(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149957
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ボールねじ装置の温度管理システム
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20231005BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058794
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大輔
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062BA16
3J062BA33
3J062CD06
3J062CD22
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】ボールねじ装置の長寿命化を図れるボールねじ装置の温度管理システムを提供する。
【解決手段】ボールねじ装置の温度管理システムは、ボールねじ装置と加熱装置とナット温度測定装置とねじ軸温度測定装置を備える。ナットは、ナット本体と取付部と複数の循環部品を有する。ねじ軸とナットとの間の軌道は、複数のボール回路に分割される。ナット本体は、ボール回路ごとに分割された複数の筒部を有する。ナット温度測定装置は、筒部の温度を測定する少なくとも1つ以上の筒部測定部を有する。ねじ軸温度測定装置は、筒部測定部が取り付けられた筒部に対し、径方向内側に配置されたねじ軸の一部の温度を測定する少なくとも1つ以上のねじ軸測定部を有する。加熱装置は、筒部測定部が取り付けられた筒部の外周面に取り付けられ、筒部を加熱する少なくとも1つ以上の筒部加熱部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸、ナット、及び複数のボールを有するボールねじ装置と、
ナットを加熱する加熱装置と、
ナットの温度を測定するナット温度測定装置と、
ねじ軸の温度を測定するねじ軸温度測定装置と、
を備え、
前記ナットは、
ナット本体と、
取付部と、
前記ボールを循環させる複数の循環部品と、
を有し、
前記ねじ軸と前記ナットとの間の軌道は、複数のボール回路に分割され、
前記ナット本体は、前記ボール回路ごとに分割された複数の筒部を有し、
前記ナット温度測定装置は、前記筒部に取り付けられ、前記筒部の温度を測定する少なくとも1つ以上の筒部測定部を有し、
前記ねじ軸温度測定装置は、前記筒部測定部が取り付けられた前記筒部に対し、径方向内側に配置された前記ねじ軸の一部の温度を測定する、少なくとも1つ以上のねじ軸測定部を有し、
前記加熱装置は、前記筒部測定部が取り付けられた前記筒部の外周面に取り付けられ、前記筒部を加熱する、少なくとも1つ以上の筒部加熱部を有している
ボールねじ装置の温度管理システム。
【請求項2】
前記複数の筒部は、前記複数の筒部のうち前記取付部に最も近い第1筒部を有し、
少なくとも前記第1筒部には、前記筒部測定部と前記ねじ軸測定部と前記筒部加熱部が取り付けられている
請求項1に記載のボールねじ装置の温度管理システム。
【請求項3】
前記複数の筒部の全てに前記筒部測定部と前記ねじ軸測定部と前記筒部加熱部が取り付けられている
請求項1に記載のボールねじ装置の温度管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置の温度管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、を備える。ボールねじ装置は、射出成形機やプレス機などに用いられる場合、回転運動を直線運動に変換している。また、ナットは、筒状のナット本体と、ナット本体の端部に設けられた取付部と、を有する。ナット本体は、内周面に内周軌道面が設けられている。取付部は、ボルト等によって、ハウジング等に締結される部位である。
【0003】
