(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149872
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド梁の設計方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/293 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
E04C3/293
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058659
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山上 聡
(72)【発明者】
【氏名】岸本 剛
(72)【発明者】
【氏名】小山 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】岡 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】反町 敦
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FF13
2E163FF15
(57)【要約】
【課題】鉄骨の埋め込みを考慮してRC造の梁端部の変形量を算定することが可能なハイブリッド梁の設計方法を提供する。
【解決手段】鉄骨からなるS造梁32の梁端部がRC造梁部31に埋設して構成されるRC造梁部31の荷重に対する変形量を弾塑性解析により算定する際、RC造梁部31をRC造とみなして求めた剛性を、RC造梁部31への鉄骨の埋め込みによるせん断力の発生を考慮して変更する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨からなる鉄骨造梁の梁端部が鉄筋コンクリート部に埋設して構成される鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の荷重に対する変形量を弾塑性解析により算定する際、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部を鉄筋コンクリート造とみなして求めた剛性を、前記鉄筋コンクリート造梁部への前記鉄骨の埋め込みによるせん断力の発生を考慮して変更することを特徴とするハイブリッド梁の設計方法。
【請求項2】
前記荷重が集中荷重として前記鉄骨造梁に作用する点と前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の基端部との距離をL0、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の長さをLrcとしたとき、前記変更する剛性の低減率βyを(2L0-Lrc)/(3L0-2Lrc)とすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド梁の設計方法。
【請求項3】
前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部内の前記鉄骨の長手方向の両端部においてリブプレートを設けた場合、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の変形量と回転量に、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部内における前記鉄骨の弾性剛性とよる変形と回転とを考慮して、前記荷重に対する変形量を算定することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド梁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド梁の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中央部が鉄骨(S)造であり、両端部は鉄骨を鉄筋コンクリート(RC)で覆った複合構造の梁(ハイブリッド梁)を梁躯体とする建物が増加している(例えば、特許文献1から3参照)。ハイブリッド梁は、中央部がS造であるため、RC造の梁と比較して梁自重の軽減及び梁せいの減少を図ることができるので、梁のロングスパン化、コスト低減、平面計画の自由度の増大が可能になるなどの利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-113464号公報
【特許文献2】特開2021-113465号公報
