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特開2023-149496エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149496
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/28 20060101AFI20231005BHJP
   C08G 59/26 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08G59/28
C08G59/26
C08L51/04
C08L63/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058099
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】浅井 真人
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002BN144
4J002BN14Z
4J002CD053
4J002CD05Y
4J002CD131
4J002CD13W
4J002CD142
4J002CD14X
4J002EN078
4J002ET006
4J002ET017
4J002FD146
4J002FD148
4J002FD157
4J002GC00
4J002GN00
4J036AA05
4J036AB12
4J036AB17
4J036AJ14
4J036AJ17
4J036DC10
4J036DC25
4J036DC31
4J036JA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】短時間で成形が可能であり、且つ耐吸水性が高く機械特性が高い硬化体を製造できるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、所定の芳香族アミンとを含んで成るエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂が、四官能芳香族エポキシ樹脂と所定の三官能エポキシ樹脂とを含むエポキシ樹脂組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
ジシアンジアミドと、
ウレア系硬化促進剤と、
下記式(1)
【化1】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)
で表される芳香族アミンと、
を含んで成るエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、
四官能芳香族エポキシ樹脂と、
下記式(2)
【化2】
(但し、化学式(2)中、R10、R11、R12は、それぞれ独立に炭素数1~6の脂肪族置換基である。)
で表される三官能エポキシ樹脂と、を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
コアシェル型ゴム粒子をさらに含む請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型ゴム粒子の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対して5質量部未満である請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記四官能芳香族エポキシ樹脂が下記式(3)
で表されるN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである請求項1乃至3の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記四官能芳香族エポキシ樹脂の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部の内、70質量部超である、請求項1乃至4の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記三官能エポキシ樹脂の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部の内、2~10質量部である請求項1乃至5の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が、二官能以下のエポキシ樹脂をさらに含むとともに、その含有量が全エポキシ樹脂100質量部の内、20質量部以下である請求項1乃至6の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記二官能以下のエポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項1乃至8の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
繊維強化基材と、
前記繊維強化基材内に含浸した請求項1乃至9の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物と、
から成ることを特徴とするプリプレグ。
【請求項11】
請求項10に記載のプリプレグを硬化して得られることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項12】
請求項10に記載のプリプレグを130~180℃で10~30分間保持して硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料及びその製造方法に関する。特に、短時間で成形が可能であり、且つ得られる成形体が高い耐吸水性及び機械特性を有するエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料(以下、「FRP」という。)は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、釣り竿やゴルフシャフト等のスポーツ・レジャー用途、自動車や航空機等の産業用途等の幅広い分野で用いられている。FRPの製造には、強化繊維等の長繊維からなる繊維補強材層に樹脂を含浸した中間材料(プリプレグ)を使用する方法が好適に用いられる。プリプレグを所望の形状に切断した後に賦形し、加熱及び加圧して硬化させることによりFRPからなる成形品を得ることができる。
【0003】
航空機分野では、耐熱、耐衝撃特性等の高い力学特性が要求される。一般にエポキシ樹脂を用いるプリプレグは、高い力学特性を有する成形体を得ることができる。しかし、エポキシ樹脂を用いるプリプレグは成形時間が長い。また、エポキシ樹脂を用いるプリプレグを硬化して得られる成形体は、耐吸水性が不十分であり、高温時に吸水して、耐衝撃特性等の力学特性が低下する場合があった。
【0004】
