(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149630
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物、誘電体磁器組成物の製造方法及び多層積層セラミックキャパシタ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20231005BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20231005BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B35/468 200
H01G4/12 270
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058290
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 健
(72)【発明者】
【氏名】土井 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】小出 信行
(72)【発明者】
【氏名】畠 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 智志
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AJ02
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】室温から200℃以上の広い温度範囲で温度特性が優れ、DCバイアス依存性が低い誘電体磁器組成物、誘電体磁器組成物の製造方法及び多層積層セラミックキャパシタ提供する。
【解決手段】Ba(Ti
(1-2x)R
xW
x)O
3で表される母材に由来する成分を含み、Rは、Mn及び/又はMgであり、xは、0.06≦x≦0.10を満たす、誘電体磁器組成物、誘電体磁器組成物の製造方法、及び、これを用いた多層積層セラミックキャパシタを提供する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含み、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たす、誘電体磁器組成物。
【請求項2】
Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含み、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たし、
少なくとも前記母材及び添加剤を本焼成して得られる誘電体磁器組成物であって、
前記母材は、BaCO3、TiO2及びROを固相法で第1の仮焼をした後、WO3との混合物とし、さらに第2の仮焼をして得られる仮焼粉を母材とする、誘電体磁器組成物。
【請求項3】
Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含み、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たし、
少なくとも前記母材及び添加剤を本焼成して得られる誘電体磁器組成物であって、
前記母材は、TiO2、RO及びWO3を固相法で第1の仮焼をした後、BaCO3との混合物とし、さらに第2の仮焼をして得られる仮焼粉を母材とする、誘電体磁器組成物。
【請求項4】
Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する誘電体グレインを含み、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たし、
前記誘電体グレインがコアシェル構造を有しない、誘電体磁器組成物。
【請求項5】
Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する誘電体グレインを含み、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たし、
前記誘電体グレインが均一系の構造を有する、誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記誘電体グレイン中のTi濃度の標準偏差が1%以下である、請求項5に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記母材に含まれるRO及びWO3の含有量が、母材全体に対し、5.0重量%以上11.0重量%以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
前記母材は、ペロブスカイト構造を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物を誘電体として含む多層積層セラミックキャパシタ。
【請求項10】
BaCO3、TiO2及びROを固相法で仮焼して第1仮焼粉を形成する第1仮焼工程と、
前記第1仮焼粉と、WO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する第2仮焼工程と、
前記母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る本焼成工程、とを含み、
前記母材は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表され、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たす、誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項11】
TiO2、RO及びWO3を固相法で仮焼して第1仮焼粉を形成する第1仮焼工程と、
前記第1仮焼粉と、BaCO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する第2仮焼工程と、
前記母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る本焼成工程、とを含み、
前記母材は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表され、
前記Rは、Mn及び/又はMgであり、
前記xは、0.06≦x≦0.10を満たす、誘電体磁器組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物、誘電体磁器組成物の製造方法及び多層積層セラミックキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電子制御化が進むにつれ、使用される電子部品の性能及び信頼性への要求が高まっている。例えば、電気自動車のパワーモジュールに使用される電子部品は、高温条件下における信頼性が求められる。セラミックキャパシタの場合、温度変化に対する静電容量特性(X8R特性)等が求められている。近年、電気自動車等において、作動温度が高いパワー半導体の開発が進められており、200℃以上の高温で高い信頼性を有する多層積層セラミックキャパシタへの要求が高まっている。また、高電圧での使用に応じ、DCバイアス依存性が小さい誘電体磁器組成物が求められている。
【0003】
これまで、種々のチタン酸バリウム系誘電体磁器組成物が従来知られている(例えば、特許文献1から6)。しかし、200℃以上の高温下でも温度特性が優れ、DCバイアス依存性が低い誘電体磁器組成物は知られていない。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2018-203590号公報
[特許文献2] 特開2011-11918号公報
[特許文献3] 国際公開第2004/067473号
[特許文献4] 特許第6571048号公報
