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特開2023-149991ポリオレフィン系樹脂成形材料及び非炭酸飲料用PETボトルキャップ
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  • 特開-ポリオレフィン系樹脂成形材料及び非炭酸飲料用PETボトルキャップ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149991
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂成形材料及び非炭酸飲料用PETボトルキャップ
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20231005BHJP
   C08F 210/08 20060101ALI20231005BHJP
   C08F 4/655 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L23/04
C08F210/08
C08F4/655
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058847
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J002BB02Y
4J002BB03W
4J002BB05X
4J002GG00
4J100AA02P
4J100AA04Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA15
4J100DA42
4J100DA43
4J100DA49
4J100DA52
4J100FA09
4J100FA19
4J100FA34
4J100JA58
4J128AA01
4J128AB01
4J128AC06
4J128BA01A
4J128BA01B
4J128BB01A
4J128BB01B
4J128BC15B
4J128BC19A
4J128CB35A
4J128EA02
4J128EB02
4J128EB05
4J128EC02
4J128ED01
4J128ED08
4J128EF01
4J128EF03
4J128FA02
4J128FA09
4J128GA05
4J128GA07
4J128GA08
4J128GA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】市場で回収されたPETボトルキャップをマテリアルリサイクルの手法で均質化することにより再生させたポリオレフィン系樹脂の耐久性を改質したポリオレフィン系樹脂成形材料、及び、それを用いて成形された非炭酸飲料用PETボトルキャップを提供する。
【解決手段】PETボトルの樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂、及び、特定のポリエチレン系樹脂からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系再生樹脂と前記改質材の合計量に対し1~99質量%であるポリオレフィン系樹脂成形材料、並びに、当該ポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる非炭酸飲料用PETボトルキャップ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記ポリエチレン系樹脂からなる改質材を含み、
当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%であるポリオレフィン系樹脂成形材料。
[ポリエチレン系樹脂からなる改質材]
エチレン系重合体として下記の成分(A)を20質量%以上40質量%以下、及び、成分(B)を60質量%以上80質量%以下含有し、下記の特性(1)~(4)を満たすポリエチレン系樹脂からなる改質材。
成分(A):HLMFRが0.05~5.0g/10分、密度が0.910~0.935g/cmであり、かつ13C-NMRスペクトルの測定値から式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値(CSD)が0.0~3.0のエチレン系重合体
CSD=4×[EE][CC]/[EC] 式(a)
(式(a)中、[EE]はエチレン・エチレン連鎖数、[CC]はコモノマー・コモノマー連鎖数、[EC]はエチレン・コモノマー連鎖数を表す。)
成分(B):MFRが100g/10分以上600g/10分未満、密度が0.960g/cm以上0.980g/cm未満のエチレン系重合体
特性(1):温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.2g/10分以上3.0g/10分以下で、温度190℃・荷重21.6Kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が70g/10分以上180g/10分未満であり、且つHLMFR/MFRが50~500である
特性(2):密度が0.955g/cm以上0.970g/cm以下である
特性(3):フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)が100時間以上である
特性(4):シャルピー衝撃強度が9.0KJ/m以上である
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂成形材料の曲げ弾性率が900MPa以上である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂成形材料の環境応力き裂抵抗(ESCR)が45時間以上である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項4】
前記ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、さらに下記の特性(5)~(6)を満たす、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
特性(5):曲げ弾性率が900~1500MPaである
特性(6):190℃、せん断速度400sec-1での溶融時粘度が200~1000Pa・sである
【請求項5】
前記エチレン系重合体の成分(A)及び成分(B)の少なくとも一方が、重合触媒の存在下、少なくとも二基の重合反応器を組み合わせた多段重合により、少なくとも前記二基のうちの一方の重合反応器でエチレン単独重合体が重合され、少なくとも前記二基のうちの他の重合反応器でエチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとのエチレン共重合体が重合されることにより得られたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項6】
前記エチレン系重合体の重合触媒は、一般式Mg(OR 2-m(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは1又は2である)で表される化合物及び一般式Ti(OR 4-n(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは1、2又は3である)で表される化合物を含む均一な炭化水素溶液を、一般式AlR 3-l(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、lは1≦l≦2の数を示す)で表される有機ハロゲン化アルミニウム化合物で処理して得られる炭化水素不溶性固体触媒と有機アルミニウム化合物とを含む触媒であることを特徴とする請求項5に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項7】
非炭酸飲料用PETボトルキャップを成形するために用いられる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項8】
非炭酸飲料用PETボトルキャップを連続圧縮成形するために用いられる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる非炭酸飲料用PETボトルキャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂成形材料に関し、より詳しくは、清涼飲料などの液体、特に非炭酸飲料の液体を収容する容器の蓋に適したポリオレフィン系樹脂成形材料に関し、PETボトルキャップの市場回収品をマテリアルリサイクルの手法で均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂を改質することによって得られるリサイクルされたポリオレフィン系樹脂成形材料、及び、当該ポリオレフィン系樹脂成形材料を用いて成形してなる非炭酸飲料用PETボトルキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器、特にPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルは、優れた機械的強度や透明性或いは高いガス遮蔽性や無公害性などにより、飲食品用の容器として認可されてから、清涼飲料などの容器として需要が非常に高くなっている。特に、小型のPETボトルが携帯用の飲料用小型容器として消費者に重用されており、また、PETボトルの耐熱性と耐圧性が改良され、冬季用の携帯高温飲料や長期保存用の高温殺菌処理飲料の容器としても汎用されている。
【0003】
また、炭酸飲料などの清涼飲料用のPET製の容器においては、従来では、その容器蓋にアルミニウムなど金属製のものが用いられていたが、経済性などからポリオレフィン製のものが多用されるようになっている。清涼飲料用などの容器では、密封性や開栓性及び飲食品安全性や耐久性が必須の要求性能であるが、蓋部材でも、これらの性能だけでなく、成形性及び剛性や耐熱性などの各種の物性の観点から、ポリエチレン系樹脂製の蓋部材で技術的な改良検討が継続されており、非常に多数の改良が提案されている。
【0004】
