(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014976
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ガス検知装置及びガス検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/16 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
G01N27/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051156
(22)【出願日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021118375
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】宮城 敦子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 尚史
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AE19
2G060BA03
2G060BB02
2G060BB18
2G060BD02
2G060BD08
2G060HC02
2G060HC13
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】低消費電力化とガスの検知精度の向上とが可能なガス検知装置及びガス検知方法を提供する。
【解決手段】検知素子20と参照素子30とを備え、検知素子20でのガスの燃焼によりセンサ出力V
outが変化するブリッジ回路40と、所定のパルス幅のパルス電圧の印加によりブリッジ回路40を駆動させると共にブリッジ回路40のセンサ出力V
outに基づいてガスを検知するMCU50とを備えるガス検知装置であって、MCU50は、ガスの検知を判定するための閾値又は前記センサ出力V
outを、外部温度とエアベース出力の変動量との関係に応じて設定された補正値を用いて、外部温度に応じて補正し、この補正値は、個体毎のエアベース比に応じて個体毎に設定されており、エアベース比は、所定のパルス幅よりも長い仮想パルス幅のパルス電圧の印加によりブリッジ回路40が駆動される仮想条件での仮想パルス幅の終端における仮想エアベース出力に対する所定のパルス幅の終端におけるエアベース出力の比率であるガス検知装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知素子と参照素子とを備え、前記検知素子でのガスの燃焼によりセンサ出力が変化するブリッジ回路と、
所定のパルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路を駆動させると共に前記ブリッジ回路の前記センサ出力に基づいてガスを検知する制御部と
を備えるガス検知装置であって、
前記制御部は、ガスの検知を判定するための閾値又は前記センサ出力を、外部温度とエアベース出力の変動量との関係に応じて設定された補正値を用いて、外部温度に応じて補正し、
前記補正値は、個体毎のエアベース比に応じて個体毎に設定されており、
前記エアベース比は、前記所定のパルス幅よりも長い仮想パルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路が駆動される仮想条件での前記仮想パルス幅の終端における仮想エアベース出力に対する前記所定のパルス幅の終端におけるエアベース出力の比率であるガス検知装置。
【請求項2】
前記仮想エアベース出力は、個体差にかかわらず前記仮想パルス幅の終端において収束する請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記補正値は、前記エアベース比に応じて個体毎に設定されたランク毎に設定されている請求項1又は2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記補正値は、前記エアベース比に応じて個体毎に設定された外部温度とエアベース出力の変動量との関数の近似直線又は近似曲線に応じて設定されている請求項1又は2に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記制御部は、
装置起動後の所定のタイミングで前記エアベース比を算出する算出処理と、
前記補正値を、前記算出処理で算出した前記エアベース比に応じた値に更新する更新処理と
を実行する請求項1~4の何れか1項に記載のガス検知装置。
【請求項6】
検知素子と参照素子とを備え前記検知素子でのガスの燃焼によりセンサ出力が変化するブリッジ回路と、所定のパルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路を駆動させると共に前記ブリッジ回路の前記センサ出力に基づいてガスを検知する制御部とを備えるガス検知装置を用いてガスを検知する方法であって、
前記所定のパルス幅よりも長い仮想パルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路が駆動される仮想条件での前記仮想パルス幅の終端における仮想エアベース出力に対する前記所定のパルス幅の終端におけるエアベース出力の比率であるエアベース比を個体毎に取得し、
外部温度とエアベース出力の変動量との関係に応じた補正値を、取得した個体毎の前記エアベース比に応じて個体毎に設定し、
