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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149816
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/96 20060101AFI20231005BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231005BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20231005BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20231005BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60T8/96
B60T8/17 A
B60T13/74 G
B60T13/138 A
B60T17/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058582
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 伸一郎
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB03
3D048CC49
3D048CC54
3D048HH18
3D048HH58
3D048HH68
3D048HH70
3D048HH75
3D048HH77
3D048QQ11
3D048RR35
3D049BB02
3D049CC07
3D049HH48
3D049HH51
3D049QQ01
3D049QQ04
3D049RR13
3D246BA05
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB01
3D246GB02
3D246GB04
3D246GB37
3D246JB12
3D246KA15
3D246LA73Z
3D246MA07
3D246MA18
(57)【要約】
【課題】少ない数のマスタコントローラにより、冗長的に車輪で制動力を発生させることができるブレーキシステムを提供する。
【解決手段】ブレーキシステム30において、マスタコントローラ101,102は、車輪で発生する制動力の目標値を演算して出力する目標演算部111と、ドライバ90に制動力の目標値に応じた制御信号を出力するドライバ制御部112と、マスタコントローラ自身の何れかの部分が異常であるか否かを診断する自己診断部113と、自己診断部113が異常と診断した場合に目標演算部111及びドライバ制御部112からの出力を無効にする自己出力無効部114と、を有する。マスタコントローラ101,102のうち一方が異常である場合、一方のマスタコントローラは自己出力無効部114によって目標演算部111及びドライバ制御部112からの出力を無効にし、他方のマスタコントローラは電動ブレーキ41,42の制御を継続する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転する回転体に摩擦部材を押し付ける電動アクチュエータの作動に応じた制動力を前記車輪で発生させる複数の電動ブレーキと、
前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、
前記ドライバを制御する第1及び第2マスタコントローラと、を備えるブレーキシステムであって、
前記第1及び前記第2マスタコントローラの各々は、
前記車輪で発生する制動力の目標値を演算して出力する目標演算部と、
前記ドライバに前記目標演算部の前記目標値に応じた制御信号を出力するドライバ制御部と、
前記マスタコントローラ自身の何れかの部分が異常であるか否かを診断する自己診断部と、
前記自己診断部が異常と診断した場合に、前記目標演算部及び前記ドライバ制御部からの出力を無効にする自己出力無効部と、を有し、
前記第1及び第2マスタコントローラのうち一方が異常である場合、一方の前記マスタコントローラは前記自己出力無効部によって前記目標演算部及び前記ドライバ制御部からの出力を無効にし、他方の前記マスタコントローラは前記電動ブレーキの制御を継続する
ブレーキシステム。
【請求項2】
前記第1マスタコントローラの前記自己診断部は、車両の停車中に、前記第1マスタコントローラの前記自己出力無効部に異常が発生しているか否かを診断し、
前記第2マスタコントローラの前記自己診断部は、前記車両の停車中に、前記第2マスタコントローラの前記自己出力無効部に異常が発生しているか否かを診断し、
前記第1及び前記第2マスタコントローラの各々は、対応する前記自己出力無効部に異常が発生していると診断された場合に、前記車両の走行を禁止する走行禁止部を備える
請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記ドライバ制御部を含み、前記目標演算部を含まないように構成された第1スレーブコントローラをさらに備え、
前記第1及び第2マスタコントローラの少なくとも一方は、前記第1スレーブコントローラに前記目標演算部の前記目標値を送信可能であり、
前記第1スレーブコントローラは、前記ブレーキシステム内における前記ドライバの制御を前記第1及び第2マスタコントローラと分担する
請求項1又は請求項2に記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前記ドライバ制御部を含み、前記目標演算部を含まないように構成された第2スレーブコントローラをさらに備え、
前記第1及び第2マスタコントローラの少なくとも一方は、前記第2スレーブコントローラに前記目標演算部の前記目標値を送信可能であり、
前記第1マスタコントローラ及び前記第1スレーブコントローラは、第1制御ユニットとしてユニット化され、
前記第2マスタコントローラ及び前記第2スレーブコントローラは、第2制御ユニットとしてユニット化されている
請求項3に記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記第1及び第2マスタコントローラは、第1制御ユニットとしてユニット化され、
前記第1スレーブコントローラは、第2制御ユニットとしてユニット化されており、
前記第1制御ユニットは、車台上に設けられ、
前記第2制御ユニットは、前記車輪内に設けられている
請求項3に記載のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の電動ブレーキと、複数のドライバと、3つのマスタコントローラと、を備えるブレーキシステムが記載されている。電動ブレーキは、車輪とともに回転するロータに摩擦パッドを押し付けることにより車輪で制動力を発生させる。ドライバは、電動ブレーキの動力源となる電気モータを駆動する。3つのマスタコントローラは、ブレーキペダルの操作量に応じた制動力の目標値を演算したり、ABS制御などの車両の挙動を安定化させるのに必要な制動力の目標値を演算したりする。そして、3つのマスタコントローラは、演算した制動力の目標値に基づいてドライバを制御することにより、車輪で制動力を発生させる。
【0003】
なお、3つのマスタコントローラは、演算した制動力の目標値を相互に比較することで、ドライバの制御に用いる制動力の目標値を決定する。例えば、3つのマスタコントローラのうち、1つのマスタコントローラの演算した制動力の目標値が、残る2つのマスタコントローラの演算した制動力の目標値と異なる場合を考える。この場合には、残る2つのマスタコントローラの演算した制動力の目標値が、ドライバの制御に用いる制動力の目標値に決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-172034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなブレーキシステムは、複数のマスタコントローラの演算した制動力の目標値を比較する必要があるため、3つ以上のマスタコントローラが必要になる。したがって、ブレーキシステムが高価となる上、マスタコントローラの数が多いことからマスタコントローラのいずれか一つが故障する可能性が高まる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するブレーキシステムは、車輪とともに回転する回転体に摩擦部材を押し付ける電動アクチュエータの作動に応じた制動力を前記車輪で発生させる複数の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、前記ドライバを制御する第1及び第2マスタコントローラと、を備えるブレーキシステムであって、前記第1及び第2マスタコントローラの各々は、前記車輪で発生する制動力の目標値を演算して出力する目標演算部と、前記ドライバに前記目標演算部の前記目標値に応じた制御信号を出力するドライバ制御部と、前記マスタコントローラ自身の何れかの部分が異常であるか否かを診断する自己診断部と、前記自己診断部が異常と診断した場合に、前記目標演算部及び前記ドライバ制御部からの出力を無効にする自己出力無効部と、を有し、前記第1及び第2マスタコントローラのうち一方が異常である場合、一方の前記マスタコントローラは前記自己出力無効部によって前記目標演算部及び前記ドライバ制御部からの出力を無効にし、他方の前記マスタコントローラは前記電動ブレーキの制御を継続することが好ましい。
【0007】
第1及び第2マスタコントローラの各々は、自己で演算した制動力の目標値に応じてドライバを制御することにより、車輪で制動力を発生できる。また、第1及び第2マスタコントローラの各々は、マスタコントローラ自身の何れかの部分が異常と診断される場合には、目標演算部及びドライバ制御部の出力を無効にできる。こうした点で、第1及び第2マスタコントローラのうち、一方のマスタコントローラからの指示によって車輪で制動力を発生できなくなる場合でも、他方のマスタコントローラからの指示によって車輪で制動力を発生できる。こうして、ブレーキシステムは、冗長的に構成された2つのマスタコントローラによって、車輪で制動力を発生できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態のブレーキシステムを備える車両の概略図である。
