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特開2023-150022血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150022
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20231005BHJP
   G01N 21/82 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N33/53 K
G01N33/49 A
G01N33/49 K
G01N21/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058888
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 誠
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宣夫
【テーマコード(参考)】
2G045
2G054
【Fターム(参考)】
2G045AA09
2G045CA25
2G045FA13
2G045FA14
2G054AA07
2G054AB04
2G054BB10
2G054CA23
(57)【要約】
【課題】血液型を精度良く判定することができる血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラムを提供する。
【解決手段】血液検査装置100は、血液取得部110、試薬添加部120、凝集測定部190、および血液型判定部190を有する。血液取得部110は、血液検体を取得する。試薬添加部120は、血液検体に試薬を添加する。凝集測定部190は、試薬が添加された血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する。血液型判定部190は、試薬が添加された血液検体の赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定する。試薬は、血液検体に含まれる抗原と抗原抗体反応する抗体、または血液検体に含まれる抗体と抗原抗体反応する抗原を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体を取得する血液取得部と、
前記血液検体に試薬を添加する試薬添加部と、
前記試薬が添加された前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する凝集測定部と、
前記試薬が添加された前記血液検体の赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、前記血液検体の血液型を判定する血液型判定部と、を有し、
前記試薬は、前記血液検体に含まれる抗原と抗原抗体反応する抗体、または前記血液検体に含まれる抗体と抗原抗体反応する抗原を含む、血液検査装置。
【請求項2】
前記凝集測定部は、前記血液検体に試薬を添加する前、および後における血液検体の赤血球凝集の度合いを測定し、
前記血液型判定部は、前記血液検体に試薬を添加する前後における前記血液検体の赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、前記血液検体の血液型を判定する、請求項1に記載の血液検査装置。
【請求項3】
前記凝集測定部は、
前記血液検体を流すための流路と、
当該流路に光を照射する照射部と、前記照射部から照射された照射光が前記流路を透過または反射した光を受光する受光部とを有する光検出部と、を備え、
前記受光部によって受光した光の強度に基づいて前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する、請求項1または2に記載の血液検査装置。
【請求項4】
前記流路に前記血液検体を供給する検体供給部と、
前記血液検体に試薬を添加する前、および後において、前記血液検体に含まれる赤血球の可逆的な凝集が解除される所定流速で前記血液検体を流した後、前記血液検体の流れを停止させるように前記検体供給部を制御する制御部と、をさらに有し、
前記試薬は、前記赤血球の抗原と抗原抗体反応する抗体を含む血液型抗体試薬であり、
前記凝集測定部は、前記血液検体の流れが停止した後の前記光の強度の時間推移に基づいて、前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する、請求項3に記載の血液検査装置。
【請求項5】
前記凝集測定部は、前記血液検体の流れが停止した後の前記光の強度の最大値と最小値との差分に基づいて、前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する、請求項4に記載の血液検査装置。
【請求項6】
前記試薬添加部は、前記血液検体に含まれる赤血球の抗原と抗原抗体反応する血液型抗体試薬を前記血液検体に添加する、請求項1~3のいずれか1項に記載の血液検査装置。
【請求項7】
前記試薬添加部は、前記血液検体に含まれる血漿の抗体と抗原抗体反応する血液型抗原試薬を前記血液検体に添加する、請求項1~3のいずれか1項に記載の血液検査装置。
【請求項8】
前記血液型判定部によって判定された血液型、血液型判定の精度、前記血液検体の赤血球凝集の度合い、および前記赤血球凝集の度合いの測定時におけるエラーの少なくともいずれかを出力する出力部をさらに有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の血液検査装置。
【請求項9】
前記血液検体の血球計数を測定する血球計数測定部をさらに有し、
前記出力部は、前記血球計数測定部によって測定された血球計数をさらに出力する、請求項8に記載の血液検査装置。
【請求項10】
前記血液検体に可逆的な赤血球凝集を促進させる物質を添加する凝集促進剤添加部をさらに有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の血液検査装置。
【請求項11】
血液検体に試薬を添加するように制御するステップ(a)と、
前記試薬が添加された前記血液検体を流路に供給するように制御するステップ(b)と、
前記流路における前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定するステップ(c)と、
前記血液検体の赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、前記血液検体の血液型を判定するステップ(d)と、を含み、
前記試薬は、前記血液検体に含まれる抗原と抗原抗体反応する抗体、または前記血液検体に含まれる抗体と抗原抗体反応する抗原を含む、血液検査方法。
【請求項12】
前記ステップ(a)の前に、前記試薬を添加せずに前記血液検体を流路に供給し、前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定するステップ(e)をさらに含み、
前記ステップ(d)において、前記血液検体に試薬を添加する前後における前記血液検体の凝集の度合いの変化に基づいて、前記血液検体の血液型を判定する、請求項11に記載の血液検査方法。
【請求項13】
前記ステップ(c)および(e)において、照射部から前記流路に光を照射し、前記照射部から照射された照射光が前記流路を透過した透過光を受光し、当該透過光の強度に基づいて前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する、請求項12に記載の血液検査方法。
【請求項14】
前記試薬は、赤血球の抗原と抗原抗体反応する抗体を含む血液型抗体試薬であり、
前記ステップ(c)および(e)において、血液検体に試薬を添加する前、および後において、前記血液検体に含まれる赤血球の可逆的な凝集が解除される所定流速で前記血液検体を流した後、前記血液検体の流れを停止させるように制御し、前記血液検体の流れが停止した後の前記透過光の強度の時間推移に基づいて、前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する、請求項13に記載の血液検査方法。
【請求項15】
前記ステップ(c)および(e)において、前記血液検体の流れが停止した後の前記透過光の強度の最大値と最小値との差分に基づいて、前記血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する、請求項14に記載の血液検査方法。
【請求項16】
前記ステップ(a)において、前記血液検体に含まれる赤血球の抗原と抗原抗体反応する血液型抗体試薬を前記血液検体に添加する、請求項11~13のいずれか1項に記載の血液検査方法。
【請求項17】
前記ステップ(a)において、前記血液検体に含まれる血漿の抗体と抗原抗体反応する血液型抗原試薬を前記血液検体に添加する、請求項11~13のいずれか1項に記載の血液検査方法。
【請求項18】
