(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150072
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】スタビライザの製造方法および母材
(51)【国際特許分類】
B21J 9/04 20060101AFI20231005BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20231005BHJP
B21K 7/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B21J9/04
B21J5/02 Z
B21K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058972
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 省吾
(72)【発明者】
【氏名】若林 豊
(72)【発明者】
【氏名】古賀 拓郎
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA09
4E087CA12
4E087CA17
4E087CB02
4E087CC02
4E087DB02
4E087DB24
4E087EA11
4E087EC27
4E087HA82
(57)【要約】
【課題】穿孔によって貫通孔を形成させる穿孔部材の耐久性を向上させることができるスタビライザの製造方法および母材を提供すること。
【解決手段】本発明に係るスタビライザの製造方法は、母材に対して鍛造処理を施して、両端部に貫通孔が形成されるスタビライザを作製するスタビライザの製造方法であって、母材の端部の、スタビライザにおける貫通孔に対応する貫通孔形成位置に凹部を形成する凹部形成ステップと、凹部を含む貫通孔形成位置を穿孔して貫通孔を形成する貫通孔形成ステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に対して鍛造処理を施して、両端部に貫通孔が形成されるスタビライザを作製するスタビライザの製造方法であって、
前記母材の端部の、前記スタビライザにおける前記貫通孔に対応する貫通孔形成位置に凹部を形成する凹部形成ステップと、
前記凹部を含む前記貫通孔形成位置を穿孔して貫通孔を形成する貫通孔形成ステップと、
を含むことを特徴とするスタビライザの製造方法。
【請求項2】
前記凹部形成ステップは、前記母材の端部を平板化しつつ、前記凹部を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスタビライザの製造方法。
【請求項3】
前記母材の端部を加熱する加熱ステップ、
をさらに含み、
前記凹部形成ステップは、前記加熱ステップによって加熱された端部に対して前記凹部を形成する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のスタビライザの製造方法。
【請求項4】
前記貫通孔形成ステップによって形成された前記貫通孔を含む領域のバリ除去を行うバリ除去ステップ、
をさらに含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のスタビライザの製造方法。
【請求項5】
鍛造処理によって両端部に貫通孔が形成されるスタビライザを作製するための母材であって、
当該母材の端部の、前記スタビライザにおける前記貫通孔に対応する貫通孔形成位置に形成される凹部、
を備えることを特徴とする母材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタビライザの製造方法および母材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられるスタビライザは、車両に取り付けられて、該車両の姿勢を安定させる。スタビライザは、例えば中実または中空の棒状部材を変形させて形成される(例えば、特許文献1を参照)。スタビライザは、両端部が車両と接続し、その接続部分は、平面状をなしている。スタビライザの端部は、棒状部材を潰して平板化させた後、ボルト等の締結部材が挿通される貫通孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スタビライザの端部における貫通孔は、穿孔部材によって端部を打ち抜くことによって形成される。この際、打ち抜き時に母材から穿孔部材に加わる荷重によって穿孔部材が摩耗する。穿孔部材の使用回数を向上させるため、穿孔部材の耐久性を向上させることが求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、穿孔によって貫通孔を形成させる穿孔部材の耐久性を向上させることができるスタビライザの製造方法および母材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るスタビライザの製造方法は、母材に対して鍛造処理を施して、両端部に貫通孔が形成されるスタビライザを作製するスタビライザの製造方法であって、前記母材の端部の、前記スタビライザにおける前記貫通孔に対応する貫通孔形成位置に凹部を形成する凹部形成ステップと、前記凹部を含む前記貫通孔形成位置を穿孔して貫通孔を形成する貫通孔形成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るスタビライザの製造方法は、上記発明において、前記凹部形成ステップは、前記母材の端部を平板化しつつ、前記凹部を形成する、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