(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014995
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】炭素繊維不織布プリプレグ、その製造方法及びこれを用いた炭素繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20230124BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20230124BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
B29B11/16
D04H1/4242
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111507
(22)【出願日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021118941
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】521319579
【氏名又は名称】ティーシーエム合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】宮本 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 智一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直
(72)【発明者】
【氏名】東出 真澄
(72)【発明者】
【氏名】松岡 幹人
【テーマコード(参考)】
4F072
4L047
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB29
4F072AD23
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH25
4F072AJ22
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL11
4F072AL16
4L047AA03
4L047AA28
4L047AB02
4L047BD00
4L047CA02
4L047CC13
4L047EA02
(57)【要約】
【課題】連続炭素繊維を含むプリプレグと同様な使い方ができ、取り扱い性も良好な炭素繊維不織布プリプレグ、その製造方法及びこれを用いた繊維強化樹脂成形体を提供する。
【解決手段】不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートと、樹脂を含む炭素繊維不織布プリプレグであって、前記炭素繊維不織布シートは、繊維が配向された矩形の繊維ウェブが、2枚以上積層されており、前記炭素繊維不織布シートには、樹脂が一体化される。このプリプレグは、不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に繊維を配向させて繊維ウェブとし、繊維ウェブを積層させ積層ウェブとし、両端をカットして炭素繊維不織布シート15とし、樹脂を含浸あるいは樹脂シート18a,18bで挟んで製造する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートと、樹脂を含む炭素繊維不織布プリプレグであって、
前記炭素繊維不織布シートは、繊維が配向された矩形の繊維ウェブが2枚以上積層されており、
前記炭素繊維不織布シートには、樹脂が一体化されることを特徴とする炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項2】
前記炭素繊維不織布シートは、パラレルウェブ及びクロスウェブから選ばれる少なくとも一つの繊維ウェブの積層体である請求項1に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項3】
前記矩形の繊維ウェブは、端部をずらせて積層され、長尺状ウェブに形成されている請求項1又は2に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項4】
前記炭素繊維不織布シートは、炭素繊維不織布シートを母数としたとき、不連続炭素繊維が50~100質量%、炭素繊維以外の強化繊維が0~50質量%である請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項5】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれる少なくとも一つの樹脂であり、前記炭素繊維不織布シートに含侵又は溶融固化状態で一体化される請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項6】