ボールねじ装置の駆動時、ナット本体が発熱する。ナット本体の一端部に取付部が設けられている場合、ナット本体の一端部から取付部に伝熱し、さらに取付部からハウジング等に伝熱する。つまり、ナット本体の一端部の熱膨張量は、他端部よりも少なくなる。この結果、ナット本体の一端部側のボール回路を転動するボールに荷重が集中し、ボールねじ装置の寿命が短くなる。これを回避すべく、特許文献1のボールねじ装置は、取付部に凹部を設けている。つまり、ハウジング等の部品との接触面積を減らし、ハウジング等への伝熱量を小さく抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボールねじ装置の駆動時、ねじ軸も発熱する。ナットが軸方向に移動することから、発熱する部位が軸方向に分散する。よって、一般的に、ナット本体の温度はねじ軸よりも高い。しかしながら、上記したように、取付部等への伝熱があると、ねじ軸の温度がナット本体よりも高くなる。この結果、ねじ軸の熱膨張量がナット本体よりも大きくなり、ねじ軸とナット本体の間の隙間が小さくなる。そして、隙間が小さくなっているボール回路を転動するボールに荷重が集中し、ボールねじ装置の寿命が短くなる。よって、ねじ軸とナットの温度差を小さくし、ボールねじ装置の長寿命化を図れるボールねじ装置の温度管理システムの開発が望まれている。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、ボールねじ装置の長寿命化を図れるボールねじ装置の温度管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置の温度管理システムは、ねじ軸、ナット、及び複数のボールを有するボールねじ装置と、ナットを加熱する加熱装置と、ナットの温度を測定するナット温度測定装置と、ねじ軸の温度を測定するねじ軸温度測定装置と、を備える。前記ナットは、ナット本体と、取付部と、前記ボールを循環させる複数の循環部品と、を有する。前記ねじ軸と前記ナットとの間の軌道は、複数のボール回路に分割されている。前記ナット本体は、前記ボール回路ごとに分割された複数の筒部を有している。前記ナット温度測定装置は、前記筒部に取り付けられ、前記筒部の温度を測定する少なくとも1つ以上の筒部測定部を有している。前記ねじ軸温度測定装置は、前記筒部測定部が取り付けられた前記筒部に対し、径方向内側に配置された前記ねじ軸の一部の温度を測定する、少なくとも1つ以上のねじ軸測定部を有している。前記加熱装置は、前記筒部測定部が取り付けられた前記筒部の外周面に取り付けられ、前記筒部を加熱する少なくとも1つ以上の筒部加熱部を有している。
【0008】
前記構成によれば、筒部測定部とねじ軸測定部によって、径方向に対向する筒部とねじ軸の一部の温度を対比することができる。つまり、筒部の温度がねじ軸よりもが低くなっているか否かを把握することができる。また、筒部の温度が低い場合、筒部加熱部で筒部を加熱できる。これにより、筒部とねじ軸の一部の温度差が小さくなり、筒部とねじ軸の一部との隙間が大きくなる。よって、加熱された筒部のボール回路への荷重集中が回避され、ボールねじ装置が長寿命となる。また、ねじ軸温度測定装置(ねじ軸測定部)を有しているため、筒部を加熱する目標温度を把握できる。言い換えると、ねじ軸温度測定装置を有していない場合、筒部を必要以上に加熱し、消費電力が増加しまう可能性がある。よって、本開示によれば、消費電力の増加を回避できる。
【0009】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記複数の筒部は、前記複数の筒部のうち前記取付部に最も近い第1筒部を有している。少なくとも前記第1筒部には、前記筒部測定部と前記ねじ軸測定部と前記筒部加熱部が取り付けられている。
【0010】
前記構成によれば、最も温度が低くなりやすい第1筒部の温度を管理することができる。
【0011】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記複数の筒部の全てに前記筒部測定部と前記ねじ軸測定部と前記筒部加熱部が取り付けられている。
【0012】
前記構成によれば、全ての筒部の温度を管理できる。つまり、全ての筒部とねじ軸との隙間を大きくできる。よって、荷重が集中するボール回路をなくし、ボールねじ装置の寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示のボールねじ装置の温度管理システムによれば、ボールねじ装置の寿命が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係るボールねじ装置の温度管理システムを示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の矢印II方向から視たボールねじ装置の温度管理システムの全体図である。
