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特開2023-149694CO2質量推定システム、排ガスの組成比推定方法、およびCO2質量推定方法
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  • 特開-CO2質量推定システム、排ガスの組成比推定方法、およびCO2質量推定方法 図1
  • 特開-CO2質量推定システム、排ガスの組成比推定方法、およびCO2質量推定方法 図2
  • 特開-CO2質量推定システム、排ガスの組成比推定方法、およびCO2質量推定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149694
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】CO2質量推定システム、排ガスの組成比推定方法、およびCO2質量推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/416 321
G01N27/416 376
G01N27/416 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058417
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕一郎
(57)【要約】
【課題】COの排出質量を推定するシステムを提供する。
【解決手段】CO質量推定システムが、被測定ガス中の酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を出力可能なガスセンサにより出力される、エンジン排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を取得する検出値取得手段と、混合気の空燃比を設定する空燃比設定手段と、排ガス中のCOの質量を演算する演算手段とを備え、演算手段が、センサ検出値に基づいて、酸素、HO、およびCOのそれぞれの排ガス中濃度を算出し、酸素およびHOのそれぞれの大気中濃度をと空燃比を取得し、排ガス中濃度と大気中濃度と空燃比とに基づいて、燃料に含まれる少なくともC原子の組成比を演算し、該組成比と、エンジンに対する燃料の噴射量とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量を推定する、ようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備わるエンジンからの排ガスに含まれるCOの質量を推定するシステムであって、
被測定ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を出力可能なガスセンサと、
前記ガスセンサにより出力される、エンジンからの排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を取得する、検出値取得手段と、
前記エンジンに対し供給される燃料と大気との混合気についての空燃比を設定する空燃比設定手段と、
排ガスに含まれるCOの質量を演算する演算手段と、
を備え、
前記演算手段は、
前記被測定ガスが前記排ガスであるときの前記ガスセンサにおける前記検出値に基づいて、酸素、HO、およびCOのそれぞれの排ガス中濃度を算出し、
酸素およびHOのそれぞれの大気中濃度を取得し、
前記空燃比設定手段において設定された前記空燃比を取得し、
酸素、HO、およびCOのそれぞれの前記排ガス中濃度と、酸素およびHOのそれぞれの前記大気中濃度と、前記空燃比設定手段から取得された前記空燃比とに基づいて、前記燃料に含まれる少なくともC原子の組成比を演算し、
演算された前記組成比と、エンジンに対する前記燃料の噴射量とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量を推定する、
ことを特徴とする、CO質量推定システム。
【請求項2】
車両に備わるエンジンからの排ガスに含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比を推定する方法であって、
被測定ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を出力可能なガスセンサから、エンジンからの排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を取得する検出値取得工程と、
前記検出値に基づいて、酸素、HO、およびCOのそれぞれの排ガス中濃度を算出する排ガス中濃度算出工程と、
酸素およびHOのそれぞれの大気中濃度を取得する大気中濃度取得工程と、
前記エンジンに対し供給される燃料と大気との混合気についての空燃比を取得する空燃比取得工程と、
前記排ガス中濃度算出工程において算出された酸素、HO、およびCOのそれぞれの前記排ガス中濃度と、前記大気中濃度取得工程において取得された酸素およびHOのそれぞれの前記大気中濃度と、前記空燃比取得工程において取得された前記空燃比とに基づいて、前記燃料に含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比を推定する組成比推定工程と、
を備えることを特徴とする、排ガスの組成比推定方法。
【請求項3】
車両に備わるエンジンからの排ガスに含まれるCOの質量を推定する方法であって、
請求項2に記載の排ガスの組成比推定方法によって推定される、燃料に含まれるC原子の組成比と、エンジンに対する前記燃料の噴射量とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量を推定する質量推定工程、
を備えることを特徴とする、CO質量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンからの排ガスに含まれるCOの質量の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスからの排出量を管理するための計測において、二酸化炭素(CO)の濃度を計測する技術が既に公知である(例えば特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1および特許文献2に開示されたガスセンサにおいては、二酸化炭素(CO)成分に加え、水蒸気(HO)成分についても並行して測定することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5918177号公報
【特許文献2】特許第6469464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の排ガスの排出量管理においては、排出濃度よりも排出質量の測定が重要な場合がある(排出量基準の例:95gCO/km以下)。特許文献1および特許文献2には、CO濃度の計測方法が示されているものの、CO質量の計測方法は示されていない。濃度にもとづいて質量を算出することもできるが、そのためには排ガスの質量流量の測定が必要となる。CO濃度×質量流量=CO質量なる関係があるからである。
【0005】
