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  • 特開-スプレーコート用ガラス組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149865
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】スプレーコート用ガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/16 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C03C8/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058649
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】竹田 昌平
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062AA10
4G062BB01
4G062CC08
4G062DA02
4G062DA03
4G062DA04
4G062DA05
4G062DA06
4G062DB01
4G062DC03
4G062DC04
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED01
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4G062EG01
4G062EG04
4G062EG05
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA06
4G062GA07
4G062GA08
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM08
4G062MM13
4G062NN40
4G062PP13
(57)【要約】
【課題】スプレーコート装置を用いて好適にスプレーすることができるスプレー特性を有し、対象物に対して定着性が高く、均質な厚みでコートすることができるガラス組成物を提供すること。
【解決手段】ここに開示されるガラス組成物は、スプレーコート用のガラス組成物である。上記ガラス組成物は、ガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を含む。ここで、ガラス粉末のガラス密度をx(g/cm)、ガラス粉末の平均粒径をy(μm)、25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときのガラス組成物の粘度をa(Pa・s)としたときに、式(1):y≦-0.06x+0.1a+0.586;と、式(2):2.2≦x≦8.5;と、式(3):1≦a≦20;とを満たすことを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーコート用のガラス組成物であって、
ガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を含み、
前記ガラス粉末のガラス密度をx(g/cm)、
前記ガラス粉末の平均粒径をy(μm)、
25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときの前記ガラス組成物の粘度をa(Pa・s)としたときに、以下の式(1)~(3)を満たすことを特徴とする、ガラス組成物。
y≦-0.06x+0.1a+0.586 (1)
2.2≦x≦8.5 (2)
1≦a≦20 (3)
【請求項2】
前記ガラス粉末は、BaO-B-SiO系ガラスおよび/またはBi-B-SiO系ガラスを含む、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
前記BaO-B-SiO系ガラスは、当該ガラス全体を100重量%としたときに、BaO、B、およびSiOの合計が、酸化物換算の重量比で70重量%以上である、請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
前記Bi-B-SiO系ガラスは、当該ガラス全体を100重量%としたときに、Bi、B、およびSiOの合計が、酸化物換算の重量比で75重量%以上である、請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項5】
スプレーコート用のガラス組成物の製造方法であって、
ガラス粉末を用意する用意工程と、
前記用意したガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を混合してガラス組成物を調製する調製工程と、
を含み、
ここで、前記用意工程において用意する前記ガラス粉末のガラス密度をx(g/cm)、前記ガラス粉末の平均粒径をy(μm)とし、
前記調製工程において調製する前記ガラス組成物の25℃の環境下およびせん断速度0.2S-1で測定したときの粘度をa(Pa・s)としたときに、
以下の式(1)~(3)を満たすように調製することを特徴とする、ガラス組成物の製造方法。
y≦-0.06x+0.1a+0.586 (1)
2.2≦x≦8.5 (2)
1≦a≦20 (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレーコート用ガラス組成物と該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナやジルコニア等のセラミック材料を主成分とするセラミック部材や、ステンレス鋼等の金属材料を主成分とする金属部材などの無機部材は、種々の分野において広く使用されている。このようなセラミックス部材や金属部材等を接合する際には、例えば、特許文献1~3に挙げられるようなガラス組成物が用いられている。
【0003】
上記したガラス組成物は、主成分としてガラス粉末を含んでおり、かかるガラス組成物をセラミックス部材や金属部材等に塗布して乾燥させた後、例えばガラス粉末の軟化点以上で焼成することにより、ガラス接合部を形成することができる。ガラス組成物は、例えばパウダー状のガラス粉末と、バインダや有機溶剤を含む有機ビヒクルと、を混合したペースト状の組成物の形態で用いられており、その用途や塗布の対象となるセラミック部材や金属部材等の形状に応じて適宜選択されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2008-214153号公報
【特許文献2】特開第2017-141124号公報
