(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150086
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】膜厚推定装置及びフィルム成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20231005BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/10 20190101ALI20231005BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/32
B29C48/10
B29C55/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058990
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】八若 佐知
【テーマコード(参考)】
4F207
4F210
【Fターム(参考)】
4F207AG08
4F207AM23
4F207AP06
4F207AP11
4F207AQ01
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KA19
4F207KL76
4F207KM06
4F207KM15
4F207KM16
4F210AG01
4F210AP11
4F210AR12
4F210QC07
4F210QG04
4F210QG18
4F210QK05
(57)【要約】
【課題】フィルムの膜厚を把握するための技術を提供する。
【解決手段】フィルム成形装置に用いられる膜厚推定装置であって、フィルム成形装置10は、ダイ14から流れ方向に送られるフィルム12のフロストライン位置を計測する第1計測器50を備え、膜厚推定装置は、第1計測器50により計測されるフロストライン位置に基づいて、フィルム12の膜厚を推定する膜厚推定部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム成形装置に用いられる膜厚推定装置であって、
前記フィルム成形装置は、ダイから流れ方向に送られるフィルムのフロストライン位置を計測する第1計測器を備え、
前記膜厚推定装置は、前記第1計測器により計測される前記フロストライン位置に基づいて、前記フィルムの膜厚を推定する膜厚推定部を備える膜厚推定装置。
【請求項2】
前記フィルムのフロストライン位置と膜厚との相関関係を示す相関関係情報を記憶する相関関係記憶部を備え、
前記膜厚推定部は、前記相関関係記憶部に記憶された前記相関関係情報と前記第1計測器により計測されるフロストライン位置とに基づいて、前記膜厚を推定する請求項1に記載の膜厚推定装置。
【請求項3】
前記フィルム成形装置は、前記フィルムの横断方向に計測位置を変更しながら前記フィルムの膜厚を逐次計測する第2計測器を備え、
前記膜厚推定装置は、前記第1計測器により計測されたフロストライン位置と前記第2計測器により計測された膜厚とに基づいて、前記相関関係情報を推定する関係推定部を備える請求項2に記載の膜厚推定装置。
【請求項4】
前記関係推定部は、予め定められた更新条件を満たしたとき、新たに推定した前記相関関係情報により、前記記憶部に記憶された前記相関関係情報を更新する請求項3に記載の膜厚推定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の膜厚推定装置を備えるフィルム成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜厚推定装置及びフィルム成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、フィルムを成形するフィルム成形装置を開示する。このフィルム成形装置は、ダイのリップ幅、冷却装置の風速、風温等を調整することで、フィルムの膜厚を目標範囲に収めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムの膜厚を目標範囲に収めるうえでは、フィルムの膜厚を把握することが重要となる。フィルムの膜厚は、通常、特許文献1に記載のように、計測器によって、計測位置をフィルムの横断方向に変更しつつ膜厚を逐次計測することで把握している。本願発明者は、これとは異なる手法でフィルムの膜厚を把握するための新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の一つは、フィルムの膜厚を把握するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様は、フィルム成形装置に用いられる膜厚推定装置であって、ダイから流れ方向に送られるフィルムのフロストライン位置を計測する第1計測器と、前記第1計測器により計測される前記フロストライン位置に基づいて、前記フィルムの膜厚を推定する膜厚推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、フィルムの膜厚を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態のフィルム成形装置を模式的に示す構成図である。
