(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149530
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】電気的特性パラメータ検査装置、電気的特性パラメータ検査方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20231005BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N27/00 L
G01N27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058147
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 誠
(72)【発明者】
【氏名】城野 純一
(72)【発明者】
【氏名】布施 優
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA08
2G060AA14
2G060AD04
2G060AE28
2G060AF03
2G060AF06
2G060AF07
2G060AF08
2G060AF11
2G060AG04
2G060AG08
2G060AG13
2G060EA03
2G060EA04
2G060EA08
2G060EB06
2G060HA02
2G060HC10
2G060HE03
2G060KA11
(57)【要約】
【課題】
電極の機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を短時間かつ高精度に検査することができる。
【解決手段】
電気的特性パラメータ検査装置1は、対象物に配置される複数のセンサと、複数のセンサのうち2以上のセンサのセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部111と、選択パターンごとに、選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部113と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータを解析する解析部114と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に配置される複数のセンサと、
前記複数のセンサのうち2以上のセンサのセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部と、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部と、
を備えることを特徴とする電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項2】
対象物の表面及び/又は裏面に配置される複数の単位電極と、
前記複数の単位電極のうち1以上の単位電極からなる少なくとも2つ以上の要素電極で構成される電極を形成し、複数の電極によって選択パターンを形成する選択部と、
所定の電気信号を出力する信号生成部と、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、前記信号生成部から出力された所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部と、
を備えることを特徴とする電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項3】
前記計測部は、対象物の電気的特性に基づいて、前記電極に対応した前記対象物内の計測範囲を要素領域として設定し、当該要素領域の電気的特性パラメータを計測することを特徴とする請求項2に記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項4】
前記電極を構成する一方及び他方の電極のサイズは、複数の要素電極により形成される対象物における電界の拡がりを考慮して、前記要素領域と同等もしくはそれ以下であり、前記対象物に応じて当該電極のサイズを切替え制御することを特徴とする請求項3に記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項5】
前記電極を構成する一方及び他方の要素電極は、1または複数の単位電極から構成され、当該単位電極を選択することにより、前記電極のサイズおよび形状を切替え制御することを特徴とする請求項2から4のいずれに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項6】
前記電極を構成する単位電極は、平板形状電極、ブロック形状電極、フィルム形状電極、ニードル形状電極、または前記対象物の形状に対応したフレキシブル形状電極のいずれかで構成されることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項7】
前記選択パターンに含まれる複数の電極は、並列的に前記計測部に接続されることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項8】
前記選択パターンに含まれる複数の電極は、直列的に前記計測部に接続されることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項9】
前記選択パターンにおける複数の電極間に、当該電極同士の電気的干渉を軽減または防止する遮蔽領域を設けることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項10】
前記遮蔽領域は、前記電極を構成する第1の要素電極を囲む第2の要素電極で構成されることを特徴とする請求項9に記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項11】
前記第2の要素電極は、グランド接続された電極であることを特徴とする請求項10に記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項12】
複数の選択パターンは、それぞれ所定の2次元パターンを形成することを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項13】
前記複数の選択パターンは、互いに2次元空間上の直交関係にあることを特徴とする請求項12に記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項14】
前記選択部は、前記選択パターンを変更し、
前記計測部は、前記選択部によって選択された選択パターンごとに電気的特性パラメータを計測し、
前記解析部は、前記選択部および前記計測部によって複数回計測された前記電気的特性パラメータを解析することを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項15】
前記電気信号は、交流信号であり、
前記信号生成部は、出力する交流信号の周波数及び/又は振幅を制御し、