ガスの検知を判定するための閾値又は前記センサ出力を、設定した前記補正値を用いて、外部温度に応じて補正するガス検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知装置及びガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス検知装置の周囲の温度や湿度に応じて補正値を算出し、算出した補正値を用いてセンサ出力を補正することにより、温度や湿度による影響を排除し、より高精度な検知を図った半導体式、電気化学式のガス検知装置が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-45546号公報
【特許文献2】特開2017-62195号公報
【特許文献3】特開2019-120655号公報
【特許文献4】特開2019-148432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検知素子と参照素子とを備えるブリッジ回路により構成される接触燃焼式(あるいは吸着燃焼式)のガス検知装置では、検知素子と参照素子とでヒーターを覆う膜の厚み(以下、膜厚という)に差が生じることにより、ブリッジ回路の平衡が崩れてセンサ出力にバラツキが生じる。この検知素子と参照素子との膜厚の差は、センサ出力の温度特性にもバラツキを生じさせる。
【0005】
ここで、ガス検知装置を駆動させるパルス電圧のパルス幅が長くなるほど、パルス幅の終端(パルス波形の立下がり時点)でのセンサ出力のバラツキやセンサ出力の温度特性のバラツキが抑えられる。しかしながら、ガス検知装置の低消費電力の要請に、パルス幅を狭めることで対応することが考えられる。この場合、パルス幅の終端でのセンサ出力のバラツキやセンサ出力の温度特性のバラツキが大きくなり、ガスの検知精度が低下する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、低消費電力化とガスの検知精度の向上とが可能なガス検知装置及びガス検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス検知装置は、検知素子と参照素子とを備え、前記検知素子でのガスの燃焼によりセンサ出力が変化するブリッジ回路と、所定のパルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路を駆動させると共に前記ブリッジ回路の前記センサ出力に基づいてガスを検知する制御部とを備えるガス検知装置であって、前記制御部は、ガスの検知を判定するための閾値又は前記センサ出力を、外部温度とエアベース出力の変動量との関係に応じて設定された補正値を用いて、外部温度に応じて補正し、前記補正値は、個体毎のエアベース比に応じて個体毎に設定されており、前記エアベース比は、前記所定のパルス幅よりも長い仮想パルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路が駆動される仮想条件での前記仮想パルス幅の終端における仮想エアベース出力に対する前記所定のパルス幅の終端におけるエアベース出力の比率である。
【0008】
また、本発明のガス検知方法は、検知素子と参照素子とを備え前記検知素子でのガスの燃焼によりセンサ出力が変化するブリッジ回路と、所定のパルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路を駆動させると共に前記ブリッジ回路の前記センサ出力に基づいてガスを検知する制御部とを備えるガス検知装置を用いてガスを検知する方法であって、前記所定のパルス幅よりも長い仮想パルス幅のパルス電圧の印加により前記ブリッジ回路が駆動される仮想条件での前記仮想パルス幅の終端における仮想エアベース出力に対する前記所定のパルス幅の終端におけるエアベース出力の比率であるエアベース比を個体毎に取得し、外部温度とエアベース出力の変動量との関係に応じた補正値を、取得した個体毎の前記エアベース比に応じて個体毎に設定し、ガスの検知を判定するための閾値又は前記センサ出力を、設定した前記補正値を用いて、外部温度に応じて補正する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低消費電力化とガスの検知精度の向上とが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るガス検知装置を示す部分断面図である。
【
図2】
図2は、検知素子及び参照素子を示す断面図である。
【
図4】
図4は、接触燃焼式のガス検知装置のセンサ出力特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、MCUによるブリッジ回路の駆動パターンを示す波形図である。
【
図6】
図6は、本実施形態のガス検知装置の原理を説明するための図である。
【
図7】
図7は、パルス幅を50msecと100msecとに設定した場合のガス検知装置の駆動波形と応答波形とを示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態のガス検知装置の温度特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、エアベース比に応じた補正係数の設定方法について説明するためのグラフである。
【
図10】
図10は、エアベース変動量を減少させる補正方法について説明するためのグラフである。
【
図11】
図11は、一実施例の補正係数の設定方法について説明するためのグラフである。
【
図12】
図12は、Aランクのガス検知装置の温度補正を説明するためのグラフである。
【
図13】
図13は、温度補正を実施しない場合の50msecの時点における温度特性を示すグラフである。
【
図14】
図14は、温度補正を実施する場合の50msecの時点における温度特性を示すグラフである。
【
図15】
図15は、温度補正を実施しない場合の100msecの時点における温度特性を示すグラフである。
【
図16】
図16は、温度補正を実施する場合の100msecの時点における温度特性を示すグラフである。