前記炭素繊維不織布シートを構成する繊維と樹脂との割合は、繊維5~70体積%、樹脂30~95体積%である請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項7】
前記炭素繊維不織布シートは、単位面積当たりの質量が1~1000g/m2である請求項1~6のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項8】
前記矩形の繊維ウェブの積層数が2~100枚である請求項1~7のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項9】
前記矩形の繊維ウェブの端部は、1枚当たり1~1000mmずらせて積層されている請求項1~8のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項10】
前記矩形の繊維ウェブを構成する炭素繊維は、繊維長分布が1~300mmである請求項1~9のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項11】
前記炭素繊維不織布シートを構成する炭素繊維は、リサイクルされた炭素繊維を含む請求項1~10のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法であって、
不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に繊維を配向させて繊維ウェブとし、
前記繊維ウェブをローラに巻き付けて積層し、積層した繊維ウェブを切り開き、ローラ巻取式パラレルウェブとし、両端をカットして炭素繊維不織布シートとし、
前記炭素繊維不織布シートに樹脂を含浸することを特徴とする炭素繊維不織布プリプレグの製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法であって、
不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に繊維を配向させて繊維ウェブとし、幅方向にカットして矩形とし、
前記矩形の繊維ウェブを積層してパラレルウェブ及びクロスウェブから選ばれる少なくとも一つの炭素繊維不織布シートとし、
前記炭素繊維不織布シートに樹脂を含侵することを特徴とする炭素繊維不織布プリプレグの製造方法。
【請求項14】
前記矩形の繊維ウェブは、端部をずらせて積層し、長尺状ウェブに形成する請求項12又は13に記載の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法。
【請求項15】
炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂成形体であって、
前記成形体のマトリックス樹脂は、請求項1~11のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布プリプレグに含まれる樹脂を少なくとも一部に含むことを特徴とする繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不連続の炭素繊維を含む不織布プリプレグ、その製造方法及びこれを用いた繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量で比強度、比弾性率が高く、力学的特性に優れ、耐候性、耐薬品性も高いことから、航空機、自動車、タンク、コンクリート補強材、スポーツ用途等様々な用途に使用され、あるいは適用することが検討されている。CFRPの製造の際には炭素繊維シートの切断などにより端材が発生し、有効活用が問題となる。また、CFRP成形体を処分する際も炭素繊維の有効活用(リサイクル)が問題となる。
【0003】
廃CFRPから炭素繊維を取り出す方法として、焼成法、溶解法などがあり、特許文献1には溶解法が提案されている。これは樹脂を溶かす方法であり、高品質なリサイクル炭素繊維を得ることができる。しかし、溶解処理後の炭素繊維は不連続となり、綿状に絡まり合った状態であり、そのままではCFRPに再生することは難しい。リサイクル炭素繊維をCFRPに再生する方法として、特許文献2~4には乾式法(カード)で開繊することが提案されている。本出願人らも特許文献5において、カード機で開繊することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-297641号公報
【特許文献2】再表2012-086682号公報
【特許文献3】特表2013-519546号公報
【特許文献4】特開2014-025175号公報