図2図2は、第1実施形態のブレーキシステムの制御構成を示すブロック図である。
図3図3は、別の実施形態のブレーキシステムを備える車両の概略図である。
図4図4は、第2実施形態のブレーキシステムの制御構成を示すブロック図である。
図5図5は、第3実施形態のブレーキシステムの制御構成を示すブロック図である。
図6図6は、第4実施形態のブレーキシステムの制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、ブレーキシステムの第1実施形態を図1及び図2に従って説明する。
<第1実施形態の構成>
図1及び図2に示すように、車両10は、車台11と、複数の車輪20と、複数の車輪20で発生させる制動力を調整するブレーキシステム30と、を備えている。また、車両10は、信号の送受信に利用されるCANバス12を備えている。
【0010】
図示を省略しているが、車台11は、車輪20と同数の懸架装置を有している。複数の懸架装置は、複数の車輪20をそれぞれ回転可能に支持している。複数の車輪20は、左前輪21と右前輪22と左後輪23と右後輪24とを有している。複数の車輪20のうち、前輪21,22は「第1車輪」に相当し、後輪23,24は「第2車輪」に相当している。
【0011】
<ブレーキシステム>
ブレーキシステム30は、複数の車輪20に対して個別に設けられる複数の電動ブレーキ40と、複数の電動ブレーキ40を駆動する複数のドライバ90と、複数のドライバ90を制御する制御装置100と、を備えている。
【0012】
<前輪電動ブレーキ>
複数の電動ブレーキ40は、左前輪21で制動力を発生させる第1前輪電動ブレーキ41及び右前輪22で制動力を発生させる第2前輪電動ブレーキ42を有している。前輪電動ブレーキ41,42は「第1電動ブレーキ」に相当している。第1実施形態では、前輪電動ブレーキ41,42は湿式の電動ブレーキである。具体的には、前輪電動ブレーキ41,42は、摩擦部材51と回転体52とホイールシリンダ53と電気モータ54と電動シリンダ60とを有している。
【0013】
回転体52は前輪21,22とともに回転するため、摩擦部材51を回転体52に当接させることにより、前輪21,22で制動力が発生する。ホイールシリンダ53に液圧が発生していない場合、摩擦部材51は回転体52から離間している。ホイールシリンダ53に液圧を発生させることにより、摩擦部材51が回転体52に当接する。すなわち、回転体52に摩擦部材51が押し付けられる。ホイールシリンダ53の液圧が高いほど、回転体52に摩擦部材51を押し付ける力が大きくなるため、前輪21,22で発生する制動力が大きくなる。
【0014】
電動シリンダ60は、伝達機構61とシリンダ62とピストン63とを有している。伝達機構61は、電気モータ54と同期して回転する回転部64と、回転部64の回転に応じた方向に直線移動する直動部65とを有している。ピストン63はシリンダ62内に配置されている。回転部64の回転に応じて直動部65が直線移動すると、ピストン63がシリンダ62内を直線移動する。シリンダ62内にはピストン63によって液室66が区画されており、液室66が液路67を介してホイールシリンダ53に接続されている。液室66の容積を小さくする方向にピストン63が直線移動すると、液室66のブレーキ液が液路67を介してホイールシリンダ53に供給されるため、ホイールシリンダ53の液圧が高くなる。すなわち、電動シリンダ60及びホイールシリンダ53は、回転体52に摩擦部材51が当接している当接状態と、回転体52から摩擦部材51が離間している離間状態とに前輪電動ブレーキ41,42の作動状態を遷移させることができる。前輪電動ブレーキ41,42では、電動シリンダ60が、電気モータ54を動力源とする「電動アクチュエータ」に相当する。電気モータ54は、二重巻線モータである。
【0015】
<後輪電動ブレーキ>
複数の電動ブレーキ40は、左後輪23で制動力を発生させる第1後輪電動ブレーキ43及び右後輪24で制動力を発生させる第2後輪電動ブレーキ44を有している。後輪電動ブレーキ43,44は「第2電動ブレーキ」に相当している。第1実施形態では、後輪電動ブレーキ43,44は乾式の電動ブレーキである。具体的には、後輪電動ブレーキ43,44は、摩擦部材71と回転体72と電気モータ73とアクチュエータ80とを備えている。
【0016】
回転体72は後輪23,24とともに回転するため、摩擦部材71を回転体72に当接させることにより、後輪23,24で制動力が発生する。回転体72に摩擦部材71を押し付ける力を大きくすることにより、後輪23,24で発生する制動力が大きくなる。
【0017】
アクチュエータ80は電気モータ73を動力源として作動する。具体的には、アクチュエータ80は、後輪電動ブレーキ43,44の作動状態を当接状態と離間状態とに変位させるべく作動する。こうしたアクチュエータ80は減速機構81と直動変換機構82とを有している。減速機構81は、電気モータ73の回転運動を減速して直動変換機構82に出力する。直動変換機構82は、減速機構81から入力された回転運動を直線運動に変換して摩擦部材71に出力する。そのため、後輪電動ブレーキ43,44では、電気モータ73が駆動すると、電気モータ73の出力トルクがアクチュエータ80を介して摩擦部材71に伝達される。これにより、摩擦部材71が回転体72に接近したり、摩擦部材71が回転体72から離間したりする。そして、摩擦部材71が回転体72に当接するようになると、後輪23,24で制動力が発生する。後輪電動ブレーキ43,44では、アクチュエータ80が、電気モータ73を動力源とする「電動アクチュエータ」に相当する。電気モータ73は、電気モータ54と異なり二重巻線モータではない。
【0018】
<ドライバ>
図2に示すように、複数のドライバ90は、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動する2つの第1ドライバ91a,91bと、第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54を駆動する2つの第2ドライバ92a,92bと、を備えている。また、複数のドライバ90は、第1後輪電動ブレーキ43の電気モータ73を駆動する1つの第3ドライバ93と、第2後輪電動ブレーキ44の電気モータ73を駆動する1つの第4ドライバ94と、を備えている。
【0019】
2つの第1ドライバ91a,91bは、いわゆるダブルインバータ駆動によって、第1前輪電動ブレーキ41の二重巻線である電気モータ54を駆動する。つまり、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動する場合には、第1ドライバ91aが当該電気モータ54の一方の巻線に電流を流し、第1ドライバ91bが当該電気モータ54の他方の巻線に電流を流す。このため、2つの第1ドライバ91a,91bの一方が第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動できなくなる場合でも、2つの第1ドライバ91a,91bの他方が第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動できる。こうして、2つの第1ドライバ91a,91bの一方が第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動できなくなる場合でも、第1前輪電動ブレーキ41が左前輪21で制動力を発生できなくなることが抑制される。なお、2つの第1ドライバ91a,91bの片方で電気モータ54を駆動する場合には、2つの第1ドライバ91a,91bの双方で電気モータ54を駆動する場合よりも、電気モータ54が出力できるトルクは小さくなる。つまり、第1前輪電動ブレーキ41が車輪20で発生できる制動力が小さくなる。
【0020】
第2ドライバ92a,92bによる第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54の駆動方式についても同様である。こうして、第1実施形態では、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54及び第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54の駆動については冗長化されている。一方、後輪電動ブレーキ43,44の電気モータ73の駆動については冗長化されていない。
【0021】
複数のドライバ90は、制御装置100から出力された制動力の目標値に基づいて、電気モータ54,73に流す電流の大きさ、方向及びタイミングなどを制御する。具体的には、第1ドライバ91a,91b及び第2ドライバ92a,92bは、制動力の目標値が大きいほど前輪21,22で発生する制動力が大きくなるように、前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動する。また、第3ドライバ93及び第4ドライバ94は、制動力の目標値が大きいほど後輪23,24で発生する制動力が大きくなるように、後輪電動ブレーキ43,44の電気モータ73を駆動する。
【0022】
<制御装置>
図2に示すように、制御装置100は、前輪電動ブレーキ41,42に関わるドライバ91a,91b,92a,92bを制御するフロント制御ユニット201を備えている。また、制御装置100は、後輪電動ブレーキ43に関わるドライバ93を制御する第1リア制御ユニット202と、後輪電動ブレーキ44に関わるドライバ94を制御する第2リア制御ユニット203と、を備えている。
【0023】
フロント制御ユニット201は、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aを制御する第1マスタコントローラ101と、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bを制御する第2マスタコントローラ102と、を備えている。第1リア制御ユニット202は、第3ドライバ93を制御する第1スレーブコントローラ103を備えている。第2リア制御ユニット203は、第4ドライバ94を制御する第2スレーブコントローラ104を備えている。
