(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149804
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】リニアモータのマグネット接着用構造、固定子、およびリニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058568
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】上沼 一也
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB18
5H641GG03
5H641HH02
5H641HH05
5H641HH13
5H641HH14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マグネットが固定子、コイルが可動子である構造のリニアモータにおけるマグネット接着過程において、適量を用いることで接着剤の無駄を防ぎつつ、十分な貼り付け作用を得られる技術を提供すること。
【解決手段】リニアモータのマグネット接着用構造は、固定子1が並列する複数のマグネット2、2、・・・からなり、固定子1の取付けられるヨーク3が磁性体金属であり、可動子がコイルである構造のリニアモータにおけるマグネット接着用構造であって、ヨーク3のマグネット取付け面4上に接着剤を溜めるための溝5が、一個のマグネット2当たり一本または複数本設けられている構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子が並列する複数のマグネットからなり、該固定子の取付けられるヨークが磁性体金属であり、可動子がコイルである構造のリニアモータにおけるマグネット接着用構造であって、
ヨークのマグネット取付け面上に接着剤を溜めるための溝が、一個のマグネット当たり一または複数本設けられていることを特徴とする、リニアモータのマグネット接着用構造。
【請求項2】
前記溝は、前記ヨークのマグネット取付け方向上両端部を結ぶ線上に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のリニアモータのマグネット接着用構造。
【請求項3】
前記溝はマグネット取付け方向と平行に、一個のマグネット当たり複数本設けられていることを特徴とする、請求項2に記載のリニアモータのマグネット接着用構造。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれかに記載のマグネット接着用構造を備えていることを特徴とする、リニアモータの固定子。
【請求項5】
請求項4に記載の固定子を用いて構成されていることを特徴とする、リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリニアモータのマグネット接着用構造、固定子、およびリニアモータに係り、特にマグネットが固定子、コイルが可動子となる構造のリニアモータにおけるマグネット接着技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、本発明が適用対象とするタイプのリニアモータの全体構造等を示す斜視説明図である。図中(a)は全体構造、(b)は固定子のみの図である。図示する通り本発明が適用対象とするタイプのリニアモータ80は、固定子81がマグネット82からなり、固定子81の取付けられるヨーク83が磁性体金属であり、可動子88がコイルである構造のリニアモータである。以下、これを前提にして説明する。
【0003】
図7は、従来のリニアモータのマグネット接着方法を示す斜視説明図である。図示する通り従来のリニアモータ80におけるマグネット82のヨーク83への貼り付けは、磁性体金属であるヨーク面84へ接着剤を塗布し、着磁済みマグネット82を、塗布面に対向する方向からではなく塗布面の脇方向から、スライド挿入方向Sに沿って、つまりガイド86に沿って接着剤塗布面上をスライドさせるように挿入することにより行う。マグネット82は着磁済みであるため、その吸引力によって、塗布面対向方向からでは塗布面に当接する際の衝撃が大きく、部品破損や作業者の負傷の危険性がある。かかる危険を防止するため、脇方向からスライドさせての接着方法とするのである。
【0004】
リニアモータについては従来、さまざまな観点からの特許出願等も多くなされている。たとえば後掲特許文献1には、基板、キャンおよびフレームの変形を低減しつつ、モータ構造の簡素化・小型化を図れるリニアモータの電機子として、基板の両側面に固定された電機子巻線と、電機子巻線を覆うように設けられたキャンとフレームよりなる密封体を備えて電機子巻線の周囲に冷媒を流して冷却する構成のリニアモータ電機子であって、基板に電機子巻線を接着固定し、それをフレームに組付けた後、キャンとフレームの間に支柱を配設し、キャンと支柱、フレームと支柱をそれぞれ溶接によって接合した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-350339号公報「リニアモータ電機子およびこれを用いたリニアモータ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
着磁済みマグネットの磁性体金属面への貼り付け方法は上述の通りであるが、これには問題がある。それは、マグネットが、塗布されてヨーク面上に載っている接着剤層の側方からヨーク面上に進行してくるため、それによって接着剤がヨーク面の外へとかき出されてしまうという問題である。特に、マグネットは着磁済みであるため、接するとともに強い吸着力で即ヨーク面に隙間なく吸着されてしまい、接着剤は排出されざるを得ない。これにより、接着剤量が減少し、接着剤層も薄くなるため、十分な貼り付け作用が得られず、マグネットがヨーク面から剥離する危険性が増す。
