(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149560
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】熱間加工試験方法、及び熱間加工試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/18 20060101AFI20231005BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N3/18
C21D8/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058196
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000237754
【氏名又は名称】富士電波工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 義浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐也
(72)【発明者】
【氏名】野田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】木津谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】横田 智之
(72)【発明者】
【氏名】村上 善明
(72)【発明者】
【氏名】飯野 仁司
(72)【発明者】
【氏名】大石 明生
(72)【発明者】
【氏名】江守 重郎
【テーマコード(参考)】
2G061
4K032
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA02
2G061AA07
2G061AA08
2G061AA17
2G061AB01
2G061AC01
2G061AC03
2G061BA03
2G061BA17
2G061CA01
2G061CB02
2G061DA14
2G061EA10
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CD06
(57)【要約】
【課題】金属材料の熱間加工を、より精度良く再現可能な試験技術を提供する。
【解決手段】金属試験片7に熱間で加工を施す熱間加工試験方法であって、少なくとも、上記加工を過熱水蒸気雰囲気下で行う。例えば、金属試験片7を加熱する加熱装置110Aと、熱間で上記金属試験片に変形を与える加工装置100とを備えて、金属試験片7に熱間加工を施す熱間加工試験装置であって、上記金属試験片7に熱間加工を施す際に、上記金属試験片7の周囲に過熱水蒸気を含む雰囲気ガスを供給して、上記金属試験片7の周囲を過熱水蒸気雰囲気とする雰囲気形成装置120を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属試験片に熱間で加工を施す熱間加工試験方法であって、
上記加工を過熱水蒸気雰囲気下で行う、ことを特徴とする熱間加工試験方法。
【請求項2】
上記金属試験片への熱処理も、過熱水蒸気雰囲気下で行う、
ことを特徴とする請求項1に記載した熱間加工試験方法。
【請求項3】
上記金属試験片の温度が200℃以上1550℃以下の温度範囲のときに、上記加工を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載した熱間加工試験方法。
【請求項4】
金属試験片を加熱する加熱装置と、熱間で上記金属試験片に変形を与える加工装置とを備えて、金属試験片に熱間加工を施す熱間加工試験装置であって、
上記金属試験片の周囲に過熱水蒸気を含む雰囲気ガスを供給して、上記金属試験片の周囲を過熱水蒸気雰囲気とする雰囲気形成装置を備える、
ことを特徴とする熱間加工試験装置。
【請求項5】
加工する金属試験片の少なくとも変形を施す加工部を外気から隔離するチャンバを有し、
上記雰囲気形成装置は、上記チャンバ内に配置され上記加工する金属試験片の少なくとも加工部の外周を覆うガス封入部と、上記ガス封入部内に上記雰囲気ガスを供給するガス供給機構と、を有する、
