(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149631
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ガラス基板、該ガラス基板の製造方法及び該ガラス基板を使用したガラス素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 23/203 20060101AFI20231005BHJP
C03C 3/247 20060101ALI20231005BHJP
C03B 33/07 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C03B23/203
C03C3/247
C03B33/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058291
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】池西 幹男
【テーマコード(参考)】
4G015
4G062
【Fターム(参考)】
4G015FA01
4G015FB04
4G062AA01
4G062BB09
4G062CC10
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4G062KK10
4G062MM27
4G062MM31
4G062NN03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数の光学的に均質なガラス素子を一度に製造するために適したガラス基板およびその製造方法、ならびにガラス基板を使用して、多数のガラス素子を製造する方法を提供する。
【解決手段】対向する平坦な2つの主表面を有するガラス基板11において、複数の光学的に均質なガラス片4同士が接合されており、接合されているガラス片同士の接合面2(領域)が2つの主表面31、32に対して垂直又は略垂直になっているガラス基板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する平坦な2つの主表面を有するガラス基板において、
複数の光学的に均質なガラス片同士が接合されており、
接合されているガラス片同士の接合面が2つの主表面に対して垂直又は略垂直になっているガラス基板。
【請求項2】
前記ガラス基板の側面を構成する最外ガラス片に囲まれた範囲にある複数のガラス片の平面視形状が、同一及び/又は略同一の形状になっている請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
前記平面視形状が同一及び/又は略同一である複数のガラス片の平面視形状が、正方形、長方形、正六角形のいずれかであり、最外ガラス片に囲まれた領域にガラス片が最密充填された状態にある請求項2に記載のガラス基板。
【請求項4】
ガラス片を構成するガラスが、以下(1)~(3)のいずれかのガラスである請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガラス基板。
(1)屈折率ndが1.80以上であるガラス
(2)液相温度が存在し、液相温度における粘度が500dPa・s以下であるガラス
(3)フツリン酸ガラス
【請求項5】
主表面を平面視したとき、各ガラス片の外周の輪郭線に内接する仮想的な円A、各ガラス片の平面視形状に外接する仮想的な円Bを想定し、円Aの直径が30mm以上、円Bの直径が150mm以下になっている請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項6】
光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数の柱状ガラスを用意する工程と、
各柱状ガラスの側面同士を接合して柱状ガラスの束を作製する工程と、
前記柱状ガラスの束をスライスして、複数のガラス基板を作製する工程とを含む、ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
柱状ガラスの束の側面を加工して、円柱状のガラス束とし、前記円柱状のガラス束をスライスして複数のガラス基板を作製する請求項6に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数のガラス厚板を用意する工程と、
各ガラス厚板の側面同士を接合してガラス厚板の束を作製する工程と、