前記計測部は、前記電気的特性パラメータとしてインピーダンスまたはアドミタンスを計測することを特徴とする請求項2から14のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項16】
前記電気信号は、直流信号であり、
前記信号生成部は、出力する直流信号の電圧及び/又は電流を制御し、
前記計測部は、前記電気的特性パラメータとして電気抵抗値を計測することを特徴とする請求項2から14のいずれかに記載の電気的特性パラメータ検査装置。
【請求項17】
対象物に所定の選択パターンで2以上のセンサを配置する配置ステップと、
前記所定の選択パターンで配置されたセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測ステップと、
計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析ステップと、を有し、
前記配置ステップにより選択パターンが変更されるたびに、前記計測ステップにより電気的特性パラメータを計測し、
前記解析ステップは、複数の選択パターンで計測された前記電気的特性パラメータに基づいて解析することを特徴とする電気的特性パラメータ検査方法。
【請求項18】
対象物の表面及び/又は裏面に所定の選択パターンで電極対を配置する配置ステップと、
前記所定の選択パターンに含まれる電極を前記対象物に接触又は近接させ、前記対象物に所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測ステップと、
計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析ステップと、を有し、
前記配置ステップにより選択パターンが変更されるたびに、前記計測ステップにより電気的特性パラメータを計測し、
前記解析ステップは、複数の選択パターンで計測された前記電気的特性パラメータに基づいて解析することを特徴とする電気的特性パラメータ検査方法。
【請求項19】
対象物に配置される複数のセンサを備える電気的特性パラメータ検査装置のコンピュータを、
前記複数のセンサのうち2以上のセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部と、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部、
として機能させるプログラム。
【請求項20】
対象物の表面及び/又は裏面に配置される複数の単位電極を備える電気的特性パラメータ検査装置のコンピュータを、
前記複数の単位電極のうち2以上の単位電極からなる少なくとも1つ以上の要素電極で構成される電極を形成し、複数の電極によって選択パターンを形成する選択部と、
所定の電気信号を出力する信号生成部、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、前記信号生成部から出力された所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的特性パラメータ検査装置、電気的特性パラメータ検査方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や道路等インフラや大規模建築物に用いられることの多い鉄筋コンクリートは、製造・敷設当初は高い強靭性を有する。しかし、経年によるコンクリートの特性変化や水分の侵入等により、内部鉄筋の腐食が発生し、その強度は大きく劣化する。また、近年、環境・エネルギー問題等を背景に、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)等の複合繊維強化樹脂材が、航空機や自動車等の移動体のボディのほか、比較的大型の施設・建造物の構造材として用いられる例が増えつつある。このような複合材は、金属等に比べて軽量・高強度という優れた特徴を備えるが、製造時等に微細な空隙や内部剥離があると、経年劣化により大きな破壊・破断に至る可能性が指摘されている。そこで、これらのインフラや大規模建造物、移動体等の安全性や信頼性を効率よく評価・担保するために、非破壊検査が実施されている。
また、最近では、製品安全性に関する消費者のマインドの向上や、これに伴う規制強化の動き等から、食料品を含む消費財全般に対して高い安全性を求める社会的な傾向が強まっており、これらの品質を簡便に評価する非破壊検査方法が求められている。
【0003】
従来、このような非破壊検査は、打音検査や外観検査等、職人のノウハウや人海戦術に基づくアナログ的手法が用いられることが多い。しかしながら、アナログ的手法では、それら技術の維持・継承の難しさや、効率性の観点において課題が多い。そのため、より効率的かつ定量的な非破壊検査手法が必要とされている。
【0004】
そこで、大型・広範囲の対象物に対する効率的かつ定量性のある非破壊検査手法として、電磁気的方法が提案され、実用化されており、その代表的な手法として、インピーダンス検査法や渦電流法等が知られている。これらの方法は、比較的小型のセンサ類を対象物の表面等に設置し、当該センサ類に電界もしくは電流を印加して、その電気的・磁気的特性を計測することにより、対象物内の構造や性状を把握しようとするものである。例えば、インピーダンス検査法では、
図14に示すように、鉄筋コンクリート等の対象物Cに2つの電極Eを接触させ、当該対象物C上で電極Eの一方または双方を走査(矢印)させ、電極E間のインピーダンスを計測し、計測されたインピーダンスの変化によって鉄筋コンクリート内部の鉄筋の腐食等、対象物C内部の構造や性状を検出する。
また、特許文献1には、電極群から選択された複数の電極対で測定した複数のインピーダンスの「差分」により、対象物内部の埋設物等の有無や位置を検知する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図14に示すような手法は、小さな電極Eを対象物C表面に近接・接触させて移動させる構成を採用するものであり、一度に検査可能な範囲が制約される。そのため、インフラ等の大型の対象を検査するにあたり、電極を走査する機構が必要となるうえに、電極走査に要する時間のため対象物全体を検査する時間が長期化して効率性等の点でも課題が多い。
このことは、特許文献1に記載の方法でも、電極群の位置を走査させることで、電極群の位置ごとにインピーダンスを計測し、電極群の位置に対応したインピーダンスの値から、埋設物等を検知するため、同様の課題を有している。
また、以上のような課題は、対象物の内部状態を検査する装置・方法に共通の問題であるが、中でも比較的広範囲・大型の対象物を検査する場合に顕著な問題であるといえる。
【0007】
さらに、インピーダンス計測では、対象物により計測値の変化が大きく、絶縁物に近いコンクリート等から、導電体に近いCFRP等のような部材まで、そのダイナミックレンジは極めて大きい。そのため、対象物による差異や計測環境等の影響を軽減して、インピーダンスを精度良く計測するための回路構成を実現することが難しく、結果として、計測装置が高額になるという課題も有している。
【0008】
したがって、本発明の課題は、機械的な走査を行うことなく、対象物を高効率、低コストかつ高精度に検査することのできる電気的特性パラメータ検査装置、電気的特性パラメータ検査方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の電気的特性パラメータ検査装置は、
