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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149617
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F16H25/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058274
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 渓太郎
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA14
3J062BA16
3J062CD06
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】脚部の先端の位置ずれを抑制するボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ装置は、ねじ軸、ナット、ボール、循環部品、及び固定部品を備える。ナットには、組み付け方向に貫通し、かつ交差方向に長い2つの貫通孔が設けられている。2つの貫通孔は、仮想線を境界として交差方向の一方と他方に分かれて配置されている。循環部品は、固定部品に固定される本体部と、貫通孔に挿入される2つの脚部と、本体部と脚部とを接続する2つの屈曲部と、を有する。貫通孔の内周面は、交差方向に互いに対向する一対の対向面を有している。一対の対向面は、仮想線寄りに配置された第1対向面と、仮想線から離れて配置された第2対向面と、を有する。脚部は、脚部の先端に向かうにつれて、第1対向面から第2対向面の方に近づくように傾斜する。第1対向面は、脚部を押圧する。第2対向面に、脚部の先端が押し付けられている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通されるナットと、
前記ねじ軸と前記ナットの間の軌道に配置された複数のボールと、
断面形状が円筒状を成し、前記ボールを循環させる循環部品と、
前記循環部品を前記ナットの外周面に固定する固定部品と、
を備え、
前記ねじ軸と平行な軸方向から視て、前記ねじ軸と前記固定部品とを結ぶ仮想線と平行な方向は、組み付け方向であり、
前記軸方向から視て、前記組み付け方向と直交する方向は、交差方向であり、
前記ナットには、前記組み付け方向に貫通し、かつ前記交差方向に長い2つの貫通孔が設けられ、
前記2つの貫通孔は、前記仮想線を境界として前記交差方向の一方と他方に分かれて配置され、
前記循環部品は、
前記ナットの外周側に配置され、前記固定部品に固定される本体部と、
前記貫通孔に挿入される2つの脚部と、
前記本体部と前記脚部とを接続する2つの屈曲部と、
を有し、
前記貫通孔の内周面は、前記交差方向に互いに対向する一対の対向面を有し、
前記一対の対向面は、
前記仮想線寄りに配置された第1対向面と、
前記仮想線から離れて配置された第2対向面と、
を有し、
前記脚部は、前記脚部の先端に向かうにつれて、前記第1対向面から前記第2対向面の方に近づくように傾斜し、
前記第1対向面は、前記脚部を押圧し、
前記第2対向面に、前記脚部の前記先端が押し付けられている
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記第2対向面は、前記組み付け方向から視て前記軸方向の中央部が窪む凹状となっている
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記第2対向面は、前記組み付け方向から視て円弧状を成している
請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記第1対向面には、前記脚部の外周面を押圧する押圧面が設けられ、
前記押圧面は、前記組み付け方向に対し傾斜し、前記脚部の外周面に沿って延在している
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記組み付け方向から視て、前記軌道に沿って延在している
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記循環部品の出入り口の角度は、前記軸方向から視て180°未満となっている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記循環部品は、金属材料から成る
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項8】
前記本体部は、前記本体部の長さ方向に二分割されている
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項9】
