(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149783
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】コーヒー豆の焙煎装置及びコーヒー豆の焙煎方法
(51)【国際特許分類】
A23N 12/08 20060101AFI20231005BHJP
A23F 5/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23N12/08 A
A23F5/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058542
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】505285582
【氏名又は名称】コロラド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正勝
(72)【発明者】
【氏名】癸生川 良次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】鳥塚 将輝
【テーマコード(参考)】
4B027
4B061
【Fターム(参考)】
4B027FB21
4B027FC01
4B027FC02
4B027FE01
4B027FQ02
4B027FR05
4B061AA01
4B061BA09
4B061BB19
4B061CD01
4B061CD06
4B061CD19
(57)【要約】
【課題】 コーヒー飲料に良好な香味をもたらす焙煎条件でコーヒー豆の焙煎を行うことが可能なコーヒー豆の焙煎装置及びコーヒー豆の焙煎方法の提供を目的とする。
【解決手段】 コーヒー豆の焙煎装置は、コーヒー豆を焙煎する焙煎釜と、前記焙煎釜を加熱する加熱手段と、少なくとも、前記加熱手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記焙煎釜の温度が所定温度に至った後の所定期間、前記焙煎釜の温度を前記所定温度に保持するよう前記加熱手段を制御することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆を焙煎する焙煎釜と、
前記焙煎釜を加熱する加熱手段と、
少なくとも、前記加熱手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記焙煎釜の温度が所定温度に至った後の所定期間、前記焙煎釜の温度を前記所定温度に保持するよう前記加熱手段を制御する
コーヒー豆の焙煎装置。
【請求項2】
前記コーヒー豆の原種が、アラビカ種であり、
前記焙煎釜の前記所定温度が、160℃から190℃である
請求項1に記載のコーヒー豆の焙煎装置。
【請求項3】
前記コーヒー豆の原種が、ロブスタ種であり、
前記焙煎釜の前記所定温度が、190℃から220℃である
請求項1に記載のコーヒー豆の焙煎装置。
【請求項4】
コーヒー豆を焙煎する焙煎釜と、前記焙煎釜を加熱する加熱手段と、少なくとも、前記加熱手段を制御する制御手段とを備えるコーヒー豆の焙煎装置を用い、
前記コーヒー豆を前記焙煎釜に投入するステップと、
前記焙煎釜が前記加熱手段によって加熱され、前記焙煎釜の温度が所定温度に至った後の所定期間、前記焙煎釜の温度を前記所定温度に保持するステップと、
を備えるコーヒー豆の焙煎方法。
【請求項5】
前記コーヒー豆の原種が、アラビカ種であり、
前記焙煎釜の前記所定温度が、160℃から190℃である
請求項4に記載のコーヒー豆の焙煎方法。
【請求項6】
前記コーヒー豆の原種が、ロブスタ種であり、
前記焙煎釜の前記所定温度が、190℃から220℃である
請求項4に記載のコーヒー豆の焙煎方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆の焙煎装置及びコーヒー豆の焙煎方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料の香味は、コーヒーノキ(コーヒー生豆)の種類や栽培過程、並びに、コーヒー豆の精製過程からコーヒー飲料の抽出過程に至るまでの種々の要因に影響を受け得る。このようなコーヒー飲料の香味に影響を与え得る要因の1つとして、コーヒー生豆を焙煎する際の焙煎条件が挙げられる。
