(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149635
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】金型の設計方法、金型の製造方法、プログラム、プレス部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20231005BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20231005BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20231005BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20231005BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20231005BHJP
【FI】
G06F30/23
B21D37/20 Z
G06F30/10 100
B21D22/00
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058301
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】日下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩間 隆史
【テーマコード(参考)】
4E050
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E050JB10
4E050JD03
4E137AA05
4E137AA10
4E137AA11
4E137AA21
4E137BA01
4E137CA09
4E137CA24
4E137CB01
4E137EA01
4E137GA01
4E137GB02
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】より簡易な処理方法で、金型モデルの寸法精度を向上させる。
【解決手段】中間部品を作製する第1の工程と、中間部品を製品形状にプレス成形する第2の工程とで使用される、金型の設計方法である。製品形状に基づき金型モデルを生成する金型モデル生成工程と、離型形状を求めるプレス解析工程と、離型形状と製品形状との形状差分を求める差分算出工程と、形状差分に基づき、金型モデルの成形面形状を修正する成形面形状修正工程と、各金型の成形面形状を決定する金型形状決定工程と、備える。成形面形状修正工程は、生成する金型モデルの物性定義を一時的に弾性体又は弾塑性体に変更し、その変更した金型モデルの成形面に対し、形状差分に応じた分布で、荷重を負荷することで当該成形面を変形させ、その変形後の成形面を、第1の工程用の金型モデルの成形面形状として設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをプレス成形して予成形形状の中間部品を作製する第1の工程と、上記中間部品を製品形状にプレス成形して最終成形品を作製する第2の工程とを有するプレス部品の製造工程で使用される、金型の設計方法であって、
上記製品形状に基づき金型の成形面をモデル化して金型モデルを生成する金型モデル生成工程と、
上記金型モデルを用いたワークのプレス成形をシミュレーション解析して、離型後のワークの形状である離型形状を求めるプレス解析工程と、
上記プレス解析工程が求めた上記離型形状と上記製品形状との形状差分を求める差分算出工程と、
上記差分算出工程が求めた形状差分に基づき、上記金型モデルの成形面形状を修正する成形面形状修正工程と、
上記成形面形状修正工程で修正した上記金型モデルの成形面形状を、上記第1の工程用の金型の成形面形状とし、上記金型モデル生成工程が求めた金型モデルの成形面形状を、上記第2の工程用の金型の成形面形状とする金型形状決定工程と、
を備え、
上記成形面形状修正工程は、生成する金型モデルの物性定義を一時的に弾性体又は弾塑性体に変更し、その変更した金型モデルの成形面に対し、上記形状差分に応じた分布で、荷重を負荷することで当該成形面を変形させ、その変形後の成形面を、上記第1の工程用の金型モデルの成形面形状として設定する、
ことを特徴とする金型の設計方法。
【請求項2】
上記形状差分が予め設定した許容範囲となるまで、上記プレス解析工程、上記差分算出工程、及び上記成形面形状修正工程の処理を繰り返し実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載した金型の設計方法。
【請求項3】
上記変形後の成形面の断面線長を、上記製品形状での同一位置における断面線長に対する比で+0.01%~+0.1%の範囲内とする、