【0024】
2つのマスタコントローラ101,102は、同じ制御基板に実装されたり、同じケースに収容されたりすることにより、ユニット化されている。2つのマスタコントローラ101,102及び2つのスレーブコントローラ103,104は、CANバス12を介した各種の情報の送受信が可能に構成されている。第1実施形態において、フロント制御ユニット201は「第1制御ユニット」の一例に相当し、リア制御ユニット202,203は「第2制御ユニット」の一例に相当している。
【0025】
マスタコントローラ101,102は、目標演算部111と、ドライバ制御部112と、自己診断部113と、自己出力無効部114と、走行禁止部115と、を備えている。
目標演算部111は、複数の車輪20で発生させる制動力の目標値を演算する。目標演算部111は、運転者がブレーキ操作を行っている場合、運転者のブレーキ操作量に基づいて制動力の目標値を演算する。目標演算部111は、車両10が自動運転中である場合、自動運転制御を実施する運転制御装置から送信される要求制動力に基づいて制動力の目標値を演算する。また、目標演算部111は、運転者がブレーキ操作を行っている場合であってABS(Anti-lock Braking System)制御の実施中である場合、減速スリップが発生している車輪20のスリップ量に基づいて制動力の目標値を演算する。その他、目標演算部111は、ESC(Electronic Stability Control)及びTRC(Traction Control System)の実施中である場合には、ESC及びTRCに応じた制動力の目標値を演算する。また、目標演算部111は、第1スレーブコントローラ103及び第2スレーブコントローラ104に制動力の目標値を出力可能となっている。
【0026】
ドライバ制御部112は、対応するドライバに制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。例えば、第1マスタコントローラ101のドライバ制御部112は、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに制御信号を出力する。一方、第2マスタコントローラ102のドライバ制御部112は、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに制御信号を出力する。
【0027】
ここで、左前輪21で「10」の大きさの制動力を発生させる場合を想定する。この場合、第1マスタコントローラ101は、左前輪21で「5」の大きさの制動力を発生させるための制御信号を第1ドライバ91aに出力する。また、第2マスタコントローラ102は、左前輪21で「5」の大きさの制動力を発生させるための制御信号を第1ドライバ91bに出力する。
【0028】
自己診断部113は、マスタコントローラ自身の何れかの部分が異常であるか否かを診断する。詳しくは、自己診断部113は、目標演算部111、ドライバ制御部112及び自己出力無効部114に異常が発生しているか否かを診断する。また、自己診断部113は、通信インターフェースなどに異常が発生しているか否かを診断してもよい。自己診断部113は、車両10が走行中及び停車中の双方の場合に、目標演算部111及びドライバ制御部112に異常が発生しているか否かを診断する。一方、自己診断部113は、車両10が停車中の場合に、自己出力無効部114に異常が発生しているか否かを診断する。目標演算部111に異常が発生している場合とは、例えば、運転者がブレーキ操作を行っているにも関わらず制動力の目標値が「0」となる場合である。ドライバ制御部112に異常が発生している場合とは、例えば、制動力の目標値が変化したにも関わらず、ドライバ制御部112による電気モータ54の駆動態様が変化しない場合である。自己出力無効部114に異常が発生している場合とは、自己出力無効部114が機能しなくなる場合である。
【0029】
自己出力無効部114は、自己診断部113が異常と診断した場合に、目標演算部111及びドライバ制御部112の出力を無効にする。詳しくは、自己出力無効部114は、目標演算部111及びドライバ制御部112の少なくとも一方に異常が発生していると診断された場合に、目標演算部111からの制動力の目標値の出力及びドライバ制御部112からの制御信号の出力を無効にする。例えば、ドライバ制御部112からの制御信号の出力を無効にする場合、自己出力無効部114は、ドライバ制御部とドライバとを接続する通信経路に設けられたスイッチング素子を切り替えることにより、当該通信経路を遮断すればよい。このため、例えば、第1マスタコントローラ101のドライバ制御部112に異常が発生していると診断された場合には、当該ドライバ制御部112から第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに制御信号が出力されなくなる。
【0030】
走行禁止部115は、対応する自己出力無効部114に異常が発生していると診断された場合に、車両10の走行を禁止する。詳しくは、走行禁止部115は、エンジン及びモータジェネレータなどを制御する駆動制御装置に車両10の走行を禁止する旨の信号を送信する。そして、当該信号を受信した駆動制御装置は、エンジン及びモータジェネレータのトルクの出力を禁止したり、エンジン及びモータジェネレータの出力トルクが車輪20に伝達されることを禁止したりする。
【0031】
マスタコントローラ101,102は、CANバス12を介して、制動力の目標値をスレーブコントローラ103,104に送信する。詳しくは、マスタコントローラ101,102は、左後輪23で発生させる制動力の目標値を第1スレーブコントローラ103に送信する。また、マスタコントローラ101,102は、右後輪24で発生させる制動力の目標値を第2スレーブコントローラ104に送信する。
【0032】
ここで、2つのマスタコントローラ101,102の双方は、2つのスレーブコントローラ103,104の双方に目標値を送信してもよい。また、2つのマスタコントローラ101,102の一方が、2つのスレーブコントローラ103,104の双方に目標値を送信してもよい。また、2つのマスタコントローラ101,102の一方が2つのスレーブコントローラ103,104の一方に目標値を送信し、2つのマスタコントローラ101,102の他方が2つのスレーブコントローラ103,104の他方に目標値を送信してもよい。ただし、2つのマスタコントローラ101,102の一方が目標値を送信できなくなった場合には、2つのマスタコントローラ101,102の他方が2つのスレーブコントローラ103,104に目標値を送信することが好ましい。
【0033】
なお、目標演算部111からの制動力の目標値の出力を自己出力無効部114が無効にする場合には、異常が診断されたマスタコントローラは、スレーブコントローラ103,104に制動力の目標値を送信できなくなる。
【0034】
スレーブコントローラ103,104は、ドライバ制御部121を備えている。ドライバ制御部121は、対応するドライバに対して、マスタコントローラ101,102から取得した制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。第1スレーブコントローラ103のドライバ制御部121は、第3ドライバ93に制御信号を出力する。一方、第2スレーブコントローラ104のドライバ制御部121は、第4ドライバ94に制御信号を出力する。
【0035】
スレーブコントローラ103,104は、マスタコントローラ101,102よりも低機能である。スレーブコントローラ103,104は、マスタコントローラ101,102が備える目標演算部111、ドライバ制御部112、自己診断部113、自己出力無効部114及び走行禁止部115のうち、ドライバ制御部112に相当する構成以外を有していない。詳しくは、スレーブコントローラ103,104は、目標演算部111、自己診断部113、自己出力無効部114及び走行禁止部115に相当する機能を実現するためのソフトウェアを含んでいない。こうした点で、スレーブコントローラ103,104は、マスタコントローラ101,102よりもソフト面で低機能となっている。一方、スレーブコントローラ103,104のCPUは、マスタコントローラ101,102のCPUよりも動作周波数が低くてもよい。また、スレーブコントローラ103,104のCPUのコア数は、マスタコントローラ101,102のCPUのコア数よりも少なくてもよい。こうした点で、スレーブコントローラ103,104は、マスタコントローラ101,102よりもハード面で低機能であってもよい。
【0036】
なお、図示を省略するが、マスタコントローラ101,102及びスレーブコントローラ103,104は、CPUとメモリとを含んで構成されるマイクロコンピュータである。メモリには、CPUが実行する各種の制御プログラムが記憶されている。ここで、マスタコントローラ101,102は、自己診断部113のために専用のCPUを有していてもよい。
【0037】
第1実施形態では、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、第1マスタコントローラ101に対応するドライバに相当する。第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、第2マスタコントローラ102に対応するドライバに相当する。第3ドライバ93は、第1スレーブコントローラ103に対応するドライバに相当する。第4ドライバ94は、第2スレーブコントローラ104に対応するドライバに相当する。そして、第1実施形態では、2つのマスタコントローラ101,102及び2つのスレーブコントローラ103,104は、ブレーキシステム30内にあるドライバ90の制御を分担する。
【0038】
<制動ユニット>