るスタビライザの製造方法は、上記発明において、前記母材の端部を加熱する加熱ステップ、をさらに含み、前記凹部形成ステップは、前記加熱ステップによって加熱された端部に対して前記凸部を形成する、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るスタビライザの製造方法は、上記発明において、前記貫通孔形成ステップによって形成された前記貫通孔を含む領域のバリ除去を行うバリ除去ステップ、をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る母材は、鍛造処理によって両端部に貫通孔が形成されるスタビライザを作製するための母材であって、当該母材の端部の、前記スタビライザにおける前記貫通孔に対応する貫通孔形成位置に形成される凹部、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穿孔によって貫通孔を形成させる穿孔部材の耐久性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態において製造されるスタビライザの構成の一例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すスタビライザを作製する製造方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すスタビライザを作製するための母材であって、鍛造処理前の母材を示す図である。
【
図4】
図4は、鍛造処理前の母材の端部の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、凹部の有無による、穿孔部材における貫通孔形成時の荷重の変化について説明するための図である。
【
図7】
図7は、中実の母材を用いた場合の、凹部の有無による、穿孔部材における貫通孔形成時の荷重の変化について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0014】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態において製造されるスタビライザの構成の一例を示す側面図である。
図1に示すスタビライザ1は、金属や、各種繊維強化樹脂(例えばGFRP)によって形成される。スタビライザ1は、両端が屈曲し、中央部が直線状に延びる本体部2と、本体部2の一端に設けられる第1端部3と、本体部2の他端に設けられる第2端部4とを有する。
【0015】
本体部2は、柱状、例えば円柱状をなして延びる。本体部2は、中空である例について説明するが、中実であってもよい。
【0016】
第1端部3は、平板状をなす。第1端部3には、板厚方向に貫通する貫通孔31が形成される。
第2端部4は、平板状をなす。第2端部4には、板厚方向に貫通する貫通孔41が形成される。
例えばスタビライザ1が自動車に設けられる場合、第1端部3は左右に配置されるサスペンションのうちの一方のサスペンションに接続し、第2端部4は他方のサスペンションに接続する。この際、各端部は、ボルト等の締結部材が貫通孔に挿通されてサスペンションに固定される。
【0017】
続いて、スタビライザ1の製造方法について、
図2~
図5を参照して説明する。
図2は、
図1に示すスタビライザを作製する製造方法を説明するための図である。スタビライザ1は、母材に対して鍛造加工を施すことによって作製される。
【0018】
母材10は、筒状の部材の両端を屈曲させることによって形成され、本体部11、第1端部12および第2端部13を有する。まず、この母材10の第1端部12および第2端部13を加熱する(
図2の(a)参照:加熱ステップ)。加熱処理では、例えば加熱コイル110を用いて、各端部を加熱する。
【0019】
母材10の両端部を加熱後、各端部をプレスする(
図2の(b)参照:平板化ステップ)。例えば、
図2の(b)に示すように、母材10の端部(
図2では第1端部12)が保持部材120aに保持され、この保持部材120aに載置された端部を押圧部材120bによって押圧することによって、端部を潰して平板化する(
図2の(c)参照)。この際、押圧部材120bには、母材10の貫通孔形成位置に対応する位置に、凸部120cが形成される。このため、平板化によって、母材10の端部には、凸部120cの形状に対応する凹部が形成される(凹部形成ステップ)。本実施の形態では、平板化ステップおよび凹部形成ステップが同時に実施される。
【0020】
第1端部12および第2端部13形成後、切削加工処理を実施する(
図2の(d)参照)。切削加工処理では、第1端部12および第2端部13に対して貫通孔形成処理(貫通孔形成ステップ)およびトリム加工(トリム加工ステップ)を施す。
図2の(d)では、第1端部12の加工例について示しているが、第2端部13についても同様である。
【0021】
貫通孔は、穿孔部材130aを用いた第1端部12への穿孔によって形成される。この際、第1端部12は、支持部材130bに載置され、ストリッパ130cによって支持部材130b側に押さえ付けられる。支持部材130bおよびストリッパ130cは、穿孔部材130aの先端が挿通可能な中空部を有する。穿孔部材130aを、ストリッパ130cを貫通させて、凹部12aを含む第1端部12の貫通孔形成位置を打ち抜くことによって第1端部12に貫通孔(
図2の(e)に示す貫通孔12b)を形成する。
【0022】
図3は、
図1に示すスタビライザを作製するための母材であって、鍛造処理前の母材を示す図である。
図4は、鍛造前の母材の端部の構成を示す図である。
図5は、
図4に示すA-A線断面図である。
