(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149604
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20231005BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058258
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】朱 鴻民
(72)【発明者】
【氏名】竹田 修
(72)【発明者】
【氏名】ワン チー
(72)【発明者】
【氏名】ルー シン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG11
5H126RR01
(57)【要約】
【課題】大電流密度を引き出すことができるレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】正極104、負極105、および正極104と負極105との間に介在する隔膜101を備える電池セルに正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池100であって、正極電解液および負極電解液は、溶融塩であり、正極電解液は、3価のチタンイオンおよび4価のチタンイオンを含有し、負極電解液は、2価のチタンイオンおよび3価のチタンイオンを含有する、レドックスフロー電池100。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する隔膜を備える電池セルに正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電解液および前記負極電解液は、溶融塩であり、
前記正極電解液は、3価のチタンイオンおよび4価のチタンイオンを含有し、
前記負極電解液は、2価のチタンイオンおよび3価のチタンイオンを含有する、レドックスフロー電池。
【請求項2】
前記溶融塩は、塩化リチウムと塩化カリウムの溶融塩、塩化ナトリウムと塩化カリウムの溶融塩、塩化マグネシウムと塩化ナトリウムと塩化カリウムの溶融塩、またはフッ化リチウムとフッ化ナトリウムとフッ化カリウムの溶融塩である、請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、再生可能エネルギーの導入が急激に加速化されている。その一方で、再生可能エネルギーによって発電された電気を如何にして貯蔵・放出するかが課題となっている。電気の貯蔵・放出技術の1つとしては、例えば、バナジウムイオンの電極反応を利用したバナジウムイオン・レドックスフロー電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バナジウムイオン・レドックスフロー電池は、電解液として水溶液を用いているため、電解液における活物質の溶解度が低く、引き出せる電流密度が小さいという課題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、大電流密度を引き出すことができるレドックスフロー電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1]正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する隔膜を備える電池セルに正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電解液および前記負極電解液は、溶融塩であり、
前記正極電解液は、3価のチタンイオンおよび4価のチタンイオンを含有し、
前記負極電解液は、2価のチタンイオンおよび3価のチタンイオンを含有する、レドックスフロー電池。
[2]前記溶融塩は、塩化リチウムと塩化カリウムの溶融塩、塩化ナトリウムと塩化カリウムの溶融塩、塩化マグネシウムと塩化ナトリウムと塩化カリウムの溶融塩、またはフッ化リチウムとフッ化ナトリウムとフッ化カリウムの溶融塩である、[1]に記載のレドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大電流密度を引き出すことができるレドックスフロー電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレドックスフロー電池を示す模式図である。
【
図2】実施例1におけるサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【
図3】実施例1における矩形波ボルタモグラムを示す図である。
【
図4】実施例2におけるサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【
図5】実施例2における矩形波ボルタモグラムを示す図である。
【
図6】実施例3における充放電曲線を示す図である。
【
図7】実施例4における充放電曲線を示す図である。
【
図8】実施例5における充放電曲線を示す図である。
【
図10】実施例6における充放電曲線を示す図である。
【
図11】実施例7における充放電曲線を示す図である。
【
図12】実施例8における充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1を参照して、本発明に係るレドックスフロー電池について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
[レドックスフロー電池]
図1は、本発明の一実施形態に係るレドックスフロー電池を示す模式図である。
図1に示すように、レドックスフロー電池100は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所等)と電力系統や需要家等の負荷とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池100と、このレドックスフロー電池100に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを備える以下の電池システムが構築される。
