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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149825
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】潤滑油用基油、潤滑油及び作動流体
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/38 20060101AFI20231005BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20231005BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20231005BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C10M105/38
C10M169/04
C09K5/04 F
C10N40:30
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058601
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】水谷 祐也
(72)【発明者】
【氏名】関 由真
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 素也
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB34A
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB20
4H104LA20
4H104PA20
(57)【要約】
【課題】水分が混入した場合においても安定性に優れる潤滑油用基油を提供すること。
【解決手段】三価のアルコールと炭素数14~20の脂肪酸とのエステルを含有する潤滑油用基油であって、エステルがジエステル及びトリエステルを含み、トリエステルの含有量が、ジエステル及びトリエステルの合計量を基準として93モル%以下である、潤滑油用基油。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価アルコールと炭素数14~20の脂肪酸とのエステルを含有する潤滑油用基油であって、
前記エステルがジエステル及びトリエステルを含み、
前記トリエステルの含有量が、前記ジエステル及び前記トリエステルの合計量を基準として93モル%以下である、潤滑油用基油。
【請求項2】
前記炭素数14~20の脂肪酸がオレイン酸を含む、請求項1に記載の潤滑油用基油。
【請求項3】
前記オレイン酸の含有量が、前記炭素数14~20の脂肪酸の合計量を基準として80質量%以上である、請求項2に記載の潤滑油用基油。
【請求項4】
前記炭素数14~20の脂肪酸が、炭素数14~20の飽和脂肪酸を更に含む、請求項2又は3に記載の潤滑油用基油。
【請求項5】
前記炭素数14~20の脂肪酸が、オレイン酸以外の炭素数14~20の不飽和脂肪酸を更に含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の潤滑油用基油。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油用基油を含有する、潤滑油。
【請求項7】
酸化防止剤を更に含有する、請求項6に記載の潤滑油。
【請求項8】
酸捕捉剤を更に含有する、請求項6又は7に記載の潤滑油。
【請求項9】
摩耗防止剤を更に含有する、請求項6~8のいずれか一項に記載の潤滑油。
【請求項10】
前記潤滑油用基油の含有量が、潤滑油の全量を基準として80質量%以上である、請求項6~9のいずれか一項に記載の潤滑油。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか一項に記載の潤滑油と、
冷媒と、
を含有する、作動流体。
【請求項12】
前記冷媒が炭化水素を含む、請求項11に記載の作動流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油用基油、潤滑油及び作動流体に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫、カーエアコン、ルームエアコン、自動販売機などの冷凍機は、冷媒を冷凍サイクル内に循環させるための圧縮機を備える。そして、圧縮機には、摺動部材を潤滑させるための冷凍機油が充填される。冷凍機油は、一般的に、所望の特性に応じて選択される基油及び添加剤を含有している。
【0003】
例えば特許文献1には、低粘度化と冷媒溶解粘度の維持との両立並びに冷凍機油の冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持との両立が可能な炭化水素冷媒用冷凍機油として、炭素数10~22の直鎖脂肪酸の割合が50~100モル%である脂肪酸と多価アルコールとのエステルを含有することを特徴とする炭化水素冷媒用冷凍機油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-90284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているように、冷凍機油等の潤滑油に用いられる基油として、所定の脂肪酸と多価アルコールとのエステルが知られているが、本発明者らの検討によれば、このようなエステルを含む潤滑油用基油には、水分が混入した場合の安定性の点で更なる改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、水分が混入した場合においても安定性に優れる潤滑油用基油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1に記載されているように、基油として用いられるエステルは、加水分解安定性に優れる観点から、好ましくは完全エステルであるべきと考えられていた。しかし、本発明者らは、三価アルコールと炭素数14~20の脂肪酸とのエステルにおいては、完全エステルであるトリエステルの量が多すぎると、水分が混入した場合の安定性が著しく悪くなる(過酸化物価が上昇する)ことを見出した。そして、上記エステルが、部分エステルであるジエステルを含み、かつトリエステルの量が特定量以下であると、水分が混入した場合でも、過酸化物価の上昇が抑制され、優れた安定性が得られることが判明した。
