(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149996
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 29/00 20060101AFI20231005BHJP
F04C 18/356 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F04C29/00 C
F04C18/356 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058853
(22)【出願日】2022-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上田 健史
(72)【発明者】
【氏名】多田 直人
(72)【発明者】
【氏名】秋本 諒
(72)【発明者】
【氏名】安井 達也
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄大
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA04
3H129AA13
3H129BB31
3H129BB32
3H129BB42
3H129CC04
3H129CC06
3H129CC09
3H129CC23
(57)【要約】
【課題】本体容器と端板との接合に伴う応力によって端板の摺動面に歪みが生じるのを防ぐ。
【解決手段】圧縮機における圧縮部の端板は、回転軸が通される軸穴と、軸穴が設けられてピストンが摺動する摺動面を形成する中央部と、中央部の外周側に配置されて本体容器の内周面に外周面が溶接によって接合される環状の外周部と、中央部と外周部とを連結する複数の連結部と、隣り合う連結部同士の間に端板を貫通するように形成された複数の貫通穴と、を有する。中央部には、圧縮部から作動流体を吐出する吐出穴と、吐出穴を開閉するリード弁を端板に固定する固定部材が通される固定穴と、を有する凹部が形成される。回転軸の軸方向から見て、軸穴の中心を始点として吐出穴の中心を通る第1半直線と、軸穴の中心を始点として固定穴の中心を通る第2半直線と、外周部の外周面と、によって囲まれた扇状領域において、貫通穴は扇状領域の周方向に連続するように形成され、扇状領域の周方向におけるこの貫通穴の両端が、扇状領域の外側に位置する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動するモータと、
前記モータの駆動力を前記圧縮部に伝える回転軸と、
前記圧縮部及び前記モータを内部に収容する本体容器と、を備え、
前記圧縮部は、作動流体の圧縮室を形成するシリンダと、前記圧縮室に配置されるピストンと、前記回転軸の軸方向における前記シリンダの一端を閉塞する端板と、を有し、
前記端板は、前記回転軸が通される軸穴と、前記軸穴が設けられて前記ピストンが摺動する摺動面を形成する中央部と、前記中央部の外周側に配置されて前記本体容器の内周面に接合される外周面を有する環状の外周部と、前記中央部と前記外周部とを連結する複数の連結部と、隣り合う前記連結部同士の間に前記端板を貫通するように形成された複数の貫通穴と、を有し、
前記中央部には、前記圧縮部から作動流体を吐出する吐出穴と、前記吐出穴を開閉するリード弁を前記端板に固定する固定部材が通される固定穴と、を有する凹部が形成され、
前記回転軸の軸方向から見て、前記軸穴の中心を始点として前記吐出穴の中心を通る第1半直線と、前記軸穴の中心を始点として前記固定穴の中心を通る第2半直線と、前記外周部の前記外周面と、によって囲まれた扇状領域において、前記貫通穴は前記扇状領域の周方向に連続するように形成され、前記扇状領域の周方向における当該貫通穴の両端が、前記扇状領域の外側に位置する、圧縮機。
【請求項2】
前記本体容器には、前記本体容器と前記外周部とを接合する溶接部が設けられ、
前記溶接部は、前記扇状領域に配置された前記貫通穴の外周側に設けられる、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記回転軸の軸方向から見て、前記連結部は、前記扇状領域に隣り合って形成される、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記端板の前記中央部は、前記凹部が形成された第1端面と、前記摺動面が形成された第2端面と、を有する、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記端板の前記中央部は、前記摺動面と前記第1端面との間の厚さをh1、前記摺動面と前記凹部内の底面との間の厚さをh2としたとき、
(h2/h1)≦0.25
を満たす、
請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記端板は、前記外周部の外径をd1、前記中央部の外径をd2としたとき、
(d2/d1)≧0.65
を満たす、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記端板は、前記外周部の外径をd1、前記軸穴の径方向における前記外周部の幅をw1としたとき、
(w1/d1)≦0.05
を満たす、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記端板は、前記外周部の外径が100[mm]以下である、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
前記凹部は、前記回転軸の軸方向に沿う内壁面を有し、
