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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149661
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】真空浸炭炉および真空浸炭処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/22 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C23C8/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058342
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】306039120
【氏名又は名称】DOWAサーモテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 稔
(72)【発明者】
【氏名】金山 正男
【テーマコード(参考)】
4K028
【Fターム(参考)】
4K028AA01
4K028AB01
4K028AC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】真空浸炭炉において、ワーク装入時における加熱室内への外気の流入を抑制する。
【解決手段】真空浸炭炉1において、炉外から装入されるワークWの真空浸炭処理が行われる加熱室10と、加熱室10の底部10aに設けられたワークWの装入口23と、を設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空浸炭炉であって、
炉外から装入されるワークの真空浸炭処理が行われる加熱室と、
前記加熱室の底部に設けられた前記ワークの装入口と、を有する、真空浸炭炉。
【請求項2】
前記加熱室の下方に配置された、前記装入口から前記加熱室内に前記ワークを装入する昇降機を有する、請求項1に記載の真空浸炭炉。
【請求項3】
前記ワークを支持する支持台と、
前記支持台の下に設けられた前記装入口を覆う蓋体と、を有し、
前記昇降機は、前記蓋体を昇降させる構成を有し、
前記蓋体は、上昇時に前記加熱室の底部に密接して前記装入口を閉塞する形状を有する、請求項2に記載の真空浸炭炉。
【請求項4】
前記装入口の開閉を検知する開閉検知機構と、
前記昇降機を制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記開閉検知機構によって、前記装入口が所定外のタイミングで開放されたことが検知された際に、前記昇降機を上昇させて前記蓋体を上昇させる制御を実行するように構成されている、請求項3に記載の真空浸炭炉。
【請求項5】
前記装入口の開閉を制御する制御装置を有し、
前記制御装置は、前記装入口を開放する際に、前記加熱室に不活性ガスが供給されて、前記加熱室内の圧力が大気圧以上の圧力となった後に、前記装入口を開放する制御を実行するように構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の真空浸炭炉。
【請求項6】
前記加熱室内の雰囲気を制御する制御装置を有し、
前記制御装置は、前記装入口が閉塞されてから前記加熱室内の温度が前記真空浸炭処理を行う温度に昇温するまでの時間の50%以上の時間、前記加熱室内を、不活性ガス雰囲気、かつ、1×102Pa以上、大気圧未満の圧力で維持する制御を実行するように構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の真空浸炭炉。
【請求項7】
前記加熱室は、該加熱室内をバーンアウトする際に酸化性ガスを供給するガス供給口を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の真空浸炭炉。
【請求項8】
前記加熱室に隣接し、真空雰囲気下で浸炭処理が行われた前記ワークが装入される冷却室を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の真空浸炭炉。
【請求項9】
真空浸炭処理方法であって、
ワークの浸炭処理が行われる加熱室内に不活性ガスを供給し、該加熱室の圧力を大気圧以上の圧力とした後に、該加熱室の底部に設けられた前記ワークの装入口を開放し、
前記装入口から前記ワークを装入し、
前記加熱室内の温度を、真空浸炭処理を行う温度まで昇温させ、
真空排気された前記加熱室に浸炭性ガスを供給して前記ワークの真空浸炭処理を行う、真空浸炭処理方法。
【請求項10】