【
図2】実施形態のフィルム成形装置の機能を示すブロック図である。
【
図3】フィルム上の膜厚計測点に関する説明図である。
【
図4】フィルム上の膜厚計測点とフロストラインの存在予測位置とに関する説明図である。
【
図6】フィルム上のフロストライン通過部位と到達時刻とに関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1を参照する。本実施形態のフィルム成形装置10はインフレーション成形装置である。このフィルム成形装置10は、押出機(不図示)から押し出される溶融樹脂をダイリップ28から出すことにより樹脂製のフィルム12を成形するダイ14と、フィルム12の流れ経路の最下流側においてフィルム12を巻き取る巻取器16と、を備える。この他に、フィルム成形装置10は、ダイ14から出されたフィルム12を一対のピンチロール18により引き取りつつ扁平に折り畳む引取機20と、引取機20に引き取られる過程でフィルム12を案内する一対の安定板22と、を備える。この他に、フィルム成形装置10は、フィルム12を冷却する冷却装置24と、フィルム成形装置10の各構成要素を制御する制御装置26と、を備える。制御装置26は、フィルム12の膜厚分布を推定するための膜厚推定装置48としても機能する。
【0011】
本実施形態のダイ14はインフレーション法に用いられる丸ダイであり、リング状のダイリップ28から溶融樹脂を出す。このダイ14は、フィルム12の内側にエア噴出口30からエアを噴出することで、膨らんだ状態のチューブ状のフィルム12(バブルともいう)を成形する。
【0012】
ダイ14は、複数の周方向位置でダイリップ28のリップ幅(間隔)を調整可能である。ダイ14は、ダイリップ28の周方向でのリップ幅分布を調整可能であるともいえる。これを実現するうえで、ダイ14は、例えば、ダイリップ28の構成箇所の一部を変形可能なフレキシブル部とし、駆動源を用いてフレキシブル部を変形させることで、複数の周方向位置でのリップ幅を調整可能としてもよい。この駆動源は、リニアアクチュエータ、ヒートボルト等である。
【0013】
ダイ14は、ダイリップ28の周方向でのリップ幅分布を調整することで、フィルム12の周方向での膜厚分布を調整可能となる。例えば、ある周方向位置でのリップ幅を小さくすることで、そこから出されるフィルム12の膜厚を部分的に薄くできる。これに対して、ある周方向位置でのリップ幅を大きくすることで、そこから出されるフィルム12の膜厚を部分的に厚くできる。このように、ダイ14は、フィルム12の周方向での膜厚分布を調整可能な膜厚調整部32を構成している。
【0014】
図1、
図2を参照する。
図2に示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)をはじめとする電子部品、回路、機械装置等で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。ここでは、これらの連携によって実現される機能ブロックを描く。これらの機能ブロックは、ハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろな態様で実現できることは、当業者に理解されるところである。
【0015】
制御装置26は、所定の通信プロトコルに従ってフィルム成形装置10の他の構成要素(ダイ14、冷却装置24等)との間で通信処理を実行する通信部56と、ユーザによる入力操作を受け付ける入力部58と、各種情報を表示する表示部60と、を備える。この他に、制御装置26は、フィルム成形装置10の他の構成要素及び入力部58から取得したデータを用いてデータ処理を実行するデータ処理部62と、データ処理部62に用いられるデータを記憶する記憶部64と、を備える。データ処理部62は、ダイ14、冷却装置24等の動作を制御する動作制御部70と、フィルム12の膜厚分布を推定する膜厚推定部72と、フロストライン位置と膜厚との相関関係を示す相関関係情報を推定する関係推定部74と、を備える。膜厚推定部72、関係推定部74の詳細は後述する。
【0016】
動作制御部70は、膜厚推定部72により推定された膜厚分布に基づいて、膜厚調整部32の動作を制御する。動作制御部70は、膜厚調整部32により調整可能な操作量を操作するための制御指令を送信することで膜厚調整部32の動作を制御する。ここでの操作量とは、ダイ14でいえばリップ幅をいい、後述する冷却装置24でいえば風量及び風温をいう。膜厚調整部32は、動作制御部70から送信された制御指令に従って操作量(ここではリップ幅)を調整することで膜厚を調整する。
【0017】
動作制御部70は、膜厚推定部72により推定した膜厚分布が予め設定された目標範囲内に収まるように膜厚調整部32を制御する。例えば、フィルム12上の特定の周方向位置での膜厚が目標範囲を上回る場合(つまり、過度に厚い場合)を考える。この場合、動作制御部70は、フィルム12上の特定の周方向位置に対応するダイリップ28の周方向位置におけるリップ幅を小さくするための制御指令をダイ14に送信することで、特定の周方向位置の膜厚を目標範囲内に収める。フィルム12上の特定の周方向位置での膜厚が目標範囲を下回る場合(つまり、過度に薄い場合)を考える。この場合、動作制御部70は、フィルム12上の特定の周方向位置に対応するダイリップ28の周方向位置におけるリップ幅を大きくするための制御指令をダイ14に送信することで、特定の周方向位置の膜厚を目標範囲内に収める。つまり、動作制御部70は、膜厚推定部72により推定される膜厚分布が目標範囲内に収まるように膜厚調整部32を制御するフィードバック制御を行う。
