(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015007
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ナノシート、およびこのナノシートの製造方法、ならびにこのナノシートを含む負極用組成物、負極、およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
C01B 35/12 20060101AFI20230124BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230124BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230124BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230124BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230124BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230124BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20230124BHJP
【FI】
C01B35/12 C
H01M4/48
H01M4/1391
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/0566
H01M10/0525
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113524
(22)【出願日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】202121032436
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】522284133
【氏名又は名称】インディアン インスティテュート オブ テクノロジー ガンディナガール
【氏名又は名称原語表記】INDIAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY GANDHINAGAR
【住所又は居所原語表記】Palaj, Gandhinagar-382355, Gujarat, India
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】バーマ アカシュ キラン
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】バダム ラージャシェーカル
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス アシャ リザ
(72)【発明者】
【氏名】ジャスジャ カビール
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AL02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
5H029HJ15
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CB02
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA15
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】高い急速充放電適応性と高容量の維持が可能なリチウムイオン電池のためのナノシート、およびこのナノシートの製造方法、ならびにこのナノシートを含む負極用組成物、負極、およびリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】ナノシートは、Ti
xB
yO
zから構成される。Ti
xB
yO
zは、オキシ官能化されたホウ素とオキシ官能化されたチタンとから構成され、階層的構造を有する。ここで、xは0.1~0.9であり、yは0.1~1.8であり、zは0.1~0.9である。負極用組成物は、負極活物質と、導電添加剤と、バインダーとを含み、負極活物質はナノシートから構成される。負極活物質は55wt.%~75wt.%含む。導電添加剤は15wt.%~35wt.%含む。バインダーは1wt.%~10wt.%含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシ官能化されたホウ素とオキシ官能化されたチタンとを含み、階層的構造を有するTixByOzから構成される、ナノシート。
ここで、xは0.1~0.9であり、yは0.1~1.8であり、zは0.1~0.9である。
【請求項2】
請求項1に記載のナノシートから構成される負極活物質と、導電添加剤と、バインダーとを含む、負極用組成物。
【請求項3】
前記負極活物質を55wt.%~75wt.%含み、
前記導電添加剤を15wt.%~35wt.%含み、
前記バインダーを1wt.%~10wt.%含む、請求項2に記載の負極用組成物。
【請求項4】
前記導電添加剤は、アセチレンブラックを含む、請求項2に記載の負極用組成物。
【請求項5】
前記バインダーが、フッ化ポリビニリデン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴム、ポリ(アクリル酸)からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される、請求項2に記載の負極用組成物。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか1項に記載の負極用組成物から構成される、負極。
【請求項7】
正極と、請求項6に記載の負極と、電解液と、セパレータとを備え、
前記正極と前記負極は前記セパレータを介して配置され、
前記正極と、前記負極と、前記セパレータは、前記電解液に浸漬されている、リチウムイオン電池。
【請求項8】
二ホウ化チタンと酸化媒質と溶媒とを加えて懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を撹拌する撹拌工程と、
前記懸濁液を遠心分離して上澄み相を得る遠心分離工程と、
前記上澄み相を凍結分散させる第1の凍結工程と、
前記凍結分散させた前記上澄み相に圧力を加えて凍結乾燥させる第2の凍結工程と、を含むナノシートの製造方法。
【請求項9】
前記酸化媒質は、過酸化水素水、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される、請求項8に記載のナノシートの製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は水である、請求項8に記載のナノシートの製造方法。
【請求項11】
前記撹拌工程における前記懸濁液を撹拌するスピードは100rpm~300rpmであり、撹拌期間は20時間から30時間である、請求項8に記載のナノシートの製造方法。
【請求項12】
前記遠心分離工程における前記遠心分離の回転スピードは2500rpm~3500rpmであり、回転期間は20分から40分である、請求項8に記載のナノシートの製造方法。
【請求項13】
前記第1の凍結工程における前記凍結分散の温度は-20℃~-40℃であり、期間は20時間から30時間である、請求項8に記載のナノシートの製造方法。
【請求項14】
