(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150038
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】基地局、位相制御装置、通信システム、通信方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/155 20060101AFI20231005BHJP
H04W 52/52 20090101ALI20231005BHJP
H04W 16/26 20090101ALI20231005BHJP
H04B 7/185 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H04B7/155
H04W52/52
H04W16/26
H04B7/185
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058915
(22)【出願日】2022-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年3月1日に、EiC電子情報通信学会2022年総合大会講演論文集(DVD及びWEB公開),B-17-1(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (2)令和4年3月16日に、EiC電子情報通信学会2022年総合大会,オンライン開催にて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.3GPP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「HAPSを利用した無線通信システムに係る周波数有効利用技術に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】太田 喜元
(72)【発明者】
【氏名】小西 光邦
(72)【発明者】
【氏名】長手 厚史
【テーマコード(参考)】
5K067
5K072
【Fターム(参考)】
5K067DD25
5K067EE02
5K067EE06
5K067EE10
5K067KK02
5K067KK03
5K072AA04
5K072AA29
5K072BB02
5K072BB13
5K072BB22
5K072DD01
5K072DD16
5K072GG02
5K072GG05
(57)【要約】
【課題】基地局が無線中継装置との無線通信に複数の直線偏波アンテナを用いる場合に、無線中継装置の姿勢変化による基地局からの既知信号の受信電力の変動を抑制し、その既知信号の受信電力に基づく無線中継装置の電力増幅器の適切な利得制御が可能になる通信システムを提供する。
【解決手段】基地局は、無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、アンテナ装置から無線中継装置に送信される既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部又は外付けの位相制御装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムであって、
前記基地局は、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備え、
前記無線中継装置は、前記基地局装置から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムであって、
前記基地局は、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備え、
前記無線中継装置は、前記基地局装置から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項3】
請求項1又は2の通信システムにおいて、
前記複数の直線偏波アンテナは、直線偏波面が互いに直交する第1直線偏波アンテナ及び第2直線偏波アンテナであり、
前記基地局処理部又は前記位相制御装置は、前記所定の時間スロットについて、前記第1直線偏波アンテナ及び前記第2直線偏波アンテナのそれぞれに供給する複数の送信信号の間の位相差が90度又は-90度になるように制御する、ことを特徴とする通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの通信システムにおいて、
前記無線中継装置は、前記基地局装置から受信した既知信号のタイミングを前記既知信号のレプリカとの相関処理によって検出し、前記既知信号のタイミングに基づいて前記既知信号の受信電力を測定し、前記既知信号の受信電力の測定結果に基づいて前記電力増幅器の利得制御を行う、ことを特徴とする通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの通信システムにおいて、
前記基地局装置は、ゲートウェイ局に設けられている、ことを特徴とする通信システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの通信システムにおいて、
前記無線中継装置は、上空に位置する浮揚体又は飛行体に搭載されている、ことを特徴とする通信システム。
【請求項7】
無線中継装置との間で無線通信する基地局であって、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備えることを特徴とする基地局。
【請求項8】
無線中継装置との間で無線通信する基地局であって、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備えることを特徴とする基地局。
【請求項9】
請求項7又は8の基地局において、
前記複数の直線偏波アンテナは、直線偏波面が互いに直交する第1直線偏波アンテナ及び第2直線偏波アンテナであり、
前記基地局処理部又は前記位相制御装置は、前記所定の時間スロットについて、前記第1直線偏波アンテナ及び前記第2直線偏波アンテナのそれぞれに供給する複数の送信信号の間の位相差が90度又は-90度になるように制御する、ことを特徴とする基地局。
【請求項10】
無線中継装置との間で無線通信する基地局の基地局装置と、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置との間に設けられ、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する、ことを特徴とする外付けの位相制御装置。
【請求項11】
基地局と無線中継装置との間で無線通信する方法であって、
前記基地局により、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御することと、
前記無線中継装置により、前記基地局装置から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように電力増幅器の利得を制御することと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