【特許文献3】特開第2020-073418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、セラミック部材や金属部材等の対象物を接合させること以外にも、例えば耐摩耗性や耐酸性等の特性を付与する目的でガラス組成物を塗布して焼成し、ガラスコート部を形成することが検討されている。また、ガラス組成物が塗布される対象物は、例えば複雑な凹凸形状を有しているものや、曲面形状のものがあり、その形状が多様化している。このような複雑な形状を有する対象物に対して、従来のペースト状のガラス組成物をディップコーティング等の方法で塗布した場合には、均質なコートをすることが困難であった。また、複雑な形状を有する対象物に対して、スプレーコート装置を用いてガラス組成物の塗布をした場合には、対象物にコートした際に液だれが生じて定着性が低下することが課題となる。このため、複雑な形状を有する対象物に対しても均質なコートをすることができ、対象物への定着性が高いガラス組成物が求められている。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スプレーコート装置を用いて好適にスプレーすることができるスプレー特性を有し、対象物に対して定着性が高く、均質な厚みでコートすることができるガラス組成物を提供することにある。また、他の目的は、当該ガラス組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、ここに開示されるガラス組成物が提供される。ここに開示されるガラス組成物は、スプレーコート用のガラス組成物である。上記ガラス組成物は、ガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を含む。上記ガラス粉末のガラス密度をx(g/cm)、上記ガラス粉末の平均粒径をy(μm)、25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときの上記ガラス組成物の粘度をa(Pa・s)としたときに、以下の式(1)~(3)を満たすことを特徴とする。
y≦-0.06x+0.1a+0.586 (1)
2.2≦x≦8.5 (2)
1≦a≦20 (3)
【0008】
ガラス組成物が上記式(1)~(3)を満たすことにより、ガラス組成物中におけるガラス粉末の分散性が向上し、かつ、当該ガラス組成物の粘度がスプレーコート装置を用いてコート(噴霧)できるよう適切に調整されている。このため当該ガラス組成物は、噴霧ムラが少なく、良好な状態で噴霧することができる。また、対象物にコートされた際には、液だれが生じにくく定着性に優れている。これにより、曲面形状や複雑な凹凸形状を有するセラミック部材や金属部材等であっても、均質な厚みでガラス組成物をコートすることができる。
【0009】
なお、本明細書において、「ガラス粉末の平均粒径(μm)」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径をいう。また、「ガラス密度x(g/cm)」は、ヘリウムガスを使用した乾式法により測定した値である。さらに、「ガラス組成物の粘度a」は、25℃の環境下において、回転式レオメータを使用してせん断速度0.2S-1で測定した値である。
【0010】
ここに開示されるガラス組成物の好適な一態様では、上記ガラス粉末は、BaO-B-SiO系ガラスおよび/またはBi-B-SiO系ガラスを含む。上記BaO-B-SiO系ガラスを含む態様では、当該BaO-B-SiO系ガラス全体を100重量%としたときに、BaO、B、およびSiOの合計が、酸化物換算の重量比で70重量%以上であってもよい。また、上記Bi-B-SiO系ガラスを含む態様では、Bi-B-SiO系ガラスを100重量%としたときに、Bi、B、およびSiOの合計が、酸化物換算の重量比で75重量%以上であってもよい。
かかる構成によれば、好適に上記式(2)を満たすガラス密度xを実現することができる。また、対象物にコートして焼成した際には、気密性が高いガラス接合部や、耐摩耗性等を付与するガラスコート部を好適に形成することができる。
【0011】
また、ここに開示される技術によれば、スプレーコート用のガラス組成物の製造方法が提供される。当該製造方法は、ガラス粉末を用意する用意工程と、上記用意したガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を混合してガラス組成物を調製する調製工程と、を含む。ここで、上記用意工程において用意する上記ガラス粉末のガラス密度をx(g/cm)、平均粒径をy(μm)とし、上記調製工程において、25℃の環境下およびせん断速度0.2S-1で測定したときの前記ガラス組成物の粘度をa(Pa・s)としたときに、以下の式(1)~(3)を満たすように調製することを特徴とする。
y≦-0.06x+0.1a+0.586 (1)
2.2≦x≦8.5 (2)
1≦a≦20 (3)
【0012】
かかる構成によれば、スプレーコート装置を用いてコート可能なガラス組成物であって、複雑な形状の対象物に対しても均質な厚みでコートすることができる組成物を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】サンプル1~16の結果を示すグラフである。なお、横軸は、「ガラス密度(g/cm)」であり、縦軸は「ガラス粉末の平均粒径(μm)」である。
図2】サンプル33~48の結果を示すグラフである。なお、横軸は、「ガラス密度(g/cm)」であり、縦軸は「ガラス粉末の平均粒径(μm)」である。
図3】サンプル49~64の結果を示すグラフである。なお、横軸は、「ガラス密度(g/cm)」であり、縦軸は「ガラス粉末の平均粒径(μm)」である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。また、本明細書における「ペースト」は、固形分の一部またはすべてが溶媒に分散した混合物のことをいい、いわゆる「スラリー」、「インク」等を包含する。
【0015】
ここに開示されるスプレーコート用ガラス組成物(以下、単に「ガラス組成物」ともいう。)は、スプレーコート装置を用いてセラミック部材や金属部材等の対象物に塗布される。例えば、ここに開示されるガラス組成物は、スプレーコート装置によって対象物の表面に塗布され、少なくとも2つ以上の部材を接合するためのガラス接合材として用いられる。あるいは、ここに開示されるガラス組成物は、スプレーコート装置によって対象物の表面に薄膜で塗布され、封孔性、絶縁性、表面平滑性、耐摩耗性、耐反応性、耐酸性および耐アルカリ性等のうち少なくともいずれか一つの性能を付与するコーティング剤として用いられる。かかるガラス組成物は、当該ガラス組成物が対象物に塗布された状態で、典型的には600℃以上(例えば700℃~1000℃)で焼成される。これにより、対象物の間に気密性に優れるガラス接合部を形成することができる。また、対象物の表面に上記したような性能を付与するガラスコート部を形成することができる。
【0016】