【0018】
ここで、フィルム12の成形過程ではフロストラインFLが生じる。フロストラインFLとは、一般的には、フィルム12の溶融部分12aが冷却過程で固化することで生じる溶融部分12aと固化部分12bとの境界部をいう。本明細書でのフロストラインFLは、この一般的に知られるフィルム12の溶融部分12aと固化部分12bとの境界部をいうものとするが、これに限定されるものではない。このフロストラインFLの流れ方向Daでの位置をフロストライン位置という。ここでの流れ方向Daは、フィルム成形装置10によるフィルム12の成形時にフィルム全体が進む方向(いわゆる機械方向)をいう。このフロストライン位置は、インフレーション法を用いる場合、一例として、フィルムの流れ方向Daでのダイ14の上端面からフロストラインFLまでの高さとして特定できる。
【0019】
このフロストライン位置とフィルム12の膜厚との間には相関関係がある。この相関関係は、フロストライン位置が高くなると膜厚が厚くなり、フロストライン位置が低くなると膜厚が薄くなる関係となる(後述の
図5も参照)。言い換えると、この相関関係は、フロストライン位置がダイ14から遠くなると膜厚が厚くなり、フロストライン位置がダイ14に近くなると膜厚が薄くなる関係となる。これは、冷却条件が一定となる条件下では、膜厚が厚くなるほど固化するまでに時間を要し、その分、フィルム12の固化位置がダイ14から遠くなり、それに伴いフロストライン位置がダイ14から遠くなる(高くなる)ことに起因する。この相関関係は、フィルム12の素材、ブロー比の他、フィルム成形装置10の使用環境下での温度、気圧等の成形条件によって変動する。
【0020】
本実施形態の膜厚推定装置48は、フロストライン位置と膜厚とを計測することによりフロストライン位置と膜厚との相関関係を推定する点に一つの特徴がある。これにより、フロストライン位置を把握することで、その相関関係に従うフィルム12の膜厚も把握できる。この他に、本実施形態の膜厚推定装置48は、フロストライン位置と膜厚との間の相関関係とフロストライン位置分布の計測値とを用いて膜厚分布を推定する点にも特徴がある。膜厚推定装置48は、この相関関係と、フロストライン位置の計測値とを用いて膜厚を推定する点に特徴があるともいえる。以下、その詳細を説明する。
【0021】
フィルム成形装置10は、ダイ14から流れ方向Daに送られるフィルム12のフロストライン位置分布を計測する第1計測器50を備える。フロストライン位置分布とは、フィルム12の周方向でのフロストライン位置の分布をいう。
【0022】
第1計測器50は、フィルム12を撮像する少なくとも一つのカメラ52と、カメラ52の出力した画像を処理することでフロストライン位置分布を計測する計測処理部54と、を備える。カメラ52は、例えば、可視光カメラ、サーマルカメラ等である。計測処理部54は、カメラ52の出力した画像を画像処理することにより複数の周方向位置でのフロストライン位置を計測し、それをフロストライン位置分布の計測結果とする。画像処理によるフロストライン位置の計測方法は特に限定されず、公知の方法を含む種々の方法を用いて実現してもよい。計測処理部54は、例えば、複数のカメラ52の出力した画像を用いた三次元画像処理、二次元画像処理等によりフロストライン位置を計測してもよい。この他にも、カメラ52の画角内にミラーを配置し、単数のカメラ52の出力した画像と、その画像内にあるミラー内の像を擬似的な画像として用いた画像処理によりフロストライン位置を計測してもよい。このような画像を用いた画像処理により、複数の周方向位置でのフロストライン位置、つまり、フロストライン位置分布を容易に同時に計測できる。
【0023】
第1計測器50は、予め定められる周方向での計測対象範囲におけるフロストライン位置分布を第1計測周期毎に同時に計測する。この計測対象範囲は、例えば、フィルム12の全周範囲となる。第1計測器50は、フロストライン位置分布の計測結果を制御装置26に逐次送信する。
【0024】
記憶部64は、フロストライン位置と膜厚との相関関係を示す相関関係情報を記憶する相関関係記憶部66を備える。相関関係情報は、例えば、フロストライン位置を入力とし、膜厚を出力とする関係式、テーブル等である。
【0025】
データ処理部62は、第1計測器50により計測されるフロストライン位置分布に基づいて、フィルム12の周方向での膜厚分布を推定する膜厚推定部72を備える。この膜厚分布を推定する処理を膜厚推定処理という。膜厚推定部72は、このフロストライン位置分布と、相関関係記憶部66に記憶された相関関係情報とに基づいて膜厚推定処理を行う。この膜厚推定処理では、相関関係情報としての関係式等に対して、ある周方向位置で計測されたフロストライン位置の計測値を入力することで、その周方向位置での膜厚を算出する膜厚算出処理を行う。この膜厚推定処理では、第1計測器50により同時に計測された複数の周方向位置でのフロストライン位置の計測値毎に膜厚算出処理を行うことで、各周方向位置での膜厚である膜厚分布を算出し、これを推定結果とする。