前記内壁面は、前記軸穴の径方向において前記連結部に連続する部分が曲面に形成される、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機として、圧縮部と、回転軸を介して圧縮部を駆動するモータが、本体容器の内部に収容されており、圧縮部の外周が本体容器の内周に接合されるものが知られている。この種の圧縮機の圧縮部は、圧縮室を形成するシリンダと、回転軸の軸方向におけるシリンダの一端を閉塞する端板と、を有しており、端板の外周が本体容器の内周に溶接によって接合されるものがある。このような端板の一方の端面には、圧縮室から作動流体を吐出する吐出穴と、吐出穴を開閉するリード弁が設けられた凹部が形成されている。また、端板の他方の端面には、圧縮室内で転動するピストンの端面が摺接する摺動面が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した圧縮機は、溶接や焼き嵌めによって本体容器の内周と端板の外周とが接合されたときに、溶接や焼き嵌めに伴って生じる応力が端板に加わり、端板において剛性が低い凹部が、応力によって変形する問題がある。特に、小型の圧縮機の場合には、本体容器の内径が小さくなり、端板の外周と凹部との間の距離が近づくので、本体容器から凹部に応力が伝わり易くなり、凹部に変形が生じ易い。このように凹部が変形することにより、端板の摺動面に歪みが生じ、ピストンと端板との摺動時の抵抗が大きくなる問題がある。
【0005】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、本体容器と端板との接合に伴う応力によって端板の摺動面に歪みが生じるのを防ぐことができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の開示する圧縮機の一態様は、作動流体を圧縮する圧縮部と、圧縮部を駆動するモータと、モータの駆動力を圧縮部に伝える回転軸と、圧縮部及びモータを内部に収容する本体容器と、を備え、圧縮部は、作動流体の圧縮室を形成するシリンダと、圧縮室に配置されるピストンと、回転軸の軸方向におけるシリンダの一端を閉塞する端板と、を有し、端板は、回転軸が通される軸穴と、軸穴が設けられてピストンが摺動する摺動面を形成する中央部と、中央部の外周側に配置されて本体容器の内周面に接合される外周面を有する環状の外周部と、中央部と外周部とを連結する複数の連結部と、隣り合う連結部同士の間に端板を貫通するように形成された複数の貫通穴と、を有し、中央部には、圧縮部から作動流体を吐出する吐出穴と、吐出穴を開閉するリード弁を端板に固定する固定部材が通される固定穴と、を有する凹部が形成され、回転軸の軸方向から見て、軸穴の中心を始点として吐出穴の中心を通る第1半直線と、軸穴の中心を始点として固定穴の中心を通る第2半直線と、外周部の外周面と、によって囲まれた扇状領域において、貫通穴は扇状領域の周方向に連続するように形成され、扇状領域の周方向におけるこの貫通穴の両端が、扇状領域の外側に位置する。
【発明の効果】
【0007】
本願の開示する圧縮機の一態様によれば、本体容器と端板との接合に伴う応力によって端板の摺動面に歪みが生じるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例の圧縮機を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例の圧縮機の圧縮部を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例における圧縮部の上端板を上方から示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例における上端板を上方から示す平面図である。
【
図5】
図5は、実施例における上端板の各部の寸法を説明するための平面図である。
【
図6】
図6は、実施例における上端板のA-A断面図である。
【
図7】
図7は、実施例における上端板を下方から示す平面図である。
【
図8】
図8は、比較例における上端板を下方から示す平面図である。
【
図9】
図9は、実施例における上端板に生じる軸方向への変形量の分布を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、比較例における上端板に生じる軸方向への変形量の分布を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の開示する圧縮機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例によって、本願の開示する圧縮機が限定されるものではない。
【実施例0010】
図1は、実施例の圧縮機を示す縦断面図である。
図1に示すように、圧縮機1は、本体容器10の内部に、作動流体としての冷媒をアキュムレータ25から吸入して圧縮した冷媒を本体容器10の内部に吐出する圧縮部12と、圧縮部12を駆動するモータ11と、が収容され、圧縮部12で圧縮された高圧冷媒を本体容器10の内部に吐出し、さらに吐出管107を通して冷凍サイクルに吐出する密閉型圧縮機である。また、圧縮機1は、モータ11の駆動力を圧縮部12に伝える回転軸15と、本体容器10の外周面に固定されたアキュムレータ25を備える。
【0011】
本体容器10には、冷凍サイクルの低圧冷媒を圧縮部12に吸入するための上圧縮部吸入管102T及び下圧縮部吸入管102Sが本体容器10を貫通して設けられている。詳しくは、本体容器10に上ガイド管101Tがろう付けによって固定され、上圧縮部吸入管102Tは上ガイド管101Tの内側を通って上ガイド管101Tにろう付けによって固定されている。同様に、本体容器10に下ガイド管101Sがろう付けによって固定され、下圧縮部吸入管102Sは下ガイド管101Sの内側を通って下ガイド管101Sにろう付けによって固定されている。
【0012】
圧縮部12で圧縮された高圧冷媒を本体容器10の内部から冷凍サイクルに吐出するための吐出管107が本体容器10における上部を貫通して設けられている。本体容器10における下部には、圧縮機1全体を支持するベース部材310が溶接によって固定されている。
【0013】
アキュムレータ25は、アキュムレータ25の内部に冷凍サイクルから冷媒を吸入するアキュムレータ吸入管27と、気体冷媒を圧縮部12に送るための上気液分離管31T及び下気液分離管31Sと、を備える。アキュムレータ吸入管27は、アキュムレータ25における上部に接続されている。上気液分離管31Tは、上連絡管104Tを介して上圧縮部吸入管102Tと接続されている。下気液分離管31Sは、下連絡管104Sを介して下圧縮部吸入管102Sと接続されている。
【0014】
図2は、実施例の圧縮機1の圧縮部12を示す分解斜視図である。
図1及び