前記ステップ(d)において判定された血液型、血液型判定の精度、前記血液検体の赤血球凝集の度合い、および前記赤血球凝集の度合いの測定時におけるエラーの少なくともいずれかを出力するステップ(f)をさらに含む、請求項11~17のいずれか1項に記載の血液検査方法。
【請求項19】
前記ステップ(e)の前、および前記ステップ(a)の後かつ前記ステップ(b)の前に、前記血液検体に可逆的な赤血球凝集を促進させる物質を添加するステップ(g)をさらに含む、請求項12に記載の血液検査方法。
【請求項20】
請求項11~19のいずれか1項に記載の血液検査方法をコンピュータに実行させるための血液検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
手術等で患者に輸血する場合において、血液型不適合による副作用を未然に防止するため、ABO血液型検査、Rh血液型検査により患者の血液型を確認した上、さらに輸血用血液製剤と患者血液との反応を確認する交差適合試験が事前に行われる。ABO血液型検査では、オモテ試験およびウラ試験の結果に基づいて、ABO血液型を判定する。オモテ試験においては、患者(被験者)から採取した血液検体に抗A抗体を含む血液型判定試薬(以下、単に「試薬」という)を添加して赤血球のA抗原と抗A抗体との抗原抗体反応による不可逆的な凝集(Agglutination)の有無を確認する。同様に、血液検体に抗B抗体を含む試薬を添加して赤血球のB抗原と抗B抗体との抗原抗体反応による不可逆的な凝集の有無も確認する。そして、赤血球の抗原と抗A抗体および抗B抗体の各々との抗原抗体反応による凝集の有無の組み合わせによって血液型を判定する。また、ウラ試験においては、被験者の血漿にA型血球、およびB型血球を各々添加し、オモテ試験と同様に、A型血球、およびB型血球について抗原抗体反応による不可逆的な凝集の有無を確認し、これらの凝集の有無の組合せにより血液型を判定する。また、Rh血液型についても、オモテ試験と同様に赤血球を使用して、抗D抗体との抗原抗体反応による不可逆的な凝集の有無を確認し、Rh陽性またはRh陰性を判定する。
【0003】
また、血液型の検査方法として、従来から、試験管内において試験を行う試験管法や、スライドガラス上で試験を行うスライド法等が知られている。しかしこれらの手法では、血漿タンパクを介して赤血球同士が可逆的に集合して形成された連銭と呼ばれる凝集と区別するために、血球を洗浄する必要があり、また血液検体の希釈等にも手間がかかる。また、試験を行う担当者が目視で凝集の有無の確認を行うため、人の目視により判別可能な大きさの塊が凝集反応により生じるのに十分な試薬量が必要であり、また目視判定しやすいように稀釈が必要である。また、目視による判別のために誤差が生じたり、担当者の経験等により判別に個人差が生じたりする可能性もある。さらに近年では、試薬と混合した血液検体をビーズが詰まったカラムに通し、赤血球のカラム内の通過度合いを測定することにより、血液型の判定を行うカラム凝集法がある。しかし、カラム凝集法では専用カートリッジおよび遠心機構が必要であるため装置が大型化するという問題がある。
【0004】
また、上述の試験管法等のように、赤血球の凝集の有無を目視によって確認する従来の方法に対して、赤血球の凝集の有無を機械的に検出する技術も知られている。例えば、下記特許文献1、2には、抗原抗体反応による赤血球の凝集の有無の検出や凝集の強度の測定を機械的に行う技術が開示されている。また、下記特許文献3、4には、抗原抗体反応による堆積物の画像を評価し、堆積物を検出することにより、血液型を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-151417号公報
【特許文献2】特表2015-522825号公報
【特許文献3】欧州特許第01064557号明細書
【特許文献4】国際公開第99/051982号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~4に記載の技術では、血液型検査工程の短縮のために洗浄および稀釈工程を省略することや、コスト削減のために試薬量の低減を行った場合、検出された凝集や堆積物が抗原抗体反応によって形成された凝集や堆積物か、あるいは血漿タンパクを介して赤血球同士が可逆的に集合して形成された連銭またはその堆積物かを区別することが困難であるため、血液型を精度良く判定することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものである。したがって、本発明の主な目的は、血液型検査における洗浄・稀釈工程の省略と、血液型判定試薬量の削減が可能であり、かつ血液型を精度良く判定することができる血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0009】
本発明の血液検査装置は、血液取得部、試薬添加部、凝集測定部、および血液型判定部を有する。血液取得部は、血液検体を取得する。試薬添加部は、血液検体に試薬を添加する。凝集測定部は、試薬が添加された血液検体の赤血球凝集の度合いを測定する。血液型判定部は、試薬が添加された血液検体の赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定する。試薬は、血液検体に含まれる抗原と抗原抗体反応する抗体、または血液検体に含まれる抗体と抗原抗体反応する抗原を含む。
【0010】
また、本発明の血液検査方法は、血液検体に試薬を添加するように制御するステップ(a)と、試薬が添加された血液検体を流路に供給するように制御するステップ(b)と流路における血液検体の赤血球凝集の度合いを測定するステップ(c)と、血液検体の赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定するステップ(d)と、を含む。試薬は、血液検体に含まれる抗原と抗原抗体反応する抗体、または血液検体に含まれる抗体と抗原抗体反応する抗原を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血液型抗体または血液型抗原を含む試薬を血液検体に添加した後における可逆的な赤血球凝集の度合いを測定し、試薬の添加後におけるその凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定する。したがって、検出された凝集が抗原抗体反応による凝集か、あるいは連銭かを区別できるので、血液型を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態における血球計数装置の概略構成を例示するブロック図である。
図2】第1の実施形態における血球計数装置の概略構成を例示する模式図である。
図3図1図2に示す制御部の概略構成を例示するブロック図である。
図4図1図2に示す血球計数装置による血液検査方法の処理手順の概略を例示するフローチャートである。
図5図4に示すフローチャートにおける透過光強度の測定(S101)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。
図6図4に示すフローチャートにおける透過光強度の測定(S102/S103)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。
図7】血液検体の流れの停止前後にわたる透過光強度の時間推移を例示する模式図(シレクトグラム)である。
図8図8(A)~(H)は、各々の血液型の血液検体について、流体の流れの停止後における透過光強度の測定結果を例示するグラフである。
図9】試薬(混合率5%)の添加前後における凝集パラメータ(AMP)の変化率の算出結果を例示するグラフである。
図10】オモテ試験における抗原抗体反応と血液型との関係を示す図である。
図11】第2の実施形態における血球計数装置の概略構成を例示する模式図である。
図12】第2の実施形態における透過光強度の測定(S101)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。
図13】第2の実施形態における透過光強度の測定(S102/S103)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラムについて詳細に説明する。図中、同一の部材には同一の符号を用いた。図面における寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
(第1の実施形態)
<血球計数装置の構成>
図1図2は第1の実施形態の血球計数装置の概略構成を例示するブロック図および模式図であり、図3図1図2に示す制御部の概略構成を例示するブロック図である。
【0015】
図1図2に示すように、血球計数装置(血液検査装置)100は、血液取得部110、試薬添加部120、光測定部130、血球計数測定部140、血液排出部150、操作入力部160、出力部170、電源部180、および制御部190を有する。血液取得部110、試薬添加部120、光測定部130、血球計数測定部140、血液排出部150、操作入力部160、出力部170、および電源部180は、各々制御部190に接続され、制御部190により制御される。
