(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149812
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
B29C 55/12 20060101AFI20231005BHJP
C08L 27/08 20060101ALI20231005BHJP
C08F 214/08 20060101ALI20231005BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B29C55/12
C08L27/08
C08F214/08
C08J5/18 CEV
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058577
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】押村 亜沙美
(72)【発明者】
【氏名】広崎 真司
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA25
4F071AF20Y
4F071AH04
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F210AA14
4F210AG01
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4F210AR20
4F210QA02
4F210QC07
4F210QG01
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4F210QL16
4F210QW36
4J002BD101
4J002GG02
4J100AC03Q
4J100AC04P
4J100CA04
4J100JA59
(57)【要約】
【課題】本発明は、破れにくさと手触り感とを両立できるラップフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニリデン系樹脂を含有し、前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン由来の構成単位を72質量%~93質量%含有し、反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズが10.0nm以上16.0nm以下である、ラップフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂を含有し、
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン由来の構成単位を72質量%~93質量%含有し、
反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズが10.0nm以上16.0nm以下である、ラップフィルム。
【請求項2】
偏光ラマンを測定した際に下記式(1)で算出される分子鎖配向性比が0.6を超えて2.5以下である、請求項1に記載のラップフィルム;
分子鎖配向性比=TD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(C値)/MD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(A値)・・・(1)。
【請求項3】
MD方向の引張弾性率が500MPa以上600MPa未満である、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項4】
厚みが6μm以上18μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂から形成されるラップフィルムは、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性(防湿性)及び透明性に優れ、更に電子レンジ加熱が可能であることから、鮮魚、生肉、加工肉、新鮮野菜、惣菜類等の包装に、酸素遮断、防湿等の目的で広く利用されている。
【0003】
ラップフィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂としては、フィルムの押出加工性、結晶性、透明性、軟化温度等の観点から、通常、塩化ビニリデンと、塩化ビニルなど塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体とを共重合させて得られる塩化ビニリデン共重合体が使用されている。
【0004】
近年、特性を改良した様々なラップフィルムが提案されている。例えば、特許文献1には、カーボンオフセット性を有するとともに、化石燃料由来の樹脂からなる組成物と遜色がないガスバリア性、成形加工性及び優れた包装性能を実現できる塩化ビニリデン共重合体組成物、並びに、熱収縮性フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、内容物のはいった容器の表面に、ラップフィルムを密着させ、電子レンジなどで加熱調理することは一般に行われていることである。その際、ラップフィルムの強度が十分でないと、加熱調理後にラップフィルムを剥がそうとした際に、ラップフィルムの裂けが生じ、内容物の蒸気が噴出し、トラブルとなったり、ラップフィルムに破片が食品に混入し問題となることもある。
また、破れにくいラップフィルムは、固いことが多く、適度に柔らかい手触り感を実現することが困難である。
特許文献1に記載のフィルムは、破れにくさと手触り感との両立の点については検討されておらず、改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、破れにくさと手触り感とを両立できるラップフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、該塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン由来の構成単位を72質量%~93質量%含有し、反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズが10.0nm以上16.0nm以下である、ラップフィルムとすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]
塩化ビニリデン系樹脂を含有し、
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン由来の構成単位を72質量%~93質量%含有し、
反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズが10.0nm以上16.0nm以下である、ラップフィルム。
[2]
偏光ラマンを測定した際に下記式(1)で算出される分子鎖配向性比が0.6を超えて2.5以下である、[1]に記載のラップフィルム;
分子鎖配向性比=TD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(C値)/MD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(A値)・・・(1)。
[3]
MD方向の引張弾性率が500MPa以上600MPa未満である、[1]又は[2]に記載のラップフィルム。
[4]
厚みが6μm以上18μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、破れにくさと手触り感とを両立したラップフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のラップフィルムの製造工程の一例の概略図である。
【
図2】ラップフィルムを収容したラップフィルム収容体の一例の概略図である。
【
図3】ラップフィルムを引き出した際の、サンプリング位置の一例の概略図である。
【
図4】スライドガラス上に測定サンプルを設置した際の一例の概略図である。
【
図6】スライドガラス上に測定サンプルを設置し、回転させた際の一例の概略図である。
【
図7】ポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルムの結晶部及び非晶部の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0014】
