(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150002
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】車両駆動システム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20231005BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20231005BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20231005BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231005BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231005BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20231005BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20231005BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20231005BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20231005BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20231005BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231005BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W10/30 900
B60W20/10
B60W20/40
B60W20/00 900
B60W10/00 114
B60W10/08
B60L50/16
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058862
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大参 吉恭
(72)【発明者】
【氏名】富田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】竹市 章
(72)【発明者】
【氏名】熊田 拓郎
【テーマコード(参考)】
3D202
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB11
3D202BB32
3D202BB37
3D202BB46
3D202BB66
3D202BB67
3D202CC42
3D202DD26
3D202DD33
3D202FF06
3D202FF12
3D202FF13
3D241AA66
3D241AB01
3D241AE02
3D241AF01
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125EE08
(57)【要約】
【課題】内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、第1係合装置、回転電機、第2係合装置、及び自動変速機が設けられた車両を駆動する車両駆動システムにおいて、回転電機の回転速度制御を最適な制御設定で実行可能とする。
【解決手段】少なくとも自動変速機を制御する第2制御装置は、回転電機を制御する第1制御装置に対して回転速度制御の実行を指令する場合に、回転速度制御の目的を示す目的情報を合わせて出力する。第1制御装置は、目的情報に応じて複数の制御設定の中から1つの制御設定を選択し、選択した制御設定を用いて回転速度制御を実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材の側から順に第1係合装置、回転電機、及び第2係合装置が設けられているとともに、前記動力伝達経路における前記回転電機よりも前記出力部材側に自動変速機が設けられた車両用駆動装置と、
前記回転電機を制御する第1制御装置と、
少なくとも前記自動変速機を制御する第2制御装置と、を備えた車両駆動システムであって、
前記第1制御装置は、前記回転電機の回転速度を目標回転速度に近づけるように制御する回転速度制御を実行可能であり、
前記第2制御装置は、前記第1制御装置に対して前記回転速度制御の実行を指令可能であるとともに、前記回転速度制御の実行を前記第1制御装置に指令する場合に、当該回転速度制御の実行指令と共に、前記目標回転速度を示す目標指令と、前記回転速度制御の目的を示す目的情報と、を前記第1制御装置に出力し、
前記第1制御装置は、前記回転速度制御に用いる複数の制御設定を選択可能に備え、前記実行指令を受け取った場合には、当該実行指令と共に受け取った前記目的情報に応じて複数の前記制御設定の中から1つの前記制御設定を選択し、選択した前記制御設定を用いて、前記回転電機の回転速度を前記目標指令に示された前記目標回転速度に近づけるように前記回転速度制御を実行する、車両駆動システム。
【請求項2】
前記目的情報は、前記第2係合装置を用いて行わせる動作の内容を含む、請求項1に記載の車両駆動システム。
【請求項3】
複数の前記制御設定には、少なくとも応答性優先設定と安定性優先設定とが含まれ、
前記応答性優先設定は、前記安定性優先設定に比べて、前記回転電機の回転速度を早く前記目標回転速度に近づけることができる制御設定であり、
前記安定性優先設定は、前記応答性優先設定に比べて、前記回転速度制御におけるフィードバックトルクの変動を抑えることができる制御設定である、請求項1又は2に記載の車両駆動システム。
【請求項4】
前記第1制御装置は、
前記目的情報に示された前記回転速度制御の目的が、前記第2係合装置のスリップ係合開始のための差回転生成である場合、前記応答性優先設定を選択し、
前記目的情報に示された前記回転速度制御の目的が、前記第2係合装置のスリップ係合終了のための差回転収束である場合、前記安定性優先設定を選択する、請求項3に記載の車両駆動システム。
【請求項5】
