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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149870
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド梁の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/293 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
E04C3/293
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058657
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山上 聡
(72)【発明者】
【氏名】岸本 剛
(72)【発明者】
【氏名】小山 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】岡 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】反町 敦
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FF13
2E163FF15
(57)【要約】
【課題】鉄骨梁のSRC造の梁端部への鉄骨の埋め込み長さが鉄骨梁の梁せいの2.5倍未満である場合にも適用することが可能なハイブリッド梁の設計方法を提供する。
【解決手段】鉄骨12からなる鉄骨梁14の梁端部が鉄筋コンクリート部13に埋設して構成されるSRC造梁部15の長期荷重時の許容せん断応力を算定する際、SRC造梁部15の残留ひび割れ幅を考慮して、SRC造梁部15への鉄骨12の埋め込み長さの鉄骨梁12の梁せいに対する比率に応じた低減係数βを、SRC造梁部15をRC部材として求めた算定値に乗じる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨からなる鉄骨梁の梁端部が鉄筋コンクリート部に埋設して構成されるSRC造梁部の長期荷重時の許容せん断応力を算定する際、前記SRC造梁部の残留ひび割れ幅を考慮して、前記SRC造梁部への前記鉄骨の埋め込み長さの前記鉄骨梁の梁せいに対する比率に応じた低減係数βを、前記SRC造梁部をRC部材として求めた算定値に乗じることを特徴とするハイブリッド梁の設計方法。
【請求項2】
前記SRC造梁部への前記鉄骨の埋め込み長さが前記鉄骨梁の梁せいの2倍以上2.5倍未満である場合、前記低減係数βを0.85とし、前記SRC造梁部への前記鉄骨の埋め込み長さが前記鉄骨梁の梁せいの2.5倍以上である場合、前記低減係数βを1.0とすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド梁の設計方法。
【請求項3】
前記鉄骨がH型鋼又はI型鋼であって、前記SRC造梁部内の前記鉄骨の始端部と終端部に上フランジと下フランジとを接続する鋼板を設けた場合、前記低減係数βを1.0とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド梁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド梁の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中央部が鉄骨(S)造であり、両端部は鉄骨を鉄筋コンクリート(RC)で覆った複合構造の梁(ハイブリッド梁)を梁躯体とする建物が増加している(例えば、特許文献1から3参照)。ハイブリッド梁は、中央部がS造であるため、RC造の梁と比較して梁自重の軽減及び梁せいの減少を図ることができるので、梁のロングスパン化、コスト低減、平面計画の自由度の増大が可能になるなどの利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-113464号公報
【特許文献2】特開2021-113465号公報
【特許文献3】特開2021-113466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のハイブリッド梁は、SRC造の梁端部への鉄骨の埋め込み長さが鉄骨梁の梁せいの2.5倍以上である場合を基準として構造性能を検証しており、2.5倍未満である場合の構造性能については、どのように評価することが適正であるか不明であった。そのため、埋め込み長さが鉄骨梁の梁せいの2.5倍未満である場合の設計方法は存在せず、このようなハイブリッド梁は使用されていなかった。