しかしながら、自動車の走行時に排ガスの質量流量を測定することは必ずしも容易ではなく、測定のための構成を付加することはコスト面その他の観点から現実的ではない。むしろ、既存の構成要素や情報を用いてCOの排出質量を推定出来ることが好ましい。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、質量流量を測定することなしに排ガスに含まれるCOの排出質量を推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、車両に備わるエンジンからの排ガスに含まれるCOの質量を推定するシステムであって、被測定ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を出力可能なガスセンサと、前記ガスセンサにより出力される、エンジンからの排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を取得する、検出値取得手段と、前記エンジンに対し供給される燃料と大気との混合気についての空燃比を設定する空燃比設定手段と、排ガスに含まれるCOの質量を演算する演算手段と、を備え、前記演算手段は、前記被測定ガスが前記排ガスであるときの前記ガスセンサにおける前記検出値に基づいて、酸素、HO、およびCOのそれぞれの排ガス中濃度を算出し、酸素およびHOのそれぞれの大気中濃度を取得し、前記空燃比設定手段において設定された前記空燃比を取得し、酸素、HO、およびCOのそれぞれの前記排ガス中濃度と、酸素およびHOのそれぞれの前記大気中濃度と、前記空燃比設定手段から取得された前記空燃比とに基づいて、前記燃料に含まれる少なくともC原子の組成比を演算し、演算された前記組成比と、エンジンに対する前記燃料の噴射量とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量を推定する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様は、車両に備わるエンジンからの排ガスに含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比を推定する方法であって、被測定ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を出力可能なガスセンサから、エンジンからの排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOのそれぞれの濃度に応じた検出値を取得する検出値取得工程と、前記検出値に基づいて、酸素、HO、およびCOのそれぞれの排ガス中濃度を算出する排ガス中濃度算出工程と、酸素およびHOのそれぞれの大気中濃度を取得する大気中濃度取得工程と、前記エンジンに対し供給される燃料と大気との混合気についての空燃比を取得する空燃比取得工程と、前記排ガス中濃度算出工程において算出された酸素、HO、およびCOのそれぞれの前記排ガス中濃度と、前記大気中濃度取得工程において取得された酸素およびHOのそれぞれの前記大気中濃度と、前記空燃比取得工程において取得された前記空燃比とに基づいて、前記燃料に含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比を推定する組成比推定工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の態様は、車両に備わるエンジンからの排ガスに含まれるCOの質量を推定する方法であって、第2の態様に係る排ガスの組成比推定方法によって推定される、燃料に含まれるC原子の組成比と、エンジンに対する前記燃料の噴射量とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量を推定する質量推定工程、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1および第3の態様によれば、排ガスの質量流量を測定せずとも、ある質量の燃料が噴射された場合の、排ガスに含まれるCOの質量を、推定することができる。
【0011】
また、本発明の第2の態様によれば、排ガスの質量流量を測定せずとも、ある質量の燃料が噴射された場合の、排ガスに含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比を、推定することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ガスセンサ200の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】CO質量推定システム1000の構成を模式的に示す図である。
図3】COの質量の推定に用いられる種々のパラメータの関係を、模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ガスセンサの構成>
図1は、本実施の形態に係るCO質量推定システム1000(図2)に備わるガスセンサ200の構成の一例を概略的に示す図である。ガスセンサ200は、センサ素子201によって複数種類のガス成分を検知し、その濃度を測定するマルチガスセンサである。本実施の形態においては、少なくとも水蒸気(HO)および二酸化炭素(CO)が、ガスセンサ200における主たる検知対象ガス成分であるとする。また、ガスセンサ200は、各部の動作を制御するコントローラ210をさらに備える。後述するように、本実施の形態においては、係るガスセンサ200が、自動車のエンジンの排気経路に取り付けられ、係る排気経路を流れる排ガスを被測定ガスとする態様にて、使用される。図1は、センサ素子201の長手方向に沿った垂直断面図を含んでいる。
【0014】
センサ素子201は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる長尺板状の構造体(基体部)14と、該構造体14の一方端部(図面視左端部)に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口10と、構造体14内に形成され、ガス導入口10から順次に連通する緩衝空間12、第1空室20、第2空室40、および第3空室61を有する。緩衝空間12は第1拡散律速部11を介してガス導入口10と連通している。第1空室20は、第2拡散律速部13を介して緩衝空間12と連通している。第2空室40は、第3拡散律速部30を介して第1空室20と連通している。第3空室61は、第4拡散律速部60を介して第2空室40と連通している。
【0015】
構造体14は、例えば、セラミックスよりなる複数層の基板を積層して構成される。具体的には、構造体14は、第1基板1と、第2基板2と、第3基板3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とよりなる6つの層が、下から順に積層された構成を有する。各層は、例えばジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性の固体電解質によって構成される。
【0016】
ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1空室20、第3拡散律速部30、第2空室40、第4拡散律速部60、および第3空室61は、構造体14の一方端部側であって、第2固体電解質層6の下面6bと第1固体電解質層4の上面4aとの間に、この順に形成されている。ガス導入口10から第3空室61に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0017】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1空室20と、第2空室40と、第3空室61とは、スペーサ層5を厚み方向に貫通するようにして形成されている。それらの空室等の図面視上部においては、第2固体電解質層6の下面6bが露出し、図面視下部においては第1固体電解質層4の上面4aが露出している。それら空室等の側部は、スペーサ層5あるいはいずれかの拡散律速部にて区画されている。
【0018】
第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、および、第4拡散律速部60は、いずれも2本の横長なスリットを備えている。すなわち、図面に垂直な方向に長く伸びた開口を図面視上部および下部に有している。
【0019】
また、センサ素子201においてガス導入口10が設けられた一方端部とは反対側の他方端部(図面視右端部)には、基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43は、第3基板3の上面3aとスペーサ層5の下面5bとの間に形成されている。また、基準ガス導入空間43の側部は第1固体電解質層4の側面で区画されている。基準ガス導入空間43には、基準ガスとして、例えば酸素(O)や大気が導入される。
【0020】
ガス導入口10は、外部空間に対して開口している部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子201内に被測定ガスが取り込まれる。
【0021】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から緩衝空間12に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0022】
緩衝空間12は、外部空間における被測定ガスの圧力変動によって生じる被測定ガスの濃度変動を打ち消すために設けられてなる。このような被測定ガスの圧力変動としては、例えば自動車の排ガスの排気圧の脈動等が挙げられる。
【0023】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1空室20に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0024】
第1空室20は、第2拡散律速部13を通じて導入される被測定ガスから酸素を汲み出し、さらには、被測定ガスに検知対象ガス成分として含まれているHOおよびCOを還元(分解)して水素(H)および一酸化炭素(CO)を生成させ、被測定ガスが酸素のみならずHO、COについても実質的に含まないようにするための空間として設けられている。係るHOとCOの還元(分解)は、第1ポンプセル21が作動することによって実現される。
【0025】
第1ポンプセル21は、第1内側ポンプ電極22と、外側ポンプ電極23と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0026】
第1ポンプセル21においては、第1内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に、センサ素子201の外部に備わる可変電源24によって電圧Vp1が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip1が生じる。これにより、第1空室20内の酸素を外部空間に汲み出すことが、可能となっている。
【0027】
第1内側ポンプ電極22は、第1空室20を区画する第2固体電解質層6の下面6bの略全面および第1固体電解質層4の上面4aの略全面にそれぞれ、天井電極22aおよび底部電極部22bとして、設けられている。
【0028】
第1内側ポンプ電極22は、白金を金属成分として、例えば、白金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0029】
外側ポンプ電極23は、白金または白金と金との合金(Pt-Au合金)を金属成分として、例えば、白金またはPt-Au合金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0030】
また、センサ素子201においては、第1内側ポンプ電極22と、基準電極42と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって、第1空室用センサセル80が構成されている。第1空室用センサセル80は、第1空室20内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである。
【0031】
基準電極42は、第1固体電解質層4と第3基板3との間に形成された電極であり、例えば、白金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0032】
基準電極42の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、基準ガス導入空間43につながる基準ガス導入層48が設けられている。基準電極42の表面には、基準ガス導入空間43の基準ガスが基準ガス導入層48を介して導入されるようになっている。すなわち、基準電極42は常に基準ガスと接触した状態となっている。
【0033】
第1空室用センサセル80においては、第1内側ポンプ電極22と基準電極42との間に起電力(ネルンスト起電力)V1が発生する。起電力V1は、第1空室20における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた値となる。ただし、基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)は基本的に一定であるので、起電力V1は、第1空室20における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0034】
第3拡散律速部30は、第1空室20から第2空室40に導入される、HおよびCOを含みかつHO、CO、および酸素を実質的に含まない被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0035】
第2空室40は、第3拡散律速部30を通じて導入される被測定ガスに含まれているHおよびCOのうちHのみを選択的に全て酸化して再びHOを生成させるための空間として設けられている。係るHの酸化によるHOの生成は、第2ポンプセル50が作動することによって実現される。
【0036】
第2ポンプセル50は、第2内側ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0037】
第2ポンプセル50においては、第2内側ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に、センサ素子201の外部に備わる可変電源52によって電圧Vp2が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip2が生じる。これにより、外部空間から第2空室40内に酸素を汲み入れることが、可能となっている。
