や薬液コストが増大するため次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度を100mg/L~6000mg/L程度、シュウ酸やクエン酸は1~3質量%程度の濃度とすることが好ましい。また、洗浄時間が長いと、薬液とファウリング物質との接触時間および反応時間を長くとることができ、ファウリング除去率が増加する。ただし、注入した薬液は、反応による消費や拡散などによって膜面での濃度が低下するため、むやみに長時間実施しても効果は低く、分離膜装置の稼働率も低下するため20~120分程度とすることが好ましい。薬液温度が高い場合、薬液とファウリング物質との反応速度が増加するため、同じ洗浄時間においてはファウリング除去率が増加する。ただし、過度な薬液濃度の上昇は被処理液の性状への影響や膜劣化の懸念があるため10~40℃程度とすることが好ましい。薬液量および薬液供給流速が大きいと、二次側から一次側への透過流量および透過流速が増大し、その分細孔閉塞やケークが剥離しやすくなりファウリング除去率が増加する。また、洗浄を繰り返し行うことで、1度では除去しきれなかったファウリング物質が除去されるため、ファウリング除去率が増加する。これらの影響を加味し、関数として回復具合の計算式を作成することが好ましい。
ここで、ケーク、非剥離ケーク、細孔閉塞のそれぞれの蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を同一の薬液洗浄回復算出式を用いて計算しても良いが、各薬液洗浄条件の回復率への寄与率がそれぞれ異なることから、別々の計算式を用いる方が好ましい。また、過去の検討によって細孔閉塞はケークに比べて薬液洗浄による回復具合が小さくなりやすいことが分かっており、細孔閉塞の除去率または除去量がケーク、非剥離ケークの除去率または除去量と比較して小さくなるような算出式とすることが好ましい。さらには、ケークおよび非剥離ケークの蓄積量または膜ろ過抵抗と細孔閉塞の蓄積量または膜ろ過抵抗との比を計算し、その比に基づいて薬液洗浄条件を決定することも好適である。また、洗浄流量や薬液供給流速による寄与率がケーク、非剥離ケークと比較して大きくなるように算出式とすることも実現象をより模擬しているため好ましい。
また、薬液洗浄回復算出式には無機物のファウリング影響が含まれるように作成するのが好ましい。具体的には、次亜塩素酸ナトリウムによる薬液洗浄回復算出式と有機酸洗浄による薬液洗浄回復算出式にそれぞれ別の計算式を用いる方法や、無機物由来のファウリング量および膜ろ過抵抗の洗浄回復算出式に別の計算式を用いる方法、次亜塩素酸ナトリウムによる薬液洗浄時には無機物の蓄積量に応じて洗浄回復具合が小さくなるような阻害項を算出式に設ける方法などが挙げられる。無機物のファウリング影響を考慮した薬液洗浄回復算出式において回復具合を計算し、その結果に応じて薬液の種類を決定することで、効率的に膜内外のファウリング物質を除去することができ好適である。具体的には、次亜塩素酸ナトリウムによる薬液洗浄回復算出結果が規定値以下となった場合には、無機物ファウリングを除去するため薬液洗浄に用いる薬液の種類を有機酸とすることが好ましい。
このような条件を満たす数式として、例えば次の(21)式または(22)式があり、本発明においては(21)式または(22)式に従うことを推奨する。しかし、本発明の範囲は(21)式または(22)式に限定されるものではない。
【0043】
【0044】
ここで、rcは次亜塩素酸ナトリウムによるケーク洗浄回復割合[-]、Cは薬液濃度[mg/L]、tは薬液洗浄時間[s]、Tは薬液温度[℃]、Vは単位膜面積あたりの薬液量[L/m2]、Xiは単位膜面積あたりの無機物蓄積量[gC/m2]、rfは次亜塩素酸ナトリウムによる細孔閉塞洗浄回復割合[-]、θは細孔閉塞洗浄回復係数[-]、j、h、g、e、d、c、oは各項目の寄与率を表す係数[-]である。薬液洗浄を実施するタイミングは、一般的には、膜間差圧(または膜ろ過抵抗)が一定値以上まで上昇したタイミング、あるいは一定期間膜モジュールを運転した後のタイミングで行うが、必ずしもこれらのタイミングでなく、任意のタイミングで実施しても良い。過剰な薬液洗浄の実施は分離膜の劣化、膜分離槽内の被処理液の性状変化や薬液コストの増大、分離膜装置も稼働率低下するため1日~数週間程度の間隔で実施することが好ましい。
【0045】
次に、本発明における物理洗浄条件と薬液洗浄条件の決定方法について
図7~11を参照しながら説明する。