【0016】
図3に示すように、制御部190は、CPU(Central Processing Unit)191、ROM(Read Only Memory)192、RAM(Random Access Memory)193、および補助記憶部194を有する。補助記憶部194は、例えば、SSD(Solid State Drive)、またはHDD(Hard Disk Drive)194を有する。CPU191、ROM192、RAM193、および補助記憶部194は、コンピュータを構成する。
【0017】
CPU191は、ROM192または補助記憶部194に予め保存されている血液検査プログラムをRAM193にロードし、実行することにより、様々な機能を実現する。
【0018】
ROM192は、不揮発性のメモリである。ROM192には、OS(Operating System)、血液検査プログラム等のプログラムや、CPU191の演算処理に必要な各種のパラメータ等が保存されている。
【0019】
RAM193は、揮発性のメモリであり、CPU191による演算処理の結果や各種データを一時的に保存する。また、補助記憶部194は、血液検査プログラム等のプログラム、光測定部130による測定結果、CPU191による演算処理の結果等を保存する。
【0020】
血液取得部110は、血球計数装置100の図示しない導入口に医療従事者等(以下、「ユーザ」ともいう)によってセットされた採血管111から血液検体を取得し、取得した血液検体を光測定部130に供給する。血液取得部110は、採血管111、分注機構112、吸引ポンプ113、血液貯留部114、ノズル115、配管116、電磁弁117等を有する。
【0021】
血液検体は、あらかじめ患者から採取され、採血管111内に収容される。採血管111には、抗凝固剤として、例えばEDTA(Ethylenediaminetetraacetic Acid)が血液検体に添加されうる。
【0022】
試薬添加部120は、制御部190の指令に応じて、血液貯留部114に貯留されている血液検体に試薬を添加する。試薬は、血液検体に含まれる赤血球の抗原と抗原抗体反応する抗体を含む血液型抗体試薬でありうる。あるいは、試薬は、血液検体に含まれる血漿中の抗体と抗原抗体反応する抗原を含む血液型抗原試薬でありうる。試薬が血液型抗体試薬である場合はオモテ試験に対応する血液型の検査を行うことができ、試薬が血液型抗原試薬である場合はウラ試験に対応する血液型の検査を行うことができる。以下、本実施形態では、試薬が血液型抗体試薬である場合を例示して説明する。
【0023】
試薬添加部120は、所定量の試薬を採血管111に供給する供給機構(不図示)を有する。
【0024】
分注機構112は、ノズル115と、ノズル115を移動する移動機構(不図示)とを有する。分注機構112は、配管116を通じて吸引ポンプ113に接続されている。吸引ポンプ113は、制御部190の指令に応じてモータを作動させてノズル115内に血液検体を吸引(例えば、約80[μL])するように構成されている。なお、血液検体を希釈する希釈液を供給するための供給口を血液貯留部114に備えるように構成してもよい。
【0025】
移動機構は、ノズル115を直交座標系のXYZ方向に移動可能な機構であり、ノズル115を採血管111上の位置から鉛直上下方向(Z方向)、および水平方向(X方向およびY方向)に移動させることにより、ノズル115を血液貯留部114上の所定位置に移動させる。当該各所定位置は、ノズル115が血液貯留部114に血液検体を注入するのに適した位置である。
【0026】
制御部190は、吸引ポンプ113を動作させて配管116内の流体を吸引するとともに、配管116に配置された電磁弁117を開くことにより、ノズル115を通じて採血管111内の血液検体を吸引した後、電磁弁117を閉じてノズル115内に保持する。その後、制御部190は、ノズル115を血液貯留部114上の所定位置に移動させ、電磁弁117を開いて、所定位置からノズル115内の血液検体を血液貯留部114に所定量注入する。
【0027】
光測定部130は、流路131、光検出部132、ヒータ(不図示)等を有し、流路131を通過する血液検体の赤血球凝集を測定する。流路131は、例えば、1[mm]程度の厚みを有する細い透明のチューブ(例えば、熱伝導率が高いガラス管、樹脂等)でありうる。チューブの断面の形状は円形、矩形、多角形等でありうる。流路131の上流側の端部は配管119の一端に連結され、配管119の他端は血液貯留部114の排出口に連結されている。また、流路131の下流側の端部は、血液排出部150のピンチバルブ152の一端に配管を通じて接続されている。
【0028】
また、光測定部130は、流路131からの透過光または反射光の測定時において流路131を流れる血液検体の温度がヒータにより一定温度、例えば抗体の反応に適している37℃(人の体温付近の温度)に温度調整される。なお、血液検体のタンパク質の変性を抑制するため、40℃を超えない温度に設定する必要があるが、血液検体の温度が高い方が、赤血球の凝集が進み易いため透過光測定の精度は向上する。
【0029】
光検出部132は、光源(照射部)、および光検出器(受光部)を有する。光源は、流路131内の血液検体に光を照射する。光源は、例えば、近赤外線発生器(例えば、近赤外線LED(Light Emitting Diode))で構成されうる。光検出器は、血液検体に照射された照射光のうち、血液検体を透過した透過光または反射光(後方散乱)を受光する。光検出器は、例えば、フォトダイオードで構成されうる。光検出器は、透過光を検出する構成である場合は流路131を挟んで光源と反対側に配置され、反射光を検出する構成である場合は流路131に対して光源と同じ側に配置される。光検出部132は、照射光に対する透過光または反射光の大きさから受光した光の強度(以下、「光強度」という)を検出し、検出結果を制御部190に送信する。制御部190は、光強度の検出結果を受信し、RAM193に記憶する。以下では、光強度として透過光強度を測定する場合を例示して説明する。
【0030】
制御部190は、凝集測定部として機能し、透過光強度に基づいて、血液検体に試薬を添加する前、および後における血液検体の赤血球の凝集の度合いを測定する。より具体的には、凝集測定部は、血液検体の赤血球の凝集の度合いとして、血液検体の赤血球の凝集に関するパラメータ(以下、「凝集パラメータ」という)を算出する。凝集パラメータの詳細については後述する。また、凝集の度合いは、透過光強度の時間推移(波形)によって表すことも可能である。
【0031】
血球計数測定部140は、血液検体の血球計数を測定する。血球計数測定部140は、複数の測定ユニット(不図示)を有し、各々の測定ユニットは、各々チャンバおよび血球検出部を有する。チャンバはノズルにより注入された血液検体を保持し、血球検出部は血液検体の血球計数を測定する。血液検体は、チャンバに注入され、希釈液により希釈され、溶血剤により溶血された後、血球数等が血球検出部により測定される。各々のチャンバは、血液排出部150に接続されており、使用済みの血液検体は、開閉可能な電磁弁が各々開くことにより、血液排出部150に排出される。
【0032】
血球計数の測定項目は、例えば、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン濃度(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、血小板数(PLT)、リンパ球パーセント(LY%)、単球パーセント(MO%)、顆粒球パーセント(GR%)、リンパ球(LY)、単球(MO)、および顆粒球(GR)を含むがこれらに限定されない。測定項目のうち、例えば血球数および血球の大きさは電気抵抗法により測定される。HGBは比色法の測定原理に基づいて測定される。HCTは血球パルスより波高値積算方式(RBCヒストグラムにより算出)で測定される。なお、これらの血球計数の測定技術はいずれも公知であるため説明を省略する。血球計数の測定データは、制御部190に送信される。
【0033】
血液排出部150は、チューブポンプ151、ピンチバルブ152、排出タンク(不図示)等を有する。チューブポンプ151は、制御部190の指令に応じて、光測定部130から使用済みの血液検体を吸引し、排出タンクに排出する。ピンチバルブ152は、制御部190の指令に応じて弁を開閉し、光測定部130からの流体の流れを制御する。排出タンクは、チューブポンプ151によって吸引された使用済みの血液検体を貯留する。
【0034】
血液貯留部114内の血液検体は、チューブポンプ151によって吸引されることによりせん断応力が印加され、配管119を通じて流路131に供給され、流路131内を所定流速で流れる。所定流速は、血液検体に含まれる赤血球の可逆的な凝集(Aggregation)が解除されるのに十分な速度(せん断速度)である。チューブポンプ151およびピンチバルブ152は、検体供給部として機能する。
【0035】