【特許文献5】特開2016-151081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の特許文献2~4の技術では、連続炭素繊維シートと同様な使い方をした成形品を得るための繊維が所定の方向に配向した長尺状の炭素繊維不織布シートを作製することに問題があり、特許文献5の技術では高配向であるが、取り扱い性が困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、連続炭素繊維を含むプリプレグと同様な使い方ができ、取り扱い性も良好な炭素繊維不織布プリプレグ、その製造方法及びこれを用いた繊維強化樹脂成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素繊維不織布プリプレグは、不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートと樹脂からなる炭素繊維不織布プリプレグであって、前記炭素繊維不織布シートは、繊維が配向された矩形の繊維ウェブが、2枚以上積層されており、前記炭素繊維不織布シートには、樹脂が一体化されることを特徴とする。ここでいう矩形とは、角の角度が必ずしも90°でなくてもよく、台形や平行四辺形を含む。
【0008】
本発明の第1番目の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法は、不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に繊維を配向させて繊維ウェブとし、前記繊維ウェブをローラに巻き付けて積層し、積層した繊維ウェブを切り開き、ローラ巻取式パラレルウェブとし、両端をカットして炭素繊維不織布シートとし、前記炭素繊維不織布シートに樹脂を含浸することを特徴とする。前記積層された繊維ウェブは、矩形となっており、パラレルウェブである。
【0009】
本発明の第2番目の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法は、不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に繊維を配向させて繊維ウェブとし、幅方向又は斜め方向にカットして矩形の繊維ウェブとし、前記矩形の繊維ウェブを積層してパラレルウェブ及びクロスウェブから選ばれる少なくとも一つの長尺状ウェブとし、前記長尺状ウェブの両端をカットして炭素繊維不織布シートとし、前記炭素繊維不織布シートに樹脂を含侵することを特徴とする。
【0010】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂成形体であって、前記成形体のマトリックス樹脂は、前記の炭素繊維不織布プリプレグに含まれる樹脂を少なくとも一部に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素繊維不織布プリプレグは、不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートと樹脂からなる炭素繊維不織布プリプレグであって、前記炭素繊維不織布シートは、繊維が配向された矩形の繊維ウェブが、2枚以上積層されており、前記炭素繊維不織布シートには、樹脂が一体化されることにより、連続炭素繊維のプリプレグと同様な使い方ができ、取り扱い性も良好である。本発明の製造方法は、前記炭素繊維不織布シートを乾式法で製造することができ、効率よく合理的に本発明の炭素繊維不織布プリプレグを製造できる。また、本発明の繊維強化樹脂成形体は前記の炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含むことにより、繊維の配向方向の引張強度が高い繊維強化樹脂成形体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態のカード機の模式的断面図である。
【
図2】
図2は同、カード機で得られた矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層し、長尺状ウェブとした模式的説明図である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態の炭素繊維不織布シートの模式的斜視図である。
【
図4】
図4は本発明の一実施形態の炭素繊維不織布プリプレグの製造工程を示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は同、炭素繊維の繊維ウェブの表面写真である。
【
図6】
図6は同、炭素繊維の繊維ウェブの表面拡大写真である。
【
図7】
図7は同、炭素繊維の繊維ウェブの端部をずらせて積層した部分を示す表面写真である。
【
図8】
図8は本発明の別の実施形態の長尺状クロスウェブの模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の炭素繊維不織布プリプレグは、不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートと樹脂からなる炭素繊維不織布プリプレグである。前記炭素繊維不織布シートは、所定の方向に繊維が配向された矩形の繊維ウェブが2枚以上積層された積層ウェブとなり、前記炭素繊維不織布シートには、樹脂が一体化される。本発明の炭素繊維不織布シートは、不連続炭素繊維を一成分とする炭素繊維不織布シートである。これにより、繊維強化樹脂成形体としたときに繊維の配向方向に強度が高く、品質の高い繊維強化樹脂成形体が得られる。前記において所定の方向とは、繊維ウェブの長さ方向のことをいう。