【0007】
一方、かかるかき出しによる減少を見込んで塗布量を多くすると、接着剤の無駄遣いとなり、コスト面で不利である上、結局はかき出される量が増えるだけであって、所望の貼り付け作用を得ることは望めない。適正な量の接着剤を用いて、無駄を防ぎつつ十分な貼り付け作用を得られる技術が求められる。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、マグネットが固定子、コイルが可動子である構造のリニアモータにおけるマグネット接着過程において、適量を用いることで接着剤の無駄を防ぎつつ、十分な貼り付け作用を得られる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は上記課題について検討した結果、磁性体金属であるヨーク面に接着剤を溜めるための溝を設けることによって、接着剤が塗布されたヨーク面でマグネットをスライドさせても接着剤を確実に残せることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 固定子が並列する複数のマグネットからなり、該固定子の取付けられるヨークが磁性体金属であり、可動子がコイルである構造のリニアモータにおけるマグネット接着用構造であって、ヨークのマグネット取付け面上に接着剤を溜めるための溝が、一個のマグネット当たり一または複数本設けられていることを特徴とする、リニアモータのマグネット接着用構造。
〔2〕 前記溝は、前記ヨークのマグネット取付け方向上両端部を結ぶ線上に設けられていることを特徴とする、〔1〕に記載のリニアモータのマグネット接着用構造。
〔3〕 前記溝はマグネット取付け方向と平行に、一個のマグネット当たり複数本設けられていることを特徴とする、〔2〕に記載のリニアモータのマグネット接着用構造。
〔4〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載のマグネット接着用構造を備えていることを特徴とする、リニアモータの固定子。
〔5〕 〔4〕に記載の固定子を用いて構成されていることを特徴とする、リニアモータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリニアモータのマグネット接着用構造、固定子、およびリニアモータは上述のように構成されるため、マグネットが固定子、コイルが可動子である構造のリニアモータにおけるマグネット接着過程において、着磁済みマグネットをヨーク面上でスライドさせながら挿入した場合でも溝内に接着剤がを確実に残すことができ、接着剤の無駄を防ぎつつ、十分な貼り付け作用を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明リニアモータのマグネット接着用構造の基本的な構成を示す斜視説明図である。
【
図2】本発明リニアモータのマグネット接着用構造の形態例を示す断面視説明図である。
【
図3】本発明リニアモータのマグネット接着用構造の配置例を示す正面視説明図である(その1)。
【
図4】本発明リニアモータのマグネット接着用構造の配置例を示す正面視説明図である(その2)。
【
図5】本発明リニアモータのマグネット接着用構造の配置例を示す正面視説明図である(その3)。
【
図6】本発明が適用対象とするタイプのリニアモータの全体構造等を示す斜視説明図である。
【
図7】従来のリニアモータのマグネット接着方法を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明リニアモータのマグネット接着用構造の基本的な構成を示す斜視説明図である。図示するように本リニアモータのマグネット接着用構造は、固定子1が並列する複数のマグネット2、2、・・・からなり、固定子1の取付けられるヨーク3が磁性体金属であり、可動子がコイルである構造のリニアモータにおけるマグネット接着用構造であって、ヨーク3のマグネット取付け面4(以下、単に「ヨーク面」ともいう)上に接着剤を溜めるための溝5が、一個のマグネット2当たり一本、または複数本設けられていることを、主たる構成とする。
【0014】
かかる構成の本発明マグネット接着用構造を備えたリニアモータにおけるヨーク3へのマグネット2の貼り付けは、接着剤が塗布されたヨーク面4脇方向からガイド6に沿って着磁済みマグネット2がヨーク面4上へとスライド挿入方向Sで挿入されることによって行われる、という点については
図7で示した従来技術と同様である。しかし本発明と従来技術とでは、その際にヨーク面4上の接着剤が受ける作用に相違がある。
【0015】
従来技術では、マグネット82のスライド挿入によってヨーク面84上に塗布されていた接着剤は、マグネット82の進行方向へ向かって押し出されるしかなく、ヨーク面84上から外へとかき出されてしまわざるを得なかった。しかし本発明ではヨーク面4上に溝5が設けられていることにより、接着剤の少なくとも一定量は、マグネット2進行方向へ向かって押し出されずに、溝5の内部へと押し下げられて、そこに確実に溜められる状態、残存する状態が形成される。
【0016】
この時、溝5内への溜まり状態をなす接着剤は、マグネット2の下面と接した状態でもあり、したがってヨーク3へのマグネット2の貼り付けは、十分な強度で、良好になされる。それと同時に、従来技術と比較して、かき出されて無駄になる接着剤の量を軽減することができる。このようにして、各マグネット2は溝5による接着剤貯留の作用によって良好にヨーク3に貼り付けられ、固定子1が形成される。
