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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149811
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20231005BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231005BHJP
   F16C 33/42 20060101ALI20231005BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C33/42 A
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058576
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】荒木 康宏
(72)【発明者】
【氏名】迫田 裕成
(72)【発明者】
【氏名】林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】島崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 生磨
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA45
3J701CA08
3J701CA13
3J701EA63
3J701FA32
(57)【要約】
【課題】潤滑不足を抑制可能な玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受1は、外輪軌道面20aを有する外輪2と、内輪軌道面30aを有する内輪3と、外輪軌道面20aと内輪軌道面30aとの間に配置された複数の玉と、複数の玉4を保持する保持器5と、を備え、保持器5は、玉4同士の間に配置される複数の柱部53を含む円環状の主部50を有し、柱部53同士の各間のスペースとして玉4をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケット51が主部50の軸方向一端50aから凹むように設けられた冠型保持器である。玉軸受1は、主部50の軸方向他端50bにおいて主部50の内周面50dから内周側に張出した内周側リブ55と、ポケット51のポケット内面51sで主部50の内周面50dから径方向に延び、主部50の外周面50cに達しない位置まで延びるポケット溝57と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に設けられ周方向に延在する外輪軌道面を有する外輪と、
前記外輪の内側に配置され、外周面に設けられ周方向に延在する内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置された複数の玉と、
前記外輪の内側且つ前記内輪の外側に配置され複数の前記玉を保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、
前記玉同士の間に配置される複数の柱部を含む円環状の主部を有し、前記柱部同士の各間に、前記玉をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケットが前記主部の軸方向一端から凹むように設けられた冠型保持器であり、
前記主部の軸方向他端において前記主部の内周面から内周側に張出し周方向全周に亘って延びる凸条として設けられた内周側リブと、
前記ポケットの内面に設けられ、前記主部の前記内周面に一端が開口するとともに当該内周面から前記主部の前記外周面に達しない位置まで延在するポケット溝と、を有する、玉軸受。
【請求項2】
前記保持器は、前記主部の前記軸方向他端において前記主部の外周面から外周側に張出し周方向全周に亘って延びる凸条として設けられた外周側リブを更に有する、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記保持器は、前記主部の前記柱部に設けられ前記内周面から外周側に向けて凹むとともに軸方向に延びる柱部溝を更に有する、請求項1又は2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記保持器は、前記柱部の位置において前記主部の外周面から外周側に突出する外周突起部を更に有する、請求項1~3の何れか1項に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記保持器との間に複数の前記玉を挟んで前記保持器に接合される第2の保持器を更に備え、
前記保持器と前記第2の保持器とが一体化されてなる一体化保持器によって複数の前記玉が転動自在に保持され、
前記一体化保持器は、軸方向に直交する仮想平面に対して面対称な形状をなしている、請求項1~4の何れか1項に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
