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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150073
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】加速度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/18 20130101AFI20231005BHJP
   B60G 17/019 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01P15/18
B60G17/019
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058973
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】岡村 淳
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301DB28
3D301EA20
3D301EA21
3D301EA22
(57)【要約】
【課題】車両における車輪の加速度を正確に検出できる加速度検出装置を提供する。
【解決手段】加速度検出装置1は、車両Vにおける車体Bと車輪Wとの間に介装されて伸縮するサスペンション装置Sに取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサ2と、加速度センサ2が検出する加速度を車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部3とを備え、加速度センサ2は、サスペンション装置Sに対して検出軸のうち1つが車両を上方から見て車両の前後方向に一致する方向を向くように取り付けられ、変換行列演算部3は、車両Vが水平面に静止した状態において加速度センサ2が検出する3軸の加速度に基づいて変換行列を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車体と車輪との間に介装されて前記車輪とともに振動するサスペンション装置に取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサと、
前記加速度センサが検出する加速度を前記車両の前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部とを備え、
前記加速度センサは、前記サスペンション装置に対して前記検出軸のうち1つが前記車両を上から見て所定のヨー角度となるように取り付けられ、
前記変換行列演算部は、前記車両を水平面に静止させた状態において前記加速度センサが検出する3軸の加速度に基づいて前記変換行列を求める
ことを特徴とする加速度検出装置。
【請求項2】
前記加速度センサは、前記サスペンション装置に対し、前記検出軸のうち1つが前記車両を上から見て所定のヨー角度となる第1取付姿勢と、前記第1取付姿勢に対して前記所定のヨー角度となる検出軸回りに180度未満の回転範囲で回転させた姿勢となる第2取付姿勢とで取り付け可能であって、
前記変換行列演算部は、前記車両を水平面に静止させた状態において、前記加速度センサが前記第1取付姿勢で検出した加速度と前記第2取付姿勢で検出した加速度に基づいて前記変換行列を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の加速度検出装置。
【請求項3】
車両における車体と車輪との間に介装されて前記車輪とともに振動するサスペンション装置に取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサと、
前記加速度センサが検出する加速度を前記車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部と、
前記加速度センサの前記検出軸のうち2つの検出軸を含む平面内に互いに直交する2軸の方位検出軸を持ち方位を検出する方位センサとを備え、
前記変換行列演算部は、前記車両の前方を所定の方位に向けた状態でかつ静止状態において、前記所定の方位と、前記加速度センサが検出する3軸の加速度と、前記方位センサが検出する方位に基づいて前記変換行列を求める
ことを特徴とする加速度検出装置。
【請求項4】
前記加速度センサは、無線による送受信を可能とする送受信部を有し、
前記変換行列演算部は、求めた前記変換行列のパラメータを前記加速度センサに転送し、
前記加速度センサは、検出した加速度を前記パラメータに基づいて補正して前記車両の前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度のうち予め指定された1つまたは2つの加速度のみを求めて無線により外部へ送信する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の加速度検出装置。
【請求項5】
前記加速度センサは、前記サスペンション装置に設けたられたブラケットを介して取り付けられ、
前記ブラケットは、前記加速度センサを前記第1取付姿勢と前記第2取付姿勢とに選択的に取り付ける取付部を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の加速度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両におけるサスペンション装置の制御や車両の動特性の計測、そして、車両が走行する道路の路面性状の把握を目的として、車両における車輪の加速度を検出する場合がある。このような場合、加速度センサは、車両の走行中に加速度を検出することが求められるが、回転する車輪には取り付け得ないので、車体と車輪との間に介装される緩衝器、アクチュエータ或いはロアアームやトーションビームといった車輪とともに車体に対して振動するサスペンション装置に取り付けられる場合がある。
