(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149817
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】電動制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20231005BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20231005BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20231005BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20231005BHJP
F16D 127/02 20120101ALN20231005BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20231005BHJP
F16D 129/08 20120101ALN20231005BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D65/18
F16D121:24
F16D125:40
F16D127:02
F16D127:06
F16D129:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058583
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
【Fターム(参考)】
3D048BB11
3D048BB54
3D048BB59
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH58
3D048QQ12
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA78
3J058AA87
3J058BA67
3J058BA70
3J058CC13
3J058CC15
3J058CC62
3J058CC77
3J058FA07
(57)【要約】
【課題】維持機構を備える電動制動装置に関して、維持状態を解除する解除機構を提案する。
【解決手段】電動制動装置10は、電気モータによって駆動される摩擦材を車両の車輪と共に回転する回転部に押し付けることで制動力を付与する制動力付与機構と、制動力を維持する制動力維持機構50と、を備えている。制動力維持機構50は、電気モータと連動して回転する回転体51を備えている。制動力維持機構50は、回転体51に係合することで回転体51の回転を抑制する係合部52を備えている。電動制動装置10は、制動力維持機構50の内部状態を維持状態から解除状態に遷移させることで係合部52と回転体51との係合を解除する解除機構70を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータの回転運動を直線運動に変換する直動変換部と前記直動変換部による直線運動によって駆動する摩擦材とを有しており前記摩擦材を車両の車輪と共に回転する回転部に押し付けることで前記車輪に制動力を付与する制動力付与機構と、前記制動力付与機構によって付与されている制動力を維持する制動力維持機構と、を備える電動制動装置であって、
前記電気モータの回転運動による回転方向のうち前記制動力付与機構によって前記車輪に付与されている制動力を低下させる方向を低下方向として、前記回転方向のうち前記低下方向とは反対方向を増加方向として、
前記制動力維持機構は、
前記電気モータと連動して回転する回転体と、
前記回転体に係合することで前記回転体の前記低下方向への回転を抑制する一方で、前記回転体に係合した状態で前記回転体の前記増加方向への回転を許容する係合部と、
前記係合部が前記回転体と係合する係合位置と、前記係合部が前記回転体と係合しない非係合位置と、の間で前記係合部を移動させるアクチュエータと、を有しており、
前記制動力付与機構によって前記車輪に制動力が付与されている状態で、前記アクチュエータにより前記係合部を前記係合位置に移動させることで、前記車輪に付与されていた制動力を維持することができ、
前記電気モータによって前記回転体を前記増加方向に回転させながら、前記アクチュエータにより前記係合部を前記非係合位置に移動させることで、前記車輪に付与されていた制動力を解放することができ、
前記制動力維持機構の内部状態を前記係合部による前記回転体の係合が維持される維持状態から前記係合部による前記回転体の係合が解除される解除状態に遷移させる解除機構を備える
電動制動装置。
【請求項2】
前記アクチュエータによって移動される前記係合部の移動を案内するガイドを備え、
前記ガイドは、前記維持状態において、前記係合部と前記ガイドとが接触することで、前記回転体が前記低下方向に回転しようとする力に抗して前記係合部を前記係合位置に保持するものであり、
