(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149674
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】鉄道車両用振動抑制装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B61F 5/24 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B61F5/24 F
B61F5/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058359
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の走行中にアクチュエータによる異音の発生を防止することができる鉄道車両用振動抑制装置の制御方法を提供する。
【解決手段】制御方法は、アクチュエータ(20)と、回転角度センサ(30)と、制御装置(40)と、を備える鉄道車両用振動抑制装置(10)の制御方法である。制御装置(40)は、ステップ(#5)にて、鉄道車両(1)の走行中に回転角度センサ(30)からモータ(21)の磁極の位置を取得し、取得したモータ(21)の磁極の位置からモータ(21)の回転数を算出し、ステップ(#10)にて、所定時間内において算出したモータ(21)の回転数が所定の回転数閾値を超過した回数をカウントして、カウントされた回数が所定の回数閾値より小さい条件が満たされているか否かを判定し、ステップ(#15)にて、上記の条件が満たされない状態に至ったとき、アクチュエータ(20)を停止させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の台車と車体とに接続され、モータの回転によって発生する推力で前記台車に対する前記車体の振動を抑制するアクチュエータと、前記モータの磁極の位置を検出する回転角度センサと、前記回転角度センサの検出結果に基づいて、前記アクチュエータの作動を制御する制御装置と、を備える鉄道車両用振動抑制装置の制御方法であって、
前記制御装置は、
前記鉄道車両の走行中に前記回転角度センサから前記モータの磁極の位置を取得し、取得した前記モータの磁極の位置から前記モータの回転数を算出し、
所定時間内において、算出した前記モータの回転数が所定の回転数閾値を超過した回数をカウントして、カウントされた前記回数が所定の回数閾値より小さい条件が満たされているか否かを判定し、
前記条件が満たされない状態に至ったとき、前記アクチュエータを停止させる、鉄道車両用振動抑制装置の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用振動抑制装置の制御方法であって、
前記制御装置は、前記アクチュエータが停止してから所定の時間が経過した後に、前記アクチュエータの作動を再開させる、鉄道車両用振動抑制装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用振動抑制装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車上に支持された車体と、を備える。通常、台車は、車体の前側と後側にそれぞれ配置される。鉄道車両がレール上を走行する際、車体は、台車に対して振動する。車体が鉄道車両の左右方向に振動することにより、車体が動揺する。車体が大きく動揺すれば、乗り心地が悪くなる。
【0003】
一般に、鉄道車両には、乗り心地を改善するために、振動抑制装置が搭載される(例えば、特許文献1)。振動抑制装置は、台車と車体とに接続されたアクチュエータを含む。振動抑制装置では、車体に生じた左右方向の振動加速度が加速度センサによって検出され、その振動加速度を打ち消すようにアクチュエータが車体に推力を与える。推力の発生源は、例えばモータである。これにより、振動抑制装置は、台車に対する車体の振動を抑制する。そのため、振動抑制装置が搭載された鉄道車両は、振動抑制装置が搭載されていない鉄道車両と比較して、乗り心地が良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道車両の走行中、車体の下に配置されたアクチュエータの付近から異音が発生する場合がある。異音が発生した場合、鉄道車両の乗務員が異常事態と判断して、鉄道車両を一旦停止させる。しかしながら、鉄道車両の不測の停止は、鉄道車両の遅延や運休につながる。このため、異音の発生を防止することが必要である。
