(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149721
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ブッシュ及び構造部材
(51)【国際特許分類】
B60G 7/02 20060101AFI20231005BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20231005BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60G7/02
B60G7/00
F16F15/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058454
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】河内 毅
【テーマコード(参考)】
3D301
3J048
【Fターム(参考)】
3D301AA72
3D301CA01
3D301DA90
3D301DB03
3D301DB06
3J048BA19
3J048EA18
(57)【要約】
【課題】自動車の前後方向の荷重に対する構造部材の耐力を向上させることができる自動車用のブッシュを提供する。
【解決手段】ブッシュ(20,20A,20B)は、外筒(21,21A,21B)と、内筒(22,22A,22B)と、弾性体(23)とを備える。内筒(22,22A,22B)の中心軸が外筒(21,21A,21B)の中心軸と一致している状態から内筒(22,22A,22B)が外筒(21,21A,21B)に対して相対的に接近した距離が可動域(R)の60%以内である時点で、左右相当方向を軸とする、外筒(21,21A,21B)に対する内筒(22,22A,22B)の相対的な回転と比較して、前後相当方向を軸とする、外筒(21,21A,21B)に対する内筒(22,22A,22B)の相対的な回転が生じにくくなるように、外筒(21,21A,21B)及び内筒(22,22A,22B)の相対的な回転の規制が開始される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用のブッシュであって、
外筒と、
前記外筒の内側に配置された内筒と、
前記外筒と前記内筒との間に充填された弾性体と、
を備え、
前記外筒の中心軸から前記外筒の内周面までの距離と、前記内筒の中心軸から前記内筒の外周面までの距離との差を前記外筒及び前記内筒の相対的な可動域としたとき、
前記内筒の前記中心軸が前記外筒の前記中心軸と一致している状態から前記内筒が前記外筒に対して相対的に移動して接近した距離が前記可動域の60%以内である時点で、前記ブッシュが自動車に取り付けられた状態で前記自動車の左右方向に相当する左右相当方向を軸とする、前記外筒に対する前記内筒の相対的な回転と比較して、前記ブッシュが前記自動車に取り付けられた状態で前記自動車の前後方向に相当する前後相当方向を軸とする、前記外筒に対する前記内筒の相対的な回転が生じにくくなるように、前記外筒及び前記内筒の相対的な回転の規制が開始される、ブッシュ。
【請求項2】
請求項1に記載のブッシュであって、
前記外筒と前記内筒との相対的な移動距離が前記可動域の60%以内である時点で、前記前後相当方向を軸とする、前記外筒に対する前記内筒の相対的な回転の規制とともに、前記ブッシュが自動車に取り付けられた状態で前記自動車の上下方向に相当する上下相当方向を軸とする、前記外筒に対する前記内筒の相対的な回転の規制が開始される、ブッシュ。
【請求項3】
請求項1に記載のブッシュであって、
前記前後相当方向を軸とする、前記外筒に対する前記内筒の相対的な回転は、前記内筒が前記外筒と接触することによって規制される、ブッシュ。
【請求項4】
請求項1に記載のブッシュであって、
前記内筒は、筒状の内筒本体と、前記内筒本体の外周面から前記外筒側に突出するフランジ部と、を含み、
前記外筒は、前記外筒と前記内筒との相対的な移動距離が前記可動域の60%以内である時点で前記フランジ部を受け入れるように、前記外筒の側壁に形成された開口部を含む、ブッシュ。
【請求項5】
請求項4に記載のブッシュであって、
前記内筒は、当該内筒の軸方向に離間して配置された複数の前記フランジ部を含み、
前記外筒は、複数の前記フランジ部に対応して複数の前記開口部を含む、ブッシュ。
【請求項6】
請求項4に記載のブッシュであって、
前記フランジ部は、前記内筒本体の前記外周面から前記前後相当方向に突出している、ブッシュ。
【請求項7】
請求項6に記載のブッシュであって、
前記フランジ部は、前記内筒の前記中心軸に対して前記左右相当方向に偏って配置されている、ブッシュ。
【請求項8】
請求項4に記載のブッシュであって、
前記フランジ部は、前記内筒本体の前記外周面から前記左右相当方向に突出し、
前記外筒は、前記外筒の前記中心軸を含む断面で前記ブッシュを見て、前記外筒の側壁のうち少なくとも前記フランジ部側の部分に形成され、前記内筒本体側に凹の形状を有する凹部を含む、ブッシュ。
【請求項9】
請求項4に記載のブッシュであって、
前記フランジ部は、前記内筒本体の前記外周面から前記左右相当方向に突出し、
前記内筒本体は、前記内筒の前記中心軸を含む断面で前記ブッシュを見て、前記内筒本体の側壁のうち少なくとも前記フランジ部側の部分に形成され、前記外筒側に凸の形状を有する凸部を含む、ブッシュ。
【請求項10】
自動車用の構造部材であって、
請求項1から9のいずれか1項に記載のブッシュと、
前記ブッシュが取り付けられる部材本体と、
を備える、構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車用のブッシュ及び構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、様々な構造部材によって構成されている。構造部材の中には、ブッシュを介して他の部材又は部品に連結されるものがある。例えば、特許文献1には、フロントブッシュ及びリアブッシュによって車体に連結されたロアアームが開示されている。
【0003】
特許文献1のロアアームにおいて、リアブッシュは、フロントブッシュの後方に配置されている。リアブッシュは、外筒と、外筒の内側に配置された内筒と、外筒と内筒との間に充填されたゴム部とを含む。リアブッシュは、内筒に挿入されたボルトにより、車体に固定されている。特許文献1のロアアームのうち、フロントブッシュ及びリアブッシュの反対側の部分は、ボールジョイントを介して車輪に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、自動車の車輪が縁石等に乗り上げた場合、ロアアームのような構造部材に対し、自動車の前後方向の荷重が負荷される。構造部材では、この荷重に起因して変形が生じる。前後方向の荷重に対する構造部材の耐力が不十分である場合、構造部材が座屈や破断に至る可能性がある。
【0006】