【0026】
以上の膜厚推定処理は、フィルム成形装置10によるフィルム12の成形時に周期的に実行してもよいし、予め定められた実行条件を満たしたときに実行してもよい。ここでの実行条件は、例えば、入力部58により所定の指令が入力されたことである。
【0027】
以上の膜厚推定装置48の効果を説明する。
【0028】
膜厚推定装置48は、第1計測器50により計測されたフロストライン位置に基づいて膜厚を推定する膜厚推定部72を備える。よって、膜厚推定部72による膜厚の推定結果を用いて、フィルム12の膜厚を把握できるようになる。
【0029】
フィルム12の膜厚変動は、主に、フィルム12のフロストラインFLよりも上流側にあるフィルム12の溶融部分12aにおいて生じる。フロストラインFLは、後述の第2計測器80による膜厚の計測位置よりも、フィルム12の膜厚変動箇所に近い位置にある。このようなフロストラインFLを用いて特定されるフロストライン位置に基づいて膜厚を推定することで、後述の第2計測器80による膜厚計測値を用いる場合よりも、フィルム12の膜厚変動を早期に特定できる。
【0030】
仮に、後述の第2計測器80のように、計測位置を変更しながらフィルム12の膜厚を逐次計測する場合、膜厚分布を繰り返し特定するための周期が長期化してしまう。よって、ある周方向位置の膜厚を計測してから次の計測までの間に膜厚が変動した場合、その変動が計測値に反映されるまで遅れてしまう反映遅れが生じる。
【0031】
この点、本実施形態によれば、第1計測器50により同時に計測されたフィルム12のフロストライン位置分布を用いて、膜厚推定部72により膜厚分布を特定することになる。よって、計測位置を変更しながらフィルム12の膜厚を逐次計測する場合と比べ、膜厚分布を繰り返し特定するための周期を短期化することができる。このため、ある周方向位置の膜厚を推定してから膜厚が変動した場合に、その変動の影響が推定値に反映されるまでの反映遅れを抑制できる。ひいては、その反映遅れに起因する膜厚の特定精度の低下を抑制できる。
【0032】
動作制御部70は、このような反映遅れの影響を抑制した高精度の膜厚分布の推定値が目標範囲内に収まるように膜厚調整部32を制御する。よって、膜厚調整部32の制御によりフィルム12の実際の膜厚分布を精度よく調整できる。
【0033】
膜厚推定部72は、記憶部64に記憶された相関関係情報と第1計測器50により計測されるフロストライン位置とに基づいて、フィルム12の膜厚を推定する。よって、予め記憶部64に相関関係情報を記憶しておくことで、フロストライン位置から膜厚を簡単に推定できる。
【0034】
本実施形態によれば、第1計測器50による画像を用いた画像処理によりフロストライン位置分布を同時に計測し、そのフロストライン位置分布に基づき膜厚分布を推定している。よって、後述の第2計測器80のように、フィルム12の膜厚を逐次計測することで膜厚分布を特定する場合と比べ、早期に膜厚分布を特定することができる。
【0035】
次に、膜厚推定装置48の他の特徴を説明する。ここでは、膜厚推定処理に用いられる相関関係情報を推定するための特徴を説明する。
【0036】
図1、
図3を参照する。
図3は、フィルム12の一部を平面に展開した模式図である。フィルム成形装置10は、フィルム12の周方向に計測位置Paを変更しながらフィルム12の膜厚を逐次計測する第2計測器80を備える。第2計測器80は、例えば、静電容量式膜厚計等が用いられる。本実施形態の第2計測器80は、フィルム12の周りを回りながらフィルム12の膜厚を逐次計測する。ここでの「計測位置Pa」は、フィルム12上において第2計測器80により膜厚を計測しようとする位置をいう。ここでは、第2計測器80の計測位置Paの軌跡Pbを併せて示す。また、ここでは、フィルム12上の一つの膜厚計測点Pcと計測位置Paが同じ位置にある状態を示す。ここでの「膜厚計測点Pc」は、フィルム12上において第2計測器80により膜厚が計測される位置をいう。
【0037】
第2計測器80は、フィルム12の流れ方向Daへの進行に従って、フィルム12の計測位置Paを進行方向Dbに進行させる。これにより、本実施形態のフィルム12の膜厚計測点Pcは、フィルム12の流れ経路における上流側に向かって進行方向Dbに進む螺旋状を描くように変動する。第2計測器80は、フィルム12の膜厚を逐次計測することで、第1計測周期よりも長い第2計測周期(例えば、2分)毎に、計測対象範囲における膜厚分布を計測する。第2計測器80は計測結果を制御装置26に逐次送信する。
【0038】
前述した関係推定部74(
図2参照)は、第1計測器50により計測されたフロストライン位置と、第2計測器80により計測された膜厚とに基づいて、フロストライン位置と膜厚との相関関係を示す相関関係情報を推定する。この相関関係情報を推定する処理を関係推定処理という。以下、関係推定処理の詳細を説明する。
【0039】
図4を参照する。関係推定部74は、第2計測器80による膜厚計測値と、第1計測器50により計測されたフロストライン位置の計測値とを対応付ける対応付け処理を行う。この対応付け処理において、ある膜厚計測値と対応付けるべきフロストライン位置の計測値を目的計測値という。このフロストライン位置の目的計測値は、本実施形態では、次の二つの条件を満たす計測値が用いられる。