【0006】
本開示の目的は、鉄道車両の走行中にアクチュエータによる異音の発生を防止することができる鉄道車両用振動抑制装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る制御方法は、アクチュエータと、回転角度センサと、制御装置と、を備える鉄道車両用振動抑制装置の制御方法である。アクチュエータは、鉄道車両の台車と車体とに接続され、モータの回転によって発生する推力で台車に対する車体の振動を抑制する。回転角度センサは、モータの磁極の位置を検出する。制御装置は、回転角度センサの検出結果に基づいて、アクチュエータの作動を制御する。本開示に係る制御方法では、制御装置は、鉄道車両の走行中に回転角度センサからモータの磁極の位置を取得する。制御装置は、取得したモータの磁極の位置からモータの回転数を算出する。制御装置は、所定時間内において、算出したモータの回転数が所定の回転数閾値を超過した回数をカウントして、カウントされた回数が所定の回数閾値より小さい条件が満たされているか否かを判定する。制御装置は、上記の条件が満たされない状態に至ったとき、アクチュエータを停止させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る鉄道車両用振動抑制装置の制御方法によれば、鉄道車両の走行中にアクチュエータによる異音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、振動抑制装置を搭載した鉄道車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る制御方法の手順を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、車体の振動加速度のデータを示すグラフである。
【
図4】
図4は、アクチュエータのモータの回転数のデータを示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例の検証結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明者は鋭意検討を重ね、その結果、下記の知見を得た。
【0011】
振動抑制装置として、鉄道車両に搭載されるアクチュエータは、例えば電動式アクチュエータである。電動式アクチュエータは、モータの回転によって発生する推力で台車に対する車体の振動を抑制する。電動式アクチュエータの動作確認のため、回転するモータの磁極の位置が、レゾルバによって検出される。アクチュエータ付近から異音が発生した鉄道車両を調査したところ、このレゾルバの線間抵抗が大きくなっていて、レゾルバの信号が乱れていることが分かった。レゾルバの線間抵抗が大きくなるのは、制御装置とアクチュエータとを接続するコネクタの通電部に異物が付着しているからと考えられる。コネクタを抜き差しすると、異音が解消したからである。
【0012】
また、これまでにアクチュエータ付近から異音が発生したのは長期使用した鉄道車両のみであり、新しい鉄道車両では異音は発生していないことが分かった。これらのことから、アクチュエータ付近から異音が発生するのは、制御装置とアクチュエータとを接続するコネクタの通電部に異物が付着していること、すなわち、アクチュエータの故障が原因と考えられる。長期使用した鉄道車両では、当該コネクタを取り外してアクチュエータを点検する際に、コネクタに異物が付着しやすいからである。
【0013】
コネクタの通電部に異物が付着している場合、レゾルバの信号が乱れて、モータの磁極の位置を正確に検出できない。モータの磁極の位置が不正確な状況下では、モータの回転を正常に制御することができず、モータは車体の振動を抑える方向とは関係なく回転する。すると、モータの回転が正常な制御下ではあり得ない速さとなる場合がある。この場合、モータがアクチュエータ内部の機械的隙間等に衝突したり、過剰なアクチュエータの推力により車体の各機械的隙間が干渉し、異音が発生すると考えられる。
【0014】
本発明者は、上述したアクチュエータから異音が発生するメカニズムを踏まえ、アクチュエータによる異音の発生を防止するため、アクチュエータの故障を早期に検知する方法を検討した。その結果、本発明者は、実施形態に係る制御方法を完成させた。