【0008】
本発明の一側面は、三価アルコールと炭素数14~20の脂肪酸とのエステルを含有する潤滑油用基油であって、前記エステルがジエステル及びトリエステルを含み、前記トリエステルの含有量が、前記ジエステル及び前記トリエステルの合計量を基準として93モル%以下である、潤滑油用基油である。
【0009】
炭素数14~20の脂肪酸は、オレイン酸を含んでよい。オレイン酸の含有量は、炭素数14~20の脂肪酸の合計量を基準として80質量%以上であってよい。炭素数14~20の脂肪酸は、炭素数14~20の飽和脂肪酸を更に含んでよい。炭素数14~20の脂肪酸は、オレイン酸以外の炭素数14~20の不飽和脂肪酸を更に含んでよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、上記の潤滑油用基油を含有する冷凍機油である。冷凍機油は、酸化防止剤を更に含有してよい。冷凍機油は、酸捕捉剤を更に含有してよい。冷凍機油は、摩耗防止剤を更に含有してよい。潤滑油用基油の含有量は、冷凍機油の全量を基準として80質量%以上であってよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、上記の冷凍機油と、冷媒と、を含有する作動流体である。冷媒は、炭化水素を含んでよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、水分が混入した場合においても安定性に優れる潤滑油用基油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の一実施形態は、三価アルコールと炭素数14~20の脂肪酸とのエステルを含有する潤滑油用基油である。
【0014】
三価アルコールは、三つの水酸基を有するアルコールである。三価アルコールは、脂肪族アルコールであってよい。三価アルコールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、グリセリン、及び1,3,5-ペンタントリオールが挙げられる。三価アルコールは、好ましくはトリメチロールプロパンである。
【0015】
炭素数14~20の脂肪酸(以下「C14~C20脂肪酸」ともいう)は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。C14~C20脂肪酸は、好ましくは不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数18の不飽和脂肪酸(C18不飽和脂肪酸)、更に好ましくはオレイン酸を含む。不飽和脂肪酸(好ましくはC18不飽和脂肪酸、より好ましくはオレイン酸)の含有量は、C14~C20脂肪酸の合計量を基準として、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、95質量%以下、93質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0016】
一実施形態において、C14~C20脂肪酸は、不飽和脂肪酸に加えて、炭素数14~20の飽和脂肪酸(以下「C14~C20飽和脂肪酸」ともいう)を更に含む。C14~C20飽和脂肪酸としては、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸及びエイコサン酸が挙げられる。これらのC14~C20飽和脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。C14~C20飽和脂肪酸は、好ましくは直鎖状のC14~C20飽和脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、より好ましくは、直鎖状のテトラデカン酸(ミリスチン酸)、直鎖状のヘキサデカン酸(パルミチン酸)、及び直鎖状のオクタデカン酸(ステアリン酸)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、更に好ましくは、直鎖状のテトラデカン酸(ミリスチン酸)、直鎖状のヘキサデカン酸(パルミチン酸)、及び直鎖状のオクタデカン酸(ステアリン酸)を含む。
【0017】
他の一実施形態において、C14~C20脂肪酸は、オレイン酸に加えて、オレイン酸以外の炭素数14~20の不飽和脂肪酸(以下「C14~C20不飽和脂肪酸」ともいう)を更に含む。オレイン酸以外のC14~C20不飽和脂肪酸は、例えば、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個の炭素-炭素不飽和結合を有していてよい。オレイン酸以外のC14~C20不飽和脂肪酸としては、例えば、フィセテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセニレン酸、ペトロセライジン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレライジン酸、ヒラゴニン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸が挙げられる。オレイン酸以外のC14~C20不飽和飽和脂肪酸は、好ましくは、炭素数16~18の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、より好ましくは、パルミトレイン酸を含む。