前記ガラス厚板の束をスライスして、複数の薄板円盤状のガラス基板を作製する工程とを含む、ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
ガラス厚板の束を作製する工程の後、ガラス厚板の束の側面を加工して、円盤状のガラス厚板束を作製し、前記円盤状のガラス厚板束をスライスして複数の薄板円盤状のガラス基板を作製する、請求項8に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のガラス基板を用意する工程と、
前記ガラス基板のガラス片にガラス素子を形成する工程と、
ガラス基板を分割して複数のガラス素子を得る工程とを含む、ガラス素子の製造方法。
【請求項11】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたガラス基板を用意する工程と、
前記ガラス基板のガラス片にガラス素子を形成する工程と、
ガラス基板を分割して複数のガラス素子を得る工程とを含む、ガラス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光学的に均質なガラス素子を一度に製造するために適したガラス基板、該ガラス基板の製造方法及び該ガラス基板を使用したガラス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体の頭部に装着され、装着者に対してパーソナルに画像を視認させるヘッドマウントディスプレイや、これを利用したウェアラブルコンピューターが開発されている。特許文献1に記載されているように、ヘッドマウントディスプレイには、ガラス製の導光板310、320が使用されている。高屈折率低比重の光学ガラスからなる導光板を備えるヘッドマウントディスプレイは、広視野角による没入感が優れており、情報端末と組み合わせて使用したり、AR(Augmented Reality:拡張現実)等の提供用として使用したり、映画鑑賞やゲームやVR(Virtual Reality:仮想現実)等の提供用として使用する画像表示装置として好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディスプレイの作動時、導光板の中を光が全反射を繰り返して進むが、導光板を構成するガラスの屈折率が高いほうが導光板表面における臨界角が小さくなり、ディスプレイの視野角を大きくすることができる。そのため、導光板には屈折率の高いガラスを使用することが望ましい。
【0005】
ところで、屈折率の高いガラスは、希土類成分、TiO2、Nb2O5、WO3、Ta2O5などの高屈折率化成分の含有量が多い一方で、B2O3やSiO2などのガラスのネットワークを形成する成分の含有量が少ない。そのため、高屈折率のガラスは、ガラスの熱的安定性が低い傾向にある。
【0006】
このような熱的安定性が低いガラスは、体積当たりの表面積が小さいガラス成形品を熔融ガラスから製造することが難しい。体積当たりの表面積が小さいガラス成形品は、表面に露出していないガラスが多く、急冷しても内部に熱が残りやすく、内部で結晶化が進み、失透するためである。
【0007】
一方、導光板の製造工程には、眼鏡レンズ程度の大きさのガラス基板の表面に、回折格子を形成したり、多層膜を形成したりする工程がある。これらの工程を一枚一枚の導光板で行うことは、生産性の面や製造コストの面から好ましいとは言えない。これを解決する方法として半導体素子のチップの製造のように、シリコンウエハ内に多数のチップを形成し、最終工程でダイシングソーを使って、個々のチップに分離すれば、多数の半導体素子を一度に作ることができるため、効率的である。
【0008】
半導体素子の製造では、最初にシリコンのインゴットを作製し、円柱形状のインゴットをスライスして多数のシリコンウエハを作製する。このような方法で導光板の製造をしようとすると、例えば、直径が数百mmの円柱状の大判のガラス成形体を作製し、半導体素子の製造装置を使用するなどすれば、効率的にガラス素子を製造することができるが、直径が数百mmの円柱状の大判のガラス成形体を熔融ガラスから製造することは、高屈折率ガラスの場合、上述の理由により困難である。
【0009】
高屈折率ガラスと同様、低分散ガラスからなる直径が数百mmの高品質の円柱状ガラスを成形することも容易でない。低分散ガラスは多量のフッ素成分を含む。フッ素成分は高温状態のガラス表面から揮発しやすく、成形時にガラスを急冷できないとガラス表面のフッ素濃度が減少する。そして、表面部分のフッ素濃度の低下を補うためにガラス中で局所的な対流が生じ、脈理と呼ばれる光学的に不均一な欠陥が生じる。