特許文献1には、炭素繊維から成る繊維強化基材と、前記繊維強化基材内に一部又は全部が含浸したエポキシ樹脂組成物と、を含んで成るプリプレグであって、前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、所定の芳香族アミンと、を含むことを特徴とするプリプレグが開示されている。このプリプレグを用いて作製する炭素繊維強化複合材料は、耐吸水性が高い。また、ウレア系促進剤を含んで構成されるこのプリプレグは、ゲルタイムが短いため、短時間での成形が可能である。さらには、増粘粒子を含んで構成されるこのプリプレグは、高いプレス成形性を有し、CFRPの品質を安定させることができる。
しかしながら、より高い機械特性を有する繊維強化複合材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-156982号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、短時間で成形が可能であり、且つ耐吸水性が高く機械特性が高い硬化体を製造できるエポキシ樹脂組成物を提供することである。さらには、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製される、耐吸水性及び機械特性が高い繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定のエポキシ樹脂を所定割合で配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載のものである。
【0009】
〔1〕 エポキシ樹脂と、
ジシアンジアミドと、
ウレア系硬化促進剤と、
下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)で表される芳香族アミンと、
を含んで成るエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、
四官能芳香族エポキシ樹脂と、
下記式(2)
【0012】
【化2】
【0013】
(但し、化学式(2)中、R10、R11、R12は、それぞれ独立に炭素数1~6の脂肪族置換基である。)
で表される三官能エポキシ樹脂と、を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【0014】
上記〔1〕に記載の発明は、エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂として四官能芳香族エポキシ樹脂と、化学式(2)で示されるトリアジン骨格を有する三官能エポキシ樹脂を含み、且つ化学式(1)で示される芳香族アミンを含むことを特徴とする。芳香族アミンは、アミノ基に対するオルト位(4箇所)のうち少なくとも1箇所に水素原子以外の置換基を有する。
【0015】
〔2〕 コアシェル型ゴム粒子をさらに含む〔1〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
〔3〕 前記コアシェル型ゴム粒子の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対して5質量部未満である〔2〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0017】
〔4〕 前記四官能芳香族エポキシ樹脂が下記式(3)
【0018】
【化3】
【0019】
で表されるN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0020】
〔5〕 前記四官能芳香族エポキシ樹脂の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部のうち、70質量部超である、〔1〕乃至〔4〕の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0021】
〔6〕 前記三官能エポキシ樹脂の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部のうち、2~10質量部である〔1〕乃至〔5〕の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0022】
〔7〕 前記エポキシ樹脂が、二官能以下のエポキシ樹脂をさらに含むとともに、その含有量が全エポキシ樹脂100質量部のうち、20質量部以下である〔1〕乃至〔6〕の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0023】
〔8〕 前記二官能以下のエポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である〔7〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0024】
〔9〕 熱可塑性樹脂をさらに含む、〔1〕乃至〔8〕の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0025】
〔10〕 繊維強化基材と、
前記繊維強化基材内に含浸した〔1〕乃至〔9〕の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物と、
から成ることを特徴とするプリプレグ。
【0026】
〔11〕 〔10〕に記載のプリプレグを硬化して得られることを特徴とする繊維強化複合材料。
【0027】
〔12〕 〔10〕に記載のプリプレグを130~180℃で10~30分間保持して硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化体は、耐吸水性及び機械特性が高い。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、ゲルタイムが短いため、短時間で成形可能である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料及びその製造方法について説明する。なお、本明細書において、エポキシ樹脂組成物とは、未硬化乃至半硬化の状態である物をいい、エポキシ樹脂組成物が硬化した後は、硬化体、又は硬化樹脂と称する。
【0030】
1. エポキシ樹脂組成物
本発明のエポキシ樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
ジシアンジアミドと、
ウレア系硬化促進剤と、
前述の化学式(1)で表される芳香族アミンと、
を含んで成るエポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂が、四官能芳香族エポキシ樹脂と、前述の化学式(2)で表されるトリアジン骨格を有する三官能エポキシ樹脂とを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、コアシェル型ゴム粒子や前述の化学式(3)で表される四官能エポキシ樹脂を含むことが好ましい。また、少量の熱可塑性樹脂が溶解していることが好ましい。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、160℃で20分間加熱硬化して得られる硬化物をプレッシャークッカー(エスペック社製、HASTEST PC-422R8)を用い、121℃、24時間の条件にて吸水処理した樹脂試験片のガラス転移温度(Wet-Tg)が130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が130℃以上であれば、塗装加工等の熱が掛かる条件下でCFRP製品を使用しても、製品に変形が生じ難いため好ましい。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、50℃における粘度が、50~1000Pa・sであることが好ましく、70~700Pa・sであることがより好ましく、80~500Pa・sであることが特に好ましい。50Pa・s未満である場合、この樹脂組成物を用いてプリプレグを作製する際に、樹脂組成物のベトつきによってプリプレグの取扱性が低下する。1000Pa・sを超える場合、この樹脂組成物を用いてプリプレグを作製する際に、繊維強化基材層内への樹脂組成物の含浸が不十分になる場合がある。
