(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149677
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058363
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】住田 昂樹
(72)【発明者】
【氏名】大井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【テーマコード(参考)】
5G357
【Fターム(参考)】
5G357DB03
5G357DC12
5G357DD01
5G357DD10
5G357DD13
5G357DD14
(57)【要約】
【課題】高い柔軟性を確保しながら、扁平形状をとる電線部に対して、保護機能を付与することができるワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】絶縁電線を含み、断面が幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平形状となった電線部2と、前記電線部2の前記高さ方向両側の面2aにそれぞれ接触して配置された1対の外装材3と、前記1対の外装材3を、前記電線部2を間に挟み込んだ状態で、相互に固定する固定部材4と、を有し、前記電線部2は、扁平電線として構成された前記絶縁電線を1本含むか、前記絶縁電線を複数集合させて含み、前記外装材3は、前記絶縁被覆よりも引張弾性率の高い材料より構成され、前記高さ方向に、前記電線部よりも高い曲げ柔軟性を有し、前記固定部材4は、前記電線部2の軸線方向に沿って、間隔を空けて設けた複数の固定箇所で、前記1対の外装材3を相互に固定している、ワイヤーハーネス1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線を1本または複数含み、軸線方向に直交する断面が、幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平形状となった電線部と、
前記電線部の前記高さ方向両側の面にそれぞれ接触して配置された1対の外装材と、
前記1対の外装材を、前記電線部を間に挟み込んだ状態で、相互に固定する固定部材と、を有し、
前記電線部は、扁平電線として構成された前記絶縁電線を1本含むか、前記絶縁電線を複数集合させて含み、
前記外装材は、前記絶縁被覆よりも引張弾性率の高い材料より構成され、前記高さ方向に、前記電線部よりも高い曲げ柔軟性を有し、
前記固定部材は、前記電線部の軸線方向に沿って、間隔を空けて設けた複数の固定箇所で、前記1対の外装材を相互に固定している、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記外装材は、前記幅方向にも、前記電線部よりも高い曲げ柔軟性を有する、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記1対の外装材はそれぞれ、前記電線部の軸線方向に沿って凹凸を有する蛇腹構造を備えたシート材として構成されている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記ワイヤーハーネスを水平方向に支持した際の垂下量が、前記幅方向および前記高さ方向の両方において、前記電線部単独で水平方向に支持した際の垂下量の70%以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記固定部材は、外装材よりも高い柔軟性を有するテープより構成されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記固定部材は、前記1対の外装材と前記電線部との集合体の外周に、前記電線部の軸線方向に沿ってターン間に空隙を設けた螺旋状に巻きつけられている、請求項5に記載のワイヤーハーネス。
【請求項7】
前記固定部材は、前記電線部の軸線方向に沿って前記外装材の端部以外の位置では、前記電線部に接触していない、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項8】
前記1対の外装材のそれぞれは、前記幅方向の寸法が、前記電線部よりも大きい、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項9】
前記絶縁電線は、前記導体として、複数の素線を撚り合わせた撚線を扁平形状に成形した扁平導体を有する扁平電線である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
扁平状の導体を用いて構成した扁平電線が公知である。扁平電線を用いることで、断面略円形の導体を備えた一般的な電線を用いる場合と比較して、配策の際に占めるスペースを小さくすることができる。例えば、省スペース性と柔軟性を両立する扁平電線として、出願人らの出願による特許文献1,2に、複数の素線を撚り合わせた撚線を扁平形状に成形した電線導体を、絶縁電線に用いる形態が開示されている。
【0003】
また、従来一般に、絶縁電線を外部の物体との接触や衝突から保護するために、外装材が用いられることがある。外装材の一種に、蛇腹構造を有する管状に樹脂材料を成形したコルゲートチューブが公知である。扁平電線についても、
図3A,3Bに示すように、扁平形状のコルゲートチューブ8に扁平電線2を挿通して、保護が図られる場合がある。そのように扁平形状のコルゲートチューブを用いる形態は、例えば特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/093309号