上記対象物としては、特に限定されないが、例えば後述するガラス粉末の軟化点よりも高い温度(例えば700℃以上)で焼成した際に、その形状を維持可能な程度の耐熱性を有するものが好ましい。このような対象物の具体例としては、アルミナ、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、チタニア、イットリア、クロミア、ジルコニア、部分安定化ジルコニア等のセラミック材料や、ステンレス鋼、アルミニウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、銀、マンガン等の金属材料が挙げられる。
また、対象物の表面形状は、特に限定されず、平坦であってもよいし、曲面であってもよい。または、水平ではない面があってもよいし、複雑な凹凸形状等であってもよい。
【0017】
1.スプレーコート用ガラス組成物
ここに開示されるスプレーコート用ガラス組成物は、少なくともガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を含有する。そして、ガラス粉末のガラス密度をx(g/cm)、ガラス粉末の平均粒径をy(μm)、25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときのガラス組成物の粘度をa(Pa・s)としたときに、以下の式(1)~(3)を満たすことを特徴とする。
y≦-0.06x+0.1a+0.586 (1)
2.2≦x≦8.5 (2)
1≦a≦20 (3)
このようなガラス組成物は、一定の分散性を有することにより噴霧ムラが少なく、スプレーコート装置を用いて良好に噴霧することができる。また、液だれが抑制されていることで対象物への定着性に優れている。これにより、曲面形状や複雑な凹凸形状を有するセラミック部材や金属部材等の対象物に対して、均質な厚みでガラス組成物をコートすることができる。
【0018】
(1)ガラス粉末
ガラス粉末は、例えば焼成処理によって融着固化して、対象物同士の間にガラス接合部を形成したり、対象物の表面にガラスコート部を形成したりする成分である。ガラス粉末としては、上記した式(1)~(3)を満たすように調製されている限りにおいて特に限定されない。例えば、ガラス粉末は、一般的な非晶質ガラスの他に、結晶を含んだ結晶化ガラスであってもよい。なお、本明細書において「粉末」とは、カレット状、パウダー状、フリット状などを包含する用語である。
【0019】
(1-1)ガラス粉末のガラス密度x(g/cm
ここに開示されるガラス組成物では、ガラス粉末のガラス密度x(g/cm)は、上述した式(2):2.2≦x≦8.5;を満たすように調製される。ガラス粉末のガラス密度xは、大きすぎる場合には分散媒の密度との差が大きくなるため、沈降しやすい傾向にある。一方で、ガラス密度xが小さすぎるガラスは溶融及び成形が困難であり、コストが高くなる傾向にある。これらの観点から、ガラス粉末のガラス密度xは、上記式(2)を満たすように調製される。これにより、ガラス粉末の分散性が向上し、噴霧ムラを低減させることができる。ガラス粉末のガラス密度xは、8.1g/cm以下であることが好ましく、例えば7.2g/cm以下であってもよく、5.4g/cm以下であってもよい。ガラス粉末のガラス密度xの下限は上記式(2)を満たす限り特に限定されないが、2.5g/cm以上であることが好ましく、3.1g/cm以上であることがより好ましい。
【0020】
ガラス密度は、ガラス粉末の原料となる無機酸化物の割合を変更することによって変化する。そのため、ガラス粉末のガラス組成は、対象物にコートして焼成した際にガラス接合部やガラスコート部を好適に形成できるものであって、上述した式(2)を満たすガラス密度x(g/cm)であれば特に限定されない。例えば、BaO-B-SiO系ガラス、Bi-B-SiO系ガラス、SiO-RO(Rは、例えばMg、Ca、Zn、Ba、Srを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-R’O(R’は、例えばLi、K、Naを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-RO-Al系ガラス、SiO-RO-Bi系ガラス、SiO-RO-Y系ガラス、SiO-RO-B系ガラス、SiO-Al系ガラス、SiO-ZnO系ガラス、SiO-ZrO系ガラス、RO-R’O系ガラス、RO系ガラス等が挙げられる。また、上述した成分以外に、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス等を用いることもできる。なお、ガラス粉末は、上述のガラス成分の他に1つまたは2つ以上の成分を含んでもよい。また、ガラス粉末は上述したガラスのうち、1種が単独で用いられていても良く、2種以上が混合されていても良い。2種以上のガラス粉末を用いる場合には、各ガラス粉末のガラス密度が上記式(2)を満たせばよい。
【0021】
好適な一態様では、ここに開示されるガラス粉末は、BaO-B-SiO系ガラスおよび/またはBi-B-SiO系ガラスを含む。かかる構成によれば、上記式(2)を満たすガラス密度xを好適に実現することができる。また、これらBaO-B-SiO系ガラスおよびBi-B-SiO系ガラスは、比較的低温で焼成しても溶融し、ガラス接合部やガラスコート部を好適に形成することができる。したがって、これらBaO-B-SiO系ガラスおよび/またはBi-B-SiO系ガラスを用いることにより、比較的簡便に、かつ、安定的に、ガラス接合部またはガラスコート部を形成することができる。
【0022】
BaO-B-SiO系ガラスは、例えば比較的高温(例えば600℃~900℃)において、セラミック部材や金属部材等の対象物に近似する適当な熱膨張係数を有し、安定性に優れる。このため、高い耐熱性や耐久性を備えたガラス接合部やガラスコート部を対象物に対して形成することができる。そして、上記式(2)を満たすことができ、スプレーコート装置を用いて好適に塗布することができる。このようなBaO-B-SiO系ガラスは、バリウム成分(BaO)、ホウ素成分(B)、ケイ素成分(SiO)を主要な構成成分として含有する。換言すれば、当該BaO-B-SiO系ガラス全体を100重量%としたときに、BaO、B、SiOの合計が、酸化物換算の重量比で、典型的には60重量%以上であって、好ましくは70重量%以上、より好ましくは75重量%以上である。
【0023】
BaO-B-SiO系ガラスにおいて、バリウム成分(BaO)は、ガラス粉末の熱膨張係数を調整し、ガラス粉末全体の熱的安定性を向上させることができる成分である。BaOは、バリウムシリケート結晶(BaSi16)を構成する成分であり、気密性の高いガラス接合部を構成するためのガラス成分として好適である。また、BaOは、ガラス密度を高める成分であり得る。
ホウ素成分(B)成分は、ガラス密度を低減させることに寄与する一方で、多すぎる場合にはガラス密度を増大させ得る。また、B成分は、焼成中の流動性を高めることに寄与するため、対象物に対するガラス組成物の定着性を向上し得る。
ケイ素成分(SiO)は、ガラスの骨格を形成する成分である。また、SiOは、ガラスの溶融時の粘度を調整する機能を有するため、ガラスの取扱性や作業性を向上させ得る成分である。さらに、SiOを含むことによりガラス接合部やガラスコート部の耐水性、耐薬品性、耐熱衝撃性のうちの少なくとも1つを向上することができる。