【0018】
他の一実施形態において、C14~C20脂肪酸は、オレイン酸に加えて、C14~C20飽和脂肪酸と、オレイン酸以外のC14~C20不飽和脂肪酸との両方を更に含む。C14~C20飽和脂肪酸は、好ましくは、直鎖状のC14~C20飽和脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数16~18の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、より好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種と、パルミトレイン酸とを含み、更に好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びパルミトレイン酸を含む。
【0019】
C14~C20飽和脂肪酸の含有量は、C14~C20脂肪酸の合計量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってよく、15質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下であってよい。オレイン酸以外のC14~C20不飽和脂肪酸の含有量は、C14~C20脂肪酸の合計量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であってよく、10質量%以下、8質量%以下、又は6質量%以下であってよい。
【0020】
上述した各脂肪酸の含有量は、以下の手順で測定される。
エステルをエタノールに溶解し、アルカリ加水分解処理した後、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)を用いてトリメチルシリル(TMS)誘導体化処理を行う。得られた脂肪酸のTMS誘導体化物をGC/MS分析することにより、エステルを構成する脂肪酸の種類をTMS誘導体化物として確認する。次に、以下のGC条件によるGC分析にて、各脂肪酸を定量する。
(GC条件)
・カラム:DB-5、50℃→320℃(15℃/min)
・インジェクション:300℃、1μL、スプリット比50:1
・検出器:FID、320℃
・検量線用標準試料:C14脂肪酸、C16脂肪酸についてはパルミチン酸(試薬)を、C18脂肪酸についてはステアリン酸(試薬)を用いる。
なお、TMS誘導体化処理の過程で、脂肪酸エチル化物が生成することがあるが、脂肪酸TMS誘導体化物の量と脂肪酸エチル化物の量とを合算して当該脂肪酸の量として算出する。
【0021】
三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステルは、ジエステル及びトリエステルを含んでいる。ジエステルは、三価アルコールの三つの水酸基のうち二つの水酸基がC14~C20脂肪酸でエステル化され、一つの水酸基がそのまま残存している部分エステルである。トリエステルは、三価アルコールの三つの水酸基のすべてがC14~C20脂肪酸でエステル化されている完全エステルである。
【0022】
トリエステルの含有量は、ジエステル及びトリエステルの合計量を基準として、93モル%以下である。言い換えれば、ジエステルの含有量は、ジエステル及びトリエステルの合計量を基準として、7モル%以上である。これにより、水が混入した場合でも安定性に優れる潤滑油用基油が得られる。
【0023】
トリエステルの含有量は、ジエステル及びトリエステルの合計量を基準として、好ましくは、92モル%以下、91モル%以下、90モル%以下、又は89モル%以下であってもよく、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、又は85モル%以上であってもよい。
【0024】
ジエステルの含有量は、ジエステル及びトリエステルの合計量を基準として、好ましくは、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、又は11モル%以上であってもよく、30モル%以下、35モル%以下、20モル%以下、又は15モル%以下であってもよい。
【0025】
上述したジエステルの含有量C2及びトリエステルの含有量C3(ジエステル及びトリエステルの合計量基準、モル%)は、以下の条件で測定される13C-NMRスペクトルにおいて、40.5ppm付近のピークをトリエステルに起因するピーク(面積値P3)とし、42.5付近に認められるピークをジエステルに起因するピーク(面積値P2)として、下記式により算出される。
C2=P2/(P2+P3)×100
C3=P3/(P2+P3)×100
13C-NMR条件)
・溶媒:重クロロホルム
・温度:室温
・測定法:Hインバースゲーテッドデカップリング法
・パルス幅:30°
・待ち時間:10秒
【0026】
上述した特定量のジエステル及びトリエステルを含有する三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステルは、例えば以下の方法により製造することができる。
