(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150089
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびセンサ素子収容ケーシング
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058995
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】牧 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】片桐 康太
(72)【発明者】
【氏名】矢板 航平
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝顕
(72)【発明者】
【氏名】清家 雄也
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BD04
2G004BM10
(57)【要約】
【課題】複雑な構造を有さずともスペーサが安定的に固定されるガスセンサを提供する。
【解決手段】被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知するためのガスセンサが、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、ケーシング内部に配置されセンサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタとを備え、ケーシングが、内部に基準ガスが存在する主部と、主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、主部にセンサ素子の他方端部側が突出する外筒と、封止部に嵌め込まれて外筒を封止するゴム製のシール部材と、外筒内部においてシール部材とコネクタとの間に介在するスペーサとを備え、加締めによる縮径に伴いシール部材からスペーサに荷重が作用することで、シール部材との接触面に摩擦力が作用することにより、スペーサがコネクタとシール部材との間で挟持固定されてなる、ようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知するためのガスセンサであって、
一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、
前記センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、
前記ケーシング内部に配置され、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタと、
を備え、
前記ケーシングが、
内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記主部に前記センサ素子の他方端部側が突出する外筒と、
前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、
前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、
を備え、
前記封止部の側方の所定位置が、外側から加締められた加締め箇所であり、前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されてなることで、前記外筒が封止されてなり、
前記スペーサが、
前記コネクタと接触する平坦な第1の端面と、
前記シール部材と接触する平坦な第2の端面と、
を有しており、
前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されていることに伴い前記シール部材から前記スペーサに対し所定の荷重が作用することにより前記スペーサと前記シール部材との間に生じている摩擦力が、前記第2の端面に作用することにより、前記スペーサが前記コネクタと前記シール部材との間で挟持固定されてなる、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記加締め箇所以外における前記シール部材の外径をAとし、前記加締め箇所における前記シール部材の外径をBとし、前記シール部材の前記第2の端面との接触面から前記加締め箇所までの距離をCとし、前記加締め箇所の幅をDとし、kを比例定数とし、前記所定の荷重をFとするときに、
F=k・(A-B)D/C
であり、
前記コネクタと前記シール部材とによる前記スペーサの挟持固定を実現するための前記所定の荷重の最小値をFminとし、前記コネクタと前記センサ素子との間に生じる接点ずれが最大許容範囲と一致するときの前記所定の荷重の値をFmaxとするときに、
Fmin/k≦(A-B)D/C≦Fmax/k
であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項2に記載のガスセンサであって、
0.11≦(A-B)D/C≦1.65
であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記シール部材の前記スペーサとの接触面の面積S1と、前記接触面と接触する前記スペーサの前記第2の端面の面積S2との比S1/S2の値が、0.9~1.1の範囲にある、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記シール部材がフッ素ゴム製である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項7】
被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知する検知部を一方端部側に備えるセンサ素子と、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタとを、前記センサ素子を内部に固定しつつ収容するケーシングであって、
内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記センサ素子の他方端部側が前記主部に突出させて配置される外筒と、