【
図17】
図17は、関数の一次式近似に基づいた温度補正式の設定方法を説明するためのグラフである。
【
図18】
図18は、係数aとエアベース比との関係を示すグラフ、及び、係数bとエアベース比との関係を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例の温度補正を実施した場合における温度特性を示すグラフである。
【
図20】
図20は、関数の一次式近似に基づいた補正式の設定方法の他の実施例を説明するためのグラフである。
【
図21】
図21は、関数の一次式近似に基づいた補正式の設定方法の他の実施例を説明するためのグラフである。
【
図22】
図22は、係数aとエアベース比との関係を示すグラフ、及び、係数bとエアベース比との関係を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例の温度補正を実施した場合における温度特性を示すグラフである。
【
図24】
図24は、関数の多項式近似に基づいた補正式の設定方法を説明するためのグラフである。
【
図25】
図25は、係数aとエアベース比との関係、係数bとエアベース比との関係、及び係数cとエアベース比との関係を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施例の温度補正を実施した場合における温度特性を示すグラフである。
【
図27】
図27は、エアベース比に応じた補正係数を、ガス検知装置の設置後に更新する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図28】
図28は、エアベース比に応じた補正式を、ガス検知装置の設置後に更新する処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るガス検知装置1を示す部分断面図である。この図に示すように、本実施形態のガス検知装置1は、ベース部2と、複数のリード3と、マイクロチップ(図示省略)と、フィルタ4と、キャップ5とを備える。ベース部2の底面から複数のリード3が延出している。
【0013】
キャップ5は、ベース部2の上面を覆っており、このキャップ5内には、フィルタ4が充填されている。フィルタ4は、ベース部2の上に配置され活性白土で構成された第1層4Aと、第1層4A上に形成され白金(Pt)触媒で構成された第2層4Bと、第2層4B上に形成され活性白土で構成された第3層4Cとを備える。
【0014】
ベース部2の上面の中央部にマイクロチップが設けられている。マイクロチップは、検知素子20(
図2参照)と参照素子30(
図2参照)とを2辺とするブリッジ回路40(
図3参照)を備える接触燃焼式(又は吸着燃焼式)のガスセンサである。マイクロチップとしては、シリコンウエハ上に半導体製造プロセスや超微細加工を利用して形成されたダイアフラム構造や梁を持つMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ガスセンサを例示できる。なお、吸着燃焼式とは、パルス電圧がOFF又はLOW電圧の期間に検知対象のガス分子が検知素子20の触媒に吸着し、パルス電圧がON又はHIGH電圧になった時に当該ガス分子が検知素子20の触媒上で燃焼しセンサ出力が得られるというガス検知方式である。
【0015】
検知素子20は、マイクロチップ上にパターニングされたヒーター21(
図3参照)を備える。参照素子30も、マイクロチップ上にパターニングされたヒーター31(
図3参照)を備える。ヒーター21,31としては、ダイアフラムタイプ、エアブリッジタイプ、カンチレバータイプ等のマイクロヒーターを例示できる。本実施形態のヒーター21,31の構造は、エアブリッジタイプのマイクロヒーターである。また、ヒーター21,31の材料としては白金等を例示できる。
【0016】
検知素子20は、ヒーター21を覆う検知部22を備える。この検知部22は、酸化反応に触媒活性を持つ物質で構成されている。検知部22は、触媒と、触媒を担持する触媒担体とを備える。検知部22の触媒の材料としては、白金、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)等の白金族系や、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等のその他の金属を例示できる。また、検知部22の触媒担体の材料としては、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スズ(SnO2)等を例示できる。
【0017】
参照素子30は、ヒーター31を覆う参照部32を備える(
図2参照)。この参照部32は、酸化反応に触媒活性を持たない物質で構成されている。参照部32は、検知部22の触媒担体と同様の材料で構成されている。
【0018】
図2は、検知素子20及び参照素子30を示す断面図である。この図に示すように、検知素子20及び参照素子30を備えるマイクロチップでは、ヒーター21により数百度に加熱された検知部22に検知対象の可燃性のガス分子が接触(又は吸着)すると、検知部22上で接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)が起こり、その反応熱によりヒーター21の温度が上昇して抵抗値が増大する。他方で、参照素子30の参照部32に可燃性のガス分子が接触(又は吸着)しても接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)は起きない。このようなガス検知装置1では、ヒーター21の抵抗値の変化をブリッジ回路40によりセンサ出力として取得して可燃性ガスを検知したり可燃性ガスの濃度を同定したりする。
【0019】
