(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150015
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】光学物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20231005BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20231005BHJP
G02B 5/23 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B1/14
G02B5/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058880
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】崔 星集
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA04
2H006BE02
2H006BE05
2H148DA04
2H148DA09
2H148DA12
2H148DA24
2K009AA15
2K009BB02
2K009BB11
2K009CC24
2K009DD02
(57)【要約】
【課題】光学物品の製造方法であって、光重合により形成された硬化層を有し且つ透明性に優れる光学物品の製造を可能にする新たな製造方法を提供すること。
【解決手段】重合性組成物を基材上に塗布して塗布層を形成すること、紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源から上記塗布層に光照射することによって上記塗布層に硬化処理を施すことを含み、上記重合性組成物は、分子量500以下の重合性化合物の1種以上と、可視光線の波長域の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤と、紫外線吸収性化合物とを含み、上記光照射中、光照射の開始から少なくとも一部の期間において、上記光源と上記塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して上記光照射を行う、光学物品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性組成物を基材上に塗布して塗布層を形成すること、
紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源から前記塗布層に光照射することによって前記塗布層に硬化処理を施すこと、
を含み、
前記重合性組成物は、
分子量500以下の重合性化合物の1種以上と、
可視光線の波長域の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤と、
紫外線吸収性化合物と、
を含み、
前記光照射中、該光照射の開始から少なくとも一部の期間において、前記光源と前記塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して前記光照射を行う、光学物品の製造方法。
【請求項2】
前記紫外線吸収性化合物は、フォトクロミック化合物である、請求項1に記載の光学物品の製造方法。
【請求項3】
前記光源が発光する光の波長帯は、300nm以上600nm以下の波長域を含む、請求項1または2に記載の光学物品の製造方法。
【請求項4】
前記光照射中、前記フィルタを配置した光照射の後、前記光源と前記塗布層との間から前記フィルタを取り除いて光照射を行うことを更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項5】
前記分子量500以下の重合性化合物は、(メタ)アクリレートである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項6】
前記重合性組成物は、分子量が500を超える重合性化合物の1種以上を更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項7】
前記光学物品は眼鏡レンズである、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項8】
前記光学物品は、ゴーグル用レンズである、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項9】
前記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項10】
前記光学物品は、ヘルメットのシールド部材である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの光学物品は基材上に一層以上の被覆層を有し、被覆層によって光学物品に各種性能が付与される。近年、かかる被覆層を光重合により硬化した硬化層として形成することが、広く行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光重合による被覆層(硬化層)の形成は、熱硬化、浸透・蒸発乾燥、酸化重合等の被覆層形成法と比べて、揮発性有機化合物の使用量低減による環境負荷軽減、短時間硬化による生産性向上等の利点を有する。しかし本発明者の検討の結果、光重合によって硬化層を形成した光学物品では、硬化層の表面に欠陥が生じることで光学物品の透明性が低下する場合があることが明らかとなった。
【0005】
以上に鑑み、本発明の一態様は、光学物品の製造方法であって、光重合により形成された硬化層を有し且つ透明性に優れる光学物品の製造を可能にする新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
重合性組成物を基材上に塗布して塗布層を形成すること、
紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源から上記塗布層に光照射することによって上記塗布層に硬化処理を施すこと、
を含み、
上記重合性組成物は、
分子量500以下の重合性化合物の1種以上と、