炭酸飲料用PETボトルキャップに適したポリエチレン系樹脂成形材料に関しては、高速成形性、高流動性、剛性、耐衝撃性、耐ストレスクラック性、滑り性、低臭気性、食品安全性、開栓性、閉栓性などにおしなべて優れ、且つ高温時においても長期耐久性が良好であり、とりわけシャルピー衝撃強度が改良された容器蓋に好適であるポリエチレン系樹脂成形材料が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-151181号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリエチレン系樹脂製のPETボトルキャップが普及し多用されるようになった一方で、近年、プラスチックゴミの問題や、カーボンニュートラルの観点など、樹脂製品については環境、リサイクルの観点が重視されるようになっており、PETボトルキャップについてもワンウェイで使い捨てるのではなく、リサイクルによってプラスチック資源として活用することが強く求められるようになっている。
【0007】
PETボトルキャップについては、分別回収が行われるなどリサイクルの取り組みが広く行われており、資源の有効活用が図られている。しかしながら、市場で回収されたPETボトルキャップは性能の高い物から低いものまで、雑多な物性性能を有する製品の集まりであることから、性能面、特に耐久性(耐ストレスクラック性)の観点で問題があり、そのままPETボトルキャップとしてリサイクル使用することは困難である。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の状況に鑑み、市場で回収されたPETボトルキャップをマテリアルリサイクルの手法で均質化することにより素材樹脂として再生させたポリオレフィン系樹脂の耐久性(耐ストレスクラック性)を通常の非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品として使用可能なレベルまで改質した、リサイクルされたポリオレフィン系樹脂成形材料、及び、改質したポリオレフィン系樹脂成形材料を用いて成形された非炭酸飲料用PETボトルキャップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明者らが検討を重ねた結果、前記特許文献1に記載されている、炭酸飲料用PETボトルキャップに適したポリエチレン系樹脂成形材料を、市場で回収されたPETボトルキャップを粉砕、均質化することにより再生させたポリオレフィン系樹脂に対して改質材として添加することにより、改質時にポリオレフィン系樹脂の剛性を損なうことなく、市場で回収されたPETボトルキャップから再生させたポリオレフィン系樹脂の耐久性(耐ストレスクラック性)を、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品として使用可能なレベルまで向上させられることを見出した。
【0010】
本発明の第1の発明は、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記ポリエチレン系樹脂からなる改質材を含み、
当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%であるポリオレフィン系樹脂成形材料である。
[ポリエチレン系樹脂からなる改質材]
エチレン系重合体として下記の成分(A)を20質量%以上40質量%以下、及び、成分(B)を60質量%以上80質量%以下含有し、下記の特性(1)~(4)を満たすポリエチレン系樹脂からなる改質材。
成分(A):HLMFRが0.05~5.0g/10分、密度が0.910~0.935g/cmであり、かつ13C-NMRスペクトルの測定値から式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値(CSD)が0.0~3.0のエチレン系重合体
CSD=4×[EE][CC]/[EC] 式(a)
(式(a)中、[EE]はエチレン・エチレン連鎖数、[CC]はコモノマー・コモノマー連鎖数、[EC]はエチレン・コモノマー連鎖数を表す。)
成分(B):MFRが100g/10分以上600g/10分未満、密度が0.960g/cm以上0.980g/cm未満のエチレン系重合体
特性(1):温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.2g/10分以上3.0g/10分以下で、温度190℃・荷重21.6Kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が70g/10分以上180g/10分未満であり、且つHLMFR/MFRが50~500である
特性(2):密度が0.955g/cm以上0.970g/cm以下である
特性(3):フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)が100時間以上である
特性(4):シャルピー衝撃強度が9.0KJ/m以上である
【0011】
本発明の第2の発明は、前記第1の発明において、前記ポリオレフィン系樹脂成形材料の曲げ弾性率が900MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記ポリオレフィン系樹脂成形材料の環境応力き裂抵抗(ESCR)が45時間以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の発明は、前記第1乃至第3の発明において、前記ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、さらに下記の特性(5)~(6)を満たすことを特徴とする。
特性(5):曲げ弾性率が900~1500MPaである
特性(6):190℃、せん断速度400sec-1での溶融時粘度が200~1000Pa・sである
【0014】
本発明の第5の発明は、前記第1乃至第4の発明において、前記エチレン系重合体の成分(A)及び成分(B)の少なくとも一方が、重合触媒の存在下、少なくとも二基の重合反応器を組み合わせた多段重合により、少なくとも前記二基のうちの一方の重合反応器でエチレン単独重合体が重合され、少なくとも前記二基のうちの他の重合反応器でエチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとのエチレン共重合体が重合されることにより得られたものであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第6の発明は、前記第5の発明において、前記エチレン系重合体の重合触媒は、一般式Mg(OR 2-m(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは1又は2である)で表される化合物及び一般式Ti(OR 4-n(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは1、2又は3である)で表される化合物を含む均一な炭化水素溶液を、一般式AlR 3-l(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、lは1≦l≦2の数を示す)で表される有機ハロゲン化アルミニウム化合物で処理して得られる炭化水素不溶性固体触媒と有機アルミニウム化合物とを含む触媒であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第7の発明は、前記第1乃至第6の発明において、前記ポリオレフィン系樹脂成形材料は、非炭酸飲料用PETボトルキャップを成形するために用いられることを特徴とする。
【0017】
本発明の第8の発明は、前記第1乃至第6の発明において、前記ポリオレフィン系樹脂成形材料は、非炭酸飲料用PETボトルキャップを連続圧縮成形するために用いられることを特徴とする。
【0018】
本発明の第9の発明は、前記第1乃至第6の発明であるポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる非炭酸飲料用PETボトルキャップである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、使用済みのPETボトルキャップを均質化したポリオレフィン系回収樹脂に、剛性及び耐久性(耐ストレスクラック性)に優れるポリエチレン系樹脂を添加することにより改質するので、PETボトルキャップに求められる物性値を大きく変えることなく、特に剛性を損なわずに、ポリオレフィン系回収樹脂の耐久性(耐ストレスクラック性)を通常の非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に求められるレベルにまで向上させることができる。
したがって、市場で回収されたPETボトルキャップを均質化しただけのポリオレフィン系回収樹脂よりも物性バランスに優れたポリオレフィン系樹脂成形材料とすることができ、特に好適には、市場で回収されたPETボトルキャップから新しいPETボトルキャップへのマテリアルリサイクルを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明で用いられる改質材の成分(A)のCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)とSCB(主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1~20の短鎖分岐数)の好ましい関係を示す式(b)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の特徴を具体的に詳しく記述する。なお、本発明において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記ポリエチレン系樹脂からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%であることを特徴とする樹脂組成物である。
[ポリエチレン系樹脂からなる改質材]
エチレン系重合体として下記の成分(A)を20質量%以上40質量%以下、及び、成分(B)を60質量%以上80質量%以下含有し、下記の特性(1)~(4)を満たすポリエチレン系樹脂からなる改質材。
成分(A):HLMFRが0.05~5.0g/10分、密度が0.910~0.935g/cmであり、かつ13C-NMRスペクトルの測定値から式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値(CSD)が0.0~3.0のエチレン系重合体
CSD=4×[EE][CC]/[EC] 式(a)
(式(a)中、[EE]はエチレン・エチレン連鎖数、[CC]はコモノマー・コモノマー連鎖数、[EC]はエチレン・コモノマー連鎖数を表す。)
成分(B):MFRが100g/10分以上600g/10分未満、密度が0.960g/cm以上0.980g/cm未満のエチレン系重合体