【0003】
サスペンション装置の例として緩衝器に加速度センサを取り付ける場合、緩衝器は、懸架スプリングと並列に車体と車輪との間に介装され、シリンダと、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッドとを備えて伸縮できるので、たとえば、シリンダが車輪に連結される場合、互いに直交する3つの検出軸を持つ3軸の加速度センサをシリンダに取り付ければ、車輪の前後方向、左右方向および上下方向の加速度の検出が可能となる。
【0004】
ところが、サスペンション装置は必ずしも鉛直方向に取り付けられているものではないため、加速度センサをサスペンション装置に取り付けただけでは加速度センサの各検出軸が車両の前後方向、左右方向および上下方向に沿わないので、加速度センサが検出した各加速度を加速度センサの取り付けられた向きを計測して、車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度を求める必要がある。
【0005】
加速度センサが検出した加速度を補正する装置としては、たとえば、車両に設置した加速度センサで車両走行時に検出する加速度から車両直進方向を特定するとともに車両静止時に検出する加速度から鉛直方向を特定して、加速度センサが検出した3軸の加速度を車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度へ変換する変換情報を求める装置がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
また、加速度センサが検出した加速度を補正する他の装置としては、たとえば、加速度センサが検出した加速度ベクトルを変換行列を用いて絶対座標系の加速度ベクトルへ変換し、GPS(グローバルポジショニングシステム)から得られた車両の速度を微分して得た絶対座標系の参照ベクトルと加速度センサ由来の加速度ベクトルとが等しくなるように補正する装置がある(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-95658号公報
【特許文献2】特開2012-154769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1の装置では、車両走行時の加速度から車両直進方向を特定するが、サスペンション装置の車輪側に加速度センサを取り付けた場合、車両が走行することにより加速度センサには路面からの大きな振動が作用するため、ランダムな予測するのが難しい加速度が検出され、それがノイズとなり、正確に車両直進方向を特定するのは困難である。このように、特許文献1の装置では、加速度センサの検出した加速度の補正が難しいため、サスペンション装置に加速度センサを設置して加速度を正確に検出することが難しい。
【0009】
また、特許文献2の装置では、予め、加速度センサが検出する加速度を変換する変換行列を保有しており、参照ベクトルを用いて加速度に含まれる誤差を修正するものであり、加速度センサの車両への取付姿勢が予め決められていることを前提としている。ところが、サスペンション装置に加速度センサを取り付ける場合、サスペンション装置が車体に対して傾いていることもあり、加速度センサの3つの検出軸の向きが一定にならず、絶対座標系の加速度を得るための変換行列が都度異なってしまうので特許文献2の装置では加速度を正確に検出することができない。
【0010】
そこで、本発明は、車両における車輪の加速度を正確に検出できる加速度検出装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明の加速度検出装置は、車両における車体と車輪との間に介装されて車輪とともに振動するサスペンション装置に取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサと、加速度センサが検出する加速度を車両の前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部とを備え、加速度センサは、サスペンション装置に対して検出軸のうち1つが車両に対して所定のヨー角度で取り付けられ、変換行列演算部は、車両が水平面に静止した状態において加速度センサが検出する3軸の加速度に基づいて変換行列を求める。このように構成された加速度検出装置では、車両を水平面に静止させた状態で重力加速度を検出することでノイズの影響を受けずに正確に加速度センサの水平面に対するロール角度、ピッチ角度を求めることができるとともに、加速度センサの1つの検出軸をヨー方向に沿わせるので加速度センサが検出した車輪の加速度を正確に車両の前後方向、左右方向および上下方向の座標系に変換する変換行列を求め得る。前記所定のヨー角度での取り付けは、サスペンション装置に付随する取り付け用のブラケットやアイの取付むきを基準に決定することができるため、容易く決定することができる。
【0012】
