(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149708
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス材
(51)【国際特許分類】
A01N 33/12 20060101AFI20231005BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231005BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20231005BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20231005BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20231005BHJP
C01B 37/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A01N33/12 101
A01P3/00
A01P1/00
A01N25/30
A01N25/08
C01B37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058437
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】平尾 理恵
(72)【発明者】
【氏名】重藤 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 伸二
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘広
【テーマコード(参考)】
4G073
4H011
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA81
4G073BB02
4G073BB03
4G073BB07
4G073BB15
4G073BB48
4G073BC02
4G073BD11
4G073BD15
4G073CA06
4G073FC04
4G073FC13
4G073FC19
4G073UB33
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB04
4H011BC18
(57)【要約】
【課題】有効成分と基材との結合不足に起因する抗菌・抗ウイルス材の性能低下を抑え、さらに抗菌・抗ウイルス性能を高める。
【解決手段】抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す抗菌・抗ウイルス材は、メソ孔を有する多孔質シリカと、前記抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤と、を備え、前記界面活性剤は、前記多孔質シリカのメソ孔内において、ミセル状態で前記多孔質シリカに結合されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す抗菌・抗ウイルス材であって、
メソ孔を有する多孔質シリカと、
前記抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤と、
を備え、
前記界面活性剤は、前記多孔質シリカのメソ孔内において、ミセル状態で前記多孔質シリカに結合されている
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記界面活性剤は、陽イオン界面活性剤である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項3】
請求項2に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記界面活性剤は、4級アンモニウム塩である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項4】
請求項3に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記界面活性剤は、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項5】
請求項4に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、0.5mmol以上である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項6】
請求項5に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、1.0mmol以上である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項7】
抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す抗菌・抗ウイルス材であって、
メソ孔を有する多孔質シリカと、
前記多孔質シリカのメソ孔内に担持され、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩である界面活性剤と、
を備え、
前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、0.5mmol以上である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項8】
請求項7に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、1.0mmol以上である
抗菌・抗ウイルス材。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の抗菌・抗ウイルス材であって、
前記多孔質シリカは、メソポーラスシリカである
抗菌・抗ウイルス材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌・抗ウイルス材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗菌性や抗ウイルス性を有する種々の物質が知られており、抗菌・抗ウイルス材として、例えば、抗菌活性や抗ウイルス活性を有する有効成分を担体上に担持したものなど、種々の抗菌・抗ウイルス材が提案されている。例えば、特許文献1には、抗菌性材料である金属錯塩を、シリカゲル等の多孔性粒子担体に担持させる構成が開示されている。また、特許文献2には、第4級アンモニウム超強酸塩と、二酸化珪素(シリカ)などの無機微粉末とを混合して得られる粉末状の抗菌防カビ剤が開示されている。また、特許文献3には、二酸化珪素(シリカ)によって構成されるメソポーラスシリカを、抗ウイルス剤として用いる構成が開示されている。さらに、非特許文献1には、アルミナ(Al2O3)ナノポーラス膜を作製し、これに消毒剤クロルヘキシジン(CHX)を含浸させた抗ウイルスコーティングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-155725号公報
【特許文献2】特開2009-126807号公報
