(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149751
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20231005BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01J37/06
H01J37/28 B
H01J37/28 C
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058504
(22)【出願日】2022-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】516040121
【氏名又は名称】株式会社Photo electron Soul
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】飯島 北斗
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA05
5C101BB05
5C101DD05
5C101DD28
5C101DD38
5C101EE03
5C101EE69
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マルチレンズアレイが具備するレンズの数より多くの電子ビームを形成できる電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法を提供する。
【解決手段】電子発生源と、電子発生源との間で電界を形成し形成した電界により電子を引き出し電子ビームを形成するアノードと、マルチレンズアレイと、制御部と、を含む電子銃であって、マルチレンズアレイに照射される電子ビームを第1電子ビームとした時に、第1電子ビームはm個(mは2以上の任意の整数)形成され、マルチレンズアレイはn個(nは2以上の任意の整数)のレンズを具備し、マルチレンズアレイから射出する第2電子ビームを最大m×n個形成でき、制御部はm個の第1電子ビームが射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、第1電子ビーム射出位置およびマルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が予め設定した位置関係となるように制御する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出可能な電子を生成する電子発生源と、
前記電子発生源との間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
マルチレンズアレイと、
制御部と、
を含む、電子銃であって、
前記マルチレンズアレイに照射される電子ビームを第1電子ビームと規定した時に、前記第1電子ビームはm個(mは2以上の任意の整数)形成され、
前記マルチレンズアレイはn個(nは2以上の任意の整数)のレンズを具備し、
前記マルチレンズアレイから射出する電子ビームを第2電子ビームと規定した時に、
前記マルチレンズアレイが具備する個々のレンズには異なる位置から照射された前記第1電子ビームが入射することで、前記第2電子ビームを最大m×n個形成でき、
前記制御部は、
前記電子発生源から前記マルチレンズアレイの方向をZ方向と規定し、前記m個の第1電子ビームが射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、
前記Z方向に見た時の前記第1電子ビーム射出位置および前記マルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が、予め設定した位置関係となるように制御できる、
電子銃。
【請求項2】
前記電子発生源が、フォトカソードであり、
前記制御部が、前記フォトカソードが受光する励起光の位置を制御する、
請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
前記電子発生源が、フィールドエミッタまたはショットキーであり、
前記制御部が、前記フィールドエミッタまたはショットキーから前記第1電子ビームを射出する素子を制御する、
請求項1に記載の電子銃。
【請求項4】
前記Z方向を回転軸として、前記マルチレンズアレイを回転する回転機構を更に含み、
前記制御部が、前記回転機構を制御する、
請求項1~3の何れか一項に記載の電子銃。
【請求項5】
前記Z方向を移動方向に、前記マルチレンズアレイを移動する移動機構を更に含み、
前記制御部が、前記移動機構を制御する、
請求項1~4の何れか一項に記載の電子銃。
【請求項6】
前記第1電子ビーム射出位置の配置を射出配置と規定し、前記マルチレンズアレイが具備するレンズの配置をレンズ配置と規定した時に、
前記射出配置および前記レンズ配置は、同一または相似した配置であり、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置が、前記射出配置と同一または相似した配置とならないように、前記射出配置の中心を回転軸として回転した位置に配置される、
請求項1~5の何れか一項に記載の電子銃。
【請求項7】
前記射出配置および前記レンズ配置が、
直線状の等間隔の3以上の奇数点、
正方形の4隅と中心、および、
正六角形の6隅と中心、
からなる群から選択した何れか一つである、
請求項6に記載の電子銃。
【請求項8】
像面に形成される前記第2電子ビームが照射される領域を第2電子ビーム照射領域と規定した時に、
前記第2電子ビーム照射領域は、照射対象を欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状である、
請求項7に記載の電子銃。
【請求項9】
前記射出配置および前記レンズ配置が、正方形の4隅と中心、または、正六角形の6隅と中心であり、
前記射出配置および前記レンズ配置が以下の式を満たし、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置を前記射出配置と同一または相似した配置から前記射出配置の中心を回転軸として回転した角度が、以下の式においてθで表される、
請求項8に記載の電子銃。
【請求項10】
請求項9に記載の電子銃を含む電子線適用装置であって、
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
電子線適用装置。
【請求項11】
マルチ電子ビームの形成方法であって、該形成方法は、
第1電子ビーム形成工程と、
第2電子ビーム形成工程と、
を含み、
前記第1電子ビーム形成工程は、
放出可能な電子を生成する電子発生源およびアノードとの間で電界を形成することで、電子発生源からm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームを射出し、
または、
放出可能な電子を生成する電子発生源およびアノードとの間で電界を形成することで電子ビームを引き出し、引き出した電子ビームを分割することでm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームを形成し、
前記第2電子ビーム形成工程は、
前記m個の第1電子ビームを、n個(nは2以上の任意の整数)のレンズを具備したマルチレンズアレイに照射し、前記マルチレンズアレイが具備する個々のレンズには異なる位置から照射された前記第1電子ビームが入射することで、最大m×n個の第2電子ビームを形成し、
前記電子発生源から前記マルチレンズアレイの方向をZ方向と規定し、前記電子発生源から前記第1電子ビームが射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、
前記Z方向に見た時の前記第1電子ビーム射出位置および前記マルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が、予め設定した位置関係となるように制御される、
マルチ電子ビームの形成方法。
【請求項12】
前記第1電子ビーム射出位置の配置を射出配置と規定し、前記マルチレンズアレイが具備するレンズの配置をレンズ配置と規定した時に、
前記射出配置および前記レンズ配置は、同一または相似した配置であり、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置が、前記射出配置と同一または相似した配置とならないように、前記射出配置の中心を回転軸として回転した位置に配置される、
請求項11に記載のマルチ電子ビームの形成方法。
【請求項13】
像面に形成される前記第2電子ビームの照射領域を第2電子ビーム照射領域と規定した時に、
前記第2電子ビーム照射領域は、照射対象を欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状である、