特性(1):温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.2g/10分以上3.0g/10分以下で、温度190℃・荷重21.6Kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が70g/10分以上180g/10分未満であり、且つHLMFR/MFRが50~500である
特性(2):密度が0.955g/cm以上0.970g/cm以下である
特性(3):フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)が100時間以上である
特性(4):シャルピー衝撃強度が9.0KJ/m以上である
【0022】
1.PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品
本発明においてPETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品とは、使用済みPETボトルから分別回収されたポリオレフィン系樹脂製キャップである。PETボトル用樹脂製キャップは、世界的にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の成形品であり、特にポリエチレン製キャップが広く用いられている。ポリオレフィン系樹脂製キャップは公知の方法により分別回収することができ、例えば、キャップを形成している樹脂の比重差によって、ポリオレフィン系樹脂製キャップのみ分別、さらに必要であればポリエチレン系樹脂製キャップのみ分別することができる。PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップのなかでも、ポリエチレン製キャップに限定し分別した市場回収品を用いることが、本発明において得られるポリオレフィン系樹脂成形材料の品質を向上させる観点から好ましい。
本発明においてポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂とは、個々の品質が異なる様々なポリオレフィン系樹脂製キャップから構成される市場回収品が粉砕やペレット化などのマテリアルリサイクルに属する手法により素材樹脂の状態に戻されることによって、樹脂組成や特性等の材質が均質化されたポリオレフィン系樹脂組成物である。
分別回収されたPETボトルキャップを粉砕、均一に混合し、ペレット状に加工されたリサイクル樹脂が一般に市販されている。本発明においては、ポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品として、そのような市販品を用いてもよい。
【0023】
市場で回収されたPETボトルキャップの物性値は、どのような品質のキャップ製品がどの程度の比率で混在しているのかによって大きく変動するため、一概にその物性値を示すことはできない。極端な例を示すと、ほとんどが非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品から構成される市場回収品であれば、当該市場回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の性能は非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品のレベルに近く、ほとんどが炭酸飲料用PETボトルキャップ製品から構成される市場回収品であれば、当該市場回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の性能は炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に近くなる。
また、安価な海外品など性能の悪いPETボトルキャップが市場回収品に含まれれば、当該市場回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の性能は悪い方向に引っ張られて低下する。市場回収品には、一般的に性能の悪いPETボトルキャップが一定量含まれるので、市場で回収されたPETボトルキャップから得られるポリオレフィン系回収樹脂の性能は、炭酸飲料用としては不十分というだけにとどまらず、非炭酸飲料用PETボトルとしてすら用いることができないレベルのものであり、特に耐久性(耐ストレスクラック性)が非炭酸飲料用PETボトルとして用いるには低すぎるものが多い。
【0024】
本発明において改質されるポリオレフィン系回収樹脂としては、剛性を示す曲げ弾性率が900~1000MPaであり、且つ、耐久性(耐ストレスクラック性)を示す環境応力き裂抵抗(ESCR)が15~35時間(h)あるポリオレフィン系回収樹脂が好適に用いられる。ポリオレフィン系回収樹脂の曲げ弾性率が850MPa未満、又は、ポリオレフィン系回収樹脂の環境応力き裂抵抗(ESCR)が10時間未満である場合には、当該ポリオレフィン系回収樹脂の剛性を損なうことなく、その耐久性(耐ストレスクラック性)を非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品として使用可能なレベルまで向上させるために多量の改質材が必要になり、改質効率が低くなる場合が多い。また、ポリオレフィン系回収樹脂の曲げ弾性率1050MPa超、且つ、ポリオレフィン系回収樹脂の環境応力き裂抵抗(ESCR)が45時間超である場合には、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品として使用可能な性能レベルを保持しているため、改質して性能を改善する必要性が乏しい場合が多い。
【0025】
2.ポリエチレン系樹脂からなる改質材
本発明においては、上記ポリオレフィン系回収樹脂の改質材として、上記特許文献1に記載されている、炭酸飲料用PETボトルキャップに適したポリエチレン系樹脂成形材料を添加することにより、改質時にポリオレフィン系回収樹脂の剛性を損なうことなく、当該ポリオレフィン系回収樹脂の耐久性(耐ストレスクラック性)を、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品として使用可能なレベルまで向上させることができる。
本発明においては改質材として、炭酸飲料用PETボトルキャップの成形に用いる原料バージン樹脂そのものを用いても良いし、炭酸飲料用PETボトルキャップの成形時に発生した樹脂成形材料の端材や工程内回収品を、リサイクルしてペレット化したものを用いても良い。
【0026】
具体的には、本発明において用いられる改質材は、エチレン系重合体として下記の成分(A)を20質量%以上40質量%以下、及び、成分(B)を60質量%以上80質量%以下含有し、下記の特性(1)~(4)を満たすポリエチレン系樹脂である。
成分(A):HLMFRが0.05~5.0g/10分、密度が0.910~0.935g/cmであり、かつ13C-NMRスペクトルの測定値から式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値(CSD)が0.0~3.0のエチレン系重合体
CSD=4×[EE][CC]/[EC] 式(a)
(式(a)中、[EE]はエチレン・エチレン連鎖数、[CC]はコモノマー・コモノマー連鎖数、[EC]はエチレン・コモノマー連鎖数を表す。)
成分(B):MFRが100g/10分以上600g/10分未満、密度が0.960g/cm以上0.980g/cm未満のエチレン系重合体
特性(1):温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.2g/10分以上3.0g/10分以下で、温度190℃・荷重21.6Kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が70g/10分以上180g/10分未満であり、且つHLMFR/MFRが50~500である
特性(2):密度が0.955g/cm以上0.970g/cm以下である
特性(3):フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)が100時間以上である
特性(4):シャルピー衝撃強度が9.0KJ/m以上である
【0027】
本発明で用いられる改質材は、炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に適合する性能レベルを有するものである。上記特性(1)~(4)を満たさないポリエチレン系樹脂の性能は、炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に適合する性能レベルよりも低下している。そのため、ポリオレフィン系回収樹脂の改質材として上記特性(1)~(4)を満たさないポリエチレン系樹脂を用いる場合には、十分な改質効果を得ることができず、得られたポリオレフィン系樹脂成形材料の性能も低下してしまう。
【0028】
(1)改質材の材料としての要件
特性(1)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.2g/10分以上3.0g/10分以下であり、好ましくは0.3~2.8g/10分、更に好ましくは0.5~2.5g/10分である。MFRが0.2g/10分未満では流動性が不足し、本発明の改質材の高速成形性を望めず、3.0g/10分を超えると本発明の改質材の耐ストレスクラック性、耐衝撃性が必ずしも十分でない。
また、ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、温度190℃・荷重21.6Kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が70g/10分以上180g/10分未満であり、好ましくは80~170g/10分、更に好ましくは90~160g/10分である。HLMFRが70g/10分未満では流動性が不足し、本発明の改質材の高速成形性を望めず、180g/10分以上では本発明の改質材の耐ストレスクラック性、耐衝撃性が必ずしも十分でない。
そして、メルトフローレート(MFR)とハイロードメルトフローレート(HLMFR)の比、すなわちHLMFR/MFRは50~500であり、好ましくは60~400、更に好ましくは70~300、更に好適には160~200である。HLMFR/MFRが50未満では所定のせん断速度において粘度低下が無いために、流動性が不足し、本発明の改質材の高速成形性が低下し、500を超えると本発明の改質材の収縮率異方性が発生しやすくなる。
本発明において、MFR及びHLMFRは、JIS-K6922-2:1997に準じて測定される値である。
【0029】