【0011】
レドックスフロー電池100は、正極104を内蔵する正極セル102と、負極105を内蔵する負極セル103と、正極セル102と負極セル103とを分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜101とを備える。正極セル102には、正極電解液用タンク106が配管108,110を介して接続される。負極セル103には、負極電解液用タンク107が配管109,111を介して接続される。配管108は、正極電解液を循環させるためのポンプ112を備える。配管109は、負極電解液を循環させるためのポンプ113を備える。
【0012】
レドックスフロー電池100は、配管108,110と、ポンプ112とを用いて、正極セル102(正極104)に正極電解液用タンク106の正極電解液を循環供給すると共に、配管109,111と、ポンプ113とを用いて、負極セル103(負極105)に負極電解液用タンク107の負極電解液を循環供給して、正極セル102の正極電解液中の活物質となる金属イオンの価数変化反応と負極セル103の負極電解液中の活物質となる金属イオンの価数変化反応に伴って充放電を行う。
【0013】
隔膜101としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)からなる多孔質材が挙げられる。また、隔膜101としては、空隙率の大きなガラス繊維を用いてもよい。レドックスフロー電池100は、後述するように、正極電解液が活物質として、3価のチタンイオン(Ti3+)および4価のチタンイオン(Ti4+)を含有し、負極電解液が活物質として、2価のチタンイオン(Ti2+)および3価のチタンイオン(Ti3+)を含有するため、表面粗さが大きく、物理的に物質が容易に移動できるような隔壁を用いても、電池として正常に機能する。また、レドックスフロー電池100は、隔膜101を透過して、正極電解液と負極電解液が多少混ざっても、電池として機能することから、相互汚染に強いと言える。すなわち、レドックスフロー電池100は、相互汚染からのレジリエンスに優れる。このようなレジリエンスに優れるという特徴は、電力貯蔵規模が大規模になるほどメリットが出てくると思われる。
正極104および負極105としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素材料からなる電極が挙げられる。
【0014】
正極電解液および負極電解液は、溶融塩である。溶融塩は、低融点のものであれば、特に限定されないが、塩化リチウムと塩化カリウム(LiCl-KCl)の溶融塩(融点:350℃~500℃)、塩化ナトリウムと塩化カリウム(NaCl-KCl)の溶融塩(融点:700℃~750℃)、塩化マグネシウムと塩化ナトリウムと塩化カリウム(MgCl2-NaCl-KCl)の溶融塩(融点:400℃~500℃)、フッ化リチウムとフッ化ナトリウムとフッ化カリウム(LiF-NaF-KF)の溶融塩(融点:460℃~600℃)、または塩化リチウムと塩化カリウムと塩化セシウム(LiCl-KCl-CsCl)の溶融塩(融点:270℃~400℃)であることが好ましい。
【0015】
塩化リチウムと塩化カリウム(LiCl-KCl)の溶融塩は、塩化リチウムと塩化カリウムの配合比が、モル比で、4:6~6:4が好ましい。塩化リチウムと塩化カリウムの配合比が、前記範囲内であると、正極電解液および負極電解液は、後述するチタンイオンを所定量溶解することができる。
塩化ナトリウムと塩化カリウム(NaCl-KCl)の溶融塩は、塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合比が、モル比で、4:6~6:4が好ましい。塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合比が、前記範囲内であると、正極電解液および負極電解液は、後述するチタンイオンを所定量溶解することができる。
塩化マグネシウムと塩化ナトリウムと塩化カリウム(MgCl2-NaCl-KCl)の溶融塩は、塩化マグネシウムと塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合比が、モル比で、6:2:2~4:3:3が好ましい。塩化マグネシウムと塩化ナトリウムと塩化カリウムの配合比が、前記範囲内であると、正極電解液および負極電解液は、後述するチタンイオンを所定量溶解することができる。
フッ化リチウムとフッ化ナトリウムとフッ化カリウム(LiF-NaF-KF)の溶融塩は、フッ化リチウムとフッ化ナトリウムとフッ化カリウムの配合比が、モル比で、5::1:4~4:1:5が好ましい。フッ化リチウムとフッ化ナトリウムとフッ化カリウムの配合比が、前記範囲内であると、正極電解液および負極電解液は、後述するチタンイオンを所定量溶解することができる。
塩化リチウムと塩化カリウムと塩化セシウム(LiCl-KCl-CsCl)の溶融塩は、塩化リチウムと塩化カリウムと塩化セシウムの配合比が、モル比で、5:2:3~6:2:2が好ましい。塩化リチウムと塩化カリウムと塩化セシウムの配合比が、前記範囲内であると、正極電解液および負極電解液は、後述するチタンイオンを所定量溶解することができる。
【0016】
正極電解液は、活物質として、3価のチタンイオン(Ti3+)および4価のチタンイオン(Ti4+)を含有する。3価のチタンイオン(Ti3+)および4価のチタンイオン(Ti4+)は、例えば、正極電解液に溶解した塩化チタン(III)(TiCl3)を起源とする。また、電解液にフッ化物イオン(F-)を導入してもよい。