前記貫通孔の内周面は、互いに前記軸方向に対向する一対の側面を有し、
前記循環部品の直径は、前記一対の側面の間の距離よりも大きく、
前記脚部の外周面には、前記一対の側面と対向し、かつ平面状に切り欠かれて成る一対の平面部が設けられている
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、回転運動を直線運動に、又は直線運動を回転運動に変換する装置である。ボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、ねじ軸とナットの間の軌道を転動する複数のボールと、軌道の一端から他端に転動したボールを軌道の一端に戻す循環部品と、を備えている。
【0003】
循環部品の一例として、特許文献1に示すようなチューブ状のものがある。このチューブ状の循環部品は、ナットの外周面に沿って延びる本体部と、本体部から屈曲する屈曲部と、屈曲部から延びる脚部と、を備える。脚部は、ナットの外周面と内周面を貫通する貫通孔に挿入される。そして、脚部の先端で軌道からボールを掬い上げたり、脚部の先端から軌道にボールを戻したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-269564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ナットの貫通孔に対し循環部品の脚部が傾斜したボールねじ装置が開発されている。このような脚部は貫通孔に嵌合できず、脚部の先端が所定の組み付け位置からずれてしまう。このため、円滑なボールの掬い上げやボールの戻しが達成できなくなる。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、脚部の先端の位置ずれを抑制するボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、ねじ軸と、前記ねじ軸に貫通されるナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間の軌道に配置された複数のボールと、断面形状が円筒状を成し、前記ボールを循環させる循環部品と、前記循環部品を前記ナットの外周面に固定する固定部品と、を備えている。前記ねじ軸と平行な軸方向から視て、前記ねじ軸と前記固定部品とを結ぶ仮想線と平行な方向は、組み付け方向である。前記軸方向から視て、前記組み付け方向と直交する方向は、交差方向である。前記ナットには、前記組み付け方向に貫通し、かつ前記交差方向に長い2つの貫通孔が設けられている。前記2つの貫通孔は、前記仮想線を境界として前記交差方向の一方と他方に分かれて配置されている。前記循環部品は、前記ナットの外周側に配置され、前記固定部品に固定される本体部と、前記貫通孔に挿入される2つの脚部と、前記本体部と前記脚部とを接続する2つの屈曲部と、を有している。前記貫通孔の内周面は、前記交差方向に互いに対向する一対の対向面を有している。前記一対の対向面は、前記仮想線寄りに配置された第1対向面と、前記仮想線から離れて配置された第2対向面と、を有している。前記脚部は、前記脚部の先端に向かうにつれて、前記第1対向面から前記第2対向面の方に近づくように傾斜している。前記第1対向面は、前記脚部を押圧している。前記第2対向面に、前記脚部の前記先端が押し付けられている。
【0008】
本開示によれば、脚部は、第1対向面に押圧されて回動する。これにより、脚部の先端は、第2対向面に押し付けられ、第2対向面に当接するように位置決めされる。なお、ボールねじ装置では、例えば、循環部品の精度が低いため、貫通孔が大きく形成され、貫通孔が脚部に対し隙間を有している場合がある。このような場合であっても、本開示によれば、脚部の先端が第2対向面に当接するように位置決めされる。また、第1対向面が脚部に当接しているため、脚部の先端が第2対向面から離れるように脚部が回動する、ということが抑制されている。よって、ボールねじ装置の使用中、ボールの衝撃が脚部に作用しても、脚部の先端が第2対向面に当接した状態が保持される。以上から、円滑なボールの掬い上げやボールの戻しが継続して行われる。
【0009】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記第2対向面は、前記組み付け方向から視て前記軸方向の中央部が窪む凹状となっている。
【0010】
脚部は、第2対向面の方に押し付けられている。よって、前記構成によれば、脚部の先端が第2対向面の凹状の窪みに嵌る、ように位置合わせされる。これにより、脚部の先端は、軸方向の所定位置に位置決めすることができる。
【0011】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記第2対向面は、前記組み付け方向から視て円弧状を成している。
【0012】