前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、
前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、
を備え、
前記封止部の側方の所定位置が、外側から加締められた加締め箇所であり、前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されてなることで、前記外筒が封止されてなり、
前記スペーサが、
前記コネクタと接触する平坦な第1の端面と、
前記シール部材と接触する平坦な第2の端面と、
を有しており、
前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されていることに伴い前記シール部材から前記スペーサに対し所定の荷重が作用することにより前記スペーサと前記シール部材との間に生じている摩擦力が、前記第2の端面に作用することにより、前記スペーサが前記コネクタと前記シール部材との間で挟持固定されてなる、
ことを特徴とする、センサ素子収容ケーシング。
【請求項8】
請求項7に記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記加締め箇所以外における前記シール部材の外径をAとし、前記加締め箇所における前記シール部材の外径をBとし、前記シール部材の前記第2の端面との接触面から前記加締め箇所までの距離をCとし、前記加締め箇所の幅をDとし、kを比例定数とし、前記所定の荷重をFとするときに、
F=k・(A-B)D/C
であり、
前記コネクタと前記シール部材とによる前記スペーサの挟持固定を実現するための前記所定の荷重の最小値をFminとし、前記コネクタと前記センサ素子との間に生じる接点ずれが最大許容範囲と一致するときの前記所定の荷重の値をFmaxとするときに、
Fmin/k≦(A-B)D/C≦Fmax/k
であることを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項9】
請求項8に記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
0.11≦(A-B)D/C≦1.65
であることを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれかに記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記シール部材の前記スペーサとの接触面の面積S1と、前記接触面と接触する前記スペーサの前記第2の端面の面積S2との比S1/S2の値が、0.9~1.1の範囲にある、
ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項11】
請求項7ないし請求項10のいずれかに記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記シール部材がフッ素ゴム製である、
ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項12】
請求項7ないし請求項11のいずれかに記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、
ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関し、特に、センサ素子が収容されるケーシング内に配置されるスペーサの固定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等の内燃機関における燃焼ガスや排気ガス等の被測定ガス中の所定ガス成分の濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスを用いてセンサ素子を形成したガスセンサが公知である。
【0003】
係るガスセンサとして、酸素イオン伝導性セラミックス(例えば、イットリア安定化ジルコニア)を主たる構成材料とする長尺板状のセンサ素子(検出素子)が、金属製の筒状の収容部材(ケーシング)に収容された構成を有するものが、広く用いられている。係るガスセンサは、内燃機関の排気経路の途中に付設され、排ガスに含まれる所定ガス成分の検知および濃度の測定に使用される。
【0004】
ケーシングの一方端部は開口部となっており、該開口部にはゴム製のシール部材が嵌め込まれている。また、ケーシングの他方端部には排ガスが出入可能な保護カバーが付設されている。センサ素子は、該ケーシング内部に両端部間を気密に封止されつつ収容されている。これにより、ガスセンサにおいては、ケーシングの一方端部側においてセンサ素子の一方端部がケーシング内の基準ガス(通常は大気)に接触し、ケーシングの他方端部側においてはセンサ素子の他方端部が保護カバー内に露出して排ガスに接触するようになっている。かつ、それら基準ガスと排ガスとは、互いに接触しないようになっている。
【0005】
ゴム製のシール部材は、あらかじめ設けられてなる貫通部にセンサ素子と外部との電気的接続を図るためのリード線が挿通されたうえで、ケーシングの開口部に嵌め込まれており、係る嵌め込み箇所の側部からケーシングがシール部材ともども加締められることによって、開口部を通じた外部からの水の浸入が生じないようになっている。
【0006】
また、ケーシングの内部には、センサ素子と電気的接続を図るための接続端子を備えたセラミック製の接点保持部材(コネクタ)が配されており、接続端子に接続されたリード線が、シール部材を貫通して外部に延在してなる。係る場合において、シール部材と接点保持部材との間に、絶縁や断熱などを目的として、スペーサやセパレータなどと称される、セラミックなどからなる部材を配置する構成も、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。そうしたスペーサ等の部材は、外部からの加振や衝撃の印加などに起因して電極などの部材が破壊されることがないよう、その位置が固定されることが望ましい。
【0007】
特許文献1に開示されたガスセンサにおいては、先端側セパレータと称される接点保持部材に検出素子と称されるセンサ素子の端部が収容されるとともに、閉塞部材と称されるシール部材と先端側セパレータとの間に後端側セパレータと称されるスペーサ部材が介在させられてなる。