可視光線の波長域の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤と、
紫外線吸収性化合物と、
を含み、
上記光照射中、光照射の開始から少なくとも一部の期間において、上記光源と上記塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して光照射を行う、光学物品の製造方法、
に関する。
【0007】
本発明者は検討を重ねる中で、先に記載した硬化層の表面の欠陥は、紫外線吸収性化合物と分子量500以下の重合性化合物とを含む重合性組成物を光重合させて形成した硬化層において生じ易い傾向があることを新たに見出した。この点に関して、本発明者は以下のように推察している。
重合性組成物を基材上に塗布して形成した塗布層に光を照射することにより、光重合によって塗布層を硬化させて硬化層を形成することができる。
一方、紫外線吸収性化合物は、紫外線を吸収すると分子運動が生じ、これにより分子同士が凝集し易くなると推察される。重合性組成物の中に紫外線吸収性化合物が含まれる場合、重合初期において上記の分子同士の凝集が生じることは重合性化合物の重合を阻害し、中でも、分子量が500以下の低分子量の重合性化合物は、上記の重合阻害の影響を受け易いと考えられる。このことが、硬化層の表面に欠陥が生じる要因になり得ると本発明者は推察している。
これに対し、上記製造方法では、紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源および可視光線の波長域の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤を使用したうえで、光重合のための光照射の開始から少なくとも一部の期間において、即ち、少なくとも重合初期において、紫外線遮断フィルタによって重合性組成物の塗布層への紫外線の照射を遮断する。これにより、重合初期において、紫外線吸収性化合物の紫外線吸収を妨げることができる。ただし、上記塗布層には、上記光源から発光される光に含まれる、紫外線の波長域より長波長側の光の照射を受けて機能することができる光重合開始剤が含まれる。そのため、この光重合開始剤によって、紫外線照射が遮断されている状態において、重合性化合物の重合反応を進行させることができる。したがって、上記フィルタによって紫外線が遮断されている重合初期に、紫外線吸収性化合物の分子同士の凝集による影響を排除または低減して、分子量500以下の低分子量の重合性化合物の重合を良好に進行させることができる。これにより硬化層の表面の欠陥の発生を抑制できることが、上記製造方法によって透明性に優れる光学物品を製造することが可能な理由と本発明者は推察している。ただし、本発明は、本明細書に記載の推察に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、光重合により形成された硬化層を有し且つ透明性に優れる光学物品の製造を可能にする、光学物品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例において使用されたフィルタAの透過スペクトルおよび比較例において使用されたフィルタBの透過スペクトルを示す。
【
図2】光ラジカル重合開始剤IGM Resin B.V.社製Omnirad819の吸収スペクトルを示す。
【
図3】実施例1で作製された眼鏡レンズと比較例2で作製された眼鏡レンズの反射型の非接触式膜厚測定装置によるフォトクロミック層の膜厚測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明および本明細書において、「紫外線」とは、300nm以上400nm以下の波長域の電磁波をいい、「可視光線」とは、400nm超780nm以下の波長域の電磁波をいうものとする。
【0011】
本発明および本明細書において、「紫外線吸収性化合物」とは、少なくとも400nmの波長に吸収を有する化合物をいうものとする。
【0012】
本発明および本明細書において、「紫外線遮断フィルタ」とは、このフィルタの紫外線の波長域(300nm以上400nm以下)の光の透過率が5%未満であるフィルタをいうものとする。即ち、上記フィルタは、紫外線の波長域(300nm以上400nm以下)における最大透過率が5%未満である。
【0013】
本発明および本明細書において、「可視光線の波長域の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤」とは、光重合開始剤として機能し得る化合物であり、可視光線の波長域、即ち400nm超780nm以下の波長域の少なくとも一部に吸収を有する化合物をいうものとする。
【0014】
本発明および本明細書において、「吸収を有する」とは、対象とする波長または波長域においてモル吸光係数が0L・mol-1・cm-1超であることをいうものとする。モル吸光係数とは、試料の吸光度を試料濃度1mol/Lで光路長1cmのセルを用いた場合に換算した係数であり、公知の方法によって求めることができる。
【0015】
本発明および本明細書において、「紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源」とは、発光波長帯を、紫外線の波長域の少なくとも一部と、可視光線の波長域の少なくとも一部と、に有する光源をいうものとする。
【0016】
以下、上記製造方法について、更に詳細に説明する。
【0017】
<基材>
上記製造方法では、基材上に重合性組成物を塗布して塗布層を形成する。基材は、光学物品の種類に応じて選択すればよい。光学物品には、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等の各種物品が包含される。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0018】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。上記製造方法によって眼鏡レンズを製造する場合、重合性組成物の塗布層は、レンズ基材の物体側の表面側および/または眼球側の表面側に形成することができる。
【0019】