玉を回転自在に保持する保持器を備えた玉軸受が知られている。この種の玉軸受では、回転時において潤滑剤が内輪及び外輪の軌道面から掻き出されて玉周辺の潤滑不足が発生する可能性があるので、このような潤滑不足を抑制することが必要である。玉軸受の回転が高速であるほど潤滑不足の懸念も大きく、潤滑不足を抑制する必要性も高い。潤滑不足への対策として、例えば特許文献1に記載された玉軸受では、保持器のポケット内面でポケット円周方向に延びる凹部溝が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-203551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の玉軸受は、上記凹部溝に溜まった潤滑剤によって玉とポケットとの適正な潤滑状態が維持されるようにし潤滑不足の抑制を図ろうとするものである。この種の玉軸受においては、例えば玉軸受の更なる高速回転への対応を可能にすべく、更なる潤滑不足の抑制を図ることが望まれる。そこで、本発明は、潤滑不足を抑制可能な玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の玉軸受は、内周面に設けられ周方向に延在する外輪軌道面を有する外輪と、外輪の内側に配置され、外周面に設けられ周方向に延在する内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面との間に配置された複数の玉と、外輪の内側且つ内輪の外側に配置され複数の玉を保持する保持器と、を備え、保持器は、玉同士の間に配置される複数の柱部を含む円環状の主部を有し、柱部同士の各間に、玉をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケットが主部の軸方向一端から凹むように設けられた冠型保持器であり、主部の軸方向他端において主部の内周面から内周側に張出し周方向全周に亘って延びる凸条として設けられた内周側リブと、ポケットの内面に設けられ、主部の内周面に一端が開口するとともに当該内周面から主部の外周面に達しない位置まで延在するポケット溝と、を有する。
【0006】
この玉軸受の保持器によれば、内周側リブにより内輪の外周面と保持器とのクリアランスが減少する。従って、内輪軌道面近傍の潤滑剤が上記クリアランスを通じて保持器から軸方向他端側のスペースに漏出することが抑制され、潤滑剤の枯渇を抑制することができる。また、内周側リブの上の潤滑剤が、遠心力でポケット溝に流れ込み、ポケット溝経由でポケットの内面に供給される、といった潤滑剤の流動が発生する。従って、ポケット内に潤滑剤が安定して供給され、ポケットにおける潤滑性が向上することで、玉軸受における潤滑不足が抑制される。
【0007】
保持器は、主部の軸方向他端において主部の外周面から外周側に張出し周方向全周に亘って延びる凸条として設けられた外周側リブを更に有する、こととしてもよい。この場合の保持器によれば、外周側リブにより外輪の内周面と保持器とのクリアランスが減少する。従って、外輪軌道面近傍の潤滑剤が上記クリアランスを通じて保持器から軸方向他端側のスペースに漏出することが抑制され、潤滑剤の枯渇を抑制することができる。
【0008】
保持器は、主部の柱部に設けられ内周面から外周側に向けて凹むとともに軸方向に延びる柱部溝を更に有する、こととしてもよい。この場合の保持器では、柱部溝が潤滑剤を一時的に保持する潤滑剤保持溝として機能するので、主部と内輪との間に存在する潤滑剤が比較的多くなる。そして、内輪軌道面には柱部溝からの潤滑剤が供給され易いので、内輪軌道面と玉との潤滑不足が抑制され、ひいては、玉軸受における潤滑不足が抑制される。
【0009】
保持器は、柱部の位置において主部の外周面から外周側に突出する外周突起部を更に有する、こととしてもよい。この場合の保持器では、玉軸受の回転時において、主部の外周面と外輪との間に存在する潤滑剤が、外周突起部によってかき取られ、ポケット側に供給される。従って、ポケット内に潤滑剤が安定して供給され、ポケット内における潤滑性が向上し、ひいては、玉軸受における潤滑不足が抑制される。
【0010】
本発明の玉軸受は、保持器との間に複数の玉を挟んで保持器に接合される第2の保持器を更に備え、保持器と第2の保持器とが一体化されてなる一体化保持器によって複数の玉が転動自在に保持され、一体化保持器は、軸方向に直交する仮想平面に対して面対称な形状をなしている、こととしてもよい。この場合の一体化保持器によれば、仮想平面の一方側において保持器によって得られる作用効果に加え、仮想平面の他方側においても第2の保持器によって同様の作用効果が更に得られる。従って、玉軸受における潤滑不足が効率的に抑制される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の玉軸受によれば、潤滑不足を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る玉軸受の斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る玉軸受の回転軸線を含む断面の断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る玉軸受の保持器の斜視図である。