図3は、ブリッジ回路40を示す回路図である。この図に示すように、ブリッジ回路40は、一対の並列回路40A,40Bと、電源41とを備える。この一対の並列回路40A,40Bは、電源41の正極に接続された導線から分岐する。分岐した一対の並列回路40A,40Bは、可変抵抗VRを介して電源41の負極に接続された導線に再結合する。一方の並列回路40Aにおいて、検知素子20と、参照素子30とが直列で接続されている。他方の並列回路40Bにおいては、一対の固定抵抗R1,R2が直列で接続されている。本実施形態では、検知素子20が電源41の正極側に配され、参照素子30が電源41の負極側に配されている。
【0020】
電源41としては、電池や商用電源等を例示できる。本実施形態では後述する低消費電力化の実現により、電源41を小型の電池とすることが可能となっている。
【0021】
ブリッジ回路40は、検知素子20と参照素子30との間に接続された端子42と、固定抵抗R1と固定抵抗R2との間に接続された端子43とを備え、端子42と端子43との電位差である出力電圧VoutをMCU(Micro Control Unit)50に出力する。MCU50は、ブリッジ回路40をパルス駆動させると共にブリッジ回路40の出力電圧Voutに基づいて検出対象の可燃性ガスを検知する。また、後述するように、MCU50は、温度計測器としてのサーミスタ51により計測されるガス検知装置1の周囲の温度(外部温度)に応じて、温度補正を実施する。
【0022】
図4は、接触燃焼式のガス検知装置1のセンサ出力特性を示すグラフである。このグラフに示すセンサ出力(V)は、増幅後の値である。このグラフに示すように、センサ出力(V)は、検知対象の可燃性ガスの濃度に比例して上昇する。
【0023】
図5は、MCU50によるブリッジ回路40の駆動パターンを示す波形図である。この図に示すように、MCU50は、ブリッジ回路40をパルス駆動する。本実施形態では、ブリッジ回路40をパルス駆動する周期は30secであり、パルス幅(ON時間)は50msecである。なお、ブリッジ回路40のON/OFF制御を実施することは必須ではなく、ブリッジ回路40のLOW/HIGH制御(LOW電圧とHIGH電圧との切替制御)を実施するようにしてもよい。
【0024】
図6は、本実施形態のガス検知装置1の原理を説明するための図である。この図の左側上段に示すように、本実施形態では、パルス電圧のパルス幅を50msecに設定し、パルス周期を30secに設定する。ここで、図中右側に示すように、検知素子20の検知部22と参照素子30の参照部32との膜厚に差が生じる場合と生じない場合とが想定される。具体的には、図中右側上段に示すように、検知部22の膜厚が参照部32の膜厚よりも小さくなる場合(以下、ケース1という)、図中右側中段に示すように、検知部22の膜厚と参照部32の膜厚とが等しくなる場合(以下、ケース2という)、図中右側下段に示すように、検知部22の膜厚が参照部32の膜厚よりも大きくなる場合(以下、ケース3という)とが想定される。
【0025】
そして、図中左側下段に示すように、検知部22の膜厚と参照部32の膜厚との関係により、ガス検知装置1の応答波形(出力Voutの波形)にバラツキが生じる。具体的には、ケース1の場合に最大のピーク出力が出現し、ケース2の場合には、ケース1の場合に比してピーク出力が低くなる。さらに、ケース1,2の場合には、パルスがONになってから10~30msecの間にピーク出力を示すのに対し、ケース3の場合には、パルスがONになってから50msecの時点でピーク出力を示す。このケース3の場合におけるピーク出力は、ケース1,2の場合におけるピーク出力に比して低い。
【0026】
ここで、パルスがONになってから50msecの時点(以下、50msecの時点という。実際のパルス幅の終端)におけるケース1~3の場合におけるセンサ出力にもバラツキが生じる。具体的には、50msecの時点でのセンサ出力は、ケース1が最も高く、ケース2が次に高く、ケース3が最も低くなる。即ち、50msecの時点では、ケース1、ケース2、ケース3のセンサ出力は収束しない。
【0027】
図7は、パルス幅を50msecと100msecとに設定した場合のガス検知装置1の駆動波形と応答波形とを示す図である。この図の応答波形の縦軸は、パルスがONになってから100msecの時点(以下、100msecの時点という。仮想パルス幅の終端)でのセンサ出力に対する50msecの時点でのセンサ出力の比率(以下、エアベース比という)である。この図に示すように、100msecの時点では、ケース1~3のセンサ出力がいずれも1となり収束する。このように、ケース1~3のセンサ出力が収束する点を飽和点と称する。
【0028】
図8は、本実施形態のガス検知装置1の温度特性を示すグラフである。この図に示す縦軸の「エアベース変動量/mV」は、ガス検知装置1の周囲の温度が20℃の場合におけるケース1~3のエアベース出力を基準としてその基準に対する差(以下、エアベース変動量という)を求めた値である。よって、ガス検知装置1の周囲の温度が20℃の場合のエアベース変動量は常に0mVである。なお、図中のAランク、Bランク、Cランクについては後述する。
【0029】
本実施形態のガス検知装置1では、
図6に示すように、検知部22と参照部32との膜厚の差により応答波形にバラツキが生じるのに加えて、
図8に示すように、検知部22と参照部32との膜厚の差により周囲温度とエアベース変動量との関係(以下、温度特性と称する)にバラツキが生じる。
【0030】
ここで、本願の発明者等は、ガス検知装置1の温度特性がエアベース比に対して相関を示すこと、即ち、ガス検知装置1ではエアベース比に応じた温度特性が出現することを見出した。そこで、本実施形態では、予め、エアベース比に応じた温度特性を実験等により確認しておく。そして、ガス検知装置1のエアベース比を個体毎に取得し、取得したエアベース比に応じた補正係数や補正式を個体毎に設定することにより、温度の変動により生じるエアベース変動量の増大を抑制する。以下、エアベース比に応じた補正係数や補正式の設定方法について説明する。
