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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150047
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】深礎掘削機
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/84 20060101AFI20231005BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E02F3/84 A
E02F9/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058931
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 駿
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 稔
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA06
2D003AB03
2D003AB04
2D003AC08
2D003BA01
2D003BA02
2D003DA04
2D003FA02
2D015GA03
2D015HA03
(57)【要約】
【課題】掘削坑内でバケットを下降させて掘削面に着地させる際の運転操作を支援して、オペレータの負担を軽減できる深礎掘削機を提供する。
【解決手段】多段式伸縮アーム6の先端にバケット13を連結した深礎掘削機1において、伸縮アーム6を構成する基端アーム6aの下端に距離センサ21を設けて、掘削坑S内の掘削面Saまでの距離Lを検出する。この距離Lから、伸縮アーム6が最収縮状態のときの距離センサ21からバケット13の下端までの基準距離L0、及び伸縮アームの伸長量L1を減算し、バケット13の下面から掘削面Saまでの離間距離L3を算出する。伸縮アーム6の角度が鉛直方向を含む所定の角度領域α内にあり、且つ伸縮アーム6が伸長方向に駆動されている場合、掘削坑S内でバケット13が下降中であると見なし、離間距離L3をディスプレイ25及びスピーカ26でオペレータに報知する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に対して回動可能にブームを連結し、前記ブームの先端に、掘削坑内に挿入される多段式の伸縮アームを回動可能に連結し、前記伸縮アームの先端に、前記伸縮アームの伸長に伴って前記掘削坑内を下降して掘削面の土砂を掴む掘削バケットを連結してなる深礎掘削機において、
前記伸縮アームに設けられ、前記掘削面までの距離を検出する距離検出部と、
前記伸縮アームの伸長量を検出するアーム伸長量検出部と、
前記距離検出部により検出された距離と前記アーム伸長量検出部により検出されたアーム伸長量とに基づき、前記掘削バケットの下端から前記掘削面までの離間距離を算出する離間距離算出部と、
前記機体の運転室に設けられた報知部を駆動制御して、前記離間距離算出部により算出された離間距離に関する情報を報知させる距離報知制御部と、
を備えた深礎掘削機。
【請求項2】
前記伸縮アームの角度を検出するアーム角度検出部と、
前記アーム角度検出部により検出されたアーム角度が、予め鉛直方向を含んで設定された所定の角度領域内にあるときに報知許可の判定を下す報知許可判定部と、をさらに備え、
前記報知許可判定部により報知許可の判定が下されているときに、前記離間距離算出部が前記離間距離の算出処理を実行し、前記報知部が前記離間距離に関する情報の報知処理を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項3】
前記伸縮アームの伸長操作を検出するアーム伸長操作検出部をさらに備え、
前記報知許可判定部は、前記アーム角度が前記所定の角度領域内にあり、且つ前記アーム伸長操作検出部により前記伸縮アームの伸長操作が検出されているときに、前記報知許可の判定を下す
ことを特徴とする請求項2に記載の深礎掘削機。
【請求項4】
前記所定の角度領域を任意に設定可能な角度領域設定部をさらに備え、
前記報知許可判定部は、前記角度領域設定部により設定された角度領域に基づき、前記報知許可の判定処理を実行する
ことを特徴とする請求項2に記載の深礎掘削機。
【請求項5】
前記距離検出部は、前記多段式の伸縮アームを構成する最基端側のアームの先端に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項6】
前記距離検出部は、前記多段式の伸縮アームを構成する最基端側のアームに設けられ、
前記アーム伸長量検出部は、前記伸縮アームの最収縮状態からのアーム伸長量を検出し、
前記離間距離算出部は、前記伸縮アームの最収縮状態での前記距離検出部から前記掘削バケットの下端までの距離を予め基準距離として記憶し、前記距離検出部により検出された距離から前記アーム伸長量検出部により検出されたアーム伸長量と前記基準距離とを減算して前記離間距離を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項7】
前記多段式の伸縮アームは、油圧シリンダに駆動されて伸縮し、
前記アーム伸長量検出部及び前記アーム伸長操作検出部は、前記油圧シリンダに設けられたストロークセンサである