ことを特徴とする請求項4に記載した熱間加工試験装置。
【請求項6】
上記雰囲気形成装置は、上記ガス封入部内のガスを排出するガス排出機構を有する、
ことを特徴とする請求項5に記載した熱間加工試験装置。
【請求項7】
上記ガス供給機構は、上記ガス封入部内への上記雰囲気ガスの供給口を2以上有する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載した熱間加工試験装置。
【請求項8】
上記加熱装置は、上記チャンバ内であって、上記ガス封入部の外周に加熱部が配置される、
ことを特徴とする請求項5~請求項7のいずれか1項に記載した熱間加工試験装置。
【請求項9】
上記雰囲気ガスは、酸化性ガス、不活性ガス、還元性ガス、腐食性ガス、乾燥空気から選択した1または2以上のガスを、過熱水蒸気に混合したガスである、
ことを特徴とする請求項4~請求項8のいずれか1項に記載した熱間加工試験装置。
【請求項10】
上記雰囲気形成装置は、
水を搬送する水搬送路と、上記水搬送路を加熱して過熱水蒸気を生成する水蒸気生成部と、
上記水蒸気生成部が生成した過熱水蒸気と上記混合するガスとを混合するガス混合部と、
上記ガス混合部に上記混合するガスを供給するガス搬送路と、
を備え、
上記ガス搬送路は、上記水搬送路を加熱する加熱領域を通過してから上記ガス混合部に接続する、
ことを特徴とする請求項9に記載した熱間加工試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の熱間加工を模した試験を行う熱間加工試験に関する技術である。
従来
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼材の製造は、転炉で化学成分の調整を行った後に、スラブとして連続鋳造される。スラブは一旦保管された後に、約1200℃まで加熱され、高温域で熱間圧延されて鋼材(製品)となる。この鋼材の製造過程において、鋼材の表面に疵が発生する場合がある。
【0003】
鋼材の表面疵は、鋼材をプレス加工し構造物へ組み立てる際に、割れの起点となる恐れがあるため、除去することが好ましい。表面疵の除去は研削加工で行うのが一般的である。しかし、加工の工数、費用が掛かるばかりでなく、鋼材の元厚から減厚されることが不可避であり、鋼材の歩留まりを損なう。
このため、熱間加工による、加工材における表面疵の発生メカニズムの解明およびその対策が求められている。
【0004】
金属試験片を熱間加工する試験装置には、例えば、特許文献1~3に開示されている装置がある。
特許文献1には、金属試片の膨張収縮による変位を光学的に測定することにより、熱間加工と同様の変形加工を試片に付与した直後の変態現象を容易に測定し得る金属の変形下における各種変態測定方法及び装置を開示している。すなわち、特許文献1では、加熱後の金属試験片に対し、熱間加工と同様の変形加工を付与した直後の変形現象を測定している。
【0005】
また、特許文献2には、加工量と加工速度を分離して制御して加工を高精度にし、さらに、試片を所定の温度に正確に加熱し得る熱間加工再現試験装置が記載されている。すなわち、特許文献2には、所定温度で所定の加工をするように熱間加工条件を再現する熱間加工再現装置が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、加工機能としては金属試験片を回転させると共に回転軸に沿った横方向にも移動させて広範囲の変形加工を可能とし、加熱機能としては、金属試験片と加工具とをそれぞれ単独、又は任意に連動する加熱制御を行うことで加工熱処理条件の多様化を図ると共に、金属試験片からの加工具や金属試験片端部への抜熱を緩和して均熱部を拡大させる事で大金属試験片の採用を可能とした加工熱処理再現試験装置が開示されている。すなわち、特許文献3には、加熱機構を備えた加工装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58-154649号公報
【特許文献2】特開平11-83713号公報