【0008】
後端側セパレータの長手方向(軸方向)の位置は、後端側セパレータが閉塞部材と先端側セパレータにより挟まれることによって固定されている。一方、後端側セパレータの軸方向に垂直な方向(径方向)の位置は、後端側セパレータと後端側セパレータのそれぞれの対向する端面に互いに嵌合する凹凸構造を形成し、それらの凹凸部分を嵌合させることによって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されているような、接点保持部材とスペーサとを互いに嵌合させるための凹凸構造を設けることは、加工の複雑さや、組立時の位置合わせ(位相合わせ)を行う必要がある点から、製造コストを押し上げる要因となるため、好ましくない。
【0011】
また、近年、内燃機関における部品取付スペースの狭小化のために、ガスセンサの短小化(短尺化)や小型化の要請が高まっている。特許文献1に開示されているような、凹凸構造を有する接点保持部材とスペーサとを互いに嵌合させる構成を設けることは、嵌合部分を確保する必要がある点において、軸方向および径方向の双方につき、短小化・小型化の点からは不利である。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複雑な構造を有さずともスペーサが安定的に固定されるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知するためのガスセンサであって、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、前記センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、前記ケーシング内部に配置され、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタと、を備え、前記ケーシングが、内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記主部に前記センサ素子の他方端部側が突出する外筒と、前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、を備え、前記封止部の側方の所定位置が、外側から加締められた加締め箇所であり、前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されてなることで、前記外筒が封止されてなり、前記スペーサが、前記コネクタと接触する平坦な第1の端面と、前記シール部材と接触する平坦な第2の端面と、を有しており、前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されていることに伴い前記シール部材から前記スペーサに対し所定の荷重が作用することにより前記スペーサと前記シール部材との間に生じている摩擦力が、前記第2の端面に作用することにより、前記スペーサが前記コネクタと前記シール部材との間で挟持固定されてなる、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサであって、前記加締め箇所以外における前記シール部材の外径をAとし、前記加締め箇所における前記シール部材の外径をBとし、前記シール部材の前記第2の端面との接触面から前記加締め箇所までの距離をCとし、前記加締め箇所の幅をDとし、kを比例定数とし、前記所定の荷重をFとするときに、F=k・(A-B)D/Cであり、前記コネクタと前記シール部材とによる前記スペーサの挟持固定を実現するための前記所定の荷重の最小値をFminとし、前記コネクタと前記センサ素子との間に生じる接点ずれが最大許容範囲と一致するときの前記所定の荷重の値をFmaxとするときに、Fmin/k≦(A-B)D/C≦Fmax/kであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係るガスセンサであって、0.11≦(A-B)D/C≦1.65であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記シール部材の前記スペーサとの接触面の面積S1と、前記接触面と接触する前記スペーサの前記第2の端面の面積S2との比S1/S2の値が、0.9~1.1の範囲にある、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記シール部材がフッ素ゴム製である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1ないし第5の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第7の態様は、被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知する検知部を一方端部側に備えるセンサ素子と、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタとを、前記センサ素子を内部に固定しつつ収容するケーシングであって、内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記センサ素子の他方端部側が前記主部に突出させて配置される外筒と、前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、を備え、前記封止部の側方の所定位置が、外側から加締められた加締め箇所であり、前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されてなることで、前記外筒が封止されてなり、前記スペーサが、前記コネクタと接触する平坦な第1の端面と、前記シール部材と接触する平坦な第2の端面と、を有しており、前記シール部材が前記加締め箇所において縮径されていることに伴い前記シール部材から前記スペーサに対し所定の荷重が作用することにより前記スペーサと前記シール部材との間に生じている摩擦力が、前記第2の端面に作用することにより、前記スペーサが前記コネクタと前記シール部材との間で挟持固定されてなる、