【0040】
第一の条件は、膜厚計測値と同じ周方向位置で計測されたフロストライン位置の計測値であることである。ここでの「同じ」は、完全に同じである場合のほか、ほぼ同じである場合も含む。第二の条件は、膜厚計測値を計測される膜厚計測点PcがフロストラインFLの存在予測位置Pdを通過するときに計測されたフロストライン位置の計測値であることである。膜厚計測点Pcの膜厚の指標となるフロストライン位置の計測値として、膜厚計測点PcがフロストラインFLの存在予測位置Pdを通過するときに計測されるフロストライン位置の計測値を、その膜厚計測点Pcの膜厚計測値に対応付けることになる。フロストラインFLの存在予測位置Pdとは、フロストラインFLの存在することが予測される位置をいう。第2計測器80により計測時刻s1において位置Peで膜厚を計測された膜厚計測点PcがフロストラインFLの存在予測位置Pdを通過する通過時刻s0を想定する。このとき、第二の条件は、通過時刻s0の直近の時刻において計測されたフロストライン位置の計測値であることともいえる。関係推定部74は、以下の流れで、第二の条件を満たすような、膜厚計測値と対応付けるべきフロストライン位置の目的計測値を特定する。
【0041】
まず、関係推定部74は、第2計測器80の計測位置PaからフロストラインFLの存在予測位置Pdまでの長さΔLを算出する。関係推定部74は、ダイ14から第2計測器80の計測位置Paまでの流れ方向Daでの長さL1と、ダイ14からフロストラインFLの存在予測位置Pdまでの流れ方向Daでの長さL0とに基づいて、この長さΔLを算出する。長さΔLは、例えば、長さL1から長さL0を減算することで算出できる。長さL1は、例えば、記憶部64に予め記憶される記憶値が用いられる。長さL0は、例えば、膜厚計測点Pcの膜厚が計測された計測時刻s1において、膜厚計測点Pcと同じ周方向位置において、第1計測器50により計測されたフロストライン位置の計測値が用いられる。この他にも、長さL0は、記憶部64に予め記憶される固定値が用いられてもよい。
【0042】
次に、関係推定部74は、算出された長さΔLと、フィルム12の巻取速度vとに基づいて、フィルム12上の膜厚計測点Pcが前述の長さΔLを通過するのに要する所要時間Δsを算出する。ここでの巻取速度v[m/sec]は、巻取器16により巻き取られる速度をいう。フィルム12は、フロストラインFLから第2計測器80による計測位置Paまでの間をほぼ一定の巻取速度v[m/sec]で流れる。よって、所要時間Δsは、例えば、巻取速度vにより長さΔLを除算することで算出できる。巻取速度vは、例えば、記憶部64に記憶される設定値が用いられる。
【0043】
次に、関係推定部74は、第2計測器80により膜厚計測点Pcの膜厚を計測した計測時刻s1と、算出された所要時間Δsとに基づいて、その膜厚計測点PcがフロストラインFLの存在予測位置Pdを通過するときの通過時刻s0を算出する。関係推定部74は、例えば、計測時刻s1に対して所要時間Δsの分だけ遡った時刻を通過時刻s0として算出する。
【0044】
次に、関係推定部74は、算出された通過時刻s0の直近で第1計測器50により計測されたフロストライン位置の計測値に基づいて、膜厚計測値と対応づけるべき目的計測値を特定する。このとき、関係推定部74は、例えば、通過時刻s0の直近で第1計測器50により計測されたフロストライン位置の計測値そのものを目的計測値として特定してもよい。この他にも、関係推定部74は、誤差の影響を低減させるため、通過時刻s0を含む予め定められた時間幅内に計測された複数の計測値から算出される代表値(例えば、平均値)を目的計測値として特定してもよい。この時間幅は、例えば、第2計測周期よりも短い時間幅に設定される。この目的計測値は、前述のように、膜厚計測値と同じ周方向位置で計測された計測値が特定される。
【0045】
この後、関係推定部74は、フィルム12上の膜厚計測点Pcにおいて第2計測器80により計測された膜厚計測値と、特定されたフロストライン位置の目的計測値とを対応付ける対応付け処理を行う。
【0046】
図5を参照する。関係推定部74は、前述の対応付け処理を行うことで、互いに対応付けられた膜厚計測値とフロストライン位置計測値とを組とする計測値セットを取得する。
図5は、X軸を膜厚、Y軸をフロストライン位置とするグラフに取得した計測値セットをプロットしたものを示す。ここでは、通過時刻s0を含む時間幅内に計測された複数の計測値から平均値と標準偏差σを算出し、その平均値をプロットするとともに、その平均値±標準偏差σの範囲をエラーバーにより示す。
【0047】
関係推定部74は、前述の対応付け処理を繰り返し行うことで、複数組の計測値セットを取得する。これを実現するうえで、第2計測器80により逐次計測された複数の周方向位置での膜厚計測値毎に前述の対応付け処理を行ってもよい。この他にも、第2計測器80により第2計測周期毎に計測される同じ周方向位置での膜厚計測値毎に前述の対応付け処理を行ってもよい。
【0048】
