(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149909
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】雨水排水システム
(51)【国際特許分類】
E04D 13/08 20060101AFI20231005BHJP
E04D 13/068 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04D13/08 E
E04D13/068 504Z
E04D13/08 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058717
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】遠山 征希
(72)【発明者】
【氏名】元 隆明
(72)【発明者】
【氏名】菅生 純
(57)【要約】
【課題】本発明は、雨水排水システムの提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る雨水排水システムは、上階から下階屋根に向けて延出された竪樋と、該竪樋の下端部に接続されて前記下階屋根の上に配置され、複数の排水口を有する排水部材と、を備えたことを特徴とする。また、前記竪樋と前記排水部材の間に、エルボ管と、チーズ管と、拡径部材と、偏心ソケットのうち、少なくとも1つが組み込まれた夫婦正を採用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階から下階屋根に向けて延出された竪樋と、該竪樋の下端部に接続されて前記下階屋根の上に配置され、複数の排水口を有する排水部材と、を備えた雨水排水システム。
【請求項2】
前記竪樋と前記排水部材の間に、エルボ管と、チーズ管と、拡径部材と、偏心ソケットのうち、少なくとも1つが組み込まれた請求項1に記載の雨水排水システム。
【請求項3】
前記複数の排水部材の前記排水口の内径において、前記竪樋と前記排水部材の接続部に対し近い側の排水口の内径より、前記竪樋と前記排水部材の接続部から対し遠い側の排水口の内径が小さくされた請求項1または請求項2に記載の雨水排水システム。
【請求項4】
前記竪樋が上階屋根の排水溝に接続され、前記竪樋の上流にサイフォン励起部材が接続された請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の雨水排水システム。
【請求項5】
前記排水部材に形成された前記排水口の内径が、前記竪樋の内径以下である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の雨水排水システム。
【請求項6】
前記排水部材に該排水部材の長さ方向に沿って4つ以上の排水口が間欠的に形成された請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の雨水排水システム。
【請求項7】
前記排水部材が複数の接続配管と複数のチーズ管を接合して構成され、前記チーズ管に前記排水口が形成された請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の雨水排水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水排水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に記載の配管構造が知られている。
【0003】
特許文献1に記載されている配管構造は、上階屋根の雨樋から下階側に竪樋を配置する建築物において、竪樋の途中に庇等に沿って設けられた庇用雨樋が設置されている場合、庇用雨樋を貫通するように竪樋を配置した構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
倉庫などの大型建築物では、上側に屋根の軒樋、下側に庇の軒樋が配置された構造が一般的であるため、特許文献1に記載の配管構造を適用できる。
しかし、特許文献1に記載の構造では、庇の軒樋を貫通するための専用部材が必要であるため、設備コストが高くなる課題がある。また、庇を貫通した竪樋の下端側にマス等の排水設備が別途必要となり、庇貫通部分の下方に建物設備等が存在すると配管が複雑となる問題がある。
【0006】
なお、庇の軒樋を竪樋が貫通する構成ではなく、竪樋から庇の上に雨水が流出する構成を採用し、庇の軒樋を利用して排水する配管構造を採用することもできる。ところが、集中豪雨などが原因となって屋根の軒樋から竪樋に大量の雨水が流れ込み、屋根から庇までに相当の落差があると、竪樋から庇の上に大量の雨水が衝突し、場合によっては庇あるいは庇の樋の破損につながるおそれがある。
【0007】
なお、近年の集中豪雨対策などにより、屋根の軒樋から竪樋に大量の雨水を円滑に流すため、竪樋の上端側にサイフォン励起部材を設置することがなされている。サイフォン励起部材を設置した場合、竪樋を介し大量の雨水を排水できるが、この場合、上述のように庇が下方に設けられていると、庇の破損や庇に設けられた樋の破損につながるおそれがある。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑み、なされたものであって、竪樋から雨水を排出する部分に複数の排水口を備えた排水部材を配置することにより、竪樋を介し大量の雨水が庇などの下階屋根に流出したとして、庇などの下階屋根を損傷させることなく排水できる雨水排水システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は以下の形態を提案している。
「1」本形態に係る雨水排水システムは、上階から下階屋根に向けて延出された竪樋と、該竪樋の下端部に接続されて前記下階屋根の上に配置され、複数の排水口を有する排水部材と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
竪樋を介し大量の雨水が排水部材に流れ込んだとして、排水部材の複数の排水口から雨水を分散させて下階屋根に排出できる。このため、1つの排出口から下階屋根に排出される雨水量を減少させ、下階屋根に作用する雨水衝突の衝撃を緩和し、下階屋根の損傷を防止できる。
【0011】