前記構成によれば、脚部の先端は、第2対向面に面接触となり、軸方向に位置ずれし難くなる。
【0013】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記第1対向面には、前記脚部の外周面を押圧する押圧面が設けられている。前記押圧面は、前記組み付け方向に対し傾斜し、前記脚部の外周面に沿って延在している。
【0014】
本開示では、第1対向面は、組み付け方向に延在し、組み付け方向に傾斜する脚部と交差している。よって、第1対向面の角部が脚部を押圧し、脚部が変形する可能性がある。一方、前記構成によれば、押圧面は、脚部に対し面接触する。よって、脚部の一部に荷重が集中して脚部が変形する、ということが回避される。
【0015】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記貫通孔は、前記組み付け方向から視て、前記軌道に沿って延在している。
【0016】
前記構成によれば、貫通孔がナットの内周軌道面の1条分に収まり、隣の内周軌道面に干渉しない。よって、循環部品が小リードの場合でも適用することができる。
【0017】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記循環部品の出入り口の角度は、前記軸方向から視て180°未満となっている。
【0018】
前記構成によれば、軌道に配置されるボールの数が増加し、ボールねじ装置の耐荷重が向上する。
【0019】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記循環部品は、金属材料から成る。
【0020】
前記構成によれば、樹脂製よりも耐久性に優れる。
【0021】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記本体部は、前記本体部の長さ方向に二分割されている。
【0022】
本開示によれば、一方の脚部の回動と他方の脚部の回動により、本体部には捩じれ荷重が発生する。一方で、前記構成によれば、捩じれが吸収され、本体部の破損が回避される。
【0023】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記貫通孔の内周面は、互いに前記軸方向に対向する一対の側面を有している。前記循環部品の直径は、前記一対の側面の間の距離よりも大きい。前記脚部の外周面には、前記一対の側面と対向し、かつ平面状に切り欠かれて成る一対の平面部が設けられている。
【0024】
前記構成によれば、一対の側面の間の距離よりも大きな循環部品を使用でき、循環部品の強度が向上する。また、平面部を有しているため、貫通孔にも挿入することができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示のボールねじ装置によれば、脚部の先端の位置ずれが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施形態1のボールねじ装置の斜視図である。
図2図2は、実施形態1のボールねじ装置から循環部品と固定部品を取り外した状態をナットの外周側から視た図である。
図3図3は、実施形態1のナットを軸方向に切り、その断面を内周側から視た図である。
図4図4は、図2のIV-IV線の矢視断面図である。
図5図5は、実施形態1の循環部品のみを取り出し、軸方向から視た図である。
図6図6は、実施形態1において、ナットの貫通孔に循環部品を挿入した状態を、ナットの外周側から視た図である。
図7図7は、図6のVII-VII線の矢視断面図である。
図8図8は、変形例1の循環部品を軸方向から視た図である。
図9図9は、変形例2の循環部品を組み付け方向の外側から視た図である。
図10図10は、変形例3の循環部品を軸方向から視た図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0028】
(実施形態1)
図1は、実施形態1のボールねじ装置の斜視図である。図1に示すように、実施形態1のボールねじ装置100は、ねじ軸1(図2参照)と、円筒状のナット2と、複数のボール3(図7参照)と、循環部品4と、固定部品5と、を備えている。
【0029】
図2は、実施形態1のボールねじ装置から循環部品と固定部品を取り外した状態をナットの外周側から視た図である。図2に示すように、ねじ軸1は、中実の棒状部品である。ねじ軸1は、ナット2を貫通している。ねじ軸1の外周面には、外周軌道面1aが設けられている。以下、ねじ軸1の軸心O1と平行な方向を軸方向Xと称する。
【0030】
図3は、実施形態1のナットを軸方向に切り、その断面を内周側から視た図である。図3に示すように、ナット2の内周面10には、内周軌道面11が設けられている。内周軌道面11の各条の間には、ねじ山12が設けられている。内周軌道面11は、外周軌道面1a(図2参照)と対向している。外周軌道面1aと内周軌道面11との間は、ボール3が転動する螺旋状の軌道7となっている(図2参照)。