操作入力部160は、例えばタッチパネルであり、ユーザによる指示、各種設定、入力データ等を受け付ける。ユーザによる指示には、例えば、血液型検査開始の指示、血球計数の測定開始の指示、血液型検査のオモテ試験/ウラ裏の設定等が含まれる。入力データには、例えば血液検体と試薬との混合率等が含まれる。
【0036】
出力部170は、判定された血液型、血球計数等の測定データ、各種設定メニュー、各種操作メニュー、メッセージ等を出力する。ここで、出力部170の出力には、例えばデータ信号としての出力、データが印刷された用紙の出力、ディスプレイの表示、スピーカへの音声出力等が含まれる。出力部170は、データ送受信用コネクタ、プリンタ、ディスプレイ、スピーカ等を有する。出力部170は、ユーザによる指示に応じて、判定された血液型と血球計数の測定結果とを併せて表示しうる。これにより、ユーザは、判定された血液型と血球計数の測定結果とを同時に知ることができ、患者の処置を決定する際に必要な情報を早急に得ることができる。出力部170の出力内容の詳細については後述する。
【0037】
電源部180は、血液取得部110、試薬添加部120、光測定部130、血球計数測定部140、血液排出部150、操作入力部160、出力部170、および制御部190に必要な電力を供給する。
【0038】
制御部190は、血液型判定部として機能し、血液検体に試薬を添加する前後、または血液検体に試薬を添加した後における血液検体の赤血球の凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定する。また、血液型判定部は、凝集パラメータに基づいて血液検体の血液型判定の精度、および/または凝集強度を算出する。血液型判定の精度および凝集強度の算出方法については後述する。
【0039】
<血液検査方法>
以下、図4を参照して、血球計数装置100による血液検査方法の処理手順の概略を説明する。図4は本実施形態の血球計数装置100による血液検査方法の処理手順の概略を例示するフローチャートである。図4に示すフローチャートの処理は、CPU191が血液検査プログラムを実行することにより実現される。
【0040】
まず、透過光強度(試薬なし)を測定する(ステップS101)。光測定部130は試薬が添加されていない血液検体を含む流体の透過光強度を測定する。より具体的には、光測定部130は、流路131内を流れる流体の流れが停止した直後と、流れが停止してから所定時間後とにおける透過光強度を検出し、制御部190に送信する。所定時間は、数秒から十数秒の範囲内(例えば、10秒)でありうる。透過光強度(試薬なし)の測定方法については、図5を参照して後述する。なお、ある患者について過去に血液検体を採取し、透過光強度(試薬なし)を測定している場合、すなわち、透過光強度の測定履歴がある場合は、過去に測定した透過光強度を使用することもできる。これにより、透過光強度(試薬なし)の測定を省略できるので、測定時間を短縮できる。
【0041】
次に、透過光強度(抗A試薬添加)を測定する(ステップS102)。光測定部130は、抗A試薬が添加された血液検体を含む流体の透過光強度を測定する。より具体的には、光測定部130は、流路131内を流れる流体の流れが停止した直後と、流れが停止してから所定時間後とにおける透過光強度を検出し、制御部190に送信する。透過光強度(抗A試薬添加)の測定方法については、図6を参照して後述する。
【0042】
次に、透過光強度(抗B試薬添加)を測定する(ステップS103)。光測定部130は、抗B試薬が添加された血液検体を含む流体の透過光強度を測定する。より具体的には、光測定部130は、流路131内を流れる流体の流れが停止した直後と、流れが停止してから所定時間後とにおける透過光強度を検出し、制御部190に送信する。透過光強度(抗B試薬添加)の測定方法についても、図6を参照して後述する。
【0043】
次に、凝集パラメータを算出する(ステップS104)。凝集測定部は、光測定部130によって測定された透過光強度に基づいて、試薬なしの場合、抗A試薬を添加した場合、および抗B試薬を添加した場合の各々の場合について血液検体の赤血球の凝集パラメータを算出する。算出された試薬なしの凝集パラメータをP0、抗A試薬を添加した場合の凝集パラメータをPA、抗B試薬を添加した場合の凝集パラメータをPBと書く。凝集パラメータは、例えば、AMPでありうる。AMPについては後述する。
【0044】
次に、抗A試薬、抗B試薬について凝集パラメータの変化率を算出する(ステップS105)。凝集パラメータの変化率は、血液検体に抗A試薬または抗B試薬を添加する前後における血液検体に含まれる赤血球の凝集パラメータの変化を表す。例えば、抗A試薬を添加した場合の凝集パラメータPAの変化率DAは、DA=(PA-P0)/P0×100[%]で表されうる。また、抗B試薬を添加した場合の凝集パラメータPBの変化率DBは、DB=(PB-P0)/P0×100[%]で表されうる。
【0045】
なお、変化率DAは上記の数式に限定されず、例えば、DA=(PA-P0)/PA×100[%]、DA=PA/(PA+P0)×100[%]、DA=P0/(PA+P0)×100[%]等によって算出されうる。あるいは、変化率の代わりに変化量としてDA=PA-P0、またはP0-PAを算出するように構成してもよい。また、変化率DBについても上記の数式に限定されず、変化率(または変化量)DAの場合と同様に他の数式を使用して変化率(変化量)DBが算出されうる。
【0046】
次に、血液検体の血液型を判定する(ステップS106)。血液型判定部は、凝集パラメータの変化率(または変化量)DA,DBに基づいて、血液検体の血液型を判定する。血液型の判定方法については、図8図10を参照して後述する。
【0047】
このように、図4に示すフローチャートの処理では、試薬なし、抗A試薬添加、抗B試添加の各々の場合について、透過光強度を測定し、透過光強度に基づいて凝集パラメータを算出する。続いて、凝集パラメータの変化率(または変化量)DA,DBを算出し、算出結果に基づいて血液検体の血液型を判定する。
【0048】
<透過光強度(試薬なし)の測定(S101)>
図5は、図4に示すフローチャートにおける透過光強度(試薬なし)の測定(S101)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。図5に示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU191が血液検査プログラムを実行することにより実現される。
【0049】
まず、血液検体を含む流体を流路に供給する(ステップS201)。より具体的には、採血管111からノズル115内に血液検体を吸引して保持し、血液貯留部114上において電磁弁117を開いてノズル115内の血液検体を血液貯留部114に吐出して所定量注入する。血液貯留部114内の血液検体には抗体試薬が添加されないので、血液検体に含まれる赤血球は、抗原抗体反応による凝集を起こさず、時間の経過とともに非特異的に弱い力で凝集する(連銭を形成する)。なお、血液検体の濃度が濃い場合は、血液貯留部114に希釈液を供給することもできる。
【0050】
血液貯留部114内の血液検体を含む流体は、チューブポンプ151によって吸引されることにより、配管119を通じて流路131に供給される。この際、流体には、せん断応力が印加され、流路121内を所定流速で流れる。流体の流れにより、流体内の赤血球の連銭は攪拌されるため解除される。
【0051】
続いて、流路131を流れる流体の流れを停止する(ステップS202)。制御部190は、ピンチバルブ152弁を閉じることにより、流路131内の血液検体の流れを直ちに停止させる。流体の流れが停止した後、血液検体に含まれる赤血球は、時間の経過とともに連銭を形成する。
【0052】
続いて、流路131を流れる流体の透過光強度(または後方散乱強度)を検出する(ステップS203)。光検出部132は、流体の流れが停止した直後に光源により流路に光を照射し、光源からの照射光が流路131を透過した透過光を光検出器により受光する。光検出部132は、照射光に対する透過光の大きさから透過光強度を検出し、検出結果を制御部190に送信する。
【0053】
その後、流体の流れを停止してから所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS204)。所定時間は、例えば10秒でありうる。所定時間経過した場合(ステップS204:YES)、光検出部132は、流路131を流れる流体の透過光強度を再び検出し(ステップS205)、図4のステップS102の処理に移行する(リターン)。
【0054】
<透過光強度(抗A試薬/抗B試薬添付)の測定(S102/S103)>
図6は、図4に示すフローチャートにおける透過光強度(抗A試薬/抗B試薬添付)の測定(S102/S103)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。図6に示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU191が血液検査プログラムを実行することにより実現される。
【0055】
