(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149800
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】車椅子
(51)【国際特許分類】
A61G 5/12 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61G5/12 701
A61G5/12 704
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058564
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516018614
【氏名又は名称】有限会社でく工房
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
(72)【発明者】
【氏名】寺島 正之
(72)【発明者】
【氏名】岸田 寿志
(72)【発明者】
【氏名】光野 有次
(57)【要約】
【課題】使用者の好みや生活場面に応じた好ましい姿勢を取り易くし得る車椅子を提供する。
【解決手段】車椅子1は、座部16の幅方向両側に車輪5,5が設けられ、該座部の前方側に、着座状態において足を接地可能とするスペースが設けられており、前記座部の高さ位置を無段階的に調整可能な高さ調整機構20を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部の幅方向両側に車輪が設けられ、該座部の前方側に、着座状態において足を接地可能とするスペースが設けられており、
前記座部の高さ位置を無段階的に調整可能な高さ調整機構を備えていることを特徴とする車椅子。
【請求項2】
請求項1において、
前記座部の前後方向の傾斜角度を調整可能な傾き調整機構を備えていることを特徴とする車椅子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記車輪は、その軸心が前後方向で前記座部における使用者の臀部支持部の前後方向中心の概ね直下に位置するように設けられていることを特徴とする車椅子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記高さ調整機構を操作する操作部として、着座状態の使用者が操作可能な使用者側操作部と、後方側の介助者が操作可能な介助者側操作部と、を備えていることを特徴とする車椅子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記座部の幅方向両側には、肘掛可能な使用位置と側方を開放させる非使用位置とに変位自在とされた肘掛部が設けられていることを特徴とする車椅子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、
前記座部の幅方向両側には、肘掛部が設けられ、これら肘掛部の前端部には、把持部が設けられていることを特徴とする車椅子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記座部の幅方向中央部の前端部には、前ずれ抑制突部が設けられていることを特徴とする車椅子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項において、
前記座部の幅方向両側には、着座状態の使用者を両側から挟むように押圧する押圧部が設けられていることを特徴とする車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、足腰の筋力の低下や障害等によって歩行し難くなった際に使用される車椅子が知られている。このような車椅子は、座部前方のフットレストに足を載せた状態で、車輪に設けられたハンドリム等を使用者が回動操作または介助者が手押しバー等を把持して押操作することで走行可能とされている。