【特許文献2】国際公開第2019/093310号
【特許文献3】特開2012-249506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、
図3A,3Bに示したような扁平形状に成形したコルゲートチューブ8を用いれば、扁平電線2に対して保護機能を付加することができるが、扁平形状のコルゲートチューブ8は、扁平電線2の曲げ柔軟性を妨げるものとなる。特に、扁平形状のコルゲートチューブ8に扁平電線2を挿通した状態で、その集合体を、扁平電線の幅方向(エッジ方向;x方向)に曲げようとすると、曲げに大きな力を要する。すると、コルゲートチューブ8に扁平電線2を挿通したワイヤーハーネス9を、自動車内等、所定の箇所に組み付けようとすると、経路上で曲げが必要な箇所に曲げを加える作業を簡便に行えなくなる。扁平電線2を、例えば特許文献1,2に開示されるように、高い柔軟性を有するものとして形成しても、その柔軟性を配策に十分に活かすことができなくなる。
【0006】
そこで、高い柔軟性を確保しながら、扁平形状をとる電線部に対して、保護機能を付与することができるワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のワイヤーハーネスは、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線を1本または複数含み、軸線方向に直交する断面が、幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平形状となった電線部と、前記電線部の前記高さ方向両側の面にそれぞれ接触して配置された1対の外装材と、前記1対の外装材を、前記電線部を間に挟み込んだ状態で、相互に固定する固定部材と、を有し、前記電線部は、扁平電線として構成された前記絶縁電線を1本含むか、前記絶縁電線を複数集合させて含み、前記外装材は、前記絶縁被覆よりも引張弾性率の高い材料より構成され、前記高さ方向に、前記電線部よりも高い曲げ柔軟性を有し、前記固定部材は、前記電線部の軸線方向に沿って、間隔を空けて設けた複数の固定箇所で、前記1対の外装材を相互に固定している。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、高い柔軟性を確保しながら、扁平形状をとる電線部に対して、保護機能を付与することができるワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bはそれぞれ、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す斜視図および側面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す断面図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bはそれぞれ、扁平形状のコルゲートチューブを用いた従来のワイヤーハーネスを示す斜視図および側面図である。
【
図4】
図4は、扁平形状のコルゲートチューブを用いた従来のワイヤーハーネスを示す断面図である。
【
図5】
図5は、一変形形態にかかるワイヤーハーネスを構成する一体型外装材を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、電線の垂下量の評価方法を説明する側面図である。
【
図7】
図7は、蛇腹シートを用いたワイヤーハーネス(H1)と、コルゲートチューブを用いたワイヤーハーネス(H2)の垂下量を比較した写真である。
【
図8】
図8A,8Bは、各種試料の垂下量を比較するグラフである。
図8Aは高さ方向への曲げ、
図8Bは幅方向への曲げを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示にかかるワイヤーハーネスは、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線を1本または複数含み、軸線方向に直交する断面が、幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平形状となった電線部と、前記電線部の前記高さ方向両側の面にそれぞれ接触して配置された1対の外装材と、前記1対の外装材を、前記電線部を間に挟み込んだ状態で、相互に固定する固定部材と、を有し、前記電線部は、扁平電線として構成された前記絶縁電線を1本含むか、前記絶縁電線を複数集合させて含み、前記外装材は、前記絶縁被覆よりも引張弾性率の高い材料より構成され、前記高さ方向に、前記電線部よりも高い曲げ柔軟性を有し、前記固定部材は、前記電線部の軸線方向に沿って、間隔を空けて設けた複数の固定箇所で、前記1対の外装材を相互に固定している。
【0011】
上記ワイヤーハーネスは、扁平形状をとった電線部の高さ方向両側の面に接触させて、外装材を備えている。扁平形状の電線部において広い面積を占める面である高さ方向両側の面が、電線部を構成する絶縁被覆よりも高い引張弾性率を有する材料より構成された外装材で覆われていることにより、電線部が外部の物体との接触や衝突から、効果的に保護される。同時に、外装材が、電線部の高さ方向に相当する方向に、電線部よりも高い曲げ柔軟性を示すことで、ワイヤーハーネスが、高い柔軟性を示すものとなる。さらに、1対の外装材を相互に固定する固定部材が、軸線方向に沿って、間隔を空けて配置されていることから、固定部材で固定した状態でも、外装材が有する高い柔軟性が損なわれにくくなっている。それらの結果として、ワイヤーハーネスが、高い保護性能を有しながら、全体として高い柔軟性を示すものとなり、自動車内等に配策する際に、曲げの必要な箇所で容易に曲げることができ、配策時に高い作業性が得られる。
