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特開2023-150005ハードコート樹脂組成物及びハードコートフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150005
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ハードコート樹脂組成物及びハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/14 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 181/02 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231005BHJP
   C08F 283/00 20060101ALI20231005BHJP
   C08F 299/06 20060101ALI20231005BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D175/14
C09D181/02
C09D7/65
C08F283/00
C08F299/06
C08F290/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058866
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優介
【テーマコード(参考)】
4J026
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J026AA20
4J026AB06
4J026AC18
4J026AC26
4J026BA11
4J026BA29
4J026BA50
4J026BB03
4J026DB06
4J026DB36
4J026FA05
4J026GA06
4J026GA07
4J038DK001
4J038DK002
4J038FA281
4J038GA12
4J038KA03
4J038KA09
4J038NA07
4J038NA11
4J038NA20
4J038PA17
4J038PB08
4J038PB09
4J038PC08
4J127AA03
4J127BB051
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC061
4J127BC121
4J127BD421
4J127BE281
4J127BE28Y
4J127BF621
4J127BF62Y
4J127BF641
4J127BF64Y
4J127BG271
4J127BG27Z
4J127CB371
4J127DA28
4J127DA51
4J127EA13
4J127FA08
(57)【要約】
【課題】低硬化収縮でカールが小さく、また優れた耐摩耗性を有し、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さい光硬化性の樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有するハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】多官能のウレタン(メタ)アクリレートと、ポリチオフェン系化合物と、反応性官能基を有するフッ素系化合物と、光重合開始剤と、を含む組成物であり、前記ウレタン(メタ)アクリレートがヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されたウレタン(メタ)アクリレートであり、前記ポリチオフェン系化合物の配合量が光重合成分100重量部に対し0.2~1.3重量部であり、前記フッ素系化合物の配合量が0.3~1.1部であることを特徴とするハードコート樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能のウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ポリチオフェン系化合物(B)と、反応性官能基を有するフッ素系化合物(C)と、光重合開始剤(D)と、を含む組成物であり、前記(A)がヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されたウレタン(メタ)アクリレートであり、光重合成分100重量部に対する前記(B)の配合量が0.2~1.3重量部であり、前記(C)の配合量が0.3~1.1部であることを特徴とするハードコート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)のポリチオフェン系化合物が、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)とポリ(4‐スチレンスルホン酸塩)であることを特徴とする請求項1記載のハードコート樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)がヘキサメチレンジイソシアネートと、ペンタエリスリトールトリアクリレート又はグリセリンジアクリレートの反応物であるウレタンアクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載のハードコート樹脂組成物。
【請求項4】
プラスチックフィルム基材上に請求項1~3いずれか記載の樹脂組成物硬化層を有することを特徴とするハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性のハードコート樹脂組成物、及びそれを用いたハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置と入力手段を兼ね備えたタッチパネルは幅広い分野で使用されている。特にタッチペンを入力手段で利用したタッチパネルは、文字や複雑な図形を直接入力することで、より直感的な操作が可能となっており、タブレット型PC,ペンタブレット、スマートフォン、携帯用ゲーム機器等の広範囲で採用されている。
【0003】
タッチパネルは画面がむき出しの状態であり、指や膚、ペンなどが直接接触するため、皮脂等の汚れやキズがつき易いという問題がある。このような問題に対応するため、タッチパネルの表面に汚れがつきにくい、汚れが落としやすい、すべりが良くキズがつきにくい等の技術が開発され、例えば、加水分解性シリル基またはシラノール基と、ラジカル重合性化合物と、重合開始剤を含有するハードコート層と表面層とが順に積層されたハードコートフィルムなどが提案されている(特許文献1)。