前記車両用駆動装置は、前記回転電機に駆動連結されたオイルポンプを備え、
前記目的情報は、前記オイルポンプを用いて行わせる動作の内容を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、第1係合装置、回転電機、第2係合装置、及び自動変速機(※自動変速機内に第2係合装置が備えられる場合もある;以下同様)が設けられた車両を駆動する車両駆動システムが利用されている。このような車両駆動システムの一例が、特開2018-39317号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特許文献1のシステムは、内燃機関(エンジン1)と車輪(駆動輪23)とを結ぶ動力伝達経路に、第1係合装置(第1クラッチ2)、回転電機(駆動用モータ3)、第2係合装置(第2クラッチ4)、及び自動変速機(変速機5)が設けられた車両用駆動装置(パラレルハイブリッド駆動系)と、回転電機を制御する第1制御装置(モータコントローラ19)と、少なくとも自動変速機を制御する第2制御装置(変速機コントローラ16)とを備えている。
【0004】
特許文献1のシステムでは、内燃機関始動制御において、内燃機関の始動完了後、第2係合装置の伝達トルク容量を車両要求トルク相当とする制御を維持したままで、回転電機の目標回転速度を第2係合装置のスリップ収束回転数に向けて低下させる制御を行う。その際、第1制御装置は、第2係合装置の差回転速度(スリップ回転数)と所定のしきい値(所定値)との大小関係に基づき、回転電機の回転速度制御のための制御設定(第1モータ回転数制御則/第2モータ回転数制御則)を切り替えるように構成されている。
【0005】
しかし、第2係合装置の差回転速度としきい値との大小関係に基づくだけでは、回転電機の回転速度制御が必ずしも最適な制御設定で実行されない場合があった。例えば回転電機の回転速度制御は、その目的に応じても最適な制御設定が変わる場合があるが、第2係合装置の差回転速度としきい値との大小関係に基づくだけでは、その回転速度制御の目的から見て最適とは言えない制御設定で実行されてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、第1係合装置、回転電機、第2係合装置、及び自動変速機が設けられた車両を駆動する車両駆動システムにおいて、回転電機の回転速度制御を最適な制御設定で実行可能とすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る車両駆動システムは、
内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材の側から順に第1係合装置、回転電機、及び第2係合装置が設けられているとともに、前記動力伝達経路における前記回転電機よりも前記出力部材側に自動変速機が設けられた車両用駆動装置と、
前記回転電機を制御する第1制御装置と、
少なくとも前記自動変速機を制御する第2制御装置と、を備えた車両駆動システムであって、
前記第1制御装置は、前記回転電機の回転速度を目標回転速度に近づけるように制御する回転速度制御を実行可能であり、
前記第2制御装置は、前記第1制御装置に対して前記回転速度制御の実行を指令可能であるとともに、前記回転速度制御の実行を前記第1制御装置に指令する場合に、当該回転速度制御の実行指令と共に、前記目標回転速度を示す目標指令と、前記回転速度制御の目的を示す目的情報と、を前記第1制御装置に出力し、
前記第1制御装置は、前記回転速度制御に用いる複数の制御設定を選択可能に備え、前記実行指令を受け取った場合には、当該実行指令と共に受け取った前記目的情報に応じて複数の前記制御設定の中から1つの前記制御設定を選択し、選択した前記制御設定を用いて、前記回転電機の回転速度を前記目標指令に示された前記目標回転速度に近づけるように前記回転速度制御を実行する。
【0009】
この構成によれば、第2制御装置が回転速度制御の実行を第1制御装置に指令するとき、その実行指令及び目標回転速度を示す目標指令に加え、回転速度制御の目的を示す目的情報も出力する。そして、実行指令及び目標指令と共に目的情報を受け取った第1制御装置は、当該目的情報に応じて複数の制御設定の中から1つの制御設定を選択し、選択した制御設定を用いて回転速度制御を実行する。このため、回転速度制御の目的に応じて、回転電機の回転速度制御を最適な制御設定で実行することができる。
【0010】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】目的情報と制御設定との対応付けの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
車両駆動システムの実施形態について、図面を参照して説明する。この車両駆動システム1は、内燃機関EG及び回転電機24の双方を備えた車両(ハイブリッド車両)を駆動するためのシステムである。本実施形態の車両駆動システム1は、車輪Wの第1の駆動力源としての内燃機関EGに駆動連結されるとともに車輪Wの第2の駆動力源としての回転電機24を備えた車両用駆動装置2と、当該車両用駆動装置2の各部を制御する制御系とを備えている。
【0013】
以下の説明において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を意味する。この概念には、2つの回転要素が一体回転するように連結された状態や、1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態が含まれる。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等)が含まれても良い。
【0014】
また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いる。
【0015】
