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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149810
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】染色システム
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G02C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058575
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
(72)【発明者】
【氏名】柴田 良二
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】田中 基司
(72)【発明者】
【氏名】中村 成伸
(72)【発明者】
【氏名】今村 基
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BA06
(57)【要約】
【課題】作業者の負担が増加することを抑制しつつ、種類が互いに異なる複数のレンズの各々を高品質で染色することが可能な染色システムを提供する。
【解決手段】紫外線照射装置20は、紫外線を出射する光源223を備える。コントローラは、情報取得ステップ、判定ステップ、および紫外線照射ステップを実行する。情報取得ステップでは、搬送装置10によって搬送される搬送ユニットUのレンズLに関する情報が取得される。判定ステップでは、レンズに関する情報に基づいて、紫外線を照射する必要があるか否かが搬送ユニットU毎に判定される。紫外線照射ステップでは、紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットUのレンズLに対し、紫外線の照射工程が実行される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のレンズを染色する染色システムであって、
レンズを含む搬送ユニットを搬送する搬送装置と、
紫外線を出射する光源を有し、染色するレンズに紫外線を照射する紫外線照射装置と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記搬送装置によって搬送される前記搬送ユニットのレンズに関する情報を取得する情報取得ステップと、
前記情報取得ステップにおいて取得されたレンズに関する情報に基づいて、紫外線を照射する必要があるか否かを前記搬送ユニット毎に判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて紫外線を照射する必要があると判定された前記搬送ユニットのレンズに対し、前記紫外線照射装置による紫外線の照射工程を実行する紫外線照射ステップと、
を実行することを特徴とする染色システム。
【請求項2】
請求項1に記載の染色システムであって、
前記紫外線照射ステップでは、前記コントローラは、紫外線の照射工程を実行する場合に、前記情報取得ステップにおいて取得されたレンズに関する情報に基づいて、レンズに対する紫外線の照射条件を変更することを特徴とする染色システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の染色システムであって、
前記搬送ユニットのレンズに、染料が付着した基体を対向させた状態で、前記基体に付着した染料を前記レンズに転写する転写装置と、
前記転写装置によって染料が転写された前記レンズを加熱することで、前記レンズの表面に付着された染料を前記レンズに定着させる染料定着装置と、
を備えることを特徴とする染色システム。
【請求項4】
請求項3に記載の染色システムであって、
各々の前記搬送ユニットは、前記搬送装置によって、前記紫外線照射装置、前記転写装置、および前記染料定着装置の順に搬送されることを特徴とする染色システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の染色システムであって、
前記染料定着装置は、前記転写装置によって染料が転写された前記レンズの表面に、レーザ光を照射して加熱することで、前記レンズの表面に付着された染料を前記レンズに定着させるレーザ定着装置であることを特徴とする染色システム。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかに記載の染色システムであって、
染料が付着した前記基体を、レンズを含む前記搬送ユニットの所定位置に載置する基体載置装置をさらに備え、
各々の前記搬送ユニットは、前記搬送装置によって、前記紫外線照射装置、前記基体載置装置、前記転写装置、および前記染料定着装置の順に搬送されることを特徴とする染色システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の染色システムであって、
前記紫外線照射装置が備える前記光源は、
紫外線を透過する材質によって管壁が形成された管内に、封入ガス、水銀、および、電子放射物質が塗布された電極が内部に封入された殺菌灯であることを特徴とする染色システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの記載の染色システムであって、
前記紫外線照射装置は、
レンズに対する紫外線照射時に前記搬送ユニットが配置される紫外線照射位置と、前記光源との間に移動されることで、前記光源から前記紫外線照射位置へ向けて出射された紫外線を遮断するシャッターと、
前記シャッターを、前記紫外線照射位置と前記光源の間の遮断位置と、前記遮断位置から退避された退避位置の間で移動させるシャッター駆動部と、
をさらに備え、
前記コントローラは、前記シャッター駆動部の駆動を制御することで、前記紫外線照射位置へ向けた紫外線の照射と遮断を切り替えることを特徴とする染色システム。
【請求項9】
請求項8に記載の染色システムであって、
前記光源は、複数の前記搬送ユニットの各々に対する紫外線の照射工程の合間も継続して点灯されることを特徴とする染色システム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の染色システムであって、
前記紫外線照射装置は、
紫外線を遮断する材質によって形成され、内部に前記光源を収納する光源収納部と、
前記光源収納部の下部に形成され、前記光源から出射された紫外線を前記光源収納部の下方に通過させる紫外線通過部と、
を備え、
前記搬送ユニットが、前記光源収納部の底面に接触する所定の紫外線照射位置に配置されることで、前記光源から出射された紫外線が前記紫外線通過部を通過して前記搬送ユニットのレンズに照射され、且つ、前記光源収納部と前記紫外線照射位置の前記搬送ユニットによって紫外線の外部への漏洩が遮断されることを特徴とする染色システム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の染色システムであって、