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、SRC造の梁端部への鉄骨の埋め込み長さが鉄骨梁の梁せいの2.5倍未満である場合にも適用することが可能なハイブリッド梁の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド梁の設計方法は、鉄骨からなる鉄骨梁の梁端部が鉄筋コンクリート部に埋設して構成されるSRC造梁部の長期荷重時の許容せん断応力を算定する際、前記SRC造梁部の残留ひび割れ幅を考慮して、前記SRC造梁部への前記鉄骨の埋め込み長さの前記鉄骨梁の梁せいに対する比率に応じた低減係数βを、前記SRC造梁部をRC部材として求めた算定値に乗じることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、鉄骨梁のSRC造の梁端部への鉄骨の埋め込み長さが鉄骨梁の梁せいの2.5倍未満であって、SRC造の梁端部の許容せん断応力がRC造の梁端部と同等以上の許容せん断応力を有さない場合であっても、低減係数βを導入することにより、SRC造梁部の残留ひび割れ幅を考慮して許容せん断応力を算定することが可能となる。
【0008】
そして、本発明のハイブリッド梁の設計方法において、下述する試験結果から、具体的には、前記SRC造梁部への前記鉄骨の埋め込み長さが前記鉄骨梁の梁せいの2倍以上2.5倍未満である場合、前記低減係数βを0.85とし、前記SRC造梁部への前記鉄骨の埋め込み長さが前記鉄骨梁の梁せいの2.5倍以上である場合、前記低減係数βを1.0とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明のハイブリッド梁の設計方法において、下述する試験結果から、具体的には、前記鉄骨がH型鋼又はI型鋼であって、前記SRC造梁部内の前記鉄骨の始端部と終端部に上フランジと下フランジとを接続する鋼板を設けた場合、前記低減係数βを1.0とすることが好ましい。なお、前記鋼板の厚さは、前記鉄骨のウエブの厚さ以上であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド梁の設計方法が適用されるハイブリッド梁の一例を示す概略正面図。
図2】試験体の概略縦断面図。
図3図2のIIIーIII線における概略断面図。
図4】SRC造梁部の長期許容せん断力の計算値とせん断ひび割れ荷重の実験値との関係を示すグラフ。
図5】SRC造梁部の残留ひび割れ幅とせん断応力レベルとの関係を示すグラフ。
図6】SRC造梁部の残留ひび割れ幅に低減係数βを乗じた値とせん断応力レベルとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るハイブリッド梁の設計方法が適用されるハイブリッド梁10の一例について図面を参照して説明する。本設計方法が適用されるハイブリッド梁は、例えば、上記特許文献1から3に記載されたものである。なお、図1から図3は模式的に説明するための図であり、寸法はデフォルメされている。
【0012】
ハイブリッド梁10は、図1に示すように、対向する柱11の間に架け渡されたH型鋼やI型鋼等の型鋼からなる鉄骨12の両端部が鉄筋コンクリート(RC)造の構造体13に埋設されてなる梁である。なお、ハイブリッド梁10は、図示しないが、RC造の基礎と一体化したRC造の構造体に鉄骨12の端部が埋設されてなるものであってもよい。
【0013】
ハイブリッド梁10は、その中央部が、鉄骨12がそのまま露出した鉄骨造梁部(S造梁部)14となっており、その両端部が、鉄骨12がRC造の構造体13で覆われたSRC造梁部15となっている。
【0014】
柱11は、鉄筋コンクリート造からなるものであり、詳細は図示しないが、内部に、複数の柱主筋、及び柱主筋を囲繞するせん断補強筋などが配筋されている。
【0015】
SRC造梁部15は、図2及び図3を参照して、その内部に、鉄骨12、鉄骨12の上方および下方に配置されハイブリッド梁10の長手方向に沿って延在する複数の梁主筋16、及び、これら梁主筋16を囲繞する複数のせん断補強筋17などが設けられている。梁主筋16は柱11内まで延びている。また、梁主筋16の柱梁接合部への定着は、定着金物あるいは折り曲げ定着により行われる。梁主筋16の先端部には定着ピース18が設けられている。定着ピース18は、梁主筋16の先端のねじ部に螺合するナット部と、このナット部に固定された鋼鉄板とからなっている、
【0016】
そして、SRC造梁部15の基端部(柱11側の端部)及び先端部(S造梁部14側の端部)においては、せん断補強筋17が配筋されている中間領域よりも間隔が狭く密に集中補強筋(せん断補強筋)19が配筋されている。また、各せん断補強筋17及び集中補強筋19には、中子筋20が配筋されている。
【0017】
さらに、必要に応じて、SRC造梁部15の内部の鉄骨12において、終端部(柱11側の端部)及び始端部(S造梁部14側の端部)に、左右の上フランジと下フランジとの間をそれぞれ接続する鉄鋼製のリブプレート(塞ぎ板)21が隅肉溶接により設けられていてもよい。なお、リブプレート21の板厚は鉄骨12のウエブの厚さ以上であることが好ましい。リブプレート21は、本発明の鋼板に相当する。
【0018】
そして、SRC造梁部15は、現場打ちコンクリートで製作される。コンクリートは、普通コンクリートでも、繊維補強コンクリートでもよい。