【0034】
エポキシ樹脂組成物の150℃におけるゲルタイムは、300秒以下であることが好ましく、280秒以下であることがより好ましく、250秒以下であることがさらに好ましい。300秒以下であることにより、成形の速度を高くすることができる。ゲルタイムは、ウレア系促進剤を添加することにより調整できる。
【0035】
1-1. エポキシ樹脂
本発明のエポキシ樹脂組成物は、四官能芳香族エポキシ樹脂と、前述の化学式(2)で表されるトリアジン骨格を有する三官能エポキシ樹脂とを含む。
【0036】
四官能芳香族エポキシ樹脂としては、脂肪族型、芳香族型、アミン型のいずれもが使用できる。特に下記式(3)
【0037】
【化4】
【0038】
で表されるN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが好ましい。
【0039】
四官能芳香族エポキシ樹脂の含有量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、70質量部を超え95質量部未満であることが好ましく、80~90質量部であることがより好ましい。70質量部以下である場合、得られる硬化体の機械特性が十分に高くならない場合がある。
【0040】
トリアジン骨格を有する三官能エポキシ樹脂は、下記式(2)
【0041】
【化5】
【0042】
(但し、化学式(2)中、R10、R11、R12は、それぞれ独立に炭素数1~6の脂肪族置換基である。)
で表される。化学式(2)中、R10、R11、R12は、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。即ち、下記式(7)
【0043】
【化6】
【0044】
で表される1,3,5-トリス(オキシラニルメチル)-1,3,5-トリアジン2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンであることがさらに好ましい。
【0045】
上記化学式(2)のエポキシ樹脂の含有量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、2~10質量部であることが好ましく、3~8質量部であることがより好ましい。10質量を超える場合、得られる硬化体の機械特性が十分に高くならない場合がある。
【0046】
三官能エポキシ樹脂と四官能芳香族エポキシ樹脂との合計配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、85質量部以上であることが好ましく、87質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の合計配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、95質量部以下であることが好ましく、92質量部以下であることがさらに好ましい。85質量部未満である場合、得られる硬化体の機械特性が十分に高くならない場合がある。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、二官能以下のエポキシ樹脂を含んでいても良い。
【0048】
例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記式(4)
【0049】
【化7】
【0050】
(但し、化学式(4)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~6の脂肪族置換基である。)
で表される二官能エポキシ樹脂を含んでいても良い。
【0051】
上記化学式(4)で表される化合物の中でも、下記式(5)で表されるN,N-ジグリシジルアニリン、又は下記式(6)で表されるN,N-(ジグリシジル)-o-トルイジンが好ましい。
【0052】
【化8】
【0053】
【化9】
【0054】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記以外のエポキシ樹脂を含んでいても良い。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0055】
さらには、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂が挙げられる。また、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。
【0056】
特に、分子内に芳香族基を有するエポキシ樹脂が好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造のいずれかを有するエポキシ樹脂がより好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
【0057】
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-3-メチル-4-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体が例示される。
【0058】
グリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
【0059】
これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基などのアルキル基;フェニル基などの芳香族基;アルコキシル基;アラルキル基;塩素や臭素などのハロゲン基が例示される。
【0060】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。具体的には、三菱化学(株)社製のjER815、jER828、jER834、jER1001、jER807(商品名);三井石油化学製のエポミックR-710(商品名);大日本インキ化学工業製EXA1514(商品名)が例示される。
【0061】
脂環型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製社製のアラルダイトCY-179、CY-178、CY-182、CY-183(商品名)が例示される。