図1に示すように、第1実施形態では、前輪電動ブレーキ41,42の電動シリンダ60及び電気モータ54と、2つの第1ドライバ91a,91b及び2つの第2ドライバ92a,92bと、マスタコントローラ101,102とは、車台11上に配置されている。一方、第1後輪電動ブレーキ43と第3ドライバ93と第1スレーブコントローラ103とは、左後輪23内に設けられている。同様に、第2後輪電動ブレーキ44と第4ドライバ94と第2スレーブコントローラ104とは、右後輪24内に設けられている。
【0039】
図2に示すように、以降の説明では、前輪電動ブレーキ41,42の電動シリンダ60及び電気モータ54と、第1ドライバ91a,91b及び第2ドライバ92a,92bと、マスタコントローラ101,102と、を含んで、前輪制動ユニット131という。また、第1後輪電動ブレーキ43と第3ドライバ93と第1スレーブコントローラ103とを含んで、第1後輪制動ユニット132という。同様に、第2後輪電動ブレーキ44と第4ドライバ94と第2スレーブコントローラ104とを含んで、第2後輪制動ユニット133という。
【0040】
前輪制動ユニット131は、車台11上に配置される「第1ユニット」の一例に相当している。第1後輪制動ユニット132は、左後輪23内に設けられる「第2ユニット」に相当し、第2後輪制動ユニット133は、右後輪24内に設けられる「第2ユニット」に相当している。第1後輪制動ユニット132は、左後輪23を支持する懸架装置に固定されることで、左後輪23内に位置している。同様に、第2後輪制動ユニット133は、右後輪24を支持する懸架装置に固定されることで、右後輪24内に位置している。第1後輪制動ユニット132は、全体にわたって左後輪23内に収まっている必要はなく、一部が左後輪23内の空間からはみ出していてもよい。第2後輪制動ユニット133についても同様である。
【0041】
<第1実施形態の作用及び効果>
以下、運転者がブレーキ操作を行うときのブレーキシステム30の作用について説明する。
【0042】
運転者がブレーキ操作を行う場合、第1マスタコントローラ101は、ブレーキ操作量に応じた制動力の目標値を演算する。続いて、第1マスタコントローラ101は、制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに出力する。そして、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動する。同様に、第2マスタコントローラ102は、ブレーキ操作量に応じた制動力の目標値を演算する。続いて、第2マスタコントローラ102は、制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに出力する。そして、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動する。こうして、左前輪21及び右前輪22で制動力が発生する。
【0043】
マスタコントローラ101,102は、演算した制動力の目標値をCANバス12に送信する。そして、第1スレーブコントローラ103は、CANバス12を介して制動力の目標値を受信すると、当該目標値に応じた制御信号を第3ドライバ93に出力する。これにより、第3ドライバ93は、第1後輪電動ブレーキ43の電気モータ73を駆動する。同様に、第2スレーブコントローラ104は、CANバス12を介して制動力の目標値を受信すると、当該目標値に応じた制御信号を第4ドライバ94に出力する。これにより、第4ドライバ94は、第2後輪電動ブレーキ44の電気モータ73を駆動する。こうして、左後輪23及び右後輪24で制動力が発生する。
【0044】
ここで、運転者がブレーキ操作を継続中に、第1マスタコントローラ101の目標演算部111及びドライバ制御部112の少なくとも一方に異常が発生した場合を想定する。この場合には、第1マスタコントローラ101からスレーブコントローラ103,104に対して、制動力の目標値が送信されなくなる。また、第1マスタコントローラ101から第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに対する制御信号の出力が無効にされる。つまり、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aが前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動しなくなる。しかし、第2マスタコントローラ102の目標演算部111及びドライバ制御部112の双方が正常である場合、第2マスタコントローラ102から第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに対する制御信号の出力は継続される。このため、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動し続ける。したがって、ブレーキシステム30は、2つのマスタコントローラ101,102の一方に異常が発生したとしても、左前輪21及び右前輪22で制動力が発生しなくなることを抑制できる。
【0045】
一方、スレーブコントローラ103,104は、CANバス12を介して、第2マスタコントローラ102から送信される制動力の目標値を取得できる。このため、スレーブコントローラ103,104は、第1マスタコントローラ101に異常が発生する前と変わらず、第3ドライバ93及び第4ドライバ94に制御信号を出力し続けることができる。したがって、ブレーキシステム30は、2つのマスタコントローラ101,102の一方に異常が発生したとしても、左後輪23及び右後輪24で制動力が発生しなくなることを抑制できる。
【0046】
第1実施形態は以下に示す効果をさらに得ることができる。
(1-1)第1マスタコントローラ101の自己出力無効部114に異常が発生している状況下において、第1マスタコントローラ101の目標演算部111及びドライバ制御部112の少なくとも一方に異常が発生する場合を想定する。この場合には、第1マスタコントローラ101は、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに対する制御信号の出力を無効にできなくなるおそれがある。この点、ブレーキシステム30において、車両10の停車中に自己出力無効部114に異常が発生した場合には、車両10の走行が禁止される。したがって、ブレーキシステム30は、車両10の安全性を高めることができる。
【0047】
(1-2)マスタコントローラ101,102は、スレーブコントローラ103,104よりも高機能である。このため、マスタコントローラ101,102は、スレーブコントローラ103,104よりも大きくなりやすい。よって、後輪制動ユニット132,133の備えるコントローラをマスタコントローラ101,102とすると、設置スペースの小さい後輪23,24内の空間に後輪制動ユニット132,133を収めることができなくなる可能性がある。この点、ブレーキシステム30において、後輪制動ユニット132,133の備えるコントローラはスレーブコントローラ103,104である。よって、ブレーキシステム30は、設置スペースの小さい後輪23,24内の空間に後輪制動ユニット132,133を収めることができる。
【0048】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係るブレーキシステム30Aを図3及び図4に従って説明する。第2実施形態の説明では、第1実施形態と相違する部分について主に説明する。第2実施形態の説明では、第1実施形態と同一又は同等の構成について同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
<ブレーキシステム>
図3及び図4に示すように、ブレーキシステム30Aは、複数の車輪20に対して個別に設けられる複数の電動ブレーキ40と、複数の電動ブレーキ40を駆動する複数のドライバ90と、複数のドライバ90を制御する制御装置100Aと、を備えている。
【0050】
<制動ブレーキ>
複数の電動ブレーキ40は、左前輪21で制動力を発生させる第1前輪電動ブレーキ41と、右前輪22で制動力を発生させる第2前輪電動ブレーキ42と、を有している。また、複数の電動ブレーキ40は、左後輪23で制動力を発生させる第1後輪電動ブレーキ45と、右後輪24で制動力を発生させる第2後輪電動ブレーキ46と、を有している。前輪電動ブレーキ41,42は「第1電動ブレーキ」に相当し、後輪電動ブレーキ45,46は「第2電動ブレーキ」に相当している。
【0051】
第2実施形態では、前輪電動ブレーキ41,42だけでなく、後輪電動ブレーキ45,46も、湿式の電動ブレーキである。つまり、前輪電動ブレーキ41,42では、電動シリンダ60が、電気モータ54を動力源とする「電動アクチュエータ」に相当する。同様に、後輪電動ブレーキ45,46では、電動シリンダ60が、電気モータ54を動力源とする「電動アクチュエータ」に相当する。
【0052】
<ドライバ>
図4に示すように、複数のドライバ90は、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動する2つの第1ドライバ91a,91bと、第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54を駆動する2つの第2ドライバ92a,92bと、を備えている。また、複数のドライバ90は、第1後輪電動ブレーキ45の電気モータ54を駆動する2つの第3ドライバ93a,93bと、第2後輪電動ブレーキ46の電気モータ54を駆動する2つの第4ドライバ94a,94bと、を備えている。第2実施形態では、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54及び第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54の駆動だけでなく、第1後輪電動ブレーキ45の電気モータ54及び第2後輪電動ブレーキ46の電気モータ54の駆動についても冗長化されている。
【0053】
<制御装置>