図2に示すように、圧縮部12は、上シリンダ121Tと、下シリンダ121Sと、中間仕切板140と、上端板160Tと、下端板160Sと、を有しており、上端板160T、上シリンダ121T、中間仕切板140、下シリンダ121S、下端板160Sの順に積層され、複数のボルト175により固定されている。上端板160Tには主軸受部161Tが設けられている。下端板160Sには副軸受部161Sが設けられている。回転軸15には主軸部153と、上偏心部152Tと、下偏心部152Sと、副軸部151と、が設けられている。回転軸15は、圧縮部12に支持される主軸部153及び副軸部151を有する。回転軸15の主軸部153が上端板160Tの主軸受部161Tに嵌め込まれ、回転軸15の副軸部151が下端板160Sの副軸受部161Sに嵌め込まれることにより、回転軸15は主軸受部161T及び副軸受部161Sに回転自在に支持される。
【0015】
モータ11は、外側に配置されたステータ111と、内側に配置されたロータ112と、を有している。ステータ111は、本体容器10の内周面10aに焼嵌めによって固定されている。ロータ112は、回転軸15に焼嵌めによって固定されている。
【0016】
本体容器10の内部には、圧縮部12の摺動部材の潤滑、及び圧縮室内の高圧部と低圧部とのシールのために、圧縮部12がほぼ浸漬する量の潤滑油18が封入されている。
【0017】
次に、
図2を用いて圧縮部12を詳しく説明する。上シリンダ121Tには内部に円筒状の上中空部130Tが設けられ、上中空部130Tには上ピストン125Tが配置されている。上ピストン125Tは回転軸15の上偏心部152Tに嵌め込まれている。下シリンダ121Sには内部に円筒状の下中空部130Sが設けられ、下中空部130Sには下ピストン125Sが配置されている。下ピストン125Sは回転軸15の下偏心部152Sに嵌め込まれている。
【0018】
上シリンダ121Tには上中空部130Tから外周側へ延びる溝部が設けられており、溝部に上ベーン127Tが配置されている。上シリンダ121Tには外周から溝部に通じる上スプリング穴124Tが設けられており、上スプリング穴124Tに上スプリング126Tが配置されている。下シリンダ121Sには下中空部130Sから外周側へ延びる溝部が設けられており、溝部に下ベーン127Sが配置されている。下シリンダ121Sには外周から溝部に通じる下スプリング穴124Sが設けられており、下スプリング穴124Sに下スプリング126Sが配置されている。
【0019】
上ベーン127Tの一端が上スプリング126Tによって上ピストン125Tに押し当てられることにより、上シリンダ121Tの上中空部130Tにおいて上ピストン125Tの外側の空間が、上圧縮室である上吸入室131Tと上吐出室133Tに区画される。上シリンダ121Tには、外周から上吸入室131Tに連通する上吸入穴135Tが設けられている。上吸入穴135Tには上圧縮部吸入管102Tが接続されている。下ベーン127Sの一端が下スプリング126Sによって下ピストン125Sに押し当てられることにより、下シリンダ121Sの下中空部130Sにおいて下ピストン125Sの外側の空間が、下圧縮室である下吸入室131Sと下吐出室133Sに区画される。下シリンダ121Sには、外周から下吸入室131Sに連通する下吸入穴135Sが設けられている。下吸入穴135Sには下圧縮部吸入管102Sが接続されている。
【0020】
上端板160Tには、上端板160Tを貫通して上吐出室133Tに連通する上吐出穴190Tが設けられている。上端板160Tには、上吐出穴190Tを開閉するリード弁である上吐出弁200Tと、上吐出弁200Tの反りを規制する上吐出弁押さえ201Tと、が上リベット202Tによって固定されている。上端板160Tの上側には、上吐出穴190Tを覆う上端板カバー170Tが配置され、上端板160Tと上端板カバー170Tとで閉塞される上端板カバー室180Tが形成される。上端板カバー170Tは、上端板160Tと上シリンダ121Tとを固定する複数のボルト175によって上端板160Tに固定される。上端板カバー170Tには、上端板カバー室180Tと本体容器10の内部を連通する上端板カバー吐出穴172が設けられている。また、圧縮部12が本体容器10内に設けられる際、本体容器10の内周面10aが上端板160Tの外周面182aに焼き嵌めされると共に、本体容器10と溶接された複数の溶接部V(
図4)によって接合される。本実施例における上端板160Tの構造の詳細については後述する。
【0021】
下端板160Sには、下端板160Sを貫通して下吐出室133Sに連通する下吐出穴190Sが設けられている。下端板160Sには、下吐出穴190Sを開閉するリード弁である下吐出弁200Sと、下吐出弁200Sの反りを規制する下吐出弁押さえ201Sと、が下リベット202Sによって固定されている。下端板160Sの下側には、下吐出穴190Sを覆う下端板カバー170Sが配置され、下端板160Sと下端板カバー170Sとで閉塞される下端板カバー室180Sを形成する(
図1参照)。下端板カバー170Sは、下端板160Sと下シリンダ121Sとを固定する複数のボルト175によって下端板160Sに固定される。
【0022】
また、圧縮部12には、下端板160S、下シリンダ121S、中間仕切板140、上端板160T及び上シリンダ121Tを貫通し、下端板カバー室180Sと上端板カバー室180Tとを連通する冷媒通路穴136(
図2参照)が設けられている。
【0023】
以下に、回転軸15の回転による冷媒の流れを説明する。回転軸15の回転によって、回転軸15の上偏心部152Tに嵌め込まれた上ピストン125T、及び下偏心部152Sに嵌め込まれた下ピストン125Sが公転運動することにより、上吸入室131T及び下吸入室131Sが容積を拡大しながら冷媒を吸入する。冷媒の吸入路として、冷凍サイクルの低圧冷媒は、アキュムレータ吸入管27を通してアキュムレータ25の内部に吸入され、気体冷媒だけが上気液分離管31T及び下気液分離管31Sに吸入される。上気液分離管31Tに吸入された気体冷媒は、上連絡管104Tと上圧縮部吸入管102Tとを通って上吸入室131Tに吸入される。同様に、下気液分離管31Sに吸入された気体冷媒は、下連絡管104Sと下圧縮部吸入管102Sとを通って下吸入室131Sに吸入される。