【0003】
これに関連して、特許文献1に開示されるコーヒー豆の焙煎装置(焙煎方法)のように、コーヒー豆の焙煎過程に工夫を施し、焙煎後のコーヒー豆(焙煎豆)に含まれる香味成分の散逸や化学変化等を抑えるための種々の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のコーヒー豆の焙煎装置は、コーヒー豆を焙煎する焙煎釜と、所定の温度の熱風を焙煎釜に供給する加熱装置(加熱手段)と、コーヒー豆を焙煎釜から取り出す取出装置と、これらの装置やその他の付帯装置を制御する制御装置とを備える。
【0006】
より詳しくは、特許文献1に開示のコーヒー豆の焙煎装置において、加熱手段から焙煎釜に熱が加えられることで、焙煎釜に投入されたコーヒー豆が焙煎される。このとき、焙煎釜内の温度が、焙煎時間の経過に伴い、おおよそ直線的に上昇するよう制御される。
【0007】
ところで、コーヒーノキ(コーヒー生豆)の種類として、例えば、アラビカ種及びロブスタ種に属するものが挙げられる。
図4に、アラビカ種のコーヒー豆を焙煎する際の焙煎釜(コーヒー豆)の一般的な温度推移を示す。ここで、アラビカ種のコーヒー豆を焙煎する際、焙煎釜(コーヒー豆)の温度が、約165℃から185℃の温度帯に至ると、コーヒー飲料の香味形成に重要な化学反応が、コーヒー豆内で起こるとされている。
【0008】
具体的には、前記温度帯に至るまでにコーヒー豆の「脱水反応」が進み、含水率が十分低減されていると、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸類からクロロゲン酸ラクトンが生成される。クロロゲン酸ラクトンは、コーヒー特有の苦味を引き出す成分と言われている。このような条件で焙煎されたアラビカ種のコーヒー豆を用いることで、コーヒー飲料に良好な香味が奏される。
【0009】
これに対して、前記温度帯(例えば、約165℃から185℃)に至るまでにコーヒー豆の含水率が十分低減されていない場合、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸類が加水分解し、加水分解によって生成された成分(例えば、カフェー酸)によって、コーヒー飲料に渋味がもたらされる。すなわち、アラビカ種のコーヒー豆を焙煎する際、前記温度帯(例えば、約165℃から185℃の温度帯)に至るまで又は前記温度帯での焙煎条件が、コーヒー飲料の香味に大きな影響を及ぼすと考えられている。
【0010】
他方、
図5に、ロブスタ種のコーヒー豆を焙煎する際の焙煎釜(コーヒー豆)の一般的な温度推移を示す。ここで、ロブスタ種のコーヒー豆を焙煎する際、コーヒー豆の温度が、約185℃を超えて更に上昇すると、「メイラード反応」が進みコーヒー豆のカラメル化が促進されると考えられている。その結果、いわゆる「ロブ臭」と言われる特有の苦味や甘味がコーヒー飲料にもたらされる。
【0011】
すなわち、ロブスタ種のコーヒー豆を焙煎する際、約185℃を超える温度帯での焙煎条件が、コーヒー飲料の香味に大きな影響を及ぼすと考えられる。同様に、他の原種のコーヒー豆においても、コーヒー飲料の香味に大きな影響を与えうる温度帯が存在すると考えられる。
【0012】
前記課題に鑑み、本発明は、コーヒー飲料に良好な香味をもたらす焙煎条件でコーヒー豆の焙煎を行うことが可能なコーヒー豆の焙煎装置及びコーヒー豆の焙煎方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決するため、本発明に係るコーヒー豆の焙煎装置は、
コーヒー豆を焙煎する焙煎釜と、
前記焙煎釜を加熱する加熱手段と、
少なくとも、前記加熱手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記焙煎釜の温度が所定温度に至った後の所定期間、前記焙煎釜の温度を前記所定温度に保持するよう前記加熱手段を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るコーヒー豆の焙煎装置において、