【0017】
なお、ヨーク3のマグネット取付け面4上に接着剤を溜めるための溝5は、一個のマグネット2当たり最低一本設けられることを要するが、これは複数本である方がよい。溝5という確かな接着力の得られる接着箇所が多いほど、ヨーク3へのマグネット2の貼り付けが強固になるからである。溝5の本数その他については、追って後述する。
【0018】
図1に示すように本マグネット接着用構造を構成する溝5は、ヨーク3のマグネット取付け方向上両端部を結ぶ線上に設けられるものとすることができる。溝5を設ける方向がどのようであっても、ヨーク面4上でのマグネット2のスライドによって、ヨーク面4上の接着剤のいくらかは溝5内に残存するので、従来技術と比較して接着作用をより高められることは確かである。しかしながら、接着に寄与する箇所としての溝5は、そのヨーク面4上においてできるだけ広い面積を占める形態であることが望ましい。
【0019】
図示するように本タイプのリニアモータの固定子1は、横長に形成されているヨーク3のヨーク面4上に、マグネット2、2、・・・をスライド挿入方向Sとの直交方向、つまり横長であるヨーク3の横方向へと並列させて配置し、構成される。かかる構成においては、マグネット2は、図に示す通りスライド挿入方向に縦長に形成されているものが好適に用いられると言える。そうすると、溝5の方向としては、横方向の要素よりも縦方向の要素をより多く備えている方が、接着用の面積をより広く確保できる。
【0020】
したがって溝5は、縦方向の線上に、つまりヨーク3のマグネット取付け方向上両端部を結ぶ線上に設けられることが、より望ましい。図では、「マグネット取付け方向上両端部を結ぶ線」は、スライド挿入方向Sの直線、すなわちガイド6と平行な直線であり、したがって溝5はガイド6と平行に設けられている。しかしながら、かかる設け方には限定されず、たとえばガイド6に対して1~30°などの角度をもってヨーク3両端部を結ぶ直線を、「マグネット取付け方向上両端部を結ぶ線」としてもよい。そのような例については追って
図3により説明する。
【0021】
以上の説明の通り、「マグネット取付け方向上両端部を結ぶ線」は、ヨーク3の、マグネット2をスライド挿入させる方向で捉えた場合の両端部を結んだ直線である。そして溝5が設けられるのはその「線上」であるから、その線の一部または全部において溝5が設けられていればよい。したがって、必ずしも溝の長手方向両端や一方端がヨーク3の端部に露出していない形態であってもよい。
【0022】
また、溝5の本数、幅、形状を種々に設計検討することによって、容易に接着面積を増やすことが可能である。
図1に示した構成では、溝5の本数はマグネット2一個あたり二本であるが、これは三本以上であってもよい。設置する溝5の本数が多くなるほど、接着面積は拡大する。したがって接着力も強くなる。
【0023】
図2は、本発明リニアモータのマグネット接着用構造の形態例を示す断面視説明図である。図中(a)、(b)、(c)に例示するように溝の断面形状としては、四角形、三角形、隅R付きの四角形、あるいは半円形など、様々な形状を用いるものとすることができる。ただし、溝の断面形状が接着力に及ぼす効果はさほどでもなく、むしろ
図3等により述べる溝の幅や本数など、接着面積を増大させる要素の貢献の方が大きい。
【0024】
また、溝内壁の沿面距離は長い方が接着力が大きいと考えられるので、同一深さ・表面において同一幅の場合は、(c)の三角形よりも(a)の四角形の方が望ましいと考えられる。これを敷衍すれば、表面よりも深部の方に、より広がりを有するような形状も設計し得る。いずれの形状であっても、本発明の範囲内である。
【0025】
図3、4、5は、本発明リニアモータのマグネット接着用構造の配置例を示す正面視説明図である(その1、その2、その3)。
図3に示すように本マグネット接着用構造に係る溝55は、ガイド56に対して角度を有した直線の方向に沿ったものとして設けることができる。ここでは、V字溝と言える溝55は、V字の谷の向きを交互に逆にして並列しているが、同一向きのもののみで統一してもよい。
【0026】
図4では、溝65の本数をマグネット一個あたり三本にした例を示す。本例では、本数を増やした分、
図1に示した構成よりも接着面積が増え、接着力が増す。また
図5では、本数は
図1と同じく二本だが、幅を広げた溝5の例を示す。これも、接着面積が増え、接着力をより高めることができる。
【0027】
その他、縦方向の溝に横方向の溝を交差させて魚の骨の形状にしたり、あるいは井桁状の形状にしたり、溝の形態はいかようにも設計することができ、それらも全て本発明の範囲内である。
【0028】
なお、以上説明したいずれかの構成のマグネット接着用構造を備えているリニアモータの固定子、さらにかかる固定子を用いて構成されているリニアモータも、本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のリニアモータのマグネット接着用構造、固定子、およびリニアモータによれば、接着剤の無駄を防ぎつつ、十分な貼り付け作用を得ることができる。したがって、リニアモータ製造・使用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0030】
1…固定子
2…複数のマグネット
3、23、33、43、53、63、73…ヨーク
4、24、34、44、54、64、74…ヨークのマグネット取付け面(ヨーク面)
5、25、35、45、55、65、75…溝
6、26、36、46、56、66、76…ガイド
80…リニアモータ
81…固定子
82…マグネット
83…ヨーク
84…ヨークのマグネット取付け面(ヨーク面)
86…ガイド
88…可動子
89…隔壁
S…スライド挿入方向