前記装入口が閉塞されてから前記加熱室内の温度が前記真空浸炭処理を行う温度に昇温するまでの時間の50%以上の時間、前記加熱室内を、不活性ガス雰囲気、かつ、1×102Pa以上、大気圧未満の圧力で維持する、請求項9に記載の真空浸炭処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空浸炭炉および真空浸炭処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種鋼材料からなる自動車部品や機械部品等のワークの表面を硬化させるための熱処理として、従前より浸炭処理が行われている。近年においては、浸炭処理におけるCO2排出削減の観点から、減圧下において、直接、浸炭性ガスを添加し、添加した浸炭性ガスの分解により生じた炭素を、ワーク表面に含侵させる真空浸炭処理技術が普及している。従来、そのような真空浸炭処理を行う真空浸炭炉として、特許文献1には、中間真空扉で区画された加熱室と冷却室との2室を備えるとともに、加熱室の前部にワーク装入用の装入扉が設けられ、冷却室の後部にワーク搬出用の搬出扉が設けられた真空浸炭炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5-014025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の真空浸炭炉においては、加熱室にワークを装入する際に、予め加熱室内を大気圧状態、かつ、所定の温度に加熱しておき、その状態の加熱室の前部から水平方向にワークを装入している。
【0005】
しかしながら、本発明者らによって行われたシミュレーションの結果によれば、加熱室に対して水平方向にワークを装入する構造の真空浸炭炉では、ワーク装入用の装入扉を開放した際に、加熱室内に短時間で外気が流入することが判明した。
【0006】
加熱室内は、通常、800~900℃の高温状態にあるため、ワーク装入時に加熱室内に外気が流入した場合には、加熱室内の構造物の酸化が生じ易い。このため、加熱室内の構造物の材料には、耐酸化性材料を適用する必要がある。
【0007】
また、ワークが装入されて装入扉を閉じた後の加熱室内に空気が残存していると、ワーク表面の酸化が生じ易いため、加熱室内の温度を浸炭温度まで昇温させる前に真空排気を行うことが好ましい。
【0008】
しかしながら、ワーク装入時の加熱室内への外気の流入量が多いほど、加熱室内の酸素量も多くなり、ワークが酸化し難い雰囲気となるまで加熱室内の酸素分圧を低下させるには時間がかかる。すなわち、加熱室内への外気の流入量が多いほど、真空排気時間が長くなり、浸炭処理の開始までに時間を要する。
【0009】
以上のように、加熱室に対して水平方向にワークを装入する構造の真空浸炭炉では、ワーク装入時に加熱室内に空気が流入するために、加熱室内の構造物に適用可能な材料が制限されると共に、浸炭処理を開始するまでの時間が増加する。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、真空浸炭炉において、ワーク装入時における加熱室内への外気の流入を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、真空浸炭炉であって、炉外から装入されるワークの真空浸炭処理が行われる加熱室と、前記加熱室の底部に設けられた前記ワークの装入口と、を有することを特徴としている。
【0012】
別の観点による本発明は、真空浸炭処理方法であって、ワークの浸炭処理が行われる加熱室内に不活性ガスを供給し、該加熱室の圧力を大気圧以上の圧力とした後に、該加熱室の底部に設けられた前記ワークの装入口を開放し、前記装入口から前記ワークを装入し、前記加熱室内の温度を、真空浸炭処理を行う温度まで昇温させ、真空排気された前記加熱室に浸炭性ガスを供給して前記ワークの真空浸炭処理を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空浸炭炉において、ワーク装入時における加熱室内への外気の流入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る真空浸炭炉の概略構成を示す説明図である。
図2】加熱室を説明するための斜視図である。
図3】加熱室を下から見た、装入口の大きさを説明するための説明図である。
図4】装入口の開閉検知機構を説明するための説明図である。
図5】加熱室へのワークの装入工程から冷却室へのワークの搬送工程までの加熱室内の圧力履歴および温度履歴を示す説明図である。
図6】加熱室へのワークの装入工程と、冷却室へのワークの搬送工程を説明するための説明図である。
図7】シミュレーションの解析モデルを示す図である。
図8】シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る真空浸炭炉の概略構成を示す説明図である。図2は、加熱室を説明するための斜視図である。本実施形態においては、図面に示されるX方向が真空浸炭炉1の幅方向、Y方向が真空浸炭炉1の奥行方向、Z方向が真空浸炭炉1の高さ方向である。
【0017】
<真空浸炭炉>
真空浸炭炉1は、炉外から装入される各種鋼材料からなる自動車部品や機械部品等のワークWの真空浸炭処理が行われる加熱室10と、加熱室10に隣接して配置された冷却室40を備えている。
【0018】
(加熱室)