【0014】
前記炭素繊維不織布シートは、パラレルウェブ及びクロスウェブから選ばれる少なくとも一つの炭素繊維不織布シートが好ましい。これらの炭素繊維不織布シートは所定の方向に繊維が配向し、繊維強化樹脂成形体としたときに繊維の配向方向に強度が高く、品質の高い繊維強化樹脂成形体が得られる。具体的にはパラレルウェブの炭素繊維不織布シートは、構成繊維が実質的に一方向に配向している。クロスウェブの炭素繊維不織布シートは、矩形の繊維ウェブの積層方向を変えることにより、構成繊維は矩形の繊維ウェブの積層方向に沿って配向している。
【0015】
前記矩形の繊維ウェブは、端部をずらせて積層され、長尺状ウェブに形成されているのが好ましい。前記矩形の繊維ウェブは、幅は同一であるので、端部を所定の長さずらせて積層すると、積層数が同一の長尺状ウェブが得られる。前記長尺状ウェブは、積層数も長さも任意とすることができる。前記長尺状ウェブの両端をカットして炭素繊維不織布シートとし、前記炭素繊維不織布シートに樹脂を含浸させることで炭素繊維不織布プリプレグが得られる。この炭素繊維不織布プリプレグは連続炭素繊維プリプレグと同様な使い方ができる。すなわち、真空バッグ法、加圧バッグ法、オートクレーブ法、ホットプレス法、シートワインド法、引抜成形法などで成形されるが、本発明の炭素繊維不織布プリプレグも同様な使い方ができる。一例として、矩形の繊維ウェブを繊維配向が同一になるように、端部を所定の長さずらせて積層した長尺状パラレルウェブから、両端をカットして得られた炭素繊維不織布シートに、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、前記炭素繊維不織布プリプレグから得られる炭素繊維強化樹脂の炭素繊維の配向方向の引張強度は340MPa以上となり、アルミ合金A2024(超ジュラルミン)に匹敵するレベルとなる。
【0016】
前記炭素繊維不織布シートは、不織布シートを母数としたとき、不連続炭素繊維が50~100質量%、炭素繊維以外の強化繊維が0~50質量%であるのが好ましく、より好ましく不連続炭素繊維が70~100質量%、炭素繊維以外の強化繊維が0~30質量%はであり、さらに好ましくは不連続炭素繊維が90~100質量%、炭素繊維以外の強化繊維が0~10質量%である。強化繊維としては、強度:18cN/decitex以上、弾性率:380cN/decitex以上の高強度かつ高弾性有機繊維であるのが好ましい。具体的には、アラミド(パラ系、メタ系を含む)繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、高分子量ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリビニルアルコール繊維などが好ましい。
【0017】
以下、不連続炭素繊維を成分とする炭素繊維不織布シートを例に挙げて説明する。繊維ウェブは、カード機の開繊装置上で開繊された炭素繊維が、実質的に一方向に配向されている。開繊装置はシリンダ又はベルトコンベアが好ましい。シリンダ又はベルトコンベア上には多数の金属製針が備えられているが、炭素繊維はこの多数の金属製針の間に、開繊されかつ実質的に一方向に配向されて、剥ぎ取られる。これにより一方向に配向した繊維ウェブが得られる。繊維ウェブは、幅方向または斜め方向にカットされ矩形の繊維ウェブとなる。シリンダ又はベルトコンベア幅及び直径又は長さは様々なものを選択できるので、生産量に見合ったものを選択して使用する。
【0018】
炭素繊維不織布シートの単位面積当たりの質量は1~1000g/m2であり、より好ましくは5~500g/m2であり、さらに好ましくは10~300g/m2である。繊維ウェブの単位面積当たりの質量は0.1~100g/m2が好ましく、より好ましくは0.5~50g/m2であり、さらに好ましくは1~30g/m2である。前記の範囲であれば、成形に都合が良い。
【0019】
前記矩形の繊維ウェブの積層数は2~100枚であるのが好ましく、より好ましくは5~50枚であり、さらに好ましくは10~40枚である。前記の積層数であれば、単位面積当たりの質量も高くでき、強度の高い炭素繊維強化樹脂成形体ができる。
【0020】
前記矩形の繊維ウェブの端部は1枚当たり1~1000mmずらせて積層されているのが好ましく、より好ましくは5~500mmであり、さらに好ましくは10~300mmである。前記のずらせ量であれば、均一な長尺状ウェブとすることができる。ここで長尺状とは、理論的には無限であるが、実用上は1~25m程度である。
【0021】