【特許文献3】特許第4257952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼材の表面に疵が発生しうる第一の製造工程の例は、連続鋳造工程である。連続鋳造工程では、高温環境となるため、大気中に含まれる水分は過熱水蒸気となり、大気に含まれる酸素とともに、鋼材表面は酸化される。さらに、連続鋳造工程での鋼材は、曲げ曲げ戻しによる応力が鋼材表面に掛かる。
鋼材の表面に疵が発生しうる第二の製造工程の例は、熱間圧延工程である。圧延工程前の加熱工程において、鋼板は過熱水蒸気、酸素、炭酸ガスなどを含む燃焼ガス雰囲気に暴露され、鋼材表面は酸化される。さらに圧延工程では、鋼材に圧延による応力が掛かる。ここで、過熱水蒸気とは、100℃を超える水蒸気を言う。
【0009】
このような検討結果、及びその他の種々の検討から、発明者らは、鋼材の連続鋳造工程や熱間圧延工程などの熱間加工において、鋼材の表面疵の発生メカニズム解明およびその対策をより精度良く検討するには、鋼材の熱履歴、雰囲気条件および応力の3つの因子を、同時もしくは個々に変化させた実験(試験)が必要である、との知見を得た。
【0010】
しかしながら、特許文献1~3に記載に方法は、加熱された金属試験片に対し加工を施して熱間加工を再現するものであるが、その加工の際の雰囲気条件について考慮がされていない。
【0011】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、金属材料の熱間加工を、より精度良く再現可能な試験の技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のように、熱間加工試験において熱間加工時の雰囲気条件について、種々検討した結果、過熱水蒸気を含む雰囲気とすることが重要であるとの知見を得た。すなわち、鋼材を、過熱水蒸気を含む水蒸気雰囲気下で熱処理し加工することで、鋼材の表面疵を精度良く再現可能となり、その過熱水蒸気雰囲気の条件をコントロールすることで、熱間加工される鋼材の表面疵の発生メカニズムの解明および表面疵を抑制するための対策の検討がより精度良く実行可能となる、との知見を得た。
本発明は、このような知見を基づきなされたものである。
【0013】
そして、本発明の一態様は、金属試験片に熱間で加工を施す熱間加工試験方法であって、少なくとも、上記加工を過熱水蒸気雰囲気下で行う、ことを要旨とする。
【0014】
また、本発明の他の態様は、金属試験片を加熱する加熱装置と、熱間で上記金属試験片に変形を与える加工装置とを備えて、金属試験片に熱間加工を施す熱間加工試験装置であって、上記金属試験片に熱間加工を施す際に、上記金属試験片の周囲に過熱水蒸気を含む雰囲気ガスを供給して、上記金属試験片の周囲を過熱水蒸気雰囲気とする雰囲気形成装置を備える、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の態様によれば、過熱水蒸気を含む雰囲気ガス雰囲気下で金属試験片を熱処理すると共に熱間加工することで、熱間加工の際に金属材料に生じる現象を、より精度良く再現可能となる。例えば、本発明の態様によれば、より精度良く鋼材の製造過程で発生する表面疵を再現し、その発生メカニズムの解明およびその対策の検討に用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る熱間加工試験装置の模式図である。
【
図4】ガス封入部への雰囲気ガス供給部分の模式図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の趣旨を損なわない装置の設計の範囲内であれば柔軟に設計変更可能である。
本発明は、鋼その他の金属材料を熱間加工で製品を製造する熱間加工処理を再現するのに好適な試験方法である。
以下の実施形態では、金属試験片の金属材料として鋼材を例に説明するが、他の金属材料であっても適用可能である。
【0018】
(構成)
図1は、本実施形態の熱間加工試験装置の全体構成図である。
本実施形態の熱間加工試験装置は、加工装置100と、少なくとも加熱装置110Aを有する熱処理装置110と、雰囲気形成装置120とを備える。
【0019】
<加工装置>