無線中継装置との間で無線通信する基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムであって、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御するためのプログラムコードを含む、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継装置との間で無線通信する基地局、位相制御装置、通信システム、通信方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地上や海上等に配置された基地局装置から送信された無線信号を中継する無線中継装置において、無線中継装置のアンテナと基地局装置のアンテナとの間の伝搬路の損失を考慮し、基地局装置から送信された既知信号(例えば、同期信号又は参照信号)の受信電力に基づいて、無線中継装置が端末装置に送信する送信信号の電力を増幅する電力増幅器の利得を制御する機能(例えば自動利得制御(AGC)の機能)を有するシステムが知られている。特許文献1には、中継器(無線中継装置)のIF/RF受信機を通じて受信された受信信号のシンク信号(同期信号)の電力サイズを測定し、測定したシンク信号の電力サイズに基づいて中継器のカバレッジを一定に維持するための中継器の増幅器利得を算定し、算定された利得によって中継器の増幅器を制御する装置が開示されている。この装置によれば、中継器のカバレッジを柔軟に調節することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記無線中継装置がHAPS、ドローン、気球などの浮揚体又は飛行体のように上空に位置する場合、無線中継装置と基地局装置との間のフィーダリンクの伝搬路の損失が一定であっても、無線中継装置の回転や傾きなどの姿勢変化によって、電力増幅器の利得の調整に用いる既知信号の受信電力が変動し、無線中継装置の電力増幅器の利得を適切に制御することができないおそれがある。特に、フィーダリンクのアンテナがユーザデータの通信に有利であって内部損失の低減やサイズ及び重量の軽減を図ることができる複数の直線偏波アンテナ(例えば、垂直偏波アンテナと水平偏波アンテナ)を用いる場合は、上記既知信号の受信電力の変動が大きい。更に、既知信号の受信電力のみに基づいて電力増幅器の利得を制御することが難しい、という課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る通信システムは、無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムである。この通信システムにおいて、前記基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備える。前記無線中継装置は、前記基地局装置から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える。
【0006】
本発明の他の態様に係る通信システムは、無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムである。この通信システムにおいて、前記基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備える。前記無線中継装置は、前記基地局装置から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える。
ここで、既知信号が含まれる所定の時間スロットに限らず、2つの直線偏波アンテナに送信される2つの基地局信号に対して固定的に位相差を与えてもよい。
【0007】
本発明の更に他の態様に係る基地局は、無線中継装置との間で無線通信する基地局装置である。この基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備える。
【0008】
本発明の更に他の態様に係る基地局は、無線中継装置との間で無線通信する基地局装置である。この基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備える。
【0009】
本発明の更に他の態様に係る外付けの位相制御装置は、無線中継装置との間で無線通信する基地局の基地局装置と、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置との間に設けられ、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する。
【0010】
本発明の更に他の態様に係る方法は、基地局と無線中継装置との間で無線通信する方法である。この方法は、前記基地局により、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御することと、前記無線中継装置により、前記基地局装置から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように電力増幅器の利得を制御することと、を含む。
【0011】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、無線中継装置との間で無線通信する基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムである。このプログラムは、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御するためのプログラムコードを含む。
【0012】
前記複数の直線偏波アンテナは、直線偏波面が互いに直交する第1直線偏波アンテナ(例えば、垂直偏波アンテナ)及び第2直線偏波アンテナ(例えば、水平偏波アンテナ)であり、前記所定の時間スロットについて、前記第1直線偏波アンテナ及び前記第2直線偏波アンテナのそれぞれに供給する複数の送信信号の間の位相差が90度又は-90度になるように制御してもよい。
【0013】
前記無線中継装置は、前記基地局装置から受信した既知信号のタイミングを前記既知信号のレプリカとの相関処理によって検出し、前記既知信号のタイミングに基づいて前記既知信号の受信電力を測定し、前記既知信号の受信電力の測定結果に基づいて前記電力増幅器の利得制御を行ってもよい。
【0014】
前記基地局装置は、ゲートウェイ局に設けられてもよい。また、前記無線中継装置は、上空に位置する浮揚体又は飛行体に搭載されていてもよい。例えば、前記無線中継装置は、ドローン、気球、飛行船、HAPS又は人工衛星に搭載されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基地局装置が無線中継装置との間のフィーダリンクの無線通信に複数の直線偏波アンテナを用いる場合に、無線中継装置の姿勢変化による基地局装置からの既知信号の受信電力の変動を抑制し、その既知信号の受信電力に基づく無線中継装置の電力増幅器の適切な利得制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る基地局を含む通信システムの主要構成の一例を示す説明図。
【
図2】実施形態に係る基地局を含む階層セル構成の通信システムの全体構成の一例を示す説明図。
【
図3】実施形態に係る基地局及びGW局を含む通信システムの主要構成の一例を示す説明図。
【
図4】実施形態に係る通信システムにおける無線中継装置の自動利得制御(AGC)の一例を示す説明図。
【
図5】受信アンテナのロール・ピッチ・ヨー回転を示す説明図。
【
図6】(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、SSの送信信号、受信アンテナの回転がない場合のSSの受信信号及び受信アンテナの回転がある場合のSSの受信信号の一例を示す説明図。
【
図7】(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、データCHの送信信号、受信アンテナの回転がない場合のデータCHの受信信号及び受信アンテナの回転がある場合のデータCHの受信信号の一例を示す説明図。
【
図8】(a)は、HAPS基地局のFLアンテナ装置の指向方向と送信アンテナの偏波方向と無線中継装置の受信アンテナの偏波方向との関係を示す説明図。(b)は比較例に係る通信システムにおけるシミュレーション結果における受信アンテナの回転量に対する相対受信電力の関係を示すグラフ。(c)は本実施形態に係る通信システムにおけるシミュレーション結果における受信アンテナの回転量に対する相対受信電力の関係を示すグラフ。
【
図9】実施形態に係る通信システムにおけるHAPS基地局及び無線中継装置の下りリンクに対応する部分の一構成例を示すブロック図。