前記コーヒー豆の原種が、アラビカ種である場合、前記焙煎釜の前記所定温度が、160℃から190℃であることが好ましく、
前記コーヒー豆の原種が、ロブスタ種である場合、前記焙煎釜の前記所定温度が、190℃から220℃であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るコーヒー豆の焙煎方法は、
コーヒー豆を焙煎する焙煎釜と、前記焙煎釜を加熱する加熱手段と、少なくとも、前記加熱手段を制御する制御手段とを備えるコーヒー豆の焙煎装置を用い、
前記コーヒー豆を前記焙煎釜に投入するステップと、
前記焙煎釜が前記加熱手段によって加熱され、前記焙煎釜の温度が所定温度に至った後の所定期間、前記焙煎釜の温度を前記所定温度に保持するステップと、
を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るコーヒー豆の焙煎方法は、
前記コーヒー豆の原種が、アラビカ種である場合、前記焙煎釜の前記所定温度が、160℃から190℃であることが好ましく、
前記コーヒー豆の原種が、ロブスタ種である場合、前記焙煎釜の前記所定温度が、190℃から220℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、焙煎釜の加熱開始後の所定期間、焙煎釜の温度が、所定温度に保持するよう制御されるため、コーヒー飲料に良好な香味をもたらすコーヒー豆(焙煎豆)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコーヒー豆の焙煎装置の概略図。
【
図2】アラビカ種のコーヒー豆の焙煎時における焙煎釜内の温度推移を示す図。
【
図3】ロブスタ種のコーヒー豆の焙煎時における焙煎釜内の温度推移を示す図。
【
図4】従来のアラビカ種のコーヒー豆の焙煎時における焙煎釜内の温度推移を示す図。
【
図5】従来のロブスタ種のコーヒー豆の焙煎時における焙煎釜内の温度推移を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係るコーヒー豆の焙煎装置を詳細に説明する。初めに、
図1を参照して、本実施形態に係るコーヒー豆の焙煎装置1を説明する。ここで、
図1は、コーヒー豆の焙煎装置1の概略図である。なお、本実施形態に係るコーヒー豆の焙煎装置1を、以下単に「焙煎装置1」と呼ぶ。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態に係る焙煎装置1は、コーヒー豆(コーヒー生豆)が投入される焙煎釜2、焙煎釜2(焙煎釜2に投入されたコーヒー豆)を加熱する加熱手段3、少なくとも加熱手段3の動作を制御する制御手段4等を備える。
【0021】
本実施形態の加熱手段3は、バーナ31、熱風循環管路32、集塵サイクロン33等を備えた加熱装置に対応する。ただし、加熱手段3の態様は、これに限られない。また、本実施形態の制御手段4は、演算部(例えば、CPU等のプロセッサ)、記憶部(例えば、ROMやRAM等のメモリ)、通信インターフェイス部等を備える。制御手段4の演算部は、例えば、焙煎釜2内に設けられる温度センサ等からのセンサ信号から、記憶部に格納されたプログラムやデータを参照して所定の演算を行う。
【0022】
また、本実施形態の焙煎装置1は、コーヒー豆を焙煎釜2に投入するためのコーヒー豆投入装置5、焙煎釜2の鉛直方向に沿う中心軸を中心に焙煎釜2を回転させる駆動装置6、焙煎釜2を昇降させ、取り出す昇降取出装置7、焙煎されたコーヒー豆を焙煎釜2から取り出されたコーヒー豆を空冷するための空冷装置8を更に備える。
【0023】
更に、本実施形態の焙煎装置1は、所定温度の冷水を焙煎釜2内に散布し、コーヒー豆を冷却する冷却装置(例えば、