【0010】
本発明は、以上に鑑み、複数の光学的に均質なガラス素子を一度に製造するために適したガラス基板およびその製造方法、ならびにガラス基板を使用して、多数のガラス素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、光学的に均質な柱状ガラス等の側面同士を接合して柱状ガラス等の束を作製し、柱状ガラスの束をスライスして、複数のガラス基板を作製するガラス基板の製造方法を見出した。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 対向する平坦な2つの主表面を有するガラス基板において、
複数の光学的に均質なガラス片同士が接合されており、
接合されているガラス片同士の接合面が2つの主表面に対して垂直又は略垂直になっているガラス基板。
[2] 前記ガラス基板の側面を構成する最外ガラス片に囲まれた範囲にある複数のガラス片の平面視形状が、同一及び/又は略同一の形状になっている[1]に記載のガラス基板。
[3] 前記平面視形状が同一及び/又は略同一である複数のガラス片の平面視形状が、正方形、長方形、正六角形のいずれかであり、最外ガラス片に囲まれた領域にガラス片が最密充填された状態にある[2]に記載のガラス基板。
[4] ガラス片を構成するガラスが、以下(1)~(3)のいずれかのガラスである[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のガラス基板。
(1)屈折率ndが1.80以上であるガラス
(2)液相温度が存在し、液相温度における粘度が500dPa・s以下であるガラス
(3)フツリン酸ガラス
[5] 主表面を平面視したとき、各ガラス片の外周の輪郭線に内接する仮想的な円A、各ガラス片の平面視形状に外接する仮想的な円Bを想定し、円Aの直径が30mm以上、円Bの直径が150mm以下になっている[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のガラス基板。
[6] 光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数の柱状ガラスを用意する工程と、
各柱状ガラスの側面同士を接合して柱状ガラスの束を作製する工程と、
前記柱状ガラスの束をスライスして、複数のガラス基板を作製する工程とを含む、ガラス基板の製造方法。
[7] 柱状ガラスの束の側面を加工して、円柱状のガラス束とし、前記円柱状のガラス束をスライスして複数のガラス基板を作製する[6]に記載のガラス基板の製造方法。
[8] 光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数のガラス厚板を用意する工程と、
各ガラス厚板の側面同士を接合してガラス厚板の束を作製する工程と、
前記ガラス厚板の束をスライスして、複数の薄板円盤状のガラス基板を作製する工程とを含む、ガラス基板の製造方法。
[9] ガラス厚板の束を作製する工程の後、ガラス厚板の束の側面を加工して、円盤状のガラス厚板束を作製し、前記円盤状のガラス厚板束をスライスして複数の薄板円盤状のガラス基板を作製する、[8]に記載のガラス基板の製造方法。
[10] [1]乃至[5]のいずれか一項に記載のガラス基板を用意する工程と、
前記ガラス基板のガラス片にガラス素子を形成する工程と、
ガラス基板を分割して複数のガラス素子を得る工程とを含む、ガラス素子の製造方法。
[11] 請求項6乃至9のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたガラス基板を用意する工程と、
前記ガラス基板のガラス片にガラス素子を形成する工程と、
ガラス基板を分割して複数のガラス素子を得る工程とを含む、ガラス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一形態によれば、複数の光学的に均質なガラス素子を一度に製造するために適したガラス基板およびその製造方法、ならびにガラス基板を使用して、多数のガラス素子を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、円盤状の薄板からなるガラス基板の一例の概略を図示したものである。
図1(a)は、ガラス基板の主表面を平面視したものであり、
図1(b)はガラス基板の側面図である。