ことを特徴とする請求項3に記載の深礎掘削機。
【請求項8】
前記多段式の伸縮アームは、単一の油圧シリンダにロープを介して複数のアームをそれぞれ連結してなり、前記油圧シリンダのロッドの出没に応じて前記ロープを介して各アームが連動して駆動されることにより伸縮し、
前記掘削バケットが前記掘削面に着地する毎に、前記アーム伸長量検出部により検出されるアーム伸長量を着地時アーム伸長量として積算し、予め記憶されている前記着地時アーム伸長量の積算値と前記ロープの保守タイミングとの関係に基づき、前記積算値が前記保守タイミングに達したと判定すると、前記報知部に前記保守タイミングの至った旨を報知させるロープ保守報知制御部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項9】
前記離間距離算出部により算出された離間距離がステップ的に減少したときに、前記報知部により警報を発する警報制御部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項10】
前記報知部は、前記離間距離に関する情報として、前記離間距離を数字で表示するディスプレイである
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項11】
前記報知部は、前記離間距離に関する情報として、前記掘削バケットと前記掘削面との位置関係を模式的に表示するディスプレイである
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【請求項12】
前記報知部は、前記離間距離に関する情報として、前記離間距離を音で報知するスピーカである
ことを特徴とする請求項1に記載の深礎掘削機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深礎掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の深礎掘削機は、例えば地下鉄やビルの地下等を建設する都市土木において、掘削坑内でミニショベル等により掘削された土砂を地上に引き上げてトラック等に積み込む作業等を行う作業機械である。このような作業の実施のために深礎掘削機は、走行可能な下部走行体上に上部旋回体を旋回可能に連結し、上部旋回体の前部にブームを介して多段式の伸縮アームを連結し、その先端にクラムシェル型のバケットを装着してなる。作業に際して深礎掘削機は地上の掘削坑の周囲に配置され、伸縮アームを掘削坑内に侵入させて伸長操作によりバケットを下降させる。バケットが掘削坑の底部(以下、掘削面と称する)に到達して土砂を掴むと、伸縮アームの収縮操作によりバケットを上昇させて地上まで引き上げ、以上の作業を繰り返す。
【0003】
深礎掘削機の運転室には警報スイッチが設けられ、スイッチ操作に応じて掘削坑内に備えられた警報機が作動するようになっている。深礎掘削機のオペレータは、掘削坑内に伸縮アームを侵入させる際に予め警報スイッチを操作して警報機を作動させ、掘削坑内で作業中のミニショベル等のオペレータに注意を喚起してバケットとの衝突等を防止している。
【0004】
このような警報機の作動を自動化した技術として、特許文献1に記載のものが提案されている。当該技術では、伸縮アームが所定の作動状態にあることを条件として掘削坑内への侵入と見なし、自動的に警報機を作動させてオペレータの負担軽減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-115276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、深礎掘削機の伸縮アームを掘削坑内に侵入させてバケットを掘削面まで下降させる際に、オペレータは以下の手順で運転操作を行う。まず、伸縮アームを掘削坑内に侵入させ、バケットが掘削面上の所望の掘削地点に到達するようにブーム及び伸縮アームの角度を調整する。次いで、伸縮アームを伸長操作すると、掘削坑内でバケットが次第に下降して掘削面との間の距離を縮める。オペレータは距離を確認しつつ、バケットが掘削面に着地して食い込んだ時点で伸縮アームの伸長操作を中止し、バケットを閉じて土砂を掴む操作に移行する。
【0007】
伸縮アームの伸長操作を中止するタイミングは非常に重要であり、中止タイミングが遅過ぎる場合には、バケットが着地した後にも伸縮アームが伸長し続ける。このため、伸縮アームに過大な負荷が作用して破損したり、反力を受けて車体の安定性が損なわれたりする。逆に、中止タイミングが早過ぎる場合には、バケットが着地せずに追加の伸長操作が必要になったり、着地したとしても掘削面に食い込まずに十分な量の土砂をバケットで掴めなくなったりし、何れの場合も作業効率の低下につながる。
【0008】
ところが、地上に位置する深礎掘削機の運転室からでは掘削坑内を覗き込み難く、また掘削面までかなりの距離があることから、オペレータが掘削面を視認し難い。そこで、掘削坑内を覗き込み易くするために、例えば深礎掘削機の運転室全体を前方にスライド可能としたり、或いは運転室の床に窓を設けたりする対策が講じられている。また、運転室よりも掘削面に近い伸縮アームにカメラを設け、撮像された掘削面の画像を運転室内のディスプレイに表示する対策もある。
【0009】