前記解除機構は、前記制動力維持機構の内部状態において前記ガイドを前記係合部から離れるように移動させることを介して、前記解除状態に遷移させる
請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項3】
前記解除機構は、前記回転体が前記低下方向に回転しようとする力が前記係合部を介して前記ガイドに対して作用する方向に、前記ガイドを移動させる
請求項2に記載の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動モータの回転動作を、摩擦部材と係合するピストンの進退動作に変換する電動ブレーキアクチュエータが開示されている。電動ブレーキアクチュエータは、ピストンの進退動作と連動して回転する連動回転体と、連動回転体を係止してピストンの進退を禁止する係止ロッドと、を備えている。電動ブレーキアクチュエータは、ピストンを前進させる方向に電動モータを回転させることによって、係止ロッドと連動回転体との係合を解除できるように構成されている。さらに電動ブレーキアクチュエータは、係止ロッドが連動回転体に係合した状態から係合しない状態に移行させる機構として、係止ロッドを傾動させる係止ロッド傾動機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている係止ロッド傾動機構は、ハウジングの外に取り付けられている。このため、係止ロッド傾動機構を備えていることによって装置の大型化に繋がるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための電動制動装置は、電気モータの回転運動を直線運動に変換する直動変換部と前記直動変換部による直線運動によって駆動する摩擦材とを有しており前記摩擦材を車両の車輪と共に回転する回転部に押し付けることで前記車輪に制動力を付与する制動力付与機構と、前記制動力付与機構によって付与されている制動力を維持する制動力維持機構と、を備える電動制動装置であって、前記電気モータの回転運動による回転方向のうち前記制動力付与機構によって前記車輪に付与されている制動力を低下させる方向を低下方向として、前記回転方向のうち前記低下方向とは反対方向を増加方向として、前記制動力維持機構は、前記電気モータと連動して回転する回転体と、前記回転体に係合することで前記回転体の前記低下方向への回転を抑制する一方で、前記回転体に係合した状態で前記回転体の前記増加方向への回転を許容する係合部と、前記係合部が前記回転体と係合する係合位置と、前記係合部が前記回転体と係合しない非係合位置と、の間で前記係合部を移動させるアクチュエータと、を有しており、前記制動力付与機構によって前記車輪に制動力が付与されている状態で、前記アクチュエータにより前記係合部を前記係合位置に移動させることで、前記車輪に付与されていた制動力を維持することができ、前記電気モータによって前記回転体を前記増加方向に回転させながら、前記アクチュエータにより前記係合部を前記非係合位置に移動させることで、前記車輪に付与されていた制動力を解放することができ、前記制動力維持機構の内部状態を前記係合部による前記回転体の係合が維持される維持状態から前記係合部による前記回転体の係合が解除される解除状態に遷移させる解除機構を備えることをその要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、制動力維持機構の内部状態を維持状態から解除状態に遷移させる解除機構によって、維持状態を解除することができる。解除機構は、キャリパハウジングの外部に大きく突出するものになりにくい。このため、キャリパハウジングが大型になることを抑制できる。これによって、電動制動装置と、電動制動装置が搭載される位置の周囲に配置される部材とが干渉することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態の電動制動装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、同電動制動装置を示す断面図である。
【
図3】
図3は、同電動制動装置が備える制動力維持機構と解除機構とを示す模式図である。
【
図4】
図4は、同電動制動装置が備える制動力維持機構と解除機構とを示す図であり、維持状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、同電動制動装置が備える制動力維持機構と解除機構とを示す図であり、解除機構によって維持状態を解除した状態を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の電動制動装置を示す模式図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態の電動制動装置を示す模式図である。
【
図8】
図8は、変更例の電動制動装置を示す模式図である。
【
図9】
図9は、他の変更例の電動制動装置を示す模式図である。
【
図10】