【0004】
このようなハードコートフィルムを使用することで、汚れ付着や擦傷の発生をかなり防止できるようになってきたが、特にタッチペンを用いる場合は、表面機能を長期に渡り持続することができるような高度な耐久性を要求されるようになってきた。しかしながら、良好な光学特性や低カールといった基本的な特性と共に、十分な耐摩耗性を有するハードコートフィルムはあまり存在せず、例えば消しゴムのようにフィルム表面をこすり取るもので擦過された場合は、水接触角が大きく変化し防汚性が低下する等の課題があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6519771号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、低硬化収縮でカールが小さく、また優れた耐摩耗性を有し、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さい光硬化性の樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有するハードコート(以下HCという)フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、多官能のウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ポリチオフェン系化合物(B)と、反応性官能基を有するフッ素系化合物(C)と、光重合開始剤(D)と、を含む組成物であり、前記(A)がヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されたウレタン(メタ)アクリレートであり、光重合成分100重量部に対する前記(B)の配合量が0.2~1.3重量部であり、前記(C)の配合量が0.3~1.1部であることを特徴とするハードコート樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(B)のポリチオフェン系化合物が、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)とポリ(4‐スチレンスルホン酸塩)であることを特徴とする請求項1記載のハードコート樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、前記(A)がヘキサメチレンジイソシアネートと、ペンタエリスリトールトリアクリレート又はグリセリンジアクリレートの反応物であるウレタンアクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載のハードコート樹脂組成物を提供する。
【0010】
請求項4の発明は、プラスチックフィルム基材上に請求項1~3いずれか記載の樹脂組成物硬化層を有することを特徴とするハードコートフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、カールが小さくまた良好な光学特性と共に、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さいという優れた耐摩耗性を有しており、タッチペンを入力手段とするようなタッチパネル用HCフィルムに用いるHC樹脂として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のHC樹脂組成物は、多官能のウレタン(メタ)アクリレート(以下ウレアクという)(A)と、ポリチオフェン系化合物(B)と、反応性官能基を有するフッ素系化合物(C)と、光重合開始剤(D)を含む。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0014】
本発明で使用される多官能のウレアク(A)は、耐候安定性に優れ延伸性を有するヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIという)から誘導されウレアクであり、ウレタン結合に由来する水素結合の凝集力により優れた耐擦傷性を有しているバインダーである。例えばHDIと水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応物が挙げられる。
【0015】
前記(A)の合成で用いられる水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリントリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の5官能(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種類を組み合わせて使用することができる。これらの中では反応性と硬化収縮の兼ね合いから2~4官能が好ましく、2~3官能が更に好ましい。特に反応性が良好で高硬度な皮膜を得ることができる点でペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETAという)が、またカールを非常に小さくできる点でグリセリンジアクリレート(以下GDAという)が好ましい。
【0016】
前記(A)の合成方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。反応は無溶媒下でも良いが、(A)の分子量が大きくなるにつれて高粘度となり攪拌が困難となる場合があるため、ブタノン等のケトン類、キシレン等の芳香族不活性溶媒などを用いても良い。また(メタ)アクリレートの水酸基とイソシアネート基との反応には、触媒を用いることが好ましい。その場合の例としては、ジブチルスズジラウレート等の錫系、ナフテン酸コバルト等の金属アルコキシド系が挙げられる。反応温度は適宜設定可能であるが40~120℃が好ましく、60~100℃が更に好ましい。
【0017】
前記(A)の官能基数は3~9官能が好ましく、4~6官能が更に好ましい。3官能以上とすることで十分な反応性を確保することができ、9官能以下とすることで硬化収縮をコントロールしカールを小さくコントロールすることができる。
【0018】
前記(A)の重量平均分子量(以下Mwという)は500~10,000が好ましく、1,000~5,000が更に好ましい。500以上とすることで十分な皮膜強度と低カール性を確保でき、10,000以下とすることで作業性の良い粘度に調整しやすくできる。なおMwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、スチレンジビニルベンゼン基材の充填剤を用いたカラムでテトラハイドロフラン溶離液を用いて、標準ポリスチレン換算の分子量を測定、算出した。