前記第2の凍結工程における前記凍結乾燥の温度は-20℃~-50℃であり、期間は70時間から80時間であり、
前記凍結乾燥する際に加える圧力は5mPa~20mPaである、請求項8に記載のナノシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超高率リチウムイオン電池のためのアノード材料に関し、特に、高い充放電速度(ultra high-rate)のリチウムイオン電池のためのアノード材料のようなエネルギー貯蔵デバイスで使われうる階層的なTixByOz(TBO)ナノシート、およびこのナノシートの製造方法、ならびにこのナノシートを含む負極用組成物、この負極用組成物から構成される負極、およびこの負極を備えるリチウムイオン電池に関する。
【0002】
定義
本開示で使用されている以下の用語は、使用される文脈で他のことを示す場合を除き、通常、下記のような意味を有する。
【0003】
階層的なナノ構造は、ナノスケールの一次構造(ナノ粒子またはナノロッドまたはナノチューブまたはナノシート)の3次元自己集合で構成されている。通常、階層的なナノ構造は、ゼロ次元(zero dimensional(0D))ナノ粒子と、1次元(one dimensional(1D))ナノワイヤまたはナノチューブと、2次元(two dimensional(2D))ナノシートとを含む。階層的なナノ構造は、ナノスケールまたは低次元のサブユニットから構成される統合された構造(integrated architecture)である。これらのサブユニットは特質上、秩序だった様式で配列される。また、階層的とは、複数のナノシートが積層された状態をいう。積層された状態は透過電子顕微鏡で観察されうる。また、TBOは、ホウ化チタン酸化物を意味する。
【0004】
ねじれ(tortuosity)は、ねじれている(又は多数回旋回している)という曲線の性質であり、多孔質媒体内で、拡散と流体の流れを記述するのに一般的に使用される。また、TixByOz(TBO)ナノシートは、チタンとホウ素とが酸素で架橋されているため、シート状ではない部分も存在する。また、アノード材料(anode material)は、二次電池、特にリチウムイオン電池における負極を構成する負極活物質を意味する。また、アクティブ・アノード材料(active anode material)も、負極活物質を意味する。また、アノードは、リチウムイオン電池における負極を意味する。
【背景技術】
【0005】
ここで、以下の背景技術の情報は、本開示に関するものであるが、必ずしも先行技術でというわけではない。
【0006】
充電式電池は、エネルギーの持続可能な貯蔵に適切な技術である。リチウムイオン電池(Li-Ion Batteries(LIBs))は、有名で、最も成功し、電気化学的エネルギーの貯蔵に充電式電池を使用して広く商業化された例である。典型的なLIBsは、アノードと、カソードと、電解液とを含む。LIBsのエネルギー密度と、電力密度と、サイクル寿命と、高速充電性能とを向上する研究が活発に行われている。いくつかのアノード材料が、これらの発展に向けて研究されているが、現時点では、グラファイトとリチウムチタン酸化物(lithium titanium oxide(LTO))の2つが商業的に成功したアノード材料である。まず、グラファイト・ベースのLIBアノード(リチウムイオン電池における負極)は広く商業化されている。例えば、特許文献1には、ケイ素粒子と、カーボンブラック粒子およびグラファイト粒子からなる炭素と、結合剤とから構成されるリチウムイオン電池用のケイ素-炭素複合アノードが開示されている。そのアノードは、全乾燥質量に対して、40~80質量%のケイ素粒子、10~45質量%の炭素、7.5~30質量%の結合剤を含む。この炭素は、全乾燥質量に対して、5~17.5質量%のカーボンブラック粒子と、5~30質量%のグラファイト粒子とから構成される。結合剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレン-ブタジエンゴム(SBR)との組み合わせからなり、CMCとSBRとの質量比が0.8:1~1:0.8である。しかし、グラファイト・ベースのLIBアノードは、急速充放電適応性(current rate capability)とサイクル性能が低いという問題がある。したがって、現在、LIBsの改善のために他のアノード材料が研究されている。
【0007】
2次元(2D)ナノ材料は、電気化学的エネルギーの貯蔵に大きな進展をもたらした。2Dナノ材料は、高表面積と、比容量が大きいことと、より良いサイクル安定性と、より高い急速充放電適応性を備え、これらが、2Dナノ材料から構成されるアノードの重要な長所となっている。また、2Dナノ材料が高表面積であり、それ自体が、インターカレーションにアクセスしやすいサイト(吸蔵しやすい場所)ということになる。さらに、2Dナノ材料の多数のライブラリ(large library)が存在し、望ましいインターフェースを達成するための、いくつかの選択を提供する。
【0008】
グラフェンは、LIBのアノードとして、高容量と長いサイクル寿命を有することが知られている。従来の2D-アノード材料として、グラフェンや、遷移金属炭化物/窒化物(transition metal carbides/nitrides(MXenes))や、遷移金属酸化物(transition metal oxides(TMOs))や、遷移金属カルコゲナイド(transition metal chalcogenides(TMDs))が知られている。他方、様々なナノ構造の材料が知られている中で、遷移金属二ホウ化物は、あまり探求されていない。ホウ素の存在は、LIBsの観点から、非常に有望である。いろいろなLiリッチな化合物の組成は、例えばLi2Bと、Li4Bと、Li5B10など、ホウ素と共に用いることが可能である。そのような特徴は、さらに、高い急速充放電適応性と高容量の維持が可能なアノード材料の開発のための余地が存在する。
【0009】
したがって、本開示は、高い急速充放電適応性と大容量の維持が可能なリチウムイオン電池のためのアノード材料を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここの少なくとも1つの実施例が満たす、本開示の目的のいくつかは、以下の通りである。
【0012】
本開示の目的は、先行技術の1以上の課題を改善すること、または少なくとも役に立つ代案を提供することである。
【0013】
本開示の他の目的は、階層的なナノシートを提供することである。
【0014】
本開示の他の目的は、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートを提供することである。
【0015】
本開示の更に他の目的は、電気化学のエネルギー貯蔵のための電極材料として使用されるTixByOz(TBO)の階層的なナノシートを提供することである。
【0016】
本開示のまた他の目的は、階層的なナノシートの製造のための簡単で経済的な方法を提供することである。
【0017】
本開示の更に他の目的は、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートの製造のための簡単で経済的な方法を提供することである。
【0018】
本開示のまた他の目的は、Li-ion電池、Li-S電池、Na-ion電池、スーパーキャパシタなどを含むハイパワーで長寿命のエネルギー貯蔵デバイスの電極として利用されうる階層的なTixByOz(TBO)ナノシートを提供することである。