「2」本形態に係る雨水排水システムにおいて、前記竪樋と前記排水部材の間に、エルボ管と、チーズ管と、拡径部材と、偏心ソケットのうち、少なくとも1つが組み込まれた構成を採用できる。
【0012】
竪樋の下端部にエルボ管、チーズ管、拡径部材、偏心ソケットの少なくとも1つを設けて排水部材に接続すると、竪樋に沿って流下する雨水の速度を減速してから排水部材に流すことができるので、減速後の雨水を排水部材の複数の排水口から分散させて下階屋根に排出できる。このため、排出口から下階屋根に雨水を排出する場合の衝撃を緩和できるので、下階屋根に作用する雨水衝突の衝撃を緩和できる。
【0013】
「3」本形態に係る雨水排水システムは、前記複数の排水部材の前記排水口の内径において、前記竪樋と前記排水部材の接続部に近い側の排水口の内径より、前記竪樋と前記排水部材の接続部から遠い側の排水口の内径が小さくされた構成を採用できる。
【0014】
排水部材において竪樋との接続部に近い側の排水口の内径より、遠い側の排水口の内径を小さくすることで、竪樋から大量の雨水が流れ込んだ場合であっても、複数の排水口からできるだけ均等に排水できるようになる。排水部材の全ての排水口の内径を同一にすると、竪樋から大量の雨水が排水部材に流れ込んだ場合、竪樋から遠い側の排水口から多くの雨水が排出される。この場合、竪樋との接続部から遠い側の排水口から大量の雨水が排出され、大量の雨水が下階屋根に大きな衝撃を作用させるおそれを生じる。複数の排水口から排出される雨水量を均一化することで、下階屋根に作用する衝撃を均一化し、下階屋根の一部に大きな衝撃が作用する現象を緩和できる。
【0015】
「4」本形態に係る雨水排水システムにおいて、前記竪樋が上階屋根の排水溝に接続され、前記竪樋の上流にサイフォン励起部材が接続された構成を採用できる。
【0016】
前記竪樋の上流にサイフォン励起部材を配置することで、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合にサイフォン現象を利用し、竪樋を介して大量の雨水を排水できる。この場合、竪樋を介し大量の雨水が排水部材に流れ込んだとして、排水部材の複数の排水口から雨水を分散させて下階屋根に排出できる。このため、1つの排出口から下階屋根に排出される雨水量を減少させることができ、下階屋根に作用する雨水衝突の衝撃を緩和できる。
【0017】
「5」本形態に係る雨水排水システムにおいて、前記排水部材に形成された前記排水口の内径が、前記竪樋の内径以下である構成を採用できる。
【0018】
排水部材に複数の排水口を設けることで、排水口の内径を竪樋の内径以下としても竪樋からの雨水を問題なく排出することができる。
【0019】
「6」本形態に係る雨水排水システムにおいて、前記排水部材に該排水部材の長さ方向に沿って4つ以上の排水口が間欠的に形成された構成を採用できる。
【0020】
竪樋を介し大量の雨水が排水部材に流れ込んだとして、排水部材の4つ以上の排水口から雨水を分散させて下階屋根に排出できる。このため、1つの排出口から下階屋根に排出される雨水量を減少させ、下階屋根に作用する雨水衝突の衝撃を緩和できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る雨水排水システムであれば、竪樋を介し排水部材に流れ込んだ雨水を排水部材の複数の排水口から下階屋根に排出することができる。竪樋を介し大量の雨水が排水部材に流れ込んだとして、排水部材の複数の排水口から雨水を分散させて下階屋根に排出できる。このため、1つの排出口から下階屋根に排出される雨水量を減少させ、下階屋根に作用する雨水衝突の衝撃を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る雨水排水システムを適用した建物を示す構成図。
【
図2】同屋根の雨水排水システムを示すもので、(a)は上階の雨樋から竪樋への接続部を含む斜視図、(b)は竪樋から排水部材への接続部を含む斜視図。
【
図3】竪樋と雨樋の接続部に設けたサイフォン励起部材の一例を示す斜視図。
【
図4】屋根の雨水排水システムに関し、実施した通水試験の実施状態を示す説明図であり、(a)は同通水試験に用いた装置全体の構成を示す構成図、(b)は同通水試験に用いた排水部材の一例を示す構成図。
【
図5】同通水試験による第1の試験結果を示すグラフ。
【
図6】同通水試験による第2の試験結果を示すグラフ。
【
図7】同通水試験による第3の試験結果を示すグラフ。
【
図8】同通水試験による試験結果の第1例について視覚的に示す説明図。
【
図9】同通水試験による試験結果の第2例について視覚的に示す説明図。
【
図10】同通水試験による試験結果の第3例について視覚的に示す説明図。
【
図11】同通水試験による試験結果の第4例について視覚的に示す説明図。
【
図12】本発明に係る雨水排水システムに適用される排水部材の第2の例を示す構成図。
【
図13】同雨水排水システムに適用される排水部材の第3の例を示す構成図。
【
図14】同雨水排水システムに適用されるチーズ部材の一例を示す構成図。
【
図15】同雨水排水システムに適用される偏心ソケットの一例を示す構成図。
【
図16】同雨水排水システムに適用される排水部材の第4の例を示す構成図。
【
図17】同雨水排水システムに適用されるパンチングメタルの一例を示す構成図。
【
図18】同雨水排水システムに適用される排水部材の第5の例を示す構成図。
【
図19】同雨水排水システムに適用される排水部材に関し、第2の設置例を示す構成図。
【
図20】同雨水排水システムに適用される排水部材に関し、第3の設置例を示す構成図。
【
図21】同雨水排水システムに適用される網状体の一例を示す構成図。
【
図22】同雨水排水システムに適用される排水部材に関する第6の例を示す構成図。
【
図23】同雨水排水システムに適用される排水部材に関する第7の例を示す構成図。
【
図24】同雨水排水システムに適用される排水部材に関する第8の例を示す構成図。
【
図25】同雨水排水システムに適用される排水部材に関する第9の例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1、
図2を参照し、本発明の第1実施形態に係る雨水排水システムの一例について以下に説明する。
本実施形態に係る雨水排水システムは、例えば、下屋や大庇を備えた折板屋根などの多段屋根を備えた建物に適用される。この構成の建物は、例えば大型の物流倉庫などに多用されている。