まず、血液検体に試薬を添加する(ステップS301)。試薬添加部120は、血液貯留部114に貯留されている血液検体に抗A試薬または抗B試薬を添加する。血液貯留部114内の血液検体がA型の血液である場合、赤血球のA抗原と抗A抗体とが特異的に抗原抗体反応し、赤血球が凝集する。一方、血液貯留部114内の血液検体がB型の血液である場合、赤血球のB抗原と抗B抗体とが特異的に抗原抗体反応し、赤血球が凝集する。また、血液貯留部114内の血液検体がAB型の血液である場合、赤血球のA抗原と抗A抗体、またはB抗原と抗B抗体とが抗原抗体反応し、赤血球が特異的に凝集する。血液貯留部114内の血液検体がO型の血液である場合、赤血球にはA抗原・B抗原が存在しないため、抗原抗体反応による赤血球の凝集は起こらない。
【0056】
続いて、血液検体および試薬を含む流体を流路に供給する(ステップS302)。本ステップは、流体が血液検体および試薬を含む点で、ステップS201とは異なるが、本ステップにおける検体供給部の動作はステップS201における検体供給部の動作と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0057】
続いて、流路131を流れる流体の流れを停止する(ステップS303)。制御部190は、ピンチバルブ152弁を閉じることにより、流路131内の血液検体の流れを直ちに停止させる。流体の流れが停止してからも抗原抗体反応による赤血球の凝集は進む。また、時間の経過とともに連銭も形成される。すなわち、流路131内における赤血球の凝集には、抗原抗体反応による不可逆的な凝集と、可逆的な凝集(連銭)とが含まれる。
【0058】
続いて、流路131を流れる流体の透過光強度を検出する(ステップS304)。光検出部132は、流体の流れが停止した直後に光源により流路に光を照射し、光源からの照射光が流路131を透過した透過光を光検出器により受光する。光検出部132は、照射光に対する透過光の大きさから透過光強度を検出し、検出結果を制御部190に送信する。
【0059】
その後、流体の流れを停止してから所定時間が経過したかを判定する(ステップS305)。所定時間は、例えば10秒でありうる。所定時間経過した場合(ステップS305:YES)、光検出部132は、流路131を流れる流体の透過光強度を再び検出し(ステップS306)、図4のステップS103(抗A試薬添加の測定が終了した場合)またはS104(抗B試薬添加の測定が終了した場合)の処理に移行する(リターン)。
【0060】
なお、ステップS101~S103の処理において、流体の流れを停止した直後と、停止してから所定時間経過後とに透過光強度を検出する場合について説明したが、このような場合に限定されない。例えば、流路131に流体を供給し始めてから、または流体の流れを停止してから透過光強度の測定を継続的に行い、流体の流れの停止直後と、停止してから所定時間経過後とにおける測定データを取得するように構成してもよい。
【0061】
<凝集パラメータの算出方法>
図7は、血液検体の流れの停止前後にわたる透過光強度の時間推移を例示する模式図(シレクトグラム)である。同図において横軸は時間を示し、縦軸は透過光強度を示す。透過光強度は、例えば、光検出部132の光検出器としてのフォトダイオードの出力電圧に対応する。シレクトグラムの測定においては、流路131に流体を供給し始めてから、または流体の流れを停止してから透過光強度の測定を継続的に行う。
【0062】
同図中において、S1は抗原抗体反応を起こしていない場合のシレクトグラムを表し、S2は抗原抗体反応を起こしている場合のシレクトグラムを表す。例えば、シレクトグラムS1は、血液検体に試薬を添加していない場合のシレクトグラムでありうる。また、シレクトグラムS2は、赤血球の血液型と同じ型の抗体試薬を添加(例えば、A型の赤血球に対して抗A試薬を添加)した場合のシレクトグラムでありうる。
【0063】
シレクトグラムS1においては、流路131内を流れる血液検体を含む流体の流れが停止された時間をt=t0とし、その直後(t=t1)に、透過光強度が最小値Vmin1となる。最小値Vmin1においては、流路131内において個々に解離し分散した赤血球により、光源からの照射光が散乱および吸収されることにより透過光強度が最も小さくなる。これに対して、流れが停止された瞬間(t=t0)においては、流れによるせん断応力により赤血球が流れ方向に沿って変形、配向した状態であり、Vmin1よりもやや透過光量が大きい状態になっている。
【0064】
透過光強度は、時間t1において最小値Vmin1となった後、増加する。これは、流れが停止されることにより赤血球の凝集が開始され、凝集により増大する赤血球の隙間を照射光が透過するためである。赤血球が凝集するのは、炎症に伴い増加する正に帯電したフィブリノゲン等の血中タンパクにより、負に帯電している赤血球間の反発が妨げられるからである。
【0065】
一方、シレクトグラムS2においては、血液検体の赤血球の抗原と試薬の抗体とが抗原抗体反応を起こしている(例えば赤血球のA抗原と試薬の抗A抗体)ため、赤血球の不可逆的な凝集が形成される。この不可逆的な赤血球凝集により流路131における透過光が増加するため、シレクトグラムS2の透過光強度は、血液検体の赤血球の抗原と試薬の抗体とが抗原抗体反応を起こしていないシレクトグラムS1の透過光強度に対して変化する。
【0066】
例えば、図7に示す例では、流体の流れが停止する前後において、シレクトグラムS2の透過光強度は、シレクトグラムS1の透過光強度よりも大きい。また、流体の流れの停止前から停止直後にかけて、抗原抗体反応による赤血球凝集のため、シレクトグラムS2の透過光強度は、シレクトグラムS1の透過光強度よりも大きいが、時間t1から所定時間後の時間t2では透過光強度の差は小さい。したがって、シレクトグラムS2の透過光強度の波高(最大値-最小値)は、シレクトグラムS1の波高よりも小さい。すなわち、透過光強度の波高が小さいほど抗原抗体反応が進んでいると考えられる。
【0067】
凝集測定部は、透過光強度(シレクトグラムS1,S2)に基づいて、凝集パラメータを算出しうる。凝集パラメータには、赤血球の凝集と対応関係にあるパラメータが広く含まれうる。本実施形態では、凝集パラメータとして、透過光強度の最大値と最小値との差分によって定義されるパラメータAMPを採用する場合について例示する。例えば、AMPを算出するために、時間t1から所定時間経過後の時間t2(例えば、10秒)が予め設定される。当該所定時間は、シレクトグラムにおいて透過光強度の増加速度がある程度低下して飽和する任意の時間でありうる。時間t2において透過光強度は概ね最大値になる。
【0068】
例えば、凝集測定部は、シレクトグラムS1について、時間t2における透過光強度の値(Vmax1)と透過光強度の最小値(Vmin1)との差であるAMP1を算出する。また、凝集測定部は、同様に、シレクトグラムS2について、時間t2における透過光強度の値(Vmax2)と透過光強度の最小値(Vmin2)との差であるAMP2を算出する。また、AMPの変化率Dは、D=(AMP2-AMP1)/AMP1×100[%]によって算出されうる。
【0069】
なお、凝集パラメータとしてAMPを算出する場合について説明したが、AMPの代わりにAIを算出するように構成してもよい。AIは、時間間隔t2-t1を一辺とし、AMPを他辺とする長方形の領域Sの面積に対する、領域Sのうちシレクトグラムの曲線より下の領域Bの面積の比として算出される。すなわち、パラメータAIは、シレクトグラムにおいて、領域Aの面積と領域Bの面積の和に対する領域Bの面積の比(すなわち、B/(A+B))として算出される。領域Aの面積は、領域Sのうちシレクトグラムの曲線より上の領域である。
【0070】
凝集パラメータは、AMP、AIの他、Bの面積、Aの面積、時間t1、時間t1のときの透過光強度の最小値Vmin、シレクトグラムの曲線の立ち上がり線の傾き、および時間t1/2の各値でありうる。シレクトグラムの曲線の立ち上がり線の傾きは、例えば、図7に示すシレクトグラムの時間t1からt2の限定された時間帯の線形増大区間における傾きである。また、時間t1/2は、Vminから透過光強度がAMP/2増加したときの時間である。
【0071】
<血液型の判定方法>
図8(A)~(H)は、各々の血液型の血液検体について、流体の流れの停止後における透過光強度の測定結果を例示するグラフである。同図において縦軸は透過光強度[a.u.]であり、横軸は時間[s]である。また、同図中の実線は、試薬を添加していない場合の測定結果(「Control(コントロール)」)であり、破線、一点鎖線は血液検体と試薬との混合率が各々2.5,5.0,7.5,10[%]である場合の測定結果である。また、図9は試薬(混合率5%)の添加前後における凝集パラメータ(AMP)の変化率の算出結果を例示するグラフであり、図10はオモテ試験における抗原抗体反応と血液型との関係を示す図である。
【0072】