【特許文献3】特開2021-113466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来は、建物を立体フレームで表現して弾塑性解析を行って荷重に対する梁の変形量を算定する際、ハイブリッド梁の鉄骨梁の端部を埋め込んだRC造の梁端部において鉄骨の埋め込みを考慮していなかった。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、鉄骨の埋め込みを考慮してRC造の梁端部の変形量を算定することが可能なハイブリッド梁の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド梁の設計方法は、鉄骨からなる鉄骨梁の梁端部が鉄筋コンクリート部に埋設して構成される鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の荷重に対する変形量を弾塑性解析により算定する際、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部を鉄筋コンクリート造とみなして求めた剛性を、前記鉄筋コンクリート造梁部への前記鉄骨の埋め込みによるせん断力の発生を考慮して変更することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、鉄筋コンクリート造梁部に埋め込まれた鉄骨のてこ反力によって発生するせん断力により鉄筋コンクリート造梁部における剛性が見かけ上低下することを考慮することが可能となる。
【0008】
そして、本発明のハイブリッド梁の設計方法において、下述する試験結果から、前記荷重が集中荷重として前記鉄骨造梁に作用する点と前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の基端部との距離をL0、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の長さをLrcとしたとき、前記変更する剛性の低減率βyを(2L0-Lrc)/(3L0-2Lrc)とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明のハイブリッド梁の設計方法において、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部内の前記鉄骨の長手方向の両端部においてリブプレートを設けた場合、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部の変形量と回転量に、前記鉄骨鉄筋コンクリート造梁部内における前記鉄骨の弾性剛性とよる変形と回転とを考慮して、前記荷重に対する変形量を算定することが好ましい。
【0010】
この場合、リブプレートを設けた場合も、鉄筋コンクリート造梁部に埋め込まれた鉄骨のてこ反力によって発生するせん断力により鉄筋コンクリート造梁部における剛性が見かけ上低下することを考慮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド梁の設計方法が適用されるハイブリッド梁の一例を示す概略正面図。
【
図3】
図2のIIIーIII線における概略断面図。
【
図4】RC造梁部とS造梁部との変形を示す模式図。
【
図6】試験体No.4-1の試験結果における変形と荷重との関係を示すグラフ。
【
図7】試験体No.5-6の試験結果における変形と荷重との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るハイブリッド梁の設計方法が適用されるハイブリッド梁10の一例について図面を参照して説明する。本設計方法が適用されるハイブリッド梁は、例えば、上記特許文献1から3に記載されたものである。なお、
図1から
図3は模式的に説明するための図であり、寸法はデフォルメされている。
【0013】
ハイブリッド梁10は、
図1に示すように、対向する柱11の間に架け渡されたH型鋼やI型鋼等の型鋼からなる鉄骨12の両端部が鉄筋コンクリート(RC)造の構造体13に埋設されてなる梁である。なお、ハイブリッド梁10は、図示しないが、RC造の基礎と一体化したRC造の構造体に鉄骨12の端部が埋設されてなるものであってもよい。
【0014】
ハイブリッド梁10は、その中央部が、鉄骨12がそのまま露出した鉄骨造梁部(S造梁部)14となっており、その両端部が、鉄骨12がRC造の構造体13で覆われたSRC造梁部15となっている。
【0015】
柱11は、鉄筋コンクリート造からなるものであり、詳細は図示しないが、内部に、複数の柱主筋、及び柱主筋を囲繞するせん断補強筋などが配筋されている。
【0016】
SRC造梁部15は、
図2及び