【0015】
実施形態に係る制御方法は、アクチュエータと、回転角度センサと、制御装置と、を備える鉄道車両用振動抑制装置の制御方法である。アクチュエータは、鉄道車両の台車と車体とに接続され、モータの回転によって発生する推力で台車に対する車体の振動を抑制する。回転角度センサは、モータの磁極の位置を検出する。制御装置は、回転角度センサの検出結果に基づいてアクチュエータの作動を制御する。実施形態に係る制御方法では、制御装置は、鉄道車両の走行中に回転角度センサからモータの磁極の位置を取得する。制御装置は、取得したモータの磁極の位置からモータの回転数を算出する。制御装置は、所定時間内において、算出したモータの回転数が所定の回転数閾値を超過した回数をカウントして、カウントされた回数が所定の回数閾値より小さい条件が満たされているか否かを判定する。制御装置は、上記の条件が満たされない状態に至ったとき、アクチュエータを停止させる。
【0016】
実施形態に係る制御方法では、制御装置が、鉄道車両の走行中に回転角度センサからモータの磁極の位置を時時刻刻と取得し、その磁極の位置の情報からモータの回転数を算出する。制御装置は、算出した回転数が所定時間内において所定の回転数閾値を超過した回数をカウントして、カウントされた超過回数が所定の回数閾値より小さい条件が満たされているか否かを判定する。この条件が満たされない状態に至った場合、アクチュエータを停止させる。上記の条件が満たされない状態に至った場合、アクチュエータが故障していると考えられるからである。アクチュエータが異音の発生原因であれば、アクチュエータが停止すれば、異音が発生することはなく、鉄道車両は振動抑制装置を停止した状態で走行を続けることができる。このように、実施形態に係る制御方法によれば、アクチュエータの故障を早期に検知して、アクチュエータを停止することができる。これにより、鉄道車両の走行中にアクチュエータによる異音の発生を防止することができる。
【0017】
上記実施形態に係る制御方法において、好ましくは、制御装置は、アクチュエータが停止してから所定の時間が経過した後に、アクチュエータの作動を再開させる。この制御方法によれば、例えばアクチュエータの故障の原因と考えられる箇所を点検した後に、アクチュエータの作動を復旧させることができる。アクチュエータの作動が復旧すれば、アクチュエータが停止したままの場合と比較して、台車に対する車体の振動を抑制することができ、再び、鉄道車両の乗り心地が向上する。
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0019】
本実施形態に係る制御方法は、振動抑制装置10の制御方法である。
図1は、振動抑制装置10を搭載した鉄道車両1の構成例を示す模式図である。
図1を参照して、鉄道車両1は、車体2と、台車3から構成され、レール4上を走行する。台車3は、車体2の前側と後側にそれぞれ配置される。
【0020】
振動抑制装置10は、アクチュエータ20と、回転角度センサ30と、制御装置40と、加速度センサ50と、を含む。アクチュエータ20は、電動式アクチュエータであり、台車3と車体2とに接続される。アクチュエータ20は、モータ21の回転によって発生する推力で台車3に対する車体2の振動を抑制する。モータ21の回転運動は、モータ21の主軸22と噛み合うナット23によって直線運動に変換される。言い換えると、モータ21の回転に応じて、ナット23が鉄道車両1の左右方向に移動し、ナット23と一体のロッド24が鉄道車両1の左右方向に伸縮動する。ナット23は、例えばローラスクリューナット又はボールねじナットである。
【0021】
車体2と台車3の間には、アクチュエータ20と並列にダンパ5が接続されている。ダンパ5は、例えば流体圧ダンパであり、アクチュエータ20とともに台車3に対する車体2の振動を減衰する。
【0022】
ダンパ5は左右方向のストロークによって車体2の振動を減衰する。ただし、ダンパ5のストローク速度が大きくなりすぎると、ダンパ5が故障してしまう。そのため、ダンパ5には、ストロークの許容限界速度が定められている。ダンパ5のストロークの許容限界速度は、典型的には0.2[m/sec]である。
【0023】