前記紫外線照射装置は、
前記搬送ユニットを昇降させることで、前記搬送装置による搬送経路と、前記搬送経路よりも上方の紫外線照射位置との間で前記搬送ユニットを移動させる昇降機構をさらに備え、
前記昇降装置が前記搬送ユニットを前記紫外線照射位置に配置させている間、前記紫外線照射位置の前記搬送ユニットの下方の前記搬送経路を、他の前記搬送ユニットが前記搬送装置によって通過できることを特徴とする染色システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂製のレンズを染色する染色システムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製のレンズを染色するための種々の技術が提案されている。例えば、浸染法と言われる染色方法では、レンズを染色液の中に浸漬することでレンズが染色される。また、染料をレンズの表面に転写し、染料が付着したレンズを加熱することでレンズを染色する技術も提案されている。
【0003】
レンズの染色品質を向上させるために、染色前のレンズに紫外線を照射する技術も開示されている。例えば、特許文献1に記載の染色方法では、レンズ表面に紫外線を照射し、レンズを構成する高分子有機化合物の主鎖や側鎖の結合を切断することで、染色の均一性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-32639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、レンズに紫外線を照射する工程は、作業者による手作業で行われていた。従って、レンズを染色する際の作業者の負担を軽減することが困難であった。また、レンズを染色する際には、種類が互いに異なる複数のレンズの各々に対して適切な工程が行われなければ、染色品質を十分に向上させることは困難である。つまり、作業者の負担が増加することを抑制しつつ、種類が互いに異なる複数のレンズの各々を高品質で染色することが可能な技術が望まれる。
【0006】
本開示の典型的な目的は、作業者の負担が増加することを抑制しつつ、種類が互いに異なる複数のレンズの各々を高品質で染色することが可能な染色システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する染色システムは、樹脂製のレンズを染色する染色システムであって、レンズを含む搬送ユニットを搬送する搬送装置と、紫外線を出射する光源を有し、染色するレンズに紫外線を照射する紫外線照射装置と、コントローラと、を備え、前記コントローラは、前記搬送装置によって搬送される前記搬送ユニットのレンズに関する情報を取得する情報取得ステップと、前記情報取得ステップにおいて取得されたレンズに関する情報に基づいて、紫外線を照射する必要があるか否かを前記搬送ユニット毎に判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて紫外線を照射する必要があると判定された前記搬送ユニットのレンズに対し、前記紫外線照射装置による紫外線の照射工程を実行する紫外線照射ステップと、を実行する。
【0008】
本開示に係る染色システムによると、作業者の負担が増加することを抑制しつつ、種類が互いに異なる複数のレンズの各々を高品質で染色できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】染色システム1のシステム構成を示すブロック図である。
図2】2つのレンズLが設置され、且つ染料付基体が設置されていない状態の染色用トレイ80を右斜め上方から見た斜視図である。
図3】紫外線照射装置20を右斜め前方から見た斜視図である。
図4】昇降機構210を右斜め前方から見た斜視図である。
図5】光源収納部222の上面、前面、右側面、および左側面を取り外した状態の照射部220を、右斜め前方から見た斜視図である。
図6】光源収納部222の上面、前面、右側面、および左側面と、光源223を取り外した状態の照射部220を、右斜め前方から見た斜視図である。
図7】搬送ユニットUが引き渡し位置にあり、且つシャッター227Bが遮断位置にある状態の、図3におけるA-A線矢視方向断面図である。
図8】搬送ユニットUが紫外線照射位置PBにあり、且つシャッター227Bが退避位置にある状態の、図3におけるA-A線矢視方向断面図である。
図9】紫外線照射装置20が実行する照射制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する染色システムは、樹脂製のレンズを染色する。染色システムは、搬送装置、紫外線照射装置、およびコントローラを備える。搬送装置は、レンズを含む搬送ユニットを搬送する。紫外線照射装置は、紫外線を出射する光源を備え、染色するレンズに紫外線を照射する。コントローラは、情報取得ステップ、判定ステップ、および紫外線照射ステップを実行する。情報取得ステップでは、搬送装置によって搬送される搬送ユニットのレンズに関する情報を取得する。判定ステップでは、情報取得ステップにおいて取得されたレンズに関する情報に基づいて、紫外線を照射する必要があるか否かを搬送ユニット毎に判定する。紫外線照射ステップでは、判定ステップにおいて紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットのレンズに対し、紫外線照射装置による紫外線の照射工程を実行する。なお、コントローラは、判定ステップにおいて紫外線を照射する必要がないと判定された搬送ユニットのレンズに対しては、紫外線の照射工程を実行しない。
【0011】
樹脂製のレンズには、染色前に紫外線を照射することで染色品質が向上するものと、染色前に紫外線を照射すると逆に染色品質が低下するものが混在する。本開示の染色システムによると、レンズを含む複数の搬送ユニットのうち、紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットのレンズに対して、自動的に紫外線が照射される。従って、種類が異なる複数のレンズの各々が高い品質で染色され、且つ作業負担の増大も適切に抑制される。
【0012】
なお、情報取得ステップにおいて取得される搬送ユニットのレンズに関する情報には、レンズの基材の情報が含まれていてもよい。判定ステップでは、搬送ユニットに含まれるレンズの基材に応じて、紫外線を照射する必要があるか否か(紫外線の照射の要否)が判定されてもよい。この場合、レンズの基材に応じて適切に紫外線の照射の要否が判定される。詳細には、情報取得ステップにおいて取得される搬送ユニットのレンズに関する情報には、レンズの基材の屈折率に関する情報が含まれていてもよい。樹脂製のレンズでは、染色前に紫外線を照射することが適切か否かが、レンズの屈折率に応じて異なる場合が多い。従って、レンズの屈折率に関する情報が用いられることで、紫外線の照射の要否がより適切に判定される。また、レンズの種類に応じて、紫外線を照射する必要があるか否かが搬送ユニット毎に予め設定されていてもよい。この場合、情報取得ステップにおいて取得される搬送ユニットのレンズに関する情報は、紫外線を照射する必要があるか否かを示す情報であってもよい。