ことを特徴とする請求項1に記載した金型の設計方法。
【請求項4】
上記プレス部品がパネル部品である、請求項3に記載した金型の設計方法。
【請求項5】
上記荷重は、上記成形面を押圧する方向の力である圧力、若しくは上記成形面を引き上げる方向の力である張力である、ことを特徴とする請求項1に記載した金型の設計方法。
【請求項6】
上記金型モデルは、上記成形面だけを表現した面モデルとする、ことを特徴とする請求項1又は請求項5に記載した金型の設計方法。
【請求項7】
上記プレス解析工程は、
上記金型モデルを用いたワークのプレス成形を成形解析するプレス成形解析工程と、
上記プレス成形解析工程後の離型によるスプリングバックを解析するスプリングバック解析工程と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載した金型の設計方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載した金型の設計方法によって、第1の工程用の金型の成形面形状と、第2の工程用の金型の成形面形状とを決定する、金型の製造方法。
【請求項9】
請求項8で求めた第1の工程用の金型と第2の工程用の金型を用いてプレス部品を製造する、プレス部品の製造方法。
【請求項10】
ワークをプレス成形して予成形形状の中間部品を作製する第1の工程と、上記中間部品を製品形状にプレス成形して最終成形品を作製する第2の工程とを有するプレス部品の製造工程で使用される、第1の工程用の金型の成形面形状と、第2の工程用の金型の成形面形状とを求める処理を、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
上記製品形状に基づき金型の成形面をモデル化して金型モデルを生成する金型モデル生成手段と、
上記金型モデルを用いたワークのプレス成形をシミュレーション解析して、離型後のワークの形状である離型形状を求めるプレス解析手段と、
上記プレス解析手段が求めた上記離型形状と上記製品形状との形状差分を求める差分算出手段と、
上記差分算出手段が求めた形状差分に基づき、上記金型モデルの成形面形状を修正する成形面形状修正手段と、
上記成形面形状修正手段で修正した上記金型モデルの成形面形状を、上記第1の工程用の金型の成形面形状とし、上記成形面形状修正手段で修正前の上記金型モデルの成形面形状を、上記第2の工程用の金型の成形面形状とする金型形状決定手段と、
を備え、
上記成形面形状修正手段は、生成する金型モデルの物性定義を一時的に弾性体又は弾塑性体に変更し、その変更した金型モデルの成形面に対し、上記形状差分に応じた分布で、荷重を負荷することで当該成形面を変形させ、その変形後の成形面を、上記第1の工程用の金型モデルの成形面形状として設定する、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項11】
上記変形後の成形面の断面線長を、上記製品形状での同一位置における断面線長に対する比で+0.01%~+0.1%の範囲内とする、
ことを特徴とする請求項10に記載したプログラム。
【請求項12】
上記荷重は、上記成形面を押圧する方向の力である圧力、若しくは上記成形面を引き上げる方向の力である張力として設定される、ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載したプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いた解析(FEM解析)によって、金型を設計・製造する技術に関する。本発明は、例えば、自動車のボディを製造するプレス成形をシミュレーション解析するシミュレーション解析方法、及び、このプレス成形のプレス機に用いられる金型の設計方法に好適な技術である。更に、本発明は、その金型を用いて、パネル部品その他のプレス部品を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を構成する部材は、プレス成形によって製造されるものが多い。近年自動車に使用される材料が高強度化していることに伴い、プレス成形した部材の離型後のスプリングバックによる変形量は大きくなっている。金型形状を決定するまでには、プレス機による成形品の試作を行って、金型形状が目標形状となっているか評価しているが、上記材料の高強度化に伴い、試作の作成及び試験の繰り返し回数が多くなる傾向があった。
【0003】
しかしながら、以上のような手法では金型製作の工数やリードタイムが増加する。このため、近年、CAEを用いたシミュレーション解析(FEM解析)により、金型の設計・製造が行われている。