重合性組成物の塗布層は、基材の表面に直接設けてもよく、基材上に形成された1層以上の他の層を介して間接的に設けてもよい。他の層の一例としては、ハードコート層、重合性組成物を硬化して形成される硬化層と基材との密着性を向上させるためのプライマー層等を挙げることができる。また、基材として、ハードコート層付の基材を用いることもできる。
【0020】
[重合性組成物の塗布層の形成]
<塗布方法>
重合性組成物の塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができる。塗布の均一性の観点からは、スピンコート法が好ましい。
【0021】
<重合性組成物>
(重合性化合物)
本発明および本明細書において、「重合性組成物」とは、1種以上の重合性化合物を含む組成物をいうものとする。「重合性化合物」とは、1分子中に重合性基を1つ以上有する化合物をいうものとする。上記製造方法では、重合性化合物として分子量500以下の重合性化合物の1種以上を少なくとも含む重合性組成物を使用する。本発明および本明細書において、多量体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出される理論分子量を採用するものとする。分子量500以下の重合性化合物の具体例としては、(メタ)アクリレートを挙げることができる。本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0022】
分子量500以下の重合性化合物の具体例としては、以下の成分Bおよび成分Cを挙げることができる。また、上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物は、一形態では、重合性化合物として、分子量500以下の重合性化合物の1種以上のみを含むことができる。他の一形態では、上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物は、重合性化合物として、分子量500以下の重合性化合物の1種以上と、分子量500超の重合性化合物の1種以上と、を含むことができる。分子量500超の重合性化合物の具体例としては、以下の成分Aを挙げることができる。以下において、分子量500以下の重合性化合物を「低分子量重合性化合物」と呼び、分子量500超の重合性化合物を「高分子量重合性化合物」と呼ぶ。上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物が、重合性化合物として低分子量重合性化合物のみを含む場合、重合性化合物の全量を100質量%として、低分子量重合性化合物の含有率(2種以上の低分子量重合性化合物が含まれる場合はそれらの合計)は、100質量%である。一方、上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物が、重合性化合物として低分子量重合性化合物と高分子量重合性化合物とを含む場合、重合性化合物の全量を100質量%として、高分子量重合性化合物の含有率(2種以上の高分子量重合性化合物が含まれる場合はそれらの合計)は、50質量%以下であってもよく、50質量%超であってもよく、60質量%以上であってもよい。また、上記高分子量重合性化合物の含有率は、例えば、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下または75質量%以下であることができる。上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物が低分子量重合性化合物と高分子量重合性化合物とを含む場合、重合性化合物の全量を100質量%として、低分子量重合性化合物の含有率(2種以上の低分子量重合性化合物が含まれる場合はそれらの合計)は、50質量%超であってもよく、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、また、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上であってもよい。
【0023】
成分A
成分Aは、分子量500超の非環状の(メタ)アクリレートである。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状の(メタ)アクリレートとは、環状構造を含まない単官能以上の(メタ)アクリレートをいうものとする。
【0024】
成分Aは、単官能または2官能以上の(メタ)アクリレートであることができ、2官能または3官能(メタ)アクリレートであることが好ましく、2官能(メタ)アクリレートであることがより好ましい。成分Aの具体例としては、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。例えば、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、下記式2:
【化1】
により示すことができる。式2中、R
3およびR
4は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。成分Aは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0025】
成分Aの分子量は、500超、510以上、520以上、550以上、570以上、600以上、630以上または650以上であることができる。成分Aの分子量は、硬化層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることができる。
【0026】
成分B
成分Bは、分子量500以下であって、下記式1:
【化2】
で表される(メタ)アクリレートである。
【0027】
式1中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。mは、1以上であって、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下または6以下であることができる。
【0028】
成分Bの分子量は、500以下であり、450以下、400以下、350以下または300以下であることができる。また、成分Bの分子量は、例えば、100以上、150以上または200以上であることができる。