図3を参照して、その内部に、鉄骨12、鉄骨12の上方および下方に配置されハイブリッド梁10の長手方向に沿って延在する複数の梁主筋16、及び、これら梁主筋16を囲繞する複数のせん断補強筋17などが設けられている。梁主筋16は柱11内まで延びている。また、梁主筋16の柱梁接合部への定着は、定着金物あるいは折り曲げ定着により行われる。梁主筋16の先端部には定着ピース18が設けられている。定着ピース18は、梁主筋16の先端のねじ部に螺合するナット部と、このナット部に固定された鋼鉄板とからなっている、
【0017】
そして、SRC造梁部15の基端部(柱11側の端部)及び先端部(S造梁部14側の端部)においては、せん断補強筋17が配筋されている中間領域よりも間隔が狭く密に集中補強筋(せん断補強筋)19が配筋されている。また、各せん断補強筋17及び集中補強筋19には、中子筋20が配筋されている。
【0018】
さらに、必要に応じて、SRC造梁部15の内部の鉄骨12において、終端部(柱11側の端部)及び始端部(S造梁部14側の端部)に、左右の上フランジと下フランジとの間をそれぞれ接続する鉄鋼製のリブプレート(塞ぎ板)21が隅肉溶接により設けられていてもよい。なお、リブプレート21の板厚は鉄骨12のウエブの厚さ以上であることが好ましい。
【0019】
そして、SRC造梁部15は、現場打ちコンクリートで製作される。コンクリートは、普通コンクリートでも、繊維補強コンクリートでもよい。
【0020】
ところで、建物を立体フレームで表現して弾塑性解析を行って荷重に対する梁の変形量を算定し、構造上の安全性を確認することがある。
【0021】
ここでは、
図4に示すように、固定端側をRC造梁部31、自由端側をS造梁部32とした片持ち梁形式のハイブリッド梁30において、自由端側のA点に集中荷重Qを受け場合に生じるA点における変形量を求める場合を例に挙げて説明する。ハイブリッド梁30の自由端点Aにおける鉛直方向の変形
Aδと荷重Qとの関係は、
図5に示すように、トリリニア型となる。
【0022】
第1の折り点P1は、以下で説明するように、RC造梁部31とS造梁部32の弾性剛性と、RC造梁部31の端部のRC断面の曲げひび割れ耐力から定まる。ただし、RC造梁部31に埋め込まれた鉄骨の抜け出し、RC造梁部31とS造梁部32との切り替え部におけるせん断破壊、RC造梁部31の支圧破壊(圧縮破壊)は生じないものする。
【0023】
自由端点Aにおける変形Aδは、RC造梁部31の変形rcδ、RC造梁部31の回転によるS造梁部32の変形rcθ、S造梁部32自体の変形Sδの和として、式(1)から算出される。
Aδ=rcδ+rcθ・Ls+sδ ・・・ (1)
ここで、LsはS造梁部32の長さである。
【0024】
曲げひび割れ時の変形δeは、弾性理論により、式(2)から定まる。
δe=rcδe+rcθe・Ls+sδe ・・・ (2)
【0025】
式(2)の右辺第1項である曲げひび割れ時のRC造梁部31の変形rcδeは、式(3)から求まる。
rcδe=Qhc/rcKe ・・・ (3)
【0026】
ここで、Qhcは、曲げひび割れ時のせん断力[N]であり、曲げひび割れモーメントをMbc[N/mm]、ハイブリッド梁30のせん断スパン長をL0[mm]としたとき、Qhc=Mbc/L0から求まる。なお、Mbcは、断面係数をeZ[mm3]、コンクリートの圧縮強度[N/mm2]をcσBとしたとき、Mbc=0.56√cσB・eZから求まる。
【0027】
そして、rcKeは、RC造梁部31の等価剛性[N/mm]であり、式(4)から求まる。
rcKe=1/{(1/rcKem)+(1/reKes)} ・・・ (4)
【0028】
ここで、rcKemは、RC造梁部31の弾性曲げ剛性[N/mm]であり、式(5)から求まる。
rcKem=6cE・rcIe/{Lrc
2(3L0-2Lrc)} ・・・ (5)
【0029】
ここで、cEはコンクリートのヤング係数[N/mm2]、LrcはRC造梁部31の長さ[mm]である。rcIeは、鉄骨は考慮しないが、梁主筋は考慮したRC造梁部31の等価断面二次モーメント[N/mm]であり、式(6)から求まる 。
rcIe=Φr・Io ・・・ (6)
【0030】
ここで、Φrは、断面二次モーメント増大率であり、式(7)から求める。
Φr=12(1/3-gol+g0l
2)
+12n・pl{(1-gol-rcdol)2+(gol-rcdl1)2γ} ・・・ (7)
【0031】
ここで、golは、式(8)から求まる。
gol={0.5+n・pl(1-rcdc1+rcdcl・γ)}/{1+n・pl(1+γ)}
・・・ (8)
【0032】