【0031】
図4は、図2のIV-IV線の矢視断面図である。図4に示すように、ナット2の外周面13は、Dカット加工されている。これにより、ナット2の外周面13には、平面14が設けられている。平面14には、循環部品4及び固定部品5が設置されている(図1参照)。平面14は、軸心O1から直線状に延びる仮想線K1に対し直交している。なお、仮想線K1は、軸方くから視て、2つの貫通孔20の中間点を通過している。
【0032】
以下、仮想線K1と平行な方向を組み付け方向Yと称する。また、組み付け方向Yのうち、軸心O1に近づく方向を組み付け方向Yの内側と称し、軸心O1から離れる方向を組み付け方向Yの外側と称する。そのほか、軸方向から視て、仮想線K1と直交(交差)する方向を交差方向Zと称する。交差方向Zのうち、仮想線K1に近づく方向を交差方向Zの内側と称し、仮想線K1に離れる方向を交差方向Z1の外側と称する。
【0033】
図4に示すように、ナット2には、ナット2の内周面10と外周面13とを貫通する貫通孔20が設けられている。貫通孔20は、組み付け方向Yに延在している。貫通孔20には、循環部品4の脚部42が配置される。よって、2つの脚部42に対応し、貫通孔20は2つ設けられている。2つの貫通孔20は、軸方向から視た場合、仮想線K1を境界として交差方向Zの一方と他方に分かれて配置されている。
【0034】
なお、2つの貫通孔20と循環部品4と固定部品5は、組み付け方向から視て、平面14の点P(図2参照)を基準に点対称な形状となっている。平面14の点Pとは、平面14上において、軸方向Xの中央部に位置し、かつ交差方向Zの中央部に位置している。よって、循環部品4と固定部品5は、平面14の点Pに回転した状態でも、ナット2に組み付け可能となっている。以下の説明においては、点Pの一方に配置された構成を代表例として説明し、点Pの他方に配置された構成の説明を省略する。また、軸方向のうち、点Pに近づく方向を軸方向Xの内側と称し、点Pに離れる方向を軸方向Xの外側と称する。
【0035】
図2に示すように、貫通孔20は、軸方向Xの長さH1よりも交差方向Zの長さH2の方が長い。これにより、循環部品4の脚部42を交差方向Zに傾斜した状態で、貫通孔20に配置することができる。
【0036】
貫通孔20の内周面は、軸方向Xに対向する一対の側面21と、交差方向Zに対向する一対の対向面22と、を有している。一対の側面21は、貫通孔20に対し軸方向Xの内側寄りに配置される第1側面23と、軸方向Xの外側寄りに配置される第2側面24と、を有している。一対の対向面22は、貫通孔20に対し交差方向Zの内側寄りに配置される第1対向面25と、交差方向Zの外側寄りに配置される第2対向面26と、を有している。第1側面23と第2側面24は、直線状となっている。第1対向面25と第2対向面26は、円弧状となっている。以上から、貫通孔20は、いわゆる小判形状となっている。
【0037】
貫通孔20は、交差方向Zに対し傾斜している。詳細には、貫通孔20は、交差方向Zの外側に向かうにつれて、軸方向Xの内側に位置するように傾斜している。つまり、貫通孔20は、軌道7に沿って傾斜している。このため、図3に示すように、貫通孔20は、内周軌道面11のうち1条分を貫通している。また、第1側面23及び第2側面24は、ねじ山12に沿って延在している。以上から、ねじ山12は、貫通孔20により分断されておらず、螺旋方向に連続している。
【0038】
図2に示すように、ナット2の外周面13であって貫通孔20の縁部には、凹部16が設けられている。凹部16は、ナット2の内周側に窪んでおり、循環部品4の屈曲部43との接触を回避するためのものである。そのほか、平面14には、雌ねじ穴(不図示)が2つ設けられている。この雌ねじ穴には、固定部品5を締め付けるねじ6が螺合している(図1参照)。
【0039】
図4に示すように、第1対向面25のうち組み付け方向Yの外側寄りの部分には、面取りされた押圧面27が設けられている。この押圧面27は、凹部16の底面と第1対向面25とから成る角部を面取りすることで形成される。また、押圧面27は、組み付け方向Yの外側に向かうにつれて、交差方向Zの内側に位置するように傾斜している。押圧面27は、循環部品4の脚部42が貫通孔20に挿入された場合、脚部42の外周面に当接し、かつ脚部42を交差方向Zの外側に押圧できる位置に配置されている(図7参照)。
【0040】
図5は、実施形態1の循環部品のみを取り出し、軸方向から視た図である。図5に示すように、循環部品4は、筒状の部品であり、内部空間が戻り路40となっている。循環部品4は、ナット2の外周側に配置される本体部41と、貫通孔20に挿入される2つの脚部42と、本体部41と脚部42とを接続する2つの屈曲部43と、を備えている。なお、図5に示す仮想円Cは、軌道7上に配置されたボール3の中心同士を結んで成る円である。