図10は、別の変更例の電動制動装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
第1実施形態の電動制動装置10について、
図1~
図5を参照して説明する。
<電動制動装置>
電動制動装置10は、制動力付与機構20を備えている。制動力付与機構20は、電気モータ12の回転運動を直線運動に変換する直動変換部40と直動変換部40による直線運動によって駆動する摩擦材22とを有している。制動力付与機構20は、摩擦材22を車両の車輪と共に回転する回転部21に押し付けることで車輪に制動力を付与する。電動制動装置10は、制動力付与機構20によって付与されている制動力を維持する制動力維持機構50を備えている。
【0009】
電気モータ12の回転運動による回転方向のうち制動力付与機構20によって車輪に付与されている制動力を低下させる方向を低下方向とする。上記回転方向のうち低下方向とは反対方向を増加方向とする。車輪に付与されている制動力を制動力維持機構50によって維持している状態を維持状態とする。
【0010】
制動力維持機構50は、電気モータ12と連動して回転する回転体51を備えている。制動力維持機構50は、回転体51に係合することで回転体51の低下方向への回転を抑制する係合部52を備えている。係合部52は、一方で、回転体51に係合した状態で回転体51の増加方向への回転を許容する。制動力維持機構50は、係合部52が回転体51と係合する係合位置と、係合部52が回転体51と係合しない非係合位置と、の間で係合部52を移動させるアクチュエータ53を備えている。なお、「係合」するとは、たとえば、一方の部材と他方の部材とが咬み合うことを示す。「係合」するとは、たとえば、一方の部材が他方の部材に引っ掛かった状態で固定されることを示す。
【0011】
電動制動装置10は、制動力付与機構20によって車輪に制動力が付与されている状態で、アクチュエータ53により係合部52を係合位置に移動させることで、車輪に付与されていた制動力を維持することができる。電動制動装置10では、電気モータ12によって回転体51を増加方向に回転させながら、アクチュエータ53により係合部52を非係合位置に移動させることで、車輪に付与されていた制動力を解放することができる。電動制動装置10は、制動力維持機構50の内部状態を係合部52による回転体51の係合が維持される維持状態から係合部52による回転体51の係合が解除される解除状態に遷移させる解除機構70を備えている。なお、「内部状態」とは、たとえば、該当する機構を当該機構として成り立たせる仕掛けに相当する。
【0012】
図1は、電動制動装置10を示している。電動制動装置10は、キャリパハウジング11を備えている。電動制動装置10は、制動力付与機構20を備えている。
制動力付与機構20は、車両の車輪と一体回転する回転部21に押し付けることのできる摩擦材22を備えている。回転部21は、たとえば、ブレーキディスクである。制動力付与機構20は、摩擦材22を回転部21に押し付ける力が大きいほど大きな制動力を発生させることができる。
【0013】
制動力付与機構20は、電気モータ12を備えている。
図1には、電気モータ12のモータ軸13における軸心に沿った軸線を回転軸C1として表示している。制動力付与機構20は、電気モータ12の回転運動を直線運動に変換する直動変換部40を備えている。直動変換部40は、たとえば、ねじ軸とナットとによって構成されている送りねじである。直動変換部40は、回転部21に向かう端部に摩擦材22が取り付けられているピストン41を備えている。直動変換部40は、回転運動を変換した直線運動によってピストン41、すなわち摩擦材22を移動させることができる。直線運動によってピストン41が移動される方向のうち一方は、摩擦材22を回転部21に近づける方向である。直線運動によってピストン41が移動される方向のうち他方は、摩擦材22を回転部21から離す方向である。
【0014】
制動力付与機構20は、電気モータ12の回転運動を直動変換部40に伝達する伝達部30を備えている。伝達部30は、減速機構を備えていてもよい。伝達部30の一例を説明する。
【0015】
図1に示すように、たとえば、伝達部30は、ギア等の組み合わせによって構成されている。
図1に例示する伝達部30は、第1ギア31、第2ギア32、第3ギア33および第4ギア34を備えている。伝達部30は、ギアが取り付けられている中間軸38および出力軸39を備えている。第1ギア31は、モータ軸13に取り付けられている。第2ギア32および第3ギア33は、中間軸38に取り付けられている。第4ギア34は、出力軸39に取り付けられている。第1ギア31と第2ギア32とが咬み合うことで電気モータ12の回転運動をモータ軸13から中間軸38に伝達することができる。第3ギア33と第4ギア34とが咬み合うことで電気モータ12の回転運動を中間軸38から出力軸39に伝達することができる。出力軸39は、直動変換部40に連結されている。出力軸39を回転させることによって直動変換部40に回転運動が伝達される。
【0016】