例えば、下記特許文献1には、足載せフレーム及び大車輪を取り付けない状態で、座面だけを取り付ければ、前後二対のキャスターにより、足こぎ車いすとなる構成とされた車いすが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された車いすでは、足載せフレームを取り外せば、足を接地可能ではあるものの、座面の高さによっては、例えば、食事の際に好ましい姿勢やくつろぐ際に好ましい姿勢が取り難くなる懸念がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、使用者の好みや生活場面に応じた好ましい姿勢を取り易くし得る車椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本開示に係る車椅子は、座部の幅方向両側に車輪が設けられ、該座部の前方側に、着座状態において足を接地可能とするスペースが設けられており、前記座部の高さ位置を無段階的に調整可能な高さ調整機構を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る車椅子は、上述のような構成としたことで、使用者の好みや生活場面に応じた好ましい姿勢を取り易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(a)、(b)は、本開示の一実施形態に係る車椅子の一例を模式的に示す概略斜視図である。
【
図5】(a)、(b)は、
図2におけるX1-X1線矢視に対応させた概略縦断面図である。
【
図6】(a)は、
図2におけるX1-X1線矢視に対応させた概略縦断面図、(b)は、同車椅子の概略側面図である。
【
図7】(a)、(b)は、本開示の他の実施形態に係る車椅子の一例を模式的に示す概略斜視図である。
【
図11】(a)、(b)は、
図8におけるX2-X2線矢視に対応させた概略縦断面図である。
【
図12】(a)、(b)は、
図8におけるX2-X2線矢視に対応させた概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本開示の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
以下の各実施形態では、各実施形態に係る車椅子に着座した使用者を基準として上下方向(高さ方向)や前後方向などの方向を説明し、また、同使用者の左右方向を車椅子の幅方向として説明する。
【0010】
図1~
図6は、第1実施形態に係る車椅子の一例を模式的に示す図である。
本実施形態に係る車椅子1は、
図1(a)、(b)に示すように、座部16の幅方向両側の車輪を構成する主輪5,5を備えている。この車椅子1の座部16の前方側には、
図3及び
図4に示すように、着座状態において足を接地可能とするスペース(足接地スペース)が設けられている。車椅子1は、
図5(a)、(b)に示すように、座部16の高さ位置を無段階的に調整可能な高さ調整機構20を備えている。このような構成とすれば、使用者の足裏全体が安定的に接地するように、下腿長に応じて座部16の高さ位置を調整したり、食事する際に好ましい姿勢となるように座部16の高さ位置を調整したりすることができる。つまり、使用者の好みや生活場面に応じて足を軽く接地させたり、踏ん張り可能に接地させたりすることができ、好ましい姿勢を取り易くすることができる。
【0011】
車椅子1は、座部16の前後方向の傾斜角度を調整可能な傾き調整機構25を備えている。このような構成とすれば、座部16の傾きを調整することができる。これにより、例えば、
図6(a)に示すように、くつろぐ際には上半身が後傾姿勢になり易いような角度に座部16の傾きを調整したりすることができる。高さ調整機構20及び傾き調整機構25の具体的構成の一例については後述する。
座部16は、
図3及び
図4に示すように、使用者が着座する座面を構成し、平面視して概ね方形状とされている。この座部16は、車椅子1の車体を構成し適宜の金属製のパイプ状部材を組み合わせたフレーム2に支持されている。この座部16は、フレーム2に支持された適宜の基板やクッション材、カバー等によって構成されていてもよい。
【0012】
この座部16の幅方向中央部の前端部には、
図2~
図4に示すように、前ずれ抑制突部17が設けられている。このような構成とすれば、座部16に着座した使用者が前方にずれることを抑制することができる。この前ずれ抑制突部17は、好ましい着座状態(坐骨座り状態)における使用者の臀部を支持する臀部支持部16aよりも前方側となる座部16の前端部上面から上方に向けて突出するように設けられている。この前ずれ抑制突部17の前後方向に沿う寸法は、好ましい着座状態における使用者の臀部に干渉し難くなるように適宜の寸法としてもよい。この前ずれ抑制突部17の幅方向に沿う寸法は、好ましい着座状態で着座した使用者の両大腿部に挟み込まれるような形状となるように適宜の寸法としてもよい。この前ずれ抑制突部17の上下方向に沿う突出寸法は、前ずれを抑制する観点から、また、使用者が着座する際や離座する際に邪魔になり難いように適宜の寸法としてもよい。この前ずれ抑制突部17は、座部16を構成するクッション材に一体的に設けられていてもよく、座部16に対して着脱自在に設けられていてもよい。