【0019】
前記(A)の配合量は、固形分全量に対し55~98重量%が好ましく、60~97重量%が更に好ましく、65~96重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、十分な光学特性と低カール性を確保する共に、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さい特性を得ることができる。
【0020】
本発明で使用されるポリチオフェン系化合物(B)は、含硫黄複素環化合物であるチオフェンの重合体で、ドーピングにより共役n軌道に対して電子を付与または除去すると、導電性を持つようになる化合物である。特にポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOTという)は、ポリ(4‐スチレンスルホン酸塩)(以下PSSという)との組合せにより導電性が向上すると共に、環境安定性が高く、また薄膜での光透過性が高い点で好ましい。発明者はこのポリチオフェン系化合物を特定のバインダーと組合せることで、低カール性を確保すると共に、撥水性を安定的に維持できることを見出した。
【0021】
前記(B)の配合量は、光重合成分100重量部に対し0.2~1.3重量部であり、0.25~1.2重量部が好ましく、0.3~1.1重量部が更に好ましい。0.2重量部未満では消しゴムによる擦過後の水接触角が低下し、撥水性を安定的に維持できなくなる傾向があり、1.3重量部超でも同様に、撥水性の安定維持ができなくなる傾向あり、また全光線透過率も低下する傾向がある。
【0022】
前記(B)を含む硬化皮膜の表面抵抗率は、初期段階で1.00×10~9.99×1011Ω/□であることが好ましい。この範囲とすることで、撥水性を安定的に維持することができる。導電性の向上により水接触角の低下を抑えることができる理由は明らかではないが、消しゴムを擦過する際に発生する静電気を発生しにくくすることで、皮膜へのダメージを低減でき、その結果として水接触角の低下を抑えることができるものと推測される。
【0023】
本発明で使用される反応性官能基を有するフッ素系化合物(C)は、防汚性(防指紋性)と撥水性を付与する目的で配合する。(A)と重合反応する反応性官能基を有しているため、硬化後の皮膜から経時的に欠落することがなく、効果を長期的に持続させることが可能である。特に窒素パージ(脱酸素)条件下にて光硬化させた場合に、その効果を大きくできる。市販品としてはKY-1216(商品名:信越化学工業社製)、メガファックRS-851(商品名:DIC社製)、オプスターTU2225(商品名:JSR社製)等がある。
【0024】
前記(C)の配合量は、光重合成分100重量部に対し0.30~1.1重量部であり、0.35~1.0重量部が好ましく、0.40~0.8重量部が更に好ましい。0.3重量部未満では消しゴムによる擦過後の水接触角が低下し、撥水性を安定的に維持できなくなる傾向があり、1.1重量部超でも同様に、撥水性の安定維持ができなくなる傾向ある。
【0025】
本発明で使用される光重合開始剤(D)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはIrgacure184及び同2959(商品名:BASFジャパン社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)などがある。
【0026】
前記(D)の配合量は、光重合成分100重量部に対し0.5部~10重量部が好ましく、3~8重量部が更に好ましい。0.5重量部以上とすることで充分な硬化性が発現し、10重量部以下とすることで過剰添加とならず塗膜の黄変や保存性低下を防ぐことができる。
【0027】
また、本発明のHC樹脂組成物には必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、スリップ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、有機微粒子、無機フィラー等を添加してもよい。
【0028】
本発明のHC樹脂組成物は、有機プラスチックフィルムへの塗工性を向上させるため、溶剤にて固形分が10~90%に希釈される。溶剤としては、例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKという)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、PGM,ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテ等のエーテル系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
本発明のHC樹脂が塗布されるプラスチックフィルム基材としては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリルフィルム、シクロオレフィン(コ)ポリマーフィルム等を例示することができる。
【0030】
これらの中では、価格、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムや、耐候性の点からアクリルフィルム、ポリカーボネートフィルムが好ましく用いられる。フィルムの厚みは概ね23μm~250μmであればよい。
【0031】
本発明のHC樹脂組成物を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などを利用できる。また乾燥膜厚は、0.5μm~20μmが好ましい。
【0032】
本発明のHC樹脂組成物を塗布した後は60~120℃で乾燥し、紫外線照射機を用いて硬化させる。紫外線を照射する場合の光源としては例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、無電極紫外線ランプ、LEDランプなどがあげられ、硬化条件としては500mW/cm~3000mW/cmの照射強度で、積算光量として50~2,000mJ/cmが例示される。また照射する雰囲気は空気中でよいが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中が好ましい。
【0033】