図4図4(a)は、第1実施形態に係る保持器のポケットの中心の断面を模式的に示す断面図であり、図4(b)は、その柱部の中心の断面を模式的に示す断面図である。
図5図5(a)は、第1実施形態に係る玉軸受の保持器のポケットを拡大して示す斜視図であり、図5(b)は、そのポケットの変形例を示す斜視図である。
図6図6は、第2実施形態に係る玉軸受の保持器の斜視図である。
図7図7(a)は、第2実施形態に係る保持器のポケットの中心の断面を模式的に示す断面図であり、図7(b)は、その柱部の中心の断面を模式的に示す断面図である。
図8図8は、第3実施形態に係る玉軸受の保持器の斜視図である。
図9図9(a)は、第3実施形態に係る保持器のポケットの中心の断面を模式的に示す断面図であり、図9(b)は、その柱部の中心の断面を模式的に示す断面図である。
図10図10は、第4実施形態に係る玉軸受の一体化保持器の分解斜視図である。
図11図11(a)は、第4実施形態に係る一体化保持器のポケットの中心の断面を模式的に示す断面図であり、図11(b)は、その柱部の中心の断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る玉軸受について説明する。図1は、本実施形態に係る玉軸受1の斜視図であり、図2は回転軸線を含む断面における玉軸受1の断面図である。なお、図1は、シールを除去した状態の玉軸受1を示している。また、図2においては、図中に示される矢印Lが玉軸受1の回転軸線方向である。玉軸受1は、例えば回転軸を回転可能に支持する深溝玉軸受である。玉軸受1は、例えばモーター、エンジン補器、ステアリング、電動ブレーキなど多岐にわたる用途で使用可能である。玉軸受1は主に高速回転する回転軸を支持する用途で使用されてもよい。ここで高速回転とは、例えばdmn値60万以上の回転である。以下の説明において、断りなく「軸方向」、「径方向」、「周方向」というときには、それぞれ、玉軸受1の回転軸線方向、回転径方向、回転周方向を意味するものとする。
【0015】
玉軸受1は、外輪2、内輪3、複数の玉4、保持器5、及び一対のシール6を備えている。外輪2は、環状の部材である。外輪2の内周面20には、外輪軌道面20a、及び一対のシール溝20bが設けられている。外輪軌道面20aは、内周面20の周方向に沿って延在する溝状を呈している。軸方向における外輪軌道面20aの溝形状は、玉4の表面の形状に沿うように円弧状となっている。一対のシール溝20bは、それぞれ内周面20の周方向に沿って延在している。一対のシール溝20bは、外輪2の内周面20において軸方向の両端部にそれぞれ設けられている。すなわち、外輪軌道面20aは、軸方向において、一対のシール溝20b間に位置している。
【0016】
内輪3は、外輪2の内側に配置された環状の部材である。内輪3の外周面30には、内輪軌道面30a、及び一対のシール溝30bが設けられている。内輪軌道面30aは、外周面30の周方向に沿って延在する溝状を呈している。軸方向における内輪軌道面30aの溝形状は、玉4の表面の形状に沿うように円弧状となっている。一対のシール溝30bは、それぞれ外周面30の周方向に沿って延在している。一対のシール溝30bは、内輪3の外周面30における軸方向の両端部にそれぞれ設けられている。すなわち、内輪軌道面30aは、軸方向において、一対のシール溝30b間に位置している。
【0017】
球形の玉4は、保持器5に保持された状態で外輪2の外輪軌道面20aと内輪3の内輪軌道面30aとの間に配置されている。複数の玉4は、外輪2及び内輪3の周方向に沿って、所定の間隔で1列に並べられており、保持器5によって玉4同士の周方向間隔が規制されている。
【0018】
外輪2及び内輪3の材料としては、高温及び高速回転に対応するためにSHX材(NSK technical journal No.673(2002) pp12-14)が用いられてもよいが、SUJ2等の他の軸受鋼等が用いられてもよい。また、玉4の材料としては、高速回転に対応するためにセラミックが用いられてもよいが、SUJ2等の他の軸受鋼等が用いられてもよい。
【0019】
一対のシール6は、外輪2と内輪3との間の空間を塞ぐ円環状の部材であり、一対のシール6は互いに同じ構成である。シール6は、例えばゴム製の弾性体7に金属製の芯金8が固着されて構成される。シール6の外周側端部6aが外輪2のシール溝20bに嵌め込まれることにより、シール6は外輪2に取り付けられ外輪2と一緒に回転する。シール6の内周側端部6bが内輪3のシール溝30b内に接触しないように差し込まれることで、シール6と内輪3とは非接触とされている。この構造により、玉軸受1は、シール6と内輪3とが接触する場合に比較して回転抵抗が小さく、高速回転に対応し易い。また、内周側端部6bとシール溝30bとの隙間がラビリンス構造をなすので、当該隙間を通じて玉軸受1の内部(外輪2と内輪3との間の空間)の潤滑剤が外部へ漏出することが抑制される。以下において、2つのシール6を区別する場合には、それぞれシール6P,シール6Qと呼ぶ。