特性(2)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、密度が0.955g/cm以上0.970g/cm以下であり、好ましくは0.956~0.968g/cm、更に好ましくは0.958~0.965g/cmである。密度が0.955g/cm未満では、本発明の改質材の剛性が低下し、容器蓋の薄肉化が見込めず、また高温時に変形し易くなり、容器内圧の影響により容器蓋が変形し漏れの原因となる。密度が0.970g/cmを超えると本発明の改質材の耐ストレスクラック性が必ずしも十分でない。
本発明において、ポリエチレン系樹脂成形材料の密度は、JIS-K6922-1,2:1997に準じて測定される値である。
【0030】
特性(3)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)が100時間以上であり、より好ましくは110時間以上、更に好ましくは120時間以上である。上限値は特に限定されないが、通常は1000時間以下である。FNCTが100時間未満では、本発明の改質材を用いて成形された容器蓋に夏場の高温での保管時にストレスクラックによる破壊が発生する可能性が大きくなる。ここで、FNCTは、JIS-K6774:1998年に準拠し、温度80℃で、使用液として花王株式会社製エマール1%水溶液を用いて測定されるものである。
【0031】
特性(4)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、シャルピー衝撃強度が9.0KJ/m以上であり、好ましくは10~20KJ/mであり、更に好ましくは14~20KJ/mである。シャルピー衝撃強度が9.0KJ/m未満では、液体充填後の容器を落とした場合、本発明の改質材を用いて成形された容器蓋に割れが発生しやすくなる。シャルピー衝撃強度は、JIS-K7111-1:2006年に準拠して測定されるものである。
【0032】
特性(5)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、曲げ弾性率が好ましくは900~1500MPaであり、より好ましくは950~1450MPaである。曲げ弾性率が900MPa未満では剛性が低下し、容器の内圧により本発明の改質材を用いて成形された容器蓋が変形し易く、特に高温時に変形し易くなる。ここで、曲げ弾性率は、試験片として210℃で射出成形した4×10×80mmの板状体を用い、JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定される値である。
【0033】
特性(6)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、190℃、せん断速度400sec-1での溶融時粘度が好ましくは200~1000Pa・s、より好ましくは250~600Pa・s、更に好適には420~600Pa・sである。溶融粘度が200Pa・s未満では、本発明の改質材の高流動性に優れるが当該改質材を用いて成形された容器蓋の耐ストレスクラック性能や耐衝撃性が低下し、流動性と耐ストレスクラック性、耐衝撃性の両立が出来ない。溶融粘度が1000Pa・sを超えると、流動性が低下するため、高速成形性が低下する。
【0034】
特性(7)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、引張降伏強さが好ましくは25MPa以上であり、好ましくは26MPa以上、更に好ましくは27MPa以上である。引張降伏強さが25MPa未満では、本発明の改質材を用いて成形された容器蓋のブリッジ部分の切れ感が悪く、適度な硬さが不足する。引張降伏強さの上限値は特に限定されないが、通常は50MPa以下である。ここで、引張降伏強さは、JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定される値である。
引張降伏強さは、容器蓋の緩みと相関があり、引張降伏強さが低ければ容器蓋が緩み易くなり、容器蓋の適度な硬さの閉栓性が不足する。容器蓋の耐ストレスクラック性や耐衝撃性を向上させるにはポリエチレン系材料の密度を下げる必要があり、そのため耐ストレスクラック性や耐衝撃性を向上させながら引張降伏強さを向上させることは困難であった。しかしながら、本発明によれば容器蓋の緩み性及び耐ストレスクラック性、耐衝撃性を押しなべて改善することが可能である。
【0035】
特性(8)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、炭化水素揮発分が80ppm以下であることが望ましい。炭化水素揮発分は、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。本発明にいう炭化水素とは、分子中に少なくとも炭素及び水素を含む化合物を称し、通常はガスクロマトグラフィーにて測定されるもので、所定の数値以下とすることにより、容器収納内容物への臭いや風味の影響を防ぐことができる。ここで、炭化水素揮発分量は、ポリエチレン系樹脂からなる改質材1gを25mlのガラス密閉容器に入れ、130℃で60分加熱した際のへッドスペース中の空気をガスクロマトグラフィーにて測定して得られる。
【0036】
(2)改質材の組成物としての構成
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、複数種類のエチレン系重合体の組成物であって、下記の成分(A)が20質量%以上40質量%以下、及び、成分(B)が60質量%以上80質量%以下含有される。ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、単一のエチレン系重合体で構成されるものであってもよいし、複数種類のエチレン系重合体から組成物として構成されるものでもよい。
成分(A):HLMFRが0.05~5.0g/10分、密度が0.910~0.935g/cm、かつ13C-NMRスペクトルの測定値から式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値(CSD)が0.0~3.0のエチレン系重合体
CSD=4×[EE][CC]/[EC] 式(a)
(式(a)中、[EE]はエチレン・エチレン連鎖数、[CC]はコモノマー・コモノマー連鎖数、[EC]はエチレン・コモノマー連鎖数を表す。)
成分(B):温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以上600g/10分未満、密度が0.960g/cm以上0.980g/cm未満のエチレン系重合体
【0037】
なお、MFR、HLMFR及び密度は各々、前記測定方法により測定される。
また、エチレン系重合体の成分(A)のCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)は、J.C.Randall著、JMS-REV.MACROMOL.CHEM.PHYS.,C29(2&3),201-317頁(1989)の記載に基づき、エチレン系重合体の13C-NMRスペクトルにより測定される。具体的には日本電子社製JEOL-GSX400核磁気共鳴装置を用いて以下の条件で測定し、エチレン・エチレン連鎖数、コモノマー・コモノマー連鎖数、エチレン・コモノマー連鎖数の値から、上記の式(a)により求めることができる。
装置:日本電子社製JEOL-GSX400、パルス幅:8.0μsec(フリップ角=40°)、パルス繰り返し時間:5秒、積算回数:5000回以上、溶媒及び内部標準:1,2,4-トリクロロベンゼン/ベンゼン-d6/ヘキサメチルジシロキサン(混合比:30/10/1)、測定温度:120℃、試料濃度:0.3g/ml その後、測定で得られたスペクトルを下記の文献に基づき求めることができる。
(1)エチレン・1-ブテン共重合体の場合: Macromolecules,15,353-360(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)、
(2)エチレン・1-ヘキセン共重合体の場合: Macromolecules,15,1402-1406(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)
【0038】
一般に、エチレン系重合体のCSDは0~∞の値をとるが、CSDの数値が高いと、よりブロック的にコモノマーが挿入され、CSDの数値が低いとより交互(又はランダム)にコモノマーが挿入されていることを示す。CSDが小さいほど組成分布が良好であると言える。
【0039】
(2-1)成分(A)のエチレン系重合体
成分(A)のエチレン系重合体は、HLMFRが0.05~5.0g/10分であり、好ましくは0.1~3.0g/10分であり、更に好ましくは0.3~2.0g/10分である。成分(A)のHLMFRが0.05g/10分未満では本発明の改質材の流動性が低下し成形性が不良となる傾向があり、5.0g/10分を超えると本発明の改質材の耐ストレスクラック性や耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0040】
成分(A)の密度は、0.910~0.935g/cmであり、好ましくは0.915~0.935g/cm、更に好ましくは0.918~0.932g/cm、更に好ましくは0.920~0.930g/cmである。成分(A)の密度が0.910g/cm未満では本発明の改質材の剛性が不充分となり、0.935g/cmを超えると本発明の改質材の耐ストレスクラック性や耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0041】
エチレン系重合体の成分(A)は、13C-NMRスペクトルにより測定し、式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値CSDが、0.0~3.0であり、好ましくは0.0~2.5、更に好ましくは0.0~2.2である。
成分(A)のCSDが本発明の範囲、すなわち0.0~3.0であると、本発明の改質材の剛性と耐ストレスクラック性、耐衝撃性のバランスに優れる。一方、CSDが3.0より大きい場合は、組成分布が広いことを示しており、本発明の改質材の剛性と耐ストレスクラック性、耐衝撃性のバランスが低下する傾向がある。
一方、成分(A)のCSDが3.0より大きい場合は、組成分布が広いことを示しており、本発明の改質材の剛性と耐ストレスクラック性、耐衝撃性のバランスが低下する。CSDは、分子間組成分布及び分子内組成分布の両方の影響を受け、チーグラー・ナッタ系触媒では分子間組成分布の影響が支配的であり、CSDが小さな値であるほど分子間におけるコモノマー共重合量のばらつきが少なく、狭い組成分布であることが示唆されるものである。