例えば、特許文献1には、スプリングバック解析したパネル部材を同じく解析空間上に生成した測定治具モデル上に載せ、自重を負荷した状態で目標形状との差分を求め、この差分に基づいて金型モデルを修正し、新たに得たパネル部材と目標形状との差分が許容範囲に収まるまで金型モデルを修正する方法が開示されている。
【0004】
他にも、特許文献2では、長手方向に曲率を持ったハット部品において、製品形状よりも小さな曲率半径で予成形を施して本成形することで下死点応力を低下させ、キャンバーバックを低減する工法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-221253号公報
【特許文献2】特再公表2017-141603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のような方法では、解析する部材の形状ごとに測定治具を生成しなければならず効率的ではない。
また、特許文献2のような方法では、比較的単調な形状をしている骨格部品などに対して有用であるが、ドアのような部分的に曲率半径の値が異なる複雑な意匠形状の部品には適用が難しい。
【0007】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたもので、より簡易な処理方法で、金型モデルの寸法精度を向上可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、プレス工程を多工程で行う場合において、シミュレーション解析によるワーク形状と目標形状の差分である形状差分を荷重分布に変化し、その荷重分布を、一時的に弾性体若しくは弾塑性体とした金型モデルの成形面に負荷することで、簡易に各工程の各金型モデル形状(成形面形状)を生成できる、との知見を得た。この知見に基づき、本発明を成した。
【0009】
すなわち、課題解決のために、本発明の一態様は、ワークをプレス成形して予成形形状の中間部品を作製する第1の工程と、上記中間部品を製品形状にプレス成形して最終成形品を作製する第2の工程とを有するプレス部品の製造工程で使用される、金型の設計方法であって、上記製品形状に基づき金型の成形面をモデル化して金型モデルを生成する金型モデル生成工程と、上記金型モデルを用いたワークのプレス成形をシミュレーション解析して、離型後のワークの形状である離型形状を求めるプレス解析工程と、上記プレス解析工程が求めた上記離型形状と上記製品形状との形状差分を求める差分算出工程と、上記差分算出工程が求めた形状差分に基づき、上記金型モデルの成形面形状を修正する成形面形状修正工程と、上記成形面形状修正工程で修正した上記金型モデルの成形面形状を、上記第1の工程用の金型の成形面形状とし、上記成形面形状修正工程で修正前の上記金型モデルの成形面形状を、上記第2の工程用の金型の成形面形状とする金型形状決定工程と、備え、上記成形面形状修正工程は、生成する金型モデルの物性定義を一時的に弾性体又は弾塑性体に変更し、その変更した金型モデルの成形面に対し、上記形状差分に応じた分布で、荷重を負荷することで当該成形面を変形させ、その変形後の成形面を、上記第1の工程用の金型モデルの成形面形状として設定する、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、解析によるプレス成形及び離型後のワーク形状(成形形状)と基準形状との差分を荷重分布に変換すると共に、金型モデルを弾性体若しくは弾塑性体とすることによって、成形面形状が、自動的に滑らかに修正され、かつより現実の修正形状に近い状態に、簡易な処理によって実行可能となる。
【0011】
なお、基準形状との差分が許容範囲に収まるまで収束計算を行うことにより、解析の利用者に関係無く、同一の予成形金型形状を導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係るプレス部品の製造工程の例を示す図である。
【
図2】本発明に基づく実施形態に係る処理構成を説明する図である。
【
図3】本発明の金型設計手順の処理フローチャートである。
【
図5】製品データを成形するための金型モデルの構成例を示す断面図である。
【
図6】製品データを成形するための金型モデルの構成例を示す斜視図である。
【
図9】金型モデルを面モデルとした場合の、圧力負荷を説明するための図である。
【
図10】形状差分を圧力に変換する他の例を示す図である。
【
図12】成形面を修正後の金型モデルの構成例を示す斜視図である。
【
図13】第1の工程及び第2の工程による2工程成形の概念図である。
【
図14】製品データと初期金型モデルにより成形されたワークとの形状差分の例をコンター表示した図である。
【
図15】製品データと形状修正を施した第1の工程用の金型モデルにより成形されたワークとの形状差分の例をコンター表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態は、