【0029】
成分Bは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。成分Bの具体例としては、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート(「ノナメチレングリコールジ(メタ)アクリレート」とも呼ばれる。)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0030】
成分C
成分Cは、分子量500以下の3~5官能の(メタ)アクリレートであり、3官能または4官能の(メタ)アクリレートであることが好ましく、3官能(メタ)アクリレートであることがより好ましい。成分Cの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。成分Cの分子量は、500以下であり、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Cは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0031】
上記重合性組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば80質量%以上、85質量%以上または90質量%以上であることができる。また、上記重合性組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下または85質量%以下であることができる。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。上記組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0032】
<光重合開始剤>
上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物は、重合開始剤として、可視光線の波長域(即ち、400nm超780nm以下の波長域)の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤を含む。かかる重合開始剤としては、紫外線遮断フィルタが使用される重合初期において重合反応をより良好に進行させる観点から、波長420nmにおけるモル吸光係数が160L・mol-1・cm-1以上であるものが好ましい。また、上記モル吸光係数は、例えば5300L・mol-1・cm-1以下であることができる。また、上記光重合開始剤としては、紫外線の波長域の少なくとも一部にも吸収を有する化合物を使用することが、紫外線遮断フィルタを取り除いた後の重合反応をより良好に進行させる観点から好ましい。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば、α-ヒドロキシケトン、α-アミノケトン、オキシムエステル、ホスフィンオキシド、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体、ベンゾフェノン化合物、キノン化合物、ベンゾインエーテル、ベンゾイン化合物、ベンジル化合物、アクリジン化合物等が挙げられる。光重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5質量%の範囲であることができる。
【0033】
<紫外線吸収性化合物>
上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物は、紫外線吸収性化合物を含む。例えば、紫外線吸収性化合物としては、フォトクロミック化合物を挙げることができる。フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で着色し(coloring)、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性能)を有する化合物である。フォトクロミック化合物は、一例として、太陽光等の光の照射を受けて励起状態を経て、着色体に構造変換する。光照射を経て構造変換した後の構造を「着色体」と呼ぶことができる。これに対し、光照射前の構造を「無色体」と呼ぶことができる。なお、無色体について「無色」とは、完全な無色に限定されるものではなく、着色体に対して色が薄い場合が包含される。フォトクロミック化合物について、吸収特性は、無色体についての吸収特性をいうものとする。即ち、フォトクロミック化合物が紫外線吸収性化合物であることは、無色体の構造において、少なくとも400nmの波長に吸収を有することをいうものとする。フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性能を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。
【0034】
上記製造方法において塗布層の形成に使用される重合性組成物における紫外線吸収性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0035】
上記重合性組成物には、更に、重合性組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0036】
上記重合性組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0037】
[光照射による硬化処理]
上記製造方法では、上記重合性組成物の塗布層に対する光照射を、紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源からの光照射によって行い、且つ、光照射中、光照射の開始から少なくとも一部の期間において、上記光源と上記塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して光照射を行う。これにより、重合初期において上記塗布層への紫外線の照射を遮断できるため、紫外線吸収性化合物の分子同士の凝集による影響を排除または低減して、低分子量重合性化合物の重合反応を良好に進行させることができる。
【0038】
<光源>