本発明において、成分(A)のCSDの値が小さければ小さいほど好ましいが、その理由は、短鎖分岐の入り方が均一になり、分子量10以上の成分又は成分(A)の中で、所望の密度(短鎖分岐数)を満たさない成分が少なくなるため、本発明の改質材の剛性と耐ストレスクラック性、耐衝撃性のバランスを高める効果がより発現しやすくなるからである。
【0042】
成分(A)のエチレン系重合体は、エチレン単独の重合体であってもよいが、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体が好ましく、更にはエチレンと1-ブテンとの共重合体、又はエチレンと1-ヘキセンとの共重合体が好ましい。炭素数3~20のα-オレフィンの共重合割合は、0.001~5.0モル%が好ましい。
【0043】
(2-2)成分(B)のエチレン系重合体
成分(B)のエチレン系重合体は、MFRが100g/10分以上600g/10分未満であり、好ましくは180~500g/10分、更に好ましくは200~350g/10分である。成分(B)のMFRが100g/10分未満では本発明の改質材の流動性が低下し成形性が不良となる傾向があり、600g/10分以上であると本発明の改質材の耐ストレスクラック性や耐衝撃性が低下する傾向がある。
成分(B)の密度は、0.960g/cm以上0.980g/cm未満、好ましくは0.965~0.975g/cm、更に好ましくは0.965~0.970g/cmである。成分(B)の密度が0.960g/cm未満の場合は本発明の改質材の剛性が低下するおそれがあり、0.980g/cm以上のものは製造が難しい。
成分(B)のエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体が好ましく、更にはエチレン単独重合体、エチレンと1-ブテンとの共重合体、又はエチレンと1-ヘキセンとの共重合体が好ましい。エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体の場合、炭素数3~20のα-オレフィンの共重合割合は、0.001~5.0モル%が好ましい。
【0044】
本発明において、成分(A)と成分(B)の割合は、成分(A)が20質量%以上40質量%以下、成分(B)が60質量%以上80質量%以下であり、好ましくは成分(A)が20~35質量%、成分(B)が65~80質量%であり、更に好ましくは成分(A)が20~30質量%、成分(B)が70~80質量%である。
成分(A)が20質量%未満では本発明の改質材の耐ストレスクラック性や耐衝撃性が低下し、40質量%を超えると本発明の改質材の成形性が低下する傾向にあり、成分(B)が60質量%未満では本発明の改質材の成形性が低下し、80質量%を超えると本発明の改質材の耐ストレスクラック性や耐衝撃性が低下する傾向にある。この範囲から外れた場合には流動性、剛性、耐ストレスクラック性、耐衝撃性のいずれか一つ以上が不十分となり性能バランスが悪くなる場合がある。
なお、本発明においてエチレン系重合体は、成分(A)と成分(B)のみで構成してもよく、他の任意の樹脂成分などを含有してもよい。
【0045】
(3)改質材の組成物としてのその他の要件
[成分(A)のCSDとSCBとの関係]
本発明において成分(A)のエチレン系重合体は、13C-NMRスペクトルによる測定値から式(a)により求めたCSD(コモノマー・シークエンス・ディストリビューション)の値(CSD)と、13C-NMRスペクトルにより測定した、主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1~20の短鎖分岐数SCB(個/1,000C)が、下記式(b)を満たすことは好ましい。より好ましくは、本発明において、CSDとSCBが、下記式(c)を満たす。更に好ましくは下記式(d)を満たす。
CSD < -0.1273 × SCB+3.30 式(b)
CSD < -0.1273 × SCB+3.10 式(c)
CSD < -0.1273 × SCB+2.00 式(d)
【0046】
エチレン系重合体では、CSDの数値は短鎖分岐数に影響され、短鎖分岐数が少ないほどエチレン・エチレン連鎖数が相対的に多くなり、式(a)中における[EE]の[CC]と[EC]に対する割合が高くなるため、CSDの数値は高くなる。そのため、同じCSDの数値であっても、短鎖分岐数が少ないものほど組成分布が良好であると言える。
【0047】
ここで、CSDとSCBが本発明の範囲、すなわち式(b)を満たす場合は、図1の線形の下方領域になるが、本発明の改質材の剛性と耐ストレスクラック性、耐衝撃性のバランスに優れている。一方、式(b)を満たさない場合は、図1の線形の上方領域になるが、組成分布が広いことを示しており、本発明の改質材の剛性とESCR、耐衝撃性のバランスが低下する傾向にある。
本発明におけるCSDとSCBとの関係式は、便宜的にCSDをSCBの関数として近似式を求め、改質材としてのポリエチレン系樹脂の好ましい範囲を設定したものである。なお、本発明においては、ポリエチレン系樹脂からなる改質材が当該関係式を満足しても、他の特性を満たさないと改質材としての所望の特性バランスを得ることができない。
【0048】
本発明において、CSDとSCBとの関係式を満足するポリエチレン系樹脂からなる改質材を得るためには、コモノマーの挿入の制御が重要であり、様々な手法が挙げられる。例えば、重合条件や重合の触媒系が重要な要素の一つであり、公知の特許文献(特開昭56-61406号公報、特開昭56-141304号公報、特開昭56-166206号公報、特開昭57-141407号公報、特開昭60-235813号公報、特開昭61-246209号公報)に記載の特定のマグネシウム化合物、チタン化合物、有機ハロゲン化アルミニウム化合物から得られる固体触媒と有機アルミニウム化合物とを組み合わせてなる触媒を用いることにより容易に制御可能である。
【0049】
[収縮率異方性(MD/TD)]
本発明の改質材は、収縮率異方性(MD/TD)が1.0以上2.5未満であることが好ましい。MD/TDは、1.0以上2.3未満が好ましく、更には1.1以上2.2以下であることが好ましい。この値は、成形温度190℃、金型温度40℃にて、1辺フィルムゲート(ゲート厚み0.2mm)の120×120×2mmの平板成形を行い、成形後、23℃にて48時間放置後の流れ方向(MD)及び流れ直角方法(TD)の収縮率を測定し、MD値をTD値で割った数値である。収縮率異方性(MD/TD)が2.5以上では、成形品が割れやすく、一方、1.0未満では製品が変形しやすくなる。収縮率異方性(MD/TD)は、分子量分布にて調整することが可能である。
【0050】
3.ポリエチレン系樹脂からなる改質材の製造
ポリエチレン系樹脂からなる改質材に含まれるエチレン系重合体は、エチレンのみの単独重合、あるいはエチレンとα-オレフィンとの共重合により製造することができる。ポリエチレン系樹脂からなる改質材に含まれるエチレン系重合体は、通常の一段重合で重合して得ることもできるが、条件を変えて重合した成分を混合したり、逐次多段重合による組成物として製造することもできる。
【0051】
(1)混合又は逐次多段重合による組成物の製造
ポリエチレン系樹脂からなる改質材は、前記成分(A)のエチレン系重合体と成分(B)のエチレン系重合体とを混合して得ることができる。
樹脂の均一性などの理由から、成分(A)のエチレン系重合体と成分(B)のエチレン系重合体を順次連続的に重合(逐次多段重合法)して得られたものが好ましく、例えば直列に接続した複数の反応器でエチレン及びα-オレフィンを順次連続的に重合して得ることができる。
この場合、一方の重合反応器でエチレン単独重合体を重合し、他の重合反応器でエチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとの共重合体を重合すること、一方の重合反応器でエチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとの共重合体を重合し、他の重合反応器でさらにエチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンを共重合体することができるが、前者が好ましい。
すなわち、本発明において、前記エチレン系重合体の成分(A)及び成分(B)の少なくとも一方が、重合触媒の存在下、少なくとも二基の重合反応器を組み合わせた多段重合により、少なくとも前記二基のうちの一方の重合反応器でエチレン単独重合体が重合され、少なくとも前記二基のうちの他の重合反応器でエチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとのエチレン共重合体が重合されることが好ましい。
【0052】
また、成分(A)と成分(B)とからなる組成物は、成分(A)及び成分(B)を別々に重合した後に混合したものでもよい。更に、成分(A)及び成分(B)のエチレン系重合体のそれぞれは複数の成分により構成することが可能である。該エチレン系重合体は、1種類の触媒を用いて多段重合反応器にて順次連続的に重合された重合体でもよく、複数種類の触媒を用いて単段又は多段重合反応器にて製造された重合体でもよいし、1種類又は複数種類の触媒を用いて重合された重合体を混合したものでもよい。
【0053】
(2)重合方法
前記成分(A)のエチレン系重合体及び成分(B)のエチレン系重合体は、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの製造プロセスにより製造することができ、スラリー重合法が好ましい。エチレン系重合体の重合条件のうち重合温度は、0~300℃の範囲から選択することができる。スラリー重合においては、生成ポリマーの融点より低い温度で重合を行なう。重合圧力は、大気圧~約100kg/cmの範囲から選択することができる。実質的に酸素と水分などを断った状態で、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素などから選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下で、エチレン及びα-オレフィンのスラリー重合を行なうことにより好ましく製造することができる。
【0054】