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第8の態様は、第7の態様に係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記加締め箇所以外における前記シール部材の外径をAとし、前記加締め箇所における前記シール部材の外径をBとし、前記シール部材の前記第2の端面との接触面から前記加締め箇所までの距離をCとし、前記加締め箇所の幅をDとし、kを比例定数とし、前記所定の荷重をFとするときに、F=k・(A-B)D/Cであり、前記コネクタと前記シール部材とによる前記スペーサの挟持固定を実現するための前記所定の荷重の最小値をFminとし、前記コネクタと前記センサ素子との間に生じる接点ずれが最大許容範囲と一致するときの前記所定の荷重の値をFmaxとするときに、Fmin/k≦(A-B)D/C≦Fmax/kであることを特徴とする。
【0021】
本発明の第9の態様は、第8の態様に係るセンサ素子収容ケーシングであって、0.11≦(A-B)D/C≦1.65であることを特徴とする。
【0022】
本発明の第10の態様は、第7ないし第9の態様のいずれかに係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記シール部材の前記スペーサとの接触面の面積S1と、前記接触面と接触する前記スペーサの前記第2の端面の面積S2との比S1/S2の値が、0.9~1.1の範囲にある、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の第11の態様は、第7ないし第10の態様のいずれかに係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記シール部材がフッ素ゴム製である、ことを特徴とする。
【0024】
本発明の第12の態様は、第7ないし第11の態様のいずれかに係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1ないし第12の態様によれば、スペーサの両端面が平坦であり、それぞれの端面がコネクタおよびシール部材と面接触してなり、側方からスペーサが拘束されない構成のガスセンサあるいはセンサ素子収容ケーシングにおいて、コネクタとシール部材とによるスペーサの挟持固定が実現されてなる。
【0026】
特に、本発明の第2、第3、第8、および第9の態様によれば、コネクタとセンサ素子との間に許容範囲を超えた接点ずれを生じさせることなく、コネクタとシール部材との挟持によるスペーサの安定的な固定が実現されてなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。
【
図2】水準1~水準4のガスセンサ100についての接点ずれ距離を、接点ずれ許容距離に対する裕度として示す図である。
【
図3】センサ素子10の長手方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<ガスセンサの構成>
図1は、本発明の実施の形態に係るガスセンサ100の(より詳細にはその本体部の)長手方向に沿った要部断面図である。より詳細には、破断線ZLよりも上方においてはガスセンサ100の断面図を示し、破断線ZLよりも下方においてはガスセンサ100の外観のみを示している。
【0029】
ガスセンサ100は、その内部に備わるセンサ素子10によって所定のガス成分(例えば、NOx等)を検出するためのものである。ガスセンサ100は概略、長尺の柱状あるいは薄板状のセンサ素子(検出素子)10が、筒状体1と、保護カバー2と、固定ボルト3と、外筒4とによって囲繞された構成を有する。筒状体1と、保護カバー2と、外筒4とは、全体として、センサ素子10を内部に収容する収容部材(ケーシング)を構成している。一方、固定ボルト3は筒状体1の外側面に環装されている。
【0030】
センサ素子10は、筒状体1、保護カバー2、固定ボルト3、および外筒4と同軸に配置されてなる。係るセンサ素子10の中心軸の延在方向を軸線方向とも称する。
図1においては、該軸線方向は図面視上下方向と一致している。
【0031】
より詳細には、センサ素子10の一方端部側(例えば
図3の第1の端部E1側)は保護カバー2に囲繞されており、他方端部側は外筒4内に突出しており、両者の間の略中央部分は、図示しないセラミックスの圧粉体やセラミックス部品により、両端部間を気密に封止する態様にて筒状体1の内部に固定されてなる。
【0032】
センサ素子10の保護カバー2に囲繞された一方端部側には、検知部(例えば、ガス導入口、内部空室、検知電極など)を備わっている。加えて、センサ素子10の素子体表面および内部には、種々の電極や配線パターンが備わっている。
【0033】
例えば、センサ素子10のある一態様においては、素子内部に導入された被測定ガスが素子内部で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。このようなセンサ素子10を備えるガスセンサ100においては、素子内部を流れる酸素イオンの量が被測定ガス中における検知対象ガス成分の濃度に比例することに基づいて、当該ガス成分の濃度が求められる。
【0034】
筒状体1は、主体金具とも称される金属製の筒状部材である。筒状体1は、ガスセンサ100の外部にはほとんど露出していないが、保護カバー2の図面視上端部から外筒4の図面視下端部にわたる範囲に備わっている。筒状体1の内部には、センサ素子10と、該センサ素子10に環装されてなる固定用の部品(圧粉体やセラミックス部品)とが、収容されてなる。換言すれば、筒状体1は、センサ素子10の周りに環装された環装部品の周囲に、さらに環装されてなる。
【0035】
保護カバー2は、センサ素子10のうち、使用時に被測定ガスに直接に接触する部分である第1の端部E1側の所定範囲を保護する、略円筒状の外装部材である。保護カバー2は、筒状体1の図面視下側の端部に、溶接固定されてなる。
【0036】
保護カバー2には、気体が通過可能な複数の貫通孔Hが設けられてなる。係る貫通孔Hを通じて保護カバー2内に流入した被測定ガスが、センサ素子10における直接の検知対象となる。なお、