〔ラップフィルム〕
本実施形態のラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン由来の構成単位を72質量%~93質量%含有し、反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズが10.0nm以上16.0nm以下である。本実施形態のラップフィルムは、このような特徴を有することにより、破れにくさと手触り感とを両立することができる。
【0015】
(塩化ビニリデン系樹脂)
塩化ビニリデン系樹脂としては、塩化ビニリデン繰り返し単位を含むものであれば特に限定されず、例えば、塩化ビニリデン繰り返し単位と重合可能な単量体繰り返し単位とを含む塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0016】
塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル;メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸;アクリロニトリル;酢酸ビニル等が挙げられる。これら単量体は一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このなかでも、塩化ビニルがより好ましい。
【0017】
塩化ビニリデン系樹脂が共重合樹脂である場合、塩化ビニリデン由来の構成単位の比率は、72質量%~93質量%であり、81質量%~90質量%であることが好ましい。塩化ビニリデン由来の構成単位の比率が72質量%以上である場合、塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が低くフィルムが軟らかくなるため、冬場等の低温環境下での使用時にもフィルムの裂けを低減できる傾向にある。一方、塩化ビニリデン由来の構成単位の比率が93質量%以下である場合、結晶性の大幅な上昇を抑制し、フィルム延伸時の成形加工性の悪化を抑制できる傾向にある。
【0018】
塩化ビニリデン由来の構成単位及び塩化ビニル由来の構成単位の含有量は、特に限定されないが、例えば、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置を用いて測定する(積算回数:512回)。ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、5質量%を重水素化テトラヒドロフランに溶解させた溶液を、測定雰囲気23±2℃、50±10%RHにて1H-NMR測定する。
例えば、塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH2-CCl2-)をA、塩化ビニル由来の構成単位(-CH2-CHCl-)をBと表記し、スペクトル上に得られたシグナル1、2、及び3を以下の通り帰属する。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)をBのCHシグナル(塩化ビニル由来の構成単位のメチン(CH)基)に帰属する。
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)をAAの片方のAのCH2シグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH2)基)に帰属する。
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)をAB及びBA両方のAのCH2シグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH2)基)に帰属する。
【0019】
これらのシグナルのスペクトル面積値(NMRスペクトルにおけるシグナルの面積)から、構成単位のモル分率を求めた。なお、各モル分率を以下の通り表記する。
・Aのモル分率(モル%):P(A)
・Bのモル分率(モル%):P(B)
【0020】
上記の通り帰属したシグナル1、2、及び3の面積値(NMRスペクトルにおけるピークの面積)から、上記スペクトル上のシグナルの積分値を以下の通りに割り当てる。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)の積分値をBの1H1個分
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)の積分値をAの1H2個分
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)の積分値をAの1H4個分
【0021】
下記の式が成り立つのを用いて、各モル分率を計算する。
・P(A) + P(B) = 100
【0022】
P(A)及びP(B)を次式により求める。
・P(B):P(A) =シグナル1の積分値:(シグナル2の積分値+シグナル3の積分値/2)/2
・P(A)=100-P(B)
【0023】
塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH2-CCl2-)であるAの分子量を97.0とし、塩化ビニル由来の構成単位(-CH2-CHCl-)であるBの分子量を62.5として、下記の式が成り立つのを用いて、各質量分率を計算する。なお、各質量分率を以下の通り表記する。
・Aの質量分率(質量%):Q(A)
・Bの質量分率(質量%):Q(B)
・Q(A) =
(P(A) × 97.0) /
(P(A) × 97.0 + P(B) × 62.5 ) × 100
・Q(B) = 100 - Q(A)
【0024】
塩化ビニリデン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは80,000~200,000であり、より好ましくは90,000~180,000であり、さらに好ましくは100,000~170,000である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることにより、ラップフィルムの機械強度がより向上する傾向にある。重量平均分子量が上記範囲内である塩化ビニリデン系樹脂は、例えば、塩化ビニリデンモノマー及び塩化ビニルモノマーの仕込み比率や、重合開始剤の量、又は重合温度を制御することにより得ることができる。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0025】
塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは77~94質量%であり、より好ましくは85~94質量%である。塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、添加剤等による可塑化効果によって、溶融押し出しのシェアが小さくなるため異物の発生がより抑制される傾向にある。また、塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、フィルムが伸びやすくなるのを抑制でき、フィルムのカット性が一層向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、試料0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解し、メタノール約30mLを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、乾燥し、重量測定して得ることができる。
【0026】
(添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。なお、クエン酸エステルが取り扱い性の点から好ましく、特にアセチルクエン酸トリブチルが好ましい。
【0027】
(クエン酸エステル)
クエン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(以下「ATBC」とも記す)、アセチルクエン酸トリ-n-(2-エチルヘキシル)などが挙げられる。
【0028】
これらのなかでも、アセチルクエン酸トリブチルが好ましい。このようなクエン酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上する傾向にある。また、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。
【0029】