【0031】
図9は、エアベース比に応じた補正係数の設定方法について説明するためのグラフである。この図では、50msecの時点におけるセンサ出力と100msecの時点(飽和点)におけるセンサ出力とを比較している。温度条件は統一されており、本実施例では20℃である。この図に示すように、エアベース比は、ケース1が最も高く、ケース2が次に高く、ケース3が最も低くなる。例えば、図示するように、ケース1が1.08、ケース2が1.03、ケース3が0.98となる。
【0032】
ここで、本実施例の補正係数の設定方法では、まず、所定温度(本実施例では20℃)でのエアベース比により、ガス検知装置1を個体毎にランク分けする。そして、後述するように、ランク毎に補正係数を設定して温度補正を実施する。
【0033】
具体的には、所定温度でのエアベース比ABRが0.95≦ABR<1の個体をAランク、所定温度でのエアベース比ABRが1≦ABR<1.05の個体をBランク、所定温度でのエアベース比ABRが1.05≦ABR<1.1の個体をCランク、所定温度でのエアベース比ABRがα<0.95、α≧1.1の個体をランク外といった個体毎のランク分けを行う。なお、ここでの数値は一例であり、これらの数値に限定されるわけではない。
【0034】
図10及び
図11は、エアベース変動量を減少させる補正方法について説明するためのグラフである。
図10のグラフには、Aランクにランク分けされたガス検知装置1の温度特性、及びエアベース変動量を減少させる補正について示している。また、
図11のグラフには、Cランクにランク分けされたガス検知装置1の温度特性、及びエアベース変動量を減少させる補正について示している。
【0035】
図10及び
図11に示すように、ランクAのガス検知装置1とランクCのガス検知装置1とは、共にエアベース変動量が減少するように補正される。ここで、ランクAのガス検知装置1とランクCのガス検知装置1とでは、補正前の温度特性が異なる。特に、ランクAのガス検知装置1は、温度が低くなるほどエアベース変動量が負の方向に大きくなり、温度が高くなるほどエアベース変動量が正の方向に大きくなる。それに対して、ランクCのガス検知装置1は、温度が低くなるほどエアベース変動量が正の方向に大きくなり、温度が高くなるほどエアベース変動量が負の方向に大きくなる。即ち、ランクAのガス検知装置1とランクCのガス検知装置1との温度特性は、相互に正負が反転した関係になることもある。
【0036】
そこで、本実施例の補正係数の設定方法では、ランク毎に補正係数を設定する。以下、この点について説明する。
【0037】
本実施例の設定方法で補正係数が設定されたガス検知装置1では、サーミスタ51(
図3参照)により計測されるガス検知装置1の周囲の温度に応じて異なる補正係数を用いて温度補正を実施する。そのために、ガス検知装置1の周囲の温度T
nと、個体毎のランクと、補正係数α
n,β
n,γ
nとの相関関係を予め実験により求める。そして、予めガス検知装置1を個体毎にエアベース比でランク分けし、ランクに対応する温度T
nと補正係数α
n,β
n,γ
nとの相関関係を示すテーブルを、個体毎にMCU50のメモリに記憶させる。
【0038】
補正係数を設定するにあたり、まず、同一ランクにランク分けされた複数の個体のエアベース出力を、複数の温度条件(-10℃,0℃,20℃,35℃,50℃)で取得する。次に、取得した20℃でのエアベース出力を1(比率=1)に変換し、その他の温度条件でのエアベース出力を20℃でのエアベース出力に対する比率(即ちエアベース比)に変換する。次に、複数の個体の各温度条件でのエアベース比の平均値を算出する。そして、算出したエアベース比の平均値の逆数を、各温度条件での補正係数αn,βn,γnとして算出する。
【0039】
Aランクの個体の上記テーブルは、例えば、以下のようになる。
-10≦T1<0℃ ・・・α1
0≦T2<20℃ ・・・α2
20≦T3<35℃ ・・・α3
35≦T4<50℃ ・・・α4
50≦T5<60℃ ・・・α5
【0040】
Bランクの上記テーブルは、例えば、以下のようになる。
-10≦T1<0℃ ・・・β1
0≦T2<20℃ ・・・β2
20≦T3<35℃ ・・・β3
35≦T4<50℃ ・・・β4
50≦T5<60℃ ・・・β5
【0041】
Cランクの上記テーブルは、例えば、以下のようになる。
-10≦T1<0℃ ・・・γ1
0≦T2<20℃ ・・・γ2
20≦T3<35℃ ・・・γ3
35≦T4<50℃ ・・・γ4
50≦T5<60℃ ・・・γ5
【0042】
図12は、Aランクのガス検知装置1の温度補正を説明するためのグラフである。このグラフに示すように、例えば、Aランクのガス検知装置1においてサーミスタ51(
図3参照)により温度T
4が検出された場合に、センサ出力を補正係数α
4を用いて補正する。この際、下記(1)の温度補正式を用いる。
エアベース温度補正値=センサ出力*補正係数α
4 ・・・(1)
ここで、エアベース温度補正値は、ガス検知装置1の周囲の温度が20℃のときのエアベース出力(ガスの濃度が0の場合のセンサ出力)に相当する。
【0043】
図13は、温度補正を実施しない場合の50msecの時点における温度特性を示すグラフである。
図14は、温度補正を実施する場合の50msecの時点における温度特性を示すグラフである。
図13に示すように、温度補正を実施しない場合には、50msecの時点における温度特性のバラツキが大きくなる。それに対して、
図14に示すように、温度補正を実施する場合には、温度補正を実施しない場合に比して、50msecの時点における温度特性のバラツキが小さくなる。特に、ランク毎に温度補正式を変えて温度補正を実施することにより、精度の高い温度補正を実現できることを確認できる。