対象物に配置される複数のセンサと、
前記複数のセンサのうち2以上のセンサのセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部と、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電気的特性パラメータ検査装置は、
対象物の表面及び/又は裏面に配置される複数の単位電極と、
前記複数の単位電極のうち1以上の単位電極からなる少なくとも2つ以上の要素電極で構成される電極を形成し、複数の電極によって選択パターンを形成する選択部と、
所定の電気信号を出力する信号生成部と、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、前記信号生成部から出力された所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の電気的特性パラメータ検査方法は、
対象物に所定の選択パターンで2以上のセンサを配置する配置ステップと、
前記所定の選択パターンで配置されたセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測ステップと、
計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析ステップと、を有し、
前記配置ステップにより選択パターンが変更されるたびに、前記計測ステップにより電気的特性パラメータを計測し、
前記解析ステップは、複数の選択パターンで計測された前記電気的特性パラメータに基づいて解析することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の電気的特性パラメータ検査方法は、
対象物の表面及び/又は裏面に所定の選択パターンで電極対を配置する配置ステップと、
前記所定の選択パターンに含まれる電極を前記対象物に接触又は近接させ、前記対象物に所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測ステップと、
計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析ステップと、を有し、
前記配置ステップにより選択パターンが変更されるたびに、前記計測ステップにより電気的特性パラメータを計測し、
前記解析ステップは、複数の選択パターンで計測された前記電気的特性パラメータに基づいて解析することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のプログラムは、
対象物に配置される複数のセンサを備える電気的特性パラメータ検査装置のコンピュータを、
前記複数のセンサのうち2以上のセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部と、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部、
として機能させる。
【0014】
また、本発明のプログラムは、
対象物の表面及び/又は裏面に配置される複数の単位電極を備える電気的特性パラメータ検査装置のコンピュータを、
前記複数の単位電極のうち2以上の単位電極からなる少なくとも1つ以上の要素電極で構成される電極を形成し、複数の電極によって選択パターンを形成する選択部と、
所定の電気信号を出力する信号生成部、
前記選択パターンごとに、前記選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、前記信号生成部から出力された所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測部と、
前記選択パターンごとに計測された前記電気的特性パラメータを解析する解析部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的な走査を行うことなく、対象物の広範囲に亘る構造や状態、欠陥の有無等を効率的に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電気的特性パラメータ検査装置による非破壊検査方法を説明する図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る電気的特性パラメータ検査装置を含む測定系の全体構成の概略を説明する図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る電気的特性パラメータ検査装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の電気的特性パラメータ検査装置により形成する電界パターンの例である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る電気的特性パラメータ検査装置の処理方法を示すフローチャート図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る電気的特性パラメータ検査装置の別の処理方法を示すフローチャート図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る電気的特性パラメータ検査装置の全体構成の概略を説明する図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る電気的特性パラメータ検査装置の全体構成の概略を説明する図である。
【
図9】本発明の電気的特性パラメータ検査装置における電極サイズと要素領域の関係を説明する図である。
【
図10】本発明の電気的特性パラメータ検査装置における電極サイズと対象物の導電性の関係を説明する図である。
【
図11】本発明の電気的特性パラメータ検査装置における電界ガードバンドの例である。
【
図12】本発明の電気的特性パラメータ検査装置における電極サイズと電気信号の周波数帯の関係を説明する図である。
【
図13】本発明の電気的特性パラメータ検査装置における電極と電界分布を示す図である。
【
図14】従来の電気的特性パラメータ検査装置の全体構成の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示された例に限定されるものではなく、これに準ずる形態・構成を含むものとする。
【0018】
図1は、電気的特性パラメータ検査装置1による非破壊検査方法を示す図である。例えば、計測者は、持ち手Hを持ち、対象物Cに対して、第1の電極E1と第2の電極E2を接触させ、第1の電極E1と第2の電極E2間の電気的特性パラメータを計測する。
なお、
図1の方法では、計測者が持ち手Hを持ち、第1の電極E1と第2の電極E2を移動させていくが、下記実施形態では、選択部111により対象物Cに接触させる電極Eが選択される。
また、その他電気的特性パラメータ検査装置1の構成や、電気的特性パラメータ検査装置の処理のフローなどは後述する第1実施形態と同様である。
また、第1の電極E1と第2の電極E2は2つ以上でもよい。