図1に示される過冷却水式製氷装置9、冷水供給管路10、スプレー管11を含む装置)を備えることがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態の焙煎装置1で焙煎されるコーヒー豆の種類は、特に限定されない。コーヒー豆の種類の例として、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種、及びアラブスタ種が挙げられる。また、コーヒー豆の産地に関しても、特に限定されない。コーヒー豆の産地の例として、ブラジル、コロンビア、タンザニア、エチオピア、イエメン、インドネシア、ジャマイカ、グアテマラ、及びベトナム等が挙げられる。本実施形態において、1種又は2種以上のコーヒー豆を用いてもよい。また、2種以上のコーヒー豆を使用する場合、種類(豆種)や産地の異なるコーヒー豆を適宜組み合わせてもよい。
【0025】
次に、本実施形態に係る焙煎装置1の動作を説明する。まず、駆動装置6を駆動して焙煎釜2を鉛直方向に沿う中心軸を中心に所定の速度で回転させる。それに伴い、昇降取出装置7を駆動して焙煎釜2を所定位置に上昇させる。これにより、焙煎釜2の開口上端と固定蓋18とが近接し、焙煎釜2の開口上端が閉塞される。
【0026】
次に、バーナ31を点火して加熱手段3から所定の温度(約400℃)に制御された熱風を焙煎釜2内に供給する。より詳しくは、
図1に示されるように、バーナ31で熱せられた空気(熱風)は、熱風循環管路32(321)を経て焙煎釜2に供給される。続いて、熱風は、焙煎釜2から別の熱風循環管路32(322)に排出され、集塵サイクロン33に至る。更に、熱風は、集塵サイクロン33から別の熱風循環管路32(323)に排出され、再びバーナ31側の管路32(321)に戻る。
【0027】
前述の加熱手段3の動作は、制御手段4によって制御される。ここで、制御手段4は、焙煎釜2の温度が所定温度に至った後の所定期間、焙煎釜2の温度を所定温度に保持するよう加熱手段3を制御する。
【0028】
次に、
図2及び
図3を参照して、制御手段4による加熱手段3の制御態様の例を説明する。
図2は、アラビカ種のコーヒー豆の焙煎時における焙煎釜2内の温度推移を示す。また、
図3は、ロブスタ種のコーヒー豆の焙煎時における焙煎釜2内の温度推移を示す。
【0029】
ここで、
図2(
図3)の横軸は、焙煎開始時点(焙煎釜2にコーヒー豆が投入された時点)からの経過時間を示す。また、
図2(
図3)の縦軸は、焙煎釜2に備わる温度センサによって測定された焙煎釜2内の温度を示す。
【0030】
焙煎釜2は、コーヒー豆投入前の段階で約250℃付近に予め加熱されている。その状態の焙煎釜2に、コーヒー豆が投入されると、焙煎釜2内の温度は、約130℃程度まで下降する。その後、制御手段4は、焙煎釜2内の温度を概ね直線的に上昇させる(第1の温度上昇期間)よう加熱手段3を制御する。
【0031】
続いて、制御手段4は、焙煎釜2にコーヒー豆が投入されてから所定期間経過後(第1の温度上昇期間後)、焙煎釜2の温度を所定期間・所定温度に保持する(温度保持期間)よう加熱手段3を制御する。なお、温度保持期間において、焙煎釜2が所定温度に「保持」される状態とは、厳密に同じ温度で保持される場合のほか、温度が変化するとしても同じと同視できる範囲内で変化する温度(例えば、所定温度±5℃程度)に「保持」される状態を含む。
【0032】
前記温度保持期間における保持温度に関して、焙煎されるコーヒー豆の種類に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、焙煎されるコーヒー豆の種類がアラビカ種である場合、保持温度が160℃から190℃であることが好ましく、165℃から185℃であることがより好ましく、170℃から180℃であることが更に好ましい。
【0033】
焙煎されるコーヒー豆の種類がアラビカ種である場合、前記範囲の保持温度は、前述されたコーヒー飲料の香味形成に重要な化学反応(例えば、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸類の化学変化)の温度帯と重なる。アラビカ種のコーヒー豆を焙煎するに際し、焙煎釜2の温度をこのような温度帯に保持することで、コーヒー豆の含水率を十分低減させ、焙煎されるコーヒー豆におけるクロロゲン酸ラクトンの生成を促すことが可能と考えられる。その結果、コーヒー特有の甘味・コク味・苦味等が引き出され、良好な香味が奏されるコーヒー飲料を抽出することができる。
【0034】