本開示は、自動車の前後方向の荷重に対する構造部材の耐力を向上させることができる自動車用のブッシュを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る自動車用のブッシュは、外筒と、内筒と、弾性体とを備える。内筒は、外筒の内側に配置されている。弾性体は、外筒と内筒との間に充填されている。外筒の中心軸から外筒の内周面までの距離と、内筒の中心軸から内筒の外周面までの距離との差を外筒及び内筒の相対的な可動域としたとき、内筒の中心軸が外筒の中心軸と一致している状態から内筒が外筒に対して相対的に移動して接近した距離が可動域の60%以内である時点で、左右相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転と比較して、前後相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転が生じにくくなるように、外筒及び内筒の相対的な回転の規制が開始される。左右相当方向は、ブッシュが自動車に取り付けられた状態で自動車の左右方向に相当する方向である。前後相当方向は、ブッシュが自動車に取り付けられた状態で自動車の前後方向に相当する方向である。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る自動車用のブッシュによれば、自動車の前後方向の荷重に対する構造部材の耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る自動車用の構造部材の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る自動車用のブッシュの横断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すブッシュのIII-III断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るブッシュの動作を説明するための図であり、当該ブッシュの横断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るブッシュの動作を説明するための図であり、
図4に示すブッシュのV-V断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るブッシュの動作を説明するための図であり、
図4及び
図5に示すブッシュを自動車の前方から見た図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係るブッシュの縦断面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係るブッシュの横断面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係るブッシュの動作を説明するための図であり、当該ブッシュの縦断面図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係るブッシュの縦断面図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係るブッシュの横断面図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係るブッシュの動作を説明するための図であり、当該ブッシュの縦断面図である。
【
図13】
図13は、解析で得られた構造部材の荷重-変位曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係る自動車用のブッシュは、外筒と、内筒と、弾性体とを備える。内筒は、外筒の内側に配置されている。弾性体は、外筒と内筒との間に充填されている。外筒の中心軸から外筒の内周面までの距離と、内筒の中心軸から内筒の外周面までの距離との差を外筒及び内筒の相対的な可動域としたとき、内筒の中心軸が外筒の中心軸と一致している状態から内筒が外筒に対して相対的に移動して接近した距離が可動域の60%以内である時点で、左右相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転と比較して、前後相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転が生じにくくなるように、外筒及び内筒の相対的な回転の規制が開始される。左右相当方向は、ブッシュが自動車に取り付けられた状態で自動車の左右方向に相当する方向である。前後相当方向は、ブッシュが自動車に取り付けられた状態で自動車の前後方向に相当する方向である(第1の構成)。
【0011】
構造部材に対して自動車の前後方向に荷重が負荷されたとき、構造部材を他の部材又は部品に接続するブッシュでは、当該荷重に起因して、内筒が外筒に対して相対的に移動して接近する。その後、内筒は、外筒に対し、例えば車両の前後方向を軸として相対的に回転する。この外筒及び内筒の相対回転は、構造部材の耐力(最大荷重)に影響を及ぼす。
【0012】
これに対して、第1の構成に係るブッシュは、外筒及び内筒が相対的に接近したとき、外筒に対する内筒の相対的な回転を規制するように構成されている。より具体的には、外筒と内筒との相対的な移動距離が可動域の60%を超える前に、自動車の左右方向に相当する方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転と比較して、自動車の前後方向に相当する方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転が生じにくくなる。これにより、構造部材のうちブッシュが取り付けられている部分の変形が抑制される。そのため、自動車の前後方向の荷重に対し、構造部材の耐力を向上させることができる。
【0013】
上記ブッシュでは、外筒と内筒との相対的な移動距離が可動域の60%以内である時点で、前後相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転の規制とともに、上下相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転の規制が開始されることが好ましい。上下相当方向は、ブッシュが自動車に取り付けられた状態で自動車の上下方向に相当する方向である(第2の構成)。
【0014】
第2の構成では、外筒及び内筒の相対的な移動距離が可動域の60%を超える前に、自動車の上下方向に相当する方向を軸とする、外筒に対する前記内筒の相対的な回転も規制される。これにより、ブッシュが取り付けられた構造部材は、自動車の前後方向の荷重に対して優れた耐力を発揮することができる。
【0015】
前後相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転は、内筒が外筒と接触することによって規制されてもよい(第3の構成)。
【0016】