【0024】
次に、回転軸15の回転による吐出冷媒の流れを説明する。回転軸15の回転によって、回転軸15の上偏心部152Tに嵌合された上ピストン125Tが公転運動することにより、上吐出室133Tが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が上吐出弁200Tの外側の上端板カバー室180Tの圧力よりも高くなったとき、上吐出弁200Tが開いて上吐出室133Tから上端板カバー室180Tへ冷媒を吐出する。上端板カバー室180Tに吐出された冷媒は、上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出穴172から本体容器10内に吐出される。
【0025】
また、回転軸15の回転によって、回転軸15の下偏心部152Sに嵌め込まれた下ピストン125Sが公転運動することにより、下吐出室133Sが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が下吐出弁200Sの外側の下端板カバー室180Sの圧力よりも高くなったとき、下吐出弁200Sが開いて下吐出室133Sから下端板カバー室180Sへ冷媒を吐出する。下端板カバー室180Sに吐出された冷媒は、冷媒通路穴136及び上端板カバー室180Tを通って上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出穴172Tから本体容器10内に吐出される。
【0026】
本体容器10内に吐出された冷媒は、ステータ111の外周に設けられた上下を連通する切欠き(図示せず)、又はステータ111の巻線部の隙間(図示せず)、又はステータ111とロータ112との隙間115(
図1参照)を通ってモータ11の上方に導かれ、本体容器10の上部に配置された吐出管107から吐出される。
【0027】
次に、潤滑油18の流れを説明する。本体容器10の下部に封入されている潤滑油18は、回転軸15の遠心力により回転軸15の内部(図示せず)を通って圧縮部12に供給される。圧縮部12に供給された潤滑油18は、冷媒に巻き込まれ霧状となって冷媒と共に本体容器10の内部に排出される。霧状となって本体容器10の内部に排出された潤滑油18はモータ11の回転力によって遠心力で冷媒と分離され、油滴となって再び本体容器10の下部に戻る。しかし一部の潤滑油18は分離されずに冷媒と共に冷凍サイクルに排出される。冷凍サイクルに排出された潤滑油18は冷凍サイクルを循環してアキュムレータ25に戻り、アキュムレータ25の内部で分離されアキュムレータ25における下部に滞留する。アキュムレータ25における下部に滞留した潤滑油18は吸入冷媒と共に上吸入室131T、下吸入室131Sに吸入される。
【0028】
(圧縮機の特徴的な構成)
次に、実施例の圧縮機1の特徴的な構成について説明する。実施例の特徴には、本体容器10と接合される上端板160Tの構造が含まれる。以下、上端板160Tについて説明するが、本願の開示における端板が上端板160Tに限定されるものではない。例えば、下端板160Sの外周部が本体容器10に接合される構造の場合には、下端板160Sの構造に適用されてもよい。
【0029】
図3は、実施例における圧縮部12の上端板160Tを上方から示す斜視図である。
図4は、実施例における上端板160Tを上方から示す平面図である。
【0030】
図3及び
図4に示すように、上端板160Tは、主軸受部161Tの軸穴162が設けられた円形状の中央部181と、中央部181の外周側に配置された環状の外周部182と、中央部181の外周側と外周部182の内周側を連結する複数の連結部183と、上端板160Tの周方向に沿って形成された複数の貫通穴184と、を有する。
【0031】
主軸受部161Tの軸穴162には、回転軸15の主軸部153が回転自在に通される。上端板160Tの中央部181は、上端板カバー170T側の第1端面としての上端面181aと、上シリンダ121T側の第2端面としての下端面181bと、を有する(
図6参照)。中央部181の下端面181bには、上ピストン125Tの上端面が摺動する平坦な摺動面185が形成されている。
【0032】
中央部181の上端面181aの中央には、主軸受部161Tが突出して形成されている。中央部181の上端面181aには、ボルト175が通されるボルト穴177が、主軸受部161Tの外周側の周方向に間隔をあけて設けられている。
【0033】
中央部181の上端面181aには、圧縮部12から冷媒を吐出する上吐出穴190Tと、上吐出穴190Tを開閉する上吐出弁200Tを上端板160Tに固定するための固定穴としての上リベット穴191Tと、を有する凹部193が形成されている。上リベット穴191Tには、固定部材としての上リベット202Tが通されて上吐出弁200Tの基端部が固定されている。
【0034】
凹部193は、上吐出穴190Tの周囲に円形状に形成された第1凹部194と、上吐出弁200Tの長手方向に沿って直線状に形成された第2凹部195と、が連結されて形成されている。第1凹部194は、回転軸15の軸方向に沿う内壁面194aを有しており、外周部182側の内壁面194a近傍に2つの冷媒通路穴136が設けられている。同様に、第2凹部195は、回転軸15の軸方向に沿う内壁面195aを有しており、第1凹部194の内壁面194aと連続して形成されている。
【0035】
上端板160Tの外周部182は、本体容器10の内周面10aに接合される外周面182aを有する。外周部182は、外周部182の上端が中央部181の上端面181aよりも上方に突出するように形成されており、外周部182の下端が中央部181の下端面181bと概ね同じ高さとなるように形成されている(
図6参照)。
【0036】
上端板160Tの各連結部183は、中央部181の外周面、すなわち貫通穴184の径方向内側の内周面184aと、外周部182の内周面、すなわち貫通穴184の径方向外側の外周面184bとに跨って一体に形成されている。ここで貫通穴184の径方向は、上端板160Tの径方向を指す。
【0037】
上端板160Tの貫通穴184は、上端板160Tの周方向において隣り合う連結部183同士の間に、上端板160Tの周方向に沿う長穴状に形成されている。貫通穴184は、上端板160Tの主軸受部161T等から流れ出る潤滑油18を本体容器10における下部に戻すための流路として機能する。