【0019】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態の電気的特性パラメータ検査装置1と対象物Cの概略図である。
電気的特性パラメータ検査装置1は、対象物Cに接触(または近接)させた第1の電極E1と第2の電極E2により対象物Cを挟み(このような電極配置を、Out-plane型と呼ぶ)、第1の電極E1と第2の電極E2の間の対象物Cの電気的特性パラメータの値を計測する。なお、
図2では、第2の電極E2は、対象物の底面一面に一体として配置されているが、第1の電極E1に対応して、第1の電極E1と同様に、個別に配置されるもので合っても良く、当該構成を想定して、一組の第1の電極E1と第2の電極を電極対と呼ぶことにする。また、第2の電極E2は、対象物Cの底面に限られず、内部に設置してもよい。
【0020】
対象物Cは、代表的な例としては、鉄筋コンクリート(
図1;鉄筋F)などの比較的大きな構造材が挙げられるが、これに限定されるものではなく、その他の例として、半導体、絶縁体、導体、環境により電気特性が変化する材料、金属製の構造材、フィラーと樹脂からなる複合材(CFRP等)、金属または樹脂からなる複合材なども想定される。電気的特性パラメータ検査装置1は、電気的特性パラメータの取得を介して、対象物の構造検査、特性・性状調査、欠陥検出(異物、亀裂、剥離、空隙等の検査)等を実施する。
【0021】
なお、用語の定義として、単位電極とは電極端子1個のことを指す。また、要素電極とは単位電極が2つ以上のものであり、印加電圧の極性は区別しない。また、要素領域の形成には、複数の要素電極が必要になる。電極とは、1つの要素領域(計測範囲)を作る為に必要な全ての要素電極/単位電極を指す。要素領域とは、複数の要素電極間(電極)に生じる電界分布を指し、実効的な計測範囲である。電極対とは、電圧差が発生する電極の構成を指すものとする。
【0022】
図3は、電気的特性パラメータ検査装置1の機能的構成を示すブロック図である。電気的特性パラメータ検査装置1は、データ取得部11、操作部12、表示部13、通信部14、記憶部15、電極Eを備える。
【0023】
データ取得部11は、CPU(Central ProCessing Unit)、RAM(Random Access Memory)等を含み、電気的特性パラメータ検査装置1における一連のデータ取得動作を実行および制御する。具体的には、CPUは、記憶部15に記憶されている各種処理プログラムを読み出してRAMに展開し、当該プログラムとの協働により各種処理を行う。また、データ取得部11は、選択部111、信号生成部112、計測部113、解析部114、制御部115として機能する。
【0024】
選択部111は、対象物Cに相対して用意した複数の電極対の中から所定の電極対を選択し、選択した電極対を対象物Cに接触または近接させる。非図示ではあるが、選択部10は、電極対を対象物Cに接触・近接/離間させる機構を備える。なお、各電極は、複数の単位電極の集合体として構成されても良い。
【0025】
図2に示す電気的特性パラメータ検査装置1の場合、第1の電極E1を選択し、対象物Cに接触させる。つまり、選択部10は、第1の電極E1として、
図2奥側左の3×3の9個の電極または電極対Eと、手前側左の3×3の9個の電極または電極対Eを選択し、対象物Cに接触させている。このように電極または電極対Eを選択するパターンを、選択パターンと呼ぶ。つまり、選択部111は、電極または電極対の位置及びサイズを切替え制御する。なお、前述したように、
図2において、第2の電極E2は、対象物Cの第1の電極E1の接触面とは反対側の面(底面)の一面にわたり設けられているが、かならずしもこの限りでなく、第1の電極E1に相対する位置と大きさで個別に配置されも良い。
【0026】
第1の電極E1と第2の電極E2に電気信号を印加して空間的に形成される電界のパターンを電界パターンとよぶ。この電界パターンは、対象物の上方から鳥瞰的に見た場合に2次元平面上に表現される所定の2次元パターンである。例えば、
図4に示すような、互いに2次元空間上の直交関係にある2次元パターンが挙げられる。例えば、
図2の電極配置で形成される電界パターンは、
図4の破線で囲まれた電界パターンに対応する。つまり、
図4に示す2次元パターンの白色の領域が、電極または電極対E(第1の電極E1)が対象物Cに接触され信号が印加されることで電界が形成され、電気的パラメータが取得される領域を示す。一方で、黒色の領域は、電界が形成されていない領域を示す。ここで、電界パターンのうち、電極または電極対Eごとに対応する領域を要素領域Aとする。所定の2次元パターンとしては、直交関係にある2次元パターンとしてアダマール行列型循環パターンがあり、また、ランダムパターンであってもよい。
【0027】
信号生成部112は、所定の周波数範囲で掃引された電気信号(交流信号)を第1の電極E1と第2の電極E2からなる電極対に出力する。
交流信号を使用する場合、信号生成部112は、電極対に印加する交流信号の周波数や周波数範囲、交流信号振幅(交流電圧振幅、交流電流振幅)を制御する。
【0028】
計測部113は、信号生成部112から出力された電気信号が電極対を介して印加された際の電気的特性パラメータの値を計測する。ここで、電気的特性パラメータとしては、例えば、電流値・電圧値や、インピーダンス・アドミタンス、あるいはこれらから導出される誘電率や導電率などが挙げられる。
【0029】
制御部115は、選択部111,信号生成部112,計測部113を制御することにより、前記選択パターンを変更して、選択パターンごとに電気的特性パラメータの計測を行い、その結果として得られる複数回の電気的特性パラメータを取得し蓄積する。例えば、
図4に示す選択パターンのそれぞれに対して電気的特性パラメータを複数回取得する。
【0030】
解析部114は、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータの値を解析する。
例えば、
図2で示す複数の電極または電極対は、対象物Cに対して規則的に配列されており、対象物Cの2次元情報を網羅的に取得できる。選択パターンは、対象物Cの2次元情報の一部を取得するための構成であり、選択パターン毎に電気的特性パラメータを計測することにより、都度異なる領域の対象物Cの情報を取得する。
ここで、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータは、選択パターンに含まれる複数の電極対から得られる情報が集約されたものであり、この値だけから対象物Cの2次元情報を得ることはできない。ただし、各選択パターンに含まれる電極対の位置は既知であり、上記の通り、各選択パターンに対応する計測値は、都度異なる領域の対象物Cに関する情報を含み、かつ計測に用いた各周波数帯域での信号の情報(振幅や位相等)を有している。
【0031】
次に、解析部114は、既知の各選択パターンに含まれる電極対の位置情報と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータとを用いて、行列計算を行うことで対象物Cの2次元情報を再構成する。ここで、選択パターンとして、前述したアダマール行列型循環パターンやランダムパターンを用いることで、効率良く行列計算を行うことができる。再構成した対象物Cの2次元情報は、例えば、対象物C内の抵抗値や誘電率、静電容量等の分布である。また、それらの電気的特性を基にして推定された、対象物C内の欠陥、異物、腐食の存在確率や位置情報である。