クエン酸エステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは2.0質量%~8.0質量%であり、より好ましくは3.0質量%~7.0質量%であり、さらに好ましくは3.0質量%~5.5質量%であり、特に好ましくは3.5質量%~5.5質量%である。クエン酸エステルの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。また、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。クエン酸エステルの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5℃~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0030】
(二塩基酸エステル)
二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル;アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル;セバシン酸ジブチル(以下「DBS」とも記す)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステルが挙げられる。
【0031】
これらのなかでも、脂肪族二塩基酸エステルが好ましく、セバシン酸ジブチルがより好ましい。このような二塩基酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上する傾向にある。また、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。
【0032】
二塩基酸エステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3.0質量%~8.0質量%であり、より好ましくは3.0質量%~7.0質量%であり、さらに好ましくは3.0質量%~5.5質量%であり、特に好ましくは3.5質量%~5.5質量%である。二塩基酸エステルの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。また、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。クエン酸エステル及び二塩基酸エステルの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5℃~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0033】
(アセチル化脂肪酸グリセライド)
アセチル化脂肪酸グリセライドとしては、特に制限されないが、例えば、アセチル化カプリル酸グリセライド、アセチル化カプリン酸グリセライド、アセチル化ラウリン酸グリセライド、アセチル化ミリスチン酸グリセライド、アセチル化パーム核油グリセライド、アセチル化ヤシ油グリセライド、アセチル化ヒマシ油グリセライド、アセチル化硬化ヒマシ油グリセライドが挙げられる。
【0034】
上記アセチル化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸のアセチル化モノグリセライド、脂肪酸のアセチル化ジグリセライド、脂肪酸のアセチル化トリグリセライドのいずれであってもよい。例えば、上記アセチル化ラウリン酸グリセライドには、ラウリン酸のアセチル化モノグリセライド、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライド(DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール)、ラウリン酸のアセチル化トリグリセライドが含まれる。このなかでも、アセチル化ラウリン酸グリセライドが好ましく、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライドがより好ましい。このような、アセチル化脂肪酸グリセライドを用いることにより、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。
【0035】
アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは2.0~8.0質量%であり、より好ましくは2.5~7.0質量%であり、さらに好ましくは3.0~6.0質量%である。アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。また、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5℃~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0036】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の合計含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3.0質量%~8.0質量%であり、より好ましくは3.5質量%~7.0質量%であり、さらに好ましくは4.0質量%~6.6質量%である。上記化合物の合計含有量が3.0質量%以上であることにより、溶融押し出しのシェアを小さくすることができ、組成物がスムーズに押出機を通過することにより、塩化ビニリデン系樹脂の熱分解が抑制される。そのため、切れ傷の発生頻度が少なくなり、裂けトラブルが抑制される。また、上記化合物の合計含有量が8.0質量%以下であることにより、フィルムの弾性率が適度に大きくなる。そのため、カット性がより向上する。
【0037】
(エポキシ化植物油)
本実施形態のラップフィルムは、エポキシ化植物油を含有してもよい。エポキシ化植物油は、塩化ビニリデン系樹脂押出加工用安定剤として作用し得る。エポキシ化植物油としては、特に限定されないが、一般的に、食用油脂をエポキシ化して製造されるものが挙げられる。具体的には、エポキシ化植物油は、例えば、エポキシ化大豆油(以下「ESO」とも記す)、エポキシ化アマニ油が挙げられる。これらのなかでも、エポキシ化大豆油が好ましい。このようなエポキシ化植物油を用いることにより、ラップフィルムの色調変化がより抑制され、化粧箱からのフィルムの引出性もより向上する傾向にある。
【0038】
本実施形態におけるエポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは0.5~3.0質量%であり、より好ましくは1.0~2.0質量%である。エポキシ化植物油の含有量が0.5質量%以上であることにより、ラップフィルムの品質変化がより抑制される傾向にある。また、エポキシ化植物油の含有量が3.0質量%以下であることにより、ラップフィルムの色調変化がより抑制され、ブリードによるべたつきが抑制される傾向にある。
【0039】
前記エポキシ化植物油含有量のNMRを使用した測定方法は下記の手順に従う。
サンプルを50mg秤量し、重溶媒(溶媒:重水素化THF、内部標準:テレフタル酸ジメチル、容量:0.7mL)に溶かし、400MHzプロトンNMR(積算回数:512回)測定し、8.05~8.11ppmの積分値に対する2.23~2.33ppmの積分値の比を積分比とし、絶対検量線法で定量値を計算することで、得ることができる。
積分比 = 積分値(2.23~2.33ppm)/積分値(8.05~8.11ppm)
【0040】
(その他の添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、上記以外の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、上記以外の可塑剤、上記以外の安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)等のポリマー等が挙げられる。
【0041】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライド以外の可塑剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン、グリセリンエステル、ワックス、流動パラフィン、及びリン酸エステル等が挙げられる。可塑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0042】
