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特開2023-150021下地調整用水系塗材組成物及びこれを使用した下地調整工法及び塗材仕上げ構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150021
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】下地調整用水系塗材組成物及びこれを使用した下地調整工法及び塗材仕上げ構造
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20231005BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231005BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231005BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D7/43
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058887
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松崎 亮弥
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038DF042
4J038DJ002
4J038GA08
4J038HA166
4J038HA206
4J038HA446
4J038JB02
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA07
4J038NA08
4J038NA23
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC03
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】速乾性と低温硬化性に優れ、水蒸気透過性が良好なことにより下地に含まれる水分に起因する塗膜の膨れや剥がれが生じず、該水蒸気透過性を有するにも関わらず遮水性を併せ持ち、また下地追従性と貯蔵安定性に優れる下地調整用水系塗材組成物、これを使用した下地調整工法、及び塗材仕上げ構造を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が-20~10℃である架橋型アクリル樹脂系エマルジョンと、一次粒子径が5~45nmのシリカ粒子と、水溶性カチオン化ポリマーと、不揮発性塩基と、充填材と、有機系増粘剤と、成膜助剤と、顔料と、を含む組成物であり、シリカ粒子は組成物全体100重量部中0.5~1.6重量部であり、水溶性カチオン化ポリマーは組成物全体100重量部中0.2~1.2重量部であり、組成物全体のpHは9.5~11.5であることを特徴とする下地調整用水系塗材組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が-20~10℃である架橋型アクリル樹脂系エマルジョンと、一次粒子径が5~45nmのシリカ粒子と、水溶性カチオン化ポリマーと、不揮発性塩基と、充填材と、有機系増粘剤と、成膜助剤と、顔料と、を含む組成物であり、
シリカ粒子は組成物全体100重量部中0.5~1.6重量部であり、
水溶性カチオン化ポリマーは組成物全体100重量部中0.2~1.2重量部であり、
組成物全体のpHは9.5~11.5であることを特徴とする下地調整用水系塗材組成物。
【請求項2】
シリカ粒子はナノコンポジットエマルジョンの状態で含まれる請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物であって、
ナノコンポジットエマルジョンは、一次粒子径が15~30nmのシリカ粒子を1個又は2個以上含むアクリル樹脂と、乳化剤と、が形成する粒径60~120nmのミセルが水に分散して成るものであり、ナノコンポジットエマルジョン100重量部中10~20重量部がシリカ粒子であり、
架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分とナノコンポジットエマルジョンの固形分の重量比は4~15:1であることを特徴とする請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物。
【請求項3】
シリカ粒子はコロイダルシリカの状態で含まれる請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物であって、
コロイダルシリカ100重量部中10~40重量部がシリカ粒子であることを特徴とする請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物。
【請求項4】
水溶性カチオン化ポリマーはポリアルキレンイミン化合物であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物。
【請求項5】
有機系増粘剤は重量平均分子量(Mw)が10,000~35,000のウレタン変性ポリエーテルであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物。
【請求項6】
組成物の粘度がBH型粘度計の2rpmにおいて60~150Pa・s/23℃であり、該BH型粘度計の2rpmにおける粘度を20rpmにおける粘度で除して求められる組成物のTI値が4~7であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を、1回の塗付厚みが0.15~0.5mmとなるように下地に少なくとも2回塗付することを特徴とする下地調整工法。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を塗付して下地調整用水系塗材組成物層を形成し、該下地調整用水系塗材組成物層の上に上塗り材を少なくとも1回塗付して上塗り材層を形成したことを特徴とする塗材仕上げ構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗材仕上げ材が施工される下地の表面を調整する目的で使用する下地調整用水系塗材組成物、これを使用した下地調整工法、及び塗材仕上げ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の壁に施工する塗材仕上げは、下地調整材及び/又は下塗り材、必要に応じて中塗り材、及び上塗り材を用いて仕上げられる。
【0003】
例えば特許文献1では、ガラス転移温度が-20℃以下の共重合体水分散液(A)を含む下地調整材(I)が提案されており、該下地調整材(I)の塗膜上に、共重合体のガラス転移温度が-60~0℃である共重合体水分散液(B)及び共重合体のガラス転移温度が15~50℃である共重合体水分散液(C)を固形分質量比が(B)/(C)比で20/80~80/20の割合で含む上塗り塗料(II)を塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、(a)アニオン的に安定化されたポリマーの水性分散液と、(b)水溶性多官能性アミンポリマーと、(c)揮発性塩基中のフィロシリケートの懸濁液または分散液であって、前記フィロシリケートの濃度が、前記懸濁液または前記分散液の総重量に基づき、1重量%~18重量%である、揮発性塩基中のフィロシリケートの懸濁液または分散液と、を含む保存安定性水性組成物であって、前記揮発性塩基は、前記組成物が、実質的に全ての前記多官能性アミンポリマーが非イオン状態であるpHを有するような量で使用される、保存安定性水性組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-12373号公報