図1は、下層階の一側面に平面視矩形状の大庇(下階屋根)1を備え、大庇1を設けた階より上の階に下屋(上階屋根)2を備え、最上階に平屋根3を備えた多段屋根構造を有する建物Aに、雨水排水システムBを備えた構成の一例を示す。
図1では、建物Aについて記載を簡略化するため、建物Aの骨組みと一部側壁のみ示している。
図1に示す建物Aにおいて、下層階の一側面とその1つ上の階の一側面を構成するように側壁4が設けられ、側壁4において下層階の上部側に大庇1が設けられている。下層階より1つ上の階に設けられている下屋2において、側壁4の上部側、即ち、下屋2の先端に沿って略水平に上階の排水溝(軒樋5)が設置されている。上階の軒樋5は、下屋2の先端側に下屋2の幅方向のほぼ全長に沿って設けられている。
【0024】
図2(a)に示すように、軒樋5の底面から下方に延出するように複数本の竪樋6が設けられている。竪樋6は軒樋5の下方に設けられている側壁4に沿って上下に伸びるように配置されている。
軒樋5と竪樋6が接続する部分には、偏心ソケット8が組み込まれ、偏心ソケット8の下方に竪樋6が接続されている。偏心ソケット8の上端部8aは軒樋5の底壁を介し雨樋に接続され、軒樋5から竪樋6に雨水を流すことができる。
偏心ソケット8を設置することで、竪樋6は側壁4に近い位置に側壁4に沿うように設置され、各竪樋6は側壁4に取り付けられた固定金具10により支持されている。
この例では、
図2(b)に示すように大庇1が側壁4に接続する部分に沿って谷樋11が設けられ、大庇1の上面は谷樋11側に若干の下がり勾配を有するように谷樋11に接続されている。この勾配により大庇1の上に落下した雨水は谷樋11に流れ込むように構成されている。
【0025】
竪樋6の下端部は谷樋11の若干上方に位置され、竪樋6の下端部にはエルボ管12を介し横管13が接続され、横管13の先端部に筒状の排水部材15が接続されている。横管13は、大庇1の上面に沿って谷樋11の延在方向と略直角向きに配置され、排水部材15は大庇1の上面に沿って谷樋11の延在方向とほぼ平行に配置されている。
排水部材15は、横管13の先端部に接続されたT型のチーズ管16と、チーズ管16の両端部側に接続された複数の軒接続配管17と端部管18を有する。チーズ管16は、横管13に接続された筒状の第1接続部16aと、この第1接続部16aに対しほぼ直角向きの筒状の第2接続部16bおよび第3接続部16cを有する。第2接続部16bには2本の接続配管17と1本の端部管18が接続され、第3接続部16cには2本の接続配管17と1本の端部管18が接続されている。
【0026】
接続配管17はT字管からなり、接続配管17どうしを接続する継手部17a、17aを有すると共に、谷樋11側に向く排水口17bを有する筒状の排水部17cを有している。端部管18はエルボ管12と同様の形状のL字管であり、一端側開口部が接続配管17に接続されるとともに、他端側開口部は排水口18bとして谷樋11側に向けられている。
本実施形態の排水部材15は、4本の接続配管17と2本の端部管18を有する。このため、4本の接続配管17に設けられている4つの排水口17bと、2本の端部管18に設けられている2つの排水口18bを合わせて、合計6つの排水口が谷樋11側に向けて設けられている。
【0027】
なお、
図2(b)に示す例では排水部材15に6つの排水口を設けたが、排水口の数は4つ以上であれば任意の数を設けることができる。チーズ管16の両端に接続する接続配管17の本数を調整すると、排水口の数は任意の数に調整できる。例えば、チーズ管16の両端に1本ずつ接続配管17を接続すると端部管18と合わせて4つの排水口を設けることができ、チーズ管16の両端に3本ずつ接続配管17を接続すると端部管18と合わせて8つの排水口を設けることができる。また、チーズ管16の両端側に接続する接続配管17の数は、同一数でも良く、異なる数であっても良い。
【0028】
本実施形態において、チーズ管16に一番近い接続配管17の排水口17bの内径R1と、チーズ管16に二番目に近い接続配管17の排水口17bの内径R2と、端部管18の排水口18bの内径R3の関係は、R1≧R2>R3の関係であることが好ましい。
即ち、竪樋6と排水部材15との接続部を起点として、排水部材15に複数の排水口を設ける場合、接続部から離れた側の排水口の内径を接続部に近い側の排水口の内径より小さくすることが好ましい。仮に、チーズ管16の片側に3本の接続配管17を接続し、排水部材15の全体に合計8個の排水口を設ける構成であれば、チーズ管16の片側に4つの排水口が設けられる。この場合、チーズ管16に近い側の排水口から順にそれら内径をR1、R2、R3、R4と仮定すると、R1≧R2≧R3>R4の関係であることが好ましい。
排水部材15に複数の排水口を設ける場合、接続部から離れた側の排水口の内径を接続部に近い側の排水口の内径より順次小さくしても良いし、端部管18の排水口とそれに近い側の排水口のみ内径を順次小さくしても良いし、端部管18の排水口のみ、他の排水口より内径を小さくしても良い。
【0029】
これらの構成を採用する理由は、竪樋6を介し大量の雨水が排水部材15に流れ込んだ場合、全ての排水口を同一径に形成しておくと、全ての排水口から均一に排水できなくなることによる。全ての排水口から均一に排水できなくなる傾向は、例えば、後述するサイフォン方式のサイフォン励起部材を竪管の上端部に設け、高速かつ大量の排水を実施した場合に特に顕著となることが、後述する試験結果により明らかになっているからである。
【0030】
例えば、竪樋6の呼び径を125mm、接続配管17と端部管18の呼び径を125mm、全ての排水口の内径を125mmと仮定すると、サイフォン励起部材による高速大量の排水を行った場合、チーズ管16から遠い側の排水口ほど、排水量が増大する。この現象を抑止し、全ての排水口からできるだけ均一排水とするために、例えば、チーズ管16に近い側の排水口から順に、排水口の内径R1=125mm、R2=100mm、R3=75mmなどの内径に設定することが好ましい。
【0031】
以上説明したように、排水部材15に排水口が4つ以上形成されている構成において、竪樋6からの接続部を起点として遠い側の排水口の内径を他の排水口の内径より小さくすると、複数の排水口からの排水量を均一にできる。従って、
図1に示す構成の建物Aにおいて、集中豪雨やゲリラ豪雨などにより大量の雨水が軒樋5から竪樋6に流れ込んだとしても、大庇1が受ける衝撃を抑制でき、大庇1が破壊されることはなく、複数の排水口から均一に排出させた雨水を谷樋11に流しつつ、排水できる。