【0019】
本開示の他の目的と利点は、本開示の範囲を限定することを意図しない以下の説明で、より明らかになるだろう。
【0020】
本開示は、ここで添付の図面の助けと共に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示に従った、階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートの準備およびLi-ionコイン型電池の製作方法の略図である。
【
図2】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本開示に従った、階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートの透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy(TEM))の画像を示し、(d)は、本開示に従った、ウール状のネットワークの高解像度透過型電子顕微鏡(High Resolution Transmission Electron Microscopy(HR-TEM))の画像を示す。
【
図3】バルクTiB
2パウダーと階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートのエックス線ディフラクトグラムを示し、バルクTiB
2パウダーにおいて各々の回折ピークに応じたミラー指数を示す。
【
図4】バルクTiB
2パウダーと階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートのフーリエ変換赤外分光法(Fourier transform infrared spectroscopy(FTIR))スペクトルを示す。
【
図5A】スキャンレート、0.1mV/sと、0.3mV/sと、0.5mV/sと、0.7mV/sと、1mV/sで、0.5-2.5Vの範囲の電圧を印加したときの、アノード材料として階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートを使用したアノード半電池のサイクリックボルタモグラム(cyclic voltammogram(CV))を示す。
【
図5B】スキャンレートv(mV/s)に対してプロットされた、脱リチウム化電流とリチウム化電流の両方のピーク電流i
p(mA)を示す。
【
図6】(a)は、種々の充放電速度(Ag
-1)での、サイクル数に対する放電容量(mAhg
-1)とクーロン効率(%)を示し、(b)は、充放電速度、0.5Ag
-1と、1Ag
-1と、2Ag
-1と、10Ag
-1で、1000サイクルに至るまでの充電/放電サイクルに対する放電容量を示す。
【
図7】(a)は、充放電速度、15Ag
-1と、20Ag
-1で、10,000サイクルに至るまでの充電/放電サイクルに対する放電容量(mAhg
-1)を示し、(b)は、充放電速度、5Ag
-1と、10Ag
-1と、15Ag
-1と、20Ag
-1で、1500サイクル後の、充電および放電時間(sec)と各々の放電容量に対する充放電速度(Ag
-1)を示す。
【
図8】(a)は、(1)真新しいアノード、(2)CV-1
stサイクル後のアノード、(3)充電/放電10,000サイクル後のアノードに対する、B 1s元素のディコンボリュ-トした(de-convoluted)エックス線光放射スペクトル(X-ray photoemission spectrum(XPS))を示し、(b)は、(1)真新しいアノード、(2)CV-1
stサイクル後のアノード、(3)充電/放電10,000サイクル後のアノードに対する、O 1s元素のピーク分解した(de-convoluted)XPSを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態は、本開示の範囲を当業者に十分かつ完全に伝えるためのものである。実施形態の完全な理解を提供するために、特定の構成要素と方法に関して多くの詳細な事項を説明するが、本開示の範囲をこれらに限定するものではない。また、実施形態において、周知のプロセスと、周知の装置構造と、周知の技術については、説明を省略する場合がある。
【0024】
本開示で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、そのような用語で、本開示の範囲を限定するものではない。本開示の方法とプロセスで開示されたステップは、必須のものではなく、追加または代わりのステップを用いても良く、順序も変更可能である。
【0025】
LIBs(リチウムイオン電池)の、エネルギー密度と、電力密度と、サイクル寿命と、急速充電性能とを向上させる研究が、発展している。複数のアノード材料が、これらの発展に向けて研究されている。電気化学的エネルギーの貯蔵技術において、2次元(2D)ナノ材料は、新しい枠組みを可能にし、LIBsのアクティブ・アノード材料に適用した場合、LIBsを高容量にできる。また、2D材料の多数のライブラリは、望ましいインターフェースを達成するための、いくつかの選択を提供する。しかし、高い急速充放電適応性と高容量の維持が可能なアノード材料の必要性は常にある。
【0026】
本開示では、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートを用いた超高率リチウムイオン電池のためのアノード材料と、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートの製造方法を提供する。
【0027】
本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、Li-ion電池のような、エネルギー貯蔵デバイスのアノード材料として使用可能である。
【0028】
実施形態において、本開示は、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートに関する。ここで、xは0.1~0.9であり、yは0.1~1.8であり、zは0.1~0.9である。好ましくは、xは0.8~0.9であり、yは1~1.8であり、zは0.1~0.9である。
【0029】
ナノシートは、オキシ官能化されたホウ素(B)とオキシ官能化されたチタン(Ti)とを含み、大きなシート状の構造を示すユニークな擬2D形態を有する。多価ホウ素の存在が、これらの擬2Dナノ構造に可逆的にイオンを保持したり、これらの擬2Dナノ構造から放出したりすることを可能とする。この例としては、Ti-B結合へのインターカレーション(吸蔵)やキャパシティブな相互作用が挙げられる。本開示のナノシートは、また、Li-ion電池を高容量化するために有望であり、Na-ionベースの電池においてエネルギー貯蔵を可能にするのに有望である。このNa-ionベースのエネルギー貯蔵は、Ti-B結合へのナトリウムのインターカレーション(吸蔵)によるものである。ここで、オキシ官能化とは、Ti-O-OH、B-OH、B-O-Bのように、酸素または水酸基がホウ素またはチタンと結合している状態をいう。Oは酸素、OHは水酸基を表す。また、ナノシートは、酸素を介してチタンとチタンが結合している部分、酸素を介してホウ素とホウ素が結合している部分、または、酸素を介してチタンとホウ素が結合している部分を含む。これらの部分は3D形態となっており、この3D形態を含むナノシートの形態を擬2D形態という。
【0030】
本開示は、更に、階層的なTixByOz(TBO)のナノシートを製造するためのプロセスを提供する。
【0031】