【0013】
この座部16の幅方向両側には、
図2及び
図3において二点鎖線にて示すように、着座状態の使用者を両側から挟むように押圧する押圧部19,19が設けられていてもよい。このような構成とすれば、着座状態において足接地スペースに各足を接地させて左右の足を歩くように動かして車椅子1を足駆動(足漕ぎ)する際に腰が浮くようなことを抑制することができ、安定的に足駆動を行うことができる。これら押圧部19,19は、好ましい着座状態における使用者の骨盤(腸骨)に相当する部位(腰部)を左右両側から押圧するように設けられていてもよい。これら押圧部19,19は、座部16の幅方向両側端部から立ち上がるように設けられた両側の側板18,18のそれぞれの対向面から対向方向に突出するように設けられていてもよい。これら押圧部19,19は、各側板18,18に対して着脱可能に設けられていてもよく、また、押圧度合いの調整(押圧部19,19間の寸法調整)が可能な構成とされていてもよい。
【0014】
車椅子1は、この座部16の後端部から立ち上がるように設けられた背凭れ部10を備えている。この背凭れ部10は、背凭れ部10を構成するフレーム2を覆うように設けられた適宜のクッション材やカバー等によって構成されていてもよい。この背凭れ部10は、座部16に対して傾動自在とされていてもよいが、本実施形態では、座部16に対して傾動不能に一体的に設けられている。この背凭れ部10の座部16に対する傾斜角度は、90度以上が好ましく、95度~115度程度であってもよい。この背凭れ部10の座部16に対する傾斜角度は、例えば、使用者の好み等に応じて、初期設定として適宜の角度に設定されてもよい。
この背凭れ部10の上下方向に沿う高さ寸法は、背凭れ性や軽量化を図る観点等から適宜の寸法としてもよい。図例では、背凭れ部10の高さ寸法を、着座した使用者の概ね頸部までの寸法とした例を示しているが、肩部までの寸法や頭部までの寸法としてもよい。背凭れ部10の上端部に適宜のヘッドレストが設けられていてもよい。
この背凭れ部10には、当該車椅子1の後方側に位置する介助者等が把持する把持部11が設けられている。図例では、把持部11は、背凭れ部10の上端側部位の背面(後面)側において車椅子1の幅方向に延びるバー状とされている。この把持部11は、背凭れ部10を構成するフレーム2に両端部が固定されていてもよく、フレーム2に一体的に設けられていてもよい。
【0015】
両側の側板18,18は、背凭れ部10の下端側部位から前方に向けて座部16の幅方向両端部に沿って延びるように設けられている。これら側板18,18は、
図2及び
図3に示すように、両側の主輪5,5の車椅子幅方向中央側に沿うように設けられている。これら側板18,18は、使用者の脚部や衣服等の主輪5,5への接触防止が可能なように設けられている。これら側板18,18は、
図4に示すように、座部16が最も低い下限位置において、それぞれの上端縁部が主輪5,5と概ね同心円弧状となるように形成されている。図例では、これら側板18,18は、厚さ方向が車椅子幅方向となる薄板状とされているが、適宜の補強部材等によって補強されていてもよい。
【0016】
車椅子1は、座部16の幅方向両側に位置するように設けられた肘掛部13,13を備えている。これら肘掛部13,13は、
図6(b)に示すように、肘掛可能な使用位置と側方を開放させる非使用位置とに変位自在とされている。このような構成とすれば、使用位置とされた肘掛部13,13に肘や上腕を載置することができる。また、使用位置とされた肘掛部13,13を足駆動する際や立ち上がる際等に把持することができる。一方、肘掛部13,13を非使用位置とすれば、食事する際にテーブルとの干渉を抑制することができ、また、座部16の高さ位置を調整した場合にもテーブルとの干渉を抑制することができる。また、肘掛部13,13を非使用位置とすれば、ベッドや便器等に移乗する際に肘掛部13,13が邪魔になり難い。本実施形態では、これら肘掛部13,13は、側板18,18とは分離して非使用位置に変位される構成とされている。このような構成とすれば、側板18,18とともに肘掛部13,13が非使用位置とされる構成と比べて、移乗する際に使用者の脚部や衣服等が主輪5,5に接触するようなことを側板18,18によって軽減することができる。
【0017】