エポキシ化植物油以外の安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、2,5-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)ブロピオネート、及び4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等の酸化防止剤;ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2-エチル-ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤が挙げられる。安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0043】
耐候性向上剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、及び2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。耐候性向上剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0044】
染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。着色剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0045】
防曇剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。防曇剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0046】
抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。抗菌剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0047】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。滑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0048】
核剤としては、特に限定されないが、具体的には、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。核剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0049】
その他の添加剤の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。また、その他の添加剤の含有量の下限は、特に限定されないが、ラップフィルムの総量に対して、0質量%以上である。
【0050】
(ラップフィルムの厚み)
本実施形態のラップフィルムの厚みは、好ましくは6.0μm以上18.0μm以下であり、より好ましくは6.0μm以上15.0μm以下であり、さらに好ましくは6.0μm以上12.0μm以下である。ラップフィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する。
【0051】
より具体的には、厚みが6.0μm以上であることにより、ラップフィルムのTD方向及びMD方向における引張強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される傾向にある。また、厚みが6.0μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない傾向にある。そのため、巻回体からラップフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からラップフィルムが裂けるトラブルがより抑制される。
【0052】
一方、厚みが18.0μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でラップフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する傾向にある。また、厚みが18.0μm以下であることにより、ラップフィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する傾向にある。
【0053】
<XRD測定>
本実施形態のラップフィルムは、反射型広角X線測定(以下「XRD測定」とも記す)により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズが10.0nm以上16.0nm以下である。
【0054】
ここで、XRD測定とは、試料にX線を照射した際、X線が原子の周りにある電子によって散乱、干渉した結果、起こる回折を解析することを測定原理としている。この回折情報を用いることにより、結晶化度、結晶子サイズ等を知ることができる。
図7にPVDCフィルムの結晶部(26)及び非晶部(27)の概略図に示す。このとき、結晶子サイズは(28)部分の長さを指す。
【0055】
原子が規則正しく配列している物質に、原子の間隔と同程度の波長(0.5Å~3Å)を持つX線が入射すると、各原子に所属する電子によりX線が散乱される。散乱したX線は互いに干渉し合い、特定の方向で強めあう。ブラッグの式によれば、dを格子間距離、θをブラッグ角、λをX線の波長とした時に、2d・sinθ=nλ を満たす方向でのみこの回折X線が観測される。
同一サンプル内で3回測定を行い、算術平均し得られた値を結晶子サイズとする。
【0056】
本実施形態において、結晶子サイズは、以下の装置、条件でXRD測定をして求める。
装置:(株)リガク製 Ultima-IV
X線源:Cu管球
励起電圧:電圧40kV、電流40mA
検出器:D/teX Ultra
測定方法:θ/2θ法
スリット:DS=1/2°、SS=解放、縦スリット=10mm
走査範囲:5deg~60deg
走査ステップ:0.02deg
サンプル回転速度:50rpm
走査速度:4deg/min
測定は室温で行い、Igorでピーク分離を行い解析した。
【0057】
結晶回折ピーク幅は光学系、結晶子サイズ、結晶の乱れによって決定される。光学系が同一の場合、結晶回折ピークを比較することで、結晶子サイズ及び/又は結晶の乱れを比較することができる。結晶の乱れが無いと仮定すると式(1)に示すシェラーの式より、結晶回折ピーク幅βから結晶子サイズDを求めることができる。
【数1】
K:シェラー定数(結晶子の形状などに依存する定数。今回はK=0.900を使用)
λ:X線波長
β:ピークの半価全幅[rad]
b:入射ビームの広がりの半価全幅[rad]
【0058】
得られたX線(XRD)プロファイルをPVDC結晶(100)面由来ピークと非晶ピークとに分離し、結晶由来ピークの幅から結晶子サイズを計算する。結晶由来ピーク、非晶ピークはそれぞれGauss関数で近似する。PVDCフィルムのピーク分離条件は以下の通りとする。
フィッティング範囲:10 deg<2θ<20 deg
フィッティング関数:Gauss関数 + バックグラウンド(定数)
【数2】
A
i、2θ
i、w
i:順に、i番目のピークの強度、位置、幅
C:定数
非晶ピーク(位置固定・幅固定):
ピーク位置2θ=15.6 deg
ピーク幅w=1.0 deg
結晶ピーク(位置フリー・幅フリー)
【0059】
本実施形態のラップフィルムは、反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた結晶子サイズ(以下、単に「結晶子サイズ」とも記す)が10.0nm以上16.0nm以下である。結晶子サイズが10.0nm以上であると、フィルム強度が良好となり好ましい。一方、結晶子サイズが16.0nm以下であると、透明度が良好となり好ましい。結晶子サイズの上限は16.0nm以下であることが好ましく、15.0nm以下であることがより好ましく、13.0nm以下であることがさらに好ましい。また結晶子サイズの下限は10.0nm以上であることが好ましく、11.0nm以上であることがより好ましく、11.5nm以上であることがさらに好ましい。
【0060】
ポリ塩化ビニリデンには結晶部と非晶部とが存在する。ポリ塩化ビニリデンを延伸すると一部の非晶部には配向によってポリ塩化ビニリデンが疑似結晶化した部分(以下、「配向結晶化部」とも称する)が生じる。