加工装置100は、金属試験片7に変形を施す装置、即ち金属試験片7に加工処理を実行する装置である。本実施形態では、熱間加工として引張加工の場合を例示する。
【0020】
本実施形態の加工装置100は、
図2に示すように、金属試験片7の両端部を把持する一対の治具6と、一対の治具の一方を金属試験片7の長手方向(
図2では上下方向)にストローク可能なアクチュエータ8とを備える。アクチュエータ8は、例えば油圧や電気駆動で駆動する装置である。この構成によって、加工装置100は、金属試験片7に引張加工を施すことが可能となっている。
【0021】
加工は、曲げ加工、圧縮加工、せん断加工、ねじり加工などであってもよい。また、2種類以上の加工を組み合わせてもよい。曲げ加工には、3点曲げ試験器や4点曲げ試験器などを使用すればよい。圧縮加工は、アクチュエータ8を下方(下方の治具6側)に移動させればよい。せん断加工は、金属試験片7の両端部を把持する一対の治具6を同一直線上でない位置とし、圧縮加工もしくは引張加工すればよい。ねじり加工は、アクチュエータ8に内蔵したモータにより回転させればよい。
【0022】
<加熱装置110A>
加熱装置110Aは、加工する金属試験を加熱する装置である。本実施形態では、加熱装置110Aの加熱部が、加工される金属試験片7の外周に配置されている。
【0023】
本実施形態の加熱装置110Aは、加熱用コイル9を備える。加熱装置110Aは、例えば、金属試験片7が予め設定したヒートパターンとなるように、不図示の電源部から加熱用コイル9に高周波電流を供給し、高周波誘導加熱により金属試験片7を所望の温度まで加熱する。
金属試験片7の加熱では、試験片7の上下に電極を設け、通電することによる通電加熱を併用してもよい。
【0024】
ここで、本実施形態では、
図1に示すように、加工する金属試験片7の少なくとも加工部を外気から隔離するチャンバ5を有する。チャンバ5によって、外気による熱間加工への影響を抑える。加工部とは、加工によって変形する部分における少なくとも評価を行う材料部分を含む部分を指す。
【0025】
熱処理装置110は、冷却装置110Bを有していても良い。冷却装置は、例えば、加工後の金属試験片7を急冷する処理を実行する。冷却装置は、冷却ガス供給機10が供給する冷却ガスを、ガス配管30を通じて、金属試験片7に向けて吹き付けることにより、金属試験片7を所定の冷却速度で冷却可能となっている。
【0026】
<雰囲気形成装置120>
雰囲気形成装置120は、少なくとも加工装置100の作動により、金属試験片7に変形を施す際に、金属試験片7の加工部の外周に過熱水蒸気を含む雰囲気ガスを供給して、金属試験片7の周囲を過熱水蒸気雰囲気とする装置である。
【0027】
供給する雰囲気ガスは、過熱水蒸気だけから構成されても良いが、再現する熱間加工処理の際に発生し材料の周りに存在すると推定されるガスに応じて、過熱水蒸気に対し別のガスを混合してもよい。すなわち、供給する雰囲気ガスは、過熱水蒸気に他のガスを混合したガスであってもよい。例えば、雰囲気ガスは、酸化性ガス、不活性ガス、還元性ガス、腐食性ガス、乾燥空気から選択した1または2以上のガスを、過熱水蒸気に混合したガスから構成する。
また、過熱水蒸気に油等が混ざった雰囲気を再現する場合、水蒸気となる水が収納される後述の水タンク19内の当該水に油等を混入させて、目的とする雰囲気の環境を再現するようにしてもよい。油等とは、例えば加熱により揮発する成分である。
【0028】
これによって、過熱水蒸気雰囲気を、酸化性雰囲気(O2、Air、水蒸気)や腐食性ガス(例えばアンモニアやH2S)などとすることができる。ここで、金属試験片7の周囲を腐食性ガス雰囲気にするとともに、加圧することで、過熱水蒸気の一部が凝縮し、金属試験片7表面に腐食性ガスが溶解した水膜が形成され、腐食評価を行うこともできる。
【0029】
本実施形態の雰囲気形成装置120は、ガス封入部12と、混合ガス発生装置と、混合ガス供給装置とを備える。
[ガス封入部12]
【0030】
ガス封入部12は、チャンバ5内に配置され、加工する金属試験片7の少なくとも加工部の外周を覆う。本実施形態のガス封入部12は、金属試験片7の軸と同方向に延在する筒体から構成されている。なお、上記加熱用コイル9は、チャンバ5内であってガス封入部12の外周に配置されている。