正極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量は、0.5mol/L~8mol/Lが好ましく、1mol/L~6mol/Lがより好ましく、2mol/L~5mol/Lがさらに好ましい。正極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量が、前記下限値未満では、充電を十分に行うことができない。正極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量が、前記上限値を超えると、ハロゲン化チタンが溶融塩に溶けきれなくなり析出する。
正極電解液における4価のチタンイオン(Ti4+)の含有量は、0.5mol/L~8mol/Lが好ましく、1mol/L~6mol/Lがより好ましく、2mol/L~5mol/Lがさらに好ましい。正極電解液における4価のチタンイオン(Ti4+)の含有量が、前記下限値未満では、放電時に取り出せる電流密度が小さくなる。正極電解液における4価のチタンイオン(Ti4+)の含有量が、前記上限値を超えると、ハロゲン化チタンが溶融塩に溶けきれなくなり蒸発損失する。
正極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量と4価のチタンイオン(Ti4+)の含有量は、等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0017】
負極電解液は、活物質として、2価のチタンイオン(Ti2+)および3価のチタンイオン(Ti3+)を含有する。2価のチタンイオン(Ti2+)および3価のチタンイオン(Ti3+)は、例えば、負極電解液に溶解した塩化チタン(III)(TiCl3)を起源とする。また、電解液にフッ化物イオン(F-)を導入してもよい。
負極電解液における2価のチタンイオン(Ti2+)の含有量は、0.5mol/L~8mol/Lが好ましく、1mol/L~6mol/Lがより好ましく、2mol/L~5mol/Lがさらに好ましい。負極電解液における2価のチタンイオン(Ti2+)の含有量が、前記下限値未満では、放電時に取り出せる電流密度が小さくなる。負極電解液における2価のチタンイオン(Ti2+)の含有量が、前記上限値を超えると、ハロゲン化チタンが溶融塩に溶けきれなくなり析出する。
負極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量は、0.5mol/L~8mol/Lが好ましく、1mol/L~6mol/Lがより好ましく、2mol/L~5mol/Lがさらに好ましい。負極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量が、前記下限値未満では、充電を十分に行うことができない。負極電解液における3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量が、前記上限値を超えると、ハロゲン化チタンが溶融塩に溶けきれなくなり析出する。
負極電解液における2価のチタンイオン(Ti2+)の含有量と3価のチタンイオン(Ti3+)の含有量は、等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0018】
レドックスフロー電池100では、正極にて下記式(1)で表される電子反応を生じる。この電子反応による正極の電位は-0.3Vvs.Cl2/Cl-である。
【0019】
【0020】
また、レドックスフロー電池100では、負極にて下記式(2)で表される電子反応を生じる。この電子反応による負極の電位は-2.1Vvs.Cl2/Cl-である。
【0021】
【0022】
上述の正極における電子反応と負極における電子反応が生じることにより、レドックスフロー電池100は起電力を生じる。レドックスフロー電池100の起電力は、正極の電位(-0.3Vvs.Cl2/Cl-)と負極の電位(-2.1Vvs.Cl2/Cl-)の電位差であり、1.8Vである。従来のバナジウムイオン・レドックスフロー電池の起電力が1.4Vであるため、レドックスフロー電池100の起電力は、バナジウムイオン・レドックスフロー電池よりも起電力が約29%高い。
【0023】
レドックスフロー電池100が起電力を生じるためには、上記溶融塩の融点以上に、正極セル102内の溶融塩および負極セル103内の溶融塩を加熱する必要がある。上述の正極における電子反応と負極における電子反応が始まった後は、その反応熱によって溶融塩の温度を融点以上に保つことができるため、溶融塩の加熱は不要である。溶融塩の温度を融点以上に保つためには、正極セル102および負極セル103の外周に断熱材を設けることが好ましい。
【0024】
レドックスフロー電池100は、正極電解液および負極電解液が溶融塩であるため、正極電解液および負極電解液における、2価のチタンイオン(Ti2+)、3価のチタンイオン(Ti3+)および4価のチタンイオン(Ti4+)の濃度を多くすることができ、結果として、大電流密度を引き出すことができる。すなわち、レドックスフロー電池100は、充放電時の大電流密度化(急速充電および大出力)を実現することができる。また、レドックスフロー電池100は、正極電解液および負極電解液が溶融塩であるため、水の分解の制約を受けることがなく、バナジウムイオン・レドックスフロー電池よりも起電力が高い。
【0025】
また、レドックスフロー電池100は、バナジウムイオン・レドックスフロー電池よりも起電力が高いため、電池セルのスタック数を減らすことができ、正極セル102と負極セル103に供給する活物質(2価のチタンイオン(Ti2+)、3価のチタンイオン(Ti3+)、4価のチタンイオン(Ti4+))のコストを大幅に低下することができると共に、空間利用効率を高めることができる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず種々の変更を行うことができる。
【実施例0027】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できるものである。