【0020】
保持器5は、内輪3の外側且つ外輪2の内側に配置された環状の部材である。すなわち、保持器5は、外輪2の内側において、内輪3を囲むように配置されている。保持器5は、複数の玉4を周方向に予め定められた間隔で保持する冠型保持器である。保持器5は、複数の玉4を例えば周方向に等間隔で保持する。保持器5は樹脂材料からなり、例えば射出成形によって一体的に形成される。保持器5を構成する樹脂材料の種類は、保持器5に必要な強度、耐熱性等の特性を有するものであれば、特に限定されない。
【0021】
玉軸受1の外輪2と内輪3との間において、一対のシール6間には、図示しないペースト状の潤滑剤が収容されている。この潤滑剤によって、玉軸受1の各部の潤滑が行われる。玉軸受1に用いられる潤滑剤としては、高速回転に対応するために、ウレア系の潤滑グリースが用いられてもよい。また、玉軸受1に用いられる潤滑剤としては、高温に対応するために、ウレアとフッ素が混合されたグリース、又はフッ素系のグリースが用いられてもよい。潤滑剤は、玉4と外輪軌道面20a、玉4と内輪軌道面30a、玉4と保持器5、といったような相互に接触する部分に入り込み、摩擦及び摩耗を低減する。
【0022】
図2図5を参照しながら保持器5の詳細について更に説明する。図3は保持器5の斜視図である。図4(a)は、保持器5のポケット51(後述)の中心の断面を模式的に示す断面図であり、図4(b)は、保持器5の柱部53(後述)の中心の断面を模式的に示す断面図である。図に示されるように、保持器5は、外輪2及び内輪3と同軸の仮想円筒に沿って延びる主部50を備えている。主部50には、玉4を保持するための複数のポケット51が周方向に等間隔で設けられている。ポケット51は、軸方向における主部50の一端50aから凹むように形成されている。すなわち、ポケット51は端部開口部51a(図3)を介して軸方向における主部50の一端50aに開口している。ポケット51内の玉4が主部50から一端50a側に脱落しないように、端部開口部51aの周方向の幅は玉4の直径よりも小さくされている。以下では、軸方向における主部50の一端50aを単に「軸方向一端50a」という。また、軸方向における主部50の他端50bを単に「軸方向他端50b」という。軸方向一端50aは、軸方向における主部50のシール6P側の端部であり、軸方向他端50bは、軸方向における主部50のシール6Q側の端部である。
【0023】
上記の各ポケット51には、1つずつの玉4が転動自在に保持される。具体的には、ポケット51は凹状の球面をなすポケット内面51sを有しており、ポケット内面51sの曲率半径は玉4の曲率半径よりも僅かに大きい。玉4は、このポケット内面51sに包み込まれるようにしてポケット51に保持される。そして、玉4の表面がポケット内面51sを滑ることで、玉4はポケット51内で転動可能である。
【0024】
更に、ポケット51は、主部50の外周面50c及び内周面50dにもそれぞれ開口している。これらの開口を通じてポケット51内の玉4は主部50から外周側にはみ出して外輪軌道面20aに嵌り込むとともに、同様に主部50から内周側にもはみ出して内輪軌道面30aに嵌り込んでいる。
【0025】
また主部50は、玉4同士の間に配置される複数の柱部53を備えている。柱部53は、主部50のうちポケット51同士の間の部位であり、この柱部53同士の間のスペースとして上記のポケット51が形成されている。柱部53の軸方向一端50aにはスリット52が設けられている。スリット52は、柱部53の周方向中央部において軸方向一端50aから軸方向他端50b側に向けて凹むように形成されており、主部50の径方向の厚み全体に亘って外周面50cから内周面50dまで延びている。スリット52の底面は、軸方向に直交する平面をなし、各玉4の中心の位置よりも軸方向一端50a側に位置する。このスリット52の存在により、柱部53の軸方向一端50aには、一対の爪部53aがスリット52の周方向両側に形成され、爪部53aはスリット52の底面よりも軸方向一端50a側に突出する。ポケット51の端部開口部51aは、隣接する柱部53のそれぞれの爪部53a同士の間の隙間として形成されている。
【0026】
前述の通り端部開口部51aの周方向の幅(すなわち、ポケット51を挟んで位置する爪部53a同士の間隔)は玉4の直径よりも小さくされている。従って、玉軸受1の組立時には、爪部53aが弾性変形し端部開口部51aが押し拡げられるようにして、当該端部開口部51aを通じて軸方向一端50a側から玉4がポケット51内に挿入される。
【0027】
なお、本実施形態の玉軸受1においては、軸方向から見て、例えば、ポケット51のピッチ円(各ポケット内面51sをなす球面の各中心を通る円)が、主部50の外周面50cと内周面50dとの周方向中心の位置を通過していてもよい。すなわちポケット51のピッチ円が主部50の径方向厚みを二等分する位置を通過していてもよい。この場合、玉4は、主部50から外周側及び内周側にそれぞれ同じはみ出し量ではみ出す。また、例えば、主部50の外周面50cと外輪2の内周面20との間の径方向の距離が、主部50の内周面50dと内輪3の外周面30との間の径方向の距離に等しいものであってもよい。すなわち、主部50は、外輪2の内周面20と、内輪3の外周面30と、から等距離離れて位置していてもよい。