図1に示すように、第1の工程60及び第2の工程61を有するプレス部品64の製造工程で使用される金型についての発明である。
【0014】
第1の工程60は、ワーク62をプレス成形して予成形形状の中間部品63を作製する工程である。第2の工程61は、中間部品63を製品形状にプレス成形して最終成形品64を作製する工程である。
【0015】
(構成)
本実施形態の金型の設計は、コンピュータを使用したシミュレーション解析によって実行される。そのシミュレーション解析は、有限要素法(FEM)を用いたCAE解析である。従来の解析方法と同様に、ソフト(プログラム)として、
図2に示すように、CADソフト100及び解析ソフト110(プリプロセッサ110A、ソルバー110B及びポストプロセッサ110C)を備える。CADソフト100及び解析ソフト110の基本構成としては、公知のソフト構成を採用すればよい。また、解析ソフト110は、本開示の解析プログラムに相当する。
【0016】
本実施形態の解析ソフトは、ワークを目的とする形状の製品にプレス成形する際に使用される金型の成形面形状(金型形状)を求める、すなわち設計する処理を行うためのソフトである。
【0017】
解析ソフトは、
図3に示すように、製品データ生成工程S1(製品データ生成手段)、解析工程設定工程S2(解析工程設定手段)、金型モデル生成工程S3(金型モデル生成手段)、プレス成形解析工程S4(プレス成形解析手段)、スプリングバック解析工程S5(スプリングバック解析手段)、差分算出工程S6(差分算出手段)、評価工程S7(評価手段)、金型モデル修正解析工程S8(金型モデル解析手段)、金型形状決定工程S9(金型形状決定手段)を備える。
【0018】
<製品データ生成工程S1>
製品データ生成工程S1は、製品形状のデータを生成する処理を実行する。
ここでは、金型により製造される製品は、
図4に示すように、自動車のドアパネル(パネル部品)を模擬したドローパネル11とする。ドローパネル11は、鋼板をプレス成形することにより製造される大型のパネルであり、張出し部12では一方向に曲率をもち、それと直行する方向では比較的平らに近い曲率をもった形状となっている。また、製品は、外周部全周にフランジ部13が形成された形状となっている。
【0019】
ここで、自動車用パネル部品は、アウターと呼ばれる外板部品(ルーフパネル部品やドアパネル部品など)と、フロアやダッシュロアなどの内板部品(車内に配設されるパネル部品)のことである。このような自動車用パネル部品は、投影面積が広い部品群である。そのため、自動車用パネル部品は、板厚低減による軽量化量が、他の骨格部品と比較しても格段に大きい。
【0020】
また、外板部品としての自動車用パネル部品は、一般に、表面形状に緩く且つ広い曲面を有する。外板部品の表面はユーザーの目にさらされる。このため、外板部品は、表面の外観品質について、高いレベルが要求される。このとき、車体軽量化のために外板部品を薄肉化するほど、外板部品は、張り剛性と呼ばれるパネル部品の面剛性が低下する傾向がある。このようなパネル部品の面剛性の低下に伴い、外板部品が面外変形を起こすことがある。なお、この面外変形は面ヒケと呼ばれる。このようなパネル部品の製造に、本開示は好適である。
【0021】
<解析工程設定工程S2>
解析工程設定工程S2は、プレス成形の成形様式(成形条件)を設定する処理を実行する。
【0022】
<金型モデル生成工程S3>
金型モデル生成工程S3は、金型をモデル化する。
例えば、金型モデル生成工程S3は、
図5及び
図6に示すように、ダイ20、ホルダー21、パンチ22からなる金型モデルを設計する。符号23は、成形されるワーク(ブランク)のワークモデルである。
ここで生成された金型の成形面の形状は、第2の工程61で用いる金型の成形面の形状と同一である。
【0023】
<プレス成形解析工程S4>
プレス成形解析工程S4は、金型モデルを用いたワークのプレス成形を、公知の手法でシミュレーション解析する。すなわち、プレス成形解析工程S4は、ワークをモデル化してワークモデル23を生成し、このワークモデル23のプレス成形のシミュレーション解析を行う。
【0024】
<スプリングバック解析工程S5>
スプリングバック解析工程S5は、プレス成形によるスプリングバックをシミュレーション解析する。すなわち、スプリングバック解析工程S5は、プレス成形したワークモデル23が、金型からの離型によって生じるスプリングバックをシミュレーション解析する。
【0025】
ここで、ワーク及び製品が薄肉になるほど面剛性が低下し、許容以上の寸法誤差が発生する可能性もある。このため、面に対して自重を負荷する条件も設定して、シミュレーション解析を実行してもよい。