図1に示すように、車両用駆動装置2は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材21と車輪Wに駆動連結される出力部材30とを結ぶ動力伝達経路に、切離用係合装置22と回転電機24と伝達係合装置25と自動変速機27と差動歯車装置29とを備えている。また、車両用駆動装置2は、前記動力伝達経路において各構成部材間での回転及び駆動力を伝達するため、入力部材21と中間部材23と変速入力部材26と変速出力部材28と出力部材30とを備えている。入力部材21、切離用係合装置22、回転電機24及び中間部材23、伝達係合装置25、変速入力部材26、自動変速機27、変速出力部材28、差動歯車装置29、並びに出力部材30は、前記動力伝達経路において、内燃機関EG(入力部材21)の側から記載の順に設けられている。また、車両用駆動装置2は、回転電機24に駆動連結されたオイルポンプOPを備えている。
【0016】
入力部材21は、内燃機関EGに駆動連結される。内燃機関EGは、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等)である。入力部材21は、例えば軸部材(入力軸)で構成されている。入力部材21は、内燃機関EGの出力部材である内燃機関出力部材(クランクシャフト等)と一体的に回転するように駆動連結される。入力部材21と内燃機関出力部材とは、直接的に連結されても良いし、ダンパ等の他の部材を介して連結されても良い。入力部材21は、切離用係合装置22を介して中間部材23に駆動連結されている。
【0017】
中間部材23は、回転電機24に駆動連結される。中間部材23は、例えば軸部材(中間軸)で構成されている。中間部材23は、回転電機24のロータ及びその出力部材である回転電機出力部材(ロータ軸等)と一体的に回転するように駆動連結される。中間部材23と回転電機24とは、直接的に連結されても良いし、他の部材を介して連結されても良い。また、中間部材23には、オイルポンプOPが駆動連結されている。
【0018】
切離用係合装置22は、入力部材21と中間部材23とを選択的に連結する。言い換えれば、切離用係合装置22は、内燃機関EGと回転電機24との間の連結を解除可能である。切離用係合装置22としては、油圧駆動式の摩擦係合装置を用いることができ、具体的には例えば湿式多板クラッチ等を用いることができる。本実施形態では、切離用係合装置22が「第1係合装置CL1」に相当する。
【0019】
回転電機24は、非回転部材であるケース(図示せず)に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータとを含む。回転電機24は、蓄電装置(図示せず)から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関EGの駆動力や車両の慣性力等によって発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させる。回転電機24のロータは、中間部材23と一体回転するように駆動連結されている。中間部材23は、伝達係合装置25を介して変速入力部材26に駆動連結されている。なお、変速入力部材26は、自動変速機27の入力部材である。変速入力部材26は、例えば軸部材(変速入力軸)で構成されている。
【0020】
伝達係合装置25は、中間部材23と変速入力部材26とを選択的に連結する。言い換えれば、伝達係合装置25は、回転電機24と自動変速機27との間の連結を解除可能である。伝達係合装置25としては、切離用係合装置22と同様、油圧駆動式の摩擦係合装置を用いることができ、具体的には例えば湿式多板クラッチ等を用いることができる。本実施形態では、伝達係合装置25が「第2係合装置CL2」に相当する。
【0021】
自動変速機27は、変速入力部材26の回転速度を変速して変速出力部材28に伝達する。本実施形態の自動変速機27は、有段自動変速機として構成されており、少なくとも1つの遊星歯車装置と少なくとも1つの変速用係合装置(クラッチ及びブレーキを含む)とを備えている。変速用係合装置としては、切離用係合装置22や伝達係合装置25と同様、油圧駆動式の摩擦係合装置を用いることができ、具体的には例えば湿式多板クラッチ等を用いることができる。
【0022】
なお、第1係合装置CL1としての切離用係合装置22、第2係合装置CL2としての伝達係合装置25、及び変速用係合装置は、それぞれ、直結係合状態とスリップ係合状態と解放状態とを切替可能である。直結係合状態は、各係合装置の両側の回転部材が一体回転するように係合されている状態である。スリップ係合状態は、各係合装置の両側の回転部材が差回転を有しつつトルク伝達するように係合している状態である。これらの直結係合状態とスリップ係合状態とを含めて、係合状態と言う場合がある。解放状態は、各係合装置の両側の回転部材間で回転及びトルクが伝達されない状態である。
【0023】
自動変速機27は、変速用係合装置のそれぞれの係合の状態に応じて、複数の変速段のいずれかを選択的に形成可能である。そして、自動変速機27は、変速入力部材26の回転速度を、形成された変速段に応じた変速比に基づいて変速して変速出力部材28に伝達する。なお、「変速比」は、変速出力部材28の回転速度に対する変速入力部材26の回転速度の比であり、変速入力部材26の回転速度を変速出力部材28の回転速度で除算した値として算出される。変速出力部材28は、例えば軸部材(変速出力軸)で構成されている。
【0024】
変速出力部材28は、差動歯車装置29を介して左右一対の出力部材30(例えば軸部材(出力軸))に駆動連結され、さらに左右一対の車輪Wに駆動連結されている。これにより、車両用駆動装置2は、内燃機関EG及び回転電機24の少なくとも一方の駆動力を車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。
【0025】
上述したように、オイルポンプOPは中間部材23に駆動連結されている。オイルポンプOPは、中間部材23と一体回転する回転電機24によって駆動されて油を吐出し、その吐出した油を、図示が省略されている油圧制御装置を介して自動変速機27(変速用係合装置)に供給する。また、オイルポンプOPは、吐出した油を、油圧制御装置を介して切離用係合装置22や伝達係合装置25に供給する。
【0026】
図1に示すように、車両用駆動装置2の各部を制御する制御系は、本実施形態では、統合制御装置41、内燃機関制御装置42、クラッチ制御装置43、回転電機制御装置44、及び自動変速機制御装置45を備えている。これらの各制御装置は、メモリ等の記憶媒体に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方によって構成されている。各機能部は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。