【0062】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、三菱化学(株)社製のjER152、jER154(商品名);ダウケミカル社製のDEN431、DEN485、DEN438(商品名);DIC社製のエピクロンN740(商品名)が例示される。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製のアラルダイトECN1235、ECN1273、ECN1280(商品名);日本化薬製のEOCN102、EOCN103、EOCN104(商品名);新日鉄住金化学製のエポトートYDCN-700-10、エポトートYDCN-704(商品名);DIC社製のエピクロンN680、エピクロンN695(商品名)が例示される。
【0063】
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、住友化学(株)製のスミエポキシELM434、スミエポキシELM120、スミエポキシELM100(商品名);ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製のアラルダイトMY0500、アラルダイトMY0510、アラルダイトMY0600、アラルダイトMY720、アラルダイトMY721、アラルダイトMY9512、アラルダイトMY9612、アラルダイトMY9634、アラルダイトMY9663(商品名);三菱化学(株)製のjER604、jER630(商品名);Bakelite AG社製のBakelite EPR494、Bakelite EPR495、Bakelite EPR496、Bakelite EPR497(商品名)などが挙げられる。
【0064】
各種変性エポキシ樹脂としては、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂として旭電化製のアデカレジンEPU-6、EPU-4(商品名)が例示される。
【0065】
これらのエポキシ樹脂は、適宜選択して1種又は2種以上を混合して用いることができる。このエポキシ樹脂の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、20質量部以下であり、1~15質量部であることが好ましく、2~8質量部であることがより好ましい。15質量を超える場合、得られる硬化体の機械特性が十分に高くならない場合がある。
【0066】
これらの中でも、特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を、前記エポキシ樹脂100質量部の内、15質量部以下の量で含むことが好ましく、12質量部以下で含むことがより好ましい。
【0067】
1-2. ジシアンジアミド、及びウレア系硬化促進剤
硬化性や得られる硬化体の物性が優れる点から、本発明では上記エポキシ樹脂の硬化剤としてジシアンジアミドを用いる。
ジシアンジアミド(DICY)の具体例としては、三菱化学(株)製のjERキュアーDICY7、DICY15(商品名)等が挙げられる。
【0068】
DICYは、ウレア系の硬化促進剤と併用することが好ましい。DICYはエポキシ樹脂への溶解性がそれほど高くないため、十分に溶解させるためには160℃以上の高温に加熱する必要がある。しかし、ウレア系の硬化促進剤と併用することにより溶解温度を下げることができる。
【0069】
ウレア系の硬化促進剤としては、例えば、フェニルジメチルウレア(PDMU)、トルエンビスジメチルウレア(TBDMU)等が挙げられる。
【0070】
ジシアンジアミドの配合量は、全エポキシ樹脂100質量部に対して2~5質量部であることが好ましく、2~4質量部であることがより好ましい。ジシアンジアミドの配合量が2質量部以上であれば、架橋密度が十分になり、また十分な硬化速度が得られる。ジシアンジアミドの配合量が5質量部以下であれば、硬化剤が過剰に存在することによる硬化体の機械物性の低下や硬化体の濁り等の不具合を抑制することができる。
【0071】
ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤(PDMU、TBDMU等)とを併用する場合、それらの配合量は、全エポキシ樹脂100質量部に対して、ジシアンジアミドが2~5質量部、ウレア系硬化促進剤が2~7質量部であることが好ましい。ただし、ジシアンジアミドとウレア系硬化剤の合計量は2~12質量部であることが好ましい。ジシアンジアミドとウレア系硬化促進剤の合計量が2質量部以上であれば、架橋密度が十分になり、また十分な硬化速度が得られる。ジシアンジアミドとウレア系硬化促進剤の合計量が12質量部以下であれば、硬化剤が過剰に存在することによる硬化体の機械物性の低下や硬化体の濁り等の不具合を抑制することができる。ジシアンジアミドとウレア系硬化剤の合計量は3~10質量部であることがより好ましい。
【0072】
1-3. 芳香族アミン
本発明に用いる芳香族アミンは、下記式(1)
【0073】
【化10】
【0074】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)
で表される化合物である。
【0075】
具体的には、下記式(8)~(11)で表される化合物が例示できる。
【0076】
【化11】
【0077】
【化12】
【0078】
【化13】
【0079】
【化14】
【0080】
芳香族アミンの配合量は、全エポキシ樹脂100質量部に対して3~20質量部であり、5~15質量部であることが好ましい。芳香族アミンの配合量が3質量部以上であれば、架橋密度が高くなり、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化体の耐吸水性を高くすることができる。芳香族アミンの配合量が20質量部以下であれば、樹脂の速硬化性を阻害することなく、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化体の耐吸水性を高くすることができる。
【0081】
1-4. コアシェル型ゴム粒子
コアシェル型ゴム粒子とは、ゴム状ポリマーから成るコア成分の表面に、コア成分とは異なるポリマーをグラフト重合して成る粒子であって、コア成分の表面がシェル成分で被覆されているゴム粒子をいう。
コア成分であるゴム状ポリマーとしては、特に限定されないが、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレンゴム、合成天然ゴム、エチレンプロピレンゴム等が例示される。
シェル成分であるポリマーとしては、特に限定されないが、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる1種又は複数種のモノマーの重合体が例示される。
このようなコアシェル型ゴム粒子は市販品を用いることもできる。市販品としては、株式会社カネカ製のカネエースMXシリーズ等が例示される。
【0082】
コアシェル型ゴム粒子の粒子径は特に限定されないが、本エポキシ樹脂組成物に配合する前の段階で、0.3~10μmであることが好ましく、0.5~8μmであることがより好ましい。
【0083】
コアシェル型ゴム粒子の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部に対して5質量部未満であることが好ましく、4質量部未満であることが好ましく、1~3.9質量部であることがより好ましく、1.25~3.75質量部であることが特に好ましい。5質量以上である場合、得られる硬化体の機械特性が十分に高くならない場合がある。