【特許文献2】特表2018-532834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の下地調整材や上塗り塗料といった水系組成物は、塗膜形成過程において溶媒である水が蒸発することで樹脂の融着が生じるものであるが、水の蒸発速度は遅いために塗膜形成に時間を要し、速乾性がない場合があるという課題があった。また、水の蒸発速度が特に低下する低温環境においては、乾燥が不十分な塗膜を形成して塗膜形成不良が起こったり、水と樹脂の光の屈折率の違いによる塗膜の白化が生じたりする場合があるという課題があった。
【0007】
また、特許文献2記載の保存安定性水性組成物は、前記の課題を解決する速乾性を有するものの、骨材を含まない場合等には水蒸気透過性がない場合があるという課題があり、これにより塗膜に膨れや剥がれが起きる場合があるという課題があった。また、揮発性塩基を含むために該保存安定性水性組成物を使用する際には不快な臭気が生じ、使用者の健康や周囲環境へ悪影響を与える場合があり、また該臭気から使用者を保護する道具の用意や臭気の拡散防止の設備が必要となり、手間やコストがかかる場合があるという課題があった。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、速乾性と低温硬化性に優れ、水蒸気透過性が良好なために下地に含まれる水分に起因する塗膜の膨れや剥がれが生じず、該水蒸気透過性を有するにも関わらず遮水性を併せ持ち、また下地追従性と貯蔵安定性に優れる下地調整用水系塗材組成物、これを使用した下地調整工法、及び塗材仕上げ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、ガラス転移温度が-20~10℃である架橋型アクリル樹脂系エマルジョンと、一次粒子径が5~45nmのシリカ粒子と、水溶性カチオン化ポリマーと、不揮発性塩基と、充填材と、有機系増粘剤と、成膜助剤と、顔料と、を含む組成物であり、
シリカ粒子は組成物全体100重量部中0.5~1.6重量部であり、
水溶性カチオン化ポリマーは組成物全体100重量部中0.2~1.2重量部であり、
組成物全体のpHは9.5~11.5であることを特徴とする下地調整用水系塗材組成物を提供する。
【0010】
請求項2記載の発明は、シリカ粒子はナノコンポジットエマルジョンの状態で含まれる請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物であって、
ナノコンポジットエマルジョンは、一次粒子径が15~30nmのシリカ粒子を1個又は2個以上含むアクリル樹脂と、乳化剤と、が形成する粒径60~120nmのミセルが水に分散して成るものであり、ナノコンポジットエマルジョン100重量部中10~20重量部がシリカ粒子であり、
架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分とナノコンポジットエマルジョンの固形分の重量比は4~15:1であることを特徴とする請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物を提供する。
【0011】
請求項3記載の発明は、シリカ粒子はコロイダルシリカの状態で含まれる請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物であって、
コロイダルシリカ100重量部中10~40重量部がシリカ粒子であることを特徴とする請求項1記載の下地調整用水系塗材組成物を提供する。
【0012】
請求項4記載の発明は、水溶性カチオン化ポリマーはポリアルキレンイミン化合物であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を提供する。
【0013】
請求項5記載の発明は、有機系増粘剤は重量平均分子量(Mw)が10,000~35,000のウレタン変性ポリエーテルであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を提供する。
【0014】
請求項6記載の発明は、組成物の粘度がBH型粘度計の2rpmにおいて60~150Pa・s/23℃であり、該BH型粘度計の2rpmにおける粘度を20rpmにおける粘度で除して求められる組成物のTI値が4~7であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を提供する。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を、1回の塗付厚みが0.15~0.5mmとなるように下地に少なくとも2回塗付することを特徴とする下地調整工法を提供する。
【0016】
請求項8記載の発明は請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の下地調整用水系塗材組成物を塗付して下地調整用水系塗材組成物層を形成し、該下地調整用水系塗材組成物層の上に上塗り材を少なくとも1回塗付して上塗り材層を形成したことを特徴とする塗材仕上げ構造を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の下地調整用水系塗材組成物は、速乾性を有するという効果がある。これは、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを含む場合には該ナノコンポジットエマルジョン中の、アクリル樹脂ポリマーを含有してアニオンに荷電するミセル(アニオン性ミセル)と、水溶性カチオン化ポリマーが電気的相互作用により凝集し、アクリル樹脂ポリマーの融着と定着を促すことに基づくものと推測している。前記速乾性は、組成物中の水分が蒸発しにくい低温環境においても作用するため、一般の水系塗材組成物を低温環境で使用した際に起こり得る塗膜の白化や塗膜形成不良を抑制する(低温硬化性を有する)という効果がある。また、本発明の下地調整用水系塗材組成物は、夏季等の高温環境下であっても作業性良く塗付できる時間(可使時間)を十分に有し、良好な塗付作業性を有しているという効果がある。
【0018】
また、本発明の下地調整用水系塗材組成物は、水系塗材組成物であるにも関わらず緻密な塗膜を形成し、尚且つナノサイズのシリカ粒子を含むため、水蒸気透過性と遮水性を併せ持つという効果がある。ナノサイズのシリカ粒子は塗膜中に分散し、目視では確認できないサイズの細孔構造を形成するため、水蒸気が透過できる多孔質な塗膜となっていると推測している。
【0019】
該水蒸気透過性により、下地に含まれる水分は水蒸気として本組成物によって形成される塗膜を透過し放出される、若しくは塗膜連続方向に移動するため、塗膜の一部分に局所的に水蒸気圧がかかることがなく、また、何らかの原因で下地に水分が継続的に供給され該水分が塗膜との界面に集積しても、水分を水蒸気として塗膜の外、若しくは塗膜連続方向に逃がすことができるため、塗膜の膨れや剥がれの発生が抑制される(耐膨れ性を有する)という効果がある。
【0020】
また、本発明の下地調整用水系塗材組成物は、ガラス転移温度が-20~10℃である架橋型アクリル樹脂系エマルジョンを使用するため伸び物性と下地追従性に優れているという効果があり、本発明の下地調整用水系塗材組成物の上にJIS A 6909の建築用仕上塗材の規定に準ずる上塗り材を塗付して塗材仕上げ構造を形成したとしても、塗膜に剥がれやひび割れが起こりにくいという効果がある。
【0021】
また、請求項7記載の下地調整工法は、1回の塗付厚みが0.15~0.5mmとなるように少なくとも2回塗付することにより、優れた水蒸気透過性と遮水性が共に十分に発揮されるだけの塗付厚みを、ダレを生じさせずに塗付作業性良く確保できるという効果がある。加えて、下地の不陸が大きく、例えば0.5mm超の不陸があっても、水蒸気透過性と遮水性を損なわずに下地の大きな不陸を調整することができる、という効果がある。
【0022】