スラリー重合において重合器に供給される水素は、連鎖移動剤として消費され、生成するエチレン系重合体の平均分子量を決定するほか、一部は溶媒に溶解して重合器から排出される。溶媒中への水素の溶解度は小さく、重合器内に大量の気相部が存在しない限り、触媒の重合活性点付近の水素濃度は低い。そのため、水素供給量を変化させれば、触媒の重合活性点における水素濃度が速やかに変化し、生成するエチレン系重合体の分子量は短時間の間に水素供給量に追随して変化する。従って、短い周期で水素供給量を変化させれば、より均質な製品を製造することができるから、重合法としてスラリー重合法を採用することが好ましい。また、水素供給量の変化の態様は、連続的に変化させてもよいが、不連続的に変化させる方が分子量分布を広げる効果が得られる。
本発明においては、エチレン系重合体の重合時に水素供給量を変化させることが重要であるが、その他の重合条件、例えば重合温度、触媒の供給量、エチレンなどのオレフィンの供給量、1-ブテンなどのコモノマーの供給量、溶媒の供給量などを、適宜に水素の変化と同時に又は別個に変化させることも重要である。
【0055】
(3)逐次多段重合
直列に接続した複数の反応器で順次連続して重合する、いわゆる逐次多段重合方法は、最初の重合域(第一段目の反応器)において高分子量成分を製造し、得られた重合体を次の反応域(第二段目の反応器)に移送し、第二段目の反応器において低分子量成分を製造する方法でもよいし、最初の重合域(第一段目の反応器)において低分子量成分を製造し、得られた重合体を次の反応域(第二段目の反応器)に移送し、第二段目の反応器において高分子量成分を製造する方法のどちらでもよい。
具体的な好ましい重合方法は以下の方法である。即ち、チタン系遷移金属化合物及び有機アルミニウム化合物を含むチーグラー触媒及び少なくとも二器の反応器を使用し、第一段目の反応器にエチレン及びα-オレフィンを導入し低密度の高分子量成分の重合体を製造し、第一段目の反応器から抜き出された重合体を第二段目の反応器に移送し、第二段目の反応器にエチレン及び水素を導入し高密度の低分子量成分の重合体を製造する方法である。
なお、多段重合の場合、第二段目以降の重合域で生成するエチレン系重合体の量とその性状については、各段における重合体生成量(未反応ガス分析により把握できる)を求め、各段の後でそれぞれ抜出した重合体の物性を測定し、加成性に基づいて各段で生成した重合体の物性を求めることができる。
【0056】
(4)重合触媒
エチレン系重合体の重合触媒は、チーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒などの各種の触媒が用いられる。重合触媒は、水素がオレフィン重合の連鎖移動作用を示すような触媒であればいずれも使用することができる。具体的には、固体触媒成分と有機金属化合物とからなり、水素がオレフィン重合の連鎖移動作用を示すようなスラリー法オレフィン重合に適する触媒であればいずれも使用することができる。好ましくは重合活性点が局在している不均一系触媒である。上記固体触媒成分としては、遷移金属化合物を含有するオレフィン重合用の固体触媒として用いられるものであれば特に制限はない。
【0057】
遷移金属化合物としては、周期律表第IV族~第VIII族、好ましくは第IV族~第VI族の金属の化合物を使用することができ、具体例としては、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Moなどの化合物が挙げられる。好ましい触媒の例としては、Ti及び/又はVの化合物と周期律表第I族~第III族金属の有機金属化合物からなる固体チーグラー触媒がある。さらに、メタロセン触媒と呼ばれる、シクロペンタジエン骨格を有する配位子が遷移金属に配位してなる錯体と助触媒とを組み合わせたものが例示される。具体的なメタロセン触媒としては、Ti、Zr、Hf、ランタニド系列などを含む遷移金属に、メチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、インデンなどのシクロペンタジエン骨格を有する配位子が配位してなる錯体触媒と、助触媒としてのアルミノキサンなどの周期律表第I族~第III族金属の有機金属化合物とを組み合わせたものや、これらの錯体触媒をシリカなどの担体に担持させた担持型のものが挙げられる。特に好ましいオレフィン重合用の固体触媒成分としては、少なくともチタン及び/又はバナジウム並びにマグネシウムを含有するものが挙げられる。
上記の少なくともチタン及び/又はバナジウム並びにマグネシウムを含有する固体触媒成分と共に用いることのできる有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物、中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましい。重合反応中における有機アルミニウム化合物の使用量は特に制限されないが、通常チタン化合物1モルに対して0.05~1,000モルの範囲が好ましい。
更に具体的には、固体触媒成分と有機アルミニウム化合物からなるチーグラー触媒が好ましく、特に以下の公知文献記載の触媒及び製造法を用いることにより好適に実施することができる。即ち、特開昭56-61406号公報、特開昭56-141304号公報、特開昭56-166206号公報、特開昭57-141407号公報、特開昭60-235813号公報、特開昭61-246209号公報に記載の触媒系を用いてオレフィンを重合することが好ましい。
本発明において、エチレン系重合体の重合触媒は、一般式Mg(OR 2-m(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは1又は2である)で表される化合物及び一般式Ti(OR 4-n(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは1、2又は3である)で表される化合物を含む均一な炭化水素溶液を、一般式AlR 3-l(式中、Rはアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、lは1≦l≦2の数を示す)で表される有機ハロゲン化アルミニウム化合物で処理して得られる炭化水素不溶性固体触媒と有機アルミニウム化合物とを含む触媒系が好ましい。
【0058】
(5)重合モノマー
本発明において、エチレン系重合体は、エチレンの単独重合、又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどとの共重合により得られ、共重合の場合、1-ブテンや1-ヘキセンが好ましいモノマーとして挙げられる。
また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどを挙げることができる。
なお、重合の際のコモノマー含有率は任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α-オレフィン共重合体中のα-オレフィン含有量は0.001~5.0モル%が好ましい。
原料エチレンとしては、植物由来のエチレンを用いて重合することもでき、該エチレンを使用したエチレン系重合体としても差し支えない。
【0059】
4.ポリエチレン系樹脂からなる改質材における特性値の制御法
(1)MFR及びHLMFR
ポリエチレン系樹脂からなる改質材の製造において、MFRとHLMFRは、エチレン系モノマーの重合における温度や連鎖移動剤の使用などにより、所望の範囲に調整することができる。即ち、エチレンとα-オレフィンとの重合温度を上げることにより分子量を下げて、結果としてMFR及びHLMFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより分子量を上げて、結果としてMFR及びHLMFRを小さくすることができる。また、エチレンとα-オレフィンとの共重合反応において、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて、結果としてMFR及びHLMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて、結果としてMFR及びHLMFRを小さくすることができる。
【0060】
(2)HLMFR/MFR
ポリエチレン系樹脂からなる改質材の製造において、HLMFR/MFR(フローレシオFLR)は、分子量分布を調整することにより増減させることができる。このHLMFR/MFRは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量の単分散性(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)と相関があり、HLMFR/MFRの100は単分散性Mw/Mnの約18に相当する。HLMFR/MFR又はMw/Mnは、触媒の種類、助触媒の種類、重合温度、重合反応器内の滞留時間、重合反応器の数などで調整でき、また、押出機の温度、圧力、剪段速度などにより調整可能であり、好ましくは高分子量成分と低分子量成分の混合割合を調整することにより増減することができる。
エチレン系重合体のHLMFR/MFR又はMw/Mnは、触媒の種類の影響を受け易く、一般にフィリプス触媒によれば分子量分布が広く、メタロセン触媒によれば分子量分布が狭く、チーグラー触媒によればその中間的な分子量分布を有する重合体となる。
【0061】
(3)密度
ポリエチレン系樹脂からなる改質材の製造において、密度は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量を変化させることにより、所望の範囲に調整することができる。
【0062】
(4)CSD
ポリエチレン系樹脂からなる改質材において、成分(A)のCSDは、この数値が高いと、よりブロック的にコモノマーが挿入され、CSDの数値が低いとより交互(又はランダム)にコモノマーが挿入されている。コモノマーの挿入の制御は、ポリオレフィン重合分野においては技術革新が重ねられており、様々な手法が挙げられるが、本発明で用いられるポリエチレン系樹脂からなる改質材については、重合の触媒系が重要な要素の一つであり、先に記載した公知の特許文献(特開昭56-61406号公報、特開昭56-141304号公報、特開昭56-166206号公報、特開昭57-141407号公報、特開昭60-235813号公報、特開昭61-246209号公報)に記載の特定のマグネシウム化合物、チタン化合物、有機ハロゲン化アルミニウム化合物から得られる固体触媒と有機アルミニウム化合物とを組み合わせてなる触媒を用いることにより容易に制御可能である。
【0063】
(5)SCB (主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1~20の短鎖分岐数)
ポリエチレン系樹脂からなる改質材の製造において、短鎖分岐数は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量を変化させることにより、所望の範囲に調整することができる。短鎖分岐数は密度と相関があり、例えば密度0.916g/cmでおよそ14個/1,000C、密度0.930g/cmでおよそ4個/1,000C程度となる。