上記製造方法では、紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源を使用する。かかる光源は、先に記載したように、発光波長帯を、紫外線の波長域の少なくとも一部と、可視光線の波長域の少なくとも一部と、に有する光源であり、例えば、300nm以上600nm以下の波長域の少なくとも一部(ただし紫外線の波長域の少なくとも一部と可視光線の波長域の少なくとも一部を含む)に発光波長帯を有する光源であることができる。かかる光源の一例としては、メタルハライドランプを挙げることができる。
【0039】
<紫外線遮断フィルタ>
紫外線遮断フィルタとは、先に記載したように、このフィルタの紫外線の波長域(300nm以上400nm以下)の光の透過率が5%未満であるフィルタをいう。重合初期、上記光源から塗布層に照射される光の中で、紫外線の波長域の光を上記フィルタによって遮断することが、塗布層を光重合で硬化させて形成される硬化層の表面に欠陥が発生することを抑制することに寄与すると本発明者は考えている。この点の詳細は先に詳述した通りである。紫外線照射フィルタとしては、上記の紫外線遮断性を有するフィルタであれば、市販品を使用することができ、公知の方法で作製したフィルタを使用することもできる。また、紫外線遮断フィルタの紫外線遮断性は、反射によるものであってもよく、吸収によるものであってもよく、反射および吸収によるものであってもよい。重合初期において、光源から照射される光の中で可視光線の波長域の光の少なくとも一部を紫外線遮断フィルタを通過させて上記塗布層に照射するために、紫外線遮断フィルタは、可視光線の波長域(即ち、400nm超780nm以下の波長域)の少なくとも一部の光に対する透過率が5%以上であることが好ましく、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上の順により好ましい。かかる透過率は、例えば、100%以下、100%未満、90%以下であることができる。
【0040】
<硬化処理>
上記光源からの上記塗布層への光照射は、光照射の開始から少なくとも一部の期間、光源と塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置し、塗布層への紫外線の照射を遮断する。光源から塗布層への光照射を行う全期間、光源と塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して光照射を行うことも可能である。重合性化合物の重合反応をより良好に進行させる観点からは、光照射の開始から一部の期間、光源と塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して光照射を行った後、光源と塗布層との間から紫外線遮断フィルタを取り除き、光源と塗布層との間に紫外線遮断フィルタを介在させずに光照射を行うことが好ましい。この場合、塗布層に対して紫外線遮断フィルタを介して光源からの光照射を行う時間は、例えば、光照射の開始を0秒として、0秒超5秒以下とすることができるが、これに限定されるものではない。紫外線遮断フィルタを光源と塗布層との間から取り除いた後に光照射を行う時間は、特に限定されるものではない。
【0041】
光照射は、被照射物(即ち、少なくとも基材と上記重合性組成物の塗布層を含む積層体)を光照射装置内に配置して実施することができる。光照射装置内の雰囲気としては、窒素雰囲気、大気雰囲気等を挙げることができる。上記窒素雰囲気および後述の窒素雰囲気は、例えば酸素濃度500ppm以下(ppmは体積基準)の窒素雰囲気であることができる。窒素パージすることにより、装置内の雰囲気を窒素雰囲気とすることができる。光源と塗布層との間への紫外線遮断フィルタの配置および除去は、光照射装置に紫外線遮断フィルタ移動手段を設け、かかる手段によって自動で行ってもよく、または、手動で行ってもよい。
【0042】
上記硬化処理によって形成される硬化層の厚さは、硬化層の種類に応じて決定すればよい。例えば、硬化層が紫外線吸収性化合物としてフォトクロミック化合物を含む層、即ちフォトクロミック層である場合、フォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0043】
[任意に設けられ得る層]
上記光学物品の製造方法では、以上説明した硬化層の上に、1層以上の層を更に形成することもできる。かかる層としては、ハードコート層、保護層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層、層間の密着性向上のためのプライマー層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0044】
上記光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。また、上記光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。上記光学物品は、上記硬化層が紫外線吸収性化合物としてフォトクロミック化合物を含む場合、防眩機能を有する光学物品として好適に使用され得る。
【0045】
上記眼鏡レンズをフレームと組み合わせることにより、眼鏡を作製することができる。かかる眼鏡は、例えばフォトクロミック化合物を含む硬化層(即ちフォトクロミック層)を有する眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて着色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、室温下(20℃±5℃)大気中で行った。
【0047】
[重合性組成物の調製]
<重合性組成物A>
プラスチック製容器内で、成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(先に示した式2中、n=14、Rはエチレン基、R3およびR4はメチル基、分子量771)68質量部、成分Bであるノナメチレングリコールジメタクリレート(分子量296)20質量部、成分Cであるトリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量332)12質量部を混合して、重合性化合物の混合物を得た。
