(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014959
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ダイエットサポート機能性成分の評価方法、サプリメント及びダイエット食品
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20230124BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20230124BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230124BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20230124BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230124BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20230124BHJP
【FI】
C12Q1/06
A23L33/15
A23L33/105
A23L33/12
C12N5/10
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165497
(22)【出願日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2021118772
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】599098518
【氏名又は名称】株式会社ディーエイチシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 託磨
(72)【発明者】
【氏名】根岸 智史
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD09
4B018MD15
4B018MD26
4B018ME01
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4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
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4B063QR32
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4B065BA02
4B065BB08
4B065BB13
4B065BB19
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明は肥満関連遺伝子検査により特定された遺伝子型ダイエットタイプに対応したダイエット効果のある機能性成分を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(1)肥満関連遺伝子検査による遺伝子型ダイエットタイプを特定するステップ、(2)特定された遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築するステップ、そして(3)iPS細胞由来脂肪細胞評価系によりダイエットサポート機能性成分を評価するステップを含む、ダイエットサポート機能性成分の評価方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥満関連遺伝子に基づくiPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分の評価方法であり、該方法において、
(1)肥満関連遺伝子検査による遺伝子型ダイエットタイプを特定するステップ、
(2)特定された遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞を樹立し、iPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築するステップ、そして
(3)構築したiPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分を特定するステップ、を含む、ダイエットサポート機能性成分の評価方法。
【請求項2】
遺伝子型ダイエットタイプが洋なし型、りんご型、又はアダム・イヴ型である、請求項1に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法。
【請求項3】
前記ダイエットサポート機能性成分がベージュ化促進成分を少なくとも含有する、請求項1又は請求項2に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法。
【請求項4】
前記ベージュ化促進成分は、フォルスコリン、γ-トコフェロール、及びα-リポ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項3に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法。
【請求項5】
前記ステップ(3)において、前記iPS細胞由来脂肪細胞評価系へ前記ダイエットサポート機能性成分を添加することにより、褐色脂肪細胞マーカーUCP1、PGC1α及びベージュ脂肪細胞マーカーCD137からなる群より選ばれる少なくとも1種の相対的発現量を増大させる、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法により特定されるダイエットサポート機能性成分を、含有するサプリメント。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法により特定されるダイエットサポート機能性成分を、有効成分として含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイエットサポート機能性成分の評価方法、該機能性成分を含有するサプリメント(栄養補助食品)、及び該機能性成分を有効成分として含有する食品に関する。