内筒は、筒状の内筒本体と、フランジ部とを含んでいてもよい。フランジ部は、内筒本体の外周面から外筒側に突出する。この場合、外筒は、開口部を含むことができる。開口部は、外筒と内筒との相対的な移動距離が可動域の60%以内である時点でフランジ部を受け入れるように、外筒の側壁に形成されている(第4の構成)。
【0017】
第4の構成では、外筒及び内筒が相対的に接近したとき、内筒に設けられたフランジ部が外筒に設けられた開口部に受け入れられる。この場合、内筒が外筒に対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部が開口部の縁に接触して当該回転が規制される。これにより、ブッシュが取り付けられた構造部材は、自動車の前後方向の荷重に対し、優れた耐力を発揮することができる。
【0018】
内筒は、複数のフランジ部を含んでいてもよい。外筒は、複数のフランジ部に対応して複数の開口部を含んでいてもよい。複数のフランジ部は、例えば、内筒の軸方向に離間して配置される(第5の構成)。
【0019】
フランジ部は、内筒本体の外周面から前後相当方向に突出することができる(第6の構成)。この場合、フランジ部は、内筒の中心軸に対して左右相当方向に偏って配置されていることが好ましい(第7の構成)。
【0020】
第7の構成において、フランジ部は、内筒の中心軸に対し、自動車の左右方向に相当する方向に偏って配置されている。この場合、フランジ部が内筒の中心軸と一致する位置に配置されている場合と比較して、フランジ部と外筒との左右相当方向における距離が短くなる。これにより、構造部材に対して自動車の前後方向に荷重が負荷され、内筒が外筒に対して自動車の左右方向に相対的に接近したとき、内筒のフランジ部が外筒の開口部に挿入されやすくなる。すなわち、内筒のフランジ部と外筒との左右相当方向における距離が比較的短いことにより、内筒と外筒との相対的な接近量が小さい場合であっても、フランジ部が開口部に挿入される。
【0021】
フランジ部は、内筒本体の外周面から左右相当方向に突出することができる。この場合、外筒は、内筒本体側に凹の形状を有する凹部を含んでいてもよい。凹部は、外筒の中心軸を含む断面でブッシュを見て、外筒の側壁のうち少なくともフランジ部側の部分に形成される(第8の構成)。
【0022】
第8の構成では、外筒及び内筒が相対的に接近したとき、内筒に設けられたフランジ部が外筒に設けられた開口部に受け入れられる。この場合、内筒が外筒に対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部が開口部の縁に接触して当該回転が規制される。さらに、内筒のフランジ部が外筒の開口部に挿入された状態では、内筒本体のうちフランジ部側の部分と外筒に設けられた凹部との間で弾性体が強く圧縮されて硬くなる。この場合、内筒が外筒に対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、外筒の凹部が硬くなった弾性体に支持されて当該回転を抑制することができる。
【0023】
フランジ部は、内筒本体の外周面から左右相当方向に突出することができる。この場合、内筒本体は、外筒側に凸の形状を有する凸部を含んでいてもよい。凸部は、内筒の中心軸を含む断面でブッシュを見て、内筒本体の側壁のうち少なくともフランジ部側の部分に形成される(第9の構成)。
【0024】
第9の構成では、外筒及び内筒が相対的に接近したとき、内筒に設けられたフランジ部が外筒に設けられた開口部に受け入れられる。この場合、内筒が外筒に対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部が開口部の縁に接触して当該回転が規制される。さらに、内筒のフランジ部が外筒の開口部に挿入された状態では、フランジ部側で、内筒本体の凸部及び外筒によって弾性体が強く圧縮されて硬くなる。この場合、内筒が外筒に対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、内筒本体の凸部が硬くなった弾性体に支持されて当該回転を抑制することができる。
【0025】
本実施形態に係る自動車用の構造部材は、上記ブッシュと、ブッシュが取り付けられる部材本体とを備える(第10の構成)。
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0027】
<第1実施形態>
[構造部材及びブッシュの構造]
図1は、第1実施形態に係る自動車用の構造部材100の概略構成を示す斜視図である。構造部材100は、例えば、自動車のシャシー部品である。シャシー部品には、ロアアームやアッパーアーム等のサスペンションアームが含まれる。本実施形態では、構造部材100がロアアームである例について説明する。
【0028】
図1を参照して、構造部材100は、部材本体10と、ブッシュ20とを備える。
【0029】
部材本体10は、板材から形成される。部材本体10は、典型的には金属板から形成される。部材本体10を金属板から形成する場合、当該金属板は、例えば、鉄(Fe)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、又はこれらの合金等で構成されてもよい。部材本体10は、例えば、金属板のプレス成形によって作製することができる。
【0030】
本実施形態の例において、部材本体10は、その平面視で全体的に湾曲している。部材本体10は、アーム11,12と、取付け部13とを含む。アーム11,12を含む。アーム11,12は、部材本体10の平面視で異なる方向に延びている。ロアアームである構造部材100が自動車に取り付けられた状態では、一方のアーム11は概ね自動車の左右方向(車幅方向)に延び、他方のアーム12は概ね自動車の前後方向(車長方向)に延びる。以下、ブッシュ20を含む構造部材100に関し、構造部材100が自動車に取り付けられた状態で自動車の左右方向に相当する方向及び前後方向に相当する方向を、それぞれ左右相当方向及び前後相当方向という。また、構造部材100が自動車に取り付けられた状態で自動車の上下方向に相当する方向を上下相当方向という。
【0031】
アーム11の先端部は、ブッシュ(図示略)により、例えば、ボールジョイント及びステアリングナックルを介して自動車の車輪に連結される。アーム11,12の境界部は、ブッシュ(図示略)によって自動車の車体に連結される。アーム12の先端部は、ブッシュ20を介して自動車の車体に連結される。アーム12の先端部には、ブッシュ20を取り付けるための取付け部13が設けられている。アーム12の先端部は、構造部材100が自動車に取り付けられた状態でアーム11,12の境界部に対して後方に配置される。
【0032】
ブッシュ20は、外筒21と、内筒22と、弾性体23とを含む。外筒21及び内筒22は、例えば、実質的に円筒状を有する。ただし、外筒21及び内筒22は、例えば多角筒状や楕円筒状等、円筒状以外の筒状を有することもできる。内筒22は、外筒21の内側に配置されている。外筒21及び内筒22は、典型的には金属で構成されている。外筒21と内筒22との間には、弾性体23が充填されている。弾性体23は、例えば、ゴムを主体とする材料で構成されている。