関係推定部74は、複数組の計測値セットを用いて、フロストライン位置と膜厚との相関関係を示す関係式として近似式を算出し、これを相関関係の推定結果とする。ここでは、この近似式として線形近似式を用いて得られる近似線82を示す。この近似式の具体例は特に限定されず、多項式の曲線近似式等の種々の近似式を用いてもよい。この他にも、複数組の計測値セットを用いて、フロストライン位置と膜厚との相関関係を示すルックアップテーブル等のテーブルを生成し、これを相関関係の推定結果としてもよい。関係推定部74は、推定した相関関係情報を相関関係記憶部66に記憶する。
【0049】
以上の関係推定処理は、予め定められた実行条件を満たしたときに実行してもよいし。この実行条件とは、例えば、フィルム成形装置10によるフィルム12の成形をはじめて開始することである。この他にも、後述する更新条件を満たしたときに実行してもよい。
【0050】
以上のように、本実施形態の膜厚推定装置48は、第1計測器50により計測されたフロストライン位置と第2計測器80により計測された膜厚とに基づいて相関関係情報を推定する関係推定部74を備える。よって、フロストライン位置と膜厚との相関関係を示す相関関係情報を予め記憶していなくとも、第1計測器50、第2計測器80の計測結果を用いて相関関係情報を推定できる。
【0051】
この関係推定部74は、予め定められた更新条件を満たしたとき、前述の関係推定処理を行うことで新たに推定した相関関係情報により、記憶部64に記憶された相関関係情報を更新してもよい。これにより、更新条件を満たしたときに相関関係情報に更新することで、最新の成形条件を反映した相関関係情報を用いて膜厚分布を推定できるようになる。
【0052】
ここでの更新条件は、例えば、(1)成形条件を変更したこと、(2)フィルム12の成形中に前回に関係推定処理を行ってから予め定められる時間間隔が経過したこと、(3)入力部58に対して更新のための指令が入力されること、等としてもよい。
【0053】
この他にも、フィルム12の成形中に、予め定められる判定条件に従って膜厚推定部72により推定される膜厚推定値が信頼できるか否かを判定し、その膜厚推定値が信頼できないと判定することを以て更新条件としてもよい。これを実現するうえで、例えば、膜厚推定値と膜厚計測値を組とする複数組の膜厚値セットを用いて、膜厚推定処理に使用される関係式の決定係数(R2)を算出してもよい。この場合、算出した決定係数が予め定められる基準値を下回ることを判定条件とし、その判定条件を満たした場合に膜厚の推定値が信頼できないと判定してもよい。この場合、膜厚計測点PcがフロストラインFLの存在予測位置Pdを通過するときに計測されたフロストライン位置の計測値から算出された膜厚推定値と、その膜厚計測点Pcで計測された膜厚計測値とを組とする膜厚値セットを用いればよい。
【0054】
なお、ここまで膜厚調整部32はダイ14である例を説明したが、その具体例は特に限定されない。この膜厚調整部32は次に説明する冷却装置24でもよい。この他にも、冷却装置24とダイ14を個別の膜厚調整部32として用いてもよい。
【0055】
図1を参照する。冷却装置24は、ブロワー(不図示)から通風路150を通して送られる冷却風を、リング状の吹出口152からフィルム12に向けて吹き出すエアーリング154を備える。冷却装置24は、通風路150内に配置される複数のバルブ装置156及び複数のヒータ158を備える。複数のバルブ装置156は、エアーリング154の通風路150内を上流側通風路150aと下流側通風路150bに区画するように周方向に配列される。バルブ装置156は、自身の開度を調整可能な箇所を経由して上流側通風路150aから下流側通風路150bにエアを流すことができる。バルブ装置156の開度を調整することによって、バルブ装置156を経由して吹出口152に供給される冷却風の風量を調整できる。複数のバルブ装置156それぞれの開度を調整することで、冷却風の周方向での風流分布を調整可能となる。
【0056】
複数のヒータ158は、例えば、加熱ロッド等であり、通風路150内に周方向に配列される。ヒータ158は、通風路150内を流れるエアを加熱可能である。ヒータ158の加熱温度を調整することによって、ヒータ158の周囲を経由して吹出口152に供給される冷却風の風温を調整できる。複数のヒータ158それぞれの加熱温度を調整することで、冷却風の周方向での風温分布を調整可能となる。
【0057】
冷却装置24による冷却風の風量分布及び風温分布の少なくとも一方を調整することで、フィルム12の周方向での膜厚分布を調整可能となる。フィルム12の溶融部分12aは、流れ方向に進行する過程で、下流側に向けて引っ張られることで徐々に薄くなる。よって、フィルム12の溶融部分12aは、フィルム12の冷却速度が速くなるほど早くに固化することで膜厚が厚くなり、フィルムの冷却速度が遅くなるほど遅れて固化することで膜厚が薄くなる。例えば、ある周方向位置での冷却風の風量を大きくすることで、その冷却風の当たるフィルム12の冷却速度を部分的に速くし、フィルム12の膜厚を部分的に厚くできる。ある周方向位置での冷却風の風温を低くした場合(ヒータ158の加熱温度をゼロに近づけた場合)も同様である。これに対して、ある周方向位置での冷却風の風量を小さくすることで、その冷却風の当たるフィルム12の冷却速度を部分的に遅くすることで、フィルム12の膜厚を部分的に薄くできる。ある周方向位置での冷却風の風温を高くした場合(ヒータ158の加熱温度を大きくした場合)も同様である。