請求項12に記載のマルチ電子ビームの形成方法。
【請求項14】
前記射出配置および前記レンズ配置が、正方形の4隅と中心、または、正六角形の6隅と中心であり、
前記射出配置および前記レンズ配置が以下の式を満たし、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置を前記射出配置と同一または相似した配置から前記射出配置の中心を回転軸として回転した角度が、以下の式においてθで表される、
請求項13に記載のマルチ電子ビームの形成方法。
【請求項15】
請求項14に記載のマルチ電子ビームの形成方法により形成されたマルチ電子ビームを照射対象上で走査する走査工程を含む、
マルチ電子ビームの走査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電子ビーム(マルチ電子ビーム)を発生させるための装置が知られている。
【0003】
関連する技術として、特許文献1には、補正電子光学系を用いることで、電子銃から射出した1つの電子ビームから複数の電子ビームを形成することが記載されている。特許文献1には、電子ビームが通過する孔が複数形成されたアレイ状の補正電子光学系が記載されている。そして、それぞれの孔には、偏向機能を有するブランキング電極、透過する電子ビームの形状を規定する開口(AP)を有する開口絞り、配線、ユニポテンシャルレンズ、ブランキング開口が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は、アレイ状の補正電子光学系を電子ビームが通過することで、1つの電子ビームから複数の電子ビームを形成できる。したがって、アレイ状の補正電子光学系が具備する孔の数を多くするほど、1つの電子ビームからより多くの電子ビームを形成できる。しかしながら、特許文献1に記載のアレイ状の補正電子光学系は、それぞれの孔に電極等を形成する微細加工が必要である。そのため、孔の数を多くするほど、一つでも孔に欠陥が生じると一つのアレイ(以下、電子ビームが通過するレンズ機能を有する孔を「レンズ」と記載し、「レンズ」を2つ以上形成したアレイを「マルチレンズアレイ」と記載することがある。)が欠陥製品となり、マルチレンズアレイの製造の歩留まりが悪くなるという問題がある。また、レンズの数が多いほど、使用中に一つでもレンズに欠陥が発生した場合はマルチレンズアレイを交換する必要があり、電子ビームを使用する際のランニングコストが悪くなるという問題がある。
【0006】
本出願は上記問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、m個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームを、n個(nは2以上の任意の整数)のレンズを具備したマルチレンズアレイに照射することで、最大m×n個の第2電子ビームを形成できること、を新たに見出した。
【0007】
本出願における開示は、マルチレンズアレイが具備するレンズの数より多くの電子ビームを形成できる電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願における開示は、以下に示す、電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法に関する。
【0009】
(1)放出可能な電子を生成する電子発生源と、
前記電子発生源との間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
マルチレンズアレイと、
制御部と、
を含む、電子銃であって、
前記マルチレンズアレイに照射される電子ビームを第1電子ビームと規定した時に、前記第1電子ビームはm個(mは2以上の任意の整数)形成され、
前記マルチレンズアレイはn個(nは2以上の任意の整数)のレンズを具備し、
前記マルチレンズアレイから射出する電子ビームを第2電子ビームと規定した時に、
前記マルチレンズアレイが具備する個々のレンズには異なる位置から照射された前記第1電子ビームが入射することで、前記第2電子ビームを最大m×n個形成でき、
前記制御部は、
前記電子発生源から前記マルチレンズアレイの方向をZ方向と規定し、前記m個の第1電子ビームが射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、
前記Z方向に見た時の前記第1電子ビーム射出位置および前記マルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が、予め設定した位置関係となるように制御できる、
電子銃。
(2)前記電子発生源が、フォトカソードであり、
前記制御部が、前記フォトカソードが受光する励起光の位置を制御する、
上記(1)に記載の電子銃。
(3)前記電子発生源が、フィールドエミッタまたはショットキーであり、
前記制御部が、前記フィールドエミッタまたはショットキーから前記第1電子ビームを射出する素子を制御する、
上記(1)に記載の電子銃。
(4)前記Z方向を回転軸として、前記マルチレンズアレイを回転する回転機構を更に含み、
前記制御部が、前記回転機構を制御する、
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の電子銃。
(5)前記Z方向を移動方向に、前記マルチレンズアレイを移動する移動機構を更に含み、
前記制御部が、前記移動機構を制御する、
上記(1)~(4)の何れか一つに記載の電子銃。
(6)前記第1電子ビーム射出位置の配置を射出配置と規定し、前記マルチレンズアレイが具備するレンズの配置をレンズ配置と規定した時に、
前記射出配置および前記レンズ配置は、同一または相似した配置であり、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置が、前記射出配置と同一または相似した配置とならないように、前記射出配置の中心を回転軸として回転した位置に配置される、
上記(1)~(5)の何れか一つに記載の電子銃。
(7)前記射出配置および前記レンズ配置が、
直線状の等間隔の3以上の奇数点、
正方形の4隅と中心、および、
正六角形の6隅と中心、
からなる群から選択した何れか一つである、
上記(6)に記載の電子銃。
(8)像面に形成される前記第2電子ビームが照射される領域を第2電子ビーム照射領域と規定した時に、
前記第2電子ビーム照射領域は、照射対象を欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状である、
上記(7)に記載の電子銃。
(9)前記射出配置および前記レンズ配置が、正方形の4隅と中心、または、正六角形の6隅と中心であり、
前記射出配置および前記レンズ配置が以下の式を満たし、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置を前記射出配置と同一または相似した配置から前記射出配置の中心を回転軸として回転した角度が、以下の式においてθで表される、
上記(8)に記載の電子銃。
(10)上記(9)に記載の電子銃を含む電子線適用装置であって、
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
電子線適用装置。
(11)マルチ電子ビームの形成方法であって、該形成方法は、
第1電子ビーム形成工程と、
第2電子ビーム形成工程と、
を含み、
前記第1電子ビーム形成工程は、
放出可能な電子を生成する電子発生源およびアノードとの間で電界を形成することで、電子発生源からm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームを射出し、
または、
放出可能な電子を生成する電子発生源およびアノードとの間で電界を形成することで電子ビームを引き出し、引き出した電子ビームを分割することでm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームを形成し、
前記第2電子ビーム形成工程は、
前記m個の第1電子ビームを、n個(nは2以上の任意の整数)のレンズを具備したマルチレンズアレイに照射し、前記マルチレンズアレイが具備する個々のレンズには異なる位置から照射された前記第1電子ビームが入射することで、最大m×n個の第2電子ビームを形成し、
前記電子発生源から前記マルチレンズアレイの方向をZ方向と規定し、前記電子発生源から前記第1電子ビームが射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、
前記Z方向に見た時の前記第1電子ビーム射出位置および前記マルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が、予め設定した位置関係となるように制御される、
マルチ電子ビームの形成方法。