また、請求項8記載の塗材仕上げ構造は、水蒸気透過性と下地追従性に優れる下地調整材層を有するため、膨れや剥がれが起こりにくいという効果がある。前記のとおり、該下地調整材層は水蒸気透過性を有しており、該水蒸気透過性は塗膜の厚み方向だけでなく塗膜の連続方向にも水蒸気を透過する。そのため、塗材仕上げ構造を形成する上塗り材層が水蒸気透過性を有する場合は勿論のこと、有さない場合においても下地に含まれる水分に係る水蒸気を塗膜の連続方向に逃がすことができるため、塗材仕上げ構造の一部分に局所的に水蒸気圧がかかることがなく、また、何らかの原因で下地に水分が継続的に供給されて該水分が塗膜との界面に集積しても、水分を水蒸気として塗膜の連続方向に逃がすことができるため、これらの影響によっては膨れや剥がれが起こらないという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の下地調整用水系塗材組成物は、ガラス転移温度が-20~10℃である架橋型アクリル樹脂系エマルジョンと、一次粒子径が5~45nmのシリカ粒子と、水溶性カチオン化ポリマーと、不揮発性塩基と、充填材と、有機系増粘剤と、成膜助剤と、顔料と、を含む組成物であり、シリカ粒子は組成物全体100重量部中0.5~1.6重量部であり、水溶性カチオン化ポリマーは組成物全体100重量部中0.2~1.2重量部であり、組成物全体のpHは9.5~11.5であることを特徴とする下地調整用水系塗材組成物であり、必要に応じてこれらの他に、分散剤、消泡剤、防腐剤、凍結防止剤等の添加剤を配合することができる。
【0025】
<架橋型アクリル樹脂系エマルジョン>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する架橋型アクリル樹脂系エマルジョンは、本発明の下地調整用水系塗材組成物を構成する主成分であって、乳化剤により乳化されてミセルを形成するアクリル樹脂が、ヒドラジン誘導体のような水溶性の架橋剤と共に水に分散されてエマルジョンを成している水系樹脂である。伸び物性の向上や塗膜を緻密にして遮水性を向上させる目的で架橋型を使用する。該乳化剤としては、親水性基にカルボン酸、スルホン酸、或いはリン酸等を有し、水溶液中でアニオンに荷電するアニオン性乳化剤を使用することができ、このため本発明に使用する架橋型アクリル樹脂系エマルジョンを構成するミセルはアニオンに荷電している。
【0026】
アクリル樹脂には、アクリル酸エステル系共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系共重合樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等を使用することができる。アクリル樹脂とするアクリル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n-アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、等を使用することが出来、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して使用することもできる。他の不飽和単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、イタコン酸;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2(3)-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミドや、マレインアミド等のアミド基含有単量体;2-アミノエチル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートや、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応により得られるエポキシ基含有単量体やオリゴノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及び3-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;その他、酢酸ビニル、塩化ビニル、更には、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を使用することが出来、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0027】
架橋剤には、カルボニルヒドラジンであるアジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等、又はアルキルヒドラジドであるエチレン-1,2-ジヒドラジン、プロピレン-1,3-ジヒドラジン、ブチレン-1,4-ジヒドラジド等のヒドラジン誘導体があり、これらを1種単独、あるいは2種以上を混合して使用することができる。架橋剤の配合量は、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン100重量部中0.05~2.0重量部であることが好ましく、0.05重量部未満では伸び物性が低下する場合があり、2.0重量部超では、塗膜が緻密となり過ぎて水蒸気透過性が低下する場合がある。
【0028】
本発明の架橋型アクリル樹脂系エマルジョンを構成するアクリル樹脂のガラス転移温度は-20~10℃であることが好ましい。ガラス転移温度が-20℃未満の場合、本発明の下地調整用水系塗材組成物の上に塗付する上塗り材によっては、該上塗り材にひび割れが生じる場合がある。これは、一般的な上塗り材のガラス転移温度は20℃程度であることが多く、本発明の下地調整用水系塗材組成物と上塗り材のガラス転移温度の差がおおよそ30~40℃を超えると、下地の動きに追従する本発明の下地調整用水系塗材組成物の動きに上塗り材が追従できず、遂には該上塗り材にひび割れが生じる場合があると考えられることに基づいている。なお、該ひび割れは、上塗り材が塗材のような数mm程度に比較的厚く塗付されるものであると生じにくい傾向にあるが、塗料のような数十μm程度に比較的薄く塗付されるものであると顕著に生じる傾向にある。一方、本発明の架橋型アクリル樹脂系エマルジョンを構成するアクリル樹脂のガラス転移温度が10℃超の場合は下地追従性が低下する場合がある。ここでいうガラス転移温度は、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry、DSC)によって測定される値である。また、本発明の架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分は下地調整用水系塗材組成物100重量部中の10~30重量部が好ましく、10重量部未満では種々の塗膜強度が低下し、また30重量部超では塗付作業性が低下する。
【0029】
<シリカ粒子>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用するシリカ粒子は、本発明の下地調整用水系塗材組成物に水蒸気透過性を付与する目的で配合する。該水蒸気透過性は、該シリカ粒子が塗膜中に存在することで水蒸気が透過できる細孔構造が形成され、該シリカ粒子の表面に沿って水蒸気が移動することで発現しているものと推測している。シリカ粒子は一次粒子径が5~45nmであるナノサイズのものであると好ましく、10~30nmであるとより好ましい。5nm未満では水蒸気透過性が得られない場合やシリカ粒子の分散不良が起きて凝集物が生じる場合があり、45nm超では遮水性が得られない場合がある。該一次粒子径は、BET法により測定された値、または粒子径が小さくBET法が適用できない場合はシアーズ法で測定した値である。シリカ粒子の配合量は組成物全体100重量部中0.5~1.6重量部であることが好ましく、0.5重量部未満では水蒸気透過性が得られない場合があり、1.6重量部超では伸び物性や遮水性が低下する場合がある。本発明の下地調整用水系塗材組成物へのシリカ粒子の含ませ方に特に制限はないが、ナノコンポジットエマルジョン、またはコロイダルシリカの状態で含ませることが好ましい。
【0030】