【0002】
本発明のダイエットサポート機能性成分の評価方法は、遺伝子検査結果により個人の肥満関連遺伝子を反映するヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来脂肪細胞評価系を構築し、該ヒトiPS細胞由来脂肪細胞評価系により個人の遺伝的な体質に合うダイエットサポート機能性成分を検出する評価方法である。さらに、本発明はこのようなダイエットサポート機能性成分を含むサプリメント又は該機能性成分を有効成分として含有する食品を提供することにより、ダイエットの目標を効果的に達成するのを助ける。
【背景技術】
【0003】
一般的に疾患の発症は先天的な遺伝的要因が約30%、後天的な生活習慣や環境による要因は約70%と言われており、予め先天的な遺伝的要因からのリスクを把握しておくことは健康に暮らして寿命を全うするのに有益であると考える。日本人の肥満に関わる肥満関連遺伝子は主にβ3AR遺伝子、UCP1遺伝子、β2AR遺伝子の3種類があり、それにより4種の遺伝子型ダイエットタイプ(りんご型、洋なし型、バナナ型、アダム・イヴ型)に分類されている。りんご型は主にβ3AR遺伝子に変異(SNP(一塩基多型変異))がある。β3AR遺伝子が変異すると、糖質の代謝が低下し、内臓脂肪型肥満を惹起する。日本人の約34%がβ3AR遺伝子に変異を持っている。洋なし型は主にUCP1遺伝子に変異(SNP)がある。UCP1遺伝子が変異すると、脂質の代謝が低下し、脂質を多く含む食品(揚げ物やケーキ、スナックなど)を食べすぎると、下半身に脂肪がつきやすくなる。日本人の約35%がUCP1遺伝子に変異を持っている。バナナ型は主にβ2AR遺伝子に変異(SNP)がある。β2AR遺伝子が変異すると、たんぱく質を素早く代謝しやすくなる。たんぱく質の代謝が向上するため筋肉がつきにくく、一旦太ると痩せにくいことがわかっている。最後に、アダム・イヴ型はβ3AR遺伝子、UCP1遺伝子、β2AR遺伝子のいずれにも変異がないタイプである。肥満が遺伝的な要因よりも生活習慣などの要因が影響していると考えられるタイプである。
【0004】
また、脂肪細胞にはいわゆる白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があり、白色脂肪細胞は皮下や内臓に分布し、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積する。一方、褐色脂肪細胞は主に鎖骨付近や胸まわりに分布し、脂肪を燃焼し熱を産生する働きを担っている。
さらに、上記の古典的な褐色脂肪細胞に加えて、もう一つのタイプの脂肪細胞が知られている。この細胞はベージュ脂肪細胞と呼ばれ、白色脂肪細胞や褐色脂肪細胞と異なり、寒冷刺激や一部の糖尿病治療薬の投与などの刺激に応じて誘導され、熱産生を行う。また、刺激がなくなると消失していく。この誘導性が白色脂肪細胞及び褐色脂肪細胞と区別する最大の特徴になる。
【0005】
今まで、肥満による生活習慣病を予防するための食品や薬品の研究が積極的に行われているが、本発明者らが知る限り、先天的な遺伝的要因による肥満の予防及び改善方法がいまだに確立されていない。
【0006】
ところが、2006年8月に京都大学の山中教授は体細胞に4つの因子(Oct3/4,Klf4,Sox2,c-Myc)を導入することにより、胚性幹細胞(ES細胞)と同様な多能性を持つiPS細胞を樹立し、そして2007年にはヒトのiPS細胞の樹立
に成功した。iPS細胞は再生医療以外にも特定の疾患の患者から作ったiPS細胞を利用して、上記褐色脂肪細胞、ベージュ脂肪細胞や白色脂肪細胞の働きの違いにより、その患者にあった薬や治療法を開発するオーダーメイド医療への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】米代 武司、梶村 真吾、「褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞の制御機構と臨床的意義」、生化学、第89巻第6号、pp.917-920(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞の熱産生機能、そしてベージュ脂肪細胞への誘導性に着目し、その解決しようとする課題は、被験者の遺伝子検査によって遺伝子型ダイエットタイプを特定し、さらに被験者のiPS細胞を樹立し、iPS細胞を脂肪細胞へ分化させる過程を基に、各々の遺伝子型ダイエットタイプに的確に適合するダイエット効果がある機能性成分を確認できるダイエットサポート機能性成分の評価系を提供することである。
本発明のiPS細胞は、検査された人体に由来するため、特に明記しない限り、それらはすべてヒトiPS細胞を指す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定された遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞由来脂肪細胞を用いたダイエットサポート機能性成分の評価方法を完成させた。
すなわち本発明は以下を包含する。
1.肥満関連遺伝子に基づくiPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分の評価方法であり、該方法において、
(1)肥満関連遺伝子検査による遺伝子型ダイエットタイプを特定するステップ、
(2)特定された遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞を樹立し、iPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築するステップ、そして
(3)構築したiPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分を特定するステップを含む、ダイエットサポート機能性成分の評価方法に関する。
2.遺伝子型ダイエットタイプが洋なし型、りんご型、又はアダム・イヴ型である、前記1に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法に関する。
3.前記ダイエットサポート機能性成分がベージュ化成分を少なくとも含有する、前記1又は前記2に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法に関する。