【特許文献3】特開2019-151592号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】国立研究開発法人産業技術総合研究所、“ウイルスを短時間で不活性化できるコーティング技術を開発”[online]、2021年3月22日、[2022年3月1日検索]、インターネット<URL:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210322/pr20210322.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に記載のように、抗菌性等を有する有効成分を担体に担持させる構成、特許文献2に記載のように、抗菌性等を有する有効成分を微粒子と混合する構成、あるいは、非特許文献1に記載のように、ナノポーラス膜に有効成分を含浸させる構成では、担体や微粒子やナノポーラス膜等の基材と、抗菌性等を有する有効成分と、の間の結合が不十分になる場合があった。有効成分と基材との結合が不十分であると、有効成分が徐放されること等により、抗菌・抗ウイルス材の性能が低下し易くなるという問題が生じ得た。また、抗菌・抗ウイルス材においては、さらなる性能向上が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す抗菌・抗ウイルス材が提供される。この抗菌・抗ウイルス材は、メソ孔を有する多孔質シリカと、前記抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤と、を備え、前記界面活性剤は、前記多孔質シリカのメソ孔内において、ミセル状態で前記多孔質シリカに結合されている。
この形態の抗菌・抗ウイルス材によれば、抗菌・抗ウイルス性を示す界面活性剤は、多
孔質シリカのメソ孔内において、ミセル状態でメソポーラスシリカに結合されている。そのため、抗菌・抗ウイルス性を示す界面活性剤と、基材である多孔質シリカと、の間の結合力を高めて結合を安定させ、抗菌・抗ウイルス材における界面活性剤の解離等に起因する性能低下を抑えることができる。また、多孔質シリカにおける界面活性剤との結合量を高めて、より多くの界面活性剤を多孔質シリカに結合させることが可能になり、抗菌・抗ウイルス材の性能を向上させることができる。
(2)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記界面活性剤は、陽イオン界面活性剤であることとしてもよい。このような構成とすれば、陽イオン界面活性剤が有する抗菌・抗ウイルス活性を利用した、抗菌・抗ウイルス材とすることができる。
(3)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記界面活性剤は、4級アンモニウム塩であることとしてもよい。このような構成とすれば、4級アンモニウム塩が有する抗菌・抗ウイルス活性を利用した、抗菌・抗ウイルス材とすることができる。
(4)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記界面活性剤は、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩であることとしてもよい。このような構成とすれば、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩が有する抗菌・抗ウイルス活性を利用した、抗菌・抗ウイルス材とすることができる。
(5)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、0.5mmol以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、抗菌・抗ウイルス材の抗菌・抗ウイルス活性を高めることができる。
(6)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、1.0mmol以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、抗菌・抗ウイルス材の抗菌・抗ウイルス活性を、さらに高めることができる。
(7)本開示の他の一形態によれば、抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す抗菌・抗ウイルス材が提供される。この抗菌・抗ウイルス材は、メソ孔を有する多孔質シリカと、前記多孔質シリカのメソ孔内に担持され、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩である界面活性剤と、を備え、前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、0.5mmol以上である。
この形態の抗菌・抗ウイルス材によれば、多孔質シリカのメソ孔内に、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩である界面活性剤がミセル状態で結合される。そのため、抗菌・抗ウイルス性を示す界面活性剤と、基材である多孔質シリカと、の間の結合を安定させて結合力を高め、抗菌・抗ウイルス材における界面活性剤の解離等に起因する性能低下を抑えることができる。また、多孔質シリカにおける界面活性剤との結合量を高めて、より多くの界面活性剤を多孔質シリカに結合させることが可能になり、抗菌・抗ウイルス材の性能を向上させることができる。
(8)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記界面活性剤の含有量は、前記多孔質シリカ1g当たり、1.0mmol以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、抗菌・抗ウイルス材の抗菌・抗ウイルス活性を、さらに高めることができる。
(9)上記形態の抗菌・抗ウイルス材において、前記多孔質シリカは、メソポーラスシリカであることとしてもよい。このような構成とすれば、より多くの界面活性剤を多孔質シリカに結合させることが可能になり、抗菌・抗ウイルス材の性能を向上させることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、抗菌・抗ウイルス材の製造方法や、細菌やウイルスの不活化方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】抗菌・抗ウイルス材の構成を模式的に表す説明図。
【
図2】各サンプルについての接触時間ごとの残存ウイルス量を示す説明図。
【
図3】各サンプルについての接触時間ごとのウイルス失活量を示す説明図。
【
図4】各サンプルについての接触時間ごとの残存ウイルス量を示す説明図。
【
図5】各サンプルについての接触時間ごとのウイルス失活量を示す説明図。
【
図6】洗浄回数ごとの残存ウイルス量を示す説明図。
【
図8】界面活性剤の平衡濃度と相対吸着量との関係を示す説明図。
【
図9】界面活性剤の名称、アルキル鎖長、およびCMCをまとめて示す図。
【
図10】界面活性剤のアルキル鎖長と相対吸着量との関係を示す説明図。
【
図11】浸漬時間と界面活性剤担持量との関係を示す説明図。
【
図12】浸漬時間と界面活性剤担持量との関係を示す説明図。
【
図13】各複合体の測定結果等をまとめて示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.抗菌・抗ウイルス材の構成:
図1は、本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10の概略構成を模式的に表す説明図である。本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10は、メソ多孔質体であるメソポーラスシリカ20と、メソポーラスシリカ20のメソ孔内に配置される界面活性剤部30と、を備える。界面活性剤部30は、ミセル状態の界面活性剤によって構成される。すなわち、本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10は、メソポーラスシリカ20を基材として、メソポーラスシリカ20のメソ孔内において、抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤をミセル状態で保持している。