図1(c)は、
図1(a)のガラス基板から得られるガラス片と、仮想的な円Aと仮想的な円Bを示す図である。
【
図2】
図2は、円盤状の薄板からなるガラス基板の他の例の概略を図示したものである。
図2(a)は、ガラス基板の主表面を平面視したものであり、
図2(b)はガラス基板の側面図である。
図2(c)は、
図2(a)のガラス基板から得られるガラス片と、仮想的な円Aと仮想的な円Bを示す図である。
【
図3】
図3は、
図1(a)の薄板状のガラス基板を作製する製造方法の説明図である。
図3中、(a)は、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数の柱状ガラスを用意することを示し、(b)は、柱状ガラスの側面同士を接合して作製した柱状ガラスの束を示し、(c)は柱状ガラスの束の側面を研削して、加工した円柱形状のガラス束を示し、(d)は円柱形状のガラス束をスライスして複数の薄板状のガラス基板を作製することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
(ガラス基板)
本発明の一形態は、対向する平坦な2つの主表面を有するガラス基板において、複数の光学的に均質なガラス片同士が接合されており、接合されているガラス片同士の接合面が2つの主表面に対して垂直又は略垂直になっているガラス基板である。
【0016】
本発明のガラス基板を、
図1を用いて説明する。
図1は、円盤状の薄板からなるガラス基板11の一例の概略を図示したものである。
図1(a)は、ガラス基板11の主表面3を平面視したもの、すなわち平面図であり、
図1(b)はガラス基板11の側面図である。
図1に示す例では、32個のガラス片4によってガラス基板11が構成されている。ガラス片4は側面同士が接合されている。32個のガラス片4のうち、16個のガラス片41が直方体のガラスであり、直方体のガラスの周りにガラス基板11の側面を形成する16個のガラス片42が接合されている。側面を形成するガラス片42を、本明細書では最外ガラス片と称する場合がある。
【0017】
ガラス片4の側面同士の接合は、接着剤、低融点の封着用ガラスなどガラス同士を接合する公知の方法を採用することができる。
【0018】
各ガラス片4の2つの面は平滑、平坦であり、互いに平行な平面である。また、すべてのガラス片4において、一方の面がガラス基板11の一方の主表面31を形成し、他方の面がガラス基板11の他方の主表面32を形成している。また、各ガラス片4の2つの面の距離はガラス基板11の厚さと等しい。
なお、
図1の例では直方体のガラス片4の底面の形状は長方形であるが、立方体のガラス片としてもよく、その場合、立方体のガラス片の底面は正方形である。
また、直方体のガラス片と立方体のガラス片を組合せてもよい。
【0019】
図2は、他の例である円盤状の薄板からなるガラス基板12の概略を図示したものである。
図2(a)は、ガラス基板12の主表面33を平面視したものであり、
図2(b)はガラス基板12の側面図である。
この例では、48個のガラス片4によってガラス基板12が構成されている。48個のガラス片のうち、26個のガラス片43が正六角柱であり、正六角柱のガラス片の周りにガラス基板12の側面を形成する22個のガラス片44(最外ガラス片)が接合されている。その他については、
図1に示すガラス基板11と同様である。
【0020】
図1、
図2に示すガラス基板11,12はいずれも、ガラス片4同士の接合面2(接合領域)が2つの主表面3に対して垂直又は略垂直になっている。ガラス片4同士の接合面2(接合領域)が2つの主表面3に対して垂直又は略垂直であることにより、ガラス基板11,12におけるガラス素子の作製に使用できる範囲を広くすることができる。また、ガラス片4同士の接合精度を高めることもできる。
【0021】
図1、
図2に示すガラス基板11,12では、複数の最外ガラス片42,44に囲まれた複数のガラス片41,43の平面視形状が同一及び/又は略同一の形状になっている。こうすることにより、ガラス基板11,12における複数のガラス片41,43の配列を規則的にすることができ、ガラス基板11,12に複数のガラス素子を一括して形成する際、フォトリソグラフィーなどの加工法を利用しやすくなる。
【0022】
図1に示すガラス基板11では、各々の主表面31,32について、主表面の周辺部、すなわち、ガラス基板11の側面を形成する最外ガラス片42に囲まれた領域内に平面視形状が長方形の複数のガラス片41が最密充填された状態にある。