本発明者らは、鋭意検討の結果、非晶部と配向結晶化部との状態を制御することで非晶部の運動性を制御し、結晶子サイズを適切な範囲に制御することで、強度の強いラップフィルムを得ることを見出した。
【0061】
ラップフィルムの結晶子サイズを上述した範囲に適切に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、後述の実施例のように、均一に樹脂に熱を加えることのできる加熱方法を用いることで実現可能である。
【0062】
ラップフィルムの製造方法として、延伸前に温水シャワーを用いて加熱することは既知であるが、温水シャワーを使用した場合、高い温度の温水が当たる部位と低い温度の温水が当たる部位とが生じる。このため、低い温度の温水が当たる部位では結晶子の成長が進行しにくくなっていると考えられる。
そこで、例えば、樹脂を延伸してフィルムとする前に樹脂を熱風で加熱することにより、樹脂の全方向から温めることができ、樹脂全体を均一に加熱することができる。それにより、均一に結晶子の成長を進行させ、結晶子サイズを大きくできる。一方で熱風加熱では物体表面温度が上がるに従い、樹脂内部への熱伝達量が減少してしまうため、樹脂深部にまで熱が行きわたるまでに時間を要する。
【0063】
均一に樹脂を加熱することのできる別の方法例として、例えば、樹脂を延伸してフィルムとする前に樹脂を赤外線で加熱し輻射熱を加える方法が挙げられる。輻射加熱では樹脂全体に均一に加熱を行うことができることに加えて、表面で受けた熱流が内部への供給エネルギーとなり、樹脂深部まで短時間で昇温させることができるため、より好ましい。更に、塩化ビニリデン系樹脂のように大きい双極子モーメントをもつ樹脂は赤外線の吸収率が高いため、延伸前にポリマーに適切な波長の赤外線で加熱することにより分子鎖が振動して結晶子が生成し、延伸に伴って配向結晶化が進み、結晶子サイズが大きくなるものと考えられる。
【0064】
<分子鎖配向性比>
本実施形態のラップフィルムは、偏光ラマンを測定した際に下記式(1)で算出される分子鎖配向性比が0.6を超えて2.5以下であることが好ましい。
分子鎖配向性比=TD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(C値)/MD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(A値)・・・(1)。
【0065】
<MD方向分子鎖配向性>
本実施形態において、ラップフィルムのMD方向分子鎖配向性を以下のとおり測定する。
ラマン顕微鏡(HORIBA製、ラマン顕微鏡XploRA)を用い、ラップフィルムのラマン分光を測定する。測定波長は532nmを使用する。測定条件は露光時間30秒、積算回数2回、グレーティング1800cm
-1、減光フィルター10%、対物レンズの倍率100倍、共焦点ホール500、スリット幅100μm、測定波長は200~3100cm
-1とする。レーザー偏光は使用せず、ラマン偏光を「Vertical」とする。
また、MD方向分子鎖配向性の測定は、一例として下記のように行う。
図3は、ラップフィルムを引き出した際の、サンプリング位置の一例の概略図である。
図3に示すとおり、ラップフィルムより、流れ方向(19)と平行な端面(20)を一辺とし、該一辺の長さが1cmの正方形のサンプル(21)を取得する。
図5は、ラマン顕微鏡像の一例の概略図である。
図5示すとおり、顕微鏡観察像の横方向(24)と、顕微鏡観察像の縦方向(25)とがあり、
図4に示すとおり、サンプル(21)の流れ方向と平行な端面(20)が、顕微鏡観察像の横方向(24)と平行になるように、上側のスライドガラスを回転させた後、測定を行った。
当該測定において、TD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をC値、TD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をB値として算出する。各値を同じ試料の別視野で10点測定し、各測定点にてC値/B値を算出し、その算術平均をMD方向の分子鎖配向性として下記式(2)で算出する。
MD方向の分子鎖配向性=TD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1)強度(C値)/TD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1)強度(B値)・・・(2)
このときに、MD方向の分子鎖配向性とはMD方向に配向した主鎖の配向性を表し、TD方向のCCl
2と直交する。
【0066】
<TD方向分子鎖配向性>
ラップフィルムのTD方向分子鎖配向性を以下のとおり測定する。
ラマン顕微鏡(HORIBA製、ラマン顕微鏡XploRA)を用い、ラップフィルムのラマン分光を測定する。測定波長は532nmを使用する。測定条件は露光時間30秒、積算回数2回、グレーティング1800cm
-1、減光フィルター10%、対物レンズの倍率100倍、共焦点ホール500、スリット幅100μm、測定波長は200~3100cm
-1とする。レーザー偏光は使用せず、ラマン偏光を「Vertical」とする。
また、TD方向分子鎖配向性の測定は、一例として下記のように行う。
図3は、ラップフィルムを引き出した際の、サンプリング位置の一例の概略図である。
図3に示すとおり、ラップフィルムより、流れ方向(19)と平行な端面(20)を一辺とし、該一辺の長さが1cmの正方形のサンプル(21)を取得する。
図6は、スライドガラス(22)上に測定サンプル(21)を設置した際の一例の概略図である。
図6に示すとおり、取得したサンプル(21)をスライドガラス(22)上に固定して測定を行う。この時、サンプル(21)を設置するスライドガラスは、2枚重ねにして使用し、上側のスライドガラス上に、サンプル(21)の流れ方向と平行な端面(20)をスライドガラスの長辺(23)と平行になるように設置する。
図5は、ラマン顕微鏡像の一例の概略図である。
図5示すとおり、顕微鏡観察像の横方向(24)と、顕微鏡観察像の縦方向(25)とがあり、
図6に示すとおり、サンプル(21)の流れ方向と平行な端面(20)が、顕微鏡観察像の縦方向(25)と平行になるように、上側のスライドガラスを回転させた後、測定を行う。
当該測定において、MD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をA値、MD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をD値として算出する。各値を同じ試料の別視野で10点測定し、各測定点にてA値/D値を算出し、その算術平均をTD方向の分子鎖配向性として下記式(3)で算出する。
TD方向の分子鎖配向性=MD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1)強度(A値)/MD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1)強度(D値)・・・(3)
このときに、TD方向の分子鎖配向性とはTD方向に配向した主鎖の配向性を表し、MD方向のCCl
2と直交する。
【0067】
<分子鎖配向性比>
本実施形態において、分子鎖配向性比は上記測定方法により得られたA値及びC値から下記式(1)で算出する。
分子鎖配向性比=TD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(C値)/MD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(A値)・・・(1)。
【0068】
また、本実施形態のラップフィルムは、分子鎖配向性比を0.6を超えて2.5以下とすることで、ラップフィルムの強度がMDとTDとの両方向で高くなり、MD及びTDの両方向どちらの向きにも破れにくくなる傾向にある。
同様の観点から、本実施形態のラップフィルムの分子鎖配向性比は0.6を超えて2.5以下であることが好ましく、0.7~1.5であることがより好ましく、さらに好ましくは0.7~1.0である。
分子鎖配向性比が前記範囲内のラップフィルムを得る方法としては、特に限定されないが、例えば、後述するラップフィルムの製造方法において、MD方向とTD方向に同時二軸延伸を行う方法が挙げられる。
【0069】
<MD方向引張弾性率>
本実施形態のラップフィルムは、MD方向の引張弾性率が500MPa以上600MPa未満であることが好ましい。