【0032】
また、対象物Cの2次元情報の再構成には、複数の選択パターンによる計測が必要であり、基本的に使用する選択パターンの数を増やすほどに再構成の精度が向上するが、一方で計測時間は増加する。そこで、解析部114は、再構成の計算過程において、選択パターンを変更して計測することで得られる情報を都度、統計的手法もしくは機械学習を用いて解析し、回帰や分類等の目的に応じて所望の精度が得られるまで、計測を継続もしくは終了し、精度の高い計測を適切な時間で行なう。
【0033】
なお、
図2において、電極または電極対の配置は電極同士が隣接して配列した矩形状パターンとなっているが、各選択パターンに含まれる電極または電極対の組合せが既知であれば、これに限らない。例えば、円形状に配列されていても、離れた位置に点在していても、同一平面内になくても良い。
また、解析部114で解析する情報は、2次元再構成した情報に限らず、選択パターンごとに計測された値そのものであっても良い。各選択パターンに含まれる電極または電極対の位置は既知である為、ある選択パターンでの計測値の解析結果が異常値を示した場合に、対象物C内の異常部位のおおよその位置を推定することができる。得られた情報を基に、異常部位を含んでいる可能性が高い選択パターンを選択するよう測定手順(アルゴリズム)を適応的に変更することで、より短時間で精度の高い計測を行なうことができる。
また、この方法を用いて、解析部114は、統計手法や機械学習を用いず、電気的特性パラメータの値が高い(又は低い)領域を徐々に絞り込むことで、短時間で対象物Cの欠陥などの場所を特定することも可能である。
【0034】
操作部12は、カーソルキー、文字入力キー及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された操作信号をデータ取得部11に出力する。また、操作部12は、タッチパネル等により構成され、操作者の指等による操作の位置に応じた操作信号をデータ取得部11に出力することとしてもよい。
【0035】
表示部13は、LCD(Liquid Crystal Display)等のモニターを備えて構成されており、データ取得部11から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
【0036】
通信部14は、ネットワークインターフェース等により構成され、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等の通信ネットワークNを介して接続された外部機器との間でデータの送受信を行う。
【0037】
記憶部15は、HDD(Hard Disk Drive)や不揮発性の半導体メモリー等により構成され、各種データを記憶する。
【0038】
電極または電極対Eは、対象物Cに対して信号生成部112から出力された電気信号を伝える素子であり、例えば、平板状やフィルム状の態様をとり得る。前述のように、
図2の場合、選択部111により選択され対象物C表面に接触される電極である第1の電極E1と、対象物底面に接触される電極であり第2の電極E2により、複数の電極対を構成する。
【0039】
ここで、選択パターンごとに選択された複数の電極対の接続方法は、対象物によって適宜適切な構成が選ばれる。即ち、コンクリート等インピーダンスが高い傾向にある対象物に対しては、第1の電極E1および第2の電極E2を構成する電極対を並列的に接続し、CFRP等インピーダンスが低い傾向にある対象物に対しては、電極対を直列的に接続する。具体的には、
図2の変形例として、第2の電極E2は、第1の電極E1と対象物Cを挟んで対向する選択された電極Eであり、第1の電極E1と第2の電極E2とからなる複数の電極対を、第1の電極E1-第2の電極E2-第1の電極E1-・・・と接続することで、直列接続を構成する。これにより、計測部113に入力される電気的特性パラメータのダイナミックレンジを抑制し、計測部113に求められる電気的仕様を緩和する、
【0040】
図5に、電気的特性パラメータ検査装置の処理方法を示すフローチャート図を示す。
本図に示す処理方法とは、所定の選択パターンに基づく電極または電極対Eの選択と、当該選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータを解析し、対象物C内の電気的特性パラメータの分布状態を2次元情報として取得する処理である。なお、選択パターンは、予め記憶部15に複数記憶されているものとする。また、選択パターンを切り替えることで、対象物Cの計測希望領域は空間的に網羅されることとする。
【0041】
なお、選択パターンの切り替え順は、ランダムでも、用途や目的に応じて任意に設定しても構わない。例えば、
図2の様な2次元平面状の電極または電極対配列において、
図4に示すアダマール行列型循環パターンでの計測を行なう場合に、低空間周波数パターンを使った計測から始めて、次第に高空間周波数パターンで計測を行なうことにより、再構成過程において対象物Cの2次元情報の概要を早期に把握することができ、効率の良い計測を行うことができる。
【0042】
まず、選択部111は、所定の選択パターンに基づいて対象物Cに接触させる1または複数の電極を選択し、接触させる(ステップS1)。なお、
図2の構成では、第2の要素電極E2は、予め対象物Cの底面全体に一体として接触しているため、選択部111で選択および接触される電極は、第1の要素電極のみである。
【0043】
次に、信号生成部112は、電気信号を第1の電極E1と第2の電極E2からなる電極対に入力する(ステップS2)。
【0044】
次に、計測部113は、第1の電極E1と第2の電極E2によって当該領域における対象物Cの電気的特性パラメータ(例えば、インピーダンス値)を計測する(ステップS3)。
【0045】
制御部115は、選択部111に対して、選択パターンの変更を指示した上で、上記ステップS1からステップS3までの処理を繰り返し実施するように、選択部111、信号生成部112および計測部113を統合制御する。なお、制御部115の動作・機能は、かならずしもコンピュータ等による自律制御とする必要はなく、計測者によって人為的に選択パターンを選択・変更しながら、電気的パラメータの取得を繰り返して行うものであっても良い。
【0046】
次に、データ取得部11は、記憶部15に記憶された複数の所定の選択パターンを用いて取得されたか判断する(ステップS4)。所定の計測完了した場合、計測された電気的特性パラメータの解析に進む(ステップS4;YES)。計測完了していない場合、ステップS1に進み、次の選択パターンに対応した計測を行う(ステップS4;NO)。
【0047】
次に、解析部114は、各選択パターンに対応して取得した電気的特性パラメータを解析する(ステップS5)。例えば、既知の各選択パターンに含まれる電極対の位置情報と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータとを用いた、行列を計算することで対象物Cの2次元情報を再構成し、対象物C内の電気的特性パラメータの分布状態を把握し、内部鉄筋の腐食などを確認することができる。