【0027】
また、制御系は、車両用駆動装置2が搭載された車両の各部に備えられた各種センサの検出結果の情報を取得可能に構成されている。このようなセンサとしては、例えば入力部材21及びそれと一体回転する内燃機関EGの回転速度を検出するセンサ、中間部材23及びそれと一体回転する回転電機24の回転速度を検出するセンサ、変速入力部材26の回転速度を検出するセンサ、及び変速出力部材28の回転速度を検出するセンサ等が例示される。また、センサとして、アクセル開度やブレーキ操作量、蓄電装置の蓄電量等を検出するセンサ等が含まれても良い。
【0028】
統合制御装置41は、内燃機関EG、切離用係合装置22、回転電機24、伝達係合装置25、及び自動変速機27(変速用係合装置)等に対して行われる各種の制御(トルク制御、回転速度制御、係合制御等)を車両全体として統合する制御を行う。統合制御装置41は、内燃機関制御装置42を介して内燃機関EGを制御し、クラッチ制御装置43を介して切離用係合装置22及び伝達係合装置25の係合の状態を制御し、回転電機制御装置44を介して回転電機24を制御する。また、統合制御装置41は、自動変速機制御装置45を介して自動変速機27(変速用係合装置の係合の状態)を制御する。本実施形態では、自動変速機制御装置45を介して自動変速機27を制御する統合制御装置41が、「第2制御装置CT2」に相当する。
【0029】
統合制御装置41は、センサ検出情報(主に、アクセル開度及び車速の情報)に基づいて、車両の駆動のために要求される車両要求トルクを算出する。また、統合制御装置41は、センサ検出情報(主に、アクセル開度、車速、及び蓄電装置の蓄電量の情報)に基づいて、走行モードを決定する。統合制御装置41が選択可能な走行モードには、電動走行モードとハイブリッド走行モードとが含まれる。
【0030】
電動走行モードは、回転電機24の駆動力のみを車輪Wに伝達させて車両を走行させる走行モードである。電動走行モードは、切離用係合装置22(第1係合装置CL1)の解放状態かつ伝達係合装置25(第2係合装置CL2)の係合状態で実現される。ハイブリッド走行モードは、切離用係合装置22(第1係合装置CL1)及び伝達係合装置25(第2係合装置CL2)の両方の係合状態で実現される。電動走行モードとハイブリッド走行モードとの切り替えは、切離用係合装置22(第1係合装置CL1)の係合の状態を切り替えることによって行うことができる。統合制御装置41は、例えば電動走行モードからハイブリッド走行モードへの移行の際に、内燃機関始動制御を実行する。その際、統合制御装置41は、内燃機関始動制御の実行に伴う各種の制御指令を出力する。一例として、本実施形態の統合制御装置41(第2制御装置CT2)は、内燃機関始動制御の実行の際、クラッチ制御装置43に対して各係合装置22,25をスリップ係合状態とする制御の実行を指令するとともに、回転電機制御装置44に対して回転速度制御の実行を指令する。
【0031】
内燃機関制御装置42は、内燃機関EGを制御する。内燃機関制御装置42は、例えば統合制御装置41からの指令に基づき、車両の走行状態に応じて内燃機関EGのトルク制御と回転速度制御とを切り替えることが可能である。内燃機関EGのトルク制御は、内燃機関EGに目標トルクを指令し、内燃機関EGの出力トルクをその目標トルクに追従させる制御である。内燃機関EGの回転速度制御は、内燃機関EGに目標回転速度を指令し、内燃機関EGの回転速度をその目標回転速度に追従させるように出力トルクを決定する制御である。
【0032】
クラッチ制御装置43は、第1係合装置CL1である切離用係合装置22の係合の状態や、第2係合装置CL2である伝達係合装置25の係合の状態を制御する。クラッチ制御装置43は、各係合装置の係合の状態を、統合制御装置41によって決定された走行モードを実現するように制御する。また、クラッチ制御装置43は、モード移行の際に、各係合装置に供給される油圧(ひいては伝達トルク容量)を、所定態様で変化するように制御する。クラッチ制御装置43は、オイルポンプOPから供給される作動油の油圧を油圧制御装置(図示せず)で調圧して、その調圧された作動油を各係合装置に供給する。
【0033】
回転電機制御装置44は、回転電機24を制御する。回転電機制御装置44は、例えば統合制御装置41からの指令に基づき、車両の走行状態に応じて回転電機24のトルク制御と回転速度制御とを実行可能である。回転電機24のトルク制御は、回転電機24に目標トルクを指令し、回転電機24の出力トルクをその目標トルクに追従させる制御である。回転電機24の回転速度制御は、回転電機24に目標回転速度を指令し、回転電機24の回転速度をその目標回転速度に追従させるように出力トルクを決定する制御である。なお、回転電機24のトルク制御と回転速度制御とを同時に実行することも可能である。本実施形態では、回転電機制御装置44が「第1制御装置CT1」に相当する。
【0034】
本実施形態において、回転電機制御装置44は、回転電機24の回転速度制御に用いる制御設定を、複数の制御設定の中から選択可能に備えている。ここで、制御設定とは、回転速度制御における細かな制御特性を定めた設定のことである。本実施形態では、回転電機制御装置44が選択可能な複数の制御設定には、少なくとも応答性優先設定と安定性優先設定とが含まれている。
【0035】
応答性優先設定は、回転速度制御における応答性を優先した制御設定である。すなわち、応答性優先設定は、回転電機24の回転速度をいち早く目標回転速度に近づけることを優先した制御設定である。応答性優先設定は、少なくとも、安定性優先設定に比べて回転電機24の回転速度を早く目標回転速度に近づけることができる制御設定となっている。応答性優先設定は、例えば、回転電機24の回転速度フィードバック制御におけるフィードバックゲイン(PID制御のゲイン)が相対的に高くされた設定である。或いは、応答性優先設定は、例えば、回転電機24の回転速度フィードバック制御の実行中に、外乱オブザーバを作動させる設定である。ここで、外乱オブザーバは、回転電機24の回転速度の追従を妨げるトルク(外乱トルク)を推定し、この推定した外乱トルクを打ち消すトルクを回転速度フィードバック制御におけるフィードバックトルクに加算する制御器である。外乱オブザーバとしては、一般的な仕様のものを適宜使用することができる。