【0033】
以下、構造部材100のうちブッシュ20及びその近傍部分の構成について、
図2及び
図3を参照してより詳細に説明する。
図2は、ブッシュ20の横断面図である。すなわち、
図2では、上下相当方向に対して垂直な平面で切断したときのブッシュ20の断面を示す。
図3は、
図2に示すブッシュ20のIII-III断面図である。
【0034】
図2及び
図3を参照して、ブッシュ20は、部材本体10の取付け部13に取り付けられる。取付け部13は、取付け孔131と、周壁132とを含んでいる。取付け孔131は、部材本体10をその板厚方向に貫通する貫通孔である。周壁132は、取付け孔131の周縁部に連続して設けられている。周壁132は、取付け孔131の周縁部から部材本体10の板厚方向の一方側に延びている。取付け孔131及び周壁132は、例えば、部材本体10にバーリング加工を施すことによって形成することができる。
【0035】
部材本体10の取付け孔131及び周壁132には、ブッシュ20の外筒21が挿入される。外筒21は、例えば、取付け孔131及び周壁132に圧入される。そのため、取付け孔131及び周壁132は、外筒21に対応した形状を有する。例えば、外筒21が円筒状を有する場合、取付け孔131は円状を有し、周壁132は円筒状を有する。
【0036】
構造部材100に対して荷重が負荷されていない状態において、ブッシュ20の内筒22は、取付け孔131及び周壁132に挿入された外筒21と同軸に配置されている。すなわち、構造部材100に対して荷重が負荷されていない状態では、内筒22は、外筒21と共通の中心軸Aを有する。本実施形態において、内筒22は、内筒本体221と、2つのフランジ部222a,222bとを含む。
【0037】
内筒本体221は、中心軸Aを有する筒状に形成されている。内筒本体221は、例えば円筒状を有する。内筒本体221には、例えば、構造部材100を他の部材又は部品に連結するボルト(図示略)が挿入される。
【0038】
フランジ部222a,222bは、それぞれ、内筒本体221の外周面から外筒21側に突出する。フランジ部222a,222bの各々は、内筒本体221から前後相当方向に突出している。本実施形態の例では、ブッシュ20が自動車に取り付けられたとき、フランジ部222a,222bの各々は、内筒本体221から車体の前方に向かって突出する。フランジ部222a,222bは、内筒22と外筒21との間に充填された弾性体23を貫通する。弾性体23のうちフランジ部222a,222bに対応する部分には、切欠き部231a,231bが設けられていてもよい。切欠き部231a,231bは、フランジ部222a,222bの少なくとも一部を弾性体23から露出させるように、例えば、弾性体23の外筒21側の表面から内筒本体221側に向かって凹の形状を有する。
【0039】
フランジ部222a,222bは、内筒22の軸方向に離間して配置されている。内筒22の軸方向においてフランジ部222aとフランジ部222bとの間には、部材本体10の取付け孔131及び周壁132が配置されている。
【0040】
外筒21は、内筒22のフランジ部222a,222bに対応して、2つの開口部211a,211bを含んでいる。一方の開口部211aは、外筒21及び内筒22の軸方向において、一方のフランジ部222aに対応する位置に配置されている。他方の開口部211bは、外筒21及び内筒22の軸方向において、他方のフランジ部222bに対応する位置に配置されている。
【0041】
フランジ部222aは、内筒22の中心軸Aに対して左右相当方向に偏って配置されている。フランジ部222bも、フランジ部222aと同様に、内筒22の中心軸Aに対して左右相当方向に偏って配置されている。より具体的には、フランジ部222a,222bは、内筒22の中心軸Aと比較して自動車の車体の外側に配置されている。本実施形態の例では、フランジ部222a,222bは、その縦断面視で実質的に矩形状を有する。ただし、フランジ部222a,222bの形状はこれに限定されるものではない。
【0042】
[ブッシュの動作]
次に、構造部材100に対して自動車の前後方向の荷重が負荷されたときのブッシュ20の動作について、
図2及び
図3に加え、
図4~
図6を参照して説明する。
図4~
図6は、構造部材に含まれるブッシュの動作を説明するための図であり、いずれも構造部材100のうちブッシュ20及びその近傍部分を示す。
【0043】
まず、
図2及び
図3を参照して、構造部材100に荷重が負荷されていない状態では、ブッシュ20において外筒21と内筒22とが実質的に同軸に配置されている。この状態では、ブッシュ20の中心軸Aを含む断面で見て、内筒22の外周面から外筒21の内周面までの中心軸Aに対して垂直な方向における距離は、D
out-D
inとなっている。D
out-D
inを外筒21及び内筒22の相対的な可動域Rと定義する。
【0044】
Doutは、ブッシュ20の中心軸Aを含む断面において、中心軸Aから外筒21の内周面までの、中心軸Aに対して垂直な方向における距離である。Dinは、ブッシュ20の中心軸Aを含む断面において、中心軸Aから内筒本体221の外周面までの中心軸Aに対して垂直な方向における距離である。Dinは、Doutと同一位置で測定されるものとする。外筒21及び内筒本体221が円筒状を有する場合、Dout,Dinは、それぞれ外筒21の内周面の半径及び内筒本体221の外周面の半径となる。
【0045】
外筒21は、例えば取付け孔131及び周壁132への圧入により部材本体10に固定されている。一方、内筒22は、ボルトを介して構造部材100とは別体の部材又は部品に連結されている。そのため、例えば自動車が縁石に乗り上げ、構造部材100に対して車体の前方から荷重が負荷されたとき、
図4及び
図5に示すように、内筒22が外筒21に対して相対的に移動する。内筒22は、まず、外筒21及び内筒22の中心軸同士が一致している状態から外筒21に対し、主に左右相当方向に相対的に移動して接近する。内筒本体221の外周面と外筒21の内周面との距離は、外筒21及び内筒22の相対接近が進むにつれて短くなる。
【0046】
外筒21及び内筒22が相対的に接近した後、内筒22は、外筒21に対し、主に前後相当方向を軸として相対的に回転しようとする。ブッシュ20は、内筒22が外筒21に対して相対的に移動した距離(変位量)が
図3に示す可動域Rの60%以内である時点で、前後相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転の規制を開始するように構成されている。また、ブッシュ20は、外筒21と内筒22との相対的な移動距離が可動域Rの60%以内である時点で、上下相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転の規制を開始する。言い換えると、内筒本体221の外周面と外筒21の内周面との径方向の距離が可動域Rの40%未満となる前に、前後相当方向及び上下相当方向を軸とする相対回転の規制が開始される。ブッシュ20は、例えば、外筒21及び内筒22の相対的な移動距離が可動域Rの30%以上となったときに、前後相当方向及び上下相当方向を軸とする、外筒21及び内筒22の相対的な回転の規制を開始し、継続する。