【0012】
ここで、前記外装材は、前記幅方向にも、前記電線部よりも高い曲げ柔軟性を有するとよい。すると、ワイヤーハーネスの幅方向への曲げ柔軟性を特に高めやすくなる。
【0013】
前記1対の外装材はそれぞれ、前記電線部の軸線方向に沿って凹凸を有する蛇腹構造を備えたシート材として構成されているとよい。外装材に蛇腹構造を設けることで、外装材の構成材料を、高い引張弾性率を有し、高い保護性能を示す材料より構成した場合でも、高い曲げ柔軟性を示す外装材とすることができる。その結果、ワイヤーハーネスにおいて、優れた曲げ柔軟性を確保することができる。
【0014】
前記ワイヤーハーネスを水平方向に支持した際の垂下量が、前記幅方向および前記高さ方向の両方において、前記電線部単独で水平方向に支持した際の垂下量の70%以上であるとよい。すると、電線部の曲げ柔軟性が、外装材の設置によって大幅には損なわれず、ワイヤーハーネス全体として、幅方向および高さ方向の両方に優れた曲げ柔軟性を有するものとなる。
【0015】
前記固定部材は、外装材よりも高い柔軟性を有するテープより構成されているとよい。すると、ワイヤーハーネス全体として、高い曲げ柔軟性を維持しながら、1対の外装材を、電線部を挟み込んだ状態に安定に保持し、電線部を効果的に保護することができる。
【0016】
この場合に、前記固定部材は、前記1対の外装材と前記電線部との集合体の外周に、前記電線部の軸線方向に沿ってターン間に空隙を設けた螺旋状に巻きつけられているとよい。すると、間隔を空けて設けた複数の固定箇所での1対の外装材の相互間固定を、簡便に行うことができる。
【0017】
前記固定部材は、前記電線部の軸線方向に沿って前記外装材の端部以外の位置では、前記電線部に接触していないとよい。すると、固定部材が、電線部の柔軟な曲げを妨げにくくなる。
【0018】
前記1対の外装材のそれぞれは、前記幅方向の寸法が、前記電線部よりも大きいとよい。すると、電線部の高さ方向両側の面を、外装材で効果的に保護することができる。同時に、電線部の幅方向両側の面についても、外部の物体との接触から、ある程度保護することができる。また、外装材のうち、電線部よりも幅方向外側に突出した箇所を利用して、固定部による外装材間の相互固定を、簡便に行うことができる。
【0019】
前記絶縁電線は、前記導体として、複数の素線を撚り合わせた撚線を扁平形状に成形した扁平導体を有する扁平電線であるとよい。すると、導体が高さ方向および幅方向に高い柔軟性を有することにより、ワイヤーハーネスが柔軟性に優れたものとなる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスについて、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、ワイヤーハーネスの各部の形状に関して、直線、平行、垂直等、部材の形状や配置を示す概念には、長さにして概ね±15%程度、また角度にして概ね±15°程度のずれ等、この種のワイヤーハーネスにおいて許容される範囲で、幾何的な概念からの誤差を含むものとする。本明細書において、ワイヤーハーネスや電線、外装材の断面とは、特記しない限り、軸線方向(長手方向)に垂直に切断した断面を示すものとする。また、各種特性は、室温、大気中にて評価される値とする。
【0021】
<ワイヤーハーネスの概略>
図1A,1B,および
図2に、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス1の構造を示す。
図1Aは斜視図、
図1Bは側面図、
図2は断面図を示している。本実施形態にかかるワイヤーハーネス1は、電線部としての扁平電線2と、1対の外装材3,3と、固定部材としてのテープ4とを有している。
【0022】
ワイヤーハーネス1に含まれる電線部は、導体20と、導体20の外周を被覆する絶縁被覆22とを有する絶縁電線を、1本または複数含んでおり、軸線方向に直交する電線部全体としての断面が扁平形状をとっている。本実施形態においては、電線部は、1本の絶縁電線より構成されており、その絶縁電線が、断面が扁平形状の導体20の外周に絶縁被覆22が形成され、全体としての断面も扁平形状をとる扁平電線2として構成されている。ここで、扁平形状とは、断面において、幅方向の寸法が、その幅方向に直交する高さ方向の寸法よりも大きくなった形状を指す。以降の記載および各図面において、扁平電線2の断面における幅方向をx方向、高さ方向(上下方向)をz方向とし、x方向およびz方向に直交する軸線方向(長手方向)をy方向とする。
【0023】
1対の外装材3,3はそれぞれ、シート状(板状である場合も含む)の部材として構成されている。1対の外装材3,3は、電線部の扁平電線2の高さ方向両側の面(上下面2a,2a)にそれぞれ接触して配置されている。外装材3,3は、電線部の上下面2a,2aに、幅方向全域にわたって接触している。好ましくは、図示した形態のように、外装材3,3の幅方向の寸法が電線部の扁平電線2よりも大きくなっており、外装材3,3が扁平電線2よりも幅方向外側まで延びている。
【0024】