しかしながら、何れの対策も掘削面を上方から目視或いは撮像した情報しか得られないため、掘削面との距離感を掴み難い点は解消できない。従って、伸縮アームの伸長操作中において、オペレータはバケットの着地に備えて掘削面までの距離に細心の注意を払い続ける必要が生じた。
【0010】
また、バケットの着地をセンサにより検出して、運転室内のブザーによりオペレータに報知する対策もある。しかしながら、ブザーで注意を喚起されたオペレータは伸縮アームの伸長操作を中止するものの、それ以前の伸長操作中に着地への細心の注意が要求される点は解消できない。勿論、このような不具合に着目していない特許文献1の技術では問題解決にならないため、従来からオペレータに対する何らかの運転支援の対策が要望されていた。
【0011】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、掘削坑内でバケットを下降させて掘削面に着地させる際の運転操作を支援でき、これによりオペレータの負担を軽減できると共に、バケットの下降のための伸縮アームの伸長操作を的確なタイミングで中止することができる深礎掘削機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の深礎掘削機は、機体に対して回動可能にブームを連結し、前記ブームの先端に、掘削坑内に挿入される多段式の伸縮アームを回動可能に連結し、前記伸縮アームの先端に、前記伸縮アームの伸長に伴って前記掘削坑内を下降して掘削面の土砂を掴む掘削バケットを連結してなる深礎掘削機において、前記伸縮アームに設けられ、前記掘削面までの距離を検出する距離検出部と、前記伸縮アームの伸長量を検出するアーム伸長量検出部と、前記距離検出部により検出された距離と前記アーム伸長量検出部により検出されたアーム伸長量とに基づき、前記掘削バケットの下端から前記掘削面までの離間距離を算出する離間距離算出部と、前記機体の運転室に設けられた報知部を駆動制御して、前記離間距離算出部により算出された離間距離に関する情報を報知させる距離報知制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の深礎掘削機によれば、掘削坑内でバケットを下降させて掘削面に着地させる際の運転操作を支援でき、これによりオペレータの負担を軽減できると共に、バケットの下降のための伸縮アームの伸長操作を的確なタイミングで中止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の深礎掘削機を示す側面図である。
図2】最収縮状態のときの伸縮アームを示す断面図である。
図3】第1及び第2油圧シリンダのストローク量に応じた伸縮アームの伸縮状態を示す断面図である。
図4】コントローラを示す制御ブロック図である。
図5】離間距離の算出過程を示す説明図である。
図6】コントローラが実行する離間距離報知ルーチンを示すフローチャートである。
図7】深礎掘削機による作業状態の一例を示す説明図である。
図8】掘削地点へのミニショベル等の接近に対応する警報制御部を追加した別例を示す制御ブロック図である。
図9】ロープ式の伸縮アームにおいてロープの保守タイミングを報知するロープ保守報知制御部を追加した別例を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した深礎掘削機の一実施形態を説明する。
まず、図1に基づき深礎掘削機の全体構成を説明する。なお以下の説明では、深礎掘削機に搭乗したオペレータを主体として前後、左右、上下方向を規定する。
【0016】
《深礎掘削機の全体構成》
深礎掘削機1の下部走行体2には左右一対のクローラ3が備えられ、クローラ3は図示しない走行用油圧モータにより駆動されて深礎掘削機1を走行させる。下部走行体2上には上部旋回体4(本発明「機体」に相当)が設けられ、上部旋回体4は図示しない旋回用油圧モータにより駆動されて旋回する。上部旋回体4上の前部には運転室4aが設けられ、運転室4aの後側には機械室4bが設けられ、その内部には、深礎掘削機の動力源である油圧パワーユニットが収容されている。詳細は説明しないが油圧パワーユニットは、エンジンにより駆動される油圧ポンプからの作動油を、オペレータの運転操作に応じて油圧回路により適宜切り換える機能を奏する。切り換えられた作動油は、上記した走行用及び旋回用油圧モータ、或いは後述する各種シリンダ7,8,14,16,17等に供給され、これにより深礎掘削機1が稼動する。
【0017】
また、上部旋回体4上の前部にはブーム5の基端が回動可能に連結され、ブーム5の先端には多段式の伸縮アーム6が回動可能に連結されている。ブーム5はブームシリンダ7に駆動されて前後及び上下方向に沿って回動し、伸縮アーム6はアームシリンダ8に駆動されて前後及び上下方向に沿って回動する。
【0018】
伸縮アーム6には、アーム角度センサ9(本発明の「アーム角度検出部」に相当)が設けられている。詳細は図示しないがアーム角度センサ9は、伸縮アーム6の左右何れかの側面に回動可能に軸支された重りと、重りに対する伸縮アーム6の相対角度を検出するセンサ本体とからなる。重りは自重により常に鉛直方向に向く姿勢に保たれているため、センサ本体により検出される相対角度は、鉛直方向を基準とした伸縮アーム6の角度を表すことになり、この角度がアーム角度として検出される。なお、以下に述べるように、作業中の伸縮アーム6は鉛直方向に沿った略直立の角度に調整されるため、この姿勢に倣って伸縮アーム6の先端側の部位を下端と表現する。