【0028】
[実施例1]
「サイクリックボルタンメトリーの測定」
電極セル内に、0.3mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。
作用極としてはグラファイトからなる電極を用い、参照電極としてはAg
+/Ag電極を用い、対極としてはグラファイト電極を用いた。
ポテンショスタット装置に作用極、参照電極および対極を接続し、TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に、作用極、参照電極および対極を浸漬し、掃引速度を200mV/sまたは400mV/sとして電位を増減させて、電流値を測定した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
この測定では、上記の式(1)で表される電子反応が生じる。
図2に、得られたサイクリックボルタモグラムを示す。
【0029】
「矩形波ボルタンメトリーの測定」
作用極に対して矩形波状に電位を掃引して応答電流を計測し、どのような電極反応が起こっているか、電位と電流をもとに分析した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
この測定では、上記の式(1)で表される電子反応が生じる。
図3に、得られた矩形波ボルタモグラムを示す。
図2および
図3に示す結果から、TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の電位は-0.3Vvs.Cl
2/Cl
-であることが分かった。
【0030】
[実施例2]
「サイクリックボルタンメトリーの測定」
電極セル内に、0.3mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。
作用極としてはグラファイトからなる電極を用い、参照電極としてはAg
+/Ag電極を用いて塩素発生基準に換算し、対極としてはグラファイト電極を用いた。
ポテンショスタット装置に作用極、参照電極および対極を接続し、TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に、作用極、参照電極および対極を浸漬し、掃引速度を200mV/sから400mV/sとして電位を増減させて、電流値を測定した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
この測定では、上記の式(2)で表される電子反応と、下記の式(3)で表される電子反応とが生じる。
図4に、得られたサイクリックボルタモグラムを示す。
【0031】
【0032】
「矩形波ボルタンメトリーの測定」
作用極に対して矩形波状に電位を掃引して応答電流を計測し、どのような電極反応が起こっているか、電位と電流をもとに分析した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
この測定では、上記の式(2)で表される電子反応と、上記の式(3)で表される電子反応とが生じる。
図5に、得られた矩形波ボルタモグラムを示す。
図4および
図5に示す結果から、TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の電位は、上記の式(2)で表される電子反応においては-2.1V、上記の式(3)で表される電子反応においては-2.4Vであることが分かった。
従って、実験例1の電極セルを正極セルとし、実験例2の電極セルを負極セルとして備えるレドックスフロー電池は、起電力が1.8Vであることが分かった。
【0033】
[実施例3]
「充放電容量の測定」
電極セル内に、0.3mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。
正極集電体としては炭素繊維布からなる電極を用い、負極集電体としては坩堝型グラファイト電極を用いた。
TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩におよび負極を浸漬し、電流密度を10mA/cm
2として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。2Vまで充電し、1.1Vまで放電した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
この測定では、上記の式(1)で表される電子反応が生じる。
図6に、得られた充放電曲線を示す。
図6に示す結果から、充電曲線と放電曲線がほぼ折り返していることが分かった。
【0034】
[実施例4]
「充放電容量の測定」
電極セル内に、0.3mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。
作用極としては炭素繊維布からなる電極を用い、負極集電体としては坩堝型グラファイト電極を用いた。TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に、正極および負極を浸漬し、電流密度を10mA/cm
2として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。1.8Vまで充電し、1.2Vまで放電した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
この測定では、上記の式(2)で表される電子反応が生じる。
図7に、得られた充放電曲線を示す。
図7に示す結果から、充電曲線と放電曲線がほぼ折り返していることが分かった。
【0035】
[実施例5]
実施例3の電極セルを正極セルとし、実施例4の電極セルを負極セルとし、正極セルと負極セルとの間に酸化マグネシウムからなる隔膜が介在するレドックスフロー電池を作製した。
電気化学測定装置に正極セルの電極および負極セルの電極を接続し、TiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に、正極セルの電極および負極セルの電極を浸漬し、電流密度を10mA/cm