さらに、加速度検出装置にあっては、加速度センサが、サスペンション装置に対し検出軸のうち1つが車両を上から見ての所定のヨー角度となるように取り付けられる第1の取付姿勢と、第1取付姿勢に対して所定のヨー角度となる検出軸回りに180度未満の回転範囲で回転させた姿勢となる第2取付姿勢とで取り付け可能であって、変換行列演算部が、車両が水平面に静止した状態において、加速度センサが第1取付姿勢で検出した加速度と第2取付姿勢で検出した加速度に基づいて変換行列とを求めてもよい。このように構成された加速度検出装置によれば、第1取付姿勢と第2取付姿勢で加速度センサが検出した加速度から変換行列を高精度に求め得るので、加速度センサの個体差によらず正確なキャリブレーションが可能となる。
【0013】
また、本発明の他の加速度検出装置は、車両における車体と車輪との間に介装されて車輪とともに振動するサスペンション装置に取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサと、加速度センサが検出する加速度を車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部と、加速度センサの検出軸のうち2つの検出軸を含む平面内に互いに直交する2軸の方位検出軸を持ち方位を検出する方位センサとを備え、変換行列演算部は、車両の前方を所定の方位に向けた状態でかつ静止状態において、所定の方位と、加速度センサが検出する3軸の加速度と、方位センサが検出する方位に基づいて変換行列を求める。
【0014】
このように構成された加速度検出装置では、車両を水平面に静止させた状態で重力加速度を検出することでノイズの影響を受けずに正確に加速度センサの水平面に対するロール角度、ピッチ角度を求めるとともに、車両を水平面に静止させた状態で方位センサによってヨー角度を求めるのでヨー角度についても精度よく求め得る。よって、本実施の形態の加速度検出装置によれば、加速度センサが検出した車輪の加速度を正確に車両の前後方向、左右方向および上下方向の座標系に変換する変換行列を求め得る。
【0015】
さらに、加速度検出装置にあっては、加速度センサは、無線による送受信を可能とする送受信部を備え、変換行列演算部は、求めた変換行列のパラメータを加速度センサに転送し、加速度センサは、検出した加速度をパラメータに基づいて補正して車両の前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度のうち予め指定された1つまたは2つの加速度のみを求めて無線により外部へ送信してもよい。このように構成された加速度検出装置によれば、加速度センサは高度な演算が求められることもなく変換行列演算部から得たパラメータを係数とした乗算と、加減算を行うのみで指定された加速度を求めることができ、高価な演算処理装置を搭載する必要がないのでコストを低減でき、加速度センサは予め指定された軸に関する加速度のみを外部へ送信するので、1度に送受信可能なデータ量が限られる場合でもあっても外部が要求するデータを無理なく送信でき、サンプリングレートも向上できる。
【0016】
また、加速度検出装置にあっては、加速度センサは、サスペンション装置に設けたられたブラケットを介して取り付けられ、ブラケットは、加速度センサを第1取付姿勢と第2取付姿勢とに選択的に取り付ける取付部を備えてもよい。このように構成された加速度検出装置によれば、加速度センサをサスペンション装置へ取り付ける際に位置合わせが不要となり、第1取付姿勢と第2取付姿勢を正確に実現できるので正確なキャリブレーションを保証できるとともに、第1取付姿勢と第2取付姿勢との姿勢変えも容易となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の加速度検出装置によれば、車両における車輪の加速度を車両の向きに基づいて、正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態における加速度検出装置を搭載した車両を示した図である。
図2】第1の実施の形態における加速度検出装置の構成を示した図である。
図3】第1の実施の形態の加速度検出装置における加速度センサの構成を示した図である。
図4】サスペンション装置の拡大図である。
図5】(a)は、加速度センサを第1取付姿勢でブラケットに取り付けた状態を示した図である。(b)は、加速度センサを第2取付姿勢でブラケットに取り付けた状態を示した図である。
図6】加速度検出装置の処理手順の一例を示した図である。
図7】第2の実施の形態の加速度検出装置における加速度センサの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した各実施の形態に基づき、本発明を説明する。各実施の形態の加速度検出装置において、共通の符号が付された部材、部品は、同一の構成を備えている。よって、説明の重複を避けるため、一つの実施の形態の加速度検出装置の説明中で詳細に説明した構成については、他の実施の形態の加速度検出装置の説明では詳しい説明を省略する。なお、本発明の加速度検出装置の説明にあたり、各実施の形態では、車両に適用された加速度検出装置を例にして説明しているが、自動車以外の車両に適用されるサスペンション装置へ適用してもよい。
<第1の実施の形態>
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、第1の実施の形態の加速度検出装置1は、四輪自動車である車両Vに搭載されて、車両Vにおける車輪Wの上下方向の加速度を検出する。加速度検出装置1は、図1および図2に示すように、車両Vにおける車体Bと車輪Wとの間に介装されて車輪Wとともに振動するサスペンション装置としての緩衝器Sに取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサ2と、加速度センサ2が検出する加速度を車両の前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部3とを備えている。