【
図10】実施形態に係る通信システムにおけるHAPS基地局及び無線中継装置の下りリンクに対応する部分の他の構成例を示すブロック図。
【
図11】実施形態に係る無線中継装置における同期信号を用いたフレームタイミング及び同期信号の受信電力を検出するための同期方法の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ここでは、3GPPのLTE/LTE-Advancedの移動通信システム、第5世代以降の次世代のNR(New Radio)の移動通信システムのへの適用を前提に本発明の実施形態を説明するが、類似のセル構成、物理チャネル構成を用いるシステムであれば、本発明の概念はどのようなシステムにも適用可能である。
【0018】
本書に記載された実施形態に係る通信システムは、高高度プラットフォーム局(HAPS)(「高高度疑似衛星」ともいう。)、ドローン、飛行船、気球などに組み込まれて上空に位置する上空プラットフォームである無線中継装置(非再生中継局)と、地上又は海上には位置された基地局(以下「HAPS基地局」という。)と、を備える。その無線中継装置とHAPS基地局の双方において複数の直線偏波アンテナ(例えば垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナ)を用いたまま、HAPS基地局から上空の無線中継装置に送信する既知信号(例えば、同期信号又は参照信号)の電波を円偏波にしている。これにより、受信信号の内部損失、追加の重量及びサイズが大きい円偏波アンテナを用いることなく、無線中継装置の姿勢変化(例えば、回転)によるHAPS基地局からの既知信号の受信電力の変動を抑制し、その既知信号のみの受信電力に基づいて、無線中継装置から端末装置(UE)に送信されるサービスリンクの送信信号を増幅する電力増幅器の利得を適切に制御することができる。
【0019】
図1は、本実施形態に係る無線中継装置10を含む通信システム(無線中継システム)の主要構成の一例を示す説明図である。
図1において、通信システムは、上空を飛行する飛行体(例えば、HAPS、飛行船、ソーラープレーン、ドローン、気球など)15などに設けられた上空滞在型の無線中継装置10を備える。無線中継装置10は、リピータ型の中継局(非再生中継局)であり、フィーダリンクFLを介して地上のHAPS基地局35と無線通信を行い、サービスリンクSLを介して端末装置(UE)60と無線通信を行い、HAPS基地局35と端末装置(UE)60との間の通信を中継する。無線中継装置10は、サービスリンクSLの送信信号を増幅する第1の電力増幅部としての電力増幅器(PA)110と、AGCを行う中段の電力増幅部としての電力増幅器(PA)119と、フィーダリンクFLの送信信号を増幅する第2の電力増幅部としての電力増幅器(PA)120とを有する。なお、通信システム(無線中継システム)は、無線中継装置10のほかHAPS基地局35を含んでもよく、UE60を更に含んでもよい。
【0020】
中段の電力増幅部としての電力増幅器119は、HAPS基地局35から受信する特定の既知信号(例えば同期信号:SS)の受信電力の測定結果に基づいて、端末装置(UE)60に対するサービスリンクSLの送信信号の電力が一定になるように利得を制御する自動利得制御(AGC)機能を有する。
【0021】
フィーダリンクFLの周波数(周波数帯)とサービスリンクSLの周波数(周波数帯)は、電波の回り込みによる干渉を防止するために互いに異なる周波数(周波数帯)であってもよい。
【0022】
無線中継装置10は、フィーダリンクFLを介してHAPS基地局35から受信する下りリンクの高周波無線(RF)信号に含まれる同期信号を検出する機能を備え、中継対象の下りリンクの信号(以下「下りリンク信号」ともいう。)のフレームタイミングを検出できる。また、無線中継装置10は、HAPS基地局35又は中央制御サーバから、基地局情報(例えば、システム帯域幅、物理セルIDやサブキャリア間隔などの基地局パラメータや、同期信号の時間・周波数グリッド上の無線リソース配置位置を含む下りリンクの準静的スケジューリング情報、又は、下りリンク及び上りリンクの準静的スケジューリング情報、同期信号の受信電力算出に用いる所定のオフセット量)を受信する。
【0023】
準静的スケジューリング情報は、無線フレームを構成する複数のスロットについてスロットごとに送信対象のデータを含むか否かを特定することができる情報であり、当該複数のスロットにおける送信信号を停止する下りリンク送信停止パターンの情報である。この準静的スケジューリング情報は、無線フレームを構成する複数のリソースエレメントに割り当てられる複数のシンボルについてシンボルごとにデータを含むか否か(送信対象のシンボルか非送信対象のシンボルか)を特定する通常のスケジューリング情報であってもよい。前記準静的スケジューリング情報は、無線フレームごとに変化する情報ではなく、複数の無線フレームを一単位として定期的に又は不定期的に変更されてもよい。
【0024】
図2は、本実施形態に係る無線中継装置を含むHAPS移動通信システムの全体構成の一例を示す説明図である。
図2において、災害時対応や臨時のイベントなどによる通信トラフィック対策として、上空に位置して移動可能な浮揚体としての飛行船、ソーラープレーン、ドローン、気球などの飛行体15のアンテナ102から地上又は水上(例えば海上)に向かって形成される移動通信ネットワークの複数のサービスリンクSL(1),SL(2)の広域の大セル10A(1),10A(2)を展開している。この複数の大セル10A(1),10A(2)は、単一の無線中継装置によって形成され、「セクタセル」ともいう。
【0025】
図2の例では、無線中継装置10を有する飛行体15が上空を移動可能な飛行体としての飛行船タイプのHAPS(「高高度プラットフォーム局」又は「高高度疑似衛星」)である例を示しているが、飛行体15は、上空を移動又は飛行可能なドローン、気球、航空機、ヘリコプター、ソーラープレーンタイプのHAPS若しくはLAPS(「低高度プラットフォーム局」又は「低高度疑似衛星」)、飛行船タイプのLAPS、人工衛星などの他の無人又は有人の飛行体であってもよい。また、飛行体15は、無線中継を行う運用時に位置する上空の所定の位置に移動した後、その位置にとどまるように又はその位置を含む所定範囲の飛行空間内を循環飛行するように制御してもよい。
【0026】
飛行体は、自律制御若しくは外部から制御により又は飛行体に搭乗する操縦者の操縦により、地面、海面、又は川若しくは湖などの水面から100[km]以下の高度の空域を飛行して位置するように制御されてもよい。また、飛行体の飛行空域は、高度が11[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域であってもよい。更に、飛行体の飛行空域は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。
【0027】
本実施形態の移動通信システムは、LTE(Long Term Evolution)/LTE-Advanced又は第5世代などの次世代の標準仕様に準拠した通信システムであり、無線中継装置10は、複数の大セル10A(1),10A(2)を形成するサービスリンクSL(1),SL(2)のアンテナ(以下「SLアンテナ装置」ともいう。)101と、地上側に設けられたHAPS基地局(例えば、eNodeB、gNodeB)35と無線通信するためのフィーダリンクFLのアンテナ(以下「FLアンテナ装置」ともいう。)102とを有する。HAPS基地局35は、回線終端装置及び専用回線などの通信回線を介して移動体通信網のHAPSコアネットワーク30に接続され、コアネットワーク装置やサーバなどの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能になっている。
【0028】