【0044】
図15は、温度補正を実施しない場合の100msecの時点における温度特性を示すグラフである。
図13のグラフに示す温度補正を実施しない場合の50msecの時点における温度特性のバラツキと比較すると、
図15のグラフに示す温度補正を実施しない場合の100msecの時点における温度特性のバラツキが小さくなることを確認できる。
【0045】
図16は、温度補正を実施する場合の100msecの時点における温度特性を示すグラフである。
図15のグラフに示す温度補正を実施しない場合の100msecの時点における温度特性と比較すると、
図16のグラフに示す温度補正を実施する場合の100msecの時点における温度特性のバラツキが小さくなることを確認できる。また、
図14のグラフに示す温度補正を実施する場合の50msecの時点における温度特性と比較すると、
図16のグラフに示す温度補正を実施する場合の100msecの時点における温度特性のバラツキが小さくなることを確認できる。
【0046】
ここで、本実施形態のガス検知装置1の温度補正は、ブリッジ回路40からの出力Voutに対して直接行ってもよく、検知対象の可燃性ガスの有無を判断するための判定閾値に対して行ってもよい。あるいは、ブリッジ回路40からの出力Voutに対して直接行うと共に、判定閾値に対しても行ってもよい。何れの場合でも検知対象の可燃性ガスの誤検知、検知漏れの発生を抑制できる。
【0047】
ブリッジ回路40からの出力Voutに対して直接、温度補正を行う場合には、サーミスタ51により計測された温度に対応する補正係数をセンサ出力に乗じる。検知対象の可燃性ガスが存在しない場合には、エアベース出力の温度補正をすることになり、検知対象の可燃性ガスが存在する場合には、検知部22での接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)に応じたセンサ出力の温度補正をすることになる。
【0048】
他方で、判定閾値に対して温度補正を行う場合には、サーミスタ51により計測された温度に対応する補正係数で判定閾値を除する。検知対象の可燃性ガスの存否にかかわらず、判定閾値を温度補正することになる。
【0049】
以下、補正式の設定方法について説明する。上述の補正係数の設定方法は、個体毎にランク分けをしたガス検知装置1に複数の温度区分に応じた補正係数を設定するというものであった。以下に説明する補正式の設定方法は、上述の補正係数の設定方法とは異なり、個体毎のランク分けは行わずに、ガス検知装置1に個体毎に関数の一次式近似や多項式近似に基づいた補正式を設定するというものである。
【0050】
図17は、関数の一次式近似に基づいた補正式の設定方法を説明するためのグラフである。このグラフに示すように、本実施例においては、x軸をガス検知装置1の周囲の温度、y軸をエアベース変動量とする座標の(x,y)の点群データから下記(2)の1次関数の近似直線を求める。この近似直線は、エアベース比に応じて無限に存在する。
y=ax+b ・・・(2)
【0051】
本実施例では、予め、多数のガス検知装置1のエアベース比を取得し、上記(2)式の係数a,bとエアベース比との関係を求める。
図18は、係数aとエアベース比との関係を示すグラフ、及び、係数bとエアベース比との関係を示すグラフである。
【0052】
図18の左側のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数aとする座標の(x,y)の点群データから下記(3)の1次関数の近似直線を求める。
y=dx+e ・・・(3)
【0053】
図18の右側のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数bとする座標の(x,y)の点群データから下記(4)の1次関数の近似直線を求める。
y=fx+g ・・・(4)
【0054】
本実施例では、ガス検知装置1の周囲の温度と、エアベース比と、上記(2)の1次関数の近似直線との相関関係を予め実験により求める。そして、予めガス検知装置1のエアベース比を個体毎に求め、エアベース比に対応する補正式を個体毎にMCU50のメモリに記憶させる。補正式は、エアベース比に対応する上記(2)の1次関数の近似直線をy=0に変換する式である。
【0055】
図17のy=0.1485x-2.0296の1次関数の近似直線は、エアベース比が約0.92の場合における温度特性を示している。また、
図17のy=-0.0811x+1.0285の1次関数の近似直線は、エアベース比が約1.07の場合における温度特性を示している。
【0056】
図19は、本実施例の温度補正を実施した場合における温度特性を示すグラフである。
図17のグラフに示す温度補正を実施しない場合の温度特性と比較すると、
図19のグラフに示す温度補正を実施する場合の温度特性のバラツキが小さくなることを確認できる。
【0057】
図20及び
図21は、関数の一次式近似に基づいた補正式の設定方法の他の実施例を説明するためのグラフである。
図20のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をガス検知装置1の周囲の温度、y軸をエアベース変動量(mV)とする座標を、20℃を境界として20℃未満の区分1と20℃以上の区分2とに左右に分割する。
【0058】
そして、
図21の左側のグラフに示すように、区分1の(x,y)の点群データから下記(5)の1次関数の近似直線を求め、
図21の右側のグラフに示すように、区分2の(x,y)の点群データから下記(6)の1次関数の近似直線を求める。これらの近似直線は、エアベース比に応じて無限に存在する。
y=ax …(5)
y=bx …(6)
【0059】
本実施例では、予め、多数のガス検知装置1のエアベース比を取得し、上記(5),(6)式の係数a,bとエアベース比との関係を求める。
