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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149656
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】タイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058337
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 集平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AA46
4F202AH20
4F202AP05
4F202AP10
4F202AR06
4F202AR11
4F202CA21
4F202CU01
4F202CY11
4F202CY24
4F202CY30
(57)【要約】
【課題】 加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングするための温度センサを使用するにあたって、金型の段替え作業時間を大幅に短縮することを可能にしたタイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置を提供する。
【解決手段】 タイヤサイドウォール部を成形するサイドプレート11及びタイヤトレッド部を成形するセクター15を含む金型10と、セクター15を保持するセグメント75と、セグメント75の下側に配設されるスライド部材77とを備えたタイヤ加硫装置を使用し、未加硫のタイヤ1を金型10内に挿入した状態で該タイヤ1の加硫を行う方法において、スライド部材77の温度を温度センサ80により測定し、スライド部材77の温度をモニタリング情報として利用する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤサイドウォール部を成形するサイドプレート及びタイヤトレッド部を成形するセクターを含む金型と、前記セクターを保持するセグメントと、該セグメントの下側に配設されるスライド部材とを備えたタイヤ加硫装置を使用し、未加硫のタイヤを前記金型内に挿入した状態で該タイヤの加硫を行う方法において、前記スライド部材の温度を温度センサにより測定し、該スライド部材の温度をモニタリング情報として利用することを特徴とするタイヤ加硫方法。
【請求項2】
前記スライド部材の温度に基づいて前記タイヤの加硫条件を制御することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ加硫方法。
【請求項3】
前記スライド部材の加硫開始直後の温度Tと予め設定された標準温度T0との差を演算し、T-T0>0℃のとき前記タイヤの加硫開始から加硫終了までのトータル加硫時間を短縮し、T-T0<0℃のとき前記トータル加硫時間を延長することを特徴とする請求項2に記載のタイヤ加硫方法。
【請求項4】
タイヤサイドウォール部を成形するサイドプレート及びタイヤトレッド部を成形するセクターを含む金型と、前記セクターを保持するセグメントと、該セグメントの下側に配設されるスライド部材とを備えたタイヤ加硫装置において、前記スライド部材の温度を測定する温度センサを備えることを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項5】
前記タイヤの加硫条件を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記スライド部材の温度に基づいて前記タイヤの加硫条件を制御することを特徴とする請求項4に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記スライド部材の加硫開始直後の温度Tと予め設定された標準温度T0との差を演算し、T-T0>0℃のとき前記タイヤの加硫開始から加硫終了までのトータル加硫時間を短縮し、T-T0<0℃のとき前記トータル加硫時間を延長することを特徴とする請求項5に記載のタイヤ加硫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤを加硫するための方法及び装置に関し、更に詳しくは、加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングするための温度センサを使用するにあたって、金型の段替え作業時間を大幅に短縮することを可能にしたタイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤを製造する場合、未加硫のタイヤを金型内に挿入し、タイヤ内に挿入されたブラダーの内側に熱媒体と圧力媒体を供給した状態でタイヤの加硫を行う。このような加硫工程は、タイヤへの型付け、ゴムの架橋反応及び部材間の接着反応を行う工程であり、所望のタイヤ性能を発揮するために重要な工程である。そのため、加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングし、必要に応じて加硫条件を制御することが行われている。