【0064】
(6)その他の特性値の制御
ポリエチレン系樹脂からなる改質材の製造において、フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)を大きくするためには、低密度かつ高分子量成分を添加することにより達成可能である。
ESCRは、密度、分子量及び分子量分布にて調整し、本発明における成分(A)の低密度かつ高分子量成分を適宜使用することにより達成可能である。
シャルピー衝撃強度は、ハイロードメルトフローレート(HLMFR)を下げる、密度を下げるなどにより大きくすることができる。
【0065】
曲げ弾性率は、ポリエチレンの分子量及び密度を増減させることにより調節することができ、分子量又は密度を増加させると、曲げ弾性率を上げることができる。
190℃、せん断速度400sec-1での溶融時粘度は、ポリエチレンの分子量及び密度を増減させることにより調節することができ、分子量を増加させると溶融時粘度を上げることができる。
引張降伏強さは、密度を増減させることにより調節することができ、密度を高くすると大きくすることができる。
炭化水素揮発分を所定の値以下にするためには、重合したポリエチレン系重合体に揮発分除去操作、例えばスチームストリッピング処理、温風脱臭処理、真空処理、窒素パージ処理などを実施することにより達成することができ、特にスチーム脱臭処理を行なうことにより、この制御操作を顕著に発揮することができる。スチーム処理の条件は特に限定されるものではないが、エチレン系重合体を100℃のスチームに8時間程度接触させるとよい。
【0066】
5.ポリエチレン系樹脂からなる改質材の量
本発明において改質材の含有量は、ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の合計量に対し、1~99質量%の範囲内で適宜調節される。市場で回収されたPETボトルキャップから再生されたポリオレフィン系回収樹脂の耐久性(耐ストレスクラック性)を、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品のレベルまで改質するにあたっては、ポリオレフィン系回収樹脂の性能に合わせて、適切な量の改質材を添加する必要がある。ポリオレフィン系回収樹脂の性能が高ければ改質材の量は少量で済むが、その性能が低ければ、必要な改質材の量は多くなる。
改質材の量は、改質時にポリオレフィン系回収樹脂の剛性を損なうことなく、市場で回収されたPETボトルキャップから再生させたポリオレフィン系回収樹脂の耐久性(耐ストレスクラック性)を、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品として使用可能なレベルまで向上させる観点から、得られるポリオレフィン系樹脂成形材料の剛性を示す曲げ弾性率、及び、ポリオレフィン系樹脂成形材料の耐久性(耐ストレスクラック性)を示す環境応力き裂抵抗(ESCR)の両方がバランス良く高くなるように調節することが好ましい。
具体的には、ポリオレフィン系樹脂成形材料の曲げ弾性率が、好ましくは900MPa以上、さらに好ましくは950MPa以上となるように、又は、ポリオレフィン系樹脂成形材料の環境応力き裂抵抗(ESCR)が、好ましくは45時間以上、さらに好ましくは50時間以上となるように改質材の量を調節する。
多くの場合において、市場で回収されたPETボトルキャップから得られたポリオレフィン系回収樹脂及びポリエチレン系樹脂からなる改質材の合計量に対し、当該改質材の量を10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上とすることにより、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に使用可能なレベルの性能が得られる。
また、ポリエチレン系樹脂からなる改質材の量が多いほど得られるポリオレフィン系樹脂成形材料の性能は向上するため、当該改質材の量の上限は特に制限されないが、多くの場合において、ポリオレフィン系回収樹脂及びポリエチレン系樹脂からなる改質材の合計量に対し、当該改質材の量を70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下に制限したとしても、非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に使用可能なレベルの性能を得るのに十分な量である。
【0067】
6.ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、必須成分として、上記ポリオレフィン系回収樹脂、及び、上記ポリエチレン系樹脂からなる改質材、さらに必要に応じて他の成分を、樹脂組成物の製造における常法に従い均一に混合することによって得られる。
例えば、ポリオレフィン系回収樹脂のペレットと改質材のペレットを、ドライブレンド又はメルトブレンドし、ブレンド中に他の成分を任意の順序で添加すればよい。ドライブレンドの場合は、最終的に成形機内においてポリオレフィン系回収樹脂のペレットと改質材のペレットがメルトブレンドされる。ブレンド方法は製造工程に合わせて適宜選択される。メルトブレンドする場合は、得られたポリオレフィン系樹脂成形材料を、ペレタイザーで処理することによりペレット化してもよい。
【0068】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料には、各種の物性をより高め又は他の物性を付加するために、常法に従い、オレフィン系以外の重合体を配合してもよく、また、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤、結晶化速度を促進する造核剤などの添加剤を配合してもよい。
【0069】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、非炭酸飲料用PETボトルキャップとして好適な特性を付与する観点から、上記ポリオレフィン系回収樹脂及び上記ポリエチレン系樹脂からなる改質材の含有割合が高いことが好ましく、具体的には、上記ポリオレフィン系回収樹脂と上記ポリエチレン系樹脂からなる改質材の合計量が、ポリオレフィン系樹脂成形材料全体の90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。
【0070】
7.ポリオレフィン系樹脂成形材料を用いた成形
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、各種特性を満足するので、成形性、高流動性、臭い、耐衝撃性、食品安全性、剛性などに優れ、なおかつ耐熱性に優れる。したがって、このような特性を必要とする容器や容器蓋などの用途に適している。
特に、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料を用い、射出成形法や圧縮成形法などにより成形することで、非炭酸飲料用PETボトルキャップを製造することができる。非炭酸飲料用PETボトルキャップは、連続圧縮成形法により製造されることが好ましい。
その他、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、食用油、わさびなどの香辛料、調味料、アルコール飲料などの食品及び飲料における容器や容器蓋、化粧品やヘアクリームなどの容器及び容器蓋の用途にも使用でき、主として射出成形法で成形される。
【実施例0071】
以下の実施例及び比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0072】
〔測定方法及び評価方法〕
実施例、比較例で用いた測定方法、評価方法は以下のとおりである。
(1)温度190℃・荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR):JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
(2)温度190℃・荷重21.6kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR):JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
(3)密度:JIS-K6922-1,2:1997年に準じて測定した。
【0073】
(4)コモノマー・シークエンス・ディストリビューション(CSD):ポリエチレン系樹脂からなる改質材の成分(A)のCSD(CSD)を、J.C.Randall著、JMS-REV.MACROMOL.CHEM.PHYS.,C29(2&3),201-317頁(1989)の記載に基づき、13C-NMRスペクトルにより測定した。具体的には日本電子社製JEOL-GSX400核磁気共鳴装置を用いて、エチレン・エチレン連鎖数、コモノマー・コモノマー連鎖数、エチレン・コモノマー連鎖数を測定し、これらの値から、CSDを式(a)により求めた。
CSD=4×[EE][CC]/[EC] 式(a)
【0074】
なお、具体的には、以下の条件で測定した。
装置:日本電子社製JEOL-GSX400、パルス幅:8.0μsec(フリップ角=40°)、パルス繰り返し時間:5秒、積算回数:5000回以上、溶媒及び内部標準:1,2,4-トリクロロベンゼン/ベンゼン-d6/ヘキサメチルジシロキサン(混合比:30/10/1)、測定温度:120℃、試料濃度:0.3g/ml。また、測定で得られたスペクトルを下記文献に基づき求めた。
(i)エチレン・1-ブテン共重合体の場合: Macromolecules,15,353-360(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)、
(ii)エチレン・1-ヘキセン共重合体の場合: Macromolecules,15,1402-1406(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)
【0075】
(5)主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1~20の短鎖分岐数SCB
ポリエチレン系樹脂からなる改質材の成分(A)の13C-NMRスペクトル測定を、上記CSDの算出に用いた13C-NMRスペクトル測定と同一条件で測定し、下記の文献に基づき求めた。