【0019】
以上説明したハイブリッド梁10におけるSRC造梁部15のせん断力を算定する計算式を定めるために、以下で説明する試験体を用意した。
【0020】
試験体として、No.4-1~No.4-6及びNo.5-1~No.5-12の合計18体の試験体を用意した。各試験体の緒元を表1から表3にまとめた。試験体No.4-1~No.4-4及びNo.5.1~No.5-10、No.5-12の合計15体は曲げ降伏型とあり、試験体No.4-5、No.4-6及びNo.5-11の合計3体はせん断破壊型であった。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
試験体は、実建物を1/2から2/3程度に縮小したものを想定して寸法を定めた。図2及び図3を参照して、片持ち状態である試験体の加力点までの距離L1は2425mmであり、反曲点間の距離L2は2350mmであった。
【0025】
試験体No.4-1においては、鉄骨12として、高さ(S造梁部14の梁せい)Hs500mm、辺の長さ(S造梁部14の梁幅)Bs200mm、ウエブの厚さ9mm、フランジの厚さ16mmのSN490BからなるH型鋼を用いた。この鉄骨12のSRC造梁部15への埋め込み長さL3は1000mmであり、リブプレート21は設けなかった。
【0026】
試験体No.4-1においては、SRC造梁部15は、高さ(梁せい)HSRC800mm、幅(梁幅)BSRC650mm、長さLSRC1075mmであり、設計基準強度Fcが36N/mm2のコンクリートを用いて形成した。
【0027】
試験体No.4-1においては、SRC造梁部15において、梁主筋16として、直径19mmのSD390からなる鉄筋を上段及び下段に水平方向に8本ずつ、その内側に2本ずつ配筋した。中間領域のせん断補強筋17として、直径8mmのKSS785からなる鉄筋を、梁主筋16を囲繞させて60mmの間隔s1で配筋した。さらに、SRC造梁部15の始端部に集中補強筋19として、直径10mmのKSS785からなる鉄筋で梁主筋16を囲繞させて30mmの間隔S2で5組配筋した。また、SRC造梁部15の終端部に集中補強筋19として、直径8mmのKSS785からなる鉄筋で梁主筋16を囲繞させて30mmの間隔S2で5組配筋した。
【0028】
そして、試験体No.4-1においては、SRC造梁部15の端部のせん断余裕度(=曲げ耐力時のせん断耐力JU_vu/せん断耐力時のせん断耐力JU_mu)は、1を超えており、破壊形式は、曲げ破壊形式である。
【0029】
試験体No.4-2は、試験体No.4-1とは、SRC造梁部15の梁せいHSRCが670mmと低く、集中補強筋19の配筋を4組ずつに減じた点のみが相違する。
【0030】
試験体No.4-3は、試験体No.4-2とは、SRC造梁部15の梁幅BSRCが500mmと狭く、せん断補強筋17の間隔S1を75mmに広げた点のみが相違する。試験体No.4-4は、試験体No.4-2とは、SRC造梁部15の始端部及び終端部において、鉄骨12のウエブと同じ厚さの鋼板からなるリブプレート21を隅肉溶接で鉄骨12に固定した点のみが相違する。
【0031】
試験体No.4-5は、試験体No.4-3とは、SRC造梁部15の上段及び下段における梁主筋16の本数を6本ずつに削減した点のみが相違する。試験体No.4-6は、試験体No.4-5とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcを30N/mm2に低下させたコンクリートを用いた点のみが相違する。
【0032】
試験体No.5-1は、試験体No.4-5とは、鉄骨12のウエブの厚さを10mmと厚くし、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが24N/mm2の低強度コンクリートを用い、梁主筋16の直径を16mmの小径化するとともに材質をSD345からなる低強度のものとし、せん断補強筋17も直径6mmと小径化するとともに材質をSD345からなる低強度のものとし、せん断補強筋17の間隔S1を50mmと狭くし、さらに、集中補強筋19の配筋を3組ずつに減じた点のみが相違する。
【0033】
試験体No.5-2、No.5-4、No.5-6は、試験体No.5-1、No.5-3、No.5-5に対して、それぞれ、SRC造梁部15の始端部及び終端部において、鉄骨12のウエブと同じ厚さの鋼板からなるリブプレート21を隅肉溶接で鉄骨12に固定した点のみが相違する。
【0034】
試験体No.5-3は、試験体No.4-5とは、鉄骨12のウエブの厚さを10mmと厚くし、梁主筋16の材質をSD390からなる低強度のものとし、集中補強筋19の配筋を3組ずつに減じた点のみが相違する。試験体No.5-5は、試験体No.5-3とは、せん断補強筋17の間隔S1を125mmに広げた点のみが相違する。
【0035】