【0003】
従来、加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングするために、金型を構成するセクターやサイドプレートに温度センサを取り付け、その温度センサにより検出された金型やタイヤの温度をモニタリング情報として利用している(例えば、特許文献1~3参照)。しかしながら、セクターやサイドプレートに温度センサを取り付ける場合、金型の段替え時に金型を分解して温度センサの着脱作業を行う必要がある。そのため、金型の段替え作業に長時間を要し、その間、タイヤ生産を止めることを余儀なくされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-224417号公報
【特許文献2】特開2007-30322号公報
【特許文献3】特開2019-38110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングするための温度センサを使用するにあたって、金型の段替え作業時間を大幅に短縮することを可能にしたタイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のタイヤ加硫方法は、タイヤサイドウォール部を成形するサイドプレート及びタイヤトレッド部を成形するセクターを含む金型と、前記セクターを保持するセグメントと、該セグメントの下側に配設されるスライド部材とを備えたタイヤ加硫装置を使用し、未加硫のタイヤを前記金型内に挿入した状態で該タイヤの加硫を行う方法において、前記スライド部材の温度を温度センサにより測定し、該スライド部材の温度をモニタリング情報として利用することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明のタイヤ加硫装置は、タイヤサイドウォール部を成形するサイドプレート及びタイヤトレッド部を成形するセクターを含む金型と、前記セクターを保持するセグメントと、該セグメントの下側に配設されるスライド部材とを備えたタイヤ加硫装置において、前記スライド部材の温度を測定する温度センサを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、タイヤサイドウォール部を成形するサイドプレート及びタイヤトレッド部を成形するセクターを含む金型と、セクターを保持するセグメントと、セグメントの下側に配設されるスライド部材とを備えたタイヤ加硫装置を用いたタイヤ加硫方法について鋭意研究を行ったところ、サイドプレート及びセクターの加工点温度とスライド部材の温度との間には相関関係があり、スライド部材の温度を把握することにより、サイドプレート及びセクターの温度を実質的に把握可能であることを知見し、本発明に至ったのである。
【0009】
即ち、本発明では、スライド部材の温度を温度センサにより測定し、該スライド部材の温度をモニタリング情報として利用するので、スライド部材の温度を測定するための温度センサを金型ではなくスライド部材に対して取り付けることが可能であり、金型の段替え時に温度センサの着脱作業を行う必要がない。そのため、加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングするための温度センサを使用するにあたって、金型の段替え作業時間を大幅に短縮することができる。
【0010】
本発明のタイヤ加硫方法では、スライド部材の温度に基づいてタイヤの加硫条件を制御することが好ましい。即ち、本発明のタイヤ加硫装置は、タイヤの加硫条件を制御する制御部を備え、その制御部は、スライド部材の温度に基づいてタイヤの加硫条件を制御することが好ましい。これにより、スライド部材の温度が加硫毎に変化した場合であっても、言い換えれば、サイドプレートやセクターの温度が加硫毎に変化した場合であっても、その温度変化による熱履歴の変動を最小限に抑制することができる。その結果、複数本のタイヤの加硫工程を反復的に行うにあたって、タイヤ毎の加硫量のばらつきを小さくし、タイヤ性能の安定化を図ることができる。
【0011】