制御装置40は、アクチュエータ20に接続され、アクチュエータ20の作動を制御する。また、制御装置40は、ダンパ5に接続されている。制御装置40は、例えばコンピュータを含む。具体的には、制御装置40は、プロセッサと、メモリと、インターフェースと、ハードディスクとを含む。これらの構成はバスにより互いに接続されている。ハードディスクには、制御プログラムが格納されている。制御プログラムがメモリにロードされ、プロセッサで実行させることにより、制御装置40による制御が実現する。
【0024】
鉄道車両1の走行中、制御装置40は、加速度センサ50で検出した車体2の左右方向の振動加速度を取得する。この振動加速度に基づき、制御装置40は、車体2の振動を減衰させるような推力に対応する信号を生成し、アクチュエータ20及びダンパ5に送出する。アクチュエータ20及びダンパ5は、制御装置40からの信号に応じて作動する。
【0025】
アクチュエータ20の動作確認のため、回転角度センサ30が設けられる。回転角度センサ30は、レゾルバを含む。レゾルバは、モータ21の磁極の位置を検出する。モータ21の磁極の位置は、モータ21の回転角度に相当する。回転角度センサ30は、レゾルバによって検出したモータ21の磁極の位置の情報を制御装置40に送出する。そして、制御装置40は、回転角度センサ30の検出結果に基づいて、アクチュエータ20の作動を制御する。
【0026】
ここで、アクチュエータ20のモータ21の回転は、正方向の回転と負方向の回転とがある。アクチュエータ20のモータ21では、車体2の振動方向に応じて、正方向の回転と負方向の回転とが切り替わる。以下、特に断りのない限り、モータ21の回転数とは、回転数の絶対値のことを指す。
【0027】
本実施形態に係る制御方法では、上述した振動抑制装置10を搭載した鉄道車両1において、制御装置40を用いて振動抑制装置10を制御する。鉄道車両1の走行中、予め設定された条件により、又は乗務員(例:運転士)の操作により本実施形態に係る制御方法が開始される。
図2は、本実施形態に係る制御方法の手順を示すフロー図である。
【0028】
図2を参照して、本実施形態に係る制御方法では、制御装置40がステップ#5、#10、#15及び#20を実施する。ステップ#5では、制御装置40は、鉄道車両1の走行中に回転角度センサ30からモータ21の磁極の位置を取得し、取得したモータ21の磁極の位置からモータ21の回転数を算出する。ステップ#10では、制御装置40は、所定時間内において算出したモータ21の回転数が所定の回転数閾値を超過した回数をカウントして、カウントされた回数が所定の回数閾値より小さい条件が満たされているか否かを判定する。ステップ#15では、制御装置40は、上記の条件が満たされない状態に至ったとき、アクチュエータ20を停止させる。ステップ#20では、制御装置40は、アクチュエータ20が停止してから所定の時間が経過した後に、アクチュエータ20の作動を再開させる。以下、これらの各ステップについて具体的に説明する。
【0029】
鉄道車両1の走行中に本実施形態に係る制御方法が開始されると、ステップ#5にて、制御装置40は、レゾルバによって検出したモータ21の磁極の位置(モータ21の回転角度)の情報を取得する。制御装置40は、取得したモータ21の磁極の位置の情報から、所定のサンプリング周期Δt毎のモータ21の回転数R[rpm]を算出する。サンプリング周期Δtは、典型的には10.0[msec]以下であり、例えば3.0[msec]である。
【0030】
制御装置40がモータ21の磁極の位置(モータ21の回転角度)の情報から、モータ21の回転数を算出する方法は、特に限定されない。例えば、制御装置40がハードウェア又はソフトウェアを用いてモータ21の回転角度の時間微分値を算出し、算出された値をモータ21の回転数としてもよい。この場合、モータ21の回転角度を微分回路に通してモータ21の回転数を検出してもよい。あるいは、あるサンプリング時間におけるモータ21の回転角度の差から、モータ21の回転数を算出してもよい。
【0031】
次に、ステップ#10にて、制御装置40は、ステップ#5で算出した回転数Rに基づき、サンプリング周期Δt毎のモータ21の回転数Rが所定の回転数閾値R0より大きいか否かを判定する。制御装置40は、所定のサンプリング時間T内において、回転数Rが回転数閾値R0を超過した超過回数Nをカウントする。そして、制御装置40は、サンプリング時間T内において回転数Rが回転数閾値R0を超過した超過回数Nが回数閾値N0より小さいか否かを判定する。換言すれば、制御装置40は、サンプリング時間T内において回転数Rが回転数閾値R0を超過した超過回数Nをカウントし、超過回数Nが回数閾値N0より小さい条件が満たされているか否かを判定する。以下、ここでの条件を条件(A)とも言う。