無線中継装置10のSLアンテナ装置101及びFLアンテナ装置102はそれぞれ、複数の直線偏波アンテナとしての垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナを有する。垂直偏波アンテナは、鉛直方向と電波伝搬方向とを含む垂直偏波面の電波を送受信する。水平偏波アンテナは、垂直偏波面に直交する面であって電波伝搬方向を含む水平偏波面の電波を送受信する。SLアンテナ装置101及びFLアンテナ装置102はそれぞれ、垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナを1組として構成したアンテナ素子を1次元的、2次元的又は3次元的に配列したアレーアンテナであってもよい。
【0029】
なお、HAPSコアネットワーク30は、大セル10A(1),10A(2)のHAPS基地局35を収容する共通のコアネットワークであってもよい。また、セル10A(1),10A(2)で用いられる周波数は、例えば、300MHz~30GHzのマイクロ波帯の周波数でもよいし、30GHzよりも高いミリ波帯の周波数でもよい。
【0030】
本実施形態において、飛行体15に搭載された無線中継装置10は、アンテナ102と地上側のフィーダリンクの中継装置であるゲートウェイ(GW)局が接続されたHAPS基地局35を介して、移動通信網のHAPSコアネットワーク30、各種のコアネットワーク装置、インターネットなどの外部ネットワーク、中央制御サーバ50などの各種サーバ等と通信することができる。
【0031】
中央制御サーバ50は、HAPS基地局35のスケジューリング情報等の基地局情報を一元管理し、基地局を制御するための制御情報を生成することができる。また、中央制御サーバ50は、無線中継装置10の中段の電力増幅器119のAGCに用いられる基地局情報を管理し、基地局情報を無線中継装置10に通知する機能を有する。なお、中央制御サーバ50は、データセンターなどの遠隔地に設置してもよいし、HAPSコアネットワーク30に設けてもよい。
【0032】
UE60(1),60(2)はそれぞれ、大セル10A(1),10A(2)に在圏するときに、その在圏するセルに対応する上空の無線中継装置10を介してHAPS基地局35と間で所定の通信方式及び無線通信リソースを用いて無線通信することができる。UE60(1),60(2)はそれぞれ、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより無線中継装置10を介したHAPS基地局35との通信を行うことができる。
【0033】
HAPS基地局35の基地局装置及び後述の外付けの位相制御装置は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、HAPSコアネットワーク30に対する外部通信インターフェース部、中央制御サーバ50に対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより、所定の通信方式及び無線通信リソースを用いてUE60(1),60(2)との間の無線通信を行ったり、HAPSコアネットワーク30のコアネットワーク装置との間の情報の送受信を行ったり、中央制御サーバ50との間の情報の送受信を行ったりすることができる。
【0034】
無線中継装置10は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、サービスリンク及びフィーダリンクの無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより、所定の通信方式及び無線通信リソースを用いてUE60(1),60(2)との間の無線通信を行ったり、HAPS基地局35を介して中央制御サーバ50との間の情報の送受信を行ったりすることができる。
【0035】
無線中継装置10は、所定のプログラムが実行されることにより、HAPS基地局35から受信した無線信号に含まれる同期信号に基づいて無線フレームのフレームタイミングを検出する処理を行ったり、HAPS基地局35又は中央制御サーバ50から受信した基地局情報に基づいて中段の電力増幅器119のAGCを実施したりすることができる。
【0036】
また、無線中継装置10は、所定のプログラムが実行されることにより、HAPS基地局35から受信した無線信号に含まれる既知信号(例えば同期信号:SS)の受信電力の測定結果に基づいて、端末装置(UE)60に対するサービスリンクSLの送信信号の電力が一定になるように利得を制御することができる。
【0037】
HAPS基地局35は、上空の無線中継装置10を介して、UEに対してOFDM(直交周波数分割多重)方式の下りリンクの無線通信可能な基地局である。HAPS基地局35は、例えば、アンテナ、無線信号経路切り換え部、送受共用器(DUP:Duplexer)、下りリンク無線受信部及び下りリンク変調部としてのOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調部、制御部、上りリンク無線受信部及び上りリンク復調部(例えば、SC-FDMA(Single-Carrier Frequency-Division Multiple Access)復調部又はOFDM復調部)などを備える。更に、HAPS基地局35は、無線インターフェースベースの同期などの特殊用途のために、下りリンク無線送信部及びOFDM復調部を備えてもよい。
【0038】
SC-FDMA復調部は、上りリンク無線受信部で受信した受信信号に対してSC-FDMA方式の復調処理を実行し、復調されたデータを制御部に渡す。OFDM復調部は、上りリンク無線受信部で受信した受信信号に対してOFDM方式の復調処理を実行し、復調されたデータを制御部に渡す。OFDM変調部は、制御部から受けた自局のセルに在圏しているUEに向けて送信する下りリンク信号のデータを、所定の電力で送信されるように、OFDM方式で変調する。また、基地局が例えばサーバから送信停止対象のスロットの情報を受信した場合、OFDM変調部は、無線フレーム中の特定のスロットについてのみ下りリンク送信を停止するように制御される。下りリンク無線送信部は、OFDM変調部で変調した送信信号を、送受共用器、無線信号経路切り換え部及びアンテナを介して、上空の無線中継装置10に送信する。
【0039】
本実施形態において、フィーダリンクFLを介して上空の無線中継装置10と無線通信するHAPS基地局35のFLアンテナ装置は、複数の直線偏波アンテナとしての垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナを有する。垂直偏波アンテナは、鉛直方向と電波伝搬方向(アンテナ指向方向)とを含む垂直偏波面の電波を送受信する。水平偏波アンテナは、垂直偏波面に直交する面であって電波伝搬方向(アンテナ指向方向)を含む水平偏波面の電波を送受信する。HAPS基地局35のFLアンテナ装置は、垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナを1組として構成したアンテナ素子を1次元的、2次元的又は3次元的に配列したアレーアンテナであってもよい。
【0040】
また、サービスリンクSLを介して端末装置(UE)60(1),60(2)と無線通信するHAPS基地局35のSLアンテナ装置は、複数の直線偏波アンテナとしての垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナを有する。HAPS基地局35のSLアンテナ装置は、垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナを1組として構成したアンテナ素子を1次元的、2次元的又は3次元的に配列したアレーアンテナであってもよい。
【0041】
また、本実施形態の通信システムにおいて、
図3に示すように、HAPS基地局35は、地上又は海上に配置された無線通信部(中継局)として地上のゲートウェイ局(GW局)(以下「地上GW」ともいう。)36に設置し、地上GW36を介して上空の無線中継装置10と通信するように構成してもよい。