【0084】
1-5. 熱可塑性樹脂
本発明のエポキシ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでいても良い。
熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルスルホンポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルホルマールのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく用いられる。耐熱性や靭性、取り扱い性に優れることから、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリビニルホルマールなどが特に好ましく使用される。
【0085】
熱可塑性樹脂の配合形態としては、任意の形態を取ることができる。例えば、粉体状の熱可塑性樹脂をエポキシ樹脂中にニーダーなどを用いて混練、分散させても良いし、熱可塑性樹脂をエポキシ樹脂中で加熱するなどしてエポキシ樹脂中に溶解させても良い。エポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂に溶解させる熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂に分散させる熱可塑性樹脂と、を併用することが好ましい。
【0086】
粉体状の熱可塑性樹脂の粒径としては、0.2~100μmであることが好ましく、0.5~80μmであることがより好ましい。
【0087】
熱可塑性樹脂の配合量としては、エポキシ樹脂100質量部に対して5~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
【0088】
1-6. その他の添加剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、難燃剤や無機系充填材、内部離型剤が配合されてもよい。
【0089】
難燃剤としては、リン系難燃剤が例示される。リン系難燃剤としては、分子中にリン原子を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物、ホスフィン酸塩などの有機リン化合物、ポリリン酸塩などの有機リン化合物や赤リンが挙げられる。
【0090】
無機系充填材としては、例えば、ホウ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイト、硫酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸塩鉱物、金属水酸化物が挙げられる。特に、ケイ酸塩鉱物や金属水酸化物を用いることが好ましい。ケイ酸塩鉱物の市販品としては、THIXOTROPIC AGENT DT 5039(ハンツマン・ジャパン株式会社 製)が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、又は水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、難燃特性を付与する場合は、熱分解温度及び分解時の吸熱量の点から、水酸化アルミニウムが好ましい。金属水酸化物は、市販品を用いてもよく、公知の製造方法により合成したものを用いてもよい。例えば、市販の水酸化アルミニウムとして、住友化学製C-303、C-301、C-300GT、C-305、C-3250、若しくはCM-450、又は昭和電工製ハイジライトH-42、若しくはH-43等が挙げられる。
また、市販の水酸化マグネシウムとして、タテホ化学工業製マグスター#5、#4、#2、エコーマグPZ-1、又はZ-10等が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物中の無機系充填材を配合する場合の含有率は、5~30質量%であることが好ましく、7~25質量%であることがさらに好ましい。無機系充填材の含有率が5質量%未満である場合、難燃効果が十分に得られないことがある。無機系充填材の含有率が30質量%を超える場合、力学特性、特に剛性やシャルピー衝撃値が低下したりする場合がある。
【0091】
内部離型剤としては、例えば、金属石鹸類、ポリエチレンワックスやカルバナワックス等の植物ワックス、脂肪酸エステル系離型剤、シリコンオイル、動物ワックス、フッ素系非イオン界面活性剤を挙げることができる。これら内部離型剤の配合量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがさらに好ましい。この範囲内においては、金型からの離型効果が好適に発揮される。
内部離型剤の市販品としては、MOLD WIZ(登録商標) INT1846(AXEL PLASTICS RESEARCH LABORATORIES INC.製)、Licowax S、Licowax P、Licowax OP、Licowax PE190、Licowax PED(クラリアントジャパン社製)、ステアリルステアレート(SL-900A;理研ビタミン(株)製)が挙げられる。
【0092】
1-7. エポキシ樹脂組成物の製造方法
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、を混合することにより製造できる。これらの混合の順序は問わない。
【0093】
耐衝撃特性の向上を目的に、熱可塑性樹脂を混合する場合には、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、熱可塑性樹脂とを混合することにより製造でき、これらの混合の順序は問わない。
コアシェル型ゴム粒子を混合する場合には、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、コアシェル型ゴム粒子とを混合することにより製造でき、これらの混合の順序は問わない。
【0094】
エポキシ樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。混合温度としては、40~120℃の範囲が例示できる。120℃を超える場合、部分的に硬化反応が進行して繊維強化基材層内への含浸性が低下したり、得られる樹脂組成物及びそれを用いて製造されるプリプレグの保存安定性が低下したりする場合がある。40℃未満である場合、樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混合が困難となる場合がある。好ましくは50~100℃であり、さらに好ましくは50~90℃の範囲である。
【0095】
混合機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を備えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混合は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混合が行われる場合は、温度、湿度が管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混合することが好ましい。