【0041】
脚部42の先端には、軌道7からボール3を掬い上げる掬い上げ部43aが設けられている。そして、循環部品4の出入り口の角度(2つの掬い上げ部43aによりボール3を掬い上げたり戻したりしている部分の角度)θ1は、180°未満となっている。
【0042】
脚部42は、屈曲部43と連続する第1脚部44と、第1脚部44から更に延びる第2脚部45と、を有している。第1脚部44と第2脚部45は、直線状に接続しておらず、僅かに屈曲している。詳細には、第2脚部45は、仮想円Cに対する接線Dと平行に延びている。一方、第1脚部44は、接線Dに対し組み付け方向Yの外側に位置するように傾斜している。また、掬い上げ部43aは、第1脚部44の先端に設けられている。よって、本実施形態においては、第2脚部45ではなく、第1脚部44でボール3を掬い上げている。これによれば、第2脚部45でボール3を掬い上げる場合よりも、循環部品4の出入り口の角度θ1が小さくなる。つまり、軌道7上に配置されるボール3が多くなり、ボールねじ装置100の耐荷重が向上している。
【0043】
また、実施形態の循環部品4は、金属製の円筒状部品をプレス加工により折り曲げることで、本体部41と脚部42と屈曲部43の各部位を製造している。よって、本体部41と脚部42と屈曲部43の断面形状は、それぞれ円形状となっている。
【0044】
なお、実施形態1の循環部品4は、金属製であるが、本開示は、樹脂製の循環部品であってもよい。また、本開示において、金属製の円筒状部品から循環部品4を製造する場合、その加工方法はプレス加工に限定されない。また、実施形態1の循環部品4は、単一部品から成るが、本開示は、複数の部品を接合して成る循環部品であってもよい。
【0045】
図6は、実施形態1において、ナットの貫通孔に循環部品を挿入した状態を、ナットの外周側から視た図である。図6に示すように、本体部41は、直線状と成っている。つまり、本体部41は円筒形状となっている。本体部41は、ナット2の平面14に載置されている。また、本体部41は、組み付け方向Yの外側から固定部品5により平面14の方に押圧されている(図1参照)。これにより、循環部品4が組み付け方向Yの外側に抜けないように規制される。また、本体部41の両端が2つの貫通孔20を指すように配置されている。よって、本体部41の中心線M41は、軸方向Xに対し傾斜している。
【0046】
図7は、図6のVII-VII線の矢視断面図である。屈曲部43は、屈曲しており、ボール3の進行方向を変更するための部位である。図7に示すように、屈曲部43の一部は、ナット2の凹部16に配置されている。よって、屈曲部43とナット2の外周面13との干渉が回避されている。
【0047】
脚部42は、貫通孔20に配置されている。軸方向から視た場合、脚部42は、組み付け方向Yの内側に向かうにつれて、交差方向Zの外側に位置するように傾斜している。よって、脚部42は、組み付け方向Yと平行に延在しておらず、貫通孔20に嵌合できない形状となっている。
【0048】
本体部41の中心線M41を中心とする回動方向に関し、一方を第1回動方向L1と称し、他方を第2回動方向L2と称する。脚部42の外周面は、第1回動方向L1を向く外側外周面46と、第2回動方向L2を向く内側外周面47と、を有している。外側外周面46は、第2対向面26と対向している。内側外周面47は、第1対向面25と対向している。脚部42の先端(第2脚部45の先端)の外側外周面46には、角部を面取りして成る角面48が設けられている。この角面48は、組み付け方向Yから視ると、円弧状を成している。
【0049】
次に貫通孔20と脚部42の詳細について説明する。ナット2に循環部品4を組み付けた場合、脚部42の外周面は、第1対向面25と接触する。つまり、第1対向面25の交差方向Zの位置は、脚部42(第1脚部44)の内側外周面47に接触するような位置に設けられている。これにより、脚部42は、交差方向Zの外側の荷重を受ける(矢印F1参照)。そして、本体部41が中心線M41を中心に捩じれ、脚部42が第1回動方向L1に回動する。この結果、脚部42(第2脚部45)の先端は、第2対向面26に押し付けられる(矢印F2参照)。以上から、ナット2に循環部品4を組み付けると、脚部42(第2脚部45)の先端(角面48)が第2対向面26に当接した状態に位置決めされる。
【0050】
なお、図7において、図示しない他方の脚部42は、第1対向面25に押圧され、第2回動方向L2の方向に回動する。よって、2つの脚部42は、それぞれ異なる方向に回動し、脚部42同士の間(角度θ1)が大きくなる。
【0051】