【0024】
かかるBaO-B-SiO系ガラスは、上記した必須成分であるBaO、B、SiO以外の任意成分を含んでいてもよい。かかる任意成分としては、例えばR’O等が挙げられる。なお、上述したように、R’Oは、アルカリ金属元素の酸化物である。好適な一例としては、BaO-B-SiO系ガラスは、その組成の95重量%以上が、酸化物換算の重量比で以下の成分:
BaO 20~40重量%;
5~15重量%;
SiO 45~60重量%;
NaOおよびKOのうち少なくとも一種 0~20重量%;
を有している。これにより、上記したように対象物にコートして焼成した際にガラス接合部やガラスコート部を好適に形成することができ、かつ、上記式(2)を満たすガラス密度xを実現することができる。したがって、スプレーコート装置を用いて好適に噴霧することができ、気密性が高いガラス接合部や、耐摩耗性等を付与するガラスコート部を形成することができる。
【0025】
Bi-B-SiO系ガラスは、セラミック部材や金属部材等の対象物と近似する適当な熱膨張係数を有している。また、Bi-B-SiO系ガラスは、低融点であり流動性に優れる。このため、比較的低温(例えば600℃以下)で焼成した場合にも対象物同士を接合することや、対象物の表面上にガラスコート部を形成することができる。そして、上記式(2)を満たすことができ、スプレーコート装置を用いて好適に塗布することができる。このようなBi-B-SiO系ガラスは、ビスマス成分(Bi)、ホウ素成分(B)、ケイ素成分(SiO)を主要な構成成分として含有する。換言すれば、ガラス全体を100重量%としたときに、これらBi、B、SiOの合計が、酸化物換算の重量比で、典型的には60重量%以上であって、好ましくは75重量%以上、より好ましくは85重量%以上、例えば90重量%以上であってもよい。
【0026】
Bi-B-SiO系ガラスにおいて、ビスマス(Bi)成分は、ガラスの流動性を高めるとともに、軟化点を低下させる成分である。かかるビスマス成分を主要な構成成分として含むことにより、比較的低温で焼成した場合でも、好適にガラス接合部を形成することができる。また、ホウ素成分(B)成分およびケイ素成分(SiO)は、上記したような効果を発揮する成分であるため、ガラス接合部やガラスコート部を構成するためのガラス成分として好適である。
【0027】
かかるBi-B-SiO系ガラスは、上記した必須成分であるBi、B、SiO以外の任意成分を含んでいてもよい。かかる任意成分としては、例えばAl、ZnO等が挙げられる。
好適な一例としては、Bi-B-SiO系ガラスは、その組成の95重量%以上が、酸化物換算の重量比で以下の成分:
Bi 65~97重量%;
2~10重量%;
SiO 0.5~20重量%;
AlおよびZnOのうち少なくとも一種 0~5重量%;
を有している。これにより、上記したように対象物にコートして焼成した際にガラス接合部やガラスコート部を好適に形成することができ、かつ、上記式(2)を満たすガラス密度xを実現することができる。したがって、スプレーコート装置を用いて好適に噴霧することができ、さらに気密性が高いガラス接合部や、耐摩耗性等を付与するガラスコート部を形成することができる。
【0028】
なお、上記したBaO-B-SiO系ガラスおよびBi-B-SiO系ガラスにおいては、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した以外の成分を全体の5重量%未満(典型的には4重量%以下、例えば2重量%以下)の割合で含むものであってもよい。そのような添加成分としては、酸化物の形態で、例えば、CaO、SrO、TiO、ZrO、V、Nb、FeO、Fe、Fe、CuO、CuO、SnO、SnO、P、La、CeO等が挙げられる。
【0029】
(1-2)ガラス粉末の平均粒径y(μm)
ここに開示されるガラス組成物では、ガラス粉末の平均粒径y(μm)は、上述した式(1):y≦-0.06x+0.1a+0.586;を満たすように調製される。ガラス粉末の平均粒径y(μm)は、大きすぎる場合には、沈降しやすくなり、分散性が低下する。このため、上記式(1)を満たすように平均粒径y(μm)が制御されることによって好適な分散性を有し、噴霧ムラが少なく良好なスプレー特性を有するガラス組成物を提供することができる。ガラス粉末の平均粒径yは、上記式(1)を満たすように調製される限り、特に限定されず、例えば2.4μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。ガラス粉末の製造の容易性の観点からは、ガラス粉末の平均粒径yは、例えば0.1μm以上であって、0.4μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。
【0030】
ガラス粉末は、上記対象物との間で熱膨張係数を近似させるという観点で適宜選択されることがより好ましい。例えば、ガラス粉末と上記した対象物との熱膨張係数の差が、概ね2×10-6-1以下、例えば1×10-6-1以下であるとよい。上記対象物は、おおよその目安として、熱膨張係数が6×10-6-1~12×10-6-1程度である。したがって、この場合にはガラス粉末の熱膨張係数は、概ね6×10-6-1~12×10-6-1、典型的には6.5×10-6-1~11.5×10-6-1、例えば7×10-6-1~11×10-6-1であるとよい。これにより、対象物との膨張量の差異によって、ガラス接合部やガラスコート部が破損することを抑制することができる。なお、本明細書における「熱膨張係数」は、30℃から500℃における平均線熱膨張係数を指す。
また、ガラス組成物全体を100重量%としたときにガラス粉末の含有量は、上記式(3)に示す粘度aを満たすように適宜調製すればよい。特に限定されるものではないが、ガラス組成物全体を100重量%としたときにガラス粉末の含有量は、概ね20重量%~60重量%(好ましくは25重量%~40重量%)であるとよい。
【0031】
(2)ガラス組成物の粘度a
ここに開示されるガラス組成物では、25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときの当該ガラス組成物の粘度a(Pa・s)が、式(3):1≦a≦20;を満たすように調製される。ガラス組成物の粘度aは、高すぎる場合には、スプレーコート装置を用いて噴霧をすることができない。一方で、粘度aが低すぎる場合には、対象物に対してコートした際に、液だれ等が生じて所望する位置にガラス組成物が留まらないため、スプレーコート用の組成物として好ましくない。このため、ガラス組成物の粘度aが上記式(3)を満たすように調製されることにより、スプレーコート装置を用いて好適にコートすることができるスプレー特性を有する。25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときのガラス組成物の粘度aは、1Pa・s以上であって、好ましくは2Pa・s以上、より好ましくは3Pa・s以上であって、例えば20Pa・s以下、好ましくは15Pa・s以下、より好ましくは11Pa・s以下である。当該ガラス組成物の粘度aは、例えば当該組成物に含まれ得る各構成成分の含有量を変更することによって適宜調整することができる。