【0032】
図3は、竪樋6の上端部に接続されるサイフォン励起部材の一例を示す分解斜視図である。
この例のサイフォン励起部材20は、大雨時に軒樋5内に流入した雨水の排水能力を向上させるための高排水機能を有する排水部材である。サイフォン励起部材20は、硬質塩化ビニル樹脂やポリカーボネート、ABS、AES等の合成樹脂の射出成型品である。なお、合成樹脂に限るものではなく、鋳型を用いた鋳鉄製であっても良い。
サイフォン励起部材20は、円板状に形成された蓋部材21と、上端部内が落し口部22aとされた装着筒22と、蓋部材21と装着筒22とを接続し、上面視で落し口部22aに重ならない位置で周方向に間隔をあけて配置された複数の縦リブ23と、を備えている。
【0033】
装着筒22は、軒樋5の底壁5Aを上下方向に貫通している。装着筒22の上端には、鍔部22Dが設けられている。鍔部22Dは、底壁5Aの上面に配置され、底壁5Aによって下方から支持されている。蓋部材21の外周縁と鍔部22Dの外周縁との間に形成される部分が、軒樋5に溜まった雨水を落し口部22aの開口に流入させる流入開口部20Aとなる。
【0034】
複数の縦リブ23は、装着筒22の鍔部22Dと蓋部材21の外周部とを連結している。縦リブ23は、流入開口部20Aから落し口部22aに流入される雨水を整流する。
蓋部材21は、複数の縦リブ23を介して装着筒22に支持される。蓋部材21は、軒樋5の内側に配置され、落し口部22aから上方に離間した位置に設置される。
また、サイフォン励起部材20は、サイフォン現象によって、落し口部22aに流れ込んだ雨水(排水)の中心近傍に空気柱が形成されるのを抑制して、雨水を階下に向かって効率的に流すようになっている。
なお、
図3に示すサイフォン励起部材20の構成は一例であり、サイフォン励起部材の構成については任意に設定することが可能である。
【0035】
図3に示す構成のサイフォン励起部材20を竪樋6の上端部に設け、軒樋5から竪樋6に排水する場合、落し口部22aに流れ込んだ雨水(排水)の中心近傍に空気柱が形成されることを抑制できる。この結果、呼び径100mm程度の竪樋6に、例えば、40L/s以上などの高流量、呼び径125mm程度の竪樋6に、例えば、70L/s以上などの高流量で雨水を流すことができ、高い排水性を確保できる。
【0036】
「模擬試験」
サイフォン励起部材20を竪樋6に取り付け、
図2に示す構成の排水部材15を設けた場合、排水部材15の6つの排水口からの排水状態を模擬する試験を実施した。
3階建ての試験建屋を利用し、雨樋を模擬した
図4(a)に示す水槽25を建屋3階に設置し、水槽の底面を貫通するように竪樋6を接続し、建屋1階に排水部材15と類似構造の排水部材26を水平に配置した。竪樋6の長さは約6mであったので、水槽25から排水部材26までの落差は約6mである。
【0037】
竪樋6として呼び径125mmの塩化ビニル製パイプを使用し、7本のチーズ管と6本の直管を
図4(b)に示すように組み立てて排水部材26を構成し、この排水部材26により
図2に示す排水部材15を模擬する構成とした。
図4(b)に示す排水部材26の全長は約3mである。
図4(a)、(b)に示す排水部材26において、竪樋6に分岐用のチーズ管27の第1接続部27aを接続した。分岐用のチーズ管27の第2接続部27bと第3接続部27cにはそれぞれ直管28を接続した。また、これら直管28の他端側には、それぞれ直管28を介し第1のチーズ管29と第2のチーズ管30と第3のチーズ管31を接続した。排水部材26の両端に位置する第3のチーズ管31の接続部は、図示略のキャップにより閉じた。また、第1~第3のチーズ管29、30、31において、直管28が接続されておらず、前述のキャップに閉じられていない残りの接続部を全て同じ向きに揃えて配置した。これにより、各接続部の開口を
図2に示す排水部材15の排水口として模擬した模擬排水口を構成した。
【0038】
図4(b)に示す排水部材26に設けた6つの模擬排水口に対し、竪樋6から離れた側から順に系統1、系統2、系統3と命名し、各系統に以下の表1に示す呼び径の排水口を設けるように種々の径のチーズ管を組み合わせて以下の模擬試験を実施した。
【0039】
「表1」
系統1 系統2 系統3
実験1 125A 125A 125A
実験2 50A 75A 125A
実験3 75A 100A 125A
【0040】
水槽25から竪樋6に対し、10L/s、20L/s、46.5L/s、71.1L/sのいずれかの排水量で送水し、排水部材26の各模擬排水口から排出される水量を観察した。
水量観察のため、建屋1階の6つの模擬排水口に接続する雨樋形状の6本の排水路を水平に設置し、各排水路を流れる水の水位で排水量を把握した。排水路の幅は、150mm、深さ150mm、長さ8mである。各排水路において、模擬排水口との接続部から6mの位置で水位を測定した。6本の排水路に上述の水量で排水した場合、排水量が多くなると、模擬排水口から激しい水しぶきを上げて水が流入するので、水しぶきの影響を排除するため、上述の位置で水量を測定している。
【0041】
図5は、
図4(b)に示す左側の系統1、系統2、系統3の模擬排水口を全て内径125mmとした実験1の結果を示すグラフである。
模擬排水口の内径が全て同じ場合、排水量を20L/s以上の高排水に設定すると、いずれにおいても系統2、3の水位より系統1の水位が明らかに高いことが分かる。このことは、サイフォン励起部材を設けた竪樋において集中豪雨やゲリラ豪雨により、竪樋に大量の雨水が流れ込むと、排水部材両端部の排水口において大量に排水され、その他の排水口では排水量が少なくなることを意味している。即ち、同一径の排水口を有する排水部材を用いて高排水を実施すると、全ての排水口から均一に排水できないことが分かった。
【0042】
図6は、
図4(b)に示す左側の系統1、系統2、系統3の排水口を順次、内径50mm、75mm、125mmに設定し、水槽からの流量を10L/s、20L/s、46.5L/sのいずれかに設定して排水した実験2の結果を示すグラフである。
排水口の内径を排水部材26の中央から外側(端部側)にかけて、順次小さくなる値に設定した場合、
図6に示すように、系統1、2、3における水位を
図5の場合より均一化できていることが分かった。
図7は、