4.前記ベージュ化成分は、フォルスコリン、γ-トコフェロール、及びα-リポ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、前記3に記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法に関する。
5.前記ステップ(3)において、前記iPS細胞由来脂肪細胞評価系へ前記ダイエットサポート機能性成分を添加することにより、褐色脂肪細胞マーカーUCP1、PGC1α及びベージュ脂肪細胞マーカーCD137からなる群より選ばれる少なくとも1種の相対的発現量を増大させる、前記1乃至前記4のうちいずれか一つに記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法に関する。
6.前記1乃至前記5のうちいずれか一つに記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法により特定されるダイエットサポート機能性成分を、含有するサプリメントに関する。
7.前記1乃至前記5のうちいずれか一つに記載のダイエットサポート機能性成分の評価方法により特定されるダイエットサポート機能性成分を、有効成分として含む食品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遺伝子検査により特定された遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築し、白色脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞への変換(ベージュ化)を誘導するダイエットサポート機能性成分を特定する、該機能性成分の評価方法を確立することができる。また、本発明によれば、このようなダイエットサポート機能性成分を含有するサプリメント、さらに該ダイエットサポート機能性成分を有効成分として含む食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、調製した単核球からヒトiPS細胞を樹立するプロセスを示す図である。
【
図2】
図2は、ヒトiPS細胞から白色脂肪細胞への分化誘導を示すプロセスである。
【
図3】
図3は、1231A3株、洋なし型、りんご型、及びアダム・イヴ型のヒトiPS細胞から白色脂肪細胞への分化誘導時の各時点の細胞形態の写真である。
【
図4】
図4は、1231A3株、洋なし型、りんご型、及びアダム・イヴ型のヒトiPS細胞から白色脂肪細胞への分化誘導後(培養30日目)のオイルレッドO染色の写真である。
【
図5】
図5は、1231A3株、洋なし型、りんご型、及びアダム・イヴ型のヒトiPS細胞(培養0日目)及び白色脂肪細胞への分化誘導後(培養30日目)のRT-PCR(逆転写PCR)による各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ヒトiPS細胞由来脂肪細胞評価系による機能性成分の評価プロセスを示す図である。
【
図7】
図7は、洋なし型脂肪細胞における機能性成分(未添加、γ-トコフェロール、フォルスコリン)の評価である。写真は、培養開始30日目のオイルレッドO染色した脂肪細胞の写真であり、グラフは、培養開始30日目のRT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析を示すグラフである。
【
図8】
図8は、りんご型脂肪細胞における機能性成分(未添加、γ-トコフェロール、フォルスコリン)の評価である。写真は、培養開始30日目のオイルレッドO染色した脂肪細胞の写真であり、グラフは、培養開始30日目のRT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析を示すグラフである。
【
図9】
図9は、アダム・イヴ型脂肪細胞における機能性成分(未添加、フォルスコリン)の評価である。写真は、培養開始30日目のオイルレッドO染色した脂肪細胞の写真であり、グラフは、培養開始30日目のRT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析を示すグラフである。
【
図10】
図10は、遺伝子型ダイエットタイプ別の遺伝子発現量の比較である。各遺伝子型は、未添加条件での遺伝子発現量を1とした時のフォルスコリン処理条件の遺伝子UCP1及びPGC1αの発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、肥満関連遺伝子の検査結果に基づくiPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分(以下、単に機能性成分とも略称する)の評価方法であり、該方法において、(1)肥満関連遺伝子検査による遺伝子型ダイエットタイプを特定するステップ、(2)特定された遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞を樹立し、iPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築するステップ、そして(3)構築したiPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分を特定するステップを含む、ダイエットサポート機能性成分の評価方法に関する。さらに、本発明はダイエットサポート機能性成分の評価方法から見出された該機能性成分を含むサプリメント及び食品を提供する。
以下、具体的に説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0013】
[肥満関連遺伝子]
日本人が変異を持つ確率が高く基礎代謝量に影響を及ぼす肥満関連遺伝子はβ3AR遺伝子、UCP1遺伝子、及びβ2AR遺伝子の3つである。
【0014】
(β3AR遺伝子)