【0036】
特に、応答性優先設定において外乱オブザーバを作動させる場合には、外乱耐性が高く外乱に対して応答性高く補正できるため、回転電機24の回転速度の追従性が高くなるので好ましい。
【0037】
安定性優先設定は、回転速度制御における安定性を優先した制御設定である。すなわち、安定性優先設定は、回転電機24の回転速度フィードバック制御におけるフィードバックトルクの変動を極力抑えることを優先した制御設定である。安定性優先設定は、少なくとも、応答性優先設定に比べて、回転電機24の回転速度フィードバック制御におけるフィードバックトルクの変動を抑えることができる制御設定となっている。安定性優先設定は、例えば、回転電機24の回転速度フィードバック制御におけるフィードバックゲイン(PID制御のゲイン)が相対的に低くされた設定である。或いは、応答性優先設定は、例えば、回転電機24の回転速度フィードバック制御の実行中に、外乱オブザーバを非作動とする設定である。外乱オブザーバに関しては、上述したとおりである。
【0038】
回転電機制御装置44は、回転電機24の回転速度制御を実行する場合、複数の制御設定の中から1つの制御設定を選択し、選択した制御設定を用いて、回転速度制御を実行する。本実施形態では、回転電機制御装置44は、応答性優先設定及び安定性優先設定のいずれかを択一的に用いて、回転速度制御を実行する。制御設定の選択方法に関しては、後述する。
【0039】
自動変速機制御装置45は、自動変速機27を制御する。自動変速機制御装置45は、自動変速機27に備えられる変速用係合装置の係合の状態を制御する。クラッチ制御装置43は、各変速用係合装置の係合の状態を、統合制御装置41によって決定された目標変速段を形成するように制御する。クラッチ制御装置43は、オイルポンプOPから供給される作動油の油圧を油圧制御装置(図示せず)で調圧して、その調圧された作動油を各変速用係合装置に供給する。
【0040】
以下、回転電機24の回転速度制御における制御設定の選択方法に関して、一例として、内燃機関始動制御を例に挙げて説明する。
【0041】
上述したように、統合制御装置41は、内燃機関始動制御の実行の際、クラッチ制御装置43に対して各係合装置22,25をスリップ係合状態とする制御の実行を指令するとともに、回転電機制御装置44に対して回転速度制御の実行を指令する。切離用係合装置22をスリップ係合状態とするのは、切離用係合装置22に伝達トルク容量を持たせて回転電機24のトルクによって内燃機関EGをクランキングするためである。伝達係合装置25をスリップ係合状態とするのは、内燃機関EGの初爆時のトルク変動が車輪Wに伝達されないようにするためである。
【0042】
回転電機24の回転速度制御を実行するのは、回転電機24の回転速度を上昇させて各係合装置22,25を確実にスリップ係合状態とするためである。特に、伝達係合装置25の係合の状態との関係では、それ以前の直結係合状態からスリップ係合状態とするために、回転電機24の回転速度制御により、差回転速度をゼロの状態から所定速度まで増加させる。このように、回転電機24の回転速度制御は、差回転速度ゼロの伝達係合装置25に差回転速度を生成させること(以下、「差回転生成」と言う。)が、目的の1つとして実行される。
【0043】
また、差回転速度が所定速度に到達した後は、スリップ係合状態が安定的に継続するように、伝達係合装置25の差回転速度を維持させる。このように、回転電機24の回転速度制御は、所定速度に到達した伝達係合装置25の差回転速度を維持させること(以下、「差回転維持」と言う。)も、目的の1つとして実行される。
【0044】
さらに、内燃機関EGの始動後にその出力トルクが安定した後は、もはや伝達係合装置25をスリップ係合状態とし続ける必要がなくなるので、例えば伝達係合装置25を再度係合させるために、伝達係合装置25の差回転速度をゼロに向かって減少させる。このように、回転電機24の回転速度制御は、内燃機関EGの始動完了により役割を終えた伝達係合装置25の差回転速度をゼロに向けて収束させること(以下、「差回転収束」と言う。)も、目的の1つとして実行される。
【0045】
このように、内燃機関始動制御に伴う回転電機24の回転速度制御ひとつを取っても、その局面毎に、回転速度制御の目的は異なるものとなる。そして、回転電機24の回転速度制御に求められる制御特性も、目的に応じて異なるものとなる場合が多い。
【0046】
このような点を考慮して、本実施形態の統合制御装置41(第2制御装置CT2)は、回転速度制御の実行を回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に指令する場合に、回転速度制御の目的を示す目的情報を合わせて出力する。通常であれば、回転速度制御の実行指令と共に目標回転速度を示す目標指令だけが出力されるのに対して、本実施形態では、実行指令及び目標指令に加え、目的情報が、これらと共に回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に出力される。
【0047】
図2に示すように、目的情報は、その目的の対象物と動作との組み合わせによって構成されている。先に説明したように、内燃機関始動制御に伴う回転電機24の回転速度制御は、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)の差回転生成、伝達係合装置25の差回転維持、及び伝達係合装置25の差回転収束を目的として行われる場合がある。これらの場合、目的の対象物はいずれも「伝達係合装置25」であり、目的の動作はそれぞれ「差回転生成」、「差回転維持」、及び「差回転収束」であり、これらの組み合わせによって目的情報の一部が構成されている。
【0048】
なお、回転電機24の回転速度制御は、他の例として、長時間の車両停止によって抜けてしまった油をオイルポンプOPやそれから延びる油路に予充填する目的でも実行される場合がある。中間部材23に駆動連結されたオイルポンプOPを回転電機24のトルクによって駆動して油を吐出し、オイルポンプOPや油路に油を予充填するのである。この場合、目的の対象物は「オイルポンプOP」であり、目的の動作は予め定められた起動シーケンスに従う予充填を表す「起動処理」であり、これらの組み合わせによって目的情報の一部が構成されている。