なお、ガス封入部12によって、過熱水蒸気雰囲気を金属試験片7周りに限定することで、過熱水蒸気雰囲気の制御が応答良く且つより精度良く実行することが可能となる。
【0031】
[混合ガス発生装置]
混合ガス発生装置、過熱水蒸気に所定のガスを混合した混合ガス(雰囲気ガス)を生成する装置である。混合ガス発生装置は、例えば、水を搬送する水搬送路と、水搬送路を加熱して過熱水蒸気を生成する水蒸気生成部と、水蒸気生成部が生成した過熱水蒸気にガスを混合するガス混合部と、ガス混合部に上記混合するガスを供給するガス搬送路と、を備える。このとき、ガス搬送路は、水蒸気生成部で水を加熱する領域内を通過してから上記ガス混合部に接続することで、混合ガスを予め加温するとよい。
この構成によれば、水を過熱水蒸気とする熱源によって混合ガスも加熱されて、混合ガスを加熱するための個別の加熱部を設けることなく、混合ガスの混入による過熱水蒸気の温度が低下することが防止される。
【0032】
本実施形態の具体的な混合ガス発生装置は、
図3に示すように、水蒸気発生装置15と、ガス混合装置であるスタティックミキサ26とを備える。
【0033】
水蒸気発生装置15は、水タンク19、定量ポンプ20、エアコンプレッサ21、水蒸気発生部22、水配管23、及びヒータ24を備える。
【0034】
水タンク19は、外部の純水供給装置(不図示)から連続的に供給される純水を貯蔵する水槽である。水タンク19内の純水は、定量ポンプ20によって圧送される。圧送された水は、水配管23によって、タンク状の水蒸気発生部22の外周を螺旋状に搬送された後に、当該水蒸気発生部22内に供給される。エアコンプレッサ21は、試験後の残留水を排出するために使用される。
【0035】
水蒸気発生部22の外周(螺旋状の水配管23よりも外周)にヒータ24が配置されている。純水は、水蒸気発生部22の外周を螺旋状に搬送される際、及び水蒸気発生部22の内部を流通する間に、ヒータ24により加熱され、沸騰するとともに加熱されて過熱水蒸気となる。生成された過熱水蒸気は、水蒸気発生部22の底を流通し、更に上昇して、水蒸気発生部22の上部に接続する水蒸気配管25を通じて、スタティックミキサ26へと送られる。なお、水蒸気発生部22内において、蒸発せずに残留した液相の水は容器底部に設けられたヒータ24により再度加熱され蒸発し、水蒸気配管25を通じてスタティックミキサ26へと送られる。水蒸気配管25内を流れる過熱水蒸気もヒータ24により加熱されることで、温度低下(結露)を防止する。
【0036】
ここで、本実施形態では、純水を加熱し蒸発させて過熱水蒸気とする。蒸発により容器22内部が圧力上昇するので、定量ポンプ20により昇圧環境中へ一定速度で水を供給する工夫をしている。また、加熱ヒータ24により熱供給し沸騰させ、水蒸気を加温している。すなわち、水を常温→沸点までの温度上昇と、沸騰潜熱と水蒸気を所定温度の過熱水蒸気にする熱量を供給する。このとき、流通式の場合、連続的に供給される水を全て水蒸気にしなければならない。短流路内で加熱しきるのは困難なため、配管をらせん状に巻いて、経路を確保し、沸騰し切らずに液相のお湯が残留することを防止する工夫を施した配置としている。それでも液相のお湯が残留した場合を想定して、容器底部にお湯が滞留する箇所を設け、そこにもヒータ24を設置し、凝縮したお湯の再加熱、再蒸発させる。これにより、供給した水がすべて過熱水蒸気となることが担保され、試験片に到達する過熱水蒸気の濃度を制御することができる。
また、本実施形態では、水蒸気は温度が下がれば容易に凝縮するため、水蒸気配管25はすべて加熱し凝縮を抑制している。
【0037】
水蒸気発生部22、水配管23、水蒸気配管25は、水搬送路を構成し、ヒータ24で加熱される領域が、水蒸気生成部で水を加熱する領域を構成する。スタティックミキサ26は、ガス混合部を構成する。
【0038】
また、ガス供給装置13からのガスが、ガス混合装置14で混合・選択された後に、ガス搬送路16Aを通じて、スタティックミキサ26に供給される。
【0039】