外装材3,3の構成材料および構造については、後に詳しく説明するが、電線部の扁平電線2を構成する絶縁被覆22よりも高い引張弾性率を有する材料より構成されるとともに、高さ方向、好ましくはさらに幅方向に、電線部(ここでは扁平電線2)よりも高い曲げ柔軟性を有している。外装材3,3は、それらの材料特性を満たすものであれば、具体的な材料や構造を限定されるものではないが、外装材3,3の好適な構成として、樹脂材料より構成された蛇腹シートを例示することができる。蛇腹シートは、電線の軸線方向に沿って、蛇腹状に凹凸を有する蛇腹構造を備えたシート材として構成されている。
【0025】
テープ4より構成される固定部材は、扁平電線2の軸線方向に沿って、間隔を空けて設けた複数の固定箇所で、1対の外装材3,3を相互に対して固定している。このテープ4は、外装材3,3が扁平電線2を上下から挟み込んだ状態を安定に保持する役割を果たす。図示した形態では、長尺状に連続したテープ4が、1対の外装材3,3と扁平電線2との集合体の外周に、ターン間(ピッチ間)に空隙を残した状態で、螺旋状に巻き回されている。各ターンのテープ4が配置されている位置が、固定箇所となる。テープ4が間隙を設けて巻き回されていることで、テープ4が配置されていない箇所においては、扁平電線2の側面部2b,2b(幅方向両側の面)が、外装材3,3にもテープ4にも覆われず、外部の環境に直接露出した状態となる。図示した形態では、外装材3,3の幅方向の寸法が扁平電線2の幅より大きく、扁平電線2の側面部2b,2bには、テープ4が接触していない。ただし、外装材3,3の長手方向端部では、扁平電線2が外装材3,3に対して軸線方向に位置ずれを起こさないように、テープ4によって外装材3,3と扁平電線2を直接固定することが好ましく(
図1A,1Bでは省略;
図7参照)、その固定部においては、テープ4が側面部2b,2bを含めて電線の表面に直接接触していてもよい。
以下、ワイヤーハーネス1の各構成部材について詳細に説明する。
【0026】
<扁平電線>
電線部としての扁平電線2を構成する導体20は、金属箔や金属板等、全体が一体に連続した金属材料よりなる単線構造を有していても、複数の素線21を相互に撚り合わせた撚線として構成されていてもよい。しかし、扁平電線2の柔軟性を高さ方向および幅方向の両方で高める観点から、撚線として構成されていることが好ましい。導体20の断面は扁平形状を有していれば、どのような具体的形状よりなってもよいが、本実施形態においては、導体20の断面は、長方形に近似されるものである。長方形以外の扁平形状としては、楕円形、長円形、小判形(長方形の両端に半円を有する形状)、平行四辺形、台形等を例示することができる。導体20が撚線として構成される場合に、導体20は、例えば、複数の素線21を断面略円形に撚り合わせた原料撚線を圧延することで、形成できる。断面扁平形状とした導体20の全周を被覆して、絶縁被覆22を形成することで、扁平電線2が得られる。
【0027】
扁平電線2は、断面が扁平形状の導体20を有していることにより、導体断面積が同じである断面略円形の導体を有する従来一般の丸電線よりも、高さ方向に占める寸法が小さくなり、省スペース化に寄与する。また、導体20が扁平形状を有しており、高さ方向の寸法が小さくなっていることにより、絶縁電線1は、特に高さ方向に、高い柔軟性を示す。
【0028】
導体20を構成する材料は、特に限定されるものではなく、種々の金属材料を適用することができる。導体20を構成する代表的な金属材料として、銅および銅合金、またアルミニウムおよびアルミニウム合金を挙げることができる。特に、アルミニウムおよびアルミニウム合金は、銅および銅合金よりも導電率が低いため、必要な電気伝導性を確保するために、導体断面積が大きくなりやすい。そのため、導体20を扁平化して、省スペース性と高さ方向への曲げ柔軟性を高めることの効果が大きくなる。その観点から、導体20をアルミニウムまたはアルミニウム合金より構成することが好ましい。また、同様の観点から、導体断面積を、10mm2以上、さらには50mm2以上、100mm2以上とすることが好ましい。導体断面積に特に上限は設けられないが、曲げ柔軟性を確保する等の観点から、例えば200mm2以下に抑えておくとよい。
【0029】
絶縁被覆22を構成する材料は、絶縁性材料であれば、特に限定されるものではないが、有機ポリマーをベース材料とするものであることが好ましい。特に、高い柔軟性を有する点で、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂を好適に用いることができる。導体面積10mm2以上である場合に、これらの材料より構成される絶縁被覆22の引張弾性率は、おおむね200MPa以下となる。絶縁被覆22は、有機ポリマーに加えて、難燃剤等、各種添加剤を含有していてもよい。絶縁被覆22の厚さは、特に限定されるものではないが、1mm以上、また2mm以下の範囲を例示することができる。
【0030】
<外装材>
上記のように、外装材3,3は、電線部の扁平電線2を構成する絶縁被覆22よりも高い引張弾性率を有する材料より構成されるとともに、高さ方向に、扁平電線2(電線部全体)よりも高い曲げ柔軟性を有している。さらに外装材3,3は、幅方向にも、扁平電線2よりも高い柔軟性を有していることが好ましい。
【0031】
外装材3,3の構成材料が絶縁被覆22の構成材料よりも高い引張弾性率を有することで、外装材3,3が、外部からの物理的刺激によって扁平電線2が大きな損傷を起こさないように保護する保護材としての機能を、十分に発揮するものとなる。つまり、ワイヤーハーネス1が外部の物体との接触や衝突を起こすことがあっても、その際の衝撃を外装材3,3によって吸収し、扁平電線2には、大きな衝撃が印加されないように、保護することができる。外装材3,3の構成材料の具体的な引張弾性率は、特に指定されるものではないが、1000MPa以上、2000MPa以下の範囲を好適に例示することができる。特に引張弾性率が1500MPa以上であると好ましい。なお、樹脂材料の引張弾性率は、JIS K 7161に準拠した引張試験により、評価することができる。