図4に示すように、制御装置100Aは、前輪電動ブレーキ41,42に関わるドライバ91a,91b,92a,92bを制御するフロント制御ユニット201Aと、後輪電動ブレーキ45,46に関わるドライバ93a,93b,94a,94bを制御するリア制御ユニット202Aと、を備えている。
【0054】
フロント制御ユニット201Aは、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aを制御する第1マスタコントローラ101Aと、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bを制御する第1スレーブコントローラ103Aと、を有している。第1マスタコントローラ101A及び第1スレーブコントローラ103Aは、同じ制御基板に実装されたり、同じケースに収容されたりすることにより、ユニット化されている。第1マスタコントローラ101A及び第1スレーブコントローラ103Aは、ユニット内において、シリアル通信などによって互いに情報の送受信が可能となっている。さらに、第1マスタコントローラ101A及び第1スレーブコントローラ103Aは、情報を送受信が可能な状態でCANバス12に接続されている。つまり、第1マスタコントローラ101A及び第1スレーブコントローラ103Aは、シリアル通信が異常である場合には、CANバス12を介した通信を用いて情報の送受信が可能となっている。
【0055】
リア制御ユニット202Aは、第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aを制御する第2マスタコントローラ102Aと、第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bを制御する第2スレーブコントローラ104Aと、有している。第2マスタコントローラ102A及び第2スレーブコントローラ104Aは、同じ制御基板に実装されたり、同じケースに収容されたりすることにより、ユニット化されている。第2マスタコントローラ102A及び第2スレーブコントローラ104Aは、ユニット内において、シリアル通信などによって互いに情報の送受信が可能となっている。さらに、第2マスタコントローラ102A及び第2スレーブコントローラ104Aは、情報を送受信が可能な状態でCANバス12に接続されている。つまり、第2マスタコントローラ102A及び第2スレーブコントローラ104Aは、シリアル通信が異常である場合には、CANバス12を介した通信を用いて情報の送受信が可能となっている。
【0056】
こうした点で、フロント制御ユニット201A及びリア制御ユニット202Aは同等に構成されている。また、第2実施形態において、フロント制御ユニット201Aは「第1制御ユニット」の一例に相当し、リア制御ユニット202Aは「第2制御ユニット」の一例に相当している。
【0057】
マスタコントローラ101A,102Aは、目標演算部111と、ドライバ制御部112と、自己診断部113と、自己出力無効部114と、走行禁止部115と、を備えている。第1マスタコントローラ101Aのドライバ制御部112は、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。一方、第2マスタコントローラ102Aのドライバ制御部112は、第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aに制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。また、マスタコントローラ101A,102Aは、目標演算部111が演算した制動力の目標値をスレーブコントローラ103A,104Aに送信可能となっている。
【0058】
スレーブコントローラ103A,104Aは、ドライバ制御部121を備えている。第1スレーブコントローラ103Aのドライバ制御部121は、CANバス12を介して受信した制動力の目標値に応じた制御信号を、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに出力する。一方、第2スレーブコントローラ104Aのドライバ制御部121は、CANバス12を介して受信した制動力の目標値に応じた制御信号を、第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bを出力する。
【0059】
第2実施形態では、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、第1マスタコントローラ101Aに対応するドライバに相当する。第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aは、第2マスタコントローラ102Aに対応するドライバに相当する。第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、第1スレーブコントローラ103Aに対応するドライバに相当する。第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bは、第2スレーブコントローラ104Aに対応するドライバに相当する。そして、第2実施形態では、2つのマスタコントローラ101A,102A及び2つのスレーブコントローラ103A,104Aは、ブレーキシステム30A内にあるドライバ90の制御を分担する。
【0060】
<第2実施形態の作用及び効果>
以下、運転者がブレーキ操作を行うときのブレーキシステム30Aの作用について説明する。
【0061】
運転者がブレーキ操作を行う場合、第1マスタコントローラ101Aは、ブレーキ操作量に応じた制動力の目標値を演算する。続いて、第1マスタコントローラ101Aは、制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに出力する。そして、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動する。一方、第1スレーブコントローラ103Aは、第1マスタコントローラ101Aから送信される制動力の目標値を取得する。続いて、第1スレーブコントローラ103Aは、制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに出力する。そして、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動する。こうして、左前輪21及び右前輪22で制動力が発生する。
【0062】
第2マスタコントローラ102Aは、ブレーキ操作量に応じた制動力の目標値を演算する。続いて、第2マスタコントローラ102Aは、制動力の目標値に応じた制御信号を第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aに出力する。そして、第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aは、後輪電動ブレーキ45,46の電気モータ54を駆動する。一方、第2スレーブコントローラ104Aは、第2マスタコントローラ102Aから送信される制動力の目標値を取得する。続いて、第2スレーブコントローラ104Aは、制動力の目標値に応じた制御信号を第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bに出力する。そして、第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bは、後輪電動ブレーキ45,46の電気モータ54を駆動する。こうして、左後輪23及び右後輪24で制動力が発生する。
【0063】
ここで、運転者がブレーキ操作を継続中に、第1マスタコントローラ101Aの目標演算部111及びドライバ制御部112の少なくとも一方に異常が発生した場合を想定する。この場合には、第1マスタコントローラ101Aから第1スレーブコントローラ103Aに対して、制動力の目標値が送信されなくなる。また、第1マスタコントローラ101Aから第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに対する制御信号の出力が無効にされる。つまり、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aが前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動しなくなる。しかし、第1スレーブコントローラ103Aは、CANバス12を介して、第2マスタコントローラ102Aから送信される制動力の目標値を取得できる。このため、第1スレーブコントローラ103Aは、第1マスタコントローラ101Aに異常が発生する前と変わらず、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに制御信号を出力し続けることができる。したがって、ブレーキシステム30Aは、第1マスタコントローラ101Aに異常が発生したとしても、左前輪21及び右前輪22で制動力が発生しなくなることを抑制できる。同様に、ブレーキシステム30Aは、第2マスタコントローラ102Aに異常が発生したとしても、左後輪23及び右後輪24で制動力が発生しなくなることを抑制できる。
【0064】
第2実施形態は以下に示す効果をさらに得ることができる。
(2-1)前輪電動ブレーキ41,42に対応するフロント制御ユニット201A及び後輪電動ブレーキ45,46に対応するリア制御ユニット202Aは同等の構成である。つまり、ブレーキシステム30Aは、前輪電動ブレーキ41,42の制御構成と後輪電動ブレーキ45,46の制御構成とを共通化できる。
【0065】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態に係るブレーキシステム30Bを図3及び図5に従って説明する。第3実施形態の説明では、上記複数の実施形態と相違する部分について主に説明する。第3実施形態の説明では、上記複数の実施形態と同一又は同等の構成について同一の符号を付して説明を省略する。
【0066】
<ブレーキシステム>
図3及び図5に示すように、ブレーキシステム30Bは、複数の車輪20に対して個別に設けられる複数の電動ブレーキ40と、複数の電動ブレーキ40を駆動する複数のドライバ90と、複数のドライバ90を制御する制御装置100Bと、を備えている。