【0013】
染色システムは、搬送ユニットに関する情報を読み取る読取部を備えていてもよい。コントローラは、情報取得ステップにおいて、読取部によって読み取られたレンズに関する情報を取得してもよい。この場合、搬送ユニットのレンズに関する情報が、搬送ユニット毎に適切に取得される。
【0014】
読取部は、搬送ユニット毎に設けられた識別子を読み取る識別子読取部を含んでいてもよい。コントローラは、搬送ユニット毎にレンズに関する情報(例えば、レンズの基材の情報等)を記憶するデータベースから、識別子読取部によって読み取られた識別子に対応する情報を取得してもよい。この場合、例えば複数の搬送ユニットの順番が変わる場合等でも、各々の搬送ユニットのレンズに関する情報がコントローラによって適切に把握される。なお、識別子は、例えば、レンズが載置される染色用トレイに設けられていてもよいし、転写工程で用いられる基体(詳細は後述する)に設けられていてもよい。
【0015】
紫外線照射装置の光源が出射する紫外線(一般的には400nm以下)の波長は、300nm以下であってもよい。この場合、高屈折率の基材のレンズ等であっても、より高い品質で染色され易くなる。なお、本開示では、254nmの波長をピークとした紫外線を出射する光源が使用される。
【0016】
紫外線照射ステップでは、コントローラは、紫外線の照射工程を実行する場合に、情報取得ステップにおいて取得されたレンズに関する情報(以下、「レンズ情報」という)に基づいて、レンズに対する紫外線の照射条件を変更してもよい。樹脂製のレンズでは、紫外線の照射の適否に加えて、紫外線を照射する際の適切な照射条件もレンズに応じて異なる。従って、紫外線の照射条件が、レンズに関する情報に基づいて変更されることで、レンズの染色品質がさらに向上する。
【0017】
レンズ情報に基づいて変更される紫外線の照射条件は、レンズに対して照射される紫外線の積算光量を適切に調整できる条件であればよい。例えば、照射条件は、レンズに対する紫外線の照射時間であってもよい。この場合、レンズに照射される紫外線の出力を変化させなくても、照射時間を適切に変更することで、各々のレンズに適した条件で紫外線が照射される(換言すると、レンズに照射される紫外線の積算光量が、レンズに適した光量となる)。つまり、光源の出力等をレンズ情報に応じて変更する制御が不要となるので、照射工程が複雑になり難い。また、紫外線の出射出力が一定の光源(例えば、後述する殺菌灯等)を用いることも可能になるので、光源の選択肢も増える。ただし、コントローラは、照射時間と共に、または照射時間とは別で、他の照射条件をレンズ情報に応じて変更してもよい。例えば、コントローラは、レンズに照射される紫外線の出力等の照射条件をレンズ情報に基づいて変更することで、レンズに照射される紫外線の積算光量を調整してもよい。また、紫外線照射装置が複数の光源を備える場合、コントローラは、レンズに紫外線を照射する光源の数を照射条件として変更することで、レンズに照射される紫外線の積算光量を調整してもよい。また、紫外線の照射領域内でレンズを移動させる場合、コントローラは、照射領域内におけるレンズの移動速度をレンズ情報に基づいて変更することで、紫外線の積算光量を調整してもよい。また、コントローラは、レンズに対する紫外線の照射時間と非照射時間の割合を、レンズ情報に基づいて変更することで、紫外線の積算光量を調整してもよい。なお、複数の照射条件をレンズ情報に基づいて変更してもよいことは言うまでもない。
【0018】
染色システムは、転写装置と染料定着装置を備えていてもよい。転写装置は、搬送ユニットのレンズに、染料が付着した基体を対向させた状態で、基体に付着した染料をレンズに転写する。染料定着装置は、転写装置によって染料が転写されたレンズを加熱することで、レンズの表面に付着された染料をレンズに定着させる。この場合、紫外線照射装置によって紫外線が照射されたレンズが、転写装置および染料定着装置によって適切に染色される。
【0019】
各々の搬送ユニットは、搬送装置によって、紫外線照射装置、転写装置、および染料定着装置の順に搬送されてもよい。この場合、紫外線を照射することが必要なレンズに対して適切に紫外線照射工程が実行された後、レンズへの染料の転写工程および定着工程が円滑に行われる。
【0020】
染料定着装置は、転写装置によって染料が転写されたレンズの表面に、レーザ光を照射して加熱することで、レンズの表面に付着された染料をレンズに定着させるレーザ定着装置であってもよい。レーザ定着装置によると、オーブン等によってレンズに染料を定着させる場合に比べて短時間で染料を定着させることができる。一方で、レーザ定着装置によってレンズに染料を定着させる場合には、オーブン等を用いる場合に比べて、染色前に紫外線を照射しなければ染色品質が向上し難いレンズの種類が増加する。これに対し、本開示の染色システムによると、紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットのレンズに対して、自動的に紫外線が照射される。従って、種類が異なる複数のレンズの各々が、短時間且つ高品質で染色される。
【0021】
染色システムは、染料が付着した基体を、レンズを含む搬送ユニットの所定位置に載置する基体載置装置をさらに備えてもよい。各々の搬送ユニットは、搬送装置によって、紫外線照射装置、基体載置装置、転写装置、および染料定着装置の順に搬送されてもよい。この場合、紫外線照射装置によって紫外線がレンズに照射される段階では、搬送ユニットには基体が載置されていない状態となる。従って、紫外線照射装置から出射される紫外線が、基体によって遮断されずに適切にレンズに照射される。基体が載置された状態で紫外線をレンズに照射する場合に比べて、紫外線照射装置の構成の簡素化も容易となる。
【0022】
光源は、紫外線を透過する材質によって管壁が形成された管内に、封入ガス、水銀、および、電子放射物質が塗布された電極が内部に封入された殺菌灯(つまり、管壁に蛍光物質が付与されていない、所謂蛍光灯タイプの殺菌灯)であってもよい。蛍光灯タイプの殺菌灯を用いることで、他の光源(例えば水銀灯等)を用いる場合に比べて、装置の製造コスト、メンテナンスコスト等が容易に低下する。ただし、蛍光灯タイプの殺菌灯以外の紫外線出射光源を採用することも可能である。
【0023】
紫外線照射装置は、シャッターとシャッター駆動部をさらに備えていてもよい。シャッターは、レンズに対する紫外線照射時に搬送ユニットが配置される紫外線照射位置と、光源との間に移動されることで、光源から紫外線照射位置へ向けて出射された紫外線を遮断する。シャッター駆動部は、シャッターを、紫外線照射位置と光源の間の遮断位置と、遮断位置から退避された退避位置の間で移動させる。コントローラは、シャッター駆動部の駆動を制御することで、紫外線照射位置へ向けた紫外線の照射と遮断を切り替えてもよい。この場合、紫外線照射位置へ向けた紫外線の照射と遮断が、シャッターおよびシャッター駆動部によって素早く切り替えられる。例えば、光源の点灯と消灯を細かく切り替えなくても、シャッターおよびシャッター駆動部が用いられることで、紫外線の照射と遮断が適切に切り替えられる。