【0009】
メソポーラスシリカ20は、二酸化ケイ素(SiO
2:シリカ)によって構成されており、均一で規則的な細孔(メソ孔)を持つメソ多孔質体である。メソポーラスシリカ20のメソ孔の細孔直径は、0.5nm~50nmである。ここで、「細孔直径」とは、細孔直径分布曲線における最大ピークを示す細孔直径であり、「中心細孔直径」とも呼ぶ。細孔直径分布曲線は、液体窒素を用いて窒素の吸着測定を行って窒素吸着等温曲線を得て、得られた窒素吸着等温曲線から、例えばBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法の計算式により、求めることができる。メソポーラスシリカ20の細孔直径は、後述するように、界面活性剤部30となる界面活性剤を鋳型としてメソポーラスシリカ20を形成する場合には、用いる界面活性剤の種類(例えば分子長)を変化させることにより、調節することができる。メソポーラスシリカ20は、細孔分布および細孔の均一性の観点から、
図1に示すように、細孔が六方状に規則配置した、いわゆるヘキサゴナル構造を有することが望ましい。
【0010】
なお、メソポーラスシリカ20は、界面活性剤との結合性に対する影響が許容範囲であれば、二酸化ケイ素以外の材料を含んでいてもよい。例えば、メソポーラスシリカ20を構成するシリケート基本骨格において、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、スズ、鉛、バナジウム、ホウ素等の元素がさらに含まれていてもよい。
【0011】
界面活性剤部30を構成する界面活性剤は、
図1に示すように、メソポーラスシリカ20のメソ孔内において、ミセル状態でメソポーラスシリカ20に結合されている。界面活性剤部30を構成する界面活性剤は、抗菌性および抗ウイルス性のうちの少なくとも一方である抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤であって、溶媒中でミセルを形成可能であればよく、陽イオン性、陰イオン性、両性、あるいは非イオン性である各種の界面活性剤を用いることができる。中でも、陽イオン界面活性剤(カチオン界面活性剤)が望ましく、陽イオン界面活性剤の中でも、4級アンモニウム塩である界面活性剤が望ましい。4級アンモニウム塩である界面活性剤は、抗菌性を有することが広く知られている。また、このような4級アンモニウム塩の中でも、例えば、塩化ベンザルコニウムや、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのジアルキルジメチルアンモニウムクロライドは、さら
に抗ウイルス性を有することが知られている。また、本願発明者らは、4級アンモニウム塩の1種であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド(以下では、CTACとも称する)が、抗菌性に加えて抗ウイルス性も有するという新たな知見を得た。これら4級アンモニウム塩の中でも、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩が特に好ましい。これらの4級アンモニウム塩を用いて界面活性剤部30を構成することで、抗菌性および抗ウイルス性を有する抗菌・抗ウイルス材10を得ることができる。
【0012】
抗菌・抗ウイルス材10の界面活性剤部30を構成する界面活性剤が、メソポーラスシリカ20のメソ孔内において、ミセル構造となっているか否かは、例えば、メソポーラスシリカ20の単位質量当たりの界面活性剤の量により特定することができる。例えば、界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)等の、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩を用いる場合には、抗菌・抗ウイルス材10における界面活性剤の含有量が、メソポーラスシリカ1g当たり0.5mmol以上であるときに、界面活性剤がミセル状態でメソポーラスシリカ20のメソ孔内に配置されていると特定することができる。界面活性剤としてアルキル基の炭素数が10~18のアルキルトリメチルアンモニウム塩を用いるときの界面活性剤の含有量は、メソポーラスシリカ1g当たり0.7mmol以上とすることがより望ましく、1.0mmol以上とすることがさらに望ましい。界面活性剤がミセル構造をとっていないときには、界面活性剤の含有量として、上記のように大きな含有量を実現することができず、上記した界面活性剤の含有量は、メソポーラスシリカ20のメソ孔においてミセル状態で界面活性剤を充填することにより実現可能となる値である。
【0013】
なお、抗菌・抗ウイルス材10における界面活性剤の含有量を求めるには、抗菌・抗ウイルス材10の質量を測定した後に、抗菌・抗ウイルス材10を、例えば550℃以上の温度で焼成することによりメソポーラスシリカ20に結合されていた界面活性剤を除去して、メソポーラスシリカ20の質量を測定すればよい。そして、上記抗菌・抗ウイルス材10の質量とメソポーラスシリカ20の質量との差分を算出することにより、界面活性剤の含有量を求めることができる。具体的には、例えば、抗菌・抗ウイルス材10について熱重量分析(TG)を行ったときの重量減少量を測定することにより求めることができる。
【0014】
B.抗菌・抗ウイルス材の製造方法:
抗菌・抗ウイルス材10の製造方法としては、従来知られるメソポーラスシリカの製造工程における中間生成物を、抗菌・抗ウイルス材10として得る方法が挙げられる。また、抗菌・抗ウイルス材10の他の製造方法としては、予め用意したメソポーラスシリカ20に対して、界面活性剤をミセル状態で結合させる方法が挙げられる。従来知られるメソポーラスシリカの製造工程の中間生成物を、抗菌・抗ウイルス材10として得る場合の、従来知られるメソポーラスシリカの製造方法としては、いわゆる層間架橋製造法と、分子鋳型法と、を挙げることができる。
【0015】
「層間架橋製造法」とは、界面活性剤のミセルと層状シリケートとを材料として用いる方法である。具体的には、界面活性剤のミセルを鋳型としつつ、ミセルの周囲(ミセル間の隙間)に、層状シリケートの層間架橋による三次元シリケート骨格を形成させる工程を含み、その後、上記した界面活性剤のミセルを除去することにより、メソポーラスシリカを製造する方法である。上記した界面活性剤のミセルを除去する前の中間生成物を、本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10とすることができる。
【0016】
層間架橋製造法に使用し得る層状シリケートとしては、カネマイトを用いることが好ましい。カネマイト以外の層状シリケートとしては、例えば、ジケイ酸ナトリウム結晶(α、β、γ、δ-NaSiO5)、マカタイト(Na2Si4O9・5H2O)、アイアラ
イト(Na2Si8O17・xH2O)、マガディアイト(Na2Si14O29・xH2O)、ケニヤイト(Na2Si20O41・xH2O)を挙げることができる。また、その他の層状シリケートとして、セピオライト、モンモリオナイト、バーミキュライト、雲母、カオリナイト、スメクタイトのような粘土鉱物を酸性水溶液で処理してシリカ以外の元素を除去したものを用いてもよい。以下では、層間架橋製造法を用いた抗菌・抗ウイルス材10の製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0017】