上記の混合物に対して、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))0.8質量部、酸化防止剤(エチレンビス(オキシエチレン)ビス-(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート))1.0質量部、光安定化剤(ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケートとの混合物)1.0質量部、紫外線吸収性化合物であるフォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)3.7質量部を混合し、十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。
以上により、重合性組成物Aを調製した。
【0048】
<重合性組成物B>
重合性化合物の全量を成分Bであるノナメチレングリコールジメタクリレート(分子量296)100質量部とした点以外、重合性組成物Aの調製と同様にして重合性組成物Bを調製した。
【0049】
<重合性組成物C>
重合性化合物の全量を成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(先に示した式2中、n=14、Rはエチレン基、R3およびR4はメチル基、分子量771)100質量部とした点以外、重合性組成物Aの調製と同様にして重合性組成物Cを調製した。重合性組成物Cは、分子量500以下の重合性化合物を含まない重合性組成物である。
【0050】
[フィルタ]
以下に記載のフィルタAおよびフィルタBは、いずれも市販品である(フィルタA:HOYA株式会社製シャープカットフィルターL39(厚み2.5mm)、フィルタB:HOYA株式会社製シャープカットフィルターL42(厚み2.5mm))。
図1に、フィルタAおよびフィルタBの透過スペクトルを示す。
図1に示す透過スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス社 UH4150)を用い、スリット幅5nm、300nm/minのスキャン速度で300~800nmの波長域で測定を行い取得した透過スペクトルである。フィルタAは紫外線遮断フィルタに該当し、フィルタBは紫外線遮断フィルタに該当しないフィルタである。
【0051】
[光重合開始剤]
図2に、上記光ラジカル重合開始剤IGM Resin B.V.社製Omnirad819の吸収スペクトルを示す。波長420nmにおけるモル吸光係数は169L・mol
-1・cm
-1である。
図2に示す吸収スペクトルは、以下のように作成した。
フォトクロミック化合物を含まない重合性組成物Aを測定用試料として合成石英セル(光路長0.05mm)に入れて吸光度測定を行った。測定は、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス社 UH4150)を用い、スリット幅5nm、300nm/minのスキャン速度で300~800nmの波長域で行った。重合開始剤を含まない点以外は測定用試料と同じ組成の参照試料についても同様の測定を行った。測定用試料について求められた吸光度から参照試料について求められた吸光度を差し引いた値を、重合開始剤の吸光度とした。測定された吸光度からランベルト-ベールの法則を用いて各波長におけるモル吸光係数を求め、
図2に示す吸収スペクトルを作成した。
【0052】
[眼鏡レンズ(フォトクロミックレンズ)の作製]
<実施例1>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名PHOENIX;中心肉厚2.0mm、半径70mm、S0.00)の凸面(物体側表面)にスピンコート法によって重合性組成物Aを塗布して塗布層を形成した。
光源としては、メタルハライドランプを使用した。メタルハライドランプは、300nm以上600nm以下の波長域の少なくとも一部(ただし紫外線の波長域の少なくとも一部と可視光線の波長域の少なくとも一部を含む)に発光波長帯を有する。
光照射装置内に、被照射物である上記基材と上記塗布層との積層体を、塗布層側を上方に向けて配置した。光照射は、光照射開始(0秒)から1秒までの間は光源と塗布層との間にフィルタAを配置して行った。その後、光源と塗布層との間からフィルタAを取り除いて光源から光を連続照射した。
以上により、基材上に硬化層としてフォトクロミック層を有する眼鏡レンズ(フォトクロミックレンズ)を作製した。
【0053】
<比較例1>
フィルタAに代えてフィルタBを使用した点以外、実施例1について記載したように眼鏡レンズを作製した。
【0054】
<比較例2>
光源と塗布層との間にフィルタAを配置せずに光照射開始から1秒までの間の光照射を行った点以外、実施例1について記載したように眼鏡レンズを作製した。
【0055】
<比較例3>
重合性組成物として重合性組成物Aに代えて重合性組成物Bを使用した点以外、比較例2について記載したように眼鏡レンズを作製した。
【0056】
<実施例2>
重合性組成物として重合性組成物Aに代えて重合性組成物Bを使用した点以外、実施例1について記載したように眼鏡レンズを作製した。
【0057】
<参考例1>
重合性組成物として重合性組成物Aに代えて重合性組成物Cを使用した点以外、比較例2について記載したように眼鏡レンズを作製した。
【0058】
[外観評価]
上記の実施例、比較例および参考例でそれぞれ作製された眼鏡レンズの外観を、室内蛍光灯下の肉眼による目視観察および投影検査機(ウシオ電機社製オプティカル・モデュレックスBA-H25)による投影検査によって評価した。投影検査は、投影検査機の光源とスクリーンとの間に眼鏡レンズを配置した状態で、光源から800~1,200Luxの光を発光させて行った。評価基準は以下の通りとした。
Good:室内蛍光灯下での評価で濁りまたは影は確認されない。投影検査においても濁りまたは影は観察されない。
No Good:室内蛍光灯下での評価および投影検査の少なくとも一方において、濁りおよび/または影が確認される。
【0059】