図22は、係数aとエアベース比との関係を示すグラフ、及び、係数bとエアベース比との関係を示すグラフである。
【0060】
図22の左側のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数aとする座標の(x,y)の点群データから下記(7)の1次関数の近似直線を求める。
y=dx+e ・・・(7)
【0061】
図22の右側のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数bとする座標の(x,y)の点群データから下記(8)の1次関数の近似直線を求める。
y=fx+g ・・・(8)
【0062】
本実施例では、ガス検知装置1の周囲の温度と、エアベース比と、上記(5),(6)の1次関数の近似直線との相関関係を予め実験により求める。そして、予めガス検知装置1のエアベース比を個体毎に求め、エアベース比に対応する補正係数を個体毎にMCU50のメモリに記憶させる。補正係数は、エアベース比に対応する上記(5),(6)の1次関数の近似直線をy=0に変換する式である。
【0063】
図21のy=0.0808xの1次関数の近似直線は、エアベース比が約0.92の場合における温度特性を示している。また、
図21のy=0.2195xの1次関数の近似直線は、エアベース比が約0.92の場合における温度特性を示している。
【0064】
図23は、本実施例の温度補正を実施した場合における温度特性を示すグラフである。
図20のグラフに示す温度補正を実施しない場合の温度特性と比較すると、
図23のグラフに示す温度補正を実施する場合の温度特性のバラツキが小さくなることを確認できる。
【0065】
図24は、関数の多項式近似に基づいた補正式の設定方法を説明するためのグラフである。このグラフに示すように、本実施例においては、x軸をガス検知装置1の周囲の温度、y軸をエアベース変動量(mV)とする座標の(x,y)の点群データから下記(9)の2次関数の近似曲線を求める。この近似曲線は、エアベース比に応じて無限に存在する。
y=ax
2+bx+c ・・・(9)
【0066】
本実施例では、予め、多数のガス検知装置1のエアベース比を取得し、上記(9)式の係数a,b,cとエアベース比との関係を求める。
図25は、係数aとエアベース比との関係、係数bとエアベース比との関係、及び係数cとエアベース比との関係を示すグラフである。
【0067】
図25の上段左側のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数aとする座標の(x,y)の点群データから下記(10)の1次関数の近似直線を求める。
y=dx+e ・・・(10)
【0068】
図25の上段右側のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数bとする座標の(x,y)の点群データから下記(11)の1次関数の近似直線を求める。
y=fx+g ・・・(11)
【0069】
図25の下段のグラフに示すように、本実施例においては、x軸をエアベース比、y軸を係数cとする座標の(x,y)の点群データから下記(12)の1次関数の近似直線を求める。
y=hx+i ・・・(12)
【0070】
本実施例では、ガス検知装置1の周囲の温度と、エアベース比と、上記(9)の2次関数の近似曲線との相関関係を予め実験により求める。そして、予めガス検知装置1のエアベース比を個体毎に求め、エアベース比に対応する補正式を個体毎にMCU50のメモリに記憶させる。補正式は、エアベース比に対応する上記(9)の2次関数の近似曲線をy=0に変換する式である。
【0071】
図24のy=0.0024x
2+0.0545x-2.2755の2次関数の近似曲線は、エアベース比が約0.92の場合における温度特性を示している。また、
図24のy=-0.0013x
2-0.0297x+1.1631の2次関数の近似曲線は、エアベース比が約1.07の場合における温度特性を示している。
【0072】
図26は、本実施例の温度補正を実施した場合における温度特性を示すグラフである。
図24のグラフに示す温度補正を実施しない場合の温度特性と比較すると、
図26のグラフに示す温度補正を実施する場合の温度特性のバラツキが小さくなることを確認できる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係るガス検知装置1及びガス検知方法によれば、ブリッジ回路40をパルス駆動するパルスのON時間(パルス幅)を、例えば50msecのようにセンサ出力Voutが収束しないような狭幅にした場合でも、エアベース出力の温度特性のバラツキを抑制できる。従って、低消費電力化とガスの検知精度の向上とが可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、ガス検知装置1ではエアベース比に応じた温度特性が出現するという新規の知見に基づいて、予めエアベース比に応じた温度特性を実験等により確認しておき、補正係数や補正式を設定する段階では、ガス検知装置1のエアベース比を個体毎に取得し、取得したエアベース比に応じた補正係数や補正式を個体毎に設定する。これにより、個体全数について温度特性を取得するような大きな工数をかけることなく、温度の変動により生じるエアベース変動量の増大を抑制することができる。従って、ガス検知装置1のエアベースの調整に要する工数を低減したうえで、ガスの高精度な検知を実現できる。
【0075】
ところで、上述したように、上記実施形態に係るガス検知装置1では、エアベース比に応じた補正係数や補正式が個体毎に設定されている。ここで、ガス検知装置1の市場での設置環境の影響により、検知素子20や参照素子30が被毒したり、検知素子20や参照素子30に水分が吸着したりする場合がある。この場合には、ガス検知装置1の温度特性が変化することが考えられる。そこで、以下の実施形態では、設置後に定期的にエアベース比を算出してエアベース比に応じた補正係数や補正式を更新する処理を実行する。以下、当該処理について説明する。