【0032】
外装材3,3による保護性能を高める観点から、外装材3,3の構成材料は、絶縁被覆22の構成材料よりも高い引張弾性率に加え、絶縁被覆2の構成材料よりも高い硬度を有していることが好ましい。なお、本明細書において、材料の引張弾性率および硬度とは、材料種自体の特性としての物性を指し、外装材3,3の蛇腹構造等、材料が単純な平面形状以外の形状を有する場合でも、その形状の効果を含むものではない。
【0033】
外装材3,3が高い引張弾性率を有することで、保護性能が担保される一方で、各外装材3が、少なくとも高さ方向に、扁平電線2よりも高い曲げ柔軟性を有することで、ワイヤーハーネス1全体として、扁平電線2の柔軟性を大きく損なうことなく、高い曲げ柔軟性を確保することができる。本明細書において、部材の曲げ柔軟性とは、外装材3,3の蛇腹構造等、部材の形状の効果まで含めて、その部材を曲げる際に得られる柔軟性を指す。蛇腹シートより構成される外装材3,3は、幅方向および厚さ方向(高さ方向)に、高い柔軟性を示すものとなる。外装材3,3が、長手方向に沿って上下に蛇行した形状の蛇腹構造に材料を成形したものであり、ある程度の伸縮が可能であることにより、外装材3,3を幅方向に曲げる際にも、厚さ方向に曲げる際にも、隣接する山部と山部の間隔が、曲げの外側で広がり、曲げの内側で狭まることで、曲げに柔軟に追随することができるからである。外装材3,3と扁平電線2の曲げ柔軟性の比較は、三点曲げ試験等によって行うことができるが、簡易的には、水平に保持した際の垂下量(
図6参照)を比較するとよい。同じ長さに切り出した1枚の外装材3と1本の扁平電線2との比較において、少なくとも重力方向に高さ方向を向けた場合に、垂下量が外装材3の方で大きくなっているとよい。また、重力方向に幅方向を向けた場合に、垂下量が外装材3と同程度(おおむね90%以上)となっているとよい。
【0034】
外装材3,3の構成材料は特に限定されるものではないが、高い引張弾性率を有し、高い保護性能を発揮する点で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂材料を好適に用いることができる。これらの材料より構成される外装材3,3の引張弾性率は、上記の1000MPa以上かつ2000MPa以下の範囲に収まりやすい。外装材3,3は、有機ポリマーに加えて、難燃剤等、各種添加剤を含有していてもよい。外装材3,3を構成するシート材の厚さ(板厚)は、特に限定されるものではないが、0.2mm以上、また1mm以下の範囲を例示することができる。また、蛇腹構造の高さ(高さ方向zに沿った谷と山の間の高さ)として、1mm以上、また3mm以下の範囲、蛇腹構造のピッチ(長手方向yに沿った山と山の距離)として、2mm以上、また5mm以下の範囲を例示することができる。
図3A,3Bに示すもの等、従来一般のコルゲートチューブの壁面と同様の材料を、長手方向に凹凸が並んだシート状に成形したものを、本実施形態の外装材3,3として好適に用いることができる。
【0035】
<テープ>
固定部材としてのテープ4は、長尺状のシート材より構成されるものであれば、特にその種類を限定されるものではない。しかし、外装材3,3を固定した構造を安定に保持する観点から、外装材3,3に接する面に、接着層(粘着層である場合も含む)を有するテープ4を用いることが好適である。
【0036】
外装材3,3の柔軟性を妨げないように、テープ4は、各方向に、外装材3,3よりも高い柔軟性を有することが好ましい。さらに、テープ4の構成材料の引張弾性率は、外装材3,3の構成材料の引張弾性率よりも、さらには絶縁被覆22の構成材料の引張弾性率よりも、低くなっていることが好ましい。テープ4の構成材料としては、ポリ塩化ビニル等よりなる基材の一方面に接着層を設けた材料を好適に例示することができる。これらの材料より構成される市販のテープの引張弾性率は、おおむね50MPa以下である。
【0037】
<ワイヤーハーネスにおける保護性と柔軟性>
本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、扁平電線2の高さ方向両側の面2a,2aに外装材3,3が配置されている。そのため、扁平電線2に対して、外装材3,3によって保護性が付与され、外部から印加される接触や衝突等の物理的刺激の影響が、扁平電線2に及びにくくなる。外装材3,3が扁平電線2の絶縁被覆22よりも高い引張弾性率を有することで高い保護性能が得られる。
【0038】
ワイヤーハーネス1を構成する扁平電線2の表面のうち、大きな面積を構成するのは、高さ方向上下の面2a,2aである。これらの面2a,2aを被覆して外装材3,3を設けることで、扁平電線2に対して高い保護効果を得ることができる。特に、外装材3,3が扁平電線2よりも大きな幅を有し、扁平電線2の高さ方向上下の面2a,2aを幅方向全域にわたって被覆している場合には、保護効果が高くなる。扁平電線2の側面部2b,2b(幅方向両側の面)は外装材に覆われないが、扁平電線2においては、扁平形状をとることにより、側面部2b,2bの面積が小さくなっており、その側面部2b,2bが外装材に覆われないことによる扁平電線2全体としての保護性能の低下は、限定的である。また、外装材3,3が扁平電線2よりも大きな幅を有し、扁平電線2よりも幅方向外側まで延びている場合には、その外装材3,3の延出部によって、扁平電線2の側面部2b,2bも、外部の物体との接触に対して、ある程度の保護を得られる。