図4(b)に示す左側の系統1、系統2、系統3の排水口を順次、内径75mm、100mm、125mmに設定し、水槽からの流量を71.1L/sに設定した実験3の結果を示すグラフである。
流量を71.1L/sに設定した高排水の場合であっても、排水口の内径を排水部材26の中央から外側(端部側)にかけて、順次小さくなる値に設定した場合、系統1、2、3における水位を
図5の場合より均一化できていることが分かった。
【0043】
これらの結果の一部を理解が容易となるように
図8と
図9に示す。
図8は6つの排水口の全てを内径125mmとした場合の排水量が少ないケースを図示し、
図9は6つの排水口の全てを内径125mmとした場合の排水量が多いケースを図示している。
図8に示すように排水量が少ない場合は6つの排水口から均一に排水できるが、
図9に示すように排水量が多い場合、排水部材の両端の排水口で排水量が多く、排水部材の中央に向かうにつれて排水口からの排水量が徐々に少なくなることを示している。
【0044】
次に、
図10に示す排水部材のように、竪樋6から分岐用のチーズ管27に接合する部分に拡径部材(インクリーザー)14を設け、呼び径125mmの竪樋6から呼び径150mmの排水部材19に変更したとして、前述のケースと同じ結果が得られることを示している。即ち、径が大きくなったとして排水部材19の両端の排水口で排水量が多く、排水部材19の中央に向かうにつれて排水口からの排水量が徐々に少なくなる傾向は同じである。
【0045】
これに対し、
図11に示すように、竪樋6から分岐用のチーズ管27に接合する部分に拡径部材(インクリーザー)14を設け、呼び径125mmの竪樋6から呼び径150mmの排水部材24に変更した場合、以下に示す構成とする。即ち、系統1、系統2、系統3の排水口を順次、内径65mm、100mm、150mmに設定すると、6つの排水口から均一に排水できるようになる。
なお、このような試験結果が得られた理由は、大量の排水がチーズ管27で分岐されて排水部材に流れ込んだ場合、チーズ管27の近傍で乱流が発生した結果、チーズ管29、30の排水口からの排水量が減少する傾向によると推定できる。
【0046】
以上の試験結果を勘案すると、竪樋6として呼び径75mmの配管を用いた場合、排水部材に形成する6つの排水口は、例えば、排水部材の一端側から順次、内径50mm、65mm、100mm、100mm、65mm、50mmに設定できる。あるいは、排水部材の一端側から順次、内径65mm、75mm、100mm、100mm、75mm、65mmに設定できる。竪樋6の呼び径が75mmの場合、6つの排水口の合計面積は1番目のケースで5.7倍、2番目のケースで6.7倍である。
竪樋6として呼び径100mmの配管を用いた場合、排水部材に形成する6つの排水口は、例えば、排水部材の一端側から順次、内径50mm、75mm、125mm、125mm、75mm、50mmに設定できる。あるいは、排水部材の一端側から順次、内径75mm、100mm、125mm、125mm、100mm、75mmに設定できる。竪樋6の呼び径が100mmの場合、6つの排水口の合計面積は1番目のケースで4.8倍、2番目のケースで6.3倍である。
【0047】
竪樋6として呼び径150mmの配管を用いた場合、排水部材に形成する6つの排水口は、例えば、排水部材の一端側から順次、内径65mm、100mm、150mm、150mm、100mm、65mmに設定できる。あるいは、排水部材の一端側から順次、内径100mm、125mm、150mm、150mm、125mm、100mmに設定できる。竪樋6の呼び径が125mmの場合、6つの排水口の合計面積は1番目のケースで4.5倍、2番目のケースで6.0倍である。
これらをまとめると、呼び径75mm~125mmの竪樋を用いた場合、全ての排水口の合計の内径を呼び径の4.5倍以上、例えば、4.5倍以上7倍以下確保し、排水部材の中央側の排水口の内径より外側寄りの排水口の内径を順次小さくすることが好ましい。
【0048】
以上説明した排水部材15、26の構成は種々の変更が可能である。
図12は、排水部材15、26の全長と同等の全長を有する1本のパイプから排水部材を構成した例を示す。
この第2の例の排水部材32は、一端から他端まで同一径であり、両端が閉じられた一本のパイプから構成されている。排水部材32の側面に、個々に排水口32aを備えた複数本、例えば、16本の排水管32bが排水部材32の長さ方向に所定の間隔で形成されている。排水口32aの向きは、
図12に示す例では竪樋6側向きではなく、その反対側に向けられている。排水部材32に形成されている排水口32aの向きは竪樋6側に向いていてもよい。排水部材32に形成されている排水口32aの向きを竪樋6に向く側に設けることで、
図1~
図3に示す構成にそのまま適用できる。
【0049】
図12に示す構成のまま適用する場合は、先端側を下向きに下り勾配とした構成の大庇に適用することができる。この勾配の大庇の場合、大庇の先端側に軒樋が設けられるので、排水部材32から排出させた雨水を大庇に流し、その先端部に設けた軒樋に流すこととなる。
なお、排水部材32の長さ方向中央の排水口32aの内径より排水部材32の両端側の排水口32aの内径が順次小さくなるように形成されている。
排水部材32において、16個の排水口32aが排水部材32の端部側に向かうにつれて1個ずつ徐々に内径を絞った構成でも良く、複数の排水口32aをまとめて同一内径とし、排水部材32の端部側に向かうにつれて複数単位の排水口32aがまとめて徐々に内径を小さくなる構成としても良い。
【0050】
排水部材32に設ける排水口32aを竪樋6側に向けて構成することで、
図1~
図3に示す構成に雨水排水システムを構成することができる。
この排水部材32を備えた雨水排水システムにおいて、排水部材32の複数の排水口32aから雨水を均等に大庇1の上に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材32に大量の雨水が流れ込んだとしても、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0051】
図13は、排水部材の第3の例を示すもので、この第3の例の排水部材33は、パイプ状ではなく、横方向に細長い雨樋状の貯留部33Aからなる。