【0020】
以下、加速度検出装置1の各部について詳細に説明する。加速度センサ2は、車両Vの車体Bと車輪Wとの間に介装される緩衝器Sに取り付けられて、車輪Wに連結された緩衝器Sのアウターシェル10の加速度を検出する。このように、加速度検出装置1は、加速度センサ2が車輪Wに連結された緩衝器Sのアウターシェル10の加速度を検出するので、車輪Wの加速度を検出できる。
【0021】
加速度センサ2は、図3に示すように、互いに直交する3つの検出軸に沿う3方向の加速度を検出可能な検出部2aと、検出部2aで検出した加速度を変換行列を用いて補正して車両Vの前後方向、左右方向および上下方向の加速度のうち予め指定された加速度を求める補正部2bと、補正部2bによって求められた加速度のデータを外部装置へ無線によって送信する送受信部2cと、これら検出部2a、補正部2bおよび送受信部2cを収容する箱型の筐体2dを備えている。検出部2aは、筐体2dの前後方向をX軸、左右方向をY軸および上下方向をZ軸として、X軸、Y軸およびZ軸の3つの互いに直交する3つの検出軸に沿った3つの加速度を検出する。検出部2aは、互いに直交する3つの検出軸に沿う3方向の加速度を検出可能であればよく、ピエゾ抵抗式、圧電式、静電容量式等といった種々の検出原理に基づいて加速度を検出する。
【0022】
補正部2bは、後述する変換行列演算部3が求める変換行列のパラメータに基づいて検出部2aが検出した車輪Wの加速度を補正して車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿う3つの加速度のうち予め指定された1つまたは2つの加速度を求める。本実施の形態の加速度検出装置1では、補正部2bは、車両Vの上下方向に沿う車輪Wの加速度を求める。
【0023】
補正部2bは、具体的には、以下の式(1)に示した変換行列の9個のパラメータA11,A12,A13,A21,A22,A23,A31,A32,A33を変換行列演算部3から得て、検出部2aが検出した加速度から車両Vの上下方向に沿う加速度を求める。補正部2bは、本実施の形態では、加速度を求める演算処理を行うMPU(micro processor unit)と演算処理を実行するためのプログラムと演算処理を必要な前記したパラメータA11,A12,A13,A21,A22,A23,A31,A32,A33を記憶する記憶装置とを含んで構成されている。なお、式(1)中のxは、車輪Wの車両Vの前後方向に沿う加速度を、yは、車輪Wの車両Vの左右方向に沿う加速度を、zは、車輪Wの車両Vの上下方向に沿う加速度を、Xは、検出部2aが検出した筐体2dの前後方向の加速度を、Yは、検出部2aが検出した筐体2dの左右方向の加速度を、Zは、検出部2aが検出した筐体2dの上下方向の加速度を表している。本実施の形態では、加速度センサ2における検出部2aが検出する筐体2dに対する加速度をそれぞれ大文字のX,Y,Zで示し、車両Vの前後方向、左右方向、および上下方向の加速度をそれぞれ小文字のx,y,zで示している。また、車両Vの前後方向となるx軸回りの回転方向をロール方向とし、車両Vの左右方向となるy軸回りの回転方向をピッチ方向とし、車両Vの上下方向となるz軸回りの回転方向をヨー方向とする。
【0024】
【数1】
【0025】
加速度センサ2が取り付けられるサスペンション装置としての緩衝器Sは、図4に示すように、アウターシェル10と、アウターシェル10内に出入り可能なロッド11とを備えて、アウターシェル10が車輪W側に連結されるとともにロッド11が車体B側に連結されて車体Bと車輪Wとの間に介装されている。本実施の形態では、緩衝器Sは、アウターシェル10に対してロッド11が出入りすることで伸縮可能であって、車体Bに対する車輪Wの上下方向の相対移動に伴って伸縮するとともに減衰力を発生して車体Bおよび車輪Wの振動を減衰させるダンパとされている。なお、サスペンション装置は、自ら推力を発生して車体Bおよび車輪Wの振動を抑制するアクチュエータの他、ロアアームやトーションビームといった車輪Wとともに振動するサスペンションを構成する部品であってもよい。
【0026】
そして、車輪W側に連結されているアウターシェル10は、車体Bに対して車輪Wとともに車両Vの上下方向へ変位する。加速度センサ2は、アウターシェル10に取り付けられており、アウターシェル10が車体Bに対して変位する際、および、車両Vの走行に伴って車輪Wに作用する加速度を検出できる。
【0027】
本実施の形態では、緩衝器Sにおけるアウターシェル10には、加速度センサ2を取り付けるためのブラケット12が装着されている。ブラケット12は、加速度センサ2の筐体2dに形状に符合する互いに直交する凹部12a,12bで形成された取付部を備えている。加速度センサ2は、図5中の(a)に示すように凹部12aに取り付けた第1取付姿勢と、図5中の(b)に示すように、凹部12bに取り付けた第2取付姿勢との2つの姿勢でアウターシェル10に取り付けることができる。加速度センサ2は、凹部12aおよび凹部12bに対してX軸の検出軸がアウターシェル10を貫く姿勢で取り付けられる。そして、凹部12aと凹部12bとが直交しているので、凹部12aに取り付けた第1取付姿勢を採る加速度センサ2と凹部12bに取り付けた第2取付姿勢を採る加速度センサ2とでは、X軸の方向は変化しないが、Y軸とZ軸との配置が互いに入れ替わることになる。
【0028】