【0038】
第2内側ポンプ電極51は、第2空室40を区画する第2固体電解質層6の下面6bの略全面および第1固体電解質層4の上面4aの略全面にそれぞれ、天井電極51aおよび底部電極部51bとして、設けられている。
【0039】
第2内側ポンプ電極51は、Pt-Au合金を金属成分として、例えば、係るPt-Au合金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0040】
また、センサ素子201においては、第2内側ポンプ電極51と、基準電極42と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって、第2空室用センサセル81が構成されている。第2空室用センサセル81は、第2空室40内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである。
【0041】
第2空室用センサセル81においては、第2内側ポンプ電極51と基準電極42との間に起電力(ネルンスト起電力)V2が発生する。起電力V2は、第2空室40における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた値となる。ただし、基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)は基本的に一定であるので、起電力V2は、第2空室40における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0042】
第4拡散律速部60は、第2空室40から第3空室61に導入される、HOおよびCOを含みかつCOおよび酸素を実質的に含まない被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0043】
第3空室61は、第4拡散律速部60を通じて導入される被測定ガスに含まれているCOを全て酸化して再びCOを生成させるための空間として設けられている。係るCOの酸化によるCOの生成は、第3ポンプセル41が作動することによって実現される。
【0044】
第3ポンプセル41は、第3内側ポンプ電極44と、外側ポンプ電極23と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0045】
第3ポンプセル41においては、第3内側ポンプ電極44と外側ポンプ電極23との間に、センサ素子201の外部に備わる可変電源46によって電圧Vp3が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip3が生じる。これにより、外部空間から第3空室61内に酸素を汲み入れることが、可能となっている。
【0046】
第3内側ポンプ電極44は、第3空室61を区画する第1固体電解質層4の上面4aの略全面に設けられている。
【0047】
第3内側ポンプ電極44は、白金を金属成分として、例えば、白金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0048】
また、センサ素子201においては、第3内側ポンプ電極44と、基準電極42と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって、第3空室用センサセル82が構成されている。第3空室用センサセル82は、第3空室61内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである。
【0049】
第3空室用センサセル82においては、第3内側ポンプ電極44と基準電極42との間に起電力(ネルンスト起電力)V3が発生する。起電力V3は、第3空室61における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた値となる。ただし、基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)は基本的に一定であるので、起電力V3は、第3空室61における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0050】
また、センサ素子201はさらに、外側ポンプ電極23と、基準電極42と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的センサセル83を有する。このセンサセル83において外側ポンプ電極23と基準電極42の間に生じる起電力Vrefは、センサ素子201の外部に存在する被測定ガスの酸素分圧に応じた値となる。
【0051】
以上に加えて、センサ素子201は、第2基板2と第3基板3とに上下から挟まれた態様にて、ヒータ72を備える。ヒータ72は、第1基板1の下面1bに設けられたヒータ電極71を介して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ72は、緩衝空間12から第3空室61に至る範囲の全域に亘って埋設されており、センサ素子201を所定の温度に加熱しさらには保温することができるようになっている。ヒータ72が発熱することによって、センサ素子201を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。
【0052】
ヒータ72の上下には、第2基板2および第3基板3との電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層74が形成されている。以下、ヒータ72、ヒータ電極、ヒータ絶縁層74をまとめてヒータ部とも称する。また、ヒータ部には、圧力放散孔75が備わっている。圧力放散孔75は、第3基板3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で設けられてなる。
【0053】
コントローラ210は、例えば1つまたは複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路により構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されている所定のプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能的構成要素が実現されるソフトウェア機能部でもある。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路等で構成してもよい。
【0054】
<マルチガス検知と濃度特定>
次に、上述のような構成を有するガスセンサ200において実現される、複数のガス種の検知(マルチガス検知)と、検知されたガスの濃度の特定の仕方について説明する。以降においては、被測定ガスが酸素、HO、およびCOを含む排ガスであるとする。
【0055】
本実施の形態に係るガスセンサ200が備えるセンサ素子201においては、ガス導入口10から素子内部へと取り込まれた被測定ガスが、緩衝空間12を経て第1空室20へと導入される。
【0056】