図3および
図4に示す母材10は、両端が屈曲してなる本体部11と、本体部11の一端に設けられる第1端部12と、本体部11の他端に設けられる第2端部13とを有する。また、第1端部12および第2端部13には、凹部12a、13aがそれぞれ形成される。
【0023】
例えば、凹部12aは、円錐状の内部空間を形成した穴形状をなす。凹部12aは、貫通孔形成位置を含む領域に設定される。凹部12aの形成範囲、例えば、第1端部12の表面における開口の幅W1を直径とする領域は、第1端部12(第1端部3)において、締結部材が配設される領域に応じて設定される。この際、凹部12aは、穿孔部材130aの中心軸が、円錐の頂点を通過する位置に形成されることが好ましい。また、幅W1は、穿孔部材130aの径R1(すなわち貫通孔12bの径)に対して70%以上100%未満の範囲に設定される。また、凹部の深さD1は、第1端部12の厚さH1に対して10%以上80%以下の範囲に設定される。幅W1および径R1を上記の範囲に設定することによって、穿孔部材130aへの荷重を確実に低減することができる。本実施の形態において、凹部12aが円錐状の空間を形成するものとして説明するが、錐台状をなす空間等、他の凹形状をなすものであってもよい。
なお、凹部13aについても同様である。
【0024】
図2に戻り、トリム加工は、トリム刃130dを用いて、第1端部12の外形を形成する(
図2の(d)参照)。トリム加工では、トリム刃130dを用いて、例えば
図4に示すように、第1端部12の加工線L
Cに沿って切除することによって、第1端部3の外形を形成する。
なお、貫通孔形成およびトリム加工の施工順は、どちらを先に行ってもよい。
【0025】
切削加工処理後、成形部材140aによってバリを除去するバリ除去処理を実施する(
図2の(e)参照:バリ除去ステップ)。この際、第1端部12は、支持部材140bに載置される。第1端部12が成形部材140aと支持部材140bとによって挟まれることによって、貫通孔12b周囲に形成されるバリが潰され、該バリが除去される。これにより、
図1に示すスタビライザ1が作製される。
【0026】
ここで、母材における凹部の有無による、穿孔部材130aが受ける荷重の差異について、
図6を参照して説明する。
図6は、凹部の有無による、穿孔部材における貫通孔形成時の荷重の変化について説明するための図である。
図6は、穿孔部材130aの径R
1を14.4mm、母材10の端部の厚さH
1を7.3mmとする場合の穿孔部材における貫通孔形成時の荷重の変化を解析した例を示す。ストロークは、穿孔部材130aの母材表面からの進入長さに相当する。曲線L
1は、凹部12aの幅W
1を12.96mm、深さD
1を5.00mmとしたときの荷重の変化を示す。曲線L
2は、凹部12aの幅W
1を12.96mm、深さD
1を3.00mmとしたときの荷重の変化を示す。曲線L
3は、凹部12aを有しない場合の荷重の変化を示す。
図6の解析結果から、凹部12aを有する方が、荷重が低減されることが分かる。
【0027】
また、中実の母材における凹部の有無による、穿孔部材130aが受ける荷重の差異について、
図7を参照して説明する。
図7は、中実の母材を用いた場合の、凹部の有無による、穿孔部材における貫通孔形成時の荷重の変化について説明するための図である。
図7は、穿孔部材130aの径R
1を14.4mm、母材の端部の厚さを7.3mmとする場合の穿孔部材における貫通孔形成時の荷重の変化を解析した例を示す。曲線L
11は、凹部(凹部12aに相当)の幅W
1を12.96mm、深さD
1を5.00mmとしたときの荷重の変化を示す。曲線L
12は、凹部を有しない場合の荷重の変化を示す。
図7の解析結果から、凹部を有する方が、荷重が低減されることが分かる。
【0028】
以上説明した本発明の実施の形態では、スタビライザを作製するための母材において、貫通孔形成位置に凹部を形成し、該凹部を含む領域を打ち抜いて貫通孔を形成するようにした。本実施の形態によれば、凹部の形成によって穿孔部材130aへの荷重が低減されるため、穿孔部材の耐久性を向上させることができる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、凹部への穿孔時の荷重が低減されるため、穿孔による荷重によって生じる端部の反りや、内周面同士の密着性の低下を抑制することができる。
【0030】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、打ち抜きによって貫通孔を形成したり、トリム加工を施したりする製品に対して適用可能である。また、実施の形態では、母材10の端部を平板化しつつ、凹部を形成する例について説明したが、平板化と凹部の形成とを別のタイミングで行ってもよい。すなわち、実施の形態では、平板化ステップと凹部形成ステップとを同時に実施しているが、平板化ステップと凹部形成ステップとを別のタイミングで実施してもよい。
【0031】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0032】
以上説明したように、本発明に係るスタビライザの製造方法および母材は、穿孔によって貫通孔を形成させる穿孔部材の耐久性を向上させるのに好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 スタビライザ
2、11 本体部
3、12 第1端部
4、13 第2端部
10 母材
12a、13a 凹部
31、41 貫通孔
120a 保持部材
120b 押圧部材
120c 凸部
130a 穿孔部材
130b、140b 支持部材
130c ストリッパ
130d トリム刃
140a 成形部材