本発明において、「実質的に一方向に配向」とは、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されていることをいう。したがって、矩形の繊維ウェブを構成する繊維は、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されていることが好ましく、さらに好ましくは60質量%以上が±10度以内の角度で配向されており、より好ましくは70質量%以上が±10度以内の角度で配向されている。前記の範囲であれば、配向性が高く、強度が高く、品質の高い繊維強化樹脂成形体が得られる。
【0022】
前記矩形の繊維ウェブは、荷重500Paをかけたときの平均密度が0.01~0.40g/cm3であることが好ましく、さらに好ましい平均密度は0.02~0.20g/cm3であり、より好ましくは0.03~0.15g/cm3である。前記の範囲であれば、成形に都合が良い。
【0023】
前記矩形の繊維ウェブを構成する繊維の繊維長は任意とすることができるが、好ましくは繊維長分布が1~300mmであり、より好ましくは5~200mmであり、さらに好ましくは10~150mmである。前記の範囲であれば、品質的に問題はなく、成形に都合が良い。
【0024】
前記矩形の繊維ウェブの大きさは、炭素繊維不織布シートの長さ方向(MD)の長さが30~5000mmであり、MDと直交する方向(CD)の長さは20~3000mmが好ましい。前記の範囲であれば、品質的に問題はなく、成形に都合が良い。
【0025】
前記炭素繊維不織布シートに含む一成分の炭素繊維は、リサイクルされた炭素繊維が好ましいが、新規の炭素繊維を切断したもの、CFRPの製造の際の炭素繊維シートの切断などにより端材として発生したものなど、どのようなものでも使用できる。炭素繊維の原料は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系等どのようなものでもよい。また、本発明の炭素繊維不織布シートと別の方法で作成された炭素繊維シート(例えば連続繊維シート、炭素繊維織物など)とを積層してプリプレグにすることもできる。
【0026】
前記炭素繊維不織布プリプレグと別の方法で作成された炭素繊維シート(例えば連続繊維シート)もしくは別の方法で作成されたプリプレグとを積層して成形することもできる。
【0027】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれる少なくとも一つの樹脂であり、前記炭素繊維不織布シートに含侵又は溶融固化状態で一体化されることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などがある。これらの樹脂は硬化剤と配合して使用される。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などがある。
【0028】
前記繊維と樹脂との割合は、繊維5~70体積%、樹脂95~30体積%が好ましく、より好ましくは繊維10~65体積%、樹脂90~35体積%であり、さらに好ましくは繊維15~60体積%、樹脂85~40体積%である。前記の範囲であれば、樹脂を繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂の少なくとも一部として使用できる。
【0029】
成形時の脱気性が向上するため、前記樹脂は炭素繊維不織布シートに半含浸されることが好ましい。
【0030】
次に本発明の第1番目の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法について説明する。
(1)繊維ウェブ形成工程
不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に繊維を配向させて繊維ウェブとする。必要に応じてサイジング剤を付与してもよい。炭素繊維以外の強化繊維を加える場合は、この工程で加えて混合する。
(2)パラレルウェブ形成工程
前記繊維ウェブをローラに巻き付けて積層し、積層した繊維ウェブを切り開き、ローラ巻取式パラレルウェブとする。
(3)不織布形成工程
前記ローラ巻取式パラレルウェブの両端をカットして炭素繊維不織布シートとする。
(4)樹脂一体化工程
前記炭素繊維不織布シートを樹脂シートで挟み、熱プレスする。これにより炭素繊維不織布シートに樹脂が含侵又は溶融固化状態で一体化した炭素繊維不織布プリプレグとなる。また、炭素繊維不織布シートを樹脂シートで挟む際に、サイジング剤の付与や、炭素繊維不織布シートを複数枚積層させてもよい。
【0031】
本発明の第2番目の炭素繊維不織布プリプレグの製造方法は次のとおりである。
(1)繊維ウェブ形成工程
不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に炭素繊維を配向させて繊維ウェブとする。必要に応じてサイジング剤を付与してもよい。炭素繊維以外の強化繊維を加える場合は、この工程で加えて混合する。
(2)第1カット工程