本発明に使用できるナノコンポジットエマルジョンは、一次粒子径が15~30nmのシリカ粒子を1個又は2個以上含むアクリル樹脂が、乳化剤の作用により乳化して60~120nmのミセルを形成し、該ミセルが水に分散することで成る水系樹脂である。該乳化剤としては、親水性基にカルボン酸、スルホン酸、或いはリン酸等を有し水溶液中でアニオンに荷電するアニオン性乳化剤を使用することができ、このため本発明に使用するナノコンポジットエマルジョンを構成するミセルはアニオンに荷電している。
【0031】
ナノコンポジットエマルジョンを構成するアクリル樹脂は、段落[0026]に記載のものを使用できる。また、シリカ粒子としては、ナノコンポジットエマルジョンの製造上、一次粒子径が15~30nmであればよく、粒子表面に存在するSiOH基が無修飾のもの、及びアミノ基やカルボキシル基等により表面修飾したものを使用することができ、特に限定されない。ナノサイズのシリカ粒子を含むアクリル樹脂の作製方法としては、例えば、ミニエマルション重合といって、超音波照射などの方法で該シリカ粒子を含んだサブミクロンサイズのモノマー油滴(ミニエマルション)を生成し、モノマー油滴をそのまま重合させ、サブミクロンサイズの高分子微粒子に変換させる方法がある。また、該シリカ粒子の表面にグラフト重合により高分子を成長させる方法もあり、該シリカ粒子の表面をアクリルモノマー系シランカップリング剤で修飾したものを用いてエマルション重合を行い、コア-アクリルシェル粒子におけるシェル高分子層を成長させて得るものである。これらの方法によりナノサイズのシリカ粒子を含むアクリル樹脂を調整する際には、該シリカ粒子を1個だけ含む場合もあれば2個以上含む場合もあり、アクリル樹脂と該シリカ粒子の重量比が平均して1:3~3:1となればよく、この重量比は作製方法、アクリル樹脂の種類、及び用いる添加剤等によりコントロールすることができる。また、ナノコンポジットエマルジョン100重量部中10~20重量部が該シリカ粒子であることが好ましい。
【0032】
前記の通りシリカ粒子が組成物100重量部中0.5~1.6重量部であることが好ましいため、ナノコンポジットエマルジョンの配合量は、ナノコンポジットエマルジョンを配合することで組成物中に存在するシリカ粒子の量を考慮して決定する必要があり、また、前記の架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分とナノコンポジットエマルジョンの固形分の重量比が4~15:1となる量であることが好ましい。ナノコンポジットエマルジョンの固形分が該範囲未満であると、結果としてナノサイズのシリカ粒子の含有量が少なくなり水蒸気透過性が損なわれる場合があり、また該範囲超であると、結果として架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの含有量が少なくなり伸び物性が不足する場合がある。
【0033】
本発明に使用できるコロイダルシリカは、一次粒子径が5~45nmのシリカ粒子が水にコロイド状に分散した状態のものである。コロイダルシリカにはアルカリ性、中性、酸性のものがあるが、本発明の特徴である速乾性や、組成物全体の分散性、及び貯蔵安定性を阻害しない中性のものが好ましい。
【0034】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子はコロイダルシリカ100重量部中10~40重量部であることが好ましい。また、前記の通りシリカ粒子が組成物100重量部中0.5~1.6重量部であることが好ましいため、組成物中のコロイダルシリカの配合量は、コロイダルシリカを配合することで組成物中に存在するシリカ粒子の量を考慮して決定する。
【0035】
<水溶性カチオン化ポリマー>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する水溶性カチオン化ポリマーは、速乾性を付与する目的で配合する。該速乾性は、水溶性カチオン化ポリマーが、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを使用する場合には該ナノコンポジットエマルジョンを構成するアニオン性乳化剤の作用によってアニオンに荷電しているミセル(アニオン性ミセル)と電気的相互作用することで、一般的な水系組成物の塗膜形成過程における水の蒸発による樹脂の融着を待たずに、樹脂同士の凝集を促して塗膜形成反応を促進することに基づくものと推測している。水溶性カチオン化ポリマーは、組成物を塗付する前の状態では後述する不揮発性塩基との相互作用により全てのカチオン性官能基が見かけ上は中性の状態であるため、該アニオン性ミセルと電気的相互作用を起こさず、また、製造時や貯蔵時に組成物が凝集しないようにコントロールされている。
【0036】
本発明の水溶性カチオン化ポリマーは、カチオン性官能基を有するポリマーであれば特に限定されず、例えば、アミノ基を有するポリアルキレンイミン化合物、ポリアミド化合物、アミノスルホポリエステル化合物、ポリアリルアミン化合物、ポリビニルアミン化合物、およびこれらを変性させた塩基性含窒素ポリマー等が使用できる。好ましくはイミン化合物をイオン重合させることで得られるポリアルキレンイミン化合物であり、中でもエチレンイミンを重合させたポリエチレンイミンは分子中のカチオン性官能基の比率が大きいため特に好ましい。水溶性カチオン化ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)による測定で重量平均分子量(Mw)が600~200,000のものが好ましく、重量平均分子量(Mw)が大きくなると添加剤としての粘度が高くなり取り扱いづらいため、重量平均分子量(Mw)が600~100,000のものであるとより好ましい。600未満では架橋型アクリル樹脂系エマルジョン及びナノコンポジットエマルジョン中のアニオン性ミセルとの凝集性が低下することにより速乾性が低下する場合があり、100,000超では冬季等の低温環境において添加剤としての粘度が高くなり取り扱いづらくなる傾向がある。
【0037】
水溶性カチオン化ポリマーの配合量は、その種類や分子量、分子中のカチオン性官能基の比率に応じて適宜調整されるものであるが、本発明の下地調整用水系塗材組成物においては下地調整用水系塗材組成物100重量部中0.2~1.2重量部が好ましい。0.2重量部未満では速乾性が低下する場合があり、1.2重量部超では可使時間が短くなり塗付作業性に悪影響を与える場合がある。
【0038】
<不揮発性塩基>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する不揮発性塩基は、本発明の下地調整用水系塗材組成物が製造されて下地に塗付されるまでの間、前記の水溶性カチオン化ポリマーのカチオン性官能基と相互作用することでカチオン性官能基を見かけ上、中性の状態とし、該水溶性カチオン化ポリマーと、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを使用する場合は該ナノコンポジットエマルジョン中のアニオン性ミセルとの凝集を抑制し、組成物の貯蔵安定性を向上させる目的で配合する。不揮発性塩基とは、25℃、標準気圧(1気圧または760mm/Hg)で大気中に揮発しない塩基を指し、沸点が100℃超のものであると好ましく、200℃超のものであるとより好ましい。不揮発性塩基は有機系不揮発性塩基と無機系不揮発性塩基に大別されるが、いずれも本発明に使用できる。有機系不揮発性塩基としては、アミノ基等の塩基性官能基を有する化合物を使用でき、例えば、3-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアミノ基含有脂肪族アルコール、2-アミノフェノール、2-アミノ-5-クロロフェノール、4-アミノ-m-クレゾール等のアミノ基含有フェノール、3,4´-ジアミノジフェニルエーテル、4-アミノ-4´-クロロジフェニルエーテル等のアミノ基含有エーテル、3´-アミノアセトフェノン、2-アミノベンゾフェノン等のアミノ基含有芳香族ケトン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン等のアミノ基含有シロキサン等がある。また、無機系不揮発性塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等、又はこれらの水溶液を使用できる。