図8(A)は、A型の赤血球を含む血液検体に抗A試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れが(停止する前から)停止した直後において、抗A試薬を添加した場合の透過光強度は、抗A試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも高い。これは、抗A試薬を添加した場合は、流体の流れが停止する前から抗原抗体反応による赤血球の凝集が進み、流体の流れが停止してからも赤血球の抗原抗体反応による凝集、および連銭がさらに進むためであると考えられる。その後、抗A試薬を添加した場合の透過光強度と、コントロールの透過光強度との差は、流体の流れを停止してからの時間経過とともに小さくなるが、抗A試薬を添加した場合の透過光強度の波高は、コントロールの透過光強度の波高よりも小さい。また、混合率が高いほど、流体の流れの停止前から停止後にかけて透過光強度は高くなり、抗原抗体反応による凝集の速度が速くなる。
【0073】
図8(B)は、A型の赤血球を含む血液検体に抗B試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れの停止後において、抗B試薬を添加した場合の透過光強度は、抗B試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも低い。これは、抗B試薬を添加した場合は、抗原抗体反応が生じず、流体の流れが停止してから赤血球の連銭が進むが、抗B試薬に含まれる電解質やアルブミン等の影響により、赤血球凝集が阻害され、光の透過が低下するためであると考えられる。
【0074】
図8(C)は、B型の赤血球を含む血液検体に抗A試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れの停止後において、抗A試薬を添加した場合の透過光強度は、抗A試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも低い。これは、抗A試薬を添加した場合は、抗原抗体反応が生じず、流体の流れが停止してから赤血球の連銭が進むが、抗A試薬に含まれる電解質やアルブミン等の影響により、赤血球凝集が阻害され、光の透過が低下するためであると考えられる。
【0075】
図8(D)は、B型の赤血球を含む血液検体に抗B試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れが(停止する前から)停止した直後において、抗B試薬を添加した場合の透過光強度は、抗B試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも高い。これは、抗B試薬を添加した場合は、流体の流れが停止する前から抗原抗体反応による赤血球の凝集が進み、流体の流れが停止してからも赤血球の抗原抗体反応による凝集、および連銭がさらに進むためであると考えられる。また、抗B試薬を添加した場合の透過光強度の波高は、コントロールの透過光強度の波高よりも小さい。また、混合率が高いほど、流体の流れの停止前から停止後にかけて透過光強度は高くなり、抗原抗体反応による凝集の速度が速くなる。
【0076】
図8(E)は、O型の赤血球を含む血液検体に抗A試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れの停止後において、抗A試薬を添加した場合の透過光強度は、抗A試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも低い。これは、抗A試薬を添加した場合は、抗原抗体反応が生じず、流体の流れが停止してから赤血球の連銭が進むが、抗A試薬に含まれる電解質やアルブミン等の影響により、赤血球凝集が阻害され、光の透過が低下するためであると考えられる。
【0077】
図8(F)は、O型の赤血球を含む血液検体に抗B試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れの停止後において、抗B試薬を添加した場合の透過光強度は、抗B試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも低い。これは、抗B試薬を添加した場合は、抗原抗体反応が生じず、流体の流れが停止してから赤血球の連銭が進むが、抗B試薬に含まれる電解質やアルブミン等の影響により、赤血球凝集が阻害され、光の透過が低下するためであると考えられる。
【0078】
図8(G)は、AB型の赤血球を含む血液検体に抗A試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れが(停止する前から)停止した直後において、抗A試薬を添加した場合の透過光強度は、混合率が2.5[%]の場合を除き、抗A試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも高い。これは、抗A試薬を添加した場合は、流体の流れが停止する前から抗原抗体反応による赤血球の凝集が進み、流体の流れが停止してからも赤血球の抗原抗体反応による凝集、および連銭がさらに進むためであると考えられる。また、抗A試薬を添加した場合の透過光強度の波高は、コントロールの透過光強度の波高よりも小さい。また、混合率が高いほど、流体の流れの停止前から停止後にかけて透過光強度は高くなり、抗原抗体反応による凝集の速度が速くなる。
【0079】
図8(H)は、AB型の赤血球を含む血液検体に抗B試薬を添加した場合について、流路131を流れる流体の流れを停止してから約10秒後までの透過光強度の測定結果を示す。流体の流れが(停止する前から)停止した直後において、抗B試薬を添加した場合の透過光強度は、混合率が2.5[%]の場合を除き、抗B試薬を添加しない場合(コントロール)の透過光強度よりも高い。これは、抗A試薬を添加した場合は、流体の流れが停止する前から抗原抗体反応による赤血球の凝集が進み、流体の流れが停止してからも赤血球の抗原抗体反応による凝集、および連銭がさらに進むためであると考えられる。その後、抗A試薬を添加した場合の透過光強度と、コントロールの透過光強度との差は、流体の流れを停止してからの時間経過とともに大きくなるが、抗B試薬を添加した場合の透過光強度の波高は、コントロールの透過光強度の波高よりも小さい。また、混合率が高いほど、流体の流れの停止前から停止後にかけて透過光強度は高くなり、抗原抗体反応による凝集の速度が速くなる。
【0080】
したがって、血液検体に試薬を添加した場合の透過光強度の波形(シレクトグラムS2)と、コントロールの透過光強度の波形(シレクトグラムS1)とを比較することにより、試薬を添加した場合における抗原抗体反応による赤血球の凝集の有無を推定できる。より具体的には、血液型判定部は、シレクトグラムS1,S2が、上述の図8(A)~(H)のうちどの波形パターンに対応するかを判定することにより、血液検体に試薬を添加した場合における抗原抗体反応による赤血球の凝集の有無を推定する。
【0081】
シレクトグラムS1,S2と図8(A)~(H)の波形パターンとの対応は、例えば、シレクトグラムS1,S2に関する統計情報(または特徴量)と、図8(A)~(H)の波形パターンの統計情報(または特徴量)とを比較して両者の類似度を判定することにより行われうる。
【0082】
また、入力データとしてシレクトグラムS1,S2の波形データ、または波形の画像データを、ニューラルネットワークで構成された学習済みの分類モデルに入力し、その入力データを分類モデルでクラス分類することにより、入力データの種別としての血液型を推定するように構成してもよい。分類モデルを機械学習する機械学習装置は、複数の入力データと当該入力データに対応する血液型の正解データとを学習モデルに入力し、正解データを目標として、学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成する。入力データと正解データのセットは、例えば、数千から数万程度準備され、予め補助記憶部194に記憶されている。生成された分類済みモデルは、補助記憶部194に記憶される。
【0083】
そして、血液型判定部は、血液検体に抗A試薬および抗B試薬を各々添加した場合について、抗原抗体反応による赤血球の凝集の有無を推定することにより、オモテ試験における抗原抗体反応と血液型との関係(図10を参照)から血液検体の血液型を推定できる。
【0084】
このように、血液検体について測定したシレクトグラムS1,S2から、血液検体に試薬を添加する前後における透過光強度の時間推移の変化(波形)に基づいて、血液検体の血液型を判定できる。ここで、透過光強度の時間推移は赤血球の凝集の度合いを表す。
【0085】
なお、ある患者について過去に血液検体を採取し、シレクトグラムS1を測定している場合、すなわちシレクトグラムS1の測定履歴がある場合は、同じ患者の直近のシレクトグラムS2と、過去に測定したシレクトグラムS1とを使用して血液検体の血液型を判定することもできる。これにより、シレクトグラムS1の測定を省略できるので、測定時間を短縮できる。
【0086】
また、シレクトグラムS1を使用せずに、シレクトグラムS2を使用して、試薬が添加された血液検体における透過光強度の時間推移の変化(波形)に基づいて、血液検体の血液型を判定することもできる。
【0087】