以上の結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
実施例1で作製された眼鏡レンズおよび比較例2で作製された眼鏡レンズについて、それぞれ、以下の方法によってフォトクロミックレンズとしての性能を評価した。
【0062】
(1)非照射下での可視光透過性
以下の発色濃度の測定を行う前の各眼鏡レンズの透過率(測定波長:550nm)を、大塚電子工業社製分光光度計により測定した。こうして測定される透過率(以下、「初期透過率」と記載する。)の値が大きいほど、非照射下での可視光透過性に優れることを意味する。
【0063】
(2)発色濃度
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって発色濃度の評価を行った。
各眼鏡レンズのフォトクロミック層(上記重合性組成物を硬化した硬化層)に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック層の表面に対して光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させた。この発色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2018に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表2に示す値となるように行った。
【0064】
【0065】
上記で測定される透過率(以下、「発色時透過率」と記載する。)の値が小さいほどフォトクロミック化合物が高濃度に発色していることを意味する。
【0066】
(3)退色速度(半減時間)
各眼鏡レンズの退色速度を以下に記載の方法によって評価した。
上記(2)の発色時透過率の測定後、光照射を止めた時間から透過率(測定波長:550nm)が[(初期透過率-発色時透過率)/2]となるまでに要する時間(半減時間)を測定した。こうして測定される半減時間の値が小さいほど、退色速度が速いということができる。
【0067】
以上の結果を、表3に示す。
【0068】
【0069】
表3に示す結果から、実施例1で作製された眼鏡レンズが、比較例2で作製された眼鏡レンズと同等の発色濃度を示し、且つ、比較例2で作製された眼鏡レンズと比べて、非照射下での可視光透過性に優れ、退色速度が速いことが確認できる。これらの結果は、先に記載した方法によって硬化層(フォトクロミック層)を形成したことによって、フォトクロミック化合物の分子同士の凝集を抑制しつつ低分子量重合性化合物の重合反応を良好に進行させることができたことによるものと本発明者は考えている。
【0070】
実施例1で作製された眼鏡レンズと比較例2で作製された眼鏡レンズについて、反射型の非接触式膜厚測定装置によってフォトクロミック層の膜厚測定を行った。膜厚測定結果を
図3に示す。参照として、フォトクロミック層が形成されていない基材のみの測定結果も
図3に示す。
図3に示すように、実施例1で作製された眼鏡レンズについては、シグナルが検出されたため、フォトクロミック層の膜厚測定が可能である。これに対し、比較例2で作製された眼鏡レンズについては、
図3に示すように、シグナルが検出されなかった。したがって、比較例2の眼鏡レンズについては、反射型の非接触式膜厚測定装置ではフォトクロミック層の膜厚測定は困難である。
以上の結果は、実施例1で作製された眼鏡レンズでは、比較例2で作製された眼鏡レンズと比べて、フォトクロミック層の表面の平滑性が高いことによるものと考えられる。
【0071】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0072】
[1]重合性組成物を基材上に塗布して塗布層を形成すること、
紫外線から可視光線にわたる波長帯の光を発光する光源から上記塗布層に光照射することによって上記塗布層に硬化処理を施すこと、
を含み、
上記重合性組成物は、
分子量500以下の重合性化合物の1種以上と、
可視光線の波長域の少なくとも一部に吸収を有する光重合開始剤と、
紫外線吸収性化合物と、
を含み、
上記光照射中、光照射の開始から少なくとも一部の期間において、上記光源と上記塗布層との間に紫外線遮断フィルタを配置して光照射を行う、光学物品の製造方法。
[2]上記紫外線吸収性化合物は、フォトクロミック化合物である、[1]に記載の光学物品の製造方法。
[3]上記光源が発光する光の波長帯は、300nm以上600nm以下の波長域を含む、[1]または[2]に記載の光学物品の製造方法。
[4]上記光照射中、上記フィルタを配置した光照射の後、上記光源と上記塗布層との間から上記フィルタを取り除いて光照射を行うことを更に含む、[1]~[3]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
[5]上記分子量500以下の重合性化合物は、(メタ)アクリレートである、[1]~[4]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
[6]上記重合性組成物は、分子量が500を超える重合性化合物の1種以上を更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
[7]上記光学物品は眼鏡レンズである、[1]~[6]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
[8]上記光学物品は、ゴーグル用レンズである、[1]~[6]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
[9]上記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分である、[1]~[6]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
[10]上記光学物品は、ヘルメットのシールド部材である、[1]~[6]のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
【0073】
本明細書に記載の各種態様および形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。