【0058】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0059】
フィルム成形装置10は、第2計測器80を備えていなくともよい。膜厚推定装置48は、入力部58、表示部60、動作制御部70、関係推定部74等を備えていなくともよい。膜厚推定装置48は、第1計測器50、第2計測器80の少なくとも一方を備えていてもよい。
【0060】
第1計測器50は、フィルム12のフロストライン位置又は周方向でのフロストライン位置分布を計測できればよく、その具体例は実施形態の内容に限定されない。この一例として、第1計測器50は、フィルム12の溶融部分12aに塗布したインクを用いてフロストライン位置を計測してもよい。フィルム12の溶融部分12aにインクを塗布した場合、フロストラインFLよりも下流側において観察されるインクの流れ方向Daでの長さとフロストライン位置との間には相関関係がある。この相関関係は、インクの長さが長くなるとフロストライン位置が低くなり、インクの長さが短くなるとフロストライン位置が高くなる関係となる。よって、この相関関係を示す関係式、テーブル等を記憶しておき、その関係式等にフィルム12に塗布されたインクの長さを入力することでフロストライン位置を特定してもよい。この場合、インクの長さは、カメラ52により撮像した画像を用いた画像処理により特定すればよい。インクの流れ方向での長さは、線状に延びるインクの流れ方向長さそのものにより特定してもよいし、複数の点状のインク間の間隔により特定してもよい。
【0061】
膜厚推定部72は、第1計測器50により計測されたフロストライン位置に基づいてフィルム12の膜厚を推定できればよく、その具体的手法は実施形態の内容に限定されない。膜厚推定部72による、フロストライン位置分布の計測値に基づいたフィルム12の膜厚分布の推定手法は特に限定されないともいえる。
【0062】
関係推定部74は、相関関係記憶部66に記憶された相関関係情報を更新しなくともよい。この場合、相関関係記憶部66に複数の成形条件に個別に対応する複数の相関関係情報を予め記憶しておいてもよい。この場合、膜厚推定処理を行うときに、膜厚推定部72により複数の相関関係情報のなかから実際の成形条件に対応する相関関係情報を選択してもよい。
【0063】
関係推定部74による対応付け処理において、膜厚計測値と対応付けるべきフロストライン位置の目的計測値の具体例は実施形態の内容に限定されない。例えば、計測時刻s1において膜厚計測値を計測した場合に、その計測時刻s1を含む予め定められた時間幅内で計測されたフロストライン位置の複数計測値の代表値(例えば、平均値)を目的計測値としてもよい。この場合、目的計測値としてのフロストライン位置の代表値(ここでは平均値)と、その計測時刻s1に計測した膜厚計測値とを対応付けすればよい。この他にも、同じ膜厚計測点Pcにおいて複数回に亘り膜厚計測値を計測し、個々の膜厚計測値の計測時刻において計測されたフロストライン位置の複数計測値の代表値(例えば、平均値)を目的計測値としてもよい。この場合、目的計測値としてのフロストライン位置の代表値(ここでは平均値)と、複数回に亘り計測した膜厚計測値の代表値(例えば、平均値)とを対応付けてもよい。いずれの場合も、関係推定部74による対応付け処理において、前述の第一の条件で説明したように、膜厚計測値と同じ周方向位置で計測されたフロストライン位置の計測値を用いる。
【0064】
この他にも、膜厚計測値と対応付けるべきフロストライン位置の目的計測値は、以下のように特定してもよい。
【0065】
図6を参照する。ある計測時刻s1においてフロストライン位置を計測したとき、そのフロストライン位置を計測した周方向位置においてフロストラインFLを通過するフィルム12の部位をフロストライン通過部位Pfという。このフロストライン通過部位Pfが第2計測器80の計測位置と同じ流れ方向位置Pgに到達する到達時刻s2を想定する。以下、フィルム12のフロストライン通過部位Pfの位置Pgへの到達時刻s2と、第2計測器80による膜厚計測値の計測時刻s3とに基づいて、膜厚計測値と対応付けるべきフロストライン位置の目的計測値を特定する手法を説明する。
【0066】
まず、関係推定部74は、ある周方向位置において計測時刻s1にフロストライン位置を計測したとき、その周方向位置でのフロストラインFLから位置Pgまでの長さΔL’を算出する。この長さΔL’は、ダイ14から第2計測器80の計測位置(位置Pg)までの流れ方向Daでの長さL1より、ダイ14からフロストラインFL(フロストライン通過部位Pf)までの長さL0’を減算することで算出する。長さL1は、前述と同様、記憶部64に予め記憶される記憶値が用いられる。長さL0’は、その長さΔL’を算出しようとする周方向位置に関して、計測時刻s1において第1計測器50により計測されたフロストライン位置の計測値が用いられる。次に、関係推定部74は、ある周方向位置に関して算出された長さΔL’と、フィルム12の巻取速度vとに基づいて、その周方向位置にあるフィルム12上のフロストライン通過部位Pfが、前述の長さΔL’を通過するのに要する所要時間Δs’を算出する。所要時間Δs’は、前述の所要時間Δsと同様、巻取速度vにより長さΔL’を除算することで算出できる。この後、関係推定部74は、計測時刻s1に対して所要時間Δs’の分だけ進んだ時刻を到達時刻s2として算出する。この到達時刻s2は、ある周方向位置で計測時刻s1にフロストラインFLを通過するフロストライン通過部位Pfが位置Pgに到達する時刻を表しており、その周方向位置で計測時刻s1に計測されたフロストライン位置の計測値と対応するものとして取り扱う。