【0039】
本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、このように外装材3,3によって高い保護性能が得られる一方で、外装材3,3が扁平電線2の表面のうち高さ方向上下にのみ配置されており、幅方向両側には配置されていないことから、ワイヤーハーネス1全体として、高い柔軟性を示す。上記のように、1対の外装材3,3のそれぞれが、少なくとも高さ方向に扁平電線2よりも高い柔軟性を有しており、その外装材3,3が扁平電線2を高さ方向上下から挟み込んで配置されていることにより、ワイヤーハーネス1全体として、高さ方向(フラット方向)に曲げる際、さらには幅方向(エッジ方向)に曲げる際にも、高い柔軟性が得られる。
【0040】
ここで、
図3A,3Bに斜視図および側面図を示し、
図4に断面図を示した、扁平形状のコルゲートチューブ8に扁平電線2を挿通したワイヤーハーネス9の場合には、コルゲートチューブ8の構成材料が扁平電線2の全周を囲んでいることにより、幅方向(x方向)および高さ方向(z方向)への曲げにおいて、高い柔軟性は得られない。コルゲートチューブ8の上下の面81,82の間が、上下方向に沿って配置された側壁面82,82によって一体に連結されており、コルゲートチューブ8が大きな断面二次モーメントを有するからである。特に、ワイヤーハーネス9を幅方向に曲げる場合には、コルゲートチューブ8の側壁面82,82を曲げの内側で圧縮し、曲げの外側で伸長する方向に、面内で変形させる必要があるため、コルゲート構造が設けられているとは言え、大きな力を要することになる。
【0041】
これに対し、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、上下1対の外装材3,3が、一体に結合されることなく、別体として構成され、扁平電線2を挟んで配置されていることにより、外装材3,3の断面二次モーメントが、2枚合わせても、上記コルゲートチューブ8の場合よりも小さくなる。よって、ワイヤーハーネス1において、幅方向、高さ方向とも、高い柔軟性が得られる。
【0042】
本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、固定部材としてのテープ4が、上下の外装材3,3を相互に固定し、外装材3,3の間に扁平電線2を挟み込んだ状態を安定に保持する役割を果たすが、このテープ4の配置形態も、ワイヤーハーネス1の柔軟性を高めるのに寄与している。もしテープ4が、扁平電線2の軸線方向に沿って隙間なく巻かれているとすれば、扁平電線2の保持の安定性は高くなるが、ワイヤーハーネス全体としての柔軟性が低くなり、扁平電線2および外装材3,3が有する柔軟性が、ワイヤーハーネス全体の柔軟性として現れにくくなる。これに対し、テープ4が、隙間を空けて巻かれ、扁平電線2の軸線方向に沿って間隔を空けて設けた固定箇所のみで上下の外装材3,3を固定していることで、ワイヤーハーネス1全体として、高い柔軟性が保たれる。
【0043】
ワイヤーハーネス1が有する柔軟性は、テープ4の配置形態によって、ある程度制御することができる。ターン間の空隙を小さくして、小さなピッチでテープ4を巻き付けるほど、またテープ4を緊密に巻いて、上下の外装材3,3を扁平電線2に強く圧接して固定するほど、1対の外装材3,3で扁平電線2を挟み込んだ状態が安定に保持されるようになり、扁平電線2に対する保護性能は高くなる反面、ワイヤーハーネス1の柔軟性は低くなる。一方、ターン間に大きな空隙を残して、大きなピッチでテープ4を巻き付けるほど、またテープ4を緩く巻いて、上下の外装材3,3を扁平電線2に強く圧接しない状態に保持するほど、外装材3,3による保護性能は低くなる可能性はあるものの、ワイヤーハーネス1全体として高い柔軟性が得られる。1対の外装材3,3に挟まれた空間で、扁平電線2の相対運動がある程度許容されることで、扁平電線2が柔軟に曲がることができるからである。
【0044】
ワイヤーハーネス1においては、求められる保護性能と柔軟性を考慮して、テープ4を巻き付ける際のターン間の空隙の大きさ、および巻き付けの緊密性の程度を選択すればよい。十分な保護性能と柔軟性を両立できる好適な形態として、テープ4のターン間の空隙の大きさとしては、ワイヤーハーネス1の外周の全面積(a)のうち、テープ4に覆われる領域の面積(b)の比率(b/a)が、5%以上、また95%以下となる範囲を例示することができる。また、テープ4の巻き付けの緊密性としては、テープ4からの接圧により、外装材3,3が厚み方向に弾性変形を起こす(テープ4が巻かれた箇所が圧縮される)一方で、絶縁被覆22は変形されない程度の力で、テープ4を巻き付ける形態を例示することができる。
【0045】
ワイヤーハーネス1全体としての柔軟性は、自重による垂下量によって、簡易的に評価することができる。
図6に示すように、試験体S(ワイヤーハーネス)の一端を治具T等により水平方向に保持し、他端が自重によって水平位置から垂下した距離dを垂下量とする。扁平電線2の扁平形状の幅方向および高さ方向を重力方向に配置した際の垂下量で、それぞれ幅方向および高さ方向の柔軟性を評価することができる。垂下量が大きいほど、高い柔軟性を有すると評価できる。
【0046】