実施形態において、本開示は階層的なTixByOz(TBO)ナノシートの製造のためのプロセスを提供する。
パウダー形状を有するナノシートを得るプロセスを説明する。このプロセスは、以下の工程を含む。
所定量の二ホウ化チタン(TiB2)パウダーと、過酸化水素(H2O2)と過マンガン酸カリウム(KMnO4)と二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)などから選ばれた酸化媒質とを所定量の水の中で混ぜて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、
所定期間、所定撹拌スピードで懸濁液を撹拌する撹拌工程、
所定期間、所定回転スピードで懸濁液を遠心分離して上澄み相を含む二相性の混合物を得る遠心分離工程、
二相性の混合物から上澄み相を分離した後、上澄み相を所定期間、所定温度で凍らせて凍結分散させる第1の凍結工程、
凍結分散させた上澄み相を、第4の所定期間、第2の所定温度、所定圧力で、凍結分散させた上澄み相を凍結乾燥させる第2の凍結工程。
懸濁液調製工程において、加える酸化媒質は、2種以上の酸化媒質を含んでもよい。
ここで、凍結分散とは、上澄み相に溶解している酸化媒質が上澄み相中に分散している状態で、この上澄み相を凍結させることをいう。凍結乾燥とは、凍結分散状態にある上澄み相を凍結したままの状態で乾燥させることをいう。
【0032】
撹拌工程における懸濁液を撹拌する所定撹拌スピードは、100rpm~300rpmの範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定撹拌スピードは200rpmである。
【0033】
本開示に従って、撹拌工程における懸濁液を撹拌する期間は、20時間~30時間の範囲が望ましい。典型的な実施形態では、撹拌の期間は24時間である。
【0034】
遠心分離工程における遠心分離中の所定回転スピードは、2500rpm~3500rpmの範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定回転スピードは3000rpmである。
【0035】
遠心分離工程において遠心分離の所定期間は20分~40分の範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定期間は30分である。
【0036】
第1の凍結工程において上澄み相の凍結分散のための所定温度は、-20℃~-40℃の範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定温度は、-35℃である。
【0037】
本開示に従って、第1の凍結工程における上澄み相の凍結分散のための所定期間は、20時間~30時間の範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定期間は、24時間である。
【0038】
第2の凍結工程における凍結分散させた上澄み相を凍結乾燥するための所定温度は、-20℃~-50℃の範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定温度は、-40℃である。
【0039】
第2の凍結工程における凍結分散させた上澄み相を凍結乾燥するために凍結乾燥機で維持される所定圧力は、5mPa~20mPaの範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定圧力は10mPaである。
【0040】
本開示に従って、第2の凍結工程における凍結分散させた上澄み相を凍結乾燥するための所定期間は、70時間~80時間の範囲が望ましい。典型的な実施形態では、所定期間は、72時間である。
【0041】
本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、バルクTiB2パウダーと化学的に異なっている。これらのナノシートは、従来の2D材料とも異なる。更に、LIBsでは急速で長寿命のアノード・アプリケーションのためのナノ構造のTiB2は知られていない。ここで、急速とは、充電および放電が非常に速いことを意味し、超急速充放電能を意味する。階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、Li-ionコイン型電池のアノード材料(負極活物質)として、エネルギー貯蔵する上で有力な候補となり得る。したがって、超急速充放電能と、優れたサイクル安定性を証明するために、これらのLi-ionコイン型電池を作製して、極端な大電流(10Ag-1~20Ag-1)を通電して動作確認を行った。これらのLi-ionコイン型電池は、速い充放電速度の50Ag-1に至るまで動く能力を有する可能性がある。ここで、Ag-1は電流密度の単位であり、活物質のグラムあたりに流される電流の大きさを意味する。電流密度と充放電速度は、例えば、電流密度が大きくなると充放電速度(特に充電速度)が速くなるような相関関係を有する。
【0042】
ホウ素に加えて、これらの階層的なTixByOz(TBO)ナノシートのオキシ官能化されたチタンの存在は、LIBsのパフォーマンスを高める。階層的なTixByOz(TBO)ナノシートがアクティブ・アノード材料(負極活物質)として使用されたコイン型電池の電気化学的測定を行い評価した。ナノ構造のアノードは、充電速度と放電速度において最も速い結果になっていることが観測された。Li-ionコイン型電池は、15Ag-1の充放電速度において14s(秒)で充電され、20Ag-1の充放電速度において9s(秒)で充電される。Li-ionコイン型電池は、また、充電と放電の連続的な10,000サイクルの後でさえ、容量の80%を維持した。更に、これらの階層的なナノシートは、グラファイトとLTO(リチウムチタン酸化物)を含む上市されているLIBアノードのパフォーマンスより性能が優れている。本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、アクティブ・アノード材料(負極活物質)として機能することで、LIBsの高い充放電速度と、超急速充電/放電と、サイクル長寿命を実現することができる。これらの特徴から、本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、電気自動車や、大容量のコンデンサや、他の急速充電電気化学デバイスにおいて有望な材料となる。
【0043】
本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、負極活物質として使用される。さらに、負極の材料となる負極用組成物は、この負極活物質と、導電添加剤と、バインダーとから調製することができる。このような負極用組成物から構成される負極は、リチウムイオン電池の負極として利用することができる。このような負極を備えるリチウムイオン電池は、負極と正極と電解液とセパレータとを備える。例えば、正極と負極はセパレータを介して互いに対向するように配置され、正極と負極とセパレータは電解液に浸漬されている。
【0044】
本開示は、更に、以下の実験に照らして述べられる。実験は、例示であり、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。以下の実験は、工業的/商業的スケールまでスケールアップするように実験されても良く、得られた結果は、工業的スケールまで推定されても良い。
【0045】
実験の詳細
実験1:本開示に従った階層的なTixByOz(TBO)ナノシートの準備