電動制動装置10は、電気モータ12のモータ軸13が第1方向D1に回転することによって制動力を低下させるように構成されている。一方で、電気モータ12のモータ軸13が第1方向D1とは反対の方向である第2方向D2に回転することによって、電動制動装置10は、制動力を増加させるように構成されている。第1方向D1は、「低下方向」に対応する。第2方向D2は、「増加方向」に対応する。
【0017】
図1および
図2に示すように、電動制動装置10は、制動力維持機構50を備えている。制動力維持機構50は、制動力付与機構20によって付与されている制動力を維持することができる。制動力維持機構50は、ラチェット機構として機能する。制動力維持機構50は、回転体51、係合部52、アクチュエータ53およびガイド60を備えている。回転体51は、ラチェット歯車である。回転体51は、モータ軸13に取り付けられている。回転体51は、モータ軸13の回転と連動して回転軸C1を中心に回転する。係合部52は、回転体51の歯に咬み合う爪形状を有している。アクチュエータ53およびガイド60は、係合部52を回転体51に咬み合わせることで、制動力維持機構50を維持状態にすることができる。制動力維持機構50は、制動力付与機構20によって付与されている制動力を維持している状態では、回転体51が第1方向D1に回転することを回り止めする一方で、回転体51が第2方向D2に回転することを許容する。回転体51が回り止めされる方向は、回転体51の歯、および係合部52の爪形状が延びる方向によって規定されている。
【0018】
電動制動装置10は、制動力維持機構50による維持状態を解除する機構として二つの機構を備えている。第1機構は、維持状態にある場合に、電気モータ12のモータ軸13を第2方向D2に回転することによって維持状態を解除することができる機構である。電動制動装置10は、第2機構として解除機構70を備えている。詳細は後述するが、解除機構70は、維持状態を解除する際に通電を必要としない機構である。解除機構70は、係合部52と回転体51との咬み合いを解消させることによって維持状態を解除することができる機構である。
【0019】
<制動力維持機構>
図3および
図4を用いて、制動力維持機構50を具体的に説明する。
アクチュエータ53は、係合部52を移動させることができる。アクチュエータ53の一例は、ソレノイドである。アクチュエータ53による係合部52の移動について説明する。ソレノイドを構成するコイル54に電流が流されると、磁界が発生する。磁界が発生すると固定鉄心に磁束が通る。固定鉄心に磁束が通ると、可動鉄心が固定鉄心に吸引される。アクチュエータ53では、可動鉄心にプッシュバー55が固定されている。アクチュエータ53では、可動鉄心が固定鉄心に吸引されることによってプッシュバー55が回転体51に近づく方向に移動するように構成されている。係合部52は、回転体51に近づく方向に移動するプッシュバー55によって押されることで、回転体51に近づく方向に移動することができる。
【0020】
ガイド60は、アクチュエータ53によって移動される係合部52を案内する。ガイド60は、第1ガイド61と第2ガイド62を備えている。第1ガイド61は、アクチュエータ53に固定されている。第2ガイド62は、アクチュエータ53に固定されていない。電動制動装置10は、キャリパハウジング11の内部において第2ガイド62を所定の位置に配置するための支持部71を備えている。所定の位置とは、第1ガイド61と第2ガイド62との間に、係合部52が移動することのできる通路を確保できる位置である。第2ガイド62が所定の位置に保持されている場合には、係合部52は、第1ガイド61と第2ガイド62とに挟まれた位置に配置される。
【0021】
支持部71は、本体部72と操作部73によって構成されている。本体部72は、キャリパハウジング11の内部に配置されている。操作部73は、キャリパハウジング11の外部に配置されている。本体部72は、一端が操作部73に連結されている。本体部72は、他端が第2ガイド62に接触している。たとえば、本体部72は、操作部73から第2ガイド62に向かって延びる棒状である。キャリパハウジング11には、本体部72を挿入することのできる貫通孔11aが形成されている。
【0022】
支持部71は、キャリパハウジング11に固定されている。支持部71は、キャリパハウジング11から取り外すことが可能である。一例として、たとえば、貫通孔11aにめねじを切るとともに、おねじを有する棒ねじとして本体部72を形成することによって、支持部71を貫通孔11aにねじ込んでねじ締結することができる。その他の例として、支持部71を貫通孔11aに圧入して固定してもよい。
【0023】
電動制動装置10は、係合部52とガイド60との間に配置されている弾性体56を備えている。弾性体56は、係合部52が回転体51から離れる方向に係合部52を押し付けている。コイル54に通電されることによる係合部52を押す力が、弾性体56が係合部52を押す力よりも大きくなると、係合部52が回転体51に押し付けられる。
