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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150074
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】サスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/0165 20060101AFI20231005BHJP
   B60G 23/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60G17/0165
B60G23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058974
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】金子 周平
(72)【発明者】
【氏名】窪田 友夫
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA09
3D301AA45
3D301AA53
3D301DA01
3D301DA31
3D301EA06
3D301EA19
3D301EA76
3D301EA82
3D301EB09
3D301EB16
3D301EC01
3D301EC05
3D301EC06
3D301EC08
3D301EC20
3D301EC26
3D301EC67
(57)【要約】
【課題】車両における乗心地を向上させ得るサスペンション装置の提供である。
【解決手段】サスペンション制御装置Cは、ばね上共振周波数帯において車体Bを路面に追従させる路面追従制御指令FCを求める路面追従制御部U1と、ばね下共振周波数帯において路面からの振動を車体Bへ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令FIを求める振動絶縁制御部U2と、車両Vの進行方向の前方の路面変位を検出するプレビューセンサPで検出した路面変位Zに基づいて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を求める切換部U3と、配分と路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIからサスペンション装置Sを制御するための最終制御指令F_refを求める最終指令演算部U4とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車体と車輪との間に介装されて、前記車体へ上下方向の力を与えて前記車体の振動を抑制可能なサスペンション装置を制御するサスペンション制御装置であって、
ばね上共振周波数帯において前記車体を路面に追従させる路面追従制御指令を求める路面追従制御部と、
ばね下共振周波数帯において路面からの振動を前記車体へ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令を求める振動絶縁制御部と、
前記車両の進行方向の前方の路面変位を検出するプレビューセンサで検出した前記路面変位に基づいて前記路面追従制御指令と前記振動絶縁制御指令との配分を求める切換部と、
前記配分と前記路面追従制御指令と前記振動絶縁制御指令から前記サスペンション装置を制御するための最終制御指令を求める最終指令演算部とを備えた
ことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記切換部は、
前記車輪が走行する路面における前記路面変位を距離で2階微分して路面指標を求め、前記路面指標に基づいて前記配分を求める
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記切換部は、
前記車輪が走行する路面における前記路面変位の移動平均或いは前記車輪が走行する路面における前記路面変位をローパスフィルタ処理して前記路面指標を求める
ことを特徴とする請求項2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記切換部は、
前記路面指標に前記車両の走行速度を乗じてサスペンション振動推定値を求め、前記サスペンション振動推定値に基づいて前記配分を求める
ことを特徴とする請求項2または3に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記切換部は、
前記サスペンション振動推定値の振幅の大きさであるレベルに基づいて前記配分を求める
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション制御装置。
【請求項6】
前記切換部は、
前記車体の前後左右の4輪各輪におけるそれぞれの配分を求めて選択前配分とし、4輪各輪における前記路面追従制御指令の割合が最大となる選択前配分に基づいて前記配分を求める
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項7】
前記切換部は、
前記配分を前記車両の走行速度に応じてカットオフ周波数が変化するローパスフィルタによって処理し、前記4輪各輪における最終的な前記配分を求める
ことを特徴とする請求項6に記載のサスペンション制御装置。
【請求項8】
前記切換部は、前記車両の操舵角に基づいて前記車輪が走行する路面を予測し、予測した路面における路面変位に基づいて前記配分を求める
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のサスペンション制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されるサスペンション装置を制御するサスペンション制御装置としては、走行中に路面から入力される振動が車体(ばね上部材)に伝達するのを抑制するスカイフック制御を行うものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなサスペンション制御装置では、車体の上下方向速度にスカイフックゲイン(スカイフック減衰係数)を乗じて制御指令を求め、サスペンション装置に制御指令が指示する制御力を出力させる。このようにスカイフック制御を行うサスペンション制御装置では、サスペンション装置が発生する減衰力や制御力によって車体の上下方向速度を小さくして車体の振動を抑制して車両における乗心地を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-88358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のサスペンション制御装置では、路面からの振動の伝達を絶縁して車体の振動を抑制できるが、高速走行時に路面の凹凸を乗り越える場合や坂道に突入するような場合に、振動を絶縁しようとするとゲインが大きくなって、サスペンション装置のストローク量が大きくなり、サスペンション装置の伸び切り或いは縮み切りによる振動が車体に伝達されて乗心地が悪化する場合がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、乗心地を向上させ得るサスペンション制御装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段におけるサスペンション制御装置は、車両における車体と車輪との間に介装されて、車体へ上下方向の力を与えて車体の振動を抑制可能なサスペンション装置を制御するものであって、ばね上共振周波数帯において車体を路面に追従させる路面追従制御指令を求める路面追従制御部と、ばね下共振周波数帯において路面からの振動を車体へ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令を求める振動絶縁制御部と、車両の進行方向の前方の路面変位を検出するプレビューセンサで検出した路面変位に基づいて路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を求める切換部と、配分と路面追従制御指令と振動絶縁制御指令からサスペンション装置を制御するための最終制御指令を求める最終指令演算部とを備えている。
【0008】
このように構成されたサスペンション制御装置では、プレビューセンサで検出した路面変位に基づいて路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を求めて最終制御指令を求めるため、振動絶縁制御のみではサスペンション装置のストローク量が大きくなり車両における乗心地が悪化すると予測される路面を予見して路面追従制御指令と振動絶縁制御指令とを切り換えて車両における乗心地を向上できる。
【0009】
また、サスペンション制御装置における切換部は、車輪が走行する路面における路面変位を距離で2階微分して路面指標を求め、路面指標に基づいて路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を求めるようにしてもよい。このように構成されたサスペンション制御装置によれば、大きな凹凸や坂道の起点を容易且つ正確に予測できるようになり、サスペンション装置のストローク量が大きくなる凹凸や坂道の起点といった路面を事前に予見して路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を最適化して、車両における乗心地をより一層向上できる。