加熱室10は、軸方向がX方向を向いた略円筒状の容器であり、この加熱室10の内面には、断熱材11が設けられている。加熱室10の内部には、天井部からZ方向下方に延びたヒータ12が複数設置され、各ヒータ12は、X方向に間隔をおいて配置されている。ヒータ12は、SiCヒータなどのセラミックヒータや電気バーナー、ガスバーナー等の公知の加熱装置を適用できるが、高温時の酸化によるヒータ劣化を抑制する観点からは、セラミックヒータを用いることが好ましい。加熱室10の天井部中央には、加熱室10内の雰囲気を攪拌する攪拌ファン13が取り付けられている。
【0019】
加熱室10の冷却室40側の側壁には、加熱室10から冷却室40にワークWを搬送するための搬送口14が形成されている。また、加熱室10と冷却室40との間には、昇降式の扉15が設けられており、搬送口14は、その扉15によって開放または閉塞される。
【0020】
上記の搬送口14が形成された加熱室10の側壁とは反対側の側壁には、ワークWを加熱室10から冷却室40に押し出すプッシャー16が設けられている。プッシャー16は、例えばリニアガイドなどの直線移動機構(図示せず)を有し、X方向に移動自在に構成されている。
【0021】
図2に示すように、加熱室10の側壁には、プッシャー16用の開口部17が形成されており、プッシャー16でワークWを押し出す際には、その開口部17をプッシャー16が通過する。
【0022】
図1に示すように、プッシャー16の周囲は、ハウジング18で囲まれている。このハウジング18は、図2に示す開口部17(図2ではハウジング18は図示せず)を覆うようにして加熱室10の側壁に固定されている。ハウジング18は、ワークWの真空浸炭処理の際に、加熱室10内に外気が流入しないように密閉された構造となっている。
【0023】
ハウジング18の上方には、加熱室10内の雰囲気を排気する排気管19が設けられている。排気管19は、真空ポンプ20に接続されている。また、排気管19には、圧力計21が取り付けられており、この圧力計21によって加熱室10内の圧力が測定される。なお、加熱室10内の圧力測定が可能であれば、圧力計21の設置位置は特に限定されない。また、二酸化炭素排出抑制の観点から、排気管19に二酸化炭素回収装置(図示せず)を取り付けてもよい。
【0024】
図2に示すように、加熱室10の円筒部の外周面には、ガス供給口としてのガスインレット22が設けられている。このガスインレット22は、浸炭性ガス(例えばアセチレンガス、エチレンガス、プロパンガス、ブタンガスやこれらのガスが混合されたガス)や不活性ガス(例えば窒素ガス、アルゴンガス)、酸化性ガス(例えば空気、酸素、二酸化炭素)などのガスを加熱室10内に供給する。
【0025】
ガスインレット22は、X方向およびY方向に沿って複数設けられており、各々のガスインレット22は、互いに間隔をおいて配置されている。なお、図2では加熱室10に隠れて図示されていないが、加熱室10の円筒部の外周面においては、図2に示されたガスインレット22と対向する位置にも、同様のガスインレットが設けられている。すなわち、加熱室10においては、一対のガスインレット22が当該加熱室10を挟むようにして設けられており、加熱室10に供給されるガスは、加熱室10の側方の2方向から供給される。
【0026】
各々のガスインレット22には、それぞれガス供給管(図示せず)が接続されている。それらの複数のガス供給管のうち、例えば一部のガス供給管は、浸炭性ガスが貯蔵されたボンベ(図示せず)に接続され、他の一部のガス供給管は、不活性ガスが貯蔵されたボンベ(図示せず)に接続され、残りのガス供給管は、酸化性ガスが貯蔵されたボンベ(図示せず)やエアーコンプレッサー(図示せず)に接続されている。このようなガス供給系によれば、加熱室10内に供給するガスを切り替えることができ、加熱室10内の雰囲気を、浸炭性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気、またはそれら各ガスの混合雰囲気に切り替えることができる。
【0027】
なお、ガスインレット22は、複数設置されてなくてもよく、例えば1つのガスインレット22から、浸炭性ガス、不活性ガスおよび酸化性ガスの各ガスが適宜混合された状態で供給される構成であってもよい。
【0028】
排気管19とガスインレット22の位置関係に関し、本実施形態においては、排気管19が、加熱室10における冷却室40側の側壁とは反対側の側壁に設けられ、ガスインレット22は、排気管19が設置された側壁とは異なる側壁に設けられている。換言すると、排気管19とガスインレット22は、排気管19の延伸方向(本実施形態ではX方向)とガスインレット22の延伸方向(本実施形態ではY方向)が交差するように設けられている。排気管19とガスインレット22の位置関係は特に限定されないが、以下の理由によって、本実施形態のような配置とすることが好ましい。
【0029】
従前の真空浸炭炉のように、加熱室に対して水平方向にワークWを装入する構造の炉においては、ワークWの装入口を、本実施形態の開口部17や排気管19が設けられた側壁に形成する必要があった。すなわち、従前の真空浸炭炉においては、排気管の取付位置を、本実施形態の排気管19の取付位置にすることができず、排気管19とガスインレット22の位置関係を、本実施形態のような位置関係とすることはできなかった。