【0024】
光源は、複数の搬送ユニットの各々に対する紫外線の照射工程の合間も継続して点灯されてもよい。この状態で、紫外線の照射と遮断がシャッターおよびシャッター駆動部によって切り替えられてもよい。一般的に、光源の出力は、点灯後一定時間が経過することで安定する場合が多い。また、点灯と消灯を数多く繰り返す程、寿命が短くなる光源も多い。従って、照射工程の合間も継続して光源を点灯させ、且つ、紫外線の照射と遮断をシャッターによって切り替えることで、より安定した出力で紫外線がレンズに照射され易くなり、且つ、光源の寿命も長くなり易い。
【0025】
なお、前述した蛍光灯タイプの殺菌灯は、点灯後一定時間が経過することで出力が安定し、且つ、点灯と消灯を繰り返す程寿命が短くなる。さらに、蛍光灯タイプの殺菌灯の点灯時に必要な電力は、点灯を継続している間に必要な電力よりも大きい。従って、特に蛍光灯タイプの殺菌灯を光源として用いる場合には、照射工程の合間も継続して光源を点灯させることは有効である。
【0026】
ただし、点灯と消灯を容易に安定した出力で切り替えることが可能な光源を用いる場合等には、1回の紫外線照射工程が終了する毎に光源を消灯させてもよい。
【0027】
紫外線照射装置は、光源収納部をさらに備えていてもよい。光源収納部は、紫外線を遮断する材質によって形成され、内部に光源を収納する。光源収納部の下部の一部分には、光源から出射された紫外線を光源収納部の下方に通過させる紫外線通過部が形成されていてもよい。搬送ユニットが、光源収納部の底面に接触する所定の紫外線照射位置に配置されることで、光源から出射された紫外線が紫外線通過部を通過して搬送ユニットのレンズに照射され、且つ、光源収納部と紫外線照射位置の搬送ユニットによって紫外線の外部への漏洩が遮断されてもよい。
【0028】
この場合、搬送ユニットが紫外線照射位置に配置されることで、紫外線通過部を通じて適切に紫外線がレンズに照射されると共に、外部への紫外線の漏洩も防止される。よって、安全性が確保された状態で適切に紫外線の照射工程が行われる。
【0029】
紫外線照射装置は、昇降機構をさらに備えていてもよい。昇降機構は、搬送ユニットを昇降させることで、搬送装置による搬送経路と、搬送経路よりも上方の紫外線照射位置との間で搬送ユニットを移動させる。昇降装置が搬送ユニットを紫外線照射位置に配置させている間、紫外線照射位置の搬送ユニットの下方の搬送経路を、他の搬送ユニットが搬送装置によって通過できてもよい。この場合、昇降装置は、紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットを上昇させることで、搬送ユニットを紫外線照射位置に適切に配置することができる。さらに、搬送ユニットが紫外線照射位置に配置されている間、他の搬送ユニットが、紫外線照射位置の搬送ユニットの下方を通過できるので、紫外線の照射工程が完了するまで他の搬送ユニットを搬送経路上で待機させておく必要が無い。よって、簡易な構成で効率良く染色工程が進行する。
【0030】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。染色システム1は、樹脂体を自動的に連続して染色する。本実施形態では、染色する対象とする樹脂体は、眼鏡に使用される樹脂製(プラスチック製)のレンズL(図2等参照)である。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズL以外の樹脂体を染色する場合にも適用できる。例えば、ゴーグル、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具、フィルム(例えば、厚みが400μm以下)、板材(例えば、厚みが400μm以上)等、種々の樹脂体を染色する場合に、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用することも可能である。染色される樹脂体には、樹脂体とは異なる部材(例えば、木材またはガラス等)に付加された樹脂体も含まれる。また、本実施形態の染色システム1は、複数の樹脂体を連続して搬送しながら染色する。しかし、樹脂体を1セットずつ搬送して染色する染色システムにも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を採用できる。
【0031】
(システム構成)
図1を参照して、本実施形態の染色システム1のシステム構成について概略的に説明する。本実施形態の染色システム1は、搬送装置10、紫外線照射装置20、染料付基体製造装置30、転写装置40、染料定着装置50、および制御装置70を備える。
【0032】
搬送装置10は、樹脂体であるレンズLが載置された染色用トレイ80(図2参照)を、染色システム1内の各装置に搬送する。レンズLが載置された染色用トレイ80は、搬送装置10によって搬送される搬送ユニットUとなる。詳細には、本実施形態の搬送装置10は、複数の搬送ユニットUを、染色システム1内で連続して搬送する。本実施形態の搬送装置10は、紫外線照射装置20、染料付基体製造装置30、転写装置40、および染料定着装置50の順に(つまり、図1における左から右に)搬送ユニットUを搬送する。
【0033】
紫外線照射装置20は、染色するレンズL(本実施形態では、搬送ユニットUに含まれるレンズL)に紫外線を自動的に照射する。樹脂製のレンズLには、染色前に紫外線を照射することで染色品質が向上するものと、染色前に紫外線を照射すると逆に染色品質が低下するものが混在する。本実施形態の紫外線照射装置20は、紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットUのレンズLに対して、選択的に紫外線を照射する。その結果、種類が異なる複数のレンズLの各々が高い品質で染色され、且つ作業負担が増大することも抑制される。紫外線照射装置20の詳細については後述する。
【0034】
染料付基体製造装置30は、樹脂体(レンズL)を染色する染色工程において使用される染料付基体(図示せず)を製造する。染料付基体は、シート状の基体と、基体の一方の面に付着する染料とを備える。本実施形態では、基体は、金属製の層(本実施形態ではアルミニウムの箔の層)を有し、可撓性を有する。詳細には、基体は、金属製の層に、印刷された染料の保持力を高めるための染料保持層(本実施形態では、親水性高分子膜の層)が積層されることで形成されている。従って、基体に印刷された染料が、適切に保持され易い。ただし、基体の材質には、紙、ガラス板、耐熱性樹脂、セラミック等の他の材質を用いることも可能である。
【0035】