【0028】
保持器5は、主部50の軸方向他端50bに設けられた内周側リブ55を備えている。内周側リブ55は、主部50と一体的に成形された部位である。内周側リブ55は、内輪軌道面30aとシール6Qとの間の軸方向位置において、主部50の内周面50dから内周側に張出すように設けられ、周方向全周に亘って延びる断面矩形の凸条をなしている。内周側リブ55は、内輪3の外周面30との間に僅かに隙間をあけて径方向に対面している。内周側リブ55の軸方向一端50a側の面55aは、軸方向に直交する平面をなす。また、この面55aは、ポケット内面51s上で最も軸方向他端50bに近い点よりも軸方向他端50b側に位置する。内周側リブ55の軸方向他端50b側の面55bは、軸方向に直交する平面をなし、主部50の軸方向他端50bの端面と面一に形成されている。
【0029】
更に保持器5は、特に図4(a)及び図5(a)に示されるように、各ポケット51の底部に位置するポケット溝57を備えている。ここでポケット51の底部とは、ポケット51のうち軸方向他端50bに近い部分をいう。本実施形態のポケット溝57は、ポケット内面51sのうち最も軸方向他端50bに近い位置に設けられている。すなわち、ポケット溝57はポケット51の周方向中心の位置に設けられている。ポケット溝57は、軸方向を溝の深さ方向としてポケット内面51sから軸方向他端50b側に掘り下げられるように形成されている。
【0030】
ポケット溝57は、断面矩形で主部50の内周面50dから径方向外側に向かって延び、主部50の外周面50cに達しない位置まで延びている。ポケット溝57は内周面50d上に一端を開口させており、すなわち、ポケット溝57の内周側の端部は内周面50d上に開口57dとして現れている。また、ポケット溝57の外周側の端部は軸方向から見てポケット51内に位置している。ポケット溝57の外周側の端部は、例えばポケット51のピッチ円よりも内周側に位置していてもよい。また、ポケット溝57の外周側の端部は、例えば主部50の外周面50cよりも内周面50dに近い位置に位置してもよい。ポケット溝57の外周側の端部に形成される突当り面57aは、例えば軸方向に平行な平面をなしており、ポケット内面51sに交差している。また、ポケット溝57の底面57bは、内周側リブ55の軸方向一端50a側の面55aと面一に形成されている。すなわち、ポケット溝57の底面57bは、内周側リブ55の面55aに対し、主部50の内周面50dの位置で段差なく繋がっている。
【0031】
以上説明した本実施形態の玉軸受1による作用効果について説明する。この種の玉軸受が回転するときには、潤滑剤が外輪軌道面20aや内輪軌道面30aから掻き出されて潤滑不足になる虞がある。潤滑不足が発生すると、玉4と外輪軌道面20a、玉4と内輪軌道面30a、玉4とポケット内面51s、が油膜を介さずに直接接触することにより部品を傷める可能性もある。特に、玉軸受1が高速回転の用途で使用される場合には、遠心力により潤滑剤が外輪側に移動し易くなるので、潤滑不足の虞は高まる。
【0032】
これに対して、玉軸受1の保持器5は、前述した内周側リブ55とポケット溝57とを備えている。内周側リブ55は、内輪軌道面30aとシール6Qとの間に位置し、内輪3の外周面30と保持器5とのクリアランスを減少させている。このような内周側リブ55の存在により、内輪軌道面30a近傍の潤滑剤が上記クリアランスを通じてシール6Q側に漏出することが抑制される。従って潤滑剤の枯渇を抑制することができる。
【0033】
また、内周側リブ55に加えて更にポケット溝57が存在することにより、図5(a)に矢印Fで示されるような潤滑剤の流動路が形成される。すなわち、内周側リブ55の面55a上の潤滑剤が、遠心力により開口57dを通じてポケット溝57内に流れ込み、ポケット溝57内を外周側に向けて移動し、突当り面57aに突き当たってポケット溝57から溢れ、ポケット内面51sに供給される、といった潤滑剤の流動が発生する。従って、ポケット51内に潤滑剤が安定して供給され、ポケット51における潤滑性が向上する。ひいては、玉4と外輪軌道面20a、玉4と内輪軌道面30a、玉4とポケット内面51s、の接触部に対して潤滑剤が供給されるので、玉軸受1における潤滑不足が抑制される。
【0034】
また、ポケット溝57の底面57bが、内周側リブ55の面55aと面一に形成されているので、内周側リブ55の面55aからポケット溝57への潤滑剤の流動が円滑になり、その結果、上記の作用効果が効率よく得られる。
【0035】
なお、ポケット溝57の底面57bと、内周側リブ55の面55aと、が面一であることは必須ではなく、両者の間には段差があってもよい。すなわち、主部50の内周面50d上にポケット溝57の端部の開口57dが現れていれば、面55a上から段差を越えて開口57dを通じてポケット溝57内に潤滑剤が流れ込む。