(12)前記第1電子ビーム射出位置の配置を射出配置と規定し、前記マルチレンズアレイが具備するレンズの配置をレンズ配置と規定した時に、
前記射出配置および前記レンズ配置は、同一または相似した配置であり、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置が、前記射出配置と同一または相似した配置とならないように、前記射出配置の中心を回転軸として回転した位置に配置される、
上記(11)に記載のマルチ電子ビームの形成方法。
(13)像面に形成される前記第2電子ビームの照射領域を第2電子ビーム照射領域と規定した時に、
前記第2電子ビーム照射領域は、照射対象を欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状である、
上記(12)に記載のマルチ電子ビームの形成方法。
(14)前記射出配置および前記レンズ配置が、正方形の4隅と中心、または、正六角形の6隅と中心であり、
前記射出配置および前記レンズ配置が以下の式を満たし、
前記Z方向に見た前記射出配置を基準とした時に、前記Z方向に見た前記レンズ配置を前記射出配置と同一または相似した配置から前記射出配置の中心を回転軸として回転した角度が、以下の式においてθで表される、
上記(13)に記載のマルチ電子ビームの形成方法。
(15)上記(14)に記載のマルチ電子ビームの形成方法により形成されたマルチ電子ビームを照射対象上で走査する走査工程を含む、
マルチ電子ビームの走査方法。
【発明の効果】
【0010】
本出願で開示する電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法により、第2電子ビームの数よりマルチレンズアレイが具備するレンズの数を少なくできる。したがって、マルチレンズアレイの製造の歩留まりを向上できるとともに、電子銃または電子線適用装置を使用する際のランニングコストを低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電子銃1および電子線適用装置10を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電子銃1がマルチ電子ビームを形成する概略を説明するための図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る電子銃1がマルチ電子ビームを形成する概略を説明するための図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る電子銃1がマルチ電子ビームを形成する概略を説明するための図である。
【
図5】
図5は、マルチ電子ビームの形成方法のフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図7】
図7は、第2電子ビームB2の照射領域が重複する例を示す図である。
【
図8】
図8は、第2電子ビームB2の照射領域が欠損する例を示す図である。
【
図9】
図9は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図12】
図12は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図13】
図13は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図14】
図14は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図15】
図15は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図16】
図16は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法について詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0013】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0014】
(方向の定義)
本明細書において、X軸、Y軸、Z軸の3次元直交座標系において、電子発生源が形成した電子ビームが進行する方向をZ方向と定義する。なお、Z方向は、例えば、鉛直下向き方向であるが、Z方向は、鉛直下向き方向に制限されない。
【0015】
(電子銃および電子線適用装置の実施形態)
図1~
図4を参照して、電子銃1、電子線適用装置10およびマルチ電子ビームの形成方法の実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る電子銃1および電子線適用装置10を模式的に示す図である。
図2乃至
図4は、実施形態に係る電子銃1がマルチ電子ビームを形成する概略を説明するための図である。
【0016】
実施形態に係る電子銃1は、電子発生源2と、アノード3と、マルチレンズアレイ4と、を少なくとも含んでいる。電子銃1は、任意付加的に、電子発生源2とアノード3との間に電界を発生させるための電源5、電子発生源2等を制御する制御部6を含んでいてもよい。また図示は省略するが、電子銃1は、電子発生源2およびアノード3で形成した電子ビームを加速するための加速電極および加速用電源を含んでいてもよい。
【0017】
図1に示す例では、電子線適用装置10の相手側装置E(電子線適用装置10から電子銃1を除いた部分)は電子ビーム偏向装置7を含む。電子ビーム偏向装置7は、電子銃1が形成した第2電子ビームB2を照射対象S上で走査するために用いられる。なお、
図1に示す例は、相手側装置Eの一例である。図示は省略するが、相手側装置Eは電子線適用装置10の種類に応じて公知の構成部材を備えていればよい。なお、
図1に示す例では、電子銃1および電子線適用装置10全体の概略を示すため、電子銃1が形成する電子ビームBの数は一つである。実施形態に係る電子銃1および電子線適用装置10におけるマルチ電子ビームの概略については、
図2乃至
図4を参照して、後ほど詳しく説明する。
【0018】
電子発生源2は、放出可能な電子を生成し、アノード3との間で形成した電界により生成した電子を引き出すことで電子ビームBを形成できれば特に制限はなく、公知の電子発生源2を用いることができる。電子発生源2としては、例えば、フォトカソード、フィールドエミッタ、ショットキー、熱陰極が挙げられる。なお、本明細書では、マルチレンズアレイ4に照射される(マルチレンズアレイ4を通過する前の)電子ビームを第1電子ビームB1と記載し、マルチレンズアレイ4を通過した後の(マルチレンズアレイ4から射出される)電子ビームを第2電子ビームB2と記載することがある。また、第1電子ビームB1と第2電子ビームB2とを特に区別しない場合は、単に電子ビームBと記載することがある。
【0019】
図1を参照して、電子発生源2としてフォトカソード2aを用いた電子銃1の例について説明する。フォトカソード2aは、光源2bから照射される励起光Lの受光に応じて、放出可能な電子を生成する。フォトカソード2aが励起光Lの受光に応じて放出可能な電子を生成する原理は公知である(例えば、特許第5808021号公報等を参照)。
【0020】
フォトカソード2aは、石英ガラスやサファイアガラス等の基板と、基板の第1面2a1(アノード3側の面)に接着したフォトカソード膜(図示は省略)で形成されている。フォトカソード膜を形成するためのフォトカソード材料は、励起光Lを照射することで放出可能な電子を生成できれば特に制限はなく、EA表面処理が必要な材料、EA表面処理が不要な材料等が挙げられる。EA表面処理が必要な材料としては、例えば、III-V族半導体材料、II-VI族半導体材料が挙げられる。具体的には、AlN、Ce2Te、GaN、1種類以上のアルカリ金属とSbの化合物、AlAs、GaP、GaAs、GaSb、InAs等およびそれらの混晶等が挙げられる。その他の例としては金属が挙げられ、具体的には、Mg、Cu、Nb、LaB6、SeB6、Ag等が挙げられる。前記フォトカソード材料をEA表面処理することでフォトカソード2aを作製することができ、該フォトカソード2aは、半導体のギャップエネルギーに応じた近紫外-赤外波長領域で励起光の選択が可能となるのみでなく、電子ビームの用途に応じた電子ビーム源性能(量子収量、耐久性、単色性、時間応答性、スピン偏極度)が半導体の材料や構造の選択により可能となる。
【0021】
また、EA表面処理が不要な材料としては、例えば、Cu、Mg、Sm、Tb、Y等の金属単体、或いは、合金、金属化合物、又は、ダイアモンド、WBaO、Cs2Te等が挙げられる。EA表面処理が不要であるフォトカソードは、公知の方法(例えば、特許第3537779号等を参照)で作製すればよい。特許第3537779号に記載の内容は参照によりその全体が本明細書に含まれる。
【0022】