アーム角度の検出原理は、上記のものに限らず任意に変更可能である。例えば上記したアーム角度センサ9では重りとの相対角度を検出したが、例えば、これに代えて絶対角度を検出する角度センサを使用してもよい。
【0019】
詳細は後述するが、伸縮アーム6は、ブーム5の先端が連結された基端アーム6a(本発明の「最基端側のアーム」に相当)、基端アーム6a内から下方に向けて出没する中間アーム6b、中間アーム6b内から下方に向けて出没する先端アーム6cからなり、後述する駆動シリンダ16,17に駆動されて伸縮する。先端アーム6cの下端にはアーム側ブラケット10の上端が連結され、このアーム側ブラケット10の下端には、ピン11を介してバケット側ブラケット12の上端が回動可能に連結されている。バケット側ブラケット12の下端には、クラムシェル型のバケット13(本発明の「掘削ブラケット」に相当)が連結され、バケットシリンダ14により開閉される。ピン11によりバケット13の前後方向の回動が許容されているため、先端アーム6cの角度に関わらずバケット13は、自重により常に下方に向けて開口する姿勢に保たれている。
【0020】
《伸縮アーム6の詳細》
図2は、最収縮状態のときの伸縮アーム6を示す断面図、図3は、第1及び第2油圧シリンダのストローク量に応じた伸縮アーム6の伸縮状態を示す断面図であり、これらの図に基づき伸縮アーム6の構成を詳述する。
【0021】
図2に示すように、伸縮アーム6を構成する基端アーム6aの外側面の上下方向の中間箇所にはブラケット15が溶接され、このブラケット15にブーム5の先端及びアームシリンダ8のロッドの先端がそれぞれ連結されている。基端、中間及び先端アーム6a,6b,6cは、それぞれ断面四角の筒状をなして上下方向に延びている。伸縮アーム6の最収縮状態では、基端アーム6a内に中間アーム6bが下方から挿入配置され、中間アーム6b内に先端アーム6cが下方から挿入配置されている。
【0022】
基端アーム6a内で中間アーム6bは図示しないガイド機構により上下方向に案内されて出没し、中間アーム6b内で先端アーム6cは図示しないガイド機構により上下方向に案内されて出没するようになっている。中間アーム6b内には、油圧式の中間アーム駆動シリンダ16及び先端アーム駆動シリンダ17(本発明の「油圧シリンダ」に相当)が配設されている。中間アーム駆動シリンダ16のロッド16aは基端アーム6a内の上部に連結され、先端アーム駆動シリンダ17のロッド17aは先端アーム6c内の下部に連結されている。
【0023】
従って、図3(a)に示す伸縮アーム6の最収縮状態から中間アーム駆動シリンダ16が突出方向に駆動されると、図3(b)に示すように、基端アーム6a内から中間アーム6b(及び先端アーム6c)が下方に向けて突出し、結果として伸縮アーム6が伸長する。さらに先端アーム駆動シリンダ17が突出方向に駆動されると、図3(c)に示すように、中間アーム6b内から先端アーム6cが下方に向けて突出し、伸縮アーム6がさらに伸長して最伸長状態に切り換わる。また、最伸長状態から伸縮アーム6を収縮させて最収縮状態に切り換える場合は、上記とは逆に各駆動シリンダ16,17が駆動され、結果として伸縮アーム6の長さを任意に調整可能となっている。
【0024】
図2に示すように、中間アーム駆動シリンダ16及び先端アーム駆動シリンダ17にはストロークセンサ18,19(本発明の「アーム伸長量検出部」、「アーム伸長操作検出部」に相当)が設けられ、それぞれの駆動シリンダ16,17のストローク量(ロッド16a,17aの突出量)が検出される。中間アーム駆動シリンダ16のストローク量は、基端アーム6a内からの中間アーム6bの突出量に等しく、先端アーム駆動シリンダ17のストローク量は、中間アーム6b内からの先端アーム6cの突出量に等しい。従って、双方のシリンダストローク量の加算値は、最収縮状態からの伸縮アーム6の伸長量を意味する。
【0025】
また、基端アーム6aの下端(本発明の「アームの先端」に相当)の外側面には、ブラケット20を介して距離センサ21(本発明の「距離検出部」に相当)が下方に向いた姿勢で設けられている。伸縮アーム6が掘削坑S内に挿入されると距離センサ21が下方の掘削面Saと相対向するため、基端アーム6aの最下端から掘削面Saまでの距離Lが検出される。距離センサ21としては、光学式、電波式、超音波式等の周知の検出原理を利用したセンサを任意に用いることができる。
【0026】
なお本実施形態では、基端、中間及び先端アーム6a,6b,6cからなる3段式の伸縮アーム6として構成し、中間及び先端アーム6b,6cを個別に駆動シリンダ16,17により駆動したが、本発明はこれに限るものではなく、例えばアームの数を3段式から増減してもよい。また、駆動方式を変更して、単一の駆動シリンダにロープを介して中間及び先端アームをそれぞれ連結し、駆動シリンダのロッドの出没に応じてロープを介して各アームを連動して駆動するようにしてもよい。
【0027】
《コントローラの構成》
次いで、深礎掘削機1の動作を制御するコントローラ23の構成、特に掘削坑S内でバケット13を下降させる際のオペレータへの運転支援に関する構成について説明する。
図4の制御ブロック図は、この運転支援に関するコントローラ23の構成を抜粋して示している。コントローラ23は、報知許可判定部23a、離間距離算出部23b及び距離報知制御部23cを有する。
【0028】