これら肘掛部13,13は、使用位置において、背凭れ部10の高さ方向途中部位の幅方向両側端部から前方に向けて突出するように設けられている。これら肘掛部13,13は、それぞれの後端部に設けられ軸方向が車椅子幅方向となる支軸13c,13c回りに使用位置と非使用位置との間を回転自在とされている。これら肘掛部13,13は、非使用位置において、背凭れ部10に沿うように配置される。背凭れ部10の高さ方向途中部位の幅方向両端部には、各肘掛部13,13の支軸13c,13cを回転自在に保持し、各肘掛部13,13の後端部を保持する肘掛保持部15,15が設けられている。
これら肘掛部13,13は、背凭れ部10に対して高さ位置調整可能に取付可能とされている。このような構成とすれば、使用者の好みや座高等に応じて肘掛部13,13の高さ位置を変更することができる。図例では、背凭れ部10の幅方向両端部に、肘掛保持部15,15を固定する固定部12,12を高さ方向に間隔を空けて複数箇所に設けた例を示している。このような固定部12,12としては、肘掛保持部15,15を固定するねじがねじ合わされる雌ねじ部であってもよい。
【0018】
これら肘掛部13,13は、
図4に示すように、先端部(使用位置における前端部)13a,13aが握り易く、滑り難くなるように、基端側(使用位置における後端側)よりも膨らむように形成されている。図例では、先端部13a,13aの上下寸法が基端側よりも大とされている。図例では、肘掛部13,13の上面が略水平状の略平坦面状とされ、下面が先端に向かうに従い下方側となるように先端部13a,13aを形成した例を示しているが、これに代えて、または加えて、上面が先端に向かうに従い上方側となるような形状としてもよい。これら肘掛部13,13の先端面は、
図3に示すように、握り易いように平面視して突湾曲面状とされている。これら肘掛部13,13の基端側部位13b,13bは、車椅子幅方向外側が先端側よりも凹んだ形状とされている。このような構成とすれば、後記する主輪5,5の車椅子幅方向外側に設けられたハンドリム6,6を把持して走行(自走)する際に、使用位置の肘掛部13,13が腕に干渉し難くなる。
【0019】
肘掛部13,13としては、上記したような後端側を支点として車椅子幅方向に沿う軸回りに回転されて非使用位置とされる態様に限られない。例えば、肘掛部13,13は、背凭れ部10に対して概ね上下方向に沿う軸回りに回転されて非使用位置とされる態様でもよく、さらには背凭れ部10に対して着脱自在とされた態様でもよい。また、肘掛部13,13は、各側板18,18とともに使用位置と非使用位置との間を変位自在とされていてもよい。これら肘掛部13,13は、前後方向にスライド自在とされていてもよい。これら肘掛部13,13の形状については、上記したような例に限られず、その他、種々の変形が可能である。
【0020】
両側の主輪5,5は、
図4に示すように、軸心となる車輪軸4,4が前後方向で座部16における使用者の臀部支持部16aの前後方向中心の概ね直下に位置するように設けられている。このような構成とすれば、前後方向において、座部16に着座状態の使用者の重心の概ね直下に主輪5,5の車輪軸4,4を位置付けすることができるので、足駆動する際や方向転換する際における使用者に掛かる負荷を効果的に軽減することができる。臀部支持部16aは、好ましい着座状態の使用者の臀部を支持する部位で座部16の後端部及び前端部を除いた部位で、座部16の前後方向で概ね中央側部位であり、その前後方向中心が好ましい着座状態の使用者の概ね重心位置となる。図例では、車輪軸4,4が座部16の前後方向中心よりも後方側に片寄った位置に設けられた例を示している。
これら主輪5,5は、比較的に大径状とされており、軸方向が車椅子幅方向となる車輪軸4,4回りに互いに独立して回転自在とされている。これら主輪5,5は、フレーム2に対して前後位置調整可能に取付可能とされている。このような構成とすれば、使用者の好みや体形等に応じて主輪5,5の前後位置を変更することができる。図例では、フレーム2の幅方向両側部位に、各主輪5,5の車輪軸4,4を回転自在に保持する取付部3,3を前後方向に間隔を空けて複数箇所に設けた例を示している(
図5も参照)。
【0021】
これら主輪5,5の車椅子幅方向外側には、
図2~
図4に示すように、自走する際に把持する環状のハンドリム6,6が主輪5,5と同心状に設けられている。
これら主輪5,5のそれぞれの後方側には、後輪7,7が設けられている。これら後輪7,7は、当該車椅子1の方向転換に追従して転動可能とされ、補助輪として機能する。これら後輪7,7は、略水平方向に沿う軸回りにこれらを支持する支持部が、フレーム2に対して略上下方向(鉛直方向)に沿う軸回りに回転自在に保持されて方向転換に追従可能とされた自在キャスター状とされている。これら後輪7,7は、主輪5,5よりも小径状とされている。