【0010】
そしてさらに、サスペンション制御装置における切換部は、車輪が走行する路面における路面変位の移動平均或いは車輪が走行する路面における路面変位をローパスフィルタ処理して車輪が走行する路面における路面変位の移動平均の値を距離で2階微分して求めた路面指標を求めてもよい。路面変位の移動平均或いは路面変位をローパスフィルタ処理すると、路面変位に含まれるノイズを除去できるとともに路面変位の急変を緩和でき、ストローク量が大きくならないような細かな路面変化に対しては路面指標が大きな値を採ることが無くなるので、サスペンション装置のストローク量が大きくなる凹凸や坂道の起点の把握をより正確に行える。よって、このように構成されたサスペンション制御装置によれば、車両における乗心地をより一層向上できる。
【0011】
さらに、サスペンション制御装置における切換部は、路面指標に車両の走行速度を乗じてサスペンション振動推定値を求め、サスペンション振動推定値に基づいて配分を求めるようにしてもよい。このように構成されたサスペンション制御装置によれば、車両の走行速度に応じてサスペンション装置のストローク量が大きくなる路面をより正確に予見して路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を最適化できるので、車両における乗心地をより一層向上できる。
【0012】
また、サスペンション制御装置における切換部は、サスペンション振動推定値の振幅の大きさであるレベルに基づいて配分を求めるようにしてもよい。このように構成されたサスペンション制御装置によれば、サスペンション振動推定値のレベルを用いるので、サスペンション装置のストロークの大きさを正確に把握でき、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を最適化して、車両が走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。また、サスペンション振動推定値が大きな振幅で振動するような場合であっても、レベルが高いままとなるので配分が振動的になって路面追従制御と振動絶縁制御とが頻繁に切り変わってしまうハンチングを防止できる。
【0013】
さらに、サスペンション制御装置における切換部は、車体の前後左右の4輪各輪におけるそれぞれの配分を求めて選択前配分とし、4輪各輪における路面追従制御指令FCの割合が最大となる選択前配分に基づいて配分を求めるようにしてもよい。このように構成されたサスペンション制御装置によれば、サスペンション装置における路面追従制御指令と振動絶縁制御指令の配分が統一されるので、車体の姿勢を安定させ得る。
【0014】
また、サスペンション制御装置における切換部は、配分を車両の走行速度に応じてカットオフ周波数が変化するローパスフィルタによって処理し、4輪各輪における最終的な前記配分を求めるようにしてもよい。このように構成されたサスペンション制御装置によれば、走行速度によらず最適なタイミングで最適な配分で制御を実行できる。
【0015】
さらに、サスペンション制御装置における切換部は、車両の操舵角に基づいて車輪が走行する路面を予測し、予測した路面における路面変位に基づいて配分を求めるようにしてもよい。このように構成されたサスペンション制御装置によれば、車両の進路に応じてサスペンション装置のストローク量が大きくなる路面をより正確に予見でき、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を最適化して、車両における乗心地をより一層向上できる。
【発明の効果】
【0016】
以上より、本発明のサスペンション装置によれば、車両における乗心地を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施の形態におけるサスペンション制御装置を搭載した車両を示した図である。
図2】一実施の形態のサスペンション制御装置の構成図である。
図3】一実施の形態のサスペンション制御装置の路面追従制御部の制御ブロックを示した図である。
図4】一実施の形態のサスペンション制御装置の路面追従制御における路面の入力から車体へ伝達される振動の振動伝達ゲイン特性を示した図である。
図5】一実施の形態のサスペンション制御装置の振動絶縁制御における路面の入力から車体へ伝達される振動の振動伝達ゲイン特性を示した図である。
図6】一実施の形態のサスペンション制御装置における振動絶縁制御部の制御ブロックの第一例を示した図である。
図7】一実施の形態のサスペンション制御装置おける振動絶縁制御部の制御ブロックの第2例を示した図である。
図8】一実施の形態のサスペンション制御装置おける振動絶縁制御部の切換部の制御ブロックを示した図である。
図9】検出された路面変位と位置を示した図である。
図10】サスペンション振動推定値のレベルと配分との関係を示した図である。
図11】一実施の形態のサスペンション制御装置おける最終指令演算部の切換部の制御ブロックを示した図である。
図12】一実施の形態のサスペンション制御装置における処理手順の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態におけるサスペンション制御装置Cは、車両Vにおける車体Bと車輪Wとの間に介装されて車体Bへ上下方向の力を与えて車体Bの振動を抑制可能なサスペンション装置Sを制御して、車体Bの振動を抑制する。以下の説明において、サスペンション装置Sおよび車輪Wの添え字は、flが前左側を、frが前右側を、rlが後左側を、rrが後右側を示しており、特に、サスペンション装置Sおよび車輪Wの設置箇所について区別する必要がない場合、添え字を省略する。
【0019】
サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrは、懸架ばねSPに並列されて車体Bと前後左右の4つの車輪Wとの間の4箇所にそれぞれ介装されており、たとえば、伸縮時に発生する減衰力の調整が可能な減衰力調整ダンパとされる。なお、サスペンション装置Sは、油圧や空圧を利用し推力の調整が可能なテレスコピック型のシリンダや電動リニアアクチュエータ等とされてもよい。サスペンション装置Sは、減衰力を調整するためのソレノイドバルブとソレノイドバルブを駆動するドライバとを備えており、サスペンション制御装置Cから入力される制御指令によって伸縮駆動する。よって、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrは、サスペンション制御装置Cが求めた最終制御指令F_refの入力を受けると、最終制御指令F_refが指示する減衰力を発揮して車体Bの振動を抑制する。
【0020】
サスペンション制御装置Cは、4つのサスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの直上のばね上部材である車体Bの上下方向加速度αを検出する4つの加速度センサGと、車両Vの前方の路面変位を検出するプレビューセンサPと、各サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの変位Xを検出する4つのストロークセンサHと、上下方向加速度αおよび変位Xから最終制御指令F_refを求める制御演算装置Uとを備えている。なお、車両Vの4箇所のサスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrは、それぞれ、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの直上の加速度センサGと、サスペンション装置Sに対応するストロークセンサHとで組みを成しており、サスペンション制御装置Cは、加速度センサGとストロークセンサHとが検出した情報を処理して求めた最終制御指令F_refは、組を成すサスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの制御に利用される。また、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの制御についての説明にあたり、特に、加速度センサG、ストロークセンサHや制御指令について区別する必要がある場合に限り、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの何れについての制御であるかを明示し、それ以外の場合ではサスペンション装置Sの符号の添え字を付さない。
【0021】
加速度センサGは、車体Bの制御対象である4つのサスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの直上にそれぞれ設けられており、検出した車体Bの上下方向加速度αを制御演算装置Uに入力する。ストロークセンサHは、各サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの伸縮方向の変位Xを検出して制御演算装置Uに入力する。なお、車体Bを剛体とみなせば、同一直線上に並ばないように配慮して3つの加速度センサGを車体Bに設置すれば、3つの加速度センサGで検出した加速度から車体Bの4つのサスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの直上の上下方向加速度を演算によって求め得る。よって、加速度センサGを3つだけ車体Bに設けて、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの直上の車体Bの上下方向加速度を検出してもよい。この場合、サスペンション制御装置Cは、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの直上の車体Bの上下方向加速度と当該サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrに対応するストロークセンサHとが検出した情報とを処理して最終制御指令F_refを求めて、当該サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrを制御すればよい。