ここで、nは、前述したコンクリートのヤング係数cE[N/mm2]と梁主筋のヤング係数sE[N/mm2]の比であり、n=sE/cEから求まる。そして、plは、引張鉄筋比であり、amalを引張側鉄筋の断面積[mm2]、rcbをRC造梁部31の梁幅[mm]、rcDをRC造梁部31の梁せい[mm]としたとき、pl=amal/(rcb・rcD)から求まる。
【0033】
そして、γは、macを圧縮側鉄筋の断面積[mm]としたとき、mac/malから求まる。rcdl1は、rcdlを引張縁から引張側鉄筋重心位置までの距離としたとき、rcdl/rcDから求まる。rcdc1は、rcdcを圧縮縁から圧縮側鉄筋重心位置までの距離としたとき、rcdc/rcDから求まる。
【0034】
さらに、式(6)におけるIoは、無筋RC断面の場合の断面2次モーメント[N・m]であり、Io=rcb・rcD3/12から求まる。
【0035】
また、式(4)におけるreKesは、RC造梁部31の弾性変形せん断剛性[N/mm]であり、式(9)から求まる。
reKes=cG・rcAes/(rcκ・Lrc) ・・・ (9)
ここで、cGは、コンクリートのせん断弾性係数[N/mm]であり、rcAesは、RC造梁部31のせん断変形等価断面積[mm2]であり、rcκは、RC断面の形状係数である。
【0036】
そして、式(2)の右辺第2項である曲げひび割れ時のRC造梁部31の回転角rcθeは、式(10)から求まる。
rcθe=Qhc/θKe ・・・ (10)
【0037】
ここで、θKeは、RC造梁部31の弾性回転剛性[N/rad]であり、式(11)から求まる。
θKe=2cE・rcIe/{Lrc(2L0-Lrc)} ・・・ (11)
【0038】
そして、式(2)の右辺第3項である曲げひび割れ時のS造梁部32の変形sδeは、式(12)から求まる。
sδe=Qhc/sKe ・・・ (12)
【0039】
ここで、sKeは、S造梁部32の等価剛性[N/mm]であり、式(13)から求まる。
sKe=1/(1/sKem+1/sKes) ・・・ (13)
【0040】
ここで、sKemは、S造梁部32の弾性曲げ断剛性[N・m]であり、式(14)から求まる。
sKem=3Es・Is/Ls
3 ・・・ (14)
ここで、Isは、S造梁部32の断面2次モーメント[mm4]であり、Lsは、S造梁部32の長さ[m]である。
【0041】
一方、sKesは、S造梁部32の弾性せん断剛性[N・m]であり、式(15)から求める。
sKes=sG・sA/(sκ・Ls) ・・・ (15)
ここで、sGは、S造梁部32のせん断弾性係数[N/mm2]であり、sAは、S造梁部32の断面積[mm2]であり、sκは、S造梁部32の断面の形状係数であり、H型鋼の場合は1.2である。
【0042】
第2の折り点P2は、以下で説明するように、復元力特性であるRC造梁部31の剛性低下率αyと曲げ終局耐力Mhyから定まる。
【0043】
曲げ降伏時の変形δyは、弾性理論により式(16)から定まる。
δy=rcδy+rcθy・Ls+sδy ・・・ (16)
【0044】
式(16)の右辺第1項である曲げ降伏時のRC造梁部31の変形rcδyは、式(17)から求まる。
rcδy=Qhy/(αy・rcKe) ・・・ (17)
ここで、Qhyは、RC造梁部31の曲げ降伏時せん断力[N]であり、Qhy=Mhy/L0により求まる。ここで、MhyはRC造梁部31の曲げ終局耐力である。αyはRC造梁部の剛性低下率である。
【0045】
式(16)の右辺第2項である曲げ降伏時のRC造梁部31の回転角rcθyは、式(18)から求まる。
rcθy=Qhy/(αy・βy・θKe) ・・・ (18)
【0046】
式(2)の右辺第3項である曲げ降伏時のS造梁部32の変形sδyは、式(19)から求まる。
sδy=Qhy/sKe ・・・ (19)
【0047】
式(17)及び式(18)におけるRC造梁部31の剛性低下率αyは、慣用的に用いられている菅野式においては、a/rcD≧2.0の場合、式(20)により求めている。なお、aは、せん断スパン長さL[mm]であり、ここでは、RC造梁部31の長さLrcである。
αy=(0.043+1.64n・pl+0.043・a/(rcd/rcD)2
・・・ (20)
【0048】
また、菅野式においては、RC造梁部31の剛性低下率αyは、a/rcD<2.0の場合、式(21)により求めている。
αy=(-0.0836+0,159d/rcD)(rcd/rcD)2 ・・・ (21)
【0049】
発明者は、上記式(21)及び式(22)の菅野式の計算式を用いた曲げ降伏時の剛性低下率αyが、ハイブリッド梁10においても妥当であるか否かを確認するために、以下で説明する試験体を用意した。
【0050】