また、第1対向面25のうち脚部42の内側外周面47に接触する部位は、押圧面27となっている。押圧面27は、脚部42の内側外周面47に沿った傾斜面であり、内側外周面47に対し面接触となっている。このため、脚部42に対し、第1対向面25の角部が接触して脚部42が変形する、ということが回避されている。
【0052】
また、第2対向面26に押し付けられる脚部42の先端に、角面48が設けられている。よって、脚部42の先端(角面48)は、第2対向面26に面接触している。よって、脚部42の先端の角部に荷重が集中し先端が変形する、ということが回避される。
【0053】
図6に示すように、貫通孔20の軸方向の長さH1(図2参照)は、循環部品4の直径よりも僅かに大きい。つまり、脚部42の外周面と一対の側面21との間に、微小隙間が生じている。よって、循環部品4に製造誤差が生じても、確実に脚部42を貫通孔20に挿入できるようになっている。
【0054】
また、脚部42の先端(角面48)は、第2対向面26に押し付けられている(図7のF2参照)。このため、脚部42の先端(角面48)は、第2対向面26のうち最も交差方向Zの外側に窪んでいる箇所と当接するように位置合わせされる。このため、脚部42の先端(角面48)は、軸方向の所定位置に位置決めされる。
【0055】
また、脚部42の角面48は、組み付け方向Yから視て円弧状と成っている。さらに、脚部42の角面48の曲率は、第2対向面26の曲率と同じとなっている。よって、角面48と第2対向面26は、隙間なく当接している。よって、脚部42にボール3の振動が生じても軸方向に位置ずれし難くなっている。
【0056】
以上から、実施形態1のボールねじ装置100によれば、脚部42の先端(角面48)は、交差方向Z及び軸方向Xの所定位置に位置決めされる。よって、循環部品4を組み付ける際、脚部42の先端(角面48)の位置決めに要する労力が低減する。また、第1対向面25(押圧面27)が脚部42の内側外周面47に当接しているため、脚部42が第2回動方向L2に回動しない。よって、ボール3の振動が脚部42に伝達しても、脚部42の先端が第2対向面26から離れ難い。つまり、ボールねじ装置100の使用中、脚部42の先端の位置ずれが発生し難い。また、仮に脚部42の先端が第2対向面26から離れたとしても、弾性変形により、脚部42の先端が第2対向面26に当接する。よって、円滑なボール3の掬い上げやボール3の戻しを継続して行うことができる。
【0057】
以上、実施形態1のボールねじ装置100は、ねじ軸1と、ねじ軸1に貫通されるナット2と、ねじ軸1とナット2の間の軌道7に配置された複数のボール3と、断面形状が円筒状を成し、ボール3を循環させる循環部品4と、循環部品4をナット2の外周面13に固定する固定部品5と、を備えている。ねじ軸1の軸心O1と平行な軸方向Xから視て、ねじ軸1と固定部品5とを結ぶ仮想線K1と平行な方向は、組み付け方向Yである。軸方向Xから視て、組み付け方向Yと直交する方向は、交差方向Zである。ナット2には、組み付け方向Yに貫通し、かつ交差方向Zに長い2つの貫通孔20が設けられている。2つの貫通孔20は、仮想線K1を境界として交差方向Zの一方と他方に分かれて配置されている。循環部品4は、ナット2の外周側に配置され、固定部品5に固定される本体部41と、貫通孔20に挿入される2つの脚部42と、本体部41と脚部42とを接続する2つの屈曲部43と、を有している。貫通孔20の内周面は、交差方向Zに互いに対向する一対の対向面22を有している。一対の対向面22は、仮想線K1寄りに配置された第1対向面25と、仮想線K1から離れて配置された第2対向面26と、を有している。脚部42は、脚部42の先端に向かうにつれて、第1対向面25から第2対向面26の方に近づくように傾斜している。第1対向面25は、脚部42を押圧している。第2対向面26に、脚部42の先端が押し付けられている。
【0058】
実施形態1によれば、脚部42の先端は、第2対向面26に当接するように位置決めされる。また、第1対向面25が脚部42を押圧しているため、脚部42の先端が第2対向面26から離れる、ということが規制されている。以上から、円滑なボール3の掬い上げやボール3の戻しを継続して行うことができる。
【0059】
また、実施形態1の第2対向面26は、組み付け方向Yから視て円弧状を成している。
【0060】
これによれば、脚部42の先端は、第2対向面26と面接触となり、軸方向に位置ずれし難くなる。
【0061】
また、実施形態1の第1対向面25には、脚部42の外周面を押圧する押圧面27が設けられている。押圧面27は、組み付け方向Yに対し傾斜し、脚部42の外周面に沿って延在している。
【0062】
これによれば、押圧面27は脚部42に対し面接触となり、脚部42の変形が回避される。
【0063】
また、実施形態1の貫通孔20は、組み付け方向Yから視て、軌道7に沿って延在している。
【0064】
これによれば、貫通孔20が内周軌道面11のうち1条分に収まり、ねじ山12が分断しない。よって、循環部品4が小リードの場合でも適用できる。