図7は第1実施形態の物理洗浄条件と薬液洗浄条件の決定時のフローチャートである。ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、予測到達時期と目標時期に基づき薬液洗浄条件決定工程、物理洗浄条件決定工程により洗浄条件を決定し、運転条件制御を行う。各洗浄条件の決定順序は特に限定しないが、第1に薬液洗浄条件を決定することが好ましい。特に物理洗浄条件に関する動力コストが分離膜装置の運転コストに占める割合の大きい膜分離活性汚泥法においては、薬液洗浄条件変更を優先して分離膜表面への固形分の付着や目詰まりを解消し、次いで物理洗浄条件を決定することで物理洗浄条件に関する動力コストを削減し、効果的に運転コストを低減することができる。
図8は第2実施形態のファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、予測到達時期が目標時期よりも短い場合の物理洗浄条件と薬液洗浄条件決定のフローチャートである。ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、到達時期が目標時期よりも短い場合、第1に薬液洗浄条件決定工程により予測時期が目標時期と一致する薬液洗浄条件を決定する。ここで連続条件変更判定回数(C1)が設定値以上である場合には決定された薬液洗浄条件へ条件変更し、設定値未満である場合には決定された薬液洗浄条件へ条件変更は保留する。一方、決定された薬液洗浄条件が設定上限値かつ目標時期と予測時期が一致しない場合には第2に物理洗浄条件決定工程により予測時期が目標時期と一致する物理洗浄条件を決定する。予測到達時期が目標時期よりも短い場合は、予測よりファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値の上昇が大きい状態であり、膜表面や膜細孔内に付着していたファウリング蓄積物を除去するため、洗浄強度を上昇させる条件必要がある。ここで連続条件変更判定回数(C2)が設定値以上である場合には決定された薬液洗浄条件および物理洗浄条件へ運転条件を制御し、設定値未満である場合には決定された薬液洗浄条件および物理洗浄条件への制御は保留する。
図9は第3実施形態のファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、予測到達時期が目標時期よりも長い場合の物理洗浄条件と薬液洗浄条件決定のフローチャートである。ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、到達時期が目標時期よりも長い場合、第1に物理洗浄条件決定工程により予測時期が目標時期と一致する物理洗浄条件を決定する。ここで連続条件変更判定回数(C3)が設定値以上である場合には決定された物理洗浄条件へ運転条件を制御し、設定値未満である場合には決定された物理洗浄条件への運転条件制御は保留する。一方、決定された物理洗浄条件が設定下限値かつ目標時期と予測時期が一致しない場合には第2に薬液洗浄条件決定工程により予測時期が目標時期と一致する薬液洗浄条件を決定する。予測到達時期が目標時期よりも長い場合は、予測よりファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値の上昇が小さい状態であり、洗浄強度を低下させることができるため、ここでの規定値とは物理洗浄条件の下限の設定値である。ここで連続条件変更判定回数(C4)が設定値以上である場合には決定された薬液洗浄条件および物理洗浄条件へ運転条件を制御し、設定値未満である場合には決定された薬液洗浄条件および物理洗浄条件への制御は保留する。
図10は第4実施形態のファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、予測到達時期が目標時期と一致する場合の物理洗浄条件と薬液洗浄条件決定のフローチャートである。ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、到達予測時期が目標時期と一致する場合かつ洗浄条件決定フロー実行時の薬液洗浄条件が設定上限値である場合には各洗浄条件の条件変更は実施せず運転を継続する。一方、到達予測時期が目標時期と一致する場合かつ薬液洗浄条件が設定上限値未満である場合には薬液洗浄条件決定工程により決定される薬液洗浄条件が洗浄条件決定フロー実行時の薬液洗浄条件より大きくかつ設定上限値未満となるように決定し、次いで予測時期が目標時期と一致する物理洗浄条件を決定する。ここで物理洗浄条件が下限値より大きい場合には物理洗浄条件が最も低くなるように再度薬液洗浄条件決定工程により薬液洗浄条件を決定し、次いで予測時期が目標時期と一致する物理洗浄条件することが動力コストを最大限抑制することができる。