【0024】
係合部52が回転体51と接触することで、係合部52と回転体51とが咬み合う位置を係合位置とする。係合部52が回転体51と接触しない位置を非係合位置とする。アクチュエータ53は、係合部52を係合位置と非係合位置との間で移動させることができる。
図3は、係合部52が非係合位置にある状態を示している。
図4は、係合部52が係合位置にある状態を示している。係合部52と回転体51とが咬み合っている状態が、車輪に付与されている制動力を制動力維持機構50によって維持している維持状態である。
【0025】
<維持状態>
図4は、維持状態にある電動制動装置10を示す。
図4には、第1方向D1を示す時計回りの矢印を表示している。
図4には、第2方向D2を示す反時計回りの矢印を表示している。
【0026】
維持状態では、回転体51を第1方向D1に回転させようとしても、係合部52と回転体51との咬み合いによって、回転体51の回転が規制される。
維持状態では、回転体51を第1方向D1に回転させようとすると、係合部52の爪形状と回転体51の歯とを咬み合わせる方向の力が作用する。このため、係合部52を係合位置に移動して係合部52と回転体51とを咬み合わせた後では、コイル54への通電を停止しても係合部52と回転体51とを咬み合わせた状態を維持することができる。
【0027】
ガイド60における第2ガイド62は、維持状態において、係合部52と第2ガイド62とが咬み合うことで、回転体51が第1方向D1に回転しようとする力に抗して係合部52を係合位置に保持することができる。
【0028】
<第1機構>
維持状態を解除できる第1機構について説明する。
上記説明したように、維持状態では、回転体51を第1方向D1に回転させようとすると、係合部52の爪形状と回転体51の歯とを咬み合わせる方向の力が作用する。
【0029】
この一方で、回転体51を第2方向D2に回転させようとすると、係合部52の爪形状が回転体51の歯を乗り越えることができる。係合部52の爪形状が回転体51の歯を乗り越えると、係合部52の爪形状と回転体51の歯との咬み合いが解消される。これによって、回転体51を第2方向D2に回転させることができる。回転体51の歯との咬み合いが解消された係合部52は、弾性体56によって押されることで、係合位置には保持されなくなる。
【0030】
<解除機構(第2機構)>
図5を用いて、維持状態を解除できる第2機構としての解除機構70について説明する。
【0031】
電動制動装置10が備える解除機構70は、支持部71および第2ガイド62によって構成されている。解除機構70は、第2ガイド62を係合部52から離れるように移動させることを介して、係合部52と回転体51との咬み合いが解消されることを許容する。より具体的には、支持部71における本体部72を第2ガイド62から離すことによって、第2ガイド62が所定の位置から移動することを許容する。支持部71によって支えられていない状態の第2ガイド62は、回転体51が第1方向D1に回転しようとする力に抗することができない。すなわち、回転体51が第1方向D1に回転しようとする力が発生すると、係合部52を介して第2ガイド62が所定の位置から押し出される。第2ガイド62が移動することで、係合部52が係合位置に保持されなくなる。このため、係合部52と回転体51との咬み合いが解消される。すなわち、維持状態が解除される。
【0032】
解除機構70では、維持状態を解除する際には、回転体51が第1方向D1に回転しようとする力が係合部52を介して第2ガイド62に対して作用する力の方向に、第2ガイド62を移動させる。第1実施形態において第2ガイド62を移動させる方向は、第1ガイド61、係合部52、第2ガイド62が並ぶ方向に対応する。
図5には、第2ガイド62を移動させる当該方向として、第3方向D3を示す矢印を表示している。
【0033】
解除機構70では、支持部71を移動させる方向は、第2ガイド62を移動させる方向と同様に第3方向D3である。たとえば、支持部71をねじ締結している場合には、操作部73を把持してから、ねじを緩める方向に操作部73を回転させることによって、支持部71を第3方向D3に移動させることができる。たとえば、支持部71を圧入している場合には、操作部73を把持してから操作部73を第3方向D3に引っ張ることによって、支持部71を第3方向D3に移動させることができる。操作部73の把持は、作業者の手によって行ってもよいし、工具等を使用してもよい。
【0034】
<作用および効果>
第1実施形態の作用および効果について説明する。
電動制動装置10に失陥が生じていない状態を通常状態とする。通常状態では、第1機構によって維持状態を解除することができる。ここで仮に、電気モータ12を駆動できない失陥が電動制動装置10に生じると、第1機構によって維持状態を解除することができない。
【0035】
こうした失陥によって第1機構によって維持状態を解除することができない場合でも、第2機構として解除機構70を備えている電動制動装置10によれば、維持状態を解除することができる。