貯留部33Aは、底壁33aと、その両側の側壁33bと、これら底壁33aと側壁33bの長さ方向端部を接続した端面壁33cを有する。貯留部33Aの上面には開口面が形成されており、この開口面に対し竪樋6に接続された横管13の終端部が望ませられている。貯留部33Aの底壁33aに、貯留部33Aの長さ方向に間欠的に8つの排水口33Bが形成されている。排水部材33において、竪樋6側に面する側壁33bあるいは反対側の側壁33bに排水口33Bを形成しても良い。
【0052】
8つの排水口33Bは、排水部材33の長さ方向中央側の排水口33Bの内径より排水部材33の両端側の排水口33Bの内径が小さく形成されている。8個の排水口33Bが排水部材33の端部側に向かうにつれて1個ずつ徐々に内径を絞った構成でも良く、複数の排水口33Bをまとめて同一内径とし、排水部材33の端部側に向かうにつれて複数単位の排水口33Bをまとめて徐々に内径を小さく形成した構成としても良い。
【0053】
図13に示す排水部材33において、底壁33aに排水口33Bを形成すると、先の例で用いた排水部材15の代わりに、
図1~
図3に示す雨水排水システムを構成することができる。
排水部材33を備えた雨水排水システムにおいて、排水部材33の複数の排水口33Bから雨水を均等に大庇1の上に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材33に大量の雨水が流れ込んだとして、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0054】
先の第1実施形態において、竪樋6に接続した横管13が排水部材15に接続する部分には、
図2に示すT字状のチーズ管16を採用し、
図4(b)、
図9~
図11等に示す模擬試験構造ではT字状のチーズ管27を採用した。
チーズ管16、27として一般市場に流通しているT字状のチーズ管を用いる場合、注意が必要なケースが考えられる。市販のチーズ管の中には、横管13に接続する第1接続部16aの中心軸に対し、第2接続部16bの中心軸と第3接続部16cの中心軸が90°交差ではなく、どちらか一方が89゜程度で交差しているものがある。
このような市販のチーズ管を用いると、89゜で交差している接続部側に90゜で交差する接続部側より多くの雨水が流入することがある。排水部材15において、チーズ管16の左右両側で雨水の流量が異なると、複数の排水口から流出する雨水量が均一化できなくなるおそれがある。
【0055】
上述の構成を考慮するならば、
図14に示すような2股タイプのチーズ管34を用いて先に実施形態の排水部材15を構成することが好ましい。
図14に示すチーズ管34は、筒状の第1接続部34aの中心軸と筒状の第2接続部34bの中心軸と筒状の第3接続部34cの中心軸とが正確に90゜で交差するT字型である。更に、第1接続部34aから第2接続部34bに向かう流路と、第1接続部34aから第3接続部34cに向かう流路がほぼ同一の対称形状になるような2股形状に形成されている。具体的には、第1接続部34aに続く内部流路の中央部に仕切り部34dが形成され、この仕切り部34dを介し流路を第2接続部34b側に滑らかに湾曲する第1分岐部34eと、前記仕切り部34dを介し第3接続部側に滑らかに湾曲する第2分岐部34fが形成されている。
図14に示す構成のチーズ管34を利用し、先の実施形態において説明した
図2に示すチーズ管16の代わりに使用しても良く、
図4(b)、
図9~
図11等に示すチーズ管27の代わりに使用しても良い。
【0056】
図15は、排水部材15、26、32、33に適用できる偏心ソケットの一例を示している。この例の偏心ソケット35は、曲り管からなる管本体35Aの上端開口部35aの中心軸線S1と下端開口部35bの中心軸線S2が管本体35Aの径方向に若干位置ずれする形状とされている。
この偏心ソケット35は、竪樋6からエルボ管12を介し横管13に接続する部分に組み込んで使用することができる。竪樋6とエルボ管12の間に偏心ソケット35を組み込むことで、竪樋6からエルボ管12側に流入しようとする雨水の流れを減速できる。これにより、排水部材15、26、32、33のそれぞれの排水口から大庇1に対し流出する雨水を減速し、大庇1の損傷を抑制できる効果を奏する。
【0057】
図16は、排水部材の第4の例を示すもので、この第4の例の排水部材36は、パイプ状であるが、長さ方向で均一内径ではなく、竪樋6と接続した部分から離れるにつれて段階的に内径が小さくなる形状を有する。
図16では、竪樋6に接続される中央部分から、排水部材36の長さ方向先端部まで半分程度のみが描かれている。
図16に描かれた排水部材36の右端側に、図示を略した竪樋6との接続部分が形成されているが、この接続部分に近い側の第1パイプ36Aと、第1パイプ36Aの先端側に接続された第2パイプ36Bと、第2パイプ36Bの先端側に接続された第3パイプ36Cから排水部材36の半分程度が形成されている。なお、
図16の右側に略されている接続部分の更に右側にも徐々に径が小さくなる第1パイプ36Aと第2パイプ36Bと第3パイプ36Cが形成されている。
【0058】
第1パイプ36Aの側面に3つの排水口36dが第1パイプ36Aの長さ方向に間欠的に形成されている。第2パイプ36Bの側面に5つの排水口36eが第2パイプ36Bの長さ方向に間欠的に形成されている。第3パイプ36Cの側面に3つの排水口36fが第3パイプ36Cの長さ方向に沿って間欠的に形成されている。排水口36dの内径と排水口36eの内径と排水口36fの内径は、同一である。
【0059】
図16に示す排水部材36を先の例で用いた排水部材15の代わりに用いて
図1~
図3に示す雨水排水システムを構成することができる。
排水部材36を備えた雨水排水システムにおいて、排水部材36の複数の排水口36d、36e、36fから雨水を均等に大庇1の上に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材36に大量の雨水が流れ込んだとして、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0060】
図17は、排水部材に適用可能なパンチングメタルからなる雨樋状の排水部材37を示すもので、この排水部材37において、パンチングメタルの目の粗さが、排水部材37の長さ方向中央部側で粗く、長さ方向両端部側において細かく形成されている。