【0038】
図4に示すように、回転軸15の軸方向から見て(以下、軸方向視で、と称する。)、軸穴162の中心O1を始点として上吐出穴190Tの中心O2を通る半直線を第1半直線L1とし、軸穴162の中心O1を始点として上リベット穴191Tの中心O3とを通る半直線を第2半直線L2とし、第1半直線L1と第2半直線L2と外周部182の外周面182aと、によって囲まれた領域を扇状領域Rとしたとき、複数の貫通穴184のうちの1つの貫通穴184Aは、扇状領域Rの周方向(軸穴162の周方向)で扇状領域Rに亘って連続するように形成されている。また、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Aの両端184cは、扇状領域Rの外側に位置する。
【0039】
このように凹部193近傍に貫通穴184Aが形成されることにより、連結部183が凹部193近傍に配置されることが避けられるので、上端板160Tと本体容器10との溶接や焼き嵌めによる接合時の応力が連結部183を伝わって凹部193が変形することが抑えられる。特に、本実施例における上端板160Tの中央部181は、上端面181aに凹部193が形成されると共に、下端面181bに摺動面185が形成された構造であるので、凹部193に変形が生じた場合、摺動面185に歪みが生じ易い。しかし、扇状領域Rに貫通穴184Aが形成されることによって上端板160Tの摺動面185に歪みが生じることを防ぎ、上ピストン125Tの上端面と上端板160Tの摺動面185との摺動時の抵抗が大きくなることを防げる。
【0040】
また、軸方向視で、連結部183は、上述の扇状領域Rに隣り合って形成されている。これにより、上端板160Tは、貫通穴184Aが連続して形成された扇状領域Rの部分における機械的強度を適切に確保することができる。
【0041】
また、本体容器10の外周面には、本体容器10と上端板160Tの外周部182とを接合する複数の溶接部Vが設けられている。溶接部Vとしては、例えば、本体容器10の周方向において3つの溶接部Vが等間隔に設けられている。3つの溶接部Vのうち、1つの溶接部Vは、上述した扇状領域Rに配置された貫通穴184Aの外周側に設けられている。言い換えると、外周部182の周方向において貫通穴184Aに対応する位置に溶接部Vが設けられている。このように上端板160Tと本体容器10との溶接時に溶接部Vから凹部193に応力が伝わり易い構造であっても、貫通穴184Aの両端184cが扇状領域Rの外側に位置することで、扇状領域R内に連結部183が配置されないので、溶接部Vから応力が連結部183を経て凹部193に伝わることを抑え、摺動面185の歪みの発生を抑えられる。
【0042】
本実施例では、本体容器10と上端板160Tとが焼き嵌め(締まり嵌め)で接合されることにより生じる応力と、本体容器10と上端板160Tとが溶接部Vで接合されることにより生じる応力とが、上端板160Tに加わっている。詳しくは
図9を参照し後述するが、本実施例では、これらの応力が連結部183を伝わって凹部193を変形させてしまうことが抑えられている。なお、溶接部Vによって本体容器10と上端板160Tが接合される構造の場合、本体容器10と上端板160Tの嵌め合いの状態は締まり嵌めに限定されず、中間嵌めや隙間嵌めであってもよい。すなわち、本体容器10と上端板160Tの嵌め合いの状態に関わらず、溶接部Vからの応力による凹部193の変形を抑える効果が得られる。本体容器10と上端板160Tが溶接される構造であるときには、本体容器10と上端板160Tの嵌め合いの状態は中間嵌めや隙間嵌めであってもよいが、特に締まり嵌めの場合に、嵌め合いに伴い生じる応力による凹部193の変形を抑える効果が高い。また、本実施例では、本体容器10と上端板160Tとが焼き嵌め及び溶接部Vにより接合された場合を例示したが、本体容器10と上端板160Tとは、焼き嵌め(締まり嵌め)のみで接合されてもよく、同様に、本体容器10と上端板160Tとは、溶接部Vのみで接合されてもよい。これらの場合であっても、本体容器10と上端板160Tとの接合により生じる応力が連結部183を伝わって凹部193を変形させてしまうことが抑えられる。
【0043】
第1凹部194の内壁面194aは、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面に形成される。また同様に、第2凹部195の内壁面195aは、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面に形成される。つまり、第2凹部195の内壁面195aにおける固定穴191側の部分は、曲面に形成されている。
【0044】
このように凹部193の各内壁面194a、195aは、貫通穴184Aに隣り合う各連結部183に連続する部分が曲面で形成されることで、連結部183から凹部193に伝わる応力が内壁面194a、195aの曲面に沿って分散され易くなり、応力が伝わり易い部分の剛性が高められている。このため、本実施例では、内壁面194a、195aが平坦面で形成された部分に応力が伝わるのに比べて、曲面で形成された部分に応力が伝わることで、応力による凹部193の変形が抑えられ、摺動面185に歪みが生じることが抑えられる。
【0045】
図5は、実施例における上端板160Tの各部の寸法を説明するための平面図である。
図6は、実施例における上端板160TのA-A断面図である。
【0046】
図6に示すように、上端板160Tの中央部181は、摺動面185と上端面181aとの間の厚さをh1、摺動面185と凹部193内の底面195bとの間の底板196の厚さをh2としたとき、
(h2/h1)≦0.25 (25[%]) ・・・(式1)
を満たす。
【0047】
図6に示すように、凹部193内において、第2凹部195の底面195bが形成された底板196の部分が最も厚みが薄くなっている。上端板160Tは、式1を満たすことで、中央部181の厚さと凹部193の底板196の厚さとの差が大きく、凹部193の剛性が低いので、中央部181における凹部193に局所的に変形が生じ易い構造である。このような上端板160Tの場合に、貫通穴184Aによって凹部193の変形、摺動面185の歪みの発生を抑える効果が高い。