本発明のタイヤ加硫方法では、スライド部材の加硫開始直後の温度Tと予め設定された標準温度T0との差を演算し、T-T0>0℃のときタイヤの加硫開始から加硫終了までのトータル加硫時間を短縮し、T-T0<0℃のときトータル加硫時間を延長することが好ましい。即ち、本発明のタイヤ加硫装置において、制御部は、スライド部材の加硫開始直後の温度Tと予め設定された標準温度T0との差を演算し、T-T0>0℃のときタイヤの加硫開始から加硫終了までのトータル加硫時間を短縮し、T-T0<0℃のときトータル加硫時間を延長することが好ましい。このような制御を行うことにより、熱履歴の変動を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示す子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示す子午線半断面図である。
図3】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置におけるスライド部材を示す平面図である。
図4図3のIV-IV矢視断面図である。
図5】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置の制御系を示すブロック図である。
図6】反復的な加硫工程におけるセクターと下側サイドプレートとスライド部材の温度推移を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫方法における加硫時間とスライド部材の温度との関係を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫方法におけるスライド部材の加硫開始直後の温度とトータル加硫量との関係を示すグラフである。
図9】従来のタイヤ加硫方法(制御なし)における加硫時間とスライド部材の温度との関係を示すグラフである。
図10】従来のタイヤ加硫方法(制御なし)におけるスライド部材の加硫開始直後の温度とトータル加硫量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図5は本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示すものである。
【0014】
図1及び図2に示すように、このタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤ1の外表面を成形する金型10と、空気入りタイヤ1の内側に挿入される筒状のブラダー20と、ブラダー20を操作する中心機構30と、ブラダー20の内側に熱媒体としてスチームを供給する熱媒体供給部40と、ブラダー20の内側に圧力媒体として不活性ガスを供給する圧力媒体供給部50と、金型10を加熱する加熱部60と、 金型10を駆動する駆動部70とを備えている。
【0015】
金型10は、空気入りタイヤ1のサイドウォール部を成形するための下側サイドプレート11及び上側サイドプレート12と、空気入りタイヤ1のビード部を成形するための下側ビードリング13及び上側ビードリング14と、空気入りタイヤ1のトレッド部を成形するための複数のセクター15とから構成され、その金型10の内側で空気入りタイヤ1を加硫成形するようになっている。
【0016】
中心機構30は、空気入りタイヤ1の中心位置に配置されていて鉛直方向に昇降自在に構成されたセンターポスト31と、下側ビードリング13に対して連接するように配置された下側クランプリング32と、該下側クランプリング32とセンターポスト31との間に配置されたシリンダ33と、センターポスト31の上部に固定された上側クランプリング34と、該上側クランプリング34に装着される補助リング35とから構成されている。シリンダ33には、ブラダー20内に熱媒体及び圧力媒体を供給するための媒体供給路(不図示)やブラダー20内から熱媒体及び圧力媒体を排出するための媒体排出路(不図示)が形成されている。
【0017】
ブラダー20は、その下端部が下側ビードリング13と下側クランプリング32との間に把持され、その上端部が上側クランプリング34と補助リング35との間に把持されている。図1に示すような加硫状態において、ブラダー20は空気入りタイヤ1の径方向外側に向かって拡張した状態にあるが、加硫後に空気入りタイヤ1を金型10内から取り出す際には上側クランプリング34が上方に移動し、それに伴ってブラダー20が空気入りタイヤ1の内側から抜き取られるようになっている。
【0018】