【0039】
不揮発性塩基の配合量は、本発明の下地調整用水系塗材組成物のpHが9.5~11.5となる量であることが好ましく、使用する不揮発性塩基の塩基性に左右される。pHが9.5未満となる量であると貯蔵安定性が低下する場合があり、pHが11.5超となる量であると速乾性が低下する場合や耐水性が低下する場合がある。
【0040】
また、不揮発性塩基は水と混合すると水の凝固点を降下させるため、水を溶媒とする本発明の下地調整用水系塗材組成物においては凍結防止剤としての効果も有する。本効果は市販の凍結防止剤と併用することで相乗的に凍結防止効果を向上させる効果を有する。
【0041】
<充填材>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する充填材は、平均粒径D50(重量による積算50%の粒径)が100μm未満のものであり、組成物の粘度や塗付性の調整を目的として配合する。例えば、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、硅砂粉等が使用でき、中でも重質炭酸カルシウムは安価でコスト的負担を軽減させることが出来る。充填材の配合量は組成物全体100重量部中25~45重量部が好ましく、30~40重量部がより好ましく、25重量部未満では下地の色が透けるなどの隠蔽性が不足し、45重量部超では組成物の粘度が高くなって塗付作業性が不良となる場合がある。また、30重量部未満では色調によっては隠蔽性が低下する場合があり、40重量部超では冬季等の低温環境下での塗付作業性が低下する傾向にある。
【0042】
<有機系増粘剤>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する有機系増粘剤は、塗付作業性の向上と、保水性を向上させて貯蔵中の組成物の凝集を防ぐことを目的として配合し、本発明の下地調整用水系塗材組成物の粘度を60~150Pa・s/23℃、TI値を4~7とするものであれば特には限定されず、水溶性セルロースエーテル、ウレタン変性ポリエーテル、ポリカルボン酸、またはこれらを混合したもの等を使用することができる。本発明の下地調整用水系塗材組成物は貯蔵安定性の観点から組成物のpHを9.5~11.5の範囲内に保つことが好ましいため、有機系増粘剤としては組成物のpHに影響を与えにくいウレタン変性ポリエーテルを使用することが好ましい。勿論、pHを低下させる等の影響を与え得るその他の有機系増粘剤を使用したとしても、前記の不揮発性塩基の配合量を調整することにより、組成物のpHを9.5~11.5の範囲内に調整することができれば、いずれも問題なく使用できる。
【0043】
有機系増粘剤の配合量は、組成物全体100重量部中0.1~5.0重量部が好ましく、0.1重量部未満では十分な増粘効果が得られず組成物を塗付した際にダレの原因となり、5.0重量部超では塗付作業性が低下する場合がある。また、有機系増粘剤はゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)が10,000~35,000であることが好ましく、10,000未満であると増粘効果が不十分となる場合があり、35,000超であると過剰に増粘し塗付作業性に悪影響となる場合がある。
【0044】
また、水系組成物に用いられる増粘剤として、ケイ酸塩、金属ケイ酸塩、モンモリロナイト、コロイド状アルミナ等の無機系増粘剤もあるが、無機系増粘剤は往々にして分散性に乏しく、水系樹脂へ混合する前に予備混合をしてミルベースを作製する必要があることや、均一に分散させるために長時間高速撹拌する必要があり手間やコストがかかる場合がある。また、そのようにして無機系増粘剤を使用したとしても、鉱物由来の泥のような着色が生じる場合があり、下地の隠蔽性や上塗り材の発色に悪影響を与える場合がある。このため、本発明においては有機系増粘剤を使用することが好ましい。
【0045】
<成膜助剤>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する成膜助剤は、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを使用する際には該ナノコンポジットエマルジョン中のアクリル樹脂のポリマー粒子の融着を促進し、均一な皮膜を形成させることを目的で配合し、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、ブチルセロソルブ、エステルアルコール、又はこれらの混合物等を使用することが出来る。成膜助剤の配合量は組成物全体100重量部中0.5~10重量部が好ましく、0.5重量部未満では冬季等の低温環境での成膜が不十分となる場合があり、10重量部超では塗膜表面がベタついて汚れが付着し易くなる場合がある。
【0046】
<顔料>
本発明の下地調整用水系塗材組成物に使用する顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(弁柄)、クロム酸鉛、黄鉛、黄色酸化鉄等の無機系顔料等が使用できるが、中でも酸化チタンは下地の隠蔽性に優れ、白色であるため隠蔽性を付与するための主たる顔料として使用することが出来る。
【0047】
本発明の下地調整用水系塗材組成物には、上記のほかに、一般的に水系組成物に使用される消泡剤、防腐剤、分散剤、防藻防カビ剤、凍結防止剤を配合することが好ましい。
【0048】
本発明の下地調整用水系塗材組成物は、モルタル下地、コンクリート下地、オートクレーブ養生した軽量気泡コンクリートから成るパネル(ALCパネル)下地、窯業系サイディング下地、及び塗装下地等に塗付することができ、該塗装下地としては、アクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系などの塗装が挙げられる。本発明の下地調整用水系塗材組成物との十分な付着性を保持するため、各下地に適した下地処理を行い清潔で乾燥した下地としておくことが望ましい。
【0049】
また、前記の下地の中には、パネルの突き付け部や目地部をシーリングした部分を有するものがあり、このような部分は特に下地の動きが激しく塗膜にひび割れが発生しやすい場合がある。これを解決するために、本発明の下地調整用水系塗材組成物を塗付する前に、不織布のような柔軟性と通気性を有する繊維シートを貼付けることで、この上に塗付される本発明の下地調整用水系塗材組成物、及び塗材仕上げ構造にひび割れが発生することを抑制できる。不織布の貼付けには、例えば、本発明の下地調整用水系塗材組成物100重量部に対し繊維状骨材25~45重量部と水5~10重量部を加えて混合した組成物を使用することができる。該繊維状骨材の例としてウォラストナイト鉱石が挙げられ、繊維長100~1500μm、繊維径20~80μmのものであると繊維シートへの組成物の含浸が良好であるため好ましい。
【0050】
本発明の下地調整用水系塗材組成物の塗付にあたっては、ローラー刷毛を使用することができ、厚み0.15~0.5mmに塗付することに適している。勿論、厚み0.15~0.5mmに塗付することができれば他の塗装具等を使用してもよい。
【0051】
本発明の下地調整用水系塗材組成物は、塗付作業性とダレ防止のために粘度が60~150Pa・s/23℃、TI値が4~7であるとより好ましい。粘度はBH型粘度計TVB-10(東機産業社製、商品名)を使用して回転速度2rpmで測定した際の粘度であり、TI値はJIS A 6024に準拠し測定した値である。気温が高い場合には粘度が低下しダレが生じ易くなる傾向にあり、一方、気温が低い場合には粘度が高くなり塗付作業性が低下するため、下記で評価する種々の物性が著しく低下しない範囲で適当量の水を加えて粘度を調整することが出来る。これらの不具合を防止するため、気温5~35℃での使用が好ましい。