試験体No.5-7は、試験体No.5-5とは、せん断補強筋17の間隔S1を150mmに広げた点のみが相違する。試験体No.5-8は、試験体No.5-7とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが48N/mm2の高強度コンクリートを用い、せん断補強筋17の間隔S1を75mmと狭くした点のみが相違する。
【0036】
試験体No.5-9は、試験体No.5-7とは、鉄骨12として、高さHS350mm、辺の長さBS175mm、ウエブの厚さ7mm、フランジの厚さ11mmのSN490BからなるH型鋼を用い、鉄骨12の埋め込み深さL3を750mmとし、SRC造梁部15の断面を高さ(梁せい)HSRC400mm、幅(梁幅)BSRC515mmとし、梁主筋16の直径を16mmの小径化し、せん断補強筋17を直径6mmと小径化するとともに、せん断補強筋17の間隔S1を50mmと狭くし、始端側の集中補強筋19の直径を8mm、始端側の集中補強筋19の直径を6mmと小径化した点のみが相違する。
【0037】
試験体No.5-10は、試験体No.5-9とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが30N/mm2に低下させたコンクリートを用いた点のみが相違する。試験体No.5-11は、試験体No.5-7とは、SRC造梁部15の梁せいHSRCを450mmと低くし、SRC造梁部16の上段及び下段に7本ずつ、そして、その内側に4本ずつ梁主筋16を配筋し、せん断補強筋17の間隔S1を200mmに広げ、集中補強筋19の配筋を4組ずつに増やした点のみが相違する。試験体No.5-12は、試験体No.5-8とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが36N/mm2のコンクリートを用いた点のみが相違する。
【0038】
上述した各試験体を用いて載荷試験を行った。この試験は、各試験体の基端を固定した片持ち梁の形式により、鉄骨12の自由端側の加力点(基端からの距離L1)にジャッキにより荷重を付加した。なお、図示しないが、載荷に伴う変形によりS造梁部14にねじれが生じないようにS造梁部14の先端に図示しないが面外振れ止め装置を取り付けた。また、鉄骨12のウエブ及びフランジ、並びに、梁主筋16及びせん断補強筋17に、それぞれ複数個所にひずみゲージを貼り付けた。
【0039】
載荷は、S造梁部14の先端の撓み角が±(2.5,5,10,15,20,30,40)×10-3radの7水準を2サイクルずつ繰り返し、その後、+100×10-3radまで一方向に単調載荷を行った。なお、S造梁部14の上端が引張となる方向が正方向である。架構実験における変位を電気式変位計により計測し、この計測結果から撓み角を算出した。
【0040】
そして、載荷試験中に、せん断補強筋17のひずみ量の増分が急増したときのせん断力をせん断ひび割れ荷重の実験値として求めた。
【0041】
一方、使用性検討のためのRC部材の長期許容せん断力QaLは、鉄筋コンクリート構造計算規準(RC規準)15条2項(1)に基づき、以下の式(1)により算定される。
QaL=b・j・α・fs ・・・ (1)
【0042】
ここで、bは、RC部材の梁幅である。jは、RC部材の応力中心距離であり、7/8・dとすればよい。ただし、dは、RC部材の有効せいである。fsは、コンクリートの長期許容せん断応力度である。αはRC部材のせん断スパン比であり、以下の式(2)から求められる。
α=4/((Md/Qd・d)+1) かつ 1≦α≦2 ・・・ (2)
【0043】
ただし、Mdは、設計するRC部材の長期荷重による最大曲げモーメントであり、RC規準15条に基づき算出される。Qdは、設計するRC部材の長期荷重による最大せん断であり、RC規準15条に基づき算出される。
【0044】
そして、式(1)をSRC造梁部15に適用することを考える。式(1)に基づくSRC造梁部15の長期許容せん断力QaLの計算値と、載荷試験で求めたせん断ひび割れ荷重の実験値との関係を、図4のグラフに示した。なお、実際のSRC造梁部15に用いたコンクリートに対して材料試験を行って圧縮強度σを求め、この圧縮強度σに1/30を乗じた値を長期許容せん断応力度とした。
【0045】
このグラフにおいて、各試験体の実験値が式(1)の計算値に比べて高い、または低いかを分かりやすくするために、横軸と縦軸の値が等しくなる位置に破線を記入するとともに、計算値の低減係数としてβを導入し、βが1.1の場合と0.85の場合とも併せて記入した。
【0046】
このグラフから、全ての試験体において、実験値は計算値に0.85を乗じた数値を超えていることが分かる。そこで、式(1)に基づく計算値に低減係数βとして0.85を乗じた値をSRC造梁部15の長期許容せん断力QaLとすることにより、余裕を有た設計値を得ることが可能となる。
【0047】
また、リブプレート21を有する試験体No.4-4、No.5-2、No.5-4、No.5-6、No.5-10は、全て、実験値が計算値を超えている。そこで、リブプレート21を有する場合には、低減係数βを1として、式(1)に基づく計算値をそのままSRC造梁部15の長期許容せん断力QaLとすればよいことが分かる。