本実施形態の染料付基体製造装置30は、印刷装置31と基体載置装置32を備える。印刷装置31は、染料を含むインクを基体に印刷することで、染料付基体を製造する。なお、本実施形態の染色システム1では、染料の凝集等を防ぎつつ染料を適切にレンズLに転写するために、真空(略真空を含む)の環境下で基体とレンズLを離間させて対向させた状態で、基体の染料が加熱されることで、染料がレンズLの表面に転写(蒸着)される(本実施形態における染色方法を、気相転写染色方法という)。従って、印刷装置31には、昇華性染料を含有したインクを基体に印刷するインクジェットプリンタが使用される。また、印刷装置31は、昇華性染料を含有していない通常のインクを基体に印刷することも可能である。印刷装置31は、情報処理装置(本実施形態ではパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)である制御装置70によって作成された印刷データに基づいて印刷を実行する。その結果、基体の適切な位置に適切な量のインク(染料)が付着する。グラデーションの染色を行うための染料付基体の作成も容易である。
【0036】
なお、印刷装置31の構成を変更することも可能である。例えば、印刷装置はレーザープリンタであってもよい。この場合、トナーに昇華性染料が含まれていてもよい。また、印刷装置31の代わりに、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等によって、基体に染料が付着されてもよい。
【0037】
基体載置装置32は、印刷装置31によって基体に印刷された染料を、染色用トレイ80(図2参照)に載置されたレンズLに対向(本実施形態では非接触で対向)させた状態で、染色用トレイ80における所定位置に染料付基体を載置する。従って、作業者が染料付基体を手作業で染色用トレイ80に載置しなくても、染色用トレイ80上の適切な位置に、染料付基体が自動的に載置される。
【0038】
転写装置40は、基体に付着した染料を、レンズLに対向させた状態で、染料を基体からレンズLに転写する。前述したように、本実施形態では、気相転写法によって基体からレンズLに染料が転写される。ただし、染料をレンズLに転写する方法を変更することも可能である。例えば、基体の染料とレンズLを接触させた状態で、染料が基体からレンズLに転写されてもよい。
【0039】
染料定着装置50は、転写装置40によって染料が転写されたレンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着した染料を樹脂体に定着させる。本実施形態の染料定着装置50は、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射することで、レンズLを加熱する。詳細には、本実施形態の染料定着装置50は、レーザ光源とスキャナを備えたレーザ定着装置である。レーザ光源は、レーザ光を出射する。スキャナは、レーザ光源から出射されたレーザ光を走査する。レーザ光が、スキャナによってレンズLの表面で二次元状に走査されることで、レンズLの表面が加熱される。レーザ定着装置は、オーブン等に比べて短時間で染料をレンズLに定着させることができる。ただし、レーザ光以外の電磁波をレンズLに照射する装置(例えばオーブン等)が、染料定着装置として用いられてもよい。
【0040】
制御装置70は、染色システム1における各種制御を司る。制御装置70には、種々の情報処理装置(例えば、PC、サーバ、および携帯端末等の少なくともいずれか)を使用できる。制御装置70は、制御を司るコントローラ(例えばCPU等)71と、各種データを記憶するデータベース72を備える。なお、制御装置70の構成を変更することも可能である。まず、複数のデバイスが協働して制御装置70として機能してもよい。例えば、染色システム1における各種制御を司る制御装置と、データベース72を備えた制御装置が別のデバイスであってもよい。また、複数のデバイスのコントローラが協働して、染色システム1における各種制御を実行してもよい。例えば、搬送装置10、紫外線照射装置20、染料付基体製造装置30、転写装置40、および染料定着装置50の少なくともいずれかがコントローラを備える場合も多い。この場合、制御装置70のコントローラと他の装置のコントローラが協働して、染色システム1の制御を司ってもよい。なお、本実施形態では、染色システム1のコントローラ71が、紫外線照射装置20の制御を司るコントローラとして機能する。
【0041】
各々の搬送ユニットUは、搬送装置10によって、紫外線照射装置20、染料付基体製造装置30、転写装置40、および染料定着装置50の順に搬送される。従って、紫外線を照射することが必要なレンズLに対して適切に紫外線照射工程が実行された後、レンズLへの染料の転写工程および定着工程が行われる。また、紫外線照射装置20によって紫外線がレンズLに照射される段階では、搬送ユニットUには染料付基体が載置されていない状態となる。従って、紫外線照射装置20から出射される紫外線が、基体によって遮断されずに適切にレンズLに照射される。
【0042】
染色システム1は、搬送されるユニット(染色用トレイ80と、染色用トレイ80に載置されたレンズLを含む)毎に、染色されるレンズLに関する情報を読み取る読取部2を備える。一例として、本実施形態の読取部2は、搬送されるユニット毎(例えば、染色用トレイ80毎)に設けられた識別子を読み取る識別子読取部である。読取部2によって読み取られる識別子によって、搬送ユニットが特定される。搬送ユニットが特定されることで、搬送ユニットに含まれるレンズLに関する情報(例えば、レンズLの基材の屈折率に関する情報等)が取得される。
【0043】
本実施形態の読取部2は、使用されている識別子に対応する識別子リーダー(例えば、QRコード(登録商標)リーダー、バーコードリーダー、識別穴リーダー等)である。また、読取部2は、情報を書き込み可能なタグ(例えばICタグ等)から情報を読み取るタグ読取部であってもよい。この場合、タグには、レンズLに関する情報が記憶されていてもよい。本実施形態では、染色システム1を構成する複数の装置のうち、少なくとも紫外線照射装置20に読取部2が設けられている。しかし、染色システム1のうち、紫外線照射装置20以外の部分にも、読取部が設けられていてもよい。
【0044】
(搬送ユニットU・染色用トレイ)
図2を参照して、搬送ユニットUおよび染色用トレイ80について説明する。図2は、2つのレンズLが設置(載置)され、且つ基体が設置されていない状態の染色用トレイ80(搬送ユニットU)の斜視図である。本実施形態の染色用トレイ80は、トレイ本体81、載置枠89、およびスペーサ87を備える。載置枠89には、染色対象となる樹脂体(本実施形態ではレンズL)が載置される。本実施形態の載置枠89は、レンズLよりもやや大きい外径を有するリング状に形成されている。スペーサ87は、載置枠89のうち、レンズLが載置される部位の外周部から上方に筒状(円筒状)に延びる。トレイ本体81には装着部82が形成されている。装着部82には、載置枠89およびスペーサ87が着脱可能に装着される。本実施形態では、1つのトレイ本体81に2つの装着部82が形成されている。従って、1つの眼鏡に使用される一対(左右)のレンズLが、1つの染色用トレイ80に載置された状態で染色される。