【0036】
電動制動装置10の解除機構70では、維持状態を解除する際に電気モータ12の作動を必要としないことは上述の通りである。さらに、解除機構70では、電気モータ12に限らず、通電によって作動する機構を採用していない。すなわち、電力を供給することができない場合でも維持状態を解除することができる。なお、解除機構70による維持状態の解除は、電動制動装置10が通常状態にある場合には行わないことが好ましい。
【0037】
電動制動装置10では、第2ガイド62は、維持状態において、係合部52と第2ガイド62とが咬み合うことで、回転体51が第1方向D1に回転しようとする力に抗して係合部52を係合位置に保持している。解除機構70では、こうした第2ガイド62を保持している支持部71を移動させることで第2ガイド62が所定の位置から押し出されやすくなる。これによって、係合部52と回転体51との咬み合いが解消されやすくなる。
【0038】
電動制動装置10の解除機構70によれば、「制動力維持機構の内部状態を係合部による回転体の係合が維持される維持状態から係合部による回転体の係合が解除される解除状態に遷移させる」ことができる。解除機構70は、「制動力維持機構の内部状態においてガイドを係合部から離れるように移動させることを介して、解除状態に遷移させる」ことができる。すなわち、解除機構70は、キャリパハウジング11の内部において、制動力維持機構50における第2ガイド62が係合部52から離れるように移動することを許容する。解除機構70は、第2ガイド62を係合部52から離れるように移動させることを介して、制動力維持機構50が制動力を維持するメカニズムである係合部52と回転体51との咬み合いを解消させる。これによって、解除機構70は、キャリパハウジング11の内部において第2ガイド62を移動させることによって維持状態を解除させることができる。こうした解除機構70は、キャリパハウジング11の外部に大きく突出するものではない。このため、電動制動装置10によれば、キャリパハウジング11が大型になることを抑制できる。キャリパハウジング11が大型であったり、キャリパハウジング11の外部に大きく突出する部材を備えていたりする場合には、電動制動装置10と、電動制動装置10が搭載される位置の周囲に配置される部材とが干渉するおそれがある。電動制動装置10によれば、電動制動装置10と、電動制動装置10が搭載される位置の周囲に配置される部材とが干渉することを抑制できる。
【0039】
(第2実施形態)
図6を用いて第2実施形態の電動制動装置110について説明する。以下では、第1実施形態と共通の構成については説明を省略する。
【0040】
電動制動装置110では、ラチェット歯車としての回転体151よりも小径の歯車として、小径歯車114を備えている。小径歯車114は、モータ軸13に取り付けられている。回転体151は、小径歯車114と咬み合う内歯151aを備えている。回転体151は、小径歯車114と咬み合うように、小径歯車114の外側に配置されている。言い換えれば、回転体151の内側に小径歯車114が嵌め込まれている。小径歯車114を介して、回転体151に対して電気モータ12の回転運動が伝達される。
【0041】
電動制動装置110の解除機構170は、回転体151と小径歯車114とによって構成されている。解除機構170は、さらに、回転体151をモータ軸13の軸方向に移動させる構造を備えている。すなわち、回転体151を図中の手前方向または奥方向に移動させることができる。回転体151を移動させると、回転体151と小径歯車114との咬み合いは解消される。また、回転体151と係合部52との咬み合いが解消される。
【0042】
解除機構170では、回転体151をモータ軸13の軸方向に移動させることで、係合部52と回転体151との咬み合いが解消されることを許容する。
電動制動装置110の解除機構170によれば、「制動力維持機構の内部状態を係合部による回転体の係合が維持される維持状態から係合部による回転体の係合が解除される解除状態に遷移させる」ことができる。すなわち、解除機構170は、制動力維持機構における回転体151を移動させることを介して、制動力維持機構が制動力を維持するメカニズムである係合部52と回転体151との咬み合いを解消させる。これによって、解除機構170は、維持状態を解除させることができる。
【0043】
第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、以下の効果を奏する。第1機構によって維持状態を解除することができない場合でも、解除機構170によって維持状態を解除することができる。電力を供給することなく維持状態を解除できる。キャリパハウジングが大型になることを抑制できる。
【0044】
(第3実施形態)
図7を用いて第3実施形態の電動制動装置210について説明する。
電動制動装置210における制動力維持機構250は、モータ軸13に固定されている回転体251を備えている。制動力を増大させる場合には回転体251が第2方向D2に回転する一方、制動力を減少させる場合には回転体251が第1方向D1に回転する。