第1空室20においては、第1ポンプセル21が作動することにより、導入された被測定ガスから酸素が汲み出される。これにより、被測定ガスに含まれているHOおよびCOの還元(分解)反応(2HO→2H+O、2CO→2CO+O)が進行し、HOおよびCOは実質的に全て、水素(H)および一酸化炭素(CO)と酸素とに分解され、これにより生じた酸素も汲み出される。なお、HOおよびCOが実質的に全て分解されるとは、HOおよびCOが第2空室40に導入されないことを意味する。
【0057】
これは、コントローラ210が、第1空室用センサセル80における起電力V1の目標値(制御電圧)を1000mV~1500mVの範囲で所望する酸素分圧(酸素濃度)に応じて(好ましくは1000mVに)設定し、係る目標値が達成されるよう、可変電源24が第1ポンプセル21に印加する電圧Vp1を実際の起電力V1の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。係る場合において、電圧Vp1は、IR過電圧と反応過電圧との和である。
【0058】
例えば酸素を多く含む被測定ガスが第1空室20に到達すると起電力V1の値が目標値から大きく変位するので、コントローラ210は、係る変位が減少するように、可変電源24が第1ポンプセル21に印加するポンプ電圧Vp1を制御する。
【0059】
起電力V1の目標値(制御電圧)が1000mV~1500mVなる範囲内の値に設定されることにより、第1空室20内の酸素分圧は十分に低められる。V1=1000mVの場合であれば、10-20atm程度となる。そして、第1空室20内の被測定ガスは、HおよびCOを含む一方でHO、CO、および酸素を実質的に含まないものとなる。係る被測定ガスは、第2空室40に導入される。
【0060】
第2空室40においては、第2ポンプセル50が作動することにより酸素が汲み入れられ、導入された被測定ガスに含まれているHのみが酸化される。
【0061】
係る酸素の汲み入れは、コントローラ210が、第2空室用センサセル81における起電力V2の目標値(制御電圧)を250mV~450mVの範囲で所望する酸素分圧(酸素濃度)に応じて(好ましくは350mVに)設定し、係る目標値が達成されるよう、可変電源52が第2ポンプセル50に印加する電圧Vp2を実際の起電力V2の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。
【0062】
係る態様にて第2ポンプセル50が作動することで、第2空室40内においては、2H+O→2HOなる酸化(燃焼)反応が促進されて、ガス導入口10から導入されたHOの量と相関性を有する量のHOが再び生成される。なお本実施の形態において、HOあるいはCOの量が相関性を有するとは、ガス導入口10から導入されたHOあるいはCOの量と、それらの分解によって生じたHおよびCOが酸化させられることによって再び生成するHOあるいはCOの量とが、同量または測定精度の点から許容される一定の誤差範囲内にある、ということである。
【0063】
起電力V2の目標値が250mV~450mVなる範囲内の値に設定されることにより、第2空室40の酸素分圧は、Hはほぼ全て酸化されるもののCOは酸化されない範囲の値に保たれる。例えば、V2=350mVの場合であれば、10-7atm程度となる。
【0064】
また、起電力V2が目標値に保たれているときに第2ポンプセル50を流れる酸素ポンプ電流Ip2(以下、水蒸気検出電流Ip2とも称する)は、第2空室40におけるHの燃焼によって生成するHOの濃度に略比例する(水蒸気検出電流Ip2と生成するHOの濃度とが線型関係にある)。係る燃焼によって生成するHOの量は、ガス導入口10から導入された後、第1空室20においていったん分解された、被測定ガス中のHOの量と相関性を有する。よって、水蒸気検出電流Ip2が検出されることで、被測定ガス中のHOが検知されたことになる。
【0065】
また、水蒸気検出電流Ip2と被測定ガスにおける水蒸気濃度の間には、線型関係が成立する。係る線型関係を示すデータ(水蒸気特性データ)を、水蒸気濃度が既知のモデルガスを用いてあらかじめ特定しておけば、コントローラ210によって取得される水蒸気検出電流Ip2の値を水蒸気特性データと照合することにより、当該水蒸気検出電流Ip2に対応する水蒸気濃度の値を特定することができる。
【0066】
なお、仮に、ガス導入口10から導入された被測定ガス中にHOが存在していなかった場合には、当然ながら第1空室20におけるHOの分解は生じず、それゆえ第2空室40にHが導入されることはないので、水蒸気検出電流Ip2はほぼゼロとなる。
【0067】
が酸化されてHOとなることで、被測定ガスは、HOおよびCOを含みかつCOおよび酸素を実質的に含まないものとなる。係る被測定ガスが第3空室61に導入される。第3空室61においては、第3ポンプセル41が作動することにより酸素が汲み入れられ、導入された被測定ガスに含まれているCOが酸化される。
【0068】
係る酸素の汲み入れは、コントローラ210が、第3空室用センサセル82における起電力V3の目標値(制御電圧)を100mV~300mVの範囲で所望する酸素分圧(酸素濃度)に応じて(好ましくは200mV)に設定し、係る目標値が達成されるよう、可変電源46が第3ポンプセル41に印加する電圧Vp3を実際の起電力V3の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。
【0069】
係る態様にて第3ポンプセル41が作動することで、第3空室61内においては、2CO+O→2COなる酸化(燃焼)反応が促進されて、ガス導入口10から導入されたCOの量と相関性を有する量のCOが再び生成される。
【0070】
起電力V3の目標値が100mV~300mVなる範囲内の値に設定されることにより、第2空室40の酸素分圧は、COがほぼ全て酸化される範囲の値に保たれる。例えば、V3=200mVの場合であれば、10-4atm程度となる。
【0071】
また、起電力V3が目標値に保たれているときに第3ポンプセル41を流れる酸素ポンプ電流Ip3(以下、二酸化炭素検出電流Ip3とも称する)は、第3空室61におけるCOの燃焼によって生成するCOの濃度に略比例する(二酸化炭素検出電流Ip3と生成するCOの濃度とが線型関係にある)。係る燃焼によって生成するCOの量は、ガス導入口10から導入された後、第1空室20においていったん分解された、被測定ガス中のCOの量と相関性を有する。よって、第3ポンプセル制御部111Dにおいて二酸化炭素検出電流Ip3が検出されることで、被測定ガス中のCOが検知されたことになる。
【0072】
また、二酸化炭素検出電流Ip3と被測定ガスにおける二酸化炭素濃度の間には、線型関係が成立する。係る線型関係を示すデータ(二酸化炭素特性データ)を、二酸化炭素濃度が既知のモデルガスを用いてあらかじめ特定しておけば、コントローラ210によって取得される二酸化炭素検出電流Ip3の値を二酸化炭素特性データと照合することにより、二酸化炭素検出電流Ip3に対応する二酸化炭素濃度の値を特定することができる。
【0073】
なお、仮に、ガス導入口10から導入された被測定ガス中にCOが存在していなかった場合には、当然ながら第1空室20におけるCOの分解は生じず、それゆえ第3空室61にCOが導入されることはないので、二酸化炭素検出電流Ip3はほぼゼロとなる。
【0074】
以上のように、本実施の形態に係るガスセンサ200においては、水蒸気濃度および二酸化炭素濃度を好適に特定することが可能である。