【0022】
プレビューセンサPは、図1に示すように、車体Bの前端に設けられており、車両Vがこれから走行する路面変位を検出するために、車両Vの前方であって車両Vの先端から所定距離Lだけ離間した位置の路面における路面変位を検出する。なお、プレビューセンサPは、搭乗者の操舵によって車両Vが通過する可能性のある範囲の路面変位を検出できるように車両Vの前方の路面変位を車両Vの幅方向に広がる範囲で検出できるようになっている。なお、プレビューセンサPとしては、車両Vから離れた位置における前方の路面変位を検出できるセンサであればよく、たとえば、ミリ波レーダー、マイクロ波レーダー、レーザーレーダー、光学カメラ、超音波ソナー、赤外線センサといったセンサを利用できる。なお、プレビューセンサPの車体Bへの設置位置は、路面変位を検出できる位置であれば、前端以外に設置してもよい。
【0023】
制御演算装置Uは、図2に示すように、路面追従制御指令FCを求める路面追従制御部U1と、振動絶縁制御指令FIを求める振動絶縁制御部U2と、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を求める切換部U3と、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIと切換部U3が求めた配分から最終制御指令F_refを求める最終指令演算部U4とを備えて構成されている。
【0024】
路面追従制御部U1は、詳細には、図3に示すように、ストロークセンサHが検出した変位Xを微分する微分器10と、伸縮速度dXの低周波成分dX_lowを抽出するローパスフィルタ11と、伸縮速度の低周波成分dX_lowに減衰係数を乗じる乗算器12と、上下方向加速度αを積分する積分器13と、上下方向速度Bvにスカイフックゲイン(スカイフック減衰係数)を乗じる乗算器14と、各乗算器12,14が出力した値を加算して路面追従制御指令FCを求める加算器15とを備えている。
【0025】
微分器10は、ストロークセンサHが検出した変位Xを微分してサスペンション装置Sの伸縮速度dXを求める。また、積分器13は、上下方向加速度αを積分して車体Bの上下方向速度Bvを求める。路面追従制御を行うために路面追従制御部U1で必要とする情報は、サスペンション装置Sの伸縮速度dXと車体Bの上下方向速度Bvである。サスペンション装置Sの伸縮速度dXは、ばね上部材である車体Bとばね下部材である車輪Wの上下方向の相対速度に等しいので、サスペンション制御装置Cは、車体Bの上下方向速度Bvと車輪Wの上下方向速度の差から伸縮速度dXを得てもよい。車輪Wの上下方向速度を得るには、車輪Wを支持するナックルやサスペンションアーム、或いはサスペンション装置Sの車輪W側に連結されて車輪Wとともに上下動する部位に加速度センサを設けて、車輪Wの上下方向加速度を得てから、上下方向加速度を積分すればよい。このように、ストロークセンサHの代わりに加速度センサを設けて伸縮速度dXを求めるようにしてもよい。また、車体Bの上下方向速度Bvは、車輪Wの上下方向速度にサスペンション装置Sの伸縮速度dXを加算すれば得られるので、サスペンション制御装置Cは、車体Bに設けた加速度センサGを廃止して車輪Wに加速度センサを設けて車体Bの上下方向速度Bvを求めてもよい。
【0026】
ローパスフィルタ11は、微分器10が出力する伸縮速度dXを濾波して伸縮速度の低周波成分dX_lowを抽出する。ローパスフィルタ11のカットオフ周波数fcutは、ばね下共振周波数をfwとすると、fcut≦fwとなるように設定されている。よって、ローパスフィルタ11は、伸縮速度dXからばね下共振周波数fwを含む高周波成分が除去される。より詳細には、本実施の形態のローパスフィルタ11のカットオフ周波数fcutは、ばね上共振周波数をfbとすると、fb≦fcut≦fwの範囲に収まるように設定されている。したがって、本実施の形態では、ローパスフィルタ11によって抽出した伸縮速度dXの低周波成分dX_lowは、伸縮速度dXからばね上共振周波数fbより高周波側が取り除かれた信号となる。
【0027】
乗算器12は、前述のローパスフィルタ11によって抽出された低周波成分dX_lowに減衰係数Clowを乗じて低周波制御指令Flowを求める。他方、乗算器14は、上下方向速度BvにスカイフックゲインCskyを乗じてスカイフック制御指令Fskyを求める。なお、上下方向加速度αを積分器13で積分すると高周波成分がある程度除去されるので、上下方向速度Bvをフィルタ処理していないが、スカイフック制御指令Fskyを得るために好ましい情報としてはばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvであるため、バンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで上下方向速度Bvを処理してばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvを抽出してからスカイフックゲインCskyを乗じてスカイフック制御指令Fskyを得てもよい。そして、加算器15は、得られた低周波制御指令Flowとスカイフック制御指令Fskyとを加算して路面追従制御指令FCを求める。
【0028】
低周波制御指令Flowは、サスペンション装置Sの伸縮速度の低周波成分dX_lowに減衰係数Clowを乗じて得られる指令であるから、サスペンション装置Sが高周波で伸縮する際に発生する減衰力を小さくするが、サスペンション装置Sが低周波で伸縮する際に発生する減衰力を大きくする指令である。つまり、低周波制御指令Flowは、路面変位の周期が短い場合、サスペンション装置Sを伸縮しやすくさせて路面から入力される振動を車体Bに伝えにくくする。また、低周波制御指令Flowは、路面変位の周期が長い場合、サスペンション装置Sを伸縮しにくくさせて路面と車体Bとの距離を変動しないようにし、車体Bを路面変位に追従させようとする。
【0029】
他方、スカイフック制御指令Fskyは、上下方向速度BvにスカイフックゲインCskyを乗じて得られる指令であるから、車体Bの上下方向速度Bvに比例してサスペンション装置Sが発生する減衰力を大きくさせる指令である。つまり、スカイフック制御指令Fskyは、サスペンション装置Sに車体Bの振動の大きさに比例した減衰力を発揮させて車体Bの振動を抑制させる。
【0030】
そして、路面追従制御指令FCは、低周波制御指令Flowとスカイフック制御指令Fskyを加算して得られる制御指令である。サスペンション制御装置Cが路面追従制御指令FCによってサスペンション装置Sを制御すると、サスペンション装置Sに車体Bを路面変位に追従させつつも車体Bの振動を低減する力を発揮させる。
【0031】
なお、サスペンション制御装置Cが路面追従制御指令FCのみをサスペンション装置Sに与えてサスペンション装置Sを制御(路面追従制御)する際、路面入力から車体Bまでの振動伝達ゲインは、図4に示すように、ばね上共振周波数帯でゲインが0dB近傍となり路面変位に車体Bが追従し、ばね下共振周波数帯ではゲインが下がって車体Bへの振動が絶縁されるような特性となっており、車体Bがばね上共振周波数帯では路面に追従しつつもばね下共振周波数帯の振動が絶縁される。
【0032】
なお、低周波制御指令Flowを求める際の減衰係数Clowとスカイフック制御指令Fskyを求める際のスカイフックゲインCskyとの比によって低周波制御とスカイフック制御の割合を調節でき、減衰係数ClowとスカイフックゲインCskyは車両Vに適するよう設定される。また、低周波制御指令Flowとスカイフック制御指令Fskyとに基づいて路面追従制御指令FCを得て、路面追従制御指令FCによってサスペンション装置Sを制御すると、ばね上共振周波数帯では車体Bが路面に追従しつつ、ばね下共振周波数帯の振動の車体Bへの伝達を抑制できる。
【0033】
振動絶縁制御部U2は、振動絶縁制御指令FIを求める。サスペンション制御装置Cが振動絶縁制御指令FIのみをサスペンション装置Sに与えてサスペンション装置Sを制御する(振動絶縁制御)場合、路面入力から車体Bまでの振動伝達ゲインは、たとえば、図5に示すように、ばね上共振周波数帯でゲインがマイナスの値を採り、その後、ばね下共振周波数帯を超えても下降して、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において路面から車体Bへの振動が絶縁されるような特性となっている。
【0034】