β3AR遺伝子はβ3アドレナリン受容体遺伝子のことであり、アドレナリン、ノルアドレナリンと結合することにより、GTP結合たんぱく質を介してアデニル酸シクラーゼを活性化して、二次情報伝達物質のcAMPの細胞内濃度を増加させる。cAMPはPKA(プロテインカイネースA)を活性化して、更にホルモン感受性リパーゼ(中性脂肪分解酵素)をリン酸化して活性化させる。こうして、脂肪細胞内に蓄積された中性脂肪は分解され、脂肪酸とモノグリセリドになる。白色脂肪細胞で分解された脂肪酸は血中を移動して褐色脂肪細胞に到達し、ミトコンドリアのUCP1(脱共役たんぱく質1)に結合することで熱エネルギー産生を促す。
このβ3AR遺伝子に変異があると、基礎代謝量が200kcal低下し、内臓脂肪型肥満を惹起する。この変異がある人は糖質の代謝が低いことが分かっている。
【0015】
(UCP1遺伝子)
UCP1遺伝子は脱共役たんぱく質遺伝子のことである。脱共役たんぱく質は、電子伝達系からプロトン勾配によるATP合成酵素によるATPの産生を阻害し、ATP合成に使われていたエネルギーを熱として産生する。UCP1遺伝子は熱産生を行う褐色脂肪細胞のみに発現していると考えられ、褐色脂肪細胞のマーカーとして使用されている。このUCP1遺伝子に変異があると、基礎代謝量が100kcal低下する。この変異の有無を遺伝子検査で調べ、変異がある人は脂質の代謝が低いことが分かっている。
【0016】
(β2AR遺伝子)
β2AR遺伝子はβ2アドレナリン受容体遺伝子のことであり、β3AR遺伝子と同様にアドレナリン、ノルアドレナリンと結合することで、活性化する。β2AR遺伝子に変異があると、基礎代謝量は200kcal増加することが分かっているが、たんぱく質の代謝が向上するため筋肉がつきにくく、一旦太ると痩せにくいことが分かっている。
【0017】
上記3種の遺伝子の変異を解析し、変異の有無から各遺伝子型(ホモ、ヘテロ、ワイルド)に分け、β3AR遺伝子に変異があり、内臓脂肪がつきやすくおなか周りが太ったりんごのような体型をしたりんご型、UCP1遺伝子に変異があり、お尻まわりの皮下脂肪がつきやすく下半身が太った体型をした洋なし型、β2AR遺伝子に変異があり、脂肪がつきにくくやせた体型はしているが一旦太ると痩せにくいバナナ型の3つの遺伝子型ダイエットタイプに分類する。アダム・イヴ型はβ3AR遺伝子、UCP1遺伝子、β2AR遺伝子のいずれにも変異がないタイプになる。肥満が遺伝的な要因よりも生活習慣などの要因が影響していると考えられるタイプである。
【0018】
[iPS細胞由来脂肪細胞評価系]
前記のように、iPS細胞がES細胞に類似した多能性幹細胞であるため、特徴がある体細胞から作製したiPS細胞をさらに目的細胞へと分化誘導させることにより評価系を構築する。構築した評価系により個人の体質の改善、又は疾患の予防に特異的な効果を発揮する機能性成分を見出すことは、医薬品を中心とした医療との統合医療の観点から重要である。
本発明は目的細胞である白色脂肪細胞へと分化誘導させ、iPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築する。その後、評価対象となる下記のダイエットサポート機能性成分の添加により、iPS細胞由来脂肪細胞評価系における白色脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞への変換(ベージュ化)を誘導する。
【0019】
[ダイエットサポート機能性成分]
数多くのダイエットサポート機能性成分が市販されており、一般に、糖分や脂肪分の吸収及び代謝、コレステロール値の改善などに分類され、例えば、脂肪の代謝・分解に関わる成分としては、フォルスコリン、α-リポ酸、カルニチン、ガルシニアなどが挙げられる。また、血糖値の上昇を緩やかにしてインスリンの分泌を抑え、体脂肪の蓄積を防ぐ成分として、ギムネマ、苦瓜、桑の葉、白インゲン豆抽出物なども挙げられる。ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞に類似しており、UCP1を発現したミトコンドリアに富んでおり、天然ビタミンEであるγ-トコフェロールは、ミトコンドリア内で発生する活性酸素を消去することによりミトコンドリアの機能を高める効果がある。
【0020】
[ベージュ化促進成分]
本発明において、ダイエットサポート機能性成分をiPS細胞由来脂肪細胞評価系に添加することより、白色脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進効果を評価する。数多くのダイエットサポート機能性成分において、白色脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞への分化を促進する機能を有するダイエットサポート機能性成分を本発明ではベージュ化促進成分と名付ける。
ダイエットサポート機能性成分から確認できるベージュ化促進成分は、フォルスコリン、γ-トコフェロール及びα-リポ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。好ましくはベージュ化促進成分として、フォルスコリン、γ-トコフェロール及びα-リポ酸からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有する。より好ましくはベージュ化促進成分として、フォルスコリン及びγ-トコフェロールを含有する。
【0021】
[ステップ(1):肥満関連遺伝子の検査方法及び遺伝子型ダイエットタイプの特定]
肥満関連遺伝子即ちβ3AR遺伝子、UCP1遺伝子、及びβ2AR遺伝子の一塩基多型変異を解析する検査方法として、直接シークエンス法、PCR-RFLP法、インベーダー法、TaqMan Genotyping法、マイクロアレイ法などの様々な方法を用いることができる。本発明は株式会社ディーエイチシー製「DHCの遺伝子検査 ダイエット対策キット」を使用し、TaqMan Genotyping法を用いている。上記3種類の肥満関連遺伝子について、それぞれ3つの変異型(ワイルド・ヘテロ・ホモ)を判定し、「最短で効く!遺伝子タイプ別ダイエット 自分の「遺伝子型」を知れば、痩せられる」(著者:白澤卓二・DHC)に記載されるように、各遺伝子の変異型の組み合わせと男女の組み合わせで全54パターンに分類している。さらにりんご型、洋なし型、バナナ型、アダム・イヴ型と被験者の遺伝子型ダイエットタイプを4種類に分けることができる。
【0022】
[ステップ(2):iPS細胞の樹立とiPS細胞由来脂肪細胞評価系の構築]