【0045】
トレイ本体81のうち、装着部82よりも外側の位置には、上方に突出する突部84が設けられている。また、トレイ本体81の底部(本実施形態では、各々の装着部82の底部の2か所)には、上方に向けて凹んだ凹部である底部嵌合部86が形成されている。トレイ本体81の上部に形成された複数の突部84のうち、装着部82に隣接する4つの突部84は、染色用トレイ80の上部に他の染色用トレイ80(トレイ本体81)が積み重ねられた際に、積み重ねられた染色用トレイ80の底部嵌合部86に嵌合する。よって、複数の染色用トレイ80が、安定した状態で上下に積み重ねられる。
【0046】
(紫外線照射装置)
図3図8を参照して、紫外線照射装置20について説明する。図3図6の紙面左下側を紫外線照射装置20の前方、図3図6の紙面右上側を紫外線照射装置20の後方、図3図6の紙面左上側を紫外線照射装置20の左側、図3図6の紙面右下側を紫外線照射装置20の右側とする。
【0047】
図3に示すように、紫外線照射装置20は、ベース部21とボックス部25を備える。ベース部21は、紫外線照射装置20の全体を支持する基台となる。ベース部21の正面には、スタートスイッチ22、モニタ23、および非常停止ボタン24が設けられている。スタートスイッチ22は、紫外線照射装置20を起動させる際に操作される。モニタ23は、各種画像を表示する。非常停止ボタン24は、紫外線照射装置20の動作を強制的に停止させる指示を入力するために操作される。
【0048】
ボックス部25は略箱状であり、ベース部21の上部に固定されている。ボックス部25の内部には、搬送装置10の一部と、搬送装置10に組付けられた昇降機構210および照射部220(詳細は後述する)が設置されている。ボックス部25の広い範囲(前面、後面、および上面)は透明な部材で形成されている。従って、作業者は、紫外線照射装置20によって実行されている工程を、透明な部材を介して確認することができる。また、ボックス部25の前面は、上端部でヒンジを介して回動可能に接続されている。紫外線照射装置20のメンテナンス等が行われる場合には、ボックス部25の前面が開放される。
【0049】
搬送装置10は、搬送方向の上流側(図3の紙面左側)から下流側(図3の紙面右側)へ、複数の搬送ユニットUを連続して搬送することができる。搬送装置10は、搬送方向に延びる一対のレール101を備える。レール101の近傍には、レール101に沿って配置された回転ベルト102が設けられている。回転ベルト102は、搬送モータ(例えばステップモータ等)に接続されている。搬送モータが駆動することで、回転ベルト102が回転する。回転ベルト102が回転することで、搬送ユニットUがレール101に沿って搬送方向に移動する。
【0050】
レール101の複数の位置には、搬送ユニットUの有無を検出するためのセンサ(本実施形態では光電センサ)が設けられている。制御装置70は、複数のセンサの各々の検出結果に基づいて、搬送装置10によって搬送されている搬送ユニットUの位置を検出することができる。また、レール101には、前述した読取部2(図1参照)が設けられている。
【0051】
昇降機構210について説明する。昇降機構210は、搬送ユニットUを昇降させることで、搬送装置10による搬送経路上の引き渡し位置(図7に示す搬送ユニットUの位置)と、引き渡し位置よりも上方の紫外線照射位置(図8における上方の搬送ユニットUの位置)の間で搬送ユニットUを移動させる。本実施形態では、紫外線照射位置が2つ設けられている。従って、搬送装置10のうち、2つの紫外線照射位置の各々に対応する位置(2つの紫外線照射位置の各々の下方)に、2つの昇降機構210が設置されている。
【0052】
図4に示すように、昇降機構210は、基部211、左アーム部212、右アーム部213、および上下動部114を備える基部211は、左アーム部212と右アーム部213を接続する。詳細には、左アーム部212は、基部211の左端から上方に延び、且つ、上端部から右方に屈曲している。右アーム部213は、基部211の右端から上方に延び、且つ、上端部から左方に屈曲している。左アーム部212の上端と右アーム部213の上端の間の距離は、染色用トレイ80(図2参照)の左右方向の長さよりも僅かに短くなるように設定されている。昇降時には、搬送ユニットUの染色用トレイ80の左端および右端が、左アーム部212と右アーム部213の上端によって支持される。
【0053】
上下動部214は基部211に固定されている。上下動部214は、モータ、シリンダ、またはソレノイド等のアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)である。上下動部214が駆動されることで、基部211、左アーム部212、および右アーム部213が一体となって上下動する。搬送ユニットU(つまり、レンズLが載置された染色用トレイ80)が、紫外線照射位置の下方の引き渡し位置に搬送された状態で、左アーム部212および右アーム部213が上方に移動されることで、引き渡し位置の搬送ユニットUが持ち上げられて、紫外線照射位置へ移動する。紫外線照射工程の終了後、左アーム部112および右アーム部113が下降されることで、搬送ユニットUが搬送経路上の引き渡し位置に戻される。
【0054】
照射部220について説明する。図3に示すように、照射部220は、4つの支柱221によって、搬送装置10の搬送経路の上方に支持されている。照射部220は、略箱状の光源収納部222を備える。
【0055】
図5は、光源収納部222の上面、前面、右側面、および左側面を取り外した状態の照射部220を右斜め前方から見た斜視図である。図5に示すように、光源収納部222は、紫外線を出射する光源223を内部に収納する。本実施形態では、光源223が出射する紫外線の波長は、300nm以下である。この場合、高屈折率の基材のレンズ等であっても、より高い品質で染色され易くなる。なお、本実施形態では、254nmをピークとした波長の紫外線を出射する光源223が使用される。光源収納部222は、紫外線を遮断する材質(例えば金属等)によって形成されている。その結果、後述する紫外線通過部225A,225B以外の部位から紫外線が光源収納部222の外部に漏洩することが防止される。
【0056】
本実施形態では、4つの紫外線通過部225A,225Bの各々を通過する紫外線の光量が均一となるように、2本の長尺状の光源223が、4つの紫外線通過部225A,225Bの上方を搬送経路に沿って横切るように配置されている。詳細には、本実施形態の光源223には、所謂蛍光灯タイプの殺菌灯が用いられている。蛍光灯タイプの殺菌灯では、紫外線を透過する材質によって管壁が形成された管内に、封入ガス(例えばアルゴンガス等)、水銀、および、電子放射物質が塗布された電極が内部に封入されている。蛍光灯タイプの殺菌灯を光源223に用いることで、他の光源(例えば水銀灯等)を用いる場合に比べて、装置の製造コスト、メンテナンスコスト等が容易に低下する。
【0057】