【0023】
一方、
図2に示すガラス基板12では、各々の主表面33,34について、主表面の周辺部、すなわち、ガラス基板12の側面を形成する最外ガラス片44に囲まれた領域内に平面視形状が正六角形の複数のガラス片43が最密充填された状態にある。
【0024】
このように各々の主表面について、主表面の周辺部である最外ガラス片に囲まれた領域にある複数のガラス片の平面視形状が正方形、長方形、正六角形のいずれかであり、周辺部である最外ガラス片に囲まれた領域にガラス片が最密充填された状態にすることにより、ガラス基板における光学的に均質なガラスが占める割合を大きくすることができ、ガラス基板1枚当たり得ることができるガラス素子の数を多くすることができる。また、ガラス片同士の接合面積を大きくすることができ、接合強度を高めることもできる。
【0025】
図1、
図2に示すガラス基板11,12の形状は、薄板円盤形状であるが、円盤形状に限定されるものではなく、四角形などの多角形、その他の形状であってもよい。
ただし、半導体素子の製造ラインを使用してガラス基板に複数のガラス素子を形成し、ガラス基板を分割して複数のガラス素子を分離する場合、半導体素子の基板であるシリコンウエハが薄板円盤形状であることから、ガラス基板の形状も薄板円盤形状であることが好ましい。
【0026】
次に各ガラス片4の大きさについて説明する。ガラス片4は少なくともガラス素子1個を完全に包含する大きさにする必要がある。ガラス素子として導光板を例にとると、導光板用基板の形状にもよるが、導光板用基板の最も長い対角線の長さ、あるいは、導光板用基板の長径の長さよりもガラス片4の主表面の寸法を大きくする。
【0027】
例えば、本発明のガラス基板11から得られるガラス片41は、ヘッドマウントディスプレイ等に備わる導光板として利用できるが、ヘッドマウントディスプレイの導光板としてガラス片41を使用する場合、以下のような大きさが想定される。
ヘッドマウントディスプレイの導光板には、一枚の導光板が両眼に光を導くタイプと一方の目と他方の目に別の導光板が光を導くタイプでは、後者のタイプのほうが導光板は小型になる。したがって、ガラス片41は、後者のタイプで有利に利用できる。一枚の小型の導光板が一枚のガラス片の中に納まるようにするためには、ガラス基板の主表面を平面視したとき、各ガラス片の輪郭線に内接する仮想的な円Aの直径が30mm以上であることが好ましく、40mm以上であることがより好ましい。一方、ガラス基板の主表面を平面視したとき、各ガラス片の平面視形状に外接する仮想的な円Bの直径を過剰に大きくすると、各ガラス片のもととなる柱状ガラスやガラス厚板を成形するときに、結晶が析出しやすくなったり、脈理と呼ばれる光学的に不均質な部分が成形体中に発生しやすくなり好ましくない。このような事情を考慮して、円Bの直径が150mm以下であることが好ましく、120mm以下であることがより好ましく、100mm以下であることがさらに好ましく、80mm以下であることが一層好ましい。
【0028】
ガラス基板の板厚、直径、主表面の算術平均粗さRa、ガラス基板の平行度、側面の主表面の算術平均粗さRaは用途に応じて適宜決めればよいが、例えば、ガラス基板の板厚が0.3~3mm、直径が150~450mm、主表面の算術平均粗さRaが0.5nm以下、ガラス基板のTTV(total thickness variation)が1μm以内、側面の主表面の算術平均粗さRaが100nm以下である。なお、TTVは、基板の厚みの最大値と最小値の差である。
【0029】
なお、
図1のサイズを例に挙げると、直径約283mmのガラスウエハ1は1辺約50mmの正方形のガラス片41から構成されており、ガラス片41は、仮想的な円Aは直径約50mmとなり、仮想的な円Bの直径は約71mmとなる。
また、
図2のサイズを例に挙げると、直径約318mmのガラスウエハ1は1辺29mmの正六角形のガラス片43から構成されており、ガラス片43の仮想的な円Aは直径約50mmとなり、仮想的な円Bの直径は約58mmとなる。
【0030】
次にガラス片4を構成するガラスについて説明する。本形態では、使用するガラスには光学的に均質であれば特に制限はない。
【0031】
一方、前述のように、本形態に使用するガラスとしては、以下のガラス(1)~(4)が挙げられる。
(1)屈折率ndが1.80以上であるガラス(光学ガラスAと記す)