[特許文献5] 特許第4782552号公報
[特許文献6] 特許第5883217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
室温から200℃以上の広い温度範囲で温度特性が優れ、DCバイアス依存性が低い誘電体磁器組成物、誘電体磁器組成物の製造方法及び多層積層セラミックキャパシタ提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含む誘電体磁器組成物を提供する。ここで、Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。
【0006】
本発明の第2の態様においては、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含む誘電体磁器組成物を提供する。ここで、Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。誘電体磁器組成物は、少なくとも母材及び添加剤を本焼成して得られる。母材は、BaCO3、TiO2及びROを固相法で第1の仮焼をした後、WO3との混合物とし、さらに第2の仮焼をして得られる仮焼粉を母材とする。
【0007】
本発明の第3の態様においては、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含む誘電体磁器組成物を提供する。ここで、Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。誘電体磁器組成物は、少なくとも母材及び添加剤を本焼成して得られる。母材は、TiO2、RO及びWO3を固相法で第1の仮焼をした後、BaCO3との混合物とし、さらに第2の仮焼をして得られる仮焼粉を母材とする。
【0008】
本発明の第4の態様においては、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する誘電体グレインを含む誘電体磁器組成物を提供する。ここで、Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。誘電体グレインはコアシェル構造を有しない。
【0009】
本発明の第5の態様においては、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する誘電体グレインを含む誘電体磁器組成物を提供する。ここで、Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。誘電体グレインは均一系の構造を有する。
【0010】
本発明の第6の態様においては、誘電体磁器組成物の製造方法を提供する。当該製造方法は、BaCO3、TiO2及びROを固相法で仮焼して第1仮焼粉を形成する第1仮焼工程と、第1仮焼体と、WO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する第2仮焼工程と、母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る本焼成工程、とを含む。母材は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される。Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。
【0011】
本発明の第7の態様においては、誘電体磁器組成物の製造方法を提供する。当該製造方法は、TiO2、RO及びWO3を固相法で仮焼して第1仮焼粉を形成する第1仮焼工程と、第1仮焼体と、BaCO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する第2仮焼工程と、母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る本焼成工程、とを含む。母材は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される。Rは、Mn及び/又はMgである。xは、0.06≦x≦0.10を満たす。
【0012】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】実施例A1及び実施例A2に係る誘電体磁器組成物におけるXRD(X-Ray Diffraction)分析結果を示すグラフである。
【
図1B】実施例A3及び実施例A4に係る誘電体磁器組成物におけるXRD(X-Ray Diffraction)分析結果を示すグラフである。
【
図1C】実施例B1及び実施例B2に係る誘電体磁器組成物におけるXRD(X-Ray Diffraction)分析結果を示すグラフである。
【
図1D】比較例1及び比較例2に係る誘電体磁器組成物におけるXRD(X-Ray Diffraction)分析結果を示すグラフである。
【
図1E】比較例A5及び比較例A6に係る誘電体磁器組成物におけるXRD(X-Ray Diffraction)分析結果を示すグラフである。
【
図1F】比較例B3及び比較例B4に係る誘電体磁器組成物におけるXRD(X-Ray Diffraction)分析結果を示すグラフである。
【
図2A】実施例及び比較例に係る誘電体磁器組成物における容量温度変化率を示すグラフである。
【
図2B】実施例及び比較例に係る誘電体磁器組成物における容量温度変化率を示すグラフである。
【
図3A】実施例及び比較例に係る誘電体磁器組成物におけるDCバイアス減衰率を示すグラフである。
【
図3B】実施例及び比較例に係る誘電体磁器組成物におけるDCバイアス減衰率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
[1]誘電体磁器組成物の組成:
本実施形態に係る誘電体磁器組成物の組成について説明する。
【0016】
本実施形態において、誘電体磁器組成物は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含む。ここで「母材に由来する成分を含む」とは、母材そのもの、又は、母材が焼結等の後処理により変性した成分を含むことを意味する。例えば、誘電体磁器組成物は、母材が焼結した誘導体グレインを含んでよい。
【0017】
一例として、母材は、ペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム系化合物であってよい。母材において、チタン酸バリウムのTiサイトの一部が、R及びWで置換されている。Rは、Mn及び/又はMgである。Rは、Mn及びMgの両方を含んでもよい。
【0018】
xは、0.05≦x≦0.12を満たしてよい。好ましくは、0.06≦x≦0.10を満たしてよい。より好ましくは、0.07≦x≦0.09を満たしてよい。一例として、xは、0.06、0.07、0.08、0.09及び0.10であってよい。
【0019】
誘電体磁器組成物がBa(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する成分を含むか否かは、誘電体磁器組成物中の母材に由来する誘電体グレインを分析することで判断することができる。具体的には、母材に由来する誘電体グレインを、STEM/WDS分析又はSTEM/EELS分析することによって確認することができる。
【0020】
誘電体磁器組成物は、母材及び添加剤を本焼成して得られる誘電体磁器組成物であってよい。母材は、BaCO3、TiO2及びROを固相法で第1の仮焼をした後、WO3との混合物とし、さらに第2の仮焼をして得られる仮焼粉を母材としてよい。また、母材は、TiO2、RO及びWO3を固相法で第1の仮焼をした後、BaCO3との混合物とし、さらに第2の仮焼をして得られる仮焼粉を母材としてもよい。
【0021】