【0048】
図5に示すように、上端板160Tは、外周部182の外径をd1、中央部181の外径をd2としたとき、
(d2/d1)≧0.65 (65[%]) ・・・(式2)
を満たす。
【0049】
上端板160Tは、式2を満たすことで、中央部181の外周が外周部182の外周に近く、言い換えると、主軸受部161Tの軸穴162の径方向に対する外周部182の幅が小さい。この場合、本体容器10に接合された外周部182と、中央部181とが近づき、本体容器10から中央部181の凹部193に応力が伝わり易いので、凹部193に変形が生じ易い構造である。このような上端板160Tの場合に、貫通穴184Aによって凹部193の変形、摺動面185の歪みの発生を抑える効果が高い。
【0050】
また、
図5に示すように、上端板160Tは、外周部182の外径をd1、主軸受部161Tの軸穴162の径方向における外周部182の幅をw1としたとき、
(w1/d1)≦0.05 (5[%]) ・・・(式3)
を満たす。
【0051】
上端板160Tは、式3を満たすことで、外周部182の外径d1に対する外周部182の幅wが小さく、外周部182の剛性が低いので、本体容器10から中央部181に伝わる応力が大きくなり易い構造である。このような上端板160Tの場合に、貫通穴184Aによって凹部193の変形、摺動面185の歪みの発生を抑える効果が高い。
【0052】
また、上端板160Tの外周部182の外径d1は100[mm]以下である。このように外周部182の外径d1が小さい上端板160Tを用いる場合、本体容器10の外径が小さく、本体容器10と中央部181との距離が近くなる。このため、本体容器10から凹部193に応力が伝わり易いので、凹部193に変形が生じ易い構造である。このような上端板160Tの場合に、貫通穴184Aによって凹部193の変形、摺動面185の歪みの発生を抑える効果が更に高い。これは、上述した式1の比率(h2/h1)が同じ場合であっても、外径d1が100[mm]以下の場合には、外径d1が100[mm]よりも大きい場合と比べて凹部193に変形が生じ易いので、貫通穴184Aによる上述の効果が高い。
【0053】
(実施例と比較例の比較)
図7は、実施例における上端板160Tを下方から示す平面図である。
図8は、比較例における上端板360Tを下方から示す平面図である。比較例において、実施例における上端板160Tと同一部分には実施例と同じ符号を付けて説明を省略する。
【0054】
図7及び
図8に示すように、比較例における上端板360Tは、凹部193近傍に形成された貫通穴184Bが、実施例における上端板160Tの貫通穴184Aと比べて、扇状領域Rの周方向に延びる長さが短く、上述した扇状領域R内に連結部183が配置されている。実施例と比較例において、貫通穴184及び連結部183の配置を除き、凹部193が形成された中央部181や外周部182の構造、本体容器10の構造は同じである。
【0055】
(変形量分布)
図9は、
図7等に示した実施例における上端板160Tに生じる回転軸15の軸方向への変形量の分布を模式的に示す図である。
図10は、
図8に示した比較例における上端板360Tに生じる回転軸15の軸方向への変形量の分布を模式的に示す図である。すなわち、実施例及び比較例において、上端板360Tの中央部181の各位置における軸方向への変形量の大きさを、
図9及び
図10に凡例に則って示している。
図9及び
図10に示す回転軸15の軸方向への変形量の分布は、実物での測定データに基づいたものである。また、
図9及び
図10は、本体容器10を上端板160T、360Tに焼き嵌めすると共に溶接した場合の変形量の分布である。
【0056】
図8及び
図10に示すように、比較例では、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Bの一方の端部が扇状領域Rの内側に位置するように形成されていることで、中央部181における凹部193の周囲や、摺動面185における凹部193と対応する位置で、回転軸15の軸方向への変形が大きい。これに対し、
図7及び
図9に示すように、実施例では、貫通穴184Aが扇状領域Rの周方向に連続するように形成され、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Aの両端184c、184cがいずれも扇状領域Rの外側に位置するよう形成されたことにより、比較例と比べて、中央部181における凹部193の周囲や摺動面185における凹部193と対応する位置での変形が低減されている。実施例では、特に凹部193の第2凹部195の変形、摺動面185の歪みの発生を効果的に抑えられる。その結果、実施例では比較例と比べて、中央部181や摺動面185全体の変形や歪みの発生が抑制されている。
【0057】
ここで、実施例では比較例に比べて、
図7乃至
図10に示すように、凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生が効果的に抑えられているが、この理由について以下に述べる。
【0058】
まず、実施例と比較例とで共通する構造について、詳細に説明する。上端板160Tの凹部193に配置される上吐出弁200Tは、長手方向の一端側(上リベット穴191T側)が上リベット202Tにより上端板160Tに対して固定され、長手方向の他端側(上吐出穴190T側)が上吐出穴190Tを覆うことで上吐出穴190Tを開閉する。上端板160Tに形成される凹部193は、上述の上吐出弁200Tが配置されるのに十分な大きさで形成される必要がある一方で、上端板160Tに形成される凹部193を大きくし過ぎると上端板160Tの機械的強度の低下に繋がるという問題がある。また、上吐出弁200Tが凹部193の内部で移動するのを規制するために、凹部193の内壁面194aの一部が、上吐出弁200Tの外形に沿って形成される。これらの制約により、上端板160に形成される凹部193の形状は、上吐出弁200Tの外周形状に概ね沿うような形状となる。そのため、凹部193の長手方向の一方側の端部付近に固定穴191が配置され、凹部193の長手方向の他方側の端部付近に上吐出穴190Tが配置される。