図1に示す貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などあくまで例示であって、保護カバー2の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。
【0037】
固定ボルト3は、ガスセンサ100を測定位置に固定する際に用いられる環状の部材である。固定ボルト3は、ねじ切りがされたボルト部3aと、ボルト部3aを螺合する際に保持される保持部3bとを備えている。ボルト部3aは、ガスセンサ100の取り付け位置に設けられたナットと螺合する。これにより、ガスセンサ100は、保護カバー2の側が測定対象ガスと接触する態様にて測定位置に固定される。例えば、自動車の排気管に設けられたナット部にボルト部3aが螺合されることで、ガスセンサ100は、保護カバー2の側が排気管内に露出する態様にて該排気管に固定される。
【0038】
外筒4は、その一方端部(図面視下端部)が筒状体1の図示しない上部の外周端部に溶接固定されてなる、円筒状部材である。外筒4は、筒状体1との溶接固定箇所から軸線方向に同径にて延在する主部4aと、該軸線方向において主部4aに連続する封止部4bとを備える。封止部4bは、該主部4aよりも縮径してなる端部である。
【0039】
外筒4の内部空間は基準ガス(大気)雰囲気となっている。また、主部4aの内部にはコネクタ(接点保持部材とも称する)5とスペーサ7とが配されている。
【0040】
一方、封止部4bは、シール部材6が嵌め込まれた状態で、側方から加締められることにより、外筒4の他方端部(図面視上端部)を封止(シール)してなる部位である。
【0041】
係る封止は、シール部材6の図面視側方位置にあたる加締め箇所Sにおいて、封止部4bがその周方向全体に亘って外側から加締められることにより、シール部材6が径方向外側へと向かう反力を生じさせることによって、実現されてなる。
【0042】
シール部材6はゴム製である。それゆえ、シール部材6はゴム栓あるいはグロメットとも称される。使用されるゴムは、典型的にはフッ素ゴムである。シール部材6は、封止部4bへの嵌め込み前には一様な円筒状をなしていたが、嵌め込みさらには加締めによって径方向に変形させられてなる。シール部材6は、外筒4内(図面視下端部)の端面6aにおいて、スペーサ7と接触している。
【0043】
コネクタ5には、センサ素子10の他方端部側(例えば
図3の第2の端部E2側)が挿入されている。コネクタ5には、係るセンサ素子10の挿入状態においてセンサ素子10に備わる複数の電極端子160(
図3参照)と接する、複数の金属製の接点部材51が備わっている。接点部材51は、その一方端部(図面視下端部)がコネクタ5に掛止される掛止部51aとなっており、他方端部(図面視上端部)は、リード線8が圧着固定される圧着部51bとなっており、その間の部分が板バネ状をなしている。コネクタ5とセンサ素子10との間に接点部材51が挟持固定されることで、センサ素子10の電極端子160と接点部材51とが電気的に接続されてなる。
【0044】
コネクタ5は、センサ素子10が挿入されている側とは反対側(図面視上端部)の端面5eにおいて、スペーサ7と接触している。
【0045】
スペーサ7は、外筒4の内部において、コネクタ5とシール部材6とに挟み込まれて(介在して)いる。スペーサ7は、ガスセンサ100の使用時におけるシール部材6の昇温を抑制する目的で、設けられてなる。スペーサ7の材質としては、強度確保の点からセラミックスが選択される。
【0046】
好ましくは、耐熱性の点から好適な、熱伝導率が32W/m・K以下であるセラミックスが選択される。より好ましくは、アルミナ(熱伝導率:32W/m・K)またはステアタイト(熱伝導率:2W/m・K)が選択される。
【0047】
スペーサ7はその一方端部(図面視下端部)側の端面7aにおいてコネクタ5の端面5eと接触し、他方端部(図面視上端部)側の端面7eにおいてシール部材6の端面6aと接触している。スペーサ7の端面7aおよび端面7eはともに、貫通穴9を除いて平坦となっている。それゆえ、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、コネクタ5とスペーサ7とが互いに面接触し、かつ、シール部材6とスペーサ7とが互いに面接触した状態で、スペーサ7がコネクタ5とシール部材6とによって挟持固定されている。
【0048】
リード線8は、シール部材6およびスペーサ7に連続的に設けられた貫通穴9に挿通されてなり、一方端部は接点部材51の圧着部51bに圧着固定されてなり、他方端部はガスセンサ100の外部のコントローラ50や各種電源(
図3参照)に接続されてなる。これにより、センサ素子10とコントローラ50や各種電源とが、接点部材51およびリード線8を通じて電気的に接続されてなる。なお、
図1には、接点部材51とリード線8とをそれぞれ2つずつのみ示しているが、これはあくまで図示の簡単のためであり、実際には、上記の電気的接続に必要な数のリード線が備わっている。
【0049】
なお、以上のような構成を有するガスセンサ100は、従来と同様の手法にて作製することが可能である。概略的にいえば、まず、加締め箇所Sの加締めに先立ってあらかじめ、センサ素子10の挿入と接点部材51とリード線8との接続とがなされたコネクタ5が、外筒4の主部4a内に配置される。続いて、リード線8が、スペーサ7、シール部材6の順にそれぞれの貫通穴9に挿通され順にコネクタ5の上に積み重ねられる。併せて、リード線8が挿通されたシール部材6は、加締め前の封止部4bに嵌め込まれる。通常は、シール部材6の嵌め込みがなされるまでの時点においてすでに、外筒4内に基準ガスとしての大気が入り込んでいる。シール部材6の嵌め込みがなされると、加締め箇所Sが所定の加締め手段にて加締められる。
【0050】
なお、加締めは、封止部4bの外周全体に亘って連続的に延在する加締め箇所Sを対象に行われるのが好適な一例であるが、良好な加締め固定が実現される限りにおいて、加締め箇所Sが封止部4bの周方向において不連続となっていてもよい。
【0051】
<シール部材における寸法関係>
上述のように、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、スペーサ7の端面7aおよび端面7eがともに平坦となっており、それぞれに、コネクタ5およびシール部材6と面接触している。これにより、スペーサ7は軸方向(