ガス供給装置13として、例えば
図1に示すように、単成分ガスボンベ、もしくはあらかじめ成分調整した混合ガスボンベを用いてもよい。単成分ガスボンベは、必要に応じ、並列に接続する。水蒸気以外のガスを2種類以上用いる場合は、所望のガス成分濃度となるように、ガス供給装置13で所定の圧力または所定の流量の比率を設定し、ガス混合装置14にガスを供給する。ガス混合装置14は、供給されたガスをミキサで攪拌し均質な混合ガスに調整する。
【0040】
本実施形態のガス搬送路16Aは、
図3に示すように、水蒸気を生成するヒータ24での加熱領域を通過した後に、スタティックミキサ26にガスを供給する構成となっている。具体的には、ガス搬送路16Aは、水蒸気発生部22内を通過する際にヒータ24で加熱され、更に、水蒸気配管25と並列して搬送される際に、ヒータ24によって加熱される構成となっている。
【0041】
ガス混合部を構成するスタティックミキサ26は、供給された過熱水蒸気に、ガス搬送路16Aを介して供給されたガスを混合することで、所望の成分濃度の雰囲気ガスを生成する。すなわち、スタティックミキサ26に到達した過熱水蒸気ガスは、ガス混合装置14から供給された過熱水蒸気以外のガスと混合されて攪拌され、均質な混合ガスとなる。
【0042】
ここで、水蒸気発生装置15を用いることにより、金属試験片7に対し、過熱水蒸気を含む雰囲気ガスを連続供給可能となり、数日間の試験にも連続使用が可能となる。
なお、
図3の水蒸気発生部22の構成は、水蒸気発生の機構が同じである限りどのような公知の構造でも本発明の趣旨を損なうものではない。ただし、螺旋状に配置した水配管23をヒータ24で加熱する構成(螺旋構造の外周をヒータが囲む構造)は、加熱効率に優れるため好適である。
【0043】
[金属試験片7周りの雰囲気生成]
雰囲気形成装置120は、ガス封入部12内に雰囲気ガスを供給するガス供給機構を有する。すなわち、スタティックミキサ26で生成された混合ガスは、
図1に示すように、ガス配管16B、16Cより、チャンバ5もしくはガス封入部12のうち少なくともガス封入部12に供給される。本実施形態では、混合ガス(雰囲気ガス)をチャンバ5もしくはガス封入部12の両方に供給する場合で説明する。なお、チャンバ5とガス封入部12に供給するガスを異にしてもよい。試験前に、チャンバ5及びガス封入部12内を真空状態とすることが好ましい。
【0044】
雰囲気ガスは、ガス配管16Cを通じてチャンバ5内全体に供給される。供給された雰囲気ガスは、チャンバ5に接続されたガス配管17とガス配管17に接続された真空ポンプ4により、系外に排出することができる。この結果、チャンバ5内の雰囲気を一定に制御することができる。なお、いずれのガス配管も、樹脂、ガラス、セラミックス、金属いずれの材質の配管を用いても本発明の趣旨を損なわない。ただし、酸化性ガスを流通させる際の配管内部の汚損および汚損物の金属試験片7への混入を防止するため、ガス配管は、耐酸化性の高い材質が好適であり、特にステンレス鋼製が好適である。
【0045】
また、雰囲気ガスは、ガス配管16Bを通じてガス封入部12に供給される。なお、チャンバ5内の雰囲気を一定に制御してから、雰囲気ガスをガス封入部12に供給することが好ましい。金属試験片7の加工部周囲のみを囲うガス封入部12によって、金属試験片7周囲を雰囲気ガスの雰囲気に精度良く制御することが可能となる。ガス封入部12を設けることにより、短時間で金属試験片7周囲の雰囲気を所望の雰囲気ガス雰囲気に制御することが可能となる。すなわち、金属試験片7周囲の雰囲気を酸化性雰囲気と非酸化性雰囲気(真空雰囲気や、Ar、N2などの不活性ガスによる雰囲気など)で選択することができる。さらに、雰囲気の切り替えも短時間で行うことが可能となる。また、ガス封入部12の外周にチャンバ5を有することで、ガス封入部12とチャンバ5との間の領域が熱などの緩衝域となり、ガス封入部12内の温度制御も高精度で実行可能となる。
【0046】
ガス封入部12への雰囲気ガスの供給は、ガス封入部12の下部に設置した下部の均等管11Aを通じて供給される。均等管11Aのガス封入部12内に向けて開口するガス誘導口18は、