誘電体磁器組成物は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表される母材に由来する誘電体グレインを含んでよい。ここで、Rは、Mn及び/又はMgであってよい。xは、0.06≦x≦0.10を満たしてよい。誘電体グレインは、コアシェル構造を有しないものであってよい。
【0022】
コアシェル構造を有しないとは、誘電体グレインが、異なる組成を有する部分によってコア部分とシェル部分を構成しないことを意味し、例えば、後述する均一系の構造を有する場合にはコアシェル構造を有しないと言える。コアシェル構造の有無は、例えば、誘電体グレインを、STEM観察やSEM観察を行って確認することができる。
【0023】
また、誘電体グレインは、均一系の構造を有するものであってよい。ここで、均一系の構造とは、誘電体グレイン中に含まれる成分の元素濃度が、誘電体グレイン中で同じであるか、又は、誘電体グレイン中の成分の濃度のばらつきが実質的に無視できる程度に小さいことを意味する。
【0024】
例えば誘電体磁器組成物に含まれる50%以上の割合の誘電体グレインにおいて、誘電体グレイン中のTi濃度の標準偏差(σ)は、5%以下、3%以下、更に好ましくは1%以下であってよい。誘電体グレイン中のTi濃度は、例えば、誘電体グレインを、STEM/WDS分析又はSTEM/EELS分析することによって確認することができる。
【0025】
誘電体磁器組成物は、母材に含まれるRO及びWO3の含有量が、母材全体に対し、5.0重量%以上11.0重量%以下であってよい。
【0026】
誘電体磁器組成物の製造に用いられる副成分は、特に限定されない。誘電体磁器組成物は、副成分として、バリウム化合物、マンガン化合物、バナジウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、シリコン化合物等を含んでよい。一例として、バリウム化合物は、酸化バリウム(BaO)、炭酸バリウム(BaCO3)、又は、塩化バリウム(BaCl2)等であってよい。マンガン化合物は、酸化マンガン(MnO2、Mn2O3、Mn3O4)等であってよい。バナジウム化合物は、五酸化バナジウム等であってよい。マグネシウム化合物は、酸化マグネシウム(MgO)等であってよい。カルシウム化合物は、炭酸カルシウム(CaCO3)等であってよい。シリコン化合物は、酸化ケイ素(SiO2)等であってよい。
【0027】
これらの副成分の組成範囲の例について説明する。例えば、母材100molに対してバリウム化合物(2種以上の場合はその合計量)は、Ba換算で0.1mol以上4.0mol以下で用いられてよい。母材100molに対して、マンガン化合物(2種以上の場合はその合計量)は、Mn換算で0.01mol以上0.5mol以下で用いられてよい。母材100molに対して、マグネシウム化合物(2種以上の場合はその合計量)は、Mg換算で0.1mol以上2.0mol以下で用いられてよい。母材100molに対して、バナジウム化合物(2種以上の場合はその合計量)は、V換算で0.01mol以上3.0mol以下で用いられてよい。
【0028】
[2]誘電体磁器組成物の形態および特性:
本実施形態の誘電体磁器組成物の形態は特に限定されない。誘電体磁器組成物は、板状物、球状物、ペレット等の形態をとることができる。また、これらの形態を組み合わせた複合形態をとることもできる。
【0029】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、容量温度特性に優れている。具体的には、室温から200℃以上の範囲において低い容量温度変化率を示す。容量温度変化率(ΔC)は次式で定義される。
【数1】
【0030】
本実施形態の誘電体磁器組成物の25℃以上200℃以下における容量温度変化率(ΔC)は、-50%以上+20%以内が好ましい。さらに好ましくは±20%以内であってよい。なお、上記式において、各温度における静電容量は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0031】
[3]誘電体磁器組成物の製造方法:
本実施形態の誘電体磁器組成物は、例えば、下記(A1)から(A3)の工程で製造されてよい。ただし、本実施形態の誘電体磁器組成物の製造方法は、これに限定されるものではない。
【0032】
(A1)BaCO3、TiO2及びROを固相法で仮焼して第1仮焼粉を形成する第1仮焼工程。
(A2)(A1)の第1仮焼工程で得た第1仮焼粉と、WO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する第2仮焼工程。
(A3)(A2)の第2仮焼工程で得た母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る本焼成工程。
【0033】
このとき、母材は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表されてよく、ペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム系化合物であってよい。母材において、チタン酸バリウムのTiサイトの一部が、R及びWで置換されてよい。Rは、Mn及び/又はMgであってよい。Rは、Mn及びMgの両方を含んでもよい。xは、0.06≦x≦0.10を満たしてよい。
【0034】
以下、各工程について詳細に説明する。
(A1)第1仮焼工程
本工程では、BaCO3、TiO2及びROを仮焼して第1仮焼粉を形成する。原料として、BaCO3、TiO2及びROを秤量、混合し、混合物を固相法で熱処理(仮焼)してよい。BaCO3、TiO2及びROの量は、(A2)の第2仮焼工程で得られる母材の「x」が0.06≦x≦0.10の範囲内となるように調整してよい。固相法で製造する場合、例えば、BaCO3、TiO2及びROを溶媒中で湿式混合させてよい。混合物を乾燥後、粗粉砕し、仮焼して第1仮焼粉を形成してよい。
【0035】
湿式混合に用いられる溶媒は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0036】
溶媒の使用量は、好ましくは、BaCO3、TiO2及びROの全質量(合計質量)の0.5倍以上10倍以下である。溶媒の使用量は、より好ましくは、0.7倍以上5倍以下である。上記範囲であればBaCO3、TiO2及びROが十分に混合される。
【0037】
湿式混合において、湿式ボールミル又は攪拌ミルを用いることができる。湿式ボールミルを用いる場合、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いてよい。湿式混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。
【0038】
仮焼の温度は600℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1150℃以下がより好ましく、700℃以上1100℃以下がさらに好ましい。
【0039】
仮焼のトップキープ時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。焼成の雰囲気も、特に制限されず、真空で、又は空気雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下などが挙げられる。
【0040】
他の焼成条件としては、昇温速度が好ましくは50℃/時間以上500℃/時間以下、より好ましくは70℃/時間以上200℃/時間以下である。
【0041】
(A2)第2仮焼工程
本工程では、(A1)の工程で得た第1仮焼粉と、WO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する。第1仮焼粉と、WO3とを秤量、混合し、混合物を固相法で熱処理(仮焼)してよい。WO3の量は、第2仮焼工程で得られる母材の「x」が0.06≦x≦0.10の範囲内となるように調整してよい。固相法で製造する場合、例えば、第1仮焼粉とWO3とを溶媒中で湿式混合させてよい。混合物を乾燥後、粗粉砕し、仮焼して第2仮焼粉を形成してよい。