前記繊維ウェブは長尺状で得られるので、幅方向又は斜め方向にカットして矩形とする。幅方向又は斜め方向にカットする方法は特に限定されないが、例えば同一速度で動くカッターでカットしてもよい。もしくは、長尺状の繊維ウェブを静置でカットする方法がある。このようにして矩形の繊維ウェブとする。
(3)積層工程
前記矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層し、長尺状ウェブとする。
(4)第2カット工程
前記長尺状ウェブの両端をカットして本発明の炭素繊維不織布シートを得る。ここでいう両端とは先端部と後端部の不均一積層部分をいう。前記長尺状ウェブは必要に応じて所定の長さにカットしてもよい。
(5)樹脂一体化工程
前記炭素繊維不織布シートを樹脂シートで挟み、熱プレスする。これにより炭素繊維不織布シートに樹脂が含侵又は溶融固化状態で一体化した炭素繊維不織布プリプレグとなる。また、炭素繊維不織布シートを樹脂シートで挟む際に、サイジング剤の付与や、炭素繊維不織布シートを複数枚積層させてもよい。
【0032】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂成形体であって、前記成形体のマトリックス樹脂は、前記プリプレグに含まれる樹脂を少なくとも一部に含む。繊維強化樹脂成形体の成形時には、新たな樹脂を追加することもできる。本発明の炭素繊維不織布プリプレグを用いた成形法としては、真空バッグ法、加圧バッグ法、オートクレーブ法、ホットプレス法、シートワインド法、引抜成形法などが採用できる。
【0033】
以下、図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施例のカード機1の模式的断面図である。このカード機1は、不連続炭素繊維2がフィードローラ3a,3bから供給され、テーカインローラ4を通過し、シリンダ5とワーカ6a,7a、及びストリッパ6b,7bの協働により開繊され、ドッファ8を通過し、振動コム9により剥ぎ取られ、繊維ウェブとして取り出す。11は基台である。繊維ウェブは不連続繊維の炭素繊維が開繊され、一方向に配列し、長尺状である。この繊維ウェブは排出ベルト12から取り出される。その際には一例として繊維ウェブと同速度で移動するカッター13で幅方向にカットされ、矩形の繊維ウェブ10として取り出される。
【0034】
図2は同、カード機で得られた矩形の繊維ウェブ10の端部をずらせて積層し、長尺状ウェブ14、24とした模式的説明図である。この長尺状ウェブ14、24を所定の長さにカットし炭素繊維不織布シート15とする。炭素繊維不織布シート15は単位面積当たりの質量が安定し、多数枚作成しても各々の炭素繊維不織布シート15はほぼ均一な質量となる。両端はカットされ、再度カード機に供給して炭素繊維不織布シート15としてもよい。矢印は進行方向である。
【0035】
図3は本発明の一実施形態の長尺状パラレルウェブ14の模式的斜視図である。長尺状パラレルウェブ14を構成する各炭素繊維16は一方向に配列している。矩形の繊維ウェブ10a-10i…が端部をずらせて同じ方向で積層されている。矩形の繊維ウェブ10fを含む左側(矢印カット線17から左側)が均一な積層数の炭素繊維不織布シートとなる。この例では6層である。矢印MDは炭素繊維不織布シートの長さ方向(MD)を示している。
【0036】
図4は本発明の一実施形態の炭素繊維不織布プリプレグ21の製造工程を示す模式的断面図である。炭素繊維不織布シート15の両面に樹脂シート18a,18bと、その外側から剥離シート19a,19bを貼り合わせ、加熱加圧ローラ20a,20bで熱プレスし、樹脂を低粘度化し、炭素繊維不織布シート15を構成する炭素繊維群と一体化する。得られた炭素繊維不織布プリプレグ21は取り扱い性が良く、ロール状態の巻き上げ体22にする。
【0037】
図5は本発明の一実施形態の繊維ウェブの表面写真、
図6は同、繊維ウェブの表面拡大写真、
図7は矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層した部分を示す表面写真である。23a,23bは積層部分である。積層数は、右側1枚、中2枚、左側3枚である。
【0038】
図8は本発明の別の実施形態の長尺状クロスウェブ24の模式的斜視図の一例である。矩形の繊維ウェブ10a-10i…が、1枚ずつ繊維方向が0°と90°となるように交互に、かつ端部をずらせて積層されている。例えば矩形の繊維ウェブ10aの繊維方向は0°、矩形の繊維ウェブ10bの繊維方向は90°に配向されている。これにより、長さ方向と幅方向の強度が高くなる。繊維を縦、横、斜めに配向させれば、それぞれの方向の強度が高くなる。
図3と同様に、繊維ウェブ10fを含む左側(矢印カット線17から左側)が均一な積層数の炭素繊維不織布シートとなる。この例では6層である。矢印MDは炭素繊維不織布シートの長さ方向(MD)を示している。
【実施例0039】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<試験片の引張試験>