図4に示すように、2か所以上開口していることが好ましい。その複数のガス誘導口18は、金属試験片7の外周を囲むように配置され、金属試験片7に沿って上方に吹き出すように形成されていることが好ましい。これによって、ガス配管16Bを通じて均等管11Aに送られた雰囲気ガスは、ガス誘導口18を通じて金属試験片7の周方向から均一な流量で金属試験片7周囲に送られ、金属試験片7周囲を均一な雰囲気に短時間で制御することが可能となる。すなわち、ガス封入部12内のガス濃度を均等な状態に近付けやすくなる。ここで、ガス封入部12に雰囲気ガスを供給するガス誘導口18の配置位置は、上記構成でなくてもよい。雰囲気ガスを複数方向から供給することで、金属試験片7周りのガス濃度を均一化することが可能となる。
【0047】
なお、複数のガス誘導口18を金属試験片7の周方向に沿って均等に配置することで、金属試験片7表面に周方向に亘り均一に雰囲気ガスとの酸化反応が起き、均一な酸化皮膜を形成できる。また、円柱状で点対象となる金属試験片7に酸化皮膜を均等に形成する配慮をしないと、引張加工時に非酸化部(または皮膜が薄い部分)から酸化膜が優先的に破れ、実際の圧延加工による表面疵形成よりも早期に表面疵が発生する。本実施形態では、これを防止することができる。
【0048】
また、ガス封入部12の上部にも均等管11Bを設けることにより、ガス封入部12で、金属試験片7の加工部周囲のみを密閉することが可能となり、外部の雰囲気ガスがガス封入部12の上部より流入することを防ぐことが可能となる。また、ガス封入部12の上部の均等管11Bにガス配管17を接続し、真空ポンプ4に接続することにより、ガス封入部12内の雰囲気ガスを系外に排出することが可能となり、金属試験片7の周りを、より均一な雰囲気を維持することが可能となる。
【0049】
ここで、チャンバ5とガス封入部12を異なる雰囲気に制御する場合を説明する。最初に、チャンバ5及びガス封入部12内を真空もしくは実験の目的に影響を及ぼさないガス雰囲気に置換する。その後にガス封入部12の内部を雰囲気ガスの雰囲気に制御することで、大気の影響、すなわち、大気に含まれるO2やH2Oの影響を受けにくくすることが可能となると共に、雰囲気ガス雰囲気に短時間で切り替えることが出来るため、雰囲気ガスの影響評価の精度を向上させることが可能となる。
【0050】
ここで、金属試験片7周囲で意図的に凝縮するように制御しても良い。この場合、腐食性ガスによる評価も可能である。
また、雰囲気ガスを流通させることで、一般的な容器バッチ式よりも長時間、連続的に腐食性ガス流通試験ができ、腐食性ガスの減少の影響を受けないようにすることも可能である。また、引張加工もすることで、アンモニアSCCのような、腐食性環境と応力の重畳効果も評価可能である。
なお、チャンバ5とガス封入部12の一方を省略してもよい。
【0051】
また、ガス封入部12は、金属試験片7の加工部周囲より移動可能な機構(不図示)を有していても良い。金属試験片7を急冷する場合には、冷却ガス供給機10を用い、冷却ガスを金属試験片7に直接吹き付けることにより、金属試験片7の冷却速度を制御することが可能となる。もっとも、冷却ガスを供給する管路の端部を、チャンバでななく、ガス封入部12に接続しても良い。
【0052】
なお、加工装置100は、例えば、金属試験片7の温度が、200℃以上1550℃以下の熱間温度範囲で加工処理を行う。加工時の温度は、再現する熱間加熱処理での熱間温度の範囲に設定すればよい。
【0053】
ここで、加熱装置110Aを有する熱処理装置110、加工装置100、雰囲気形成装置120は、制御部3によって制御される。
制御部3は、例えば、試験開始の指令を入力すると、雰囲気形成装置120に作動指令を供給して、ガス封入部12内を過熱水蒸気雰囲気とする。例えば、過熱水蒸気雰囲気が、過熱水蒸気濃度が10~30wt%となるように制御する。濃度は、例えば、ガス封入部12から排出されるガスのガス濃度で判定する。過熱水蒸気濃度は、供給するガス量で判定してもよい。
【0054】
制御部3は、過熱水蒸気雰囲気が目的の過熱水蒸気濃度となったと判定すると、加熱装置110Aに作動指令供給して金属試験片7を加熱する。目標加熱温度は、例えば200℃以上1550℃以下とする。