【0045】
制動力維持機構250は、アーム281を備えている。アーム281の長さは、回転体251の直径よりも長い。制動力維持機構250は、アーム281の一端を支持する支持軸282を備えている。支持軸282は、モータ軸13と同一方向に延びている。支持軸282は、キャリパハウジングの内部において位置が固定されている。
【0046】
制動力維持機構250は、ガイド260を備えている。制動力維持機構250は、ガイド260を所定の位置に配置する支持部271を備えている。
ガイド260は、ガイド面260aを有している。ガイド面260aは、回転体251に向かい合う部分を有している。
【0047】
電動制動装置210は、回転体251に咬み合わせることができる係合部252として、アーム281に支持されている係合部252を備えている。係合部252は、アーム281の他端にピン283によって取り付けられている。ピン283は、支持軸282と同一方向に延びている。係合部252は、アーム281に取り付けられている基端部252aから弧を描くように延びている。係合部252は、回転体251とガイド260との間に配置されている。係合部252は、弧の内側に回転体251と咬み合う歯を備えている。係合部252は、歯を有する部分において先端部252bに近づくほど幅が小さくなっている。
【0048】
制動力維持機構250は、係合部252を退避方向Z2に付勢する付勢部材284を備えている。付勢部材284は、アーム281に対して付勢力を付与することによって、係合部252を退避方向Z2に付勢している。
【0049】
制動力維持機構250は、アクチュエータ253を備えている。アクチュエータ253は、プッシュバー255と、コイル254とを有している。プッシュバー255は、係合部252の基端部252aに近づく方向、および、基端部252aから離れる方向に移動することができる。コイル254に通電すると、プッシュバー255が係合部252を押すことによって、係合部252が進出方向Z1に移動する。制動力維持機構250は、プッシュバー255を係合部252から離れる方向に押し付ける弾性体256を有している。
【0050】
係合部252とガイド260との位置関係について説明する。ガイド260は、係合部252が進出方向Z1に移動するほど、係合部252とガイド260との間の間隔が狭い部分に係合部252が入り込むように、係合部252に対しての相対位置が設定されている。
【0051】
制動力維持機構250は、係合部252と回転体251とを咬み合わせることによって、回転体251の第1方向D1への回転を係合部252によって規制させることができる。
【0052】
電動制動装置210では、維持状態にある場合に回転体251を第2方向D2に回転させることで、係合部252を回転体251とガイド260との間から押し出すことができる。すなわち、電動制動装置210では、第1実施形態における第1機構と同様に、回転体251を第2方向D2に回転させることによって維持状態を解除する機構を備えている。
【0053】
電動制動装置210は、解除機構270を備えている。電動制動装置210が備える解除機構270は、支持部271およびガイド260によって構成されている。解除機構270は、ガイド260を係合部252から離れるように移動させることを介して、係合部252と回転体251との咬み合いが解消されることを許容する。ガイド260を移動させる方向は、たとえば、回転体251が第1方向D1に回転しようとする力が係合部252を介してガイド260に対して作用する力の方向である。支持部271を回転体251から離れるように移動することによって、係合部252が移動することを許容できる。
【0054】
電動制動装置210の解除機構270によれば、「制動力維持機構の内部状態を係合部による回転体の係合が維持される維持状態から係合部による回転体の係合が解除される解除状態に遷移させる」ことができる。すなわち、解除機構270は、制動力維持機構250におけるガイド260を移動させることを介して、制動力維持機構250が制動力を維持するメカニズムである係合部252と回転体251との咬み合いを解消させる。これによって、解除機構270は、維持状態を解除させることができる。
【0055】
第3実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、以下の効果を奏する。回転体251を第2方向D2に回転させることを介して維持状態を解除することができない場合でも、解除機構270によって維持状態を解除することができる。電力を供給することなく維持状態を解除できる。キャリパハウジングが大型になることを抑制できる。
【0056】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・上記第1実施形態では、第2ガイド62が固定されていない例を示した。電動制動装置としては、第2ガイドが支持されている構成を採用することもできる。