図6は、光源収納部222の上面、前面、右側面、および左側面と、光源223を取り外した状態の照射部220を、右斜め前方から見た斜視図である。光源収納部222の下部には、光源223から出射された紫外線を光源収納部222の下方に通過させる紫外線通過部225が形成されている。従って、光源収納部222の底面側(裏側)の紫外線照射位置PA,PBに搬送ユニットUが配置されることで、紫外線通過部225を通じて適切に紫外線がレンズLに照射される。本実施形態では、紫外線通過部225は、光源収納部222の底面を貫通する孔である。ただし、紫外線通過部225の構成を変更することも可能である。例えば、紫外線を透過させる材質が紫外線通過部に配置されることで、光源収納部222の内部空間が閉じられてもよい。
【0058】
本実施形態では、光源収納部222の底面側(裏側)に、搬送経路に沿って2つの紫外線照射位置PA,PBが設けられている。従って、光源収納部222の下部には、紫外線照射位置PAに配置された搬送ユニットUの2つのレンズLの各々へ紫外線を通過させる2つの紫外線通過部225Aと、紫外線照射位置PBに配置された搬送ユニットUの2つのレンズLの各々へ紫外線を通過させる2つの紫外線通過部225Bが形成される。
【0059】
照射部220の光源収納部222には、シャッター227A,227Bとシャッター駆動部228A,228Bが設けられている。シャッター227A,227Bは、紫外線を遮断する材質(例えば金属等)によって形成された板状の部材である。シャッター227A,227Bは、レンズLに対する紫外線照射時に搬送ユニットUが配置される紫外線照射位置PA,PBと、光源223(図5参照)との間の遮断位置に移動されることで、光源223からレンズLへ向けて出射された紫外線を遮断する。
【0060】
シャッター駆動部228A,228Bは、シャッター227A,227Bに固定されている。シャッター駆動部228A,228Bは、シャッター227A,227Bを、紫外線を遮断する遮断位置(図5および図7に示すシャッター227A,227Bの位置)と、遮断位置から退避された退避位置(図6および図8に示すシャッター227A,227Bの位置)の間で移動させる。シャッター駆動部228A,228Bは、モータ、シリンダ、またはソレノイド等のアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)である。コントローラ71は、シャッター駆動部228A,228Bの駆動を制御することで、紫外線照射位置PA,PBへ向けた紫外線の照射と遮断を切り替える。
【0061】
本実施形態では、搬送経路上流側の紫外線照射位置PAへの紫外線を遮断するシャッター227Aおよびシャッター駆動部228Aと、搬送経路下流側の紫外線照射位置PBへの紫外線を遮断するシャッター227Bおよびシャッター駆動部228Bが、別々に設けられている。つまり、シャッター227A,227Bおよびシャッター駆動部228A,228Bは、紫外線照射位置PA,PB毎に設けられている。従って、コントローラ71は、2つの紫外線照射位置PA,PBの各々に対する紫外線の照射と遮断を、独立して切り替えることができる。
【0062】
なお、シャッターおよびシャッター駆動部は、紫外線照射位置PA,PBに配置される搬送ユニットUの2つのレンズLの各々に対して別々に設けられていてもよい。つまり、シャッターおよびシャッター駆動部は、レンズLが配置される複数(本実施形態では4つ)の紫外線通過部225A,225B毎に設けられていてもよい。この場合、搬送ユニットUの2つのレンズLの一方にのみ紫外線を照射することも可能である。
【0063】
光源収納部222には、外部の気体(空気)を内部に吸引する吸気ファン230と、内部の気体を外部に排出する排気ファン231が設けられている。吸気ファン230および排気ファン231を駆動させることで、光源収納部222の内部の気体が入れ替わる。その結果、例えば、光源収納部222の内部の温度が過度に上昇すること等が抑制される。
【0064】
図7および図8等を参照して、紫外線照射装置20によるレンズLへの紫外線の照射工程について説明する。図7および図8は共に、図3におけるA-A線矢視方向断面図である。以下では、搬送経路の下流側の紫外線照射位置PB近傍の構成を例示して説明を行うが、上流側の紫外線照射位置PAの近傍の構成も同様である。図7は、搬送ユニットUが搬送経路上の引き渡し位置にあり、且つ、シャッター227Bが遮断位置にある状態の断面図である。図7に示す状態では、光源223と紫外線照射位置PBの間の遮断位置にシャッター227Bが配置されている。従って、光源223から下方へ出射された紫外線は、シャッター227Bによって遮断され、紫外線通過部225Bを通過することは無い。
【0065】
紫外線照射装置20の制御を司るコントローラ71は、搬送ユニットUのレンズL(つまり、染色用トレイ80に載置されているレンズL)に紫外線を照射する必要があるか否かを、搬送ユニットU毎に判定する(この詳細は後述する)。紫外線を照射する必要があると判定された搬送ユニットUが、図7に示す搬送装置10の搬送経路上の引き渡し位置に到達すると、搬送装置10に設けられたセンサによって搬送ユニットUの到達が検知される。搬送ユニットUの到達が検知されると、コントローラ71は、昇降機構210の上下動部214の駆動を制御して搬送ユニットUを上昇させることで、搬送ユニットUを紫外線照射位置PBに配置する。次いで、コントローラ71は、シャッター駆動部228Bの駆動を制御してシャッター227Bを遮断位置から退避位置へ移動させる。
【0066】
図8は、搬送ユニットUが紫外線照射位置PBにあり、且つ、シャッター227Bが退避位置にある状態の断面図である。図8に示すように、搬送ユニットUが紫外線照射位置PBに配置されると、搬送ユニットUの上部が光源収納部222の底面(裏側の面)に接触する。この状態で、シャッター227Bが退避位置に移動されると、光源223から出射された紫外線が、紫外線通過部225Bを下方へ通過して、紫外線照射位置PBの搬送ユニットUのレンズLに照射される。さらに、光源収納部222と、紫外線照射位置PBにおいて光源収納部222の底面に接触している搬送ユニットU(詳細には染色用トレイ80)によって、紫外線の外部への漏洩が適切に遮断される。
【0067】
ここで、図8に示すように、昇降機構210が搬送ユニットUを紫外線照射位置PBに配置させている間、紫外線照射位置PBの搬送ユニットUの下方における搬送経路を、他の搬送ユニットU´が搬送装置10によって通過できる。従って、紫外線照射位置PBのレンズLに対する紫外線照射工程が行われている間でも、他の搬送ユニットU´を搬送経路上で待機させておく必要が無い。
【0068】
紫外線照射位置PBのレンズLに対する紫外線照射工程が完了すると、コントローラ71は、シャッター駆動部228Bの駆動を制御してシャッター227Bを退避位置から遮断位置へ移動させることで、紫外線の照射状態を遮断状態に切り替える。次いで、コントローラ71は、昇降機構210の上下動部214の駆動を制御して搬送ユニットUを下降させることで、搬送ユニットUを搬送経路上の引き渡し位置に配置する。引き渡し位置に配置された搬送ユニットUは、搬送装置10によって搬送経路の下流側(本実施形態では、染料付基体製造装置30)へ搬送される。以上で、1つの搬送ユニットUに対する紫外線照射工程が終了する。