【0030】
これに対して、本実施形態のような排気管19とガスインレット22の位置関係によれば、加熱室10内に供給されるガスの供給位置と排気位置との距離を従前の真空浸炭炉よりも遠ざけることが可能となる。これにより、加熱室10に供給されたガスが、加熱室10内に拡散する前に排気される現象(いわゆるショートパス)の発生を抑制することができる。このため、例えば真空浸炭処理の際には、加熱室10に供給された浸炭性ガスが、加熱室10内に十分に拡散した状態で真空浸炭処理を行うことができ、浸炭ばらつきを抑制することが可能となる。
【0031】
ガスインレット22から供給される各ガスのうち、不活性ガスは、ワークWに対する真空浸炭処理を行う過程で必要に応じて供給される。例えば不活性ガスは、加熱室10へのワークWの装入工程や、加熱室10から冷却室40へのワークWの搬送工程、浸炭拡散工程において供給される。
【0032】
一方、酸化性ガスは、ワークWに対する真空浸炭処理を行う過程や、真空浸炭処理後の定期的なメンテナンス作業の際に必要に応じて供給される。例えば酸化性ガスは、定期的なメンテナンス作業として、加熱室10内に堆積する煤を燃焼させて除去するバーンアウトを行う際に供給される。後述するように、本実施形態に係る真空浸炭炉1は、加熱室10への外気の流入が発生し難い構造であるため、ガスインレット22から酸化性ガスを供給することによって、バーンアウトを効果的に行うことが可能となる。
【0033】
図1に示すように、加熱室10の底部10aには、ワークWを装入するための装入口23が形成されている。このため、加熱室10にワークWが装入される際には、加熱室10の下方からワークWが装入される。後述の実施例で示すように、加熱室10の下方からワークWを装入する場合には、ワークWの装入時における加熱室10への外気の流入を抑制することができる。
【0034】
図3は、加熱室10を下から見た図である。この図3に示されるように、装入口23は、ワークWのサイズに対して十分に大きなサイズを有している。一方、ワークWの装入時における加熱室10内への外気の流入を抑える観点では、ワークWに対する装入口23のサイズは過大でないことが好ましい。
【0035】
具体的には、装入口23の縦幅(Y方向長さ)をa1、ワークWの縦幅(Y方向長さ)をb1としたとき、縦幅比(a1/b1)は、1.80以下であることが好ましい。より好ましくは、1.70以下であり、さらに好ましくは、1.60以下または1.50以下である。一方、装入口23と、ワークWを昇降させるための周辺部品との干渉をより確実に回避するためには、縦幅比(a1/b1)は、1.01以上であることが好ましく、より好ましくは、1.02以上である。
【0036】
また、装入口23の横幅(X方向長さ)をa2、ワークWの横幅(X方向長さ)をb2としたときの横幅比(a2/b2)は、上述した縦幅比の好ましい上限値を規定する理由と同様の理由によって、1.80以下であることが好ましい。より好ましくは、1.70以下であり、さらに好ましくは、1.60以下または1.50以下である。また、上述した縦幅比の好ましい下限値を規定する理由と同様の理由によって、横幅比(a2/b2)は、1.01以上であることが好ましく、より好ましくは、1.02以上である。
【0037】
なお、図3に示す例では、装入口23は、矩形状であるが、装入口23の形状は、ワークWを装入可能な形状であれば特に限定されず、例えば円形や楕円形などであってもよい。
【0038】
(昇降機)
図1に示すように、加熱室10の下方には、装入口23から加熱室10内にワークWを装入するための昇降機としてのシザーリフター30が設けられている。シザーリフター30の上方には、ワークWを支持する支持台31と、支持台31の下に設けられた断熱材32と、断熱材32の下に配置された蓋体33が設けられている。シザーリフター30の上端部は、蓋体33の下面と接続されていて、蓋体33は、シザーリフター30の昇降動作に連動して昇降するように構成されている。
【0039】
蓋体33は、装入口23を閉塞し、加熱室10の底壁部としても機能する部材であり、装入口23全体を覆う形状を有している。蓋体33は、シザーリフター30によって上昇し、加熱室10の底部10aに密接することによって、装入口23が閉塞される。
【0040】
真空浸炭炉1においては、装入口23の開閉検知機構を設けることが好ましい。この開閉検知機構の一例について図4を参照して説明する。
【0041】
図4(A)に示す例では、蓋体33の周縁部の下方に略台形状の接触部材34が設けられている。この接触部材34は、蓋体33の昇降動作に連動して昇降するように蓋体33に直接または間接的に接続されている。
【0042】
接触部材34の側方には、装入口23の開閉検知センサとしてのリミットスイッチ35が設けられている。リミットスイッチ35は、水平方向に延びた検知部36を有し、検知部36は、Y方向を回転軸として回転可能である。リミットスイッチ35は、検知部36の初期位置からの回転角度が所定の角度に達した際に、後述の制御装置100に向けてON信号を出力する。