ラップフィルムのMD方向の引張弾性率測定はオートグラフAG-IS(島津製作所製)を使用し、23±2℃、50±10%RHの雰囲気中にて評価する。ラップフィルムのMD方向に長さ150mm、幅10mmに切り出し、試験片とする。切り出す際には、短冊状に切り出し、試験片に傷が入らないようにするため、刃を1試験片毎に交換する。5mm/分の引張速度、チャック間距離100mm、フィルム幅10mmの条件でクロスヘッド間の引張呼び歪が2%となった時点での荷重を測定する。2%の歪で荷重を割り返す、即ち荷重を50倍にしてから、試験片の断面積で割り返し、ラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率(単位:MPa)を算出する。測定の際には、試験機の引張方向に試験片のMD方向が一致するように、つかみ具に取り付ける。試験片は、滑りを防ぐために、かつ、試験中につかみ部分がずれないように、つかみ具で均等にしっかりと締める。また、つかみ具間の圧力によって、試験片の割れ、及び、圧延が起きてはならない。また、5回測定した内、最も高い値と最も低い値とを除いた3回の結果の算術平均を算出し、有効数字を2桁として、3桁目を四捨五入する。
【0070】
また、本実施形態のラップフィルムは、MD方向の引張弾性率を500MPa以上600MPa未満とすることで、ラップフィルムの手触り感が適度に柔らかくなる傾向にある。
同様の観点から、本実施形態のラップフィルムのMD方向の引張弾性率は500MPa以上550以下MPaであることがより好ましく、510MPa以上530MPa以下であることがさらに好ましい。
MD方向の引張弾性率が前記範囲内のラップフィルムを得る方法としては、特に限定されないが、例えば、後述するラップフィルムの製造方法において、MD方向の延伸倍率を調製する方法が挙げられる。
【0071】
〔ラップフィルムの製造方法〕
本実施形態のラップフィルムの製造方法は、上記特性を満たす方法であれば特に限定されず、一般に公知の方法を用いることができる。具体的には、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデン繰り返し単位を72質量%~93質量%含有する塩化ビニリデン系樹脂と、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む組成物を溶融押し出しして、フィルム状にする溶融押出工程及び加熱工程と、得られたフィルムをMD方向及びTD方向に延伸する延伸工程及び巻取工程などを含む方法が挙げられ、必要に応じて積層工程、冷却工程、及びヒートセット工程などの処理を有する方法が挙げられる。以下、詳説する。
【0072】
(混合工程)
図1に、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図を示す。まず、混合器により、塩化ビニリデン系樹脂と、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物と、必要に応じて、エポキシ化植物油と、を混合して組成物を得る。この際、必要に応じて各種添加剤を混合してもよい。混合機は、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー又はヘンシェルミキサー等を用いることができる。得られた組成物は、1~30時間程度熟成させて次の工程に用いることが好ましい。
【0073】
(溶融押出工程)
次いで、得られた組成物を押出機1により溶融し、Tダイや円形ダイなどの装置を用いてシートを形成する。
【0074】
(加熱工程)
押し出されたシートを熱風リングなどの熱風加熱装置若しくはセラミック製又は石英製の赤外線加熱パネルなどを装備した赤外線加熱装置で加熱する。熱風加熱装置を使用する場合は、樹脂深部の温度が所望の温度に上昇するまでに赤外線加熱と比較して時間を要するため、約200μm程度の厚みのシートを加熱する場合は30秒程度加熱することが好ましい。赤外線加熱装置を使用して約200μm程度の厚みのシートを加熱する場合は1秒程度の加熱が好ましい。
【0075】
(延伸工程)
延伸工程は、押出された塩化ビニリデン系樹脂を2軸延伸し、塩化ビニリデン系樹脂をMD方向及びTD方向に配向させる工程である。延伸方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融したポリオレフィン樹脂を冷却ローラーを用いて引き取るキャスト法、溶融樹脂チューブを冷却固化後に加熱延伸するダブルバブルインフレーション法、溶融樹脂チューブに直接エアーを吹き込み延伸させるダイレクトインフレーション法、ロール縦延伸後にテンター横延伸する逐次テンター2軸延伸法などが挙げられる。ラップフィルムは、適した厚さになるまで延伸される。ラップフィルムの強度を良好にするためには、延伸時の特にMD方向及びTD方向の延伸倍率の制御、及びそれにより得られるTD引裂強度が重要な因子となる。
【0076】
延伸工程は、押し出された樹脂を延伸し、樹脂をMD方向及びTD方向に配向させる工程である。延伸工程においては、2軸延伸が好ましく、延伸方法としては特に限定されないが、キャスト法やダブルバブルインフレーション法、ダイレクトインフレーション法、テンター2軸延伸法などが挙げられ、テンター2軸延伸法が特に好ましい。延伸温度は延伸中のフィルム温度が20℃~50℃であることが好ましく、25℃~45℃であることがより好ましい。延伸温度が上記範囲であることにより、各種樹脂の配向結晶化が進行しやすくなり、破断しにくいフィルムとなる傾向にある。
【0077】
2軸延伸法には、MD方向とTD方向の延伸が同時に施される同時2軸延伸と、MD方向とTD方向の延伸が独立して施される逐次2軸延伸とがあり、MD方向又はTD方向に延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
このうち、同時2軸延伸をすることによりラップフィルムがMD及びTDの両方向どちらの向きにも破れにくくなる傾向がある。
【0078】
MD及びTD方向の延伸倍率は、3.1~6.0倍が好ましく、4.0~5.6倍がより好ましい。延伸倍率が上記範囲であることにより、安定して製膜することができ、かつ、ラップフィルム中の樹脂の配向度が高くなり引出性に優れたラップフィルムが得られる傾向にある。TD方向の延伸倍率は、(延伸後のフィルム巾)/(延伸前のパリソン巾)の比であり、MD方向の延伸倍率は、(延伸後のライン速度)/(延伸前のライン速度)の比である。
【0079】
(巻取工程)
巻き取り工程は、延伸されたフィルムを巻き取り機で巻き取って、フィルム原反を作製する工程である。
【0080】
(スリット工程)
上記のようにして巻き取られたラップフィルムは、スリットされて、1枚のラップフィルムになるように剥がしながら巻き取られ、一時的に1~3日間原反の状態で保管される。最終的には原反から紙管に巻き返され、化粧箱に詰められることで、化粧箱に収納されたラップフィルム巻回体が得られる。他の巻取方法としては、芯体を使用せずに、エアシャフト等を巻き芯にして巻き取ることで、芯体のない巻回体を得ることができる。これは使用後に廃棄する際、芯体のゴミが発生しない利点を有する。
【0081】
(保管工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、ラップフィルムをスリットした後、原反の状態で保管する保管工程を行ってもよい。保管温度は、好ましくは19℃以下であり、より好ましくは5℃~19℃であり、さらに好ましくは5℃~15℃である。また、保管時間は、好ましくは20時間~50時間であり、より好ましくは24時間~40時間である。
【0082】
スリット原反は、保管後、特に限定されないが、例えば紙管等に巻き返され、巻回体16として、
図2に示すようなフィルム切断刃15を備える化粧箱1収納される。
図2に例示するように、ラップフィルム17は、使用時に引き出されて使用される。
【0083】
上記の説明は、ラップフィルムの製造方法の一例であり、上記以外の各種装置構成や条件等によってラップフィルムを製造してもよく、例えば、公知の他の方法を採用してもよい。
【実施例0084】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0085】
実施例及び比較例において、各物性及び各特性を以下のとおり測定した。
【0086】
<結晶子サイズ>
ラップフィルムにおける結晶子サイズを、反射型広角X線測定により得られるX線プロファイルから求めた。具体的には、結晶子サイズは、以下の装置、条件でXRD測定をして求めた。