25mg~50mgの二ホウ化チタン(TiB2)パウダー(シグマ・アルドリッチ、粒子径10μm~20μmの間)と、250μL~350μLの過酸化水素(H2O2)のような酸化媒質、または250μL~350μLの過マンガン酸カリウム(KMnO4)または二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)(Wako、30%(w/w))とを溶媒としての10mlの脱イオン(deionized(DI))水に加え、混ぜて懸濁液を得た。実験1では、過酸化水素水を使用した。溶液を得るために、懸濁液を20時間~30時間、200rpmで連続的に撹拌した。次に、上澄み相を含む二相性の混合物を得るために、溶液を20分間~40分間、2500rpm~3500rpmで遠心分離した。遠心分離後、上澄み相を、違う容器に集め、凍結分散を得るために、24時間、-35℃で冷やした。凍結分散を72時間、凍結乾燥し(EYELA FDU1200)、固体のパウダー形状のTBOナノシートを得た。凍結乾燥機内の温度と圧力を、それぞれ-40℃と10mPaに維持した。
【0046】
図2(a)、
図2(b)、
図2(c)は、階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートの擬2D(擬2次元)のTEM画像である。
図2(a)、
図2(b)、
図2(c)のTEM画像には、Ti
xB
yO
z(TBO)ナノシートの大きなシート状の形態が映っている。これらのTEM画像からTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートは階層的に数層重なっている。また、利用可能な大きな表面積を有するシート状の集合(assemblies)も見て取れる。大きなシート状の集合の存在は、多数のインターカレーション・サイト(ホスト・サイト)に容易にアクセス可能であるということを示唆する。大きなシート状の粗い形態と、ナノシートの表面の孔/溝の存在が、利用可能なレドックス・サイト(redox site)への電荷の効果的な移動を可能とする。
【0047】
図2(d)は、アクティブ・アノード材料の高解像度透過型電子顕微鏡(HR-TEM)の画像である。この図から、不規則な突起の存在により表面が粗面になっており、ウール状のネットワーク(「ナノ・カーペット」と名付けても良い)が存在することが見て取れる。他の2D材料と比較すると、上述の本開示のTBOナノシートは、擬2Dであって、溶解と再結晶のメカニズムにより形成された階層的なナノ構造を有している。イオンの通り道となるねじれの減少と、アクティブ・サイトの高密度化は、高速充電を可能とする要素である。おそらく、高速充電を可能としている要因は、Li-ionが移動するためのねじれが少ないこと(イオンの伝導パスが2次元的であること)と、階層的なナノシートによって提供される多くのレドックス・サイト(redox site)の存在による。
【0048】
最近の研究は、2D材料と比較して、非2D材料が、充放電速度のパフォーマンスで優れていることを報告している。2D材料は、その大きな横寸法(高アスペクト比)により、電荷が利用可能なレドックス・サイト(redox site)に着くために表面を横切って長距離を移動しなければならないためである。
【0049】
図3は、バルクTiB
2パウダーと階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートのエックス線回折(X-ray diffraction(XRD))スペクトルを示し、主なピークに、ホウ酸(H
3BO
3)と、ルチル形二酸化チタン(TiO
2)と、酸化ホウ素(B
2O
3)のような考えられる成分が割り当てられている。これらの成分は、バルクTiB
2パウダーにおけるH
2O
2の酸化作用によって形成される。
【0050】
図4は、バルクTiB
2と階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルを示す。
図4に示す吸収波長から、TBOナノシートが、水酸基(-O-H)と、B-Oと、B-Bと、水素化ホウ素(-B-H)と、Ti-O-Tiのような官能基グループを含むことが確認された。ここで、B-O、Ti-O-Tiのような官能基をオキシ官能基という。
【0051】
実験2:本開示に従った階層的なTixByOz(TBO)ナノシートを使用したLi-ionコイン型電池
本開示のTBOナノシートの特性分析の間、すべての電気化学的測定は、アノードと、電解液と、Li-箔とを含む、Li-ionコイン型電池で行われた。
【0052】
実験1では、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートをアクティブ・アノード材料として使用した。アノードは、アクティブ・アノード材料(負極活物質)と、導電添加剤と、バインダーのスラリーを用いて用意した。このスラリーは、スラリー組成物、または負極用組成物ともいう。スラリー組成物は、アクティブ・アノード材料としてTBO(55wt.%~75wt.%)と、導電添加剤としてアセチレンブラック(15wt.%~35wt.%)と、バインダーとしてフッ化ポリビニリデン(Polyvinylidene fluoride(PVDF))またはカルボキシメチルセルロース(Carboxymethyl cellulose(CMC))またはポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol(PVA))またはスチレンブタジエンゴム(Styrene-butadiene rubber(SBR))またはポリ(アクリル酸)(1wt.%~10wt.%)とを含む。バインダーは2種以上の樹脂を含んでもよい。N-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-Pyrrolidone(NMP))または水またはエタノールを分散媒として加え、スラリー組成物を得た。この得られたスラリー組成物を、ドクターブレードを用いて、銅箔/アルミニウム箔の表面に被膜した。銅箔/アルミニウム箔とドクターブレードとの間を100μm~150μm空けた。被膜された銅箔/アルミニウム箔は、NMPまたは水またはエタノールを取り除くために、真空オーブンで、10時間~15時間、80℃~100℃で乾燥させた。
【0053】
実験2で使用したバインダーはPVDFである。実験2で使用した分散媒は、NMPである。実験1と同じような方法で作製した被膜された銅箔または被膜されたアルミニウム箔は、被膜された面の均一性を確保するために、3回~4回、80℃~100℃のホット・ロール・プレス(60μm~100μmのロール間隔)に通した。CR-2025アノード半電池を、アルゴンで満たされたグローブ・ボックスの内部で作製した。モル濃度1M~2M(EC:DEC:DMC)のヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)またはへキサフルオロヒ酸リチウム一水和物(LiAsF6)または過塩素酸リチウム(LiClO4)またはテトラフルオロほう酸リチウム(LiBF4)またはリチウムトリフレート(LiCF3SO3)を、電解液として使用した。実験2で使用した電解液は、EC:DEC:DMC=1:1:1の割合で含む溶媒に1M(モル)~2M(モル)のLiAsF6を含む電解液をある。リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(LiTFSI))と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide(LiFSI))と、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Lithium bis(pentafluoroethanesulfonyl)imide(LiBETI))と、リチウムビス(オキサラート)ホウ酸(Lithium bis(oxalato)borate(LiBOB))とは、潜在的に適用可能な他のリチウム塩類である。この様な安定したアニオン構造を有したリチウム塩類を用いることで、電解液中でリチウムを解離させ易くする。更に、イオン性液体や、ポリ(エチレンオキシド)(poly (ethylene oxide)(PEO))や、様々な金属酸化物系と金属硫化物系を含む全固体電解質や、リチウムランタンジルコニウム酸化物(Lithium lanthanum zirconium oxide(LLZO)、Li7La3Zr2O12)は、リチウムイオン移動メトリクス(metrics)(または電解液)としても適用可能である。炭酸エチル(Ethyl carbonate(EC))、炭酸ジエチル(diethyl carbonate(DEC))、炭酸ジメチル(dimethyl carbonate(DMC))は、電解液の導電率を調節するのに用いられる有機添加物である。ポリプロピレンまたはポリエチレン(25μm~35μm)をセパレータとして使用し、Li箔を参照電極/カウンター電極として使用した。
【0054】
図1は、階層的なナノシートを用いたLi-ionコイン型電池の製作方法の概要を示す。
図1は、また、黒色のTiB
2パウダーと、酸化処理および凍結乾燥後に結果として生じるパウダー(階層的なナノシート)のデジタル画像を表す。ナノシート・パウダーは、淡い黄色がかった色で、ふわふわしている。ナノシート・パウダーは所定重量に対して大きな空間を占め、重量に対して、より広い表面積を有していることを示唆する。このアプローチの全収率は、50%~95%以上であった。酸化処理の結果、階層的なナノシートは、オキシ官能化されたホウ素と酸素を成分として有する。
【0055】
そのように得られた、本開示の電気化学的エネルギー貯蔵のためのアクティブ・アノード材料は、以下の研究によって特徴づけられる。
【0056】
表1は、LIBのアノードとして階層的なTixByOz(TBO)ナノシートと、上市されているアノード(グラファイトとLTO)の電気化学的パフォーマンスを示したものである。表1は、100サイクル後の、所定の充放電速度(単位重量(g)あたりの電流量(A))での放電時間(min)と放電容量(mAhg-1)とを示す。
【0057】
【0058】
表1に示すように、TBOナノシート・ベースのアノードは、放電時間と放電容量の両方の項目で、上市されているグラファイトとLTOのパフォーマンスをはるかに超えることが分かった。例えば、TBOナノシート・ベースのアノードは、ほぼ同じ放電容量(~160mAhg
-1~170mAhg
-1)で、LTOおよびグラファイト・ベースのアノードの充電/放電時間(60min)と比較して6倍速い充電/放電時間(10min)を有する。上市されているアノードは、高い充放電速度に対して詳しく調査されていない。一方、本開示では、複数の放電容量において、1分未満の充電/放電時間を可能とするために、5Ag
-1~20Ag
-1の高い充放電速度についても調査した。表4に示すように、15Ag
-1と20Ag
-1の充放電速度を用いることによって、電池が、各々14s(秒)(~60mAhg
-1)と9s(秒)(~50mAhg
-1)で充電されうることが分かった。更に、
図7(a)に示すように、10000サイクルの連続的なサイクルの後でも、電池は、放電容量の80%を維持していた。これらのことは、TBOベースのアノードの超速(ultra-fast、超急速充放電能)と優れた安定性という両方の特徴を示す。
【0059】
実験3:電気化学的研究
Li-ionコイン型電池のアノード材料としての階層的なTixByOz(TBO)ナノシートの電気化学的パフォーマンスを測定した。具体的には、サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry(CV))と、ガルバノスタットの充電/放電と、ロング・サイクルといった複数の電気化学的技術の観点から、電気化学的パフォーマンスを測定した。さらに、充電-貯蔵の機構について予備見識を得るためにX線光電子分光(X-ray photoemission spectroscopy(XPS))による測定を行った。
【0060】
これらの測定において、アノードの成分は実験2で提供されたものと同じものを使用した。つまり、アノードを構成するスラリー組成物は、TBO(55wt.%~75wt.%)と、アセチレンブラック(15wt.%~35wt.%)と、バインダーとしてフッ化ポリビニリデン(PVDF)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)またはポリビニルアルコール(PVA)またはスチレンブタジエンゴム(SBR)またはポリ(アクリル酸)(1wt.%~10wt.%)とを含む。
【0061】
サイクリックボルタンメトリー(CV)
サイクリックボルタンメトリー(CV)は、可逆的なインターカレーションと脱インターカレーションのイベントに見識を提供する。これらの可逆的なイベントは、アノード材料と共にLi-ionの酸化還元反応(レドックス反応)により発現する。
【0062】
図5Aと
図5Bとは、スキャンレート、0.1mV/sと、0.3mV/sと、0.5mV/sと、0.7mV/sと、1mV/sで上昇する印加電圧に対してプロットされた電流(mA)を示す。このCVプロファイルは、階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートが、Li-ionの可逆的なインターカレーション/脱インターカレーションのためのアクティブ・アノード材料として、実際に役立つということを裏付けるものである。更に、明確なレドックス・ピーク(redox peaks)のないCVプロファイル(平坦域)が、電位窓0.5-2.5Vにおいて、すべてのスキャンレートで観測された。これは、TBOの充電-貯蔵メカニズムが、電気二重層の形成によってエネルギーを貯蔵するメカニズムと似ていることを示す。
図5Aにおいて、上側に出ているピークは、アノードに吸蔵されたリチウム(Li)がリチウムイオン(Li
+)となる脱インターカレーション反応のピークであり、下側に出ているピークは、リチウムイオン(Li
+)が吸蔵されるインターカレーション反応のピークである。スキャンレートが速くなるとピークが高くなる。
図5Bにおいて、スキャンレートが高いと、電流密度が高くなるため、電流値が上がる。
【0063】
ガルバノスタットの充電/放電とロング・サイクル
充電/放電の速度の研究で製作されたアノード半電池を、充放電速度(Ag
-1)(アクティブ材料のグラムあたりに流される電流)を段階的に増加させつつ、一定回数、充電/放電サイクルを実行し、その後のクーロン効率(%)を求めた。クーロン効率(%)=(放電容量/充電容量)×100で計算されている。得られたデータを、サイクル数に対して、充放電速度と放電容量(mAhg
-1)とクーロン効率(%)とを対応付けてプロットしたものを
図6に示す。
【0064】
より詳細には、TBOナノシート・ベースのアノードの速度のプロットを示す。Li-ionコイン型電池に、0.025Ag
-1の充放電速度で、最初の充電/放電サイクルを実行し、その後、10Ag