【0043】
検知部36の設置高さは、蓋体33で装入口23が閉塞される前の段階でリミットスイッチ35がOFF状態となり、かつ、蓋体33で装入口23が閉塞された時にリミットスイッチ35がON状態となる高さに設定される。
【0044】
このようにリミットスイッチ35が設置されている場合、図4(A)に示すように、蓋体33で装入口23が閉塞される前においては、接触部材34の上方に検知部36が位置しており、接触部材34と検知部36が非接触状態にある。この段階では、検知部36が初期位置にあり、リミットスイッチ35はOFF状態である。
【0045】
一方、図4(B)に示すように、蓋体33で装入口23が閉塞された際には、接触部材34が検知部36に接触し、検知部36の初期位置からの回転角度が所定の角度に達した状態となる。これにより、リミットスイッチ35がON状態となり、制御装置100においては、装入口23が閉塞したと判断される。
【0046】
すなわち、リミットスイッチ35のOFF状態とON状態が切り替わることによって、蓋体33の開閉状態を自動的に検知することができる。このような開閉検知機構によれば、ワークWの装入後において、例えばワークWや蓋体33等の自重によって、蓋体33が所定外のタイミングで下降した場合に、リミットスイッチ35によって装入口23が開放されたことを検知することができる。
【0047】
そして、装入口23の開放が検知された場合には、後述の制御装置100からシザーリフター30に上昇信号が出力され、ON状態にあるリミットスイッチ35が再度OFF状態となるまで蓋体33を上昇させることができる。これにより、真空浸炭炉1の運転を停止せずに、ワークWに対する真空浸炭処理を継続することができる。
【0048】
なお、上述の「所定外のタイミング」とは、装入口23が本来開放されるべきでないタイミングを意味し、具体的なタイミングは、当業者が実際の操業を考慮して適宜決定することである。例えば、装入口23の開放予定のタイミングが、加熱室10へのワーク装入時に設定されている場合には、所定外のタイミングは、そのワーク装入時以外のタイミングである。
【0049】
また、上述の開閉検知機構は、リミットスイッチ35を用いた機構に限定されず、近接センサや光電センサ、レーザーセンサ等を用いた機構を適用することができる。
【0050】
以上、蓋体33を昇降させる昇降機について説明したが、昇降機は、シザーリフター30に限定されず、例えば油圧シリンダの伸縮動作を利用した機構などの他の機構を用いた昇降機であってもよい。
【0051】
また、本実施形態における真空浸炭炉1では、シザーリフター30と蓋体33とを互いに接続することで一体化させる構成が採用されているが、シザーリフター30と蓋体33は、常時接続された構成でなくてもよい。例えば、シザーリフター30で蓋体33を上昇させて装入口23を閉塞した後、蓋体33を支持する他の支持手段で蓋体33の位置を固定し、シザーリフター30については下降させることが可能な構成が採用されてもよい。
【0052】
また、ワークWの装入と装入口23の閉塞を実現する構成は、装入口23からワークWを装入し、装入口23を閉塞することができれば、蓋体33を昇降させる構成に限定されない。
【0053】
(冷却室)
加熱室10に隣接して配置される冷却室40では、真空浸炭処理されたワークWの冷却が行われる。図1に示す冷却室40は、油冷式の冷却室であり、冷却室40は、焼入れ用の油が貯留する油槽41を備えている。
【0054】
この油槽41の上方には、ワークWの搬送空間がある。搬送空間には、ワークWを当該搬送空間と油槽41との間で昇降させるエレベータラック42が設けられている。冷却室40の加熱室10側の側壁には、冷却室40にワークWを搬送するための搬送口43が形成されており、その搬送口43が形成された側壁とは反対側の側壁には、冷却室40からワークWを搬出するための搬出口44が形成されている。また、搬出口44が形成された側壁の外側には、搬出口44を閉塞する昇降式の扉45が設けられている。
【0055】
なお、冷却室40の冷却方式は、油冷式に限定されず、ガス冷式などの他の冷却方式であってもよい。また、冷却室40は、加熱室10に隣接して配置されなくてもよく、加熱室10から搬出したワークWを、加熱室10に対して間隔をおいて配置された冷却室40に装入するようにしてもよい。
【0056】
(制御装置)
上記の真空浸炭炉1は、制御装置100を備えている。制御装置100は、例えばCPUやメモリ等を備えたコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、真空浸炭炉1における一連の処理を制御する各種のプログラムが格納されている。例えばプログラム格納部には、加熱室10内のガスの供給と排気を制御するプログラムや、シザーリフター30の動作を制御するプログラム等が格納されている。なお、上記プログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、当該記憶媒体から制御装置100にインストールされたものであってもよい。