【0052】
また、本発明の下地調整用水系塗材組成物は1回の塗付厚みが0.15~0.5mm、且つ2回以上塗付した厚みの合計が0.3~1.0mmとなることが好ましく、0.3mm未満では遮水性が低下する場合があり、1.0mm超では水蒸気透過性が低下する場合がある。また、1回の塗付厚みが0.5mm超となる場合には速乾性が低下する場合がある。また、下地が多孔質であり塗付した組成物の吸収が激しい場合には、塗付回数を増やして十分な膜厚とする必要がある。
【0053】
以下、本発明の下地調整用水系塗材組成物が有する効果である速乾性、貯蔵安定性、水蒸気透過性、及び遮水性の詳細について記載する。
【0054】
本発明の下地調整用水系塗材組成物が有する速乾性は、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを使用する際にはナノコンポジットエマルジョン中のアクリル樹脂ポリマーを含有するアニオン性ミセルと、水溶性カチオン化ポリマーが電気的相互作用することで発現し、該電気的相互作用状態にあるアニオン性ミセルと水溶性カチオン化ポリマーが凝集し、ポリマーの融着と定着が促されるというメカニズムであると考えられる。従来の水系塗材組成物の塗膜形成過程においては水の蒸発によって樹脂の融着が生じるのに対して、本発明の下地調整用水系塗材組成物は該メカニズムによって水の蒸発を待つことなく樹脂の融着が促進されるため速乾性が得られるものと考えられる。
【0055】
なお、上記速乾性は当初本発明の下地調整用水系塗材組成物の製造時や貯蔵時にも起こり得るという課題があったが、本発明者は組成物に不揮発性塩基を配合することでこの課題を見事に解決した。本発明の下地調整用水系塗材組成物は、架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを使用する際にはナノコンポジットエマルジョンに水溶性カチオン化ポリマーを添加して作製するものであるが、該水溶性カチオン化ポリマーの添加前に予め不揮発性塩基を添加して組成物全体のpHを9.5~11.5の範囲の塩基性としておくことで、水溶性カチオン化ポリマーが添加される際には不揮発性塩基が水溶性カチオン化ポリマーのカチオン性官能基と相互作用し、水溶性カチオン化ポリマーを見かけ上は中性として振る舞わせるようにした。その結果、水溶性カチオン化ポリマーが架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、及びナノコンポジットエマルジョンを使用する場合は該ナノコンポジットエマルジョンのアニオン性ミセルと電気的に相互作用しない、つまりはこれらが製造時や貯蔵時には凝集しないように設計したものである。このように不揮発性塩基を用いて組成物全体のpHをコントロールすることにより、良好な貯蔵安定性が得られたのが本発明の下地調整用水系塗材組成物の特徴である。
【0056】
これに対して塗膜が形成される際には、不揮発性塩基と水溶性カチオン化ポリマーの相互作用が解かれ、硬化反応が進行する。これは、空気中の二酸化炭素が本発明の下地調整用水系塗材組成物の溶媒である水に溶解して炭酸となり、該炭酸が不揮発性塩基と中和反応をし、組成物全体のpHを塩基性から中性へと変化させ、不揮発性塩基と相互作用していた水溶性カチオン化ポリマーのカチオン性官能基がフリーになるためと推測している。
【0057】
また、本発明の下地調整用水系塗材組成物の大きな特徴の一つとして、水蒸気透過性と遮水性を兼ね備える点が挙げられ、これは架橋型アクリル樹脂系エマルジョンとナノサイズのシリカ粒子に起因する。架橋型アクリル樹脂系エマルジョンにより樹脂の架橋密度が増加し、緻密な塗膜が形成されて遮水性が得られる。一方で、ナノサイズのシリカ粒子は塗膜中に分散してもアクリル樹脂とは化学的な結合をしないためにその周囲に極微細な隙間を形成し、該隙間が連続的に繋がることで塗膜には目視で確認できないサイズの細孔構造が形成され、塗膜は多孔質となるため水蒸気透過性が発現すると推測している。
【0058】
発明者は従来のアクリル樹脂系エマルジョンにナノサイズのシリカ粒子を混合することで水蒸気透過性が付与されることを発見した。しかし、単純に既存のアクリル樹脂系エマルジョンに該シリカ粒子を配合するだけでは該シリカ粒子は塗膜表面に現れにくく、また、該シリカ粒子を塗膜全体に均一に分散することは困難であり、分散度合いによって水蒸気透過性が安定しなかった。一方で該シリカ粒子の配合量を増やして水蒸気透過性の安定化を試みるも、遮水性と塗膜強度の低下を招くという課題があった。発明者は試行錯誤と実験を繰り返すことにより、予めナノサイズのシリカ粒子をアクリル樹脂に含むナノコンポジットエマルジョンを使用するか、または水に均一にナノサイズのシリカ粒子が分散したコロイダルシリカを使用することにより、塗膜全体に均一にナノサイズのシリカ粒子が分散して塗膜表面に現れることを見出し、最終的に優れた水蒸気透過性と遮水性のバランスが得られる配合に至ったものである。
【0059】
また、ナノサイズのシリカ粒子によって形成される細孔構造は、塗膜の厚み方向のみならず、塗膜の連続方向にも形成されており、水蒸気は塗膜の厚み方向及び連続方向に透過することができる。これは、下記の評価で示すように、本発明の下地調整用水系塗材組成物の上に水蒸気透過性を有さない上塗り材を塗付して形成した塗材仕上げ構造を、耐膨れ性の試験に供しても塗材仕上げ構造に膨れや剥がれが起こらないことから推察される。このため、本発明の下地調整用水系塗材組成物の上に、特に水蒸気透過性を有さない上塗り材を塗付したとしても、下地に含まれる水分に係る水蒸気圧によって、若しくは、何らかの原因で下地に水分が継続的に供給され該水分が塗膜との界面に集積し、水分を水蒸気として逃がすことができないことによっては膨れや剥がれが生じない塗材仕上げ構造の形成が可能である。勿論、より塗材仕上げ構造の性能を上げるために、例えば、骨材含有量を多くすることで水蒸気透過性を有するような上塗り材を塗付して塗材仕上げ構造を形成することが好ましい。
【0060】
本発明の塗材仕上げ構造を形成する上塗り材としては、上述するように水蒸気透過性の有無に関わらず種々の上塗り材を使用することができる。市販の上塗り材で水蒸気透過性を有するものとしては、ジョリパットフレッシュJQ-800(アクリル樹脂系エマルジョン塗料、樹脂分:10~20重量部、骨材及び充填材:40~60重量部、アイカ工業株式会社製、商品名)があり、また、水蒸気透過性を有さないものとしては、ジョリパットトップシリコーンJC-870(アクリルシリコーン樹脂エマルジョン塗料、樹脂分:60~70重量部、顔料:10~20重量部、アイカ工業株式会社製、商品名)や、アイカリノペイントシリコーンJCS-H1(2液弱溶剤シリコーン塗料、樹脂分50~60重量部、顔料:10~20重量部、アイカ工業株式会社製、商品名)等があり、本発明の塗材仕上げ構造の形成に使用できる。
【0061】
以下、実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例0062】
<実施例及び比較例>