車椅子1の前方側の幅方向両側には、転倒防止機構を構成する前輪8,8が設けられている。これら前輪8,8は、主輪5,5及び後輪7,7が接地状態において非接地とされ、車椅子1が前傾状態となった際に接地する構成とされている。これら前輪8,8は、図例では、車椅子幅方向で後輪7,7よりも外側に位置するように設けられている。これら前輪8,8は、図例では、主輪5,5及び後輪7,7よりも小径状とされ、軸方向が車椅子幅方向となる軸回りに回転自在とされている。転倒防止機構としては、このような回転自在とされた前輪8,8が設けられた構成に限られず、棒状とされた構成でもよい。また、車椅子1の前方側に転倒防止機構が設けられた構成に代えて、後方側に転倒防止機構が設けられた構成でもよい。この場合は、上記のような自在キャスター状の後輪7,7を、前輪として設けた構成としてもよい。
【0022】
足接地スペースは、
図3及び
図4に示すように、座部16の前方側に着座状態の使用者の両足裏の接地が可能なように設けられている。上記した前輪8,8は、この足接地スペースの確保が可能なように車椅子幅方向両側に互いに間隔を空けて設けられている。この足接地スペースは、座部16の前端部下方側にも至るように設けられている。このような構成とすれば、車椅子1を足駆動する際に、座部16の前端部下方側に各足を潜り込ませるようにして左右の足を動かすことができ、円滑に足駆動を行うことができる。
車椅子1は、足載せ可能な使用位置と、足接地スペースを利用可能とする非使用位置と、に変位自在とされた足載部9,9を備えている。このような構成とすれば、足接地スペースが不要な場合には、足載部9,9を使用位置とすることで、足を載せることができる。車椅子1は、座部16の高さ調整が可能であるので、足載部9,9に足を載せた際に好ましい高さとなるように座部16の高さを調整することもできる。
【0023】
図例では、足載部9,9は、座部16の前方側の幅方向両側のそれぞれにおいてフレーム2に対して起倒可能に設けられ、起立状態で非使用位置とされ、倒伏状態で使用位置とされる。これら足載部9,9は、概ね板状とされ、一端部(起立状態における下端部)がフレーム2に対して軸方向が概ね前後方向となる軸回りに回転自在に保持されている。これら足載部9,9が概ね水平状に倒伏状態とされれば、足接地スペースがこれらによって覆われ、各足の地面(床面)への接地が困難となる。一方、これら足載部9,9が概ね垂直状に起立状態とされれば、これらの間の空間を含む足接地スペースが開放され、各足の地面(床面)への接地が可能となる。
足載部9,9としては、上記したような概ね前後方向に沿う軸回りに回転自在とされた態様に限られない。例えば、足載部9,9は、フレーム2に対して概ね上下方向に沿う軸回りに回転されて非使用位置とされる態様でもよく、さらにはフレーム2に対して着脱自在とされた態様でもよい。
【0024】
高さ調整機構20は、
図5に示すように、座部16の下方側に設けられ、座部16を無段階的に昇降させる構成とされている。車椅子1には、この高さ調整機構20を操作する操作部として、着座状態の使用者が操作可能な使用者側操作部23と、後方側の介助者が操作可能な介助者側操作部24と、が設けられている。このような構成とすれば、座部16の高さ位置を、使用者及び介助者のいずれによっても調整することができ、使い勝手を向上させることができる。
この高さ調整機構20は、フレーム2に固定されたシリンダ本体21と、このシリンダ本体21に対して高さ方向に進退(伸縮)するロッドの先端部(上端部)に設けられ、座部16に連結された連結部22と、を有した昇降機構を備えている。
【0025】
シリンダ本体21は、
図2及び
図5に示すように、軸方向が高さ方向(上下方向)となるように配される筒状(円筒状)とされている。このシリンダ本体21は、座部16の下方側において車椅子幅方向略中央に位置するように設けられている。このシリンダ本体21は、座部16が略水平となる水平姿勢において、背凭れ部10の後端(上端)から座部16の前端までの前後方向略中央に位置するように設けられている。このシリンダ本体21としては、リリース機能(ロック機能)付きのガス圧式シリンダや油圧式シリンダ等であってもよい。
連結部22は、座部16の下面側に設けられた被連結部2aに連結されている。連結部22及び被連結部2aは、ロッドの先端部に対して座部16(及び背凭れ部10)を軸方向が車椅子幅方向となる軸回りに回転自在に連結する。図例では、軸状の被連結部2aに対して連結部22の上端部を回転自在に連結した例を示しているが、このような例に限られない。この連結部22には、ロッドを伸縮(座部16を昇降)させる際に操作されるリリース部(ロック解除部)を操作する使用者側操作部23及び介助者側操作部24が連結されている。