振動絶縁制御指令FIは、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において車体Bへの振動を絶縁できる制御指令となっていればよい。このような特性を得るには、たとえば、図6に示すように、振動絶縁制御部U2は、車体Bの上下方向速度Bvに減衰係数を乗じて第1指令を求める第1指令演算部21と、車輪Wが変位することで懸架ばねSPが車体Bを振動させる力を打ち消す第2指令を車輪Wの変位から求める第2指令演算部22と、これら第1指令および第2指令を加算して振動絶縁制御指令FIを求める加算部23とを備えるものでもよい。
【0035】
車輪Wの変位は、加速度センサGが検出した車体Bの上下方向速度Bvを2階積分して得た車体Bの上下方向の変位にストロークセンサHで検出したサスペンション装置Sの変位Xを加算して得てもよいし、車輪Wの上下方向加速度を加速度センサで検出してこの上下方向加速度を2階積分して得てもよい。なお、第1指令演算部21は、ばね上部材である車体Bの振動を抑制する第一指令を求めるものであるので、上下方向速度Bvをバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvを抽出してから減衰係数を乗じて第一指令を得てもよい。また、第2指令演算部22は、ばね下部材である車輪Wの変位から第2指令を求めるので、車輪Wの変位をバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね下共振周波数帯の変位を抽出してから第2指令を得てもよい。
【0036】
また、振動絶縁制御部U2は、たとえば、図7に示すように、車体Bの上下方向速度Bvに減衰係数を乗じて第3指令を求める第3指令演算部24と、車輪Wの上下方向速度に減衰係数を乗じて第4指令を求める第4指令演算部25と、これら第3指令および第4指令を加算して振動絶縁制御指令FIを求める加算部26とを備えるものでもよい。なお、第3指令演算部24は、ばね上部材である車体Bの振動を抑制する第3指令を求めるものであるので、上下方向速度Bvをバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvを抽出してから減衰係数を乗じて第3指令を得てもよい。また、第4指令演算部25は、ばね下部材である車輪Wの上下方向速度から第4指令を求めるので、車輪Wの上下方向速度をバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね下共振周波数帯の上下方向速度を抽出してから減衰係数を乗じて第4指令を得てもよい。
【0037】
サスペンション制御装置Cが振動絶縁制御指令FIのみをサスペンション装置Sへ与える場合、車輪W側からの振動に対してはサスペンション装置Sを伸縮しやすくして車体Bの上下方向の変動を抑制して車体Bを路面の変位によらず一定の高さに保とうとする。よって、路面性状が凹凸の少ない良好な路面である場合、サスペンション制御装置Cが振動絶縁制御を行うと、車体Bの高さが変化しないようようにする制御が実行されるので車両Vにおける乗心地が向上する。ところが、サスペンション制御装置Cが振動絶縁制御のみを実行する場合、高速走行時に車輪Wが凹凸を乗り越える場合や坂道突入時では車体Bの高さを変化させないようにしてサスペンション装置Sのストローク量が大きくなる傾向を示す。これに対して、サスペンション制御装置Cが路面追従制御指令FCのみをサスペンション装置Sへ与える場合、高周波振動の入力に対しては振動を車体Bに伝達しにくくしつつも、サスペンション装置Sを伸縮しにくくさせて路面と車体Bとの距離を変動しないようにし、車体Bを路面変位に追従させようとする。よって、サスペンション装置Sが路面追従制御を実行する場合、高速走行時に車輪Wが凹凸を乗り越える場合や坂道突入時ではサスペンション装置Sを伸縮させにくくしてストローク量が大きくなるのを抑制でき、振動を緩和できる。このように、高速走行時に車輪Wが凹凸を乗り越える場合や坂道突入時では、サスペンション制御装置Cは、路面追従制御を実行すると車両Vにおける乗心地を向上させ得る。
【0038】
つづいて、切換部U3は、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を求める。サスペンション装置Sがフルストロークして伸び切り或いは縮み切りとなるような状況でない場合、つまり、サスペンション装置Sのストローク量が小さくフルストロークする恐れがない場合、路面からの振動の伝達を絶縁して車体Bの振動を抑制する方が車両Vにおける乗心地を良好に保つことができる。一方、車両Vが高速走行時に凹凸を乗り越える場合は坂道に差し掛かる状況となると、振動絶縁制御指令FIのみでサスペンション装置Sを制御すると次第にサスペンション装置Sのストローク量が大きくなってサスペンション装置Sが伸び切り或いは縮み切りとなって車両Vにおける乗心地が悪化する恐れがあるので路面追従制御指令FCの配分を増やしてサスペンション装置Sの伸び切りや縮み切りを未然に防いで車両Vにおける乗心地の悪化を抑制する方がよい。よって、本実施の形態のサスペンション制御装置Cでは、切換部U3は、サスペンション装置Sのストローク量を推定する指標を求めて、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を求めている。
【0039】
具体的には、切換部U3は、図8に示すように、4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrが走行する路面を予測する予測部31と、プレビューセンサPが検出した路面変位のうち予測部31によって各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrが走行すると予測された路面変位Zを移動平均した値を距離で2階微分して路面変位の距離に対する変化率の変化率である路面指標RIを求める指標演算部32と、路面指標RIを車両Vの走行速度で割って路面指標RIを時間単位に変換する変換部33と、変換部33によって時間単位に変換された路面指標RIに車両Vの走行速度を乗じてサスペンション振動推定値SVを求めるサスペンション振動推定部34と、サスペンション振動推定値SVの大きさを求めるレベル演算部35と、レベル演算部35が求めたサスペンション振動推定値SVの大きさに基づいて4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎の路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分である選択前配分を求める配分算出部36と、配分算出部36が求めた4つの選択前配分から路面追従制御指令FCの割合が最大となる選択前配分を選択する選択部37と、選択部37が選択した配分を車両Vの走行速度に応じてカットオフ周波数が変化するローパスフィルタによって処理して4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおける最終的な配分を求める最終配分演算部38とを備えている。
【0040】
プレビューセンサPは、車両Vのイグニッションキーがオンされると、常時、所定のサンプリングレートで車両Vから所定距離Lだけ離れた位置における路面変位Zを検出する。なお、プレビューセンサPは、車両Vの走行時のみ路面変位Zを検出するようにされてもよい。プレビューセンサPが検出した路面変位は、車両Vを基準して車両Vの前後方向の位置、左右方向の位置に関連付けれてサスペンション制御装置Cを構成するハードウェアにおける記憶装置に一時的に保存され更新される。よって、たとえば、図9に示すように、車両Vの前方の距離Lから車両Vまでの間の図9中で黒点で示す位置における路面変位Zは、プレビューセンサPによって検出されて既知となっている。そして、路面変位Zは、車両Vの前後方向の座標と、左右方向の座標と組みとされて記憶装置に保存される。なお、プレビューセンサPは、車両Vの前方から所定距離Lだけ離れた位置における車両Vの左右方向の路面変位Zも検出可能となっているが、所定距離Lを中心として前後左右に検出可能な範囲を持つセンサとされてもよい。なお、路面変位のデータは、車両Vが該当路面を走行した後は不要となるので、不要となった路面変位Zのデータを新しい路面変位Zのデータで更新するようにして、順次、車両Vがこれらか走行する路面変位Zのデータを一時保存できる程度の記憶容量が前記記憶装置内に確保されればよい。プレビューセンサPの検出によって、車両Vの前方であって前後および左右に範囲を持った路面変位のデータが蓄積される。
【0041】
予測部31は、プレビューセンサPで検出した路面変位のうち、車両Vの各輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrがこれから走行する路面の車両Vを基準とした前後方向および左右方向の座標を予測する。具体的には、車両Vが旋回中は、走行速度と操舵角に応じて車両Vの旋回軌跡が変化するため、予測部31は、車両Vから走行速度と操舵角の情報を得て車両Vがこれから走行する路面の前後方向および左右方向の座標を予測する。走行速度と操舵角と車両Vにおける各輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrの走行軌跡とは相関関係があるので、たとえば、予測部31は、予め把握した前記相関関係に基づいて走行速度と操舵角とから走行軌跡上にある路面座標を抽出すればよい。なお、車両Vは、自身が搭載するセンサが車両Vの走行速度およびハンドルの操舵角を検出してCANバスを通じて車両VのECUへ送信しているため、本実施の形態のサスペンション制御装置Cは、CANバスから予測部31で必要とする情報を得るようにしているが、別途、走行速度を検出する車速センサおよび操舵角を検出する舵角センサを備えていてもよい。