【0032】
(3)バインダ
バインダは、ガラス組成物の粘度(流動性)を調整し、対象物への定着性を調整し得る成分である。一方で、ガラス接合材やコーティング剤としての用途を考慮すると、ガラス粉末が焼結されて、ガラス接合部やガラスコート部が形成された後においては、バインダは不要な成分となる。したがって、バインダは、例えば焼成工程(典型的には、200℃以上の加熱焼成)によって焼失する樹脂材料を好ましく採用することができる。このような樹脂材料としては、例えば、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ロジンやマレイン化ロジン等のロジン系樹脂等をベースとするバインダ樹脂が好適に用いられる。なかでも、定着性と焼失性との観点からアクリル系樹脂が好ましい。なお、かかるバインダは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ガラス組成物全体を100重量%としたときにバインダの含有量は、概ね0.5重量%以上10重量%以下であってよく、例えば1重量%以上8重量%以下であってよい。かかる構成によれば、ガラス組成物の粘度aを好適に調整し、対象物への定着性を向上し得る。また、焼成後においては該バインダが好適に消失することにより、安定的にガラス接合部やガラスコート部を対象物に対して形成することができる。
【0034】
(4)チクソトロピック剤
チクソトロピック剤は、ガラス組成物の粘度(流動性)を好適に調整することができる成分である。チクソトロピック剤としては、例えば、ウレアウレタン、変性ウレア、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、ポリヒドロキシカルボン酸エステル、ウレア変性ポリアミド、酸化ポリエチレンアミド、酸化ポリエチレン、脂肪酸アミド等が挙げられる。なかでも、ウレアウレタンや変性ウレア等のウレア系のチクソトロピック剤であることが好ましい。
【0035】
かかるチクソトロピック剤の市販品としては、ウレア変性中極性ポリアマイド(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK-430、BYK-431)、変性ウレア(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK-410、BYK-411、BYK-420)、高分子ウレア誘導体(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK-415)、ウレア変性ウレタン(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK-425)、ポリウレタン(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK-428)、高級脂肪酸アマイド系(共栄社科学株式会社製の品番フローノンHR-4AF)、ポリエチレンワックスる(楠本化成株式会社製の品番ディスパロン4200)等が挙げられる。これらは、上記式(3)を満たす粘度となるように、1種を単独でまたは2種以上を混合して適宜用いることができる。
【0036】
ガラス組成物全体を100重量%としたときにチクソトロピック剤の含有量は、概ね0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、例えば2重量%以上であってもよい。一方でチクソトロピック剤の含有量は、8重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、例えば3重量%以下であってもよい。例えば0.5重量%以上8重量%以下であってよい。かかる範囲内でチクソトロピック剤を含有することにより、ガラス組成物の粘度aを好適に調整することができる。
【0037】
(5)分散媒
ここに開示されるガラス組成物は、分散媒を含んでいる。分散媒は、ガラス組成物に適度な粘性や流動性を付与して、ガラス組成物の取扱性や作業性を向上する成分である。分散媒は、従来公知のものの中から選択すればよく、1種を単独で、または、2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。かかる分散媒の一例としては、例えばターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルプロピオネート、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル系溶剤;1,7,7-トリメチル-2-アセトキシ-ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールモノイソブチレート等のエステル系溶剤;その他ミネラルスピリット等の高沸点を有する有機溶剤等が挙げられる。
【0038】
上記した有機溶剤のなかでも、ガラス組成物の保存安定性やガラス組成物の取扱性を向上する観点からは、沸点が150℃以上の有機溶剤、さらには170℃以上の有機溶剤が好ましい。また、他の一好適例として、生産コストを低く抑える観点からは、沸点が250℃以下の有機溶剤、さらには沸点が220℃以下の有機溶剤が好ましい。
ガラス組成物全体を100重量%としたときに分散媒の含有量は、上記式(3)に示す粘度aを満たすように調製すればよい。特に限定されるものではないが、概ね20重量%~70重量%(好ましくは25重量%~60重量%)であるとよい。
【0039】
(6)その他の成分
また、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、従来公知の添加剤を組成物に添加してもよい。かかる添加剤の一例として、分散剤、可塑剤、消泡剤、離型剤、酸化防止剤、増粘剤、造孔材(気孔形成材)等が挙げられる。上記添加剤の配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、ガラス組成物の全体を100重量%としたときにその他の成分の含有量は、概ね1重量%~10重量%の範囲内とすることができる。
【0040】
ここに開示されるガラス組成物の好ましい一態様としては、ガラス粉末の平均粒径が0.1~2.4μm(好ましくは0.4~1.5μm)であり、ガラス密度が2.2~8.5g/cm(好ましくは3.1~8.1g/cm)であり、25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときのガラス組成物の粘度が1~20Pa・s(好ましくは3~11Pa・s)である。かかる構成のガラス組成物は、スプレーコート装置を用いてスプレー可能なスプレー特性を有し、対象物にコートされた際には、液だれが抑制される。
