(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149632
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】導光板用ガラス基板、該導光板用ガラス基板の表面に回折格子を備える導光板、及び該導光板を備えるディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20231005BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20231005BHJP
G02B 5/18 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B6/00 301
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058292
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】池西 幹男
【テーマコード(参考)】
2H038
2H199
2H249
【Fターム(参考)】
2H038BA06
2H199CA02
2H199CA12
2H199CA53
2H199CA66
2H199CA67
2H199CA85
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA60
(57)【要約】
【課題】
高画質を得やすい導光板用ガラス基板、導光板およびディスプレイを提供することを課題とする。
【解決手段】
円盤形状を有し、屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板用ガラス基板、該導光板用ガラス基板の表面に回折格子を備える導光板、該導光板を備えるディスプレイ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状を有し、屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板用ガラス基板。
【請求項2】
主表面が複数に区画され、各区画に導光路を備える請求項1に記載の導光板用ガラス基板。
【請求項3】
屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板。
【請求項4】
請求項3に記載の導光板を備えるディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導光板用ガラス基板、該導光板用ガラス基板の表面に回折格子を備える導光板、及び該導光板を備えるディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体の頭部に装着され、装着者に対してパーソナルに画像を視認させるヘッドマウントディスプレイや、これを利用したウェアラブルコンピューターが開発されている。特許文献1に記載されているように、ヘッドマウントディスプレイには、ガラス製の導光板が使用されている。高屈折率低比重の光学ガラスからなる導光板を備えるヘッドマウントディスプレイは、広視野角による没入感が優れており、情報端末と組み合わせて使用したり、AR(Augmented Reality:拡張現実)等の提供用として使用したり、映画鑑賞やゲームやVR(Virtual Reality:仮想現実)等の提供用として使用する画像表示装置として好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディスプレイの作動時、導光板の中を光が全反射を繰り返して進むが、ガラスの屈折率が高いほうが導光板表面における臨界角が小さくなり、ディスプレイの視野角を大きくすることができる。そのため、導光板には屈折率の高いガラスを使用することが望ましい。
【0005】
ところで、ガラスの屈折率が高くなると、導光板の表面に形成する回折格子の形成精度もより高精度であることが求めれる。
【0006】
微細で高い精度が求められる回折格子の形成は、例えば半導体素子の製造装置により、導光板用ガラス基板(ガラスウエハ)を用いて行うことが出来る。例えばリソグラフィ技術により導光板上に回折格子を形成する際に、複数の導光板を作製することになる導光板用ガラス基板が少しでも反っていると回折格子の加工精度が低下してしまう。導光板は薄い板であり、ガラスウエハの厚さも0.5mm程度と非常に薄い。
【0007】
このような薄板を平坦に保つためには、ガラスウエハの材料であるガラスのヤング率を高くする必要がある。
【0008】
導光板のガラスの屈折率が高いと、ディスプレイ使用時の導光板の僅かな撓みにより画質が低下しやすくなる。
【0009】
本発明は、以上に鑑み、リソグラフィ技術により回折格子を高い加工精度で形成することができ、また、視野角が大きく、高画質を得やすい導光板用ガラス基板、導光板およびそれを備えるディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、高屈折率、高ヤング率ガラスからなるガラス基板を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下を包含する。