遺伝子型ダイエットタイプを特定した被験者から採血により単核球を採取し、得られた単核球に4つのリプログラミング因子(Oct3/4,Klf4,Sox2,c-Myc)をエレクトロポレーションにより導入し、それぞれ遺伝子型ダイエットタイプのiPS細胞を樹立する。その後、iPS細胞を白色脂肪細胞へ分化誘導し、iPS細胞由来脂肪細胞評価系を構築する。
iPS細胞を樹立する際、採血により単核球を取得することが被験者への負担が少なく、もっとも一般的な方法であるが、必要であれば皮膚等の体細胞を採取してiPS細胞を樹立することも可能である。
【0023】
(ステップ(2)における採血と単核球の調製)
採血は単核球分離用、ウイルス等解析用、遺伝子解析用の専用の採血管などを用いて行う。24mLを採血した後に、直ちにスイングローターで遠心分離(18℃、1,500~1,800g、20分)を行い、血液から血漿成分、赤血球、血小板、及び顆粒球を除去して単核球(T細胞、B細胞、単球、NK細胞、樹状細胞を含む球状の核を有する血液細胞の集団)を調製する。単核球の分離については常法に従って行い、ウイルス(HTL
V、HBV、HCV、HIV)とマイコプラズマを検査してどちらも陰性の単核球を使用する。
【0024】
被験者の血液から単核球を単離し、ヒトiPS細胞を樹立する実施に当たり倫理委員会による承認を得る。被採血者については最初に医師による書面及び口頭による十分な説明を行い、全員から文書による同意を得る(インフォームドコンセント)。次に問診(既往症、服用中の薬、アレルギー、過去の採血での問題有無など)、体温、脈拍、血圧等、採血を実施する医師が必要と認める内容にそって被採血者の状況、並びに採血するに際し支障がないことを確認する。
【0025】
(ステップ(2)におけるiPS細胞の樹立)
調製した単核球へリプログラム因子(Oct3/4,Klf4,Sox2,c-Myc)をエレクトロポレーションで導入する。遺伝子導入した細胞をオンフィーダーで培養後、コロニーピックアップを行い、オンフィーダーからフィーダーフリーで培養を継続してiPS細胞を樹立する。
図1に、本発明で調製した単核球からヒトiPS細胞を樹立するプロセスを示す。また、京都大学iPS細胞研究所のホームページに公開された「エピソーマルベクターを用いたヒトiPS細胞樹立方法」によりiPS細胞を樹立することができる。(https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/research/protocol.html)
樹立したiPS細胞はエピゾーマルベクター残存試験、核型検査、ウイルス、マイコプラズマ検査を行い、エピゾーマルベクターが残存しない、核型異常の無い、ウイルス陰性、マイコプラズマ陰性のiPS細胞を凍結保存する。
【0026】
(ステップ(2)におけるiPS細胞由来脂肪細胞評価系の構築)
樹立されたiPS細胞を白色脂肪細胞へ分化誘導することができる。培地に周知される脂肪細胞分化誘導因子例えばインスリン、デキサメタゾン、IBMXなどを添加し、iPS細胞を白色脂肪細胞への分化を誘導する。
図2に、本発明で行うiPS細胞から白色脂肪細胞への分化プロセスを示す。
【0027】
本発明のiPS細胞由来脂肪細胞評価系は、顕微鏡による細胞構造の観察により形態レベルで、iPS細胞で発現するリプログラミング遺伝子の発現低下、並びに白色脂肪細胞で特異的に発現する遺伝子の相対的発現量の増加により遺伝子レベルで、又は、白色脂肪細胞で発現する遺伝子のたんぱく質の発現を免疫染色すること等によりたんぱく質レベルで分化の確認ができる。
【0028】
脂肪細胞分化初期マーカーであるPPARγ、脂肪細胞分化中期マーカーであるFABP4、白色脂肪細胞マーカーであるHOXA5、褐色脂肪細胞マーカーであるUCP1が対象遺伝子として、それぞれの相対的発現量をRT-PCRにより確認することができるが、こちらのマーカーに限定されない。
【0029】
図3は、本発明においてiPS細胞から白色脂肪細胞への分化誘導時の各時点の細胞形態を示す。培養10日目までにEB(胚様体)が形成され、培養20日目の白色脂肪前駆細胞を経由して、最終的に白色脂肪細胞に分化する。白色脂肪細胞への分化は、
図3~
図5のように、細胞形態観察(
図3)、オイルレッドO染色(
図4)及びRT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析(
図5)の方法で確認することができる。
本発明のiPS細胞由来脂肪細胞評価系には、白色脂肪前駆細胞が含まれる。
【0030】
[ステップ(3):iPS細胞由来脂肪細胞評価系によるダイエットサポート機能性成分の評価]
ステップ(2)で構築されたiPS細胞由来脂肪細胞評価系に、上記機能性成分を添加
し、白色脂肪前駆細胞から白色脂肪細胞への分化過程において、ベージュ化を誘導する。
具体的に、まず、ステップ(2)で構築したiPS細胞由来脂肪細胞評価系(本発明において
図2及び
図6の培養20日目の白色脂肪前駆細胞)を準備する。次に、脂肪細胞分化培地への移行と共に上記機能性成分を添加することにより、培養とともに、分化に差異が現れる。
ここで、本発明は、培養20日目の白色脂肪前駆細胞に機能性成分を添加する。実際に、細胞形態観察、RT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析、フローサイトメトリーによる間葉系細胞特異的細胞表面マーカーの解析等により、iPS細胞の分化状態を確認できるため、白色脂肪前駆細胞が確認できる段階でダイエットサポート機能性成分の添加が可能である。
【0031】
機能性成分の添加は、脂肪細胞分化誘導培地に栄養分や薬剤を添加する一般的な方法で行う。例えば、1Mの機能性成分溶液を調製し、機能性成分の最終濃度が100μMになるように、機能性成分溶液を脂肪細胞分化誘導培地に添加する。
【0032】
また脂肪細胞分化の差異が、上記記載されるように、脂肪滴蓄積レベル、遺伝子レベル、たんぱく質レベル等から確認できる。
図7~
図9のように、顕微鏡でオイルレッドO染色した脂肪細胞を観察、及びRT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析により脂肪細胞分化の違いが確認できる。
【0033】