【0041】
2.ガラス組成物の製造方法
ここに開示されるガラス組成物の製造方法は、少なくともガラス粉末を用意する用意工程と、ガラス組成物を調製する調製工程と、を包含する。そして、上記した式(1):y≦-0.06x+0.1a+0.586;と、式(2):2.2≦x≦8.5;と、式(3):1≦a≦20;と、を満たすように、当該用意工程および調製工程を実施することにより特徴づけられている。したがって、それ以外の製造プロセスは従来のガラス組成物の製造プロセスと同様であってもよい。また、任意の段階でさらに他の工程を含んでいてもよい。
【0042】
(1)用意工程
ガラス粉末の用意工程では、上記した式(1)~(3)を満たすように、ガラス粉末のガラス密度x(g/cm)と平均粒径y(μm)とを調製する。具体的には、ガラス粉末の各構成成分(Si、Ba、Bi、B、Al、Na、Zn、Ca等)を含有する粉末状の原料化合物(例えば酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等)を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料を用意する。次いで、ガラス密度xが上記式(2)を満たすガラス組成となるように、原料化合物を秤量、調合し、必要に応じて添加物等を加えて調製する。原料粉末の調製は、例えばボールミル等の混合機に上記原料を投入し、数時間~数十時間混合することによって行うことができる。好適な一態様では、ガラス密度xが3.1g/cm以上8.1g/cm以下となるように調製するとよい。
【0043】
次に、このようにして得られたガラス原料粉末を乾燥した後、溶融炉等で適切な温度(例えば1000℃~1600℃)にまで加熱することで、溶融させる。この溶融物を冷却または急冷させることによってガラス(ガラス中間体)を調製することができる。そして、当該ガラス(ガラス中間体)を、上記式(1)を満たす平均粒径yとなるように粉砕する。好適な一態様では、平均粒径yが0.1μm以上2.4μm以下(より好ましくは0.4μm以上2μm以下)となるように粉砕するとよい。
【0044】
また、上記調製したガラス質中間体を結晶化処理(熱処理)することにより、上記ガラス接合材中に結晶が析出した結晶含有ガラスとすることもできる。結晶化処理は、結晶化を誘起し得る温度域(例えば700℃~1200℃)で、上記ガラス質中間体を所定時間(典型的には10分以上、例えば20分~240分)保持するとよい。好適な一態様では、得られたガラスを、粉砕や篩いがけ(分級)によって、ガラスカレットまたはガラスパウダー等の形態に調製する。これにより、一層高気密で高品質な接合部を実現することができる。このとき、結晶含有ガラスの平均粒径は、上記式(1)を満たす平均粒径yとなるように粉砕や分級を実施する。好適な一態様では、結晶含有ガラスの平均粒径yが0.1μm以上2.4μm以下(より好ましくは0.4μm以上2μm以下)となるように実施するとよい。
【0045】
(2)調製工程
ガラス組成物の調製工程では、上記式(1)および式(3)を満たすように、上記用意したガラス粉末と、チクソトロピック剤と、バインダと、分散媒とを混合し、ペースト状の組成物を調製する。一例としては、まず、バインダと分散媒とを混合し有機ビヒクルを調製する。次いで、当該有機ビヒクルと上記用意したガラス粉末とを混合する。そして、当該有機ビヒクルとガラス粉末との混合物に対して、所望する粘度aとなるようにチクソトロピック剤の量を調整しながら添加して、さらに混合する。好適な一態様では、25℃の環境下において、せん断速度0.2S-1で測定したときのガラス組成物の粘度aが1Pa・s以上20Pa・s以下(より好ましくは3Pa・s以上11Pa・s以下)となるように、当該材料(例えばチクソトロピック剤の量)を調整する。
なお、ペーストの分散、混合方法については、特に限定される事項はなく、例えば、従来公知の三本ロールミル等を用いて行うことができる。
【0046】
3.ガラス組成物の用途
上記のようにして準備したペースト状のガラス組成物は、スプレーコート装置を用いて対象物に塗布される。好適な一態様では、当該ガラス組成物は、対象物同士を接合させるガラス接合剤である。また、別の好適な一態様では、対象物に封孔性、絶縁性、表面平滑性、耐摩耗性、耐反応性、耐酸性および耐アルカリ性等のうち少なくともいずれか一つの性能を付与するコーティング剤である。かかるガラス組成物は、スプレーコート装置を用いること以外は従来のガラス接合剤等のガラス組成物と同様にして用いることができる。例えば、まず、上記のようにガラス組成物を調製する。また、対象物としては、セラミック部材や金属部材を用意する。次に、対象物に対して、当該調製したガラス組成物を、スプレーコート装置を用いて塗布(コート)する。そして、当該ガラス組成物が塗布された状態の対象物を、ガラス組成物に含まれるガラス粉末の軟化点以上の温度域(典型的には600℃以上、例えば700℃~1000℃)で焼成する。これによって、対象物同士の間に気密性に優れたガラス接合部を形成することができる。あるいは、対象物の表面に上記したような特性を付与するガラスコート部を形成することができる。
【0047】
ここで、ここに開示されるガラス組成物は、上記した式(1)~(3)を満たすように調製されていることにより、スプレーコート装置を用いて好適に噴霧することができ、対象物に対して均質にコートすることができる。スプレーコートの方法としては、特に限定されず、例えば、トリガー式スプレー、ポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式、噴射剤を用いたエアゾール式スプレー、動力噴霧器等が挙げられる。なかでも、トリガー式スプレーが好ましい。
かかるトリガー式スプレーは、大気圧で噴霧可能であり、手動の加圧によりスプレーすることができるもののことをいう。例えばトリガー式スプレーは、上記したガラス組成物を充填する容器本体と、トリガー式のスプレー装置とを備えている。なお、当該とトリガー式スプレーには、スプレー機能を向上させるためにトリガー式スプレーの一部を改良したものも含まれる。
【0048】
上述の通り、ここに開示されるガラス組成物は、ガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を含み、上記式(1)~(3)を満たすように調製されることにより、従来のガラス接合材とは異なりスプレーコート装置を用いて好適に塗布(スプレーコート)することができる。したがって、対象物の形状が球面や凹凸形状のような複雑な形状である場合でも、均質な厚みでガラス組成物をコートすることができる。そして、当該ガラス組成物の塗布面に他の対象物を接続させた状態で焼成することにより、気密性の高いガラス接合部を実現することができる。また、対象物の表面に薄膜でコートして焼成することにより、耐摩耗性等の特性を付与するガラスコート部を均質な厚みで形成することができる。