光源2bは、フォトカソード2aに励起光Lを照射することで、電子ビームBを形成できるものであれば特に制限はない。光源2bは、例えば、高出力(ワット級)、高周波数(数百MHz)、超短パルスレーザー光源、比較的安価なレーザーダイオード、LED等があげられる。照射する励起光Lは、パルス光、連続光のいずれでもよく、目的に応じて適宜調整すればよい。なお、
図1に示す例では、光源2bが、真空チャンバーCB外に配置され励起光Lが、フォトカソード2aの第1面2a1側に照射されている。代替的に、光源2bを真空チャンバーCB内に配置してもよい。また、励起光Lは、フォトカソード2aの第2面2a2(アノード3とは反対側の面)側に照射されてもよい。
【0023】
アノード3は、電子発生源2と電界を形成できるものであれば特に制限はなく、電子銃の分野において一般的に用いられているアノード3を使用すればよい。
図1に示す例では、フォトカソード2aとアノード3との間で電界を形成することで、励起光Lの照射によりフォトカソード2aに生成した放出可能な電子を引き出し、電子ビームBを形成する。
【0024】
図1に示す例では、フォトカソード2aとアノード3との間に電界を形成するため、電源5をフォトカソード2aに接続しているが、フォトカソード2aとアノード3との間に電位差が生じれば電源5の配置に特に制限はない。
【0025】
次に、
図2乃至
図4を参照し、実施形態に係る電子銃1がマルチ電子ビームを形成する概略について説明する。
図2および
図3に示す例では、フォトカソード2aに3個の励起光La~Lcを異なる場所に直線状に照射することで、3個の第1電子ビームB1a~B1cを形成し(
図2では第1電子ビームB1a~B1cの図示は省略。
図3に図示。)、形成した3個の第1電子ビームB1a~B1cを3個のレンズ41を具備したマルチレンズアレイ4に照射することで、9個の第2電子ビームB2a~B2cを形成し(
図2では第2電子ビームB2a~B2cの図示は省略。
図3に図示。)、像面ISに9個の第2電子ビームB2の焦点を形成している。なお、像面ISとは、第2電子ビームB2が焦点を形成する仮想面を意味する。像面ISは、照射対象Sの表面に一致していてもよいし、一致していなくてもよい。
図3は、
図2のA-A、B-BおよびC-C矢視断面図である。なお、フォトカソード2aとマルチレンズアレイ4との間にはアノード3が存在するが、
図2および
図3では図面の複雑化を避けるため、アノード3の図示は省略している。
【0026】
マルチレンズアレイ4が具備する個々のレンズ41は、異なる位置から照射された第1電子ビームB1a~B1cが入射すると、入射した第1電子ビームB1a~B1cそれぞれを収束し、像面ISに焦点を形成する機能を有する。したがって、m個の第1電子ビームB1をn個のレンズ41を具備するマルチレンズアレイ4に照射することで、最大m×n個の第2電子ビームB2を形成できる。なお、最大m×n個の第2電子ビームB2を形成するためには、m個の第1電子ビームB1のそれぞれが、マルチレンズアレイ4が具備するn個のレンズ41の全てをカバーするように照射されればよい。
【0027】
m個の第1電子ビームB1のそれぞれが、n個のレンズ41の全てをカバーするように照射されるためには、例えば、第1電子ビームB1の広がり具合を調整、m個の第1電子ビームB1の照射位置の調整、n個のレンズ41の配置等を、適宜組み合わせながら調整すればよい。第1電子ビームB1の広がり具合は、電子発生源2とアノード3との間に形成する電界の強さを変えることで調整できる。なお、本出願で開示する電子銃1は、m個の第1電子ビームB1から、必ずしもm×n個の第2電子ビームB2を形成する必要はない。任意の第1電子ビームB1が到達できないレンズ41が存在してもよい。換言すると、本出願で開示する電子銃1は、m個の第1電子ビームB1をn個のレンズ41を具備するマルチレンズアレイ4に照射することで、m+1個以上またはn+1個以上の第2電子ビームB2が形成できればよい。mおよびnの上限は、本出願で開示する技術思想が達成できる範囲内であれば特に制限はない。なお、装置の大型化を避けつつmおよびnの数を多くするためには、例えば、マルチレンズアレイ4に配置するレンズ41の間隔を小さくする等、高度な微細加工技術が要求されコストアップになる。したがって、mおよびnの上限は、第2電子ビームB2の数を多くするメリット、装置のサイズおよびコスト等のバランスを考慮し適宜設定すればよい。
【0028】
第1電子ビームB1の数は、2個以上の整数であればレンズ41の数(2個以上の整数)より多くてもよいし、同じであってもよいし、少なくてもよい。また、第1電子ビームB1の配置(m個の第1電子ビームB1が射出する位置関係。
図2および
図3に示す例では、等間隔の直線状。)とレンズ41の配置(n個のレンズ41の位置関係。)は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第1電子ビームB1の配置とレンズ41の配置が同じ場合、電子発生源2からマルチレンズアレイ4の方向(Z方向)に見た際に、
図2に示す例のように、第1電子ビームB1の配置とレンズ41の配置が一致してもよいし、ずらして配置されてもよい。更に、第1電子ビームB1の配置とレンズ41の配置が、Z方向に見た形状は同じであるが、サイズが異なる相似形であってもよい。
【0029】
なお、ずらして配置とは、例えば、
図2に示す配置から、以下の(1)~(3)に記載のように配置することが挙げられる。
(1)電子発生源2またはマルチレンズアレイ4の何れかをX-Y平面方向に位置を換えること。換言すると、Z方向に見た際に、第1電子ビームB1の配置とレンズ41の配置が一致しないこと。この場合、Z方向に見た際に、m個の第1電子ビームB1を射出する位置の全てがレンズ41と一致していなくてもよいし、第1電子ビームB1を射出する位置の一部がレンズ41と一致してもよい。
(2)電子発生源2またはマルチレンズアレイ4の何れかをZ方向を中心軸にして回転すること。回転中心は特に制限はなく、第1電子ビームB1を射出する位置の任意の一つとレンズ41とが一致する点を回転中心としてもよいし、第1電子ビームB1を射出する位置とレンズ41とが一致しない点を回転中心としてもよい。
(3)上記(1)と(2)の組み合わせ。
【0030】
図2および
図3に示す例では、第1電子ビームB1およびレンズ41を直線状に配置しているが、単なる例示である。上記のとおり、実施形態に係る電子銃1は、m個の第1電子ビームB1をn個のレンズ41を具備するマルチレンズアレイ4に照射することで、m+1個以上またはn+1個以上の第2電子ビームB2を形成できれば、第1電子ビームB1の配置とレンズ41の配置に特に制限はない。
【0031】
例えば、
図4に示す例では、5個の励起光Lを非直線状(正方形の4隅と正方形の中点の五か所)に照射することで5個の第1電子ビームB1を形成する(第1電子ビームB1の図示は省略)。形成した5個の第1電子ビームB1のそれぞれは、マルチレンズアレイ4が具備する5個のレンズ41a~41eのそれぞれに入射する。したがって、
図4の右側の像面ISに示す通り、レンズ41a~41eのそれぞれからは、5個の第2電子ビームB2が形成されることから、合計25個の第2電子ビームB2が形成される。勿論、
図4に示す例においても、上記のように、第1電子ビームB1およびレンズ41は、ずらして配置されてもよい。
【0032】
第1電子ビームB1は、少なくとも2個以上が形成されれば形成方法に特に制限はない。電子発生源2がフォトカソード2aの場合は、
図2乃至
図4に示すように、フォトカソード2aにm個の励起光Lを照射すればよい。m個の励起光Lをフォトカソード2aに照射するためには、m個の光源2bを用いればよい。代替的に、
図1に示すように単一の光源2bとフォトカソード2aとの間に液晶シャッター等の光スプリッタ2cを配置し、光スプリッタ2cにより、単一の光源2bから照射された励起光Lを所望の数に分割してもよい。なお、2つ以上の光源2bと光スプリッタ2cを組み合わせてもよい。更に代替的に、先ず、フォトカソード2aから電子ビームBを射出し、アパーチャアレイ等を用いて射出した電子ビームBを分割することでm個の第1電子ビームB1を形成してもよい。なお、電子ビームBを予め設定したとおりに分割する場合は、例えば、金属板等で形成したアパーチャアレイを用いればよい。また、電子ビームBを分割する個数や形成する第1電子ビームB1の位置を制御する場合は、ブランキング機能付きのアパーチャアレイ(例えば、偏向機能付きアパーチャアレイ、静電レンズアレイ)を用いればよい。
【0033】
図1乃至
図4では、電子発生源2としてフォトカソード2aを用いた例を説明しているが、上記のとおり、フィールドエミッタ、ショットキー、熱陰極等の公知の電子発生源2を用いてもよい。その場合、