2として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。2Vまで充電し、1.1Vまで放電した。
測定時のTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩の温度を450℃とした。
図8に、得られた充放電曲線を示す。
図8に示す結果から、充電曲線と放電曲線がほぼ折り返していることが分かった。
【0036】
[比較例]
「充放電容量の測定」
正極を有する正極セル、負極を有する負極セル、および正極セルと負極セルとの間に介在する隔膜を備える電池セルを作製した。
正極セルおよび負極セル内に、1mol/Lの硫酸バナジル(VOSO
4)を含む2mol/Lの硫酸水溶液を収容した。
正極としては直径10mmのグラファイト製ロッドからなる電極を用い、負極としては直径50mmのグラファイト製るつぼからなる電極を用いた。
電気化学測定装置に正極および負極を接続し、上記の硫酸水溶液に、正極および負極を浸漬し、電流密度を10mA/cm
2として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。1.7Vまで充電し、0.7Vまで放電した。
測定時の上記の硫酸水溶液の温度を20℃とした。
図9に、得られた充放電曲線を示す。
図9に示す結果から、充電曲線と放電曲線が折り返していないことが分かった。
【0037】
[実施例6]
「充放電容量の測定」
正極を有する正極セル、負極を有する負極セル、および正極セルと負極セルとの間に介在する隔膜を備える電池セルを作製した。
負極セル内に、0.5mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。正極セル内に、0.5mol/LのTiCl
2を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。
正極としては、直径10mmのグラファイト製ネットと直径10mmのグラファイト製ロッドからなる電極を用い、負極としては直径50mmのグラファイト製るつぼからなる電極を用いた。
電気化学測定装置に正極および負極を接続し、上記の1.5mol/LのTiCl
2を含むLiCl-KCl溶融塩に正極を浸漬し、上記の1.5mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に負極を浸漬し、電流密度を40mA/cm
3として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。1.7Vまで充電し、0.5Vまで放電した。
測定時の上記溶融塩の温度を450℃とした。
図10に、得られた充放電曲線を示す。
図10に示す結果から、充電曲線と放電曲線がほぼ折り返していることが分かった。また、充放電を繰り返しても、充電容量と放電容量の減衰が少なく、サイクル特性に優れることが分かった。
【0038】
[実施例7]
「充放電容量の測定」
正極を有する正極セル、負極を有する負電極セル、および正極セルと負電極セルとの間に介在する隔膜を備える電池セルを作製した。
負電極セル内に、1.5mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。正極セル内に、1.5mol/LのTiCl
2を含むLiCl-KCl溶融塩を収容した。
正極としては、直径10mmのグラファイト製ネットと直径10mmのグラファイト製ロッドからなる電極を用い、負極としては直径50mmのグラファイト製坩堝からなる電極を用いた。
電気化学測定装置に正極および負極を接続し、上記の1.5mol/LのTiCl
2を含むLiCl-KCl溶融塩に正極を浸漬し、上記の1.5mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に負極を浸漬し、電流密度を10mA/cm
3として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。1.8Vまで充電し、0.5Vまで放電した。
測定時の上記の溶融塩の温度を400℃とした。
図11に、得られた充放電曲線を示す。
図11に示す結果から、充電曲線と放電曲線がほぼ折り返していることが分かった。また、充放電を繰り返しても、充電容量と放電容量の減衰が少なく、サイクル特性に優れることが分かった。
【0039】
[実施例8]
「充放電容量の測定」
正極を有する正極セル、負極を有する負電極セル、および正極セルと負電極セルとの間に介在する隔膜を備える電池セルを作製した。
負電極セル内に、1.5mol/LのTiCl
3を含むNaCl-KCl-MgCl
2溶融塩を収容した。正極セル内に、1.5mol/LのTiCl
2を含むNaCl-KCl-MgCl
2溶融塩を収容した。
正極としては、直径10mmのグラファイト製ネットと直径10mmのグラファイト製ロッドからなる電極を用い、負極としては直径50mmのグラファイト製坩堝からなる電極を用いた。
電気化学測定装置に正極および負極を接続し、上記の1.5mol/LのTiCl
2を含むLiCl-KCl溶融塩に正極を浸漬し、上記の1.5mol/LのTiCl
3を含むLiCl-KCl溶融塩に負極を浸漬し、電流密度を15mA/cm
3として、電圧を増減させて、充電容量と放電容量を測定した。2.0Vまで充電し、0.5Vまで放電した。
測定時の上記の溶融塩の温度を480℃とした。
図12に、得られた充放電曲線を示す。
図12に示す結果から、充電曲線と放電曲線がほぼ折り返していることが分かった。また、充放電を繰り返しても、充電容量と放電容量の減衰が少なく、サイクル特性に優れることが分かった。
本発明のレドックスフロー電池によれば、再生可能エネルギーによる発電の蓄電池システムとして、超大規模発電に適する大容量蓄電池システムを創出することができる。