【0026】
使用者側操作部23は、連結部22から前方側に向けて延出するように設けられ、延出方向先端部となる前端部に操作片部を有したレバー状とされている。この使用者側操作部23は、座部16の下方側に位置するように設けられ、操作片部が座部16の前端部の下方側に位置するように設けられている。この使用者側操作部23は、着座状態の使用者が操作片部の操作が可能なように設けられている。
介助者側操作部24は、連結部22から後方側に向けて延出するように設けられ、延出方向先端部となる後端部に操作片部を有したレバー状とされている。この介助者側操作部24は、座部16の下方側に位置するように設けられ、操作片部が座部16の後端部よりも後方側に突出するように設けられている。この介助者側操作部24は、車椅子1の後方側の介助者が操作片部の操作が可能なように設けられている。
これら使用者側操作部23及び介助者側操作部24は、後記するように傾動する座部16(及び背凭れ部10)に干渉しない位置となるように設けられている。
【0027】
使用者側操作部23及び介助者側操作部24のうちの一方の操作片部を操作すれば、例えば上方側に変位させれば、高さ調整機構20のロックが解除される。このロック解除状態で、ロッドの伸長が可能となるように座部16への負荷を除荷または低下させれば、
図5(a)から
図5(b)に示すように、ロッドが伸長され、座部16及び背凭れ部10が上昇する。また、座部16が所望する任意の高さ位置において操作片部の操作を停止、例えば操作片部から手を放せば、高さ調整機構20がロック状態となり、座部16がその高さ位置において保持される。
一方、上記ロック解除状態で、ロッドを縮退させるように座部16に対して下方側に負荷を掛ければ、
図5(b)から
図5(a)に示すように、ロッドが縮退され、座部16及び背凭れ部10が下降する。また、上記同様、座部16が所望する任意の高さ位置において操作片部の操作を停止、例えば操作片部から手を放せば、高さ調整機構20がロック状態となり、座部16がその高さ位置において保持される。
この高さ調整機構20によって高さ調整される座部16の高さ調整度合(下限位置から上限位置までの高さ寸法)は、例えば、50mm~150mm程度であってもよい。
【0028】
使用者側操作部23及び介助者側操作部24は、図例のような連結部22から延出するレバー状とされた構成に限られず、後記する傾き調整機構25の操作部29と概ね同様、ワイヤー28を介してリリース部を操作する構成とされていてもよい。
使用者側操作部23及び介助者側操作部24は、使用者及び介助者が操作し易い位置となるように取付位置の変更が可能とされていてもよい。
座部16の高さ位置を無段階的に調整可能とする高さ調整機構20としては、上記したような構成に限られない。高さ調整機構20としては、例えば、介助者側において足踏み操作する度合や回数によって座部16を任意の高さ位置に調整可能な足踏み油圧式とされた構成でもよい。また、高さ調整機構20としては、例えば、ピニオンやスプロケット、ねじ軸等の回転体及びこの回転体の回転を伴って座部16を昇降させるラックやチェーン、昇降ナット部材、リンク機構等の昇降機構と、回転体を回転させる操作部等と、を備えた構成でもよい。高さ調整機構20としては、その他、種々の構成とされていてもよい。
【0029】
傾き調整機構25は、
図5及び
図6(a)に示すように、座部16(及び背凭れ部10)を無段階的に前後方向に傾動させる傾動機構を備えている。この傾き調整機構25は、座部16を、
図5に示す略水平な水平姿勢と
図6(a)に示す後方側に向けて下り勾配状の後傾姿勢との間において傾動させる構成とされている。
この傾き調整機構25は、背凭れ部10の背面側に連結されたシリンダ本体26と、このシリンダ本体26に対して斜め下方側に進退(伸縮)するロッドの先端部(下端部)に設けられ、高さ調整機構20の連結部22に連結された連結部27と、を備えている。つまり、この傾き調整機構25は、高さ調整機構20の連結部22に対して座部16(及び背凭れ部10)を傾動可能に保持する構成とされている。
シリンダ本体26は、軸方向が背凭れ部10の高さ方向に沿うように配される筒状(円筒状)とされている。このシリンダ本体26は、上端部が連結部2cによって背凭れ部10の背面側に連結され、背凭れ部10の下端部背面側において車椅子幅方向略中央に位置するように設けられている。このシリンダ本体26としては、上記同様、リリース機能付きのガス圧式シリンダや油圧式シリンダ等であってもよい。このシリンダ本体26には、ロッドを伸縮(座部16を傾動)させる際に操作されるリリース部(ロック解除部)を操作する操作部29に連結されたワイヤー28が連結されている。