【0096】
2. プリプレグ
本発明のプリプレグは、上述の本発明のエポキシ樹脂組成物と、繊維強化基材と、から成り、エポキシ樹脂組成物の一部又は全部が繊維強化基材の層内に含浸して、繊維強化基材と一体化している。
【0097】
本発明のプリプレグにおけるエポキシ樹脂組成物の含有率(RC)は、プリプレグの全質量を基準として、15~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることが特に好ましい。含有率が15質量%未満である場合は、得られるCFRPに空隙などが発生し、機械特性等を低下させる場合がある。含有率が60質量%を超える場合は、強化繊維による補強効果が不十分となり、得られるCFRPの機械特性等を低下させる場合がある。
【0098】
エポキシ樹脂組成物の含有率(RC)は、プリプレグを硫酸に浸漬して、プリプレグ内に含浸している樹脂組成物を溶出させることにより求められる。具体的には以下の方法により求められる。
【0099】
先ず、プリプレグを100mm×100mmに切り出して試験片を作製し、その質量を測定する。次いで、このプリプレグの試験片を硫酸中に浸漬して必要により煮沸する。これにより、プリプレグ内に含浸している樹脂組成物を分解して硫酸中に溶出させる。その後、残った繊維をろ別して硫酸で洗浄後、乾燥させて繊維の質量を測定する。硫酸による分解操作の前後の質量変化から樹脂組成物の含有率を算出する。
【0100】
本発明のプリプレグの形状は、炭素繊維がシート状に形成されたプリプレグシートであっても良く、炭素繊維がストランド状に形成されたストランドプリプレグであっても良い。
【0101】
本発明のプリプレグの形態は、繊維強化基材と、この繊維強化基材の層内に含浸されたエポキシ樹脂組成物とからなる強化層と、この強化層の表面に積重された樹脂被覆層とからなる構造を有していても良い。樹脂被覆層の厚みは2~50μmが好ましい。樹脂被覆層の厚みが2μm未満の場合、タック性が不十分となり、プリプレグの成形加工性が著しく低下する場合がある。樹脂被覆層の厚みが50μmを超える場合、プリプレグを均質な厚みでロール状に巻き取ることが困難となり、成形精度が著しく低下する場合がある。樹脂被覆層の厚みは、5~45μmがより好ましく、10~40μmが特に好ましい。
【0102】
2-1. 繊維強化基材
繊維強化基材は、炭素繊維から成る基材が用いられる。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
【0103】
繊維強化基材としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100~600GPaであることが好ましく、200~500GPaであることがより好ましく、230~450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は2000~10000MPa、好ましくは3000~8000MPaである。炭素繊維の直径は4~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、得られるFRPの機械特性を向上できる。
【0104】
繊維強化基材はシート状に形成して用いることが好ましい。繊維強化基材シートとしては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシートや、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙を挙げることができる。
【0105】
シート状の繊維強化基材の厚さは、0.01~3mmが好ましく、0.1~1.5mmがより好ましい。これらの繊維強化基材は、公知のサイズ剤を公知の含有量で含んでいても良い。
【0106】
本発明のプリプレグは、炭素繊維がストランド状に形成されたストランドプリプレグであっても良い。ストランドプリプレグは、シート状の一方向プリプレグを分繊することにより作製される。ストランドプリプレグの幅は、3~20mmが好ましく、6~10mmがより好ましい。また、ストランドプリプレグを長さ方向にカットし、短繊維プリプレグとすることが好ましい。繊維長は、5~100mmが好ましく、10~50mmがより好ましい。カット後の短繊維プリプレグは、マット状に形成してプリプレグマットとすることが好ましい。
【0107】
2-2. プリプレグの製造方法
本発明のプリプレグの製造方法は、特に制限がなく、従来公知のいかなる方法も採用できる。具体的には、ホットメルト法や溶剤法が好適に採用できる。
【0108】
ホットメルト法は、離型紙の上に、樹脂組成物を薄いフィルム状に塗布して樹脂組成物フィルムを形成し、繊維強化基材に該樹脂組成物フィルムを積層して加圧下で加熱することにより樹脂組成物を繊維強化基材層内に含浸させる方法である。
【0109】
樹脂組成物を樹脂組成物フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを用いて、離型紙やフィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより樹脂組成物フィルムを得ることができる。フィルムを製造する際の樹脂温度は、樹脂組成物の組成や粘度に応じて適宜決定する。具体的には、前述のエポキシ樹脂組成物の製造方法における混合温度と同じ温度条件が好適に用いられる。エポキシ樹脂組成物の繊維強化基材層内への含浸は1回で行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。
【0110】
溶剤法は、エポキシ樹脂組成物を適当な溶媒を用いてワニス状にし、このワニスを繊維強化基材層内に含浸させる方法である。
【0111】
本発明のプリプレグは、これらの従来法の中でも、溶剤を用いないホットメルト法により好適に製造することができる。
【0112】
エポキシ樹脂組成物フィルムをホットメルト法で繊維強化基材層内に含浸させる場合の含浸温度は、50~120℃の範囲が好ましい。含浸温度が50℃未満の場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高く、繊維強化基材層内へ十分に含浸しない場合がある。含浸温度が120℃を超える場合、エポキシ樹脂の硬化反応が進行し、得られるプリプレグの保存安定性が低下したり、ドレープ性が低下したりする場合がある。含浸温度は、60~110℃がより好ましく、70~100℃が特に好ましい。
【0113】
エポキシ樹脂組成物フィルムをホットメルト法で繊維強化基材層内に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
【0114】
3. 繊維強化複合材料(FRP)
本発明のプリプレグを加熱加圧して硬化させることにより、本発明のFRPを得ることができる。
【0115】
本発明のFRPは、吸水率が低いことを特徴とする。ここで吸水率とは、121℃、100%RHの条件下で24時間保管した後の質量増加率をいう。吸水率は1.8質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.3質量%以下であることがさらに好ましく、1.2質量%以下であることが特に好ましい。吸水率が大きすぎる場合、後述の圧縮強度が低下し易い。