【0042】
上記構成の移動システムにおいて、
図4に示すように、フィーダリンクFLの無線伝搬路での損失により、HAPS基地局35から最大送信電力で送信しても、無線中継装置10で受信されるときの信号電力は小さくなる。そのため、無線中継装置10のサービスリンク側の中段の電力増幅器119によって信号の電力を所定電力まで増幅し、端末装置(UE)60に向けて送信する。HAPS基地局35から受信する既知信号(例えば同期信号:SS)の受信電力の測定結果に基づいて中段の電力増幅器119の利得量を決定するように制御することにより、無線中継装置10のフィーダリンクFLの受信電力が変動しても、サービスリンクSLの送信信号の電力を一定にすることができる。
【0043】
本実施形態の無線中継方式では、HAPS基地局35からの送信信号はフィーダリンクFLを通してHAPS等の飛行体(又は浮揚体)15に搭載される無線中継装置(中継局)10で非再生中継され、地上移動通信システムで広く用いられる端末装置(UE)60で直接受信することができる。このとき、飛行体15の機体の飛行に伴ってフィーダリンク信号の受信電力が変化するため、上空の無線中継装置(中継局)10ではサービスリンクSLに対して最大電力で送信することを目的として、AGCによる信号電力の増幅を行う。ただし、5GNR等の移動通信システムにおいては低消費電力化やセル間干渉抑圧の観点から、データ信号が存在しない場合には、所定のタイミングで必ず送信される一部の同期信号(SS)等を除いて、不必要な信号を送信しない。ゆえに、数ミリから数十ミリ秒に渡って無信号状態となりうる。この無信号区間においては、実際には雑音電力や回り込み干渉などが存在するため完全な無入力でないものの、AGCにおいて不必要に大きい利得量が設定されてしまう。これを解決するAGC部の制御方法の一つとして、同期信号(SS)等の特定の既知信号の受信電力を観測し、増幅すべき利得量を決定する手法がある。例えば、5GNRの無線中継システムでは、AGC部で同期信号(SS)のレプリカ信号を用いた相関検出処理を行うことで、同期信号(SS)のみの信号電力を算出し、データ信号の有無に依存せずに利得量を決定する。
【0044】
しかしながら、上空の無線中継装置(中継局)10においては機体の旋回飛行に伴うアンテナの回転を考慮する必要がある。FLアンテナ装置として水平・垂直共用直線偏波アンテナを用いる場合、送信アンテナ指向方向を回転軸とし、上空の無線中継装置(中継局)10の受信アンテナの回転量(例えば、
図5のz軸を中心としたヨー回転の回転量)を変化させたとき、フィーダリンクFLの受信信号は次式(1)で表現できる。
【数1】
【0045】
ここで、r0,r1及びs0,s1はそれぞれアンテナ0(垂直偏波)、1(水平偏波)における受信信号と送信信号を、GTX及びGRXはそれぞれ送信アンテナと受信アンテナの利得を、Hはチャネル応答を、θは送信アンテナ指向方向を回転軸としたときの上空の無線中継装置(中継局)10の受信アンテナの回転量を表す。2×2MIMOの場合、同期信号(SS)は両アンテナから同一の信号が送信されるが、そのアンテナウェイトは規定されていない。このため、例えば両アンテナから等ウェイト(同相)で送信される場合、θの値に応じてr0,r1の同期信号(SS)の受信電力が大きく変化することがある。
【0046】
例えば、
図6(a)は、同一電力及び同一位相の2つのSS(同期信号)の信号SS
V,SS
Hがそれぞれ垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナから送信された場合を示している。両アンテナから送信された信号の電波の合成偏波は45度に傾いた直線偏波になる。この場合、
図6(b)に示すように送信アンテナと受信アンテナとの間で傾きがないと両アンテナによりそれぞれ等しい電力でSS
V,SS
Hが受信されるが、送信アンテナと受信アンテナとの間に傾きがあると両アンテナによりそれぞれ等しくない電力でSS
V,SS
Hが受信される。
図6(c)に示すように両アンテナ間の傾き角度が45度であると、水平偏波アンテナで受信される信号SS
Hの電力は著しく低下する。
【0047】
一方、データ信号は垂直偏波アンテナと水平偏波アンテナとの間で無相関であるため、それぞれのアンテナにおける受信電力は、回転量θに依らず一定である。すなわち、アンテナの回転に伴って、それぞれの受信アンテナにおいて、AGCで決定すべき最大信号電力に対する利得誤差が生じる。
【0048】
例えば、
図7(a)は、互いに無相関な2つのデータCHの信号DAT
V,DAT
Hがそれぞれ垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナから送信された場合を示している。この場合、
図7(b)に示すように送信アンテナと受信アンテナとの間で傾きがないと両アンテナによりそれぞれ等しい電力でDAT
V,DAT
Hが受信される。また、
図7(c)に示すように送信アンテナと受信アンテナとの間に傾きがある場合、両アンテナで受信される信号において所望信号と干渉成分が合成され、受信信号の電力は送信アンテナと受信アンテナとの間で傾きがない場合と等しくなる。
【0049】
前述の無線中継装置10の垂直偏波アンテナと水平偏波アンテナのそれぞれによって受信されたSS(同期信号)の受信電力に基づいてAGCが行われる場合、アンテナの回転に伴うSS(同期信号)の受信電力の変化によって適切なAGCができないという課題がある。このような課題は、一般的に右旋・左旋共用の円偏波アンテナを用いることで解決可能であるが、そのためには上空の無線中継装置(中継局)10側のFLアンテナ装置も円偏波アンテナにする必要があり、これは直線偏波アンテナを用いる場合に比べて内部損失が大きくなり、重量及びサイズが大きくなる場合がある。
【0050】
そこで、本実施形態では、HAPS基地局35のFLアンテナ装置として直線偏波アンテナを用いることを前提としたうえで、HAPS基地局35の各直線偏波アンテナ(垂直偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナ)から送信される同期信号(SS)の送信信号に所定の位相差(例えば、90度又は-90度の位相差)を与えることにより、同期信号(SS)の送信信号について合成偏波として等価的に円偏波又は楕円偏波を形成し、当該利得誤差を解消又は低減している。
【0051】
なお、各直線偏波アンテナ(垂直偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナ)から送信される同期信号(SS)の位相差は、当該利得誤差を解消できるように同期信号(SS)が等価的に円偏波(若しくは楕円偏波)を形成できる程度であればよく、90度若しくは-90度の位相差のほか、例えば、85度~95度若しくは-85度~-95度の位相差、88度~92度若しくは-88度~-92度の位相差、又は、89度~91度若しくは-89度~-91度の位相差であってもよい。
【0052】
次に、本実施形態の通信システムにおけるHAPS基地局35のFLアンテナ装置の指向方向を軸にした1軸のアンテナ回転の影響及び位相制御の効果について行ったコンピュータ・シミュレーション評価の実施結果について説明する。
【0053】
図8(a)は、HAPS基地局35のFLアンテナ装置の指向方向と直線偏波アンテナからなる2つの送信アンテナの偏波方向(垂直偏波、水平偏波)と無線中継装置10の直線偏波アンテナからなる2つの受信アンテナの偏波方向(垂直偏波、水平偏波)との関係を示す説明図である。
図8(b)はHAPS基地局35側で同期信号の位相制御を行わない比較例に係る通信システムにおけるシミュレーション結果における受信アンテナの回転量に対する相対受信電力の関係を示すグラフである。
図8(c)はHAPS基地局35側で同期信号の位相制御を行う本実施形態に係る通信システムにおけるシミュレーション結果における受信アンテナの回転量に対する相対受信電力の関係を示すグラフである。
【0054】