図8には、第1ガイド161と第2ガイド162とによって構成されたガイド160を備える電動制動装置310を例示している。電動制動装置310は、第2ガイド162を支持する揺動軸163を備えている。たとえば、揺動軸163は、モータ軸13に対して平行に延びている。第2ガイド162は、揺動軸163を中心として揺動することができる。揺動軸163は、揺動軸163を中心として第2ガイド162が揺動することができるように、たとえば、アクチュエータ53に取り付けられている。
図8には、所定の位置から揺動した状態の第2ガイド162を示している。電動制動装置310の解除機構370は、支持部71および第2ガイド162によって構成されている。
【0058】
この構成によれば、支持部71を第3方向D3に移動させて第2ガイド162から本体部72を離すと、第2ガイド162が揺動できる状態になる。この状態で、回転体51が第1方向D1に回転しようとすることに伴って第2ガイド162を押す力が係合部52を介して作用すると、第2ガイド162が揺動する。第2ガイド162が揺動することで、係合部52が係合位置に保持されなくなるため、係合部52と回転体51との咬み合いが解消される。すなわち、維持状態が解除される。
【0059】
・支持部71の本体部72における操作部73とは反対側の端部、すなわち第2ガイド62に接触する端部は、第2ガイド62に連結されていてもよい。すなわち、支持部71を移動させることに連動して第2ガイド62が移動するように構成してもよい。
【0060】
・
図9に例示する電動制動装置410のように、第2ガイドを省略してもよい。電動制動装置410では、支持部471の本体部472における操作部473とは反対側の端部が、第1ガイド461とともにガイド460を構成している。電動制動装置410の解除機構470は、支持部471によって構成されている。この構成によれば、上記第1実施形態と同様に、支持部471を第3方向D3に移動させることで、係合部52と回転体51との咬み合いを解消できる。本体部472における操作部473とは反対側の端部は、
図9に示すように係合部52に接する面積を大きくする座板を有していてもよい。本体部472における操作部473とは反対側の端部は、棒状の先端が係合部52に接するようにしてもよい。
【0061】
・第1実施形態における第2ガイド62を移動させる方向は、第1方向D1に限らない。
図10を用いて説明する。
図10は、係合部52、回転体51、ガイド60をソレノイド側から見た模式図である。第1方向D1を示す矢印、および第3方向D3を示す矢印を表示している。たとえば、回転軸C1の延びる方向に第2ガイド62を移動させた場合を考える。この場合でも、回転体51が第1方向D1に回転しようとする力が係合部52に作用すると、係合部52は、回転体51との咬み合いが解消されて第3方向D3に押し出される。すなわち、解除機構70は、回転軸C1の延びる方向のうち一方の第4方向D4、または第4方向D4と反対方向である第5方向D5に係合部52を移動することによって、係合部52と回転体51との咬み合いを解消するように構成してもよい。換言すれば、解除機構570は、第1方向D1に回転しようとする回転体51から係合部52が受ける力によって係合部52が押し出されるための空間A1を確保できればよい。たとえば、第2ガイド62を第4方向D4または第5方向D5に押す機構を解除機構570が備えている場合に上記構成を実現できる。
【0062】
・第1実施形態における支持部71を移動させる方向は、第3方向D3に限らない。上記変更例と同様に、支持部71を移動させる方向は、
図10に例示した第4方向D4でもよいし、第5方向D5でもよい。
【0063】
・上記第1実施形態では、支持部71として、第2ガイド62に接する端部から第3方向D3に延びる本体部72を例示した。支持部における本体部の延びている方向は、第3方向D3に限らない。支持部は、第2ガイド62を所定の位置に保持できるものであり、維持状態である場合に支持部を移動させることによって係合部52と回転体51との咬み合いを解消することができるものであればよい。たとえば、
図10に例示するように、第2ガイド62に接する端部から第5方向D5に向かって延びる本体部572を備える支持部571を採用してもよい。
【0064】
・上記第2実施形態の電動制動装置110では、第2ガイド62がソレノイドに固定されていてもよい。
・上記第2実施形態の電動制動装置110は、第1実施形態が備える支持部71のような第2ガイド62を支える構成を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…電動制動装置
11…キャリパハウジング
12…電気モータ
13…モータ軸
20…制動力付与機構
21…回転部
22…摩擦材
30…伝達部
40…直動変換部
41…ピストン
50…制動力維持機構
51…回転体
52…係合部
53…アクチュエータ
60…ガイド
61…第1ガイド
62…第2ガイド
70…解除機構
71…支持部
D1…第1方向
D2…第2方向