【0042】
湿式混合に用いられる溶媒は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0043】
溶媒の使用量は、好ましくは、第1仮焼粉及びWO3の全質量(合計質量)の0.5倍以上10倍以下である。溶媒の使用量は、より好ましくは、0.7倍以上5倍以下である。上記範囲であれば第1仮焼粉及びWO3が十分に混合される。
【0044】
湿式混合において、湿式ボールミル又は攪拌ミルを用いることができる。湿式ボールミルを用いる場合、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いてよい。湿式混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。
【0045】
仮焼の温度は600℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1150℃以下がより好ましく、700℃以上1100℃以下がさらに好ましい。焼成温度が上記範囲内である場合、焼成が十分に進行し、得られる母材の欠陥が少ないという点で好ましい。
【0046】
仮焼のトップキープ時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。焼成の雰囲気も、特に制限されず、真空で、又は空気雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下などが挙げられる。
【0047】
他の焼成条件としては、昇温速度が好ましくは50℃/時間以上500℃/時間以下、より好ましくは70℃/時間以上200℃/時間以下である。
【0048】
(A3)本焼成工程
本工程では、(A2)の工程で得た母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る。(A2)の工程で得た母材と添加剤とを混合して得られた混合物を成形して、成形体を本焼成してよい。
【0049】
まず、(A2)の工程で得た母材と添加剤とを、溶媒中で湿式混合してよい。本実施形態の誘電体磁器組成物の成分が溶媒中で湿式混合されることで、スラリーが作製される。なお、添加剤は、誘電体磁器組成物の副成分、バインダー、可塑剤、分散剤等を含んでよい。また、添加剤は、潤滑剤、帯電防止剤等を含んでもよい。
【0050】
湿式混合に用いられる溶媒は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの中でもアルコール溶媒、及び芳香族溶媒が好ましい。これら溶媒は、スラリーに含まれる各種添加剤の溶解性や分散性が良好である。アルコール溶媒は、好ましくは、メタノールやエタノール等の低沸点溶媒である。また、芳香族溶媒は、好ましくは、トルエン等の低沸点溶媒である。上記溶媒は、単独でも又は2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用して使用されてよい。2種以上の溶媒を混合するときは、好ましくは、上記アルコール溶媒と芳香族溶媒とが混合される。
【0051】
溶媒の使用量は、好ましくは、母材および添加剤の全質量(合計質量)の0.5倍以上10倍以下である。溶媒の使用量は、より好ましくは、0.7倍以上5倍以下である。上記範囲であれば母材、添加剤等が十分に混合される。さらに、後に溶媒を除去する操作が簡便に実行される。
【0052】
スラリーに含まれ得るバインダーは、特に制限されない。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、アクリル樹脂等が挙げられる。なお、上記バインダーは、単独でも又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0053】
バインダーの使用量は、特に制限されない。好ましくは、バインダーは、母材及び添加剤の全質量(合計質量)に対して、0.01質量%以上20質量%以下である。より好ましくは、バインダーは、0.5質量%以上15質量%以下である。この範囲とすることにより、成形体の密度が向上される。
【0054】
スラリーに含まれ得る可塑剤は、特に制限されない。例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジ(2-エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOA)などのアジピン酸系可塑剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸系可塑剤である。フタル酸系可塑剤を用いると上記スラリーから製造されるグリーンシートの柔軟性が良好になる。なお、上記可塑剤は、単独でも又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0055】
可塑剤の使用量は、特に限定されない。好ましくは、可塑剤は、添加するバインダーの全質量に対して、5質量%以上50質量%以下である。より好ましくは、可塑剤は、10質量%以上50質量%以下である。特に好ましくは、可塑剤は、15質量%以上30質量%以下である。上記範囲とすることにより、可塑剤として十分な効果が得られる。
【0056】
スラリーに含まれ得る分散剤は、特に制限されない。例えば、リン酸エステル系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル系分散剤が好ましい。なお、上記分散剤は、単独でも又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0057】
分散剤の使用量は、特に制限されない。好ましくは、分散剤は、母材及び添加剤の全質量(合計質量)に対して、0.1質量%以上5質量%以下である。より好ましくは、分散剤は、0.3質量%以上3質量%以下である。さらに好ましくは、分散剤は、0.5質量%以上1.5質量%以下である。上記範囲とすることにより、分散剤として十分な効果が得られる。
【0058】
湿式混合の方法としては、湿式ボールミル、攪拌ミル、又はビーズミルを用いることができる。湿式ボールミルは、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールでもよい。湿式混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下であってよい。好ましくは、混合時間は、10時間以上24時間以下である。
【0059】
次に、所定の大きさ及び形状となるように、スラリーが成形され、成形体を得る。成形体は、シート成形されたものであってよい。例えば、ドクターブレード法又はダイコーター法等により、上記スラリーがシート状に成形される。その後、得られたシートは、積層され、ヒートプレス成形される。必要に応じて、成形体はチップ形状等の所望の形状に裁断されてよい。これにより、いわゆるグリーンシートが成形される。
【0060】
グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)は、特に制限されない。好ましくは、グリーンシートの厚さは30μm以下である。より好ましくは、グリーンシートの厚さは20μm以下である。一方、グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)の下限は特に限定されない。グリーンシートの厚さは実質的には0.5μm以上である。
【0061】
上記グリーンシートは、所望の厚さになるまで積層され、その後加熱圧着されてもよい。また、加熱圧着時の条件は特に制限されない。好ましくは、加熱圧着時の温度は50℃以上150℃以下である。好ましくは、加熱圧着時の圧力は10MPa以上200MPa以下である。好ましくは、加圧時間は1分以上30分以下である。加熱圧着の方法としては、温間等方圧加圧法(WIP)等が挙げられる。
【0062】