コントローラ23の入力側には、上記したアーム角度センサ9、ストロークセンサ18,19及び距離センサ21が接続されると共に、運転室4a内に設けられた角度領域α設定部24(本発明の「角度領域設定部」に相当)が接続されている。また、コントローラ23の出力側には、運転室4a内に設けられたディスプレイ25及びスピーカ26が接続されている。
【0029】
コントローラ23の報知許可判定部23aは、オペレータへの報知を実行すべきか否かを判定する機能を奏する。以下に述べるように、バケット13の下降中にはオペレータへの運転支援として、バケット13の下端から掘削面Saまでの離間距離に関する情報を報知するのであるが、不要な状況での報知はかえって運転操作の妨げになる可能性がある。そこで、報知した離間距離に関する情報がオペレータの運転支援につながる状況に限り、報知を行う趣旨である。
【0030】
掘削坑S内でバケット13を昇降させる場合、オペレータは、深礎掘削機1の製造元から推奨されている鉛直方向を含む所定の角度領域(例えば±3°)内に伸縮アーム6の角度を保つように運転操作する。例えば伸縮アーム6は、仕様によっては最大で30m程度まで伸長するため、バケット13等の重量が曲げ方向に作用したときの破損防止のために、上記角度領域が設定されている。
【0031】
従って、伸縮アーム6の角度が所定の角度領域内にあり、且つ伸縮アーム6が伸長方向に駆動されているときには、掘削坑S内でバケット13が下降中であると見なせる。この状況において、上記離間距離に関する情報をオペレータに報知することは運転支援につながる。
【0032】
オペレータの運転操作の癖、或いは作業現場に応じて相違する掘削坑S内のスペース等の諸条件によっては、推奨されている角度領域よりも多少縮小または拡大した領域を想定して、オペレータが運転操作する場合もあり得る。そこで実施形態では、角度領域α設定部24によりオペレータ自身が角度領域αとして任意に設定可能としている。角度領域αは、鉛直方向を基準とした前後に等角度(例えば上記した±3°)に設定してもよいし、前後に偏った角度(例えば前に2°,後に4°)に設定してもよい。
【0033】
報知許可判定部23aは、アーム角度センサ9により検出された伸縮アーム6の角度が角度領域α内にあるか否かを判定すると共に、各ストロークセンサ18,19により検出された駆動シリンダ16,17のストローク量の変化方向に基づき、伸縮アーム6が伸長方向に操作されているか否かを判定する。何れの条件も満足する場合には、離間距離に関する情報をオペレータに報知すべきと判定し、離間距離算出部23bに報知許可を出力する。
【0034】
離間距離算出部23bは、報知許可判定部23aからの報知許可の入力を条件として、バケット13の下端から掘削面Saまでの離間距離L3を算出する機能を奏する。この算出処理の詳細については後述する。
【0035】
距離報知制御部23cは、ディスプレイ25及びスピーカ26を駆動制御して、離間距離算出部23bにより算出された離間距離L3に関する情報をオペレータに報知する機能を奏する。本実施形態では、離間距離L3を具体的な数字として報知しており、例えば距離報知制御部23cは、「あと3mで着地です」等のメッセージを示す画像及び音声を作成して、ディスプレイ25に画像を表示すると共に、スピーカ26から音声を出力する。
なお、離間距離L3の報知形態はこれに限るものではない。例えば、バケット13と掘削面Saとの位置関係を模式的に示す画像を作成して、ディスプレイ25に表示してもよい。また、スピーカ26から断続的な警告音を出力し、離間距離L3が縮小するに従って警告音の間隔を次第に狭めてオペレータの注意を喚起するようにしてもよい。
【0036】
《離間距離L3の算出手順》
次いで、離間距離算出部23bの算出処理について説明する。
まず、図5(a)に示すように、伸縮アーム6を最収縮状態としたときの基端アーム6aの下端からバケット13の下端までの距離が、予め離間距離算出部23bに基準距離L0として記憶されている。最収縮状態では、基端アーム6aの下端から中間アーム6bの下部が僅かに突出し、中間アーム6bの下端から先端アーム6cの下端が僅かに突出している。先端アーム6cの下端にはアーム側ブラケット10が連結され、その下端にピン11を介してバケット側ブラケット12が連結され、さらにバケット側ブラケット12の下端にバケット13が連結されている。これらの部位が上下方向に連なることで、基端アーム6aの下端(換言すると距離センサ21)からバケット13の下端までの基準距離L0が形成され、この基準距離L0は、最収縮状態では常に所定の値に保たれる。
【0037】
例えば図5(b)に示すように、中間アーム6bが突出すると、中間アーム6bの突出量に相当する距離L1(本発明の「アームの伸長量」に相当)だけバケット13が下降するため、基端アーム6aの下端からバケット13の下端までの距離L2は、基準距離L0に距離L1を加算した値まで増加する。中間アーム6bに加えて先端アーム6cが突出した場合も同様であり、先端アーム6cの突出量に相当する分だけ距離L1がさらに増加し、この値に基準距離L0を加算した距離L2も増加する。一方で、図5(c)に示すように、距離センサ21により検出された距離Lは、基端アーム6aの下端から掘削面Saまでの距離であるため、離間距離L3は、距離Lから距離L2を減算した値となる。
【0038】