【0030】
連結部27は、高さ調整機構20の連結部22から後方側に向けて延出するように設けられた延出片部先端部(後端部)の被連結部2bに対して軸方向が車椅子幅方向となる軸回りに回転自在に連結されている。図例では、座部16とともに昇降される延出片部を車椅子幅方向両側から挟んで昇降自在にガイドするガイド部が設けられた例を示している(
図1(b)参照)。
操作部29は、一方(図例では、右側)の肘掛部13の基端側部位の下面側に位置するように設けられている。この操作部29は、着座状態の使用者が操作可能なように設けられている。この操作部29は、後端側が車椅子幅方向に沿う軸回りに回転自在に肘掛部13の基端側部位に保持されたレバー状とされている。
【0031】
この操作部29を操作すれば、例えば上方側に変位させれば、傾き調整機構25のロックが解除される。このロック解除状態で、ロッドの縮退が可能となるように背凭れ部10に対して後方側に負荷を掛ければ、
図5(a)から
図6(a)に示すように、ロッドが縮退され、座部16及び背凭れ部10が後傾側に傾動する。また、座部16及び背凭れ部10が所望する任意の傾き姿勢において操作部29の操作を停止、例えば操作部29から手を放せば、傾き調整機構25がロック状態となり、座部16及び背凭れ部10がその傾き姿勢において保持される。
一方、上記ロック解除状態で、ロッドの伸長が可能となるように背凭れ部10への負荷を除荷または低下させれば、
図6(a)から
図5(a)に示すように、ロッドが伸長され、座部16及び背凭れ部10が前傾側(本実施形態では、水平側)に傾動する。また、上記同様、座部16及び背凭れ部10が所望する任意の傾き姿勢において操作部29の操作を停止、例えば操作部29から手を放せば、傾き調整機構25がロック状態となり、座部16及び背凭れ部10がその傾き姿勢において保持される。
この傾き調整機構25によって傾き調整される座部16(及び背凭れ部10)の傾き調整度合(水平姿勢から最後傾姿勢までの傾斜角度)は、例えば、10度~30度程度であってもよい。
【0032】
操作部29は、図例のようなワイヤー28を介してリリース部を操作する構成に限られず、上記した高さ調整機構20の操作部と同様、リリース部に連結されたレバー状とされていてもよい。使用者が操作し易い位置に設けられた操作部29に代えて、または加えて、介助者が操作し易い位置に傾き調整機構25の操作部が設けられていてもよい。このような操作部29は、使用者(及び介助者)が操作し易い位置となるように取付位置の変更が可能とされていてもよい。
座部16(及び背凭れ部10)の前後方向の傾斜角度を無段階的に調整可能とする傾き調整機構25としては、上記したような構成に限られない。傾き調整機構25としては、例えば、円弧状ラック及びこれに噛み合うピニオン並びにピニオンを回転させる操作部を備えた構成でもよく、その他、種々の構成とされていてもよい。
車椅子1の適所に、適宜の制動機構(ブレーキ)が設けられていてもよい。
【0033】
次に、他の実施形態について説明する。
以下の実施形態では、先に説明した実施形態との相違点について主に説明し、同様の構成については、同一符号を付し、その説明を省略または簡略に説明する。以下の実施形態では、先に説明した実施形態と同様に奏する作用効果についても説明を省略または簡略に説明する。
【0034】
図7~
図12は、第2実施形態に係る車椅子の一例を模式的に示す図である。
本実施形態においても車椅子1Aの座部16の前方側には、
図9及び
図10に示すように、着座状態において足を接地可能とする足接地スペースが設けられている。
この車椅子1Aの後輪7A,7Aは、上記と概ね同様、自在キャスター状とされている。この車椅子1Aの前輪8A,8Aは、これら後輪7A,7Aと概ね同様、略水平方向に沿う軸回りにこれらを支持する支持部が、フレーム2に対して略上下方向(鉛直方向)に沿う軸回りに回転自在に保持された自在キャスター状とされている。本実施形態では、これら前輪8A,8A及び後輪7A,7Aのうちの一方が補助輪的に機能し、他方が転倒防止機構として機能する。この車椅子1Aには、上記のような足載部9,9が設けられておらず、両側の前輪8A,8A間の空間が足接地スペースを構成する。
【0035】