また、緩衝器Sを車体Bと車輪Wとに連結して車両Vに設置された状態で、加速度センサ2をブラケット12の凹部12aおよび凹部12bに取り付けると、車両のVの前後方向であるx軸と上下方向であるz軸を含む平面に平行なであって、加速度センサ2の3つの検出軸が交わる交点を通る平面上に加速度センサ2のX軸の検出軸が配置されるようになっている。つまり、第1取付姿勢の加速度センサ2と第2取付姿勢の加速度センサ2のX軸の検出軸は、車両Vを上方から見て車両Vの前後方向に一致する方向を向き、第1取付姿勢に対して第2取付姿勢は加速度センサ2をY軸の検出軸回りに90度回転させた姿勢となっている。よって、第1取付姿勢の加速度センサ2と第2取付姿勢の加速度センサ2は、Y軸の検出軸が必ず車両Vの前方を向くので、加速度センサ2は、凹部12a,12bに取り付けられるとX軸がヨー方向にずれ無く緩衝器Sに設置される。
【0029】
なお、加速度センサ2は、ブラケット12に対してX軸の検出軸が車両Vの前方を向きつつ、Y軸回りに180度未満の回転範囲で回転した2つの取付姿勢で取り付け可能であればよい。
【0030】
このように、加速度センサ2のX軸の検出軸がヨー方向においては車両Vの前後方向に沿っているので、重力の方向が分かれば加速度センサ2の車両Vに対するロール角度とピッチ角度が求まり変換行列を求めることができる。そこで、変換行列演算部3は、車両Vを水平面に静止させた状態にあり加速度センサ2が第1取付姿勢にある状態で検出した3つの加速度と、車両Vを水平面に静止させた状態にあり加速度センサ2が第2取付姿勢にある状態で検出した3つの加速度と、に基づいて変換行列を求める。車両Vを水平面に静止させた状態にある場合、重力以外の加速度が検出されないので、加速度センサ2の検出部2aが検出するX軸、Y軸及びZ軸の3つの加速度ベクトルは重力ベクトルに一致する。
【0031】
加速度センサ2の検出部2aが検出する加速度ベクトルを(X,Y,Z)、これを車両Vを基準とした座標系へと回転させるロール・ピッチ・ヨーの回転角をそれぞれr,p,ωとする。前述の通り、加速度センサ2の検出部2aが検出するX軸、Y軸及びZ軸の3つの加速度ベクトルは重力ベクトル(0,0,g)に一致する。
【0032】
すると、以下の式(2)に示すように、重力ベクトル(0,0,g)に変換行列の逆行列を乗じれば加速度ベクトル(X,Y,Z)となる。
【0033】
【数2】
【0034】
式(2)を整理すると、式(3)となる。
【0035】
【数3】
【0036】
以上より、ロール角度rを求めるには、式(4)を演算すればよく、ピッチ角度pを求めるには、式(5)を演算すればよい。
【0037】
【数4】
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、ヨー角度ωについては、式(3)には現れないことから、重力加速度の検知のみではヨー角度ωが定まらないことが分かる。理論上は、加速度センサ2が1つの取付姿勢で重力加速度を検出すれば、ロール角度rとピッチ角度pを求めることができ、ヨー角度については、加速度センサ2のX軸の検出軸が車両Vの前方を向いており、ヨー角度が0であるから、一度の重力加速度の検出によってロール角度r、ピッチ角度pおよびヨー角度ωが全て既知となるのであるが、加速度センサ2には検出誤差があり、重力加速度も場所によって異なる。
【0040】
そこで、本実施の形態の加速度検出装置1では、変換行列演算部3は、第1取付姿勢および第2取付姿勢にある加速度センサ2の検出部2aが検出するX軸、Y軸及びZ軸の3つの加速度から重力加速度の方向を求めて、第1取付姿勢および第2取付姿勢にある加速度センサ2の車両Vに対するロール角度とピッチ角度とを求めるようにしている。
【0041】
第1取付姿勢および第2取付姿勢のどちらにおいても加速度センサ2の検出部2aが検出するX軸の加速度、Y軸の加速度とZ軸の加速度でなる加速度ベクトルは重力加速度のベクトルに一致し、第1取付姿勢の加速度センサ2と第2取付姿勢の加速度センサ2とではX軸の検出軸回りに90度姿勢を回転させた位置関係にあるから、第1取付姿勢時のロール角度rと第2取付姿勢時のロール角度rとでは90度差が生じる筈である。これらの条件から、変換行列演算部3は、重力加速度の方向を求めて、第1取付姿勢或いは第2取付姿勢にある加速度センサ2の車両Vに対するロール角度rとピッチ角度pとを求める。なお、第1取付姿勢の加速度センサ2に対して第2取付姿勢の加速度センサ2は、X軸の検出軸回りに180度未満の範囲で回転姿勢を回転させた位置関係にあって第1取付姿勢に対する第2取付姿勢の回転角度が既知であればよいので、第1取付姿勢に対する第2取付姿勢の回転角度が90度でなくてもよい。
【0042】
このように、変換行列演算部3は、第1取付姿勢と第2取付姿勢とで加速度センサ2の検出部2aが検出する3つの加速度から重力加速度の方向を求めるので、加速度センサ2の検出部2aに個体差があっても正確に重力加速度の方向を求め得る。
【0043】
以上、変換行列演算部3がロール角度rとピッチ角度pとを求めれば、加速度センサ2の車両Vに対するロール角度r、ピッチ角度pおよびヨー角度ωが既知となるので、加速度センサ2の検出部2aが検出する車輪Wの加速度を車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿った加速度に変換するための変換行列を求め得る。
【0044】
加速度センサ2の検出部2a検出する加速度ベクトル(X、Y,Z)を車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度ベクトル(x,y,z)へ変換する変換行列は、以下の式(6)で表すことができる。前述したように第2取付姿勢にある加速度センサ2のX軸の検出軸は、ヨー方向に沿っているので加速度センサ2の車両Vに対するヨー角度は0となり、第2取付姿勢にある加速度センサ2の車両Vに対するロール角度rおよびピッチ角度pは前述のように既知の値となる。