従って、離間距離算出部23bは、報知許可判定部23aから報知許可が入力されると、まず、ストロークセンサ18,19により検出されているストローク量を伸縮アーム6の伸長量と見なし、ストローク量に基づき距離L1を算出する。詳しくは、中間アーム6bのみを突出させている場合には、中間アーム駆動シリンダ16のストローク量を距離L1とする。また、中間アーム6bに加えて先端アーム6cも突出させている場合には、中間アーム駆動シリンダ16及び先端アーム駆動シリンダ17の各ストローク量の加算値を距離L1とする。そして、次式(1),(2)に示すように、距離L1に基準距離L0を加算して距離L2を算出し、距離センサ21により検出されている距離Lから距離L2を減算して、離間距離L3を算出する。
L2=L0+L1 ……(1)
L3=L-L2 ……(2)
【0039】
《コントローラ23の制御内容及び実施形態の作用効果》
以上のように構成されたコントローラ23は、深礎掘削機1の稼動中に図6に示す離間距離報知ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず、この説明に先立って深礎掘削機1による作業の概要を述べる。例えば地下鉄やビルの地下等を建設する都市土木では、図7に示すように、掘削坑S内でミニショベルM等による掘削が実施され、掘削された土砂を地上に引き上げるために深礎掘削機1が使用される。深礎掘削機1は地上の掘削坑Sの周囲に配置され、オペレータは伸縮アーム6を掘削坑S内に侵入させて、バケット13が掘削面Sa上の所望の掘削地点に到達するようにブーム5及び伸縮アーム6の角度を調整する。
【0040】
伸縮アーム6は鉛直方向を含む所定角度内に保たれてオペレータの伸長操作に応じて下方に向けて伸長し、掘削坑S内でバケット13が下降する。バケット13が掘削面Saに着地して土砂に食い込むと、オペレータは伸長操作を中止してバケット13を閉じ操作して土砂を掴み、次いで収縮操作により伸縮アーム6を収縮させる。バケット13は上昇して地上まで引き上げられ、待機しているダンプDの荷台上にバケット13を移動させて開き操作により土砂を放土すると、1回分の掘削作業が完了し、以上の作業を繰り返す。
【0041】
深礎掘削機1の稼動中において、コントローラ23は、まず図6のステップS1でセンサ情報を読み込み、続くステップS2,3では、上記した報知許可判定部23aに相当する処理を実行する。即ち、ステップS2で、伸縮アーム6が伸長方向に操作中であるか否かを判定し、ステップS3で、伸縮アーム6の角度が角度α設定部24により設定された角度領域α内にあるか否かを判定する。例えば、伸縮アーム6を掘削坑S内に侵入させているものの、未だ伸長操作されていない状況では、ステップS2でNoの判定を下す。また、伸長操作されているものの、伸縮アーム6の角度が角度領域α内にない状況では、ステップS3でNoの判定を下す。また、角度領域α内にあるものの、土砂を掴んだバケット13を引き上げるべく伸縮アーム6が収縮操作されている状況では、ステップS2でNoの判定を下す。
【0042】
何れの場合もバケット13の着地に応じてオペレータが伸縮アーム6の伸長操作を中止する状況ではなく、必然的に着地に備えて掘削面Saまでの距離に注意を払う必要もない。このような場合、コントローラ23はステップS2,3を経て一旦ルーチンを終了するため、ディスプレイ25やスピーカ26による報知処理は実行されない。このときのオペレータはバケット13を着地させる以外の何らかの運転操作を行っているため、運転操作に参考にならないディスプレイ表示や音声ガイダンスが実行されると注意が削がれてしまうが、このような事態を未然に防止することができる。
【0043】
また、図2,3で共にYes(肯定)の判定を下したときには、ステップS4に移行し、上記した離間距離算出部23bに相当する処理を実行する。即ち、式(1),(2)に基づき、基準距離L0とシリンダストローク量から求めた距離L1とを加算して距離L2を算出し、距離センサ21により検出された距離Lから距離L2を減算して、離間距離L3を算出する。
【0044】
続くステップS5では、上記した距離報知制御部23cに相当する処理を実行する。即ち、離間距離算出部23bにより算出された離間距離L3に関する情報に基づき、画像及び音声を作成してディスプレイ25及びスピーカ26を利用してオペレータに報知し、その後にルーチンを終了する。
【0045】
以上のコントローラ23の処理が繰り返されることにより、オペレータは、伸縮アーム6の伸長操作の開始(バケット13の下降開始)から伸長操作の終了(バケット13の着地)までの間、刻々と変化する離間距離L3を常に把握することができる。この点を換言すると、バケット13が掘削面Saに着地するタイミングをオペレータがある程度予測できることを意味する。このためオペレータは、離間距離L3が十分に残っている状況では、それほど注意を払う必要がなくなり、離間距離L3=0になる直前に注意を集中することができる。
【0046】
特許文献1のような従来技術では、伸縮アーム6の伸長操作中において、オペレータがバケット13の着地に備えて常に掘削面Saまでの距離に注意を払う必要があった。これに比較して本実施形態によれば、オペレータがバケット13の着地の直前に注意を集中できるため、その負担を大幅に軽減することができる。
【0047】
そして、オペレータは離間距離L3に基づきバケット13が着地したと判断すると、伸縮アーム6の伸長操作を中止する。このため、ステップS2の判定がNoになり、ステップS4,5の処理が実行されなくなるため、離間距離L3に関する情報の報知処理が終了される。なお、バケット13が着地する以前にステップS2,3の何れかの条件を満足しなくなった場合には、元々バケット13の着地を目的としたオペレータの運転操作でなかったと見なせる。この場合にはステップS2,3の何れかでNoの判定が下されて、不要な報知処理が中止される。