本発明のHC樹脂組成物の硬化層を有するHCフィルムの初期水接触角は105°以上が好ましく、110°以上が更に好ましい。また消しゴムを用い、荷重1Kgfで1000回往復させた後の水接触角は100°以上が好ましく、105°以上が更に好ましい。消しゴムによる擦過後で100°以上の水接触角を確保できていれば、優れた防汚性を有すると共に、優れた耐摩耗性を有すると判断できる。
【0034】
またの消しゴムによる擦過後での水接触角の低下率は10%以下が好ましく、7%以下が更に好ましい。低下率が10%以下であれば、防汚成分のほとんどが消しゴム試験により削り取られずに残存していると考えられるため、安定した防汚性と耐摩耗性を有し、タッチペンでの擦りに対し経時的な防汚性低下も少ないと判断できる。
【0035】
上記で消しゴムを用いる理由は、消しゴムによる擦過がタッチペンでの擦りに近いためであり、この評価によりタッチペンに対する耐摩耗性を近似評価できる。光学フィルムの耐擦傷性は、スチールウールを用いた評価が一般的であるが、スチールウールは文字通り硬くて細い金属製のワイヤーであり、タッチペンの擦り度合いとは全く異なるため、タッチペンによる耐摩耗性はスチールウールでは評価ができない。
【0036】
上記消しゴム試験に用いる消しゴムは、耐摩耗性試験に用いる消しゴムである韓国製のMINOAN(商品名:MUNBANGSAWOO社製、直径6mm)を用い、東洋精機製作所製の平面摩擦試験機を用いて、荷重1Kgで擦り速度40rpm、ストローク幅50mmの条件で1000往復擦り、その前後の水接触角を測定する。なお本明細書において、水接触角はJIS R 3257:1999の静滴法に基づいて測定した値とする。
【0037】
以下、本発明を実施例、比較例に基づき詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。また表記が無い場合は、室温は25℃、相対湿度65%の条件下で測定を行った。なお配合量は重量部を示し、固形分換算で表記した。
【0038】
実施例1~8
(A)としてウレアク1(HDIとPETAを反応させた6官能、Mw2,600)及びウレアク2(HDIとGDAを反応させた4官能、Mw1,900)及びウレアク3(HDIヌレートとPETAを反応させた9官能、Mw4,300)を、(B)としてPEDOT/PSS分散体(固形分2.2%)を、(C)としてKY-1216(商品名:信越化学工業社製、固形分20%)を、(D)としてOmnirad2959(商品名:iGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)を、モノマーとしてDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を、希釈溶剤として酢酸ブチル、MEK、PGM(配合比率50:10:40)の混合溶媒を用い、表1記載の配合(希釈溶剤は固形分30%となる量)で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である実施例1~8を調整した。
【0039】
比較例1~8
実施例で用いた材料の他、バインダーとしてウレアクA(イソホロンジイソシアヌレートとPETAを反応させた9官能、Mw4800)を、希釈溶剤として酢酸ブチル、MEK、PGM(配合比率50:10:40)の混合溶媒を用い、用い、表2記載の配合(希釈溶剤は固形分30%となる量)で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である比較例1~8を調整した。
【0040】
HCフィルムの調整
A4サイズのポリエチレンテレフタレートフィルムU403(商品名:東レ社製、50μm、両面易接着層有り)に硬化時の膜厚が5μmとなるよう塗布し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、窒素パージして、フュージョンUVシステムジャパン製の無電極UV照射装置F300S/LC-6Bを用い、Hバルブで出力1200mW/cm2、積算光量200mJ/cm2で紫外線硬化させた。
【0041】
表1
【0042】
表2

【0043】
評価方法は以下の通りとした。
【0044】
全光線透過率:JIS K7361-1に準拠し、東洋精機製作所社製のHaze-GARD2を用い測定し、90%超を◎、90~85%を〇、85%未満の場合を×とした。
【0045】
表面抵抗率:上記で作成したHCフィルムの塗布面を、JIS K6911に準拠し、日東精工アナリテック社製の高抵抗率計HIRESTA-UXを用い測定し、1.00×1010Ω/□未満を◎、1.00×1010Ω/□~1.00×1012Ω/□を〇、1.00×1012Ω/□超の場合を×とした。
【0046】
水接触角:MINOAN(商品名:MUNBANGSAWOO社製、直径6mm)を用い、東洋精機製作所製の平面摩擦試験機を用いて、荷重1Kgで擦り速度40rpm、ストローク幅50mmの条件で1000往復擦り、その前後の水接触角を測定した。水接触角はJIS R 3257:1999の静滴法に準じ、協和界面科学社製のDMs-400により、室温で水を滴下し30秒静置後に測定した。評価は初期水接触角が110°以上で、消しゴムによる摩耗後の水接触角が105°超を◎、105°~100°以上を〇、100°未満を×とした。
【0047】
接触角低下率: 初期水接触角と、消しゴムによる摩耗後の水接触率の差を水接触角低下率とし、7%未満を◎、7~10%を〇、10%超を×とした。
【0048】
カール:HCフィルムを10cm角形にカットし、試験片中央を接地面に固定し、各頂点の接地面からの反り上がり高さを測定し、4か所の平均値が1.5cm未満を◎、1.5~3.0cmを〇、3.0cm超を×とした。
【0049】
屈曲性:上記で作成したHCフィルムの塗布面を外側にして、JIS K6911に準拠し、屈曲性を測定し、3mm未満を◎、3~6mmを〇、6mm超を×とした。
【0050】
評価結果1
【0051】
評価結果2
【0052】
実施例は全光線透過率、表面抵抗率、水接触角、接触角低下率、カール、屈曲性、すべての面で問題はなく良好であった。
【0053】
一方、(B)が未配合或いは下限以下の比較例1~2は表面抵抗率、水接触角、接触角低下率が劣り、(B)が上限を超える比較例3~4は接触角、接触角低下率が劣り、特に(B)の配合量が多い比較例4は全光線透過率も低かった。また(C)が下限以下の比較例5~6及び上限以上の比較例7も接触角、接触角低下率が劣り、更にHDIから誘導されていないウレアクを使用した比較例8も同様な結果で、いずれも本願発明に適さないものであった。