その後、グリーンシートを積層したものが裁断される。これにより、所望のチップ形状であるグリーンチップが作製されてもよい。
【0063】
得られたグリーンシート(又はグリーンチップ)中に含まれるバインダー成分等は、好ましくは、熱分解により除去される(脱脂処理)。脱脂処理の条件は、使用したバインダーの種類に依存するが、特に制限されない。好ましくは、脱脂条件は、180℃以上450℃以下で行われる。また脱脂処理時間は、特に制限されない。好ましくは、脱脂処理時間は0.5時間以上24時間以下である。脱脂処理は、空気中、又は窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行なわれる。工程管理の簡便さの点から、好ましくは、脱脂処理は、空気中で行なわれる。
【0064】
本焼成は、一例として、以下の方法により実行される。脱バインダー処理後の成形体に対して、本焼成を行う。本焼成の温度は、1400℃以下であってよい。本焼成の温度の下限は、特に制限されない。好ましくは、当該下限は1000℃以上である。より好ましくは、当該下限は1150℃以上である。本焼成の温度の範囲は、より好ましくは1200℃以上1400℃以下である。特に好ましくは、当該温度の範囲は1230℃以上1360℃以下である。焼成トップキープ時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下としてもよい。好ましくは、焼成トップキープ時間は1時間以上3時間以下である。昇温条件は、50℃/h以上500℃/h以下としてもよい。好ましくは、昇温条件は70℃/時間以上200℃/時間以下である。焼成雰囲気は、特に制限されない。不活性ガス雰囲気下、又は、還元雰囲気下であってよい。還元雰囲気は、不活性ガスに水素及び/又は水蒸気等が混合されたものであってよい。
【0065】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、下記(B1)から(B3)の工程で製造されてもよい。
【0066】
(B1)TiO2、RO及びWO3を固相法で仮焼して第1仮焼粉を形成する第1仮焼工程。
(B2)(B1)の工程で得た第1仮焼体と、BaCO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する第2仮焼工程。
(B3)(B2)の工程で得た母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る本焼成工程。
【0067】
このとき、母材は、Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3で表されてよく、ペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム系化合物であってよい。母材において、チタン酸バリウムのTiサイトの一部が、R及びWで置換されてよい。Rは、Mn及び/又はMgであってよい。Rは、Mn及びMgの両方を含んでもよい。xは、0.06≦x≦0.10を満たしてよい。
【0068】
以下、各工程について詳細に説明する。
(B1)第1仮焼工程
本工程では、TiO2、RO及びWO3を仮焼して第1仮焼粉を形成する。原料として、TiO2、RO及びWO3を秤量、混合し、混合物を固相法で熱処理(仮焼)してよい。TiO2、RO及びWO3の量は、(B2)の第2仮焼工程で得られる母材の「x」が0.06≦x≦0.10の範囲内となるように調整してよい。固相法で製造する場合、例えば、TiO2、RO及びWO3を溶媒中で湿式混合させてよい。混合物を乾燥後、粗粉砕し、仮焼して第1仮焼粉を形成してよい。
【0069】
湿式混合に用いられる溶媒は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0070】
溶媒の使用量は、好ましくは、TiO2、RO及びWO3の全質量(合計質量)の0.5倍以上10倍以下である。溶媒の使用量は、より好ましくは、0.7倍以上5倍以下である。上記範囲であればTiO2、RO及びWO3が十分に混合される。
【0071】
湿式混合において、湿式ボールミル又は攪拌ミルを用いることができる。湿式ボールミルを用いる場合、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いてよい。湿式混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。
【0072】
仮焼の温度は600℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1150℃以下がより好ましく、700℃以上1100℃以下がさらに好ましい。
【0073】
仮焼のトップキープ時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。焼成の雰囲気も、特に制限されず、真空で、又は空気雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下などが挙げられる。
【0074】
他の焼成条件としては、昇温速度が好ましくは50℃/時間以上500℃/時間以下、より好ましくは70℃/時間以上200℃/時間以下である。
【0075】
(B2)第2仮焼工程
本工程では、(B1)の工程で得た第1仮焼粉と、BaCO3との混合物を、さらに仮焼して誘電体磁器組成物の母材を形成する。第1仮焼粉と、BaCO3とを秤量、混合し、混合物を固相法で熱処理(仮焼)してよい。BaCO3の量は、第2仮焼工程で得られる母材の「x」が0.06≦x≦0.10の範囲内となるように調整してよい。固相法で製造する場合、例えば、第1仮焼粉とBaCO3とを溶媒中で湿式混合させてよい。混合物を乾燥後、粗粉砕し、仮焼して第2仮焼粉を形成してよい。
【0076】
湿式混合に用いられる溶媒は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0077】
溶媒の使用量は、好ましくは、第1仮焼粉及びBaCO3の全質量(合計質量)の0.5倍以上10倍以下である。溶媒の使用量は、より好ましくは、0.7倍以上5倍以下である。上記範囲であれば第1仮焼粉及びBaCO3が十分に混合される。
【0078】
湿式混合において、湿式ボールミル又は攪拌ミルを用いることができる。湿式ボールミルを用いる場合、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いてよい。湿式混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。
【0079】
仮焼の温度は600℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1150℃以下がより好ましく、700℃以上1100℃以下がさらに好ましい。焼成温度が上記範囲内である場合、焼成が十分に進行し、得られる母材の欠陥が少ないという点で好ましい。
【0080】
仮焼のトップキープ時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。焼成の雰囲気も、特に制限されず、真空で、又は空気雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下などが挙げられる。
【0081】
他の焼成条件としては、昇温速度が好ましくは50℃/時間以上500℃/時間以下、より好ましくは70℃/時間以上200℃/時間以下である。
【0082】
(B3)本焼成工程
本工程では、(B2)の工程で得た母材と添加剤を本焼成して誘電体磁器組成物を得る。(B2)の工程で得た母材と添加剤とを混合して得られた混合物を成形して、成形体を本焼成してよい。
【0083】
まず、(B2)の工程で得た母材と添加剤とを、溶媒中で湿式混合してよい。本実施形態の誘電体磁器組成物の成分が溶媒中で湿式混合されることで、スラリーが作製される。なお、添加剤は、誘電体磁器組成物の副成分、バインダー、可塑剤、分散剤等を含んでよい。また、添加剤は、潤滑剤、帯電防止剤等を含んでもよい。