熱媒体供給部40は、熱媒体として所定の温度及び圧力に調整されたスチームを供給するスチーム供給源41と、スチームをブラダー20の内側に導くスチーム用配管42と、スチーム用配管42の途中に設けられたバルブ43とから構成されている。例えば、スチームの温度は190℃~220℃の範囲に設定され、スチームの圧力は1760kPa~1980kPaの範囲に設定される。一方、圧力媒体供給部50は、圧力媒体として所定の温度及び圧力に調整された不活性ガス(例えば、窒素ガス)を供給する不活性ガス供給源51と、不活性ガスをブラダー20の内側に導く不活性ガス用配管52と、不活性ガス用配管52の途中に設けられたバルブ53とから構成されている。例えば、不活性ガスの圧力はスチームの圧力よりも高くて2180kPa~2220kPaの範囲に設定される。熱媒体供給部40から供給される熱媒体及び圧力媒体供給部50から供給される圧力媒体は、中心機構30を介してブラダー20の内部に導入され、中心機構30を介してブラダー20の外部に排出される。これら熱媒体及び圧力媒体の圧力に基づいて加硫時に空気入りタイヤ1を内側から金型10の内面に向かって押圧するようになっている。
【0019】
加熱部60は、下側サイドプレート11に付設された下側プラテン61と、上側サイドプレート12に付設された上側プラテン62と、セクター15に付設されたジャケット63とから構成されている。加熱部60により金型10を加熱することにより、空気入りタイヤ1の加硫が行われるようになっている。
【0020】
金型10の駆動部70は、以下のように構成されている。下側サイドプレート11は下側ビードリング13と共に下側プラテン61を介して下側支持板71に固定されている。上側サイドプレート12は上側ビードリング14と共に上側支持板72に固定されている。上側支持板72の中心部には駆動軸73を備えた閉止板74が連結されている。そのため、駆動軸73を鉛直方向に駆動することにより、上側サイドプレート12及び上側ビードリング14が鉛直方向に移動するようになっている。
【0021】
また、各セクター15の背面側にはセグメント75が装着されている。セグメント75はジャケット63に形成されたレールに沿って摺動自在に構成されており、セグメント75とジャケット63との摺動面は鉛直方向に対して傾斜している。ジャケット63は上側プラテン62を介して駆動板76に固定されている。そのため、駆動板76を鉛直方向に駆動することにより、ジャケット63が鉛直方向に移動し、ジャケット63の移動に伴ってセグメント75及びセクター15にタイヤ径方向の移動とタイヤ軸方向の移動が生じるようになっている。なお、セグメント75と下側プラテン61との間にはセグメント75のタイヤ径方向の移動を容易にするためにスライド部材77が配設されている。
【0022】
図3及び図4に示すように、スライド部材77は、セグメント75の下側でタイヤ周方向に沿って環状に配置されたボトムプレート77aと、ボトムプレート78の周上に間欠的に配置されていてタイヤ径方向に延在する複数枚のスライド板77bとから構成され、これらスライド板77bがボトムプレート77aに対して固定されている。少なくともスライド板77bは耐摩耗性に優れた材料で構成されている。
【0023】
上述したタイヤ加硫装置において、スライド部材77の温度を測定する温度センサ80がスライド部材77に設置されている。このような温度センサ80は、図示のように、スライド板77bの相互間でボトムプレート77a上に設置されていて良く、或いは、ボトムプレート77a又はスライド板77bの内部に埋設されていても良い。
【0024】
図5に示すように、制御部90は、中心機構30の駆動、熱媒体供給部40のバルブ43の開閉、圧力媒体供給部50のバルブ53の開閉、加熱部60の加熱、金型10を駆動する駆動部70の駆動等を制御し、一連の加硫工程を実施するように構成されている。特に、制御部90は、温度センサ80により検出されたスライド部材77の温度を入力し、スライド部材77の温度に基づいて空気入りタイヤ1の加硫条件を制御するようになっている。なお、スライド部材77の温度は加硫条件の制御にフィードバックせずに単なるモニタリング情報として利用することも可能である。
【0025】
上述したタイヤ加硫装置を用いて空気入りタイヤ1を加硫する場合、金型10内に未加硫の空気入りタイヤ1を投入し、中心機構30の操作により空気入りタイヤ1の内側にブラダー20を挿入し、バルブ43の操作により熱媒体供給部40から供給されるスチームをブラダー20の内側に供給した後、バルブ53の操作により圧力媒体供給部50から供給される不活性ガスをブラダー20の内側に導入し、加熱部60により金型10を外側から加熱することで空気入りタイヤ1を加硫する。
【0026】