【
図4】
図4は、ボールねじ装置の駆動時においてボール回路の理想の負荷分布を示す図である。
【
図5】
図5は、ボールねじ装置の駆動時において測定温度の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、温度測定時(加熱前)においてボール回路の負荷分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
図1は、実施形態に係るボールねじ装置の温度管理システムを示す図である。
図2は、
図1の矢印II方向から視たボールねじ装置の温度管理システムの全体図である。
図3は、
図3のIII-III線矢視断面図である。
図4は、ボールねじ装置の駆動時においてボール回路の理想の負荷分布を示す図である。
図5は、ボールねじ装置の駆動時において測定された温度の一例を示す図である。
図6は、温度測定時(加熱前)においてボール回路の負荷分布の一例を示す図である。
【0017】
最初に、実施形態のボールねじ装置40について説明する。
図1に示すように、ボールねじ装置40は、ねじ軸1と、ナット2と、複数のボール3と、を備える。ねじ軸1は、軸心Oを中心とする棒状部品である。以下、軸心Oと平行な方向を軸方向と称する。ねじ軸1は、ねじ軸本体10と、第1取付部11と、を備える。ねじ軸本体10の外周面には、外周軌道面12が設けられている。外周軌道面12の溝形状は、ゴシックアークである。なお、本開示において、外周軌道面12はサーキュラーアークであってもよい。第1取付部11は、ねじ軸本体10の端部から軸方向に延びている。第1取付部11は、図示しない固定台などに回転自在に、かつ軸方向に移動不能に支持される。
【0018】
ナット2は、ナット本体20と、第2取付部21と、を備える。ナット本体20の内周面には、内周軌道面22が設けられている。内周軌道面22の溝形状は、ゴシックアークである。なお、本開示において、内周軌道面22はサーキュラーアークであってもよい。外周軌道面12と内周軌道面22との間は、螺旋状の軌道4となっている。
【0019】
第2取付部21は、ナット本体20の外周面から径方向外側に突出したフランジである。第2取付部21には、軸方向に移動させる移動対象物41が取り付けられる。第2取付部21は、ナット本体20の軸方向の端部に位置している。以下、軸方向のうち、ナット本体20の軸方向の中央部から視て第2取付部21が配置されている方を第1方向X1と称し、第1方向X1と反対方向を第2方向X2と称する。また、ねじ軸1の第1取付部11は、ねじ軸本体10に対し、第2方向X2に配置されている。
【0020】
ナット2は、複数の循環部品23を備える。循環部品23は、チューブである。なお、本開示においては、循環部品はコマであってもよい。本実施形態においては、軌道4における3.5巻き分を一つのボール回路30としている。つまり、軌道4は、5つの循環部品23に対応して分割された5つのボール回路30を有している。
【0021】
以下、5つのボール回路30について、第1方向X1から順に、第1ボール回路30A、第2ボール回路30B、第3ボール回路30C、第4ボール回路30D、第5ボール回路30Eと称する。また、ナット本体20について、各ボール回路30に対応して軸方向に分割した部分を筒部24と称する。言い換えると、ナット本体20は5つの筒部24を有している。以下、5つの筒部24について、第1方向X1から順に、第1筒部24A、第2筒部24B、第3筒部24C、第4筒部24D、第5筒部24Eと称する。
【0022】
ボール3は、鋼球である。各ボール3は、軌道4の各ボール回路30に配置されている。以下、第1ボール回路30Aを転動するボール3を第1ボール、第2ボール回路30Bを転動するボール3を第2ボール、第3ボール回路30Cを転動するボール3を第3ボール、第4ボール回路30Dを転動する第4ボール、第5ボール回路30Eを転動するボール3を第5ボール3Eと称する。
【0023】
次に、温度管理システム100について説明する。