本シミュレーションでは、5GNRのOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号を想定し、送信信号s0,s1について2つの送信アンテナ間で同一の電力及び位相のSS(同期信号)と2つの送信アンテナ間で無相関なQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)のデータ信号をそれぞれ送信する。データ信号とSS(同期信号)に用いるサブキャリア数はそれぞれ、5G NRにおけるシステム帯域幅5MHzに相当するように300及び127とした(サービスリンクにおいて2GHz以下のFDD帯域を想定)。受信アンテナの回転の影響を純粋に評価するため、送信アンテナの利得G
TX、受信アンテナの利得G
RX及びH(チャネル応答)は単位行列(完全見通しかつ自由空間伝搬損失を仮定し、アンテナの交差偏波識別度は理想と仮定)とし、最大受信電力からの相対的な受信電力で評価した。2つの送信アンテナに供給する2つのSS(同期信号)の位相差を同相(比較例)及び90度(本実施形態)とした場合の結果をそれぞれ
図8(b)及び
図8(c)に示す。
【0055】
図8(b)の比較例の場合、送信アンテナ装置に対する受信アンテナ装置の回転量θが0度のとき、各アンテナの偏波面は送信側と受信側で一致しているため、受信信号r
0,r
1と送信信号s
0,s
1との関係はr
0=s
0,r
1=s
1である.このとき,SS(同期信号)とデータ信号の受信電力には一定差(およそ3dB)が存在するが、これは使用サブキャリア数が異なるためであり、この差を固定オフセットと見なしてAGCを実施すればよい。そこから、送信アンテナに対する受信アンテナの回転量θが増加するにつれr
0のSS(同期信号)受信電力は増加する一方でr
1のSS(同期信号)受信電力は減少する。送信アンテナ側で同一同相のSS(同期信号)が送信されることから、垂直偏波と水平偏波が合成されることと等価であり、45度回転した直線偏波のSS(同期信号)が送信されたとみなせる。従って、回転量θが45度付近ではr
0のSS(同期信号)受信電力は送信電力に対して3dB増加し、r
1のSS(同期信号)受信電力は極端に低下している。
【0056】
また、送信アンテナに対する受信アンテナの回転量θが90度のときは送信側の垂直偏波アンテナと受信側の水平偏波アンテナの偏波面が一致しているため、r0=s1,r1=s0となり、θが0度の場合と同様にSS(同期信号)とデータ信号の受信電力は固定オフセットを考慮することで一致するため、AGCによる適切な利得制御が可能である。θが90度より大きい場合については2つの直線偏波アンテナの関係が入れ替わるかたちで同様の特性となる。一方、データ信号は2つの直線偏波アンテナ間で無相関なため、θに依らず受信電力は一定である。
【0057】
図8(c)に示す本実施形態のシミュレーションでは、2つの直線偏波アンテナからなる送信アンテナ装置から送信されるSS(同期信号)が円偏波となっているため、SS(同期信号)とデータ信号の受信電力はどちらもθに依らず、常に一定の受信電力である。従って、送信アンテナ装置に対する受信アンテナ装置の回転が生じた場合でも、無線中継装置(非再生中継局)10はSS(同期信号)を一定電力で受信し、電力増幅器の利得量を適切に制御できる。
【0058】
図9は、実施形態に係る通信システムにおけるHAPS基地局35及び無線中継装置10の下りリンクに対応する部分の一構成例を示すブロック図である。
【0059】
図9において、無線中継装置10は、垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナからなるサービスリンクのSLアンテナ装置101と、垂直偏波アンテナ及び水平偏波アンテナからなるフィーダリンクのアンテナ装置102と、フィーダリンク側のデュプレクサ部111と、フィーダリンク受信信号に対する電力増幅器(LNA)112と、フィーダリンク受信信号に対するフィルタ部113と、フィーダリンクFLの周波数とサービスリンクSLの周波数との間の周波数変換処理を行う周波数変換部114と、サービスリンク送信信号に対するフィルタ部115と、サービスリンク送信信号を増幅するFET(電界効果ドランジスタ)等からなる電力増幅器(PA)110と、サービスリンク側のデュプレクサ部116と、中段の電力増幅部(電力増幅器)119と、を備える。
【0060】
中段の電力増幅部(電力増幅器)119は、受信した中継信号に対して相関処理を実施し、受信した中継信号に含まれる同期信号に基づき、下りリンクのフレームタイミング(例えば、無線フレームの先頭の時刻情報、又は、同期信号を含む所定番号のスロットの先頭の時刻情報)と、同期信号の受信電力を検出する。
【0061】
また、中段の電力増幅部(電力増幅器)119は、HAPS基地局35から受信した同期信号(SS)の受信電力に基づいて、端末装置(UE)に送信する送信信号の電力を所定電力にするように中段の電力増幅部(電力増幅器)119の利得を制御する手段としての機能も有する。
【0062】
図9において、基地局情報は、中央制御サーバ50からHAPS基地局35の基地局装置350に設けられた基地局処理部352に配信される。HAPS基地局35の基地局処理部352は、例えば、ベースバンド処理部と無線通信部とを有し、スケジューラ部353により、内部クロック154のクロック信号を基準にして、送信対象のデータに基づいて所定の無線フレームで中継信号を生成し、垂直偏波アンテナ(第1直線偏波アンテナ)及び水平偏波アンテナ(第2直線偏波アンテナ)からなるFLアンテナ装置351を介して無線中継装置10に送信する。中継信号の無線フレームには同期信号(SS)が配置される。
【0063】
また、基地局処理部352は、無線中継装置10の中段の電力増幅部(電力増幅器)119の利得制御に使用可能な特定の既知信号としてのSS(同期信号)を無線中継装置10に送信する所定の時間スロットについて、FLアンテナ装置351の複数の直線偏波アンテナ(垂直偏波アンテナ、水平偏波アンテナ)に供給する複数の送信信号(中継信号)の間の位相差をFLアンテナ装置351から無線中継装置10に送信されるSS(同期信号)の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する。例えば、基地局処理部352は、SS(同期信号)が配置される所定の時間スロットについて、FLアンテナ装置351の複数の直線偏波アンテナ(垂直偏波アンテナ、水平偏波アンテナ)に供給する複数の送信信号(中継信号)の間の位相差が90度又は-90度になるように制御する。
【0064】
図9において、中央制御サーバ50は、中継信号のフィーダリンクとは別の通信回線(例えば、衛星通信回線、WiFi回線、他の移動通信回線など)を介して、外部回線送受信部(例えば、衛星通信モジュール、WiFiモジュール、他の移動通信モジュール)55及びアンテナ551から無線中継装置10に送信してもよい。無線中継装置10の中段の電力増幅部(電力増幅器)119は、中継信号のフィーダリンクとは別の通信回線(衛星通信回線、WiFi回線、他の移動通信回線など)を介して、アンテナ121及び外部回線送受信部(例えば、衛星通信モジュール、WiFiモジュール、他の移動通信モジュール)122で受信された中央制御サーバ50からの基地局情報(基地局パラメータ)を取得する。
【0065】
図10は、実施形態に係る通信システムにおけるHAPS基地局35及び無線中継装置10の下りリンクに対応する部分の他の構成例を示すブロック図である。なお、
図10において、前述の
図9の構成と同様な部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0066】