図1においては上下方向、以下同様)においてコネクタ5およびシール部材6により挟持固定されているが、その一方で、側方(径方向)からは何ら拘束をされてはいない。しかしながら、ガスセンサ100においては、上述した加締めによる固定に際しシール部材6が所定の寸法関係をみたすことで、スペーサ7が軸方向のみならずこれに直交する径方向においても、安定的に固定された状態が実現されている。
【0052】
これは、概略的にいえば、上述したガスセンサ100の組立プロセスにおいて加締め箇所Sが所定の加締め手段にて加締められることに伴い、径方向外側へと向かう反力を生じさせるとともに軸方向へ伸長変形しようとするシール部材6が、スペーサ7をコネクタ5に押し付ける方向への軸方向荷重をスペーサ7に作用させる結果として、シール部材6とスペーサ7の間に径方向に(静止)摩擦力が生じることを、利用している。係る摩擦力は、所定の摩擦係数とスペーサ7に作用する軸方向荷重に比例している。
【0053】
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、シール部材6とスペーサ7の間に上述の摩擦力が好適に作用する態様にて加締め箇所Sが加締められていることにより、スペーサ7の端面7aおよび7eがともに平坦であってスペーサ7とコネクタ5とが互いを拘束する構造を有していないにも関わらず、仮に振動などに起因してスペーサ7に対し外力が作用するような場合であっても、スペーサ7の径方向の動きが抑制されるようになっている。すなわち、スペーサ7は、径方向について安定的に固定されてなる。
【0054】
好ましくは、
図1に示す以下の4箇所の寸法A、B、C、およびD(いずれも単位:mm)が、所定の関係をみたすことにより、スペーサ7が固定された状態が安定的に実現されてなる。
【0055】
A:加締め箇所S以外における(あるいは加締め前の)シール部材6の外径;
B:加締め箇所Sにおける(加締め後の)シール部材6の外径;
C:端面6eから加締め箇所Sまでの距離(以下、加締めピッチ);
D:加締め箇所Sの幅(以下、加締め長)。
【0056】
まず、加締めの際にシール部材6からスペーサ7に作用する軸方向荷重をFとすると、軸方向荷重Fは、加締めの深さ(加締め前後でのシール部材6の外径の差)A-Bと、加締め長Dとに比例し、ピッチCに反比例すると考えられる。それゆえ、
F=k・(A-B)D/C ・・・・・(1)
なる関係式が成り立つ。ここで、比例定数kは、シール部材6とスペーサ7の材質によって決まる値である。
【0057】
比例定数kの値は、ガスセンサ100の4つの寸法A、B、C、およびDの値と、当該ガスセンサ100における軸方向荷重Fの値とがともに既知であれば、式(1)より求めることが出来る。
【0058】
また、軸方向荷重Fには、スペーサ7の固定に適した範囲が存在する。すなわち、
Fmin≦F≦Fmax ・・・・(2)
である。
【0059】
式(2)における軸方向荷重Fの最小値(最小軸方向荷重)Fminは、シール部材6の加締めが好適になされる前提のもと、スペーサ7の安定的な固定を実現する摩擦力を発生させるのに最小限必要であると判断される、軸方向荷重Fの大きさである。
【0060】
一方、軸方向荷重Fの最大値(最大軸方向荷重)Fmaxは、シール部材6から軸方向荷重Fを受けたスペーサ7がコネクタ5に対し図面視下向きの力を作用させることに起因して、センサ素子10の長手方向において起こり得る、コネクタ5の接点部材51の、センサ素子10の電極端子160に対する位置ずれ(以下、接点ずれ)の距離(以下、接点ずれ距離)が、あらかじめ設定された最大許容距離(接点ずれ許容距離)と一致するときの、軸方向荷重Fの大きさである。軸方向荷重Fが最大軸方向荷重Fmaxを超えて過大であると、加締めの際にスペーサ7からコネクタ5に対し作用する力によってコネクタ5の接点部材51とセンサ素子10の電極端子160との接触状態がもはや維持されなくなるため、軸方向荷重Fは最大軸方向荷重Fmax以下とする必要がある。
【0061】
式(2)に式(1)を代入すると、
Fmin/k≦(A-B)D/C≦Fmax/k ・・・・(3)
となる。
【0062】
式(3)は、スペーサ7の安定的な固定が実現されるにあたって、4箇所の寸法A、B、C、およびDがみたすことが望まれる関係式である。
【0063】
次に、比例定数k、最小軸方向荷重Fmin、および最大軸方向荷重Fmaxを特定することによる、式(3)示す範囲の具体的な設定に関し説明する。
【0064】
最小軸方向荷重Fminについては、あらかじめ行う軸方向荷重Fの大きさとスペーサ7の固定の良否との関係を特定する予備実験の結果に基づいて、10(N)であるとする。
【0065】
次に、比例定数kの特定について説明する。表1には、4つの寸法A、B、C、およびDの値の組み合わせを4水準(水準1~水準4)に違えたときの、それぞれの寸法A、B、C、およびDの値と、それらに基づいて演算される(A-B)D/Cの値と、それぞれの水準に該当するガスセンサ100における接点ずれの有無を判定した結果とを、一覧にして示している。なお、水準1については12個のガスセンサ100を用意し、水準2および水準3についてはそれぞれ10個のガスセンサ100を用意し、水準4については5個のガスセンサ100を用意し、それぞれについて接点ずれの有無を確認した。
【0066】
【0067】
あらかじめ行った予備実験により、水準2のガスセンサ100における軸方向荷重が150(N)であることが確認されている。すると、表1および式(1)より、
F=k・1.67(mm)=150(N)
となるため、比例定数kの値が
k=150/1.67=89.8(N/mm)
と求められる。
【0068】
すると、式(3)より、
Fmin/89.8≦(A-B)D/C≦Fmax/89.8 ・・・・(3a)
なる関係式が成立する。
【0069】
一方、最大軸方向荷重Fmaxは、あらかじめ設定された接点ずれ許容距離に対する裕度(単位:%)を考慮した予備実験の結果に基づいて、設定することができる値である。
【0070】
図2は、表1に示した水準1~水準4のガスセンサ100についての接点ずれ距離を、接点ずれ許容距離に対する裕度として示す図である。