【0067】
<電動ブレーキ>
複数の電動ブレーキ40は、左前輪21で制動力を発生させる第1前輪電動ブレーキ41と、右前輪22で制動力を発生させる第2前輪電動ブレーキ42と、を有している。また、複数の電動ブレーキ40は、左後輪23で制動力を発生させる第1後輪電動ブレーキ45と、右後輪24で制動力を発生させる第2後輪電動ブレーキ46と、を有している。前輪電動ブレーキ41,42は「第1電動ブレーキ」に相当し、後輪電動ブレーキ45,46は「第2電動ブレーキ」に相当している。
【0068】
<ドライバ>
図5に示すように、複数のドライバ90は、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動する2つの第1ドライバ91a,91bと、第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54を駆動する2つの第2ドライバ92a,92bと、を備えている。また、複数のドライバ90は、第1後輪電動ブレーキ45の電気モータ54を駆動する1つの第3ドライバ93と、第2後輪電動ブレーキ46の電気モータ54を駆動する1つの第4ドライバ94と、を備えている。第3実施形態では、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54及び第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54の駆動については冗長化されている。一方、後輪電動ブレーキ45,46の電気モータ54の駆動については冗長化されていない。
【0069】
<制御装置>
図5に示すように、制御装置100は、前輪電動ブレーキ41,42に関わるドライバ91a,91b,92a,92bを制御するフロント制御ユニット201Bと、後輪電動ブレーキ45,46に関わるドライバ93、94を制御するリア制御ユニット202Bと、を備えている。
【0070】
フロント制御ユニット201Bは、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aを制御する第1マスタコントローラ101Bと、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bを制御する第2マスタコントローラ102Bと、を備えている。また、リア制御ユニット202Bは、第3ドライバ93及び第4ドライバ94を制御するスレーブコントローラ103Bと、を備えている。
【0071】
2つのマスタコントローラ101B,102Bは、同じ制御基板に実装されたり、同じケースに収容されたりすることにより、ユニット化されている。マスタコントローラ101B,102B及びスレーブコントローラ103Bは、情報の送受信が可能な状態でCANバス12に接続されている。第3実施形態において、フロント制御ユニット201Bは「第1制御ユニット」の一例に相当し、リア制御ユニット202Bは「第2制御ユニット」の一例に相当している。
【0072】
マスタコントローラ101B,102Bは、目標演算部111と、ドライバ制御部112と、自己診断部113と、自己出力無効部114と、走行禁止部115と、を備えている。第1マスタコントローラ101Bのドライバ制御部112は、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。一方、第2マスタコントローラ102Bのドライバ制御部112は、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。また、マスタコントローラ101B,102Bは、目標演算部111が演算した制動力の目標値をスレーブコントローラ103Bに送信可能となっている。
【0073】
スレーブコントローラ103Bは、ドライバ制御部121を備えている。スレーブコントローラ103Bのドライバ制御部121は、CANバス12を介して受信した制動力の目標値に応じた制御信号を、第3ドライバ93及び第4ドライバ94に出力する。
【0074】
第3実施形態では、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、第1マスタコントローラ101Bに対応するドライバに相当する。第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、第2マスタコントローラ102Bに対応するドライバに相当する。第3ドライバ93及び第4ドライバ94は、スレーブコントローラ103Bに対応するドライバに相当する。そして、第3実施形態では、2つのマスタコントローラ101B,102B及び1つのスレーブコントローラ103Bは、ブレーキシステム30B内にあるドライバ90の制御を分担する。
【0075】
<第3実施形態の作用及び効果>
第3実施形態におけるブレーキシステム30Bによれば、後輪電動ブレーキ45,46を制御するスレーブコントローラ103Bが冗長化されていない点を除き、第1実施形態におけるブレーキシステム30と同等の作用効果を得ることができる。また、ブレーキシステム30Bは、後輪電動ブレーキ45,46を制御するスレーブコントローラ103Bを1つとすることで、後輪電動ブレーキ45,46の制御構成を簡素化できる。
【0076】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態に係るブレーキシステム30Cを図3及び図6に従って説明する。第4実施形態の説明では、上記複数の実施形態と相違する部分について主に説明する。第4実施形態の説明では、上記複数の実施形態と同一又は同等の構成について同一の符号を付して説明を省略する。
【0077】
<ブレーキシステム>
図3及び図6に示すように、ブレーキシステム30Cは、複数の車輪20に対して個別に設けられる複数の電動ブレーキ40と、複数の電動ブレーキ40を駆動する複数のドライバ90と、複数のドライバ90を制御する制御装置100Cと、を備えている。
【0078】
<制動ブレーキ>
複数の電動ブレーキ40は、左前輪21で制動力を発生させる第1前輪電動ブレーキ41と、右前輪22で制動力を発生させる第2前輪電動ブレーキ42と、を有している。また、複数の電動ブレーキ40は、左後輪23で制動力を発生させる第1後輪電動ブレーキ45と、右後輪24で制動力を発生させる第2後輪電動ブレーキ46と、を有している。前輪電動ブレーキ41,42は「第1電動ブレーキ」に相当し、後輪電動ブレーキ45,46は「第2電動ブレーキ」に相当している。
【0079】
<ドライバ>
図6に示すように、複数のドライバ90は、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54を駆動する2つの第1ドライバ91a,91bと、第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54を駆動する2つの第2ドライバ92a,92bと、を備えている。また、複数のドライバ90は、第1後輪電動ブレーキ45の電気モータ54を駆動する2つの第3ドライバ93a,93bと、第2後輪電動ブレーキ46の電気モータ54を駆動する2つの第4ドライバ94a,94bと、を備えている。第4実施形態では、第1前輪電動ブレーキ41の電気モータ54及び第2前輪電動ブレーキ42の電気モータ54の駆動だけでなく、第1後輪電動ブレーキ45の電気モータ54及び第2後輪電動ブレーキ46の電気モータ54の駆動についても冗長化されている。
【0080】
<制御装置>
図6に示すように、制御装置100Cは、前輪電動ブレーキ41,42に関わるドライバ91a,91b,92a,92bを制御するフロント制御ユニット201Cと、後輪電動ブレーキ45,46に関わるドライバ93a,93b,94a,94bを制御するリア制御ユニット202Cと、を備えている。
【0081】
フロント制御ユニット201Cは、第1ドライバ91a,91b及び第2ドライバ92a,92bを制御可能な第1マスタコントローラ101Cを有している。また、フロント制御ユニット201Cは、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aを制御可能な第1スレーブコントローラ103Cと、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bを制御可能な第2スレーブコントローラ104Cと、を有している。第1マスタコントローラ101C、第1スレーブコントローラ103C及び第2スレーブコントローラ104Cは、同じ制御基板に実装されるなどして、ユニット化されている。第1マスタコントローラ101C、第1スレーブコントローラ103C及び第2スレーブコントローラ104Cは、ユニット内において、シリアル通信などによって互いに情報の送受信が可能となっている。さらに、第1マスタコントローラ101C、第1スレーブコントローラ103C及び第2スレーブコントローラ104Cは、情報の送受信が可能な状態でCANバス12に接続されている。つまり、第1マスタコントローラ101C、第1スレーブコントローラ103C及び第2スレーブコントローラ104Cは、シリアル通信が異常である場合には、CANバス12を介した通信を用いて情報の送受信が可能となっている。
【0082】
リア制御ユニット202Cは、第3ドライバ93a,93b及び第4ドライバ94a,94bを制御可能な第2マスタコントローラ102Cを有している。また、リア制御ユニット202Cは、第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aを制御可能な第3スレーブコントローラ105Cと、第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bを制御可能な第4スレーブコントローラ106Cと、を有している。第2マスタコントローラ102C、第3スレーブコントローラ105C及び第4スレーブコントローラ106Cは、同じ制御基板に実装されるなどして、ユニット化されている。第2マスタコントローラ102C、第3スレーブコントローラ105C及び第4スレーブコントローラ106Cは、ユニット内において、シリアル通信などによって互いに情報の送受信が可能となっている。さらに、第2マスタコントローラ102C、第3スレーブコントローラ105C及び第4スレーブコントローラ106Cは、情報の送受信が可能な状態でCANバス12に接続されている。つまり、第2マスタコントローラ102C、第3スレーブコントローラ105C及び第4スレーブコントローラ106Cは、シリアル通信が異常である場合には、CANバス12を介した通信を用いて情報の送受信が可能となっている。