図1に示す光源2b、光スプリッタ2cは不要である。また、フィールドエミッタおよびショットキーは、素子を並べてアレイ状にすることもできる。したがって、フィールドエミッタおよびショットキーの場合、アレイ状の素子からm個の第1電子ビームB1を射出してもよいが、先ず電子ビームBを射出し、アパーチャアレイ等を用いて射出した電子ビームBを分割することでm個の第1電子ビームB1を形成してもよい。
【0034】
熱陰極は、フォトカソード、フィールドエミッタ、ショットキーと比較して、電子発生源2としてはサイズが大きい。したがって、熱陰極を2個以上並べることは技術的には可能であるが、電子銃1が大型化する恐れがある。したがって、電子発生源2として熱陰極を用いる場合は技術的観点ではなく利便性の観点から、先ず電子ビームBを射出し、アパーチャアレイ等を用いて射出した電子ビームBを分割することでm個の第1電子ビームB1を形成することが好ましい。
【0035】
アノード3は、電子銃1の分野で一般的に用いられているものを使用すればよい。
【0036】
マルチレンズアレイ4は、それぞれのレンズ41に入射したm個の第1電子ビームB1を収束し、像面ISにm個の焦点を形成する機能を有するものであれば特に制限はない。例えば、特開2013―30567号公報、特開2014-53408号公報等に記載の荷電粒子線レンズアレイを用いることができる。特開2013―30567号公報および特開2014-53408号公報に記載された全ての事項は、参照により本明細書に含まれる。
【0037】
図1~
図4は、本出願で開示する電子銃1の一例に過ぎない。本出願で開示する技術思想の範囲内であれば各種変更をしてもよい。例えば、
図1に示す例では、光源2bを制御する制御部6を設けている。制御部6は、光源2bを複数設ける場合、どの光源2bから励起光Lを照射するのか制御することで、形成する第1電子ビームB1の数を制御できる。また、光スプリッタ2cを設ける場合、制御部6が光スプリッタ2cを制御することで、形成する第1電子ビームB1の数を制御してもよい。なお、フォトカソード2aは、励起光Lを受光した場所から電子ビームBを射出するという特徴を有する。したがって、電子発生源2としてフォトカソード2aを用いる場合、制御部6はフォトカソード2aが受光する励起光Lの位置を制御してもよい。励起光Lの照射位置が変わると、マルチレンズアレイ4に入射する第1電子ビームB1のそれぞれの入射角度を調整できる。したがって、電子銃1を組み立てた後、換言すると、マルチレンズアレイ4がセットアップされた後であっても、制御部6が励起光Lの照射数および/または照射位置を調整することで、像面ISに形成する焦点の数および位置関係を調整できる。また、制御部6は、励起光Lの強度を制御してもよいし、励起光Lを連続光またはパルス光としてフォトカソード2aに照射できるように制御してもよい。
【0038】
電子発生源2としてアレイ状のフィールドエミッタおよびショットキーを用いた場合、制御部6は、アレイを構成するどの素子から電子ビームBを射出するのか制御してもよい。素子を行方向および列方向に配置した場合は、電子ビームBを射出する素子の数および/または射出位置を調整できることから、上記フォトカソード2aと同様の効果を奏する。
【0039】
電子発生源2として複数の熱陰極を用いた場合、制御部6は、どの熱陰極から電子ビームBを射出するのか制御すればよい。
【0040】
また、電子発生源2の種類を問わず、電子ビームBを分割するアパーチャアレイとしてブランキング機能付きのアパーチャアレイを用いる場合、ブランキング機能を奏する部材(例えば、静電レンズ等)を制御部6が制御することで、電子ビームBから分割する第1電子ビームB1の数や場所を制御してもよい。
【0041】
電子銃1を搭載する電子線適用装置10は、電子銃を搭載する公知の装置が挙げられる。例えば、自由電子レーザー加速器、電子顕微鏡、電子線ホログラフィー装置、電子線描画装置、電子線回折装置、電子線検査装置、電子線金属積層造形装置、電子線リソグラフィー装置、電子線加工装置、電子線硬化装置、電子線滅菌装置、電子線殺菌装置、プラズマ発生装置、原子状元素発生装置、スピン偏極電子線発生装置、カソードルミネッセンス装置、逆光電子分光装置等が挙げられる。
【0042】
電子線適用装置10の種類に応じて、本出願で開示する電子銃1が形成する第2電子ビームB2を適宜調整すればよい。例えば、電子線適用装置10が、走査型電子顕微鏡または走査型電子線検査装置の場合、
図2に示すように形成したライン状の複数の第2電子ビームB2をスキャンすることで、サンプルの撮像時間や検査時間を短縮できる。一方、
図4に示すように平面状に複数の第2電子ビームB2を形成する場合は、透過型電子顕微鏡、電子線滅菌装置、電子線殺菌装置等に使用できる。また、走査または非走査を問わず、電子線描画装置(マスク描画装置、直接描画装置)、電子線金属積層造形装置(金属3Dプリンタ)等にも使用できる。
【0043】
(マルチ電子ビームの形成方法の実施形態)
【0044】
次に、
図5を参照して、マルチ電子ビームの形成方法を説明する。
図5は、マルチ電子ビームの形成方法のフローチャートである。マルチ電子ビームの形成方法は、第1電子ビーム形成工程(ST1)と、第2電子ビーム形成工程(ST2)と、を含む。
【0045】
第1電子ビーム形成工程(ST1)は、放出可能な電子を生成する電子発生源2およびアノード3との間で電界を形成することで、電子発生源2からm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームB1を射出する。代替的に、放出可能な電子を生成する電子発生源2およびアノード3との間で電界を形成することでm個より少ない数の電子ビームBを引き出し、引き出した電子ビームを分割することでm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームB1を形成してもよい。電子発生源2としては、電子銃1の実施形態で説明のとおり、フォトカソード、フィールドエミッタ、ショットキー、熱陰極等の公知の電子発生源を用いればよい。なお、電子発生源2として複数の熱陰極を用いる場合、電子銃1が大型化する場合がある。したがって、電子発生源2として熱陰極を用いる場合は、先ず熱陰極から電子ビームBを引き出し、引き出した電子ビームBを分割することでm個(mは2以上の任意の整数)の第1電子ビームB1を形成することが好ましい。
【0046】
第2電子ビーム形成工程(ST2)は、m個の第1電子ビームB1を、n個(nは2以上の任意の整数)のレンズ41を具備したマルチレンズアレイ4に照射することで、最大m×n個の第2電子ビームB2を形成する。
【0047】
なお、形成した第2電子ビームB2を照射対象S上で走査する場合は、図示は省略するが、第2電子ビーム形成工程(ST2)の後に、像面ISに焦点を形成した第2電子ビームB2を、電子ビーム偏向装置7により偏向しながら走査する第2電子ビームB2走査工程(ST3)と、走査した第2電子ビームB2を照射対象Sに照射する第2電子ビームB2照射工程(ST4)と、を含んでもよい。また、形成した第2電子ビームB2の走査が不要な場合は、第2電子ビーム形成工程(ST2)の後に、第2電子ビームB2照射工程(ST4)を実施してもよい。
【0048】
本出願で開示する電子銃1、電子銃1を搭載した電子線適用装置10およびマルチ電子ビームの形成方法(以下、「電子銃1、電子線適用装置10およびマルチ電子ビームの形成方法」を纏めて「電子銃等」と記載する。)は、以下の効果を奏する。
(1)像面ISに形成する(照射対象Sに照射したい)第2電子ビームB2の数が同じ場合、電子銃等ではm個の第1電子ビームB1をマルチレンズアレイ4に照射することで、マルチレンズアレイ4が具備するレンズ41の数を特許文献1より少なくできる。したがって、マルチレンズアレイ4を製造する際に任意の一つのレンズ41に欠陥が発生する確率が低くなることから、マルチレンズアレイ4の製造の歩留まりが向上する。また、レンズ41の数が少なくなるほど、電子銃等を使用している際に任意の一つのレンズ41に欠陥が発生する確率も低くなることから、電子銃等のランニングコストを低くできる。
(2)
図3および
図4に示すように、本出願で開示する電子銃等は、射出位置が異なるm個の第1電子ビームB1をレンズ41に入射することで、レンズ41の間隔より狭い間隔で像面ISに第2電子ビームB2の焦点を形成できる。したがって、像面ISに形成する第2電子ビームB2の間隔が同じ場合を想定すると、電子銃1のレンズ41の間隔を特許文献1に記載のレンズ7が具備する孔より広くできる。したがって、マルチレンズアレイ4の製造が容易になる。また、レンズ41の間隔を広くできることから、レンズ41のサイズを大きくすることも可能である。レンズ41のサイズを大きくした場合、レンズ41一つ当たりを通過する電子ビームB1のビーム電流を増やす(輝度を高める)ことができる。