ここで続条件変更判定回数(C5)が設定値以上である場合には決定された薬液洗浄条件および物理洗浄条件へ運転条件を制御し、設定値未満である場合には決定された薬液洗浄条件および物理洗浄条件への制御は保留する。ここで連続条件変更判定回数(C1~C5)は任意で設定が可能であるが、洗浄条件により洗浄強度を上昇させる場合には、洗浄強度を下降させる場合よりも少ない回数とし、分離膜表面への固形分の付着や目詰まりを迅速に解消させる事が好ましく、洗浄強度を下降させる場合には、その状況の確からしさを見極めるべく想定的に多い回数で判断することが好ましい。つまりファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値の上昇が想定よりも大きく、また急激な上昇の懸念があるときはその状況の確からしさの確認よりも分離膜表面への固形分の付着や目詰まりの解消を優先し、ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が想定よりも小さい場合には洗浄条件強度の下降よりもその状況の確からしさの確認を優先することにより、分離膜の状態を良好に調整することができる。
図11は第5実施形態のファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、分離膜装置の運転コストに基づき薬液洗浄条件および/または物理洗浄条件を決定のフローチャートである。
ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値が設定値に到達する時期を上記算出方法で予測し、到達時期が目標時期となるように物理洗浄条件および/または薬液洗浄条件を決定、ファウリング蓄積量または膜ろ過抵抗値の予測結果および物理洗浄条件、薬液洗浄条件等から、運転コストが最も低くなるように物理洗浄条件および/または薬液洗浄条件を制御する。
ここで、薬液洗浄コストは、基準期間における薬液洗浄回数に対して洗浄1回分のコストを乗ずることにより計算することができる。薬液洗浄コストには、単に洗浄液費用だけでなく、温度上昇に必要な動力費や廃液処理費、労務費等を加算して求めても良い。また動力コストは、
図1におけるポンプ11や
図2におけるポンプ1の吐き出し圧力、エアブロワー7の風量等によって算出される動力に電力量料金単価を乗ずることで計算できる。特に、膜分離活性汚泥法では、常時エアブロワーによって空気を供給しているため、この曝気コストが動力コストの大部分を占めることになる。
本発明の運転条件決定プログラムは、膜分離装置に通常設置されているPLCやDCSなどの制御管理システムと一緒にコンピュータが読み取り可能な記録媒体に保存し設置されるか、制御管理システムから遠方監視装置を用いて、運転データをインターネット経由で取り出し、任意の場所に設置されるオンプレミスサーバーもしくは、クラウドサーバーの記録媒体に保存し設置されるのが一般的である。また、本発明における運転条件決定プログラムに関して、例えば、分離膜に蓄積した前記被ろ過液の構成成分量の初期値を取得する初期値取得手段、前記被ろ過液の構成成分の性状の時系列的変化データおよび前記構成成分量の時系列的変化データ、および前記分離膜の運転条件の時系列的変化を表すデータを取得するデータ取得手段、被ろ過液の構成成分量または膜ろ過抵抗を算出する被ろ過液の蓄積量算出手段、前記蓄積量算出結果に基づき、構成成分量または膜ろ過抵抗の将来予測する予測手段、構成成分量または膜ろ過抵抗の蓄積量算出結果と将来予測結果を比較する比較手段、前記蓄積量算出結果に基づき、薬液洗浄における構成成分蓄積量または膜ろ過抵抗の回復具合を算出する薬液洗浄回復算出手段、前記蓄積量算出結果、前記構成成分量または膜ろ過抵抗の将来予測結果、前記薬液洗浄回復結果に基づいて薬液洗浄条件を決定する薬液洗浄条件決定手段、前記蓄積量算出結果、前記構成成分量または膜ろ過抵抗の将来予測結果、前記薬液洗浄回復結果に基づいて物理洗浄条件決定手段、連続条件変更判定回数を記録する連続条件変更判定回数記録手段26、前記薬液洗浄条件決定結果および物理洗浄条件決定結果から薬液コストおよび動力コストを算出する運転コスト算出手段を機能させるための運転条件決定プログラムが導入されている。
各数式おいて用いた記号の説明をまとめて表1に示す。
【0046】
【符号の説明】
【0047】
1:被ろ過液供給ポンプ
2:浸漬型膜分離ユニット
3:被ろ過液槽
4:散気管
5:ろ過液貯留槽
6:薬液貯留槽
7:エアブロワー
8:被ろ過液流量計
9:ろ過液流量計
10:空気流量計
11:吸引ポンプ
12:分離膜モジュール
13:薬液供給ポンプ
14:逆液洗浄ポンプ
15:排液ライン
16:細孔閉塞
17:剥離可能ケーク
18:非剥離ケーク
19:分離膜