【0036】
また、保持器5には、1つのポケット51に対し上記のようなポケット溝57が複数設けられてもよい。また、ポケット溝57は、必ずしも径方向に延在する必要はなく、例えば径方向成分を含む方向に延在していればよい。すなわち、径方向に対し傾斜する方向にポケット溝57が延びていてもよい。また、ポケット溝57は、直線的に延在する必要もなく、主部50の内周面50d上に一端が開口し、主部50の外周面50cに達しない範囲に延在するものであればよい。例えば、図5(b)に示されるように、ポケット溝57の外周側の部分がY字状に分岐し、突き当たり面57aが複数(図の例では2つ)存在してもよい。また、図5(b)に示されるポケット溝57によれば、当該ポケット溝57の外周側の分岐した部分で周方向両側に広がるように潤滑剤が流れるので、ポケット51内に満遍なく潤滑剤が配分される。
【0037】
〔第2実施形態〕
第2実施形態に係る玉軸受について説明する。本実施形態の玉軸受1Bは、玉軸受1における保持器5(図3及び図4)に代えて図6及び図7に示される保持器105を備えるものである。図6は保持器105の斜視図である。図7(a)は、保持器105のポケット51の中心の断面を模式的に示す断面図であり、図7(b)は、保持器105の柱部53の中心の断面を模式的に示す断面図である。本実施形態の玉軸受1Bの断面図は、図2における保持器5の断面を図7(a)の保持器105の断面に単に差替えたものとして示されるので、その図示を省略する。
【0038】
保持器105は、保持器5が備える構成要素に加えて更に、外周側リブ61と、柱部溝63と、を備えている。外周側リブ61は、主部50の軸方向他端50bに設けられている。外周側リブ61は、主部50と一体的に成形された部位である。外周側リブ61は、外輪軌道面20aとシール6Qとの間の軸方向位置において、主部50の外周面50cから外周側に張出すように設けられ、周方向全周に亘って延びる断面矩形の凸条をなしている。外周側リブ61は、外輪2の内周面20との間に僅かに隙間をあけて位置している。外周側リブ61の軸方向一端50a側の面61aは、軸方向に直交する平面をなす。また、この面61aは、ポケット内面51s上で最も軸方向他端50bに近い点よりも軸方向他端50b側に位置する。外周側リブ61の軸方向他端50b側の面61bは、軸方向に直交する平面をなし、主部50の軸方向他端50bの端面と面一に形成されている。
【0039】
主部50の外周面50cからの外周側リブ61の張出し量は、例えば内周面50dからの内周側リブ55の張出し量と同程度である。また、外周側リブ61の軸方向の厚みは、例えば内周側リブ55の軸方向の厚みと同程度である。また、外周側リブ61と外輪2の内周面20との径方向の隙間の大きさは、例えば内周側リブ55と内輪3の外周面30との径方向の隙間の大きさと同程度である。
【0040】
柱部溝63は、柱部53に設けられ、内輪3の外周面30及び内輪軌道面30aに対し径方向に対面している。柱部溝63は、柱部53の周方向中央部において、径方向を溝の深さ方向として主部50の内周面50dから外周側に向けて凹むように形成されている。柱部溝63はスリット52の周方向のほぼ幅一杯に亘って存在している。すなわち、柱部溝63は軸方向から見て柱部53の一対の爪部53a同士の間に挟まれるように位置している。柱部溝63の深さは主部50の径方向の厚みの概ね半分程度である。
【0041】
柱部溝63は断面矩形でスリット52の底面から内周側リブ55の軸方向一端50a側の面55aまで、軸方向に延びている。柱部溝63の軸方向一端50a側の端部はスリット52の底面に現れており、すなわち、柱部溝63はスリット52の底面上で一端を開口させている。柱部溝63の軸方向他端50b側の端部は内周側リブ55の面55a上に位置している。すなわち、この柱部溝63の存在により、内周側リブ55の面55aが、柱部溝63の断面の分だけ柱部53内に凸形状で入り込むように拡大された状態となる。
【0042】
以上説明した本実施形態の玉軸受1Bによる作用効果について説明する。この玉軸受1Bの保持器105は、前述した外周側リブ61と柱部溝63とを備えている。外周側リブ61は、外輪軌道面20aとシール6Qとの間に位置し、外輪2の内周面20と保持器5とのクリアランスを減少させている。このような外周側リブ61の存在により、外輪軌道面20a近傍の潤滑剤が上記クリアランスを通じてシール6Q側に漏出することが抑制される。従って潤滑剤の枯渇を抑制することができる。
【0043】
また柱部溝63は、潤滑剤を一時的に保持する潤滑剤保持溝として機能し、内輪3の外周面30及び内輪軌道面30aに対し径方向に対面している。従って、保持器105と内輪3との間に存在する潤滑剤が比較的多くなる。そして、内輪軌道面30aには柱部溝63からの潤滑剤が供給され易く、従って、内輪軌道面30aと玉4との潤滑不足が抑制される。この種の玉軸受においては、遠心力により外周側に潤滑剤が移動する傾向にあるので、内輪軌道面30a側での潤滑不足が最も懸念されるところ、上記のように内輪軌道面30aと玉4との潤滑性が向上することにより、玉軸受1Bの全体としての潤滑不足が抑制される。