試験体として、No.4-1~No.4-6及びNo.5-1~No.5-12の合計18体の試験体を用意した。各試験体の緒元を表1から表3にまとめた。試験体No.4-1~No.4-4及びNo.5-1~No.5-10、No.5-12の合計15体は曲げ降伏型とあり、試験体No.4-5、No.4-6及びNo.5-11の合計3体はせん断破壊型であった。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
試験体は、実建物を1/2から2/3程度に縮小したものを想定して寸法を定めた。
図2及び
図3を参照して、片持ち状態である試験体の加力点までの距離L
1は2425mmであり、反曲点間の距離L
2は2350mmであった。
【0055】
試験体No.4-1においては、鉄骨12として、高さ(S造梁部14の梁せい)Hs500mm、辺の長さ(S造梁部14の梁幅)Bs200mm、ウエブの厚さ9mm、フランジの厚さ16mmのSN490BからなるH型鋼を用いた。この鉄骨12のSRC造梁部15への埋め込み長さL3は1000mmであり、リブプレート21は設けなかった。
【0056】
試験体No.4-1においては、SRC造梁部15は、高さ(梁せい)HSRC800mm、幅(梁幅)BSRC650mm、長さLSRC1075mmであり、設計基準強度Fcが36N/mm2のコンクリートを用いて形成した。
【0057】
試験体No.4-1においては、SRC造梁部15において、梁主筋16として、直径19mmのSD390からなる鉄筋を上段及び下段に水平方向に8本ずつ、その内側に2本ずつ配筋した。中間領域のせん断補強筋17として、直径8mmのKSS785からなる鉄筋を、梁主筋16を囲繞させて60mmの間隔s1で配筋した。さらに、SRC造梁部15の始端部に集中補強筋19として、直径10mmのKSS785からなる鉄筋で梁主筋16を囲繞させて30mmの間隔S2で5組配筋した。また、SRC造梁部15の終端部に集中補強筋19として、直径8mmのKSS785からなる鉄筋で梁主筋16を囲繞させて30mmの間隔S2で5組配筋した。
【0058】
そして、試験体No.4-1においては、SRC造梁部15の端部のせん断余裕度(=曲げ耐力時のせん断耐力JQU_vu/せん断耐力時のせん断耐力JQU_mu)は、1を超えており、破壊形式は、曲げ破壊形式である。
【0059】
試験体No.4-2は、試験体No.4-1とは、SRC造梁部15の梁せいHSRCが670mmと低く、集中補強筋19の配筋を4組ずつに減じた点のみが相違する。
【0060】
試験体No.4-3は、試験体No.4-2とは、SRC造梁部15の梁幅BSRCが500mmと狭く、せん断補強筋17の間隔S1を75mmに広げた点のみが相違する。試験体No.4-4は、試験体No.4-2とは、SRC造梁部15の始端部及び終端部において、鉄骨12のウエブと同じ厚さの鋼板からなるリブプレート21を隅肉溶接で鉄骨12に固定した点のみが相違する。
【0061】
試験体No.4-5は、試験体No.4-3とは、SRC造梁部15の上段及び下段における梁主筋16の本数を6本ずつに削減した点のみが相違する。試験体No.4-6は、試験体No.4-5とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcを30N/mm2に低下させたコンクリートを用いた点のみが相違する。
【0062】
試験体No.5-1は、試験体No.4-5とは、鉄骨12のウエブの厚さを10mmと厚くし、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが24N/mm2の低強度コンクリートを用い、梁主筋16の直径を16mmの小径化するとともに材質をSD345からなる低強度のものとし、せん断補強筋17も直径6mmと小径化するとともに材質をSD345からなる低強度のものとし、せん断補強筋17の間隔S1を50mmと狭くし、さらに、集中補強筋19の配筋を3組ずつに減じた点のみが相違する。
【0063】
試験体No.5-2、No.5-4、No.5-6は、試験体No.5-1、No.5-3、No.5-5に対して、それぞれ、SRC造梁部15の始端部及び終端部において、鉄骨12のウエブと同じ厚さの鋼板からなるリブプレート21を隅肉溶接で鉄骨12に固定した点のみが相違する。
【0064】
試験体No.5-3は、試験体No.4-5とは、鉄骨12のウエブの厚さを10mmと厚くし、梁主筋16の材質をSD390からなる低強度のものとし、集中補強筋19の配筋を3組ずつに減じた点のみが相違する。試験体No.5-5は、試験体No.5-3とは、せん断補強筋17の間隔S1を125mmに広げた点のみが相違する。
【0065】