【0116】
本発明のプリプレグを用いて、FRPを製造する方法としては、オートクレーブ成形、プレス成形、内圧成形及び真空アシスト圧空加圧成形等が挙げられる。
【0117】
3-1. オートクレーブ成形法
本発明のFRPの製造方法としては、オートクレーブ成形法が好ましく用いられる。オートクレーブ成形法は、金型の下型にプリプレグ及びフィルムバッグを順次敷設し、該プリプレグを下型とフィルムバッグとの間に密封し、下型とフィルムバッグとにより形成される空間を真空にするとともに、オートクレーブ成形装置で、加熱と加圧をする成形方法である。成形時の条件は、昇温速度を1~50℃/分とし、0.2~0.7MPa、130~180℃で10~30分間、加熱及び加圧することが好ましい。
【0118】
3-2. プレス成形法
本発明のFRPの製造方法としては、プリプレグを構成するエポキシ樹脂組成物の特徴を活かして、生産性が高く、良質なFRPが得られるという観点から、プレス成形法が好ましい。プレス成形法によるFRPの製造は、本発明のプリプレグ又は本発明のプリプレグを積層して形成したプリフォームを、金型を用いて加熱加圧することにより行う。金型は、予め硬化温度に加熱しておくことが好ましい。
【0119】
プレス成形時の金型の温度は、130~180℃が好ましい。成形温度が130℃以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性でFRPを得ることができる。また、成形温度が180℃以下であれば、樹脂粘度が低くなり過ぎることがなく、金型内における樹脂の過剰な流動を抑えることができる。その結果、金型からの樹脂の流出や繊維の蛇行を抑制できるため、高品質のFRPが得られる。
【0120】
成形時の圧力は、0.2~10MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため、良好な外観のFRPを製造することができる。圧力が10MPa以下であれば、樹脂を必要以上に流動させることがないため、得られるFRPの外観不良が生じ難い。また、金型に必要以上の負荷をかけることがないため、金型の変形等が生じ難い。
【0121】
3-3. 内圧成形法
本発明のFRPの製造方法としては、内圧成形法も好ましく採用される。内圧成形法とは、袋状の内圧バッグの外側にプリプレグを敷設して、内部に内圧バッグを有するプリプレグ積層体を得、このプリプレグ積層体を金型内に配置して型締し、該金型内で前記内圧バッグを膨張させることにより、プリプレグを該金型の内壁に内接させ、この状態で加熱硬化させる成形方法である。
【0122】
内圧成形法でFRPを製造する方法について説明する。先ず、本発明のプリプレグを金型の上型及び下型にそれぞれ敷設する。次に、プリプレグが敷設されている上型と下型との間に内圧バッグを挟み込んで上型と下型とを型締する。これにより、内部に内圧バッグを有するプリプレグ積層体が得られる。その後、金型内の内圧バッグを膨張させることにより、金型内のプリプレグを金型の内壁に内接させるとともに、この状態で金型を加熱することによりプリプレグを加熱硬化させる。所定時間経過後、金型から成形体を取り出し、内圧バッグを除去してFRPが得られる。
生産性の観点から、プリプレグを敷設する前に、金型を硬化温度に予熱しておくことが好ましい。
【0123】
内圧バッグの材質は、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性があり且つ耐熱性に優れた材質であることが好ましい。
【0124】
内圧成形時の金型内の温度は、130~180℃が好ましい。成形温度が130℃以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性でFRPを得ることができる。また、成形温度が180℃以下であれば、樹脂粘度が低くなり過ぎることがなく、金型内における樹脂の過剰な流動を抑えることができる。その結果、金型からの樹脂の流出や繊維の蛇行を抑制し、高品質のFRPが得られる。
【0125】
成形時の圧力は、0.2~2MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため良好な外観のCFRPを得ることができる。圧力が2MPa以下であれば、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性がある内圧バッグが破壊され難い。
【0126】
3-4. 真空アシスト圧空加圧成形法
本発明のFRPの製造方法としては、真空アシスト圧空加圧成形法も好ましく用いられる。真空アシスト圧空加圧成形法とは、金型の下型にプリプレグ及びフィルムバッグを順次敷設し、該プリプレグを下型とフィルムバッグとの間に密封し、下型とフィルムバッグとにより形成される空間を真空にするとともに、上型と下型とを型締めして形成される金型のキャビティ内を空気加圧してプリプレグを加熱硬化させる成形方法である。
【0127】
真空アシスト圧空加圧成形法でFRPを製造する方法について説明する。先ず、本発明のプリプレグを金型の下型に敷設する。次に、該プリプレグの上にフィルムバッグを積重し、下型とフィルムバッグとの間に該プリプレグを密封する。その後、下型とフィルムバッグとにより形成される空間を真空にすることにより該プリプレグを下型に当接させる。さらに、金型を型締して形成される金型のキャビティ内を空気加圧して該プリプレグを下型にさらに密着させる。この状態で加熱することにより該プリプレグを加熱硬化させる。所定時間経過後、金型から成形体を取り出し、フィルムバッグを除去してFRPが得られる。
生産性の観点から、下型は急速に加熱できるような加熱機構を有していることが好ましい。
【0128】
フィルムバッグの材質は、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性があり且つ耐熱性に優れた材質であることが好ましい。
【0129】
金型の温度は、20~50℃でプリプレグ及びフィルムバッグを積重して真空状態とし、その後、昇温速度2~100℃/分で130~180℃まで加熱することが好ましい。成形温度が130℃以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性でFRPを得ることができる。また、成形温度が180℃以下であれば、樹脂粘度が低くなり過ぎることがなく、金型内における樹脂の過剰な流動を抑えることができ、金型からの樹脂の流出や繊維の蛇行を抑制できるため、高品質のFRPが得られる。
【0130】
成形時の圧力は、0.2~2MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため、良好な外観のFRPを得ることができる。圧力が2MPa以下であれば、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性があるフィルムバッグが破壊され難い。
【0131】
本発明の製造方法における硬化時間は10~30分間であり、従来と比較して短時間である。即ち、優れた品質のFRPを高い生産性で製造することができる。