表1、及び表2の配合に従って、実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物を作成した。表1、及び表2において、架橋型アクリル樹脂系エマルジョンとしてアクロナールYJ2741D(固形分:56%、樹脂のガラス転移温度:-14℃、アクリルとスチレンの共重合体、架橋剤としてカルボニルヒドラジドを0.1~1.0重量%含有、BASF社製、商品名)を使用し、非架橋型アクリル樹脂系エマルジョンとしてプライマルEC-1791(固形分:55%、樹脂のガラス転移温度:-40℃、アクリルの共重合体、DOW社製、商品名)を使用し、ナノコンポジットエマルジョンとしてCol.9 1200(固形分:40%、シリカ分:15%、シリカ粒子の一次粒子径:15~30nm、ミセルの平均粒径:90nm、樹脂のガラス転移温度:2℃、アクリルの共重合体、BASF社製、商品名)を使用し、コロイダルシリカとしてST-C(シリカ分:20%、シリカ粒子の一次粒子径:12nm、日産化学株式会社、商品名)を使用し、水溶性カチオン化ポリマーとしてルパゾールFG(ポリエチレンイミン、固形分:99%、重量平均分子量(Mw):800、BASF社製、商品名)を使用し、不揮発性塩基Aとして2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(沸点:165℃)を、不揮発性塩基Bとしてジエタノールアミン(沸点:217℃)を、不揮発性塩基Cとして10%水酸化ナトリウム水溶液(沸点:140℃)を、不揮発性塩基Dとして10%水酸化カリウム水溶液(沸点:133℃)を使用し、揮発性塩基として25%アンモニア水溶液(沸点:39.7℃)を使用し、充填材として重質炭酸カルシウムWA(平均粒径D50:10μm、白石カルシウム株式会社製、商品名)を使用し、有機系増粘剤AとしてSNシックナー665T(重量平均分子量(Mw):19,800、サンノプコ株式会社製、商品名)を、有機系増粘剤BとしてSNシックナー612(重量平均分子量(Mw):19,400、サンノプコ株式会社製、商品名)を使用し、成膜助剤としてテキサノールCS-12(チッソ株式会社製、商品名)を使用し、顔料として酸化チタンR-820(石原産業株式会社製、商品名)を使用し、その他添加剤として水系組成物に用いる市販品の添加剤から適宜選択される、消泡剤、分散剤、防腐剤、及び凍結防止剤を添加した。尚、各実施例及び比較例における架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分又は非架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分と、ナノコンポジットエマルジョンの固形分と、の和が等しくなるように配合量を調整した。また、表1、表2に架橋型アクリル樹脂系エマルジョン又は非架橋型アクリル樹脂系エマルジョンの固形分とナノコンポジットエマルジョンの固形分の重量比、及び組成物のpHを示した。
【0063】
<作製方法>
実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物の作製方法であるが、まず、特定の容器へ架橋型アクリル樹脂系エマルジョン又は非架橋型アクリル樹脂系エマルジョン、ナノコンポジットエマルジョン又はコロイダルシリカ、充填材、成膜助剤、顔料、及びその他添加剤を量り取り、5分程度混合して均一にした後、不揮発性塩基又は揮発性塩基を添加し1分程度混合して均一に分散させた。次に、有機系増粘剤を添加して混合し、水溶性カチオン化ポリマーを添加し5分程度混合して均一に分散させることで実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物を作製した。最後にpH測定器を用いて組成物のpHを測定した。作製した下地調整用水系塗材組成物は、密閉容器に移し、評価に供するまで23℃、50%RHの環境下で保管した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
<下地調整用水系塗材組成物の評価方法>
上記の実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物について、以下の評価を行った。尚、特に記載のない限り、試験体の作製、養生、評価試験は23℃、50%RHの環境下にて行った。
【0067】
<速乾性/硬化性>
実施例又は比較例の下地調整用水系塗材組成物をガラス板へローラー刷毛を使用して塗付量0.4kg/mで塗付し、1.5時間経過後に目視及び指触にて乾燥状況を観察した。乾燥し白化がなく滑らかな塗膜を形成しているものを〇と、表面のみ乾燥し塗膜内部が未硬化(所謂皮バリ状態)のものを△と、乾燥していないもの、白化しているもの、及び硬化不良を起こしているものを×と評価した。
【0068】
35℃、5℃、及び-5℃においても上記同様に速乾性/硬化性を確認し、同様に評価した。
【0069】
<塗付作業性>
垂直に立てかけたJIS A 5422規定の窯業系サイディングを下地とし、実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、塗付作業性を確認した。塗付した際にダレが生じずはね返りがないものを〇と、ダレは生じないが組成物の凝集・硬化の進行により塗付作業性が悪い、又ははね返りがあるものを△と、ダレが生じた、はね返りが激しい、又は塗付作業中に組成物が硬化し塗付できなくなったものを×と評価した。尚、該はね返りとは、塗付するためにローラー刷毛を転動した際、組成物が周囲や作業者に飛散することである。
【0070】
35℃、5℃、及び-5℃においても上記同様に塗付作業性を確認し、同様に評価した。
【0071】
<粘度/TI値>
実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物について、BH型粘度計TVB-10(東機産業社製、商品名)を使用し回転速度2rpmでの粘度と回転速度20rpmでの粘度を測定した。JIS A 6024に準拠し、2rpmでの粘度を20rpmでの粘度で除してTI値(チキソトロピックインデックス)を求めた。2rpmでの粘度が60~150Pa・sであるものを〇と、それ以外のものを×と評価し、TI値が4~7であるものを〇と、それ以外のものを×と評価した。
【0072】
<臭気性>
実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物の臭気性を評価するため、アンモニア態窒素の定量測定をした。アルミ板(100mm×100mm、厚さ1mm)の上に実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物を3gとり、アルミ板全体に均一に塗付した。これをデシケーターに入れ、デシケーター内の空気を1L/minの速さで10L吸引し、イオン交換水にて濃度5g/Lに調整したホウ酸水溶液80mLに揮発物質を吸着させた。該ホウ酸水溶液をメスフラスコに移し、同濃度のホウ酸水寄液を加えて100mLにメスアップし、その後、インドフェノール青吸光光度法にて測定を実施した。アンモニア態窒素濃度が80ppm以下のものを下地調整用水系塗材組成物の施工時に臭気が問題にならないと判断し〇と、80ppm超のものを臭気が問題になると判断し×と評価した。
【0073】
<伸び物性>
実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて厚さ0.5mmに塗付して1時間養生して乾燥させ、同様の下地調整用水系塗材組成物を厚さ0.5mmに塗付して合計塗付厚み1.0mmとし、1週間養生して塗膜のシートを作製し、JIS K 6251に規定するダンベル状3号形に打ち抜いて試験体とした。該試験体をJIS A 6021に規定する引張性能試験に供して破断時の伸び率を測定し、破断時の伸び率が230%以上のものを〇と、230%未満のものを×と評価した。
【0074】
<水蒸気透過性>
円形のろ紙(直径150mm、厚さ0.2mm、Whatman社製、グレード41)の片面へ実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1時間養生して乾燥させた後、同様の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1週間養生して試験体とした。円柱状のアルミ合金製のカップ(高さ75mm、直径140mm)に水を400mL入れ、カップ上部に塗付面が上になるよう試験体を設置し、試験体とカップの隙間から水蒸気が逃げることを防ぐために試験体の端部をシーリング処理し、3日間静置した。静置後、容器全体の重量を測定し、その値を試験前の値とし、さらに7日間静置した後、容器全体の重量を測定して試験後の値とした。試験前と試験後の容器全体の重量の減少量を試験日数で除した値を透湿度(g/日)として、透湿度(g/日)が0.6以上のものを水蒸気透過性に優れるとして〇と、透湿度が0.6未満のものを水蒸気透過性が不十分として×と評価した。