試験体No.5-7は、試験体No.5-5とは、せん断補強筋17の間隔S1を150mmに広げた点のみが相違する。試験体No.5-8は、試験体No.5-7とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが48N/mm2の高強度コンクリートを用い、せん断補強筋17の間隔S1を75mmと狭くした点のみが相違する。
【0066】
試験体No.5-9は、試験体No.5-7とは、鉄骨12として、高さHS350mm、辺の長さBS175mm、ウエブの厚さ7mm、フランジの厚さ11mmのSN490BからなるH型鋼を用い、鉄骨12の埋め込み深さL3を750mmとし、SRC造梁部15の断面を高さ(梁せい)HSRC400mm、幅(梁幅)BSRC515mmとし、梁主筋16の直径を16mmの小径化し、せん断補強筋17を直径6mmと小径化するとともに、せん断補強筋17の間隔S1を50mmと狭くし、始端側の集中補強筋19の直径を8mm、始端側の集中補強筋19の直径を6mmと小径化した点のみが相違する。
【0067】
試験体No.5-10は、試験体No.5-9とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが30N/mm2に低下させたコンクリートを用いた点のみが相違する。試験体No.5-11は、試験体No.5-7とは、SRC造梁部15の梁せいHSRCを450mmと低くし、SRC造梁部16の上段及び下段に7本ずつ、そして、その内側に4本ずつ梁主筋16を配筋し、せん断補強筋17の間隔S1を200mmに広げ、集中補強筋19の配筋を4組ずつに増やした点のみが相違する。試験体No.5-12は、試験体No.5-8とは、SRC造梁部15に設計基準強度Fcが36N/mm2のコンクリートを用いた点のみが相違する。
【0068】
上述した各試験体を用いて載荷試験を行った。この試験は、各試験体の基端を固定した片持ち梁の形式により、鉄骨12の自由端側の加力点(基端からの距離L1)にジャッキにより荷重を付加した。なお、図示しないが、載荷に伴う変形によりS造梁部14にねじれが生じないようにS造梁部14の先端に図示しないが面外振れ止め装置を取り付けた。
【0069】
載荷は、S造梁部14の先端の撓み角が±(2.5,5,10,15,20,30,40)×10-3radの7水準を2サイクルずつ繰り返し、その後、+100×10-3radまで一方向に単調載荷を行った。この載荷の間、加圧点における鉛直方向の変位Aδ[mm]を測定した。
【0070】
試験体No.4-1における変位
Aδと荷重Qとの関係は、
図6に示すグラフのようになった。
図6において、菅野式の式(22)及び式(23)の何れを適用しても、第1折れ点P1から第2折れ点P2までの間において、実験結果による変位量に対して荷重が小さくなっている。これより、実験結果からは、菅野式を適用した場合、せん断ひび割れ以降の剛性が過大評価されており、実際の変位量よりも計算値の変位量は小さくなることが分かった。換言すれば、RC造梁部31の剛性が実際よりも過大に計算されている。
【0071】
そこで、発明者は、このように剛性が過大に計算されている要因として、菅野式では、RC造梁部31に埋め込まれている鉄骨を考慮していないことにあると考えた。
【0072】
上述したようなハイブリッド梁30においては、RC造梁部31の内部における鉄骨のてこ反力によってせん断力が増幅されていると仮定した。以下、具体的に説明する。
【0073】
鉄骨のてこ反力によるRC造梁部31のせん断力の増幅を無視した場合、
図4を参照して、RC造梁部31とS造梁部32との境界面における中心点である点Bにおける曲げ変形
rcδ
em1及びたわみ角
rcφ
em1は、材料力学の一般式から、それぞれ式(23)、式(24)により定まる。
rcδ
em1=Q(L
0-L
rc)L
rc
2/(2・
cE・
rcI
e)+Q・L
rc
2/(3・
cE・
rcI
e)
=Q{L
rc
2(3L
0-L
rc)/6・
cE・
rcI
e} ・・・ (23)
rcφ
em1=Q(L
0-L
rc)・L
rc/(
cE・
rcI
e)+Q・L
rc
2/(2・
cE
rc・I
e)
=Q{L
rc(2L
0-L
rc)/2・
cE・
rcI
e} ・・・ (24)
【0074】
一方、鉄骨のてこ作用によるRC造梁部31におけるせん断応力の増幅を考慮した場合、式(23)及び式(24)において、QはQ・L0/Lrcとなり、それぞれ式(25)及び式(26)になる。
rcδem2=Q(L0-Lrc)Lrc
2/(2cE・rcIe)+Q(L0/Lrc)・Lrc
3/(3cE・rcIe)
=Q{Lrc
2(5L0-3Lrc)/6・cE・rcIe} ・・・ (25)
rcφem2 =Q(L0-Lrc)・Lrc/(cE・rcIe)+Q(L0/Lrc)Lrc