また、予測部31は、操舵角に代えて車両Vのヨーレートを用いて路面の前記座標を予測してもよい。予測部31は、車両Vの走行状況に応じて、サスペンション制御装置Cの制御周期毎に、順次、各輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrが走行する路面座標を予測する。車両Vが走行中では車両Vが前進するので、予測部31は、前回の制御周期で予測部31が予測した路面座標から少し前方の路面座標を予測することになる。
【0042】
つづいて、指標演算部32は、路面変位Zのうち予測部31によって各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrが走行すると予測された路面変位Zを移動平均した値を距離で2階微分して路面変位Zの距離に対する変化率の変化率である路面指標RIを求める。前方左側の車輪Wflが走行する路面の路面座標について路面指標RIを求める場合、指標演算部32は、まず、予測部31によって車輪Wflが走行すると予測された路面座標における所定数N個の路面変位Zの移動平均の値を求める。具体的には、指標演算部32は、車輪Wflが走行する軌跡上の路面座標の路面変位Zのうち、車両Vから所定距離だけ離間した路面変位Zを起点にして、車両V側へ遡って或いは車両Vの前方へ向かって所定数N個の路面変位Zを抽出して、これらN個の路面変位Zを加算して、加算した値をNで除して移動平均の値を求める。なお、指標演算部32は、移動平均の値を求める際に、車輪Wflが走行する軌跡上の路面座標の路面変位Zのうち、プレビューセンサPが検出した最新の路面変位Zを先頭にして、車両V側へ遡って所定数N個の路面変位Zを抽出するようにしてもよいし、所定距離は任意に変更可能であるし、車両Vの走行速度に応じて可変であってもよい。このように、指標演算部32が路面変位Zの移動平均を求めると、車両Vが走行中は車両Vの前進に伴って、所定数Nに属する路面も更新されて入れ替わって路面の性状によって値が変化する。なお、所定数Nの値は、プレビューセンサPによって検知された車輪Wflが走行すると予測された路面変位Zの路面座標の個数以下であれば、任意に設定できる。
【0043】
そして、指標演算部32は、前述のようにして求めた移動平均の値を距離で2階微分して車輪Wflの走行する路面の路面指標RIを求める。なお、路面指標RIは、各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に求められる。
【0044】
指標演算部32が路面変位Zの移動平均を求めると、移動平均の値は路面変位Zの急変やノイズの影響を緩和して平均化した値となる。よって、指標演算部32が路面変位Zの移動平均を求めることにより、サスペンション装置Sのストローク量が大きくなるような大きな凹凸や坂道の起点が車両Vがこれから走行する路面に存在しているか正確に把握できるようになる。
【0045】
また、指標演算部32は、移動平均の値を距離で2階微分することによって、車両Vの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの現在地から所定距離Lに車両Vの先端から各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrまでの距離をそれぞれ加算した距離だけ離れた位置の路面変位Zの移動平均の変化率の変化率が求められる。そして、この路面変位Zの移動平均の変化率の変化率は路面指標RIとされる。
【0046】
路面指標RIは、路面変位Zの変化率の変化率であるから、路面変位Zが上昇或いは下降する大きな凹凸や坂道の起点で路面指標RIの絶対値が大きくなる傾向を示す。対して、路面変位Zの移動平均を1階微分して得た値は、車両Vが坂道を継続的に走行する際に常に大きな値となってしまう。サスペンション装置Sのストローク量は、車両Vが坂道を継続的に走行する場合にはさほど大きくならず、車両Vが坂道に突入する場合にサスペンション装置Sのストローク量が大きくなる。路面指標RIは、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとを切換る配分を求める指標であり、サスペンション装置Sのストローク量が大きくなる状況では路面追従制御指令FCを採用したいので、サスペンション装置Sのストローク量を正確に判断可能な指標であることが好ましい。前記移動平均の値や移動平均の1階微分して得た値を路面指標RIとして採用しても、大きな凹凸や坂道の起点を把握可能であるので、これらを路面指標RIとして採用してもよいが、移動平均を2階微分して得た値は、大きな凹凸や坂道の起点でより大きくなる傾向を示すので、前記配分を求めるための路面指標RIとして最適となる。なお、移動平均に必要なサンプル数、つまり、Nの数は任意に設定できるが、車両Vの前後方向の分解能が荒い場合は、Nの数を極小さくしてもよい。
【0047】
また、本実施の形態では、指標演算部32は、路面変位Zの移動平均の値を距離で2階微分して路面指標RIを求めているが、路面変位Zを距離で2階微分して、路面変位Zを距離で2階微分した値の移動平均値を求め、当該移動平均値を路面指標RIとしてもよい。また、指標演算部32は、路面変位Zの移動平均を求めることに代えて、路面指標Zをローパスフィルタで処理して得た値を2階微分して路面指標RIを得てもよいし、路面指標Zを2階微分してからローパスフィルタで処理して路面指標RIを得てもよい。路面変位Zをローパスフィルタ処理することで、路面変位Zの急変やノイズの影響を緩和した値が得られるので、移動平均を行って路面指標RIを得た場合と同等の路面指標RIを求めることができる。
【0048】
指標演算部32によって路面指標RIが求まると、変換部33は、路面指標RIを車両Vの走行速度で割って路面指標RIを時間単位に変換する。路面指標RIは、路面変位Zを距離で微分した値であるから、車両Vの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの現在地から所定距離Lに車両Vの先端から4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrまでの距離をそれぞれ加算した距離だけ離れた位置の路面変位Zの移動平均の変化率の変化率である。ある制御周期において車輪Wが路面指標RIが得られた路面を走行するタイミングとなった際に、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を当該路面指標RIから後述する処理で求めた配分として制御すればよいのであるが、路面指標RIが求められるタイミングは車輪Wが当該路面指標RIに対応する路面座標を走行する時点よりも過去になる。路面指標RIを距離を基準として取り扱うよりも時間を基準として取り扱う方が容易となるため、本実施の形態のサスペンション制御装置Cでは、変換部33は、路面指標RIを走行速度で除して4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に求められた路面指標RIの単位を時間単位に変換している。
【0049】
サスペンション振動推定部34は、変換部33によって時間単位に変換された4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に求められた路面指標RIに車両Vの走行速度を乗じて4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎にサスペンション振動推定値SVを求める。路面指標RIは路面変位Zの変化率の変化率であるから、サスペンション振動推定部34を省略して路面指標RIをそのまま利用して配分を求めてよいが、サスペンション装置Sのストローク量は車両Vの走行速度が高ければ高いほど路面からの入力によって大きくなる傾向を示す。そのため、路面指標RIに車両速度を乗じたサスペンション振動推定値SVは、路面指標RIよりもサスペンション装置Sのストロークの大きさを把握するのに最適な値となる。
【0050】
サスペンション振動推定値SVは、そのままでは、路面変位Zが減少する場面、つまり、路面の高さが低くなる場面では負の値を示す。また、サスペンション振動推定値SVの波高値が高くなる場面では、高速走行中に路面の凹凸を乗り越える場合や坂道の起点である可能性が高く、サスペンション装置Sのストローク量も大きくなる。サスペンション振動推定値SVが大きな振幅で変動している最中にはサスペンション振動推定値SVが小さくなる場面があるが、その場合でもサスペンション装置Sのストローク量は大きくなる。よって、より正確にサスペンション装置Sのストローク量を把握するには、サスペンション振動推定値SVの振幅の大きさであるレベルを求めればよい。そこで、レベル演算部35は、4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に求められた4つのサスペンション振動推定値SVのレベルをそれぞれ求める。
【0051】