(3)アパーチャアレイ等を用いずに、電子発生源2がm個の第1電子ビームB1を形成する実施形態を想定する。その場合、m個の第1電子ビームB1を形成するとの観点では、フォトカソード、フィールドエミッタ、ショットキー、熱陰極の何れでもよいが、フォトカソード、フィールドエミッタまたはショットキーを用いた方が電子銃1のサイズを小さくできる。また、フィールドエミッタまたはショットキーは素子をアレイ状にした場合、マルチレンズアレイ4のレンズ41と同様、素子の数を多くするほど製造中または使用中にアレイを形成する素子の一つに欠陥が生じる確率が高くなる。一方、フォトカソード2aはフォトカソード膜を基板に接着することで一つの部材として製造することができる。したがって、複数の第1電子ビームB1を形成する電子発生源2にフォトカソード2aを用いた場合は、電子銃等を小型化できるとともに、製造中または使用中に欠陥が生じる確率が低くなる。
(4)また、フォトカソード2aは、励起光Lの数および照射位置を調整することで、射出する第1電子ビームB1の数と配置を簡単に変更できる。したがって、電子発生源2としてフォトカソード2aを用いた場合、電子発生源2およびマルチレンズアレイ4を電子銃にセットアップした後でも、マルチレンズアレイ4に入射する第1電子ビームB1の数および入射角度を調整し、像面ISに形成する(照射対象Sに照射したい)第2電子ビームB2の数および配置を調整できるので、電子銃等を使用する際の利便性が向上する。
【0049】
(電子銃および電子線適用装置の実施形態において、採用可能な構成例1)
続いて、
図1乃至
図6を参照して、電子銃および電子線適用装置の実施形態において、採用可能な構成例(以下、当該構成例を採用した電子銃および電子線適用装置の実施形態を「第2の実施形態」と記載することがある。)について説明する。
図6は、第2の実施形態の概略を説明するための図である。
【0050】
図2および
図4に示すように、本出願で開示する電子銃1は、m個の第1電子ビームB1をn個のレンズ41を具備するレンズアレイ4に照射することで、最大m×n個の第2電子ビームB2を像面ISに形成できる。
【0051】
本発明者らは、m個の第1電子ビームB1が射出する際の射出位置(以下、「第1電子ビーム射出位置」と記載することがある。)と、マルチレンズアレイ4が具備するレンズ41の位置関係と、について検討した。その結果、Z方向に見た時の第1電子ビーム射出位置およびマルチレンズアレイ4が具備するレンズ41の位置関係(以下、この位置関係を「相対位置関係」と記載することがある。)を制御することで、像面ISに形成される第2電子ビームB2が好適な配置となるように制御できることを新たに見出した。第2の実施形態に係る電子銃1は、制御部6を構成要素として含む。そして、制御部6が、相対位置関係を予め設定した位置関係となるように制御する以外は、上記(電子銃および電子線適用装置の実施形態(以下、「第1の実施形態」と記載することがある。))と同様である。したがって、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態において説明済みの事項についての繰り返しとなる説明は省略する。よって、第2の実施形態において明示的に説明されなかったとしても、第2の実施形態において、第1の実施形態で説明済みの事項を採用可能であることは言うまでもない。
【0052】
図6を参照して、第2の実施形態の制御部6の制御内容の概略について説明する。
図6(1)は、第1電子ビーム射出位置の配置を射出配置と規定し、マルチレンズアレイ4が具備するレンズ41の配置をレンズ配置と規定した時に、
図4に示すように、射出配置およびレンズ配置が同一(同一形状)であり、Z方向に見た射出配置を基準とした時に、Z方向に見たレンズ配置が射出配置と同一(オーバーラップ)となるように配置した時の像面ISに形成される第2電子ビームB2を示している。なお、本明細書において「第1電子ビーム射出位置」とは、m個の第1電子ビームB1が射出される位置を意味する。より具体的には、電子発生源2から直接m個の第1電子ビームB1を引き出す場合は、電子発生源2の電子が引き出される場所が射出位置であり、電子発生源2から引き出した電子ビームをアパーチャアレイ等の電子ビーム分割装置で分割することでm個の第1電子ビームB1を形成する場合は、電子ビーム分割装置から射出するm個の第1電子ビームB1の場所が射出位置である。
【0053】
図6(2)は、Z方向に見た射出配置を基準とした時に、Z方向に見たレンズ配置が射出配置と同一の配置とならないように、射出配置の中心を回転軸としてレンズ配置を回転した位置に配置した時の像面ISに形成される第2電子ビームB2を示している。
図6(3)は、
図6(2)に示す例より、射出配置を基準に更にレンズ配置を回転した時の像面ISに形成される第2電子ビームB2を示している。
図6(1)~(3)に示す例から明らかなように、Z方向に見た射出配置を基準としてレンズ配置を回転することで、像面ISに形成される第2電子ビームB2の配置が変わる。より具体的には、
図6(1)に示す例では、個々のレンズ41(a~e)を通過して形成された第2電子ビームB2の個々の領域(以下、「B2個別レンズ領域」と記載することがある。)と領域の隙間(
図6(1)の〇で示す部分)は、B2個別レンズ領域とほぼ同じ大きさである。一方、
図6(2)および
図6(3)に示すように、射出配置に対するレンズ配置の相対位置関係を回転することで、B2個別レンズ領域間の隙間(
図6(3)の〇で示す部分)は小さくなる。電子線適用装置が、例えば、非走査型の電子線滅菌装置または非走査型の電子線殺菌装置等の場合、B2個別レンズ領域間の隙間が小さくなることで加熱ムラが小さくなる。したがって、殺菌または滅菌効率を上げることができる。射出配置の中心を回転軸としてレンズ配置をどの程度回転させるのかは、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0054】
なお、
図6は、Z方向に見た射出配置およびレンズ配置が同一(同一形状)の場合の例である。代替的に、射出配置およびレンズ配置が相似した配置(相似形)であり、Z方向に見た射出配置を基準とした時に、Z方向に見たレンズ配置が、射出配置と相似した配置とならないように、射出配置の中心を回転軸として回転した位置に配置されてもよい。更に代替的に、射出配置およびレンズ配置の相対位置関係を変えることでB2個別レンズ領域間の隙間が小さくなる範囲内であれば、射出配置およびレンズ配置は同一または相似形でなくてもよい。換言すれば、制御部6は、相対位置関係が予め設定した位置関係となるように、制御すればよい。
【0055】
相対位置関係は、予め設定した位置関係となるように、電子銃1を組み立てる際にセットしてもよい。換言すれば、電子銃1を組み立てた後に相対位置関係が変化しないように固定することもできる。しかしながら、電子銃1を組み立てた後に、微調整が必要な場合もある。したがって、電子銃1を組み立てた後に、制御部6が相対位置関係を調整できるように制御できることが望ましい。
【0056】
電子発生源2がフォトカソード2aの場合、制御部6は、フォトカソード2aが受光する励起光Lの位置を制御すればよい。電子発生源2がフィールドエミッタまたはショットキーの場合、制御部6は、第1電子ビームB1を射出するフィールドエミッタまたはショットキーの素子を制御すればよい。
【0057】
図1に示すように、電子銃1は、Z方向を軸にマルチレンズアレイ4を回転する回転機構42を備え、制御部6が回転機構42を制御することで、相対位置関係を制御してもよい。回転機構42は、マルチレンズアレイ4を回転できれば特に制限はない。例えば、マルチレンズアレイ4の外周に係合するギアを設け、モータ等の駆動源によりギアを回転すればよい。電子銃1が回転機構42を備える場合、マルチレンズアレイ4の配置を調整することで、相対位置関係の制御ができる。勿論、制御部6は、電子発生源2とマルチレンズアレイ4の回転機構42の両方を制御してもよい。
【0058】
電子発生源2から引き出した電子ビームを電子ビーム分割装置で分割することでm個の第1電子ビームB1を形成する場合、制御部6がマルチレンズアレイ4の回転機構42を制御することで、相対位置関係を制御できる。代替的に、図示は省略するが、電子ビーム分割装置を回転する回転機構(以下、「分割装置回転機構」と記載することがある。)を設け、制御部6が、分割装置回転機構を制御することで、相対位置関係を制御してもよい。分割装置回転機構は、回転機構42と同様の機構を備えればよい。勿論、制御部6は、回転機構42と分割装置回転機構の両方を制御してもよい。
【0059】
また、
図1に示すように、電子銃1は、Z方向を移動方向にマルチレンズアレイ4を移動する移動機構43を備え、制御部6が移動機構43を制御してもよい。後述するとおり、第1電子ビーム射出位置とマルチレンズアレイ4の距離を調整することで、像面ISの形成される第2電子ビームB2のビーム間隔を制御できる。移動機構43は、マルチレンズアレイ4をZ方向に移動できれば特に制限はない。例えば、ラックアンドピニオン機構およびモータ等の駆動源を備えればよい。
【0060】