装置:(株)リガク製 Ultima-IV
X線源:Cu管球
励起電圧:電圧40kV、電流40mA
検出器:D/teX Ultra
測定方法:θ/2θ法
スリット:DS=1/2°、SS=解放、縦スリット=10mm
走査範囲:5deg~60deg
走査ステップ:0.02deg
サンプル回転速度:50rpm
走査速度:4deg/min
測定は室温で行い、Igorでピーク分離を行い解析した。
ここで、結晶の乱れが無い場合、式(1)に示すシェラーの式より、結晶回折ピーク幅βから結晶子サイズDを求めた。
【数3】
K:シェラー定数(結晶子の形状などに依存する定数。今回はK=0.900を使用)
λ:X線波長
β:ピークの半価全幅[rad]
b:入射ビームの広がりの半価全幅[rad]
また、得られたX線(XRD)プロファイルをPVDC結晶(100)面由来ピークと非晶ピークとに分離し、結晶由来ピークの幅から結晶子サイズを計算した。結晶由来ピーク、非晶ピークはそれぞれGauss関数で近似した。PVDCフィルムのピーク分離条件は以下の通りとした。
フィッティング範囲:10 deg<2θ<20 deg
フィッティング関数:Gauss関数 + バックグラウンド(定数)
【数4】
A
i、2θ
i、w
i:順に、i番目のピークの強度、位置、幅
C:定数
非晶ピーク(位置固定・幅固定):
ピーク位置2θ=15.6 deg
ピーク幅w=1.0 deg
結晶ピーク(位置フリー・幅フリー)
同一サンプル内で3回測定を行い、算術平均し得られた値を結晶子サイズとした。
【0087】
<分子鎖配向性比>
ラップフィルムの分子鎖配向性比は、以下のとおり偏光ラマンを測定した際に下記式(1)で算出した。
分子鎖配向性比=TD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(C値)/MD方向のCCl2由来のピーク(630~680cm-1)強度(A値)・・・(1)。
【0088】
<MD方向分子鎖配向性>
ラップフィルムのMD方向分子鎖配向性を以下のとおり測定した。
ラマン顕微鏡(HORIBA製、ラマン顕微鏡XploRA)を用い、ラップフィルムのラマン分光を測定した。測定波長は532nmを使用した。測定条件は露光時間30秒、積算回数2回、グレーティング1800cm
-1、減光フィルター10%、対物レンズの倍率100倍、共焦点ホール500、スリット幅100μm、測定波長は200~3100cm
-1とした。レーザー偏光は使用せず、ラマン偏光を「Vertical」とした。
また、MD方向分子鎖配向性の測定は、一例として下記のように行った。
図3は、ラップフィルムを引き出した際の、サンプリング位置の一例の概略図である。
図3に示すとおり、ラップフィルムより、流れ方向(19)と平行な端面(20)を一辺とし、該一辺の長さが1cmの正方形のサンプル(21)を取得した。
図5は、ラマン顕微鏡像の一例の概略図である。
図5示すとおり、顕微鏡観察像の横方向(24)と、顕微鏡観察像の縦方向(25)とがあり、
図4に示すとおり、サンプル(21)の流れ方向と平行な端面(20)が、顕微鏡観察像の横方向(24)と平行になるように、上側のスライドガラスを回転させた後、測定を行った。
当該測定において、TD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をC値、TD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をB値として算出した。各値を同じ試料の別視野で10点測定し、各測定点にてC値/B値を算出し、その算術平均をMD方向の分子鎖配向性として下記式(2)で算出した。
MD方向の分子鎖配向性=TD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1)強度(C値)/TD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1)強度(B値)・・・(2)
このときに、MD方向の分子鎖配向性とはMD方向に配向した主鎖の配向性を表し、TD方向のCCl
2と直交する。
【0089】
<TD方向分子鎖配向性>
ラップフィルムのTD方向分子鎖配向性を以下のとおり測定した。
ラマン顕微鏡(HORIBA製、ラマン顕微鏡XploRA)を用い、ラップフィルムのラマン分光を測定した。測定波長は532nmを使用した。測定条件は露光時間30秒、積算回数2回、グレーティング1800cm
-1、減光フィルター10%、対物レンズの倍率100倍、共焦点ホール500、スリット幅100μm、測定波長は200~3100cm
-1とした。レーザー偏光は使用せず、ラマン偏光を「Vertical」とした。
また、TD方向分子鎖配向性の測定は、一例として下記のように行った。
図3は、ラップフィルムを引き出した際の、サンプリング位置の一例の概略図である。
図3に示すとおり、ラップフィルムより、流れ方向(19)と平行な端面(20)を一辺とし、該一辺の長さが1cmの正方形のサンプル(21)を取得した。
図6は、スライドガラス(22)上に測定サンプル(21)を設置した際の一例の概略図である。
図6に示すとおり、取得したサンプル(21)をスライドガラス(22)上に固定して測定を行った。この時、サンプル(21)を設置するスライドガラスは、2枚重ねにして使用し、上側のスライドガラス上に、サンプル(21)の流れ方向と平行な端面(20)をスライドガラスの長辺(23)と平行になるように設置した。
図5は、ラマン顕微鏡像の一例の概略図である。
図5示すとおり、顕微鏡観察像の横方向(24)と、顕微鏡観察像の縦方向(25)とがあり、
図6に示すとおり、サンプル(21)の流れ方向と平行な端面(20)が、顕微鏡観察像の縦方向(25)と平行になるように、上側のスライドガラスを回転させた後、測定を行った。
当該測定において、MD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をA値、MD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1の波数帯域におけるスペクトルのピーク)強度(ピークの高さ)をD値として算出した。各値を同じ試料の別視野で10点測定し、各測定点にてA値/D値を算出し、その算術平均をTD方向の分子鎖配向性として下記式(3)で算出した。
TD方向の分子鎖配向性=MD方向のCCl
2由来のピーク(630~680cm
-1)強度(A値)/MD方向のCH
2由来のピーク(2840~2890cm
-1)強度(D値)・・・(3)
このときに、TD方向の分子鎖配向性とはTD方向に配向した主鎖の配向性を表し、MD方向のCCl
2と直交する。
【0090】
<MD方向引張弾性率>
ラップフィルムのMD方向の引張弾性率測定はオートグラフAG-IS(島津製作所製)を使用し、23±2℃、50±10%RHの雰囲気中にて評価した。ラップフィルムのMD方向に長さ150mm、幅10mmに切り出し、試験片とした。切り出す際には、短冊状に切り出し、試験片に傷が入らないようにするため、刃を1試験片毎に交換する。5mm/分の引張速度、チャック間距離100mm、フィルム幅10mmの条件でクロスヘッド間の引張呼び歪が2%となった時点での荷重を測定した。2%の歪で荷重を割り返す、即ち荷重を50倍にしてから、試験片の断面積で割り返し、ラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率(単位:MPa)を算出した。測定の際には、試験機の引張方向に試験片のMD方向が一致するように、つかみ具に取り付けた。試験片は、滑りを防ぐために、かつ、試験中につかみ部分がずれないように、つかみ具で均等にしっかりと締めた。また、つかみ具間の圧力によって、試験片の割れ、及び、圧延が起きないようにした。また、5回測定した内、最も高い値と最も低い値とを除いた3回の結果の算術平均を算出し、有効数字を2桁として、3桁目を四捨五入した。
【0091】
<フィルムの厚み>
精密ダイアルゲージ(株式会社テクロック製、TM-1201)を使用し、23±2℃、50±10%RHの雰囲気中で、ラップフィルムの厚みの測定を行った。
【0092】
[評価方法]
[ラップフィルム引張り時の破れにくさ]