【0083】
こうした点で、フロント制御ユニット201C及びリア制御ユニット202Cは同等に構成されている。第4実施形態において、フロント制御ユニット201Cは「第1制御ユニット」の一例に相当し、リア制御ユニット202Cは「第2制御ユニット」の一例に相当している。
【0084】
マスタコントローラ101C,102Cは、目標演算部111と、ドライバ制御部112と、自己診断部113と、自己出力無効部114と、走行禁止部115と、他者診断部116と、他者出力停止部117と、を備えている。第1マスタコントローラ101Cのドライバ制御部112は、第1ドライバ91a,91b及び第2ドライバ92a,92bに制動力の目標値に応じた制御信号を出力可能である。一方、第2マスタコントローラ102Cのドライバ制御部112は、第3ドライバ93a,93b及び第4ドライバ94a,94bに制動力の目標値に応じた制御信号を出力可能である。他者診断部116は、同じ制御ユニットに属するスレーブコントローラに異常が発生しているか否かを診断する。他者出力停止部117は、同じ制御ユニットに属するスレーブコントローラに異常が発生した場合に、当該スレーブコントローラからドライバに制御信号が出力されないようにする。例えば、他者出力停止部117は、異常が発生したスレーブコントローラからドライバまでの通信経路に設けられたスイッチング素子を切り替えることにより、当該通信経路を遮断すればよい。また、マスタコントローラ101C,102Cは、目標演算部111が演算した制動力の目標値をスレーブコントローラ103C~106Cに送信可能となっている。
【0085】
スレーブコントローラ103C~106Cは、ドライバ制御部121を備えている。第1スレーブコントローラ103Cのドライバ制御部121は、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに対して、制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。同様に、第2スレーブコントローラ104Cのドライバ制御部121は、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに対して、制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。第3スレーブコントローラ105Cのドライバ制御部121は、第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aに対して、制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。第4スレーブコントローラ106Cのドライバ制御部121は、第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bに対して、制動力の目標値に応じた制御信号を出力する。
【0086】
第4実施形態では、1つのドライバに対して、1つのマスタコントローラのドライバ制御部112及び1つのスレーブコントローラのドライバ制御部121の双方から制御信号を出力することが可能となっている。つまり、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、第1マスタコントローラ101Cのドライバ制御部112の制御信号の出力先であるとともに、第1スレーブコントローラ103Cのドライバ制御部121の制御信号の出力先である。また、第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、第1マスタコントローラ101Cのドライバ制御部112の制御信号の出力先であるとともに、第2スレーブコントローラ104Cのドライバ制御部121の制御信号の出力先である。また、第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aは、第2マスタコントローラ102Cのドライバ制御部112の制御信号の出力先であるとともに、第3スレーブコントローラ105Cのドライバ制御部121の制御信号の出力先である。また、第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bは、第2マスタコントローラ102Cのドライバ制御部112の制御信号の出力先であるとともに、第4スレーブコントローラ106Cのドライバ制御部121の制御信号の出力先である。
【0087】
ただし、1つのドライバに対しては、マスタコントローラのドライバ制御部112及びスレーブコントローラのドライバ制御部121の双方から同時に制御信号が出力されることはない。つまり、1つのドライバに対しては、マスタコントローラのドライバ制御部112及びスレーブコントローラのドライバ制御部121の一方から制御信号が出力される。詳しくは、スレーブコントローラ103C~106Cのドライバ制御部121が優先して対応するドライバに制御信号を出力する。以下、第1ドライバ91aを例に説明する。
【0088】
第1ドライバ91aに対しては、第1マスタコントローラ101Cのドライバ制御部112及び第1スレーブコントローラ103Cのドライバ制御部121との双方から制御信号を出力することが可能となっている。第1マスタコントローラ101Cは、他者診断部116による第1スレーブコントローラ103Cにおける異常の発生状況に応じて、ドライバ制御部112から第1ドライバ91aに制御信号を出力するか否かを決定する。すなわち、第1スレーブコントローラ103Cに異常が発生していない場合、第1マスタコントローラ101Cは、ドライバ制御部112から第1ドライバ91aに制御信号を出力させない。つまり、この場合には、第1スレーブコントローラ103Cのドライバ制御部121が第1ドライバ91aに制御信号を出力する。一方、第1スレーブコントローラ103Cに異常が発生した場合、第1マスタコントローラ101Cは、第1スレーブコントローラ103Cの制御信号の出力を停止させる。さらに、第1マスタコントローラ101Cは、ドライバ制御部112から第1ドライバ91aに制御信号を出力させる。つまり、この場合には、第1マスタコントローラ101Cのドライバ制御部112が第1ドライバ91aに制御信号を出力する。
【0089】
第4実施形態では、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、第1マスタコントローラ101C及び第1スレーブコントローラ103Cに対応するドライバに相当する。第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bは、第1マスタコントローラ101C及び第2スレーブコントローラ104Cに対応するドライバに相当する。第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aは、第2マスタコントローラ102C及び第3スレーブコントローラ105Cに対応するドライバに相当する。第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bは、第2マスタコントローラ102C及び第4スレーブコントローラ106Cに対応するドライバに相当する。そして、第4実施形態では、2つのマスタコントローラ101C,102C及び4つのスレーブコントローラ103C~106Cは、ブレーキシステム30C内にあるドライバ90の制御を分担する。
【0090】
<第4実施形態の作用及び効果>
以下、運転者がブレーキ操作を行うときのブレーキシステム30Cの作用について説明する。
【0091】
運転者がブレーキ操作を行う場合、第1マスタコントローラ101Cは、ブレーキ操作量に応じた制動力の目標値を演算する。続いて、第1マスタコントローラ101Cは、第1スレーブコントローラ103C及び第2スレーブコントローラ104Cに制動力の目標値を送信する。続いて、第1スレーブコントローラ103Cは、第1マスタコントローラ101Cから送信された制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに出力する。同様に、第2スレーブコントローラ104Cは、第1マスタコントローラ101Cから送信された制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91b及び第2ドライバ92bに出力する。そして、第1ドライバ91a,91b及び第2ドライバ92a,92bは、前輪電動ブレーキ41,42の電気モータ54を駆動する。こうして、左前輪21及び右前輪22で制動力が発生する。
【0092】
第2マスタコントローラ102Cは、ブレーキ操作量に応じた制動力の目標値を演算する。続いて、第2マスタコントローラ102Cは、第3スレーブコントローラ105C及び第4スレーブコントローラ106Cに制動力の目標値を送信する。続いて、第3スレーブコントローラ105Cは、第2マスタコントローラ102Cに送信された制動力の目標値に応じた制御信号を第3ドライバ93a及び第4ドライバ94aに出力する。同様に、第4スレーブコントローラ106Cは、第2マスタコントローラ102Cに送信された制動力の目標値に応じた制御信号を第3ドライバ93b及び第4ドライバ94bに出力する。そして、第3ドライバ93a,93b及び第4ドライバ94a,94bは、後輪電動ブレーキ45,46の電気モータ54を駆動する。こうして、左後輪23及び右後輪24で制動力が発生する。
【0093】
このように、ブレーキシステム30Cにおいて、スレーブコントローラ103C~106Cに異常が発生していない場合には、マスタコントローラ101C,102Cは制御信号を出力しない。このため、ブレーキシステム30Cは、マスタコントローラ101C,102Cの制御負荷を低減できる。