【0032】
ステップ#10において、サンプリング時間T内で回転数Rが回転数閾値R0を超過した超過回数Nが回数閾値N0以上であると判定された場合、すなわち条件(A)が満たされない状態に至った場合は、アクチュエータ20が故障していると考えられる。そのため、この場合には、ステップ#15に進み、制御装置40は、アクチュエータ20を停止させる信号をアクチュエータ20に送出する。これにより、アクチュエータ20が停止する。
【0033】
一方、ステップ#10において、サンプリング時間T内で回転数Rが回転数閾値R0を超過した超過回数Nが回数閾値N0より小さいと判定された場合、すなわち条件(A)が満たされている場合は、アクチュエータ20の故障は検知されなかったと判断する。この場合には、ステップ#10でカウントした超過回数Nの値をクリアし、ステップ#5に戻る。
【0034】
上述したステップ#10において、サンプリング時間Tが小さいほど、アクチュエータ20の故障を早く検知することができるが、その分ノイズなどによる回転数Rの瞬時乱れによる誤検知の可能性は高まる。逆に、サンプリング時間Tが大きいほど、誤検知の可能性を低くすることができる一方、その分故障の検知が遅れ、異音を耳にするようになる。そのため、サンプリング時間Tは適切に設定されることが好ましい。サンプリング時間Tは、好ましくは、0.5~3.0[sec]である。サンプリング時間Tは、より好ましくは、1.0[sec]である。例えば、サンプリング時間Tが0.999[sec]であり、サンプリング周期Δtが3.0[msec](0.003[sec])である場合には、サンプリング時間T内でのサンプリング回数は333回(0.999÷0.003=333)となる。
【0035】
また、上述したステップ#10において、回転数Rの回転数閾値R0は、アクチュエータ20の故障を正確に検知できるように適切に設定されることが好ましい。ここで、鉄道車両1において、ダンパ5がアクチュエータ20と並列に接続される。上述した通り、ダンパ5のストロークの許容限界速度は、典型的には0.2[m/sec]である。この許容限界速度は、アクチュエータ20のモータ21の回転数Rに変換すると、ナット23のリードが20[mm]である場合、600[rpm]に相当する(600[rpm]÷60[sec]×20[mm]=200[mm/sec]=0.2[m/sec])。つまり、モータ21の回転数Rが約600[rpm]以上である場合には、異常な速度でモータ21が回転していることになる。アクチュエータ20が故障した際には、モータ21がこのような異常な速度で回転すると考えられる。
【0036】
以上のことを踏まえて、回転数Rの回転数閾値R0は、300~600[rpm]であるのが好ましい。回転数Rの回転数閾値R0は、より好ましくは、598[rpm]である。
【0037】
さらに、上述したステップ#10において、超過回数Nの回数閾値N0は、サンプリング時間T及び回転数Rの回転数閾値R0との関係で、適切に設定されることが好ましい。超過回数Nの回数閾値N0は、例えば5~107回であってもよく、好ましくは10回である。
【0038】
本実施形態に係る制御方法では、ステップ#15でアクチュエータ20を停止させてから所定の時間が経過した後、アクチュエータ20の作動を再開させてもよい。この場合、ステップ#20にて、制御装置40がアクチュエータ20の作動を再開させる信号をアクチュエータ20に送出する。これにより、停止していたアクチュエータ20の作動が復旧する。この場合も、ステップ#5に戻り、アクチュエータ20の制御が再度行われる。
【0039】
ステップ#20において、アクチュエータ20の作動を復旧させるタイミングは、特に限定されるものではなく、アクチュエータ20が停止してから予め設定された任意の時間が経過した時であってもよいし、乗務員が再開の操作をした時であってもよい。また、アクチュエータ20の作動は、鉄道車両1の走行中に復旧されてもよいし、鉄道車両1の停止中に復旧されてもよい。
【0040】
[効果]