【0057】
本実施形態に係る真空浸炭炉1は、以上のように構成されている。なお、本明細書では説明を省略しているが、真空浸炭炉1は、加熱室10内の温度を測定する温度センサなどの一般的な真空浸炭炉で必要とされる構成も有している。
【0058】
<真空浸炭処理方法>
次に、この真空浸炭炉1におけるワークWの真空浸炭処理の一例について説明する。
【0059】
図5は、加熱室10へのワークWの装入工程から冷却室40へのワークWの搬送工程までの加熱室10内の圧力履歴および温度履歴を示す説明図である。本実施形態では、以下に説明する真空浸炭炉1の各動作が制御装置100で制御されることによって、ワークWの真空浸炭処理が図5に示す処理フローに沿って自動的に実行される。なお、以下で説明する真空浸炭炉1の一部の動作については、オペレータによる手動操作によって実行されてもよい。また、以下の説明における「圧力」は絶対圧である。
【0060】
(装入工程)
まず、装入口23が開放される前の段階では、ガスインレット22から加熱室10内に不活性ガスの一例である窒素ガスが供給されることによって、加熱室10内の雰囲気は、不活性ガス雰囲気の一例である窒素ガス雰囲気となっている。すなわち、加熱室10内の雰囲気は、ワークWの酸化が抑制される雰囲気である。加熱室10内をガス比重が軽い窒素ガス雰囲気とすることで、加熱室内10への空気流入をより抑制することができるため好ましい。
【0061】
このときの加熱室10内の圧力は、例えば1×104~1.5×105Paに設定されるが、大気圧以上の圧力であることが好ましい。これにより、加熱室10の内外の圧力差が存在しないか、または加熱室10内の圧力が加熱室10外の圧力よりも高い状態となり、装入口23が開放された際に、加熱室10内に外気が流入し難くなる。なお、加熱室10内の圧力を加熱室10外の圧力より高くする場合、その圧力差は、5×104Pa以下であることが好ましい。
【0062】
次に、蓋体33が下降し、これによって加熱室10の底部10aに設けられた装入口23が開放され、ローラーコンベア(図示せず)などの搬送手段によって炉外から搬送されたワークWが支持台31の上に支持される。続いて、制御装置100からシザーリフター30に対して上昇を指示する信号が出力され、蓋体33が上昇する。これにより、図6(A)に示すように、加熱室10の底部10aと蓋体33が密接し、装入口23が閉塞され、装入口23からワークWが加熱室10内に装入される。
【0063】
なお、加熱室10内への外気の流入を抑制する観点では、装入口23が開放されてから再度閉塞されるまでの間、窒素ガスの供給量を調節することによって、加熱室10内の圧力が、大気圧以上の圧力で維持されることが好ましい。
【0064】
また、ワークWの装入時における加熱室10内の温度は、特に限定されないが、1ロット前のワークWが加熱室10から冷却室40に搬送された時の加熱室10内の温度、に対して-100℃~+100℃の温度であることが好ましい。例えば、1ロット前のワークWが冷却室40に搬送された時の加熱室10内の温度が870℃である場合には、次ロットのワークWの装入時における加熱室10内の温度は、770~970℃であることが好ましい。
【0065】
このような温度管理を行うことによって、加熱室10内における過度の降温を抑えることができ、次ロットのワークWが装入されてから、浸炭温度に昇温させるまでの時間を短縮することができる。
【0066】
(昇温工程)
加熱室10にワークWが装入された後、加熱室10内の真空排気が行われる。この真空排気によって加熱室10内に残存する空気が排出されることで、加熱室10の昇温中におけるワークWの酸化が抑制される。なお、この真空排気により加熱室10内の圧力を1×103Pa以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、5×102Pa以下である。
【0067】
真空排気時間は、図5に示すように、昇温工程の時間の50%以下に設定されることが好ましい。換言すると、昇温工程における加熱室10内は、昇温工程の時間の50%以上の時間、不活性ガス雰囲気、かつ、1×102Pa以上、大気圧未満の圧力となるように維持されることが好ましい。なお、真空排気時間は、昇温工程の時間の30%以下に設定されることが好ましい。このような雰囲気を維持する制御は、上述の制御装置100を用いて実行されることが好ましい。昇温工程の時間とは、装入工程において装入口23が閉塞されてから、後述する均熱工程の真空排気が開始されるまでの時間である。
【0068】
なお、上述の真空排気は、ワークWの鋼種が酸化し難い鋼種である場合や、要求される浸炭品質の水準等に応じて省略されてもよい。
【0069】
上述の真空排気によって加熱室10内が真空雰囲気となった後に、真空排気が停止し、加熱室10内に窒素ガスが供給される。そして、加熱室10内の圧力が所定の圧力(例えば3×104Pa)に達した後に、窒素ガスの供給が停止する。