ラップフィルム引張り時の破れにくさの評価は23±2℃、50±10%RHの雰囲気中にて行った。評価者として、日常食品包装用ラップフィルムを使用する100人を選出し、評価者それぞれに、MD方向15cm×TD方向15cmにサンプリングしたラップフィルムをMD方向とTD方向との交互に通常お皿にラップフィルムを貼るときと同様の力で引っ張ってもらい、破断するまでにMD方向とTD方向とに引っ張った合計回数をカウントして算術平均値を算出し、ラップフィルム引張り時の破れにくさを評価した。
【0093】
ラップフィルム引張り時の破れにくさは、以下の4段階で評価した。
【表I】
【0094】
[ラップフィルムの手触り感]
ラップフィルム引張り時の手触り感の評価は23±2℃、50±10%RHの雰囲気中にて行った。評価者として、日常食品包装用ラップフィルムを使用する100人を選出し、評価者それぞれに、MD方向15cm×TD方向15cmにサンプリングしたラップフィルムを手に取って触り、感触を1:ハリコシ感が弱い、2:適度なハリコシ感、3:ハリコシ感が強いの3段階評価をつけてもらった。100人の評価を合計して算術平均値を算出し、ラップフィルムの手触り感を評価した。
【0095】
ラップフィルムの手触り感は、以下の3段階で評価した。
【表II】
【0096】
〔実施例1〕
重量平均分子量が12万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=90/10(質量比)に、DALGを含有せず、ATBCを5.0質量%、ESOを2.0質量%含有する条件で、添加剤を総量で7.0質量%添加した、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、延伸前に赤外線(IR)加熱を1秒間行った後、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。重量平均分子量は、移動相としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値とした。このとき、延伸時のフィルム温度が30℃、MD、TDともに延伸倍率3.2倍、5000mm/minの延伸速度の条件で同時二軸延伸し、得られた薄膜フィルムを巻取り、150mm幅にスリットし、外径34.5mm、長さ158.0mmの紙管に20m巻取り、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの結晶子サイズ、分子鎖配向性比、MD方向の引張弾性率、ラップフィルム引張り時の破れにくさ、ラップフィルムの手触り感について評価した結果を表1に示す。
【0097】
〔実施例2〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。
重量平均分子量が9万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=90/10(質量比)に、DALGを3.0質量%含有し、ATBCを2.5質量%、ESOを2.5質量%含有する条件で、添加剤を総量で8.0質量%添加した。それ以外は、実施例1に準じた操作で、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0098】
〔実施例3〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。
重量平均分子量が9万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)に、DALGを含有せず、ATBCを5.0質量%、ESOを2.0質量%含有する条件で、添加剤を総量で7.0質量%添加した。それ以外は、実施例1に準じた操作で、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの評価結果を表1に示す。
【0099】
〔実施例4〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。
重量平均分子量が9万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)に、DALGを3.0質量%含有し、ATBCを2.5質量%、ESOを2.5質量%含有する条件で、添加剤を総量で8.0質量%添加した。また、MD、TDともに延伸倍率3.5倍に延伸を行った。それ以外は、実施例1に準じた操作で、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの評価結果を表1に示す。
【0100】
〔実施例5〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。
溶融押出機にて溶融押出し、延伸前に熱風加熱を30秒間行った後、テンター二軸延伸を行った。それ以外は、実施例1に準じた操作で、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの評価結果を表1に示す。
【0101】
〔実施例6〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。
重量平均分子量が9万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)に、DALGを3.0質量%含有し、ATBCを2.5質量%、ESOを2.5質量%含有する条件で、添加剤を総量で8.0質量%添加した、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、延伸前に熱風加熱を30秒間行った後、テンター二軸延伸を行い、MD、TDともに延伸倍率3.5倍まで延伸した。それ以外は、実施例1に準じた操作で、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの評価結果を表1に示す。
【0102】
〔比較例1〕
重量平均分子量が12万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)に、DALGを含有せず、ATBCを5.0質量%、ESOを2.0質量%、含有する条件で、添加剤を総量で7.0質量%添加した、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、延伸前に温水(熱水)で加熱を行った後、フィルム温度が30℃の条件でインフレーション延伸を行い、MD、TDの延伸倍率をそれぞれ3.5倍、6.1倍まで延伸することで、筒状フィルムを得た。重量平均分子量は、移動相としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値とした。得られた筒状フィルムを折りたたみ、巻取った後、150mm幅にスリットし、1枚のフィルムになるように剥がしながら、外径34.5mm、長さ158.0mmの紙管に20m巻取り、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの評価結果を表1に示す。
【0103】
〔比較例2〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、テンター二軸延伸を行うことで、薄膜フィルムを得た。
重量平均分子量が12万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)に、DALGを含有せず、ATBCを5.0質量%、ESOを2.0質量%含有する条件で、添加剤を総量で7.0質量%添加した、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、延伸前に熱風加熱を1秒間行った後、テンター二軸延伸を行い、MD、TDともに延伸倍率3.0倍までMD方向に延伸してからTD方向に延伸する逐次二軸延伸した。それ以外は、実施例1に準じた操作で、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたラップフィルムの評価結果を表1に示す。
【0104】
1…押出機、2…ダイ、3…ダイ口、4…ソック、5…ソック液、6…冷却槽、7…第1ピンチロール、8…パリソン、9…第2ピンチロール、10…バブル、11…第3ピンチロール、12…ダブルプライフィルム、13…巻き取りロール、14…化粧箱、15…フィルム切断刃、16…巻回体、17…ラップフィルム、18…カット端面、19…ラップフィルムの流れ方向、20…ラップフィルムの流れ方向と平行な端面、21…一辺の長さが1cmの正方形のサンプル、22…スライドガラス、23…スライドガラスの長辺、24…顕微鏡観察像の横方向、25…顕微鏡観察像の縦方向、26…結晶部、27…非晶部、28…結晶子サイズ