【0047】
本実施形態では、内筒22が外筒21に対して相対的に移動した距離が可動域R(
図2)の60%以下の段階で、外筒21の開口部211a,211bがそれぞれ内筒22のフランジ部222a,222bを受け入れる。例えば、フランジ部222a,222bのうち弾性体23の切欠き部231a,231b(
図2及び
図3)から露出している部分が開口部211a,211bに挿し込まれる。
【0048】
図6は、構造部材100のうちブッシュ20及びその近傍部分を自動車の前方から見た図である。
図6において二点鎖線で示すように、外筒21の開口部211a内に内筒22のフランジ部222aが配置されると、内筒22が外筒21に対し、前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、内筒22のフランジ部222aが外筒21の開口部211aの縁に接触する。同様に、外筒21の開口部211b内に内筒22のフランジ部222bが配置されると、内筒22が外筒21に対し、前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、内筒22のフランジ部222bが外筒21の開口部211bの縁に接触する。フランジ部222a,222bは、外筒21の周方向における開口部211a,211bの側縁に接触する。これにより、前後相当方向を軸とする、外筒21及び内筒22の相対回転が規制される。
【0049】
内筒22が外筒21に対し、上下相当方向を軸として相対的に回転しようとしたときも、内筒22のフランジ部222a,222bが外筒21の開口部211a,211bの縁に接触する。フランジ部222a,222bは、外筒21の周方向における開口部211a,211bの側縁に接触する。これにより、上下相当方向を軸とする、外筒21及び内筒22の相対回転が規制される。
【0050】
一方、外筒21の開口部211a,211bがそれぞれ内筒22のフランジ部222a,222bを受け入れた後も、左右相当方向を軸とする、外筒21及び内筒22の相対回転はある程度許容される。ブッシュ20は、内筒22が外筒21に対して相対的に移動した距離が可動域R(
図3)の60%以内である時点で、左右相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転と比較して、前後相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転が生じにくくなるように、外筒21及び内筒22の相対的な回転を規制し始める。
【0051】
外筒21及び内筒22について、左右相当方向を軸とする相対回転の生じやすさ、及び前後相当方向を軸とする相対回転の生じやすさは、例えば、公知のアクチュエータを用いて確認することができる。すなわち、外筒21を保持する一方、内筒22にアクチュエータを接続し、左右相当方向を軸として内筒22を5度回転させ、トルク-内筒22の回転角度曲線を取得し、当該曲線の勾配(トルク増分/内筒22の回転角度増分)の最大値を取得する。また、アクチュエータを用い、左右相当方向を軸とした回転時と同様に前後相当方向を軸として内筒22を5度回転させ、トルク-内筒22の回転角度曲線を取得し、当該曲線の勾配の最大値を取得する。前後相当方向周りの回転時の曲線の勾配の最大値が、左右相当方向周りの回転時の曲線の勾配の最大値よりも100倍以上大きい場合、左右相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転よりも、前後相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転が生じにくいと判断する。
【0052】
本実施形態に係るブッシュ20では、外筒21の開口部211a,211bの寸法と、内筒22のフランジ部222a,222bの寸法との関係を適切に設定することにより、
左右相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転を許容し、前後相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転を抑制することができる。これにより、左右相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転と比較して、前後相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転を生じにくくすることができる。例えば、本実施形態の場合、外筒21の開口部211a,211bの上下相当方向における長さ(高さ)は、内筒22のフランジ部222a,222bの上下相当方向における長さ(厚み)よりも2.00倍以上大きい(開口部211a,211bの高さ/フランジ部222a,222bの厚み≧2.00)。外筒21の開口部211a,211bの周方向における長さ(幅)は、内筒22のフランジ部222a,222bの周方向における長さ(幅)の1.10倍以下とすることができる(開口部211a,211bの幅/フランジ部222a,222bの幅≦1.10)。この場合、
図6において二点鎖線で示すように、内筒22が外筒21に対し、前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部222a,222bが開口部211a,211bの縁に直ちに接触して当該回転を抑制することができる。ただし、開口部211a,211b及びフランジ部222a,222bの形状及び寸法は、これに限定されるものではない。外筒21の開口部211a,211bの寸法と、内筒22のフランジ部222a,222bの寸法との関係は、左右相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転と比較して、前後相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転が生じにくくなるように、適宜設定されればよい。
【0053】
さらに、外筒21の開口部211aが内筒22のフランジ部222aに挿入されたとき、開口部211aの縁とフランジ部222aとの間に生じる上下相当方向のクリアランスは、外筒21及び内筒22の周方向におけるクリアランスよりも大きい。同様に、外筒21の開口部211bが内筒22のフランジ部222bに挿入されたとき、開口部211bの縁とフランジ部222bとの間に生じる上下相当方向のクリアランスは、外筒21及び内筒22の周方向におけるクリアランスよりも大きい。上下相当方向において開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとのクリアランスが十分に確保されることにより、左右相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転が許容されやすくなる。上下相当方向における開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとのクリアランスは、左右相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転が生じたときのフランジ部222a,222bの内筒本体221への投影面積と、開口部211a,211bの高さとの関係で決定することができる。