【0071】
接点ずれ距離の接点ずれ許容距離に対する裕度は、以下の式にて表される。
【0072】
裕度(%)=100×(1-接点ずれ距離/接点ずれ許容距離) ・・・(4)
式(4)より、裕度が100%であるとは接点ずれが全く生じていないことを意味し、裕度が0%であるとは接点ずれ距離が接点ずれ許容距離と一致していることを意味し、裕度が負であるとは接点ずれ距離が接点ずれ許容距離を超えていることを意味する。
【0073】
図2および表1からは、水準1のほとんどのガスセンサ100については接点ずれ許容距離を超えた接点ずれが生じてしまっている一方で、水準2ないし水準4のガスセンサ100については、接点ずれ許容距離を超えた接点ずれは生じていないことが確認される。ただし、水準4のガスセンサ100については裕度がほぼ100%であって、接点ずれが実質的に生じていないのに対し、水準2のガスセンサ100については、裕度が0%のものが存在していることが確認される。
【0074】
以上を踏まえ、本実施の形態においては、水準2のガスセンサ100においてスペーサ7に作用する軸方向荷重Fよりもわずかに小さい値を、最大軸方向荷重Fmaxとして設定する。具体的には148(N)に設定する。
【0075】
係る場合、式(3a)にFminおよびFmaxの値を代入することにより、
10/89.8≦(A-B)D/C≦148/89.8
0.11≦(A-B)D/C≦1.65 ・・・・(5)
なる関係式が導かれる。係る式(5)は、式(3)の関係式を具体的にしたものに他ならない。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態によれば、スペーサの両端面が平坦であり、それぞれの端面がコネクタおよびシール部材と面接触してなり、側方からスペーサが拘束されない構成のガスセンサにおいて、コネクタとシール部材とによるスペーサの挟持固定が実現されてなる。
【0077】
さらには、シール部材に関する4箇所の寸法A、B、C、およびDが式(3)さらには式(5)をみたすことによって、コネクタとセンサ素子との間に許容範囲を超えた接点ずれを生じさせることなく、スペーサの安定的な挟持固定が実現されてなる。例えばスペーサとコネクタとが互いに嵌合するような複雑な構造を有さずとも、スペーサが安定的に固定されてなる。
【0078】
なお、係る安定的な挟持固定が好適に実現されるには、シール部材6の端面6aの面積S1と、係る端面6aと接触するスペーサ7の端面7eの面積S2との比S1/S2の値が、0.9~1.1の範囲にあることが好ましい。比S1/S2が0.9未満であると、加締め時にシール部材6がスペーサ7の外側へと逃げるように変形し、軸方向荷重が弱まって摩擦力が小さくなる傾向が顕著となるため、好ましくない。また、比S1/S2が1.1を超える構成は、外筒4の径を大きくしガスセンサ100を大型化させる必要が生じるため、好ましくない。
【0079】
<センサ素子の構成例>
最後に、センサ素子10の一例として、NOx検出用のセンサ素子10の構成を説明する。
図3は、係るNOx検出用のセンサ素子10の長手方向に沿った断面図である。係る場合において、センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。なお、
図3には、センサ素子10のほか、ガスセンサ100に備わるポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とについても併せて示している。
【0080】
図3に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体11の第1の端部E1側が、多孔質の先端保護層12にて被覆された構成を有する。素子基体11は、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170(170a、170b)を備える。さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層12(内側先端保護層12a、外側先端保護層12b)が設けられてなる。
【0081】
なお、本実施の形態においては便宜上、セラミックス体101およびセンサ素子10において素子基体11の第1の端部E1が備わる側の端部についても、それぞれの第1の端部E1と称し、素子基体11の第2の端部E2が備わる側の端部についても、それぞれの第2の端部E2と称する。
【0082】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。セラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。
【0083】
図3に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の第1の端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層12を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0084】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0085】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には、測定対象ガス成分の直接の検知部である測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の第2の端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0086】
係るセンサ素子10を備えるガスセンサ100においては、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0087】