【0049】
このように、目的情報は、目的の対象物を用いて行わせる動作の内容を含んでおり、具体的には、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)を用いて行わせる動作の内容と、オイルポンプOPを用いて行わせる動作の内容との少なくとも一方(本実施形態では両方)を含んでいる。
【0050】
統合制御装置41(第2制御装置CT2)が実行指令及び目標指令と共に目的情報を出力すると、それらを受け取った回転電機制御装置44は、目的情報に応じて、回転電機24の回転速度を目標指令に示された目標回転速度に近づけるように回転速度制御を実行する。回転電機制御装置44は、目的情報に応じた制御設定で、回転電機24の回転速度制御を実行する。本実施形態では、
図2に示すように、目的情報(目的の対象物と動作との組み合わせ)毎に、その目的に適した制御設定が予め対応付けられている。
【0051】
上述した例に倣って説明すると、「伝達係合装置25」の「差回転生成」には「応答性優先設定」が対応付けられている。「伝達係合装置25」の「差回転維持」には、「応答性優先設定」又は「安定性優先設定」が対応付けられており、より詳細には、内燃機関EGのクランキング中には「応答性優先設定」が、内燃機関EGのクランキング終了後には「安定性優先設定」が対応付けられている。「差回転収束」には「安定性優先設定」が対応付けられている。また、「オイルポンプOP」の「起動処理」には「安定性優先設定」が対応付けられている。なお、
図2に示したものは理解容易化のために単純化した代表例であり、他の目的情報や他の制御設定が含まれ得ることは言うまでもない。
【0052】
図2に示した例では、回転電機24の回転速度制御の目的が「伝達係合装置25」の「差回転生成」であると、回転電機制御装置44は、「応答性優先設定」の制御設定で回転速度制御を実行する。また、回転電機24の回転速度制御の目的が「伝達係合装置25」の「差回転維持」である場合において、内燃機関EGがクランキング中であると、回転電機制御装置44は、「応答性優先設定」の制御設定で回転速度制御を実行する。また、回転電機24の回転速度制御の目的が「伝達係合装置25」の「差回転維持」である場合において、内燃機関EGがクランキング終了後であると、回転電機制御装置44は、「安定性優先設定」の制御設定で回転速度制御を実行する。また、回転電機24の回転速度制御の目的が「伝達係合装置25」の「差回転収束」であると、回転電機制御装置44は、「安定性優先設定」の制御設定で回転速度制御を実行する。また、回転電機24の回転速度制御の目的が「オイルポンプOP」の「起動処理」であると、回転電機制御装置44は、「安定性優先設定」の制御設定で回転速度制御を実行する。
【0053】
内燃機関始動制御における各制御の具体例について、
図3のタイムチャートを参照しつつ説明すると、時刻T01において内燃機関EGの始動要求が発せられると、伝達係合装置25の油圧が次第に低下される。この間、回転電機制御装置44は回転電機24のトルク制御を実行している。時刻T02において伝達係合装置25の油圧が所定油圧まで低下すると、統合制御装置41により、回転電機24の回転速度制御の実行指令が、目標指令及び目的情報と共に出力される。ここでの目的情報は、伝達係合装置25を適切にスリップ係合状態とするための、「伝達係合装置25」の「差回転生成」である。
【0054】
図2を参照して説明したように「伝達係合装置25」の「差回転生成」には「応答性優先設定」が対応付けられているので、実行指令を受け取った回転電機制御装置44は、「応答性優先設定」を選択してそれに基づいて回転電機24の回転速度制御を実行する。本実施形態では、回転電機24の回転速度制御の実行中に外乱オブザーバを作動させる。これにより、回転電機24の回転速度を早く目標回転速度に近づけることができ、伝達係合装置25の目標差回転を迅速に生成して伝達係合装置25を迅速にスリップ係合状態とすることができる。
【0055】
時刻T03において伝達係合装置25の目標差回転が達成されると、統合制御装置41により、目的情報が新たに出力される(更新される)。ここでの目的情報は、伝達係合装置25のスリップ係合状態を適切に維持させるための、「伝達係合装置25」の「差回転維持」である。なお、この時点では内燃機関EGは停止しているが、それ以降にクランキングが開始されるため、統合制御装置41は、内燃機関EGの状態が「クランキング中」である旨の情報を取得する。
【0056】
「伝達係合装置25」の「差回転維持(クランキング中)」には「応答性優先設定」が対応付けられているので、回転速度制御を実行中の回転電機制御装置44は、「応答性優先設定」をそのまま継続し、それに基づいて回転電機24の回転速度制御を実行する。また、外乱オブザーバも作動を継続する。これにより、回転電機24の回転速度を目標回転速度付近に張り付けることができ、伝達係合装置25の目標差回転を適切に維持することができる。
【0057】
このため、その後、切離用係合装置22に油圧を供給して回転電機24のトルクによって内燃機関EGの回転速度を上昇させて当該内燃機関EGを始動させる際に生じるトルク変動が車輪Wに伝達されてしまうのを、適切に回避できる。このとき、内燃機関EGのクランキングに伴って切離用係合装置22の伝達トルクが変動したとしても、外乱としてのそのトルク変動の影響を応答性高く補正して、伝達係合装置25の目標差回転を適切に維持し、伝達係合装置25のスリップ係合状態を適切に維持することができる。
【0058】
時刻T04において内燃機関EGのクランキングが終了すると、統合制御装置41はその旨の情報を取得する。「伝達係合装置25」の「差回転維持(クランキング終了後)」には「安定性優先設定」が対応付けられているので、回転速度制御を実行中の回転電機制御装置44は、「応答性優先設定」から「安定性優先設定」に切り替え、それに基づいて回転電機24の回転速度制御を実行する。本実施形態では、外乱オブザーバを非作動とする。これにより、フィードバックトルクの変動を抑えることができ、伝達係合装置25の目標差回転が達成された状態を安定的に継続させて伝達係合装置25のスリップ係合状態を適切に維持させることができる。