レベル演算部35は、具体的には、サスペンション振動推定部34が求めたサスペンション振動推定値SVの信号をオリジナル信号として、このオリジナル信号に対してゲインを変えずに位相のみ異なる信号を複数生成し、オリジナル信号と複数の位相の異なる信号の最大の値をサスペンション振動推定値SVのレベル値とする。オリジナル信号に対して位相が所定角度ずつずれた信号を複数生成して、これらの信号から最大値を選べば、この最大値がオリジナル信号の波高値に近似した値となるので、レベル値をタイムリーに求めることができる。なお、レベル演算部35は、この他にも、ピークホールドやヒルベルト変換といった処理によって信号のサスペンション振動推定値SVの包絡線を算出してレベルを求めてもよいし、サスペンション振動推定値SVとサスペンション振動推定値SVの微分値或いは積分値の合成ベクトルの長さをレベルとして求めてもよい。
【0052】
配分算出部36は、レベル演算部35が求めたサスペンション振動推定値SVのレベルに基づいて4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎の路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分である選択前配分を求める。サスペンション振動推定値SVのレベルは、サスペンション装置Sのストローク量の大きさを示す指標であり、前述したように、サスペンション装置Sのストローク量が大きい場合には路面追従制御指令FCの割合を多くする方が車両Vにおける乗心地が良くなり、サスペンション装置Sのストローク量が小さい場合には振動絶縁制御指令FIの割合を多くする方が車両Vにおける乗心地が良くなる。
【0053】
そこで、配分算出部36は、サスペンション振動推定値SVのレベルに設定される上限閾値t1と下限閾値t2とを用いて選択前配分を求める。そして、配分算出部36は、図10に示すように、サスペンション振動推定値SVのレベルが上限閾値t1を超えるとになると路面追従制御指令FCの配分を100%とするとともに振動絶縁制御指令FIの選択前配分を0%とし、サスペンション振動推定値SVのレベルが下限閾値t2以下になると路面追従制御指令FCの配分を0%とするとともに振動絶縁制御指令FIの選択前配分を100%とし、サスペンション振動推定値SVのレベルが下限閾値t2以上であって上限閾値t1以下である場合、レベルの値に比例して路面追従制御指令FCの選択前配分を大きくする。なお、上限閾値t1と下限閾値t2は、サスペンション振動推定値SVのレベルとサスペンション装置Sの実際のストローク量との関係性から決定されればよく、上限閾値t1については少なくともサスペンション装置Sがフルストロークすると考えられるレベルの値よりも小さな値に設定される。
【0054】
選択前配分は、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとに乗じるゲインとして捉えることができるので、配分算出部36は、具体的には、路面追従制御指令FCに乗じるべきゲインK1として、サスペンション振動推定値SVのレベルの値からゲインK1を求める。ただし、K1は0以上1以下の値となる。
【0055】
なお、配分算出部36は、レベル演算部35が求めたサスペンション振動推定値SVのレベルに基づいて選択前配分を求めているが、路面指標RI或いは路面指標RIの振幅の大きさであるレベルに基づいて選択前配分を求めてもよい。
【0056】
選択部37は、配分算出部36が求めた4つ車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの選択前配分から路面追従制御指令FCの割合が最大となる選択前配分を選択する。つまり、選択部37は、4つの選択前配分のゲインK1のうちから最大のゲインK1を制御に用いる配分として選択する。このように選択部37が4つの選択前配分から1つの配分を選択するようにしているので、4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制御において路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分が異なる制御がばらばらに行われるのを防止できる。
【0057】
最終配分演算部38は、本実施の形態のサスペンション制御装置Cでは、車両Vの走行速度に応じてカットオフ周波数が変化するローパスフィルタで構成されており、選択部37が選択した配分をローパスフィルタ処理して4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおける最終的な配分を求める。車両Vの走行速度が速くなればなるほど、路面指標RIが求められた路面を車輪Wが走行する時間が短くなる。ローパスフィルタによって遅延が生じるのは、阻止帯域となるので、走行速度が高くなればなるほど通過帯域と阻止帯域とを区切るカットオフ周波数を高くすれば、ローパスフィルタで処理した配分の遅延時間が短くなる。よって、たとえば、カットオフ周波数をf2cutとし、最小のカットオフ周波数をf2cut_lowとし、走行速度をVvとすると、f2cut=f2cut_low+m・Vv(mは任意の係数)を演算して、ローパスフィルタのカットオフ周波数fcutを走行速度Vvに応じて変更すればよい。なお、前述したカットオフ周波数fcutを走行速度Vvから求める演算式は一例であって、サスペンション制御装置Cに最適となるように演算式を変更できる。
【0058】
また、最終配分演算部38は、選択部37が選択した配分をローパスフィルタ処理するので、配分の急激な変化を緩和できる。なお、配分の急激な変化の恐れがない場合には、最終配分演算部38は、路面指標RIが求められた路面を車輪Wが走行する時間だけ遅延させて最終的な配分を求めてもよい。切換部U3は、所定の制御周期毎に最終的な配分を求めるが、求めた最終的な配分を記憶装置に一時保存しておき、車両速度に応じて路面指標RIを求められた路面を車輪Wが走行する時間が経過したタイミングで一時保存した前記最終的な配分を今回の制御で使用する最終的な配分として採用すればよい。
【0059】
以上より、切換部U3は、サスペンション装置Sのストローク量を示す指標が大きくなると路面追従制御指令FCの配分を大きくし、サスペンション装置Sのストローク量を示す指標が小さくなると路面追従制御指令FCの配分を小さくする。
【0060】
最終指令演算部U4は、図11に示すように、切換部U3が求めた路面追従制御指令FCの配分を示すゲインK1から振動絶縁制御指令FIに乗じるべきゲインK2をK2=1-K1を演算して求める演算部41と、切換部U3が求めた路面追従制御指令FCの配分を示すゲインK1と路面追従制御指令FCとを乗じる乗算部42と、演算部41が求めたゲインK2と振動絶縁制御指令FIとを乗じる乗算部43と、乗算部42と乗算部43が出力した値を加算して最終制御指令F_refを求める加算部44とを備えている。
【0061】
よって、最終指令演算部U4は、ゲインK1が0を超えて1未満の値である場合には、ゲインK1の値が大きくなればなるほど振動絶縁制御指令FIよりも路面追従制御指令FCの配分を大きくし、ゲインK1の値が小さくなればなるほど路面追従制御指令FCよりも振動絶縁制御指令FIの配分を大きくする。また、最終指令演算部U4は、ゲインK1の値が1である場合、振動絶縁制御指令FIの配分を0とし、路面追従制御指令FCをそのまま最終制御指令F_refとする。他方、最終指令演算部U4は、ゲインK1の値が0である場合、路面追従制御指令FCの配分を0とし、振動絶縁制御指令FIをそのまま最終制御指令F_refとする。
【0062】
以上より、最終指令演算部U4は、サスペンション装置Sのストローク量が小さいと推定される場合には振動絶縁制御指令FIの配分を増やして路面追従制御指令FCに対して振動絶縁制御指令FIを優先するような最終制御指令F_refを求める。また、最終指令演算部U4はサスペンション装置Sのストローク量が大きいと推定される場合には、路面追従制御指令FCの割合を増やして振動絶縁制御指令FIに対して路面追従制御指令FCを優先するような最終制御指令F_refを求める。この最終制御指令F_refは、サスペンション装置Sが出力すべき推力の大きさと向きを指示する指令となっており、サスペンション装置Sに入力される。
【0063】
このように、本実施の形態におけるサスペンション制御装置Cは、車体Bの上下方向加速度αとサスペンション装置Sの変位Xとに基づいて最終制御指令F_refを求めてサスペンション装置Sの図外のドライバへ最終制御指令F_refを入力する。サスペンション装置Sは、最終制御指令F_refが指示する推力を発揮する。
【0064】
そして、サスペンション制御装置Cは、図12に示すように、車両Vが走行中、加速度センサGで車体Bの上下方向加速度αを検出するとともに、ストロークセンサHでサスペンション装置Sの変位Xを検出する(ステップF1)。つづいて、サスペンション制御装置Cは、上下方向加速度αと変位Xに基づいて路面追従制御指令FCを求めて(ステップF2)、さらに、上下方向加速度αと変位Xとに基づいて振動絶縁制御指令FIを求める(ステップF3)。また、サスペンション制御装置Cは、プレビューセンサPが検出する路面変位Zに基づいて配分(ゲインK1,K2)を求めて(ステップF4)、路面追従制御指令FC、振動絶縁制御指令FIおよび配分(ゲインK1)に基づいて最終制御指令F_refを求める(ステップF5)。そして、サスペンション制御装置Cは、最終制御指令F_refをサスペンション装置Sへ与えてサスペンション装置Sを制御する(ステップF6)。サスペンション制御装置Cは、繰り返してステップF1からステップF6までの処理を行って4つのサスペンション装置Sfl,Slr,Srl,Srrを制御する。
【0065】