【0075】
加えて、ガスセンサ200においては、間接的ではあるが、被測定ガスに含まれる酸素の濃度を求めることも可能である。概略的にいえば、第1空室20から汲み出される酸素の濃度と、第2空室40および第3空室61へと汲み入れられる酸素の濃度との差分値が、ガス導入口10から導入された被測定ガス中の酸素の濃度に相当する。また、被測定ガスに含まれる酸素、HO、およびCOの濃度はそれぞれ、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3に略比例する値である。それゆえ、被測定ガスに含まれる酸素、HO、およびCOの濃度をそれぞれ、Ce_O2、Ce_H2O、Ce_CO2とすると、これらの値は以下のように表すことができる。ただし、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3は酸素が汲み出される向きを正とし、a~aは実験的に定められる比例定数である。
【0076】
e_O2=a・Ip1+a・Ip2+a・Ip3 ・・・・(1)
e_H2O=a・Ip2 ・・・・(2)
e_CO2=a・Ip3 ・・・・(3)
式(1)をあらかじめ特定しておけば、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3の検出値から被測定ガス中の酸素の濃度を求めることも可能である。また、式(2)、式(3)はそれぞれ、水蒸気特性データと二酸化炭素特性データを示す式に他ならない。
【0077】
<CO質量推定システム>
次に、本実施の形態に係るCO質量推定システム1000について説明する。図2は、CO質量推定システム1000の構成を模式的に示す図である。CO質量推定システム1000は、概略、ガスセンサ200における検出電流を利用して、自動車のエンジンの排ガスに含まれるCOの質量を推定するシステムである。
【0078】
図2に示すように、CO質量推定システム1000は、ガスセンサ200のほか、自動車の各部の動作を制御するECU(電子制御装置)100と、自動車のエンジン300の内部(燃焼室)に燃料を噴射する燃料噴射装置301と、エンジン300の給気経路P1に設けられ、エンジン300に対して空気を供給する吸気部400とを備える。ガスセンサ200は、エンジン300の排気経路P2に取り付けられている。すなわち、本実施の形態に係るCO質量推定システム1000は、自動車の構成要素を含んで構成され、自動車に組み込まれて使用される。
【0079】
ガスセンサ200は、上述した構成を有するものであり、本来的には、排気経路P2を流れる排ガスに含まれるHOおよびCOの濃度を測定し、エンジン300の運転状態を把握する目的で使用されるものである。本実施の形態においては、係るガスセンサ200を、CO質量推定システム1000におけるCO質量の推定に利用する。
【0080】
ECU100は、少なくとも1つのIC(集積回路)を含む電子回路によって構成される。電子回路は少なくとも1つのプロセッサ(図示せず)を含む。ECU100が有する各機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することによって実現され得る。ソフトウェアは、プログラムとして記述され、メモリ(図示せず)に格納される。プログラムを格納するためのメモリは、ECU100に含まれていてよく、例えば、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0081】
ECU100は、機能的構成要素として、統括制御部110と、燃料噴射制御部120と、吸気制御部130と、センサ検出値取得部140と、CO質量演算部150とを、主として備える。
【0082】
統括制御部110は、運転者によりなされる自動車に対する操作の状態に応じて、ECU100の各制御部に対し制御指示を与えることにより、自動車全体の動作を統括的に制御する。
【0083】
燃料噴射制御部120は、統括制御部110からの制御指示のもと、燃料噴射装置301からの燃料の噴射を制御する。また、燃料噴射制御部120は、燃料噴射量の実測値を示す信号を統括制御部110に与える。
【0084】
吸気制御部130は、統括制御部110からの制御指示のもと、吸気部400からの吸気を制御する。
【0085】
燃料噴射制御部120と吸気制御部130とはそれぞれ、統括制御部110が自動車の運転状況に応じて設定した空燃比A/Fに応じた、燃料の噴射と吸気とが行われるよう、燃料噴射装置301と吸気部400とを制御する。
【0086】
センサ検出値取得部140は、ガスセンサ200において検出される種々の検出値を示す信号を取得する。係る検出値としては、酸素ポンプ電流Ip1、酸素ポンプ電流(水蒸気検出電流)Ip2、および酸素ポンプ電流(二酸化炭素検出電流)Ip3の値などが例示される。
【0087】
CO質量演算部150は、センサ検出値取得部140において取得されるガスセンサ200の検出値と、統括制御部110から発せられる空燃比A/Fと燃料噴射量の値とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量の推定値を演算する。CO質量演算部150には(より詳細には、これを構成する図示しないメモリには)、あらかじめ実験的に特定された式(1)~式(3)が(より具体的にはこれらを与える比例定数a1~a5が)格納されてなる。
【0088】
<CO質量の推定手順>
次に、本実施の形態に係るCO質量推定システム1000において行われる、排ガスに含まれるCOの質量を推定する処理の手順について説明する。図3は、CO質量推定システム1000に備わるCO質量演算部150において行うCOの質量の推定に用いられる、種々のパラメータの関係を、模式的に示す図である。
【0089】
概略的にいえば、本実施の形態においては、ガスセンサ200における酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、およびIp3の検出値と、ECU100の統括制御部110が設定する空燃比とに基づいて燃料の組成(少なくとも単位質量の燃料に含まれるC原子の質量)を推定し、係る推定された燃料の組成と、燃料噴射装置301における燃料の噴射量の実測値とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量を推定する。ただし、本実施の形態において行うCOの質量の推定は、燃料がエンジン300において完全燃焼し、排ガスに未燃のCO、HCが含まれないことを前提とする。
【0090】
まず、エンジン300の内部で燃焼により発生する排ガスが排気経路P2を流れている状況での、ガスセンサ200における酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、およびIp3の検出値と、被測定ガスたる排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOの濃度Ce_O2、Ce_H2O、Ce_CO2との間には、上述した式(1)~(3)の関係が成立する。
【0091】
そして、ある質量の排ガスに含まれるC原子、H原子、およびO原子の質量と、式(1)~(3)で表される排ガス中の酸素、HO、およびCOの濃度との間には、
原子の質量∝Σ(対象ガスの濃度×対象ガス1分子中の当該原子数)×原子量