これに対して、保持温度が160℃を下回ると、コーヒー飲料の香味が強くなり過ぎるなどの点で好ましくない。また、保持温度が190℃を超えると、コーヒー飲料の香味が弱くなり過ぎるなどの点で好ましくない。
【0035】
他方、焙煎されるコーヒー豆の種類がロブスタ種である場合、保持温度が190℃から220℃であることが好ましく、195℃から215℃であることがより好ましく、200℃から210℃であることが更に好ましい。
【0036】
ロブスタ種のコーヒー豆を焙煎するに際し、焙煎釜2の温度をこのような温度帯に保持することで、コーヒー豆のカラメル化が促進されると考えられる。その結果、ロブ臭に起因する特有の苦味や甘味がコーヒー飲料にもたらされる。
【0037】
これに対して、保持温度が190℃を下回ると、コーヒー飲料の香味や苦みが強くなり過ぎるなどの点で好ましくない。また、保持温度が220℃を超えると、コーヒー飲料の香味が弱くなり過ぎ、水っぽさが奏されるなどの点で好ましくない。
【0038】
特に限定されるものではないが、前述のように、アラビカ種とロブスタ種において、香味形成に重要な温度帯が異なる(アラビカ種のコーヒー豆の方が、ロブスタ種のコーヒー豆に比べて、香味形成に重要な温度帯が低い傾向にある)。そのため、アラビカ種のコーヒー豆を焙煎する際の保持温度が、ロブスタ種のコーヒー豆を焙煎する際の保持温度に比べて低く設定されることが好ましい。
【0039】
次に、温度保持期間における保持期間(温度保持に関する時間条件)に関しても適宜設定することが好ましい。例えば、保持期間が30秒から90秒であることが好ましく、40秒から80秒であることがより好ましく、50秒から70秒であることが更に好ましい。保持期間を前記条件とすることで、良好な香味が奏されるコーヒー飲料を抽出することができる。なお、前記保持期間は、焙煎されるコーヒー豆の種類に応じて変更してもよいし、同じであってもよい。
【0040】
最終的に、保持期間経過後、制御手段4は、焙煎釜2内の温度を再び上昇させる(第2の温度上昇期間)よう加熱手段3を制御する。
図2(
図3)に示されるように、第2の温度上昇期間における温度推移は、概ね直線的に上昇することが好ましい。
【実施例0041】
<味覚センサによる評価(アラビカ種)>
以下の焙煎条件(温度保持期間における保持温度、保持期間)で焙煎されたコーヒー豆から抽出したコーヒー飲料に関し、味覚センサ(インテリジェントセンサーテクノロジー社,TS-5000Z)を用いて下表1に示される香味項目の評価を行った。なお、実施例1~実施例5及び比較例1に用いられたコーヒー豆として、いずれも「ブラジル4/5」を用いた。
【0042】
実施例1:保持温度 170℃~180℃、 保持期間 50秒~70秒
実施例2:保持温度 170℃~180℃、 保持期間 20秒~40秒
実施例3:保持温度 170℃~180℃、 保持期間 80秒~100秒
実施例4:保持温度 160℃~170℃、 保持期間 50秒~70秒
実施例5:保持温度 190℃~200℃、 保持期間 50秒~70秒
比較例1:通常焙煎(前記温度保持期間を設けない焙煎条件)
【0043】
実施例1~実施例5に関し、味覚センサによって計測された各香味項目の数値は、下の表1に示される通りであった。なお、表1に示される数値は、標準試料としての比較例1(通常焙煎条件)との差に対応する。また、+側の数値は、評価対象の香味が基準より強いことを示し、-側の数値は、評価対象の香味が基準より弱いことを示す。
【0044】
【0045】
<官能評価(アラビカ種)>
次に、実施例1~実施例5及び比較例1のコーヒー飲料を試飲したコーヒー有資格者(「Qグレーダー」、「コーヒーインストラクター1級」、「コーヒーインストラクター2級」、「コーヒーマイスター」)4名からなるパネラーによる官能評価を行った。官能評価の結果を下表2に示す。なお、表2に示されるコメントは、パネラー毎のコメントをまとめたものである。また、コーヒー飲料の抽出条件(抽出過程)は、下記の通りである。すなわち、1つ穴ドリッパーに各実施例・比較例に対応する焙煎コーヒー豆の粉末約20gをセットし、そこに熱湯を注いで、コーヒー成分(香味成分)を抽出した。
【0046】
【0047】
<考察(アラビカ種)>