層間架橋製造法により抗菌・抗ウイルス材10を製造する際には、層状シリケートと界面活性剤とを溶媒中で混合し、アルカリ条件下で加熱しつつ縮合反応を進行させることで、界面活性剤のミセルを鋳型としつつ、層状シリケート間に架橋構造を形成させる。これにより、層状シリケートの層間架橋による三次元シリケート骨格が形成されて、メソポーラスシリカ20が得られる。このとき、層状シリケートと界面活性剤との混合液における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度(以下、CMCと称す)以上とすればよい。臨界ミセル濃度とは、溶液中の界面活性剤がミセルを形成するために必要な最低濃度をいう。上記のようにして得られるメソポーラスシリカ20の細孔内には、鋳型として用いた界面活性剤のミセルが充填されて、界面活性剤部30を構成している。このようなメソポーラスシリカ20と界面活性剤との複合材料として、抗菌・抗ウイルス材10が製造される。
【0018】
層状シリケートと界面活性剤とを混合する際に用いる溶媒は、使用する界面活性剤をミセル化できればよく、例えば、水や、水・アルコール混合溶媒など、種々の溶媒を採用可能である。上記縮合反応は、例えば、層状シリケートと界面活性剤との混合液を、30~100℃、好ましくは70~80℃の加熱条件下で行うことができ、反応時間は2~24時間とすることができる。加熱反応中は、上記混合液を攪拌することが好ましい。加熱反応の際の上記混合液のpHは、少なくとも反応の初期段階(例えば、反応開始から1~5時間)では、pH10以上とすることが好ましく、その後、pH10以下として、1時間以上反応させることが好ましい。これにより、細孔内に界面活性剤のミセルが充填されたメソポーラスシリカが得られる。このような方法により得られるメソポーラスシリカは、既述したように、ヘキサゴナル構造であることが望ましい。縮合反応終了後、上記混合液より固形生成物(鋳型として用いられた界面活性剤のミセルが充填された状態のメソポーラスシリカ)を濾過・回収する。このとき、得られた固形生成物を脱イオン水で繰り返し洗浄することが好ましい。洗浄の後、上記固形生成物を乾燥することにより、抗菌・抗ウイルス材10が得られる。
【0019】
抗菌・抗ウイルス材10を構成するメソポーラスシリカ20の細孔直径は、例えば、鋳型として用いる界面活性剤の分子長を変化させることによって調節することができる。例えば、使用する界面活性剤をアルキル鎖の短いものに変更すれば、より小さい径のミセルが形成され、そのようなミセルを鋳型として用いることで、形成されたメソ多孔体の細孔径を、より小さくすることができる。例えば、メソポーラスシリカ20の細孔直径を0.5nm~10nmとする場合には、用いる界面活性剤は、炭素原子数2~18のものが好ましく、炭素原子数8~18のものがさらに好ましい。
【0020】
「分子鋳型法」とは、界面活性剤の分子集合体であるミセルを鋳型として、ゾルゲル法によりメソポーラスシリカを合成する方法である。特に、棒状ミセルの集合体であるヘキサゴナル構造を分子鋳型として用いることが好ましい。このような分子鋳型を用いて、シリカの原料であるアルコキシシランの加水分解反応および縮重合反応を進行させることにより、分子鋳型の表面にシリカが形成されて、メソポーラスシリカが得られる。
【0021】
上記方法で用いるシリカの原料としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシランや、水ガラスを挙げることができる。これらの1種類あるいは2種類以上を組み合わせて
用いることもできる。分子鋳型法による場合にも、メソポーラスシリカ20の細孔直径は、鋳型として用いる界面活性剤の分子長を変化させることにより調節可能であり、例えば、メソポーラスシリカ20の細孔直径を0.5nm~10nmとする場合には、用いる界面活性剤は、炭素原子数2~18のものが好ましく、炭素原子数8~18のものがさらに好ましい。
【0022】
分子鋳型法において、上記したアルコキシシランと界面活性剤とを溶媒中で混合する際には、界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度(CMC)以上とすればよく、例えば、20~30wt%とすることが好ましい。また、ヘキサゴナル構造を有するメソポーラスシリカを得るためには、反応原料中において、ケイ素に対する界面活性剤のモル比は、1より小さくすることが好ましく、0.1~0.6とすることがより好ましい。
【0023】
縮重合反応時の温度は、0~100℃の範囲とすればよい。縮重合反応時間は、シリカの原料の種類によって適宜調節すればよく、例えば、12時間~48時間、またはそれ以上とすればよい。数時間の攪拌と数時間の静置を繰り返すのが好ましい。縮重合反応後、生成した沈殿あるいはゲル状態の複合体を濾過し、必要であれば洗浄を行った後に乾燥、粉砕、篩い分け等することにより、粒状もしくは紛状の固形生成物が得られる。この固形生成物は、鋳型として用いられた界面活性剤のミセルが充填された状態のメソポーラスシリカである。このようにして、抗菌・抗ウイルス材10が得られる。
【0024】
上記した層間架橋製造法および分子鋳型法とは異なり、メソポーラスシリカ20に対して、界面活性剤をミセル状態で結合させる方法においては、まず、メソポーラスシリカ20を用意する。このようなメソポーラスシリカ20は、例えば、既述した層間架橋製造法や分子鋳型法によって製造される本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10と同様の物質を中間生成物として用いて、この中間生成物を、例えば550℃以上の温度で焼成することにより、中間生成物の細孔内の界面活性剤を除去して得ることができる。層間架橋製造法により作製される従来知られるメソポーラスシリカとしては、例えば、FSM-16が挙げられる(T.Yanagisawaら, Bull.Chem.Soc.Jpn.,63,988(1990)、S.Inagaki ら, J.Chem.Soc., Chem.Commun., 680(1993) )。また、分子鋳型法により作製される従来知られるメソポーラスシリカとしては、例えば、MCM-41が挙げられる(C.T.Kresge et al., Nature,359,710(1992))。
【0025】
そして、このようなメソポーラスシリカを、臨界ミセル濃度以上の濃度の界面活性剤を含む液中に加えて、メソポーラスシリカに、ミセル状態の界面活性剤を吸着させる。このような方法において、基材であるメソポーラスシリカに吸着する界面活性剤の量、および、メソポーラスシリカと界面活性剤との結合の強さは、メソポーラスシリカの細孔直径と、界面活性剤のミセルの径との関係により調節できる。界面活性剤のミセルの径が、メソポーラスシリカの細孔直径と同等以下であり、界面活性剤のミセルの径と、メソポーラスシリカの細孔直径とが近いほど、メソポーラスシリカに吸着する界面活性剤の量は多くなり、メソポーラスシリカと界面活性剤との結合は強くなる。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10によれば、界面活性剤部30を構成して抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤は、メソポーラスシリカ20のメソ孔内において、ミセル状態でメソポーラスシリカ20に結合されている。そのため、抗菌・抗ウイルス活性を示す界面活性剤と、基材であるメソポーラスシリカ20と、の間の結合力を高めて結合を安定させ、抗菌・抗ウイルス材10における界面活性剤の解離等に起因する性能低下を抑えることができる。また、メソポーラスシリカ20と、メソポーラスシリカ20の細孔内に配置される界面活性剤と、の間の結合力を高めることができることにより、抗菌・抗ウイルス材10に対して摩耗や洗浄等による外力が加えられる場合であっても、界面活性剤の脱落等に起因する抗菌・抗ウイルス材の性能低下を抑えることが