例えば、図8(A)~(H)において、シレクトグラムS2の透過光強度とその傾きとは、血液型と試薬の組み合わせ、および混合率によって異なる。例えば、「A型血液+A型抗体試薬」と「A型血液+B型抗体試薬」とを比較すると、透過光強度は、混合率および経過時間にかかわらず「A型血液+A型抗体試薬」の方が大きい。また、透過光強度の傾きは、「A型血液+A型抗体試薬」の方が小さい。一方、「B型血液+A型抗体試薬」と「B型血液+B型抗体試薬」とを比較すると、透過光強度は、混合率が5.0[%]以上では概ね経過時間にかかわらず「B型血液+B型抗体試薬」の方が大きい。透過光強度の傾きは、「B型血液+B型抗体試薬」の方が小さい。
【0088】
また、「O型血液+A型抗体試薬」、および「O型血液+B型抗体試薬」における透過光強度の傾きは、「A型血液+A型抗体試薬」および「B型血液+B型抗体試薬」における透過光強度の傾きよりも大きい。一方、「AB型血液+A型抗体試薬」、および「AB型血液+B型抗体試薬」における透過光強度の傾きは、「A型血液+A型抗体試薬」および「B型血液+B型抗体試薬」における透過光強度の傾きと同程度である。
【0089】
このように、血液型と試薬の組み合わせにより、抗原抗体反応が生じているか否かに応じて、シレクトグラムS2の波形が変化する。血液型判定部は、例えば、透過光強度の傾きが所定の第1の閾値よりも小さい場合、抗原抗体反応が生じていると判定し、透過光強度の傾きが第1の閾値よりも大きい場合、抗原抗体反応が生じていないと判定する。第1の閾値は、例えば、複数の血液検体について抗原抗体反応が生じるか否かを実験して得られた結果に基づいて設定されうる。血液型判定部は、透過光強度の傾きから抗原抗体反応が生じているか否かを判定し、オモテ試験における抗原抗体反応と血液型との関係(図10を参照)から血液検体の血液型を推定できる。
【0090】
また、入力データとしてシレクトグラムS2の波形データ、または波形の画像データを、ニューラルネットワークで構成された学習済みの分類モデルに入力し、その入力データを分類モデルでクラス分類することにより、入力データの種別としての血液型を推定するように構成してもよい。分類モデルを機械学習する機械学習装置は、複数の入力データと当該入力データに対応する血液型の正解データとを学習モデルに入力し、正解データを目標として、学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成する。入力データと正解データのセットは、例えば、数千から数万程度準備され、予め補助記憶部194に記憶されている。生成された分類済みモデルは、補助記憶部194に記憶される。
【0091】
また、可逆的な赤血球凝集の進み具合に対する抗原抗体反応による赤血球凝集の進み具合をAMPの変化率Dで評価することにより、抗原抗体反応による赤血球凝集の進み具合を加味した血液型の判定を行うことができる。これにより、血液型判定の精度をさらに向上できる。
【0092】
AMPの変化率Dにおいて、コントロールの透過光強度の波高(AMP1)は、可逆的な赤血球凝集の増加分を表し、試薬を添加した場合の透過光強度の波高(AMP2)は、コントロールの赤血球凝集の増加分から抗原抗体反応による赤血球凝集の増加分が差し引かれた可逆的な赤血球凝集の増加分を表す。すなわち、流体の流れが停止した時点において、抗原抗体反応による赤血球凝集が進んでいるほどAMP2の値は小さくなる。したがって、抗原抗体反応による赤血球凝集が進んでいるほど(AMP2-AMP1)の値も小さくなる(負に増大する)。さらに、(AMP2-AMP1)をAMP1で割り、血液検体間におけるスケールを合わせることにより、異なる血液検体間における比較が可能となる。
【0093】
なお、AMP1の値が小さいほど、コントロールの可逆的な赤血球凝集が進んでいない可能性があり、凝集パラメータ(AMP)の測定時において何らかの不具合が生じている可能性がある。血液型判定部は、AMP1が所定の第2の閾値よりも小さい場合、凝集パラメータ(AMP)の測定時において不具合(エラー)が生じたと判定する。第2の閾値は、AMPの測定時における不具合が生じるか否かの観点から実験的に設定されうる。
【0094】
図9に示すように、AB型、A型、B型、またはO型の赤血球を含む血液検体の各々に対して抗A試薬を添加した場合、AB型およびA型については抗原抗体反応による赤血球凝集が生じる一方で、B型およびO型については抗原抗体反応による赤血球凝集が生じない。これにより、AB型およびA型の血液検体のAMPの変化率は、B型およびO型の血液検体のAMPの変化率よりも低くなる(変化率の絶対値は大きくなる)。
【0095】
また、AB型、A型、B型、またはO型の赤血球を含む血液検体の各々に対して抗B試薬を添加した場合、AB型およびB型については抗原抗体反応による赤血球凝集が生じる一方で、A型およびO型については抗原抗体反応による赤血球凝集が生じない。これにより、AB型およびB型の血液検体のAMPの変化率は、A型およびO型の血液検体のAMPの変化率よりも低くなる(変化率の絶対値は大きくなる)。
【0096】
血液型判定部は、AMPの変化率の絶対値が閾値(第3の閾値)の絶対値以下か、あるいは第3の閾値を超えているかに応じて抗原抗体反応による赤血球凝集が生じているか否かを判別できる。AMPの変化率が第3の閾値以下である場合、抗原抗体反応による赤血球凝集が生じていると判定され、AMPの変化率の絶対値が第3の閾値の絶対値を超えている場合、抗原抗体反応による赤血球凝集が生じていないと判定される。第3の閾値は、試薬の混合率に応じて実験的に設定されうる。図9に示す例では、例えば、第3の閾値を-40[%]に設定することにより、抗原抗体反応による赤血球凝集が生じる血液型と生じない血液型とを判別することができる。すなわち、図9に示すように、AMPの変化率が-40[%]以下である場合、血液検体の抗原と試薬の抗体とにより抗原抗体反応による赤血球凝集が生じていると判定できる。
【0097】
図10に示すように、抗原抗体反応による赤血球凝集が生じる場合(図中の「〇」)と、抗原抗体反応による赤血球凝集が生じない場合(図中の「×」)との組み合わせと血液型との対応関係から、血液検体に抗A試薬および抗B試薬の各々についての抗原抗体反応による赤血球凝集の有無に基づいて、血液型を判定できる。例えば、抗A試薬および抗B試薬の両方について、抗原抗体反応による赤血球凝集が有る場合、血液型判定部は、「AB型」と判定される。
【0098】
また、血液型判定部は、AMPの変化率の大きさに応じて、血液型判定の精度を推定することもできる。例えば、AMPの変化率(例えば、抗原抗体反応による赤血球凝集が有る血液型のAMPの変化率の平均)が-50[%]未満である場合は、血液型判定の精度が「高い」と推定し、AMPの変化率が-50[%]以上である場合は血液型判定の精度が「低い」と推定できる。さらに、血液型判定の精度を「高い」および「低い」で推定する場合に限らず、AMPの変化率の大きさに応じて、血液型判定の精度を多段階で推定し、レベル(数値)で表すように構成することもできる。
【0099】
さらに、血液型判定部は、AMPの変化率の大きさに応じて、凝集強度を推定することもできる。例えば、AMPの変化率が-50[%]未満である場合は、凝集強度が「強い」と推定し、AMPの変化率が-50[%]以上である場合は凝集強度が「弱い」と推定できる。さらに、凝集強度を「強い」および「弱い」で推定する場合に限らず、AMPの変化率の大きさに応じて、凝集強度を多段階で推定し、レベル(数値)で表すように構成することもできる。
【0100】
<出力方法>
出力部170は、血液型判定部によって判定された血液型に加えて、血液型判定の精度、血液検体に含まれる赤血球の凝集パラメータ、凝集強度、および凝集パラメータの測定時におけるエラーのうち少なくともいずれかを出力できる。
【0101】
血液型判定の精度は、例えば「高い」、または「低い」、もしくはレベル(数値)で出力されうる。これにより、ユーザは、判定された血液型の判定精度を知ることができる。
【0102】
凝集強度は、例えば「強い」、または「弱い」、もしくはレベル(数値)で出力されうる。これにより、ユーザは、凝集強度を知ることができる。
【0103】
また、凝集パラメータは、試薬が添加されない場合(コントロール)、および試薬が添加される場合について、例えばAMPの値[%]、またはAMPの値に対応するスコア値等で出力されうる。凝集パラメータの測定時におけるエラーは、エラーの有無が出力されうる。これにより、ユーザは、測定された凝集パラメータが妥当な値であるかどうか、あるいは適正かどうかを知ることができる。
【0104】
<主要な効果>
以上で説明した本実施形態に係る血球計数装置100(血液検査装置)、血液検査方法、および血液検査プログラムは、下記の効果を奏する。
【0105】
血液型抗体または血液型抗原を含む試薬を血液検体に添加する前後における血液検体の赤血球凝集の度合い(透過光強度の時間推移、または凝集パラメータ)を測定し、試薬の添加前後における赤血球凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定する。したがって、検出された凝集が抗原抗体反応による凝集か、あるいは連銭かを区別できるので、血液型を精度良く判定することができる。