図6は反復的な加硫工程におけるセクターと下側サイドプレートとスライド部材の温度推移を示すものである。図6において、曲線Aはセクター15の温度推移を示し、曲線Bは下側サイドプレート11の温度推移を示し、曲線Cはスライド部材77の温度推移を示す。図6に示すように、一連の加硫工程が終了して金型10が開放されるとスライド部材77の温度が急落し、金型10が閉まるとスライド部材77の温度が上昇し、金型10が閉まってから5秒~10秒経過するとスライド部材77の温度が安定する。スライド部材77の温度が安定した状態では、下側サイドプレート11及びセクター15の温度とスライド部材77の温度との間にある程度の相関関係があることが分かる。そのため、スライド部材77の温度を把握することにより、下側サイドプレート11及びセクター15の温度を実質的に把握することが可能となる。
【0027】
上述したタイヤ加硫方法においては、スライド部材77の温度を温度センサ80により測定し、該スライド部材77の温度をモニタリング情報として利用するので、スライド部材77の温度を測定するための温度センサ80を金型10ではなくスライド部材77に対して取り付けることが可能である。金型10の段替え時においては、金型10のみを交換すれば良く、温度センサ80の着脱作業を行う必要がない。そのため、加硫時の温度条件のばらつきをモニタリングするための温度センサ80を使用するにあたって、金型10の段替え作業時間を大幅に短縮することができる。
【0028】
また、上述したタイヤ加硫方法においては、スライド部材77の温度に基づいて空気入りタイヤ1の加硫条件を制御することができる。これにより、スライド部材77の温度が加硫毎に変化した場合であっても、言い換えれば、サイドプレート11,12やセクター15の温度が加硫毎に変化した場合であっても、その温度変化による熱履歴の変動を最小限に抑制することができる。その結果、複数本の空気入りタイヤ1の加硫工程を反復的に行うにあたって、タイヤ毎の加硫量のばらつきを小さくし、タイヤ性能の安定化を図ることができる。
【0029】
上記タイヤ加硫方法において、制御部90による具体的な制御方法として、スライド部材77の加硫開始直後(例えば、加硫開始から5秒~10秒後)の温度Tと予め設定された標準温度T0との差を演算し、温度Tが標準温度T0と一致する場合における空気入りタイヤ1の加硫開始から加硫終了までのトータル加硫時間の標準値S0に対して、T-T0>0℃のときトータル加硫時間Stを短縮し、T-T0<0℃のときトータル加硫時間Stを延長すると良い。このような制御を行うことにより、空気入りタイヤ1の熱履歴の変動を適切に抑制することができる。
【0030】
更に、上記タイヤ加硫方法において、制御部90による具体的な制御方法として、トータル加硫時間の標準値S0に対して-180秒~+180秒の範囲でトータル加硫時間Stを制御すると良い。特に、|T-T0|の値に比例して標準値S0に対する変化量を大きくすると良い。このような制御を行うことにより、空気入りタイヤ1の熱履歴の変動を適切に抑制することができる。
【0031】
図7は本発明の実施形態からなるタイヤ加硫方法における加硫時間とスライド部材の温度との関係を示し、図8は本発明の実施形態からなるタイヤ加硫方法におけるスライド部材の加硫開始直後の温度とトータル加硫量との関係を示し、図9は従来のタイヤ加硫方法(制御なし)における加硫時間とスライド部材の温度との関係を示し、図10は従来のタイヤ加硫方法(制御なし)におけるスライド部材の加硫開始直後の温度とトータル加硫量との関係を示すものである。図7及び図9はスライド部材の加硫開始直後の温度が異なる3つの温度推移曲線を示している。
【0032】
従来のタイヤ加硫方法では、スライド部材77の加硫開始直後の温度T(例えば、154℃、157℃、160℃)に拘わらず、トータル加硫時間Stを一定とする(図9参照)。しかしながら、この場合、スライド部材77の加硫開始直後の温度Tの違いに起因して、加硫された空気入りタイヤ1のトータル加硫量にばらつきを生じることになる(図10参照)。
【0033】
これに対して、本発明のタイヤ加硫方法では、スライド部材77の加硫開始直後の温度T(例えば、154℃、157℃、160℃)と予め設定された標準温度T0(例えば、157℃)との差に基づいてトータル加硫時間Stを制御する。例えば、スライド部材77の加硫開始直後の温度Tが標準温度T0よりも高いときトータル加硫時間Stを短縮し、スライド部材77の加硫開始直後の温度Tが標準温度T0よりも低いときトータル加硫時間Stを延長する(図7参照)。その結果、空気入りタイヤ1の熱履歴の変動を抑制し、そのトータル加硫量のばらつきを小さくすることができる(図8参照)。
【0034】
なお、本発明のタイヤ加硫方法において、スライド部材77の温度は例えば加硫開始直後において少なくとも1回測定することが必要であるが、一連の加硫工程を通して断続的又は連続的に測定することも可能である。