【0084】
湿式混合に用いられる溶媒は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの中でもアルコール溶媒、及び芳香族溶媒が好ましい。これら溶媒は、スラリーに含まれる各種添加剤の溶解性や分散性が良好である。アルコール溶媒は、好ましくは、メタノールやエタノール等の低沸点溶媒である。また、芳香族溶媒は、好ましくは、トルエン等の低沸点溶媒である。上記溶媒は、単独でも又は2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用して使用されてよい。2種以上の溶媒を混合するときは、好ましくは、上記アルコール溶媒と芳香族溶媒とが混合される。
【0085】
溶媒の使用量は、好ましくは、母材及び添加剤の全質量(合計質量)の0.5倍以上10倍以下である。溶媒の使用量は、より好ましくは、0.7倍以上5倍以下である。上記範囲であれば母材、添加剤等が十分に混合される。さらに、後に溶媒を除去する操作が簡便に実行される。
【0086】
スラリーに含まれ得るバインダーは、特に制限されない。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、アクリル樹脂等が挙げられる。なお、上記バインダーは、単独でも又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0087】
バインダーの使用量は、特に制限されない。好ましくは、バインダーは、母材及び添加剤の全質量(合計質量)に対して、0.01質量%以上20質量%以下である。より好ましくは、バインダーは、0.5質量%以上15質量%以下である。この範囲とすることにより、成形体の密度が向上される。
【0088】
スラリーに含まれ得る可塑剤は、特に制限されない。例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジ(2-エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOA)などのアジピン酸系可塑剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸系可塑剤である。フタル酸系可塑剤を用いると上記スラリーから製造されるグリーンシートの柔軟性が良好になる。なお、上記可塑剤は、単独でも又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0089】
可塑剤の使用量は、特に限定されない。好ましくは、可塑剤は、添加するバインダーの全質量に対して、5質量%以上50質量%以下である。より好ましくは、可塑剤は、10質量%以上50質量%以下である。特に好ましくは、可塑剤は、15質量%以上30質量%以下である。上記範囲とすることにより、可塑剤として十分な効果が得られる。
【0090】
スラリーに含まれ得る分散剤は、特に制限されない。例えば、リン酸エステル系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル系分散剤が好ましい。なお、上記分散剤は、単独でも又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0091】
分散剤の使用量は、特に制限されない。好ましくは、分散剤は、母材及び添加剤の全質量(合計質量)に対して、0.1質量%以上5質量%以下である。より好ましくは、分散剤は、0.3質量%以上3質量%以下である。さらに好ましくは、分散剤は、0.5質量%以上1.5質量%以下である。上記範囲とすることにより、分散剤として十分な効果が得られる。
【0092】
湿式混合の方法としては、湿式ボールミル、攪拌ミル、又はビーズミルを用いることができる。湿式ボールミルは、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールでもよい。湿式混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下であってよい。好ましくは、混合時間は、10時間以上24時間以下である。
【0093】
次に、所定の大きさ及び形状となるように、スラリーが成形され、成形体を得る。成形体は、シート成形されたものであってよい。例えば、ドクターブレード法又はダイコーター法等により、上記スラリーがシート状に成形される。その後、得られたシートは、積層され、ヒートプレス成形される。必要に応じて、成形体はチップ形状等の所望の形状に裁断されてよい。これにより、いわゆるグリーンシートが成形される。
【0094】
グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)は、特に制限されない。好ましくは、グリーンシートの厚さは30μm以下である。より好ましくは、グリーンシートの厚さは20μm以下である。一方、グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)の下限は特に限定されない。グリーンシートの厚さは実質的には0.5μm以上である。
【0095】
上記グリーンシートは、所望の厚さになるまで積層され、その後加熱圧着されてもよい。また、加熱圧着時の条件は特に制限されない。好ましくは、加熱圧着時の温度は50℃以上150℃以下である。好ましくは、加熱圧着時の圧力は10MPa以上200MPa以下である。好ましくは、加圧時間は1分以上30分以下である。加熱圧着の方法としては、温間等方圧加圧法(WIP)等が挙げられる。
【0096】
その後、グリーンシートを積層したものが裁断される。これにより、所望のチップ形状であるグリーンチップが作製されてもよい。
【0097】
得られたグリーンシート(又はグリーンチップ)中に含まれるバインダー成分等は、好ましくは、熱分解により除去される(脱脂処理)。脱脂処理の条件は、使用したバインダーの種類に依存するが、特に制限されない。好ましくは、脱脂条件は、180℃以上450℃以下で行われる。また脱脂処理時間は、特に制限されない。好ましくは、脱脂処理時間は0.5時間以上24時間以下である。脱脂処理は、空気中、又は窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行なわれる。工程管理の簡便さの点から、好ましくは、脱脂処理は、空気中で行なわれる。
【0098】
本焼成は、一例として、以下の方法により実行される。脱バインダー処理後の成形体に対して、本焼成を行う。本焼成の温度は、1400℃以下であってよい。本焼成の温度の下限は、特に制限されない。好ましくは、当該下限は1000℃以上である。より好ましくは、当該下限は1150℃以上である。本焼成の温度の範囲は、より好ましくは1200℃以上1400℃以下である。特に好ましくは、当該温度の範囲は1230℃以上1360℃以下である。焼成トップキープ時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下としてもよい。好ましくは、焼成トップキープ時間は1時間以上3時間以下である。昇温条件は、50℃/h以上500℃/h以下としてもよい。好ましくは、昇温条件は70℃/時間以上200℃/時間以下である。焼成雰囲気は、特に制限されない。不活性ガス雰囲気下、又は、還元雰囲気下であってよい。還元雰囲気は、不活性ガスに水素及び/又は水蒸気等が混合されたものであってよい。
【0099】
[4]誘電体磁器組成物の適用対象:
本実施形態の誘電体磁器組成物は、様々な電子部品に用いることができる。特に誘電体磁器組成物は高温下(例えば200℃以上)で信頼性が要求される電子部品に好適に用いられる。電子部品の一例として、誘電体磁器組成物を誘電体として含むキャパシタが挙げられる。別の例として、誘電体磁器組成物を誘電体として含む多層積層セラミックキャパシタ(MLCC)が挙げられる。