(i)エチレン・1-ブテン共重合体の場合: Macromolecules,15,353-360(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)、
(ii)エチレン・1-ヘキセン共重合体の場合: Macromolecules,15,1402-1406(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)
【0076】
(6)フルノッチクリープ試験による1.9MPaにおける破断時間(FNCT):JIS-K6774:1998年に準拠し、温度80℃で、使用液として花王株式会社製洗剤エマール1%水溶液を用いて測定した。
(7)シャルピー衝撃強度:JIS-K7111-1:2006年に準拠して測定した。
(8)曲げ弾性率:試験片として210℃で射出成形した4mm×10mm×80mmの板状体を用い、JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
【0077】
(9)溶融時粘度:インテスコ社製キャピラリーレオメータを用い、190℃測定時、直径1mm、L/D:35のキャピラリーを用いて、せん断速度400sec-1の溶融粘度を測定した。
(10)ESCR:ASTM D 1693に準拠し、温度50℃で、使用液としてSIGMA―ALDRICH製IGEPAL CO-630の10vol%水溶液を用いて測定した。
(11)ポリオレフィン系樹脂成形材料の総合評価
ポリオレフィン系樹脂成形材料の非炭酸飲料用PETボトルキャップ適合性を、以下の評価基準で評価した。
[評価基準]
○(良):曲げ弾性率が900MPa以上、かつESCRが45時間以上である。
×(不良):曲げ弾性率が900MPa未満、又はESCRが45時間未満である。
【0078】
〔改質材Aの調製〕
(触媒の製造)
マグネシウムエトキシド115gとトリn-ブトキシモノクロルチタン151gとn-ブタノール37gとを150℃で6時間混合して均一化した。次に60℃まで下げてn-ヘキサンを加え均一溶液とした。次いで所定温度にてエチルアルミニウムセスキクロライドを457g滴下し1時間攪拌した。生成した沈殿をn-ヘキサンで洗浄することによって触媒成分が210g得られた。得られた固体を乾燥し粉末とした。この粉末中にMgが11.0質量%、Tiが10.5質量%含まれていた。
【0079】
(重合体の製造)
第一段反応器として内容積200リットルの第一段重合器に、触媒供給ラインから上記(触媒の製造)で得られた固体触媒成分1.5g/hrを、また有機金属化合物供給ラインからトリエチルアルミニウム40mmol/hrを供給し、重合内容物を所要速度で排出しながら、70℃において重合溶媒(n-ヘキサン)70(l/hr)、水素209(mg/hr)、エチレン17.3(kg/hr)、1-ブテン0.59(kg/hr)の速度で供給し、全圧1.4MPa、平均滞留時間2.2hrの条件下で連続的に第一段共重合を行なった。
第一段反応器の重合生成物を一部採取し、重合物を回収して物性を測定した結果を、「成分(A)」とした。
第一段反応器で生成したスラリー状重合生成物をそのまま内容積400リットルの第二段反応器へ全量、内径50mmの連続管を通して導入し、重合器内容物を所要速度にて排出しながら、82℃にて重合溶媒(n-ヘキサン)100(l/hr)、水素30.2(g/hr)、エチレン42.8(kg/hr)の速度で供給し、全圧1.1MPa、平均滞留時間1.71hrの条件下で連続的に第二段重合を行なった。
第二段反応器から排出される重合生成物をフラッシング槽へ導入し、重合生成物を連続的に抜き出し、脱気ラインから未反応ガスを除去した。得られた重合体のスチームストリッピング処理を施した後、ペレタイザーで造粒した後、その物性を評価した。
上記の方法で得られた改質材Aは、本発明で用いられる改質材の要件を満たしていた。結果を後掲の表1に示す。
なお、表1において、第二段反応器で生成した「成分(B)」の物性は、最終生成物であるポリエチレン組成物の物性と第一段反応器で得られた成分(A)の物性とから加成則に基づく計算により求めた。
【0080】
〔実施例1〕
市場で回収されたPETボトルキャップから再生されたポリオレフィン系回収樹脂として、進栄化成株式会社のリサイクルペレット(MFR:1.4g/10分、HLMFR:147g/10分、HLMFR/MFR:105、密度:0.965g/cm、FNCT:23時間、シャルピー衝撃強度:8KJ/m、曲げ弾性率:1050PMa、ESCR:30時間)と、上記の改質材A(MFR:0.8g/10分、HLMFR:130g/10分、HLMFR/MFR:162.5、密度:0.962g/cm、FNCT:170時間、シャルピー衝撃強度:11KJ/m、曲げ弾性率:1000PMa、ESCR:250時間)のペレットを、60:40の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)でドライブレンドした後、容量100mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル(形式:ローラミキサR100型)に70g投入した。また、同時に酸化防止剤B225を0.14g投入し、190℃で3分間予熱した後、190℃・40rpmで2分間混練しメルトブレンドした。
得られた樹脂成形材料の物性値は、MFR:1.1g/10分、HLMFR:137g/10分、HLMFR/MFR:125、密度:0.964g/cm、シャルピー衝撃強度:9KJ/m、曲げ弾性率:1020PMa、ESCR:83時間となり、非炭酸飲料用PETボトルキャップとして使用可能な物性値であった。
【0081】
〔実施例2〕
実施例1の試験条件において、ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の質量比を20:80に変更したこと以外は、同様に試験を実施した。
得られた樹脂成形材料の物性値は、MFR:0.8g/10分、HLMFR:132g/10分、HLMFR/MFR:165、密度:0.963g/cm、シャルピー衝撃強度:10KJ/m、曲げ弾性率:1000PMa、ESCR:150時間となり、非炭酸飲料用PETボトルキャップとして使用可能な物性値であった。
【0082】
〔比較例1〕
市場で回収されたPETボトルキャップから再生されたポリオレフィン系回収樹脂として、実施例1で用いた進栄化成株式会社のリサイクルペレットと、改質材として、日本ポリエチレン(株)の一般射出成形用のグレードであるポリエチレン樹脂HJ560(MFR:7.1g/10分、HLMFR:227g/10分、HLMFR/MFR:32、密度:0.964g/cm、FNCT:15時間、シャルピー衝撃強度:6KJ/m、曲げ弾性率:1200MPa、ESCR:21時間)のペレットを、60:40の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)でドライブレンドした後、容量100mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル(形式:ローラミキサR100型)に70g投入した。また、同時に酸化防止剤B225を0.14g投入し、190℃で3分間予熱した後、190℃・40rpmで2分間混練しメルトブレンドした。
得られた樹脂成形材料の物性値は、MFR:3.7g/10分、HLMFR:185g/10分、HLMFR/MFR:50、密度:0.965g/cm、シャルピー衝撃強度:7KJ/m、曲げ弾性率:1080MPa、ESCR:25時間となり、ESCRで示される耐久性(耐ストレスクラック性)が不足しているため、非炭酸飲料用のPETボトルキャップとしては使用できない。
【0083】
〔比較例2〕
市場で回収されたPETボトルキャップから再生されたポリオレフィン系回収樹脂として、実施例1で用いた進栄化成株式会社のリサイクルペレットと、改質材として、日本ポリエチレン(株)のプラストマーのグレードであるポリエチレン樹脂KS571(MFR:12g/10分、HLMFR:データ無し、HLMFR/MFR:データ無し、密度:0.907g/cm、FNCT:500時間以上、シャルピー衝撃強度:柔らかすぎて破壊せず、曲げ弾性率:110MPa、ESCR:1000時間以上)のペレットを、80:20の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)でドライブレンドした後、容量100mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル(形式:ローラミキサR100型)に70g投入した。また、同時に酸化防止剤B225を0.14g投入し、190℃で3分間予熱した後、190℃・40rpmで2分間混練しメルトブレンドした。
得られた樹脂成形材料の物性値は、MFR:1.8g/10分、HLMFR:170g/10分、HLMFR/MFR:94、密度:0.953g/cm、曲げ弾性率:700MPa、ESCR:140時間となり、ESCRで示される耐久性(耐ストレスクラック性)は良好な結果だったが、曲げ弾性率で示される剛性が大幅に低下しており、非炭酸飲料用のPETボトルキャップとしては適していなかった。
【0084】
[結果]
実施例1、2で用いた改質材A、比較例1で用いた改質材HJ560、及び比較例2で用いた改質材KS571の特性を、下記表1に示す。
また、各実施例及び比較例で用いたポリオレフィン系回収樹脂、改質材、及び、各実施例及び比較例で得られた改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料の特性を、下記表2に示す。
実施例1及び2で用いた改質材は、上述した特定の成分(A)および成分(B)からなり特性(1)から特性(4)を満たすポリエチレン系樹脂であり、曲げ弾性率で表される剛性及びFNCTで表される耐久性をはじめ、PETボトルキャップに求められる諸物性値に優れているため、実施例1及び2で得られた樹脂成形材料は、改質前のポリオレフィン系回収樹脂が有していた諸物性値をPETボトルキャップに求められるレベルから下げることなく、耐久性(耐ストレスクラック性)を通常の非炭酸飲料用PETボトルキャップ製品に求められるレベルにまで向上させることができた。
これに対し、比較例1で用いた改質材は、成分(A)および成分(B)からなるものではなく、FNCTが低いため、比較例1で得られた樹脂成形材料のESCRも低くなり、耐久性(耐ストレスクラック性)が不足した。
また、比較例2で用いた改質材は、成分(A)および成分(B)からなるものではなく、さらに曲げ弾性率が低いため、比較例2で得られた樹脂成形材料の曲げ弾性率も低くなり、剛性が大幅に低下した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
図1