【0026】
<差分算出工程S6>
差分算出工程S6は、スプリングバック後のワークモデルと製品データとの形状差分δを求める。例えば、スプリングバック現象によりワークモデル30の張出し部31は曲率が短絡する方向へと収縮し、
図7に示すように、離型によって、製品データ11とワークモデル30では面間距離が開く。この差分を形状差分δとして算出する。
【0027】
この形状差分δは、成形面に沿った分布として求める。具体的には、ノード毎に、製品データ11とスプリングバック後のワークモデル30の形状差分δを求めることで、成形面に沿った形状差分δの分布を求める。各形状差分δの向きは、製品データ11又はワークモデル30の面に鉛直な方向でも良いが、プレス方向(
図7では上下方向)がとしてもよい。
また、形状差分δは、張出成形する張出し部31の面のノードについても求めることが好ましい。
【0028】
<評価工程S7>
差分算出工程S6で求めた全形状差分δが許容範囲内であるか否かを判定する。
例えば、全てのノードでの形状差分δが、予め設定した許容範囲内であるか否かを判定する。この判定を満足する場合には、金型形状決定工程S9に移行する。
製品形状を製造するための金型モデル生成工程S3で生成された金型のみで成形を行った場合、スプリングバックにより製品形状から乖離したワーク形状に凍結される。このため、次工程の金型モデル修正解析工程S8によって最適な予成形形状を決定し、生成された予成形形状および金型(第1の工程用の金型)と、金型モデル生成工程S3で予め生成した製品形状金型(第2工程用の金型)との2工程によって成形することで、最終離型後の形状を製品形状の許容範囲内に満足させる。
【0029】
<金型モデル修正解析工程S8>
金型モデル修正解析工程S8は、評価工程S7での判定でNG評価の場合に起動する。
金型モデル修正解析工程S8は、金型モデルの物性を、弾性体へ変更した後、当該金型モデルの成形面に圧力を負荷することによって成形面を修正する。すなわち、第1の工程60用の成形面形状(予成形形状)を生成するためのシミュレーション解析を行う。
【0030】
具体的には、金型モデルの中からダイ20の物性定義を一時的に弾性体に変更したダイ40とし、差分算出工程S6が算出した形状差分δの分布を圧力分布へと変換した後、当該弾性体金型モデルの成形面に対し、
図8のように、求めた圧力分布を負荷して、当該成形面を変形させるシミュレーション解析を、ダイ40に対して実行する。
【0031】
ここで、
図8では、弾性体からなるダイ40を所定の厚みのあるモデルとして図示しているが、これに限定されない。例えば、
図9に示すように、ダイ40を、成形面だけの板モデルとし、そのモデルを弾性体から構成される条件としても良い。
【0032】
形状差分δの分布の圧力分布への変換は、各ノードの形状差分δを個々に圧力値に変換する処理を実行すればよい。又は、
図10のように、エレメント毎に平均化した圧力分布に変換しても良い。
【0033】
形状差分δを圧力に変換する方法は、例えば、予め設定した関数や表情報を使用する。形状差分δと圧力の関係は、線形であることが好ましく、非線形でも良い。ただし、形状差分δが大きいほど、圧力が大きくなる関係に設定する。変換する圧力の範囲の設定は、ダイ40の弾性係数に応じて設定すればよい。なお、形状差分δが負値の場合は、圧力は負値となる。
図7の状態では、形状差分δは正値ので、圧力は正値(成形面を押圧する力)に変換される。
このように、弾性体金型モデルであるダイ40が、設定された圧力分布により予成形金型の面形状として決定される。
【0034】
そして、
図12に示すように、生成された修正後の金型のダイ50を金型モデル生成工程S3と同様の処理によって成形に必要なホルダー51とパンチ52にモデル化する。
【0035】
ここで、圧力分布により変形したダイ50の代表断面の線長が、製品形状での同一位置における断面線長よりも大きくなるように、弾性体の弾性係数を設定する。
例えば、圧力分布により変形したダイ50の代表断面の線長が、製品形状での同一位置における断面線長に対し、線長比が+0.01%~+0.1%の範囲内となるように、弾性係数を変数として収束計算を行う。
【0036】
線長の判定を成形面全面で行うと、計算が掛かる。このため、本実施形態では、代表断面での線長で判定している。代表断面は、例えばダイの成形面の中央での線長である。
金型モデル修正解析工程S8は、処理を終了したら、ステップS4に移行する。
【0037】
<金型形状決定工程S9>
金型形状決定工程S9は、第1の工程60用の金型の成形面形状と第2の工程61用の金型の成形面形状とを決定する。具体的には、金型形状決定工程S9は、金型モデル修正解析工程S8で修正した金型モデルの成形面形状を、第1の工程60用の金型の成形面形状として決定する。また、金型モデル生成工程S3で設定した金型モデルの成形面形状を、第2の工程61用の金型の成形面形状として決定する。