[1] 円盤形状を有し、屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板用ガラス基板。
[2] 主表面が複数に区画され、各区画に導光路を備える[1]に記載の導光板用ガラス基板。
[3] 屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板。
[4] [3]に記載の導光板を備えるディスプレイ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一形態によれば、視野角が大きく、高画質を得やすい導光板用ガラス基板、導光板およびそれを備えるディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)はガラスウエハ1を平面視したもの、
図1(b)はガラスウエハ1の側面図である。仮想的な円Aと仮想的な円Bを示す。
【0013】
(導光板)
本発明の一形態は、屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板である。
上記導光板は、屈折率ndが1.90以上であるので、ヘッドマウントディスプレイ等のディスプレイの導光板として用いると、視野角を大きくすることができる。屈折率ndの好ましい範囲は1.92以上、より好ましい範囲は1.94以上、さらに好ましい範囲は1.96以上、一層好ましい範囲は1.98以上、より一層好ましい範囲は2.00以上である。屈折率ndの好ましい上限に特に制限はないが、2.5以下を目安にすることができる。
【0014】
上記導光板は、100GPa以上のヤング率を有する。100GPa以上のヤング率を有することにより、半導体装置を用いたリソグラフィ技術による回折格子の形成などの加工精度を高くすることができ、また、導光板の反りや撓みによる画質の低下を抑制することができる。ヤング率の好ましい範囲は105GPa以上、より好ましい範囲は110GPa以上、さらに好ましい範囲は115GPa以上、一層好ましい範囲は120GPa以上である。ヤング率の上限に特に制限はないが、180GPa以下を目安にすることができる。
【0015】
導光板に使用するガラスは光学的に均質な光学ガラスであることが好ましい。また、可視域の透過率が高いガラスであることが好ましい。
【0016】
導光板に使用するガラスの比重は、4.4~5.4が好ましい。また、導光板に使用するガラスの着色度について、λ70は420nm以下が好ましく、λ5は380nm以下であることが好ましい。さらに、10mmの板厚に換算した波長400nmにおける外部透過率は60%以上が好ましく、70%以上がさらに好ましい。
【0017】
ガラスの組成については、所望の特性が得られれば特に制限はないが、高品質なガラスを安定して供給する点から、ガラス成分としてB2O3とLa2O3を含有するガラスが好ましい。
【0018】
(導光板用ガラス基板)
本発明の一形態は、円盤形状を有し、屈折率ndが1.90以上、ヤング率が100GPa以上であるガラスからなる導光板用ガラス基板である。このような導光板用ガラス基板は、それを切断することにより、導光板5を複数同時に提供することができる。なお、切断した導光板は、導光板としてそのまま用いることもできるし、その他、研磨や機能を付加して用いることもできる。
【0019】
導光板用ガラス基板(以下、ガラスウエハと記すことがある)の一例を
図1に示す。
図1(a)はガラスウエハ1を平面視したもの、
図1(b)はガラスウエハ1の側面図である。
図1(a)の円がガラスウエハ1の輪郭であり、この円の内部の格子状に配置された直線は仮想的な線2である。また、
図1(b)の側面図の長方形がガラスウエハ1の輪郭であり、長方形の内部の長方形の短辺に平行な直線も仮想的な線2である。
【0020】
ガラスウエハ1は、主表面31及び32を有する。主表面31,32の少なくとも一方が、仮想的な線2により複数に区画された場合、各区画にはそれぞれ導光路(図示しない)を設ける。このような導光路を設けることにより、後で説明するように、仮想的な線2でガラスウエハ1を切断した場合、それぞれのガラス片4は導光板として用いることができる。
【0021】
切断機、例えば、ダイシングマシンなど使用して上記ガラスウエハ1の仮想的な線2を切断することにより、ガラス片41、42を作ることができる。なお、ガラス片41は、ガラスウエハ1の側面を形成する最外ガラス片であり、複数のガラス片42は、ガラス片41に囲まれており、平面視形状が長方形又は正方形で最密充填された状態にある。得られるガラス片42が、導光板5として利用可能である。したがって、ガラスウエハ1において、仮想的な線2が各導光板5の境界になる。
上記のように、ガラスウエハ1の境界を切断することにより、一枚のガラスウエハ1から多数の導光板5を作ることができる。
【0022】
多数のガラス片41(導光板5)を一度に作るためには、直径の大きなガラスウエハ1に多数のガラス片41を形成するように、ガラスウエハ1を切断、または分割すればよい。上記特性を有するガラスウエハ1を使用すれば、ウエハの反りや撓みが極めて小さいので、各導光板5に高精度の回折格子を形成することができる。
【0023】
ガラスウエハ1は、例えば次のようにして作製することができる。