【0048】
図6に、電気的特性パラメータ検査装置の別の処理方法を示すフローチャート図を示す。なお、本図におけるステップS3までの手順は、
図5に示すフローチャートと同様であるため、説明を省略する。
解析部114は、S3のプロセスで得られた電気的特性パラメータを用いて2次元情報の再構成を行なう。その結果を表示部13で計測者に示し、S6において計測の継続または終了の判断を促す。もしくは、解析部114で統計手法もしくは機械学習を用いて、目的に対して十分な精度が得られたかの判定を行ない、計測の継続または終了の判断を行なっても構わない。この様なフローを用いることで、最小限の計測時間で必要な精度の計測を行なうことができる。
【0049】
また、
図5および
図6の各フローでは、第1信号の入力(S2)、第2信号の計測(S3)、第2信号の解析(S5)を逐次的に実施しているが、選択パターンに対応した解析(S5)を行なっている間に次の選択パターンを用いた入力(S2)・計測(S3)を併行で実施しても構わない。
【0050】
(第2の実施形態)
図7は、第2実施形態の電気的特性パラメータ検査装置1と対象物Cの概略図である。
電気的特性パラメータ検査装置1は、対象物Cの同一面側(
図7では表面側)に対して接触(または近接)させた電極対(第1の要素電極E1と第2の要素電極E2)により(このような電極配置を、In-plane型と呼ぶ)、当該電極対の間の対象物Cの電気的特性パラメータを計測する装置である。
なお、
図7に示す電極配置は、
図4の破線で囲まれた選択パターンに対応する電界パターンを形成するものであり、当該白色部分の電気的特性パラメータを取得するものである。
また、選択部111は、対象物Cに接触させる電極を選択し、接触させる(ステップS1)。
また、その他電気的特性パラメータ検査装置1の構成や、処理方法のフローなどは第1実施形態と同様である。
【0051】
(第3の実施形態)
図8は、第3実施形態の電気的特性パラメータ検査装置1と対象物Cの概略図である。
第1実施形態や第2実施形態では、全ての電極または電極対Eは、整列して並べられているが、必ずしもその必要はなく、対象物の形状や電気的特性パラメータを取得したい領域に合わせて、
図8に示すように適切に配置すれば良い。
また、その他電気的特性パラメータ検査装置1の構成や、処理方法のフローなどは第1実施形態と同様である。
【0052】
なお、サイズの異なる電極対Eを用意しておくことで、
図4に示す2次元パターンの白色の部分に合わせて、計測者が各種サイズの電極または電極対Eから、適切なサイズの電極または電極対Eを選択することで、より柔軟に電極配置行うことができる。具体的には、
図4の左上の電界パターンに対応した選択パターンの場合、大きいサイズの電極または電極対Eを使用し、
図4の右下の電界パターンに対応した選択パターンの場合、小さいサイズの電極または電極対Eを使用する。これにより、選択パターンごとに使用する電極または電極対Eの数を減らせるため、計測者は、より柔軟かつ効率的に電極を配置することができる。
【0053】
(その他)
図9は、電極または電極対Eのサイズと要素領域Aの関係を示す図である。
図9では、電界が電極または電極対Eの周辺にも拡がることを考慮して、要素領域Aに対して電極または電極対Eのサイズを小さく設定する。これにより、電界の拡がりを要素領域A内に抑制し、対象物Cにおいて電気的特性パラメータを取得したい領域を適切に設定し、電気的特性パラメータの分布状態の解析において分解能を改善する。
すなわち、
図4に示すような選択パターンと各選択パターンに対応する電気的特性パラメータを用いて、対象物C内の電気的特性パラメータの分布状態を2次元情報として再構成するためには、選択パターン通りに電界が形成されることが好ましい。しかし、電極または電極対Eのサイズと要素領域Aのサイズを同一とした場合、電界は要素領域Aを超えて拡がるため、
図4に示す選択パターンに対応した電気的特性パラメータを正しく取得することができない。
【0054】
なお、電極または電極対Eのサイズは、例えば、要素領域Aの略1/4以上のサイズ(要素領域Aの1辺の半分)に設定することが望ましい。
【0055】
図10は、対象物Cに設置された電極対(第1の電極E1及び第2の電極E2)のサイズと各電極によって形成される電界パターン、および対象物Cの導電性の関係を示す図である。
図10において、点線で囲まれた部分が各電極によって形成される電界を表している。
図10に示すような電界パターンを得たい場合、対象物Cの導電性が高い場合(
図10左)は、当該電界パターンとほぼ同じサイズの電極として3×3の電極Eが選択され、対象物Cの導電性が低い場合(
図10右)は、当該電界パターンに対して小さなサイズの電極として1つの電極Eのみが選択されている。
【0056】
電極が形成する電界は、対象物Cの導電性が高ければ、電極サイズに対してあまり拡がらず、一方で、対象物Cの導電性が低ければ、電極サイズに対して拡がり易い性質がある。つまり、本実施形態において得られる電気的特性パラメータは、対象物Cの導電性によって、電極サイズを超えて拡がる電界による影響が変化する。そこで、第1の電極E1及び/又は第2の電極E2を、それぞれ複数の要素電極の集合体として形成し、対象物Cの導電性に応じて、第1の電極E1及び/または第2の電極E2を構成する要素電極の数を調整することで、第1の電極E1及び/又は第2の電極E2のサイズを制御し、所望の領域に電界パターンを適切に形成し、電気的特性パラメータの分布状態の解析において分解能が改善する。
【0057】
図11には、電界のガードバンド(遮蔽領域)を設けた例を示す。
図11に示すように、In-plane型の場合、第1の電極E1を、第2の電極E2で囲むことで、電界が、第2の電極E2より周りに拡がることを抑制できる。つまり、異なる電極対の電界間で生じる相互干渉を防止することができる。これにより、選択パターン通りに電界を形成し、電気的特性パラメータの分布状態の解析において分解能が改善する。
なお、Out-plane型の場合でも、第1の電極E1の周りに、グランドに接続された電極(グランド電極)を配置することで、ガードバンドを設けることができる。ここで、グランド電極は、選択部111により選択される。
【0058】
図12および
図13は、信号生成部112から出力される電気信号のプロファイル(周波数帯等)と電極配置、あるいは対象物Cにおける検査希望領域との関係性を説明する図である。
図12には、In-plane型において、信号生成部112により出力される電気信号の周波数帯による電界の拡がり方の違いと、これに対応した電極間距離の違いを示す。
図12左のように、低周波帯の場合、電界の距離依存減衰が小さい性質を有するため、第1の電極E1と第2の電極E2の距離を大きくすることが可能である。一方で、
図12右のように、高周波帯の場合には、電界の距離依存減衰が大きい性質を有するため、低周波帯の場合に比して第1の電極E1と第2の電極E2の距離を小さくする。
つまり、信号生成部112は、第1の電極E1及び第2の電極E2の距離に応じて、周波数範囲を制御する。より具体的には、信号生成部112は、第1の電極E1及び第2の電極E2の距離が短い場合には、周波数範囲を高周波帯とし、第1の電極E1及び第2の電極E2の距離が遠い場合には、周波数範囲を低周波帯とする。