そして、金型モデルの設計処理を終了する。
【0038】
(変形例)
上記説明では、金型モデル修正解析工程S8において、形状差分δ(の分布)を荷重(の分布)に変換する例として、圧力の場合を例示した。形状差分δから変換される荷重は圧力である必要は無い。例えば、
図11に示すように、ダイ40の成形面に対し、成形面が膨らむ方向(引き上がる方向)の力である張力に変換してもよい。
【0039】
また、上記説明では、金型モデル修正解析工程S8において、金型モデルの物性定義を弾性体に設定したが、これに限定されない。金型モデルの物性定義を弾塑性体に設定してもよい。少なくとも成形面、若しくは成形面近傍の物性定義を弾性体・弾塑性体に設定すればよい。
【0040】
また、負荷する荷重を、成形面の中央部の一点にのみ負荷する方法でもよい。成形面の中央部の一点にのみ負荷する場合であっても、ワークの面の寸法誤差に対しては有効である。
【0041】
(動作その他)
本実施形態では、第1の工程60で用いる金型形状を生成する際に、解析によるプレス成形及び離型後のワーク形状(成形形状)と基準形状(製品形状)との差分を、荷重分布(圧力分布など)に変換すると共に、金型モデルを弾性体若しくは弾塑性体とする。そして、その金型モデルの成形面に上記荷重分布を掛けるという簡易な処理によって、第1の工程60で用いる金型モデル形状を求めることができる。
【0042】
このとき、第1の工程60で用いる金型形状を生成する際に、荷重分布の荷重は離散的に負荷されるが、金型モデルを弾性体若しくは弾塑性体とすることで、成形面が、自動的に滑らかな面に修正される。
また、製品形状との差分が許容範囲に収まるまで収束計算を行うことにより、解析の利用者に関係無く、第1の工程60用の同一の金型形状を導出できる。なお、荷重は、圧力のように面直方向であることが好ましい。
【0043】
以上の処理によって、第1の工程60用の金型モデルの成形面形状が決定する。
【0044】
(金型の製造)
そして、上記の金型の設計で決定した金型の情報に基づき、第1の工程60用の金型と第2の工程61用の金型を製造する。
【0045】
(プレス部品64の製造)
本実施形態のプレス部品64の製造工程は、
図1の通り、第1の工程60(予成形工程)と第2の工程61(本成形工程)とを有する。そして、第1の工程60では、ワーク62を第1の工程60用の金型でプレス成形して予成形形状の中間部品63を作製する。また、第2の工程61では、第1の工程60で作製した中間部品63を製品形状に第2の工程61用の金型でプレス成形して最終成形品64を作製する。
【0046】
このプレス部品64の製造では、第1の工程60で、製品形状よりも若干凸側に張り出した予成形形状の中間部品63を作製する(
図13(a))。続いて、第2の工程61で、その中間部品63を実際の製品形状と同じ成型面を有する第2の工程61用の金型でプレス成形する(
図13(b)(c))。この結果、本実施形態のプレス部品64の製造では、寸法精度が向上した最終成形品を製造可能となる。
【0047】
ここで、予成形形状の断面線長は、寸法精度が向上の観点からは、製品形状での同一位置における断面線長より、若干長いことが好ましい。
例えば、第2の工程61用の成型面の断面線長は、製品形状での同一位置における断面線長に対する比で+0.01%~+0.1%の範囲内となるように設定する。このように設定することで、プレス部品64の寸法精度が向上する。
【0048】
この場合、第2の工程61でのプレス成形で、
図13(b)のように、面に圧縮が負荷されてスプリングバックの駆動力を低減できる。
特に、最終形成品としてのプレス部品64が、大きな面を有するパネル部品の場合、面外変形が問題となるが、本開示の製造方法を適用することで、その面外変形を抑えることが可能となる。
【0049】
ここで、プレス成形解析工程S4、及びスプリングバック解析工程S5は、プレス解析工程(プレス解析手段)を構成する。金型モデル修正解析工程S8は、成形面形状修正工程(成形面形状修正手段)を構成する。
【実施例0050】
図14は、金型モデル修正解析工程S8で修正前の初期金型モデル(第2の工程61のみに相当)により成形されたワークモデルと、製品データ(製品形状)との形状差分δをコンター表示した図である。製品形状金型のみで成形されたワークモデルではスプリングバックによって張出し部が曲率を短絡するように変形するため、製品データとの間で面間距離が最大で1.5mm程度開いていた。
【0051】
図15は、
図14に示されるような、製品データとプレス成形されたワークモデルとの差分に基づいて、本実施形態に基づき、