図10の構成例では、前述の位相制御を、基地局処理部352ではなく外付けの位相制御装置355で行っている。位相制御装置355は、無線中継装置10の中段の電力増幅部(電力増幅器)119の利得制御に使用可能な特定の既知信号としてのSS(同期信号)を無線中継装置10に送信する所定の時間スロットについて、FLアンテナ装置351の複数の直線偏波アンテナ(垂直偏波アンテナ、水平偏波アンテナ)に供給する複数の送信信号(中継信号)の間の位相差をFLアンテナ装置351から無線中継装置10に送信されるSS(同期信号)の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する。例えば、位相制御装置355は、SS(同期信号)が配置される所定の時間スロットについて、FLアンテナ装置351の複数の直線偏波アンテナ(垂直偏波アンテナ、水平偏波アンテナ)に供給する複数の送信信号(中継信号)の間の位相差が90度又は-90度になるように制御する。
【0067】
図11は、本実施形態に係る無線中継装置10における同期信号(SS)を用いたフレームタイミング及び同期信号の受信電力を検出するための同期方法の一例を示す説明図である。無線中継装置10は、フレームタイミングを検出するために、HAPS基地局35から受信する下りリンクの中継信号であるRF信号(無線信号)に含まれる同期信号(SS)を検出する方法を用いる。無線中継装置10はRF信号受信機構(無線インターフェースベースの同期装置)を備えており、任意のRF信号波形データを保持しておくことが可能である。無線中継装置10は、HAPS基地局35から送信されることが想定されている既知信号である同期信号のレプリカを保持し、受信したRF信号に対してレプリカ信号を用いて時間相関処理を行うことにより、その相関値のピーク位置を検出し、フレームタイミングを特定する。
【0068】
図11において、無線中継装置10は、HAPS基地局35の同期信号を受信して時間軸上でのスライディング相関処理を行っている。
図11において、無線中継装置10は、所定のタイミングでHAPS基地局35からの同期信号915を受信する。また、無線中継装置10は、同期信号のレプリカ系列916を生成する。このレプリカ系列916を、スライドさせながら同期信号915の受信信号と結合レプリカ系列916との間の相関値971を演算し、その相関値971のピーク971pを検出する。この相関値のピーク971pが検出された内部クロックの時刻をフレームタイミング(同期信号915の後端の時刻)Tsとして記憶する。その後、次の時間同期処理(フレームタイミング検出処理)を行うまでの各無線フレームの送信タイミング(各無線フレームの開始時刻)は、上記フレームタイミングTsを基準にして設定される。また、この相関値のピーク971pから同期信号915の受信電力推定値を算出する。このとき、相関値のピークから受信電力への算出においては、例えば所定のオフセット量を与える形で算出してもよい。
【0069】
以上、本実施形態によれば、HAPS基地局35が上空の無線中継装置(非再生中継局)10との間のフィーダリンクの無線通信に複数の直線偏波アンテナを用いる場合に、無線中継装置10の姿勢変化によるHAPS基地局35からの特定の既知信号(同期信号)の受信電力の変動を抑制し、その既知信号の受信電力に基づく無線中継装置10の電力増幅部(電力増幅器)の適切な利得制御が可能になる。
【0070】
また、本発明は、上空の無線中継装置(非再生中継局)10を用いた安定した高高度プラットフォーム局(HAPS)を構築できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0071】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに通信システム、移動通信システム、基地局、基地局装置、無線中継装置及び端末装置(ユーザ装置、移動局)の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0072】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、Node B、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0073】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0074】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0075】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0076】
10 :無線中継装置
10A(1),10A(2):大セル(セクタセル)
15 :飛行体
20A(1),20A(2) :地上セル
30 :HAPSコアネットワーク
35 :HAPS基地局
36 :外付けの位相制御装置
50 :中央制御サーバ
55 :外部回線送受信部
60 :端末装置(UE)
60(1),60(2): 端末装置(UE)
101 :SLアンテナ装置
102 :FLアンテナ装置
110 :電力増幅器
111 :デュプレクサ部
113 :フィルタ部
114 :周波数変換部
115 :フィルタ部
116 :デュプレクサ部
117 :内部クロック
119 :中段の電力増幅器
121 :アンテナ
350 :基地局装置
351 :FLアンテナ装置
352 :基地局処理部(位相制御を含む)
353 :スケジューラ部
355 :位相制御装置
【手続補正書】
【提出日】2023-03-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムであって、
前記基地局は、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備え、
前記無線中継装置は、前記基地局から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムであって、
前記基地局は、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備え、
前記無線中継装置は、前記基地局から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項3】
請求項1又は2の通信システムにおいて、
前記複数の直線偏波アンテナは、直線偏波面が互いに直交する第1直線偏波アンテナ及び第2直線偏波アンテナであり、
前記基地局処理部又は前記位相制御装置は、前記所定の時間スロットについて、前記第1直線偏波アンテナ及び前記第2直線偏波アンテナのそれぞれに供給する複数の送信信号の間の位相差が90度又は-90度になるように制御する、ことを特徴とする通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの通信システムにおいて、
前記無線中継装置は、前記基地局から受信した既知信号のタイミングを前記既知信号のレプリカとの相関処理によって検出し、前記既知信号のタイミングに基づいて前記既知信号の受信電力を測定し、前記既知信号の受信電力の測定結果に基づいて前記電力増幅器の利得制御を行う、ことを特徴とする通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの通信システムにおいて、
前記基地局は、ゲートウェイ局に設けられている、ことを特徴とする通信システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの通信システムにおいて、
前記無線中継装置は、上空に位置する浮揚体又は飛行体に搭載されている、ことを特徴とする通信システム。
【請求項7】
無線中継装置との間で無線通信する基地局であって、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備えることを特徴とする基地局。
【請求項8】
無線中継装置との間で無線通信する基地局であって、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備えることを特徴とする基地局。
【請求項9】
請求項7又は8の基地局において、