【0070】
昇温工程においては、加熱室10内の圧力が大気圧未満であることが好ましい。より好ましくは、1.0×105Pa以下である。これにより、加熱室10内の圧力が加熱室10外の圧力よりも低くなり、蓋体33が加熱室10の底部10aに押し付けられる力が作用する。その結果、例えば加熱室10またはシザーリフター30に予期せぬ衝撃が加わった場合などにおいても、加熱室10の底部10aと蓋体33の密接状態が維持され易くなる。
【0071】
特に、加熱室10の下方からワークWを装入する構造の真空浸炭炉1においては、昇降機としてのシザーリフター30に対し、ワークWや蓋体33といった重量物の自重が作用する。すなわち、シザーリフター30には、加熱室10の底部10aと蓋体33の密接状態が解除される方向の荷重がかかる。したがって、上述した制御により、蓋体33を加熱室10の底部10aに押し付けることは、加熱室10内の密閉度を維持する観点において有用である。なお、加熱室10内の圧力を加熱室10外の圧力より低くする場合、その圧力差は、1.0×105Pa未満であることが好ましい。さらに好ましくは、1.0×104Pa~9.5×104Paである。
【0072】
また、上記の窒素ガスの供給と共に、ヒータ12と攪拌ファン13を作動させ、加熱室10内の温度を所定の浸炭温度(930℃)まで昇温させる。この昇温工程においては、加熱室10内が真空雰囲気ではなく、窒素ガス雰囲気であるために、加熱室10内の温度が上昇し易くなり、昇温時間を短縮することができる。なお、浸炭温度は、ワークWの鋼種や炉内の構造物によって適宜設定されるものであり、真空浸炭処理の場合には、例えば730~1200℃に設定される。
【0073】
(均熱工程)
加熱室10内の温度が所定の浸炭温度に達した後に、再度真空排気を行う。この真空排気により、ワークWの浸炭処理が開始される前に、ワークWの均熱が行われる。なお、この真空排気により加熱室10内の圧力を1×103Pa以下にすることが好ましい。さらに好ましくは、5×102Pa以下である。
【0074】
なお、均熱工程は省略されてもよい。均熱工程が省略される場合、前述の昇温工程の途中から真空排気が開始される。その場合における前述の「昇温工程の時間」とは、装入工程において装入口23が閉塞されてから、後述する浸炭性ガスの供給が開始されるまでの時間である。
【0075】
一方、均熱工程が省略されて、昇温工程の途中から真空排気が開始された場合、加熱室10内が真空雰囲気となった後は対流熱伝達が生じない。そのような対流熱伝達が生じない環境下では、昇温工程におけるワークWの温度ばらつきが生じ易くなる。このため、ワークWの温度ばらつきを抑制し、浸炭品質を高めるためには、不活性ガス雰囲気下でワークWを十分に加熱した後に、均熱工程を行うことが好ましい。
【0076】
(浸炭拡散工程)
加熱室10内が真空雰囲気となった後に、真空排気を継続しながら、浸炭温度に達した加熱室10内に浸炭性ガス(例えばアセチレンガス)を供給する。このとき、加熱室10内の圧力は1×105Pa以下となるように維持され、この状態でワークWの真空浸炭が開始される。そして、その状態を一定時間維持した後、浸炭性ガスの供給を停止し、ワークWの拡散処理を行う。
【0077】
(降温・二次均熱工程)
拡散処理が完了した後、真空排気を停止し、攪拌ファン13により加熱室10雰囲気を攪拌しながら、加熱室10に窒素ガスを供給する。そして、加熱室10内の圧力が所定の圧力(例えば5×104Pa)に達した後に窒素ガスの供給を停止する。その状態を一定時間維持し、ワークWの降温と二次均熱処理を行う。加熱室10内の圧力は、1×103Paを超え、大気圧未満の圧力となるように維持されることが好ましい。加熱室10内の圧力を1×103Pa超、大気圧未満の圧力とすることで、攪拌ファン13による対流熱伝達によりワークWの温度ばらつきを抑制することができる。
【0078】
また、降温・二次均熱工程において、加熱室10内の圧力が大気圧未満である場合には、加熱室10内の圧力が加熱室10外の圧力よりも低くなり、蓋体33が加熱室10の底部10aに押し付けられる力が作用する。なお、加熱室10内の圧力を加熱室10外の圧力より低くする場合、その圧力差は、5×104Pa以下であることが好ましい。
【0079】
(搬送工程)
ワークWの降温と二次均熱処理が完了した後、図6(B)に示すように、加熱室10の側壁に設置された扉15を開き、加熱室10から冷却室40にワークWを搬送する。その後、扉15を閉じる。冷却室40に搬送されたワークWは、油槽41内で焼入れされた後に冷却室40から搬出される。
【0080】
なお、冷却室40にワークWが搬送された後に、加熱室10内に次ロットのワークWが装入されない状態が続くと、加熱室10内の圧力が上昇し、加熱室10内の圧力が加熱室10外の圧力より大きくなる。これによって、蓋体33には下向きの力が作用するため、蓋体33を下降させないためには、シザーリフター30の稼働が必要となる。
【0081】