【0065】
また、実施形態1の循環部品4の出入り口の角度θは、軸方向から視て180°未満となっている。
【0066】
これによれば、軌道7に配置されるボール3の数が増加しており、ボールねじ装置100の耐荷重が向上している。
【0067】
また、実施形態1の循環部品4は、金属材料から成る。
【0068】
よって、循環部品4は、樹脂材料で製造された場合よりも耐久性に優れる。
【0069】
以上、実施形態1について説明したが、本開示は実施形態1に示した例に限定されない。例えば、実施形態1の第1対向面25は、押圧面27を有しているが、本開示は、第1対向面25により脚部42を押圧するようにしてもよい。また、脚部42の先端の外側外周面46は、角面48と成っているが、R面でもよく、若しくは面取りされていなくてもよい。
【0070】
また、実施形態1の第2対向面26は、組み付け方向Yから視て、円弧状と成っているが、本開示は、例えば三角形状などであってもよい。つまり、本開示の第2対向面26は、組み付け方向Yから視て軸方向の中央部が窪む凹状であればよい。このような形状であれば、脚部42の先端は、第2対向面26の凹状の中央部に嵌るように位置合わせされる。よって、脚部42の先端は、軸方向の所定位置に位置決めされる。
【0071】
また、本開示の循環部品は、実施形態1で示した例に限定されない。以下、循環部品の変形例について説明する。以下の説明では変更点に絞って説明する。
【0072】
(変形例1)
図8は、変形例1の循環部品を軸方向から視た図である。変形例1の循環部品4Aは、脚部42Aが直線状と成っている点で、実施形態1の循環部品4と相違する。脚部42Aの中心線M42は、仮想円Cと接線方向に延在している。この変形例1の循環部品4Aによれば、循環部品4Aの出入り口が成す角度θ2は、180°未満であるものの、実施形態1の角度θ1よりも大きい。つまり、軌道7に配置されるボール3が実施形態1よりも小さくなり、ボールねじ装置100の耐久性が少し落ちる。
【0073】
(変形例2)
図9は、変形例2の循環部品を組み付け方向の外側から視た図である。変形例2の循環部品4Bは、本体部41Bの長さ方向(中心線M41の平行な方向)に二分割されている点で、実施形態1の循環部品4と相違する。つまり、変形例2の循環部品4Bは、2つの部品から成り、本体部41Bは、第1本体部141と第2本体部142を有している。実施形態1の循環部品4によれば、第1対向面25による押圧により本体部41に捩じれが生じている。一方で、変形例2によれば、第1本体部141と第2本体部142がそれぞれ異なる回動方向に回動する。よって、本体部41Bの負荷が軽減され、本体部41Bが破損し難くなる。
【0074】
なお、図9において、第1本体部141と第2本体部142の境界を見易くするため、第1本体部141の端部141aと、第2本体部142の端部142aと、の間に隙間を設けているが、本開示は、第1本体部141の端部141aと、第2本体部142の端部142aが当接していてもよい。
【0075】
(変形例3)
図10は、変形例3の循環部品を軸方向から視た図である。変形例3の循環部品4Cは、金属製の円筒状部品を加工することで製造されている点で、実施形態1の循環部品4と共通している。ただし、変形例3の循環部品4Cは、直径が貫通孔20の軸方向の長さH1(図2参照)よりも大きい点で、実施形態1の循環部品4と相違する。この変形例3の循環部品4Cによれば、剛性が高く、耐久性が向上する。
【0076】
また、変形例3において、2つの脚部42Cのそれぞれには、平面状に切り欠かれて成る一対の平面部143が設けられている点で、実施形態1の循環部品4と相違する。なお、一つの脚部42Cに対し、2つ(一対)の平面部143が設けられているが、図10においては、軸方向Xの一方を向く平面部143が図示され、軸方向Xの他方を向く平面部は図示されていない。また、一対の平面部143は、貫通孔20の一対の側面21(図2参照)と対向している。そして、この一対の平面部143によれば、脚部42Cの軸方向の長さが小さくなり、貫通孔20に挿入することができる。
【符号の説明】
【0077】
100 ボールねじ装置
1 ねじ軸
2 ナット
3 ボール
4、4A、4B、4C 循環部品
5 固定部品
7 軌道
11 内周軌道面
14 平面
20 貫通孔
21 側面
22 対向面
23 第1側面
24 第2側面
25 第1対向面
26 第2対向面
27 押圧面
40 戻り路
41、41B 本体部
42、42A 脚部
43 屈曲部
43a 掬い上げ部
44 第1脚部
45 第2脚部
46 外側外周面
47 内側外周面
48 角面
141 第1本体部
142 第2本体部
143 平面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10