【0059】
その後、時刻T05において内燃機関EGの出力トルクが安定すると、スリップ係合状態に維持されていた伝達係合装置25を、再度、直結係合状態に戻す。このとき、伝達係合装置25の差回転速度を減少させて同期係合させるため、統合制御装置41により、目標指令及び目的情報が新たに出力される(更新される)。ここでの目標指令は、変速入力部材26の回転速度であり、目的情報は、伝達係合装置25のスリップ係合状態を解消するための、「伝達係合装置25」の「差回転収束」である。
【0060】
「伝達係合装置25」の「差回転収束」には「安定性優先設定」が対応付けられているので、回転速度制御を実行中の回転電機制御装置44は、「安定性優先設定」をそのまま継続し、それに基づいて回転電機24の回転速度制御を実行する。外乱オブザーバは非作動のままである。これにより、フィードバックトルクの変動を抑えることができ、伝達係合装置25の差回転速度を漸減させてスムーズにゼロに近づけることができる。よって、時刻T06において伝達係合装置25の同期係合を適切に行うことができ、伝達係合装置25の直結係合状態への移行に伴うトルク変動の発生を適切に回避できる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の車両駆動システム1は、
内燃機関EGに駆動連結される入力部材21と車輪Wに駆動連結される出力部材30とを結ぶ動力伝達経路に、入力部材21の側から順に切離用係合装置22(第1係合装置CL1)、回転電機24、及び伝達係合装置25(第2係合装置CL2)が設けられているとともに、動力伝達経路における回転電機24よりも出力部材30側に自動変速機27が設けられた車両用駆動装置2と、
回転電機24を制御する回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)と、
少なくとも自動変速機27を制御する統合制御装置41(第2制御装置CT2)と、を備えた車両駆動システム1であって、
回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)は、回転電機24の回転速度を目標回転速度に近づけるように制御する回転速度制御を実行可能であり、
統合制御装置41(第2制御装置CT2)は、回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に対して回転速度制御の実行を指令可能であるとともに、回転速度制御の実行を回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に指令する場合に、当該回転速度制御の実行指令と共に、目標回転速度を示す目標指令と、回転速度制御の目的を示す目的情報と、を回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に出力し、
回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)は、回転速度制御に用いる複数の制御設定を選択可能に備え、実行指令を受け取った場合には、当該実行指令と共に受け取った目的情報に応じて複数の制御設定の中から1つの制御設定を選択し、選択した制御設定を用いて、回転電機24の回転速度を目標指令に示された目標回転速度に近づけるように回転速度制御を実行する。
【0062】
この構成によれば、統合制御装置41(第2制御装置CT2)が回転速度制御の実行を回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に指令するとき、その実行指令及び目標回転速度を示す目標指令に加え、回転速度制御の目的を示す目的情報も出力する。そして、実行指令及び目標指令と共に目的情報を受け取った回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)は、当該目的情報に応じて複数の制御設定の中から1つの制御設定を選択し、選択した制御設定を用いて回転速度制御を実行する。このため、回転速度制御の目的に応じて、回転電機24の回転速度制御を最適な制御設定で実行することができる。例えば、回転速度制御の目的毎に、それぞれに応じた最適な制御設定を定めておくことで、回転電機24の回転速度制御を最適な制御設定で実行することができる。
【0063】
この場合において、
目的情報は、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)を用いて行わせる動作の内容を含むことが好ましい。
【0064】
この構成によれば、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)を用いた各種の動作を、その目的に適合するように適切に行うことができる。
【0065】
また、
複数の制御設定には、少なくとも応答性優先設定と安定性優先設定とが含まれ、
応答性優先設定は、安定性優先設定に比べて、回転電機24の回転速度を早く目標回転速度に近づけることができる制御設定であり、
安定性優先設定は、応答性優先設定に比べて、前記回転速度制御におけるフィードバックトルクの変動を抑えることができる制御設定であることが好ましい。
【0066】
この構成によれば、回転電機24の回転速度制御において応答性優先設定を選択することで、回転電機24の回転速度を早く目標回転速度に近づけることができる。一方、回転電機24の回転速度制御において安定性優先設定を選択することで、回転電機24の回転速度制御におけるフィードバックトルクの変動を抑えることができる。そして、回転電機24の回転速度制御を伴う各制御に、それぞれの目的に応じて応答性優先設定及び安定性優先設定を含む各種制御設定を適切に紐付けておくことで、回転電機24の回転速度制御をその目的に応じて適切に行うことができる。
【0067】
また、
回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)は、
目的情報に示された回転速度制御の目的が、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)のスリップ係合開始のための差回転生成である場合、応答性優先設定を選択し、