光学ガラスAとしては、ガラス成分として、B2O3、La2O3を含有する光学ガラス、SiO2、Nb2O5を含有する光学ガラス、SiO2、TiO2を含有する光学ガラス、P2O5、Nb2O5を含有する光学ガラス、P2O5、TiO2を含有する光学ガラスが挙げられる。光学ガラスAの好ましいガラスの屈折率ndは1.85以上、より好ましいガラスの屈折率ndは1.88以上、さらに好ましいガラスの屈折率ndは1.90以上である。導光板用の基板等に好適なガラスである。
(2)液相温度が存在し、液相温度における粘度が500dPa・s以下であるガラス(光学ガラスB)
光学ガラスBとしては、ガラス成分として、B2O3、La2O3を含有する光学ガラス、SiO2、Nb2O5を含有する光学ガラス、SiO2、TiO2を含有する光学ガラス、P2O5、Nb2O5を含有する光学ガラス、P2O5、TiO2を含有する光学ガラスが挙げられる。光学ガラスBの好ましいガラスの屈折率ndは1.80以上、より好ましいガラスの屈折率ndは1.85以上、さらに好ましいガラスの屈折率ndは1.88以上、より一層好ましいガラスの屈折率ndは1.90以上である。導光板用の基板等に好適なガラスである。液相温度における粘度が100dPa・s以下であるガラスでも高品質なガラス基板とすることができる。
(3)フツリン酸ガラス(光学ガラスC)
光学ガラスCとしては、ガラス成分として、P、Al、O、Fを含有する光学ガラス、P、Al、アルカリ土類金属、O、Fを含有する光学ガラスが挙げられる。光学ガラスCとしてはアッベ数νdが60以上のフツリン酸ガラスが挙げられる。
(4)Cuを含む近赤外光吸収ガラス(光学ガラスD)
光学ガラスDとしては、Cuを含むフツリン酸ガラス、Cuを含むリン酸ガラスが挙げられる。可視光を透過し、近赤外光をカットするフィルター素子を製造する場合に好適なガラスである。導光板用の基板等に好適なガラスである。
上記の中でも、(1)~(3)のガラスが好ましい。
【0032】
(ガラス基板の製造方法)
本発明において、ガラス基板11の製造方法の第1の形態は、光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数の柱状ガラス5を用意し、各柱状ガラスの側面51同士を接合して柱状ガラスの束6を作製し、前記柱状ガラスの束6をスライスして、複数のガラス基板11を作製するガラス基板11の製造方法、である。
【0033】
公知の光学ガラスの製造方法により、光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数の柱状ガラス5を作製することができる。以下、その一例について説明する。
【0034】
ガラスの構成成分に対応する化合物原料を秤量し、十分混合して調合原料とする。この調合原料を白金製坩堝に投入し、加熱、熔融し、攪拌により均質化、清澄して熔融ガラスを得る。この熔融ガラスを成形型に鋳込んでEバーまたはストリップ材と呼ばれる板状に成形し、徐冷して、光学的に均質なガラス板を得る。板状に成形することにより、単位体積当たりの表面積を小さくすることができ、ガラス全体を急冷することができるため、失透や脈理の発生を抑制することができる。
【0035】
このようにして作製したガラス板を公知の方法で分割して、
図3(a)に示すような複数のガラス四角柱(柱状ガラス5)を作製する。各柱状ガラス5の断面形状、長さを等しく揃える。
次に、これらの柱状ガラスの側面51同士を接合して、
図3(b)に示すように柱状ガラスの束6を作製する。接合は、柱状ガラス5の形状が等しい側面51同士を接合する。接合は前述のように接着剤による接着、低融点の封着ガラスを用いた接合など公知の方法で接合すればよい。
【0036】
次に、柱状ガラスの束6の側面を公知の方法により研削して、
図3(c)に示すように柱状ガラスの束6を円柱形状のガラス束7に加工する。必要に応じて、円柱形状のガラス束7の側面を研磨して平滑化する。
【0037】
次に、
図6の破線11で示す箇所で円柱形状のガラス束7を円柱の軸に対して垂直にスライスして、複数の薄板状のガラス基板11を作製する。ここで、スライスとは、円柱形状のガラス束7の長手方向に垂直な方向で円柱形状のガラス束7を、基板を複数できるように切断することを意味する。スライス加工はガラス切断用のワイヤーソーによる切断など公知の方法で行う。このようにして、
図1に示すガラス基板11を作製する。
【0038】
本発明の第2の形態は、図示しないが、光学的に均質なガラスからなり、断面形状が互いに同一及び/又は略同一の複数のガラス厚板を用意し、各ガラス厚板の側面同士を接合してガラス厚板の束を作製し、前記ガラス厚板の束をスライスして、複数の薄板円盤状のガラス基板を作製するガラス基板の製造方法、である。