この車椅子1Aの背凭れ部10は、上記第1実施形態よりも低く、上端部が概ね肩に位置する高さとされている。介助者の把持部11は、本実施形態では、この背凭れ部10の後方側となる斜め上方側において車椅子幅方向に延びるように設けられている。
本実施形態では、
図7、
図8及び
図10に示すように、両側の肘掛部13A,13Aの前端部には、把持部14,14が設けられている。このような構成とすれば、着座状態の使用者が把持部14,14を把持することができ、足駆動する際に姿勢を維持し易く、また、力を入れ易くなる。図例では、これら把持部14,14は、前方側に向かうに従い下り坂状とされた肘掛部13A,13Aの前端部上面から前方側となる斜め上方側に向けて突出するグリップ状とされている。把持部14,14としては、このような構成に限られず、肘掛部13A,13Aの前端部自体を把持し易い形状とした構成でもよく、また、肘掛部13A,13Aの前端部に対して角度調整可能に設けられた構成や、着脱可能に設けられていてもよい。
【0036】
これら肘掛部13A,13Aは、本実施形態では、座部16の幅方向両側に設けられた両側の側板18A,18Aの前端部と背凭れ部10の幅方向両側端部とを連結するように設けられた補強フレームに固定的に設けられている。つまり、これら肘掛部13A,13Aは、側方を開放させる非使用位置に変位不能とされている。
この車椅子1Aの座部16の後端部と背凭れ部10の下端部との入隅部には、
図11に示すように、傾斜面状に形成された腰当部が設けられている。
高さ調整機構20の連結部22は、本実施形態では、座部16の下面側において座部16に対して軸方向が車椅子幅方向となる軸回りに回転自在に連結された被連結部2dに固定的に設けられている。
【0037】
傾き調整機構25は、本実施形態では、座部16を、
図12(a)に示す前方側に向けて下り勾配状の前傾姿勢と
図12(b)に示す後方側に向けて下り勾配状の後傾姿勢との間において傾動させる構成とされている。このような構成とすれば、使用者の好み等に応じて、例えば、食事する際や足駆動する際に、上半身が前傾姿勢になり易いような角度に座部16を前傾側にも傾けることができる。この傾き調整機構25によって傾き調整される座部16(及び背凭れ部10)の前傾側への傾き調整度合(水平姿勢から最前傾姿勢までの傾斜角度)は、例えば、2度~10度程度であってもよく、5度程度であってもよい。この傾き調整機構25によって傾き調整される座部16(及び背凭れ部10)の後傾側への傾き調整度合は、上記第1実施形態と同程度であってもよい。この傾き調整機構25のシリンダ本体26は、座部16と背凭れ部10との角部において斜め状に設けられ、上端部が連結部2cによって背凭れ部10の背面側に軸方向が車椅子幅方向となる軸回りに回転自在に連結されている。シリンダ本体26のロッドの先端部(下端部)の連結部27は、高さ調整機構20の連結部22から後方側となる斜め下方側に向けて延出するように設けられた延出片部先端部(下端部)の被連結部2bに対して車椅子幅方向に沿う軸回りに回転自在に連結されている。
【0038】
上記各実施形態において説明した互いに異なる構成を、適宜、必要に応じて変形し、組み替えて適用したり、組み合わせて適用したりするようにしてもよい。
上記した各実施形態では、座部16の傾斜角度を無段階的に調整可能な傾き調整機構25を例示しているが、段階的に調整可能な構成でもよい。
上記した各実施形態では、背凭れ部10とともに座部16を傾動させる傾き調整機構25を例示しているが、座部16のみを傾動させる構成でもよい。この場合は、座部16を傾動させる傾き調整機構25に加えて、背凭れ部10を個別に傾動させる傾き調整機構が設けられていてもよい。更には、このような座部16(及び背凭れ部10)を傾動させる傾き調整機構25が設けられていなくてもよい。
上記各実施形態では、座部16の幅方向両側に、押圧部19,19が設けられた例を示しているが、このような押圧部19,19が設けられていなくてもよい。
上記各実施形態では、座部16の前端部に、前ずれ抑制突部17が設けられた例を示しているが、このような前ずれ抑制突部17が設けられていなくてもよい。
上記各実施形態に係る車椅子1,1Aの上記した各部材及び各部の構成は、一例に過ぎず、その他、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1,1A 車椅子
4 車輪軸(軸心)
5 主輪(車輪)
13,13A 肘掛部
14 把持部
16 座部
16a 臀部支持部
17 前ずれ抑制突部
19 押圧部
20 高さ調整機構
23 使用者側操作部
24 介助者側操作部
25 傾き調整機構