【0106】
また、試験管法やスライド法等のように、赤血球の凝集の有無を目視によって確認する従来の方法においては、目視により判別可能な大きさの塊が凝集反応により生じるのに十分な試薬量が必要である。例えば、スライド法等においては、血液検体と試薬とが1:1、すなわち混合率50%程度でありうる。これに対して、本実施形態の血球計数装置100においては、ごく少量の試薬を使用し、吸光光度法により赤血球の凝集の度合いを測定し、凝集のわずかな変化でも検出できる。したがって、血球計数装置100は、従来の方法よりもごく少量の試薬を使用して血液型の判定を行えるので、経済性に優れる。また、抗A試薬および抗B試薬について1種類あたりの測定時間もわずか数秒から10秒程度であり、短時間測定が可能である。また、カラム凝集法のように複雑なカートリッジを必要としないため低コストで血液型判定を実現できる。このように、血球計数装置100では、赤血球の洗浄および血液検体の稀釈工程を省略でき、かつ試薬量を低減できるので、血液型検査工程の時間短縮およびコスト削減を実現できる。
【0107】
(第2の実施形態)
図11は第2の実施形態における血球計数装置200の概略構成を例示する模式図であり、図12は第2の実施形態における透過光強度の測定(S101)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。また、図13は第2の実施形態における透過光強度の測定(S102/S103)の処理を例示するサブルーチンフローチャートである。図12および図13に示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU191が血液検査プログラムを実行することにより実現される。
【0108】
本実施形態では、抗原抗体反応前後においてシレクトグラムおよび凝集パラメータの変化が大きくなるように、赤血球の連銭反応(可逆的な赤血球凝集)を促進させる物質(以下、本明細書では「凝集促進物質」と呼ぶ)を添加する場合について説明する。なお、以下では、説明の重複を避けるため第1の実施形態と同じ構成については詳細な説明を省略する。
【0109】
図11に示すように、本実施形態の血球計数装置200は、上述の第1の実施形態の血球計数装置100の構成に加えて、凝集促進剤添加部210をさらに有する。
【0110】
凝集促進剤添加部210は、血液貯留部114に貯留されている血液検体に凝集促進物質を添加する。血液貯留部114において、凝集促進物質が添加される前の血液検体の赤血球は負に帯電しているため、赤血球間には反発力が働く。これに対して、種々のタンパクや高分子物質が赤血球同士を架橋して赤血球の凝集を促進させることが知られている。血液検体にこれらのタンパクや高分子物質を凝集促進物質として添加することにより、流体の流れの停止時における赤血球凝集が促進される。
【0111】
凝集促進物質には、例えば、生体内のタンパクであるフィブリノゲン、免疫グロブリン、糖類等の様々な高分子物質、例えば、高分子デキストラン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、スターチ、ポリビニルピロリドン等が含まれる。
【0112】
上述の第1の実施形態において説明したように、血液型判定部は、血液検体に試薬を添加する前後における血液検体の赤血球の凝集の度合いの変化に基づいて、血液検体の血液型を判定する。このような血液型の判定方法においては、抗体試薬を添加しない場合(コントロール)の赤血球の凝集の度合いが低い、すなわち可逆的な赤血球凝集能が低い場合、抗体試薬の添加前後における血液検体の赤血球の凝集の度合いの変化が小さくなり、血液型の判定精度が低下する場合がある。このような判定精度の低下を回避するため、凝集促進物質が含まれる試薬(以下、「凝集促進剤」という)を、コントロールの透過光強度の測定、および抗体試薬を添加した場合の透過光強度の測定において各々等量添加することにより、抗体試薬添加前後における透過光強度推移の差分を増強することが可能となる。凝集促進剤は、抗体試薬と同様に、制御部190の指令に応じて、分注された血液貯留部114の血液検体に添加される。または、凝集促進剤があらかじめ含有された抗体試薬を血液貯留部114の血液検体に添加してもよい。
【0113】
図12に示すように、本実施形態では、試薬を添加しない場合の透過光強度の測定において、血液検体を含む流体を流路131に供給する前に、血液貯留部114に貯留されている血液検体に凝集促進剤を添加する(S401)。同図におけるこれ以降の処理(ステップS402~S406)の処理については、第1の実施形態におけるステップS201~S205の処理と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0114】
また、図13に示すように、試薬を添加する場合の透過光強度の測定において、血液検体に試薬を添加した後、血液検体を含む流体を流路131に供給する前に、血液貯留部114に貯留されている血液検体に凝集促進剤を添加する(S502)。同図における血液検体に試薬を添加する処理(ステップS501)およびステップS503~S507の処理については、第1の実施形態におけるステップS301~S306の処理と各々同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0115】
このように、本実施形態では、試薬を添加しない場合、および試薬を添加する場合において、凝集促進剤を血液検体に同量添加して透過光強度の測定を行う。これにより、赤血球の可逆的な赤血球凝集が促進され、抗体試薬の添加前後における血液検体の赤血球の凝集の度合いの変化(すなわちシレクトグラムおよび凝集パラメータの変化)が大きくなる。したがって、血液型の判定の精度を良好に維持できる。
【0116】
以上、本発明の実施形態に係る血液検査装置、血液検査方法、および血液検査プログラムについて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。
【0117】
例えば、複数の試薬をディスポーザブルのカートリッジに内蔵し、血液検体をカートリッジに吸引することにより、血液検体と試薬とを自動的に混合して測定を行ってもよい。
【0118】
また、上述の実施形態においては、ABO血液型の判定について主に説明したが、Rh血液型についても、オモテ試験と同様に赤血球を使用して、抗D抗体との抗原抗体反応による不可逆的な赤血球凝集の有無を確認し、Rh陽性またはRh陰性を判定できる。
【0119】
また、上述の実施形態においては、透過光強度の測定から血液型の判定までを血球計数装置100が自動的に行う場合について説明したが、このような場合に限定されず、一部の工程をユーザが手動で行うように構成してもよい。例えば、血液検体に試薬を添加しない場合の透過光強度の測定、および試薬を添加する場合の透過光強度の測定に含まれる複数の工程の手順をユーザが指定するように構成してもよい。また、上述の例では、試薬添加部120により血液検体に試薬を自動的に添加する場合について説明したが、添加する試薬の選択や添加量の指定をユーザが手動により行うように構成してもよい。
【0120】
また、血液検体に試薬を添加しない場合の透過光強度の測定が完了した後、測定に使用した血液検体を含む流体を廃棄せずに半分に分注し、分注された流体に各々抗A試薬および抗B試薬を添加した後、流路131に順次供給して透過光強度を測定するように構成してもよい。あるいは、複数の血液貯留部114、および複数の光測定部130を備え、血液検体に試薬を添加しない場合の透過光強度の測定、および試薬を添加する場合の透過光強度の測定を複数の光測定部130において同時並行的に行うように構成してもよい。これにより、血液検体に試薬を添加しない場合、および添加する場合の透過光強度の測定を順番に行う場合よりも測定時間を短縮できる。
【0121】
また、上述の実施形態においては、血球計数測定部140を有する血球計数装置100を例示して血液検査装置を説明したが、血液検査装置は、血球計数測定部140を有しない装置構成であってもよい。
【0122】
また、上記実施形態において血液検査プログラムにより実行される機能の一部または全部を電子回路などのハードウェアにより実行してもよい。
【符号の説明】
【0123】
100 血球計数装置、
110 血液取得部、
111 採血管、
112 分注機構、
113 吸引ポンプ、
114 血液貯留部、
115 ノズル、
116 配管、
117 電磁弁、
120 試薬添加部、
130 光測定部、
131 流路、
132 光検出部、
140 血球計数測定部、
150 血液排出部、
151 チューブポンプ、
152 ピンチバルブ、
160 操作入力部、
170 出力部、
180 電源部、
190 制御部、
191 CPU、
192 ROM、
193 RAM、
194 補助記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13