できる。また、本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10によれば、メソポーラスシリカ20における界面活性剤との結合力を高めることができるため、より多くの界面活性剤をメソポーラスシリカ20に結合させることが可能になり、抗菌・抗ウイルス材10の性能を向上させることができる。特に、本実施形態のように基材としてメソポーラスシリカを用いる場合には、後述するように他種の多孔質シリカを基材とする場合に比べて、より多くの界面活性剤を結合させることが可能になり、抗菌・抗ウイルス性能を高めることができる。
【0027】
このような抗菌・抗ウイルス材10では、抗菌・抗ウイルス活性を有する有効成分として界面活性剤を用いているため、例えば有効成分として光触媒を用いる場合のように光照射などの特別な処理が必要になることがない。また、有効成分として金属を用いる場合のように、経時的に進行する酸化により活性が低下することが起こり難い。
【0028】
さらに、本実施形態の抗菌・抗ウイルス材10は、メソポーラスシリカを基材とするため、樹脂との加工性が良好であり、樹脂への練り込み加工や、コーティング等の表面加工により、所望の部材の表面に抗菌・抗ウイルス性を付与することができる。特に、樹脂に練り込んで使用する場合には、摩耗に強く、抗菌・抗ウイルス材が剥がれ難い加工とすることができる。
【0029】
C.他の実施形態:
上記した実施形態では、抗菌・抗ウイルス活性を有する有効成分である界面活性剤を担持させる基材として、多孔質シリカの1種であるメソポーラスシリカを用いたが、異なる構成としてもよい。例えば、シリカゲルなど、メソ孔(ここでは、細孔直径が0.5nm~50nm)を有する他種の多孔質シリカを基材として用いてもよい。多孔質シリカのメソ孔内にミセル状態で界面活性剤を結合させることにより、メソポーラスシリカを用いる場合と同様に、基材と界面活性剤との結合力を高めると共に、界面活性剤の担持量をより多く確保することが可能になる。
【実施例0030】
以下では、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0031】
<各サンプルの作製>
[サンプルS1]
サンプルS1の抗菌・抗ウイルス材は、メソポーラスシリカのメソ孔内において、抗菌・抗ウイルス活性を有する界面活性剤であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド(C16H33N(CH3)3Cl:CTAC)を、ミセル状態で保持している。サンプルS1の抗菌・抗ウイルス材は、S. Inagaki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449-1457(1996)に記載の方法に従い、FSM-16として従来知られるメソポーラスシリカの中間生成物として作製した。このようなサンプルS1の抗菌・抗ウイルス材は、既述した層間架橋製造法により作製した。具体的には、4級アンモニウム塩の1種としての界面活性剤であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)の0.1規定水溶液300mLに、層状シリケートであるカネマイト3 gを加え、pH11.5以上でテフロン(登録商標)製のオートクレーブ中において70℃で3時間容器を振とうしながら加熱した。そして生成物をろ過、水洗した後に乾燥して、カネマイト層間に界面活性剤が導入された層間化合物を得た。次に、塩酸(HCl)でpH8.5に合わせた400mLのイオン交換水に、室温で3時間再懸濁し、ろ過、水洗した後、風乾させた。その後、70℃で48時間乾燥させて、サンプルS1の抗菌・抗ウイルス材を得た。このような製造方法における製造条件は、上記したS. Inagaki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449-1457(1996)に示されているように、メソポーラスシリカを得るための製造条件として確立されたものである
。
【0032】
[サンプルS2]
サンプルS2は、比較例のサンプルであり、界面活性剤を含まないメソポーラスシリカによって構成される。サンプルS2は、S. Inagaki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449-1457(1996)に記載の方法に従い、FSM-16として従来知られるメソポーラスシリカと同様の方法で作製した。すなわち、上記したサンプルS1を、550℃で6時間焼成して、メソポーラスシリカに結合されたCTACを除去することにより作製した。
【0033】
[サンプルS3]
サンプルS3として、市販の二酸化ケイ素(SiO2)の粒子(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径約4μm)を用意した。
【0034】
<エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の評価>
エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の評価は、エンベロープウイルスのモデルとしてバクテリオファージΦ6(NBRC105899)を使用して行った。サンプルS1~サンプルS3の各々25mgに対して、1/500NB培地(NB培地を滅菌精製水で500倍に希釈し、pHを7.0±0.2に調製した培地)にて濃度調整したバクテリオファージΦ6を、サンプル1.0mgあたり1.0×105pfuになるように500μL添加して、サンプルごとに懸濁液を作製した。96well-deep plateに各懸濁液を添加後、25℃、300rpmで振とうして、各サンプルとウイルスとを接触させた。各サンプルとウイルスとの接触時間は、5分、10分、35分間の3種類を設定した。なお、上記したいずれのサンプルも含まず、上記ウイルス液のみを35分間接触させたものを、対照実験とした。
【0035】
上記したウイルスとの接触のための振とうの操作の後、各液に、SCDLP培地1,000μLを添加してピペッティングし、25℃、5000rpmで3分間遠心分離後、上清を適時希釈し、宿主バクテリアであるシュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae:NBRC14084)に添加した。25℃、5分間の感染処理後、処理した各溶液をトップアガー培養液と混合させ、Ca添加LB寒天培地に播種した。播種した各プレートを、25℃にて40時間、静置条件下で培養し、培養終了後、プレート上に確認されたプラーク数をカウントした。希釈倍率をもとに、各サンプルの単位質量(mg)あたりのウイルス数(PFU)、すなわち、各サンプルと接触させた後の残存ウイルス数を算出し、「残存ウイルス量」とした。
【0036】
試験に用いたCa添加LB培養液は、Formedium社より購入したLB培養液に、終濃度2mMになるように塩化カルシウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加して作製した。また、Ca添加LB寒天培地は、Ca添加LB培養液に、微生物培地用寒天粉末(富士フィルム和光純薬株式会社製)を1.5%(wt./vol.)の濃度となるように加えて作製した。NB培地は日本ベクトン・ディッキンソン株式会社より購入し、SCDLP培地は日本製薬株式会社より購入した。
【0037】
図2は、各サンプルについての接触時間ごとの残存ウイルス量(PFU/mg)を示す説明図である。
図3は、各サンプルについての接触時間ごとのウイルス失活量(%)を示す説明図である。ウイルス失活量(%)は、以下の式(1)に基づいて算出した。
【0038】
ウイルス失活量(%)=( (対照実験の残存ウイルス量)-(サンプルとの接触後の残存ウイルス量))÷(対照実験の残存ウイルス量)×100 …(1)
【0039】
図2および