【0067】
関係推定部74は、ある計測時刻s1においてフロストライン位置分布を計測したとき、そのフロストライン位置を計測した周方向位置毎に、前述の流れで、各フロストライン位置の計測値に対応する到達時刻s2を算出する。また、関係推定部74は、フロストライン位置を計測した周方向位置毎に、フロストライン位置の計測値と、その計測値と対応する到達時刻s2とを紐付けた計測値情報を生成する紐付け処理を行う。関係推定部74は、フロストライン位置分布を計測する毎に紐付け処理を行い、それにより同じ周方向位置に関して生成される複数の計測値情報を記憶部64に蓄積することで計測値情報群を生成する。計測値情報群は、フロストライン位置を計測した周方向位置毎に生成される。計測値情報群は、例えば、フロストライン位置を計測したある周方向位置での、フロストライン位置の計測時刻順で複数の計測値情報を並べた時系列データとして生成される。
【0068】
関係推定部74は、ある周方向位置において計測時刻s3に膜厚が計測されたとき、その膜厚の計測位置と同じ周方向位置に関して生成された計測値情報群を参照する。関係推定部74は、その参照した計測値情報群において計測時刻s3の直近の到達時刻s2を持つ計測値情報を特定する。関係推定部74は、その特定した計測値情報の到達時刻s2に紐付いたフロストライン位置の計測値を、計測時刻s3において計測した膜厚計測値と対応付けるべき目的計測値として特定する。これにより、フィルム12上のフロストライン通過部位Pfの膜厚計測値と、そのフロストライン通過部位PfがフロストラインFLを通過したときに計測されたフロストライン位置の計測値とを精度よく対応付けることができる。
【0069】
以上のように、対応付け処理では予め定めた条件を満たす膜厚計測値とフロストライン位置計測値とを互いに対応付ける。この対応付けの対象となる膜厚計測値は、単数の膜厚計測値でもよいし、複数の膜厚計測値の代表値でもよい。対応付けの対象となるフロストライン位置計測値も同様に、単数のフロストライン位置計測値でもよいし、複数のフロストライン位置計測値の代表値でもよい。
【0070】
ここまで、第1計測器50によりフィルム12の周方向でのフロストライン位置分布を計測し、その計測されたフロストライン位置分布に基づいて、膜厚推定部72によりフィルム12の周方向での膜厚分布を推定する例を説明した。これに限定されず、第1計測器50によりフィルム12の特定の周方向位置でのフロストライン位置を計測し、その計測されたフロストライン位置に基づいて、膜厚推定部72によりフィルム12の特定の周方向位置での膜厚を推定してもよい。
【0071】
ここまで、丸ダイからチューブ状のフィルム12を送るインフレーション法を用いたフィルム成形装置10に本開示内容を適用する場合を例に説明した。これに限定されず、Tダイからシート状のフィルム12を送るTダイ法を用いたフィルム成形装置10に本開示内容を適用してもよい。
【0072】
ここまでの開示内容をインフレーション法、Tダイ法に共通する内容として把握するうえでは、ここまでの開示内容に関して、「周方向」の文言を「横断方向」に置き換えた内容として理解すればよい。ここでの「横断方向」とは、フィルムの流れ方向Daに直交する断面におけるフィルム12の面内方向ともいえる。この「横断方向」は、インフレーション法に用いられるチューブ状のフィルムを対象とする場合は、ここまで説明したフィルム12の周方向をいう。また、この「横断方向」は、Tダイ法に用いられるシート状のフィルム12を対象とする場合はフィルム12の幅方向をいう。例えば、第1計測器50は、フィルム12の横断方向でのフロストライン位置分布を計測し、膜厚推定部72は、そのフロストライン位置分布に基づいて、フィルム12の横断方向での膜厚分布を推定してもよいということである。シート状のフィルム12を対象とする場合も、フィルム12の特定の横断方向位置でのフロストライン位置を計測し、そのフロストライン位置の計測値に基づいて、その特定の横断方向位置でのフィルム12の膜厚を推定してもよい。
【0073】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している位置関係には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができるものも当然に含まれる。
【0074】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、実施形態に対して他の実施形態の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形形態に対して実施形態及び他の変形形態の任意の説明事項を組み合わせてもよい。また、本開示の構成要素及び表現のいずれかを、方法、装置、システム等の間で相互に置換したものも、本開示の態様として有効である。
【符号の説明】
【0075】
10…フィルム成形装置、12…フィルム、14…ダイ、48…膜厚推定装置、64…記憶部、72…膜厚推定部、74…関係推定部。