【0048】
また本実施形態によれば、離間距離L3に基づき、オペレータは伸縮アーム6の伸長操作を的確なタイミングで中止できる。掘削面Sa上の十分な量の土砂をバケット13で掴むには、着地の際にバケット13を掘削面Saに食い込ませるべく、着地から僅かに遅延したタイミングで伸長操作を中止することが望ましい。このときの的確なタイミングは土砂の硬さ等の諸条件により異なるため、例えばオペレータは、掘削面Saへのバケット13の食い込み状態を目視にて確認して、次回の着地の際の伸長操作の中止タイミングを微調整している。着地の直前において離間距離L3を把握できることは、このような微調整を実施し易くすることにもつながり、ひいては、バケット13を掘削面Saに適切に食い込ませて十分な量の土砂を掴むことができるため、作業効率の向上に大きく貢献する。
【0049】
また、図6のステップS2,3の条件を満足した場合に限って報知処理を実行することによる効果は、不要な報知の防止だけではない。伸縮アーム6を伸長操作中のオペレータは、元々バケット13の着地に備えて掘削面Saまでの距離に注意を払っているはずであるが、何回も掘削作業を繰り返す間には、気が緩んで注意が疎かになる場合もあり得る。ディスプレイ25及びスピーカ26による報知が開始されるとオペレータの注意が喚起されるため、バケット13が下降して着地する直前には注意を集中させることができ、的確に伸長操作を中止できる。結果として、オペレータの注意力の低下を補うという別の効果も得られる。
【0050】
但し、報知許可を判定するステップS2,3の処理は必ずしも必要ではなく、例えばステップS2の処理を省略してもよい。この場合には、土砂を掴んだバケット13を引き上げるべく伸縮アーム6を収縮操作しているときにも、離間距離L3に関する情報が報知されるが、オペレータは自身の収縮操作を認識しているはずのため、報知により注意が削がれることはない。また、ステップS2,3の処理を共に省略してもよく、この場合であっても、離間距離L3の報知に基づくオペレータの負担軽減や伸長操作の的確な中止等の効果を達成することができる。
【0051】
また、ステップS2の判定処理に適用される角度領域αを、角度領域α設定部24によりオペレータが任意に設定可能としている。掘削坑S内でバケット13を昇降させる際の伸縮アーム6の角度領域は、深礎掘削機1の製造元から推奨されてはいるものの、オペレータの癖や掘削坑S内のスペース等の諸条件によっては、推奨された角度領域が遵守されない場合もあり得る。オペレータ自身が角度領域αとして設定することにより、報知を要する状況か否かをコントローラ23がより適切に判別でき、結果として不要な状況での報知を一層確実に防止できるという効果が得られる。
【0052】
但し、角度領域α設定部24を必ずしも備える必要はなく、これを省略してもよい。この場合には、例えば、深礎掘削機1の製造元から推奨されている角度領域に基づきステップS2の処理を実行すればよい。
【0053】
また、多段式の伸縮アーム6を構成する基端アーム6aに、距離センサ21を設けている。距離センサ21は、運転室4a内に設置されたコントローラ23に対してハーネスを介して接続されるため、例えば、中間アーム6bや先端アーム6c等に距離センサ21を設けた場合には、伸縮アーム6の伸縮に伴う距離センサ21の位置変位を吸収する何らかの対策をハーネスに施す必要が生じる。伸縮アーム6の伸縮に影響されない基端アーム6aに距離センサ21を設けることにより、ハーネスに関する対策が不要になる。また、中間アーム6bや先端アーム6cに比較して基端アーム6aは振動や揺れが少なく、且つ掘削面Saから離間している。このため、振動や揺れに起因する検出精度の低下、及び掘削面Saで生じる砂塵等に起因する距離センサ21の故障を未然に防止できるという効果も得られる。
【0054】
加えて、上下方向に延びる基端アーム6a上の何れの部位に距離センサ21を設けても、上記効果は達成できるが、本実施形態では、特に基端アーム6aの下端に距離センサ21を設けている。これにより距離センサ21が検出すべき距離Lが可能な限り短くなり、この点も検出精度の向上に寄与する。
【0055】
但し、本発明における距離センサ21の設置位置は、上記に限るものではない。中間アーム6bや先端アーム6cを含めた伸縮アーム6の何れかの部位に距離センサ21を設ければ、所期の距離Lの検出機能を達成できるため、その設置位置を基端アーム6aの下端から任意に変更してもよい。なお、距離センサ21を先端アーム6cに設けた場合には、離間距離L3が伸縮アーム6の伸長量の影響を受けなくなるため、距離L1=0として図6のステップS4の算出処理を実行すればよい。
【0056】
また、中間アーム6b及び先端アーム6cをそれぞれ駆動シリンダ16,17により駆動し、各駆動シリンダ16,17のストローク量をストロークセンサ18,19により検出している。そして、検出したストローク量を、離間距離算出部23bで伸縮アーム6の伸長量(=距離L1)の算出処理に利用する一方、報知許可判定部23aでは伸縮アーム6の伸長操作の判定処理に利用している。仮に双方の処理を異なる検出情報に基づき実行したとすると、新たにセンサを追加する必要が生じるが、検出情報を共通化することでセンサの数を減少でき、ひいては深礎掘削機1の製造コストを低減することができる。