【0049】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する実施例を説明するが、ここに開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0050】
<第1の試験>
本試験では、組成が異なるガラス組成物を用意し、該ガラス組成物の分散性、噴霧性、基材に塗布した際の液だれ性について評価した。
【0051】
1.ガラス粉末の用意
まず、表1に示すようにガラス組成とガラス密度(g/cm)が異なる4種類のガラス(ガラスA~D)を用意した。そして、これらのガラスをそれぞれ、平均粒径が、0.4μm、0.7μm、1μm、1.5μmとなるように加工して各ガラスA~Dのガラス粉末を用意した。なお、表1における組成(重量%)は、各ガラスの全体を100重量%としたときの酸化物換算の重量比である。
【0052】
【表1】
【0053】
2.各サンプルの用意
(1)サンプル1
まず、サンプル1では、ガラス粉末として、ガラス組成がガラスA、ガラス密度が3.1g/cm、平均粒径が0.4μmのガラス粉末を用意した。また、分散媒としてターピネオール、バインダとしてアクリル樹脂、チクソトロピック剤としてBYK-411(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を用意した。次いで、ターピネオール:アクリル樹脂=95:5の重量比となるように、ホットスタラー(回転数:300rpm、温度:80℃、撹拌時間:1時間)で混合して、有機ビヒクルを用意した。上記用意したガラス粉末と有機ビヒクルとを、ガラス粉末:有機ビヒクル=40:60の重量比となるように混合した。そして、分散剤(クローダジャパン株式会社製、KD-9)を、当該ガラス粉末と有機ビヒクルとの混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)1.2重量%添加した。そして、これらガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物を、ビーズミルを用いて混錬した。さらに、チクソトロピック剤を、ガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)1重量%添加した。これらをポッドミル(回転数:250rpm、撹拌時間:1時間)で混合し、サンプル1のガラス組成物を作製した。
調製したサンプル17のガラス組成物の粘度を、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のHAAKE MARS レオメータを用いて、温度25℃、せん断速度0.2S-1の条件で測定した。サンプル1のガラス組成物の粘度aは、3Pa・sであった。
【0054】
(2)サンプル2~16
ガラス粉末のガラス組成、ガラス密度x、および平均粒径yを表2に示すように異ならせたこと以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2~16のガラス組成物を作製した。なお、サンプル2~16のガラス組成物は、粘度がサンプル1と同等程度(3Pa・s)となるように、分散媒の量をやや調整した。
【0055】
(3)サンプル17
サンプル17では、粘度aが低いガラス組成物を作製した。まず、ガラス粉末、バインダおよび分散媒は、サンプル1と同様のものを用意した。次いで、ターピネオール:アクリル樹脂=95:5の重量比となるように、ホットスタラー(回転数:300rpm、温度:80℃、撹拌時間:1時間)で混合して、有機ビヒクルを用意した。上記用意したガラス粉末と有機ビヒクルとを、ガラス粉末:有機ビヒクル=40:60の重量比となるように混合した。そして、分散剤(クローダジャパン株式会社製、KD-9)を、当該ガラス粉末と有機ビヒクルとの混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)1.2重量%添加した。そして、これらガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物を、ビーズミルを用いて混錬した。さらに、チクソトロピック剤を添加せずに、ガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物をポッドミル(回転数:250rpm、撹拌時間:1時間)で混合し、サンプル17のガラス組成物を作製した。
調製したサンプル1のガラス組成物の粘度を、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のHAAKE MARS レオメータを用いて、温度25℃、せん断速度0.2S-1の条件で測定した。サンプル17のガラス組成物の粘度aは、0.5Pa・sであった。
【0056】
(4)サンプル18~32
ガラス粉末のガラス組成、ガラス密度x、および平均粒径yを表2に示すように異ならせたこと以外は、サンプル17と同様にして、サンプル18~32のガラス組成物を作製した。なお、サンプル18~32のガラス組成物は、粘度がサンプル17と同等程度(0.5Pa・s)となるように、分散媒の量をやや調整した。
【0057】
3.評価試験
上記作製した各サンプル1~32のガラス組成物を用いて、分散性、噴霧性、および液だれ性の評価試験を行った。
【0058】
(1)分散性の評価試験
上記ポッドミルで撹拌した各サンプル1~32のガラス組成物を、それぞれスクリュー管瓶に10ml入れ、24時間静置した。静置後の組成物を目視において確認し、沈降が確認されなかった場合を「○」、沈降が確認された場合を「×」として、分散性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
(2)噴霧性の評価試験
上記用意した各サンプル1~32のガラス組成物を、エアテックス社製のスプレーコーティング装置(製品名:メテオ、ノズル径0.3mm)を用いて0.2MPaの噴霧圧で噴霧した際に、噴霧可能か否かを評価した。スプレーコーティング装置から噴霧が可能な場合を「○」、噴霧が不可能な場合を「×」として、噴霧性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
(3)液だれの評価試験
上記用意した各サンプル1~32のガラス組成物を、アルミナ基板(株式会社ニッカトー製、縦30mm×横30mm)に対して、スポイトを用いてそれぞれ0.03g滴下した。塗布面が垂直方向となるようにアルミナ基板を傾けて、1分間静置した。静置後の状態を目視で確認し、ガラス組成物がアルミナ基板の下端まで達していない場合は「○」、組成物がアルミナ基板の下端に達した場合は「×」として、液だれ性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
(4)総合評価
上記した(1)分散性の評価試験、(2)噴霧性の評価試験、および(3)液だれの評価試験の結果に基づいて総合評価を行った。
「●」:(1)~(3)の評価がいずれも「○」である。