【0045】
【数6】
【0046】
よって、変換行列演算部3は、ヨー角度を0として、求めたロール角度rおよびピッチ角度pの値を式(6)に代入して変換行列を求める。式(6)の変換行列は、3行3列の9個のパラメータを有する行列であり、変換行列の各パラメータは、それぞれ式(1)のパラメータA11,A12,A13,A21,A22,A23,A31,A32,A33に相当している。
【0047】
なお、ロール角度rおよびピッチ角度pの演算にあたり、第1取付姿勢での加速度センサ2の重力の検出を先に行って、第2取付姿勢での加速度センサ2の重力の検出を後に行って、車輪Wの加速度の検出を第2取付姿勢の加速度センサ2で行うため、変換行列演算部3は、第2取付姿勢で加速度センサ2を使用することを前提として第2取付姿勢にある加速度センサ2のロール角度rとピッチ角度pとを変換行列に入力して前記パラメータを求めるが、第1取付姿勢で加速度センサ2を使用する場合には、変換行列演算部3は、第1取付姿勢における加速度センサ2のロール角度とピッチ角度を変換行列に入力して前記した9個のパラメータを求めてもよい。
【0048】
また、変換行列演算部3は、図示はしないが、加速度センサ2と無線通信可能な送受信部を備えており、図6の処理手順に示すように、加速度センサ2のロール角度とピッチ角度とを求めて変換行列の各パラメータを求める(ステップF1)と、加速度センサ2と無線通信を行って9個のパラメータのデータを加速度センサ2へ送信する(ステップF2)。
【0049】
9個のパラメータのデータを受け取った加速度センサ2は、当該パラメータの値を記憶し(ステップF3)、検出部2aで3軸の加速度を検出し(ステップF4)、検出部2aが検出した3軸の加速度からパラメータに基づき予め指定された車両Vの上下方向に沿う車輪Wの加速度のみを所定のサンプリングレートで求めて(ステップF5)、外部へ送信する(ステップF6)。加速度センサ2は、変換行列の各パラメータを受け取った後は、ステップF4からステップF6の処理を繰り返して順次求めた加速度を外部へ送信する。
【0050】
加速度センサ2の補正部2bは、変換行列を求める演算を行う必要が無く、単純に変換行列演算部3から得たパラメータを係数とした乗算と、加減算を行うのみで車両Vの上下方向に沿う車輪Wの加速度を求めることができるので、補正部2bを構成するMPUには高度な演算が求められないので加速度センサ2のコストを低減できる。なお、加速度センサ2に補正部2bを設けずに、検出部2aが検出した加速度をサンプリング周期毎に変換行列演算部3へ送信して、変換行列演算部3に前記パラメータを用いて車両Vのx軸、y軸、z軸に沿う加速度を演算させることもできる。
【0051】
また、加速度センサ2は、車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿う車輪Wの加速度のうち予め指定された加速度のみを外部へ送信するので、1度に送受信可能なデータ量が限られる場合でもあっても外部が要求するデータを無理なく送信できる。なお、加速度センサ2が送信するデータの受け手は、車両Vの種々のデータを収集する収集装置であってもよいし、緩衝器Sやその他の車両Vに設置される機器の制御を行うECU等の制御装置であってもよい。また、変換行列演算部3は、前述した収集装置や制御装置を構成するハードウェアが変換行列を求めるプログラムを実行することで実現されてもよいし、収集装置や制御装置とは別個のハードウェアによって実現されてもよい。
【0052】
なお、変換行列演算部3は、第1取付姿勢および第2取付姿勢にある加速度センサ2の検出部2aが検出するX軸、Y軸及びZ軸の3つの加速度から重力加速度の方向を求めているが、以下のように設計変更されてもよい。まず、加速度センサ2を鉛直方向に対して水平な面に静止させた状態で、検出部2aに重力加速度を検出させて、変換行列演算部3に当該重力加速度を記憶させる。その後、加速度センサ2のY軸の検出軸が車両Vの前方を向くようにして緩衝器Sのアウターシェル10に加速度センサ2を取り付け、検出部2aによって加速度を検出する。予め、鉛直方向に対して水平な面に静止させた状態で加速度センサ2によって重力加速度の大きさと方向とが検出されているので、この重力加速度の大きさと方向と、加速度センサ2を緩衝器Sに取り付けた状態の検出部2aが検出した加速度とから重力加速度の方向を正確に求めることができる。よって、予め、鉛直方向に対して水平な面に静止させた状態で加速度センサ2によって重力加速度の大きさと方向とを検出しておけば、加速度センサ2の緩衝器Sへの取付姿勢を第1取付姿勢と第2取付姿勢とに切り換える必要がないので加速度センサ2の緩衝器Sへの取り付けをブラケット12を用いなくともよい。
【0053】
以上、本実施の形態の加速度検出装置1は、車両Vにおける車体Bと車輪Wとの間に介装されて車輪Wとともに振動する緩衝器(サスペンション装置)Sに取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサ2と、加速度センサ2が検出する加速度を車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部3とを備え、加速度センサ2は、緩衝器(サスペンション装置)Sに対して検出軸のうち1つが車両を上方から見て車両の前後方向に一致する方向を向くように取り付けられ、変換行列演算部3は、車両Vが水平面に静止した状態において加速度センサ2が検出する3軸の加速度に基づいて変換行列を求める。このように構成された加速度検出装置1では、車両Vを水平面に静止させた状態で重力加速度を検出することでノイズの影響を受けずに正確に加速度センサ2の水平面に対するロール角度r、ピッチ角度pを求めることができるとともに、加速度センサ2の1つの検出軸をヨー方向に沿わせるので、加速度センサ2が検出した車輪Wの加速度を正確に車両Vの前後方向、左右方向および上下方向の座標系に変換する変換行列を求め得る。よって、本実施の形態の加速度検出装置1によれば、ノイズ等の影響を受けずに正確な加速度センサ2のキャリブレーションが可能となり、車両Vにおける車輪Wの加速度を正確に検出できる。