【0054】
外筒21及び内筒22の周方向における開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとのクリアランスは、前後相当方向及び上下相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転の許容量に応じて決定することができる。例えば、前後相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転の許容量(回転角度)は、1°以下に設定される。例えば、上下相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転の許容量(回転角度)は、1°以下に設定される。外筒21及び内筒22の周方向における開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとのクリアランスは、これらの許容量に応じて幾何学的且つ一義的に定まる。開口部211a,211bにフランジ部222a,222bを挿入しやすくする観点からは、外筒21及び内筒22の周方向における開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとのクリアランスは、開口部211a,211bの幅/フランジ222a,222bの幅≧1.05を満たすように設定されることが好ましい。ただし、当該クリアランスは、前後相当方向及び上下相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転の許容量が左右相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転の許容量よりも小さくなるように設定される。
【0055】
[効果]
本実施形態に係る構造部材100に対して自動車の前後方向の荷重が負荷されたとき、ブッシュ20では、外筒21及び内筒22の中心軸同士が一致している状態から内筒22が外筒21に対して相対的に移動して接近する。ブッシュ20は、外筒21及び内筒22の相対的な移動距離が可動域Rの60%を超える前に、前後相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転の規制を開始する。より具体的には、構造部材100に対して車体の前方から荷重が負荷されることにより、外筒21及び内筒22が相対的に接近すると、内筒22のフランジ部222a,222bが外筒21の開口部211a,211bに挿入される。これにより、内筒22が外筒21に対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部222a,222bが開口部211a,211bの縁に接触して当該回転が規制される。そのため、構造部材100のうちブッシュ20が取り付けられている部分の変形が生じにくくなる。よって、自動車の前後方向の荷重に対し、構造部材100の耐力を向上させることができる。
【0056】
本実施形態に係る構造部材100において、内筒22のフランジ部222a,222bは、上下相当方向において、部材本体10に設けられた取付け部13の周壁132の外側に配置されている。そのため、内筒22が外筒21に対して例えば径方向に相対接近しても、フランジ部222a,222bが周壁132に干渉しない。よって、周壁132において、フランジ部222a,222bを受け入れるための開口部を設ける必要はない。
【0057】
本実施形態に係るブッシュ20では、構造部材100に対して自動車の前後方向の荷重が負荷された後、初期のうちは外筒21及び内筒22が相対的に移動することができる。すなわち、外筒21と内筒22との間に充填された弾性体23の変形が許容される。これにより、ブッシュ20を含む構造部材100が取り付けられた自動車において、乗り心地を確保することができる。
【0058】
本実施形態に係るブッシュ20は、外筒21及び内筒22が相対的に移動した距離が可動域Rの60%以内である時点で、左右相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転と比較して、前後相当方向を軸とする、外筒21に対する内筒22の相対的な回転が生じにくくなるように構成されている。すなわち、外筒21及び内筒22の相対接近が生じた後も、左右相当方向を軸とする外筒21及び内筒22の相対回転はある程度許容される。これにより、自動車の前後方向の荷重に対する構造部材100の耐力を確保しながら、構造部材100が取り付けられた自動車の乗り心地を確保することができる。
【0059】
本実施形態に係るブッシュ20において、フランジ部222a,222bは、内筒22の中心軸Aに対し、左右相当方向に偏って配置されている。これにより、フランジ部222a,222bが内筒22の中心軸と一致する位置に配置されている場合と比較して、フランジ部222a,222bから外筒21までの左右相当方向の距離が短くなる。よって、構造部材100に対して自動車の前後方向に荷重が負荷され、内筒22が外筒21に対して自動車の左右方向に相対的に接近したとき、フランジ部222a,222bが外筒21の開口部211a,211bに挿入されやすくなる。すなわち、フランジ部222a,222bと外筒21との左右相当方向における距離が比較的短いことにより、内筒22と外筒21との相対的な接近量が小さい場合であっても、フランジ部222a,222bが開口部211a,211bに挿入される。
【0060】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態に係る構造部材100Aに含まれるブッシュ20Aの縦断面図(中心軸Aを含む断面図)である。
図8は、ブッシュ20Aの横断面図(VIII-VIII断面図)である。本実施形態に係る構造部材100Aは、第1実施形態に係る構造部材100と同様の部材本体10を備えている。ただし、ブッシュ20Aは、第1実施形態のブッシュ20と異なる構成を有する。
【0061】
図7及び
図8を参照して、本実施形態に係るブッシュ20Aは、外筒21Aと、内筒22Aとを含む。
【0062】
内筒22Aは、第1実施形態と同様にフランジ部222a,222bを含んでいる。ただし、本実施形態では、第1実施形態と異なり、フランジ部222a,222bの各々は、内筒本体221から左右相当方向に突出している。より具体的には、フランジ部222a,222bの各々は、左右相当方向において内筒本体221から自動車の車体の外側に向かって突出している。前後相当方向において、フランジ部222a,222bの位置は、内筒22Aの中心軸Aの位置と一致している。