【0100】
これらの電子部品は、例えば電気自動車のパワーモジュール基板、またはそのパワーモジュール基盤付近に用いられ、高い性能と信頼性が必要である。例えば、SiC半導体を搭載したパワーモジュールに用いられる。誘電体磁器組成物を含むMLCCは、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0101】
まず、上記(A3)又は(B3)の工程で得たグリーンシートに内部電極用導電性ペーストを印刷する。印刷の方法は、例えば、スクリーン印刷であってよい。また、内部電極用導電性ペーストは、Cu、Ni、Pt、Pd、Ag等が用いられる。内部電極用導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを複数積層して積層体が形成される。
【0102】
続いて、内部電極用導電性ペーストが印刷されていないグリーンシートで、上記積層体が挟まれる。この後当該積層体は圧着される。その後、これを必要に応じて裁断してグリーンチップを形成する。その後、グリーンチップの脱バインダー処理及び本焼成により、コンデンサチップ体が得られる。焼成条件は、上記(A3)工程及び(B3)工程と同様であってよい。なお、還元雰囲気下の焼成時に、得られたコンデンサチップ体が更にアニール処理されてよい。これにより、誘電体層の再酸化が可能となる。
【0103】
次に、コンデンサチップ体の端面から露出した内部電極の各端面は、外部電極と接続される。例えば、端面に外部電極用導電性ペーストを塗布することで外部電極が形成されてよい。外部電極用導電性ペーストとして、内部電極用導電性ペースト材料で挙げたものを用いてよい。又は同ペーストとして、Cu、Ag、Ag-10Pd、AgコートCu等の合金、及び/又は、グラファイト等のカーボン材料を用いてもよい。さらに必要に応じて、コンデンサチップ体にメッキ処理で被覆層を形成してもよい。
【0104】
電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサが挙げられる。しかし、本実施形態に係る電子部品は、これに限定されるものではない。例えば、高周波モジュール、サーミスタ用電子部品、又はこれらの複合部品等、種々の他の部品が挙げられる。
【0105】
[5]実施例:
表を用いて本願発明の実施例及び比較例を説明する。ただし本発明の技術範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
[原料]
実施例及び比較例において、以下のものが原料として用いられた。
BaCO3:株式会社レアメタリック Ba-40-26-0060
TiO2:三津和化学薬品株式会社 酸化チタンIV 3N
MgO:株式会社レアメタリック MG-76-20-0130
Mn3O4:株式会社高純度化学研究所 MNO03PB
WO3:株式会社高純度化学研究所 WWO03PB
【0106】
表1は、実施例及び比較例の誘電体磁器組成物の組成を示す。
【表1】
【0107】
表1のxは、母材Ba(Ti(1-2x)RxWx)O3におけるxに対応する。表1の「仮焼」は、誘電体磁器組成物の母材を得る工程における仮焼工程の数を表す。1段階とは、仮焼工程を1回行ったことを意味し、2段階とは、仮焼工程を2回行ったことを意味する。
【0108】
[実施例A1]
x=0.06となるように、電子天秤を用いて、BaCO3、TiO2及びMgOを秤量した。秤量した材料に、固形分濃度が33wt%となるように純水を添加した。その後、回転ボールミル台により湿式混合を16時間行った。回転ボールミルには、φ3mmのZrO2ボールを用いた。その後、スラリーを取り出し、100℃にて大気中でバット乾燥を行った。得られた乾燥粉末に対して、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行った。得られた粉末をアルミナるつぼ中で、大気中で仮焼した(第1仮焼工程)。仮焼は、1000℃×3時間(100℃/時間で昇温)の条件で行った。
【0109】
得られた第1仮焼粉に対して、x=0.06となるようにWO3を電子天秤にて秤量後、添加して、固形分濃度が33wt%となるように純水を添加した。その後、回転ボールミル台により湿式混合を16時間行った。回転ボールミルには、φ3mmのZrO2ボールを用いた。その後、スラリーを取出し、100℃にて大気中でバット乾燥を行った。得られた乾燥粉末に対して、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行った。得られた粉末をアルミナるつぼ中で、大気中で仮焼した(第2仮焼工程)。仮焼は、1000℃×3時間(100℃/時間で昇温)の条件で行った。得られた第2仮焼粉を、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行い、ペレット状に成型を行った。得られたペレットを、1300℃×5時間(100℃/時間で昇温)の条件で本焼成を行った。
【0110】
[実施例A2]
x=0.10となるように、BaCO3、TiO2、MgO及びWO3を秤量したこと以外は、実施例A1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0111】
[実施例A3]
x=0.06となるように、BaCO3、TiO2、MnO及びWO3を秤量したこと以外は、実施例A1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0112】
[実施例A4]
x=0.10となるように、BaCO3、TiO2、MnO及びWO3を秤量したこと以外は、実施例A1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0113】
[実施例B1]
x=0.06となるように、電子天秤を用いて、TiO2、MgO及びWO3を秤量した。秤量した材料に、固形分濃度が33wt%となるように純水を添加した。その後、回転ボールミル台により湿式混合を16時間行った。回転ボールミルには、φ3mmのZrO2ボールを用いた。その後、スラリーを取り出し、100℃にて大気中でバット乾燥を行った。得られた乾燥粉末に対して、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行った。得られた粉末をアルミナるつぼ中で、大気中で仮焼した(第1仮焼工程)。仮焼は、1000℃×3時間(100℃/時間で昇温)の条件で行った。
【0114】
得られた第1仮焼粉に対して、x=0.06となるようにBaCO3を電子天秤にて秤量後、添加して、固形分濃度が33wt%となるように純水を添加した。その後、回転ボールミル台により湿式混合を16時間行った。回転ボールミルには、φ3mmのZrO2ボールを用いた。その後、スラリーを取出し、100℃にて大気中でバット乾燥を行った。得られた乾燥粉末に対して、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行った。得られた粉末をアルミナるつぼ中で、大気中で仮焼した(第2仮焼工程)。仮焼は、1000℃×3時間(100℃/時間で昇温)の条件で行った。得られた第2仮焼粉を、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行い、ペレット状に成型を行った。得られたペレットを、1300℃×5時間(100℃/時間で昇温)の条件で本焼成を行った。
【0115】
[実施例B2]
x=0.10となるように、TiO2、MgO、WO3及びBaCO3を秤量したこと以外は、実施例B1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0116】
[比較例1]