最初に所要の組成になるようにガラス原料を調合し、調合原料を加熱、熔融し、熔融ガラスを均質化、清澄して成形する。成形したガラスを徐冷した後、公知の加工法を用いて円盤形状に加工する。
【0024】
例えば、円盤形状に加工されたガラスウエハ1の板厚は0.2~3mm、直径は150~450mmTV(total thickness variation)は1μm以内、両主表面の算術平均粗さRaは0.5nm以下、側面の算術平均粗さRaが100μm以下である。なお、TTVは、基板の厚みの最大値と最小値の差である。
一枚のガラスウエハ1から、5~20個の導光板5を形成することができる。
【0025】
切断されたガラス片41について、主表面31を平面視したとき、輪郭線に内接する仮想的な円A、各ガラス片41の平面視形状に外接する仮想的な円Bを想定した場合、(
図1(c)参照)、円Aの直径が30mm以上、円Bの直径が150mm以下とする。
ガラスウエハ1の製造方法としては、熔融したガラスを直接円盤状の形状に成形してもよい。または、熔融したガラスを円柱状になるように成形しそれをスライスすることにより、円盤状のガラスウエハ1を製造することができる。
さらに別の製造方法としては、断面積が比較的小さい柱状ガラスを互いに接合又は接着させ、一体として柱状ガラスの束を作製し、それを円柱状に成形してから切断して、円盤状のガラスウエハ1を製造することができる。このような製造方法の場合は、線2は、ガラス同士を接合した線となる。
【0026】
(ディスプレイ)
以下に、本発明の一態様は、上記導光板を備えたディスプレイである。本発明のディスプレイは、本発明の導光板を備えさせすれば、特に制限されるものではない。ディスプレイの具体例としては、人間の頭部に装着するヘッドマウントディスプレイである。
【0027】
ヘッドマウントディスプレイにおいて、本発明の導光板は右眼及び左眼の前に配置される。ヘッドマウントディスプレイの内部や外部に配置された信号処理装置や表示ユニットから発せられた光を導光板の内部で屈折させ、装着者の右眼網膜、左眼網膜に映像を結像するように、光を伝達させる。
【0028】
導光板内を進む光の空気換算光路長は、屈折率が高いほど短くなるため、屈折率が高い本実施形態に係る光学ガラスを使用することにより、見かけの視野角を大きくすることができる。さらに、屈折率が高いものの比重が低く抑えられているため、軽量でありながら上記効果が得られるディスプレイを提供することができる。また、ヤング率が高く、反りや撓みが極めて小さければ、正確な光情報を伝達可能となることできる。
【0029】
なお、本発明の一態様である導光板は、シースルーである透過型のヘッドマウントディスプレイや非透過型のヘッドマウントディスプレイなどに使用することができる。
【実施例0030】
表1に記載の組成と光学特性を示すガラスが得られるようにガラス原料を調合、調合原料を加熱、熔融し、均質化、清澄して、鋳型に鋳込み、板状ガラスを成形、徐冷した。板状ガラスは、いずれも結晶の析出、脈理は認められず、光学的に均質であった。
【0031】
屈折率ndは、降温スピード30℃/時で徐冷した各ガラスについて、JIS B 7071-1の屈折率測定法により測定した。屈折率ng、nF、nCについても同様に測定し、下式に基づきアッベ数νdを算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
【0032】
着色度λ70、λ5は次の方法で測定した。
【0033】
【0034】
上記各ガラスを、厚さ10mmで、互いに平行かつ光学研磨された平面を有するように加工し、波長280nmから700nmまでの波長域における分光透過率を測定した。光学研磨された一方の平面に垂直に入射する光線の強度を強度Aとし、他方の平面から出射する光線の強度を強度Bとして、分光透過率B/Aを算出した。分光透過率が70%になる波長をλ70とし、分光透過率が5%になる波長をλ5とした。なお、分光透過率にはガラス表面における光線の反射損失も含まれる。
【0035】
ヤング率は、超音波法を用いて測定し、比重は、アルキメデス法を用いて測定した。
【0036】
10mm厚に換算した波長400nmにおける内部透過率は、ガラス表面における光線の反射損失を除外した値である。
【0037】
次に板状ガラスを機械加工して、厚さ0.5mm、直径300mmのガラスウエハを多数作製した。
【0038】
ガラスウエハの両主表面の算術平均粗さRaは0.5nm以下、基板のTTVは1μm以内であった。
【0039】
次に、半導体製造装置を使用して、ガラスウエハにコーティングを施し、光の出射位置に回折格子を形成して導光板を作製してから、ダイシングマシンで各導光板を分離して、複数個の導光板を得た。
【0040】
これらの導光板をヘッドマウントディスプレイに組み込み、画像を表示させた。ディスプレイは視野角が広く、高画質を得ることができた。
【0041】
(比較例)
ヤング率が90GPaのガラスを使用して回折格子を有する導光板を作製し、ヘッドマウントディスプレイに組み込み、画像を表示させた。ヤング率が低く、高精度の回折格子を形成することができず、ディスプレイに組み込む際に加わる力により導光板がわずかに変形し、画質の低下が認められた。
【0042】
本発明によれば、視野角が大きく、高画質を得やすい導光板用ガラス基板、導光板およびディスプレイを提供することができる。