ワイヤーハーネス1の垂下量を、同じ長さに切り出した扁平電線2のみの状態に対して同様に評価した垂下量と比較して、ワイヤーハーネス1の柔軟性を評価することができる。例えば、ワイヤーハーネス1の垂下量が、幅方向および高さ方向の両方において、扁平電線2のみの垂下量の60%以上となっているとよい。さらには、70%以上となっているとよい。すると、ワイヤーハーネス1全体として十分に高い柔軟性が確保できていると言える。この水準の垂下量をワイヤーハーネス1において確保できるように、テープ4の配置形態を設定すればよい。
【0047】
一方、テープ4を巻き付ける際に、ある程度、ターン間の空隙を小さくし、またテープ4を緊密に巻き付けることで、ワイヤーハーネス1を所定の曲げ形状に保持する効果を得ることもできる。例えば、配策経路等によって要求される所定の曲げ形状に、扁平電線2および外装材3,3を曲げた状態で、それら扁平電線2と外装材3,3との集合体の外周にテープ4を巻き付けることで、その曲げ形状を保持することができる。このように曲げ形状を保持した状態で、自動車内等、所定の箇所へのワイヤーハーネス1の配策を行えば、配策時にワイヤーハーネス1に改めて大きな曲げを加える必要がなくなり、作業性が高くなる。この形態の場合にも、外装材3,3が上下別体として構成されており、テープ4によって相互に固定されていることから、コルゲートチューブ8を用いる場合と比較すると、ワイヤーハーネス1が高い柔軟性を示すものとなる。
【0048】
テープ4は、扁平電線2の側面部2b,2bにおいて、扁平電線2の表面に接触してもよい。しかし、1対の外装材3,3に挟まれた空間における扁平電線2の相対移動の自由度を確保し、ワイヤーハーネス1の柔軟性を高める観点からは、テープ4は、外装材3,3の長手方向端部の箇所を除いて、扁平電線2には接触しない方が好ましい。外装材3,3の幅が扁平電線2の幅よりも大きく構成されている場合には、その外装材3,3の外周に巻き付けたテープ4と扁平電線2との間で、接触が起こりにくい。
【0049】
<その他の形態>
以上に説明した形態では、電線部を1本の扁平電線2より構成し、外装材3,3を1対の蛇腹シートより構成し、また固定部材をテープ4より構成したが、本開示のワイヤーハーネスを構成する各部材は、それらに限定されるものではない。以下に、主な変形形態について、簡単に説明する。
【0050】
電線部は、全体としての断面形状が扁平形状になっていれば、上記のように扁平電線2として構成された絶縁電線を1本のみ含む形態であっても、複数の絶縁電線を集合させて含むものであってもよい。複数の絶縁電線を含む場合に、それらの絶縁電線は、扁平電線であっても、従来一般の断面略円形の丸電線であってもよい。いずれの場合にも、複数の絶縁電線が幅方向に沿って並べられ、複数の絶縁電線の集合体全体としての断面形状が、幅方向に長い扁平形状をとっていればよい。断面が幅方向に長い扁平形状をとる限りにおいて、幅方向に加え、高さ方向にも複数段に絶縁電線が並べられていてもよい。
【0051】
固定部材としては、高い柔軟性を有する等の観点から、上記で説明したように、テープ4を用いる形態が最も優れている。しかし、固定部材は、電線部の軸線方向に沿って、間隔を空けて設けた複数の固定箇所で、1対の外装材3,3を相互に固定できるものであれば、テープに限られない。例えば、上下の外装材3,3を、接着剤を介した接着、または融着によって、間隔を空けて、相互に固定してもよい。あるいは、ピン状等に構成された固定具を間隔を空けて配置し、上下の外装材3,3を相互に固定してもよい。
【0052】
さらに別の形態として、外装材と同じ材料を用いて固定部材を構成することができる。この場合には、上下の外装材と固定部材を一体に設けてもよい。そのように固定部材を外装材と一体に設けた形態の例として、一体型外装材5を
図5に例示する。一体型外装材5は、上下1対の外装材51,51と、それら外装材51,51を連結する固定部材52を有している。固定部材52も、上下の外装材51,51と同様に、蛇腹構造を有するシート材より構成されており、固定部材52においても、外装材51,51と同様に、蛇腹構造の凹凸が、長手方向(y方向)に沿って配置されている。このように、外装材51,51と固定部材52が一体となった一体型外装材5は、
図3A,3Bのワイヤーハーネス9で用いられているのと同様の扁平形状のコルゲートチューブ8を用いて、簡便に形成することができる。つまり、コルゲートチューブ8の側壁面82,82に、窓状の貫通孔として複数の肉抜き部Wを形成すればよい。コルゲートチューブ8の上下の面81,81が外装材51,51として機能し、肉抜き部Wが形成された箇所以外の側壁面82,82が、固定部材52として機能する。
【実施例0053】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、外装材として蛇腹シートを用いる場合と、コルゲートチューブを用いる場合について、高さ方向および幅方向への曲げにおける柔軟性を比較した。
【0054】
(試料の作製)
電線部として、扁平電線を準備した。アルミニウム合金の撚線よりなる丸電線をローラによって扁平形状に圧延することで、扁平な導体を作製し、その導体の外周に、押出成形によって絶縁被覆を形成した。素線としては外径0.3mmのものを用い、導体断面積は50mm2とした。絶縁被覆はポリ塩化ビニルより構成し、厚さは1mmとした。絶縁被覆の構成材料の引張弾性率は20MPaであった。絶縁被覆形成後の扁平電線の寸法は、幅が19mm、高さが8mmであった。
【0055】
外装材としては、蛇腹シートとコルゲートチューブの2とおりを準備した。いずれの外装材も、板厚1mmのポリアミド材より構成し、長手方向に沿って凹凸を配置した。コルゲート構造(蛇腹構造)の高さ(高さ方向に沿った谷と山の間の高さ)は、3mmとし、コルゲート構造の幅(長手方向に沿った山と山の距離)は、4mmとした。外装材の構成材料の引張弾性率は1×103MPaであった。蛇腹シートは、幅30mmの長尺状のシートとして形成した。コルゲートチューブは、外寸で幅40mm、高さ18mmの断面扁平形状の管状に形成した。