前記複数の直線偏波アンテナは、直線偏波面が互いに直交する第1直線偏波アンテナ及び第2直線偏波アンテナであり、
前記基地局処理部又は前記位相制御装置は、前記所定の時間スロットについて、前記第1直線偏波アンテナ及び前記第2直線偏波アンテナのそれぞれに供給する複数の送信信号の間の位相差が90度又は-90度になるように制御する、ことを特徴とする基地局。
【請求項10】
無線中継装置との間で無線通信する基地局の基地局装置と、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置との間に設けられ、
前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する、ことを特徴とする外付けの位相制御装置。
【請求項11】
基地局と無線中継装置との間で無線通信する方法であって、
前記基地局により、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御することと、
前記無線中継装置により、前記基地局から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように電力増幅器の利得を制御することと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
無線中継装置との間で無線通信する基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムであって、
前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御するためのプログラムコードを含む、ことを特徴とするプログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
従来、地上や海上等に配置された基地局から送信された無線信号を中継する無線中継装置において、無線中継装置のアンテナと基地局のアンテナとの間の伝搬路の損失を考慮し、基地局から送信された既知信号(例えば、同期信号又は参照信号)の受信電力に基づいて、無線中継装置が端末装置に送信する送信信号の電力を増幅する電力増幅器の利得を制御する機能(例えば自動利得制御(AGC)の機能)を有するシステムが知られている。特許文献1には、中継器(無線中継装置)のIF/RF受信機を通じて受信された受信信号のシンク信号(同期信号)の電力サイズを測定し、測定したシンク信号の電力サイズに基づいて中継器のカバレッジを一定に維持するための中継器の増幅器利得を算定し、算定された利得によって中継器の増幅器を制御する装置が開示されている。この装置によれば、中継器のカバレッジを柔軟に調節することができる、とされている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
上記無線中継装置がHAPS、ドローン、気球などの浮揚体又は飛行体のように上空に位置する場合、無線中継装置と基地局との間のフィーダリンクの伝搬路の損失が一定であっても、無線中継装置の回転や傾きなどの姿勢変化によって、電力増幅器の利得の調整に用いる既知信号の受信電力が変動し、無線中継装置の電力増幅器の利得を適切に制御することができないおそれがある。特に、フィーダリンクのアンテナがユーザデータの通信に有利であって内部損失の低減やサイズ及び重量の軽減を図ることができる複数の直線偏波アンテナ(例えば、垂直偏波アンテナと水平偏波アンテナ)を用いる場合は、上記既知信号の受信電力の変動が大きい。更に、既知信号の受信電力のみに基づいて電力増幅器の利得を制御することが難しい、という課題もある。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本発明の一態様に係る通信システムは、無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムである。この通信システムにおいて、前記基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備える。前記無線中継装置は、前記基地局から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の他の態様に係る通信システムは、無線中継装置と、前記無線中継装置との間で無線通信する基地局と、を備える通信システムである。この通信システムにおいて、前記基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備える。前記無線中継装置は、前記基地局から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように利得制御可能な電力増幅器を備える。
ここで、既知信号が含まれる所定の時間スロットに限らず、2つの直線偏波アンテナに送信される2つの基地局信号に対して固定的に位相差を与えてもよい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の更に他の態様に係る基地局は、無線中継装置との間で無線通信する基地局である。この基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する基地局処理部と、を備える。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の更に他の態様に係る基地局は、無線中継装置との間で無線通信する基地局である。この基地局は、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置と、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御する外付けの位相制御装置と、を備える。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明の更に他の態様に係る方法は、基地局と無線中継装置との間で無線通信する方法である。この方法は、前記基地局により、前記無線中継装置との間のフィーダリンクの通信を行うときに直線偏波面の角度が互いに異なる電波を送受信可能な複数の直線偏波アンテナを有するアンテナ装置を介して、前記無線中継装置の電力増幅器の利得制御に使用可能な特定の既知信号を前記無線中継装置に送信する所定の時間スロットについて、前記複数の直線偏波アンテナに供給する複数の送信信号の間の位相差を、前記アンテナ装置から前記無線中継装置に送信される前記既知信号の電波の合成偏波が円偏波又は楕円偏波になるように制御することと、前記無線中継装置により、前記基地局から受信した前記既知信号の受信電力に基づいて、端末装置に送信する送信信号の電力を所定電力にするように電力増幅器の利得を制御することと、を含む。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
前記無線中継装置は、前記基地局から受信した既知信号のタイミングを前記既知信号のレプリカとの相関処理によって検出し、前記既知信号のタイミングに基づいて前記既知信号の受信電力を測定し、前記既知信号の受信電力の測定結果に基づいて前記電力増幅器の利得制御を行ってもよい。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
前記基地局は、ゲートウェイ局に設けられてもよい。また、前記無線中継装置は、上空に位置する浮揚体又は飛行体に搭載されていてもよい。例えば、前記無線中継装置は、ドローン、気球、飛行船、HAPS又は人工衛星に搭載されてもよい。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
本発明によれば、基地局が無線中継装置との間のフィーダリンクの無線通信に複数の直線偏波アンテナを用いる場合に、無線中継装置の姿勢変化による基地局からの既知信号の受信電力の変動を抑制し、その既知信号の受信電力に基づく無線中継装置の電力増幅器の適切な利得制御が可能になる。