図2に示すように、ボールねじ装置40の温度管理システム100は、ボールねじ装置40と、ナット温度測定装置50と、ねじ軸温度測定装置60と、加熱装置70と、制御部80と、を備えている。
【0024】
ナット温度測定装置50は、各筒部24の温度を測定する装置である。ナット温度測定装置50は、筒部24の数に対応し、5つの筒部測定部51を備えている。筒部測定部51は、例えば熱電対が挙げられる。
図3に示すように、筒部測定部51をナット2に取り付けるため、各筒部24の外周面に、径方向内側に窪む凹部25が設けられている。そして、筒部測定部51は、凹部25内で筒部24の温度を測定し、その温度を制御部80に送信している。なお、
図3では、図の複雑化を回避するため、外周軌道面12と内周軌道面22を省略している。
【0025】
ねじ軸温度測定装置60は、ねじ軸1の温度を測定する装置である。ねじ軸温度測定装置60は、筒部24の数に対応し、5つのねじ軸測定部61を備えている。ねじ軸測定部61は、例えばサーモグラフィカメラであり、非接触で物体の表面温度を検出できるものが挙げられる。
図3に示すように、ねじ軸測定部61をナット2に取り付けるため、各筒部24の外周面に、径方向に貫通する貫通孔26が設けられている。なお、各ボール回路30は、3.5巻き分となっている。よって、貫通孔26の内側開口部26aは、軌道4のうちボール3が転動しない0.5巻分のと重なるように設けられている。
【0026】
ねじ軸測定部61は、貫通孔26内に固定されている。ねじ軸測定部61は、ねじ軸1の軸方向のうち、内側開口部26aに対して径方向内側に配置された部分の温度を測定する。そして、ねじ軸測定部61は、測定温度を制御部80に送信している。貫通孔26の内側開口部26aは、グリースの流出を抑制するため、例えばガラス27によって封止されている。サーモグラフィカメラであれば、ガラス27を透過し、ねじ軸1の温度を測定できる。
【0027】
加熱装置70は、ナット2を加熱する装置である。
図1、
図2に示すように、加熱装置70は、筒部24の数に対応し、5つの筒部加熱部71を備えている。筒部加熱部71は、例えばシート状の電熱ヒータであり、電気エネルギーを熱エネルギーに変換して加温している。筒部加熱部71は、各筒部24の外周面に取り付けられている。よって、筒部24ごとに加熱することができる。筒部加熱部71による加熱温度は、制御部80によってコントロールされている。筒部加熱部71は、筒部24の周方向の全てを被覆していない。そして、筒部加熱部72の周方向の一端と他端の間から、循環部品23が露出している。よって、循環部品23は、筒部加熱部71によって直接加熱されないようになっている。なお、樹脂製の循環部品23が加熱されると循環部品23が変形するおそれがある。よって、本実施形態によれば、樹脂製の循環部品23を利用することができ、循環部品23の材料の選択の幅が縮まらないようになっている。
【0028】
制御部80は、各筒部加熱部71の加熱温度をコントロールして、各筒部24の温度を調整する装置である。具体的に、制御部80は、各筒部測定部51の測定結果と、各ねじ軸測定部61と、を対比する。次に、制御部80は、ねじ軸1よりも温度が低い筒部24を特定する。次に、制御部80は、特定した筒部24の温度が所望の温度となるように、筒部加熱部71を可動し、筒部24を加熱する。ここで、所望の温度とは、ねじ軸本体10のうち筒部24と対向する部分の温度と同一、又はその温度以上をいう。
【0029】
次に、
図4を参照しながら、ボールねじ装置40の駆動時におけるボール3の負荷分布の理想状態について説明する。なお、理想状態とは、特定のボール回路30に荷重が集中しておらず、ボールねじ装置40の長寿命化を図れる場合である。また、下記で説明する理想状態は一例である。
【0030】
図4に示すプロットは、各ボール3の軸方向の位置と、そのボール3に作用する荷重の関係を示す。
図4に示すプロットは、グラフの横軸方向に5つに分断している。つまり、第1方向X1から、第1ボール回路30Aの第1ボールのプロット、第2ボール回路30Bの第2ボールのプロット、第3ボール回路30Cの第3ボールのプロット、第4ボール回路30Dの第4ボールのプロット、第5ボール回路30Eの第5ボールのプロット、に分断されている。
【0031】