【0076】
図27は、エアベース比に応じた補正係数を、ガス検知装置1の設置後に更新する処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、ガス検知装置1が起動されるとステップS1~S8の更新ループ処理が実行される。このガス検知装置1は、エアベース比に応じた補正係数が初期に設定されている。
【0077】
ステップS1において、MCU50(
図3参照)は、所定期間(例えば、24時間や7日等)が経過したか否かを判定する。ステップS1において否定判定がされている間、ステップS1が繰り返され、ステップS1において肯定判定がされた場合にステップS2に移行する。
【0078】
ステップS2~S8において、MCU50は、エアベース比に応じた補正係数を更新する処理を行う。まず、ステップS2において、エアベース比を算出する。具体的には、100msecの時点でのセンサ出力と50msecの時点でのセンサ出力とを取得し、100msecの時点でのセンサ出力に対する50msecの時点でのセンサ出力の比率を算出する。
【0079】
次に、ステップS3において、MCU50は、ステップS2で算出されたエアベース比(ABR)が95%以上100%未満であるか否かを判定する。ステップS3において肯定判定がされた場合には、ステップS6に移行し、ステップS3において否定判定がされた場合には、ステップS4に移行する。
【0080】
ステップS4において、MCU50は、ステップS2で算出されたエアベース比(ABR)が100%以上105%未満であるか否かを判定する。ステップS4において肯定判定がされた場合には、ステップS7に移行し、ステップS4において否定判定がされた場合には、ステップS5に移行する。
【0081】
ステップS5において、MCU50は、ステップS2で算出されたエアベース比(ABR)が105%以上110%未満であるか否かを判定する。ステップS5において肯定判定がされた場合には、ステップS8に移行し、ステップS5において否定判定がされた場合には、ステップS9に移行する。
【0082】
ステップS6において、MCU50は、補正係数をAランクの補正係数αnに更新する。また、ステップS7において、MCU50は、補正係数をBランクの補正係数βnに更新する。また、ステップS8において、MCU50は、補正係数をCランクの補正係数γnに更新する。さらに、ステップS9において、MCU50は、ガス検知装置1を故障と判定し判定結果を出力し、処理を終了する。
【0083】
以上説明したように、当該実施形態では、検知素子20や参照素子30の被毒等の状態に応じたエアベース比を定期的に算出し、その算出したエアベース比に応じて補正係数を更新する。これにより、ガス検知装置1の市場での設置環境の影響にかかわらず、温度の変動により生じるエアベース変動量の増大を抑制できる。
【0084】
図28は、エアベース比に応じた補正式を、ガス検知装置1の設置後に更新する処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、ガス検知装置1が起動されるとステップS11~S15の更新ループ処理が実行される。このガス検知装置1は、エアベース比に応じた補正式が初期に設定されている。この補正式は、エアベース比に対応する上記(2)の1次関数の近似曲線をy=0に変換する式である。
【0085】
ステップS11において、MCU50(
図3参照)は、所定期間(例えば、24時間や7日等)が経過したか否かを判定する。ステップS11において否定判定がされている間は、ステップS11が繰り返され、ステップS11において肯定判定がされた場合にステップS12に移行する。
【0086】
ステップS12~S16において、MCU50は、エアベース比に応じた補正式を更新する処理を行う。まず、ステップS12において、エアベース比を算出する。次に、ステップS13において、MCU50は、ステップS12で算出されたエアベース比(ABR)が95%以上110%未満であるか否かを判定する。ステップS13において肯定判定がされた場合には、ステップS14に移行し、ステップS13において否定判定がされた場合には、ステップS16に移行する。ステップS16において、MCU50は、ガス検知装置1を故障と判定し判定結果を出力し、処理を終了する。
【0087】
ステップS14において、MCU50は、ステップS12で算出されたエアベース比に応じて上記(2)の1次関数の近似曲線を求め、求めた1次関数の近似曲線から補正式を決定する。ここで、上記(2)の1次関数の近似曲線のa値は、上記(3)の1次関数の近似曲線から算出し、上記(2)の1次関数の近似曲線のb値は、上記(4)の1次関数の近似曲線から算出する。次にステップS15において、MCU50は、補正式を、ステップS14で決定された補正式に更新する。
【0088】
以上説明したように、当該実施形態では、検知素子20や参照素子30の被毒等の状態に応じたエアベース比を定期的に算出し、その算出したエアベース比に応じて補正式を更新する。これにより、ガス検知装置1の市場での設置環境の影響にかかわらず、温度の変動により生じるエアベース変動量の増大を抑制できる。
【0089】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 ガス検知装置
20 検知素子
30 参照素子
40 ブリッジ回路
50 MCU(制御部)
ABR エアベース比
G ガス
Tn 温度(外部温度)
Vout センサ出力(出力電圧)
αn 補正係数(補正値)
βn 補正係数(補正値)
γn 補正係数(補正値)