-1の最高充放電速度まで段階的に充放電速度を増加した。最高充放電速度での充電/放電サイクルの実行後、アノード材料で起こっている変質の程度を知るために、充放電速度0.025Ag
-1での充電/放電サイクルを再び実行した。
図6(a)は、充放電速度について測定された放電容量と各々のクーロン効率(%)を、サイクル数に対してプロットしたものを示す。
図6(a)から、クーロン効率は、97%~100%の範囲にあることが観測された。それは、アノード材料へ、および、アノード材料から、Li-ionの可逆的なインターカレーション/脱インターカレーションが多く発生していることを示す。なお、サイクル数が55回目前後で放電容量が急激に上昇した理由は、充放電速度を10Ag
-1から0.025Ag
-1にしたため、電極とリチウムイオンとの反応が追従しやすくなったためである。
【0065】
表2は、様々な充放電速度(Ag-1)で達成された放電容量(mAhg-1)を示す。非常に高い充放電速度2Ag-1、5Ag-1、10Ag-1でさえ、放電容量が得られていることがわかる。このことは、Li-ionの可逆的貯蔵に対する、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートの優れたパフォーマンスを示す。このパフォーマンスからも、階層的なTixByOz(TBO)ナノシートが、そのような大きい電流において、超急速充電/放電作用を有することがわかる。表3に示すように、1Ag-1の充放電速度では、ちょうど10minの充電(または放電)時間で容量維持率86.7%であり、1000サイクル後の放電容量が117mAhg-1であることが観測された。
【0066】
表2は、0.025Ag-1から10Ag-1までの充放電速度に対する放電容量(mAhg-1)を示す。
【0067】
【0068】
図6(b)は、充放電速度0.5Ag
-1、1Ag
-1、2Ag
-1、10Ag
-1で充電/放電を1000サイクル繰り返す間の放電容量の値を示す。表3に、様々な充放電速度に対する100サイクル後と、1000サイクル後の、放電容量と容量維持率(%)を示す。表3から100サイクル後の容量維持率は、ほとんどの充放電速度で90%を超えることが分かった。更に、1000サイクル後の容量維持率は、充放電速度0.5Ag
-1、1Ag
-1、2Ag
-1において80%を超えており、充放電速度5Ag
-1、10Ag
-1において70%を超えることが分かった。
【0069】
表3は、各充放電速度に対する100サイクル終了後と1000サイクル終了後の放電容量と容量維持率(%)を示す。
【0070】
【0071】
10,000サイクルに至るロング・サイクルでの充電/放電時間について
図7(a)は、充放電速度15Ag
-1と、20Ag
-1での充電/放電の連続的な10,000サイクルでの、放電容量を示す。
図7(b)は、充放電速度5Ag
-1と、10Ag
-1と、15Ag
-1と、20Ag
-1における、充電/放電時間(秒)を示す。
図7(b)に示すように、Li-ionコイン型電池は、例えば、充放電速度15Ag
-1で14s(秒)、充放電速度20Ag
-1で9s(秒)という超速充電(または放電)を示した。充放電速度15Ag
-1と20Ag
-1で、各々、許容可能な放電容量~60mAhg
-1と~49mAhg
-1であった。また、連続10000サイクル後に容量維持率80%であった。
【0072】
表4は、広範囲の充放電速度0.5Ag
-1~20Ag
-1における放電容量の値を、充電/放電時間と共に示す。TBOナノシート・ベースのLIBアノードは、
図7及び表4に示すように、優れたサイクル安定性と、並外れた高速のパフォーマンス(充電/放電時間の減少)を有し、様々なエネルギー貯蔵アプリケーション材料の候補となり得る。
【0073】
なお、充電時間および放電時間は、充電および放電動作において一定である充放電速度に対して、ほぼ同じであった。測定は、負荷が変化しても常に一定の電流を流す充放電制御のもとで行った。
【0074】
【0075】
エックス線光放射分光法
数千の充電/放電サイクル以上で超急速の充電/放電と高い容量維持率を達成している要因として、TBOナノシートの化学成分が重要な役割を果たしていると考えられる。化学成分を分析するため、エックス線光放射分光法(XPS)による測定を行った。なお、XPSは、成分の元素組成と酸化状態を見極めるための重要な分析方法である。XPSから得られた情報は、Li-ionの可逆的なインターカレーションと脱インターカレーションの明白なメカニズムを理解するために重要な情報となり得る。
【0076】
図8(a)と
図8(b)は、真新しいアノードと、CV-1
stサイクルのために1回だけ充電/放電サイクルが実行されたアノードと、充電/放電10,000サイクル後のアノードに対する、元素(B 1sとO 1s)のスキャンの結果を示す。これらの結果から、真新しいアノードは、ホウ酸(H
3BO
3)と、酸化ホウ素(B
2O
3)と、二酸化チタン(TiO
2)のような化合物からなることが見極められた。更に、LiB
3O
5(三ホウ酸リチウム)は、充電中および放電中にLi-ionを可逆的に保つ1つの可能性のあるインターカレーション化合物であることが分かった。Li-ionインターカレーション化合物、三ホウ酸リチウム(LiB
3O
5)は、CV-1
stサイクル後のアノードと、10,000サイクルされたアノードの、B 1sスペクトルとO 1sスペクトルの両方で確認された。更に、メタホウ酸リチウム(LiBO
2)と(Li
2O)
0.5(B
2O
3)
0.5のようなLi-ion配位(co-ordination)化合物もまた、10,000サイクルされたアノードで観測された。ここで、CV-1
stサイクルとは、サイクリックボルタモグラム(cyclic voltammogram(CV))における酸化と還元の往復の掃引サイクルを繰り返す際の最初のサイクルをいう。
【0077】
本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートは、Li-ionの可逆的なインターカレーション/脱インターカレーションが可能であることが確認された。これらのLi-ionコイン型電池は、また、とても高い充放電速度において、超急速充電/放電(秒以内)と、高い容量維持率を示した。現時点では、そのような高い充放電速度と超急速のアノード材料は、例えば、電気自動車(EVs)と電動エレクトロニクスと大容量コンデンサ用の電池において需要がある。充電-貯蔵メカニズムへの予備的な見識は、ex-situの物理的、化学的、電気化学的特徴を用いても得られる。これらのナノシートは、超容量性(supercapacitive)のエネルギー貯蔵およびNa-ionベースのエネルギー貯蔵のための有望な材料となることを示唆する。
【0078】
本開示のTBOナノシートは、有利なテクノエコノミック(techno-economic)の構成物を有する。本開示のTBOナノシートは、その高いスケーラビリティ(scalability)と、低コストと、高い充放電速度のパフォーマンスと、優れた安定性を有することから、エネルギー貯蔵材料の分野において有望である。現在、ハイパワーな超容量性の材料(high-powered supercapacitive materials)は、高い注目を集めている。これらの階層的なナノ構造を有するTBOナノシートは、アクティブ超容量性材料(active supercapacitive material)としても有力な候補材料である。
【0079】