図17では詳細な記載が難しいため、均一の目の粗さに描いたが、上述の目の粗さを採用することにより、排水部材37の長さ方向中央部に竪樋6を接続すると、排水部材37の長さ方向中央部側において雨水を排出するための流路断面積を大きくでき、排水部材37の両端側において雨水を排出するための流路断面積を小さくできる。
【0061】
この構成により、排水部材37を先の例で用いた排水部材15の代わりに用いて
図1~
図3に示す雨水排水システムを構成することができる。
排水部材37を備えた雨水排水システムにおいて、排水部材37から雨水を均等に大庇1の上に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材37に大量の雨水が流れ込んだとして、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
なお、排水部材37は、
図13に示す構成の排水部材33の内部に挿入して使用することもできる。
【0062】
図18は、排水部材の第5の例を示すもので、第5の例の排水部材38は、水平に配置された1本のパイプ本体38Aの前面下部側にパイプ本体38Aの長さ方向全長に渡る突起部38Bが形成されている。パイプ本体38Aから突起部38Bが突出されている形状を側面視した場合、突起部38Bはパイプ本体38Aの底部側からくちばし状に突出されている。この突起部38Bの先端面38Cにパイプ本体38Aの長さ方向に間欠的に複数(
図18では18個)の排水口38aが形成されている。
パイプ本体38Aの長さ方向中央部に第1実施形態の構造と同様に竪樋6に接続された横管13が接続され、竪樋6からの雨水が排水部材38に流れ込むようになっている。
【0063】
排水部材38において、その長さ方向中央の排水口38aの内径より排水部材38の両端側の排水口38aの内径が小さく形成されている。
排水部材38では、複数の排水口38aについて排水部材38の端部側に向かうにつれて1個ずつ徐々に内径を絞った構成でも良い。また、複数の排水口38aをまとめて同一内径とし、排水部材38の端部側に向かうにつれて複数単位の排水口38aをまとめて徐々に内径を小さく形成した構成としても良い。
【0064】
排水部材38を
図1~
図3に示す構成の雨水排水システムに適用することができる。なお、
図1~
図3に示す構成の雨水排水システムに適用する場合、突起部38Bと排水口38aを
図18の向きとは逆向きとして横管13の接続側に設け、谷樋11側に排水できる構成とする。
この排水部材38を備えた雨水排水システムにおいて、排水部材38の複数の排水口38aから雨水を均等に大庇1の上に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材38に大量の雨水が流れ込んだとして、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0065】
図19は、
図2(b)に示す構成において、谷樋11の上に排水部材15を配置した雨水排水システムを示す。
図2(b)に示す構成において、エルボ管12と横管13を略し、竪樋6の下端部を直接排水部材15の中央のチーズ管16に接続し、各排水口が下向きとなるように接続配管17と端部管18を接続すると、
図19に示す構成を実現できる。
【0066】
図19に示すように排水部材15を谷樋11の上方にほぼ水平に設置し、排水部材15の各排水口から直接谷樋11に排水しても良い。
図19に示す雨水排水システムにおいて、排水部材15の複数の排水口から雨水を均等に谷樋11に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材15に大量の雨水が流れ込んだとして、大庇1と谷樋11の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0067】
図20は、
図2(a)、(b)に示す構成において、谷樋11を廃止し、側壁4に直接接続するように大庇1Aを設けるとともに、先端側を下り勾配とした片流れ式の大庇1Aとして構成し、雨水排水システムを適用した一例を示す。
この例では、下がり勾配の大庇1Aの軒先側に軒樋40が設けられるとともに、竪樋6の下端部に設けたエルボ管12に対し長尺の横管13Aが設けられ、横管13Aの先端に排水部材15が接続されている。横管13Aは大庇1Aと同等程度の長さを有し、軒樋40の上方に軒樋40に沿うように排水部材15が設置されている。排水部材15の複数の排水口は下向きに設置され、各排水口は軒樋40の内部に望むように配置されている。
【0068】
図20に示す雨水排水システムにおいて、排水部材15の複数の排水口から雨水を均等に軒樋40に排水できる。このため、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から排水部材15に大量の雨水が流れ込んだとして、軒樋40の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0069】
図21は、排水部材の一部を覆うように網状体41を設けた例を示す。
図21に示す例では、第1実施形態の排水部材15の端部管18の排水口を覆うように袋状の網状体4が設けられている。この網状体41は、端部管18の排水口から排出された雨水の勢いを弱くする目的で設けられている。
端部管18の排水口から、仮に勢い良く雨水が排出されたとして、排水口を網状体41で覆っておくならば、排出される雨水の勢いを減速できるので、大庇1や谷樋11あるいは軒樋40の損傷を防止する上で効果的である。
【0070】
図22は、排水部材の第6の例を示すものであり、この例の排水部材42は、第1実施形態の排水部材1と同様に、チーズ管16と接続配管17と端部管18を接続した構成を有する。ただし、チーズ管16と接続配管17と端部管18の接続部分は自在継手や蛇腹管を介し接続されており、チーズ管16と接続配管17と端部管18の接続部分の角度調節が容易となっている。
【0071】
図22に示す構成を採用することで、チーズ管16と接続配管17と端部管18のそれぞれに形成されている排水口の向きを容易に調整できる。このため、大庇1の形状や傾斜がどのようになっていても排水の向きを容易に調整できる特徴を有する。
例えば、大庇1が折板屋根構成であり、屋根面に山部と谷部が形成されている場合、山部と谷部の位置に合わせて各排水口の位置調節が可能となり、大庇1に対し排水の衝撃を効率良く緩和できる構成を採用できる。
【0072】