なる比例関係が成立する。すなわち、ある質量の排ガスに含まれるC原子、H原子、およびO原子の質量me_C、me_H、me_Oと、式(1)~(3)で表される排ガス中の酸素、HO、およびCOの濃度Ce_O2、Ce_H2O、Ce_CO2との間には、
e_C=k・Ce_CO2×1×12=k・12・Ce_CO2 ・・・・(4)
e_H=k・Ce_H2O×2×1=k・2・Ce_H2O ・・・・(5)
e_O=k・(Ce_O2×2+Ce_H2O×1+Ce_CO2×2)×16
=k・(32・Ce_O2+16・Ce_H2O+32・Ce_CO2) ・・・・(6)
なる関係が成立する。ただし、kは適当な比例係数である。
【0092】
また、エンジン300の内部での燃焼による排ガスが発生されない状況においては、吸気部400において吸気された大気がそのまま排気経路P2を流れる。すると、係る状況においてガスセンサ200により検出される酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、およびIp3の検出値を、以下の式(1')および式(2')に代入すれば、大気に含まれる酸素およびHOの濃度Ca_O2およびCa_H2Oを特定することができる。
【0093】
a_O2=a・Ip1+a・Ip2+a・Ip3 ・・・・(1')
a_H2O=a・Ip2 ・・・・(2')
なお、COの濃度も求めることはできるが、大気のCOの濃度は300ppm程度と低いため、以降の演算においては無視して0とする。なお、ガスセンサ200とは別体のガスセンサを用いて、排気経路P2とは異なる箇所において測定を行うことにより、Ca_O2およびCa_H2Oを特定する態様であってもよい。
【0094】
大気に含まれる酸素およびHOの濃度Ca_O2およびCa_H2Oを用いると、単位質量の大気に含まれるC原子、H原子、およびO原子の質量ma_C、ma_H、ma_Oは、以下のように表される。ただし、大気の平均分子量をMair=28.8とする。
【0095】
a_C=0 ・・・・(7)
a_H=(Ca_H2O×2×1)/Mair=2・Ca_H2O/Mair ・・・・(8)
a_O=(Ca_O2×2+Ca_H2O×1)×16/Mair
=(32・Ca_O2+16・Ca_H2O)/Mair ・・・・(9)
一方、燃料はほぼC原子、H原子、およびO原子のみで構成されていることを踏まえると、単位質量の燃料に含まれるC原子、H原子、およびO原子の質量mf_C、mf_H、mf_Oの間には、以下の関係が成立する。
【0096】
f_C+mf_H+mf_O=1 ・・・・(10)
また、燃料と大気との混合気に含まれるC原子、H原子、およびO原子の質量はいずれも、燃料に含まれる当該原子の質量と大気に含まれる当該原子の質量との和であり、係る混合気における大気質量と燃料質量の比が空燃比A/Fである。空燃比A/Fの値をr(=大気質量/燃料質量)とすると、単位質量の燃料が係る空燃比A/Fにて大気と混合された混合気に含まれるC原子、H原子、およびO原子の質量mm_C、mm_H、mm_Oは、以下のように表される。
【0097】
m_C=mf_C+ma_C・r ・・・・(11)
m_H=mf_H+ma_H・r ・・・・(12)
m_O=mf_O+ma_O・r ・・・・(13)
完全燃焼時(エンジンの通常運転時)には、混合気の組成と排ガスの組成は等しいので、以下の関係が成り立つ。
【0098】
m_C=me_C ・・・・(14)
m_H=me_H ・・・・(15)
m_O=me_O ・・・・(16)
式(4)~式(16)を組み合わせると、式(4)~式(6)における比例係数kが以下の式(17)のように表される。
【0099】
={Mair+(32・Ca_O2+18・Ca_H2O)・r}/{Mair・(32・Ce_O2+18・Ce_H2O+44・Ce_CO2)}
・・・・(17)
式(17)において、大気の平均分子量Mairは既知の固定値である。Ca_O2およびCa_H2Oは、ガスセンサ200にて測定される、大気に含まれる酸素およびHOの濃度である。Ce_O2、Ce_H2O、およびCe_CO2は、同じくガスセンサ200にて測定される、排ガスに含まれる酸素、HO、およびCOの濃度である。また、空燃比rは、自動車の運転状況に応じて統括制御部110により設定される値である。それゆえ、比例係数kは、式(17)より具体的に求めることが出来る。
【0100】
係る比例係数kを用いると、式(4)、式(11)、および式(14)より、単位質量の燃料に含まれるC原子の質量mf_Cを示す以下の式(18)が得られる。
【0101】
f_C=mm_C=me_C=k・12・Ce_CO2 ・・・・(18)
なお、単位質量の燃料に含まれるH原子の質量mf_Hと、O原子の質量mf_Oを示す式についても、同様に求めることが出来る。係る場合、式(18)とそれら2つの式とから得られる比mf_C:mf_H:mf_Oは、燃料に含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比となる。
【0102】
さらには、式(10)を踏まえると、mf_Cの値は組成比mf_C:mf_H:mf_Oなる燃料におけるC原子の組成にも該当するので、式(18)は、燃料中のC原子の組成を算出する式であるともいえる。
【0103】
完全燃焼時、燃料に含まれるC原子は全てCOに変化するので、質量Mの燃料が噴射されたことにより生じる排ガスに含まれるCOの質量Me_CO2は、Mとmf_Cの値を用い、以下の式(19)により求めることが出来る。
【0104】
e_CO2=M・mf_C・(COの分子量/Cの原子量)
=M・mf_C・(44/12) ・・・・(19)
あるいは、式(19)に式(18)を代入することで得られる以下の式(20)から、COの質量Me_CO2を求める態様であってもよい。
【0105】
e_CO2=44・M・k・Ce_CO2 ・・・・(20)
本実施の形態においてCO質量推定システム1000が所定のタイミングでCO質量の推定を実行する場合、まず、センサ検出値取得部140がガスセンサ200から連続的にあるいは所定のタイミングで断続的に取得している、被測定ガスが排ガスであるときの酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、およびIp3の検出値と、被測定ガスが大気であるときの酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、およびIp3の検出値とが、センサ検出値取得部140からCO質量演算部150に与えられる。
【0106】
CO質量演算部150は、これらの値を用いて、Ce_O2、Ce_H2O、Ce_CO2、Ca_O2、およびCa_H2Oを演算する。なお、式(1)~式(3)および式(1')~式(2')のそれぞれの右辺の比例定数は使用するガスセンサ200に固有のものであり、あらかじめ実験的に特定されているものとする。
【0107】
なお、大気の組成は排ガスの組成に比して変動が少なく、また自動車の運転状況によっては、推定が実行されるタイミングに併せて大気を被測定ガスとする測定が行えない場合もあるので、従前に算出されたうえでECU100に格納されているかあるいは別途に特定されたCa_O2およびCa_H2Oの値が用いられる態様であってもよい。
【0108】
CO質量演算部150はまた、統括制御部110から空燃比A/Fの値rを取得する。そして、式(17)に基づき比例係数kを算出する。