まず、多価アルコールと、当量に対しやや過剰の脂肪酸とを、窒素気流下で、120~250℃の温度で、生成する水を留去しながら、水酸基価が15mgKOH/g程度となるまで反応させて、粗エステルを得る。反応の際には、ルイス酸触媒等の触媒やリン系還元剤等の還元剤を使用してもよい。得られた粗エステルを、過剰な酸を水酸化カリウム等でアルカリ処理や必要に応じて亜硫酸塩等の水溶液で処理し、水洗及び脱水を行った後、活性白土や酸化アルミニウム等の吸着剤で吸着してろ過する等の精製処理を行うことで、ジエステル及びトリエステルを含む(場合によりモノエステルも含む)混合物が得られる。以上の工程は、公知の方法(例えば、特開2002-193882号公報、国際公開第2002/022548号、特開2007-332134号公報、及び特開2013-227255を参照)に従って実施される。
以上のようにして得られた水酸基価が15mgKOH/g程度のジエステル及びトリエステルを含む混合物について、ジエステルとトリエステルの沸点などの差異を利用して、両者を精製して分別した上で、上述した所望の割合でジエステルとトリエステルを再度混合することにより、所望の割合のジエステル/トリエステル混合物が得られる。
また、上記製造方法において、水酸基価を5mgKOH/g以下、好ましくは1mgKOH/g以下まで反応させることで、トリエステル主体のエステルを得ることができ、三価アルコール1モルに対し、C14~C20脂肪酸を2モル程度反応させることで、ジエステル主体のエステルを得ることができるが、これらを上述した所望の割合で混合してもよい。
【0027】
三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステルは、モノエステルを更に含んでいてもよい。モノエステルは、三価アルコールの三つの水酸基のうち一つの水酸基がC14~C20脂肪酸でエステル化され、二つの水酸基がそのまま残存している部分エステルである。モノエステルの含有量は、冷凍機油の安定性の観点から、少ないほうが好ましく、三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステルの全量を基準として、好ましくは、10モル%以下であってよく、0モル%であってもよい。
【0028】
以上説明した基油は、潤滑油の基油として用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の潤滑油用基油を含有する潤滑油である。
【0029】
三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステルの含有量は、潤滑油全量を基準として、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0030】
潤滑油は、三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステル以外のその他の基油を更に含有してもよい。その他の基油は、例えば炭化水素油又は含酸素油であってよい。炭化水素油としては、鉱油、オレフィン重合体、ナフタレン化合物、アルキルベンゼン等が挙げられる。含酸素油としては、モノエステル(モノアルコールのエステル)、三価アルコールとC14~C20脂肪酸とのエステル以外のポリオールエステル(二つ以上の水酸基を有するポリオールのエステル)、コンプレックスエステル等のエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル等のエーテルが挙げられる。
【0031】
潤滑油は、所望の特性に応じて、添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、酸化防止剤、酸捕捉剤、摩耗防止剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤などが挙げられる。添加剤の合計の含有量は、潤滑油全量を基準として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であってよく、好ましくは、5質量%以下又は2質量%以下であってよい。
【0032】
潤滑油は、好ましくは酸化防止剤、より好ましくはフェノール系酸化防止剤を更に含有する。フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールが挙げられる。酸化防止剤の含有量は、潤滑油全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、3質量%以下であってよい。
【0033】
潤滑油は、好ましくは酸捕捉剤、より好ましくはエポキシ系酸捕捉剤を更に含有する。エポキシ系酸捕捉剤としては、例えば、グリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物、及び脂環式エポキシ化合物が挙げられる。酸捕捉剤の含有量は、潤滑油全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、3質量%以下であってよい。
【0034】
潤滑油は、好ましくは摩耗防止剤、より好ましくはリン系摩耗防止剤を更に含有する。リン系摩耗防止剤としては、例えば、正リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、及びチオリン酸エステル化合物が挙げられる。リン系摩耗防止剤は、好ましくは正リン酸エステル化合物であり、より好ましくは、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリアルキルホスフェート、及びトリ(アルキルフェニル)ホスフェートから選ばれる少なくとも一種である。摩耗防止剤の含有量は、潤滑油全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、3質量%以下であってよい。
【0035】