【0063】
外筒21Aは、凹部212を含んでいる。凹部212は、外筒21Aの側壁に形成されている。凹部212は、内筒本体221側に凹の形状を有している。凹部212は、例えば、内筒本体221に対向する底部212aを含んでいる。底部212aは、中心軸Aを含む断面で外筒21A及び内筒22Aを見て、内筒本体221の外周面と実質的に平行であることが好ましい。中心軸Aを含む断面で外筒21A及び内筒22Aを見たとき、凹部212は、外筒21Aの側壁のうち、少なくともフランジ部222a,222b側の部分に設けられる。
図7及び
図8に示す例では、外筒21Aの側壁の全周にわたり、凹部212が設けられている。
【0064】
図9は、ブッシュ20Aの動作を説明するための図である。第1実施形態と同様に、構造部材100Aに対して車体の前方から荷重が負荷されたとき、内筒22Aは外筒21Aに対して相対的に移動する。
図9に示すように、内筒22Aは、外筒21A及び内筒22Aの中心軸同士が一致している状態から、外筒21Aに対して主に左右相当方向に相対的に移動して接近する。
【0065】
外筒21Aの開口部211a,211bは、外筒21A及び内筒22Aが相対的に移動した距離が可動域Rの60%を超える前に、それぞれ内筒22Aのフランジ部222a,222bを受け入れる。これにより、
図9において二点鎖線で示すように、内筒22Aが外筒21Aに対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部222a,222bが開口部211a,211bの縁に接触して当該回転が規制される。
【0066】
外筒21A及び内筒22Aが接近したとき、弾性体23は、外筒21Aの凹部212と内筒本体221との間で圧縮されて硬くなる。外筒21Aの凹部212は、内筒22Aが外筒21Aに対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、硬くなった弾性体23によって支持されて当該回転を抑制する。
【0067】
このように、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、外筒21及び内筒22が相対的に移動した距離が可動域Rの60%以内である時点で、前後相当方向を軸とする、外筒21Aに対する内筒22Aの相対的な回転の規制が開始される。本実施形態に係るブッシュ20Aでも、外筒21Aの開口部211a,211bが内筒22Aのフランジ部222a,222bを受け入れることにより、前後相当方向を軸とする、外筒21Aに対する内筒22Aの相対的な回転を規制することができる。そのため、ブッシュ20Aは、自動車の前後方向の荷重に対して優れた耐力を構造部材100Aに発揮させることができる。
【0068】
本実施形態でも、外筒21Aの開口部211a,211bの縁と内筒22Aのフランジ部222a,222bとの間のクリアランスの設定により、外筒21Aに対する内筒22Aの相対的な回転に関し、左右相当方向を軸とする回転と比較して前後相当方向を軸とする回転を生じにくくすることができる。すなわち、左右相当方向を軸とする回転及び前後相当方向を軸とする回転のそれぞれについて許容される回転角度を定め、これらの回転角度に応じて開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとの間のクリアランスを幾何学的に決定すればよい。本実施形態において、外筒21の開口部211a,211bの高さは、例えば、内筒22のフランジ部222a,222bの厚みの1.20倍以下とすることができる(開口部211a,211bの高さ/フランジ部222a,222bの厚み≦1.20)。開口部211a,211bの幅は、例えば、フランジ部222a,222bの幅の1.50倍以上とすることができる(開口部211a,211bの幅/フランジ222a,222bの幅≧1.50)。
【0069】
また、本実施形態では、外筒21A及び内筒22Aが左右相当方向に相対接近したとき、弾性体23のうち、内筒22Aに対して左右相当方向(車体の外側)に位置する部分は外筒21Aの凹部212と内筒本体221との間で圧縮されて硬くなる一方、内筒22Aに対して前後相当方向に位置する部分は圧縮されにくい。これにより、前後相当方向を軸とする外筒21A及び内筒22Aの相対回転と比較して、左右相当方向を軸とする外筒21A及び内筒22Aの相対回転が許容されやすくなる。
【0070】
<第3実施形態>
図10は、第3実施形態に係る構造部材100Bに含まれるブッシュ20Bの縦断面図(中心軸Aを含む断面図)である。
図11は、ブッシュ20Bの横断面図(XI-XI断面図)である。本実施形態に係る構造部材100Bは、他の実施形態に係る構造部材100,100Aと同様の部材本体10を備えている。ただし、ブッシュ20Bは、他の実施形態のブッシュ20,20Aと異なる構成を有する。
【0071】
図10及び
図11を参照して、本実施形態に係るブッシュ20Bは、外筒21Bと、内筒22Bとを含む。
【0072】
内筒22Bは、他の実施形態と同様にフランジ部222a,222bを含んでいる。本実施形態において、フランジ部222a,222bの各々は、第2実施形態と同様に内筒本体221から左右相当方向に突出している。フランジ部222a,222bの各々は、左右相当方向において内筒本体221から自動車の車体の外側に向かって突出している。前後相当方向において、フランジ部222a,222bの位置は、内筒22Bの中心軸Aの位置と一致している。
【0073】
内筒本体221は、凸部223を含んでいる。凸部223は、内筒本体221の側壁に形成されている。凸部223は、外筒21B側に凸の形状を有している。凸部223は、例えば、外筒21Bに対向する頂部223aを含んでいる。頂部223aは、中心軸Aを含む断面で外筒21B及び内筒22Bを見て、外筒21Bの内周面と実質的に平行であることが好ましい。中心軸Aを含む断面で外筒21B及び内筒22Bを見たとき、凸部223は、内筒本体221の側壁のうち、少なくともフランジ部222a,222b側の部分に設けられる。
図10及び
図11に示す例では、内筒本体221の側壁の全周にわたり、凸部223が設けられている。
【0074】
図12は、ブッシュ20Bの動作を説明するための図である。他の実施形態と同様に、構造部材100Bに対して車体の前方から荷重が負荷されたとき、内筒22Bは外筒21Bに対して相対的に移動する。
図12に示すように、内筒22Bは、外筒21B及び内筒22Bの中心軸同士が一致している状態から、外筒21Bに対して主に左右相当方向に相対的に移動して接近する。
【0075】
外筒21Bの開口部211a,211bは、外筒21B及び内筒22Bが相対的に移動した距離が可動域Rの60%を超える前に、それぞれ内筒22Bのフランジ部222a,222bを受け入れる。これにより、
図12において二点鎖線で示すように、内筒22Bが外筒21Bに対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、フランジ部222a,222bが開口部211a,211bの縁に接触して当該回転が規制される。