褐色脂肪細胞マーカーUCP1、PGC1α、ベージュ脂肪細胞マーカーCD137をベージュ化の評価指標とする。分化誘導終了後に各細胞の機能性成分が未添加の場合の遺伝子発現量を1として、機能性成分を添加した場合の相対発現量を算出する。これらのマーカーのいずれか一つの相対発現量が増大する場合に、白色脂肪細胞のベージュ化が誘導されることを意味する。すなわち、これらのマーカーのいずれ一つの相対発現量を増大させる機能性成分が、ダイエットサポート機能を有することを意味する。
この誘導は、
図6で示されるように、白色脂肪細胞の同一の前駆細胞からベージュ脂肪細胞が誘導されることを示す。
【0034】
[ダイエットサポート機能性成分を含有するサプリメント]
本発明のサプリメントは、iPS細胞由来脂肪細胞評価系によりダイエットサポート機能が確認できる機能性成分を含有する。
また、本発明のサプリメントはベージュ化促進成分を少なくとも含有する。ベージュ化促進成分の中、フォルスコリン、γ-トコフェロール及びα-リポ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲において、機能性成分以外に、必要に応じて、他の栄養素を添加することが可能である。
【0035】
本発明のサプリメントにおけるフォルスコリン、γ-トコフェロール、及びα-リポ酸の配合量について、1錠サプリメントに当たり、フォルスコリンの配合量は7~10mgの範囲になるように、γ-トコフェロールの配合量は10~30mgの範囲になるように、α-リポ酸の配合量は25~33mgの範囲になるように配合する。フォルスコリン、γ-トコフェロール、及びα-リポ酸それぞれ成人1日の許容量は、100mg、300mg、400mgであって、1日の摂取量は該許容量を超えない限り、服用回数が特に限定されないが、1日3回以下摂取するのが望ましい。
該サプリメントの形態として、顆粒、粉末、カプセル及び錠剤形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
[ダイエットサポート機能性成分を有効成分として含有する食品]
本発明のダイエットサポート機能性成分を有効成分として含有する食品としては、ダイ
エットサポート機能性成分を食品としたもの又は食品に配合したものなどが挙げられ、通常食品の形態をとることができる。提供又は配合される食品の種類に特に制限はなく、例えば、ゼリー飲料、果汁飲料、清涼飲料水、スープ、茶などの液状(流動状)食品、米飯、パン、麺類などの固形形状食品等の主食、副食、菓子類ならびに調味料に配合することも可能である。用途に応じて、飲料、乳製品、発酵乳、バー、顆粒、粉末、カプセル及び錠剤形態に成形して用いることができるが、これらに限定されない。
また、本発明の効果を阻害しない範囲において、必要に応じて、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と適宜混合してもよい。
このときの添加量としては、上記食品に対して、ダイエットサポート機能性成分がフォルスコリン、γ-トコフェロール、及びα-リポ酸の場合に、それぞれ成人1日の許容量は、100mg、300mg、400mgであって、1日の摂取量は該許容量を超えないように配合する。
これらの食品としては、例えば、健康食品、機能性食品等を挙げることができる。また、他の食品と合わせて摂取しても良い。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0038】
[試薬及び器材設備]
(1)単核球の調製に使用された採血管
BDバキュテイナ(登録商標)CPTTM単核球分離用採血管(8mL)(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)、ベノジェクト(登録商標)II真空採血管(6mL)(テルモ株式会社)、真空密封型採血管ネオチューブ(EDTA-2N、2mL)(ニプロ株式会社)。
【0039】
(2)iPS細胞の樹立とストック作製
試薬、溶剤等:L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、FBS(以上、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、Y-27632、オレンジG(以上、富士フィルム和光純薬株式会社)
無血清培地:StemPro(登録商標)-34 SFM(以上、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
酵素:TrypLETM Select(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
サイトカイン、成長因子等:IL-6、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、G-CSF(以上、富士フィルム和光純薬株式会社)
培地:DMEM(ナカライテスク株式会社)
エピゾーマルベクター:pCE-hOCT3/4、pCE-mp53DD、pCE-hSK、pCE-hUL、pCXWB-EBNA1(以上、米国非営利団体アドゲン(Addgene))
培地:Primate ES cell medium(株式会社リプロセル)、iMatrix(株式会社ニッピ)、StemFitAK02N(味の素ヘルシーサプライ株式会社)
細胞凍結保存液:STEM-CELLBANKER(登録商標)(ゼノアックリソース株式会社)
キット:DNeasy mini Kit(株式会社キアゲン)、MycoAlertTM マイコプラズマ検出キット(ロンザ株式会社)
細胞:SNL細胞(コスモ・バイオ株式会社)
【0040】
(3)脂肪細胞への分化((2)以外)
試薬、溶剤等:b-FGF、SB431542(以上、富士フィルム和光純薬株式会社)、D-PBS、アキュターゼ、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液、2-プロパノール、滅菌水、クロロホルム、エタノール(以上、ナカライテスク株式会社)、ゼラチン、IBMX、デキサメタゾン、T3(3,3’,5-トリヨード-L-カイロニンナトリウム)、ロシグリタゾン、インスリン、色素オイルレッドO(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)、Hoechst(登録商標)33342(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