あるいは、選択部111は、信号生成部112から出力される電気信号の周波数範囲に応じて、第1の電極E1及び第2の電極E2の距離を制御する。より具体的には、信号生成部112から出力される電気信号の周波数範囲が高周波帯である場合には、第1の電極E1及び第2の電極E2の距離を小さくし、電気信号の周波数範囲が低周波帯である場合には、第1の電極E1及び第2の電極E2の距離を大きくする。
【0059】
図13には、In-plane型において、信号生成部112により出力される電気信号の周波数帯による電界の深度方向における拡がり方の違いを示す。低周波数帯では、電界の距離依存減衰が小さく、電界が対象物Cの深部まで到達するので、対象物Cの深部における電気的特性パラメータを計測することができる。一方で、高周波帯では、電界の距離依存減衰が小さく、電界が拡がりにくく対象物Cの浅部に形成されるため、対象物Cの浅部における電気的特性パラメータを計測することができる。
つまり、信号生成部112は、対象物Cの検査深度に応じて、電気信号の周波数範囲を制御する。より詳しくは、対象物Cにおける計測希望領域が浅部である場合に、電気信号の周波数範囲を高周波帯とし、計測希望領域が深部である場合に、電気信号の周波数範囲を低周波帯とする。
【0060】
また、単位電極は、フィルム状に限られず、バルク状やニードル状の各種態様をとり得るものであり、また四角形に限られず、円形や三角形、あるいは不定形であってもよい。つまり、単位電極は、対象物Cの形状や特性に応じて、適切に電界を印加できるように当該形状が選択される。例えば、柔らかい素材や凸凹した素材を使用することにより、対象物Cの表面形状が凸凹の場合でも、電極または電極対を対象物に接触または近接させ、適切に電気的特性パラメータを測定可能である。
【0061】
また、電極配置方法として、In-plane型とOut-plane型を組み合わせることも可能である。つまり、対象物Cの形状や構造に応じて、領域ごとにIn-plane型とOut-plane型を使い分ける。これにより、対象物がいかなる形状・構造を有する場合でも、より柔軟に電気的特性パラメータを取得することができる。
【0062】
また、信号生成部112は、電極または電極対ごとに、印加する電気信号の周波数帯を異なるものとしても良い。具体的には、電気信号を周波数変換(アップコンバート/ダウンコンバート)した上で、各電極または電極対に印加する。これにより、特に隣接する電極対に印加される電気信号の周波数帯域を異なるように設定し、各電極または電極対で形成される電界間の干渉を防いで、より正確な電気的特性パラメータを取得することができる。
【0063】
また、信号生成部112は、電極または電極対により、印加する電気信号の周波数掃引順または周波数掃引方向を異なるものとしても良い。例えば、隣接する電極または電極対の間で、一方の電極または電極対には、低周波から高周波に向けて掃引される電気信号を印加し、他方の電極または電極対には、高周波から低周波に向けて掃引される電気信号を印加する。これにより、隣接する電極または電極対で形成される電界間の干渉を防いで、より正確な電気的特性パラメータを取得することができる。
【0064】
また、信号生成部112は、一つの周波数成分をもつ電気信号を電極または電極対に印加するのでなく、複数の周波数成分をもつ電気信号を電極または電極対に印加し,計測部113は、複数周波数成分における電気的特性パラメータを同時に計測してもよい。これにより、より短時間で電気的特性パラメータを取得することができる。なお、計測部113は、フィルタ処理や高速フーリエ変換等により,各周波数成分における電気的特性パラメータを抽出する。
【0065】
また、電極または電極対Eは、所定の周波数帯に対する共振構造を有してもよい。これにより、所定の周波数帯における電気的特性パラメータの取得感度を向上させることができる。
【0066】
また、電極または電極対に印加する信号は、交流信号に直流信号をバイアスとして重畳した信号でもよい。直流信号を重畳する場合、信号生成部112は、直流電圧や直流電流を制御する。これにより、対象物Cの電気的特性パラメータの直流バイアス依存性を計測することができる。なお、電気的特性パラメータとしてインピーダンスを計測する際は、入出力における直流信号分を除いてインピーダンスを算出する。
【0067】
また、上記実施形態では、電極対を通して対象物Cに電気信号を印加する形態を記載したが、対象物Cから発生される信号(例えば、放射線、磁力、温度など)をセンサが検知する形態としてもよい。その場合、センサに信号を印加する必要は必ずしもないこととなる。なお、センサには、放射線検出器や磁力センサ、温度センサなどが含まれる。
【0068】
(効果)
以上説明したように、電気的特性パラメータ検査装置1は、対象物に配置される複数のセンサと、複数のセンサのうち2以上のセンサのセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部111と、選択パターンごとに、選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部113と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータを解析する解析部114と、を備えることで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0069】
また、電気的特性パラメータ検査装置1は、対象物の表面及び/又は裏面に配置される複数の単位電極と、複数の単位電極のうち1以上の単位電極からなる少なくとも2つ以上の要素電極で構成される電極を形成し、複数の電極によって選択パターンを形成する選択部111と、所定の電気信号を出力する信号生成部112と、選択パターンごとに、選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、信号生成部112から出力された所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測部113と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータを解析する解析部114と、を備えることで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を短時間で検査することができる。
【0070】
また、計測部113は、対象物の電気的特性に基づいて、電極に対応した対象物内の計測範囲を要素領域として設定し、当該要素領域の電気的特性パラメータを計測することで、高精度に検査することができる。
【0071】
また、電極を構成する一方及び他方の電極のサイズは、複数の要素電極により形成される対象物における電界の拡がりを考慮して、要素領域と同等もしくはそれ以下であり、対象物に応じて当該電極のサイズを切替え制御することで、高精度に検査することができる。
【0072】
また、電極を構成する一方及び他方の要素電極は、1または複数の単位電極から構成され、当該単位電極を選択することにより、電極のサイズおよび形状を切替え制御することで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0073】