図3に示すように、サンプルS1(メソポーラスシリカ・CTAC複合体)
では、サンプルとウイルスとを5分間接触させた後には、残存ウイルスが検出されず、5分間の接触で99.99%以上のウイルス失活量(%)となることが観察された。サンプルS2(メソポーラスシリカFSM-16)では、サンプルとウイルスとを接触させたときに、5分間、および10分間の接触で経時的に残存ウイルス量が低下し、35分間の接触後には残存ウイルスが検出されず、35分間の接触で99.99%以上のウイルス失活量(%)となることが観察された。サンプルS3(SiO
2粒子)では、サンプルとウイルスとの接触時間が5分間、および10分間では、サンプルを含まない対照実験に比べて残存ウイルス量の低下が認められず、35分間の接触で、67.16%のウイルス失活量(%)となることが観察された。以上の結果より、エンベロープウイルスモデルであるバクテリオファージΦ6に関して、サンプルS1およびサンプルS2には抗ウイルス効果が認められ、サンプルS1は、サンプルS2に比べて短時間でウイルスを失活させることができ、高い抗ウイルス性を有することが確認された。
【0040】
<ノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の評価>
ノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の評価は、ノンエンベロープウイルスのモデルとしてバクテリオファージQβ(NBRC20012)を使用して行った。サンプルS1~サンプルS3の各々25mgに対して、1/500NB培地(NB培地を滅菌精製水で500倍に希釈し、pHを7.0±0.2に調製した培地)にて濃度調整したバクテリオファージQβを、サンプル1.0mgあたり1.0×105pfuになるように500μL添加して、サンプルごとに懸濁液を作製した。96well-deep plateに各懸濁液を添加後、25℃、300rpmで振とうして、各サンプルとウイルスとを接触させた。各サンプルとウイルスとの接触時間は、5分、10分、35分間の3種類を設定した。なお、上記したいずれのサンプルも含まず、上記ウイルス液のみを35分間接触させたものを、対照実験とした。
【0041】
上記したウイルスとの接触のための振とうの操作の後、各液に、SCDLP培地1,000μLを添加してピペッティングし、25℃、5000rpmで3分間遠心分離後、上清を適時希釈し、宿主バクテリアである大腸菌(Escherichia coli:NBRC106373)に添加した。37℃、5分間の感染処理後、処理した各溶液をトップアガー培養液と混合させ、Ca添加LB寒天培地に播種した。播種した各プレートを、37℃にて16時間、静置条件下で培養し、培養終了後、プレート上に確認されたプラーク数をカウントした。希釈倍率をもとに、各サンプルの単位質量(mg)あたりのウイルス数(PFU)、すなわち、各サンプルと接触させた後の残存ウイルス数を算出し、「残存ウイルス量」とした。
【0042】
試験に用いたCa添加LB培養液、Ca添加LB寒天培地、NB培地、およびSCDLP培地は、既述した<エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の評価>における説明と同様にして用意した。
【0043】
図4は、各サンプルについての接触時間ごとの残存ウイルス量(PFU/mg)を示す説明図である。
図5は、各サンプルについての接触時間ごとのウイルス失活量(%)を示す説明図である。ウイルス失活量(%)は、既述した式(1)に基づいて算出した。
【0044】
図4および
図5に示すように、サンプルS1(メソポーラスシリカ・CTAC複合体)では、サンプルとウイルスとを5分間接触させることで、ウイルス失活量は99.99%となり、10分間の接触で99.99%以上のウイルス失活量(%)となることが観察された。サンプルS2(メソポーラスシリカFSM-16)では、サンプルとウイルスとを接触させたときに、5分間、10分間、35分間の接触で経時的に残存ウイルス量が低下し、35分間の接触で99.74%のウイルス失活量(%)となることが観察された。サンプルS3(SiO
2粒子)では、経時的な残存ウイルス量の低下が認められなかった。
以上の結果より、ノンエンベロープウイルスモデルであるバクテリオファージQβに関して、サンプルS1およびサンプルS2には抗ウイルス効果が認められ、サンプルS1は、サンプルS2に比べて短時間でウイルスを失活させることができ、高い抗ウイルス性を有することが確認された。
【0045】
<繰り返し洗浄による抗ウイルス効果の安定性評価>
サンプルS1の抗菌・抗ウイルス材について、繰り返し洗浄を行ったときの抗菌・抗ウイルス材の安定性について調べた方法および結果を以下に示す。サンプルS1(メソポーラスシリカ・CTAC複合体)25mgに対して、1/500NB培地を1,000μL添加して、ボルテックスを用いて攪拌後、25℃、10,000rpmにて1分間遠心分離した。遠心分離後、上清を廃棄して沈殿を得て、以上の操作を1回の洗浄操作とした。サンプルS1を用いて、洗浄回数1回、5回、および10回のものを作製した。
【0046】
上記のように洗浄回数を異ならせたサンプルの各々25mgに対して、1/500NB培地にて濃度調整したバクテリオファージQβを、サンプル1.0mgあたり1.0×105pfuになるように500μL添加して、サンプルごとに懸濁液を作製した。96well-deep plateに各懸濁液を添加後、25℃、300rpmで5分間振とうして、各サンプルとウイルスとを接触させた。なお、上記したいずれのサンプルも含まず、上記ウイルス液のみを5分間振とうさせたもの(複合体無し)を、対照実験とした。
【0047】
上記したウイルスとの接触のための振とうの操作の後、各液に、SCDLP培地1,000μLを添加してピペッティングし、25℃、5000rpmで3分間遠心分離後、上清を適時希釈し、宿主バクテリアである大腸菌(Escherichia coli:NBRC106373)に添加した。37℃、5分間の感染処理後、処理した各溶液をトップアガー培養液と混合させ、Ca添加LB寒天培地に播種した。播種した各プレートを、37℃にて16時間、静置条件下で培養し、培養終了後、プレート上に確認されたプラーク数をカウントした。希釈倍率をもとに、各サンプルの単位質量(mg)あたりのウイルス数(PFU)、すなわち、各サンプルと接触させた後の残存ウイルス数を算出し、「残存ウイルス量」とした。
【0048】
試験に用いたCa添加LB培養液、Ca添加LB寒天培地、NB培地、およびSCDLP培地は、既述した<エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の評価>における説明と同様にして用意した。
【0049】
図6は、洗浄回数ごとの残存ウイルス量(PFU/mg)を示す説明図である。
図7は、洗浄回数ごとのプラークの写真を示す図である。サンプルS1(メソポーラスシリカ・CTAC複合体)では、洗浄回数が0回(未洗浄)、1回、5回、10回のいずれにもいてもプラークが全く検出されなかった。いずれのサンプルも含まない対照実験では添加したウイルス量が残存していることから、サンプルS1は、10回洗浄を行っても抗ウイルス効果を維持することができ、洗浄の操作に対して高い安定性を有することが確認された。
【0050】
<メソポーラスシリカに吸着する界面活性剤濃度の影響>
サンプルS1(メソポーラスシリカ・CTAC複合体)は、サンプルS2のようなメソポーラスシリカを製造する製造工程における中間生成物に相当するが、本開示に係る抗菌・抗ウイルス材(メソポーラスシリカ・CTAC複合体)は、予め用意したメソポーラスシリカに対して、界面活性剤(CTAC)を吸着させることにより製造することもできる。以下では、メソポーラスシリカに対して吸着させる界面活性剤の濃度と吸着量との関係を調べた結果を示す。ここでは、メソポーラスシリカとして、サンプルS2(FSM-16)と同様のメソポーラスシリカを用いた。そして、種々の濃度で調整した界面活性剤(