「▲」:(1)~(3)の評価のうち、少なくともいずれか一つが「×」である。
上記総合評価が「●」であるガラス組成物は、スプレーコート用のガラス組成物として、分散性、噴霧性、および液だれの抑制が十分であると判断した。また、上記総合評価の結果に基づき、サンプル1~16についての評価結果を図1に示す。なお、図1中の横軸は「ガラス密度(g/cm)」であり、縦軸は「ガラス粉末の平均粒径(μm)」であり、図1中の「●」および「▲」は、総合評価の結果を反映させている。
【0062】
【表2】
【0063】
表2および図1に示すように、式(1):y≦-0.06x+0.1a+0.586;と、式(2):2.2≦x≦8.5;と、式(3):1≦a≦20;と、を満たすように調製されたガラス組成物は、分散性、噴霧性、液だれの評価がいずれも「○」であり、総合評価が「●」であることがわかる。
したがって、ガラス粉末と、バインダと、チクソトロピック剤と、分散媒と、を含み、上記式(1)~(3)を満たすように調製されたガラス組成物は、スプレーコート装置を用いて好適にスプレーすることができるスプレー特性を有し、液だれが好適に抑制された状態で対象物にコートすることができる。かかるガラス組成物であれば、複雑な形状を有する対象物に対しても均質なコートをすることができる。
【0064】
<第2の試験>
本試験では、粘度aを変更したガラス組成物を調製し、当該ガラス組成物の分散性、噴霧性、基材に塗布した際の液だれ性について評価した。
【0065】
1.ガラス粉末の用意
まず、第1の試験と同様に表1に示すガラス組成とガラス密度(g/cm)を有する4種類のガラス(ガラスA~D)を用意した。そして、これらのガラスをそれぞれ、平均粒径が、0.4μm、0.7μm、1μm、1.5μmとなるように加工して各ガラスA~Dのガラス粉末を用意した。
【0066】
2.各サンプルの用意
(1)サンプル33
サンプル33では、まず、ガラス粉末、バインダ、チクソトロピック剤、および分散媒は、サンプル1と同様のものを用意した。次いで、ターピネオール:アクリル樹脂=95:5の重量比となるように、ホットスタラー(回転数:300rpm、温度:80℃、撹拌時間:1時間)で混合して、有機ビヒクルを用意した。上記用意したガラス粉末と有機ビヒクルとを、ガラス粉末:有機ビヒクル=40:60の重量比となるように混合した。そして、分散剤(クローダジャパン株式会社製、KD-9)を、当該ガラス粉末と有機ビヒクルとの混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)1.2重量%添加した。そして、これらガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物を、ビーズミルを用いて混錬した。さらに、チクソトロピック剤を、ガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)2重量%添加した。これらをポッドミル(回転数:250rpm、撹拌時間:1時間)で混合し、サンプル33のガラス組成物を作製した。
調製したサンプル33のガラス組成物の粘度を、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のHAAKE MARS レオメータを用いて、温度25℃、せん断速度0.2S-1の条件で測定した。サンプル33のガラス組成物の粘度aは、6Pa・sであった。
【0067】
(2)サンプル34~48
ガラス粉末のガラス組成、ガラス密度x、および平均粒径yを表3に示すように異ならせたこと以外は、サンプル33と同様にして、サンプル34~48のガラス組成物を作製した。なお、サンプル34~48のガラス組成物は、粘度がサンプル33と同等程度(6Pa・s)となるように、分散媒の量をやや調整した。
【0068】
(3)サンプル49
サンプル49では、まず、ガラス粉末、バインダ、チクソトロピック剤、および分散媒は、サンプル1と同様のものを用意した。次いで、ターピネオール:アクリル樹脂=95:5の重量比となるように、ホットスタラー(回転数:300rpm、温度:80℃、撹拌時間:1時間)で混合して、有機ビヒクルを用意した。上記用意したガラス粉末と有機ビヒクルとを、ガラス粉末:有機ビヒクル=40:60の重量比となるように混合した。そして、分散剤(クローダジャパン株式会社製、KD-9)を、当該ガラス粉末と有機ビヒクルとの混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)1.2重量%添加した。そして、これらガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物を、ビーズミルを用いて混錬した。さらに、チクソトロピック剤を、ガラス粉末と有機ビヒクルと分散剤との混合物の合計重量に対して(すなわち外添加で)3重量%添加した。これらをポッドミル(回転数:250rpm、撹拌時間:1時間)で混合し、サンプル49のガラス組成物を作製した。
調製したサンプル49のガラス組成物の粘度を、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のHAAKE MARS レオメータを用いて、温度25℃、せん断速度0.2S-1の条件で測定した。サンプル49のガラス組成物の粘度aは、11Pa・sであった。
【0069】
(4)サンプル50~64
ガラス粉末のガラス組成、ガラス密度x、および平均粒径yを表3に示すように異ならせたこと以外は、サンプル49と同様にして、サンプル50~64のガラス組成物を作製した。なお、サンプル50~64のガラス組成物は、粘度がサンプル49と同等程度(11Pa・s)となるように、分散媒の量をやや調整した。
【0070】
3.評価試験
本試験では、第1の試験と同じ手順に従って、(1)分散性の評価試験、(2)噴霧性の評価試験、および(3)液だれの評価試験を行った。そして、当該(1)~(3)の評価試験の結果に基づいて、第1の試験と同様に総合評価を行った。結果を表3に記載する。
上記総合評価が「●」であるガラス組成物は、スプレーコート用のガラス組成物として、分散性、噴霧性、および液だれの抑制が十分であると判断した。また、上記総合評価の結果に基づき、サンプル33~48についての評価結果を図2に、サンプル49~64についての評価結果を図3に示す。なお、図2図3中の横軸は、「ガラス密度(g/cm)」であり、縦軸は「ガラス粉末の平均粒径(μm)」であり、図2図3中の「●」および「▲」は、総合評価の結果を反映させている。
【0071】
【表3】
【0072】
表3、図2および図3に示すように、ガラス組成物の粘度aが異なる場合であっても、上記式(1)~(3)を満たすように調製されたガラス組成物は、分散性、噴霧性、液だれの評価がいずれも「○」であり、総合評価が「●」であることがわかる。
【0073】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。


図1
図2
図3