【実施例0035】
セクショナルタイプの金型と、セクターを保持するセグメントと、セグメントの下側に配設されるスライド部材とを備えたタイヤ加硫装置を使用し、未加硫のタイヤを金型内に挿入した状態で空気入りタイヤ(タイヤサイズ:205/55R16)の加硫を行う方法において、複数本のタイヤの加硫工程を反復的に行うにあたって、その加硫条件の制御方法を異ならせた比較例1,2及び実施例1のタイヤ加硫方法をそれぞれ実施した。
【0036】
比較例1においては、トータル加硫時間Stを一定にした。比較例2においては、セクター及びサイドプレートの加工点に温度センサを設置し、セクター及びサイドプレートの温度に基づいてトータル加硫時間Stを制御し、トータル加硫時間の標準値に対する変動量を-1.6分~+1.8分とした。実施例1においては、スライド部材に温度センサを設置し、スライド部材の加硫開始直後の温度Tと予め設定された標準温度T0との差を演算し、その差に基づいてトータル加硫時間Stを制御し、トータル加硫時間の標準値に対する変動量を-1.6分~+1.8分とした。複数本のタイヤの加硫工程を反復的に行う場合、加硫開始直後における金型の温度が変動することがあり、その変動幅は±10℃程度である。
【0037】
上述した比較例1,2及び実施例1のタイヤ加硫方法について、温度センサの設置コスト及び金型の段替え作業時間を評価し、その結果を表1に示した。設置コストについては、温度センサと配線の費用及び設置箇所の加工費の総和を求め、比較例2を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど設置コストが大きいことを意味する。金型の段替え作業時間については、温度センサの設置作業を含めて金型を段替えする際に要した時間を計測した。
【0038】
また、比較例1,2及び実施例1のタイヤ加硫方法で得られた試験タイヤについて、下記試験方法により、タイヤ外面の加硫量の標準偏差σ、耐久性、転がり抵抗を評価し、その結果を表1に示した。
【0039】
タイヤ外面の加硫量の標準偏差σ
比較例1,2及び実施例1のタイヤ加硫方法について、それぞれ加硫工程におけるタイヤ外面の温度を経時的に計測し、1000本の試験タイヤの等価加硫量の標準偏差σを求めた。この標準偏差σが小さいほど等価加硫量が均一であることを意味する。
【0040】
耐久性:
各試験タイヤをリムサイズ16×7Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧を210kPaとし、未舗装路において1000km走行した後、タイヤを目視で観察し、外傷数を計測した。そして、外傷数が20を超える場合を1点とし、外傷数が11~20である場合を2点とし、外傷数が6~10である場合を3点とし、外傷数が2~5である場合を4点とし、外傷数が0~1である場合を5点とする5段階評価を行った。評価結果として、比較例1,2及び実施例1についてそれぞれ100本の試験タイヤの平均値を求めた。
【0041】
転がり抵抗:
各試験タイヤをリムサイズ16×7Jのホイールに組み付けて室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)に装着し、空気圧を210kPaとし、JATMAイヤーブック2021年版に記載の当該空気圧における最大負荷能力の80%に相当する荷重を負荷してドラムに押し付けた状態で、速度80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。評価結果は、比較例1,2及び実施例1についてそれぞれ100本の試験タイヤの平均値を求め、その平均値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から判るように、実施例1のタイヤ加硫方法によれば、スライド部材の加硫開始直後の温度Tと標準温度T0との差に基づいてトータル加硫時間Stを制御しているため、比較例1との対比において、タイヤ外面の加硫量の標準偏差σが小さく、得られたタイヤの耐久性及び転がり抵抗が全体として優れていた。また、実施例1のタイヤ加硫方法は、比較例2との対比において、温度センサの設置コストが低く、しかも、金型の段替え作業時間が大幅に短縮されていた。
【符号の説明】
【0044】
1 空気入りタイヤ
10 金型
20 ブラダー
30 中心機構
40 熱媒体供給部
50 圧力媒体供給部
60 加熱部
70 駆動部
80 温度センサ
90 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10