培地:DMEM/F-12,GlutaMAXサプリメント、KnockOutTM Serum replacement(KSR)(以上、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
マーカー:HOXA5、FABP4、PPARγ、UCP1、TBP(以上、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
キット:TaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、RNeasy(登録商標)Lipid Tissue Mini Kit(株式会社キアゲン)、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡株式会社)
【0041】
(4)ダイエットサポート機能性成分の評価((2)、(3)以外)
α-リポ酸、フォルスコリン(以上、ナカライテスク株式会社)、γ-トコフェロール(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)、PGC1α、CD137(以上、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
【0042】
[遺伝子型ダイエットタイプの特定]
参加者6名(女性、年齢35歳~56歳)に対して、「DHCの遺伝子検査 ダイエット対策キット」(商品名)により肥満関連遺伝子検査を行った。その結果は、遺伝子型ダイエットタイプが洋なし型、りんご型、アダム・イヴ型それぞれ各2名であった。
【0043】
[採血]
採血の実施に当たりDHC倫理委員会による承認を得た(承認番号 DHC倫201801号)。被採血者6人については医師による書面及び口頭による十分な説明を行い、全員から文書による同意を得た(インフォームドコンセント)。採血はメデイカルクリニックで実施した。採血後、直ちに遠心分離を行い、血液から単核球を調製した。ウイルス(HTLV、HBV、HCV、HIV)とマイコプラズマを検査してどちらも陰性の単核球を使用した。
【0044】
[iPS細胞樹立]
図1のとおり、調製した洋なし型、りんご型及びアダム・イヴ型の単核球からiPS細胞を樹立した。
本発明において具体的には、7日間培養した単核球へNucleofector2b(ロンザ株式会社)のCD34陽性細胞用プログラム(U-008)により、リプログラム因子(Oct3/4、Klf4、Sox2、c-Myc)を含む5種類のエピゾーマノレベクター(pCE-hOCT3/4、pCE-mp53DD、pCE-hSK、pCE-hUL、pCXWB-EBNA1)を導入した。導入時の細胞数は3.0×10
6cellsであった。エレクトロポレーション後、フィーダー細胞(SNL細胞)をプレートに播種した。2、4、6日目にPrimate ES cell medium培地を追加して8日目から毎日培地交換を行った。遺伝子導入後、17~21日目の間にコロニーピックアップを行った。オンフィーダー法で培養後、3継代目からはフィーダーフリー法による培養を行った。フィーダーフリーはiMatrix(0.5μg/μL)でコーティングしたプレートに1/1000量の10mM Y-27632を添加したStemFi
tAK02N培地に置換した。0.5×TripLE
TM Selectを加えてiPS細胞を剥がした後、Vi-CELLXR(ベックマン・コールター株式会社)でセルカウントを行い、増殖率を考慮した細胞数を播種した。翌日、StemFitAK02N培地に置換し、培養4日以降は1日おきにStemFitAK02Nに置換し、コンフルエントに応じて継代を行った。iPS細胞の凍結ストックは0.5×TripLE
TM Select処理した後、1/1000量の10mM Y-27632を添加したStemFitAK02N培地を加えてiPS細胞を剥がし、遠心後STEM-CELLBANKER(登録商標)に懸濁(2.4×10
6cells/mL)した。1本の凍結バイアルに2.0×10
5cellsになるよう分注し、-80℃で4時間~1晩静置後、液体窒素(気相中)で保存した。凍結前にMycoAlert
TM マイコプラズマ検出キット(ロンザ株式会社)でマイコプラズマ検査を行った。エピゾーマルベクター残存試験は、OriP、EBNA1、OCT3/4についてPCRを行い、電気泳動で各PCR産物のバンドの有無により残存を確認した。核型検査はG-Band法により行った。
【0045】
[iPS細胞から白色脂肪細胞への分化誘導(iPS細胞由来脂肪細胞評価系の構築)及び分化細胞の評価]
図2のように、樹立したiPS細胞の洋なし型、りんご型、及びアダム・イヴ型についてそれぞれ白色脂肪細胞へ分化誘導を行った。山中伸弥教授が樹立したiPS細胞1231A3株が、健常者由来のため比較例として、同様な操作手順で白色脂肪細胞へ分化誘導を行った。
【0046】
本誘導系における分化誘導は6ウェルプレート中に未分化iPS細胞を播種することで形成される胚様体(EB)を、20%KSRを含むDMEM/F12培地で浮遊培養することによって開始した。EB培養過程の分化誘導3日目から5日目にかけてSB431542を添加した。その後、10日目で形成されたEBを播き直し、接着培養を開始した。20日目以降は、0.5mM IBMX、0.25μMデキサメタゾン、0.2nM T3、1μg/mlインスリン、1μMロシグリタゾンを添加した10%KSRを含むDMEM/F12培地を用いて、脂肪細胞への分化を促した。培養30日目に、iPS細胞から白色脂肪細胞への分化誘導を終了した。
【0047】
iPS細胞(1231A3株、洋なし型、りんご型、及びアダム・イヴ型のヒトiPS細胞)から白色脂肪細胞への分化誘導時0日目、10日目、20日目、30日目各時点細胞形態の写真を
図3に示した。培養開始20日目に、白色脂肪前駆細胞を確認でき、30日目では脂肪細胞の特徴である肥大した細胞や脂肪滴を蓄積した細胞が多く見られた(
図4)。
【0048】