潤滑油は、一実施形態において、酸化防止剤、酸捕捉剤及び摩耗防止剤を更に含有してよく、フェノール系酸化防止剤、エポキシ系酸捕捉剤及びリン系摩耗防止剤を更に含有してよい。
【0036】
潤滑油の40℃における動粘度は、10mm/s以上、20mm/s以上、30mm/s以上、又は40mm/s以上であってよく、400mm/s以下であり、300mm/s以下、200mm/s以下、100mm/s以下、又は60mm/s以下であってよい。
【0037】
潤滑油の100℃における動粘度は、4mm/s以上、6mm/s以上、8mm/s以上、又は9mm/s以上であってよく、40mm/s以下、25mm/s以下、15mm/s以下、12mm/s以下、又は10mm/s以下であってよい。
【0038】
潤滑油の粘度指数は、110以上、140以上、150以上、160以上、又は170以上であってよく、300以下、250以下、又は220以下であってよい。
【0039】
本明細書における動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定される動粘度及び粘度指数を意味する。
【0040】
潤滑油の用途は、特に制限されないが、好ましくは冷凍機油である。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の潤滑油用基油を含有する冷凍機油である。また、上述の説明における「潤滑油」は、「冷凍機油」と読み替えることができる。
【0041】
冷凍機油は、冷媒と共に用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、冷凍機油と、冷媒と、を含有する作動流体である。
【0042】
冷媒は、好ましくは炭化水素を含む。炭化水素は、好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。炭化水素は、例えば、エチレン、エタン、プロパン(R290)、プロピレン、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン(R600a)、シクロブタン、及びメチルシクロプロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはプロパン(R290)又はイソブタン(R600a)であり、より好ましくはプロパン(R290)である。
【0043】
冷媒は、炭化水素のみからなっていてよく、炭化水素に加えて、他の冷媒を更に含んでもよい。炭化水素の含有量は、冷媒全量を基準として、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。当該他の冷媒としては、例えば、R32、R134a、R125、R143a、R152a等の飽和フッ化炭化水素(HFC)、R1234yf、R1234ze等の不飽和フッ化炭化水素(HFO)、パーフルオロエーテル等の含フッ素エーテル、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド、三フッ化ヨウ化メタン、アンモニア(R717)、二酸化炭素(R744)等が挙げられる。
【0044】
作動流体における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、1質量部以上又は2質量部以上であってよく、500質量部以下又は400質量部以下であってよい。
【実施例0045】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0046】
トリメチロールプロパンと、表1に示す脂肪酸の組成を有するC14~C20脂肪酸との各エステルを基油1~4として用いた。上記手順により測定した各エステル(基油)におけるジエステル及びトリエステルの含有量を表1に示す。
【0047】
(安定性の評価)
安定性の評価は、JIS K2211-09(オートクレーブテスト)に準拠して行った。具体的には、水分含有量を10ppm未満又は1000ppmに調整した基油1~4(30g)をオートクレーブに秤取し、触媒(鉄、銅、アルミの線、いずれも外径1.6mm×長さ50mm)と、冷媒としてR290(30g)とを封入した後、175℃で168時間加熱することにより、安定性試験を実施した。安定性試験後の冷凍機油の過酸化物価をJPI-5S-72に準拠して測定した。水分含有量が10ppm未満又は1000ppmのそれぞれの場合について、安定性試験後の過酸化物価を表1に示す。添加剤なしの状態で過酸化物価を200mg/kg以下に抑制できれば、安定性を維持しやすい。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から分かるとおり、冷凍機油中の水分をできる限り除去した(水分含有量が10質量ppm未満である)場合には、基油1~4のいずれの過酸化物価も、200mg/kg以下に抑えられている。一方、冷凍機油に水が混入した(水分含有量が1000ppmである)場合には、基油1~3の過酸化物価は200mg/kg以下に抑えられているのに対し、基油4の過酸化物価は200mg/kgを超えた。
【0050】
実施例1~3の基油1~3については、酸化防止剤(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、酸捕捉剤(グリシジルネオデカノエート)及び摩耗防止剤(トリクレジルフォスフェート)を添加して、表2に示す組成を有する実施例4~6の潤滑油(冷凍機油)を調製した。得られた各潤滑油について、上記と同様にして安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から分かるとおり、基油1~3に加えて添加剤を含有する潤滑油(冷凍機油)は、水が混入した場合においても過酸化物の抑制効果に優れているため、安定性を維持しやすい。