図23は、排水部材の第7の例を示すものであり、この例の構成は、大庇1の流れ方向に対し平行に排水部材15を配置した例を示す。
排水部材15はその長さ方向を大庇1の上面に沿うように水平に配置することが望ましいが、排水部材15の長さ方向を大庇1の上面に対し交差する方向に配置しても良い。ここで言及した水平とは、大庇1の流れ方向に対し直交する方向である。
【0073】
図24は、排水部材の第8の例を示すものであり、この例の排水部材43は、竪樋6の下端部に接続される縦管43Aと、この縦管43Aの下端部に形成された排出部43Bを備える。
排出部43Bは、縦管43Aの下端部に縦管43Aの長さ方向に直交するように配置された平面視半円状の第1案内板43Cと、この第1案内板43Cに平行に離間配置された平面視半円状の第2案内板43Dと、第1案内板43Cと第2案内板43Dを接続した連結板43Eを備えている。第1案内板43Cと連結板43Eと第2案内板43Dはこれらが側面視コ字状になるように接続されている。
第1案内板43Cの中央部には円形の接続孔が形成されており、この接続孔に縦管43Aの下端部が接続されている。縦管43Aは前述の接続孔を介し第1案内板43Cと第2案内板43Dの間の空間に接続されている。
【0074】
図24に示す排水部材43の縦管43Aを竪樋6に接続することにより、竪樋6から排出される雨水を第1案内板43Cと第2案内板43Dの間の空間に排出することができる。
第1案内板43Cと第2案内板43Dの間の空間に排出した雨水は、第1案内板43Cと第2案内板43Dの間の空間から大庇1に排出できる。
図24に示す構成の排水部材43を設けると、竪樋6から縦管43Aに流出させた雨水を第1案内板43Cと第2案内板43Dの間の空間に排出し、次いで大庇1の上面に排出できる。
竪樋6から縦管43Aに大量の雨水が流れ出たとして、雨水を一端、第2案内板43Dに向けて流出させ、第2案内板43Dに沿って大庇1の上面に排水できる。縦管43Aから排出される雨水の圧力を第2案内板43Dが受けるので、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から大量の雨水が流れ込んだとして、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0075】
図25は、排水部材の第9の例を示すものであり、この例の排水部材45は、水平に配置された1本のパイプ本体45Aからなり、このパイプ本体45Aの側面に排水口45aが間欠的に複数形成されている。この例において、全ての排水口45aの内径は同一である。
図25では、パイプ本体45Aにおいて、竪樋6に接続される中央部分から、排水部材45の長さ方向一端側まで、パイプ本体45Aの全長の半分程度のみが描かれている。
図25に描かれたパイプ本体45Aの右端側に、図示を略した竪樋6との接続部分45Bが形成されている。この接続部分45Bから
図2に示す左端まで描かれたパイプ本体45Aにより排水部材45の長さ方向半分程度が構成されている。
【0076】
パイプ本体45Aの側面において、図示を略した竪樋6との接続部分45Bに近い側から順に第1排水口45aと第2排水口45bと第3排水口45cが間欠的に形成されている。そして、パイプ本体45Aの内部側であって、第1排水口45aと第2排水口45bの間に第1リング部材46が内挿され、第2排水口45bと第3排水口45cの間に第2リング部材47が内挿されている。
第1リング部材46と第2リング部材47はいずれもパイプ本体45Aの内周面に接するように内挿されている。第1リング部材46は第2リング部材47より肉薄のリング部材であり、第2リング部材47は第1リング部材46より肉厚のリング部材である。
【0077】
パイプ本体45Aの内部空間は、第1リング部材46と第2リング部材47を設けることより、接続部分45Bに一番近い領域である第1領域45dと、2番目に近い第2領域45eと、一番遠い第3領域45fに仕切られている。また、第1領域45dに第1排水口45aが開口され、第2領域45eに第2排水口45bが開口され、第3領域45fに第3排水口45cが開口されている。
第1領域45dと第2領域45eの間に肉薄の第1リング部材46を設け、第2領域45eと第3領域45fの間に肉厚の第2リング部材47を設けたことから、竪樋6を介し排水部材45に大量の雨水が流れ込んだ場合であっても、第1排水口45aと第2排水口45bと第3排水口45cから均一に排水できる。
【0078】
第1領域45dにリングを設けておらず、第1領域45dと第2領域45eの間に肉薄の第1リング部材46を設け、第2領域45eと第3領域45fの間に肉厚の第2リング部材47を設けた構成により、先の第1実施形態の排水部材15において、3つの排水口17bの内径をR1≧R2>R3の関係とした場合と同様の効果が得られる。
従って、集中豪雨やゲリラ豪雨などの場合に竪樋6から大量の雨水が排水部材45に流れ込んだとして、大庇1の損傷を防止しつつ雨水の排水ができる。
【0079】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
例えば、上記実施形態では排水溝として平屋根3や下屋2の側部に設けられる軒樋5のサイフォン励起部材と竪樋6とが接続されている場合について説明したが、平屋根3や下屋2の屋根面に設けられた排水溝であってもよく、この排水溝に設けられたルーフドレンと竪樋6とが接続されていてもよい。この場合、ルーフドレンがサイフォン励起部材を兼ねていてもよく、ルーフドレンと竪樋6の上端部との間にサイフォン励起部材を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
A…建物、B…雨水排水システム、S…排水配管システム、1…大庇(下階屋根)、
2…下屋(上階屋根)、3…平屋根、4…側壁、5…軒樋(排水溝)、6…竪樋、11…谷樋、
12…エルボ管、14…拡径部材(インクリーザー)、15…排水部材、16…チーズ管、
17…接続配管、18…端部管、20…サイフォン励起部材、26…排水部材、27…チーズ管、
29、30、31…チーズ管、32…排水部材、32a…排水口、33…排水部材、
33B…排水口、34…チーズ管、35…偏心ソケット、36…排水部材、
36d、36e、36f…排水口、38…排水部材、38a…排水口、40…軒樋、
41…網状体、43…排水部材、45…排水部材、45a、45b、45c…排水口。