【0044】
また、柱部溝63の軸方向他端50b側の端部が内周側リブ55の面55a上に位置しているので、柱部溝63に溜められた潤滑剤が内周側リブ55の面55aに移動し易く、その後、前述のような図5(a)の矢印Fで示される流動路を経てポケット51内供給されることも期待できる。また、柱部溝63は、主部50の中でも比較的大きい部位である柱部53に設けられているので、柱部溝63を大きくし易く、潤滑剤の保持量を大きくし易い。
【0045】
また例えば、本実施形態の玉軸受1Bが、回転及び停止を繰り返す用途で使用される場合、回転時には遠心力により内輪軌道面30a側から柱部溝63内への潤滑剤の移動が発生し、停止時には柱部溝63から内輪軌道面30aへの潤滑剤の移動が発生すると考えられる。従って、特に、本実施形態の玉軸受1Bが回転及び停止を繰り返す用途で使用される場合には、内輪軌道面30aと玉4との潤滑不足が抑制される。
【0046】
〔第3実施形態〕
第3実施形態に係る玉軸受について説明する。本実施形態の玉軸受1Cは、玉軸受1における保持器5(図3及び図4)に代えて図8及び図9に示される保持器115を備えるものである。図8は保持器115の斜視図である。図9(a)は、保持器115のポケット51の中心の断面を模式的に示す断面図であり、図9(b)は、保持器115の柱部53の中心の断面を模式的に示す断面図である。本実施形態の玉軸受1Cの断面図は、図2における保持器5の断面を図9(a)の保持器115の断面に単に差替えたものとして示されるので、その図示を省略する。
【0047】
保持器115は、第2実施形態の保持器105(図6及び図7)が備える構成要素に加えて更に、外周突起部71を備えている。外周突起部71は、主部50と一体的に成形された部位である。外周突起部71は、柱部53の周方向中央部において主部50の外周面50cから外周側に向けて突出するように形成されている。また、外周面50cからの外周側への外周突起部71の突出量は、外周面50cからの外周側リブ61の張出し量に等しい。外周突起部71の内周側の端部は、概ねスリット52の周方向幅一杯の幅で、柱部53に一体的に連結されている。
【0048】
また、外周突起部71は、スリット52の底面の位置から外周側リブ61の軸方向一端50a側の面61aの位置まで軸方向に延在している。外周突起部71の軸方向一端50a側の端面は、スリット52の底面と面一に接続されている。外周突起部71の軸方向他端50b側の端部は、外周側リブ61の軸方向一端50a側の面61aに到達しており、外周突起部71と外周側リブ61とが一体的に連結されている。外周突起部71の外周側の端面71aは、主部50の外周面50cと同心の円柱面をなしており、外周側リブ61の外周縁に段差なく接続されている。また、外周突起部71の外周側の端面71aは、外輪2の内周面20及び外輪軌道面20aに対し径方向に対面している。外周突起部71と外輪2の内周面20とのクリアランスは、外周側リブ61と当該内周面20とのクリアランスと同じである。
【0049】
軸方向から見た外周突起部71は、外周側にいくほど周方向幅が拡がるような形状をなしている。そして、周方向における外周突起部71の両端面71b,71bは、径方向に平行ではなく、それぞれ周方向よりも内周側に向くように傾斜している。すなわち、外周突起部71の両端面71b,71bは、それぞれ直近のポケット51,51側に向くように径方向に対し傾斜している。なお、このような端面71bの傾斜の度合いは特に限定されないが、外周突起部71が玉4に干渉しない範囲で決定されればよい。また、端面71bは、直近のポケット内面51sと同心の球面に沿ったものであってもよい。
【0050】
以上説明した本実施形態の玉軸受1Cによる作用効果について説明する。この玉軸受1Cの保持器115は、前述した外周突起部71を備えている。玉軸受1Cの回転時においては、主部50の外周面50cと外輪2との間に存在する潤滑剤が、外周突起部71によってかき取られ、ポケット51側に供給される。従って、ポケット51内に潤滑剤が安定して供給され、ポケット51内における潤滑性が向上する。ひいては、玉4と外輪軌道面20a、玉4と内輪軌道面30a、玉4とポケット内面51s、の接触部に対して潤滑剤が供給されるので、玉軸受1Cにおける潤滑不足が抑制される。
【0051】
また、保持器115には外周突起部71とともに外周側リブ61が設けられている。従って、前述のように外周側リブ61によってシール6Q側への移動が阻止された潤滑剤が、外周突起部71によりかき取られ効率的にポケット51側に送られる。また、外周突起部71の周方向の端面71bがポケット51側に向くように傾斜しているので、この端面71bでかき取られた潤滑剤がポケット51に向けて移動し易い。従って、玉軸受1Cにおける潤滑不足がより効率的に抑制される。
【0052】
〔第4実施形態〕