【0075】
<遮水性>
JIS A 5430規定のフレキシブルボード(400×200mm、厚さ4mm)を下地とし、実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1時間養生して乾燥させた後、同様の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、14日間養生して試験体とした。該試験体をJIS A 6909の透水試験B法に供して透水量を測定した。透水量が0.5mL以下のものは遮水性を有すると判断し〇と、透水量が0.5mL超のものは遮水性を有さないとして×と評価した。
【0076】
<耐膨れ性>
JIS A 6909に準拠した方法で試験体を作製して試験を行った。JIS R 5201規定のモルタル(70×70mm、厚さ20mm)を下地と、実施例又は比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1時間養生し乾燥させた後、同様の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付して乾燥させた。その後、モルタルの四側面をパテ状エポキシ樹脂にて止水処理をし、14日間養生して試験体とした。該試験体を、「23℃、18時間水浸漬」→「-20℃、3時間」→「50℃、3時間」のサイクルに10サイクル供し、塗膜表面の膨れの有無を目視にて観察した。膨れのないものを〇と、小さな膨れが発生したものを△と、それ以外のものを×と評価した。
【0077】
<貯蔵安定性>
実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物の粘度をBH型粘度計TVB-10(東機産業社製、商品名)にて測定し、容量500mLの密閉容器に入れ50℃雰囲気下にて60日間静置した後に再度粘度を測定し、試験前後の粘度を比較した。また、外観を目視にて観察した。著しい粘度の変化、組成物の分離、及び凝集のないものを〇と、軽微な粘度の変化または小さな凝集物を確認したものを△と、著しい粘度の変化、組成物の分離、及び凝集のうちいずれかの異状があるものを×と評価した。
【0078】
5℃においても上記同様に60日間静置し、試験前後の粘度の比較と外観の観察を行い、同様に評価した。
【0079】
<下地調整用水系塗材組成物の評価結果>
表3、及び表4に下地調整用水系塗材組成物の評価結果を示す。尚、組成物の凝集や硬化等により評価試験に供せなかったものは「-」と示す。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
<塗材仕上げ構造の評価>
表5、及び表6に評価に供した塗材仕上げ構造の構成を示す。表5、及び表6に示すように、下地調整用水系塗材組成物として実施例2、実施例3、実験例5、実験例6、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5を使用し、上塗り材として水蒸気透過性を有する上塗り剤であるジョリパットフレッシュJQ-800(アクリル樹脂系エマルジョン塗料、樹脂分:10~20重量%、骨材及び充填材:40~60重量%、アイカ工業株式会社製、商品名)を上塗り材Aとして、水蒸気透過性を有さない上塗り材であるジョリパットトップシリコーンJC-870(アクリルシリコーン樹脂エマルジョン塗料、樹脂分:60~70重量%、顔料:10~20重量%、アイカ工業株式会社製、商品名)を上塗り材Bとして使用し、実施例Aから実施例H、及び比較例Aから比較例Hの塗材仕上げ構造とした。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
<塗材仕上げ構造の評価方法>
上記の実施例及び比較例の塗材仕上げ構造について、以下の評価を行った。尚、特に記載のない限り、試験体の作製、養生、評価試験は23℃、50%RHの環境下にて行った。
【0086】
<水蒸気透過性>
円形のろ紙(直径150mm、厚さ0.2mm、Whatman社製、グレード41)の片面へ実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1時間養生して乾燥させた後、同様の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付して乾燥させて下地調整用水系塗材組成物層を形成した。その上に、ローラー刷毛にて上塗り剤Aを塗付量0.35kg/mで、又は上塗り材Bを塗付量0.15kg/mで塗付し5時間以上乾燥させた後、再度ローラー刷毛にて上塗り剤Aを塗付量0.35kg/mで、又は上塗り材Bを塗付量0.15kg/mで塗付し、1週間養生して試験体とした。円柱状のアルミ合金製のカップ(高さ75mm、直径140mm)に水を400mL入れ、カップ上部に塗付面が上になるよう試験体を設置し、試験体とカップの隙間から水蒸気が逃げることを防ぐために試験体の端部をシーリング処理し、3日間静置した。静置後、容器全体の重量を測定し、その値を試験前の値とし、さらに7日間静置した後、容器全体の重量を測定して試験後の値とした。試験前と試験後の容器全体の重量の減少量を試験日数で除した値を透湿度(g/日)として、透湿度(g/日)が0.6以上のものを水蒸気透過性に優れるとして〇と、0.6未満のものを水蒸気透過性が不十分として×と評価した。
【0087】
<耐膨れ性>
JIS A 6909に準拠した方法で試験体を作製して試験を行った。JIS R 5201規定のモルタル(70×70、厚さ20mm)に実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1時間養生し乾燥させた後、同様の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付して乾燥させて下地調整用水系塗材組成物層を形成した。その上に、ローラー刷毛にて上塗り剤Aを塗付量0.35kg/mで、又は上塗り材Bを塗付量0.15kg/mで塗付し、5時間以上乾燥させた後、再度ローラー刷毛にて上塗り剤Aを塗付量0.35kg/mで、又は上塗り材Bを塗付量0.15kg/mで塗付して乾燥させた。乾燥後、モルタルの四側面をパテ状エポキシ樹脂にて止水処理をし、14日間養生して試験体とした。当該試験体を、「23℃、18時間水浸漬」→「-20℃、3時間」→「50℃、3時間」のサイクルに10サイクル供し、塗膜表面の状態を目視にて観察した。膨れのないものを〇と、小さな膨れが発生したものを△と、それ以外のものを×と評価した。
【0088】
<ゼロスパン引張伸び>
下地としてJIS A 5430規定のフレキシブルボード(100×100mm、厚さ10mm)を使用し、当該下地2枚の木口同士を突き付け、その裏面を養生テープで仮止めする。下地表面に実施例及び比較例の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、1時間養生して乾燥させた後、同様の下地調整用水系塗材組成物をローラー刷毛にて塗付量0.4kg/mで塗付し、4時間以上乾燥させて下地調整用水系塗材組成物層を形成した。その上に、ローラー刷毛にて上塗り剤Aを塗付量0.35kg/mで、又は上塗り材Bを塗付量0.15kg/mで塗付し5時間以上乾燥させた後、再度ローラー刷毛にて上塗り剤Aを塗付量0.35kg/mで、又は上塗り材Bを塗付量0.15kg/mで塗付し14日間養生して試験体とした。試験体裏面の仮止めの養生テープをはがし、万能試験機(インストロン社製)にて、試験体の両端を2mm/分で引張り、突きつけ部の塗膜にピンホールが発生した時の距離が0.5mm以上のものを○と、0.5mm未満のものを×と評価した。
【0089】
<塗材仕上げ構造の評価結果>
表7、及び表8に塗材仕上げ構造の評価結果を示す。
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】