ボール回路30単位でプロットを見ると、各ボール回路30の負荷分布は、折れ線グラフ(波形状)となっている。つまり、ボール3が軸方向に変位すると、ボール3に作用する荷重が周期的に増減している。これは、ボールねじ装置40にラジアル方向の荷重が作用し、ボールねじ装置40が撓む。このため、ボール3が位置する周方向の場所によって、ボール3に作用する荷重が増減している。また、折れ線グラフにおいて、波形の一周期は、ボール3が周方向に一周したことを示している。各ボール回路30は3.5巻きであるため、
図5の増減の周期も3.5となっている。
【0032】
また、ボール回路30のそれぞれの負荷分布を比較すると、第3ボール回路30Cの負荷が最も小さく、軸方向にずれると次第に負荷が増加し、第1ボール回路30A及び第5ボール回路30Eの負荷が最も大きくなっている。これは、ボールねじ装置40に対し、アキシャル方向の荷重が作用し、ボールねじ装置40が軸方向に伸縮するからである。
【0033】
詳細に説明すると、ボールねじ装置40の駆動時、第1取付部11に荷重が入力され、ねじ軸本体10に軸方向の応力が作用する。特に、ねじ軸本体10のうち第1取付部11に近い部分に大きな応力が作用する。よって、ねじ軸本体10のうち第5筒部24Eに対向する部分の外周軌道面が軸方向に変位する。この結果、第5ボール回路30Eの負荷が大きくなる。なお、同様の理由から、第4ボール回路30Dの負荷も大きくなっている。ただし、第4ボール回路30Dの負荷の増加量は、第5ボール回路30Eよりも少ない。
【0034】
他方、ボールねじ装置40の駆動時、第2取付部21にも荷重が入力され、ナット本体20に軸方向の応力が作用する。特に、ナット本体20のうち第2取付部21に近い部分に大きな応力が作用する。よって、第1筒部24Aの内周軌道面22が軸方向に変位する。この結果、第1ボール回路30Aの負荷が大きくなる。同様の理由から、第2ボール回路30Bの負荷も大きくなる。ただし、第2ボール回路30Bの負荷の増加量は、第1ボール回路30Aよりも少ない。
【0035】
以上から、ボールねじ装置40の長寿命化を図るためのボール回路30の負荷分布は、軸方向の中央部に位置の第3ボール回路30Cを基準にして、左右対称となるグラフとなっている。
【0036】
次に、ボールねじ装置40の温度管理システム100が動作した場合の一例を説明する。ボールねじ装置40が駆動すると、ボール3との摩擦やグリースが温度上昇する。よって、ねじ軸本体10及びナット本体20が発熱する。ただし、ねじ軸1は軸方向に移動するため、ねじ軸本体10で発熱する部位は軸方向に分散する。よって、ねじ軸本体10の温度は、ナット本体20よりも低い。
【0037】
また、ナット本体20から第2取付部21への伝熱が発生する。よって、
図5に示すように、第1筒部24Aと第2筒部24Bの温度は、ねじ軸本体10の一部であって第1筒部24A及び第2筒部24Bに対し径方向に対向する部分よりも低くなる。なお、このような温度分布時の場合、各ボール回路30の負荷分布は、
図6に示すように、第1ボール回路30Aと第2ボール回路30Bの負荷が増加する。そして、相対的に、第3ボール回路30Cと第4ボール回路30Dと第5ボール回路30Eの負荷が低減する。つまり、第1ボール回路30Aの第1ボールと第2ボール回路30Bの第2ボールとに荷重が集中し、第1ボールと第2ボールが早期に摩耗してしまう状況になっている。
【0038】
本実施形態においては、制御部80は、各筒部測定部51の測定温度と各ねじ軸測定部61の測定温度を比較し、ねじ軸本体10よりも温度が低い筒部24を特定している。よって、
図5に示す温度状況の場合、制御部80は、第1筒部24Aと第2筒部24Bとに取り付けられた筒部加熱部71を可動させる。これにより、第1筒部24Aと第2筒部24Bは、筒部加熱部71に加熱され、温度が上昇する。
【0039】
また、制御部80は、加熱後の第1筒部24A及び第2筒部24Bが、ねじ軸本体10のうち対向する部分の温度と同じとなるように、又は対向する部分の温度以上となるように調整する。この結果、第1筒部24Aと第2筒部24Bの温度は、ねじ軸本体10のうち対向する部分の温度と同じ、又はそれ以上の温度となる。
【0040】
よって、第1筒部24Aと第2筒部24Bの熱膨張量は、ねじ軸本体10のうち対向する部分の熱膨張量と同一又はそれ以上となる。このため、第1筒部24Aと第2筒部24Bと、ねじ軸本体10のうち対向する部分と、の隙間が拡張する。このため、第1ボール回路30Aと第2ボール回路30Bの負荷が軽減され、一方で、第3ボール回路30Cと第4ボール回路30Dと第5ボール回路30Eの負荷が増加し、