【0059】
また、
図2乃至
図8に示すように、実施例と比較例とに共通する構造として、上端板160Tの凹部193には、圧縮部12から冷媒を吐出する上吐出穴190Tと、上吐出穴190Tを開閉する上吐出弁200Tを上端板160Tに固定するための固定穴としての上リベット穴191Tと、が形成される。また、凹部193は、上吐出穴190Tの周囲に円形状に形成された第1凹部194と、上吐出弁200Tの長手方向に沿って直線状に形成された第2凹部195と、が連結されて形成されている。第1凹部194は、回転軸15の軸方向に沿う内壁面194aを有している。第2凹部195は、回転軸15の軸方向に沿う内壁面195aを有しており、第1凹部194の内壁面194aと連続して形成されている。また、第2凹部195の内壁面195aは、軸方向視で直線的な平面部分195a1と、軸方向視で円弧状の曲面部分195a2と、を有している。上リベット穴191Tは、第2凹部195において、内壁面195aが有する平面部分195a1と曲面部分195a2との境界近傍に配置されている。
【0060】
また、実施例では、上吐出穴190Tは、円形状に形成された第1凹部194の中心付近に配置されている。すなわち、上吐出穴190Tは、全体が曲面に形成された内壁面194aを有する第1凹部194に配置されている。そのため、貫通穴184Aに隣り合う2つの連結部183、183のうち、一方の(第1半直線L1近傍の)連結部183は、第1凹部194の曲面に形成された内壁面194aに面している。すなわち、第1凹部194の内壁面194aは、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面に形成されている。
【0061】
なお、比較例においても、貫通穴184Bに隣り合う2つの連結部183、183のうち、一方の(第1半直線L1近傍の)連結部183は、第1凹部194の曲面に形成された内壁面194aに面している。すなわち、第1凹部194の内壁面194aのうち軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面に形成されている、という点は、実施例と比較例とで共通である。
【0062】
次に、実施例と比較例との相違点で特徴的な点を挙げる。上述したように、比較例における上端板360Tは、凹部193近傍に形成された貫通穴184Bが、実施例における上端板160Tの貫通穴184Aと比べて、扇状領域Rの周方向に延びる長さが短い。言い換えれば、実施例における貫通穴184Aは、比較例における貫通穴184Bと比べて、扇状領域Rの周方向に延びる長さが長い。より具体的には、実施例の貫通穴184Aは、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Aの両端184c、184cがいずれも扇状領域Rの外側に位置するように形成されている。一方、比較例の貫通穴184Bは、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Bの一方の端部(第2半直線L2側の端部)が扇状領域Rの内側に位置するように形成されている、という点で異なる。
【0063】
実施例では、
図7等に示すように、貫通穴184Aに隣り合う2つの連結部183、183のうち、他方の(第2半直線L2近傍の)連結部183は、凹部193における第2凹部195の内壁面195aの曲面部分195a2に面している。そのため、実施例の上端板360Tでは、第2凹部195の内壁面195aは、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面(軸方向視で円弧状)に形成されている。
【0064】
実施例では、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面(軸方向視で円弧状)に形成されているため、第2半直線L2近傍の連結部183から伝わる応力が、第2凹部195の内壁面195aのうち、連結部183に面した曲面部分195a2に加わる。このとき、
図3、
図6、
図7等に示す凹部193の内壁面195aのうち、外周側に位置する曲面部分195a2が応力を受けるものの、連結部183から伝わる応力を曲面に沿って周方向に分散させることができる。その結果、実施例では、
図9に示されるように、凹部193の変形や摺動面185の歪みが抑えられている。
【0065】
これに対し、比較例では、
図8等に示すように、貫通穴184Bに隣り合う2つの連結部183、183のうち、他方の(第2半直線L2近傍の)連結部183は、凹部193における第2凹部195の内壁面195aの平面部分195a1に面している。そのため、比較例の上端板360Tでは、第2凹部195の内壁面195aは、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が平面(軸方向視で直線状)に形成されている。
【0066】
比較例では、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が平面(軸方向視で直線状)に形成されているため、第2半直線L2近傍の連結部183から伝わる応力が、
図3、
図6、
図8等に示す第2凹部195の内壁面195aのうち、連結部183に面した平面部分195a1に加わる。そのため、凹部193の内壁面195aのうち、外周側に位置する平面部分195a1が応力を受けて凹部193の内側へと倒れ込むことで、内壁面195aの平面部分195a1に繋がる板厚の薄い凹部193の底板196が、平面部分195a1の倒れ込みに伴い、回転軸15の軸方向への力を受けて盛り上がってしまう。その結果、比較例では、
図10に示されるように、凹部193の変形や摺動面185の歪みが生じてしまう。
【0067】
以上のように、比較例では、凹部193における平坦な内壁面195aに連続する位置に、連結部183が配置されているので、凹部193の変形や摺動面185の歪みが生じ易い。一方、実施例では、連結部183に連続する位置における凹部193の内壁面195aが曲面であるため、連結部183から伝わる応力を曲面に沿って周方向に分散させることができ、凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生が抑えられる。