なお、サスペンション制御装置Cは、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度センサG、ストロークセンサHおよびプレビューセンサPが出力する信号を取り込むためのインターフェースと、上下方向加速度αおよび変位Xを取り込んでサスペンション装置Sを制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、制御演算装置Uにおける各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。また、制御演算装置Uは、CPUの前記プログラムの実行による実現にかえて、アナログの電子回路によって実現されてもよい。
【0066】
サスペンション制御装置Cは、以上のように構成されており、以下のように動作する。凹凸がないか或いは凹凸があっても小さな凹凸しかない路面(良路)を車両Vが走行する場合、ばね下部材である車輪Wの上下方向の振動は穏やかであり、ばね上部材である車体Bも振動しない。この状況では、路面指標RIの値は小さくなり、サスペンション振動推定値SVも小さな値を採るので、配分を示すゲインK1は0或いは0近傍の値をとり、ゲインK2は1或いは1近傍の値を採る。ゲインK1が0或いは0近傍の値をとる場合、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合が0%或いは0%に近くなるので、サスペンション制御装置Cは、振動絶縁制御指令FIの配分が高い最終制御指令F_refでサスペンション装置Sを制御することになる。よって、車両Vが平坦或いは凹凸の少ない路面を走行する場合、最終制御指令F_ref中で振動絶縁制御指令FIが支配的となって、サスペンション装置Sは、路面からの振動を絶縁するように減衰力を発揮して車両における乗心地を良好に維持する。
【0067】
他方、車両Vが良路から凹凸のある荒れた路面(悪路)に突入すると、車輪Wが短周期で小さな振幅で上下動するようになる。この状況でも、路面指標RIの値は小さくなり、サスペンション振動推定値SVも小さな値を採るので、配分を示すゲインK1は0或いは0近傍の値をとり、ゲインK2は1或いは1近傍の値を採る。ゲインK1が0或いは0近傍の値をとる場合、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合が0%或いは0%に近くなるので、サスペンション制御装置Cは、振動絶縁制御指令FIの配分が高い最終制御指令F_refでサスペンション装置Sを制御することになる。よって、車両Vが凹凸のある荒れた路面を走行する場合、最終制御指令F_ref中で振動絶縁制御指令FIが支配的となって、サスペンション装置Sは、路面からの振動を絶縁するように減衰力を発揮して車両における乗心地を良好に維持する。
【0068】
また、車両Vが高速走行中に凹凸を乗り越える場合や坂道に突入する場合では、サスペンション制御装置Cは、それまで振動絶縁制御指令FIが支配的な最終制御指令F_refによってサスペンション装置Sを制御しているため、そのまま、振動絶縁制御指令FIが支配的な最終制御指令F_refによってサスペンション装置Sを制御し続けると、サスペンション装置Sのストローク量が大きくなってサスペンション装置Sの伸び切り或いは縮み切りが生じて車両Vにおける乗心地を悪化させる可能性がある。このような場合、車両Vにおける車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrがこれから走行する路面におけるサスペンション振動推定値SVのレベルが大きくなるので、サスペンション制御装置Cは、サスペンション装置Sのストローク量が大きくなることを前もって把握できる。そして、サスペンション制御装置Cは、車両Vにおける車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrがサスペンション装置Sのストローク量を大きくする路面を走行する時には、配分を示すゲインK1を1或いは1近傍の値とし、ゲインK2を0或いは0近傍の値をとして、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合が100%或いは100%に近くにする。よって、このような状況では、サスペンション制御装置Cは、路面追従制御指令FCの配分が高い最終制御指令F_refでサスペンション装置Sを制御することになる。よって、車両Vが高速走行中に凹凸を乗り越える場合や坂道に突入する場合、最終制御指令F_ref中で路面追従制御指令FCが支配的となって、サスペンション装置Sの減衰力を高めてサスペンション装置Sを伸縮させ難くして、サスペンション装置Sの伸び切りや縮み切りを防いで車両における乗心地を良好に維持する。
【0069】
また、選択された配分であるゲインK1は、サスペンション振動推定値SVのレベルに比例的に変化するので、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分の変化がサスペンション振動推定値SVのレベルに応じて徐々に変化するため、路面追従制御指令FCによる制御と振動絶縁制御指令FIによる制御とが切り換わる際に、いずれか一方がフェードアウトしつつ他方がフェードインして最終制御指令F_refが生成される。よって、最終制御指令F_refの値は急変することがなくシームレスに路面追従制御から振動絶縁制御或いは路面絶縁制御から路面追従制御へ切り替わる。また、最終配分演算部38は、選択された配分であるゲインK1をローパスフィルタ処理するので、ゲインK1の急変が緩和されるので、より一層、最終制御指令F_refの値の急変が緩和される。
【0070】
以上、本発明のサスペンション制御装置Cは、車両Vにおける車体Bと車輪Wとの間に介装されて、車体Bへ上下方向の力を与えて車体Bの振動を抑制可能なサスペンション装置Sを制御するものであって、ばね上共振周波数帯において車体Bを路面に追従させる路面追従制御指令FCを求める路面追従制御部U1と、ばね下共振周波数帯において路面からの振動を車体Bへ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令FIを求める振動絶縁制御部U2と、車両Vの進行方向の前方の路面変位を検出するプレビューセンサPで検出した路面変位Zに基づいて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を求める切換部U3と、配分と路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIからサスペンション装置Sを制御するための最終制御指令F_refを求める最終指令演算部U4とを備えている。
【0071】
このように構成されたサスペンション制御装置Cでは、プレビューセンサPで検出した路面変位Zに基づいて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を調節して最終制御指令F_refを求めるため、振動絶縁制御のみではサスペンション装置Sのストローク量が大きくなり車両Vにおける乗心地が悪化すると予測される路面を予見して路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとを切り換えて車両における乗心地を向上できる。
【0072】
本実施の形態のサスペンション制御装置Cでは、路面追従制御指令FCの配分を多くすると、ばね上共振周波数帯において車体Bが路面の変位に追従させるべくサスペンション装置Sが発揮する力を大きくしてサスペンション装置Sを伸縮し難くする。サスペンション制御装置C、車両Vの高速走行時に車輪Wが路面の凹凸を乗り越える場合や坂道突入時では、路面追従制御を行ってサスペンション装置Sの伸び切りや縮み切りを抑制して車両Vにおける乗心地を良好に保てる。他方、本実施の形態のサスペンション制御装置Cでは、振動絶縁制御指令FIの配分を多くすると、ばね下共振周波数帯において路面からの振動を車体Bへ伝達しにくくして車体Bの高さを変化させない制御が行われる。よって、サスペンション制御装置Cは、車両Vが良好な路面を走行する場合には、車体Bの振動を抑制して車両Vにおける乗心地を良好に保てる。
【0073】
よって、本実施の形態のサスペンション制御装置Cによれば、路面状況に応じて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとを使い分けて、車両Vが走行する路面性状によらず車両における乗心地を向上できる。
【0074】
また、本実施の形態のサスペンション制御装置Cでは、路面追従制御指令FCを求めるに際して、サスペンション装置Sのばね下共振周波数よりも低周波数の振動に対してはサスペンション装置Sが発揮する力を大きくしてサスペンション装置Sを伸縮し難くする低周波制御指令Flowと、車体Bの振動を抑制するスカイフック制御指令Fskyとに基づいて路面追従制御指令FCを求めるので、サスペンション装置Sに車体Bを路面変位に追従させつつも車体Bの振動を低減する推力を発揮させる。よって、本発明のサスペンション制御装置Cによれば、路面追従制御指令FCにおける配分を多くする場合、高速走行時に凹凸を乗り越える場面や坂道突入時において、サスペンション装置Sが車体Bを路面に追従させるように制御されて伸縮しにくくなり、アクチュエータAがフルストロークするのを防止できるだけでなく、車輪Wの振動の車体Bへの伝達を妨げて車両Vにおける乗心地をより一層向上できる。
【0075】