ASTM D3039(2017)を参考にし、インストロン万能試験機 モデル5982を使用し、ロードセル100kN、引張速度1.0mm/sec、で炭素繊維強化樹脂成形体の引張強度を測定した。
【0040】
(実施例1)
繊維トウ廃材から溶解法によりリサイクルされた炭素繊維(東レ社製、商品名“T800S”、繊維長80mm)を、ワイヤーカード機へ投入して、幅30cmの繊維ウェブを得た。繊維ウェブは目付2.2g/m2で、繊維ウェブをローラに巻き付けて積層し、積層した繊維ウェブを切り開き、平均目付42g/m2のローラ巻取式パラレルウェブの炭素繊維不織布シートを得た。この炭素繊維不織布シートを構成する炭素繊維はマイクロスコープの画像を観察したところ、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されていた。得られた炭素繊維不織布シートを長さ方向250mm、幅方向150mm程度にトリムして、サイズ剤を付与し(平均7wt%)、乾燥させて基材を作製した。この基材を5枚積層し、シート状にしたエポキシ樹脂(180℃硬化、目付579.6g/m2)で挟み、熱プレスで100℃、0.3MPaの条件で10分プレスし、樹脂シートと基材を一体化させた炭素繊維不織布プリプレグを得た。プリプレグを2層積層し、バギングしてオートクレーブに入れ、0.5MPaで加圧しながら、120℃で15分加熱後、180℃で2時間加熱して、炭素繊維強化樹脂成形体の母板を成形した。母板の厚さは1.8mm、密度は1.32g/cm3、繊維体積含有率は19%だった。この母板から縦230mm、横25mmの試験片を切り出した。その物性は表1にまとめて示す。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同じ原料から目付2.2g/m2の繊維ウェブを得た。繊維ウェブを長さ50cmで幅方向にカットして矩形の繊維ウェブとした。カットした端部を3.1cmずつずらして矩形の繊維ウェブを32枚積層し、平均目付35g/m2の炭素繊維不織布シートを得た。実施例1と同様の操作を行い、得られた基材を10枚積層し、シート状にしたエポキシ樹脂(180℃硬化、目付約970g/m2)で挟み、真空熱プレスで100℃、0.3MPaの条件で10分プレスし、樹脂シートと基材を一体化させたプリプレグを得た。プリプレグ1層をバッグしてオートクレーブに入れ、0.5MPaで加圧しながら、120℃で15分加熱後、180℃で2時間加熱して、炭素繊維強化樹脂成形体の母板を成形した。母板の厚さは1.2m、密度は1.28g/cm3、繊維体積含有率は19%だった。この母板から縦230mm、横25mmの試験片を切り出した。その物性は表1にまとめて示す。
【0042】
(比較例1)
この比較例は湿式抄紙法により炭素繊維とバインダー繊維をシート化し、炭素繊維強化樹脂成形体とした例である。炭素繊維トウから溶解法によりリサイクルされた炭素繊維(東邦テナックス社製、商品名“IMS60”、繊維長6mm)とバインダー繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、繊維長6mm)を質量比7:3の割合で混合し、水中で撹拌して繊維スラリーを作成した。得られたスラリーを手抄筒で抄紙して湿紙を得た。この湿紙をヒーターで乾燥させ、単位面積当たりの質量30g/m2の湿式炭素繊維不織布シートを得た。得られた湿式炭素繊維不織布シートの構成炭素繊維は一方向には配向していなかった。
この湿式炭素繊維不織布シートを8枚積層し、240g/m2の炭素繊維強化樹脂成形体基材を形成した。この炭素繊維強化樹脂成形体の基材に、エポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製、商品名“XNR/6809”)をVaRTM法で含浸させ、素繊維強化樹脂成形体の母板を成形した。この母板からASTM D3039(2017)を参考にして縦240mm、横25mm、厚さ1.1mm、密度1.2g/cm3の試験片を切り出した。その物性は表1にまとめて示す。
【0043】
【0044】
表1から明らかなとおり、本発明の炭素繊維不織布プリプレグは、繊維配向方向の引張強度が高く、連続炭素繊維一方向プリプレグと同様な成形品を得ることができた。この炭素繊維不織布プリプレグを使用した成形体の引張強度はアルミ合金A2024(超ジュラルミン)に匹敵するレベルであった。
本発明の炭素繊維は、資源の有効活用からリサイクルされた炭素繊維であるのが好ましいが、新規の炭素繊維を切断したもの、CFRPの製造の際の炭素繊維シートの切断などにより端材として発生したものなど、どのようなものでも使用できる。とくに今後は航空機や自動車などの廃材として廃CFRPが大量に発生することが予想され、廃CFRPから取り出される炭素繊維は絡まり合った状態であるから、このような絡まり合った炭素繊維の開繊性及び配向性を高くすることができる本発明の適用分野は広い。また用途としては、自動車、スポーツ用品、介護用品、導電性電気・電子部品、電磁波シールド材などに有用である。