図5は、1231A3株、洋なし型、りんご型、及びアダム・イヴ型のヒトiPS細胞(培養0日目)及び白色脂肪細胞への誘導後(30日目)のRT-PCRによる各種脂肪細胞分化マーカーの発現解析を示すグラフである。各細胞0日目時点の遺伝子発現量を1として30日目の相対発現量を算出した。HOXA5に関しては0日目時点でいずれのiPS細胞も遺伝子発現が検出されなかった為、1231A3株の30日目時点の発現量を1として相対発現量を算出した。
図5のグラフによると、各細胞株において、30日目では0日目と比べ、脂肪細胞分化初期マーカーであるPPARγ、脂肪細胞分化中期マーカーであるFABP4、白色脂肪細胞マーカーであるHOXA5の相対発現量の増加が見られた。各細胞株間の比較においては、HOXA5の発現量が洋なし型及びりんご型で高い傾向を示した。洋なし型、りんご型及びアダム・イヴ型では褐色脂肪細胞マーカーであるUCP1の発現量に著明な変動が見られなかった。
【0049】
図3~
図5から、樹立したダイエット型遺伝子タイプのヒトiPS細胞でも健常者由来
iPS細胞1231A3株と同様に白色脂肪細胞に誘導できた。
【0050】
[機能性成分の添加によるiPS細胞由来脂肪細胞ベージュ化の評価]
上記白色脂肪細胞への分化誘導20日目の洋なし型、りんご型iPS細胞由来白色脂肪前駆細胞それぞれに対して、評価したい各機能性成分、即ち本実施例ではフォルスコリン(100μM)、γ-トコフェロール(500μM)、α-リポ酸(100μM)の添加により、白色脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞への分化(ベージュ化)の評価を行った。アダム・イヴ型iPS細胞由来白色脂肪前駆細胞に対しては、フォルスコリン(100μM)、γ-トコフェロール(500μM)について評価を行った。しかし評価できる機能性成分は、フォルスコリン、γ-トコフェロール、α-リポ酸に限らない。
各機能性成分の添加期間は培養開始の20日目から分化誘導終了(30日目)までの10日間とし、機能性成分が未添加の同じiPS細胞由来の白色脂肪細胞を比較対象とした。
【0051】
本発明の実施例において、これら機能性成分の脂肪滴蓄積とベージュ化に関連する遺伝子に対する影響について評価した。評価方法として、RT-PCRによる褐色脂肪細胞マーカー(UCP1)、(PGC1α)、ベージュ脂肪細胞マーカー(CD137)の相対的発現解析、及びオイルレッドO染色による脂肪細胞内の脂肪滴形成量の顕微鏡観察比較を実施した(
図7、
図8、
図9)。
【0052】
(洋なし型脂肪細胞)
フォルスコリン100μM又はγ-トコフェロール500μMを添加した条件下で洋なし型iPS細胞株由来白色脂肪前駆細胞を分化誘導し、褐色/ベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子の発現量を定量した。
図7に示すように、培養開始後30日目に、フォルスコリン添加群では褐色脂肪細胞マーカーUCP1、PGC1αの発現量が有意に増加した。γ-トコフェロール添加群においてもUCP1、PGC1αの発現量に増加傾向が認められた。ベージュ脂肪細胞マーカーCD137の発現量がどちらの処理も未処理の白色脂肪細胞より高かった。
また、フォルスコリン及びγ-トコフェロール添加群では、ベージュ脂肪細胞に特徴的な脂肪滴サイズの小型化が観察された。
【0053】
(りんご型脂肪細胞)
フォルスコリン100μM又はγ-トコフェロール500μMを添加した条件下でりんご型iPS細胞株由来白色脂肪前駆細胞を分化誘導し、褐色/ベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子の発現量を定量した。
図8に示すように、培養開始後30日目に、フォルスコリン添加群では褐色脂肪細胞マーカーUCP1、PGC1αの発現量が有意に増加した。ベージュ脂肪細胞マーカーCD137の発現量は抑制傾向を示した。γ-トコフェロール添加群においては、褐色脂肪細胞マーカーUCP1、ベージュ脂肪細胞マーカーCD137の発現量が増加した。褐色脂肪細胞マーカーPGC1αの発現量は抑制傾向を示した。
また、フォルスコリン及びγ-トコフェロール添加群では、ベージュ脂肪細胞に特徴的な脂肪滴サイズの小型化が観察された。
【0054】
(アダム・イヴ型脂肪細胞)
フォルスコリン100μMを添加した条件下でアダム・イヴ型iPS細胞株由来白色脂肪前駆細胞を分化誘導し、褐色/ベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子の発現量を定量した。
図9に示すように、培養開始後30日目に、フォルスコリン添加群では褐色脂肪細胞マーカーUCP1の発現量が有意に増加した。褐色脂肪細胞マーカーPGC1αの発現量は増加傾向が認められた。
また、フォルスコリン添加群では、ベージュ脂肪細胞に特徴的な脂肪滴サイズの小型化が観察された。
【0055】
機能性成分の評価系ではオイルレッドOの結果から、本発明で使用した全ての機能性成分に白色脂肪細胞への分化を抑制することが分かった。また、UCP1とPGC1αの相対的発現量の結果より白色脂肪細胞より多房性脂肪滴が多く見られたフォルスコリンとγ-トコフェロールはベージュ脂肪細胞へのベージュ化を促進することが示唆された。特に、フォルスコリンにはミトコンドリアにおけるUCP1を介した熱産生を促進する作用が示唆された。
図10に示すように、遺伝子型ダイエットタイプ別の遺伝子発現量比較において、フォルスコリンでは、褐色脂肪細胞マーカーUCP1の発現は未添加に対して、3種類遺伝子型ダイエットタイプのいずれも一定レベルで増加を示した。特に、褐色脂肪細胞マーカーPGC1αの発現に関しては、洋なし型とりんご型共に著明な増加を示した。この結果により、フォルスコリンは、3種類遺伝子型ダイエットタイプのいずれの体質にも合うダイエットサポート機能性成分であることが明らかであり、洋なし型とりんご型の遺伝的な体質にもっとも合うダイエットサポート機能性成分であると言える。これらのことから、評価された機能性成分を摂取することは脂肪を燃焼して余分なカロリーを熱として消費するダイエット効果が期待される。
【0056】
このように、遺伝子検査により遺伝的な体質を知り、検証された機能性成分を有効成分として取り入れたパーソナルなサプリメント、そしてこれら機能性成分を有効成分として含む食品を提供することで、太る体質から痩せる体質へ変わり、これまでにない優れたダイエット効果が得られる。