また、サスペンション制御装置Cは、サスペンション装置Sの伸縮速度dXを処理して低周波成分を得るローパスフィルタ11を有し、ローパスフィルタ11のカットオフ周波数fcutがばね上共振周波数fb以上であってばね下共振周波数fw以下に設定されている。よって、ローパスフィルタ11で処理された、伸縮速度dXの低周波成分dX_lowは、伸縮速度dXからばね上共振周波数fbより高周波側が取り除かれた信号となる。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、前述のように設定されたローパスフィルタ11で処理した伸縮速度dXに基づいて低周波制御指令Flowを求めるので、サスペンション装置Sのばね上共振周波数帯の振動に対してはサスペンション装置Sの推力を高める一方でばね下共振周波数帯の振動に対してはサスペンション装置Sの推力を小さくして車体Bの路面追従性を高めつつばね下共振周波数帯の振動については車体Bへ振動の伝達を抑制できる。よって、このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、車体Bの路面追従性の向上と車体Bのばね下共振周波数帯の振動の抑制とを両立できる。
【0076】
また、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、車輪Wが走行する路面における路面変位Zを距離で2階微分して路面指標RIを求め、路面指標RIに基づいて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を求めるようにしている。路面変位Zの変化率の変化率である路面指標RIが路面変位Zの上昇或いは下降する大きな凹凸や坂道の起点で大きくなり、路面指標RIを参照すればサスペンション装置Sのストローク量が大きくなる凹凸や坂道の起点の把握が容易となる。よって、このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、大きな凹凸や坂道の起点を容易且つ正確に予測できるようになり、サスペンション装置Sのストローク量が大きくなる凹凸や坂道の起点といった路面を事前に予見して路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を最適化して、車両Vにおける乗心地をより一層向上できる。
【0077】
また、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、車輪Wが走行する路面における路面変位Zの移動平均或いは車輪Wが走行する路面における路面変位Zをローパスフィルタ処理して路面指標RIを求めるようにしている。路面変位Zの移動平均或いは路面変位Zをローパスフィルタ処理すると、路面変位Zに含まれるノイズを除去できるとともに路面変位Zの急変を緩和でき、ストローク量が大きくならないような細かな路面変化に対しては路面指標RIが大きな値を採ることが無くなるので、このようにして求めた路面指標RIを参照すればサスペンション装置Sのストローク量が大きくなる凹凸や坂道の起点の把握をより正確に行える。よって、このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、大きな凹凸や坂道の起点を容易且つ正確に予測できるようになり、サスペンション装置Sのストローク量が大きくなる凹凸や坂道の起点といった路面を事前に予見して路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を最適化して、車両Vにおける乗心地をより一層向上できる。
【0078】
さらに、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、路面指標RIに車両Vの走行速度Vvを乗じてサスペンション振動推定値SVを求め、サスペンション振動推定値SVに基づいて配分を求めるようにしている。サスペンション装置Sのストローク量は車両Vの走行速度Vvが高ければ高いほど大きくなる傾向となり、サスペンション振動推定値SVは、大きな凹凸や坂道の起点で大きな値を採る路面指標RIに走行速度Vvを乗じて求められるのでサスペンション装置Sのストローク量の大きさを把握するのに最適な指標となる。よって、このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、車両Vの走行速度Vvに応じてサスペンション装置Sのストローク量が大きくなる路面をより正確に予見して路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を最適化できるので、車両Vにおける乗心地をより一層向上できる。
【0079】
また、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、サスペンション振動推定値SVの振幅の大きさであるレベルに基づいて配分を求めるようにしている。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、サスペンション振動推定値SVのレベルを用いるので、サスペンション装置Sのストロークの大きさを正確に把握でき、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を最適化して、車両Vが走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。また、サスペンション振動推定値SVが大きな振幅で振動するような場合であっても、レベルが高いままとなるので配分が振動的になって路面追従制御と振動絶縁制御とが頻繁に切り変わってしまうハンチングを防止できる。
【0080】
さらに、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、車体Bの前後左右の4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおけるそれぞれの配分を求めて選択前配分とし、4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおける路面追従制御指令FCの割合が最大となる選択前配分に基づいて配分を求めるようにしている。このように構成されたサスペンション制御装置Cは、4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrについて求められた選択前配分のうちから路面追従制御指令FCの割合が最大となる選択前配分に基づいて配分を求めるので、4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのサスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrの制御における路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分がばらばらにならない。よって、本実施の形態のサスペンション制御装置Cによれば、サスペンション装置Sfl,Sfr,Srl,Srrにおける路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分が統一されるので、車体Bの姿勢を安定させ得る。
【0081】
また、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、配分を車両Vの走行速度Vvに応じてカットオフ周波数が変化するローパスフィルタによって処理し、4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおける最終的な前記配分を求めるようにしている。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、走行速度Vvに応じて、ある路面の走行に適した路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を実際に4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrが当該路面を走行する際に適用できるので、走行速度Vvによらず最適なタイミングで最適な配分で制御を実行できる。
【0082】
さらに、本実施の形態のサスペンション制御装置Cにおける切換部U3は、車両Vの操舵角に基づいて車輪Wが走行する路面を予測し、予測した路面における路面変位Zに基づいて配分を求めるようにしている。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、操舵角から車両Vにおける車輪Wがこれから走行する路面を予測するので、車両Vの進路に応じてサスペンション装置Sのストローク量が大きくなる路面をより正確に予見でき、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を最適化して、車両Vにおける乗心地をより一層向上できる。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
B・・・車体、C・・・サスペンション制御装置、U1・・・路面追従制御部、U2・・・振動絶縁制御部、U3・・・切換部、U4・・・最終指令演算部、P・・・プレビューセンサ、RI・・・路面指標、S,Sfl,Sfr,Srl,Srr・・・サスペンション装置、SV・・・サスペンション振動推定値、V・・・車両、W,Wfl,Wfr,Wrl,Wrr・・・車輪、Z・・・路面変位
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