【0094】
ここで、運転者がブレーキ操作を継続中に、第1スレーブコントローラ103Cに異常が発生する場合について説明する。この場合、第1マスタコントローラ101Cは、第1スレーブコントローラ103Cに異常が発生したことを検出すると、第1スレーブコントローラ103Cから第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに対する制御信号の出力を停止させる。また、第1マスタコントローラ101Cは、制動力の目標値に応じた制御信号を第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに出力する。言い換えれば、第1スレーブコントローラ103Cが第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに制御信号を出力できなくなった代わりに、第1マスタコントローラ101Cが第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aに制御信号を出力する。したがって、第1スレーブコントローラ103Cに異常が発生しても、第1ドライバ91a及び第2ドライバ92aは、前輪電動ブレーキ41の電気モータ54の駆動を継続できる。つまり、ブレーキシステム30Cは、第1スレーブコントローラ103Cに異常が発生したとしても、左前輪21及び右前輪22で制動力が発生しなくなることを抑制できる。また、この場合には、他の実施形態とは異なり、左前輪21及び右前輪22で発生する制動力の大きさが低減することはない。
【0095】
2つのマスタコントローラ101C,102Cの一方に異常が発生した場合の作用効果は、第2実施形態と略同様のため説明を省略する。つまり、ブレーキシステム30Cは、2つのマスタコントローラ101C,102Cの一方に異常が発生した場合でも、何れかの車輪20で制動力が発生できなくなることを抑制できる。
【0096】
(変更例)
上記複数の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記複数の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0097】
・第1実施形態において、走行禁止部115はマスタコントローラ101,102から省略してもよい。他の実施形態においても同様である。
・第1実施形態において、後輪電動ブレーキ43,44だけでなく、前輪電動ブレーキ41,42も乾式の電動ブレーキであってもよい。他の実施形態においても同様である。
【0098】
・第1実施形態において、1つの電動シリンダ60で、左前輪21のホイールシリンダ53及び右前輪22のホイールシリンダ53の双方にブレーキ液を供給できるように前輪電動ブレーキを構成してもよい。他の実施形態でも同様である。
【0099】
・第4実施形態において、他者診断部116は、マスタコントローラ101C,102Cから省略してもよい。この場合、スレーブコントローラ103C~106Cは、自己のドライバ制御部121に異常が発生しているか否かを判定する診断部を備えることが好ましい。そして、スレーブコントローラ103C~106Cの診断部は、自己のドライバ制御部121に異常が発生しているか否かを示す識別信号を同じ制御ユニットに属するマスタコントローラ101C,102Cに送信することが好ましい。これによれば、マスタコントローラ101C,102Cは、スレーブコントローラ103C~106Cから送信される識別信号に基づき、スレーブコントローラ103C~106Cに異常が発生しているか否かを認識できる。
【0100】
・第1実施形態において、自己出力無効部114は、目標演算部111及びドライバ制御部112の少なくとも一方に異常が発生していると診断された場合に、目標演算部111からの制動力の目標値の出力を無効にする。これに対し、異常の発生が診断されたマスタコントローラにおいて、自己出力無効部114は、目標演算部111からスレーブコントローラ103,104に対する制動力の目標値の出力を許容してもよい。この場合、スレーブコントローラ103,104は、フラグの値を参照して、異常の発生が診断されたマスタコントローラから送信される制動力の目標値を使用するか否かを判定することが好ましい。そして、自己出力無効部114は、異常の発生状況に応じて、スレーブコントローラ103,104が参照するフラグの値を切り換えることが好ましい。他の実施形態でも同様である。
【0101】
・各実施形態において、走行禁止部115は、対応する自己出力無効部114に異常が発生していると診断された場合に、車両10の走行を制限する走行制限部としてもよい。詳しくは、走行制限部は、自己出力無効部114に異常が発生していると診断された場合に、エンジン及びモータジェネレータなどを制御する駆動制御装置に車両10の走行を制限する旨の信号を送信する。そして、当該信号を受信した駆動制御装置は、エンジン及びモータジェネレータの出力トルクを制限する。このとき、駆動制御装置は、車両10の徐行までを許容してもよい。
【0102】
・各実施形態において、車両10は、二輪車であってもよい。この場合、二輪車の前輪を上記の各実施形態における左前輪21とするとともに二輪車の後輪を上記の各実施形態における左後輪23とみなして、ブレーキシステムを構成することが好ましい。また、車両10は、三輪車であってもよい。
【0103】
・第1実施形態において、マスタコントローラ101,102及びスレーブコントローラ103,104は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。他の実施形態においても同様である。
【0104】
・「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」または「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」または「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【0105】
(他の技術的思想)
最後に、上記複数の実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
上記ブレーキシステムは、前記第1及び第2マスタコントローラよりも低機能のスレーブコントローラを備え、前記複数の電動ブレーキは、前記車輪のうちの第1車輪で制動力を発生させる第1電動ブレーキと、前記車輪のうちの前記第1車輪とは異なる第2車輪で制動力を発生させる第2電動ブレーキと、を有し、前記第1マスタコントローラの前記ドライバ制御部が制御信号を出力するドライバは、前記第1電動ブレーキの前記電気モータを駆動するドライバであり、前記第2マスタコントローラの前記ドライバ制御部が制御信号を出力するドライバは、前記第1電動ブレーキの前記電気モータを駆動するドライバであり、前記第1及び第2マスタコントローラは、前記スレーブコントローラに、前記目標値を送信可能であり、前記スレーブコントローラは、前記第1及び第2マスタコントローラの2つと対応するドライバとは異なるドライバであって、前記複数のドライバのうち、前記第2電動ブレーキの前記電気モータを駆動するドライバに、前記目標値に応じた制御信号を出力するドライバ制御部を有することが好ましい。
【0106】
上記ブレーキシステムは、前記第1及び第2マスタコントローラよりも低機能の第1スレーブコントローラ及び第2スレーブコントローラを備え、前記複数の電動ブレーキは、前記車輪のうちの第1車輪で制動力を発生させる第1電動ブレーキと、前記車輪のうちの前記第1車輪とは異なる第2車輪で制動力を発生させる第2電動ブレーキと、を有し、前記第1及び第2マスタコントローラの各々は、前記第1スレーブコントローラ及び前記第2スレーブコントローラに前記目標値を送信可能であり、前記第1スレーブコントローラは、前記第1マスタコントローラと対応するドライバと同一のドライバに、前記目標値に応じた制御信号を出力するドライバ制御部を有し、前記第2スレーブコントローラは、前記第2マスタコントローラと対応するドライバと同一のドライバに、前記目標値に応じた制御信号を出力するドライバ制御部を有し、前記第1マスタコントローラの前記ドライバ制御部及び前記第1スレーブコントローラの前記ドライバ制御部が制御信号を出力するドライバは、前記第1電動ブレーキの前記電気モータを駆動するドライバであり、前記第2マスタコントローラの前記ドライバ制御部及び前記第2スレーブコントローラの前記ドライバ制御部が制御信号を出力するドライバは、前記第2電動ブレーキの前記電気モータを駆動するドライバであることが好ましい。
【符号の説明】
【0107】
10…車両
11…車台
20(21~24)…車輪
30,30A~30C…ブレーキシステム
40…電動ブレーキ
41,42…前輪電動ブレーキ(第1電動ブレーキ)
43~46…後輪電動ブレーキ(第2電動ブレーキ)
51,71…摩擦部材
52,72…回転体
54,73…電気モータ
60…電動シリンダ(電動アクチュエータ)
80…アクチュエータ(電動アクチュエータ)
90…ドライバ
91a,91b…第1ドライバ
92a,92b…第2ドライバ
93,93a,93b…第3ドライバ
94,94a,94b…第4ドライバ
100,100A~100C…制御装置
101,101A~101C…第1マスタコントローラ
102,102A~102C…第2マスタコントローラ
103,103A~103C…第1スレーブコントローラ
104,104A,104C…第2スレーブコントローラ
111…目標演算部
112…ドライバ制御部
113…自己診断部
114…自己出力無効部
115…走行禁止部
116…他者診断部
117…他者出力停止部
121…ドライバ制御部
131…前輪制動ユニット(第1ユニット)
132…第1後輪制動ユニット(第2ユニット)
133…第2後輪制動ユニット(第2ユニット)
201,201A~201C…フロント制御ユニット(第1制御ユニット)
202,203,202A~202C…リア制御ユニット(第2制御ユニット)
図1
図2
図3
図4
図5
図6