【0056】
これらの扁平電線および外装材を用いたワイヤーハーネスとして、ハーネス1およびハーネス2を作製した。ハーネス1においては、外装材として蛇腹シートを用いた。1本の扁平電線の高さ方向両側の面にそれぞれ、外装材を接触させ、テープをその集合体の外周に巻き付けることで、外装材を相互に固定して、
図1A,1Bおよび
図2に示す構造のワイヤーハーネスを作製した。テープとしては、ポリ塩化ビニルシートの一方面に接着層を設けたものを用い、ターン間の空隙の間隔(扁平電線の軸線方向に沿った距離)が30mmとなるように巻き付けを行った。
【0057】
一方、ハーネス2としては、コルゲートチューブに扁平電線を挿通し、
図3A,3Bおよび
図4に示す構造のワイヤーハーネスを作製した。ハーネス1,2のいずれにおいても、軸線方向に、扁平電線の長さを600mm、外装材の長さを500mmとし、外装材の軸線方向両端部に50mmずつ扁平電線を突出させた。また、それら外装材の両端部において、テープを用いて、外装材を扁平電線に固定した。ハーネス1において、テープは、端部の固定箇所以外では、扁平電線に接触しないようにした。
【0058】
(試験方法)
上記のハーネス1およびハーネス2、またそれらのワイヤーハーネスを構成する扁平電線、蛇腹シート、コルゲートチューブのそれぞれについて、自重による垂下量の評価を行った。評価に際しては、
図6に示すように、各試験体Sの一端を水平方向に保持し、他端が自重によって水平位置から垂下した距離dを垂下量として計測して、試料間で比較した。試験は、重力方向に高さ方向(厚さ方向;フラット方向)を向けた場合と、幅方向(エッジ方向)を向けた場合の2とおりで行った。ハーネス1,2としては、上記で試料の作製について説明したとおりの寸法のものを用い、蛇腹シートおよびコルゲートチューブについては500mmに切り出したものをそれぞれ単独で用いた。扁平電線としては、蛇腹シートおよびコルゲートチューブとの比較用に500mmに切り出したものと、ハーネス1,2との比較用に600mmに切り出したものを両方用いた。ハーネス1,2については、
図7にハーネス2(H2)について示すように、蛇腹シートが配置された領域で、垂下量を計測した。
【0059】
(試験結果)
図7に、ハーネス1とハーネス2で比較しながら、垂下量計測のための試験を行っている状態を、写真にて表示する。ここでは扁平電線の高さ方向を重力方向に向け、高さ方向の曲げ柔軟性を比較している。写真に示されるように、蛇腹シートを用いたハーネス1(H1)において、コルゲートチューブを用いたハーネス2(H2)よりも、大幅に垂下量が大きくなっている。つまり、ハーネス1の方が、顕著に高い柔軟性を有していることが分かる。
【0060】
さらに、
図8A,8Bに、ハーネス1,2および2とおりの長さの扁平電線(図中では電線と略記)、2種の外装材について垂下量を評価した結果を示す。
図8Aが高さ方向、
図8Bが幅方向への垂下量を示す。
【0061】
図8A,8Bのそれぞれにおいて、500mmの扁平電線と蛇腹シートの垂下量を比較すると、高さ方向には、蛇腹シートの方が垂下量が大きくなっている。幅方向には、両者の垂下量が同程度である。つまり、少なくとも高さ方向には、蛇腹シートの方が扁平電線よりも明らかに高い曲げ柔軟性を有していることが確認される。蛇腹シートよりも扁平電線の方が質量が大きいことを考慮すると、自重の影響を除いた曲げ柔軟性の差は、垂下量の差以上に大きいと言える。幅方向についても、蛇腹シートと扁平電線の垂下量の幅はごくわずかであり、扁平電線の方が質量が大きいことを考えると、蛇腹シートの方が高い柔軟性を有していると言える。
【0062】
次に、
図8A,8Bのそれぞれにおいて、蛇腹シートを用いたハーネス1とコルゲートチューブを用いたハーネス2の垂下量を比較すると、高さ方向、幅方向とも、ハーネス1の方が、ハーネス2よりも垂下量が大きくなっている。つまり、ハーネス1の方が、高さ方向および幅方向の両方向に、高い曲げ柔軟性を示している。ハーネス1の質量は160g、ハーネス2の質量は175gであり、ハーネス2の方が質量が大きい。つまり、自重の影響を除いたとしても、ハーネス1の方がハーネス2よりも、高さ方向および幅方向に高い曲げ柔軟性を有していると言える。
【0063】
蛇腹シートを用いてワイヤーハーネスを構成したハーネス1と、単独の扁平電線とで垂下量を比較すると、ハーネス1の垂下量が、扁平電線(600mm)の垂下量に対して、高さ方向で約90%、幅方向で約70%となっている。ハーネス1の方が、蛇腹シートおよびテープの分だけ、扁平電線よりも質量が大きくなっており、垂下量を単純に曲げ柔軟性の高低に変換することはできない。しかし、おおむね、ワイヤーハーネスの垂下量が、扁平電線の垂下量の70%以上となっていれば、扁平電線の有する曲げ柔軟性が、蛇腹シートとテープを用いてワイヤーハーネスとした状態でも、十分に高い水準に保持されていると言える。
【0064】
以上の試験結果より、外装材として、扁平電線よりも高い曲げ柔軟性を有する蛇腹シートを用い、その外装材で扁平電線の高さ方向上下の面を挟み込んでテープで固定して、ワイヤーハーネスを構成することで、コルゲートチューブを用いる場合と比較して、高さ方向および幅方向の両方の曲げにおいて高い柔軟性が得られることが確認された。
【0065】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。