【0054】
なお、本実施の形態の加速度検出装置1では、加速度センサ2の3つの検出軸のうちX軸の検出軸を車両Vの前後方向に一致する方向に向くように緩衝器(サスペンション装置)Sに取り付けているが、加速度センサ2の3つの検出軸は互いに直交しており、いずれの検出軸を車両Vの前後方向へ向けてもよいので、Y軸或いはZ軸の検出軸を車両Vの前後方向に向けてもよいし、演算では求められない加速度センサ2の車両Vに対するヨー角度を決めておけばよいので、加速度センサ2の3つの検出軸のうち1つを車両Vの左右方向に一致させて緩衝器(サスペンション装置)Sに取り付けてもよい。また、検出軸の1つが車両Vに対して所定のヨー角度となるように加速度センサ2をサスペンション装置に取り付けてもよい。つまり、車両Vを上方から見て車両Vの前後方向を沿う仮想線に対して検出軸のうち1つが交わる角度が所定のヨー角度となっていればよく、所定のヨー角度は何度でもよい。ただし、加速度センサ2の検出軸のうち1つが車両Vの前後方向を向くように緩衝器(サスペンション装置)Sに設置される場合、加速度センサ2がサスペンション装置Sの前方或いは後方に設置されるので、加速度センサ2の設置が容易となる。
【0055】
また、本実施の形態の加速度検出装置1では、加速度センサ2は、緩衝器(サスペンション装置)Sに対し、検出軸のうち1つが車両Vを上方から見て車両Vの前後方向に一致する方向を向く第1の取付姿勢と、第1取付姿勢に対して前方を向く検出軸回りに180度未満の回転範囲で回転させた姿勢となる第2取付姿勢とで取り付け可能であって、変換行列演算部3は、車両Vが水平面に静止した状態において、前記加速度センサが前記第1取付姿勢で検出した加速度と前記第2取付姿勢で検出した加速度に基づいて変換行列を求める。このように構成された加速度検出装置1によれば、第1取付姿勢と第2取付姿勢で加速度センサ2が検出した加速度から変換行列を高精度に求め得るので、加速度センサ2の個体差によらず正確なキャリブレーションが可能となる。この場合も、第1取付姿勢と第2取付姿勢とにある加速度センサ2の検出軸の1つが車両Vに対して所定のヨー角度となるように取り付けられてもよい。
【0056】
さらに、本実施の形態の加速度検出装置1では、加速度センサ2は、無線による送受信を可能とする送受信部2cを備え、変換行列演算部3は、求めた変換行列のパラメータを加速度センサ2に転送し、加速度センサ2は、検出した加速度をパラメータに基づいて補正して車両Vの前後方向、左右方向および上下方向に沿う加速度のうち予め指定された1つまたは2つの加速度のみを求めて無線により外部へ送信する。このように構成された加速度検出装置1によれば、加速度センサ2は高度な演算が求められることもなく変換行列演算部3から得たパラメータを係数とした乗算と、加減算を行うのみで指定された加速度を求めることができ、高価な演算処理装置を搭載する必要がないのでコストを低減でき、加速度センサ2は予め指定された加速度のみを外部へ送信するので、1度に送受信可能なデータ量が限られる場合でもあっても外部が要求するデータを無理なく送信でき、サンプリングレートも向上できる。
【0057】
さらに、本実施の形態の加速度検出装置1では、加速度センサ2は、緩衝器(サスペンション装置)Sに設けたられたブラケット12を介して取り付けられ、ブラケット12は、加速度センサ2を第1取付姿勢と第2取付姿勢とに選択的に取り付ける凹部(取付部)12a,12bを備えている。このように構成された加速度検出装置1によれば、加速度センサ2を緩衝器(サスペンション装置)Sへ取り付ける際に位置合わせが不要となり、第1取付姿勢と第2取付姿勢を正確に実現できるので正確なキャリブレーションを保証できるとともに、第1取付姿勢と第2取付姿勢との姿勢変えも容易となる。
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態の加速度検出装置1は、加速度センサ2Aが方位センサ2eを備えており、変換行列演算部3Aが車両Vの前方を所定の方位に向けた状態でかつ静止状態において加速度センサ2Aが検出する3軸の加速度と方位センサ2eが検出する方位に基づいて変換行列を求める点で第1の実施の形態の加速度検出装置1と異なっている。
【0058】
加速度センサ2Aは、図7に示すように、互いに直交する3つの検出軸に沿う3方向の加速度を検出可能な検出部2aと、検出部2aで検出した加速度を変換行列を用いて補正して車両Vの前後方向、左右方向および上下方向の加速度のうち予め指定された加速度を求める補正部2bと、補正部2bによって求められた加速度のデータを外部装置へ無線によって送信する送受信部2cと、これら検出部2a、補正部2bおよび送受信部2cを収容する筐体2dとを備える他に、2軸の方位センサ2eとを備えている。
【0059】
加速度センサ2Aは、方位センサ2eを備えている点でのみ第1の実施の形態の加速度センサ2と異なっている。方位センサ2eは、検出部2aのX軸に平行な検出軸と、検出部2aのY軸に平行な検出軸との2つの検出軸を持つ方位センサとされており、X軸とY軸とが含まれる平面内に互いに直交する2つの方位検出軸を持っている。また、方位センサ2eが検出した方位は、変換行列を求めるために用いられ送受信部2cを介して変換行列演算部3に送信される。