CTAC)の液中において、70℃で5時間反応させて、メソポーラスシリカに界面活性剤を吸着させた。
【0051】
界面活性剤の吸着量は、上記のように吸着に用いる界面活性剤液の濃度を変更して作製した各メソポーラスシリカ・CTAC複合体について、熱重量分析(TG)を行ったときの重量減少量から求めた。熱重量分析には、TG-DTA装置(セイコー電子工業株式会社製)を使用した。熱重量分析を行う際には、100℃で25分ホールド後、20℃/minまたは40℃/minの昇温速度で900℃まで昇温させた。空気を300mL/minで流通しながら測定した。界面活性剤の吸着量は、基材であるメソポーラスシリカの単位質量(g)当たりの界面活性剤の量(mmol)として特定した。
【0052】
メソポーラスシリカに界面活性剤を吸着させる際の界面活性剤の平衡濃度は、上記のようにして測定した界面活性剤の吸着量を利用して、界面活性剤の吸着に用いた界面活性剤液の初期濃度から逆算して求めた。
【0053】
図8は、界面活性剤(CTAC)の平衡濃度と相対吸着量との関係を示す説明図である。
図8において、横軸は、界面活性剤の平衡濃度を示し、縦軸は、界面活性剤の吸着量の最大値を100%としたときの相対吸着量(%)を示す。相対吸着量(%)は、下記の式(2)で表すことができる。
図8に示すように、界面活性剤の平衡濃度が0.1mol/L以下で、吸着が飽和に達していた。初濃度0.01mol/Lの溶液を用いて界面活性剤の吸着を行うと、平衡濃度はほぼ0になっていたため、0.01mol/L以下の低濃度で吸着が起こっていたと考えられる。25℃におけるCTACの臨界ミセル濃度(CMC)が、0.0014mol/Lであることから、70℃でのCTACのCMCは、0.001-0.01mol/Lと推定される。したがって、CTACは、CMC濃度で吸着量が飽和に達していたと考えられる。以上より、CTACがミセル形成することにより、CTACはメソポーラスシリカに吸着しやすくなって吸着量が増加し、CTACがCMC濃度未満では、吸着量が、より少なくなると考えられる。そして、上記したCTACのCMCを考慮すると、界面活性剤としてCTACを用いる場合には、
図8より、メソポーラスシリカ1g当たりのCTACの吸着量が0.5mmol以上であるときに、CTACがミセル状態でメソポーラスシリカのメソ孔内に配置されていると特定できると考えられる。
相対吸着量(%)=(各吸着量)÷(最大吸着量)×100 …(2)
【0054】
<メソポーラスシリカに吸着する界面活性剤の鎖長の影響>
サンプルS1のように、サンプルS2のようなメソポーラスシリカの製造工程における中間生成物としてメソポーラスシリカ・界面活性剤複合体を製造する際には、界面活性剤の種類の違い(例えば、アルキル鎖長など)によって界面活性剤のミセルの径が定まり、鋳型となる界面活性剤のミセルの径によって、得られるメソポーラスシリカのメソ孔の細孔直径が定まると考えられる。以下では、予め用意したメソポーラスシリカに対して界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム)を吸着させることによって、メソポーラスシリカ・界面活性剤複合体を製造する場合に、メソポーラスシリカに吸着させる界面活性剤を構成するアルキル基の炭素数(アルキル鎖長)と吸着量との関係を調べた結果を示す。ここでは、メソポーラスシリカとして、サンプルS2(FSM-16)と同様の、CTACを鋳型として作製したメソポーラスシリカを用いた。このようにして作製したメソポーラスシリカにおける細孔直径は、2~5nmである。そして、70℃で5時間反応させることによって、アルキル鎖長の異なる種々の界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩)を、上記メソポーラスシリカに吸着させて、吸着量を測定した。
【0055】
図9は、使用した界面活性剤の名称、アルキル基の炭素数(アルキル鎖長)、およびCMCをまとめて示す図である。
図10は、界面活性剤のアルキル鎖長(n)と、界面活性
剤の相対吸着量と、の関係を示す説明図である。
図9および
図10においてn=16として示すセチルトリメチルアンモニウムクロリドは、界面活性剤を吸着させる基材として用いたメソポーラスシリカを製造する際に鋳型として用いた界面活性剤(CTAC)である。
図10において、横軸は、界面活性剤のアルキル鎖長を示し、縦軸は、界面活性剤の吸着量の最大値を100%としたときの相対吸着量(%)を示す。ここでは、アルキル鎖長の異なる界面活性剤の各々を、種々の濃度でメソポーラスシリカに吸着させて吸着量を測定すると共に平衡濃度を算出し、平衡濃度が0.1mol/Lであったときに得られた複合体に関する結果を示している。
図10に示すように、アルキル基の炭素数nが10~18の範囲では、ほぼ同じ吸着量を示しており、吸着量は、ほぼ飽和していると考えられる。これに対して、アルキル基の炭素数nがより短い場合、すなわち、n=6およびn=8の場合には、上記の約1/2の吸着量であった。
【0056】
ここで、臨界ミセル濃度(CMC)は、一般に、アルキル鎖長が長くなるにしたがって小さくなることが知られている。
図9に示すように、n=8の界面活性剤のCMCは0.14mol/Lであるため、n=6の場合、およびn=8の場合には、平衡濃度が0.1mol/Lの条件下では、界面活性剤は溶液中でミセルを形成していないと考えられる。これに対して、n=10のCMCは0.068mol/Lであり、炭素数nが10以上のときには、溶液中でミセルが形成されていたと考えられる。したがって、メソポーラスシリカに界面活性剤を吸着させる際には、界面活性剤の濃度をCMC以上にして、ミセル状態で界面活性剤を吸着させることで、吸着量を高めることができると考えられる。
【0057】
また、
図10に示すように、炭素数nが10より大きいほど、吸着量は次第に大きくなり、n=14およびn=16で吸着量は最大となる傾向が認められた。そのため、メソポーラスシリカを製造する際に鋳型として用いた界面活性剤のアルキル鎖長に近いアルキル鎖長を有する界面活性剤を用いて、メソポーラスシリカへの吸着を行うことで、メソポーラスシリカに対する界面活性剤の吸着量をより向上させることができると考えられる。界面活性剤においては、一般に、アルキル鎖長が小さいほどミセル直径も小さくなる。そのため、メソポーラスシリカの細孔径に近いミセル径、あるいはメソポーラスシリカの細孔径よりも若干小さいミセル径を有する界面活性剤を用いることで、ミセル状態の界面活性剤をメソポーラスシリカのメソ孔内において、いわゆるぴったり収まった状態で、良好に吸着させることができると考えられる。
【0058】
<シリカ・界面活性剤複合体の安定性比較>
種々のシリカ・界面活性剤複合体を用いて、純水浸漬後の界面活性剤の吸着量の変動(界面活性剤の溶出量の変動)を調べた。既述したサンプルS1のメソポーラスシリカ・CTAC複合体、すなわち、メソポーラスシリカであるFSM-16の中間体に相当する複合体を、以下では、「FSM/Surf」とも呼ぶ。
図9および
図10に示したサンプルであって、界面活性剤としてCTAC(n=16)を用い、ミセル状態のCTACをメソポーラスシリカ(FSM-16)に吸着させたサンプルを、以下では、「FSM ad」とも呼ぶ。また、
図9および
図10に示したサンプルであって、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DDTMA、n=12)を用い、ミセル状態のDDTMAをメソポーラスシリカ(FSM-16)に吸着させたサンプルを、「FSM ad C12」と呼ぶ。また、