2/(2cErc・Ie)
=Q{Lrc(3L0-2Lrc)/2・cE・rcIe} ・・・ (26)
【0075】
S造梁部32の先端の点Aに集中荷重Qを受けたときの全体変形Aδは、RC造梁部31の回転に伴う鉄骨の回転が主であるので、RC造梁部31内での鉄骨のてこ反力によるせん断力の増幅率βyは、式(27)から求まる。
βy=rcφem2/rcφem1=(3L0-2Lrc)/(2L0-Lrc) ・・・ (27)
【0076】
βyは、てこ反力によるせん断力の割増を考慮したことにより、RC造梁部31の剛性を見かけ上は低下させるとも言える。そこで、ここでは、βyを見かけ上の剛性低下率と呼ぶ。なお、剛性低下率βyは、本発明の低減率に相当する。
【0077】
そして、この見かけ上の剛性低下率βyを用いて、式(16)の右辺第1項である曲げ降伏時のRC造梁部31の変形rcδyは、式(28)から求めるものとする。
rcδy=Qhy/(αy・βy・rcKe) ・・・ (28)
これは、式(17)において、てこ圧力を考慮した場合、このようになるということである。
【0078】
見かけ上の剛性低下率β
yを導入して、変位
Aδと荷重Qとの関係を計算により求めた。その結果は、
図6に示すように、第1折れ点P1から第2折れ点P2までの間において、実験結果と類似したものとなった。なお、試験体No.4-1以外の試験体においても概ね同様に実験結果と計算値が一致した。これより、式(28)が妥当であることが確認された。
【0079】
上述ではリブプレート21を設けていない場合について説明した。以下、リブプレート21を設けた場合について説明する。なお、リブプレート21の厚さは、S造梁部32を構成する鉄骨のウエブの厚さ以上であることが好ましい。
【0080】
リブプレート21を設けた場合も、式(2)は同様に成立するが、RC造梁部31内に鉄骨が存在することを考慮する必要がある。そこで、式(2)の右辺第1項は、式(3)の代わりに式(29)から求める。
rcδe=Qhc/rcKe+Qhc/rcsKe ・・・ (29)
【0081】
ここで、rcsKeは、RC造梁部31内の鉄骨の等価剛性[N/mm]であり、式(30)から求まる。
rcsKe=1/{(1/rcsKem)+(1/resKes)} ・・・ (30)
【0082】
ここで、rcsKemは、RC造梁部31内の鉄骨の弾性曲げ剛性[N/mm]であり、式(31)から求まる。
rcsKem=6sE・sI/{Lrc
2(3L0-2Lrc)} ・・・ (31)
ここで、sEは鉄骨のヤング係数[N/mm2]であり、sIは鉄骨の等価断面二次モーメント[N/mm]である。
【0083】
また、式(30)におけるresKesは、鉄骨の弾性変形せん断剛性[N/mm]であり、式(32)から求まる。
resKes=sG・sA/(sκ・Lrc) ・・・ (32)
【0084】
そして、RC造梁部31の弾性回転剛性θKe[N/rad]を式(33)から求め、これから式(2)の右辺第2項である曲げひび割れ時のRC造梁部31の回転角rcθeを求める、
θKe=2cE・rcIe/{Lrc(2L0-Lrc)}+2sE・sI/{Lrc(2L0-Lrc)} ・・・ (33)
【0085】
試験体No.5-6における変位
Aδと荷重Qとの関係は、
図7に示すグラフのようになった。
図7において、式(29)を適用すると、第1折れ点P1から第2折れ点P2までの間において、実験結果による変位量に対して荷重が大きくなっている。これより、式(29)を適用することにより、実際の変位量よりも計算値の変位量は大きくなることが分かった。なお、試験体No.5-6以外のリブプレート21を設けた試験体No.4-4、No.5-2,4,10も
図7と同様の結果となった。
【0086】
このようにリブプレート21を設けた場合、RC造梁部31の変形量と回転量に、RC造梁部内における鉄骨の弾性剛性とよる変形と回転とを考慮した式(29)により、変位Aδを求めればよい。なお、リブプレート21を設けた場合も、見かけ上の剛性低下率βyを用いて変位Aδを求めることが好ましい。
【0087】
なお、本発明の設計方法は、上述した実施形態に具体的に記載したハイブリッド梁10に限定して適用されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0088】
10…ハイブリッド梁、 11…柱、 12…鉄骨、 13…鉄筋コンクリート(RC)造の構造体、 14…鉄骨造梁部(S造梁部)、 15…鉄骨鉄筋コンクリート造梁部(SRC造梁部)、 16…梁主筋、 17…せん断補強筋、 18…定着ピース、 19…集中補強筋、 20…中子筋、 21…リブプレート、 30…ハイブリッド梁、 31…RC造梁部、 32…S造梁部。