【0076】
外筒21B及び内筒22Bが接近したとき、弾性体23は、外筒21Bと内筒本体221の凸部223との間で圧縮されて硬くなる。凸部223は、内筒22Bが外筒21Bに対して前後相当方向を軸として相対的に回転しようとしたとき、硬くなった弾性体23によって支持されて当該回転を抑制する。
【0077】
このように、本実施形態においても、他の実施形態と同様に、外筒21及び内筒22が相対的に移動した距離が可動域Rの60%以内である時点で、前後相当方向を軸とする、外筒21Bに対する内筒22Bの相対的な回転の規制が開始される。本実施形態に係るブッシュ20Bでも、外筒21Bの開口部211a,211bが内筒22Bのフランジ部222a,222bを受け入れることにより、前後相当方向を軸とする、外筒21Bに対する内筒22Bの相対的な回転を規制することができる。そのため、ブッシュ20Bは、自動車の前後方向の荷重に対して優れた耐力を構造部材100Aに発揮させることができる。
【0078】
本実施形態でも、外筒21Bの開口部211a,211bの縁と内筒22Bのフランジ部222a,222bとの間のクリアランスの設定により、外筒21Bに対する内筒22Bの相対的な回転に関し、左右相当方向を軸とする回転と比較して前後相当方向を軸とする回転を生じにくくすることができる。すなわち、左右相当方向を軸とする回転及び前後相当方向を軸とする回転のそれぞれについて許容される回転角度を定め、これらの回転角度に応じて開口部211a,211bの縁とフランジ部222a,222bとの間のクリアランスを幾何学的に決定すればよい。本実施形態の例について、開口部211a,211b及びフランジ部222a,222bの寸法は、第2実施形態と同様に設定することができる。
【0079】
また、本実施形態では、外筒21B及び内筒22Bが左右相当方向に相対接近したとき、弾性体23のうち、内筒22Bに対して左右相当方向(車体の外側)に位置する部分は外筒21Bと内筒本体221の凸部223との間で圧縮されて硬くなる一方、内筒22Bに対して前後相当方向に位置する部分は圧縮されにくい。これにより、前後相当方向を軸とする外筒21B及び内筒22Bの相対回転と比較して、左右相当方向を軸とする外筒21B及び内筒22Bの相対回転が許容されやすくなる。
【0080】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0081】
上記各実施形態では、内筒のフランジ部222a,222bが外筒の開口部211a,211bの縁と接触することにより、前後相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転が規制されている。このときの外筒及び内筒の接触は、金属同士の直接接触であってもよいし、例えば緩衝材等を介在させた、金属同士の間接的な接触であってもよい。すなわち、フランジ部222a,222b又は開口部211a,211bの縁の少なくとも一方に、緩衝材等が設けられていてもよい。
【0082】
上記実施形態に係るブッシュ20,20A,20Bでは、2つのフランジ部222a,222bが内筒本体221に設けられている。しかしながら、ブッシュ20,20A,20Bにおいて、フランジ部222a,222bのうち一方のみを内筒本体221に設けることもできるし、3つ以上のフランジ部を内筒本体221に設けることもできる。ただし、前後相当方向を軸とする、外筒に対する内筒の相対的な回転を規制しやすくするためには、内筒本体221には複数のフランジ部が設けられることが好ましい。外筒には、内筒本体221に設けられた1つ又は複数のフランジ部に対応して、1つ又は複数の開口部が形成されていればよい。
【0083】
上記実施形態に係るブッシュ20,20A,20Bでは、内筒がフランジ部222a,222bを含む一方、外筒が開口部211a,211bを含んでいる。しかしながら、例えば、外筒が1つ以上のフランジ部を含み、内筒がフランジ部を受け入れるための開口部を含んでいてもよい。あるいは、外筒及び内筒の双方がフランジ部を含んでいてもよい。
【0084】
上記各実施形態では、内筒のフランジ部222a,222bが外筒の開口部211a,211bの縁と接触することで、外筒及び内筒の相対的な回転が規制される。しかしながら、外筒及び内筒の相対的な回転を規制するための外筒に対する内筒の接触部は、必ずしもフランジ部でなくてもよい。
【実施例0085】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
本開示による効果を確認するため、
図1に示す構造部材100と同様の形状を有する構造部材(ロアアーム)について、市販の解析用ソフトウェア(Abaqus CAE,HKS社製)を用い、構造部材と車輪との連結位置付近に対して前方から後方に向かって強制変位を与えたときの変形解析を実施した。
【0087】
比較例では、構造部材の取付け部13に取り付けられるブッシュについて、前後相当方向、左右相当方向、及び上下相当方向を軸とする外筒及び内筒の相対回転を許容した。実施例1では、比較例と同じブッシュについて、前後相当方向を軸とする外筒及び内筒の相対回転の剛性を比較例の106倍として拘束した。実施例2では、前後相当方向を軸とする外筒及び内筒の相対回転に加え、上下相当方向を軸とする外筒及び内筒の相対回転の剛性を比較例の106倍として拘束した。
【0088】
図13は、本解析で得られた構造部材の荷重-変位曲線である。
図13に示すように、前後相当方向を軸とする外筒及び内筒の相対回転が拘束された実施例1では、比較例と比べて最大荷重が高くなった。前後相当方向に加え、上下相当方向を軸とする外筒及び内筒の相対回転も拘束された実施例2では、さらに最大荷重が増加した。よって、自動車の前後方向の荷重に対する最大荷重(耐力)を高めるためには、前後相当方向を軸とする、内筒の外筒に対する相対的な回転を規制すればよく、前後相当方向及び上下相当方向を軸とする内筒の外筒に対する相対的な回転を規制することがより好ましい。
【0089】
実施例2に関し、外筒及び内筒の相対回転を拘束するタイミングを変化させてさらに解析を実施した。表1にその結果を示す。
【0090】
【0091】
表1において、拘束開始時の相対変位量とは、前後相当方向及び上下相当方向を軸とする相対回転の拘束を開始した時点における、外筒の内周面と内筒の外周面との径方向の相対的な変位量である。すなわち、外筒の中心軸及び内筒の中心軸が一致している状態を初期位置とし、相対回転の拘束の開始のタイミングで、内筒が外筒に対し、初期位置から径方向に相対的に移動(接近)していた距離が拘束開始時の相対変位量となる。可動域とは、外筒の内径と内筒の外径との差である。
【0092】
表1に示すように、拘束開始時の相対変位量が可動域の60%以内であれば、比較例に対して最大荷重を5%以上増加させることができた。よって、外筒及び内筒の相対的な回転の規制は、外筒及び内筒の相対的な移動距離(変位量)が可動域の60%を超える前に開始すべきであるといえる。