【0048】
さらに、埋め込み長さL3がS造梁部14の梁せいHSの2.5倍以上である試験体No.5-7~No.5-12は、全て、実験値が計算値を超えている。そこで、埋め込み長さL3がS造梁部14の梁せいHSの2.5倍以上である場合には、低減係数βを1.0として、式(1)に基づく計算値をそのままSRC造梁部15の長期許容せん断力QaLとすればよいことが分かる。
【0049】
以上から、使用性検討のためのSRC造梁部15の長期許容せん断力QaLは、低減係数βを用いて、次式(3)から算定すればよい。
QaL=β・b・j・α・fs ・・・ (3)
【0050】
ただし、低減係数βは、リブプレート21を有する場合又は埋め込み長さL3がS造梁部14の梁せいHSの2.5倍以上である場合は1.0であり、リブプレート21を有さず、かつ、埋め込み長さL3がS造梁部14の梁せいHSの2.0倍以上2.5倍未満の場合は0.85である。なお、埋め込み長さL3がS造梁部14の梁せいHSの2.0倍未満の場合、式(3)は適用されない。
【0051】
式(3)の妥当性を確認するために、損傷制御用の短期荷重から使用性確保用の長期荷重に除荷したときに各試験体に生じたひび割れ幅を確認した。
【0052】
具体的には、目視によるひび割れ幅の結果から、試験体の撓み角が1/400,1/200,1/100,1/67rad時におけるひび割れ(ピーク時のひび割れ幅)の平均値と、1/100radから除荷時におけるひび割れ幅(除荷時ひび割れ幅)の平均値とを求め、これらから短期荷重から長期荷重へ除荷したときの残留ひび割れ幅を推測した。ただし、SRC造梁部15の小口部に発生するひび割れは除外した。
【0053】
この残留ひび割れ幅とせん断応力レベルとの関係を図5のグラフに示した。なお、せん断力レベルは、SRC造梁部15に作用するせん断力QをSRC造梁部15の断面積Aで除した値と、SRC造梁部15のコンクリート強度Fcとの比を表す値である。
【0054】
なお、ここでのコンクリート強度Fcは、実験時のコンクリート強度である。そのため、図5、6における各試験体のせん断応力度レベルは、表1~3に記載されている、配合計画におけるコンクリート強度に基づいて算定した値とはわずかに異なっている。
【0055】
このグラフから、曲げ降伏した試験体No.4-2において、残留ひび割れ幅が0.3mmを超えたことが分かる。各試験体は実建物を1/2から2/3程度に縮小したものを想定しているので、実建物では、残留ひび割れ幅が、損傷レベルが鉄筋降伏程度である0.4mmを超えると推測される。
【0056】
残留ひび割れ幅に低減係数βを乗じた値とせん断応力レベルとの関係を図6のグラフに示した。このグラフから、残留ひび割れ幅に低減係数βを乗じた値の最大値は0.3mm未満であり、実建物では0.4mm未満であり損傷レベルが鉄筋降伏を超えないと推測される。これより、低減係数βの設定は妥当であることが分かる。
【0057】
さらに、上述した使用性検討のためのSRC造梁部15の長期許容せん断力QaLと同様に、長期荷重によるせん断ひび割れを許容する場合には、鉄筋コンクリート構造計算規準(RC規準)15条2項(1)を参照して、以下の式(4)からSRC造梁部15の長期許容せん断力を算定すればよい。
QaL=β・b・j・{α・fs+0.5・wfl(pw-0.002)} ・・・ (4)
【0058】
ただし、wflはせん断補強筋のせん断補強用長期許容引張応力度である。そして、pwはRC造梁部のあばら筋比(=aw/(b・x)であって、かつ、0.6%以下である。ここで、awは1組のせん断補強筋17の断面積であり、xはせん断補強筋17の間隔である。
【0059】
一方、修復性検討のためのSRC造梁部15の短期許容せん断力Qasは、RC規準15条2項(2)を参照して、以下の式(5)により算定すればよい。
Qas=β・b・j・{2/3・α・fs+0.5・wfl(pw-0.002)} ・・・ (5)
【0060】
また、大地震動に対する安全性の検討のためのSRC造梁部15の短期許容せん断力QAは、RC規準15条2項(3)を参照して、以下の式(6)により算定すればよい。なお、式(5)によって短期設計を行い、かつ、SRC造梁部15の終局せん断強度QaLに基づいてせん断破壊に対する安全性の検討を行う場合は、式(6)による算定を省略してもよい。
QA=β・b・j・{α・fs+0.5・wfl(pw-0.002)} ・・・ (6)
【0061】
なお、本発明の設計方法は、上述した実施形態に具体的に記載したハイブリッド梁10に限定して適用されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…ハイブリッド梁、 11…柱、 12…鉄骨、 13…鉄筋コンクリート(RC)造の構造体、 14…鉄骨梁部(S造梁部)、 15…SRC造梁部、 16…梁主筋、 17…せん断補強筋、 18…定着ピース、 19…集中補強筋、 20…中子筋、 21…リブプレート(鋼板)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6