一般に、焙煎期間が短い場合、強い香味が奏される一方、焙煎期間が長い場合、穏やかな香味が奏される。コーヒー豆が温度保持期間を有する条件によって焙煎される場合、通常焙煎と比較して、長時間焙煎となる。そのため、各香味項目に関する数値は、通常焙煎と比較して下がる(マイナスになる)傾向にある。ところで、実施例1は、前記傾向の通り、通常焙煎品(比較例1)と比べて、多くの香味項目で数値は減少しているものの、実施例2~実施例5に比べると減少の値が低い。このことから、焙煎期間が長くなることに起因する穏やかな香味への変化を最小限に留めている。また、香味項目「旨味コク(後味)」の数値は、比較例1に比べて増えている。表2に示されるように、官能評価において香味に厚みや甘味が増したと評価された要因と推察される。
【0048】
<味覚センサによる評価(ロブスタ種)>
以下の焙煎条件(温度保持期間における保持温度、保持期間)で焙煎されたコーヒー豆から抽出したコーヒー飲料に関し、味覚センサ(インテリジェントセンサーテクノロジー社,TS-5000Z)を用いて下表3に示される香味項目の評価を行った。なお、実施例6~実施例10及び比較例2に用いられたコーヒー豆として、いずれも「ベトナムロブスタG1」を用いた。
【0049】
実施例6:保持温度 200℃~210℃、 保持期間 50秒~70秒
実施例7:保持温度 200℃~210℃、 保持期間 20秒~40秒
実施例8:保持温度 200℃~210℃、 保持期間 80秒~100秒
実施例9:保持温度 190℃~200℃、 保持期間 50秒~70秒
実施例10:保持温度 210℃~220℃、 保持期間 50秒~70秒
比較例2:通常焙煎(前記温度保持期間を設けない焙煎条件)
【0050】
実施例6~実施例10に関し、味覚センサによって計測された各香味項目の数値は、下の表3に示される通りであった。なお、表3に示される数値は、標準試料としての比較例2(通常焙煎条件)との差に対応する。また、前述と同様、+側の数値は、評価対象の香味が基準より強いことを示し、-側の数値は、評価対象の香味が基準より弱いことを示す。
【0051】
【0052】
<官能評価(ロブスタ種)>
次に、実施例6~実施例10及び比較例2のコーヒー飲料を試飲したコーヒー有資格者(「Qグレーダー」、「コーヒーインストラクター1級」、「コーヒーインストラクター2級」、「コーヒーマイスター」)4名からなるパネラーによる官能評価を行った。官能評価の結果を下表4に示す。なお、表4に示されるコメントは、パネラー毎のコメントをまとめたものである。また、コーヒー飲料の抽出条件(抽出過程)は、下記の通りである。すなわち、1つ穴ドリッパーに各実施例・比較例に対応する焙煎コーヒー豆の粉末約20gをセットし、そこに熱湯を注いで、コーヒー成分(香味成分)を抽出した。
【0053】
【0054】
<考察(ロブスタ種)>
実施例6において、酸味(先味)と旨味(先味)の香味項目が、通常焙煎(比較例2)に比べて増加した一方、それ以外の香味項目が、比較例2に比べて減少した。その中でも香味の複雑さに起因する塩味(先味)、渋味(後味)(塩味・渋味は、いわゆる雑味の原因)に関して減少幅が最も大きい。その結果、表4の官能評価で得られたすっきりとした香味が奏されたと考えられる。また、実施例6において、「ロブ臭」の原因と考えられる「苦味」が低減されている。その結果、全体の香味をスッキリさせ、ロブ臭を低減させることができたと推察される。
【0055】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
焙煎されるコーヒー豆の種類がアラビカ種である場合、前記範囲の保持温度は、前述されたコーヒー飲料の香味形成に重要な化学反応(例えば、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸類の化学変化)の温度帯と重なる。アラビカ種のコーヒー豆を焙煎するに際し、焙煎釜2内の温度をこのような温度帯に保持することで、コーヒー豆の含水率を十分低減させ、焙煎されるコーヒー豆におけるクロロゲン酸ラクトンの生成を促すことが可能と考えられる。その結果、コーヒー特有の甘味・コク味・苦味等が引き出され、良好な香味が奏されるコーヒー飲料を抽出することができる。