このため、冷却室40にワークWが搬送された後は、加熱室10内の圧力が大気圧未満で維持されることが好ましい。これにより、加熱室10内の圧力が加熱室10外の圧力よりも低くなり、蓋体33が加熱室10の底部10aに押し付けられる力が作用する。
【0082】
この結果、蓋体33の下降を防ぐことを目的としたシザーリフター30の稼働が不要となり、シザーリフター30のモータの負荷を軽減することができる。なお、加熱室10内の圧力を加熱室10外の圧力より低くする場合、その圧力差は、5×104Pa以下であることが好ましい。
【0083】
以上の工程により、1ロット分のワークWの真空浸炭処理が完了する。そして、次ロットのワークWが加熱室10に装入される際には、前述した装入工程が再度実施される。すなわち、加熱室10内に窒素ガスが供給され、加熱室10内の圧力が大気圧以上の圧力となった状態で、装入口23が開放される。これにより、加熱室10の内外の圧力差が存在しないか、または加熱室10内の圧力が加熱室10外の圧力よりも高くなり、装入口23が開放された際に、加熱室10に外気が流入し難くなる。
【0084】
装入口23が開放された後は、蓋体33が初期位置まで下降し、支持台31の上に次の浸炭処理対象のワークWが載せられる。その後、図5に示す処理フローに沿って、ワークWに対する真空浸炭処理が行われる。このような処理が繰り返し行われることによって、後続のワークWに対しても順々に真空浸炭処理が行われる。
【0085】
以上、本実施形態に係る真空浸炭炉1による真空浸炭処理方法について説明した。真空浸炭炉1によれば、加熱室10にワークWを装入する際に、加熱室10の底部10aからワークWが装入される。これにより、後述の実施例で示すように、ワークWの装入時における加熱室10への外気の流入を抑制することが可能となる。
【0086】
その結果、加熱室10内の構造物の酸化が生じ難くなるため、構造物の材料として耐酸化性材料以外の材料を採用することができる。例えば従前の真空浸炭炉では、攪拌ファン13の材料として、耐酸化性の懸念からカーボンコンポジット材の採用は避けられてきたが、本実施形態に係る真空浸炭炉1によれば、加熱室10内の構造物の酸化が抑制されるため、カーボンコンポジット材を採用できる。これにより、攪拌ファン13の軽量化を図ることが可能となる。
【0087】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0088】
図7に示す加熱室の解析モデルを用いて、加熱室への外気の流入を評価するためのシミュレーションを実施した。図7に示す比較例のモデルは、加熱室の側方にワークの装入口が形成されており、実施例のモデルは、加熱室の底部にワークの装入口が形成されている。
【0089】
シミュレーションの解析条件は以下の通りである。本シミュレーションにおいては、初期状態における加熱室内と加熱室外の空気を区別し、それぞれの空気濃度の経時変化に着目した。
・解析タイプ:非定常流れにおける流体濃度解析
・解析時間:30秒間
・境界条件
加熱室と流体との境界:静止壁
加熱室外領域と解析範囲外領域との境界:静止壁
・熱移動条件
流体と流体:熱移動あり
流体と固体:断熱
流体と解析範囲外領域:断熱
・物性
加熱室内雰囲気:930℃の空気
加熱室外雰囲気:25℃の空気
加熱室材料:機械構造用炭素鋼
【0090】
図8は、シミュレーション結果を示す図である。図8に示されるように、加熱室の側方に装入口が設けられた比較例のモデルでは、シミュレーションの開始直後から加熱室内に外気が流入し、開始5秒後には、加熱室内の雰囲気の大半が外気に置換された。
【0091】
一方、加熱室の底部に装入口が設けられた実施例のモデルでは、加熱室内への外気の流入がなく、加熱室内の雰囲気は、初期状態の雰囲気のまま維持されていた。なお、図8では、シミュレーション開始後の5秒間の結果しか示されていないが、シミュレーションが完了する30秒後の結果においても、実施例のモデルでは加熱室への外気の流入は確認されなかった。
【0092】
本実施例の結果によれば、加熱室の底部からワークを装入する構造の真空浸炭炉においては、加熱室の側方からワークを装入する構造の真空浸炭炉に対して、外気流入を抑制する観点で顕著な効果を奏することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、ワークの浸炭処理を行う真空浸炭炉に適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 真空浸炭炉
10 加熱室
10a 加熱室の底部
11 断熱材
12 ヒータ
13 攪拌ファン
14 搬送口
15 扉
16 プッシャー
17 開口部
18 ハウジング
19 排気管
20 真空ポンプ
21 圧力計
22 ガスインレット
23 装入口
30 シザーリフター
31 支持台
32 断熱材
33 蓋体
34 接触部材
35 リミットスイッチ
36 検知部
40 冷却室
41 油槽
42 エレベータラック
43 搬送口
44 搬出口
45 扉
100 制御装置



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8