【0109】
CO質量演算部150はさらに、燃料噴射制御部120から統括制御部110に与えられる、燃料噴射装置301において噴射された燃料の質量Mの値を取得する。そして、式(18)によりC原子の質量mf_Cを算出したうえで式(19)によりCOの質量Me_CO2を算出する。あるいは、式(20)に基づいてCOの質量Me_CO2を算出する。
【0110】
本実施の形態に係るCO質量推定システム1000においては、以上の手順を経ることで、ある質量の燃料が噴射された場合の、排ガスに含まれるC原子、H原子、およびO原子の組成比を、推定することが出来る。さらには、COの排出質量を、推定することができる。係る手順によれば、排ガスの質量流量を測定せずとも、ガスセンサ200における検出値と、空燃比と、燃料噴射量という、自動車の運転時にECU100において把握される値あるいは設定される値に基づいて、COの排出質量を推定することができる。
【実施例0111】
ガソリン乗用車を対象として、CO質量推定システム1000による排ガスにおけるCO質量の推定を実施した。
【0112】
まず、あらかじめモデルガスを用いて、ガスセンサ200における酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3[単位:mA]と排ガスにおける酸素、HO、およびCOの濃度Ce_O2、Ce_H2O、Ce_CO2[単位:%]との関係を示す式(1)~(3)の比例定数をa1~a5[単位:%/mA]を実験的に特定したところ、以下のようになった。
【0113】
e_O2=20.0・Ip1+22.0・Ip2+57.1・Ip3;
e_H2O=-10.0・Ip2;
e_CO2=-71.4・Ip3。
【0114】
係るガスセンサ200をガソリン乗用車のテールパイプに取り付け、以下の条件で当該乗用車を運転し、ガスセンサ200による排ガスの測定を行った。
【0115】
乗用車の車速:60km/h一定;
測定時間:60秒;
単位時間あたり燃料噴射量:0.34g/s;
空燃比r:14.3。
【0116】
その結果得られた酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3の値は以下のようであった。
【0117】
Ip1=1.63mA;
Ip2=-1.04mA;
Ip3=-0.17mA。
【0118】
また、あらかじめ特定された大気に含まれている酸素の濃度Ca_O2およびHOの濃度Ca_H2Oはそれぞれ、以下の通りであった。
【0119】
大気の酸素濃度Ca_O2:20.7%;
大気のHO濃度Ca_H2O:1.0%。
【0120】
これらの値を用いて、式(17)より比例定数kの値を求めると、
=0.60669:
となった。
【0121】
一方、排ガスにおけるCOの濃度Ce_CO2は、
e_CO2=-71.4・Ip3=-71.4×(-0.17)=12.1%
と算出された。
【0122】
これらの値を式(18)に代入すると、単位質量の燃料に含まれるC原子の質量mf_Cは、
f_C=k・12・Ce_CO2=0.60669×12×12.1=88%
となった。なお、燃料の組成比は、
f_C:mf_H:mf_O=88:12:0
であった。
【0123】
最終的に、(燃料を0.34g/sで60秒間噴射したときの)排ガスにおけるCO質量の推定値Me_CO2は、
e_CO2=M・mf_C・(44/12)
=(0.34×60)・(88/100)・(44/12)
=66g
と算出された。
【0124】
なお、比較のため、定容量希釈サンプリング装置において同時に測定したCO排出質量の値は、推定値Me_CO2とほぼ同等の64gであった。両者の誤差は3%程度であった。
【0125】
係る結果は、質量流量の測定を行わずとも、CO排出質量を推定できることを、示している。
【符号の説明】
【0126】
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
13 第2拡散律速部
14 構造体
20 第1空室
21 第1ポンプセル
22 第1内側ポンプ電極
24、52、46 可変電源
30 第3拡散律速部
40 第2空室
41 第3ポンプセル
42 基準ポンプ電極
43 基準ガス導入空間
44 第3内側ポンプ電極
50 第2ポンプセル
51 第2内側ポンプ電極
60 第4拡散律速部
61 第3空室
72 ヒータ
80 第1空室用センサセル
81 第2空室用センサセル
82 第3空室用センサセル
200 ガスセンサ
201 センサ素子
301 燃料噴射装置
400 吸気部
1000 CO質量推定システム
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-04-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
ヒータ72の上下には、第2基板2および第3基板3との電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層74が形成されている。以下、ヒータ72、ヒータ電極、ヒータ絶縁層74をまとめてヒータ部70とも称する。また、ヒータ部70には、圧力放散孔75が備わっている。圧力放散孔75は、第3基板3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で設けられてなる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0070
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0070】
起電力V3の目標値が100mV~300mVなる範囲内の値に設定されることにより、第空室61の酸素分圧は、COがほぼ全て酸化される範囲の値に保たれる。例えば、V3=200mVの場合であれば、10-4atm程度となる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
また、起電力V3が目標値に保たれているときに第3ポンプセル41を流れる酸素ポンプ電流Ip3(以下、二酸化炭素検出電流Ip3とも称する)は、第3空室61におけるCOの燃焼によって生成するCOの濃度に略比例する(二酸化炭素検出電流Ip3と生成するCOの濃度とが線型関係にある)。係る燃焼によって生成するCOの量は、ガス導入口10から導入された後、第1空室20においていったん分解された、被測定ガス中のCOの量と相関性を有する。よって、二酸化炭素検出電流Ip3が検出されることで、被測定ガス中のCOが検知されたことになる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0087
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0087】
CO質量演算部150は、センサ検出値取得部140において取得されるガスセンサ200の検出値と、統括制御部110から発せられる空燃比A/Fと燃料噴射量の値とに基づいて、排ガスに含まれるCOの質量の推定値を演算する。CO質量演算部150には(より詳細には、これを構成する図示しないメモリには)、あらかじめ実験的に特定された式(1)~式(3)が(より具体的にはこれらを与える比例定数 ~a が)格納されてなる。