第4実施形態に係る玉軸受について説明する。本実施形態の玉軸受1Dは、玉軸受1における保持器5(図3及び図4)に代えて図10及び図11に示される一体化保持器125を備えるものである。図10は一体化保持器125の分解斜視図である。図11(a)は、一体化保持器125のポケット51の中心の断面を模式的に示す断面図であり、図11(b)は、一体化保持器125の柱部53の中心の断面を模式的に示す断面図である。本実施形態の玉軸受1Dの断面図は、図2における保持器5の断面を図11(a)の一体化保持器125の断面に単に差替えたものとして示されるので、その図示を省略する。
【0053】
一体化保持器125は、各玉4の中心を通り軸方向に直交する仮想平面Jに対して面対称な形状をなしている。一体化保持器125は、上記仮想平面J上で接合された第1保持器121と第2保持器122とが一体化されてなるものである。第1保持器121は、第3実施形態における保持器115(図8及び図9)から、仮想平面Jを境にして軸方向一端50a側の部分を切除した形状をなす。第2保持器122は仮想平面Jに対して第1保持器121と面対称な構成をなしている。
【0054】
第1保持器121の幾つかの柱部53の第2保持器122側の端面には円形の穴81が形成されており、これに対応し、第2保持器122の柱部53の端面には穴81に嵌め込まれる円柱状のボス82が形成されている。そして、ボス82が穴81に嵌め込まれるようにして第1保持器121と第2保持器122とが接合され、第1保持器121と第2保持器122との互いのポケット51同士の間に玉4が転動自在に保持されている。なお、一体化保持器125に存在する穴81及びボス82の組の数は例えば2~4組である。
【0055】
以上説明した本実施形態の玉軸受1Dによる作用効果について説明する。この玉軸受1Dの一体化保持器125の第1保持器121は、保持器115(図8及び図9)と同様に、内周側リブ55と、ポケット溝57と、外周側リブ61と、柱部溝63と、外周突起部71と、を備えている。従って、この玉軸受1Dにおいて、仮想平面Jよりも第1保持器121側の領域では、第1保持器121によって保持器115と同様の作用効果が得られる。更に、この玉軸受1Dは第1保持器121と面対称な構成をなす第2保持器122を備えているので、仮想平面Jよりも第2保持器122側の領域においても保持器115と同様の作用効果が得られる。このように、第1保持器121及び第2保持器122の両方においてそれぞれ保持器115と同様の作用効果が得られるので、玉軸受1Dにおける潤滑不足がより効率的に抑制される。
【0056】
特に、第1保持器121の内周側リブ55及び外周側リブ61によって、シール6Q側(図2)への潤滑剤の漏出が抑制され、第2保持器122の内周側リブ55及び外周側リブ61によって、シール6P側(図2)への潤滑剤の漏出も更に抑制される。従って、第1保持器121の内周側リブ55及び外周側リブ61と、第2保持器122の内周側リブ55及び外周側リブ61と、で軸方向に挟まれた領域内に潤滑剤が維持され易い。よって、潤滑剤の枯渇が更に効率よく抑制される。
【0057】
なお、本実施形態では、一体化保持器125の第1保持器121と第2保持器122とがそれぞれ、保持器115(図8及び図9)と同様の構成を備えるものとして説明したが、第1保持器121と第2保持器122とがそれぞれ、保持器5(図2図5)と同様の構成を備えるものであってもよく、保持器105(図6及び図7)と同様の構成を備えるものであってもよい。この場合においても、それぞれを単独の保持器5,105と比較すれば、第1保持器121による作用効果に加えて、第2保持器122による同様の作用効果が更に得られるので、玉軸受1Dにおける潤滑不足がより効率的に抑制される。
【0058】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0059】
例えば、本発明の玉軸受の保持器は、上述の実施形態のものには限定されず、前述の内周側リブ55及びポケット溝57を備えた上で、外周側リブ61と、柱部溝63と、外周突起部71と、の3つの構成要素のうちの少なくとも1つを備えるものであってもよい。また、このような保持器の構成要素を備える第1保持器121及び第2保持器122によって、本発明の玉軸受の一体化保持器が構成されてもよい。
【0060】
また、上述の第1~第4実施形態では本発明を深溝玉軸受に適用する場合を説明したが、これには限定されず、本発明は、4点接触玉軸受にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1,1B,1C,1D…玉軸受、2…外輪、3…内輪、4…玉、5、105、115…保持器、20a…外輪軌道面、30a…内輪軌道面、50…主部、50a…軸方向一端、50b…軸方向他端、50c…外周面、50d…内周面、51…ポケット、51s…ポケット内面、53…柱部、55…内周側リブ、57…ポケット溝、57d…開口、61…外周側リブ、63…柱部溝、71…外周突起部、121…第1保持器(保持器)、122…第2保持器(第2の保持器)、125…一体化保持器、J…仮想平面。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11