図3に示すように、金型形状を収束計算させ、製品データと第1の工程60と第2の工程61とを経てプレス成形されたワークモデルとの形状差分δをコンター表示した図である。
【0052】
図15の例においては、製品データとの間で面間距離が最大で±0.5mm程度と良好な結果が得られた。
【0053】
以上のように、本開示に基づき求めた第1の工程60用の金型でプレス成形することで、製品形状の成形面の金型のみでプレス成形する場合に比べ、部品の寸法精度が向上する。
【0054】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1) ワークをプレス成形して予成形形状の中間部品を作製する第1の工程と、上記中間部品を製品形状にプレス成形して最終成形品を作製する第2の工程とを有するプレス部品の製造工程で使用される、金型の設計方法であって、
上記製品形状に基づき金型の成形面をモデル化して金型モデルを生成する金型モデル生成工程と、
上記金型モデルを用いたワークのプレス成形をシミュレーション解析して、離型後のワークの形状である離型形状を求めるプレス解析工程と、
上記プレス解析工程が求めた上記離型形状と上記製品形状との形状差分を求める差分算出工程と、
上記差分算出工程が求めた形状差分に基づき、上記金型モデルの成形面形状を修正する成形面形状修正工程と、
上記成形面形状修正工程で修正した上記金型モデルの成形面形状を、上記第1の工程用の金型の成形面形状とし、上記金型モデル生成工程が求めた金型モデルの成形面形状を、上記第2の工程用の金型の成形面形状とする金型形状決定工程と、
を備え、
上記成形面形状修正工程は、生成する金型モデルの物性定義を一時的に弾性体又は弾塑性体に変更し、その変更した金型モデルの成形面に対し、上記形状差分に応じた分布で、荷重を負荷することで当該成形面を変形させ、その変形後の成形面を、上記第1の工程用の金型モデルの成形面形状として設定する。
(2) 上記形状差分が予め設定した許容範囲となるまで、上記プレス解析工程、上記差分算出工程、及び上記成形面形状修正工程の処理を繰り返し実行する。
(3) 上記変形後の成形面の断面線長を、上記製品形状での同一位置における断面線長に対する比で+0.01%~+0.1%の範囲内とする。
(4) 上記プレス部品がパネル部品である。
(5) 上記荷重は、上記成形面を押圧する方向の力である圧力、若しくは上記成形面を引き上げる方向の力である張力である。
(6) 上記金型モデルは、上記成形面だけを表現した面モデルとする
(7) 上記プレス解析工程は、
上記金型モデルを用いたワークのプレス成形を成形解析するプレス成形解析工程と、
上記プレス成形解析工程後の離型によるスプリングバックを解析するスプリングバック解析工程と、を備える。
(8)本開示の金型の設計方法によって、第1の工程用の金型の成形面形状と、第2の工程用の金型の成形面形状とを決定する、金型の製造方法。
(9) 本開示の第1の工程用の金型と第2の工程用の金型を用いてプレス部品を製造する、プレス部品の製造方法。
(10) ワークをプレス成形して予成形形状の中間部品を作製する第1の工程と、上記中間部品を製品形状にプレス成形して最終成形品を作製する第2の工程とを有するプレス部品の製造工程で使用される、第1の工程用の金型の成形面形状と、第2の工程用の金型の成形面形状とを求める処理を、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
上記製品形状に基づき金型の成形面をモデル化して金型モデルを生成する金型モデル生成手段と、
上記金型モデルを用いたワークのプレス成形をシミュレーション解析して、離型後のワークの形状である離型形状を求めるプレス解析手段と、
上記プレス解析手段が求めた上記離型形状と上記製品形状との形状差分を求める差分算出手段と、
上記差分算出手段が求めた形状差分に基づき、上記金型モデルの成形面形状を修正する成形面形状修正手段と、
上記成形面形状修正手段で修正した上記金型モデルの成形面形状を、上記第1の工程用の金型の成形面形状とし、上記成形面形状修正手段で修正前の上記金型モデルの成形面形状を、上記第2の工程用の金型の成形面形状とする金型形状決定手段と、
を備え、
上記成形面形状修正手段は、生成する金型モデルの物性定義を一時的に弾性体又は弾塑性体に変更し、その変更した金型モデルの成形面に対し、上記形状差分に応じた分布で、荷重を負荷することで当該成形面を変形させ、その変形後の成形面を、上記第1の工程用の金型モデルの成形面形状として設定する。
(11) 上記変形後の成形面の断面線長を、上記製品形状での同一位置における断面線長に対する比で+0.01%~+0.1%の範囲内とする。
(12)上記荷重は、上記成形面を押圧する方向の力である圧力、若しくは上記成形面を引き上げる方向の力である張力として設定される 。