また、電極を構成する単位電極は、平板形状電極、ブロック形状電極、フィルム形状電極、ニードル形状電極、または対象物の形状に対応したフレキシブル形状電極のいずれかで構成されることで、対象物の形に応じて、検査することができる。
【0074】
また、選択パターンに含まれる複数の電極は、並列的に計測部113に接続されることで、計測される電気的特性パラメータを調整できる。具体的には、対象物が高インピーダンスであり、計測が難しい場合、電極対を並列接続にすることで、計測されるインピーダンスを下げることができるので、計測が容易になる。
【0075】
また、選択パターンに含まれる複数の電極は、直列的に計測部113に接続されることで、計測される電気的特性パラメータを調整できる。具体的には、対象物が低インピーダンスであり、計測が難しい場合、電極対を直列接続にすることで、計測されるインピーダンスを上げることができるので、計測が容易になる。
【0076】
また、選択パターンにおける複数の電極間に、当該電極同士の電気的干渉を軽減または防止する遮蔽領域を設けることで、高精度に検査することができる。
【0077】
また、遮蔽領域は、電極を構成する第1の要素電極を囲む第2の要素電極で構成されることで、遮蔽領域を簡易な構成で実現できる。
【0078】
また、第2の要素電極は、グランド接続された電極であることで、遮蔽領域を実現できる。
【0079】
また、複数の選択パターンは、それぞれ所定の2次元パターンを形成することで、対象物C内の電気的特性パラメータの分布状態を2次元情報として解析できる。
【0080】
また、複数の選択パターンは、互いに2次元空間上の直交関係にあることで、対象物C内の電気的特性パラメータの分布状態を2次元情報として解析できる。
【0081】
また、選択部111は、選択パターンを変更し、計測部113は、選択部111によって選択された選択パターンごとに電気的特性パラメータを計測し、解析部114は、選択部111および計測部113によって複数回計測された電気的特性パラメータを解析することで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0082】
また、電気信号は、交流信号であり、信号生成部112は、出力する交流信号の周波数及び/又は振幅を制御し、計測部113は、電気的特性パラメータとしてインピーダンスまたはアドミタンスを計測することで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0083】
また、電気信号は、直流信号であり、信号生成部112は、出力する直流信号の電圧及び/又は電流を制御し、計測部113は、電気的特性パラメータとして電気抵抗値を計測することで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0084】
また、電気的特性パラメータ検査方法は、対象物に所定の選択パターンで2以上のセンサを配置する配置ステップと、所定の選択パターンで配置されたセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測ステップと、計測された電気的特性パラメータを解析する解析ステップと、を有し、配置ステップにより選択パターンが変更されるたびに、計測ステップにより電気的特性パラメータを計測し、解析ステップは、複数の選択パターンで計測された電気的特性パラメータに基づいて解析することで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0085】
また、対象物の表面及び/又は裏面に所定の選択パターンで電極対を配置する配置ステップと、所定の選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、対象物に所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測ステップと、計測された電気的特性パラメータを解析する解析ステップと、を有し、配置ステップにより選択パターンが変更されるたびに、計測ステップにより電気的特性パラメータを計測し、解析ステップは、複数の選択パターンで計測された電気的特性パラメータに基づいて解析することで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0086】
また、プログラムは、対象物に配置される複数のセンサを備える電気的特性パラメータ検査装置のコンピュータを、複数のセンサのうち2以上のセンサ対からなる所定の選択パターンを複数選択する選択部111と、選択パターンごとに、選択パターンに含まれるセンサから出力される電気的特性パラメータを計測する計測部113と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータを解析する解析部114、として機能させることで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0087】
また、プログラムは、対象物の表面及び/又は裏面に配置される複数の単位電極を備える電気的特性パラメータ検査装置のコンピュータを、複数の単位電極のうち2以上の単位電極からなる少なくとも1つ以上の要素電極で構成される電極を形成し、複数の電極によって選択パターンを形成する選択部111と、所定の電気信号を出力する信号生成部112、選択パターンごとに、選択パターンに含まれる電極を対象物に接触又は近接させ、信号生成部112から出力された所定の電気信号を印加して電気的特性パラメータを計測する計測部113と、選択パターンごとに計測された電気的特性パラメータを解析する解析部114、として機能させることで、機械的な走査を行うことなく、広範囲の対象を効率良く検査することができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した本実施形態における記述は、本発明に係る好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0089】
例えば、上記の実施形態では、データ取得部11は、機械学習を用いて電界パターンと電気的特性パラメータの値を解析しているが、機械学習を用いることは、必須ではない。電界パターンごとに計測される電気的特性パラメータの値の変化からも、内部鉄筋の腐食などを確認することができる。
【0090】
また、上記の実施形態では、Out-plane型の場合、第2の電極E2を対象物Cの底面としているが、対象物Cの内部でもよい。
【0091】
また、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピュータ読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。
【0092】
その他、電気的特性パラメータ検査装置を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 電気的特性パラメータ検査装置
11 データ取得部
111 選択部
112 信号生成部
113 計測部
114 解析部
115 制御部
12 操作部
13 表示部
14 通信部
15 記憶部
E 電極