なお、制御部6がマルチレンズアレイ4を回転する回転機構42を制御する場合、電子銃1が回転機構42という構成を採用する必要がある。一方、制御部6がフォトカソード、フィールドエミッタまたはショットキーを制御する場合は、マルチレンズアレイ4を回転する回転機構42は不要であり、電子銃1をシンプルにできる。したがって、制御部6がフォトカソード、フィールドエミッタまたはショットキーを制御する方がより好ましい。更に、フィールドエミッタまたはショットキーと異なり、フォトカソードは励起光Lを受光した任意の場所から電子ビームを迅速に射出できるという特徴を有している。したがって、電子発生源2としてフォトカソードを用い、フォトカソードが受光する励起光Lを制御部6が制御する場合は、相対位置関係を予め設定した位置関係とする制御、及び/又は、相対位置関係の微調整、を迅速に実施できる。
【0061】
第2の実施形態に係る電子銃1は、相対位置関係を制御することで、像面ISに形成される第2電子ビームB2が好適な配置となるように制御できるという効果を奏する。
【0062】
(電子銃および電子線適用装置の実施形態において、採用可能な構成例2)
次に、第2の実施形態に記載の相対位置関係を、より限定した例を説明する。なお、この実施形態を便宜上、第3の実施形態と記載する。本発明者らは鋭意検討の結果、射出配置とレンズ配置を特定の関係にした時に、形成した第2電子ビームB2を照射対象S上で欠損や重複することなく走査できることを新たに見出した。以下、図面を参照しながら、射出配置とレンズ配置の関係についてより詳しく説明する。
図7は、第2電子ビームB2の照射領域が重複する例を示す図である。
図8は、第2電子ビームB2の照射領域が欠損する例を示す図である。
図9乃至
図16は、第3の実施形態の概略を説明するための図である。
【0063】
第3の実施形態では、電子銃1が、例えば、走査型の電子線適用装置10に搭載される場合を想定する。
図2に示すように、像面ISに第2電子ビームB2を直線状に形成できる場合は、形成した直線状の第2電子ビームB2を電子ビーム偏向装置7で走査(スキャン)することで、第2電子ビームB2を照射対象Sに重複や欠損することなく照射できる。
【0064】
ところで、
図4に示すように、像面ISに第2電子ビームB2が非直線状に形成される場合を想定する。その場合、
図7に示す例では、先ず1回目の5×5=25個の第2電子ビームB2(
図7中の点線で囲まれた白色部分。例えば、N1(41a)、N1(41b)、N1(41c)。)が像面ISに形成され、照射対象Sに照射される。そして、電子ビーム偏向装置7で偏向された2回目の5×5=25個の第2電子ビームB2(
図7中の点線で囲まれた斜線部分。例えば、N2(41b)、N2(41c)。)が照射対象Sに照射される。この状態では、
図7に示すように、照射対象Sに照射される第2電子ビームB2の重複はない。しかしながら、電子ビーム偏向装置7で偏向された3回目の5×5=25個の第2電子ビームB2(
図7中の点線で囲まれた中に+の図がある部分。例えば、N3(41a)、N3(41b)、N3(41c)。)が照射対象Sに照射されると、例えば、N3(41c)は既に1回目の第2電子ビームN1(41b)が照射された領域に重複照射されることになる。そして、4回目にはN2(41b)、5回目にはN3(41B)等、n回目以降についても何れかの領域に第2電子ビームB2が重複照射される。
【0065】
一方、
図8に示すように、3回目の5×5=25個の第2電子ビームB2(
図8中の点線で囲まれた中に+の図がある部分。例えば、N3(41a)、N3(41b)、N3(41c)。)を照射する際に、例えば、N3(41c)が2回目の第2電子ビームN2(41b)の照射領域に重複しないように、電子ビーム偏向装置7の偏向幅を大きくすることも可能である。しかしながら、電子ビーム偏向装置7の偏向幅を大きくすると、N2(41a)とN3(41a)に間に、第2電子ビームB2の照射領域に欠損が生じる。
【0066】
第3の実施形態では、
図9に示すように、像面に形成される第2電子ビームB2が照射される領域(
図9中の●が集合した領域)を第2電子ビーム照射領域と規定した時に、第2電子ビーム照射領域は、照射対象Sを欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状である。なお、第3の実施形態では、第2電子ビーム照射領域は非直線状である。換言すると、第2電子ビームB2は直線状に並んでいない。
図9に示す例では、照射対象Sを同一形状に分割した分割領域(S1、S2、S3・・・Sn)と第2電子ビーム照射領域が一致している。したがって、
図9に示す例では、形成したm×n個の第2電子ビームB2を、重複や欠損が発生することなく、照射対象S上で走査できる。
【0067】
第2電子ビーム照射領域が照射対象Sを欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状は、射出配置およびレンズ配置を、例えば、直線状の等間隔の3以上の奇数点、正方形の4隅と中心、正六角形の6隅と中心、とすればよい。なお、前記の例は典型的な例であって、第3の実施形態が実施できる範囲であれば、その他の配置であってもよい。射出配置およびレンズ配置は、Z方向から見た時に、同一の大きさ、または、相似形である。
【0068】
次に、
図3、
図10乃至
図16を参照して、第2電子ビーム照射領域が照射対象Sを欠損および重複なく埋め尽くすことができるための関係を説明する。先ず、射出配置およびレンズ配置が、正方形の4隅と中心、または、正六角形の6隅と中心の場合について説明する。
図3および
図10に示すように、電子発生源2から射出した第1電子ビームB1は、マルチレンズアレイ(MLA)4が具備するレンズを通過し、第2電子ビームB2が像面ISに形成される。その際、像面IS上のビームの位置ベクトルPは、以下の式(1)で表すことができる。なお、
図10の記号“C”は、射出配置の中心の射出位置とレンズ配置の中心に配置されたレンズを結んだ方向である(以下、「中心軸」と記載することがある。)。より具体的には、射出配置およびレンズ配置が、正方形の4隅と中心の場合は中心同士を結んだ方向、正六角形の6隅と中心の場合は中心同士を結んだ方向である。式中(1)の記号の意味を式(1)に続いて記載する。なお、後述する式の記号の意味も纏めて記載する。
【0069】
【0070】
図11は、射出配置およびレンズ配置が正六角形の6隅と中心の場合に、Z方向に像面ISをみた図である。
図11中の記号の意味は上記のとおりである。像面ISに形成される第2電子ビームB2は、以下の式(2)に示す基底ベクトルで表すことができる。そして、式(2)から式(3)が導き出され、式(4)の関係を考慮すると、ベクトルPとベクトルPsが形成する角度θは、式(5)で表すことができる。
【0071】
【0072】
上記像面IS上のビームの位置ベクトルPを表す式(1)において、第1電子ビームB1がマルチレンズアレイ4の中心軸Cを通過する場合、ベクトルRの絶対値は以下の式(6)で表すことができる。また、中心軸Cから射出した第1電子ビームB1が中心軸Cから外れたマルチレンズアレイ4のレンズを通過する場合、ベクトルSの絶対値は以下の式(7)で表すことができる。
【数3】
【0073】
上記式(3)、(5)、(6)および(7)に、電子発生源2からマルチレンズアレイ4までの距離u、マルチレンズアレイ4から像面ISの距離v、第1電子ビームB1およびレンズの数等の設計情報を適用することで、Z方向に見た射出配置を基準とした時に、Z方向に見たレンズ配置を射出配置と同一または相似した配置から射出配置の中心を回転軸Cとして回転する角度θを計算できる。
【0074】
図11および
図12に示す例において、第1電子ビームB1が7個(正六角形の6隅と中心)、マルチレンズアレイ4のレンズが7個(正六角形の6隅と中心)、u=63mm、v=20mm、P=100μmの場合を想定する。その場合、P’=P、φ=60°、h=2、i=1となることから、θ、R、Sは以下の通り算出できる。
【0075】
【0076】
図12は、上記計算により得られた数値に基づく配置を示している。第1電子ビームB1の射出位置は電子発生源2の中心および中心軸から315μm(ベクトルR)の間隔(中心間距離)で設定し、レンズはマルチレンズアレイ(MLA)4の中心および中心軸から200.8μm(ベクトルS)の間隔(中心間距離)に配置する。そして、Z方向に見た際に、第1電子ビームB1の射出位置とレンズが相似する位置から、反時計方向にθ=19.11°相対回転することで、像面ISにはベクトルP方向に100μmの間隔の第2電子ビームB2を49個形成できる。形成した49個の第2電子ビームB2の形状は、
図9に示す照射対象Sを欠損も重複もなく埋め尽くすことができる分割領域S1、S2・・・Sn(それぞれの分割領域は同一形状)を照射できる形状である。したがって、