本実施形態に係る制御方法では、制御装置40によりアクチュエータ20が制御される。制御装置40は、鉄道車両1の走行中に回転角度センサ30からモータ21の磁極の位置を時時刻刻と取得し、その磁極の位置の情報からモータ21の回転数Rを算出する。制御装置40は、サンプリング時間T内において算出した回転数Rが回転数閾値R0を超過する超過回数Nが、回数閾値N0以上の場合、自動的にアクチュエータ20を停止させる信号をアクチュエータ20に送出する。このような場合、アクチュエータ20が故障していると考えられるからである。アクチュエータ20が異音の発生原因であれば、アクチュエータ20が停止すれば、異音が発生することはなく、鉄道車両1は走行を続けることができる。このように、本実施形態に係る制御方法によれば、アクチュエータ20の故障を早期に検知して、アクチュエータ20を停止することができる。これにより、鉄道車両1の走行中にアクチュエータ20による異音の発生を防止することができる。
【0041】
本実施形態に係る制御方法では、アクチュエータ20を停止させてから所定の時間が経過した後に、アクチュエータ20の作動を再開させる。例えば、アクチュエータ20の故障の原因と考えられる箇所を点検した後に、アクチュエータ20の作動を復旧させることができる。アクチュエータ20の作動が復旧すれば、アクチュエータ20が停止したままの場合と比較して、台車3に対する車体2の振動を抑制することができ、再び、鉄道車両1の乗り心地が向上する。
【実施例0042】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
本実施例では、実際に異音が発生した鉄道車両に搭載されている振動抑制装置に対して、本開示に係る制御方法を適用し、アクチュエータの故障を早期に検知できるかどうかを検証した。まず、鉄道車両で異音が発生したときの車体の左右方向の振動加速度及びアクチュエータのモータの回転数のデータを準備した。
図3は、車体の振動加速度のデータを示すグラフである。
図4は、アクチュエータのモータの回転数のデータを示すグラフである。
図3及び
図4において、横軸は時間[sec]を示す。
【0044】
アクチュエータが故障すると、車体の振動を抑制することができないため、振動加速度が大きくなる場合がある。また、アクチュエータが故障すると、上述した通り、モータの異常な速度での回転が起こる。このような状況は、
図3及び
図4に示すグラフにも表れている。
図3を参照して、振動加速度は、基本的には時間の経過に伴い一定の振幅で振動しているものの、一時的に振動加速度の絶対値が極めて大きくなるときがある。
図4に示す回転数でも同様のことが言える。
【0045】
図3及び
図4に示すデータに対して、本開示に係る制御方法を適用した。本実施例で適用した制御方法における数値条件を以下に示す。
・サンプリング周期Δt:3.0[msec]
・サンプリング時間T:0.999[sec]
・回転数閾値R
0:598[rpm]
・回数閾値N
0:10回
【0046】
図5及び
図6は、本実施例の検証結果を示すグラフである。
図5において、縦軸は超過回数を、横軸は時間[sec]を示す。
図5では、サンプリング時間T毎に
図4に示すモータの回転数が回転数閾値R
0を超過した回数をカウントした累計を示す。例えば、時間0秒から0.999秒までの間(すなわち、最初のサンプリング時間)においてモータの回転数が回転数閾値R
0を超過した回数は8回である。
【0047】
図6において、横軸は時間[sec]を示す。
図6において、縦軸は、本開示に係る制御方法でアクチュエータの故障が検知されたかどうかを表す。
図6の縦軸では、故障を検知した状態を1、故障を検知していない状態を0として示す。
【0048】
図5を参照して、超過回数が初めて回数閾値N
0以上となるのは6.849秒である。本開示に係る制御方法では、
図6に示すように、このタイミングで故障を検知することができる。上記の
図3を参照して、本開示に係る制御方法であれば故障が検知できた6.849秒以降において、振動加速度の絶対値が何度も大きくなっている。鉄道車両において、異音は、振動加速度の絶対値が大きくなっているときに発生していると考えられる。本開示に係る制御方法を用いれば、故障が検知できた6.849秒時点で振動抑制装置のアクチュエータを停止させるため、それ以降に異音は発生しない。以上より、本開示に係る制御方法によれば、アクチュエータの故障を早期に検知して、アクチュエータによる異音の発生を防止することができることが分かる。
【0049】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。