図9および
図10に示したサンプルであって、界面活性剤としてオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(ODTMA、n=18)を用い、ミセル状態のODTMAをメソポーラスシリカ(FSM-16)に吸着させたサンプルを、「FSM ad C18」と呼ぶ。また、メソ孔を有する多孔質シリカであって、メソポーラスシリカとは異なる構造を有する多孔質シリカであるシリカゲルAB(富士シリシア化学株式会社製)を基材として、上記「FSM ad」と同様にしてミセル状態のCTACを吸着させたサンプルを、「Silica AB ad」と呼ぶ。また、メソポーラスシリカ(FSM-16)に対して、ミセル濃度よりも低い濃度でCTAC(n=16)を吸着させたサンプルを、「FSM ad ucmc」と呼ぶ。上記した
「FSM ad」、「FSM ad C12」、「FSM ad C18」、および「Silica AB ad」は、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度以上の0.1mol/Lである溶液を用いて、室温で、1時間攪拌することによって界面活性剤を吸着させた。また、「FSM ad ucmc」は、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度未満である0.001mol/Lである溶液を用いて、室温で、1時間攪拌することによって界面活性剤を吸着させた。より具体的には、上記濃度となるように各々の界面活性剤を溶かした室温の純水4mLを導入したバイアル瓶に、吸着の基材の粉末100mgを導入し、マグネティックスターラーで1時間攪拌して、界面活性剤を吸着させた。
【0059】
上記した各サンプルの粉末を40mgずつ採取し、採取した粉末を、純水1mLを入れたマイクロチューブに導入した。粉末を純水に導入した後、約1秒間ボルテックスにて攪拌し、その後マイクロチューブを静置することで、各複合体から界面活性剤を溶出させた。所定の時間、各複合体を純水に浸漬させた後、複合体の粉末と溶出液とを分離し、沈降した粉末を3時間真空凍結乾燥させた。得られた乾燥状態の粉末約40mgを採取して、熱重量示差熱分析(TG-DTA分析)を行った。
【0060】
熱重量示差熱分析(TG-DTA:thermogravimetry-differential thermal analysis)は、示差熱天秤-光イオン化質量分析測定システム(株式会社リガク製、Thermo Mass photo)を用いて行った。吸着剤(基材)となるメソポーラスシリカあるいはシリカゲルABのそれぞれと界面活性剤との複合体からなる粉末試料5mgを採取し、試料の重量の変化率(TG%)および熱流(Heat flow (μV))を測定した。ヘリウム(He)雰囲気下にて20℃min-1で昇温し、粉末試料に吸着している水分を揮発させるため、100℃で25分間保持した後、900℃まで昇温した。界面活性剤の吸着量は、基材であるメソポーラスシリカあるいはシリカゲルABの単位質量(g)当たりの界面活性剤の量(gあるいはmmol)として特定した。
【0061】
図11は、複合体を純水に浸漬した時間と、複合体における界面活性剤担持量との関係を示す説明図である。
図11において、横軸は、複合体を純水に浸漬した浸漬時間を示す。縦軸は、複合体における界面活性剤担持量、より具体的には、メソポーラスシリカやシリカゲルなどの基材1g当たりの、基材に担持される界面活性剤の量(g
surfactant/g
adsorbent)を示す。
【0062】
図12は、複合体を純水に浸漬した時間と、複合体における界面活性剤担持量との関係を示す説明図である。ただし、
図11とは異なり、縦軸は、界面活性剤担持量として、純水に浸漬する前の基材が担持する界面活性剤の量(g
surfactant/g
adsorbent)を1とした場合の、相対的な値を示す。
【0063】
図13は、各複合体の測定結果等をまとめて示す説明図である。
図13では、純水に浸漬する前の界面活性剤担持量を、上記した基材1g当たりの界面活性剤担持量を「g」で表した数値(g
surfactant/g
adsorbentと表記)と、上記した基材1g当たりの界面活性剤担持量を「mmol」で表した数値(mmol
surfactant/g
adsorbentと表記)と、により表している。また、純水に浸漬した後の界面活性剤の担持量を、上記した基材1g当たりの界面活性剤担持量を「mmol」で表した数値(mmol
surfactant/g
adsorbentと表記)により表している。純水に浸漬した後の界面活性剤の担持量は、対イオン(Cl
-やBr
-)が取れた型でメソポーラスシリカに吸着したと仮定したときのモル数として算出した。また、
図13では、純水に浸漬した時間(最大260時間)を示すと共に、「界面活性剤保持率(%)」として、浸漬開始前の界面活性剤の担持量に対する、上記純水浸漬時間の経過後における界面活性剤の担持量の比率を示している。
【0064】
図13に示すように、メソポーラスシリカであるFSM-16の中間体に相当する複合体である「FSM/Surf」と、臨界ミセル濃度以上の濃度でメソポーラスシリカ(FSM-16)の孔径に最適な「n=16」の界面活性剤であるCTACを吸着させた「FSM ad」とは、純水浸漬時間260時間経過後も、90%以上の界面活性剤を保持していた。
【0065】
これに対して、臨界ミセル濃度よりも低い濃度で界面活性剤(CTAC)を結合させた「FSM ad ucmc」は、純水浸漬時間5時間経過後には100%の界面活性剤保持率を示すものの、複合体形成初期の界面活性剤の担持量が低かった。このように、メソポーラスシリカに対して界面活性剤を担持させる際に、界面活性剤がミセル状態ではない場合には、十分な抗菌・抗ウイルス活性を得られる量の界面活性剤を担持させ難いことが確認された。
【0066】
また、メソ孔を有する多孔質シリカであるシリカゲルABを基材として用いた「Silica
AB ad」では、複合体形成初期における多孔質シリカ1g当たりの界面活性剤の担持量は、「FSM/Surf」や「FSM ad」に比べると少ないものの、「FSM ad ucmc」よりも多く、0.5mmol/g以上であった。「Silica AB ad」における純水浸漬時間260時間経過後の界面活性剤保持率は、66%であった。このように、メソポーラスシリカとは異なる多孔質シリカを基材とする場合であっても、多孔質シリカのメソ孔内に界面活性剤をミセル状態で吸着させることにより、十分な量の界面活性剤を担持して、界面活性剤保持率を確保することが可能になることが確認された。
【0067】
基材として用いたメソポーラスシリカ(FSM-16)の合成時に鋳型として使われたものとは異なるアルキル鎖長の界面活性剤を担持させた「FSM ad C12」および「FSM ad C18」では、複合体形成初期における多孔質シリカ1g当たりの界面活性剤の担持量は、「FSM/Surf」や「FSM ad」に比べると少ないものの、「FSM ad ucmc」や「Silica AB ad」よりも多く、1.0mmol/g以上であった。「FSM ad C12」では、純水浸漬時間10時間経過後の界面活性剤保持率は48%以下であり、「FSM ad C18」では、純水浸漬時間5時間経過後の界面活性剤保持率は86%であった。このように、メソポーラスシリカの合成時に鋳型として使用されたものとは異なるアルキル鎖長の界面活性剤をメソポーラスシリカに吸着させる場合であっても、メソポーラスシリカのメソ孔内に界面活性剤をミセル状態で吸着させることにより、十分な量の界面活性剤を担持して、界面活性剤保持率を確保することが可能になることが確認された。
【0068】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。