図4に示すような、左右対称な負荷分布となる。以上から、特定のボール回路30に荷重が集中する、ということが回避される。
【0041】
以上、実施形態のボールねじ装置40の温度管理システム100は、ねじ軸1、ナット2、及び複数のボール3を有するボールねじ装置40と、ナット2を加熱する加熱装置70と、ナット2の温度を測定するナット温度測定装置50と、ねじ軸1の温度を測定するねじ軸温度測定装置60と、を備えている。ナット2は、ナット本体20と、ナット本体20の一端部に設けられた取付部(第2取付部21)と、ボール3を循環させる複数の循環部品23と、を有している。ねじ軸1とナット2との間の軌道4は、複数のボール回路30に分割されている。ナット本体20は、ボール回路30ごとに分割された複数の筒部を24有している。ナット温度測定装置50は、筒部24に取り付けられ、筒部24の温度を測定する少なくとも1つ以上の筒部測定部51を有している。ねじ軸温度測定装置60は、筒部測定部51が取り付けられた筒部24に対し、径方向内側に配置されたねじ軸1の一部の温度を測定する、少なくとも1つ以上のねじ軸測定部61を有している。加熱装置70は、筒部測定部51が取り付けられた筒部24の外周面に取り付けられ、筒部24を加熱する少なくとも1つ以上の筒部加熱部71を有している。また、複数の筒部24の全てに筒部測定部51とねじ軸測定部61と筒部加熱部71が取り付けられている。
【0042】
実施形態によれば、複数のボール回路30のうち一部のボール回路30への荷重集中が回避される。よって、ボールねじ装置が長寿命となる。また、ねじ軸測定部61により筒部24を加熱する目標温度を把握できる。よって、筒部24を必要以上に加熱する、ということが回避され、消費電力の増加を抑制できる。
【0043】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、実施形態で説明した例に限定されない。例えば、実施形態において、5つの筒部24の全てに筒部測定部51とねじ軸測定部61と筒部加熱部71が設けられているが、5つの筒部24うち1つの筒部24にのみ、筒部測定部51とねじ軸測定部61と筒部加熱部71が設けられていてもよい。複数の筒部24に対して軸方向に一つおきに筒部測定部51等を設けてもよい。若しくは、実験等によりねじ軸1よりも温度が低くなり易い筒部24を特定し、その筒部24にのみ筒部測定部51等を設けてもよい。
【0044】
また、複数の筒部24があり、そのうち1つの筒部24にのみ筒部測定部51等を設けるとした場合、第1筒部24Aに筒部測定部51等を設けることが望ましい。
図5に示すように、第1筒部24Aは、第2取付部21に近く、伝熱により冷却し易いから(荷重の集中が発生し易いから)である。
【0045】
また、筒部測定部51とねじ軸測定部61と筒部加熱部71の配置に関しても、本開示は特に限定はない。また、筒部測定部51とねじ軸測定部61と筒部加熱部71に利用される機器、装置についても特に限定はない。
【0046】
また、実施形態の第2取付部21は、ナット本体20の軸方向の端部に位置しているが、ナット本体20の軸方向の中央部に設けられていてもよく、特に限定はない。また、本開示は、制御部80を備えていなくてもよい。つまり、作業者が筒部測定部51とねじ軸測定部61の測定結果を認識して筒部加熱部71を可動するようにしてもよい。
【0047】
なお、ナット本体20の外径Dとナット本体の軸方向の長さLとの比が、L/D≧3.3を満たすような場合、ボール回路30ごとの温度差が発生し易い。よって、本開示の温度管理システムは、L/D≧3.3を満たすボールねじ装置40に適用することが効果できである。
【符号の説明】
【0048】
1 ねじ軸
2 ナット
3 ボール
4 軌道
10 ねじ軸本体
11 第1取付部
12 外周軌道面
20 ナット本体
21 第2取付部
22 内周軌道面
23 循環部品
24 筒部
30 ボール回路
40 ボールねじ装置
50 ナット温度測定装置
51 筒部測定部
60 ねじ軸温度測定装置
61 ねじ軸測定部
70 加熱装置
71 筒部加熱部
80 制御部
100 温度管理システム