【0057】
また、オペレータに報知される離間距離L3に関する情報は、伸長操作の中止タイミングの判断に利用できるだけでなく、掘削坑S内の状況を把握するためにも役立つ。即ち、掘削坑S内でのバケット13の下降中において、離間距離L3は掘削面Saへの接近に伴って連続的に減少するはずである。一方で、特許文献1等にも記載のように、深礎掘削機1のバケット13を掘削面Saまで下降させる際には、掘削坑S内で作業中のミニショベルMのオペレータ等に警報を発しているが、これを聞き逃して掘削地点に接近するミニショベルMもあり得る。このときの離間距離L3はミニショベルMの高さ相当だけステップ的に減少するため、深礎掘削機1のオペレータは、接近中のミニショベルMが存在することを離間距離L3の変化に基づき認識できる。従って、バケット13の下降中止或いは再度の警報等の対処を行って、バケット13とミニショベルMとの衝突を未然に防止でき、このような作業の安全面に関しても離間距離L3の報知を利用することができる。
【0058】
但し、このような離間距離L3の変化を深礎掘削機1のオペレータが見逃す可能性もある。そこで、例えば図8に示すように、コントローラ23に警報制御部23dを追加し、バケット13の下降中においてコントローラ23に離間距離L3の変化状況を監視させてもよい。
【0059】
詳しくは、警報制御部23dに、予め通常のバケット13の下降では発生し得ない離間距離L3の変化量を閾値として記憶させておく。離間距離算出部23bで算出された離間距離L3を警報制御部23dに入力し、バケット13の下降中において離間距離L3が閾値を超えてステップ的に減少すると、警報制御部23dがディスプレイ25やスピーカ26により警報を発してオペレータにバケット13の下降停止を促す。警報の内容は、ディスプレイ25の明滅やスピーカ26からの警告音等、どのような形態でもよい。これに代えて、接近中のミニショベルMのオペレータに対して再度の警報を発してもよし、或いは、バケット13の下降を強制停止させてもよい。何れの場合も、バケット13とミニショベルMとの衝突等のトラブルをより確実に防止できるという別の効果が得られる。
【0060】
一方、本実施形態の伸縮アーム6とは異なるが、上記したようなロープを利用した駆動方式の伸縮アーム6の場合には、ロープの定期的な点検や交換等の保守作業を要する。本実施形態において離間距離L3を算出する過程で得られる伸縮アーム6の突出量(距離L1)は、このような保守作業の実施タイミングを判断する指標として利用できる。
【0061】
即ち、掘削坑S内でバケット13が下降して着地した時点(離間距離=0の時点)の伸縮アーム6の伸長量(以下、着地時アーム伸長量と称する)は、掘削坑Sの深さ等の作業環境に応じて異なるものの、今回の掘削作業でのロープの駆動量、ひいてはロープの消耗量と相関する。このため新品のロープに交換した時点、或いは点検を実施した時点からの着地時アーム伸長量の積算値と、現在のロープの消耗量との間には相関関係が成立する。
【0062】
そこで、例えば図9に示すように、コントローラ23にロープ保守報知制御部23eを追加し、予め着地時アーム伸長量の積算値とロープの点検や交換タイミング(本発明の「保守タイミング」に相当)との関係を記憶させておく。バケット13が着地する毎に、離間距離算出部23bからロープ保守報知制御部23eに伸縮アーム6の伸長量(=距離L1)を入力し、着地時アーム伸長量として逐次積算する。この積算値が点検または交換タイミングに達すると、その旨をロープ保守報知制御部23eがディスプレイ25やスピーカ26で報知してロープの点検や交換を促す。これにより、適切なタイミングでロープに関する保守作業を実施することができる。
【0063】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、離間距離L3に関する情報をディスプレイ25及びスピーカ26でそれぞれ報知したが、何れか一方のみを利用して報知してもよい。
【0064】
また上記実施形態では、ストロークセンサ18,19により検出された駆動シリンダ16,17のストローク量に基づき、伸縮アーム6の伸長量及び伸縮方向を判定したが、これに限るものではない。例えば、伸縮アーム6を伸長させる際の操作装置に対するオペレータの操作状態に基づき、伸長量及び伸長方向を判定してもよい。また、ロープ式の伸縮アーム6の場合には、ロープの移動量に基づき、伸長量及び伸長方向を判定してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 深礎掘削機
4 上部旋回体(機体)
4a 運転室
5 ブーム
6 伸縮アーム
6a 基端アーム(最基端側のアーム)
9 アーム角度センサ(アーム角度検出部)
13 バケット(掘削バケット)
16 中間アーム駆動シリンダ(油圧シリンダ)
17 先端アーム駆動シリンダ(油圧シリンダ)
18,19 ストロークセンサ
18,19 ストロークセンサ(アーム伸長量検出部、アーム伸長操作検出部)
21 距離センサ(距離検出部)
23a 報知許可判定部
23b 離間距離算出部
23c 距離報知制御部
23d 警報制御部
23e ロープ保守報知制御部
24 角度領域α設定部(角度領域設定部)
25 ディスプレイ(報知部)
26 スピーカ(報知部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9