【実施例0132】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に説明する。
【0133】
(エポキシ樹脂)
・“jER604”(登録商標):(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
・“jER828”(登録商標):(液状ビスフェニールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
・“GOT”(ジグリシジルエチルアミノベンゼン)、日産化学(株)製
・“TEPIC-S”:(トリアジン骨格を有する三官能エポキシ樹脂、日産化学(株)製)
【0134】
(コアシェル型ゴム粒子)
カネエース(登録商標)“MX-416”: テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(グリシジルアミン系エポキシ樹脂)にコアシェルゴム粒子を25wt%分散させた液状マスターバッチ (株式会社カネカ製)
【0135】
(硬化剤、硬化促進剤)
・“Dicy7”:(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)
・“オミキュア24”(登録商標):(2,4’-トルエンビス(3,3-ジメチルウレア)、ピイ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)
【0136】
(芳香族アミン)
・キュアハード“MED-J”:上記化学式(8)の構造を有する(クミアイ化学工業(株)製)
【0137】
(熱可塑樹脂)
・スミカエクセル 5003P:ポリエーテルスルホン(エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂)(以下、“PES5003P”)、住友化学工業株式会社製、平均粒子径20μm
・“MSP-A7678”:(ポリアミド12、平均粒子径20μm、ダイセル・エボニック社製)
・“MSP-A7723”:(ポリアミド1010、平均粒子径20μm、ダイセル・エボニック社製)
・ゼフィアック(登録商標)“F320”:(メタクリル酸アルキル重合体)、平均重合度30,000、アイカ工業(株)製)
【0138】
(実施例1~12、比較例1~6)
(1) エポキシ樹脂組成物の調合
ニーダー中に、表1に記載する割合でエポキシ樹脂及びこのエポキシ樹脂に溶解させる熱可塑性樹脂を所定量加え、混練しながら150℃まで昇温させ、固形成分を完全に溶解させた。その後、混練しながら60℃の温度まで降温させ、硬化剤、ウレア系促進剤、エポキシ樹脂に溶解させない熱可塑性樹脂、コアシェル型ゴム粒子等を加えて30分間撹拌することにより均一に分散させ、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0139】
(2) 一方向プリプレグの作製
一方向プリプレグは、次のように作製した。リバースロールコーターを用いて、離型紙上に、上記で得られたエポキシ樹脂組成物を塗布して50g/m目付の樹脂フィルムを作製した。次に、単位面積当たりの繊維質量が190g/mとなるように炭素繊維を一方向に整列させてシート状の繊維強化基材層を作製した。この繊維強化基材層の両面に上記樹脂フィルムを積重し、温度100℃、圧力0.2MPaの条件で加熱加圧して、炭素繊維含有率が65質量%の一方向プリプレグを作製した。
【0140】
(3) 平面ひずみ破壊じん性(K1c)
上記エポキシ樹脂をシリコンゴム製の型に70℃の温度で流し入れ、型ごと真空オーブンに入れ、70℃10分間油回転ポンプを用いた真空引きによる脱泡を行った後、2℃毎分で160℃まで昇温し、その温度で20分間保持、その後室温になるまで任意の速度で降温させることで、厚さ4mmの樹脂板を作製した。作成した樹脂板について、ASTM D5045試験法に準拠して測定した。
【0141】
(4) 損傷後圧縮強度(CAI)
ASTM-D7136及びASTM-D7137試験法に準拠して測定した。
【0142】
(5) Wet-Tg
SACMA 18R-94法に準じて、ガラス転移温度を測定した。
樹脂試験片の寸法は50mm×6mm×2mmで準備した。プレッシャークッカー(エスペック社製、HASTEST PC-422R8)を用い、121℃、24時間の条件にて準備した樹脂試験片の吸水処理を行った。UBM社製動的粘弾性測定装置Rheogel-E400を用い、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.0167%の条件で、チャック間の距離を30mmとし、50℃からゴム弾性領域まで、吸水処理した樹脂試験片の貯蔵弾性率E’を測定した。logE’を温度に対してプロットし、logE’の平坦領域の近似直線と、E’が転移する領域の近似直線との交点から求められる温度をガラス転移温度(Tg)として記録した。
【0143】
(6) 有孔圧縮試験(常温試験)(以下、OHC(Dry)と表記)
上記一方向プリプレグを[+45°/90°/-45°/0°]3sの構成で24枚積層した積層物をバッグ内に入れ、これをオートクレーブ内で2℃/分で昇温し、160℃で30分加熱し、硬化させて成形板(炭素繊維強化複合材料)を作製した。この間オートクレーブ内を0.7MPaに加圧し、バッグ内を真空に保った。
ASTM D6484法に准じて、試験速度1.0mm/minで炭素繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。サンプル数は5個とし、その平均値を用いた。
【0144】
(7) 有孔圧縮試験(湿熱処理/高温試験)(以下、OHC(HTWE)と表記)
ASTM D6484法に准じて、試験速度1.0mm/minで炭素繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。サンプル数は5個とし、その平均値を用いた。
【0145】
(8) 粘度・取扱性の評価
◎:60℃における粘度が100Pa・s未満であり、混錬装置(ニーダーやロールミル等)からの取り出しや、ハンドリングが容易である。
○:60℃における粘度が100~200Pa・sであり、混錬装置(ニーダーやロールミル等)からの取り出しや、ハンドリングが容易である。
△:70℃における粘度が200Pa・sより高く、混錬装置(ニーダーやロールミル等)からの取り出しや、ハンドリングが困難である。
【0146】
(9) プレス成形性の評価
上記一方向プリプレグを[0°]の方向に12枚積層して積層物プレス成型用の金型に入れ、160℃に加熱したプレス機に入れ、金型に取り付けた熱電対による温度モニタリングを開始し、金型温度が110℃に達した時点で試験片の面圧として2MPaがかかるように圧力を調整した。温度が160℃になった時点から20分間保持し、その後に脱型を行うことで成形板(炭素繊維強化複合材料)を作製した。
この成形板の外観について以下の基準で判定した。
〇:成形板全体に適度に樹脂が残っており、外観の均一性がある状態
×:樹脂が型周囲に流れてしまい、成形板内の外観の均一性がない状態
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】