LIBsのパフォーマンスは、アクティブ電極(アノード)の材料として、本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートを用いることによって改良される。これらのLIBsの改良は、グラファイトとリチウムチタン酸化物(LTO)を含む商業的に利用可能なLIBアノード材料の報告されているパフォーマンスを著しく超える。例えば、表1に示したように、放電容量(160mAhg-1~170mAhg-1)において、本開示の階層的なTixByOz(TBO)ナノシートを用いたアクティブ・アノード材料は、上市されているLTOベースのアノード(~60min)とグラファイト・ベースのアノード(60min)の充電時間と比較して、LIBsを6倍速く(~10min)充電することができた。これらのLIBsは、数千サイクル後であっても、容量の著しい損失もなく、高い充放電速度(表1や表4に示した1Ag-1~20Ag-1において)で、数秒以内の超急速充電を達成することができる。
【0080】
また、
図2(d)に示すような本開示の階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートは、従来の2D材料と異ならしめるウールのような形態も有する。即ち、本開示の階層的なTi
xB
yO
z(TBO)ナノシートは、シート状やウールのような形態を有することから、従来の2D材料と比べて、表面積が大きい。これらによって提供されるインターフェースと特性は、化学的に機能を持たせることによって(例えば、硫黄(S)とシリコン(Si)とゲルマニウム(Ge)等のような種類を取り入れることによって)、簡単に修正することが可能となる。そのような機能化が、そのエネルギー密度を含むLIBsのパフォーマンスを更に向上させることを可能とする。
【0081】
実施例を含む先の記述は、説明の目的で提供されており、本開示の範囲を限定することを意図しない。特定の実施例の個々の構成要素は、通常、その特定の実施例に限定されておらず、交換可能である。そのようなバリエーションは本開示からの離脱と考えられるべきではなく、すべてのそのような変更は本開示の範囲内であると考えられる。
【0082】
技術的な向上
ここで上述された本開示には、電気化学的エネルギー貯蔵のためのオキシ官能化されたTiB2のナノシートを含むが、これに限らない。いくつかの技術的な利点を有する。
階層的なTixByOz(TBO)ナノシートから作られた電極を少なくとも1つ提供する。
最適なエネルギー密度(または放電容量)を提供する。
充電・貯蔵容量と、移動特性と、アノードの電気化学的反応論とを改善することを意図し、
Li-ion電池を含むエネルギー貯蔵デバイスの電力密度とサイクル寿命(安定性)を改善することを意図し、
スーパーコンデンサ・アプリケーションと、Li-S電池と、Na-ion電池と、Metal-ion電池などに有望な構成物を提供する擬似容量性(pseudo-capacitive)の充電貯蔵メカニズムを提供する。
さらに、TixByOz(TBO)ナノシートの作製にあたり、環境にやさしいスケーラブル(scalable)な方法を提供し、安価な試薬で合成することを可能とする。
【0083】
「少なくとも」または「少なくとも1つ」という表現の使用は、1以上の要素または成分または分量の使用を示唆する。この表現は、1以上の望ましい目的または結果を成し遂げるための発明の実施形態の中で使用されても良い。発明の特定の実施形態が記述されるが、これらの実施形態は例示であり、発明の範囲を限定することを意図しない。当業者が本発明の開示を見直すと、本発明の範囲内の変形または修正が、即座に、当業者の心に浮かぶかもしれない。そのような変形または修正も、この発明の精神の範囲内でよい。
【0084】
様々な物理的パラメータと、寸法と、量に与えられた数値は単なる近似値で、明細書に反する記述がない限り、物理的パラメータと、寸法と、量に割り当てられる数値より高い値が発明の範囲内であると把握される。
【0085】
好ましい実施形態の特定の特徴に関して、かなりの強調がここになされる一方、多くの追加機能が加えられても良く、好ましい実施形態で、多くの変形が、開示の原則を逸脱しない範囲でなされても良いということは理解されるだろう。本開示の好ましい実施形態のこれらと他の変形は、この開示から当業者にとって明らかだろう。前述の説明的な事項が、限定としてではなく単に開示の実例であると解釈されるべきであると明確に理解されるべきである。
【0086】
(付記)
(付記1)
オキシ官能化されたホウ素とオキシ官能化されたチタンとを含み、階層的構造を有するTixByOzから構成される、ナノシート。
ここで、xは0.1~0.9であり、yは0.1~1.8であり、zは0.1~0.9である。
【0087】
(付記2)
付記1に記載のナノシートから構成される負極活物質と、導電添加剤と、バインダーとを含む、負極用組成物。
【0088】
(付記3)
前記負極活物質を55wt.%~75wt.%含み、
前記導電添加剤を15wt.%~35wt.%含み、
前記バインダーを1wt.%~10wt.%含む、付記2に記載の負極用組成物。
【0089】
(付記4)
前記導電添加剤は、アセチレンブラックを含む、付記2に記載の負極用組成物。
【0090】
(付記5)
前記バインダーが、フッ化ポリビニリデン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴム、ポリ(アクリル酸)からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される、付記2に記載の負極用組成物。
【0091】
(付記6)
付記2から5のいずれか1つに記載の負極用組成物から構成される、負極。
【0092】
(付記7)
正極と、付記6に記載の負極と、電解液と、セパレータとを備え、
前記正極と前記負極は前記セパレータを介して配置され、
前記正極と、前記負極と、前記セパレータは、前記電解液に浸漬されている、リチウムイオン電池。
【0093】
(付記8)
二ホウ化チタンと酸化媒質と溶媒とを加えて懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を撹拌する撹拌工程と、
前記懸濁液を遠心分離して上澄み相を得る遠心分離工程と、
前記上澄み相を凍結分散させる第1の凍結工程と、
前記凍結分散させた前記上澄み相に圧力を加えて凍結乾燥させる第2の凍結工程と、を含むナノシートの製造方法。
【0094】
(付記9)
前記酸化媒質は、過酸化水素水、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される、付記8に記載のナノシートの製造方法。
【0095】
(付記10)
前記溶媒は水である、付記8に記載のナノシートの製造方法。
【0096】
(付記11)
前記撹拌工程における前記懸濁液を撹拌するスピードは100rpm~300rpmであり、撹拌期間は20時間から30時間である、付記8に記載のナノシートの製造方法。
【0097】
(付記12)
前記遠心分離工程における前記遠心分離の回転スピードは2500rpm~3500rpmであり、回転期間は20分から40分である、付記8に記載のナノシートの製造方法。
【0098】
(付記13)
前記第1の凍結工程における前記凍結分散の温度は-20℃~-40℃であり、期間は20時間から30時間である、付記8に記載のナノシートの製造方法。
【0099】
(付記14)
前記第2の凍結工程における前記凍結乾燥の温度は-20℃~-50℃であり、期間は70時間から80時間であり、
前記凍結乾燥する際に加える圧力は5mPa~20mPaである、付記8に記載のナノシートの製造方法。