【0055】
制御部3は、金属試験片が目標加熱温度になったと判定すると、加工装置100に作動指令を供給して金属試験片7の加工部に変形を施す。このとき、加熱装置110Aは停止しても良いし加熱状態を維持しても良い。再現する熱間加工処理に応じて選択すればよい。
制御部3は、目的とする加工処理が終了したと判定したら、冷却装置に作動指令を供給して金属試験片7を冷却する。
加工処理工程の一例を、
図5に示す。
【0056】
(動作その他)
金属試験片7を加熱及び熱間加工のうち、少なくとも熱間加工を実行する際に、当該処理を金属試験片7の周りを過熱水蒸気雰囲気下として実行可能となる。これによって、熱間加工処理における材料の挙動をより精度よく再現可能となる。
【0057】
また、ガス封入部12によって、金属試験片7の周りのみ過熱水蒸気雰囲気下とすることで、短時間で過熱水蒸気雰囲気を形成可能となると共に、その過熱水蒸気雰囲気を精度良く設定可能となる。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、過熱水蒸気を含む雰囲気ガス雰囲気下で金属試験片7を熱処理すると共に、熱間加工することで、熱間加工の際に金属材料に生じる現象を、より精度良く再現可能となる。例えば、本発明の態様によれば、より精度良く鋼材の製造過程で発生する表面疵を再現し、その発生メカニズムの解明およびその対策の検討に用いることが可能となる。
【0059】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)金属試験片に熱間で加工を施す熱間加工試験方法であって、上記加工を過熱水蒸気雰囲気下で行う。
(2)上記金属試験片への熱処理も、過熱水蒸気雰囲気下で行う。
(3)上記金属試験片の温度が200℃以上1550℃以下の温度範囲のときに、上記加工を行う。
(4)金属試験片を加熱する加熱装置と、熱間で上記金属試験片に変形を与える加工装置とを備えて、金属試験片に熱間加工を施す熱間加工試験装置であって、上記金属試験片の周囲に過熱水蒸気を含む雰囲気ガスを供給して、上記金属試験片の周囲を過熱水蒸気雰囲気とする雰囲気形成装置を備える。
(5)加工する金属試験片の少なくとも変形を施す加工部を外気から隔離するチャンバを有し、上記雰囲気形成装置は、上記チャンバ内に配置され上記加工する金属試験片の少なくとも加工部の外周を覆うガス封入部と、上記ガス封入部内に上記雰囲気ガスを供給するガス供給機構と、を有する。
(6)上記雰囲気形成装置は、上記ガス封入部内のガスを排出するガス排出機構を有する。
(7)上記ガス供給機構は、上記ガス封入部内への上記雰囲気ガスの供給口を2以上有する。
(8)上記加熱装置は、上記チャンバ内であって、上記ガス封入部の外周に加熱部が配置される。
(9)上記雰囲気ガスは、酸化性ガス、不活性ガス、還元性ガス、腐食性ガス、乾燥空気から選択した1または2以上のガスを、過熱水蒸気に混合したガスである。
(10)上記雰囲気形成装置は、水を搬送する水搬送路と、上記水搬送路を加熱して過熱水蒸気を生成する水蒸気生成部と、上記水蒸気生成部が生成した過熱水蒸気と上記混合するガスとを混合するガス混合部と、上記ガス混合部に上記混合するガスを供給するガス搬送路と、を備え、上記ガス搬送路は、上記水搬送路を加熱する加熱領域を通過してから上記ガス混合部に接続する。
(11)上記加工装置は、上記金属試験片の温度が200℃以上1550℃以下の熱間温度範囲で熱間加工を行う。
【符号の説明】
【0060】
3 制御部
5 チャンバ
6 治具
7 金属試験片
8 アクチュエータ
9 加熱用コイル
10 冷却ガス供給機
11A 均等管
11B 均等管
12 ガス封入部
13 ガス供給装置
14 ガス混合装置
15 水蒸気発生装置
16A ガス搬送路
16B、16C ガス配管
17 ガス配管
18 ガス誘導口
19 水タンク
20 定量ポンプ
22 水蒸気発生部
23 水配管
24 ヒータ
25 水蒸気配管
26 スタティックミキサ(ガス混合部)
30 ガス配管
100 加工装置
110 熱処理装置
110A 加熱装置
110B 冷却装置
120 雰囲気形成装置