【0060】
加速度センサ2Aにおける方位センサ2eが検出した方位は、変換行列を求めるためだけに用いられるので、変換行列を求められた後は、方位センサ2eによる方位の検出は行われなくともよい。なお、方位センサ2eは、加速度センサ2の3つの検出軸のうち2つの検出軸を含む平面内に互いに直交する2軸の方位検出軸を持っていればよいので、加速度センサ2とはハードウェアとして分離されて設けられてもよい。
【0061】
また、加速度センサ2Aは、緩衝器Sにおけるアウターシェル10に取り付けられ、検出部2aが所定のサンプリングレートで加速度を検出し、補正部2bが変換行列のパラメータを使用して指定された加速度のみを補正して、送受信部2cから補正後の加速度を送信する。なお、第2の実施の形態の加速度検出装置1では、加速度センサ2Aの緩衝器Sに対する取付姿勢に制限はなく、加速度センサ2Aは、緩衝器Sに対してブラケット12を介して取り付けれてもよいし、ブラケット12を用いずに取り付けられてもよい。
【0062】
加速度センサ2AのX軸、Y軸およびZ軸の検出軸は、車両Vに対してどの方向を向いているかは不明であるが、変換行列演算部3は、車両Vの前方を正確に北に向け、水平面に静止させた状態で加速度センサ2の検出部2aが検出した加速度と、方位センサ2eが検出した方位とに基づいて変換行列を求める。
【0063】
車両Vの前方を正確に北に向けて水平面に車両Vを静止させると、方位センサ2eが検出した方位は、車両Vの前方の北に対して加速度センサ2Aの車両Vの前後方向に対する向きを示す。よって、方位センサ2eが検出する方位から加速度センサ2Aが車両Vのヨー方向においてどの程度回転しているか、つまり、ヨー角度ωを知ることができる。
【0064】
また、車両Vを水平面に車両Vを静止させると、重力加速度は車両Vに対して鉛直下方に作用する。よって、この状態で、加速度センサ2Aの検出部2aが検出した加速度から加速度センサ2Aの車両Vに対するロール角度rおよびピッチ角度pを求めれば、ロール角度rとピッチ角度pを精度良く求めることができる。なお、加速度センサ2Aで重力加速度を検知することによってロール角度rとピッチ角度pとを求め得ることは前述のとおりである。
【0065】
これにより、オイラー角であるロール角度r、ピッチ角度pおよびヨー角度ωの3つの角度が求まるので、変換行列演算部3は、求めたロール角度r、ピッチ角度pおよびヨー角度ωを式(6)に代入して、変換行列を求めて変換行列の各パラメータA11,A12,A13,A21,A22,A23,A31,A32,A33を求める。変換行列演算部3は、変換行列の各パラメータを求めると、加速度センサ2Aと無線通信を行って9個のパラメータのデータを加速度センサ2Aへ送信する。なお、本実施の形態の加速度検出装置1では、車両Vの前方を北に向けているが、予め変換行列を求める際に車両Vの前方を向けるべき方位を決めておけば、当該方位は北以外であってもよい。たとえば、車両Vの前方が西を向いており、方位センサ2eの検出によって加速度センサ2Aの向きが北であることが分かれば、車両Vの前方に対するヨー角度は90度であることが分かる。よって、変換行列を求める際に車両Vの前方を向けるべき方位を予め決めておけばよいので、車両Vの前方を向けるべき所定の方位は任意に変更可能である。
【0066】
9個のパラメータのデータを受け取った加速度センサ2Aは、当該パラメータの値を記憶し、検出部2aが検出した3軸の加速度から車両Vの上下方向に沿う車輪Wの加速度のみを所定のサンプリングレートで求めて、外部へ送信する。
【0067】
以上のように、第2の実施の形態の加速度検出装置1は、車両Vにおける車体Bと車輪Wとの間に介装されて伸縮する緩衝器(サスペンション装置)Sに取り付けられて互いに直交する3軸を検出軸として加速度を検出可能な加速度センサ2Aと、加速度センサ2Aが検出する加速度を車両Vの前後方向、左右方向および上下方向の加速度に補正する変換行列を求める変換行列演算部3とを備え、加速度センサ2Aは、検出軸のうち2つの検出軸を含む平面内に互いに直交する2軸の方位検出軸を持ち方位を検出する方位センサ2eを有し、変換行列演算部3は、車両Vの前方を所定の方位に向けた状態でかつ静止状態において、所定の方位と、加速度センサ2Aが検出する3軸の加速度と、方位センサ2eが検出する方位に基づいて変換行列を求める。
【0068】
このように構成された加速度検出装置1では、車両Vを水平面に静止させた状態で重力加速度を検出することでノイズの影響を受けずに正確に加速度センサ2の水平面に対するロール角度r、ピッチ角度pを求めるとともに、車両Vを水平面に静止させた状態で方位センサ2eによってヨー角度ωを求めるのでヨー角度ωについても精度よく求め得る。よって、本実施の形態の加速度検出装置1によれば、加速度センサ2Aが検出した車輪Wの加速度を正確に車両Vの前後方向、左右方向および上下方向の座標系に変換する変換行列を求め得る。以上より、本実施の形態の加速度検出装置1によれば、ノイズ等の影響を受けずに正確な加速度センサ2のキャリブレーションが可能となり、車両Vにおける車輪Wの加速度を正確に検出できる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・加速度検出装置、2,2A・・・加速度センサ、2c・・・送受信部、2e・・・方位センサ、3・・・変換行列演算部、12・・・ブラケット、12a,12b・・・凹部(取付部)、B・・・車体、S・・・緩衝器(サスペンション装置)、V・・・車両、W・・・車体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7