目的情報に示された回転速度制御の目的が、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)のスリップ係合終了のための差回転収束である場合、安定性優先設定を選択することが好ましい。
【0068】
この構成によれば、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)のスリップ係合開始のために差回転を生成したい場合に、応答性優先設定を選択することで、回転電機24の回転速度を早く目標回転速度に近づけて目標差回転を迅速に生成することができる。また、例えば差回転生成後に、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)のスリップ係合状態を終了させたい場合に、安定性優先設定を選択することで、回転電機24の回転速度制御におけるフィードバックトルクの変動を抑えて、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)のスリップ係合状態を円滑に解消することができる。
【0069】
また、
車両用駆動装置2は、回転電機24に駆動連結されたオイルポンプOPを備え、
目的情報は、オイルポンプOPを用いて行わせる動作の内容を含むことが好ましい。
【0070】
この構成によれば、オイルポンプOPを用いた各種の動作を、その目的に適合するように適切に行うことができる。
【0071】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、回転電機24の回転速度制御の目的が「伝達係合装置25」の「差回転維持」である場合に、内燃機関EGがクランキング中であるか否かに応じて「応答性優先設定」と「安定性優先設定」とが切り替えられる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、回転電機24の回転速度制御の目的が「伝達係合装置25」の「差回転維持」である場合に、一律に「応答性優先設定」が選択されても良い。
【0072】
(2)上記の実施形態では、伝達係合装置25(第2係合装置CL2)を用いて行わせる動作の内容やオイルポンプOPを用いて行わせる動作の内容が目的情報とされている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、車両用駆動装置2に備えられる他の構成要素を用いて行わせる動作の内容(例えば、「自動変速機27」の「変速」等)が目的情報とされても良い。
【0073】
(3)上記の実施形態では、回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)が選択可能な複数の制御設定として、応答性優先設定及び安定性優先設定の2つを例に挙げて説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、これら以外の他の制御設定が選択可能とされても良い。例えば、応答性と安定性とを適度にバランスさせた中庸設定や、応答性優先設定や安定性優先設定に比べて回転電機24の回転速度を精度良く目標回転速度に近づけることができる高精度優先設定等が選択可能とされても良い。
【0074】
(4)上記の実施形態では、自動変速機制御装置45を介して自動変速機27を間接的に制御する統合制御装置41が回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に対して回転速度制御の実行を指令可能に構成され、当該統合制御装置41が第2制御装置CT2とされた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば自動変速機制御装置45が直接的に回転電機制御装置44(第1制御装置CT1)に対して回転速度制御の実行を指令可能に構成されても良い。このような構成では、自動変速機制御装置45が「第2制御装置CT2」に相当することになる。このように自動変速機制御装置45が回転電機制御装置44に対して回転速度制御の実行を指令する場合に、自動変速機制御装置45から出力される目標指令や目的情報が、統合制御装置41において調停されてから回転電機制御装置44に出力されるように構成されても良い。
【0075】
(5)上記の実施形態では、内燃機関始動制御に伴って実行される回転電機24の回転速度制御における制御設定を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば変速制御や各係合装置の応答特性の学習制御等の他の制御に伴って実行される回転電機24の回転速度制御にも、本開示の技術を適用することができる。
【0076】
(6)上記の実施形態では、車両用駆動装置2が回転電機24よりも出力部材30側に伝達係合装置25を備え、当該伝達係合装置25が第2係合装置CL2とされた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、伝達係合装置25が具備されずに回転電機24が変速入力部材26と一体回転するように駆動連結されるとともに、自動変速機27内の複数の変速用係合装置の中の1つが伝達係合装置25を代用する構成とされても良い。このような構成では、複数の変速用係合装置の中の1つが「第2係合装置CL2」に相当することになる。
【0077】
(7)上記の実施形態では、車両用駆動装置2に備えられる自動変速機27が有段自動変速機で構成されている例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、自動変速機27が例えば無段自動変速機で構成されても良い。
【0078】
(8)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1:車両駆動システム、2:車両用駆動装置、21:入力部材、22:切離用係合装置、23:中間部材、24:回転電機、25:伝達係合装置、26:変速入力部材、27:自動変速機、28:変速出力部材、29:差動歯車装置、30:出力部材、41:統合制御装置、42:内燃機関制御装置、43:クラッチ制御装置、44:回転電機制御装置、45:自動変速機制御装置、CL1:第1係合装置、CL2:第2係合装置、CT1:第1制御装置、CT2:第2制御装置、EG:内燃機関、OP:オイルポンプ、W:車輪