【0039】
ガラス厚板は、第1の形態における柱状ガラス5と同様にEバーまたはストリップ材を加工して作製することができる。
【0040】
次に、ガラス厚板の側面同士を第1の形態と同様に接合してガラス厚板の束を作製する。
【0041】
次に、ガラス厚板の束の側面を公知の方法により研削して、円盤状のガラス厚板束に加工する。必要に応じて、円盤状のガラス厚板束の側面を研磨して平滑化する。
【0042】
次に、第1の形態と同様、ガラス厚板束をスライスして、複数の薄板円盤状のガラス基板を作製する。スライス加工はガラス切断用のワイヤーソーによる切断など公知の方法で行う。
【0043】
上記方法では、四角柱ガラスや直方体のガラス厚板を使用したが、正六角柱状のガラスを用いて側面同士を接合し、正六角柱状のガラスの束を作製し、ガラスの束の側面を研削、研磨して正六角柱状ガラスが最密状態になった円柱状ガラスを円柱の軸に対して垂直にスライスすれば、
図2に示すガラス基板を得ることができる。
【0044】
(ガラス素子の製造方法)
ガラス素子の製造方法の第1の形態は、第1の形態のガラス基板を使用し、前記ガラス基板のガラス片41にガラス素子を形成し、ガラス基板を分割して複数のガラス素子を得るガラス素子の製造方法、である。
【0045】
例えば、導光板としてガラス素子を作製する場合、ガラス基板のガラス片に導光板中を伝搬する光を導光板の外へ取り出すための回折格子をフォトリソグラフィーにより形成したり、表面に多層膜を形成したりする。また、導光板には導光路を設けてもよい。
ガラス素子は、ガラス基板内のすべてのガラス片に形成してもよいし、適宜選択した複数のガラス片に形成してもよい。
ガラス素子を形成した後、各ガラス素子をダイシングにより分離して、複数個のガラス素子を得る。なお、分離は、上記の接合面で分離すると切断しやすく好ましい。
【0046】
ガラス素子の製造方法の第2の形態は、第2の形態のガラス基板を作製し、前記ガラス基板のガラス片にガラス素子を形成し、ガラス基板を分割して複数のガラス素子を得るガラス素子の製造方法、である。
ガラス素子の形成方法、ガラス基板を分割して複数個のガラス素子を得る方法は第1の形態と同様である。
【実施例0047】
表1、表2に記載の組成と光学特性を示すガラスが得られるようにガラス原料を調合、調合原料を加熱、熔融し、均質化、清澄して、鋳型に鋳込み、板状ガラスを成形、徐冷した。板状ガラスは、いずれも結晶の析出、脈理は認められず、光学的に均質であった。なお、光学ガラスa、光学ガラスbはともに液相温度が存在し、液相温度における粘度が100dPa・s以下である。
屈折率ndは、降温スピード-30℃/時で徐冷した各ガラスについて、JIS B 7071-1の屈折率測定法により測定した。屈折率ng、nF、nCについても同様に測定し、下式に基づきアッベ数νdを算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
【0048】
【0049】
【0050】
板状ガラスを切断して
図3(a)のように複数本の四角柱状のガラス5を作製し、次に四角柱状のガラスの側面51を接合して
図3(b)に示すガラス束6を作製した。
【0051】
ガラス束6の側面を研削、研磨して、
図3(c)に示す側面が平滑な円柱状のガラス束7を作製した。円柱状ガラス束7の長さは30mm、直径は300mmであった。
【0052】
このガラス束を、ワイヤーソーを使用して一定間隔で円柱の軸に対して垂直にスライスして、厚さ0.5mm、直径300mmの薄板円盤形状のガラス基板11を多数作製した。
【0053】
次に各ガラス基板11の両主表面を公知の方法で研磨し、算術平均粗さRaが0.5nm以下の平滑面とした。なお、ガラス基板11のTTVは1μm以内であった。
【0054】
次に、半導体製造装置を使用して、ガラス基板11の各ガラス片にコーティングを施し、光の出射位置に回折格子を形成して導光板を作製してから、ダイシングマシンで各導光板を接合面で分離して、複数個の導光板を得た。
上記の例は、柱状ガラス5からなるガラス束6を経てガラス基板11を作製したが、ガラス厚板からなる束を作製し、この束からガラス基板を作製してもよい。
【0055】
本発明によれば、複数の光学的に均質なガラス素子を一度に製造するために適したガラス基板およびその製造方法、ならびにガラス基板を使用して、多数のガラス素子を製造する方法を提供することが出来る。