図12に示すように電子発生源2およびマルチレンズアレイ4を設計した電子銃1を用いると、第2電子ビームB2を欠損や重複照射されることなく照射対象S上で走査できる。
【0077】
図13および
図14は、第1電子ビームB1が5個(正方形の4隅と中心)、マルチレンズアレイ4のレンズが5個(正方形の4隅と中心)の場合の例を示している。u=63mm、v=20mm、P=100μmの場合を想定する。その場合、
図13に示すように、P’=P、φ=90°、h=2、i=1となることから、θ、R、Sは以下の通り算出できる。
【0078】
【0079】
図14は、上記計算により得られた数値に基づく配置を示している。第1電子ビームB1の射出位置は電子発生源2の中心および中心軸から315μm(ベクトルR)の間隔(中心間距離)で設定し、レンズはマルチレンズアレイ(MLA)4の中心および中心軸から170μm(ベクトルS)の間隔(中心間距離)に配置する。そして、Z方向に見た際に、第1電子ビームB1の射出位置とレンズが相似する位置から、反時計方向にθ=63.43°相対回転することで、像面ISにはベクトルP方向に100μmの間隔の第2電子ビームB2を25個形成できる。形成した25個の第2電子ビームB2の形状は、
図13に示す照射対象Sを欠損も重複もなく埋め尽くすことができる同一形状の分割領域に相当する。
【0080】
次に、射出配置およびレンズ配置が、直線状の等間隔の3以上の奇数点の場合を説明する。
図2に示すように、Z方向に見た射出配置を基準とした時に、Z方向に見たレンズ配置が、射出配置と同一または相似した配置(換言すると、回転角度が0度)にすると、像面IS上には等間隔の第2電子ビームB2が直線状に形成される。一方、
図15に示すように、Z方向に見た射出配置を基準とした時に、Z方向に見たレンズ配置が、射出配置の中心を回転軸として回転した位置に配置されると、
図16に示すように、像面IS上には平行四辺形の第2電子ビーム照射領域が形成される。形成される平行四辺形のサイズは回転する角度により変わるものの、得られる形状が平行四辺形であることには変わりない。そして、平行四辺形は、照射対象を欠損および重複なく埋め尽くすことができる形状である。したがって、射出配置およびレンズ配置が直線状の等間隔の3以上の奇数点の場合、回転角度は任意の角度であってよく、回転角度に応じて第2電子ビーム照射領域を走査する間隔を調整すればよい。また、奇数点の数は3以上であれば特に制限
はなく、5、7、9、11、13、15等が挙げられる。奇数点の上限は、原理的には特に制限はない。照射対象Sのサイズや第2電子ビームB2のサイズ等を考慮し適宜設定すればよい。
【0081】
図15に、第1電子ビームB1が等間隔の3個、マルチレンズアレイ4のレンズが等間隔の3個、電子発生源からマルチレンズアレイまでの距離=63mm、マルチレンズアレイから像面までの距離=20mmの場合の一例が示されている。第1電子ビームB1の射出位置は電子発生源2の中心および中心軸から315μm(ベクトルR)の間隔(中心間距離)で設定し、レンズはマルチレンズアレイ(MLA)4の中心および中心軸から156μm(ベクトルS)の間隔(中心間距離)に配置する。そして、Z方向に見た際に、第1電子ビームB1の射出位置とレンズが相似する位置から、反時計方向にθ=75.96°相対回転することで、像面ISにはベクトルP方向に100μmの間隔の第2電子ビームB2を9個形成できる。
【0082】
なお、上記の説明は、第1電子ビーム射出位置が電子発生源2に形成される場合の説明である。第1電子ビーム射出位置が電子ビーム分割装置に形成される場合は、上記の説明において、電子発生源2を電子ビーム分割装置と読み替えればよい。また、図面中に示す第1電子ビームB1、第2電子ビームB2、および、レンズ41の大きさ(好適には直径)は、単なる概略である。第1電子ビームB1、第2電子ビームB2、および、レンズ41の大きさは、第2および第3の実施形態の目的の範囲内で適宜調整すればよい。
【0083】
上記のとおり、第3の実施形態では、形成した第2電子ビームB2を、重複や欠損が発生することなく、照射対象S上で走査できる。したがって、第3の実施形態は、走査型の電子線適用装置10に特に有用である。限定されるものではないが、走査型の電子線適用装置10としては、例えば、走査電子顕微鏡、電子線検査装置、走査型透過電子顕微鏡等が挙げられる。勿論、第3の実施形態は、非走査型の電子線適用装置10に適用してもよい。
【0084】
第3の実施形態は、上記第2の実施形態に記載の効果に加え、以下の効果を奏する。
(1)第2の実施形態と比較して、第3の実施形態では、射出配置およびレンズ配置の形状を特定し、更に、Z方向に見た射出配置を基準とした時のレンズ配置の回転角度を特定している。したがって、第2の実施形態と比較して、像面ISに形成される第2電子ビームB2の隙間をより小さくできる。
(2)走査型の電子線適用装置に適用した場合、形成した第2電子ビームB2を、重複や欠損が発生することなく、照射対象S上で走査できる。
【0085】
(マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態)
次に、マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態について説明する。マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態は、電子発生源2からマルチレンズアレイ4の方向をZ方向と規定し、電子発生源2から第1電子ビームB1が射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、Z方向に見た時の第1電子ビーム射出位置およびマルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が、予め設定した位置関係となるように制御される点で、上記(マルチ電子ビームの形成方法の実施形態(以下、「方法の第1の実施形態」と記載することがある。))と異なり、その他の点は方法の第1の実施形態と同じである。したがって、マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態では、方法の第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、方法の第1の実施形態において説明済みの事項についての繰り返しとなる説明は省略する。よって、マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態において明示的に説明されなかったとしても、方法の第1の実施形態で説明済みの事項を採用可能であることは言うまでもない。
【0086】
マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態において、「電子発生源2からマルチレンズアレイ4の方向をZ方向と規定し、電子発生源2から第1電子ビームB1が射出する際の射出位置を第1電子ビーム射出位置と規定した時に、Z方向に見た時の第1電子ビーム射出位置およびマルチレンズアレイが具備するレンズの位置関係が、予め設定した位置関係となるように制御される」は、上記第2および第3の実施形態の説明と同じである。したがって、マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態が備える各工程の具体的な説明は、第2および第3の実施形態で実質的に説明済みであることから省略する。
【0087】
また、マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態により形成されたマルチ電子ビームを照射対象上で走査する走査工程を実施する場合(マルチ電子ビームの走査方法)は、射出配置およびレンズ配置を上記第3の実施形態で説明した配置となるよう制御した上で、形成したマルチ電子ビームを走査すればよい。
【0088】
マルチ電子ビームの形成方法の第2の実施形態は、第2および第3の実施形態に記載の効果と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本出願で開示する電子銃、電子線適用装置およびマルチ電子ビームの形成方法は、マルチレンズアレイの製造の歩留まりを向上できるとともに、電子銃または電子線適用装置のランニングコストを低くできる。したがって、マルチ電子ビームを扱う産業にとって有用である。
【符号の説明】
【0090】
1…電子銃、2…電子発生源、2a…フォトカソード、2a1…第1面、2a2…第2面、2b…光源、2c…光スプリッタ、3…アノード、4…マルチレンズアレイ、41、41a~41e…レンズ、42…回転機構、43…移動機構、5…電源、6…制御部、7…電子ビーム偏向装置、10…電子線適用装置、B…電子ビーム、B1、B1a~B1c…第1電子ビーム、B2、B2a~B2c…第2電子ビーム、CB…真空チャンバー、E…相手側装置、IS…像面、L、La~Lc…励起光、S…照射対象