まず、貫通孔Hを通じて保護カバー2内に流入し、ガス導入口105から第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0088】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0089】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0090】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0091】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0092】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0093】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の
図3における図面視下方側において、第1の端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。センサ素子10は、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。
【0094】
より詳細には、ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体であり、その周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0095】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の第2の端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しない内部配線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用の内部配線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。上述のように、電極端子160は接点部材51を介してリード線8と接続されており、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、それらリード線8、接点部材51、および電極端子160を通じてなされる。
【0096】
主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の2つの主面や外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、一方の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0097】
先端保護層12は、素子基体11の第1の端部E1から所定範囲の最外周部に設けられてなる。先端保護層12を設けるのは、素子基体11のうちガスセンサ100の使用時に高温(最高で700℃~800℃程度)となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を確保し、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体11にクラック(被水割れ)が生じることを、抑制するためである。
【0098】
加えて、先端保護層12は、センサ素子10の内部にMgなどの被毒物質が入り込むことを防ぐ、耐被毒性の確保のためにも、設けられてなる。
【0099】
内側先端保護層12aは、アルミナにて、45%~60%の気孔率を有しかつ450μm~650μmの厚みを有するように、設けられてなる。また、外側先端保護層12bは、アルミナにて、内側先端保護層12aよりも小さい10%~40%の気孔率を有しかつ50μm~300μmの厚みを有するように、設けられてなる。内側先端保護層12aは、低熱伝導率の層として設けられることで、外部から素子基体11への熱伝導を抑制する機能を有してなる。
【0100】
内側先端保護層12aと外側先端保護層12bは、表面に下地層13が形成された素子基体11に対し、それぞれの構成材料を順次に溶射(プラズマ溶射)することで形成される。
【0101】
また、
図3に示すように、内側先端保護層12aと素子基体11の間には、内側先端保護層12aの接着性を確保するべく下地層13が設けられる。下地層13は少なくとも、素子基体11の2つの主面上に設けられてなる。下地層13は、アルミナにて、30%~60%の気孔率を有しかつ15μm~50μmの厚みに形成されてなる。
【0102】
<変形例>
上述の実施形態では、3つの内部空室を有する限界電流型のセンサ素子であって、NOxを検出対象ガス成分とするものを、センサ素子10として例示しているが、ガスセンサ100に備わるセンサ素子10においては、内部空室の数が3つでなくともよく、また、NOx以外のガス成分が検知対象とされていてもよい。あるいは、混成電位型のセンサ素子など、内部空室を有さない構造のセンサ素子であってもよい。
【実施例0103】
上述した水準2、水準3、および水準4のそれぞれのガスセンサ100について、スペーサ7の固定の安定性を確認することを目的として、振動試験を行った。比較のため、軸方向荷重が最小軸方向荷重Fminを下回る10N以下のガスセンサ100も用意し、同様に振動試験を行った。
【0104】
具体的には、それぞれのガスセンサ100を所定の試験台に固定し、以下の条件にて試験を行った。
【0105】
加速度:40G;
掃引周波数:1000Hz~3300Hz;
掃引速度:0.057oct/min。
【0106】
試験後のガスセンサ100を観察すると、軸方向荷重が10N以下のガスセンサについては、スペーサ7に径方向の位置ずれが生じていたのに対し、(A-B)D/Cの値が式(5)の範囲に含まれる水準3および水準4のガスセンサ100に加え、(A-B)D/Cの値が式(5)の範囲をわずかに上回る水準2のガスセンサ100についても、スペーサ7に径方向の位置ずれは生じていなかった。
【0107】
係る結果は、少なくとも式(5)をみたすことで、ガスセンサ100においてスペーサ7の安定的な固定が実現されることを、示している。
後端側セパレータの長手方向(軸方向)の位置は、後端側セパレータが閉塞部材と先端側セパレータにより挟まれることによって固定されている。一方、後端側セパレータの軸方向に垂直な方向(径方向)の位置は、先端側セパレータと後端側セパレータのそれぞれの対向する端面に互いに嵌合する凹凸構造を形成し、それらの凹凸部分を嵌合させることによって固定されている。