【0069】
本実施形態では、紫外線照射工程の実行中だけでなく、複数の搬送ユニットUの各々に対する紫外線照射工程の合間にも、光源223を継続して点灯させる。この状態で、シャッター227Bおよびシャッター駆動部228Bによって紫外線の照射と遮断が切り替えられる。従って、例えば、紫外線照射工程の開始時および完了時に、光源223の点灯と消灯を繰り返す場合に比べて、より安定した出力で紫外線がレンズLに照射され易くなり、且つ、光源223の寿命も長くなり易い。特に、本実施形態で光源223として使用されている蛍光灯タイプの殺菌灯は、点灯後一定時間が経過することで出力が安定し、且つ、点灯と消灯を繰り返す程寿命が短くなる。さらに、蛍光灯タイプの殺菌灯の点灯時に必要な電力は、点灯を継続している間に必要な電力よりも大きい。従って、特に蛍光灯タイプの殺菌灯を光源223として用いる場合には、照射工程の合間も継続して光源223を点灯させることは有効である。
【0070】
図9を参照して、本実施形態の紫外線照射装置20(染色システム1)が実行する照射制御処理について説明する。紫外線照射装置20のコントローラ(本実施形態では、制御装置70のコントローラ71)は、記憶装置に記憶された照射制御プログラムに従って、図9に示す照射制御処理を実行する。
【0071】
まず、コントローラ71は、搬送装置10の搬送経路のうち、読取部2(図1参照)による情報の読取位置に搬送ユニットUが到達したか否かを判断する(S1)。到達していなければ(S1:NO)、処理は待機状態となる。搬送ユニットUが読取位置に到達すると(S1:YES)、コントローラ71は、読取部2によって読み取られた、搬送ユニットUのレンズLに関する情報を取得する(S2)。
【0072】
コントローラ71は、搬送ユニットUのレンズLに関する情報に基づいて、レンズLに対して紫外線を照射する必要があるか否かを、読取位置に到達した搬送ユニットU毎に判断する(S4)。本実施形態では、S2で取得されるレンズに関する情報には、搬送ユニットUに含まれるレンズLの基材の情報が含まれている。S4では、レンズLの基材に応じて適切に紫外線の照射の要否が判定される。詳細には、S2で取得されるレンズLに関する情報には、搬送ユニットUに含まれるレンズLの基材の屈折率に関する情報が含まれている。樹脂製のレンズLでは、染色前に紫外線を照射することが適切か否かが、レンズLの屈折率に応じて異なる場合が多い。例えば、屈折率が1.67、1.70、1.74、1.76のレンズ等(所謂高屈折率のレンズ)は、染色前に紫外線が照射されることで染色品質が向上する。S4では、レンズLの屈折率に関する情報が用いられることで、紫外線の照射の要否がより適切に判定される。なお、紫外線の照射の要否は、レンズLの基材等毎に、ユーザによって予め設定できてもよい。
【0073】
紫外線を照射する必要がないと判定されると(S4:NO)、コントローラ71は、その搬送ユニットUに対する紫外線の照射工程を実行せずに、搬送装置10によって搬送ユニットUをそのまま搬送経路の下流側(本実施形態では染料付基体製造装置30)に搬送する。処理はS1へ戻る。従って、紫外線を照射することが不要なレンズLに対して紫外線が照射されて、染色品質が逆に低下してしまうことはない。
【0074】
紫外線を照射する必要があると判定されると(S4:YES)、コントローラ71は、搬送ユニットUのレンズLに関する情報に基づいて、レンズLに対する紫外線の照射条件を設定する(S5)。樹脂製のレンズLでは、紫外線の照射の適否に加えて、紫外線を照射する際の適切な照射条件もレンズLに応じて異なる。従って、紫外線の照射条件が、レンズLに関する情報に基づいて設定されることで、レンズの染色品質がさらに向上する。本実施形態では、レンズLの種類(詳細には、レンズLの基材の屈折率)に応じて、適切な照射条件が予め対応付けられている。S4では、レンズLの種類に対応付けられている照射条件が設定される。レンズLの種類に応じた照射条件は、ユーザによって変更されてもよい。
【0075】
なお、本実施形態では、レンズ情報に基づいて設定される紫外線の照射条件は、レンズLに対する紫外線の照射時間である。従って、レンズLに照射される紫外線の出力を変化させなくても、照射時間が適切に変更される(設定される)ことで、各々のレンズLに適した条件で紫外線が照射される。つまり、光源223の出力等をレンズ情報に応じて変更する制御が不要となるので、照射工程が複雑になり難い。また、本実施形態のように、紫外線の出射出力が一定の光源223(例えば、蛍光灯タイプの殺菌灯等)を用いることも可能になる。
【0076】
ただし、照射時間と共に、または照射時間とは別で、他の照射条件をレンズ情報に基づいて変更してもよい。例えば、コントローラ71は、レンズLに照射される紫外線の出力等の照射条件をレンズ情報に基づいて変更することで、レンズLに照射される紫外線の積算光量を調整してもよい。また、紫外線照射装置20が複数の光源223を備える場合、コントローラ71は、レンズLに紫外線を照射する光源223の数を照射条件として変更することで、レンズLに照射される紫外線の積算光量を調整してもよい。また、紫外線の照射領域内でレンズLを移動させる場合、コントローラ71は、照射領域内におけるレンズLの移動速度をレンズ情報に基づいて変更することで、紫外線の積算光量を調整してもよい。また、コントローラ71は、レンズLに対する紫外線の照射時間と非照射時間の割合を、レンズ情報に基づいて変更することで、紫外線の積算光量を調整してもよい。
【0077】
次いで、コントローラ71は、S5で設定した照射条件で、レンズLに対する紫外線の照射工程を実行する(S6)。紫外線の照射工程については説明済みであるため、ここでは詳細な説明は省略する。紫外線の照射工程が完了すると、コントローラ71は、搬送装置10によって搬送ユニットUを搬送経路の下流側に搬送し、処理はS1へ戻る。
【0078】
なお、図9のS2で搬送ユニットUのレンズLに関する情報を取得する処理は、「情報取得ステップ」の一例である。図9のS4で紫外線の照射要否を搬送ユニットU毎に判定する処理は、「判定ステップ」の一例である。図9のS5,S6で紫外線の照射工程を実行する処理は、「紫外線照射ステップ」の一例である。
【符号の説明】
【0079】
1 染色システム
10 搬送装置
20 紫外線照射装置
32 基体載置装置
40 転写装置
50 染料定着装置
70 制御装置
71 コントローラ
210 昇降機構
220 照射部
222 光源収納部
223 光源
225A,225B 紫外線通過部
227A,227B シャッター
228A,228B シャッター駆動部
L レンズ
U 搬送ユニット
PA,PB 紫外線照射位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9