【0068】
実施例では、凹部193の長手方向の一方側の端部付近に、第1半直線L1が通過する上吐出穴190Tが配置され、凹部193の長手方向の他方側の端部付近に、第2半直線L2が通過する固定穴191が配置されるため、凹部193の内壁面195aの平面部分195a1は扇状領域Rの内側に配置されている。そのため、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Aの両端184c、184cがいずれも扇状領域Rの外側に位置するように貫通穴184Aを形成することで、凹部193の内壁面195aの平面部分195a1が配置される扇状領域R内には連結部183が配置されない構造を実現できる。言い換えれば、連結部183に対向する位置における凹部193の内壁面195aを曲面とする構造を実現できる。
【0069】
(実施例の効果)
上述したように実施例の圧縮機1における上端板160Tは、凹部193が形成された中央部181と、隣り合う連結部183同士の間に上端板160Tを貫通するように形成された複数の貫通穴184と、を有する。軸方向視で、軸穴162の中心O1を始点として上吐出穴190Tの中心O2を通る第1半直線L1と、軸穴162の中心O1を始点として上リベット穴191Tの中心O3を通る第2半直線L2と、外周部182の外周面182aと、によって囲まれた扇状領域Rにおいて、貫通穴184Aは扇状領域Rの周方向に連続するように形成され、扇状領域Rの周方向における貫通穴184Aの両端184cが、扇状領域Rの外側に位置する。これにより、上述の扇状領域R内に連結部183が配置されないので、本体容器10と上端板160Tとの接合に伴う応力が連結部183を伝わって凹部193が変形することが抑えられる。このため、本体容器10と上端板160Tの接合時に本体容器10から中央部181に伝わる応力によって中央部181の摺動面185に歪みが生じるのを防げる。
【0070】
また、実施例の圧縮機1は、本体容器10と上端板160Tの外周部182とを接合する溶接部Vが、扇状領域Rに配置された貫通穴184Aの外周側に設けられる。このように上端板160Tと本体容器10との溶接時に溶接部Vから凹部193に応力が伝わり易い構造であっても、扇状領域R内に連結部183が配置されないので、溶接部Vから応力が連結部183を経て凹部193に伝わることを抑え、摺動面185の歪みの発生を抑えられる。
【0071】
また、実施例の圧縮機1における上端板160Tは、軸方向視で、連結部183が、扇状領域Rに隣り合って形成される。これにより、上端板160Tは、貫通穴184Aが連続して形成された扇状領域Rの部分における機械的強度を適切に確保できる。
【0072】
また、実施例の圧縮機1における上端板160Tの中央部181は、凹部193が形成された上端面181aと、摺動面185が形成された下端面181bと、を有する。このため、凹部193に変形が生じた場合、摺動面185に歪みが生じ易いが、扇状領域Rに貫通穴184Aが形成されることによって摺動面185に歪みが生じることを防ぎ、上ピストン125Tと摺動面185との摺動時の抵抗が大きくなることを防げる。
【0073】
また、実施例の圧縮機1における上端板160Tの中央部181は、摺動面185と上端面181aとの間の厚さh1、摺動面185と凹部193内の底面195bとの間の底板196の厚さh2が、(h2/h1)≦0.25を満たす。この場合、中央部181の厚さと凹部193の底板196の厚さとの差が大きく、凹部193の剛性が低いので、中央部181における凹部193に局所的に変形が生じ易い。しかし、実施例は、扇状領域Rの貫通穴184Aによって凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生を効果的に抑えられる。
【0074】
また、実施例の圧縮機1における上端板160Tは、外周部182の外径d1、中央部181の外径d2が、(d2/d1)≧0.65を満たす。この場合、本体容器10に接合された外周部182と、中央部181とが近づき、本体容器10から中央部181の凹部193に応力が伝わり易いので、凹部193に変形が生じ易い。しかし、実施例は、扇状領域Rの貫通穴184Aによって凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生を効果的に抑えられる。
【0075】
また、実施例の圧縮機1における上端板160Tは、外周部182の外径d1、軸穴162の径方向における外周部182の幅w1が、(w1/d1)≦0.05を満たす。この場合、外周部182の外径d1に対する外周部182の幅wが小さく、外周部182の剛性が低いので、本体容器10から中央部181に伝わる応力が大きくなり易い。しかし、実施例は、扇状領域Rの貫通穴184Aによって凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生を効果的に抑えられる。
【0076】
また、実施例の圧縮機1における上端板160Tは、外周部182の外径d1が100[mm]以下である。この場合、外径が小さい本体容器10と中央部181とが近づき、本体容器10から凹部193に応力が伝わり易いので、凹部193に変形が生じ易い。しかし、実施例は、扇状領域Rの貫通穴184Aによって凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生を効果的に抑えられる。
【0077】
また、実施例における上端板160Tの凹部193の内壁面194a、195aは、軸穴162の径方向において連結部183に連続する部分が曲面に形成される。これにより、連結部183から凹部193に伝わる応力が内壁面194a、195aの曲面に沿って分散され易くなり、応力が伝わり易い部分の剛性が高められる。このため、本実施例では、連結部183からの応力が、内壁面194a、195aの曲面で形成された部分に伝わることで、凹部193の変形や摺動面185の歪みの発生を抑えられる。
【0078】
なお、本願の開示する圧縮機は、2シリンダ型圧縮機に適用されたが、1シリンダ型圧縮機に適用されてもよい。また、本願の開示する圧縮機は、ロータリ圧縮機に限定されず、例えば、スクロール圧縮機や空気圧縮機等に適用されてもよい。