x=0.10となるように、電子天秤を用いて、BaCO3、TiO2、MgO及びWO3を秤量した。秤量した材料に、固形分濃度が33wt%となるように純水を添加した。その後、回転ボールミル台により湿式混合を16時間行った。回転ボールミルには、φ3mmのZrO2ボールを用いた。その後、スラリーを取り出し、100℃にて大気中でバット乾燥を行った。得られた乾燥粉末に対して、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行った。得られた粉末をアルミナるつぼ中で、大気中で仮焼した。仮焼は、1000℃×3時間(100℃/時間で昇温)の条件で行った。得られた仮焼粉を乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行い、XRD測定を行った。
【0117】
[比較例2]
x=0.10となるように、電子天秤を用いて、BaCO3、TiO2、MnO及びWO3を秤量した。秤量した材料に、固形分濃度が33wt%となるように純水を添加した。その後、回転ボールミル台により湿式混合を16時間行った。回転ボールミルには、φ3mmのZrO2ボールを用いた。その後、スラリーを取り出し、100℃にて大気中でバット乾燥を行った。得られた乾燥粉末に対して、乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行った。得られた粉末をアルミナるつぼ中で、大気中で仮焼した。仮焼は、1000℃×3時間(100℃/時間で昇温)の条件で行った。得られた仮焼粉を乳棒と乳鉢を用いて、粗粉砕を行い、XRD測定を行った。
【0118】
[比較例A5]
x=0.02となるように、BaCO3、TiO2、MnO及びWO3を秤量したこと以外は、実施例A1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0119】
[実施例A6]
x=0.04となるように、BaCO3、TiO2、MnO及びWO3を秤量したこと以外は、実施例A1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0120】
[実施例B3]
x=0.02となるように、TiO2、MgO、WO3及びBaCO3を秤量したこと以外は、実施例B1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0121】
[実施例B4]
x=0.04となるように、TiO2、MgO、WO3及びBaCO3を秤量したこと以外は、実施例B1と同じ条件で誘電体磁器組成物を作製した。
【0122】
[評価]
上記実施例及び比較例で得られた誘電体磁器組成物を、以下のとおり評価した。
【0123】
(1)STEM/WDS又はSTEM/EELS分析
各誘電体磁器組成物中の誘電体グレイン中で、それぞれ総4地点のR及びWの含量をSTEM/WDS又はSTEM/EELSにより分析し、4地点の平均値を計算して、母材に含まれるRO及びWO3の含有量を算出した。
【0124】
(2)XRD分析
実施例及び比較例の誘電体磁器組成物について、XRD分析を行った。実施例及び比較例について得られたXRD分析結果のグラフを、
図1A、
図1B、
図1C、
図1D、
図1E及び
図1Fに示す。
【0125】
(3)容量温度変化率
実施例及び比較例で本焼成して得られた誘電体磁器組成物誘電体磁器組成物の容量温度変化率を評価した。容量温度変化率の評価は、25℃から250℃までの温度範囲における、誘電体磁器組成物の静電容量を測定し、静電容量の測定値から、下記式に従い、25℃における静電容量に対する各温度での静電容量の変化率(単位:%)を算出することで行った。
【数1】
【0126】
静電容量は、実施例及び比較例で得られた誘電体磁器組成物の焼結体ペレットから、2mm角にサンプルを切り出し、金スパッタにより作製した電極を用いて測定した。静電容量の測定の際には、LCRメーターが用いられた。用いたLCRメーターは、Wayne Kerr Electronics社製、6440Bである。また測定条件は、周波数:1kHzである。実施例及び比較例について得られた容量温度変化率のグラフを、
図2A及び
図2Bに示す。
【0127】
容量温度特性の評価は、下記に示す通りにした。
○:-55℃から200℃での容量温度変化率ΔCが、-50%以上+20%以内である。
×:ΔCが、「-50%以上+20%以内」から外れている。
【0128】
(4)DCバイアス減衰率
実施例及び比較例の誘電体磁器組成物に対し、DCバイアスに対する、誘電率の変化を測定した。誘電率の測定は、P-Eヒステリシスを測定し、誘電率に換算することで行った。P-Eヒステリシスの測定には、Toyo Corporation社製、Model6252 Rev.Cを用いた。また、測定条件は、周波数:100Hzである。実施例及び比較例について得られたDCバイアスに対する誘電率変化のグラフを、
図3A及び
図3Bに示す。
【0129】
DCバイアス減衰率の評価は、下記に示す通りにした。
〇:DCバイアス減衰率≦50%
×:DCバイアス減衰率>50%
なお、DCバイアス減衰率は、ゼロバイアス誘電率を基準とし、±100kV/cmの電界強度を印加した時の誘電率の減少割合とし、下記式に従い算出した。
DCバイアス減衰率(%)=[1-(±100kV/cm印加時の誘電率/ゼロバイアス誘電率)]×100
【0130】
表2は、実施例及び比較例の誘電体磁器組成物の、母材に含まれるRO及びWO
3の含有量の測定結果を示す。
【表2】
【0131】
表3は、実施例及び比較例の誘電体磁器組成物の評価結果を示す。
【表3】
【0132】
図1Aから
図1Fを参照すると、2段階の仮焼工程を行った実施例A1からA4、実施例B1、B2、比較例A5、A6、B3及びB4の誘電体磁器組成物は、XRDにおいて、不純物相のピークが現れず、誘電体磁器組成物が単一相である結果を示した。一方、1段階の仮焼工程により製造した比較例1及び2の誘電体磁器組成物は、不純物相のピークが検出され、誘電体磁器組成物が単一相でないことが分かった。
【0133】
表2を参照すると、誘電体磁器組成物における母材に含まれるRO及びWO3の含有量は、実施例A1からA4、B1、B2、比較例1及び比較例2において、母材全体に対し、5.0重量%以上11.0重量%以下の範囲であった。一方、比較例A5、A6、B3及びB4は、5.0重量%以上11.0重量%以下の範囲に含まれないものとなった。
【0134】
表3、
図2A及び
図2Bの結果より、実施例A1からA4、B1及びB2の誘電体磁器組成物は、容量温度特性に優れ、X9M特性を満足することが分かる。一方、比較例A5、A6、B3及びB4の誘電体磁器組成物は、容量温度特性が低下し、X9M特性(-50%≦ΔC≦+20%)を満足しなかった。
【0135】
従って、本実施形態における誘電体磁器組成物を適用した積層セラミックキャパシタは、温度特性に優れる。すなわち、本実施形態による誘電体磁器組成物を適用した積層セラミックキャパシタは、200℃を超える高温でも温度特性が良く、高温信頼性に優れる。
【0136】
表3、
図3A及び
図3Bの結果より、実施例A1からA4、B1及びB2の誘電体磁器組成物は、DC電圧を印加したとき、DC電圧が0Vから±100kV/cmに増加しても誘電率の変化が小さく、DCバイアス減衰率が、50%以下を満たすことが分かる。一方、比較例A5、A6、B3及びB4の誘電体磁器組成物は、DC電圧を印加したとき、DC電圧が0Vから±100kV/cmに増加するに伴って誘電率が大きく減少することが分かる。
【0137】
従って、本実施形態による誘電体磁器組成物は、DCバイアス特性に優れる。すなわち、本実施形態による誘電体磁器組成物を適用した積層セラミックキャパシタは、DC電圧が印加されても誘電率の変化が少なく容量が減少しないため、高容量特性を具現することができる。
【0138】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0139】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。